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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ポリエステル系不織布及び油水分離装置
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/011 20120101AFI20220105BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20220105BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20220105BHJP
   B01D 17/022 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
D04H3/011
D04H3/16
B01D71/48
B01D17/022 501
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017195977
(22)【出願日】2017-10-06
(65)【公開番号】P2019070205
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】506346152
【氏名又は名称】株式会社ベルポリエステルプロダクツ
(73)【特許権者】
【識別番号】502435454
【氏名又は名称】株式会社SNT
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】勝間 啓太
(72)【発明者】
【氏名】池本 一輝
(72)【発明者】
【氏名】小池 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】沖本 昌也
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 世明
(72)【発明者】
【氏名】堀田 芳生
(72)【発明者】
【氏名】慶 奎弘
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147547(JP,A)
【文献】特開2000-312802(JP,A)
【文献】国際公開第2014/030730(WO,A1)
【文献】特開平03-045768(JP,A)
【文献】特開2015-010294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
C08J 9/00
C08G 63/00-64/42
B01D 17/00-17/12
B01D 71/48
B01J 20/26-20/28
C02F 1/28
C02F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
60質量%~80質量%のエステルオリゴマー成分(A)と、20質量%~40質量%のポリエステルポリオール成分(B)との共重合体を含み、
前記エステルオリゴマー成分(A)は、テレフタル酸成分(a1)とエチレングリコール成分(a2)との第1のポリエステル成分を含み、
前記ポリエステルポリオール成分(B)は、水添ダイマー酸成分(b1)と1,4-ブタンジオール成分(b2)との第2のポリエステル成分を含み、
前記ポリエステルポリオール成分(B)の平均分子量は1500~3000であり、
単位面積当たりの質量が13g/m~90g/mである、不織布
【請求項2】
平均繊維径が2μm~20μmの繊維で構成された、請求項1に記載の不織布
【請求項3】
前記不織布はメルトブローン不織布である、請求項1又は2に記載の不織布
【請求項4】
吸油材及び油水分離フィルタのうちの少なくとも一方である、請求項1~3のいずれか一項に記載の不織布
【請求項5】
脂肪酸、高級アルコール、炭化水素及びシリコーンオイルのうちの少なくとも1つを処理するためのフィルムである、請求項4に記載の不織布
【請求項6】
前記共重合体の極限粘度が0.45dl/g~0.85dl/gである、請求項1~5のいずれか一項に記載の不織布
【請求項7】
JISL1096に準拠して測定した引張強さが1MPa以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の不織布
【請求項8】
JISL1096に準拠して測定した伸び率が25%~200%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の不織布
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の不織布を油水分離フィルタとして備える、油水分離装置。
【請求項10】
前記油水分離フィルタは、積層された複数の前記不織布を有する、請求項9に記載の油水分離装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物を含む多孔性フィルムに関する。また、本発明は、当該多孔性フィルムを備える油水分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂からなる多孔性フィルム、例えば不織布、は種々の用途に使用されている。不織布は、例えば、スパンボンド法の1つであるメルトブローン法(メルトブロー法)で作製することができる。
【0003】
溶融樹脂を特定の紡糸口金から吐出し、その紡糸口金近傍から加熱した高速の気体を噴出させて吐出樹脂を繊維化し、金網等のコンベア上へ捕集して不織布を得るメルトブローン法は、0.1~数十μmの極細繊維からなる不織布を得る方法として知られている。当該メルトブローン不織布は、繊維径が細いため、エアーフィルタ、液体フィルタ、医療用フィルタ、セパレータなどの分離膜として用いられている。当該メルトブローン不織布用の樹脂原料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などの熱可塑性樹脂が使用されている。
