(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】リチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラス及びその製造方法、リチウムリン系複合酸化物の前駆体結晶化ガラスの製造方法、並びに、リチウムリン系複合酸化物粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/21 20060101AFI20220105BHJP
C03C 10/02 20060101ALI20220105BHJP
C03B 32/02 20060101ALI20220105BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220105BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220105BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220105BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C03C3/21
C03C10/02
C03B32/02
H01M10/0562
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
(21)【出願番号】P 2017160744
(22)【出願日】2017-08-24
【審査請求日】2020-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】391009936
【氏名又は名称】株式会社住田光学ガラス
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】手塚 達也
【審査官】松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-199386(JP,A)
【文献】特開平09-142874(JP,A)
【文献】特開2008-117542(JP,A)
【文献】特開2016-155707(JP,A)
【文献】特開2016-119276(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133566(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/195232(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0231349(US,A1)
【文献】KUMAR, Sundeep, et al.,Lithium ion transport in germanophosphate glasses,Solid State Ionics,2004年,Vol.170,p.191-199,Abstract、2.Experimentalの項、Table 1(特に、CPL3及びCPL4)
【文献】NOCUN, Marek,Structural studies of phosphate glasses with high ionic conductivity,Journal of Non-Crystalline Solids,2004年,Vol.333,p.90-94,Table 1(特に、T4及びS1)
【文献】IDE, Junko, et al.,XAFS study of six-coordinated silicon in R2O-SiO2-P2O5 (R=Li,Na,K) glasses,Journal of Non-Crystalline Solids,2007年,Vol.353,p.1966-1969
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/17,3/21
C03C 8/02,10/02
C03B 32/02
C03B 25/45
H01M 10/052,10/0562
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li
1+x
M
III
x
M
IV
2-x
(PO
4
)
3
(ここで、0≦x≦1であり、M
III
は、Al、Sc、Cr、Fe、Ga及びInから選択される元素を表し、M
IV
は、Si、Ti、Ge及びZrから選択される元素を表す)で表されるリチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラスの製造方法であって、
製造しようとするリチウムリン系複合酸化物の構成元素
であるLi、M
III
、M
IV
及びPを含
み、Li:M
III
:M
IV
:P=1+x:x:2-x:3(モル比)を満たす原料を、リチウム及びリンを含
み、リンに対するリチウムのモル比(Li/P)が、1を超え、且つ3未満である付加的な原料とともに熔解
して、モル比で、
Li
2
O:1+x+yを超え、且つ1+x+3y未満
M
III
2
O
3
:0.9x以上、1.1x以下
M
IV
O
2
:4-2.2x以上、4-1.8x以下
P
2
O
5
:3+y
(ここで、1≦y≦5である)からなる前駆体ガラスを得る工程を含
む、ことを特徴とする、リチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記前駆体ガラスにおけるLi
2Oの割合が30モル%以上である、請求項1に記載の前駆体ガラスの製造方法。
【請求項3】
Li
1+x
M
III
x
M
IV
2-x
(PO
4
)
3
(ここで、0≦x≦1であり、M
III
は、Al、Sc、Cr、Fe、Ga及びInから選択される元素を表し、M
IV
は、Si、Ti、Ge及びZrから選択される元素を表す)で表されるリチウムリン系複合酸化物の前駆体結晶化ガラスの製造方法であって、
請求項1又は2に記載の方法により製造された前駆体ガラスを加熱して、リチウムリン系複合酸化物の結晶と、ピロリン酸リチウムの結晶とを析出させる工程を含む、ことを特徴とする、リチウムリン系複合酸化物の前駆体結晶化ガラスの製造方法。
【請求項4】
Li
1+x
M
III
x
M
IV
2-x
(PO
