(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】電気光学変調器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/025 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
G02F1/025
(21)【出願番号】P 2017071594
(22)【出願日】2017-03-31
【審査請求日】2020-02-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513065077
【氏名又は名称】技術研究組合光電子融合基盤技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】藤方 潤一
(72)【発明者】
【氏名】最上 徹
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】堀川 剛
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-232529(JP,A)
【文献】国際公開第2011/092861(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/155450(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/125772(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/194002(WO,A1)
【文献】特開2013-214044(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0170784(US,A1)
【文献】Kim et al.,Ge-rich SiGe-on-insulator for waveguide optical modulator application fabricated by Ge condensation and SiGe regrowth,Optics Express,Vol. 21, Issue 17,米国,OSA,2013年08月13日,https:/,/doi.org/10.1364/OE.21.019615
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にSiあるいはSiGe結晶を含む導波路構造を具備する電気光学変調器において
、前記SiあるいはSiGe結晶の<110>方向
が基板平面方向にあり、前記導波路構造内を伝播する光の電界方向が前記<110>方向とほぼ平行となるように設定されることを特徴とする電気光学変調器。
【請求項2】
前記導波路構造が、互いに異なる導電型を呈する2層の半導体層間に誘電体層が設けられたSIS(semiconductor-insulator-semiconductor)接合を含み、前記2層の半導体層の一方が前記SiあるいはSiGe結晶を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気光学変調器。
【請求項3】
前記2層の半導体層の他方が、化合物半導体層を含むことを特徴とする請求項2に記載の電気光学変調器。
【請求項4】
前記2層の半導体層の一方の前記SiあるいはSiGe結晶が、前記誘電体層と接する面に歪応力が印加されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の電気光学変調器。
【請求項5】
前記導波路構造が、前記SiあるいはSiGe結晶中にPN接合あるいはPIN接合を含むことを特徴とする請求項1に記載の電気光学変調器。
【請求項6】
前記導波路構造の少なくとも一部に、歪応力が印加されていることを特徴とする請求項5に記載の電気光学変調器。
【請求項7】
前記PN接合あるいはPIN接合上に歪応力を印加する半導体層が積層されていることを特徴とする請求項6に記載の電気光学変調器。
【請求項8】