【0004】
このようなメルトブローン不織布および分離膜としては、ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレンによるものが安価であり、細繊度化容易であるため、多用されてきた。しかしながら、ポリプロピレンは融点が160℃近辺であるため耐熱性が要求される用途での使用が難しいという欠点があった。
【0005】
このような欠点を解決するため、最近ではポリエステル系樹脂のうち、耐熱性の高いポリエチレンテレフタレート(PET)が使用されている。例えば、特許文献1においては、ポリエチレンテレフタレート繊維からなり、90℃下での面積収縮率の小さいメルトブロー不織布の製造に使用可能なポリエチレンテレフタレート組成物からなるメルトブロー不織布が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-10294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のようなポリプロピレン又は特許文献1に記載されたようなポリエチレンテレフタレートの不織布で作製された油水分離フィルタでは、高い油水分離性能を得ることができない。そこで、高い油水分離性能を有している多孔性フィルム及び油水分離装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1視点によれば、60質量%~80質量%のエステルオリゴマー成分(A)と、20質量%~40質量%のポリエステルポリオール成分(B)との共重合体を含むポリエステル系不織布が提供される。エステルオリゴマー成分(A)は、テレフタル酸成分(a1)とエチレングリコール成分(a2)との第1のポリエステル成分を含む。ポリエステルポリオール成分(B)は、水添ダイマー酸成分(b1)と1,4-ブタンジオール成分(b2)との第2のポリエステル成分を含む。ポリエステルポリオール成分(B)の平均分子量は1500~3000である。不織布の単位面積当たりの質量が13g/m~90g/mである。
【0009】
本発明の第2視点によれば、第1視点に係る不織布を油水分離フィルタとして備える油水分離装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示の多孔性フィルムは、優れた吸油性を有すると共に、優れた油水分離性能を有している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】油水分離装置の第1例を示す概略断面図。
図2】油水分離装置の第2例を示す概略断面図。
図3】実施例で使用した油水分離装置の概略図。
図4】実施例で使用した油水分離装置の概略図。
図5】試験例10~14における油水分離効率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0013】
上記第1視点の好ましい形態によれば、多孔性フィルムは、平均繊維径が2μm~20μmの繊維で構成された不織布の形態を有する。
【0014】
上記第1視点の好ましい形態によれば、不織布はメルトブローン不織布である。
【0015】
上記第1視点の好ましい形態によれば、多孔性フィルムは、吸油材及び油水分離フィルタのうちの少なくとも一方である。
【0016】
上記第1視点の好ましい形態によれば、多孔性フィルムは、脂肪酸、高級アルコール、炭化水素及びシリコーンオイルのうちの少なくとも1つを処理するためのフィルムである。
【0017】
上記第1視点の好ましい形態によれば、共重合体の極限粘度が0.45dl/g~0.85dl/gである。
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、JISL1096に準拠して測定した引張強さが1MPa以上である。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、JISL1096に準拠して測定した伸び率が25%~200%である。
【0020】
上記第2視点の好ましい形態によれば、油水分離フィルタは、積層された複数の多孔性フィルムを有する。
【0021】
本明細書及び特許請求の範囲において、各酸成分及び各アルコール成分にはその誘導体も含まれ得る。例えば、テレフタル酸成分には、テレフタル酸の誘導体も含まれ得る。ダイマー酸成分には、ダイマー酸の誘導体も含まれ得る。エチレングリコール成分には、エチレングリコールの誘導体も含まれ得る。1,4-ブタンジオール成分には、1,4-ブタンジオールの誘導体も含まれ得る。
【0022】
本開示において、ポリカルボン酸とは、カルボキシ基を複数有する化合物のことをいう。また、ポリオール成分とは、ヒドロキシ基を複数有する化合物(ポリヒドロキシ化合物)のことをいう。
【0023】
本開示において、重合体には、2種類以上の単量体成分から構成される共重合体(コポリマー)、及び架橋重合体(クロスポリマー)も含み得る。
【0024】
第1の実施形態に係る本開示の多孔性フィルムについて説明する。
【0025】
本開示の多孔性フィルムは、エステルオリゴマー成分(A)と、ポリエステルポリオール成分(B)との共重合体を含むポリエステル樹脂組成物が多孔質化したものである。
【0026】
[エステルオリゴマー成分(A)]
エステルオリゴマー成分(A)は、第1のポリカルボン酸成分(a1)と、第1のポリオール成分(a2)とが共重合した第1のポリエステル成分を含む。
【0027】
第1のポリカルボン酸成分(a1)は、主たる成分として、テレフタル酸成分を含む。テレフタル酸成分は、エステルオリゴマー成分(A)における酸成分の総量に対して、80mol%以上であると好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、95mol%以上であるとさらに好ましい。テレフタル酸成分の含有率が80mol%未満であると、多孔性フィルムの耐熱性が低下してしまう。テレフタル酸成分は、エステルオリゴマー成分(A)における酸成分の総量に対して、100mol%以下、99mol%以下、98mol%以下、又は95mol%以下とすることができる。