4
)
3
(ここで、0≦x≦1であり、M
III
は、Al、Sc、Cr、Fe、Ga及びInから選択される元素を表し、M
IV
は、Si、Ti、Ge及びZrから選択される元素を表す)で表されるリチウムリン系複合酸化物の粉末の製造方法であって、
請求項3に記載の方法により製造された前駆体結晶化ガラスを酸処理して、ピロリン酸リチウムを溶出させる工程を含む、ことを特徴とする、リチウムリン系複合酸化物粉末の製造方法。
【請求項5】
モル比で、
Li
2O:1+x+yを超え、且つ1+x+3y未満
M
III
2O
3:0.9x以上、1.1x以下
M
IVO
2:4-2.2x以上、4-1.8x以下
P
2O
5:3+y
(ここで、0≦x≦1、1≦y≦5であり、M
IIIは、Al、Sc、Cr、Fe、Ga及びInから選択される元素を表し、M
IVは、Si、T
i及びZrから選択される元素を表す)からなる、ことを特徴とする、リチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラス及びその製造方法、リチウムリン系複合酸化物の前駆体結晶化ガラスの製造方法、並びに、リチウムリン系複合酸化物粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムリン系複合酸化物の結晶は、化学的に安定で、室温で高いリチウムイオン伝導性を示すことから、リチウムイオン二次電池の固体電解質材料として期待されている。固体電解質材料に用いられ得る代表的なリチウムリン系複合酸化物としては、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦1.0)で表されるものが挙げられ、このうち、x=0のものは「LTP」、0<x≦1.0のものは「LATP」とも呼ばれる。
【0003】
また、固体電解質材料に用いられるリチウムリン系複合酸化物は、形状自由度が高い全固体電池など、様々な形態及び形状の電池に用いるためには、微粉末化されていることが望まれる。
【0004】
ここで、上述したリチウムリン系複合酸化物の結晶の一般的な製造方法としては、固相法及びゾルゲル法が挙げられる。また、その他にも、上述したような結晶を製造する技術として、特許文献1は、所定の構成成分を含有する原ガラスを溶融成形後、800~1000℃の温度で熱処理することで、主結晶相としてLi1+x(Al、Ga)xTi2-x(PO4)3(x=0~0.8)を析出させることを開示している。
【0005】
しかしながら、固相法やゾルゲル法によりリチウムリン系複合酸化物の結晶を製造した場合、微粉末化のためには、物理的な粉砕が更に必要となる。そして、物理的な粉砕を行うと、異物の混入や、応力による結晶構造における歪みの発生などの問題が生じる虞がある。加えて、粉砕品の粒子径分布をシャープにするためには、高度な技術や高額な装置が必要となる。
また、特許文献1に開示の技術では、ガラスの耐失透安定性が低いため、ガラス作製の時点で結晶が析出する。この結晶は、後の熱処理によって析出させる結晶に比べ、粒子径が非常に大きい。そのため、最終的に、均一に微粉末化された結晶を得ることができない。
【0006】
一方、特許文献2は、リチウムリン系複合酸化物を構成する成分に加えて、ZnOを必須成分として用いてガラスを作製した後、所定の処理を行うことで、LTP又はLATPの結晶を粒子状で得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-142874号公報
【文献】特開2016-155057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示の技術は、粉砕を行うことなく結晶粒子を得ることができるものの、一定量のZn成分が当該結晶粒子中に固溶し、不純物として残存し得る。そのため、当該技術においても、製造する粒子を高品質化する点で、改良の余地があった。
【0009】
本発明は、上記の観点に鑑みてなされたもので、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を得ることが可能な前駆体ガラスを製造するための方法、及び、当該前駆体ガラスを提供することを目的とする。また、本発明は、上記前駆体ガラスを用いた、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を得ることが可能な前駆体結晶化ガラスを製造するための方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、上記前駆体結晶化ガラスを用いた、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を製造するための方法、及び、当該リチウムリン系複合酸化物粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、リチウムリン系複合酸化物を調製するに当たり、その構成元素を含む原料に加え、所定比率のリチウム及びリンを付加的な原料として用いることで、第1中間製品(前駆体ガラス)及び第2中間製品(前駆体結晶化ガラス)を経て、最終的に高品質な粉末状のリチウムリン系複合酸化物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、本発明のリチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラスの製造方法は、
製造しようとするリチウムリン系複合酸化物の構成元素を含む原料を、リチウム及びリンを含む付加的な原料とともに熔解する工程を含み、
前記付加的な原料における、リンに対するリチウムのモル比が、1を超え、且つ3未満である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明のリチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラスの製造方法は、前記前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合が30モル%以上であることが好ましい。
【0013】
