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特許6992980光触媒作用を有する積層構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】光触媒作用を有する積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/00 20060101AFI20220105BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B01J37/00 Z
B01J35/02 J
B01J35/02 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018124435
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020001014
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】山岡 英彦
(72)【発明者】
【氏名】伊達 修一
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171029(JP,A)
【文献】特開平10-263412(JP,A)
【文献】特開2001-314761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を含む光触媒層とスペーサ層とを積層した積層体であって、前記光触媒層の側面及び前記スペーサ層の側面が露出する前記積層体に対し、前記光触媒が励起される光を照射する光照射工程と、
エッチングガスを用いて、前記光が照射された前記積層体から露出する前記スペーサ層の前記側面をエッチングするエッチング工程と、
を含むことを特徴とする、光触媒作用を有する積層構造体の製造方法。
【請求項2】
前記光触媒が二酸化チタンを含むことを特徴とする請求項1に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項3】
前記スペーサ層が二酸化ケイ素を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項4】
前記エッチングガスがフッ素系ガスを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項5】
前記エッチングガスがプラズマ化されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項6】
前記積層体を分割することにより、前記光の照射対象となる複数の前記積層体を形成する積層体分割工程を、さらに含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項7】
エッチングされる前記スペーサ層は、前記光触媒層の間に配置されるスペーサ層、及び/又は、前記積層体が形成される基材と前記光触媒層との間に配置されるスペーサ層であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項8】
前記積層構造体が構造色を発現することを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
【請求項9】
光触媒を含む光触媒層とスペーサ層とを積層した積層体であって、前記光触媒層の側面及び前記スペーサ層の側面が露出する前記積層体を、基材の表面に形成する積層体形成工程と、
前記基材の表面に形成された積層体に対し、前記光触媒が励起される光を照射する光照射工程と、
エッチングガスを用いて、前記光が照射された前記積層体から露出する前記スペーサ層の前記側面をエッチングするエッチング工程と、
を含むことを特徴とする、光触媒作用を有する光触媒部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒作用を有する積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタン等のいわゆる光触媒は、光が照射されることで、有機物を分解したり水を電気分解したりすることが知られている。近年では、このような作用を有する光触媒を積層構造体に用いて、様々な用途で利用することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される光触媒発色部材では、光触媒を含む光触媒物質薄膜体と、光触媒物質薄膜体を支持する支持物質薄膜体と、が交互に積層した薄膜積層体を基材の表面に形成し、その薄膜積層体で光の干渉や回析を引き起こしている。薄膜積層体に照射される光の干渉や回析が引き起こされることで、光触媒発色部材は、光触媒作用を示すだけでなく、着色成分を用いることなく発色する。なお、光の干渉や回析によって引き起こされる発色は、一般的には、構造色といわれている。
【0004】
特許文献1では、光の干渉や回析を引き起こすために、薄膜積層体において、所定の厚みの光触媒物質薄膜体と、所定の間隔の空間とが積層方向に交互に並ぶ領域を設けている。このような領域は、所定の厚みの光触媒物質薄膜体と支持物質薄膜体とを交互に積層するとともに支持物質薄膜体の一部の領域を除去し、光触媒物質薄膜体の間に所定の間隔の空間を設けることで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3443656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるように、基材上に形成される積層体から特定の層(一部の領域)を除去して積層構造体を製造する場合には、除去対象となる特定の層が、除去対象とは異なる別の層に挟まれた状態や除去対象とは異なる別の層と基材とに挟まれた状態で、除去対象となる特定の層を除去することになる。このため、積層体から特定の層のみを除去することが難しい。特に、除去対象となる層が挟まれる間隔が狭い場合には、除去対象となる層のみを除去することがさらに困難になる。
【0007】
