(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】無鉄PMSMモータのロータの配向をセンサフリーで決定する為の方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/182 20160101AFI20220105BHJP
【FI】
H02P6/182
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017153536
(22)【出願日】2017-08-08
【審査請求日】2020-04-21
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】520300482
【氏名又は名称】マクソン インターナショナル アーゲー
【氏名又は名称原語表記】MAXON INTERNATIONAL AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ダミアン フリック
(72)【発明者】
【氏名】ジーン-セバスチャン マリートズ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ タナスコヴィック
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド レーマン
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-164191(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103368473(CN,A)
【文献】特開2015-186444(JP,A)
【文献】特開2003-088164(JP,A)
【文献】特開2009-261102(JP,A)
【文献】米国特許第06208110(US,B1)
【文献】特表2008-508839(JP,A)
【文献】特開2003-125594(JP,A)
【文献】特開2014-200154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知のロータ角度から、鉄を含まないPMSMモータのロータの配向をセンサフリーで決定する方法であって、
a.前記ロータ角度に応じてロータシステムを特定するステップと、
b.前記ロータシステムのトルク形成方向でモータの位相に電圧パルスを印加するステップと、
c.前記モータの前記位相において電流を測定するステップと、
d.前記測定された電流に基づき、磁束形成軸に沿って、予
想される逆起電力を決定するステップと、
e.前記磁束形成軸に沿って予
想される逆起電力の時間積分による前記予
想される逆起電力の積分および/またはフィルタに基づく累積関数を形成するステップと、
f.前記予
想される逆起電力の積分および/または前記累積関数の代数符号から前記ロータの前記配向を決定するステップと、
を含
み、
磁束形成軸に沿って予想される逆起電力を決定するために、前記モータの前記位相におけるゼロ電圧で前記測定された電流のみが使用されることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記電圧パルスの印加は、前記予想される逆起電力が所定の閾値に達するとすぐに終了されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電圧パルスの印加の後、前記ロータを本来の位置に戻す少なくとも一つのカウンタパルスが印加されることを特徴とする、請求項
1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記カウンタパルスは、前記特定ロータシステムの負のトルク形成方向で印加されることを特徴とする、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
カウンタパルスは、前記特定されたロータシステムの負のトルク形成方向で印加され、前記カウンタパルスは、前記印加された電圧パルスの積分であることを特徴とする、請求項
3に記載の方法。
【請求項6】
前記カウンタパルスは、前記ロータの所定の配向の磁束形成方向で印加されることを特徴とする、請求項
3に記載の方法。
【請求項7】
前記電圧パルスは、電圧パルスの振幅が時間とともに変更される矩形パルスであることを特徴とする、請求項
1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電圧パルスの前記振幅は、前記磁束形成軸に沿って前記予
想される逆起電力の前記振幅の関数として変更されることを特徴とする、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
2つの電圧パルス間の時間が変更されることを特徴とする、請求項