また、本発明のリチウムリン系複合酸化物の前駆体結晶化ガラスの製造方法は、上記の前駆体ガラスの製造方法により製造された前駆体ガラスを加熱して、リチウムリン系複合酸化物の結晶と、ピロリン酸リチウムの結晶とを析出させる工程を含む、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明のリチウムリン系複合酸化物粉末の製造方法は、上記の前駆体結晶化ガラスの製造方法により製造された前駆体結晶化ガラスを酸処理して、ピロリン酸リチウムを溶出させる工程を含む、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明のリチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラスは、モル比で、
Li2O:1+x+yを超え、且つ1+x+3y未満
MIII
2O3:0.9x以上、1.1x以下
MIVO2:4-2.2x以上、4-1.8x以下
P2O5:3+y
(ここで、0≦x≦1、1≦y≦5であり、MIIIは、Al、Sc、Cr、Fe、Ga及びInから選択される元素を表し、MIVは、Si、Ti、Ge及びZrから選択される元素を表す)からなる、ことを特徴とする。
【0016】
そして、本発明のリチウムリン系複合酸化物粉末は、
Li1+xMIII
xMIV
2-x(PO4)3
(ここで、0≦x≦1であり、MIIIは、Al、Sc、Cr、Fe、Ga及びInから選択される元素を表し、MIVは、Si、Ti、Ge及びZrから選択される元素を表す)からなり、不純物としてのZnの濃度が100ppm未満である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を得ることが可能な前駆体ガラスを製造するための方法、及び、当該前駆体ガラスを提供することができる。また、本発明によれば、上記前駆体ガラスを用いた、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を得ることが可能な前駆体結晶化ガラスを製造するための方法を提供することができる。更に、本発明によれば、上記前駆体結晶化ガラスを用いた、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を製造するための方法、及び、当該リチウムリン系複合酸化物粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1における前駆体結晶化ガラスのX線回折パターンを示した図である。
【
図2】実施例2における前駆体結晶化ガラスのX線回折パターンを示した図である。
【
図3】実施例3における前駆体結晶化ガラスのX線回折パターンを示した図である。
【
図4】実施例4における前駆体結晶化ガラスのX線回折パターンを示した図である。
【
図5】実施例5における前駆体結晶化ガラスのX線回折パターンを示した図である。
【
図6】実施例6における前駆体結晶化ガラスのX線回折パターンを示した図である。
【
図7】比較例1における前駆体結晶化ガラスのX線回折パターンを示した図である。
【
図8】比較例2における前駆体結晶化ガラスのX線回折パターンを示した図である。
【
図9】比較例3における前駆体結晶化ガラスのX線回折パターンを示した図である。
【
図10】実施例1における粉末のX線回折パターンを示した図である。
【
図11】実施例2における粉末のX線回折パターンを示した図である。
【
図12】実施例3における粉末のX線回折パターンを示した図である。
【
図13】実施例4における粉末のX線回折パターンを示した図である。
【
図14】実施例5における粉末のX線回折パターンを示した図である。
【
図15】実施例6における粉末のX線回折パターンを示した図である。
【
図16】比較例1における粉末のX線回折パターンを示した図である。
【
図17】比較例2における粉末のX線回折パターンを示した図である。
【
図18】比較例3における粉末のX線回折パターンを示した図である。
【
図19】実施例1における粉末のSEM画像を示した図である。
【
図20】実施例4における粉末のSEM画像を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(リチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラスの製造方法)
まず、本発明の一実施形態に係るリチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラスの製造方法(以下、「本実施形態に係る前駆体ガラス製法」と称することがある。)を具体的に説明する。
本実施形態に係る前駆体ガラス製法は、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を製造する際の第1中間製品として位置づけることができる、前駆体ガラスを製造するための方法である。そして、本実施形態に係る前駆体ガラス製法は、製造しようとするリチウムリン系複合酸化物の構成元素を含む原料(以下、「構成的原料」と称することがある。)を、リチウム及びリンを含む付加的な原料(以下、「付加的原料」と称することがある。)とともに熔解する工程(熔解工程)を含み、また、付加的原料における、リンに対するリチウムのモル比(Li/P)が、1を超え、且つ3未満である。
【0020】
なお、本明細書において「リチウムリン系複合酸化物」とは、リチウム、リン及び酸素を少なくとも含む化合物を指すものとし、製造しようとするリチウムリン系複合酸化物の具体的な組成としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
熔解工程で準備する「リチウムリン系複合酸化物の構成元素を含む原料」(構成的原料)は、その組成上、リチウム及びリンを含む化合物、或いは、リチウムを含む化合物及びリンを含む化合物を含み、更に、製造しようとするリチウムリン系複合酸化物の組成に応じて、他の元素を含む化合物を含むことができる。また、上記の他の元素としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、後述するMIII及びMIVの他、+Iの酸化数をとる元素、+IIの酸化数をとる元素なども挙げられる。そして、上記の構成的原料は、特に制限されず、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、及びリン酸塩から選択される1種以上とすることができる。