前記PN接合あるいはPIN接合に、前記<110>方向に圧縮歪を印加する絶縁層が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の電気光学変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理および通信分野において必要となる、高速電気信号を光信号に高速に変換するシリコン・ベースの電気光学変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用光ファイバおよびローカル・エリア・ネットワーク(LAN)などの様々なシステム用の1310nmおよび1550nmの光ファイバ通信波長で機能するシリコン・ベース光通信デバイスは、CMOS技術を利用して、光機能素子および電子回路をシリコンプラットフォーム上に集積化可能とする非常に有望な技術である。
【0003】
近年、シリコン・ベースの導波路、光結合器、および波長フィルタなどの受動デバイスは、非常に広く研究されている。また、このような通信システム用の光信号を操作する重要な技術として、シリコン・ベースの電気光学変調器や光スイッチなどの能動素子が挙げられ、非常に注目されている。しかしながら、シリコンの熱光学効果を利用して屈折率を変化させる光スイッチや光変調素子は低速であり、1Mb/秒の変調周波数までの装置速度にしか使用できない。したがって、より多くの光通信システムにおいて要求される高い変調周波数を実現するためには、電気光学効果を利用した電気光学変調器が必要である。
【0004】
現在提案されている電気光学変調器の多くは、キャリアプラズマ効果を利用して、シリコン層中の自由キャリア密度を変化させることにより、屈折率の実数部と虚数部を変化させ、光の位相や強度を変化させるデバイスである。純シリコンは、線形電気光学効果(Pockels効果)を示さず、またFranz-Keldysh効果やKerr効果による屈折率の変化は非常に小さいため、上記のキャリアプラズマ効果が広く利用されている。自由キャリア吸収を利用した変調器では、Si中を伝播する光の吸収率の変化により、出力光が直接変調される。このような光の位相や強度の変化を利用した構造としては、マッハ・ツェンダー干渉計を利用したものが一般的であり、二本の位相変調部を備えたアームにおける光位相差を干渉させて、光の強度変調信号を得ることが可能である。
【0005】
電気光学変調器における自由キャリア密度は、自由キャリアの注入、蓄積、除去、または反転によって変えることができる。現在までに検討されたこのような装置の多くは、光変調効率が悪く、光位相変調に必要な長さがmmオーダーであり、1kA/cm3より高い注入電流密度が必要である。小型・高集積化、さらには低消費電力化を実現するためには、高い光変調効率が得られる素子構造が必要であり、これにより光位相変調長さを小さくすることが可能である。また、素子サイズが大きい場合、シリコンプラットフォーム上での温度分布の影響を受け易くなり、熱光学効果に起因するシリコン層の屈折率変化により、本来の電気光学効果を打ち消すことも想定されるため問題である。
【0006】
図1は、非特許文献1に示されているSOI基板上に形成されたリブ導波路形状を利用した、シリコン・ベース電気光学位相変調器の典型例である。電気光学位相変調器は、真性半導体領域からなるリブ形状のコア領域の両側に紙面横方向に延びるスラブ領域がそれぞれp型又はn型にドープされて形成されている。上記リブ導波路構造は、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)基板上のSi層を利用して形成される。
図1に示した構造は、PINダイオード型変調器であり、順方向および逆方向バイアスを印加することにより、真性半導体領域内の自由キャリア密度を変化させ、キャリアプラズマ効果を利用することにより、屈折率を変化させる構造となっている。この例では、真性半導体シリコン層からなるリブ形状のコア領域(以下、リブという)1に対して紙面左側のスラブ領域となる第1の導電型(p型)の半導体層4には、第1の電極9と接触する領域に高濃度のp型不純物でドープ処理された第1コンタクト領域6を含むように形成されている。リブ1に対して紙面右側のスラブ領域である第2の導電型(n型)の半導体層5には、第2の電極10と接触する領域に高濃度のn型不純物でドープ処理された第2コンタクト領域7を含む。第1の電極9と第1コンタクト領域6、第2の電極10と第2コンタクト領域7との界面には不図示のシリサイドなどのコンタクト層が形成されても良い。
【0007】
