(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ポリマー系光電子インターフェース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20220105BHJP
H01L 51/42 20060101ALI20220105BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20220105BHJP
H01L 27/30 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61F9/007 190A
H01L31/08 T
H01L27/146 D
H01L27/30
H01L27/146 C
(21)【出願番号】P 2019553109
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(86)【国際出願番号】 EP2017057745
(87)【国際公開番号】W WO2018177547
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】512022631
【氏名又は名称】エコール・ポリテクニーク・フェデラル・ドゥ・ローザンヌ (ウ・ペ・エフ・エル)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE (EPFL)
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディエゴ ゲッツィ
(72)【発明者】
【氏名】マルタ ヨーレ イルデルフォンサ アイラギ レカルディ
(72)【発明者】
【氏名】ローラ フェルラウト
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0256677(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1875895(CN,A)
【文献】特表2014-503229(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0107999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/14-2/16,9/007
H01L 31/08,27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー基板(10)と、
前記基板(10)の上に配置された複数の離散光起電力画素素子(20)と
を含み、
各画素素子(20)が、半導体ポリマー又はポリマー混合物を含む少なくとも1つの活性層(22)を含み、各画素素子(20)が光により励起可能であり、光起電力プロセスを介して電気信号を発生させることを特徴とする、ポリマー系光電子インターフェース。
【請求項2】
各画素素子(20)が、前記基板(10)と前記活性層(22)との間に配置された導電性基層(21)を含
み、
前記基層(21)が、少なくとも1つの導電性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の光電子インターフェース。
【請求項3】
各画素素子(20)が、前記活性層(22)の少なくとも一部の上に導電性接触層(23)を含むことを特徴とする、請求項1
又は2に記載の光電子インターフェース。
【請求項4】
さらに、エラストマーカプセル化層(30)を含み、前記カプセル化層が前記基板と前記画素素子との上に配置され、前記カプセル化層(30)がアクセス開口部(31)を画定し、各アクセス開口部(31)がそれぞれ、1つの前記画素素子(20)から前記カプセル化層(30)の外面に向かって延びていることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項に記載の光電子インターフェース。
【請求項5】
前記カプセル化層(30)が、少なくとも前記それぞれの画素素子(20)の境界領域において、少なくとも幾つかの画素素子と重なることを特徴とする、請求項
4に記載の光電子インターフェース。
【請求項6】
柱状構造(40)を含み、各柱状構造物(40)がそれぞれ、1つの前記画素素子(20)の上に配置され、各柱状構造物(40)がそれぞれ、少なくとも部分的に、1つの前記アクセス開口部(31)に取り囲まれている請求項
4又は
5に記載の光電子インターフェース
であって、
少なくとも幾つかの前記画素素子が、少なくとも部分的に前記それぞれの柱状構造物(40)と、前記柱状構造物(40)により覆われていない関連付けられた画素素子(20)の一部とを覆う電極層(41)を含むことを特徴とする、前記光電子インターフェース。
【請求項7】
前記柱状構造物(40)が、前記カプセル化層(30)と同じ材料からなることを特徴とする、請求項
6に記載の光電子インターフェース。
【請求項8】
前記柱状構造物(40)が、前記カプセル化層(30)の外面に向かって軸方向に延びているか、又は前記カプセル化層(30)を越えて軸方向に突出していることを特徴とする、請求項
6又は
7に記載の光電子インターフェース。
【請求項9】
前記基板(10)に埋め込まれた硬性プラットフォーム(13)を含み、各画素素子(20)がそれぞれ、1つの前記プラットフォーム(13)の上方に配置されていることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載の光電子インターフェース。
【請求項10】
湾曲型又はドーム型支持体(2)と、
請求項1~
9のいずれかに記載の光電子インターフェース(1)と
を含み、
前記支持体(2)に前記光電子インターフェース(1)が接合されていることを特徴とする、光電子装置。
【請求項11】
前記光電子装置が、導入可能、自己展開式かつ自立型人工網膜として構成されていることを特徴とする、請求項
10に記載の光電子装置。
【請求項12】
ポリマー系光電子インターフェースを製造する方法であって、
前記方法は、
エラストマー基板(10)を設けることと、
前記基板(10)の上に複数の離散光起電力画素素子(20)を作成することと
を含み、
各画素素子(20)が半導体ポリマー又はポリマー混合物を含む少なくとも1つの活性層(22)を含み、各画素素子(20)が光によって励起可能であり光起電力プロセスを介して電気信号を発生させることを特徴とする、ポリマー系光電子インターフェースを製造する方法。
【請求項13】
さらに、前記基板(10)と前記画素素子(20)の両方の上にエラストマーカプセル化層(30)を配置することと、
前記カプセル化層(30)にアクセス開口部(31)を作成することと
を含み、
各アクセス開口部(31)がそれぞれ、1つの前記画素素子(20)の一部を露出することを特徴とする、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記アクセス開口部(31)が、フォトリソグラフィ技術によるエッチング法により前記カプセル化層(30)内に作成されていることを特徴とする、請求項
13に記載の方法
であって、
前記アクセス開口部(31)を作成することが、
前記カプセル化層(30)上に接着層(32)を配置することと、
