(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】構造物の剥落防止構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220105BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20220105BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220105BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
E04G23/02 A
E21D11/00 Z
E01D22/00 A
E02D17/20 103A
(21)【出願番号】P 2017207854
(22)【出願日】2017-10-27
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】牛島 康仁
(72)【発明者】
【氏名】上田 康成
【審査官】齋藤 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056506(JP,A)
【文献】特開2001-355343(JP,A)
【文献】特開2011-179197(JP,A)
【文献】特開2017-036592(JP,A)
【文献】特開2006-009266(JP,A)
【文献】特開2011-202397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E21D 11/00 - 19/06
E21D 23/00 - 23/26
E01D 1/00 - 24/00
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に沿って略密接して配置される網目状の剥落防止ネットと、
前記剥落防止ネットに対して前記構造物と逆側に設けられ、前記剥落防止ネットを定置させる帯板と、
前記帯板を前記構造物に固定するアンカー部材を備え、
前記帯板の前記剥落防止ネット側に複数の突起が間隔を開けて形成され、前記複数の突起がそれぞれ前記剥落防止ネットの網目に対応して入り込んでいる
と共に、
前記剥落防止ネットが、PVCコーティングされたPETメッシュであることを特徴とする構造物の剥落防止構造。
【請求項2】
前記帯板の幅方向の中央部に前記アンカー部材の挿通孔が形成され、
前記中央部の両側の領域に、前記帯板の長手方向に間隔を開けて複数の前記突起がそれぞれ列設されていることを特徴とする請求項1記載の構造物の剥落防止構造。
【請求項3】
前記アンカー部材が、樹脂注入式の拡開アンカーであり、
前記拡開アンカーの拡開部が拡開され且つ前記拡開アンカーの隙間に硬化樹脂が充填された状態で、前記拡開アンカーが前記構造物に固定され、
前記拡開アンカーの後端近傍に設けられている鍔部で前記帯板が前記構造物側に
押さえられるように付勢されていることを特徴とする
請求項1又は2記載の構造物の剥落防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル、橋梁等の構造物からコンクリート躯体の劣化表層部位が剥落することを防止する構造物の剥落防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル、橋梁等の構造物からコンクリート躯体の劣化表層部位が剥落するのを防止する構造として、構造物の表面に網目状の剥落防止ネットを配置し、剥落防止ネットに対して構造物と逆側に帯状の押さえ板を配置し、アンカーボルトを押さえ板と剥落防止ネットに挿通して構造物に打ち込み、押さえ板で押さえて剥落防止ネットを構造物の表面に固定する構造が知られている。この構造は、設置後にも構造物の表面を目視することが可能であり、構造物の表面の状態を確認、点検することができるというメリットがある(特許文献1(段落[0001]、[0004]、[0020]、[0027]、
図3)、特許文献2(段落[0002]、[0015]、
図1~
図4)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-293150号公報