【0022】
また、構成的原料は、通常は複数の化合物からなり、構成的原料における各元素のモル比は、製造しようとするリチウムリン系複合酸化物における当該元素のモル比に対応させる(但し、酸素は除く)。例えば、製造しようとするリチウムリン系複合酸化物がLi1+xAlxTi2-x(PO4)3である場合には、Li:Al:Ti:P=1+x:x:2-x:3(モル比)となるように、これらの元素を含む構成的原料を準備する。
【0023】
また、熔解工程では、上述した構成的原料に加え、更に、リチウム及びリンを含む付加的な原料(付加的原料)を準備し、混合して混合物を得る。本発明者らは、驚くべきことに、リチウムリン系複合酸化物粉末を調製するに当たり、当該粉末を構成するリチウム及びリンなどの原料に加えて、リチウム及びリンを所定比率で含む原料を付加的に用いて混合し、適切な工程を経て処理することにより、得られるリチウムリン系複合酸化物粉末の高品質化を達成できることを見出した。
【0024】
具体的な作用としては、所定比率のリチウム及びリンを付加的に導入することにより、それらが、ガラス化を促進するとともに、酸に溶け得る相を形成することができる。そして、形成した相は、酸により容易に溶出除去が可能である。また、リチウム及びリンは、リチウムリン系複合酸化物の構成元素に相当するので、付加的に導入したとしても、製造の過程で不純物の固溶を実質的に生じさせない。従って、最終的に得られるリチウムリン系複合酸化物粉末は、不純物の混入が低減されるものと考えられる。
【0025】
熔融工程で準備する「リチウム及びリンを含む付加的な原料」(付加的原料)は、リチウム及びリンを含む化合物、或いは、リチウムを含む化合物及びリンを含む化合物を含むことができる。また、上記の付加的原料は、特に制限されず、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、及びリン酸塩から選択される1種以上とすることができる。
【0026】
上述の通り、付加的原料において、リンに対するリチウムのモル比(Li/P)は、1を超え、且つ3未満である。上記のモル比が1以下であると、安定的にガラス化することができない虞がある上、酸では溶出することができない相が形成されて、所望の品質を有するリチウムリン系複合酸化物粉末を得ることができない虞がある。また、上記のモル比が3以上であると、酸では溶出することができない相が形成されて、所望の品質を有するリチウムリン系複合酸化物粉末を得ることができない虞がある。また、上記のモル比は、得られるリチウムリン系複合酸化物粉末をより確実に高品質化する観点から、1.5以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましく、また、2.5以下であることが好ましく、2.2以下であることがより好ましい。
【0027】
構成的原料及び付加的原料からなる混合物において、全てのリチウムのうち付加的原料のリチウムが占める割合は、特に制限されないが、53モル%以上であることが好ましく、また、93モル%以下であることが好ましい。上記の割合が53モル%以上であることにより、酸では溶出しない不所望な相(例えば、ピロリン酸チタンの相)の形成をより十分に抑制することができ、また、93モル%以下であることにより、歩留まりの悪化をより十分に抑制することができる。同様の観点から、全てのリチウムのうち付加的原料のリチウムが占める割合は、58モル%以上であることがより好ましく、また、88モル%以下であることがより好ましい。
【0028】
そして、熔解工程では、所定の割合となるように秤量した構成的原料、及び、所定の割合となるように秤量した付加的原料の混合物を熔解し、ガラス化する。具体的には、例えば、反応性のない白金坩堝等の容器に混合物を投入し、電気炉にて1200~1500℃に加熱して熔融しながら適時撹拌した後、電気炉で清澄、均質化する。そして、十分に水を貯めた水槽内に熔解液を流し込み、水砕急冷する等により、第1中間製品としての前駆体ガラスを得ることができる。
【0029】
ここで、混合物及び得られる前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、特に制限されないが、30モル%以上であることが好ましい。Li2Oの割合が30モル%以上であることにより、前駆体ガラスの調製時に結晶化するのを回避して、より安定的にガラス化することができるとともに、最終的に得られるリチウムリン系複合酸化物粉末の粒子径をより均一化することができる。なお、上記の「Li2O」には、付加的原料中のリチウムに由来するLi2Oだけでなく、構成的原料中のリチウムに由来するLi2Oも含まれるものとする。
【0030】
(リチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラス)
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラス(以下、「本実施形態に係る前駆体ガラス」と称することがある。)を具体的に説明する。本実施形態に係る前駆体ガラスは、モル比で、
Li2O:1+x+yを超え、且つ1+x+3y未満
MIII
2O3:0.9x以上、1.1x以下
MIVO2:4-2.2x以上、4-1.8x以下
P2O5:3+y
からなる。ここで、0≦x≦1、1≦y≦5であり、MIIIは、Al、Sc、Cr、Fe、Ga及びInから選択される元素を表し、MIVは、Si、Ti、Ge及びZrから選択される元素を表す。本実施形態に係る前駆体ガラスによれば、リチウムリン系複合酸化物、具体的には、Li1+xMIII
xMIV
2-x(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物の粉末を、高い品質をもって得ることができる。
なお、本実施形態に係る前駆体ガラスは、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を製造する際の第1中間製品として位置づけることができ、また、例えば、上述した本実施形態に係る前駆体ガラス製法により、製造することができる。
【0031】