前記接着層(32)上にフォトレジスト層(33)を配置することと、
前記フォトレジスト層(33)の一部をフォトリソグラフィ技術によりパターン形成して前記接着層(32)の一部を露出させることと、
前記接着層(32)の前記露出部分を除去して前記カプセル化層(30)の一部を露出させることと、
前記カプセル化層(30)の前記露出部分を除去して前記アクセス開口部(31)を作成することと、
を含む前記方法。
【請求項15】
前記アクセス開口部(31)は、柱状構造物(40)が前記カプセル化層(30)の一部により形成され、各柱状構造物(40)が前記画素素子(20)の1つの上に配置され、各柱状構造物(40)がそれぞれ、前記アクセス開口部(31)により、少なくとも部分的に取り囲まれるように作成されていることを特徴とする、請求項
13又は14に記載の方法
であって、
さらに、前記柱状構造物(40)上と、前記画素素子(20)の露出部分上とに電極層(41)を配置することを含む前記方法。
【請求項16】
さらに、湾曲型又はドーム型支持体(2)に、前記光電子インターフェースを接合することを含むことを特徴とする、請求項
12~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
湾曲型又はドーム型支持体(2)と、前記支持体(2)に接合されているポリマー系光電子インターフェース(1)とを含む、導入可能、自己展開式かつ自立型の人工網膜であって、
前記光電子インターフェース(1)は、
エラストマー基板(10)と、
前記基板(10)の上に配置された複数の離散光起電力画素素子(20)と
を含み、
各画素素子(20)が、前記支持体(2)から離れて対向するとともに、半導体ポリマー又はポリマー混合物を含む少なくとも1つの活性層(22)を含み、各画素素子(20)が光により励起可能であり、光起電力プロセスを介して電気信号を発生させ、
各画素素子(20)が、前記基板(10)と前記活性層(22)との間に配置された導電性基層(21)を含み、
各画素素子(20)が、前記活性層(22)の少なくとも一部の上に導電性接触層(23)を含み、前記画素素子(20)の照射は、前記基層(21)と、前記接触層(23)との間に電圧を生じさせ、前記接触層(23)は、前記人工網膜が移植された場合、前記画素素子(20)とターゲット組織との間で電気的接触が得られるように構成されることを特徴とする、前記人工網膜。
【請求項18】
前記光電子インターフェース(1)が、エラストマーカプセル化層(30)を含み、前記カプセル化層が前記基板と前記画素素子との上に配置され、前記カプセル化層(30)がアクセス開口部(31)を画定し、各アクセス開口部(31)がそれぞれ、1つの前記画素素子(20)から前記カプセル化層(30)の外面に向かって延びていることを特徴とする、請求項17に記載の人工網膜。
【請求項19】
湾曲型又はドーム型支持体(2)と、前記支持体(2)に接合されているポリマー系光電子インターフェース(1)とを含む、導入可能、自己展開式かつ自立型の人工網膜であって、
前記光電子インターフェース(1)は、
エラストマー基板(10)と、
前記基板(10)の上に配置された複数の離散光起電力画素素子(20)と
を含み、
各画素素子(20)が、前記支持体(2)から離れて対向するとともに、半導体ポリマー又はポリマー混合物を含む少なくとも1つの活性層(22)を含み、各画素素子(20)が光により励起可能であり、光起電力プロセスを介して電気信号を発生させ、
前記光電子インターフェース(1)が、エラストマーカプセル化層(30)をさらに含み、前記カプセル化層(30)が前記基板(10)と前記画素素子(20)との上に配置され、前記カプセル化層(30)がアクセス開口部(31)を画定し、各アクセス開口部(31)がそれぞれ、1つの前記画素素子(20)から前記カプセル化層(30)の外面に向かって延び、
前記光電子インターフェース(1)が、柱状構造物(40)をさらに含み、各柱状構造物(40)がそれぞれ、1つの前記画素素子(20)の上に配置され、各柱状構造物(40)がそれぞれ、少なくとも部分的に、1つの前記アクセス開口部(31)に取り囲まれ、
少なくとも幾つかの前記画素素子(20)が、少なくとも部分的に前記それぞれの柱状構造物(40)と、前記柱状構造物(40)により覆われていない関連付けられた画素素子(20)の一部とを覆う電極層(41)を含み、前記電極層(41)は、人工網膜が移植された場合、前記画素素子(20)とターゲット組織との間で電気的接触が得られるように構成される
ことを特徴とする、前記人工網膜。
【請求項20】
前記柱状構造物(40)が、前記カプセル化層(30)と同じ材料からなることを特徴とする、請求項19に記載の人工網膜。
【請求項21】
前記柱状構造物(40)が、前記カプセル化層(30)の外面に向かって軸方向に延びているか、又は前記カプセル化層(30)を越えて軸方向に突出していることを特徴とする、請求項20に記載の人工網膜。
【請求項22】
前記カプセル化層(30)が、少なくとも前記それぞれの画素素子(20)の境界領域において、少なくとも幾つかの画素素子(20)と重なることを特徴とする、請求項17~21のいずれか一項に記載の記載の人工網膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー系光電子インターフェース及びその製造方法に関する。インターフェースは、特に、神経機能代替装置、すなわち、神経細胞活性化用のバイオ電子インターフェース、特に、人工網膜として構成できる。しかしながら、その使用は、そのような用途には限定されない。
【背景技術】
【0002】
世界中で何百万もの人々が、重い視覚障害があるか目が不自由ですらある。先進工業国において、網膜疾患は失明の重要な原因の代表ではあるが、それに対して、いまだに確立された予防、処置、治療はない。過去10年に、人工網膜が、臨床的に有効ではあるが、発達過程の視力形態を回復する有望な技術として浮上した。
【0003】
先行技術の人工網膜の大多数は、網膜神経節細胞(RGC)側(網膜上)又は光受容体(PR)側(網膜下)で網膜と接触して移植された微小電極アレイ(MEA)に基づいている。利用できる装置は、数十個の電極から数百個に及ぶ。MEAによる補綴の背景にある概念は、画像処理装置によって処理された画像を取得する、カメラによる一対の眼鏡にある。この情報は、移植された外眼刺激装置に対して、無線で(RFリンクにより)、及びその後、内眼MEAに物理的に送られる刺激の対応パターンを生成させるために使用される。網膜の電気的刺激は、移植された対象者に離散視覚を引き起こすことができる。第2の方策は、失われたPRを光感知可能な動力付き装置で代替することを含む。網膜に衝突した光は、微小フォトダイオードアレイ(MPDA)により、金属電極を介して電気的刺激に変換される。一般的に、MPDAは、網膜下空間に配置されて、PRの機能的代替物を提供する。
【0004】
先行技術の装置は、数多くの問題、特に、柔軟性の限定、生体適合性に劣ること及び外部電源の必要性が多いという問題の影響を受ける。有機柔軟物からなる補綴装置は、これらの不利な点を克服する可能性があり、柔軟性と更に良い生体適合性とを提供する可能性もあると考えられる。しかしながら、補綴材の構成要素として有機技術を使用することは、いまだにその初期段階にある。
【0005】