【0028】
第1のポリカルボン酸成分(a1)は、例えば、イソフタル酸成分、コハク酸成分、アジピン酸成分、アゼライン酸成分、セバシン酸成分、1、4-ナフタレンジカルボン酸成分、4、4′-ビフェニルジカルボン酸成分、1,12-ドデカン酸成分、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸成分、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸成分、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸成分等をさらに含むことができる。
【0029】
第1のポリオール成分(a2)は、主たる成分として、エチレングリコール成分を含む。エチレングリコール成分は、エステルオリゴマー成分(A)におけるアルコール成分の総量に対して、80mol%以上であると好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、95mol%以上であるとさらに好ましい。エチレングリコール成分の含有率が80mol%未満であると、多孔性フィルムの耐熱性が低下してしまう。エチレングリコール成分は、エステルオリゴマー成分(A)におけるアルコール成分の総量に対して、100mol%以下、99mol%以下、98mol%以下、又は95mol%以下とすることができる。
【0030】
第1のポリオール成分(a2)は、例えば、プロピレングリコール成分、ジエチレングリコール成分、1,4-ブタンジオール成分、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分等をさらに含むことができる。
【0031】
エステルオリゴマー成分(A)の数平均分子量は700以下であると好ましく、300~700であるとより好ましい。数平均分子量700以下のエステルオリゴマー成分(A)を使用して共重合体を行うことで、ポリエステルポリオール成分(B)が高分子鎖中にランダムに結合され、外観が透明な共重合ポリエステル樹脂を得ることができる。数平均分子量が700を超え、1000付近のエステルオリゴマーを使用すると、さらなるポリエステルポリオール成分(B)との共重合反応において、重合反応の頭打ちが生じるため、例えば、極限粘度が0.45~0.85程度の高粘度の共重合ポリエステル樹脂を得ることができなくなる。また、数平均分子量が5000を超えるようなポリエステルを使用すると、重合反応の頭打ち現象が生じることなく、高分子の共重合ポリエステル樹脂が得られるものの、得られる共重合ポリエステル樹脂は、エステルオリゴマー成分(A)単位の分子量が大きいため、-(A)-(B)-型のブロック状共重合体となってしまい、相分離により樹脂の外観が白濁してしまう。さらに、このようなブロック状共重合体は、他の樹脂との相溶性に乏しいため、溶融押出の際にサージング現象(吐出不安定現象)が発生してしまう。
【0032】
エステルオリゴマー成分(A)は、第1のポリカルボン酸成分(a1)と第1のポリオール成分(a2)とを、公知の方法でエステル化反応させることによって得ることができる。例えば、第1のポリカルボン酸成分(a1)の末端にメチル基が付加された出発物質を用いて触媒添加により第1のポリオール成分(a2)とエステル交換反応を行いオリゴマーを得る方法や、末端未修飾の第1のポリカルボン酸成分(a1)を出発物質として第1のポリオール成分(a2)と直接エステル化反応によりオリゴマーを得る方法が挙げられる。
【0033】
エステルオリゴマー成分(A)の製造においては、例えば、反応温度230~250℃にて所定のエステル化率に到達した後、得られた全オリゴマーに対して3質量%~10質量%のジオール(エチレングリコール)を系内に投入し、内温を230℃~250℃に維持した状態で30分~1時間程度、解重合反応を行なうことが望ましい。解重合反応を行わない場合、ポリエステル樹脂組成物の重縮合反応後半で反応の頭打ち現象が発生しやすくなる。また、解重合反応を行わない場合は、グリコール成分の酸成分に対するモル比を1.3~1.6の高い範囲とすることが好ましい。モル比が1.3未満であると、重縮合反応時の後半で頭打ち現象が生じる。
【0034】
[ポリエステルポリオール成分(B)]
ポリエステルポリオール成分(B)は、第2のポリカルボン酸成分(b1)と、第2のポリオール成分(b2)とが共重合した第2のポリエステル成分を含む。
【0035】
第2のポリカルボン酸成分(b1)は、主たる成分として、水添ダイマー酸成分を含む。水添ダイマー酸成分は、ポリエステルポリオール成分(B)における酸成分の総量に対して、90mol%以上であると好ましく、95mol%以上であるとより好ましく、100mol%であるとさらに好ましい。水添ダイマー酸成分の含有率が90mol%未満であると、多孔性フィルムの耐熱性が低下してしまう。水添ダイマー酸成分は、ポリエステルポリオール成分(B)における酸成分の総量に対して、100mol%以下、99mol%以下、98mol%以下、又は95mol%以下とすることができる。
【0036】
本開示にいうダイマー酸とは、不飽和脂肪酸の二量体である。例えば、ダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸といった炭素数18の不飽和脂肪酸、エルカ酸等の炭素数22の不飽和脂肪酸等の二量化反応によって得られた炭素数36、44等の二量化ジカルボン酸化合物とすることができる。水添ダイマー酸とは、二量化後に残存する不飽和二重結合を水素添加によって飽和化させたダイマー酸のことをいう。水添ダイマー酸は、耐熱性、反応安定性、柔軟性、及び耐衝撃性に優れるので好ましい。なお、通常、水添ダイマー酸は、直鎖分岐構造化合物(例えば、シクロヘキサン環のような環構造から複数の鎖状構造が伸びているような構造を有する化合物)、脂環構造等を持つ化合物の混合物として得られる。その製造工程によりこれらの含有率は異なるものの、本開示においてこれらの含有率は特に限定されない。