【文献】特開2007-120231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の帯状の押さえ板で押さえて剥落防止ネットを構造物の表面に固定する構造は、剥落防止ネットを帯状の押さえ板で押さえ付けているだけであるため、剥落防止ネットに荷重がかかると、アンカーボルトや鋲と係合している剥落防止ネットの糸に荷重が集中してしまい、その部分の糸が切断する恐れがある。また、押さえ板と剥落防止ネットが設置時にズレていたり、或いは設置した位置から後にズレてしまい、剥落防止ネットが弛んだり、垂れ下がってしまう場合が生ずる。斯様な剥落防止ネットの弛みや垂れ下がりは躯体表面から剥落防止ネットを離れさせて剥落を許容することとなる。また、構造物の表面の目視点検の障害ともなる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、剥落防止ネットの局所的な荷重の集中による糸の局所的な切断を防止し、更に、設置位置からの位置ずれを防止し、剥落防止ネットの弛みや垂れ下がりを無くして、構造物の表面に剥落防止ネットを安定的に略密接させ、高い安定性で大荷重の剥落を防止することができると共に、良好な目視点検を行うことを可能にする構造物の剥落防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の構造物の剥落防止構造は、構造物の表面に沿って略密接して配置される網目状の剥落防止ネットと、前記剥落防止ネットに対して前記構造物と逆側に設けられ、前記剥落防止ネットを定置させる帯板と、前記帯板を前記構造物に固定するアンカー部材を備え、前記帯板の前記剥落防止ネット側に複数の突起が間隔を開けて形成され、前記複数の突起がそれぞれ前記剥落防止ネットの網目に対応して入り込んでいると共に、前記剥落防止ネットが、PVCコーティングされたPETメッシュであることを特徴とする。
これによれば、帯板の突起が剥落防止ネットの網目に入り込むことによって剥落防止ネットにかかる荷重が帯板に沿って平均的に分散されるので、ネットを構成する糸の局所的な切断がなく、大荷重の剥落に耐えることができる。また、帯板と剥落防止ネットの位置関係を固定することができ、剥落防止ネットの設置位置からの位置ずれを防止することができる。従って、剥落防止ネットの弛みや垂れ下がりを無くして、構造物の表面に剥落防止ネットを略密接させ、安定して沿設することができることから、高い安定性で大荷重の剥落を防止することができる。また、剥落防止ネットの位置ずれ、弛み、垂れ下がりを防止し、剥落防止ネットを構造物の表面に安定して略密接させることができることから、構造物の表面に対する良好な目視点検を行うことが可能となる。
【0007】
また、剥落防止ネットをPVCコーティングされたPETメッシュとすることにより、剥落防止ネットの剛性を高め、剥落防止ネットの緩みや垂れ下がりをより確実に防止することができる。更に、PVCコーティングされたPETメッシュは所定の剛性を有すると共に所定の可撓性を有し、例えばトンネルの内周面等のように湾曲した構造物の表面にも沿うように追従することが可能であり、汎用性に優れる剥落防止ネットとすることができる。また、剥落防止ネットをPVCコーティングされたPETメッシュとすることにより、剥落防止ネットの耐候性、耐水性、耐久性を向上することができ、ひいては剥落防止構造の耐久性を高めることができる。更に、PVCコーティングされたPETメッシュは現場で所要の寸法に切断して使用可能であり、構造物の表面の形状が複雑な場合でも対応することができ、施工現場への高い適応力を有する。
【0008】
本発明の構造物の剥落防止構造は、前記帯板の幅方向の中央部に前記アンカー部材の挿通孔が形成され、前記中央部の両側の領域に、前記帯板の長手方向に間隔を開けて複数の前記突起がそれぞれ列設されていることを特徴とする。
これによれば、帯板幅方向の両側領域にそれぞれ長手方向に列設される複数の突起を剥落防止ネットの網目に入り込ませることにより、アンカー部材による固定部分の両側で荷重を分散支持させることができると共に、両側で剥落防止ネットの位置関係を固定することができ、剥落防止ネットの荷重分散効果と位置ずれ防止効果をより高い安定性で発揮することができる。また、帯板幅方向の両側領域に列設される複数の突起を構造物の表面を押圧するようにして構造物の表面に略当接させ、帯板を幅方向において剥落防止ネットや構造物の表面と略並行にした状態で設置、固定することができ、帯板の設置状態の安定性を高めることができる。
【0009】
本発明の構造物の剥落防止構造は、前記アンカー部材が、樹脂注入式の拡開アンカーであり、前記拡開アンカーの拡開部が拡開され且つ前記拡開アンカーの隙間に硬化樹脂が充填された状態で、前記拡開アンカーが前記構造物に固定され、前記拡開アンカーの後端近傍に設けられている鍔部で前記帯板が前記構造物側に押さえられるように付勢されていることを特徴とする。