US2013/0184783A1には、神経細胞光活性化のためのインターフェースが開示されている。インターフェースは、ITO被覆ガラス基板に半導体ポリマー材料をスピンコーティングすることにより製造される。光吸収の際、半導体ポリマー材料は、光起電力プロセスを介して、ポリマー材料に近接近したニューロンによって検知可能な電気信号を発生させる。上記文献は、既存の柔軟基板にインターフェースを接続することが望ましいであろうと言及してはいるものの、この目標を達成する可能性のある方法には触れていない。上記文献は、選択された細胞群を明確に標的にするように、幾何学的パターンで半導体ポリマーを適用する可能性があることに言及している。この目標を達成するために言及されている唯一の技術は、インクジェット印刷である。これ以上の詳細は、提供されていない。関連した開示は、D.Ghezziらの「神経細胞光活性化のためのハイブリッドバイオ有機インターフェース」、Nature Communications2:166(2011)、DOI:10.1038/ncomms1164、にも含まれている。
【0006】
D.Ghezziらの「ポリマー光電子インターフェースは、目の見えないラットの網膜における光感受性を回復する」、Nature Photonics7:400(2013)、DOI:10.1038/nphoton.2013.34、には、照射の際に、神経細胞発火を引き起こすポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の単一成分有機フィルムの使用が開示されている。上記フィルムは、パターン形成されていない。
【0007】
M.R.Antognazzaらの「ラットの網膜下空間への移植のためのポリマー系完全有機補綴の特性評価」、Adv. Healthcare Mater.2016,5,2271-2281、DOI:10.1002/adhm.201600318、には、シルクフィブロインからなる基板に基づく人工網膜が開示されている。PEDOT:PSSとP3HTとの層が、シルクフィブロイン基板上にスピンコーティングされている。上記層は、パターン形成されていない。
【0008】
US9,037,251B2には、微小電極アレイ上に蒸着した光導電性ポリマーブレンド物を含有する、有機系人工網膜装置が開示されている。上記ポリマーブレンド物は、パターン形成されていない。関連する開示は、V.Gautamらの「ポリマー光電子インターフェースは、目の見えない人の網膜に視覚の手掛かりを与える」、Adv. Mater.2013、DOI:10.1002/adma.201304368に見られる。
【0009】
A.Romeoらの「伸縮性電子機器のための埋め込まれた硬いプラットフォームを備えたエラストマー基板」、Applied Physics Letters102,131904(2013);DOI:10.1063/1.4799653、には、その上に画素化された回路が配置された、異種の弾性基板が開示されている。その基板は、高いヤング率(E>1GPa)を有する光パターン形成可能ポリマー材料、例えば、シリコーンゴムに埋め込まれた、SU-8エポキシフォトレジストなど、からなる硬いプラットフォームのアレイを含む。そのプラットフォームは、直径1mmを有する。プラットフォームは、プラットフォーム間距離2~10mmの正方形パターンに配置されている。原理証明のために、酸化アルミニウムのディスクが基板上に蒸着された。上記文献は、基板への半導体ポリマーの蒸着には触れていない。
【発明の概要】
【0010】
第1の態様において、本発明は、エラストマー基板と、その基板の上に配置された複数の離散光起電力画素素子とを含むポリマー系光電子インターフェースを提供する。各画素素子は、半導体ポリマー又はポリマー混合物を含む少なくとも1つの活性層を含み、光によって励起可能であり、光起電力プロセスを介して電気信号を発生させる。
【0011】
先行技術の大部分の光電子インターフェースとは著しく異なって、本発明で提案された光電子インターフェースは、エラストマー基板上に製造され、画素素子がしなやかではなくても、光電子インターフェース全体がしなやかであることを確実にしている。有利なことには、基板は、30MPa未満のヤング率を有する材料からなる。基板は、少なくとも20%の破断伸びを有することが好ましい。適切な基板材料を選ぶことにより、良好な生体適合性を確実にできる。例えば、基板は、シリコーンゴム、特に、PDMSからなることができる。その他の実施形態において、基板は、例えば、ポリウレタンからなることができる。本発明の活性層は、複数の離散光起電力画素素子を画定するように、パターン形成される。これにより、光電子インターフェースの解像度は、必要性に応じて調整できる。画素素子は、少なくとも略円形状を有することが好ましい。しかしながら、その他の形状も可能である。画素素子間の最小のエッジ間距離に対する直径の比率は、好ましくは、0.5~4.0である。各画素素子の直径は、好ましくは、50~200μmである。
【0012】
活性層は、半導体ポリマー又は半導体ポリマー混合物を含む。有利なことには、活性層が、少なくとも1つの共役ポリマーを含む。共役ポリマーは、常法通り、非局在化π電子を備えた少なくとも2つのp軌道を含むポリマーとして理解すべきであり、1つのp軌道が、介在するσ結合を渡って他方のp軌道と重なっている。多くの共役ポリマーは、当該技術分野で周知であり、本発明の文脈において、P3OT、MEH-PPV,MDMO-PPV及びPCPDTBTなどのその他の低バンドギャップポリマーを始めとして、採用できる。幾つかの実施形態において、活性層は、例えば、P3HT:PCBM、特に、PCBMドープレジオレギュラー(rr)P3HTなど、それぞれ、電子供与体と電子受容体の役割を果たす2つの共役ポリマーのブレンド物を含むことができる。動作中、活性層が光を吸収して、光吸収の結果として電荷担体を作成する。言い換えれば、活性層は、光起電力プロセスが起こる層である。
【0013】
光電子インターフェースの光起電力効率を向上させるために、各画素素子は、基板と活性層との間に配置された導電性基層を含むことができる。基層は、画素要素毎に、電荷注入層又は陽極の役割を担うことができる。好ましくは、基板と基層の両方が、可視/近赤外線スペクトル領域において透明又は半透明であり、基板と基層とを介して光を当てることにより画素を励起させる。幾つかの実施形態において、基層は、少なくとも1つの導電性共役ポリマー、特に、導電性になるようにドープされた共役ポリマーを含む。幾つかの実施形態において、基層は、高分子塩を形成するポリマー混合物、特に、PEDOT:PSSを含んでもよい。その他の実施形態において、基層は、例えば、ITO又はZnOを含む層など、無機導電性層であることができる。ポリマー基層は、ポリマー層がエラストマー基板に容易に塗工でき、容易に構成できるので、好ましい。
【0014】