また、本実施形態に係る前駆体ガラスは、モル比で、
Li2O:1+x+yを超え、且つ1+x+3y未満
MIII
2O3:x
MIVO2:4-2x
P2O5:3+y
からなることが好ましい。
【0032】
なお、xは、前駆体ガラスにおけるLi2O、MIII
2O3及びMIVO2のモル比に寄与し、製造しようとするリチウムリン系複合酸化物の組成に関係する変数であり、0以上1以下である。また、xは、結晶構造の崩れをより確実に回避する観点から、0.8以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましい。
【0033】
一方、yは、前駆体ガラスにおけるLi2O及びP2O5のモル比に寄与し、最終的に製造されるリチウムリン系複合酸化物粉末の品質に影響し得る変数であり、1以上5以下である。また、yは、最終的に得られるリチウムリン系複合酸化物の粉末の品質をより高める観点から、1.5以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、また、4.5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。
【0034】
本実施形態に係る前駆体ガラスにおけるLi2Oのモル比は、1+x+yを超え、且つ1+x+3y未満である。Li2Oの原料としては、例えば、LiPO3等のリン酸塩、Li2CO3等の炭酸塩などが挙げられる。
【0035】
本実施形態に係る前駆体ガラスにおけるMIII
2O3のモル比は、0.9x以上1.1x以下である。MIIIは、上述の通り、Al、Sc、Cr、Fe、Ga及びInから選択される元素を表し、+IIIの酸化数をとることができる。また、MIIIは、これらの元素の中でも、Al、Cr及びFeから選択される元素であることが好ましい。MIII
2O3の原料としては、例えば、リン酸塩(Al(PO3)3等)、水酸化物(Al(OH)3等)、酸化物(Al2O3、Cr2O3、Fe2O3等)などが挙げられる。
【0036】
本実施形態に係る前駆体ガラスにおけるMIVO2のモル比は、4-2.2x以上4-1.8x以下である。MIVは、上述の通り、Si、Ti、Ge及びZrから選択される元素を表し、+IVの酸化数をとることができる。また、MIVは、これらの元素の中でも、Ti及びZrから選択される元素であることが好ましい。MIVO2の原料としては、例えば、リン酸塩(TiP2O7等)、酸化物(TiO2、SiO2、GeO2、ZrO2等)などが挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る前駆体ガラスにおけるP2O5のモル比は、3+yである。P2O5の原料としては、例えば、任意のリン酸塩、H3PO4等の酸、P2O5等の酸化物などが挙げられる。
【0038】
また、本実施形態に係る前駆体ガラスは、結晶化されていないことが好ましい。前駆体ガラスが結晶化されていないことにより、最終的に得られるリチウムリン系複合酸化物粉末の粒子径をより均一なものとすることができる。
【0039】
(リチウムリン系複合酸化物の前駆体結晶化ガラスの製造方法)
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムリン系複合酸化物の前駆体結晶化ガラスの製造方法(以下、「本実施形態に係る前駆体結晶化ガラス製法」と称することがある。)を具体的に説明する。
本実施形態に係る前駆体結晶化ガラス製法は、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を製造する際の第2中間製品として位置づけることができる、前駆体結晶化ガラスを製造するための方法である。そして、本実施形態に係る前駆体結晶化ガラス製法は、上述した前駆体ガラスを加熱して、リチウムリン系複合酸化物の結晶と、ピロリン酸リチウムの結晶とを析出させる工程(析出工程)を含む。
【0040】
析出工程における前駆体ガラスの加熱は、例えば、400~600℃で10~30時間、及び、600~900℃で10~30時間の2段階加熱とすることができる。この加熱処理により、内部にリチウムリン系複合酸化物の結晶と、ピロリン酸リチウム(Li4P2O7)の結晶とが少なくとも析出した、第2中間製品としての前駆体結晶化ガラスを得ることができる。
【0041】
なお、析出工程では、上述した結晶のみを析出させてもよく、例えば、メタリン酸リチウム(LiPO3)やリン酸リチウム(Li3PO4)などの結晶を更に析出させてもよい。但し、最終的に得られるリチウムリン系複合酸化物の粉末の品質をより高める観点から、メタリン酸リチウム(LiPO3)やリン酸リチウム(Li3PO4)などの結晶の析出量は、少ない方が好ましい。
【0042】
(リチウムリン系複合酸化物粉末の製造方法)
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムリン系複合酸化物粉末の製造方法(以下、「本実施形態に係る粉末の製法」と称することがある。)を具体的に説明する。
本実施形態に係る粉末の製法は、上述した前駆体結晶化ガラスを酸処理して、ピロリン酸リチウムを溶出させる工程(酸処理工程)を含む。
【0043】
酸処理工程では、例えば、前駆体結晶化ガラスを、30~90℃の1~5N硝酸又は1~5N塩酸に、2~24時間浸漬することができる。また、浸漬時には、スターラー等で撹拌することが好ましい。この酸処理により、リチウムリン系複合酸化物の結晶以外の結晶、即ち、少なくともピロリン酸リチウムの結晶を含む結晶を選択的に溶出させることができる。そして、酸処理後には、ろ過等により、リチウムリン系複合酸化物の結晶と、溶出液とを分離し、結晶を乾燥させることにより、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を得ることができる。
なお、ピロリン酸リチウムの結晶は、従来技術で析出させるピロリン酸亜鉛(Zn2P2O7)の結晶に比べ、酸に対する溶解度が高い。そのため、本実施形態に係る粉末の製法は、従来技術に比べ、不純物となり得る相の溶出除去効果が高い。
【0044】
(リチウムリン系複合酸化物粉末)
そして、本発明の一実施形態に係るリチウムリン系複合酸化物粉末(以下、「本実施形態に係るリチウムリン系複合酸化物粉末」と称することがある。)を具体的に説明する。