1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記磁束形成軸に沿って前記予
想される逆起電力はフィルタ処理されることを特徴とする、請求項
1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記測定された電流は、前記磁束形成軸に沿って前記予
想される逆起電力を決定するため、多くの測定点にわたって平均化されることを特徴とする、請求項
1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記磁束形成軸に沿って前記予
想される逆起電力を決定するため、カルマン(Kalman)フィルタまたはルーエンバーガー(Luenberger)観測器が使用されることを特徴とする、請求項
1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
既知のロータ角度は、
a.前記モータの前記位相に電圧パルスを印加するステップと、
b.前記位相において電流を測定するステップと、
c.前記測定された電流から前記ロータ角度を決定するステップであって、前記モータの前記位相にゼロ電圧が印加されるとき、前記測定された電流だけが使用される、前記ステップと、
を含んで決定されることを特徴とする、請求項
1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項
1~13のいずれか一項に従う方法によって、無鉄PMSMモータの前記ロータの前記配向を決定する為のモータシステムであって、
前記予
想される逆起電力の時間および/またはフィルタに基づく累積関数を形成する為の処理ユニットと、
前記予
想され
る逆起電力の前記積分の所定の閾値を保存する為のメモリと、
前記予
想され
る逆起電力の前記積分を前記所定の閾値と比較する為の比較ユニットと、
を備える、モータシステム。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、電子整流モータを制御する分野を対象とする。本発明は、無鉄(ironless)永久磁石同期機(PMSM)モータのロータの配向をセンサフリーで決定する為の方法に関する。
【0002】
【発明の背景】
【0003】
電子整流モータを制御する際の主要問題の一つは、ロータ位置の決定である。ロータ位置の決定は、ロータ角度の決定が関連し、そのために、様々な方法が従来技術から知られている。
【0004】
ロータ位置は、ホールセンサやエンコーダのような位置センサによって慣例的に決定される。これらのシステムにとって、知られていることは、位置センサが当該システムの信頼性、コスト上、不利な影響を有することである。
【0005】
コストを減らし、当該システムの頑丈さを高めるため、とりわけ、モータの異方性、飽和効果、ロータ構造体の非対称性、あるいは、位置決定におけるロータの偏心を利用し、様々なロータ位置を決定するセンサフリーの方法が好ましい。
【0006】
センサフリーで決定する為の一つのオプションは、回転する永久磁石およびゼロ交差評価による誘導電圧(EMF)の測定である。しかしながら、この方法の欠点は、ロータの最小回転速度が、位置決定の為に十分な信号ノイズ比の為のEMFの、十分に大きな振幅を得る為に必要になることである。原則として、この方法は、静止状態の為には不適切である。実際、モータは、EMFによって測定方法が使用可能な最小限の回転速度を達成するため、ロータ位置の情報を有することなく、特別な開始手順を使用し、しばしば、動作中に設定される。
【0007】
ロータ位置を決定する為の他の方法は、オンラインリアクタンス測定(INFORM)法による間接磁束検出であり、これは、M. Schroedlによって開発され、たとえば、ETEP, Vol. 1, No.1, January/February 1991, pp. 47-53に記載されているが、低い回転速度と静止状態に適している。INFORM法において、位相の電流増加は、様々な空間ベクトル方向において、複雑なステータインダクタンスを決定するため、特定検査電圧ベクトルに基づいて評価される。ロータ位置は、その後、ステータインダクタンスから決定される。無鉄PMSMモータに対する、この方法の一つの欠点は、電圧ベクトルが印加されるときに生じる高電流であり、これが、電流の歪みや、それに伴う振動トルクを発生させる。
【0008】
EP2924870A1は、特に、静止時、多相モータのロータ位置、すなわち、ロータ角度を決定する為の方法を記載する。この方法は、モータ位相に電圧を印加するステップと、この位相で電流を測定するステップと、測定された電流に基づいて、ロータ位置を決定するステップとを含む。ロータ位置の決定は、ゼロ電圧がモータの位相に印加されるときの周期中に測定される電流値に基づく。
【0009】