各画素素子は、さらに、活性層の少なくとも一部の上に導電性接触層を含むことができる。接触層は、金属化層であることができる、すなわち、接触層は、金属、特に、チタン(Ti)又はアルミニウム(Al)を含むことができる。その他の実施形態において、接触層は、窒化チタン(TiN)、適切な導電性ポリマー又は別の種類の導電体を含むことができる。導電性基層が活性層の下方に存在し、接触層が活性層の上に存在する場合には、接触層が基層の仕事関数と異なる仕事関数を有し、層のうちの一方が陽極の役割を果たし、他方の層が陰極の役割を果たすことになるようにすることが好ましい。特に、基層の仕事関数が接触層の仕事関数よりも低くでき、基層に陽極の役割を果たさせることができる。これは、事例になるが、例えば、基層がPEDOT:PSS又はITOからなり、接触層が金属(特に、Al又はTiからなる)である場合などである。例えば、ZnOからなる基層の場合、基層の仕事関数が、接触層の仕事関数よりも高い可能性もある。
【0015】
幾つかの実施形態において、接触層は、ターゲットマテリアル(例えば、ターゲット組織)に接触する電極の役割を直接果たす。その他の実施形態において、1つ又はそれ以上の更なる層が、接触層に加えられる。電気接触を生じさせることに加えて、接触層は、機械的及び化学的劣化から活性層を保護する役割を果たすこともできる。
【0016】
基板と画素素子とを更に保護するために、光電子インターフェースは、さらに、エラストマーカプセル化層を含むことができ、前記カプセル化層が基板と画素素子の両方の上に配置される。画素素子と環境との間の電気的接触を可能にするために、カプセル化層が画素素子にアクセスするためのアクセス開口部を画定し、各アクセス開口部がそれぞれ、1つの画素素子の上部からカプセル化層の外面まで延びている。これにより、各アクセス開口部は、1つの画素素子の一部を露出させる。アクセス開口部は、完全に空洞であることにより、環境に画素素子の表面を直接露出させることができるか、又はアクセス開口部は、少なくとも部分的に導電性材料で充填されることもできる。
【0017】
カプセル化層は、機械的に基板と画素素子とを保護するだけでなく、エラストマー基板から画素素子の層間剥離も防止する。層間剥離からの保護は、カプセル化層が、少なくともそれぞれの画素素子の境界領域において、少なくとも幾つかの画素素子と重なる場合に、更に改善できる。この場合、それぞれの画素素子のアクセス開口部は、画素素子自体よりも小さい表面積を有する。画素素子が活性層の上方に接触層を含む場合には、カプセル化層が少なくとも接触層の一部を覆うと有利である。
【0018】
光電子インターフェースは、さらに、柱状構造物を含むことができ、各柱状構造物がそれぞれ、1つの画素素子の上に配置されており、各柱状構造物がそれぞれ、少なくとも部分的に、1つのアクセス開口部により取り囲まれている。柱状構造物は、機械的に画素素子を更に保護している。それらは、カプセル化層と同じ材料からなることができる。カプセル化層を構成する際に、柱状構造物を製造する有利な方法は、以下に更に説明する。
【0019】
各柱状構造物は、柱の軸を規定する。有利なことには、柱状構造物は、軸方向に(すなわち、それぞれの軸に沿って)カプセル化層の外面までずっと延びているか、又は軸方向にカプセル化層を越えて突出すらしている。
【0020】
画素素子と、カプセル化層の外面に配置されたターゲットマテリアル(すなわち、ターゲット組織)との間で良好な電気的接触を確実にするために、画素素子は、少なくとも部分的にそれぞれの柱状構造物を覆う導電性電極層を含むことができる。電極層は、柱状構造物により覆われていない関連付けられた画素素子少なくとも一部を更に覆うことができることにより、画素素子に対する電気的接触を確立する。電極層は、金属化層、特に、チタン層であることができる。その他の実施形態において、電極層は、窒化チタンの層、Ti/TiNの層、導電性ポリマーの層、アルミニウム、金又は白金などの別の金属又は別の非金属導電性材料の層であることもできる。画素素子が、上記の接触層を含む場合には、電極層は、接触層と同じ材料からなることもできる。
【0021】
基板にひずみがかかった場合に亀裂から画素素子を保護するために、光電子インターフェースは、基板に埋め込まれた硬性プラットフォームを含むことができ、各画素素子はそれぞれ、1つのプラットフォームの上方に配置される。各硬性プラットフォームは、ディスクの形状、特に、円形ディスクの形状を有することができる。各硬性プラットフォームは、関連付けられた画素素子よりもわずかに大きい横方向の寸法を有すること、すなわち、各硬性プラットフォームは、関連付けられた画素素子を越えて横方向に突出していることが好ましい。特に、各画素素子は、それぞれの画素素子の下方に配置された硬性プラットフォームの直径の最大でも95%の直径を有することが好ましい。プラットフォーム材料は、少なくとも500MPa、好ましくは、1GPaよりも高いヤング率を有する場合に、硬性であると考えるべきである。プラットフォーム間の最小のエッジ間距離に対する直径の比率は、好ましくは、0.3~4.0である。各プラットフォームの直径は、50μm~200μmであることが好ましい。プラットフォームは、フォトレジスト、特に、SU-8などのエポキシフォトレジストからなることができる。好ましくは、プラットフォームは、可視/近赤外線スペクトル領域において透明又は半透明である。埋め込まれたプラットフォームを備えた基板は、フォトレジストを第1の基板層に塗工し、フォトリソグラフィ技術によりフォトレジストをパターン形成してプラットフォームを形成し、その後、第2の基板層で第1の基板層とプラットフォームとをコーティングして、形成できる。
【0022】
本発明は、さらに、光電子インターフェースが接合された、湾曲型又はドーム型支持体を含む光電子装置に関する。例えば、得られた光電子装置は、眼内神経機能代替装置、特に、人工網膜の役割を果たすことができ、支持体の曲率は、眼内の網膜の曲率に対応している。さらに詳しくは、光電子装置は、導入可能、自己展開式かつ自立型人工網膜として構成できる。光電子インターフェースの機能性を維持するために、画素素子は、支持体から離れて対向することになる。支持体は、画素素子が付された基板と同じ材料又は異なる材料からなることができる。人工補綴物は、網膜下又は網膜上の人工補綴物として構成できる。それが網膜上の人工補綴物として構成される場合には、光電子インターフェースがドーム型支持体の外面に配置される一方、網膜下移植に関しては、光電子インターフェースがドーム型支持体の内面に配置されることになる。その他の実施形態において、光電子装置は、例えば、能動レンズを形成できる。
【0023】
光電子インターフェースの表面に渡り、画素の密度を変えることは有利である。例えば、光電子インターフェースは、第2の画素密度を規定する画素素子の環状の第2のゾーンにより取り囲まれた、第1の画素密度を規定する画素素子の中央の第1のゾーンを有することができ、第2の画素密度は、第1の画素密度よりも低い。第2のゾーンは、第3の画素密度を規定する画素素子の更に別の第3ゾーンにより取り巻かれることができ、第3の画素密度は第2の画素密度よりも低い。一般論として、画素密度は、光電子インターフェースの中央部から周辺部に向かって段階的又は連続的に減少できる。画素素子の大きさは、光電子インターフェースの表面に渡り変化できる。特に、その大きさは、光電子インターフェースの中央部から周辺部に向かって増加できる。これが、光電子インターフェースが人工網膜の一部である場合に、特に有利であるのは、一般的に、最も高い解像度が補綴の中央部において望まれるからである。
【0024】