特許文献1では、光触媒物質薄膜体に挟まれる支持物質薄膜体(一部の領域)や、光触媒物質薄膜体と基材に挟まれる支持物質薄膜体(一部の領域)を除去するため、ウェットエッチングを利用している。しかしながら、エッチング液は、光触媒物質薄膜体の間や、光触媒物質薄膜体と基材との間に進入しにくく、これらに挟まれる支持物質薄膜体が除去されにくかった。支持物質薄膜体が除去されないと、光の干渉や回析を引き起こす上述した領域が形成されにくく、構造色が発現されにくい。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、光触媒層とスペーサ層とが積層する積層体において、スペーサ層を除去しやすい、光触媒作用を有する積層構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 光触媒を含む光触媒層とスペーサ層とを積層した積層体であって、前記光触媒層の側面及び前記スペーサ層の側面が露出する前記積層体に対し、前記光触媒が励起される光を照射する光照射工程と、エッチングガスを用いて、前記光が照射された前記積層体から露出する前記スペーサ層の前記側面をエッチングするエッチング工程と、を含むことを特徴とする、光触媒作用を有する積層構造体の製造方法。
[2] 前記光触媒が二酸化チタンを含むことを特徴とする[1]に記載の積層構造体の製造方法。
[3] 前記スペーサ層が二酸化ケイ素を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の積層構造体の製造方法。
[4] 前記エッチングガスがフッ素系ガスを含むことを特徴とする[1]から[3]のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
[5] 前記エッチングガスがプラズマ化されていることを特徴とする[1]から[4]のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
[6] 前記積層体を分割することにより、前記光の照射対象となる複数の前記積層体を前記基材の表面に形成する積層体分割工程を、さらに含むことを特徴とする[1]から[5]のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
[7] エッチングされる前記スペーサ層は、前記光触媒層の間に配置されるスペーサ層、及び/又は、前記積層体が形成される基材と前記光触媒層との間に配置されるスペーサ層であることを特徴とする[1]から[6]のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
[8] 前記積層構造体が構造色を発現することを特徴とする[1]から[7]のいずれか一つに記載の積層構造体の製造方法。
[9] 光触媒を含む光触媒層とスペーサ層とを積層した積層体であって、前記光触媒層の側面及び前記スペーサ層の側面が露出する前記積層体を、基材の表面に形成する積層体形成工程と、前記基材の表面に形成された積層体に対し、前記光触媒が励起される光を照射する光照射工程と、エッチングガスを用いて、前記光が照射された前記積層体から露出する前記スペーサ層の前記側面をエッチングするエッチング工程と、を含むことを特徴とする、光触媒作用を有する光触媒部材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光触媒層とスペーサ層とが積層する積層体において、スペーサ層を除去しやすい、光触媒作用を有する積層構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】光触媒部材の概略図である。
図2】積層構造体の変形例を示す図である。
図3】積層構造体の変形例を示す図である。
図4】第1実施形態の積層構造体の製造方法のフローチャートである。
図5】第1実施形態の製造工程(積層体形成工程)で得られる中間品を示す図である。
図6】第1実施形態の製造工程(積層体分割工程)で得られる中間品を示す図である。
図7】第1実施形態の製造工程(光照射工程)で得られる中間品を示す図である。
図8】第1実施形態の製造工程(エッチング工程)で得られる中間品を示す図である。
図9】光触媒部材の変形例を示す図である。
図10】第2実施形態の積層構造体の製造方法のフローチャートである。
図11】第2実施形態の製造工程(積層体形成工程)で得られる中間品を示す図である。
図12】第2実施形態の製造工程(積層体分割工程)で得られる中間品を示す図である。
図13】第2実施形態の製造工程(光照射工程)で得られる中間品を示す図である。
図14】第2実施形態の製造工程(エッチング工程)で得られる中間品を示す図である。
図15】実施例1の積層構造体の走査型電子顕微鏡写真である。
図16】比較例1の積層構造体の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
まず、本実施形態の製造方法で得られる積層構造体1を用いた光触媒部材100の一例について、図1を用いて説明する。図1は、光触媒部材100の概略図である。図1において、X軸、Y軸及びZ軸は、互いに直交する三軸であり、Z軸方向が積層方向に対応している。なお、X軸、Y軸およびZ軸の関係は、他の図面においても同様である。
【0014】
光触媒部材100は、光触媒作用を示すとともに、着色成分(顔料や着色剤)の有無にかかわらずに発色する、いわゆる構造色を発現する部材である。図1に示すように、光触媒部材100は、基材50と、基材50の上面に形成される複数の積層構造体1を有する。積層構造体1が形成される基材50の上面は、X-Y平面内に形成される平面であり、X-Y平面に対して平坦な平坦面である。基材50の上面に形成される複数の積層構造体1は、最適な発色特性を示すように、X軸方向に所定の間隔Iをあけて配置されている。所定の間隔Iは、例えば、青色の場合、450nm以上500nm以下とすることができ、所望の色の中心波長λの整数倍とすることが好ましい。
【0015】
本明細書において、光触媒作用とは、光を吸収することで正孔と伝導電子を生じる作用を指し、例えば、光触媒作用によって生じる正孔や伝導電子により、積層構造体1(光触媒部材100)に付着する汚染物質(例えば、VOC(揮発性有機化合物)、菌類)を酸化・還元して分解することができる。また、本明細書において、中心波長とは、或る波長の幅を持った光の中で最大の強度をもたらす波長を指す。
【0016】
基材50の上面に形成される積層構造体1は、光触媒を含む複数の光触媒層2と、複数のスペーサ層3を有する。光触媒層2は、光触媒を含む層であり、スペーサ層3は、光触媒層2の間や、光触媒層2と基材50の間にスペース(間隔)を形成する層である。光触媒層2とスペーサ層3は、それぞれ8つ設けられており、これらの層は交互に積層されている。積層構造体1に含まれる光触媒層2やスペーサ層3は、それぞれ2層以上あればよく、特に限定されるものではない。
【0017】
積層構造体1に設けられる複数の光触媒層2は、Y軸方向における長さL2と、X軸方向における幅W2を有する矩形状の層であり、Z軸方向における厚みD2を有している。また、積層構造体1に設けられる複数のスペーサ層3は、Y軸方向における長さL3と、X軸方向における幅W3を有する矩形状の層であり、Z軸方向における厚みD3を有している。スペーサ層3の長さL3は、光触媒層2の長さL2と略同一に設定されている。スペーサ層3の幅W3は、光触媒層2の幅W2より小さく設定されている。