【0037】
第2のポリオール成分(b2)は、主たる成分として、1,4-ブタンジオール成分を含む。第2のポリエステルポリオール成分(B)の末端は、いずれも1,4-ブタンジオール単位(b2)に由来する水酸基であると好ましい。
【0038】
第2のポリオール成分(b2)は、例えば、エチレングリコール成分、プロパンジオール成分等をさらに含むことができる。
【0039】
ポリエステルポリオール成分(B)の平均分子量は1500以上であると好ましく、1800以上であるとより好ましい。平均分子量が1500未満であると、ポリエステル樹脂の耐熱性が低下してしまう。ポリエステルポリオール成分(B)の平均分子量は3000以下であると好ましく、2500以下であるとより好ましい。平均分子量が3000を超えると、重縮合反応性が低下してしまう。
【0040】
ポリエステルポリオール成分(B)は、多孔性フィルムの中でブロック化反応してハードセグメントとソフトセグメントを形成するので、多孔性フィルムの伸縮性を発現させることができる。
【0041】
ポリエステルポリオール成分(B)は、水添ダイマー酸成分(b1)と、1,4-ブタンジオール成分(b2)とを、末端が水酸基となるように反応時のモル比をそれぞれ調整して、公知の方法でエステル化反応させることによって得ることができる。
【0042】
ポリエステルポリオール成分(B)は、市販品から入手することもできる。例えば、水添ダイマー酸成分(b1)及び1,4-ブタンジオール成分(b2)からなる数平均分子量2200のポリエステルポリオールとして、Priplast(登録商標)3199(クローダ社製)が市販されている。また、その他のポリエステルポリオールの市販品として、Priplast(登録商標)3162,3192,3196,2101,2104(いずれもクローダ社製)等が入手可能である。
【0043】
[ポリエステル樹脂組成物]
本開示の多孔性フィルムにおけるポリエステル樹脂組成物は、エステルオリゴマー成分(A)と、ポリエステルポリオール成分(B)との共重合体を含む。ポリエステル樹脂組成物は、当該共重合体以外の重合体(例えばポリエステル樹脂)を含むブレンド体(ポリマーアロイ)であってもよい。ポリエステル樹脂組成物において、成分(A)と成分(B)との共重合体は、90質量%以上であると好ましく、95質量%以上であるとより好ましく、98質量%以上であるとさらに好ましく、100質量%とすることもできる。当該共重合体が90質量%未満であると伸縮性が低下してしまう。
【0044】
ポリエステル樹脂組成物において、エステルオリゴマー成分(A)の含有率は、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して、65質量%以上であると好ましい。エステルオリゴマー成分(A)の含有率が65質量%未満であると、融点が低下し、耐熱性が低下してしまう。エステルオリゴマー成分(A)の含有率は、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して、75質量%以下であると好ましい。エステルオリゴマー成分(A)の含有率が75質量%を超えると伸縮性が低下してしまう。
【0045】
ポリエステル樹脂組成物において、ポリエステルポリオール成分(B)の含有率は、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して、25質量%以上であると好ましい。ポリエステルポリオール成分(B)の含有率が25質量%未満であると、ポリエステル樹脂組成物の伸縮性が乏しくなってしまう。ポリエステルポリオール成分(B)の含有率は、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して、35質量%以下であると好ましい。ポリエステルポリオール成分(B)の含有率が35質量%を超えると、重縮合反応性が劣り、得られたポリエステル樹脂組成物はポリエステルポリオール成分(B)の相分離により濁った外観となり、また、耐熱性も劣るものとなる。
【0046】
ポリエステル樹脂組成物の極限粘度(IV値)は特に限定されるものではない。多孔性フィルムをポリエステル樹脂組成物のメルトブローン不織布とする場合には、ポリエステル樹脂組成物の極限粘度は、0.45dl/g(10cm/g)以上であると好ましい。ポリエステル樹脂組成物の極限粘度0.45dl/g未満では不織布の強度が不足してしまう。ポリエステル樹脂組成物の極限粘度は、0.85dl/g以下であると好ましい。ポリエステル樹脂組成物の極限粘度0.85dl/gを超えると、粘度が高くなり、メルトブローン不織布を形成することが困難となる。
【0047】
本開示に示す極限粘度は、フェノール:テトラクロロエタン=60:40(質量比)の混合溶媒に試料0.5000±0.0005gを溶解させ、溶液温度20℃において、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置を用いて測定することができる。
【0048】
ポリエステル樹脂組成物の融点は、多孔性フィルムの用途、多孔質化の方法等に応じて、適宜好適な融点を選択することができる。例えば、ポリエステル樹脂組成物をメルトブローン不織布とする場合、耐熱性の観点から、ポリエステル樹脂組成物の融点は170℃以上であると好ましく、180℃以上であるとより好ましく、190℃以上であるとさらに好ましい。また、ポリエステル樹脂組成物の融点は、成形性の観点から220℃以下であると好ましい。