第2の態様において、本発明は、ポリマー系光電子インターフェースを製造する方法に関し、前記方法は、エラストマー基板を設けることと、前記基板の上に複数の離散光起電力画素素子を作成することとを含み、各画素素子が、半導体ポリマー又は半導体ポリマー混合物を含む少なくとも1つの活性層を含み、各画素素子が、光によって励起可能であり光起電力プロセスを介して電気信号を発生させる。
【0025】
提案された方法は、フォトリソグラフィ法、リフトオフ法又は印刷法、特に、インクジェット印刷又は転写印刷を含む印刷法として、容易に実施できる。
【0026】
この方法は、さらに、前記基板と前記画素素子の両方の上にエラストマーカプセル化層を配置することと、前記カプセル化層にアクセス開口部を作成することとを含み、各アクセス開口部がそれぞれ、1つの前記画素素子の一部を露出させることとを含むことができる。
【0027】
上記の通り、カプセル化層が、少なくともそれぞれの画素素子の境界領域において、画素素子の少なくとも幾つかと重なるように、アクセス開口部が作成され、それぞれのアクセス開口部が、関連付けられた画素素子よりも小さい表面積を有するならば、有利である。アクセス開口部は、フォトリソグラフィ技術によるエッチング法、特に、乾式エッチングにより又はリフトオフフォトリソグラフィ法を介して又はレーザー切断を介して、カプセル化層内に作成できる。
【0028】
標準的なフォトリソグラフィ法は、PDMSなどのエラストマー材料に行なわれる場合には、問題になり得る。特に、亀裂がフォトレジストに容易に生じることがあり、フォトレジスト残渣がエラストマー材料上に残る傾向がある。アクセス開口部の製造の信頼性を向上させるために、アクセス開口部の作成工程は、前記カプセル化層に接着層、特に、金属接着層、さらに特に、アルミニウム層を配置することと、前記接着層にフォトレジスト層を配置することと、前記フォトレジスト層の一部をフォトリソグラフィ技術によりパターン形成して前記接着層の一部を露出させることと、前記接着層の露出部分を(例えば、エッチングにより)除去して前記カプセル化層の一部を露出させることと、前記カプセル化層の露出部分を(例えば、エッチングにより)除去して前記アクセス開口部を作成することと、を含むことができる。
【0029】
有利な実施形態において、アクセス開口部は、柱状構造物がカプセル化層の一部によって形成され、各柱状構造物が画素素子の1つの上に配置され、各柱状構造物がそれぞれ、1つのアクセス開口部により、少なくとも部分的に取り囲まれるように、作成されている。
【0030】
軸方向に突出している柱状構造物を作成するためには、この方法は、以下の工程を含むことができる。すなわち、柱状構造物がカプセル化層を越えて軸方向に突出しているように、例えば、追加のエッチングにより柱状構造物の外側のカプセル化層の厚みを減少させる工程を含むことができる。好ましくは、この工程は、アクセス開口部が作成された後に行われる。
【0031】
この方法は、さらに、柱状構造物上と、画素素子の露出部分上とに電極層を配置することを含むことができる。
【0032】
好ましい実施形態において、光電子インターフェースは、基板が平らな状態で製造される。上記でより詳細に説明した通り、この方法は、さらに、湾曲型又はドーム型支持体に、光電子インターフェースを接合して、湾曲型又はドーム型光電子装置を作成することを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、ドーム型PDMS支持体と共に、本発明の実施形態による光電子インターフェースの斜視図を示す。
【
図2】
図2は、PDMS支持体に
図1の光電子インターフェースを接合後、導入可能、自己展開式かつ自立型人工網膜として構成された、本発明の実施形態による完成した光電子装置の斜視図を示す。
【
図3】
図3は、光電子インターフェースの異なる部分の3つの詳細図と共に、
図1及び
図2の光電子インターフェースの上面図を示す。
【
図4】
図4は、眼内の網膜上配置後の人工網膜の概略図を示す。
【
図5】
図5は、平面電極を有する第1の実施形態による光電子インターフェースの極めて概略的な断面図を示す(縮尺率は一定ではない)。
【
図6】
図6は、3D電極を有する第2の実施形態による光電子インターフェースの極めて概略的な断面図を示す(縮尺率は一定ではない)。
【
図7】
図7は、突出電極を有する第3の実施形態による光電子インターフェースの極めて概略的な断面図を示す(縮尺率は一定ではない)。
【
図8】
図8は、光による照射の際、光電子インターフェースにより生じた網膜活性化を記録する構成を図示する見取り図を示す。
【
図9】
図9は、スピンコーティング及びその後のエッチングによる画素素子のパターン形成を図示する。
【
図10】
図10は、インクジェット印刷による画素素子のパターン形成を図示する。
【
図11】
図11は、リフトオフ法による画素素子のパターン形成を図示する。
【
図12】
図12は、転写印刷による画素素子のパターン形成を図示する。
【
図13】
図13は、スピンコーティング及びその後のエッチングによるアクセス開口部を備えたカプセル化層の製作を図示する。
【
図14】
図14は、スピンコーティング及びその後のエッチングによるアクセス開口部と柱状部とを備えたカプセル化層の製作を図示する。
【
図15】
図15は、スピンコーティング及びその後のエッチングによるアクセス開口部と突出柱部とを備えたカプセル化層の製作を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の好ましい実施形態は、図面を参照して下記に説明するが、これは、本発明の好ましい実施形態を例示するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0035】
本発明の原理による光電子装置の例示的な実施形態は、
図1~
図4に図示されている。光電子装置は、導入可能、自己展開式かつ自立型の人工網膜として構成されている。
【0036】
図1は、公称曲率半径12mmの部分的に球形外面を規定するドーム型PDMS支持体2と共に、柔軟なPDMSによる光電子インターフェース1の3Dモデルを図示している。
図2は、ドーム型PDMS支持体2にPDMSによる光電子インターフェース1を接合することにより得られた人工網膜の3Dモデルを図示している。
図2から明らかなように、光電子インターフェース1は、複数の画素素子3を含む。以下に詳述する通り、半球成形による過度の応力/ひずみからこれらの画素素子を保護するために、硬いプラットフォームが、PDMS基板中に埋め込まれた。
【0037】
有限要素解析(FEA)シミュレーションによると、光電子インターフェース1のPDMS基板(50μm厚)がPDMS支持体2に接合される場合に、基板のひずみは約11%であることを示した。そのような条件で、パターン形成なしのPDMS上への共役ポリマーのコーティングによる光起電力インターフェースは、大部分の共役ポリマーの高いヤング率(典型的には、0.5GPa超)により、CPのレベルで200MPaより大きい応力を生ずるであろう。そのために、これは、連続するポリマーフィルムに亀裂を引き起こし、層間剥離を生ずるであろう。
【0038】
画素素子3の配置は、
図3に更に詳細に図示されている。本実施例において、光電子インターフェース1は、異なる大きさと異なる密度との画素の3つのゾーンを画定する。中央の円形の第1のゾーンには、最小の画素が最大密度で配置されている。本実施例において、第1のゾーンは、直径5mm、1平方ミリメートル当たり49.25画素の密度で直径100μmの967個の画素素子を有する。第1のゾーンの拡大部分が、