【0018】
光触媒層2の側面は、X-Z平面内に形成される2つの領域(前側面2b,後側面2b’(不図示))を有しており、これらの領域は、Y軸方向で対向している。また、スペーサ層3の側面は、X-Z平面内に形成される2つの領域(前側面3bと後側面3b’(不図示))を有しており、これらの領域は、Y軸方向で対向している。スペーサ層3の前側面3bは、光触媒層2の前側面2bと同一平面内に形成されている。同様に、スペーサ層3の後側面3b’は、光触媒層2の後側面2b’と同一平面内に形成されている。なお、本明細書において、側面とは、積層方向(Z軸方向)に対する側面を指す。
【0019】
また、光触媒層2の側面は、Y-Z平面内に形成される2つの領域(右側面2a,左側面2a’(不図示))を有しており、これらの領域は、X軸方向で対向している。スペーサ層3の側面は、Y-Z平面内に形成される2つの領域(右側面3a,左側面3a’(不図示))を有しており、これらの領域は、X軸方向で対向している。スペーサ層3の右側面3aは、光触媒層2の右側面2aに対して凹んでいる。同様に、スペーサ層3の左側面3a’は、光触媒層2の左側面2a’に対して凹んでいる。
【0020】
積層構造体1には、スペーサ層3をX軸方向に挟む、一対の凹部(凹部h,凹部h’)が設けられている。凹部hは、スペーサ層3の右側面3aが、当該スペーサ層3を挟む光触媒層2の右側面2aに対して凹むことで形成される凹みである。凹部h’は、スペーサ層3の左側面3’aが、当該スペーサ層3を挟む光触媒層2の左側面2a’に対して凹むことで形成される凹みである。この一対の凹部h,凹部h’は、光触媒層2を介してZ軸方向に並んでいる。この凹部h,凹部h’内に形成される空間により、積層構造体1には、所定の厚みの光触媒層2と所定の間隔の空間がZ軸方向に交互に並ぶ領域が形成される。
【0021】
光触媒層2の厚みD2は、発現させる構造色の色に応じて設定されており、例えば、30nm以上100nm以下とすることができる。より具体的には、光触媒層2の厚みD2は、下記(1)式で表される光学膜厚が所望の光の中心波長λの1/4となるように設定されることが好ましい。
光触媒層2の光学膜厚=光触媒層2の厚みD2(nm)×光触媒層2の屈折率・・・(1)
なお、上記(1)式において、光触媒層2の屈折率は、例えば、エリプソメータを用いて測定することができる。
【0022】
スペーサ層3の厚みD3は、発現させる構造色の色に応じて設定されており、例えば、100nm以上200nm以下とすることができる。より具体的には、スペーサ層3の厚みD3は、下記(2)式で表される光学膜厚が所望の光の中心波長λの1/4となるように設定されることが好ましい。
光学膜厚=スペーサ層3の厚みD3(nm)×スペーサ層3(当該スペーサ層3のX軸方向に配置される凹部h及び凹部h’内の空間を含む)の等価屈折率・・・(2)
なお、上記(2)式において、スペーサ層3(当該スペーサ層3のX軸方向に配置される凹部h及び凹部h’内の空間を含む)の等価屈折率は、例えば、エリプソメータを用いて測定することができる。
【0023】
光触媒層2に含まれる光触媒としては、例えば、二酸化チタン(TiO)、酸化タングステン(WO)を用いることができる。二酸化チタンは、アナターゼ構造であってもよく、アモルフォス構造であってもよい。アナターゼ構造の二酸化チタンを含む光触媒層2は、アモルフォス構造の二酸化チタンを含む光触媒層2と比較し、光(紫外線)と水の存在下で、汚染物質を分解しやすいので、アナターゼ構造の二酸化チタンを用いることがより好ましい。
【0024】
スペーサ層3を構成する材料は、積層構造体1の用途や製造方法などを考慮して適宜選択することができるが、二酸化ケイ素(SiO),酸化インジウムスズ(ITO),酸化亜鉛(ZnO)を用いることが好ましい。これらの材料から構成されるスペーサ層3は、優れた光透過性を有するため、積層構造体1全体に光が到達しやすくなり、構造色が発現されやすくなるとともに光触媒作用を示しやすくなる。また、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化亜鉛(ZnO)は、導電性を有しているため、スペーサ層3が酸化インジウムスズ(ITO)や酸化亜鉛(ZnO)から構成される場合、積層構造体1が電気を通しやすくなる。一方、二酸化ケイ素は、絶縁体であるため、スペーサ層3が二酸化ケイ素から構成される場合、積層構造体1が電気を通しにくくなる。
【0025】
基材50を構成する材料は、積層構造体1を基材50の表面に形成できるものであればよく、光触媒部材100の用途などを考慮して適宜選択することができる。基材50の材料としては、例えば、Si、SiO、その他セラミックス全般、を用いることができる。なお、これらの材料は、2種以上組合せて用いてもよい。また、積層構造体1との密着性等を考慮して、表面に被覆層などが形成された材料を、基材50として用いてもよい。基材50の形状は、特に限定されず、光触媒部材100の用途などを考慮して適宜選択することができる。例えば、図1に示すように板状の形状とすることができる。また、基材50の表面は、凹部や凸部が形成されていてもよい。
【0026】
上述した構成を備える光触媒部材100に光が照射されると、基材50の表面に形成される積層構造体1(所定の厚みの光触媒層2と所定の間隔の空間がZ軸方向に交互に並ぶ領域)において、光の干渉や回析が生じ、光触媒層2の厚みD2や光触媒層2間の間隔(つまり、スペーサ層3の厚みD3)に応じた所定の色が発色する。つまり、光触媒部材100は、着色成分(顔料や着色剤)の有無にかかわらずに発色する構造色を発現する。また、積層構造体1に設けられる光触媒層2には、光触媒が含まれているため、積層構造体1は、光触媒作用を示す。このため、光触媒部材100に付着する汚染物質を分解することができる。
【0027】
図2は、積層構造体1の変形例を示す図である。図1に示す積層構造体1では、光触媒層2の幅W2が積層構造体1を構成する全ての光触媒層2で略同一であったが、図2(a)や図2(b)に示すように、光触媒層2の幅W2は、光触媒層2ごとに異なっていてもよい。具体的には、図2(a)に示すように、光触媒層2が基材50に近づくにつれて幅W2が小さくなる積層構造体1であってもよく、図2(b)に示すように、光触媒層2が基材50に近づくにつれて幅W2が大きくなる積層構造体1であってもよい。また、図1に示す積層構造体1では、光触媒層2の長さL2とスペーサ層3の長さL3と略同一であったが、図2(c)に示すように、スペーサ層3の長さL3が、光触媒層2の長さL2よりも小さく、スペーサ層3の前側面3bが、当該スペーサ層3を挟む光触媒層2の前側面2bに対して凹み、スペーサ層3の後側面3b’が、当該スペーサ層3を挟む光触媒層2の後側面2b’に対して凹む積層構造体1であってもよい。図2(a)~(c)に示す積層構造体1であっても、光触媒層2と空間とがZ軸方向に交互に並ぶ領域が形成されるため、光触媒層2の厚みD2や光触媒層2間の間隔(つまり、スペーサ層3の厚みD3)に応じた所定の色が発色するとともに、光触媒作用を示す。