記載されたロータ位置を決定する為の方法において、ロータ角度が決定され、これによって、原則として、ロータ配向(または極性)は不確定のままである。そのため、ロータ位置を決定することにおいて、180°の不確実さがある。
【0010】
既知の方法において、ロータ極性は、予測されるd方向においてステータ巻線に電流を挿入することによって、飽和効果を利用して決定されてもよい。正のd方向の電流では飽和が増加し、負のd方向では飽和が減少する。INFORM法において、ロータ極性は、たとえば、予測されるd方向に電流を印加することによって決定されてもよいが、電流の増加は、正のd方向に電流が挿入されるときに大きい。印加される電流は、磁束に著しい変化を生じさせる為に十分に高くなければならず、印加される電流が高いほど、この方法は良好に機能する。特に、無鉄巻線を備えたモータにとって、これは、電流がモータおよび制御電子機器に損傷を与えるのに十分に高い大きさを有するという欠点を有する。これが同様に有する不利な影響は、印加された電流の、推定されたd方向が、実際のd方向から外れるとき、トルクが生成され、これが、ロータの著しい移動を引き起こす可能性がある点である。
【0011】
たとえば、D. Basic, F. MalraitおよびP. Rouchon氏によって、IEEE Transactions on Industrial Electronics, Vol. 58, No. 9, pp.4010-4022で説明された他の既知の方法において、ロータ位置および極性は、ロータの振動を引き起こす高調波電流をステータに挿入することによって決定される。誘発されるEMFの振動は、挿入周波数におけるステータ電圧で測定可能であり、ロータの空間位置は、ステータ電圧のスペクタル成分の位相から決定可能である。
【0012】
磁気突極性を有するモータ内のロータ極性を決定する為に、2倍の周波数で追加の高調波電流コントローラが使用され、これによって、極性が、第2高調波電圧成分から導かれる。磁気突極性の無いモータに対しては、もう一度、飽和効果が使用されなければならない。ロータ振動に基づく当該方法の一つの欠点は、振動が、信頼性の高い結果を得るため、最大+/-60°の振れを含むロータの著しい移動を引き起こすことである。
【発明の概要】
【0013】
ブラシレスモータの中でも、多くの用途に対して、無鉄またはスロットを持たないモータは、磁気ディテントトルクがないこと、高効率であること、低インダクタンス等のような明確な利点を提供する。しかしながら、これらの利点とともに、これらのモータの特性のため、モータを制御する為の代替方法が一般的に必要である。たとえば、位置決定に関して、これらのモータにおける異方性は、低く、リラクタンス異方性は全く実行できないか、限定的に実行できるにすぎない。同様に、飽和効果に基づく既知の方法は、ほとんど役に立たないか全く役にたたない。
【0014】
さらに、無鉄PMSMモータの重要な用途、例えば、歯科医業、インシュリンポンプのような医療技術において、大きな移動は望ましくなく、許容されない。そのため、静止状態の為の位置決定法が望ましく、そこでは、僅かに小さな移動だけが生み出され、それによって、前述した理由のため、当該方法はセンサを有することなく機能する。
【0015】
これらの考慮事項は、ロータ角度の決定、ロータ配向や極性の決定に適用される。
【0016】
本発明は、この点で従来技術を少なくとも部分的に改善する無鉄PMSMモータの配向を決定する為の方法を提供することを目的とする。
【0017】
この目的は、独立形式請求項1および15の特徴によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属形式請求項および本願開示内容に記載されている。
【0018】
本発明は、既知のロータ角度から、無鉄PMSMモータのロータ配向のセンサフリー決定の為の方法に関し、
【0019】
a)ロータ角度に従うロータシステムを特定するステップと、
【0020】
b)ロータシステムのトルク形成方向でモータの位相に電圧パルスを印加するステップと、
【0021】
c)モータ位相における電流を測定するステップと、
【0022】
d)測定された電流に基づき、磁束形成軸に沿って予想される逆起電力を決定するステップと、
【0023】
e)磁束形成軸に沿った予想される逆起電力の時間積分による予想される逆起電力の積分および/またはフィルタに基づく累積関数を形成するステップと、
【0024】
f)予想される逆起電力の積分および/または累積関数の代数符号からロータの配向を決定するステップと、
【0025】
を含む。
【0026】
ロータシステムは、パーク変換によって得られる固定ロータ座標系として当業者に知られている。一つの好ましい実施形態において、ロータシステムは、モータ制御分野から知られたd/qロータシステムであり、ここで、磁束形成方向は、d方向またはd軸であり、トルク形成方向は、q方向またはq軸である。