これによれば、樹脂注入式の拡開アンカーにより、アンカー部材と帯板を高い強度で且つ安定して構造物の奥のほう、即ち剥落が懸念される脆弱な表層部ではなく健全な躯体深部に固定することができ、剥落防止ネットの設置状態の安定性をより高めることができる。また、コンクリート躯体の表層部位に劣化の兆候がありアンカーの機械定着力にムラがある場合でも、樹脂注入によってアンカー定着力を安定的に確保することができる。さらに、拡開アンカーの後端近傍の鍔部で帯板を付勢することにより、拡開アンカーの後端部にナットを設ける必要が無くなり、ナットが落下する危険性を無くすことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構造物の剥落防止構造によれば、剥落防止ネットの局所的な荷重の集中による糸の局所的な切断を防止し、更に、設置位置からの位置ずれを防止し、剥落防止ネットの弛みや垂れ下がりを無くして、構造物の表面に剥落防止ネットを安定的に略密接させ、高い安定性で大荷重の剥落を防止することができると共に、構造物の表面に対する良好な目視点検を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による実施形態の構造物の剥落防止構造をトンネル内壁に設置した状態を示す斜視説明図。
【
図2】実施形態の構造物の剥落防止構造の部分正面図。
【
図3】実施形態の構造物の剥落防止構造の部分横断面図。
【
図4】実施形態の構造物の剥落防止構造の部分縦断面図。
【
図5】実施形態の構造物の剥落防止構造における剥落防止ネットを構造物の表面に沿って配置した状態の模式斜視図。
【
図6】実施形態の構造物の剥落防止構造における剥落防止ネットに帯板を当てて構造物側から視た状態の模式斜視図。
【
図7】(a)は実施形態の構造物の剥落防止構造における剥落防止ネットの部分斜視図、(b)は実施形態の構造物の剥落防止構造における帯板の部分斜視図。
【
図8】(a)は
図7(a)の剥落防止ネットを湾曲させた状態の部分斜視図、(b)は
図7(b)の帯板を湾曲させた状態の部分斜視図。
【
図9】本発明における剥落防止ネットと帯板の取付状態の変形例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態の構造物の剥落防止構造〕
本発明による実施形態の構造物の剥落防止構造は、例えばトンネル、橋梁等の構造物に設けられ、好ましくはコンクリートで形成されているコンクリートの構造物に対して設けられる。
図1の例では、トンネルのコンクリート躯体100を構造物として、本実施形態の構造物の剥落防止構造が設置されている。
【0013】
そして、本実施形態の構造物の剥落防止構造では、
図1~
図5に示すように、トンネルのコンクリート躯体100の内周面である表面に沿い且つその表面に略密接若しくは密接して網目状の剥落防止ネット1が配置されている。剥落防止ネット1は、コンクリート躯体100の表面に沿うように張設されており、複数の剥落防止ネット1が隣接配置若しくは近接配置により、又は 隣り合う剥落防止ネット1・1の端部同士を重ね合わせる配置により、トンネル軸方向に並べて設けられている。尚、剥落防止ネット1をトンネルのコンクリート躯体100の内周面に設ける場合には、少なくともトンネルの上半分の天端から側壁にかけて設けることが好ましい。
【0014】
剥落防止ネット1は、網目状又は格子状に形成され、コンクリート躯体100の表層部位の剥落を防止を可能に一定間隔で糸の間に網目11が設けられているものであれば使用可能であり、例えば縦5~20mm、横5~20mmの目合、好ましくは縦10~15mm、横10~15mmの目合のネットとする。また、剥落防止ネット1の織り方は適宜であるが、例えば絡み織又は平織とすると良好である。
【0015】
更に、剥離防止ネット1は、耐水性、耐久性、耐候性に優れ、所要の引張強度と剛性を有すると共に所要の可撓性を有し、例えばトンネルの内周面等のように湾曲した構造物の表面にも沿うように追従可能な構成のものとすると好適であり、本実施形態ではこのような構成の剥落防止ネット1として、PET(ポリエチレンテレフタレート)メッシュをPVC(ポリ塩化ビニル)でコーティングしたものを用いている。
【0016】
コンクリート躯体100の表面に沿って配置された剥落防止ネット1に対してコンクリート躯体100の逆側には、剥落防止ネット1を定置させる細長板状の帯板2が設けられ、帯板2も構造物であるコンクリート躯体100の表面の形状に倣うようにして設置されている(
図1~
図8参照)。本実施形態における帯板2は、耐水性、耐久性、耐候性に優れ、剥落防止ネット1よりも厚く剥落防止ネット1よりも高い剛性、強度を有すると共に、剥落防止ネット1よりも低いがある程度の可撓性を有する材質、形状で形成され、例えばトンネルの内周面等のように湾曲した構造物の表面にも沿うように追従可能な構成になっており、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)等で形成された各種の構造物の表面に適応可能な高汎用性のものになっているが、例えば耐水性、耐久性、耐候性に優れ、トンネル内周面等の湾曲形状に倣った曲率で厚み方向に曲がって湾曲した形状で形成されている構成とすることも可能である。
【0017】