図3の詳細
図Bに図示されている。第1のゾーンは、外径8mmを有する環状の第2のゾーンに取り囲まれている。このゾーンには、1平方ミリメートル当たり17.43画素の密度で直径150μmの534個の画素素子が配置されている。第2のゾーンの拡大部分が、
図3の詳細
図Cに図示されている。第2のゾーンは、外径13mmを有する環状の第3のゾーンにより取り囲まれている。第3のゾーンには、1平方ミリメートル当たり9.75画素の密度で直径150μmの714個の画素素子が配置されている。第3のゾーンには、画素素子がそれぞれ7画素のグループで配置され、若干更に大きなグループ間距離で引き離されている。
【0039】
図4は、
図2の人工補綴物が眼内に導入され、展開され、眼の網膜上空間に置かれた後の状況を図示している。人工補綴物は、網膜の比較的大きな面積を覆うことにより、回復した視野の大きさに直接影響を与える。
【0040】
先行技術において、人工補綴物の大きさは、典型的には、極大許容強膜切開術により限定され、5mmである。現在のMEAは、1~5mmの範囲にある。また、大部分の周辺端部には電極が含有されていないので、電極で覆われた網膜領域は、通常、著しく小さい。人に移植された最大のMEAですら、約9.3×17.3度の理論的視野しか提供しない。先行技術のMEAの大きさの増加は、2つの主要な課題と関連している。すなわち、大きなMEAには大きな強膜切開が必要であることと、MEAが眼の曲率に適合しないことが多いであろうということである。平面状の硬性MEAが網膜上に配置される場合には、眼の曲率により、中央の電極が周辺の電極と同じ網膜への近接性を有しないことになる。半径12mmを備えた眼中の5mmのアレイに対しては、その距離が約260μmである一方、10mmのアレイに対しては、その距離は約1mmに増加できるであろう。そのような遠い距離は、不可避的に、刺激閾値と、隣接する電極間の干渉とを増加させることになる。
【0041】
本発明は、強膜切開を制限するように折り曲げ可能であり、網膜とぴったりした接触を続けるように適合性があることにより、これらの制限を克服している。さらにまた、画素素子の高密度により視力が著しく向上する。それゆえ、大きな面積に対する高い画素素子を特徴とする折り曲げ可能な人工補綴物の開発は、著しい技術的進歩を表している。
【0042】
しかしながら、提案された光電子装置の使用は、人工網膜としての使用に限定されず、例えば、光起電能動レンズとしての使用など、その他の使用も考えられる。
【0043】
図5~
図7は、光電子インターフェースの可能な設計を更に詳細に図示している。図は縮尺率が一定ではなく、各種層の相対厚も縮尺率は一定ではない。特に、下記に詳細に説明する、層21,22及び23の厚みは非常に誇張されている。
【0044】
図5は、第1の実施形態による光電子インターフェースの極めて概略的な断面図を示す。
【0045】
図1の光電子インターフェースは、SU-8フォトレジスト(6μm厚)からなる硬性プラットフォーム13が埋め込まれたPDMS基板10(60μm厚)を含む。各硬性プラットフォーム13は、直径Dの円形ディスクの形状を有する。画素素子20は、プラットフォーム13の上方の基板10上に配置されている。画素素子のうち2つのみが、示されている。各画素素子20は、PEDOT:PSS(100nm厚)からなる任意の導電性基層21を含み、その上に、P3HT:PCBM(2つの共役ポリマーのブレンド物)からなる半導体活性層22(100nm厚)が配置されている。活性層22は、Ti又はTiN又はTi/TiNからなる任意の接触層23により覆われている。
【0046】
各画素素子は、円形状を有し、直径dpを規定し、dp<Dである。各画素素子は、それぞれの関連付けられたプラットフォームの上方に同軸方向に配置されている。本実施例において、画素素子の直径dpは、約0.8×Dに対応している。これにより、硬いプラットフォームが、基板がある程度折り曲げられたり伸ばされたりしても、過度のひずみから画素素子を保護することが確実になることにより、画素素子の亀裂及び層間剥離を防止している。
【0047】
埋め込まれた硬性プラットフォームを備えたエラストマー基板を製造するためには、第1の基板層11(50μm厚)が形成され、SU-8フォトレジスト(6μm厚)によりスピンコーティングされる。フォトレジストは、その後、フォトリソグラフィ技術によりパターン形成されて、第1の基板層11の上にプラットフォーム13が作成されている。第1の基板層11は、プラットフォーム13と共に、その後、第2の基板層12(9μm厚)とスピンコーティングされ、埋め込まれた硬性SU-8プラットフォーム13を備えたエラストマーPDMS基板10が形成される。SU-8は、必要な剛性を有し、さらに、可視/近赤外線スペクトル領域において光学的に透明である。
【0048】
FEAシミュレーションが、埋め込まれたプラットフォームを備えた基板に対して行われた。SU-8/PDMS界面における最大ひずみとして35%を必要とするとすれば、プラットフォーム間間隔Sのプラットフォーム直径Dに対する最適な比率S/Dは、0.25よりも大きく、本実施例に関しては、0.5に等しいS/D比が当初選択され、硬いプラットフォームの直径100μmと、プラットフォーム間のエッジ間距離50μmを伴う。同様のFEAシミュレーションにより、硬いプラットフォーム6μmと、被覆PDMS層3μmの最適な厚みに至った。なお、FEAシミュレーションにより、画素素子の直径は、SU-8プラットフォームの直径より(20μmだけ)小さければよいことが示唆された。一例として、硬性プラットフォームが直径100μmであり、エッジ間距離50μmを有する場合には、各画素素子は、直径80μmであればよい。埋め込まれたプラットフォームを備えた基板は、シミュレーションの結果の妥当性を確認するように製作された。そのシステムは、球形成形による理論値(約11%)よりも高い、破断を生じない延びの広い範囲(35%まで)を持続できた。
【0049】
PDMSからなるカプセル化層30は、基板10の上に配置されている。カプセル化層は、厚さ4μmを有する。カプセル化層は、それぞれの周辺境界領域において画素素子20と部分的に重なっている。円形アクセス開口部31が、カプセル化層30に形成されている。各アクセス開口部は、直径doを有し、関連付けられた画素素子の直径dpよりも小さい。その結果、各アクセス開口部31は、関連付けられた画素素子20の表面積よりも小さい表面積を規定している。カプセル化層30は、化学的に及び機械的に画素素子20を保護している。カプセル化層が画素素子とある程度の重なりを確実にすることにより、画素素子は、酸素と水とに影響されること並びに層間剥離から更に保護されている。
【0050】
図5の実施形態において、接触層23は、各画素に電気的に接触する平面電極の役割を果たしている。同時に、接触層23は、その下方にある活性層22を保護している。
【0051】