【0027】
本発明に従う方法は、ロータの小さな移動でロータ配向を決定することが可能になるという利点を与える。極性を決定する為に磁束形成方向に電流が印加されるが、電流は、著しい信号を得るために高くなければならず、これは、特に、無鉄モータにとって有害であり、あるいは、ロータ振動に基づき配向が決定されるが、これは、大きな移動を生じさせるという従来技術と比較すると、本発明に従う方法では、トルク形成方向に印加される電圧パルスのため、ロータの小さな移動が都合良く確保される。そのため、実際の位置から外れるトルク形成方向の推定は、効果的に生み出されるトルクにおいて小さな影響を有するにすぎない。配向を決定する為に、知られたロータ位置または知られたロータ角度を使用することにより与えられる更なる利点は、ロータ角度を決定する為に必要になる、かなり大きな望ましくないロータの移動が減少され、配向を決定する為に必要な移動だけが実行される。本発明に従う方法の他の利点は、予想される逆起電力の積分を形成することによって、個々の電圧パルスは小さいままなので、不要な大きな移動リスクを減少させることである。配向は、予想される逆起電力の積分の代数符号から決定されてもよく、これによって、負の代数符号に対し、ロータの磁束形成方向は、ロータ角度によって特定される磁束形成方向の反対側であること、特定された磁束形成方向の180°修正が必要であることが結論付けられる。正の代数符号に対して、特定された磁束形成方向は、ロータの実際の磁束形成方向に合致していることを結論付けることが可能である。
【0028】
信号/ノイズ比は、フィルタに基づく累積関数を形成することによって、あるいは、他の類似方法によって、高められてもよい。累積関数は、一定の用途において、特定時間の周期からの値だけを推定できる。
【0029】
本発明に従う方法は、無鉄またはスロットを持たないモータに特に適している。しかしながら、当業者にとって明確なことは、この方法が、鉄芯を有するモータにとっても有利であることである。
【0030】
本発明に従う方法は、極数に拘わらず、多相モータにも同様に適しており、例えば、当該方法は2極、4極モータに適している。
【0031】
電圧パルスの適用によるロータの合計された移動は、好ましくは、25°未満、特に好ましくは10°未満である。他の特に好ましい実施形態において、ロータの合計移動は、5°未満である。
【0032】
この方法の好ましい実施形態において、ゼロ電圧がモータの位相に印加されるとき、測定された電流だけが、磁束形成軸に沿って予想される逆起電力を決定する為に使用される。
【0033】
電流は、電圧がゼロである2つの電圧パルス間で一般的に測定される。モータの移送にゼロ電圧が印加されるときに測定される電流を使用することによる利点は、電流値の決定において電圧項が発生しないことから、システム入力に対する依存性が減少することである。その代わり、連続したシステム出力は、都合良く使用される。これは、当該システムがノイズ性および電圧歪みに対して、より耐性があるという都合の良い効果を有する。さらに、測定は、より短期間で実行されてもよい。
【0034】
電圧パルスの印加は、蓄積関数および/または予想される逆起電力の積分が所定の閾値に達するとすぐに終了されるのが好ましい。
【0035】
電圧パルスは、積関数および/または予想される逆起電力の積分が、積分の代数符号が決定されるほど十分に大きくなるまで印加されるにすぎない。このようにして、ロータの移動は、最小限に抑えられるように続けてもよい。
【0036】
この方法の一つの好ましい実施形態において、電圧パルスの印加後、少なくとも一つのカウンタパルスが印加され、ロータを本来の位置まで戻す。
【0037】
少なくとも一つのカウンタパルスの印加は、配向が決定された後、ロータが本来の位置に戻されるという利点がある。少なくとも一つのカウンタパルスは、印加された電圧パルスが正確に補償される方法で設計されるのが好ましい。ロータが戻されるとき、好ましくは測定および/または評価が実行されないので、カウンタパルスは、配向を決定する為の電圧パルスより大きな振幅を有してもよい。代替又は追加で、カウンタパルス間の周期は、電圧パルス間の周期より短くてもよい。代替又は追加で、一連の電圧パルスを補償する単一カウンタパルスが印加されてもよい。
【0038】
一実施形態において、カウンタパルスは特定ロータシステムの、負のトルク形成方向に印加される。
【0039】
他の実施形態において、印加された電圧パルスの積分であるカウンタパルスが、特定ロータシステムの、負のトルク形成方向に印加される。
【0040】
あるいは、カウンタパルスは、ロータの所定配向の磁束形成方向に印加される。この方法において、この点でロータ配向は知られていることから、カウンタパルスがロータの所定配向の磁束形成方向に印加され、ロータを本来の位置に戻すように回転させてもよい。
【0041】