剥落防止ネット1を定置させる帯板2は、トンネル軸方向に間隔を開けて複数設けられている。帯板2の設置間隔は適宜であるが、剥落防止ネット1の弛み防止を確実にする観点から最大で800mmとすることが好ましい。尚、剥落防止ネット1がトンネルの上半分の天端から側壁にかけて設けられている場合、これに対応して帯板2もトンネルの上半分の天端から側壁にかけて設けることが好ましいが、このトンネルの上半分の天端から側壁にかけて設ける帯板2は、トンネルの上半分の天端から側壁にかけて周方向に一連の帯板2とする構成以外に、複数の帯板2で構成することも可能であり、更には、天端周辺に設置される帯板2と、天端周辺よりも下に位置する側壁に設置される帯板2をトンネル軸方向に位置をずらして設置する構成とすることも可能である。
【0018】
帯板2には、幅方向の中央部にアンカー部材の挿通孔21が貫通して形成され、挿通孔21は帯板2の長手方向に間隔を開けて複数設けられている。帯板2の中央部の両側の領域には剥落防止ネット1側に複数の突起22が間隔を開けて形成されており、この両側の領域に、帯板21の長手方向に間隔を開けて複数の突起22がそれぞれ列設されている。本実施形態では、帯板2の中央部の両側の領域のそれぞれに、縦横配列で突起22が形成されており、帯板2の幅方向に一定間隔を開けて2個並び、この2個の突起22が帯板2の長手方向に一定間隔を開けて列設されている。
【0019】
複数の突起22の設置間隔は、剥落防止ネット1の網目11に各突起22が対応して入り込む寸法で設定されており、本実施形態では、縦横配列の複数の突起22が、剥落防止ネット1の縦横配列で隣接する網目11に、それぞれ対応して入り込んでいる。また、各突起22の形状、大きさは、剥落防止ネット1の網目11にスムーズに入り込ませられる形状、大きさになっており、図示例の突起22の形状は略円柱形になっている。剥落防止ネット1の網目11に入り込んだ突起22は、その先端が構造物の表面であるコンクリート躯体100の内周面に略当接するようにして配置されている。
【0020】
帯板2は、帯板2を構造物に固定するアンカー部材である拡開アンカー3でコンクリート躯体100に固定されている。本実施形態における拡開アンカー3は、所謂樹脂注入口付アンカーピンであり、内側が中空部の略筒状の本体31を有し、本体31の先端寄りの外周に沿って弧状溝32が形成されていると共に、本体31の先端から長手方向に弧状溝32を超えてスリット33が切り込まれており、弧状溝32より先端側がスリット33で分割された拡開部34になっている。
【0021】
本体31の中空部には、前部が後方に向かって拡径する略截頭円錐形、後部が略円柱形の形状である拡開体35が内装されている。本体31の中空部の先端側の部分は、内側に突出する段部を介して拡開体35の最大外径よりも小さな内径で形成され、この中空部は本体31の先端に達しない位置まで形成されている。また、本体11の後端近傍には外方に突出する周状の鍔部36が設けられ、鍔部36の中央には本体31の中空部に連通する開口が形成されている。鍔部36の先端側にはブチルシール等の環状シール材37が鍔部36の先端面に隣接するようにして本体31に外嵌されている。
【0022】
拡開アンカー3の設置の際には、コンクリート躯体100に穿孔101を形成し、コンクリート躯体100の表面に沿って剥落防止ネット1を配置し、剥落防止ネット1の網目11に対応させて突起22を入り込ませるようにして帯板2を配置する。そして、帯板2を押させるようにしてワッシャー4を配置し、ワッシャー4と帯板2の挿通孔21に非拡開状態の拡開アンカー3を挿通させ、非拡開状態のままで拡開アンカー3を打ち込んで剥落防止ネット1を部分的に破って貫通させ、非拡開状態の拡開アンカー3を穿孔101に挿入する。これにより、拡開アンカー3の鍔部36で環状シール材37、ワッシャー4を介して帯板2がコンクリート躯体100の逆側から押さえられる。
【0023】
その後、
図3及び
図4に示すように、穿孔101内に挿入した拡開アンカー3の拡開体35を本体31の中空部に連通する開口から打込棒を挿入して打ち込み、拡開体35に中空部の段部を通り越させて拡開部34を拡開させ、拡開部34を孔壁に食い込ませて拡開アンカー3をコンクリート躯体100に機械定着する。この拡開アンカー3の機械定着により、鍔部36で環状シール材37、ワッシャー4を介してコンクリート躯体100側に付勢される帯板2はコンクリート躯体100の表面に倣うように固定され、突起22の網目11への入り込みで位置決めされる剥落防止ネット1は、コンクリート躯体100の表面に沿うようにして且つコンクリート躯体100の表面から離れないようにして、固定された帯板2で支持される。
【0024】