光変調動作に関しては、第1及び第2の電極を介して、PINダイオードに対して順方向バイアスを印加し、それによって導波路内に自由キャリアを注入するように、電源に接続されている。この時、自由キャリアの増加により、コア領域であるリブ1内の屈折率が変化し、それによって導波路を通して伝達される光の位相変調が行われる。しかし、この光変調動作の速度は、リブ1内の自由キャリア寿命と、順方向バイアスが取り除かれた場合のキャリア拡散によって制限される。このような従来技術のPINダイオード位相変調器は、通常、順方向バイアス動作時に10~50Mb/秒の範囲内の動作速度にしか対応できない。
【0008】
これに対し、キャリア寿命を短くするために、
図2に示すようにコア内に不純物を導入することによってp型半導体層4とn型半導体層5とがPN接合を形成し、切り換え速度を増加させることが可能である。しかしながら、導入された不純物は光変調効率を低下させるという課題がある。ここで、動作速度に影響する最も大きな因子は、RC時定数によるものであり、この場合順方向バイアス印加時の静電容量(C)が、PN接合部のキャリア空乏層の減少により非常に大きくなる。理論的には、PN接合部の高速動作は逆バイアスを印加することにより達成可能であるが、比較的大きな駆動電圧あるいは大きな素子サイズを必要とする。
【0009】
また、特許文献1には第2の導電型の本体領域とこれと部分的に重なるように積層された第1の導電型のゲート領域からなり、この積層界面に比較的薄い誘電体層を形成したシリコン・ベース電気光学変調器が提案されている。
図3には特許文献1によるSIS(silicon-insulator-silicon)型構造からなるシリコン・ベース電気光学変調器を示す。このようなシリコン・ベース電気光学変調器は、SOIプラットフォーム上に形成され、前記本体領域は、SOI基板の比較的薄いシリコン表面層に形成されており、ゲート領域はSOI構造に積層される比較的薄いシリコン層でできている。ゲートおよび本体領域内はドープ処理され、ドープ処理された領域は、キャリア密度変化が外部信号電圧により制御されるように規定されている。この時、理想的には、光信号電界とキャリア密度が動的に外部制御される領域は一致させることが望ましく、前記誘電体層の両側で、自由キャリアが蓄積、除去、または反転されることにより、光位相変調がなされる。しかし、実際にはキャリア密度が動的に変化する領域は数十nm程度と非常に薄いことが問題であり、これによりmmオーダーの光変調長さが必要となり、電気光学変調器のサイズが大きく、高速動作が難しいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】William M. J. Green, Michael J. Rooks, Lidija Sekaric, and Yurii A. Vlasof, Opt. Express 15, 17106-171113 (2007), “Ultra-compact, low RF power, 10Gb/s silicon Mach-Zehnder modulator.”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、Si基板上に集積化可能なシリコン・ベース電気光学変調器において、低電流密度、低消費電力、高い変調度、低電圧駆動、および高速変調を、サブミクロンの領域内で実現可能な、キャリアプラズマ効果に基づく電気光学変調器構造を実現することは従来技術では困難であった。光変調効率を改善するために、光フィールドとキャリア変調領域のオーバーラップをエンハンスする構造提案がなされてきているが、CMOS駆動可能な小型・低電圧化は困難な課題である。一方、小型・低電圧化が可能なシリコン・ベース電気光学変調器に関しては、リング共振器を用いた構造が提案されているが、作製精度や環境温度変化による動作安定性に課題があり、Siベースで高性能な電気光学変調器を実現することが課題である。
【0013】
本発明の目的は、低電流密度、低消費電力、高い変調度、低電圧駆動、および高速変調を、サブミクロンの領域内で実現可能な、改善されたキャリアプラズマ効果を示すシリコン・ベース電気光学変調器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