【0028】
なお、図1に示す光触媒部材100では、基材50の上面のみに積層構造体1が形成されているが、積層構造体1は、基材50表面の少なくとも一部の領域に形成されていればよく、基材50表面の全ての領域に形成されていてもよい。また、図1に示す光触媒部材100では、複数の積層構造体1が形成されているが、積層構造体1は、少なくとも1つ形成されていればよい。
【0029】
以上説明した光触媒部材100では、本実施形態の製造方法で得られる積層構造体1を、光触媒作用に加えて、構造色を発現するために利用している。しかしながら、本実施形態の製造方法で得られる積層構造体1は、光触媒作用のみを目的に利用したり、光触媒作用に加えて、構造色以外の他の目的のために利用したりしてもよい。
【0030】
このような場合には、例えば、図3(a)に示すように、積層構造体1を構成する光触媒層2とスペーサ層3が、それぞれ少なくとも1つ設けられていればよい。光触媒層2とスペーサ層3がそれぞれ1つしか設けられてなくても、積層構造体1には光触媒を含む光触媒層2が設けられているため、図3(a)に示す積層構造体1は光触媒作用を示すことができる。このため、図3(a)に示す積層構造体1が設けられる光触媒部材100は、光触媒部材100に付着する汚染物質を分解することができる。
【0031】
また、例えば、図3(b)に示すように、光触媒層2の厚みD2が光触媒層毎に異なっていてもよく、スペーサ層3の厚みD3がスペーサ層毎に異なっていてもよい。光触媒層2の厚みD2は、例えば、30nm以上100nm以下とすることができ、スペーサ層3の厚みD3は、例えば、100nm以上200nm以下とすることができる。光触媒層2の厚みD2が光触媒層毎に異なっていたり、スペーサ層3の厚みD3がスペーサ層毎に異なっていたりしても、積層構造体1には光触媒を含む光触媒層2が設けられているため、図3(b)に示す積層構造体1は光触媒作用を発揮することができる。このため、図3(b)に示す積層構造体1が設けられる光触媒部材100は、光触媒部材100に付着する汚染物質を分解することができる。
【0032】
以上説明した光触媒部材100は、例えば、内装材、外装材、反射防止膜などに利用することができる。
【0033】
次に、本実施形態の積層構造体1の製造方法について説明する。
【0034】
まず、積層構造体1の第1実施形態の製造方法について、図4から図8を用いて説明する。第1実施形態の製造方法で得られる積層構造体1は、光触媒作用を示すとともに、構造色を発現する。なお、図4は、積層構造体1を製造する過程の各処理の手順を示すフローチャートであり、図5から図8は、各処理で得られた中間品を示している。また、上述した構成については、同一の符号を用い、詳細な説明を省略することがある。
【0035】
ステップS101の処理(積層体形成工程)では、図5に示すように、基材50の上面に、スペーサ層3と光触媒層2を交互に積層した積層体1’を形成する。スペーサ層3の側面と光触媒層2の側面は、積層体1’から露出する。
【0036】
ステップS101の処理における積層体1’の形成方法としては、例えば、各スペーサ層3と各光触媒層2の側面が露出するように、スペーサ層3と光触媒層2を積層する方法や、スペーサ層3と光触媒層2の積層物(スペーサ層3と光触媒層2の少なくとも一方の側面が露出していない積層物)を切断したりして、スペーサ層3と光触媒層2の側面を露出させる方法を挙げることができる。スペーサ層3と光触媒層2の積層には、例えば、スパッタリングを用いることができる。スパッタリングは、例えば、EIS-230(株式会社エリオニクス製)を用いて行うことができ、従来公知の条件で行うことができる。具体的なスパッタリングの条件としては、例えば、Arプラズマによる物理的スパッタリングを挙げることができる。
【0037】
本実施形態のステップS101の処理では、図5に示すように、各スペーサ層3と各光触媒層2の側面の全ての領域(左右側面,前後側面)が露出する積層体1’を形成している。ステップS101の処理で得られる積層体1’は、各光触媒層2の側面の全ての領域が露出している必要はなく、後述するステップS103の処理において、各光触媒層2に光を照射することができれば、各光触媒層2の側面の少なくとも一部の領域のみが露出したものであってもよい。また、各スペーサ層3の側面の全ての領域が露出している必要はなく、後述するステップS104の処理において、露出するスペーサ層3の側面をエッチングすることで形成される凹部内の空間がZ軸方向に並ぶものであれば、スペーサ層3の側面の一部の領域のみが露出したものであってもよい。具体的には、例えば、積層体1’を構成する各スペーサ層3と各光触媒層2が、右側面のみを露出してもよく,左側面のみを露出していてもよく,前側面のみを露出していてもよく,後側面のみを露出していてもよい。
【0038】
本実施形態のステップS101の処理で得られる積層体1’は、図5に示すように、スペーサ層3と光触媒層2をそれぞれ8つ積層しており、基材50の表面上にスペーサ層3を配置している。ステップS101の処理において、積層されるスペーサ層3と光触媒層2の数は、それぞれ少なくとも2つ積層されていればよく、それぞれ8つに限定されるものではない。また、スペーサ層3と光触媒層2の積層順序については、スペーサ層3と光触媒層2が交互に積層されていればよく、基材50の表面上に光触媒層2が配置されていてもよい。
【0039】
本実施形態のステップS101の処理で得られる積層体1’では、光触媒層2の厚みD2とスペーサ層3の厚みD3が、発現させる構造色の色に応じて設定されている。光触媒層2の厚みD2は、例えば、30nm以上100nm以下とすることができ、スペーサ層3の厚みD3は、例えば、100nm以上200nm以下とすることができる。より具体的には、光触媒層2の厚みD2は、上記(1)式で表される光学膜厚が所望の光の中心波長λの1/4となるように設定されることが好ましく、スペーサ層3の厚みD3は、上記(2)式で表される光学膜厚が所望の光の中心波長λの1/4となるように設定されることが好ましい。
【0040】