【0049】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、本開示の効果を阻害しない範囲において、上述した以外の公知の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、重合触媒、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、離型剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、顔料、染料等を使用することができる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などがある。中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、数種類を組み合わせてもよい。酸化防止剤の含有率は100ppm~5000ppmが好ましい。
【0050】
ポリエステル樹脂組成物は、例えば、上述の方法でエステルオリゴマー成分(A)とポリエステルポリオール成分(B)とを重縮合させることによって作製することができる。成分(A)と成分(B)とを重縮合させる方法は、公知の方法を使用することができる。例えば、混合物の入った反応槽内を大気圧から徐々に減圧して133.3Pa以下の高真空下で一連の反応を行うことができる。反応時の温度は、250℃~270℃の間で制御すると好ましい。反応温度が250℃未満では重縮合反応が進行しない。反応温度が270℃を超えると、重縮合反応の後半に、ポリエステル樹脂組成物の劣化による粘度低下が発生してしまう。
【0051】
本開示のポリエステル樹脂組成物の製造における重合触媒としては、例えば、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム、チタン化合物等を用いることができる。このうち、反応性、安全性、価格の面より、テトラブチルチタネート、テトライソプロポキシチタネート等のチタン化合物を用いることが好ましい。
【0052】
[多孔性フィルム]
本開示の多孔性フィルムは、ポリエステル樹脂組成物による不織布の形態を採ることができる。多孔性フィルムは、例えば、メルトブローン(メルトブロー)不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、フラッシュ紡糸不織布、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布等、適宜所望の形態を選択することができる。
【0053】
多孔性フィルムの単位面積当たりの質量(目付)は、13g/m以上であると好ましく、15g/m以上であるとより好ましく、18g/m以上であるとより好ましく、23g/m以上であるとより好ましく、28g/m以上であるとより好ましく、33g/m以上であるとさらに好ましい。目付が13g/m未満であると、多孔性フィルムの強度が低下して破れやすくなってしまうと共に、多孔性フィルムを油水分離フィルタとして用いる場合に油水分離効率が低下してしまう。多孔性フィルムの単位面積当たりの質量(目付)は、90g/m以下であると好ましく、80g/m以下であるとより好ましく、70g/m以下であるとより好ましい。目付が80g/mを超えると、多孔性フィルムを油水分離フィルタとして用いる場合に油水分離効率が低下してしまう。
【0054】
多孔性フィルムを繊維で構成する場合、平均繊維径は2μm以上であると好ましく、3μm以上であるとより好ましい。平均繊維径が2μm未満であると、多孔性フィルムの強度が不足してしまう。平均繊維径は20μm以下であると好ましく、15μm以下であるとより好ましい。平均繊維径が20μmを超えると、多孔性フィルムを油水分離フィルタとして用いる場合に油水分離効果が低下してしまう。
【0055】
本開示の多孔性フィルムは、PETよりも強い引張強さを有する。本開示の多孔性フィルムの引張強さは、1MPa以上であると好ましく、1.5MPa以上であるとより好ましい。引張強さが1MPa未満であると使用時に破れやすくなってしまう。多孔性フィルムの引張強さは、10MPa以下であると好ましく、7MPa以下であるとより好ましい。引張強さが10MPaを超えると、硬くて伸縮性に劣るフィルムとなってしまう。多孔性フィルムの引張強さはJIS(日本工業規格;Japanese Industrial Standards)L1096に準拠して測定することができる。
【0056】
本開示の多孔性フィルムは、フィルタに好適な伸び率を有する。本開示の多孔性フィルムの伸び率は、25%以上であると好ましく、30%以上であるとより好ましい。伸び率が25%未満であると破れやすくなってしまう。多孔性フィルムの伸び率は、200%以下であると好ましく、170%以下であるとより好ましく、150%以下であるとさらに好ましい。伸び率が200%を超えるとであると、柔軟すぎるために、フィルタとして使用する時の圧力に耐えられず目開きしてしまう。多孔性フィルムの伸び率はJISL1096に準拠して測定することができる。
【0057】
メルトブローン不織布は、メルトブローン不織布製造装置を使用して作製することができる。例えば、上述のポリエステル樹脂組成物を除湿エアー下、或いは減圧下にて110℃~130℃にて5時間以上乾燥させる。乾燥させたポリエステル樹脂組成物を、紡糸用押出機へ供給し240℃~290℃にて溶融後、ギアポンプにて一定の吐出量となるように計量し、メルトブローン用紡糸口金より紡糸温度240℃~290℃にて、加熱した高速エアーを口金端部より噴出させながら吐出、繊維化後、コンベア上へ積層後に紙管へ巻き取る。平均繊維径及び目付は、吐出量、噴出エアーの流量、紡糸口金からコンベアの距離等にて調節することが可能である。
【0058】
本開示の多孔性フィルムは、油を選択的に吸収することができる。例えば、本開示の多孔性フィルムを油水分離フィルタとして用いた場合、多孔性フィルムは高い油水分離能を有することができる。また、多孔性フィルムは、吸油材として利用することもできる。多孔性フィルムは、乳化物であっても油水分離を行うことができる。
【0059】
本開示の多孔性フィルムに適用可能な油としては、例えば、水に対して親和性がなく、水と分離するような化合物が挙げられる。本開示の多孔性フィルムに親和性の高い油としては、例えば、脂肪酸、高級アルコール、炭化水素、シリコーンオイル等を挙げることができる。脂肪酸としては、例えば、オレイン酸等を挙げることができる。高級アルコールとしては、ラウリルアルコール等を挙げることができる。