SiあるいはSiGeの<110>方向のホール移動度は、<100>方向の移動度に比較して大きい。すなわち、キャリアプラズマ効果は自由キャリアの有効質量に反比例するため、一導電型を呈するSiあるいはSiGeを含む電気光学変調器において、光の電界方向をSiあるいはSiGeの<110>方向にほぼ平行となるように作製することにより、キャリアプラズマ効果の改善が可能となる。
【0015】
すなわち、本発明の一態様によれば、SiあるいはSiGe結晶を含む導波路構造を具備する電気光学変調器において、前記導波路構造内を伝播する光の電界方向が前記SiあるいはSiGe結晶の<110>方向とほぼ平行となるように設定されることを特徴とする電気光学変調器が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、シリコン・ベースで高性能な電気光学変調器を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来技術のPIN構造からなる電気光学変調器の断面図。
【
図2】従来技術のPN構造からなる電気光学変調器の断面図。
【
図3】従来技術のSIS構造からなる電気光学変調器の断面図。
【
図4】本発明の一実施形態例に係るSIS構造を含む電気光学変調器の構造例の断面図。
【
図5】本発明の一実施形態例に係るPN接合を含む電気光学変調器の構造例の断面図。
【
図6】本発明の一実施形態例に係るPIN接合を含む電気光学変調器の構造例の断面図。
【
図7】本発明の一実施形態例に係るSIS構造を含む電気光学変調器の変形例の断面図。
【
図8】本発明の一実施形態例に係るPN接合を含む電気光学変調器の変形例の断面図。
【
図9】本発明の一実施形態例に係るPN接合を含む電気光学変調器のさらに別の変形例の断面図。
【
図10-1】本発明の一実施形態例に係るSIS構造を含む電気光学変調器の製造プロセスを示す工程(a)~(e)の断面図。
【
図10-2】本発明の一実施形態例に係るSIS構造を含む電気光学変調器の製造プロセスを示す工程(f)~(i)の断面図。
【
図11】本発明の電気光学変調器を用いたマッハ・ツェンダー干渉計型の光強度変調装置の実施形態例を示す平面図。
【
図12】本発明の電気光学変調器を用いたマッハ・ツェンダー干渉計型の光強度変調装置を並列に配置した実施形態例を示す平面図。
【
図13】本発明の電気光学変調器を用いたマッハ・ツェンダー干渉計型の光強度変調装置を直列に配置した実施形態例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の電気光学変調器は、SiあるいはSiGe結晶を含む導波路構造を具備する電気光学変調器であって、該導波路構造内を伝播する光の電界方向が前記SiあるいはSiGe結晶の<110>方向とほぼ平行となるように設定されることを特徴とする。
【0019】
導波路構造内を伝播する光の電界方向は、導波路構造内を伝播する光の進行方向に対して直交する方向である。したがって、導波路構造の延伸方向をSiあるいはSiGe結晶の<110>方向と直交する方向に設計することにより、光の電界方向が前記SiあるいはSiGe結晶の<110>方向と平行となるように設定することができる。
この時、SiあるいはSiGe層における<110>方向のホールの移動度は、<100>方向に対して大きく、ホールの有効質量も小さいため、自由キャリアプラズマ効果が増強され、小型・低消費電力で高性能な電気光学変調器が実現される。なお、光の電界方向は<110>方向を中心に±40度の範囲内の方向であれば10%程度のホールの移動度の改善効果がある。したがって、本発明では光の電界方向を前記SiあるいはSiGe結晶の<110>方向を中心に±40度の範囲内の方向となるように設定する。<110>方向と平行な方向に光の電界方向を設定することで最も大きなホール移動度の改善効果が得られる。本明細書では<110>方向を中心に±40度の範囲内の方向を「<110>方向とぼ平行」な方向という。
【0020】
本発明の電気光学変調器の特定の例示的な構造を説明する前に、以下の説明は、本発明の動作がこれに基づくシリコン内の変調メカニズムの概要を説明するものである。図示した実施形態のいくつかのものが変調構造に関連しているが、本発明の電気光学変調器は、以下に説明する電気光学効果(自由キャリアプラズマ効果)を利用するものである。
【0021】