本実施形態に係るリチウムリン系複合酸化物粉末は、Li1+xMIII
xMIV
2-x(PO4)3(ここで、0≦x≦1であり、MIIIは、Al、Sc、Cr、Fe、Ga及びInから選択される元素を表し、MIVは、Si、Ti、Ge及びZrから選択される元素を表す)からなり、不純物としてのZnの濃度が100ppm未満である。このように、本実施形態に係るリチウムリン系複合酸化物粉末は、不純物が低減されており、高品質である。
なお、本実施形態に係るリチウムリン系複合酸化物粉末は、例えば、上述した本実施形態に係る粉末の製法により、製造することができる。
また、Znの濃度は、蛍光X線分析により測定することができる。
【0045】
x、MIII及びMIVの好ましい態様は、リチウムリン系複合酸化物の前駆体ガラスについて既述したものと同様である。
【0046】
リチウムリン系複合酸化物粉末は、レーザー回折・散乱法により測定される粒子径が0.1~10μmであることが好ましい。また、リチウムリン系複合酸化物粉末は、粒子径の標準偏差が2μm未満であることが好ましい。
更に、リチウムリン系複合酸化物粉末は、Zn以外の不純物の濃度も低いことが好ましく、例えば、リチウムリン系複合酸化物の構成元素以外の元素の濃度が2000ppm未満であることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1:Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3の製造)
Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物を、以下の手順で製造した。
【0049】
モル比でLi:Al:Ti:P=1.4:0.4:1.6:3(酸化物換算でLi2O:1.4、Al2O3:0.4、TiO2:3.2、P2O5:3)となるように、所定量に秤量されたLiPO3、Al(PO3)3、Ti2P2O7、及びTiO2を構成的原料として準備した。また、酸化物換算のモル比でLi2O:6、P2O5:3(Li/P=2)となるように、所定量に秤量されたLiPO3及びLi2CO3を付加的原料として準備した。これらを混合し、熔解して、Li2O:7.4、Al2O3:0.4、TiO2:3.2、P2O5:6(モル比)からなる前駆体ガラス(x=0.4、y=3)を作製した。なお、混合物及び前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、43.5モル%と算出される。
【0050】
次いで、この前駆体ガラスを500℃で10時間、700℃で10時間加熱して、前駆体結晶化ガラスを作製した。
その後、この前駆体結晶化ガラスを、3mol/LのHNO3水溶液に浸漬し、60℃で2時間撹拌することで酸処理し、白濁溶液を得た。そして、この白濁溶液からろ過によって分散粒子を取り出し、それを120℃で乾燥させることで、白色粉末を得た。なお、ろ液には、少なくともピロリン酸リチウムが溶出していることを確認した。
【0051】
(実施例2:LiTi2(PO4)3の製造)
LiTi2(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物を、以下の手順で製造した。
【0052】
モル比でLi:Ti:P=1:2:3(酸化物換算でLi2O:1、TiO2:4、P2O5:3)となるように、所定量に秤量されたLiPO3、Ti2P2O7、及びTiO2を構成的原料として準備した。また、酸化物換算のモル比でLi2O:4.5、P2O5:3(Li/P=1.5)となるように、所定量に秤量されたLiPO3及びLi2CO3を付加的原料として準備した。これらを混合し、熔解して、Li2O:5.5、TiO2:4、P2O5:6(モル比)からなる前駆体ガラス(x=0、y=3)を作製した。なお、混合物及び前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、35.5モル%と算出される。
【0053】
次いで、この前駆体ガラスを500℃で10時間、700℃で10時間加熱して、前駆体結晶化ガラスを作製した。
その後、この前駆体結晶化ガラスを、3mol/LのHNO3水溶液に浸漬し、60℃で2時間撹拌することで酸処理し、白濁溶液を得た。そして、この白濁溶液からろ過によって分散粒子を取り出し、それを120℃で乾燥させることで、白色粉末を得た。なお、ろ液には、少なくともピロリン酸リチウムが溶出していることを確認した。
【0054】
(実施例3:Li1.2Cr0.2Ti1.8(PO4)3の製造)
Li1.2Cr0.2Ti1.8(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物を、以下の手順で製造した。
【0055】
モル比でLi:Cr:Ti:P=1.2:0.2:1.8:3(酸化物換算でLi2O:1.2、Cr2O3:0.2、TiO2:3.6、P2O5:3)となるように、所定量に秤量されたLiPO3、Ti2P2O7、Cr2O3及びTiO2を構成的原料として準備した。また、酸化物換算のモル比でLi2O:5、P2O5:2(Li/P=2.5)となるように、所定量に秤量されたLiPO3及びLi2CO3を付加的原料として準備した。これらを混合し、熔解して、Li2O:6.2、Cr2O3:0.2、TiO2:3.6、P2O5:5(モル比)からなる前駆体ガラス(x=0.2、y=2)を作製した。なお、混合物及び前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、41.3モル%と算出される。
【0056】
次いで、この前駆体ガラスを500℃で10時間、700℃で10時間加熱して、前駆体結晶化ガラスを作製した。
その後、この前駆体結晶化ガラスを、3mol/LのHNO3水溶液に浸漬し、60℃で2時間撹拌することで酸処理し、白濁溶液を得た。そして、この白濁溶液からろ過によって分散粒子を取り出し、それを120℃で乾燥させることで、白色粉末を得た。なお、ろ液には、少なくともピロリン酸リチウムが溶出していることを確認した。
【0057】
(実施例4:Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3の製造)
Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物を、以下の手順で製造した。
【0058】
モル比でLi:Al:Ti:P=1.4:0.4:1.6:3(酸化物換算でLi2O:1.4、Al2O3:0.4、TiO2:3.2、P2O5:3)となるように、所定量に秤量されたLiPO3、Al(PO3)3、Ti2P2O7及びTiO2を構成的原料として準備した。また、酸化物換算のモル比でLi2O:1.5、P2O5:1(Li/P=1.5)となるように、所定量に秤量されたLiPO3及びLi2CO3を付加的原料として準備した。これらを混合し、熔解して、Li2O:2.9、Al2O3:0.4、TiO2:3.2、P2O5:4(モル比)からなる前駆体ガラス(x=0.4、y=1)を作製した。なお、作製した前駆体ガラスは、結晶化していた。また、混合物及び前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、27.6モル%と算出される。
【0059】
次いで、この前駆体ガラスを500℃で10時間、700℃で10時間加熱して、前駆体結晶化ガラスを作製した。
その後、この前駆体結晶化ガラスを、3mol/LのHNO3水溶液に浸漬し、60℃で12時間撹拌することで酸処理し、白濁溶液を得た。そして、この白濁溶液からろ過によって分散粒子を取り出し、それを120℃で乾燥させることで、白色粉末を得た。なお、ろ液には、少なくともピロリン酸リチウムが溶出していることを確認した。
【0060】
(実施例5:Li1.3Fe0.3Ti1.7(PO4)3の製造)
Li1.3Fe0.3Ti1.7(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物を、以下の手順で製造した。
【0061】
モル比でLi:Fe:Ti:P=1.3:0.3:1.7:3(酸化物換算でLi2O:1.3、Fe2O3:0.3、TiO2:3.4、P2O5:3)となるように、所定量に秤量されたLiPO3、Fe2O3、Ti2P2O7及びTiO2を構成的原料として準備した。また、酸化物換算のモル比でLi2O:6、P2O5:3(Li/P=2)となるように、所定量に秤量されたLiPO3及びLi2CO3を付加的原料として準備した。これらを混合し、熔解して、Li2O:7.3、Fe2O3:0.3、TiO2:3.4、P2O5:6(モル比)からなる前駆体ガラス(x=0.3、y=3)を作製した。なお、混合物及び前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、42.9モル%と算出される。
【0062】
次いで、この前駆体ガラスを500℃で10時間、700℃で10時間加熱して、前駆体結晶化ガラスを作製した。
その後、この前駆体結晶化ガラスを、3mol/LのHNO3水溶液に浸漬し、60℃で3時間撹拌することで酸処理し、白濁溶液を得た。そして、この白濁溶液からろ過によって分散粒子を取り出し、それを120℃で乾燥させることで、白色粉末を得た。なお、ろ液には、少なくともピロリン酸リチウムが溶出していることを確認した。
【0063】
(実施例6:LiZr2(PO4)3の製造)
LiZr2(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物を、以下の手順で製造した。
【0064】
モル比でLi:Zr:P=1:2:3(酸化物換算でLi2O:1、ZrO2:4、P2O5:3)となるように、所定量に秤量されたLiPO3、ZrO2およびH3PO4を構成的原料として準備した。また、酸化物換算のモル比でLi2O:10、P2O5:5(Li/P=2)となるように、所定量に秤量されたLiPO3及びLi2CO3を付加的原料として準備した。これらを混合し、熔解して、Li2O:11、ZrO2:4、P2O5:8(モル比)からなる前駆体ガラス(x=0、y=5)を作製した。なお、混合物及び前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、47.8モル%と算出される。
【0065】
次いで、この前駆体ガラスを450℃で10時間、650℃で10時間加熱して、前駆体結晶化ガラスを作製した。
その後、この前駆体結晶化ガラスを、3mol/LのHNO3水溶液に浸漬し、60℃で3時間撹拌することで酸処理し、白濁溶液を得た。そして、この白濁溶液からろ過によって分散粒子を取り出し、それを120℃で乾燥させることで、白色粉末を得た。なお、ろ液には、少なくともピロリン酸リチウムが溶出していることを確認した。
【0066】
(比較例1)
Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物を、以下の手順で製造した。
【0067】
モル比でLi:Al:Ti:P=1.4:0.4:1.6:3(酸化物換算でLi2O:1.4、Al2O3:0.4、TiO2:3.2、P2O5:3)となるように、所定量に秤量されたLiPO3、Al(PO3)3、TiP2O7及びTiO2を構成的原料として準備した。また、酸化物換算のモル比でLi2O:3、P2O5:3(Li/P=1)となるように、所定量に秤量されたLiPO3を付加的原料として準備した。これらを混合し、熔解して、Li2O:4.4、Al2O3:0.4、TiO2:3.2、P2O5:6(モル比)からなる前駆体ガラスを作製した。なお、混合物及び前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、31.4モル%と算出される。
【0068】
次いで、この前駆体ガラスを500℃で10時間、700℃で10時間加熱して、前駆体結晶化ガラスを作製した。
その後、この前駆体結晶化ガラスを、3mol/LのHNO3水溶液に浸漬し、60℃で10時間撹拌することで酸処理し、白濁溶液を得た。そして、この白濁溶液からろ過によって分散粒子を取り出し、それを120℃で乾燥させることで、白色粉末を得た。
【0069】
(比較例2)
Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物を、以下の手順で製造した。
【0070】