【0060】
本開示の多孔性フィルムは、特に、動粘度が低い油に好適に適用することができる。
【0061】
本開示の多孔性フィルムは、高い強度を有する。このため、例えば、多孔性フィルムをフィルタとして使用する場合であっても、補強が不要であり、生産コストの増大を抑制することができる。
【0062】
本開示の多孔性フィルムは、適度な伸縮性を有する。このため、例えば、多孔性フィルムをフィルタとして使用する場合であっても、圧力による破れを抑制することができる。
【0063】
第2実施形態に係る本開示の油水分離装置について説明する。油水分離装置の形態は図示の形態に限定されるものではない。
【0064】
本開示の油水分離装置は、第1実施形態及び/又は第2実施形態に係る多孔性フィルムを油水分離フィルタとして備える。油水分離フィルタは、積層された複数の油水分離フィルタを有することができる。
【0065】
第1実施形態及び/又は第2実施形態に係る多孔性フィルムは油を通過させるので、2層に分離した油水混合物を分離する場合、フィルタが油と接触できるようにセットすると好ましい。例えば、大気圧を利用して、2層分離した油水混合液の油水分離を行う場合、通常油は上層になるので、油水分離フィルタ面の水平に対する角度は、30°以上であると好ましく、45°以上であるとより好ましく、60°以上であるとより好ましく、80°以上であるとさらに好ましい。フィルタの面角度が30°未満であると、油との接触面積が小さくなりすぎてしまう。
【0066】
図1に、第1例に係る油水分離装置の概略断面図を示す。第1例に示す油水分離装置10は、流れ落ちる油水混合液を分離するタイプである。油水分離装置10は、油水混合液を油水分離フィルタ1に供給する供給管12と、供給管12の開口をふさぐように配された油水分離フィルタ1と、分離された水を排出する排液管13と、を備えることができる。排液管13には、弁を設けることができる。油水分離装置10は、分離された油を収集する油受け槽(不図示)、及び/又は排液管13から排出された液を収集する排液槽(不図示)をさらに備えてもよい。
【0067】
供給管12は、重力を利用して分離を行うことができるように、例えば、混合液を重力で下方に落とすための第1部12aと、第1部12aから混合液の流れ方向を変える曲折部12bと、流れ落ちてきた油を曲折部12bから油水分離フィルタ1に接触させる第2部12cと、を有するように構成することができる。供給管12は、図1においては、L字管のように図示したが、鉛直方向(水平方向)に対して斜めに延在するようにしてもよい。
【0068】
排液管13は設けなくてもよい。この場合には、例えば、供給管12を逆さにすることによって、油水分離フィルタ1を透過しなかった残液を排出することができる。
【0069】
第1例において、供給管12に供給された油水混合液が油水分離フィルタ1に到達すると、油は油水分離フィルタ1を通過することができる。一方、水は、油水分離フィルタ1でせき止めることができる。
【0070】
図2に、第2例に係る油水分離装置の概略断面図を示す。第2例に示す油水分離装置20は、槽に溜めた状態で油水混合液を分離するタイプである。油水分離装置20は、油水混合液を溜める貯液槽21と、貯液槽21からオーバーフローする油を通過させる油水分離フィルタ1と、貯液槽21から残液を排出する排液管22と、を備える。
【0071】
オーバーフローする上層の油を通過させるように、油水分離フィルタ1は、貯液槽21の上方に配すると好ましい。排液管22は、下層の水を排水できるように貯液槽21の下方に、好ましくは油水分離フィルタ1よりも下方に、配すると好ましい。排液管22は設けなくてもよい。この場合には、貯液槽21を逆さにすることによって残液を排出することができる。
【0072】
油水混合液は、貯液槽21の開口から供給してもよいし、油水分離装置20に供給管(不図示)を設けてもよい。
【0073】
油水分離フィルタ1の高さまで油水混合液を供給すると、上層の油を油水分離フィルタ1を通じてオーバーフローさせることができる。一方、水は、油水分離フィルタを通過しないのでオーバーフローすることができない。
【0074】
本開示の油水分離装置は、上記に挙げた少なくとも1つの油(油性成分)と水の混合物から油と水を分離するために使用することができる。上述の第1実施形態及び第2実施形態に示すように、多孔性フィルムの選択により、多孔性フィルムの特性に応じて、分離率、分離速度等を調節することができる。
【0075】
油水分離装置において、油水分離フィルタが液圧に対して十分な強度を有しているので、油水分離フィルタに補強を施す必要がない。したがって、油水分離装置をより簡易な工程で作製することができると共に、製造コストの増大を抑制することができる。
【0076】
本開示のポリエステル樹脂組成物及び多孔性フィルムにおける上述以外の特徴は、本開示の組成物及びフィルムの構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でない場合もあり、その場合には製造方法によって特定することが有用である。例えば、本開示のポリエステル樹脂組成物及び多孔性フィルムフィルムの結晶化度、結晶状態、配向度等は、性状等によって直接特定できない場合、製造方法によって特定することが適切な場合もある。
【0077】
以下に、本開示の多孔性フィルムについて実施例を用いて説明する。本開示の多孔性フィルムは以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0078】
[試験例1~8]
本開示のポリエステル樹脂組成物を作製し、極限粘度、ガラス転移温度、結晶化温度、及び融点を測定した。また、ポリエステル樹脂組成物から多孔性フィルムであるメルトブローン不織布を作製し、目付、平均繊維径、引張強さ、及び伸び率を測定した。このメルトブローン不織布を用いて油水分離装置を作製し、油の透過性及び油水分離効率を測定した。以下に、各評価項目の測定方法について説明する。
【0079】
[極限粘度]