上記に説明したように、純粋な電気光学効果はシリコン内には存在しないか、または非常に弱いため、自由キャリアプラズマ効果と熱光学効果のみが光変調動作に利用できる。本発明が目的とする高速動作(Gb/秒以上)のためには、自由キャリアプラズマ効果のみが効果的であり、以下の関係式の1次近似値で説明される。
【0022】
【0023】
式中、ΔnおよびΔkは、シリコン層の屈折率変化の実部および虚部を表わしており、eは電荷、λは光波長であり、ε0は真空中の誘電率であり、nは真性半導体シリコンの屈折率、meは電子キャリアの有効質量、mhはホールキャリアの有効質量であり、μeは電子キャリアの移動度、μhはホールキャリアの移動度、ΔNeは電子キャリアの濃度変化、ΔNhはホールキャリアの濃度変化である。すなわち、自由キャリアであるホールキャリアの有効質量を小さくすることは、自由キャリアプラズマ効果を改善するために有効な手段であると考えられる。
【0024】
シリコン中の電気光学効果の実験的な評価が行われており、光通信システムで使用する1310nmおよび1550nm波長でのキャリア密度に対する屈折率変化は、Drudeの式と良く一致することが分かっている。また、これを利用した電気光学変調器においては、位相変化量Δθは以下の式(3)で定義される。
【0025】
【0026】
式(3)中、Lは電気光学変調器の光伝播方向に沿ったアクティブ層の長さである。Δneffは実効屈折率の変化量である。
【0027】
本発明では、上記位相変化量は光吸収に比較して大きな効果であり、以下に述べる電気光学変調器は基本的に位相変調器としての特徴を示すことができる。
【0028】
従来技術である
図1のPIN接合構造および
図2のPN接合構造および
図3のSIS接合構造では、光フィールドとキャリア密度が変調される領域とのオーバーラップが小さく、電気光学変調器のサイズが大きくなるという欠点があった。これは、一般的なSOI基板が<100>方向に配向した基板であり、これを用いて図示する構造の電気光学変調器を製造すると、Siの<100>方向に電気光学変調器内を伝搬する光の電界方向が一致するように作製されることが通常である。そして<100>方向に光の電界方向が一致する場合、前記自由キャリアプラズマ効果が大きくならず、結果的に電気光学変調器のサイズが大きくせざるを得なかった。
【0029】
図4に示す本発明の一実施形態例に係る構造では、キャリアプラズマ効果は自由キャリアの有効質量に反比例するため、一導電型にドーピングされたSiあるいはSiGeを含む電気光学変調器において、伝搬する光の電界方向をSiあるいはSiGe結晶の<110>方向にほぼ平行となるように作製する。以下において、第1の導電型をp型、第2の導電型をn型として主に説明するが、逆であってもよい。
【0030】
図4に示す本発明の構造では、SOI基板の支持基材1に対して埋め込み酸化物層2を介して積層される第1の導電型(p型)を呈するようにドープ処理された半導体層4と第2の導電型(n型)を呈するようにドープ処理された半導体層5の少なくとも一部が積層された構造を有し、前記積層された半導体層の界面に、比較的薄い誘電体層11が形成されたSIS(semiconductor-insulator-semiconductor)型接合において、第1コンタクト領域6に結合された第1の電極9および第2コンタクト領域7に結合された第2の電極10からの電気信号により、自由キャリアが、前記比較的薄い誘導体層11の両側で蓄積、除去、または反転する。自由キャリアのこれらの挙動によって、光信号電界が感じる屈折率が変調されることを利用した電気光学変調器である。第1の導電型の半導体層4は、シリコン(Si)あるいはシリコン・ゲルマニウム(SiGe)の単結晶半導体層であり、SOI基板として<110>方向に配向した基板を用いて作製される。第2の導電型の半導体層5は、CVD法等で成膜される多結晶シリコン層や、InPあるいはInGaAs系の化合物半導体層を貼り合わせることで形成できる。第1の導電型の半導体層4を伝播する光の電界方向が、該半導体層4を構成するSiあるいはSiGe結晶の<110>方向とほぼ平行となるように作製されており、<110>方向のホールの移動度は、<100>方向に対して大きく、ホールの有効質量も小さいため、自由キャリアプラズマ効果が増強され、小型・低消費電力で高性能な電気光学変調器が実現される。
【0031】