モル比でLi:Al:Ti:P=1.4:0.4:1.6:3(酸化物換算でLi2O:1.4、Al2O3:0.4、TiO2:3.2、P2O5:3)となるように、所定量に秤量されたLiPO3、Al(PO3)3、TiP2O7及びTiO2を構成的原料として準備した。また、酸化物換算のモル比でLi2O:9、P2O5:3(Li/P=3)となるように、所定量に秤量されたLiPO3及びLi2CO3を付加的原料として準備した。これらを混合し、熔解して、Li2O:10.4、Al2O3:0.4、TiO2:3.2、P2O5:6(モル比)からなる前駆体ガラスを作製した。なお、混合物及び前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、52.0モル%と算出される。
【0071】
次いで、この前駆体ガラスを500℃で10時間、700℃で10時間加熱して、前駆体結晶化ガラスを作製した。
その後、この前駆体結晶化ガラスを、3mol/LのHNO3水溶液に浸漬し、60℃で2時間撹拌することで酸処理し、白濁溶液を得た。そして、この白濁溶液からろ過によって分散粒子を取り出し、それを120℃で乾燥させることで、白色粉末を得た。
【0072】
(比較例3)
Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3で表されるリチウムリン系複合酸化物を、以下の手順で製造した。
【0073】
所定量に秤量されたLiPO3、Al(PO3)3、Zn(PO3)2、TiO2、及びZnOを準備し、これらを混合し、熔解して、Li2O:1.4、Al2O3:0.4、TiO2:3.2、P2O5:6、ZnO:6(モル比)からなる前駆体ガラスを作製した。なお、混合物及び前駆体ガラスにおけるLi2Oの割合は、8.2モル%と算出される。
【0074】
次いで、この前駆体ガラスを500℃で10時間、800℃で10時間加熱して、前駆体結晶化ガラスを作製した。
その後、この前駆体結晶化ガラスを、3mol/LのHNO3水溶液に浸漬し、60℃で10時間撹拌することで酸処理し、白濁溶液を得た。そして、この白濁溶液からろ過によって分散粒子を取り出し、それを120℃で乾燥させることで、白色粉末を得た。
【0075】
(前駆体結晶化ガラスのX線回折スペクトル)
各実施例・比較例のリチウムリン系複合酸化物粉末の製造の過程で得られた前駆体結晶化ガラスについて、X線回折スペクトルを、X線回折装置UltimaIV(株式会社リガク製)で測定した。実施例1~6及び比較例1~3の前駆体結晶化ガラスについてのX線回折スペクトルを、
図1~9にそれぞれ示す。
図1~6に示すように、実施例1~6に係るX線回折スペクトルでは、LiTi
2(PO
4)
3又はLiZr
2(PO
4)
3と仮判定されるピークと、ピロリン酸リチウムのピークとが主として見られた。一方、
図7に示すように、比較例1に係るX線回折スペクトルでは、メタリン酸リチウム(LiPO
3)のピークが比較的多く見られた。また、
図8に示すように、比較例2に係るX線回折スペクトルでは、リン酸リチウム(Li
3PO
4)のピークが比較的多く見られた。また、
図9に示すように、比較例3に係るX線回折スペクトルでは、ピロリン酸亜鉛(Zn
2P
2O
7)のピークが見られた。
【0076】
(白色粉末のX線回折スペクトル)
各実施例・比較例で得られた白色粉末についてのX線回折スペクトルを、X線回折装置UltimaIV(株式会社リガク製)で測定した。実施例1~6及び比較例1~3の白色粉末についてのX線回折スペクトルを、
図10~18にそれぞれ示す。
図10~15に示すように、実施例1~6に係るX線回折スペクトルでは、LiTi
2(PO
4)
3又はLiZr
2(PO
4)
3と仮判定されるピーク以外に、主なピークが見られなかった。一方、
図16、17に示すように、比較例1,2に係るX線回折スペクトルでは、副相のピークが見られた。
【0077】
(白色粉末の元素分析)
各実施例・比較例で得られた白色粉末について、エネルギー分散型X線分析を、JED-2300T(日本電子株式会社製)を用いて行った。その結果、いずれの例においても、目的のリチウムリン系複合酸化物の結晶がそれぞれ形成されていると判断された。
また、各実施例・比較例で得られた白色粉末について、蛍光X線分析を、EA1000VX(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて行った。具体的には、粉末中に不純物として含まれ得るZnの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0078】
表1の結果から、実施例1~6の白色粉末は、Znの濃度が100ppm未満であり、不純物が著しく少ないことが分かる。なお、比較例3では、多量のZnが残存しており、Znが不純物として固溶しているものと考えられる。
【0079】
(白色粉末のSEM画像)
電子顕微鏡IT-300(日本電子株式会社製)を用い、実施例1、4の白色粉末のSEM画像を得た。結果をそれぞれ
図19、20に示す。これらの図から、実施例1の白色粉末は、実施例4の白色粉末に比べ、粒子径が小さく、且つ均一になっていることが分かる。このことは、実施例1において前駆体ガラスを作製する際、混合物におけるLi
2Oの割合を比較的高くしたこと等に因るものと考えられる。
【0080】
(白色粉末の粒子径及びその標準偏差)
粒子径分布測定装置LA-300(株式会社堀場製作所製)を用い、実施例1~3,5の白色粉末の粒子径及びその標準偏差を測定した。その結果、これら全ての白色粉末において、粒子径が0.1~10μmの範囲内であること、及び、標準偏差が2μm未満であることが少なくとも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を得ることが可能な前駆体ガラスを製造するための方法、及び、当該前駆体ガラスを提供することができる。また、本発明によれば、上記前駆体ガラスを用いた、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を得ることが可能な前駆体結晶化ガラスを製造するための方法を提供することができる。更に、本発明によれば、上記前駆体結晶化ガラスを用いた、高品質なリチウムリン系複合酸化物粉末を製造するための方法、及び、当該リチウムリン系複合酸化物粉末を提供することができる。