図6は、第2の実施形態による光電子インターフェースの極めて概略的な断面図を示す。この実施形態において、PDMSからなる円柱状の柱部40が、各画素素子20の中央に配置され、部分的に画素素子を覆っている。従って、各アクセス開口部31は、環形状を有する。電極層41は、各柱部の上及び側面上並びに画素素子20の露出部分上に配置され、画素素子毎に電極を形成して、ターゲット組織などのターゲットマテリアルと、関連付けられた画素素子との電気接触を容易にしている。この実施形態の電極は、3D電極と称することができる。
【0052】
図7は、第3の実施形態による光電子インターフェースの極めて概略的な断面図を示す。本実施形態において、柱状部40は、カプセル化層の上面を越えて軸方向に突出している。それにより、電極層41は、画素素子毎に突出電極を形成し、ターゲットマテリアルとの電気的接触性を更に向上させている。
【0053】
図5~
図7の画素素子は、共役ポリマー(CP)からなる活性層を含む。新規の人工補綴物装置を作るために選択される材料としてCPを奨励する1つの重要な点は、生物学において使用される構成要素に対するその構造的類似性にある。機械的な観点からは、有機技術は、柔軟である、順応性がある、生体適合性がある及び生分解性であるなどの特性を可能にする手掛かりを有している。機能性の側面では、CPの導電性は、古典電子工学と同様の機能性を有する装置を設計するのに適するようにする。なお、大部分のCPは、電子並びにイオンの輸送を支援するので、CPは、電子に基づく古典的な電子工学界と、概してイオン及び分子に基づく生物学界とをトランスレートする自然界の候補になる。
【0054】
CPの不利な面は、生物環境において安定性に劣ることである。先行の研究により、環境に曝されて網膜と直接接触しているCPは、6~9か月の時間尺度でその界面の分解を促進することが示されている。層間剥離は、ポリマー/網膜界面において移行した反応性ミクログリアによって食菌された破片を生ずる。この課題は、カプセル化層30並びに接触層23及び/又は電極層41を設け、それらが一緒になって環境から活性層22内のCPを完全に隔離することにより、急速な劣化を回避して長期の機能発揮を可能にすることにより、成功裏に対処される。
【0055】
図8は、光による照射の際、光電子インターフェースによって発生した電気的信号を記録する構成を図示した見取り図を示す。画素素子には、下方より可視(VIS)又は近赤外線(NIR)スペクトル領域の光hνが、基板を通し埋め込まれたプラットフォームを通して、照射されている。照射は、基層と、照射された画素素子の各々の接触層との間に電圧を生じさせる。接触層に近接近したニューロンは、その電圧により励起される。励起は、読取り増幅器6に接続した読取り電極5により測定される。同様の構成が、柱部40を含む、
図6及び
図7の光電子インターフェースに対しても想定できる。この場合、ニューロンは、電極層41と接触していることになる。
【0056】
エラストマー基板上に画素素子をパターン形成する例示的なプロセスが、
図9~
図12に図示されている。
【0057】
図9は、スピンコーティング及びその後のエッチングにより画素素子をパターン形成する例示的なプロセスを図示している。埋め込まれたプラットフォーム13を備えた、事前に作製されたPDMS基板10は、既知の方法によりシリコンウエハ7上に製造される。PEDOT:PSS溶液は、超音波分解されて0.45μmでフィルターにかけられる。PDMS基板は、29Wで30~40秒間、酸素プラズマにより処理される。フィルターにかけられたPEDOT:PSS溶液は、前処理されたPDMS基板にスピンコーティングされ、120℃で30分間、焼き付けられて、基層21が得られる。続いて、P3HT:PCBM(1:1)からなる活性層22が、基層21上にスピンコーティングされる。得られた状況が、
図9の(a)部に図示されている。続いて、チタン又はTi/TiNの薄い(300nm)接触層23が、ステンシルマスクを介して活性層22にスパッタリングされ、活性層22上に円形ディスク型チタンアイランドを形成し、プラットフォーム13と位置合わせさる。得られた状況は、
図9の(b)部に図示されている。最後に、活性層22と基層21との露出部分が、60秒間、指向性酸素プラズマにより乾式エッチングされ、接触層23によって覆われていないすべての領域にあるこれらの層を完全に除去する。得られた状況は、
図9の(c)部に図示されている。画素素子20は、かくして、基板10上に存在し、各画素素子は、基層21と活性層22と接触層23とを含む。
【0058】
図10は、インクジェット印刷により画素素子をパターン形成する例示的なプロセスを図示している。工程(a)において、PEDOT:PSS溶液が、基板上にインクジェット印刷され、プラットフォーム13と位置合わせされた基層21のアイランドが形成される。印刷された基板は、続いて焼き付けられる。工程(b)において、P3HT:PCBM溶液が、アイランド上にインクジェット印刷され、活性層22が形成される。最後に、チタン又はTi/TiNが、ステンシルマスクを介して活性層22上にスパッタリングされ、事前に形成されたアイランドと位置合わせされて、接触層23が形成される。
【0059】
図11は、リフトオフ法により画素素子をパターン形成する例示的なプロセスを図示している。PDMS基板10は、29Wで40秒間、酸素プラズマにより処理される。PSS層24は、基板10上にスピンコーティングされ、その基板10は、110℃で5分間焼き付けられる。続いて、フォトレジスト層25が塗工されて、フォトリソグラフィ技術によりエッチングされ、基板10内のプラットフォーム13と位置合わせされた円形開口部が形成される。得られた状況が、
図11の(a)部に図示されている。続いて、PSS層24の円形開口部により露出する部分が、除去される。1つの実施形態において、これは、水中掘削により行うことができ、
図11の(b)部に示されるアンダカットとなる。別の実施形態において、PSSの除去は、酸素プラズマによるエッチングによってなされる。両者の選択肢は、組み合わせることもできる。続いて、PEDOT:PSSの基層21とP3HT:PCBMの活性層22とは、事前に構成された基板にスピンコーティングされ、基層21は、基層の塗工後に焼き付けることにより安定化される。得られた状況は、
図11の(c)部に図示されている。次の工程において、チタン又はTi/TiNの薄い接触層23が、生じた構造物上にスパッタリングされる(
図11の(d)部参照)。最後に、PSS層が、水中に溶解されるか、又はPDMS基板から剥離される。得られた状況は、
図11の(e)部に図示されている。
【0060】
図12は、転写印刷により画素素子をパターン形成する例示的なプロセスを図示している。ポリイミド層が、接着促進剤により表面修飾されたガラスウエハ8にコーティングされ、パターン形成されてポリイミドアイランド26が作成されている。活性層22と基層21とは、パターン形成されたガラスウエハ8上にスピンコーティング又は鋳造されている。パターン形成されたガラスウエハの代わりに、その他のパターン形成された担体が使用できる。ポリイミドアイランド26上に配置された基層21と活性層22との部分は、生じた画素素子が基板10内のプラットフォーム13と位置合わせされるように、印刷により、プラズマ処理されたPDMS基板10に移動される(
図12の(a)部と(b)部参照)。最後に、チタン又はTi/TiNの接触層23が、ステンシルマスクを介して活性層22上にスパッタリングされる。
【0061】