一つの有利な実施形態において、補償パルスが、少なくとも一つのカウンタパルスの印加後に印加されてもよい。補償パルスは、少なくとも一つのカウンタパルスによってもたらされるモータの位相における電流が、補償パルスを持たない場合より迅速に減衰することを可能にするように有利に使用される。補償パルスは、好ましくは、配向決定の為に印加される電圧パルスの方向に沿って、すなわち、好ましくは、ロータシステムのトルク形成方向に沿って、印加される。
【0042】
一実施形態において、電圧パルスは、矩形パルスであり、電圧パルスの振幅は時間とともに変更される。
【0043】
電圧パルスの振幅は、磁束形成軸に沿って予想される逆起電力の振幅の関数として変更されるのが好ましい。
【0044】
予想される逆起電力の振幅は、一般的に、通常は知られていない当該システムまたはモータの機械部品の慣性モーメントと、印加される電圧パルスの振幅とに依存する。この依存性は、モータの速度を高める為、更に、ロータの配向の決定を速める為に有利に利用されてもよい。特に、経時的電圧パルスの振幅は、ロータの配向の決定を速めるため、予想される逆起電力の振幅の関数として増加されてもよい。
【0045】
代替又は追加で、2つの電圧パルス間で時間は変更される。
【0046】
特に、所定の予想される逆起電力の関数として、印加される電圧パルスを変更するオプションは、追加の制御オプションが与えられ、当該方法の柔軟性が高められる点で有利である。
【0047】
当該方法の一実施形態において、磁束形成軸に沿って予想される逆起電力はフィルタ処理される。
【0048】
フィルタ処理は、測定のノイズを減少させるために有利に使用され、信号ノイズ比を高めることが意図される。
【0049】
一実施形態において、測定される電流は、多くの測定点で平均化され、磁束形成軸に沿って予想される逆起電力を決定する。
【0050】
代替または追加で、磁束形成軸に沿った予想される逆起電力を決定する為に、カルマン(Kalman)フィルタまたはルーエンバーガー(Luenberger)観測器が使用される。
【0051】
一つの好ましい当該発明の実施形態において、知られたロータ角度は、以下のステップによって決定される。
【0052】
a)モータの位相に電圧パルスを印加する。
【0053】
b)その位相における電流を測定する。
【0054】
c)測定された電流からロータ角度を決定する。ただし、ゼロ電圧がモータ位相に印加されるときに測定される電流だけが使用される。
【0055】
知られたロータ角度を決定する、この方法が有する利点は、その決定が、当該システム入力における依存性と連続システム出力の間の関係に基づくことである。さらに、耐ノイズ性および電圧分布は都合良く高められる。このように決定されたロータ角度は、ロータ位置の精度を有効に高めるが、これは、当該方法の効率を減少させることなく、ロータの配向を決定する点で積極的な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
以下、図面と関連説明と一緒に例示的実施形態を参照して、本発明を説明する。
【
図1】
図1は、d/qシステムにおける印加電圧パルスの概略図を示す。
【
図2】
図2は、モータの位相において測定された電流の図を示す。
【
図3】
図3は、d/qシステムに変換された電流の図を示す。
【
図4a】
図4aは、d軸に沿って予想される逆起電力および予想される逆起電力の積分の図を示す。
【
図4b】
図4bは、予測された逆起電力の積分の図を示す。
【
図5】
図5は、電圧パルスの印加中、ロータ位置のシフトの図を示す。
【例示的実施形態の説明】
【0057】
図1は、既知のロータ角度に従って特定されてきたロータの特定されたd/qシステムに印加された電圧パルスの概略図を示す。上の図は、時間(x軸、ms)に関して特定されたd軸に沿った電圧(y軸、任意単位)を示す。下の図は、時間(x軸、ms)に関して特定されたq軸に沿った電圧(y軸、任意単位)を示す。ロータ角度は、配向決定の前、すなわち、電圧パルスが印加される前に実行される位置決定法から得られる。既知のロータ軸は、180°の不確実性が残るように、d軸の配向のように任意に特定される。
図1から明らかであるように、一連の電圧パルスが、ロータの特定されたd/qシステムのq方向に沿って印加される。正の電圧パルスは、t=17msまで印加される。示された当該方法の例示的実施形態において、正の電圧パルスの振幅は変更されるが、これらの電圧パルスの周期は一定のままである。代替または追加で、電圧パルスの周期も変更されてもよい。逆起電力は、一般的に、通常は知られていない当該機械システムの慣性モーメントの関数であり、電圧パルスの振幅の関数である。そのため、電圧パルスは、ロータ配向がより迅速に決定されることを可能にするため、逆起電力の出力に依存して変更されてもよい。t=17msの後、ロータの配向が決定される。ロータ配向が決定された後、全ての負のカウンタパルスが同一振幅を有する一連の負のカウンタパルスが印加される。カウンタパルスは、一連の正の電圧パルスによって一定角度αだけ移動されてきたロータが本来の位置に戻されるように選択される。本来の位置にロータが戻される間は何も信号が評価されないことから、カウンタパルス間の周期は短く保たれてもよい。同様に、カウンタパウルの振幅は、電圧パルス当たりの大きな移動が許容できるので、正の電圧より大きくなるように選択されてもよい。一連の負のカウンタパルスの後、補償パルスが印加されるが、補償パルスは、カウンタパルスによってもたらされたモータの位相における電流が、補償パルスの無い場合より迅速に減衰することを可能にする為に使用される。