本実施形態のステップS101の処理で得られる積層体1’は、光触媒部材100を構成する基材50の上面に形成されている。積層体1’を基材50の上面に形成する場合、製造する積層構造体1が基材50の上面に形成される。このため、積層体1’を基材50の上面に形成する場合には、積層構造体1の製造とともに、上述した光触媒部材100を製造することができる。本実施形態の製造方法において、積層構造体1のみを製造する場合には、ステップS101の処理において、積層体1’を基材50とは異なる別の材料の表面に形成してもよい。別の材料は、積層体1’をその表面に形成できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0041】
ステップS102の処理(積層体分割工程)では、積層体1’を分割し、スペーサ層3の側面と光触媒層2の側面が露出する複数の積層体1’を得る。なお、本実施形態の製造方法では、複数の積層構造体1を製造するため、ステップS102の処理で積層体1’を複数に分割しているが、積層構造体1を1つだけ製造する場合には、ステップS102の処理は行われなくてもよい。
【0042】
ステップS102の処理で行われる積層体1’の分割方法としては、例えば、図6(a)~(c)に示すように、エッチングガスを用いた異方性エッチングにより、積層構造体1をZ軸方向に貫通する分割溝Gを形成して積層体1’を分割する方法を挙げることができる。
【0043】
この方法では、まず、図6(a)に示すように、積層体1’の上面に下地層として金属層mを形成するとともに、金属層mの上面にレジストとして感光性樹脂層pを形成する。金属層mとしては、クロム、チタン等を用いることができ、感光性樹脂層pとしては、光や電子線等によって溶解性が変化する一般的なフォトリソグラフィ用レジストを用いることができる。フォトリソグラフィ用レジストは、ポジ型であっても、ネガ型であってもよい。具体的なフォトリソグラフィ用レジストとしては、THMR(登録商標)-iP3650HP(東京応化工業株式会社製)を挙げることができる。金属層mの形成には、例えば、スパッタリングを用いることができ、感光性樹脂層pの形成には、例えば、スピン・コータを用いることができる。
【0044】
次に、図6(b)に示すように、感光性樹脂層pのパターンニングを行う(リソグラフィ)。パターンニングは、分割溝Gに対応する領域の感光性樹脂層pが現像時に無くなるように露光及び現像する。現像液には、例えば、NMD-3(東京応化工業株式会社製)を用いることができる。具体的なパターンニング方法としては、感光性樹脂層pの所定の領域に、電子線や光を照射してその領域の現像剤に対する溶解性を低下させ、その後、電子線や光が照射されていない領域(つまり、分割溝Gに対応する領域)を現像剤を用いて除去する方法(ネガ型のレジストを用いる方法)や、分割溝Gに対応する感光性樹脂層pの所定の領域に、電子線や光を照射してその領域の現像剤に対する溶解性を高めて、電子線や光が照射された領域(つまり、分割溝Gに対応する領域)を現像剤を用いて除去する方法(ポジ型のレジストを用いる方法)を挙げることができる。このパターンニングにより、図6(b)に示すように、感光性樹脂層pが分割され、X軸方向に所定の間隔iをあけて並ぶ複数の感光性樹脂層pが金属層mの上面に形成される。隣り合う感光性樹脂層pの間に形成される間隔iは、隣り合う積層構造体1の間の間隔(例えば、図1に示す間隔I)に対応するものである。
【0045】
次に、図6(c)に示すように、エッチングガスを用いて、感光性樹脂層pが除去された領域から露出する金属層mの一部の領域をZ軸方向にエッチングするととともに、除去された金属層mから露出する積層体1’の一部の領域をZ軸方向にエッチングする。金属層mと積層体1’をZ軸方向に除去することで、積層体1’をZ軸方向に貫通する分割溝Gが形成される。
【0046】
分割溝Gの形成には、図6(c)に示すように、異方性エッチングを用いることができる。具体的なエッチングとしては、例えば、反応性イオンエッチングを用いることができる。なお、反応性イオンエッチングとは、エッチングガスをプラズマ化して生じるラジカルとイオンをエッチング対象に接触させるエッチングを指す。エッチングガスの種類は、金属層mを構成する物質や積層体1’を構成する物質に応じて選択することができるが、例えば、六フッ化硫黄(SF)やトリフルオロメタン(CHF)や四フッ化メタン(CF)や酸素(O)やこれらを2種類以上組合せたガスを挙げることができる。なお、感光性樹脂層pが除去された領域から露出する金属層mの一部の領域は、エッチング液を用いるウェットエッチングにより除去してもよい。
【0047】
分割溝Gの形成に用いられるエッチングには、例えば、誘導結合プラズマ平板型反応性イオンエッチング装置を用いることができる。エッチングの条件には、例えば、積層体1’を積層方向に除去するエッチングと、エッチングにより形成される孔(溝)の側面をエッチングから保護する保護膜の成膜(デポジション)を繰り返すBoschプロセスを用いてもよい。保護膜には、例えば、パーフルオロシクロブタン(C)を用いることができる。Boschプロセスが用いられることで、異方性エッチングを行うことができる。
【0048】
なお、本実施形態のステップS102の処理では、図6(c)に示すように、エッチングにより感光性樹脂層pが金属膜mの上面から除去されているが、感光性樹脂層pが金属膜mの上面に残存していてもよい。感光性樹脂層pが残存する場合には、剥離剤(例えば、アセトン)などを用いて感光性樹脂層pを金属膜mの上面から剥離してもよい。また、本実施形態のステップS102の処理では、図6(c)に示すように、積層体1’の上面に金属膜mが維持されているが、分割溝Gを形成した後、金属膜に対応したエッチング液などを用いて金属膜mを積層体1’の上面から除去してもよい。
【0049】
これらの処理により積層体1’が分割され、図6(c)に示すように、各光触媒層2と各スペーサ層3の側面が露出する複数の積層体1’が、基材50の表面に形成される。ステップS102の処理におけるエッチングの条件は、上述した条件に限られず、従来公知の条件を用いることができる。
【0050】
本実施形態のステップS102の処理で得られる複数の積層体1’では、各光触媒層2と各スペーサ層3の側面の全ての領域(左右側面,前後側面)が露出している。積層体1’から露出するスペーサ層3と光触媒層2の側面は、ステップS101で形成する積層体1’と同様に、その一部の領域のみであってもよく、その全ての領域が露出していなくてもよい。また、分割されて形成される積層体1’の数は、特に限定されるものではない。
【0051】