図13~
図15は、カプセル化層と任意の柱状部とを製作する例示的な方法を図示している。
【0062】
図13は、スピンコーティング及びその後のエッチングによる、アクセス開口部を備えたカプセル化層製作の例示的な方法を図示している。画素素子20を備えた基板10は、29Wで15秒間、酸素プラズマにより短時間処理される。PDMSのカプセル化層30は、基板10上に4μmにスピンコーティングされる。生じた構造物は、80℃で少なくとも2時間焼き付けられる。生じた構造物は、
図13の(a)部に図示されている。薄い(50nm)アルミニウム層28が、カプセル化層30上にスパッタリングされる。続いて塗工された4μmのポジ型フォトレジスト層29は、フォトリソグラフィ技術によりパターン形成され、フォトレジスト層29に円形のディスク型開口部が作成されている。得られた状況は、
図13の(b)部に図示されている。アルミニウム層28の露出部分は、乾式エッチングにより除去される。続いて、カプセル化層30の露出部分は、SF6と酸素ガス(25:4)との混合物中での乾式エッチングにより除去され、アクセス開口部31が作成されている。同時に、フォトレジスト層の残っている部分は、ほとんど完全にエッチングによりなくなる。フォトレジスト層の残っているすべての残渣は、45秒間の短時間の酸素乾式エッチングにより除去される。最後に、アルミニウム層28の残っている部分は、乾式エッチングまたは湿式エッチングにより除去され、
図13の(c)部に図示された通りの完成した光起電インターフェースが得られる。
【0063】
図14は、アクセス開口部と柱部とを備えたカプセル化層製作の例示的な方法を図示している。カプセル化層30は、
図13と関連して説明されたものと同じ方法で作成され、
図14の(a)部の状況となる。アルミニウム層28とフォトレジスト層29とが、
図13と関連して説明されたものと同じ方法で加えられている。フォトレジスト層29がパターン形成されて、フォトレジスト層29にリング型の環状開口部が作成されている。アルミニウム層28の露出部分は、乾式エッチングにより除去される。続いて、カプセル化層30の露出部分は、
図13と関連して説明されたものと同じ方法で乾式エッチングにより除去され、カプセル化層に環状アクセス開口部31が作成されている。これにより、画素素子20とプラットフォーム13とに位置合わせされたPDMS柱部40が、画素素子20上に作成され、柱部40が、取り囲んでいるカプセル化層のちょうど上面まで軸方向に延び(
図14の(c)部参照)、環状アクセス開口部31により、取り囲んでいるカプセル化層30から横方向に分離される。フォトレジスト層の残っているすべての残渣は、45秒間の短時間の酸素乾式エッチングにより除去される。最後に、アルミニウム層28の残っている部分は、乾式エッチング又は湿式エッチングにより除去される。続いて、チタン又は窒化チタンの電極層41が、画素素子と電極層41との間の電気的接触を確実にするように、柱部の露出表面並びに画素素子の露出表面を完全に覆うように、柱部40と位置合わせされたステンシルマスクを介してスパッタリングされる。
【0064】
図15は、アクセス開口部と突出柱部とを備えたカプセル化層の製作の例示的な方法を図示している。柱部40は、
図14と関連して説明されたものと同じ方法で作成されているが、更に厚いカプセル化層(8~10μm厚)から作成されている。
図15の(a)部は、柱部の作成後の状況を図示しており、アルミニウム層28は、まだカプセル化層30上に存在しているまま存続している。柱部40は、8μmのポジ型フォトレジスト層43で覆われ、残っているアルミニウム層28は、乾式エッチングにより除去される。続いて、カプセル化層30の厚みは、乾式エッチングにより減少され、約5μmのPDMSがカプセル化層30から除去された後に、エッチングプロセスが停止される。得られた状況は、
図15の(b)部に図示されている。フォトレジスト層43が除去され、再度、柱部40を露出させ、柱部上に残っているアルミニウム層は、乾式エッチング又は湿式エッチングにより除去される。最後に、チタン又は窒化チタンの電極層41が、柱部40上と、画素素子20の取り囲んでいる部分上とに、ステンシルマスクを介してスパッタリングされる。
【0065】
本発明は、例示的な実施形態を参照して説明をしてはいるが、本発明から逸脱することなく多くの修正が可能である。特に、柱部は、自立型である必要はない。例えば、それら柱部は、1つまたはそれ以上のPDMSのブリッジにより取り囲んでいるカプセル化層に接続されたまま存続することが可能である。PDMS以外のその他の材料は、基板用とカプセル化層用とに採用できる。上記の例示的な実施形態において、特定の共役ポリマーブレンド物が、画素素子の半導体活性層22を形成するために使用されてはいるが、その他の光活性半導体ポリマーも採用できる。基層も、同様にその他のポリマーからなることができる。代わりとなる実施形態において、基層は、ITOなどの無機導電体からなることができる又は省くこともできる。単一基層の代わりに、複層構造体を使用でき、例えば、1つ又はそれ以上の共役ポリマーからなる第2層によって覆われている、ITOからなる第1層などを使用できる。接触層23は、チタン又はTiNの層であるとして説明はしたが、接触層は、その他の導電性材料からなることができる。接触層23は、省くこともできる。このことは、分離電極層41を含有する実施形態に特にあてはまる。また、電極層41は、異なる導電性材料からなることができる。その他多くの修正変更が、容易に考えられる。
【0066】
[略語の説明]
P3HT ポリ(3-ヘキシルチオフェン)
PCBM [6,6]-フェニル-C61-酪酸メチルエステル
PEDOT ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)
PSS ポリスチレンスルホン酸
P3OT ポリ(3-オクチルチオフェン-2,5-ジイル)
MEH-PPV ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]
MDMO-PPV ポリ[2-メトキシ-5-(3′,7′-ジメチルオクチルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]
PCPDTBT ポリ[2,6-(4,4-ビス-(2-エチルヘキシル)-4H-シクロペンタ[2,1-b;3,4-b′]ジチオフェン)-alt-4,7(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)]
ITO 酸化インジウムスズ
PDMS ポリジメチルシロキサン
MEA マルチ電極アレイ
MPDA マルチフォトダイオードアレイ
【符号の説明】
【0067】
1 光電子インターフェース
2 支持体
3 画素素子
4 眼
5 読取り電極
6 読取り増幅器
7 シリコンウエハ
8 ガラスウエハ
10 基板
11 第1の基板層
12 第2の基板層
13 硬性プラットフォーム
20 画素素子
21 基層(電荷注入層)
22 活性層
23 接触層
24 PSS層
25 フォトレジスト層
26 ポリイミドアイランド
28 アルミニウム層
29 フォトレジスト層
30 カプセル化層
31 アクセス開口部
40 柱部
41 電極層
42 接触領域
43 フォトレジスト層