さらに、このドーピング密度を上昇させた領域と光フィールドとのオーバーラップによる光吸収損失を低減するために、本発明では図に示すようなリブ/リッジ形状からなる導波路形状とし、スラブ領域のドーピング密度を上昇させた構造とすることにより、光損失が小さく、RC時定数の小さい、高速動作する電気光学装置を得ることが可能となる。
【0032】
最大空乏層厚Wは、熱平衡状態では下記式(4)で与えられる。
【0033】
【0034】
ここでεsは、半導体層の誘電率、kはボルツマン定数、Ncはキャリア密度、niは真性キャリア濃度、eは電荷量である。例えば、Ncが1017/cm3の時、最大空乏層厚は0.1μm程度であり、キャリア密度が上昇するに伴い、空乏層厚、すなわちキャリア密度の変調が生じる領域の厚みは薄くなる。
【0035】
本発明に係る電気光学変調器は、
図4に示す構造に限定されるものではなく、以下の各実施形態例に示す構造においても有効である。
【0036】
図5に示す本発明の一実施形態例に係る構造では、リブ導波路構造がPN接合を有している。PN接合に代えて、
図6に示したようなPIN接合の導波路構造についても同様に適用できる。
【0037】
また、本発明では、SiあるいはSiGe層に<110>方向への歪応力(引っ張り歪あるいは圧縮歪)を印加することができる。この結果、自由キャリアの有効質量がさらに小さくなり、変調効率が改善される。
図7に示す本発明の別の実施形態例に係る構造では、
図4の構成に加え、SIS接合を形成する2層の半導体層のうち、第1の導電型の半導体層(p型Si層)4に同じ導電型(p型)のSi
1-xGe
x(0<x≦0.9)層(以下、SiGe層)12が設けられており、第1導電型の半導体層4に積層プロセスによる歪応力の印加がなされている。また、
図8に示すように、PN接合導波路構造の少なくとも一部に、p型のSiGe層13が形成されて歪応力が印加されている。さらに、
図9では、PN接合導波路構造の少なくとも一部に、圧縮歪が印加されるようにSiNx膜14が形成された電気光学変調器の例を示している。PIN接合導波路に対しても歪応力の印加は有効である。
【0038】
次に、本発明に係る電気光学変調器の製造方法について説明する。
図10([
図10-1]及び[
図10-2])は、
図4に示すSIS接合を含む導波路構造を形成する方法の一例の工程(a)~(i)の断面図である。
【0039】
工程(a)は、本発明の電気光学変調器を形成するために用いるSOI基板の断面図である。このSOI基板は、支持基板1と埋め込み酸化層2上に100-1000nm程度の半導体層(Si層)4が積層された構造からなり、光損失を低減するために、埋め込み酸化層2は厚みが1000nm以上である構造を適用した。埋め込み酸化層2は、導波路構造の下クラッドとして機能する。このようなSOI基板は<110>方位のSi層4をウェハボンディング法により貼り合わせて形成することができる。この埋め込み酸化層2上のSi層4は、第1の導電型を呈するように予めドーピング処理された基板を用いるか、あるいはイオン注入などにより、リン(P:n型)あるいはボロン(B:p型)を表面層にドープ処理した後、熱処理しても良い。ここでは、第1の導電型としてp型、第2の導電型としてn型の例を示す。また、埋め込み酸化層2上のSi層4は、紙面横方向に<110>結晶方向が配置され、以下の工程ではリブ導波路を伝播する光の電界方向がほぼ平行となるように工程が実施される。
【0040】
次に工程(b)に示すように、リブ導波路形状を形成するためのマスクとなる酸化シリコン膜とSiNx層の積層構造を形成し、UVリソグラフィとドライエッチング法などにより酸化物マスク15及びハードマスク16にパターニングする。このとき、コンタクト領域となる半導体領域上にも同様に酸化物マスク15及びハードマスク16を形成する。これらマスクは、紙面の奥行き方向(<110>結晶方向と直交する方向)に延在して形成される。
【0041】
次に工程(c)に示すように、酸化膜マスク15とハードマスク16をマスクにして、Si層4をパターニングして、紙面の奥行き方向に延在するリブ導波路形状とする。
【0042】
次に工程(d)に示すように、リブ導波路形状と同等の高さの隣接する領域にイオン注入法などにより第1導電型の不純物、例えばボロン(B)を高濃度にドープして第1コンタクト領域6を形成する。
【0043】
次に工程(e)に示すように、酸化物クラッド8を積層し、CMP(chemical mechanical polishing)法により平坦化を行う。酸化物クラッド8としては酸化シリコンを使用することができる。このとき、ハードマスク16はエッチングストッパとして機能する。