ステップS103の処理(光照射工程)では、図7に示すように、積層体1’に対し、光触媒層2に含まれる光触媒が励起される波長の光を照射する。光触媒が励起される波長の光とは、光触媒のバンドギャップ以上のエネルギーを有する波長の光を指す。例えば、光触媒層2に含まれる光触媒が二酸化チタンである場合、400nm以下に中心波長を有する光を照射することで、二酸化チタンを励起することができる。
【0052】
光の照射方法は、光触媒層2に含まれる光触媒を励起することができれば、特に限定されるものではない。例えば、図7に示すように、積層体1’の上方から光を照射する方法を挙げることができる。光触媒層2に光が到達しやすくなる観点から、スペーサ層3は、二酸化ケイ素(SiO),酸化インジウムスズ(ITO),酸化亜鉛(ZnO)で構成されていることが好ましい。光の照射時間や光の強度は、積層体から露出する光触媒層2の側面の面積や、光触媒層2の厚みや、スペーサ層3の光の透過率などを考慮して適宜選択できる。
【0053】
ステップS104の処理(エッチング工程)では、光が照射された積層体1’から露出するスペーサ層3の側面を、エッチングガスを用いてエッチングする(ドライエッチングする)。積層体1’から露出するスペーサ層3の側面がエッチングされることで、図8(a)や図8(b)に示すように、スペーサ層3の側面が光触媒層2の側面に対して凹み、凹部Hが形成される。このステップS104の処理により、積層構造体1が得られる。
【0054】
ステップS104の処理で行われるエッチングには、等方性エッチングを用いることができる。ステップS104の処理で用いられるエッチングガスは、スペーサ層3を構成する材料に応じて適宜選択することができる。例えば、スペーサ層3を構成する材料として、二酸化ケイ素が用いられる場合、CHFなどのフッ素元素を含むフッ素系ガスと酸素ガスを用いることができる。フッ素系ガスは、一般的に使用されるエッチングガスの中でも比較的危険性の少ないガスである。
【0055】
ステップS104の処理で用いられるエッチングガスは、プラズマ化されていることが好ましい。エッチングガスがプラズマ化されることにより、エッチングガスにラジカル(例えば、フッ素ラジカル)やイオンが生成されるが、これらのラジカルやイオンは、励起された光触媒を含む光触媒層2の間や、励起された光触媒を含む光触媒層2と基材50の間に進入しやすい。このため、プラズマ化されたエッチングガスを用いることにより、スペーサ層3の側面がよりエッチングされやすくなる。
【0056】
エッチングガスをプラズマ化する方法としては、例えば、真空中に導入されたエッチングガスにプラズマを照射する方法を挙げることができる。プラズマ化したエッチングガスが用いられる具体的なエッチング方法としては、例えば、反応性イオンエッチングを挙げることができる。ステップS104の処理で用いられるエッチングの条件は、従来公知の条件を用いることができ、例えば、バイアス電圧をかけず、CHFガス、(必要に応じて、Arガス)、酸素ガスを導入し、ICPパワー400W~1000Wを印加する条件を挙げることができる。
【0057】
本実施形態のステップS101の処理では、エッチング対象のスペーサ層3が、光触媒層2の間及び基材50と光触媒層2の間に配置される積層体1’を形成している。このため、本実施形態のステップS104の処理では、図8(a)や図8(b)に示すように、光触媒層2に挟まれるスペーサ層3に加え、光触媒層2と基材50に挟まれるスペーサ層3がエッチングされ、光触媒層2の間及び光触媒層2と基材50との間に凹部Hが形成される。ステップS101の処理において、エッチング対象のスペーサ層3が、光触媒層2の間にのみ配置される積層体1’を形成している場合には、ステップS104の処理では、光触媒層2の間にのみ凹部Hが形成される。
【0058】
ステップS104の処理で行われるエッチングでは、光が照射された積層体1’から露出するスペーサ層3の側面の領域がエッチングされる。本実施形態では、スペーサ層3の側面の全ての領域(左右側面,前後側面)が露出する積層体1’を用いてステップS104の処理が行われているため、スペーサ層3の側面の全ての領域がエッチングされる。このため、図8(a)や図8(b)に示すように、スペーサ層3の側面の全ての領域が、光触媒層2の側面に対して凹んだ凹部Hが形成される。言い換えれば、凹部Hは、スペーサ層3の右側面3a,左側面3a’,前側面3b,後側面3b’それぞれが、当該スペーサ層3を挟む光触媒層2の右側面2a,左側面2a’,前側面2b,後側面2b’に対して凹んで形成される凹部である。
【0059】
また、本実施形態のステップS104では、光触媒層2とスペーサ層3を交互に積層した積層体1’を用いて処理が行われているため、図8(a)や図8(b)に示すように、凹部Hが、光触媒層2を介してZ軸方向に並ぶ。言い換えれば、凹部H内の空間と光触媒層2とがZ軸方向に交互に並ぶ領域が形成される。
【0060】
そして、本実施形態のステップS104の処理で得られる積層構造体1は、光触媒層2の厚みD2とスペーサ層3の厚みD3が、発現させる構造色の色に応じて所定の厚みに設定されている。このため、ステップS104の処理で得られる積層構造体1には、構造色の色に応じて設定された所定の厚みの光触媒層2と、構造色の色に応じて設定された所定の間隔の空間(凹部内の空間)とがZ軸方向に交互に並ぶ領域が形成される。このため、積層構造体1に光が照射されると、当該領域において光の回析や干渉が生じ、光触媒層2の厚みや空間の間隔(スペーサ層3の厚み)に応じた色の構造色が発現する。加えて、積層構造体1には、光触媒を含む光触媒層3が設けられているため、光触媒作用を発揮することができる。
【0061】
以上説明したステップS101からステップS104の処理により、光触媒作用に加えて、構造色を発現する積層構造体1を製造することができる。また、積層構造体1を、光基材50の表面に製造することで、光触媒作用に加えて、構造色を発現する光触媒部材100を製造することができる。
【0062】
なお、図1に示す積層構造体1は、ステップS104の処理で得られた積層構造体1を、例えば、図8(b)に示すA-A断面及びB-B断面で切断することで得ることができる。
【0063】
また、本実施形態の製造方法では、ステップS102の処理において、Y軸方向に延びる分割溝Gを形成して積層体1’を分割しているが、Y軸方向に延びる分割溝Gに加えて、X軸方向に延びる分割溝Gを形成して、さらに積層体1’を分割してもよい。X軸方向に延びる分割溝Gが形成されることで、図9に示すように、X軸方向に所定の間隔Iをあけて並ぶとともに、Y軸方向に所定の間隔I’をあけて並ぶ複数の積層構造体1が、基材50の表面に形成される。間隔I’は、最適な発色特性を示すように適宜選択することができるが、例えば、青色の場合、450nm以上500nm以下とすることができ、所望の色の中心波長λの整数倍とすることが好ましい。