ポリエステル樹脂組成物をフェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比)の混合溶媒に溶解し、20℃の溶液温度において、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置(サン電子工業製 ALC-6C)を用いて極限粘度を測定した。
【0080】
[ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)及び融点(Tm)]
ポリエステル樹脂組成物10mgを秤量し、走査型示差熱量計DSC(Perkin Elmer社製 DSC7)を用いて、10℃/分の昇温速度でガラス転移温度、結晶化温度及び融点を測定した。
【0081】
[メルトブローン不織布の目付]
50mm×50mmのメルトブローン不織布の試験片を採取して質量を測定し、1mあたりの質量を算出した。
【0082】
[メルトブローン不織布の平均繊維径]
走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製SU3500)を用いて、メルトブローン不織布のうちの任意の50本の繊維の直径を測定して、50個の直径の平均値を平均繊維径とした。
【0083】
[メルトブローン不織布の引張強さ及び伸び率]
JIS L1096に準拠して、メルトブローン不織布から幅10mm、長さ150mmの試験片を採取し、引張試験機(オリエンテック製)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度100mm/分で引張強さ及び伸び率を測定した。
【0084】
[ポリエステル樹脂組成物の製造]
[樹脂Aの製造]
ポリエステル樹脂組成物の理論スケールを800kgとして、テレフタル酸(TPA)900kg及びエチレングリコール376kgをスラリー化後、精留塔を備えたエステル化反応槽に仕込んだ。窒素フローした大気圧下において、内温250℃まで昇温しながら、反応により溜出する所定量の水を系外へ除いてエステル化率95%以上までエステル化反応を進行させて、エステルオリゴマー成分(A)を作製した。その後、水添ダイマー酸及び1,4ブタンジオールからなる酸価1mgKOH/gで水酸基価から算定される平均分子量2200のポリエステルポリオール成分(B)(クローダ製 Priplast(登録商標)3199)180kg(30質量%)を系内へ添加して30分以上攪拌して追加のエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。引き続いて、重縮合反応槽へ送液し、重縮合触媒としてテトラブトキシチタネートをチタン元素換算で50ppm添加して攪拌した後、1時間で1.3kPa以下まで減圧し、この間に内温を250℃から265℃へ引き上げ、13.3kPa以下の高真空下で所定の粘度まで攪拌を行い、重縮合反応を進行させた。反応槽の口金から反応生成物を索状に水中へ押出してペレタイザーでカットして樹脂ペレットを得た。得られたペレットの外観は、淡黄色透明状であった。
【0085】
[樹脂B~Dの製造]
ポリエステル樹脂組成物の質量に対するポリエステルポリオール成分(B)の仕込み量及び極限粘度を樹脂Aとは変えて、樹脂Aと同様にして樹脂B~Eを作製した
【0086】
[樹脂E(PET樹脂)の製造]
通常の方法に基づき、テレフタル酸及びエチレングリコールより、重縮合触媒としてテトラブトキシチタネートをチタン元素換算で5ppm添加して、極限粘度0.44のポリエチレンテレフタレート樹脂を作製した。
【0087】
樹脂A~Eの組成、極限粘度、ガラス転移温度(Tg)、結晶化温度(Tc)及び融点(Tm)を表1に示す。
【0088】
[メルトブローン不織布の製造]
樹脂A~Eを真空乾燥機にて120℃で10時間減圧乾燥させた後、メルトブローン不織布製造装置(新和工業製 SWMB-T100)を用いて、各樹脂を260℃で溶融しφ0.15×201孔の紡糸口金より溶出させ、加熱エアー260℃の条件下で、風量及び冷却条件を調整し、試験例1~9のメルトブローン不織布を得た。ただし、樹脂Eは290℃で溶融させた。試験例1~9のメルトブローン不織布の目付、平均繊維径、引張強さ、及び伸び率を表2に示す。
【0089】
[油水分離装置]
図3に、作製した油水分離装置の概略図を示す。油水分離装置10は、開口径20mmの円弧状のポリ塩化ビニル樹脂製パイプである供給管12と、供給管12の下端の開放端をふさぐように装着されたメルトブローン不織布である油水分離フィルタ1と、を備える。油水分離フィルタ1の下には、油水分離フィルタ1を通過した油を受ける油受け槽33がある。試験例1~8における油通過性及び油水分離効率を表2に示す。
【0090】
[油透過性]
油透過性は、油が油水分離フィルタ1を通過する時間によって導き出した。図3に示すように、供給管12の上側の開放端から10mLのオレイン酸を一気に流し入れ、大気圧下においてすべてのオレイン酸が不織布を通過するのに要した時間を測定し、試験例1の油透過性を1として、測定時間に基づいて試験例2~9の油透過性を相対的に数値化した。
【0091】
[油水分離効率]
油水分離効率は、油水分離フィルタ1に供給した油水混合液からの油の回収率とした。図4に示すように、供給管12の上側の開放端から、オレイン酸5g及び水5gを含む油水混合液10gを一気に流し入れ、20分経過後、大気圧下において油水分離フィルタ1を通過した液体(ろ過液)の質量を測定した。ろ過液は2層に分離しておらず、ろ過液には水が含まれていないことが確認できた。そこで、ろ過液(すなわち、油水分離フィルタ1を通過したオレイン酸)の質量をXgとして、以下の式に基づいて油水分離効率を算出した。
油水分離効率(%)=Xg/5g×100
【0092】
[結果]
樹脂A~Dを用いた試験例において、水は油水分離フィルタ1を通過せず、オレイン酸のみが通過することが確認された。これより、本開示の多孔性フィルムは、油水混合液のうち油のみを選択的に透過させることができることが分かった。
【0093】