【0044】
次に工程(f)に示すように、残存するハードマスク16および酸化膜マスク15を熱リン酸および希フッ酸処理などにより除去した後、リブ導波路形状の上層部に5~10nm程度の比較的薄い誘電体層11を形成する。誘電体としては、酸化ハフニウム、アルミナ、窒化シリコン、酸化シリコン、およびこれらの材料の組合せなどの材料を使用することができる。
【0045】
次に工程(g)に示すように、第2の導電型を呈する半導体層5を積層し、第2コンタクト領域が形成できる程度の幅にドライエッチング法などによりパターニングする。半導体層5としては、例えば、nドープ多結晶シリコンを用いることができる。
【0046】
次に工程(h)に示すように、第2の導電型を呈する半導体層5の一部に第2の導電型を定位する不純物、例えば、リン(P)をイオン注入法などにより高濃度にドープして、第2コンタクト領域7を形成する。
【0047】
次に工程(i)に示すように、酸化物クラッド8をさらに1μm程度積層し、第1および第2コンタクト領域への接続を得る為の第1コンタクトホール17および第2コンタクトホール18をドライエッチング法などにより形成する。
【0048】
最後に、第1及び第2コンタクトホール内にTi/TiN/Al(Cu)あるいはTi/TiN/Wなどの金属層をスパッタ法やCVD法により成膜し、反応性エッチングによりパターニングすることにより、第1の電極9及び第2の電極10を形成して、第1および第2コンタクト領域と不図示の駆動回路との接続を行うことで、
図4に示す構造の電気光学変調器が完成する。
【0049】
以上のようにして形成される電気光学変調器は、マッハ・ツェンダー干渉計からなる電気光学変調装置の位相変調部として用いることができる。以下、
図4に示す電気光学変調器を用いた電気光学変調装置について説明する。ここでは、
図4に示す導波路構造を2つ並列にSOI基板上に形成して、第1及び第2のアームを構成する。
【0050】
図11に示す実施形態例においては、入力側に配置された光分岐構造24により、入力光が第1のアーム21および第2のアーム22に等しいパワーとなるように分岐される。23は電気光学装置駆動用電極パッドである。ここで、第1のアーム21にプラスのバイアス電圧を印加することにより、
図4に示すSIS接合の誘電体層の両側でキャリア蓄積が生じ、第2のアーム22にマイナスのバイアス電圧を印加することにより、SIS接合の誘電体層の両側のキャリアが除去されることになる。これにより、キャリア蓄積モードでは、電気光学装置20における光信号電界が感じる屈折率が小さくなり、キャリア除去(空乏化)モードでは、光信号電界が感じる屈折率が大きくなり、両アームでの光信号位相差が最大となる。この両アームを伝送する光信号を出力側の光合波構造25により合波することにより、光強度変調が生じることになる。本発明の電気光学装置においては、40Gbps以上の光信号の送信が可能であることを確認した。光変調長さ(位相変調部のアクティブ領域長L)は、例えば、1mmとすることができ、小型化が実現された。
【0051】
また、前記マッハ・ツェンダー干渉計からなる電気光学装置20は、
図12および
図13に示すように、並列あるいは直列に配置されることにより、より高い転送レートを有する電気光学変調器やマトリックス光スイッチなどへ応用することも可能であった。
【0052】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解できる様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0053】
1 支持基板
2 埋め込み酸化層
3 リブ(真性半導体層)
4 第1の導電型の半導体層
5 第2の導電型の半導体層
6 第1コンタクト領域
7 第2コンタクト領域
8 酸化物クラッド
9 第1の電極
10 第2の電極
11 誘電体層
12 Si1-xGex(0<x≦0.9)層
13 Si1-xGex(0<x≦0.9)層
14 SiNx応力印加膜
15 酸化物マスク
16 ハードマスク
17 第1コンタクトホール
18 第2コンタクトホール
20 電気光学装置
21 第1のアーム
22 第2のアーム
23 電気光学装置駆動用電極パッド
24 光分岐構造
25 光合波構造