【0064】
ここで、本実施形態の製造方法では、少なくとも光触媒層2の側面が露出する積層体1’に対して、光触媒が励起される波長の光を照射しているため、光触媒層2に含まれる光触媒が励起される。光触媒層2の光触媒が励起されると、スペーサ層3が光触媒層2の間や光触媒層2と基材50の間に挟まれていたとしても、スペーサ層3の側面のエッチングが進みやすくなる。スペーサ層3の側面のエッチングが進みやすくなる理由は、現時点では明らかではないが、光触媒層2に含まれる光触媒が励起されると、光触媒に表面補足正孔(htrap )が生成されるものと考えられる。そして、生成された表面補足正孔(htrap )によって、光触媒層2の還元作用や濡れ性が向上して、エッチングガスが光触媒層2の間や光触媒層2と基材50の間に進入しやすくなり、スペーサ層3の側面のエッチングが進みやすくなるものと考えられる。特に、プラズマ化したエッチングガスに含まれるラジカルやイオンは、表面補足正孔(htrap )が生成された光触媒層2の間や、光触媒層2と基材50の間に進入しやすいものと考えられる。
【0065】
次に、積層構造体1の第2実施形態の製造方法について、図10から図14を用いて説明する。第2実施形態の製造方法で得られる積層構造体は、光触媒作用を示すことができる。なお、図10は、積層構造体1を製造する過程の各処理の手順を示すフローチャートであり、図11から図14は、各処理で得られた中間品を示している。また、上述した構成については、同一の符号を用い、詳細な説明は省略することがある。
【0066】
ステップS201の処理(積層体形成工程)では、図11に示すように、基材50の上面に、スペーサ層3と光触媒層2を積層した積層体1’を形成する。スペーサ層3の側面と光触媒層2の側面は、積層体1’から露出する。
【0067】
本実施形態のステップS201の処理で形成される積層体1’は、スペーサ層3と光触媒層2をそれぞれ1つ積層した積層体である。この積層体1’では、基材50の表面上にスペーサ層3が配置され、このスペーサ層3に光触媒層2が積層されている。ステップS201の処理で形成される積層体1’において、スペーサ層3と光触媒層2は、それぞれ少なくとも1つ積層されていればよく、それぞれ2つ以上積層されていてもよい。また、スペーサ層3と光触媒層2の積層順序については、スペーサ層3が光触媒層2の間や基材50と光触媒層2の間に挟まれていればよく、基材50の表面上に光触媒層2が配置されるように積層していてもよい。
【0068】
光触媒層2の厚みD2やスペーサ層3の厚みD3は、製造する積層構造体1の用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されるものではない。例えば、光触媒層2の厚みD2は、30nm以上100nm以下とすることができ、スペーサ層3の厚みD3は、100nm以上200nm以下とすることができる。また、積層体1’において光触媒層2を2つ以上設ける場合には、光触媒層2の厚みD2を光触媒層毎に等しくしてもよく、光触媒層毎に異ならせてもよい。同様に、積層体1’においてスペーサ層3を2つ以上設ける場合には、スペーサ層3の厚みD3をスペーサ層毎に等しくしてもよく、スペーサ層毎に異ならせてもよい。
【0069】
本実施形態のステップS201の処理では、図11に示すように、各スペーサ層3と各光触媒層2の側面の全ての領域(左右側面,前後側面)が露出する積層体1’を形成している。ステップS201の処理で得られる積層体1’は、各光触媒層2の側面の全ての領域が露出している必要はなく、後述するステップS203の処理において、各光触媒層2に光を照射することができれば、各光触媒層2の側面の少なくとも一部の領域が露出していればよい。また、各スペーサ層3の側面の全ての領域が露出している必要はなく、各スペーサ層3の側面の少なくとも一部の領域が積層体1’から露出していればよい。露出する各スペーサ層3の側面の領域は、製造する積層構造体の形態や用途を考慮して適宜設定することができる。
【0070】
なお、ステップS201における積層体1’の形成方法は、第1実施形態のステップS101における積層体1’の形成方法と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0071】
ステップS202の処理(積層体分割工程)では、積層体1’を分割し、スペーサ層3の側面と光触媒層2の側面が露出する複数の積層体1’を得る。本実施形態の製造方法では、複数の積層構造体1を製造するため、ステップS202の処理で積層体1’を複数に分割する処理を行っているが、積層構造体1を1個だけ製造する場合には、ステップS202の処理は行われなくてもよい。
【0072】
ステップS202における積層体の分割方法は、第1実施形態のステップS102における積層体の形成方法と同様であるため、詳細な説明は省略するが、例えば、図12(a)~(c)に示すように、エッチングガスを用いた異方性エッチングにより、積層体1’をZ軸方向に貫通する分割溝Gを形成する方法を挙げることができる。なお、隣り合う感光性樹脂層pの間に形成される間隔iは、製造する積層構造体1の用途などを考慮し適宜設定することができ、特に限定されるものではない。
【0073】
ステップS203の処理(光照射工程)では、図13に示すように、積層体1’に対し、光触媒層2に含まれる光触媒が励起される波長の光を照射する。ステップS203における光の照射方法は、第1実施形態のステップS103における光の照射方法と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0074】
ステップS204の処理(エッチング工程)では、光が照射された積層体1’から露出するスペーサ層3の側面を、エッチングガスを用いてエッチングする(ドライエッチングする)。積層体1’から露出するスペーサ層3の側面がエッチングされることで、図14(a)や図14(b)に示すように、スペーサ層3の側面が光触媒層2の側面に対して凹み、凹部Hが形成される。このステップS204の処理により、積層構造体1が得られる。
【0075】
本実施形態のステップS201の処理では、エッチング対象のスペーサ層3が、基材50と光触媒層2との間にのみ配置される積層体1’を形成している。このため、ステップS204の処理では、図14(a)や図14(b)に示すように、光触媒層2と基材50に挟まれるスペーサ層3のみがエッチングされ、光触媒層2と基材50との間にのみ凹部Hが形成される。ここで、ステップS201の処理において、エッチング対象のスペーサ層3が、光触媒層2の間にのみ配置される積層体1’を形成している場合には、光触媒層2の間にのみ凹部Hが形成される。また、エッチング対象のスペーサ層3が、光触媒層2の間及び光触媒層2と基材50との間に配置される積層体1’を形成している場合には、光触媒層2の間及び光触媒層2と基材50との間に凹部Hが形成される。