PETで不織布を作製した試験例7においては、油水分離効率は低い値となった。一方、試験例7と同様の目付及び平均繊維径を有する試験例1においては油水分離効率を高い値にすることができた。これより、本開示のポリエステル樹脂組成物は、高い油水分離性能を有していることが分かった。
【0094】
樹脂Aを用いた試験例1,2及び6に加えて、成分(A)及び成分(B)の含有率が異なる試験例3~5においても高い油水分離効率を得ることができた。これより、本開示のポリエステル樹脂組成物は、高い油水分離効率を有していることが分かった。高い油水分離効率を得るためには、成分(A)は60質量%以上であると好ましく、65質量%以上であるとより好ましいと考えられる。成分(A)は80質量%以下であると好ましく、75質量%以下であるとより好ましいと考えられる。成分(B)は20質量%以上であると好ましく、25質量%以上であるとより好ましいと考えられる。成分(B)は40質量%以下であると好ましく、35質量%以下であるとより好ましいと考えられる。
【0095】
目付が15g/mである試験例6においても高い油水分離効率が得られた。目付がそれぞれ39g/m、21g/m及び15g/mである試験例1、2及び6を比較すると、目付が大きいほうが油水分離効率が高くなる傾向が見られる。これより、目付は、13g/m以上であると好ましく、15g/m以上であるとより好ましく、18g/m以上であるとより好ましく、23g/m以上であるとより好ましく、30g/m以上であるとさらに好ましいと考えられる。また、樹脂Bを用いた場合であっても目付が95g/mの試験例8においては油水分離効率が低くなってしまった。これおより、目付は、90g/m以下であると好ましく、80g/m以下であるとより好ましいと考えられる。
【0096】
試験例1~6においてはいずれも高い強度及び適切な伸び率を得ることができた。実際、図3及び図4に示すような油水分離装置10を用いた上述の油透過性及び油水分離効率を測定する試験において支障が生じることはなかった。したがって、本開示のポリエステル樹脂組成物で作製したメルトブローン不織布によれば、補強を施すことなく、油水分離に適用することができる。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
[試験例9]
樹脂Fとしてポリプロピレンについても上記試験例と同様にしてメルトブローン不織布を作製して水の接触角、油透過性及び油水分離効率を測定した。油通過性及び油水分離効率は試験例1~8と同様にして測定した。水の接触角は、接触角計CA-DT(協和界面科学社製)を用いて接戦法にて測定した。結果を表3に示す。表3には、比較対照として試験例1の不織布の測定結果を示す。表3に示す油通過比は、試験例1の油通過性を1としたときの比である。
【0100】
試験例1よりも水の接触角が高い、すなわち撥水性の高いポリプロピレンを用いた試験例9においては、試験例1よりも油通過性及び油水分離効率が共に低くなった。したがって、撥水性は油水分離性能に大きく影響はしていないと考えられる。
【0101】
【表3】
【0102】
[試験例10~14]
本開示の多孔性フィルムが油水分離に適用可能な油について調査した。試験例1の多孔性フィルムを用いて、表4に示す油について、試験例1~8における油水分離効率を測定する試験と同様にして油水分離効率を測定した。表4及び図5に測定結果を示す。試験例11及び12における機械油A及び機械油Bは潤滑油基油である。試験例13における機械油Cは石油系炭化水素(鉱油)である。試験例14における熱媒油は水素化トリフェニルである。表4に示す動粘度及び粘度は、油水分離試験を行った環境である24℃における値である。また、比較対照として試験例7のデータも表4に示す。
【0103】
本開示の多孔性フィルムによればいずれの油も分離することができた。水の通過も確認されなかった。また、上記試験例で示したように、本開示の多孔性フィルムによれば、PET(樹脂E)よりも油水分離効率が向上している。したがって、本開示の多孔性フィルムは、油の動粘度及び粘度によらず適用可能であることが分かった。なかでも各油のうち、動粘度の低い油について高い油水分離効率を得ることができた。これより、本開示の多孔性フィルムは、低動粘度の油に好適に適用できることが分かった。
【0104】
なお、試験例12~14において分離効率の値が低くなっているが、これは本開示の多孔性フィルムの分離性能が低いことを示すものではない。また、動粘度及び粘度の高い油に対して分離性能が低いことを示すものでもない。動粘度が高くなるにつれて油が分離膜を通過する速度は低くなる。すなわち、単位時間当たりの油の通過量は少なくなる。試験例1~14においては、一定の通過時間(20分間)における通過量を測定しているため、動粘度が高い油は通過量が少なくなり、数字上、分離効率は小さい値となっている。
【0105】
【表4】
【0106】
本開示の多孔性フィルム及び油水分離装置は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0107】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0108】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本開示の多孔性フィルムは、油に対する高い選択性が要求される吸油材、油水分離フィルタ等に適用することができる。また、表面加工によって油水分離性能を調整することができる。
【0110】
本開示の多孔性フィルムは、強度及び適度な伸縮性を有しているので、マスク、医療シート等の医療用途及び衛生用途、エアーフィルタ等の工業用途等に適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 油水分離フィルタ
10,20 油水分離装置
12 供給管
12a 第1部
12b 曲折部
12c 第2部
13 排液管
21 貯液槽
22 排液管
31 油
32 水
33 油受け槽
図1
図2
図3
図4
図5