【0058】
図2は、モータの3つの位相において測定された電流(a電流、b電流、c電流)を示す。上にある最初の図は、時間(x軸、ms)に関する位相aにおける電流(y軸、任意単位)を示す。中間にある2番目の図は、時間(x軸、ms)に関する位相bにおける電流(y軸、任意単位)を示す。下にある3番目の図は、時間(x軸、ms)に関する位相cにおける電流(y軸、任意単位)を示す。特定されたd/qロータシステムのd軸に沿った電流は、d軸に沿って予想される逆起電力が測定されることを可能にする。このため、モータ位相における電流は、以下のように、d/qロータシステムに変換される。
【数1】
【0059】
ここで、θは、先に決定されたロータ角度を示す。
【0060】
図3は、特定されたd/qロータシステムに変換された電流を示す。上にある図は、時間(x軸、ms)に関して特定されたd軸に沿った電流(y軸、任意単位)を示す。下の図は、時間(x軸、ms)に関して特定されたq軸に沿った電流(y軸、任意単位)を示す。予想されるd軸に沿った逆起電力は、d軸に沿った電流から決定されてもよく、示された実施形態において、電流は、モータ位相にゼロ電圧が印加されるときに印加される。以下の動力学方程式は、(ゼロ電圧を伴う周期で)関連した電流サンプルの電流を記載する。
【数2】
【0061】
ここで、aは、抵抗およびインダクタンスの関数であり、既知のモータ識別法によって決定されてもよい。
【0062】
GEMKdは、d軸に沿った逆起電力、あるいは、特定されたd/qロータシステムのd軸に投影される逆起電力であり、これは、測定された電流から決定される。様々な周期は、R項で番号が付けられている(すなわち、逆起電力は、d軸に沿って連続した電流サンプルから決定される)。配向決定の為にd軸に沿って予想される起電力は、動力学方程式から直接計算され、複数の測定点にわたって平均化されてもよい。代替または追加で、カルマンフィルタまたはルーエンバーガー観測器が使用されてもよい。
【0063】
図4aは、動力学方程式から得られ、平均化による、d軸に沿った予想される逆起電力を示す。逆起電力(y軸、任意単位)は、時間(x軸、ms)に関してプロットされている。
図4bは、予想される逆起電力の積分を示し、これは、
図4aからd軸に沿って予想される逆起電力から、時間積分によって決定される。逆起電力の積分(y軸、任意単位)は、時間(x軸、ms)に関してプロットされている。t=17msでは、予想される逆起電力の積分は、所定の閾値に到達するが、ここで、逆起電力の積分の代数符号が決定される。この図では、閾値に達する際の積分の代数符号は負であるが、そこから、特定されたd軸の反対側にロータの配向があることが決定されてもよい。閾値に達し、ロータ配向がt=17msで決定された後、電圧パルスの印加が中断され、その代わり、一連の負のカウンタパルスが、ロータを本来の位置に戻すため、
図1に従って、q方向に印加される。
図4aから明らかなように、電圧パルスの振幅変更の結果、d軸に沿って予想される逆起電力の振幅が増加し、すぐに所定の閾値に達する。このように、ロータの配向決定を高速化すると同時に、ロータ移動を小さく保つことができる。
【0064】
図5は、
図1から
図4に示されたロータ配向を決定する為の方法を通じて、ロータの位置のシフトを示す。シフト角(y軸、度[°])が、時間(x軸、ms)に関してプロットされている。電圧パルスの印加のため、ロータ位置、すなわち、ロータ角度は段階的に変化している。この図で示されたロータ角度は、配向を決定する為の方法を通じて、位置の進行を独立して図示する為に、増分エンコーダによって決定されていた。
【0065】
しかしながら、増分エンコーダは、本発明に従う方法の構成要素ではなく、ロータの配向を決定する為に必要ではない。この図は、電圧パルスがロータ角度をちょっとシフトさせるにすぎず、4°未満のロータ全体の移動が機械的であることを示す。電圧パルスの印加が終了するとき、t=17msでシフトの最大値に達する。カウンタパルスは、ロータをその本来の位置に段階的に逆行させる。
図1に従うカウンタパルスは、およそ1msの短時間の周期にわたって印加されるが、機械的システムの慣性のため、全体の逆行には、およそ20msが必要である。