【0076】
なお、ステップS204におけるエッチング方法は、第1実施形態のステップS104におけるエッチング方法と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0077】
本実施形態の製造方法で得られる積層構造体1には、光触媒を含む光触媒層2が設けられている。このため、ステップS204の処理で得られる積層構造体1は、光触媒作用を発揮することができる。また、本実施形態の製造方法で得られる積層構造体1は、凹部Hの形成される位置や、光触媒層2やスペーサ層3の厚みが、特に限定されるものではない。このため、本実施形態の製造方法によれば、様々な形態の積層構造体1を製造することができる。
【0078】
以上説明したステップS201からステップS204の処理により、光触媒作用を有する積層構造体1を製造することができる。また、積層構造体1を基材50の表面に形成することで、光触媒作用を有する光触媒部材100を製造することができる。
【0079】
なお、図3(a)に示す積層構造体1は、ステップS204の処理で得られた積層構造体1を、例えば、図14(b)に示すC-C断面,D-D断面,E-E断面,及びF-F断面で切断することで得ることができる。
【0080】
本実施形態の製造方法は、第1実施形態の製造方法と同様に、少なくとも光触媒層2の側面が露出する積層体1’に対して、光触媒が励起される波長の光を照射しており、光触媒層2に含まれる光触媒が励起される。このため、光触媒層2と基材50に挟まれるスペーサ層3の側面のエッチングが進みやすくなる。
【実施例
【0081】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
シリコンから構成される基材を用意した。この基材の上面に、スパッタリングにより二酸化ケイ素からなる厚み100nmのスペーサ層を形成した。さらに、スペーサ層の上面に、スパッタリングにより二酸化チタンからなる厚み50nmの光触媒層を形成した。この操作を繰り返し、スペーサ層と光触媒層が交互に4層ずつ積層する積層体を、基材の表面に形成した。なお、スペーサ層と光触媒層の側面は、積層体から露出させた。
【0083】
次に、スパッタリングを用いて、積層体の上面にクロムからなる金属層を形成し、その後、スピン・コータを用いて、金属層の上面にフォトレジストを用いて感光性樹脂層を形成した。さらに、形成した感光性樹脂層の所定の領域に対して紫外線を照射し、その領域を露光した。次に、紫外線が照射されて領域を現像液(NMD-3)を用いて除去した。感光性樹脂層の一部の領域が除去された積層体をエッチング液に浸漬し、感光性樹脂層が除去された領域から露出する金属膜の一部の領域を選択的にエッチングして除去した。その後、Boschプロセスを用いて、金属膜が除去された領域から露出する積層体の一部の領域を、異方性ドライエッチングによって積層方向にエッチングした。この処理により、感光性樹脂層が除去された領域から露出する金属層を、積層体の積層方向に除去するとともに、金属層が除去された領域から露出する積層体の領域を、積層体の積層方向に除去し、積層体を積層方向に貫通する分割溝を形成した。分割溝が形成されることにより積層体が分割され、所定の間隔をあけて並ぶ複数の積層体が形成された。隣り合う積層体の距離は、500nmであった。なお、感光性樹脂層と金属層は、積層体の上面から除去した。
【0084】
基材の表面に形成された複数の積層体に対し、約350nmに中心波長を有するUVランプ SPOTCURE(登録商標) SP9-250UB(ウシオ電機株式会社製)の光を20分間照射した。次に、CHFを65体積%、Arを35体積%含むエッチングガスを用い、等方性の反応性イオンエッチングを施した。なお、反応性イオンエッチングの過程でエッチングガスはプラズマ化され、フッ素ラジカルが生成されていた。この処理により、積層体から露出するスペーサ層の側面をエッチングし、積層構造体(光触媒部材)を得た。得られた積層構造体を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。走査型電子顕微鏡写真を図15に示す。
【0085】
なお、実施例1において、スパッタリングは、Arガスによる物理的スパッタリング条件で、EIS-230(株式会社エリオニクス製)を用いて行った。また、分割溝を形成するための反応性イオンエッチングは、RIE-400iPBT(サムコ株式会社製)を用いてBoschプロセスを行った。Cによるデポジション、SFとCHFによるエッチングを70サイクル繰返すことで基材表面までエッチングを完了した。また、スペーサ層の側面をエッチングする反応性イオンエッチングは、RIE-400iPBT(サムコ株式会社製)を用いて等方性エッチングを行った。CHFを100sccm、酸素を50sccmで流しながら、圧力を30Paに調整し、ICP出力400Wで処理を行った。
【0086】
(比較例1)
基材の表面に形成された複数の積層体に対し、光を照射しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で、積層構造体(光触媒部材)を得た。得られた積層構造体を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。走査型電子顕微鏡写真を図16に示す。
【0087】
図15及び図16から理解できるように、実施例1の積層構造体は、比較例1の積層構造体と比較して、スペーサ層の側面のエッチングがより進んでいた。特に、実施例1の積層構造体では、光触媒層と空間とが積層方向に交互に並ぶ領域が形成されているのに対し、比較例1の積層構造体では、この様な領域がほとんど確認できなかった。この結果から、実施例1の製造方法によれば、光触媒層とスペーサ層とが積層する積層体において、スペーサ層を除去しやすいことが理解できた。
【0088】
また、目視で確認したところ、実施例1の光触媒部材は、青色に発色していたのに対し、比較例1の光触媒部材は、青色に発色してなかった。
【符号の説明】
【0089】
1 積層構造体
2 光触媒層
3 スペーサ層
50 基材
100 光触媒部材
h,h’,H 凹部
I,I’,i 間隔
G 分割溝
m 金属層
p 感光性樹脂層
図1
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