更に、本実施形態の拡開アンカー3は樹脂注入式でコンクリート躯体100に固定されている。即ち、拡開部34が拡開された拡開アンカー3の中空部に注入器具(不図示)を用いて2液混合硬化型エポキシ樹脂等の樹脂を注入して、中空部の内部に樹脂を充填すると共に、スリット33から穿孔101と拡開アンカー3との隙間の部分への流れ込みによって穿孔101内に樹脂を充填することにより、拡開アンカー3の中空部の隙間と穿孔101の隙間に所定時間経過で硬化した硬化樹脂5が充填されている。さらに、高浸透性の樹脂を注入すれば、劣化したコンクリート躯体100におけるアンカー打設部位の改質も同時に行われる。
【0025】
本実施形態によれば、帯板2の突起22の剥落防止ネット1の網目11への入り込みにより、剥落防止ネット1にかかる荷重が帯板2に沿って平均的に分散されるので、ネット1を構成する糸の局所的な切断がなく、大荷重の剥落に耐えることができる。また、帯板2と剥落防止ネット1の位置関係を固定することができ、剥落防止ネット1の設置位置からの位置ずれを防止することができる。従って、剥落防止ネット1の弛みや垂れ下がりを無くして、コンクリート躯体100等の構造物の表面に剥落防止ネット1を略密接させ、安定して沿設することができることから、高い安定性で大荷重の剥落を防止することができる。また、剥落防止ネットの位置ずれ、弛み、垂れ下がりを防止し、剥落防止ネットを構造物の表面に安定して略密接させることができることから、構造物の表面に対する良好な目視点検を行うことが可能となる。
【0026】
また、帯板幅方向の両側領域にそれぞれ長手方向に列設される複数の突起22を剥落防止ネット1の網目11に入り込ませることにより、拡開アンカー3による固定部分の両側で荷重を分散支持させることができると共に、両側で剥落防止ネット1の位置関係を固定することができ、剥落防止ネット1の荷重分散効果と位置ずれ防止効果をより高い安定性で発揮することができる。更に、帯板幅方向の両側領域に列設される複数の突起22を構造物の表面を押圧するようにして構造物の表面に略当接させ、
図3のように、帯板2を幅方向において剥落防止ネット1や構造物の表面と略並行にした状態で設置、固定することができ、帯板2の設置状態の安定性を高めることができる。
【0027】
また、剥落防止ネット1をPVCコーティングされたPETメッシュとすることにより、剥落防止ネット1の剛性を高め、剥落防止ネット1の緩みや垂れ下がりをより確実に防止することができる。更に、PVCコーティングされたPETメッシュは所定の剛性を有すると共に所定の可撓性を有し、例えばトンネルの内周面等のように湾曲した構造物の表面にも沿うように追従することが可能であることから、汎用性に優れる剥落防止ネット1とすることができる。更に、剥落防止ネット1の耐候性、耐水性、耐久性を向上することができ、ひいては剥落防止構造の耐久性を高めることができる。更に、PVCコーティングされたPETメッシュは現場で所要の寸法に切断して使用可能であり、構造物の表面の形状が複雑な場合でも対応することができ、施工現場への高い適応力を有する。
【0028】
また、樹脂注入式の拡開アンカー3により、拡開アンカー3と帯板2を高い強度で且つ安定して構造物の奥のほう、即ち剥落が懸念される脆弱な表層部ではなく健全な躯体深部に固定することができ、剥落防止ネット1の設置状態の安定性をより高めることができる。また、コンクリート躯体100の表層部位に劣化の兆候がありアンカーの機械定着力にムラがある場合でも、樹脂注入によってアンカー定着力を安定的に確保することができる。さらに、拡開アンカー3の後端近傍の鍔部36で帯板2を付勢することにより、拡開アンカーの後端部にナットを設ける必要が無くなり、ナットが落下する危険性を無くすことができる。
【0029】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0030】
例えば本発明の構造物の剥落防止構造には、帯板の前記剥落防止ネット側に複数の突起が間隔を開けて形成され、複数の突起がそれぞれ剥落防止ネットの網目に対応して入り込んでいる適宜の構造が包含され、例えば帯板の幅方向中央部の両側の領域のそれぞれに、帯板の長手方向に一定間隔を開けて突起が一列で列設されている構成、又は、帯板の幅方向における一方側にアンカー部材の挿通孔が形成され、他方側に複数の突起が設けられ、帯板が幅方向に傾いた状態で構造物の表面に取り付けられる構成等とすることが可能である。また、本発明は、帯板の隣り合う複数の突起が剥落防止ネットの隣接する網目に対応して入り込む構成に限定されず、例えば帯板の隣り合う複数の突起が剥落防止ネットの一つ置き等の複数置きの網目に対応して入り込む構成とすることも可能である。
【0031】
また、本発明におけるアンカー部材は、上記実施形態の樹脂注入式の拡開アンカー3に限定されず、帯板を構造物に固定する適宜のアンカー部材が含まれる。例えば、スリーブ打込み式アンカーを用いて、そのボルトを帯板2の挿通孔21に挿通させ、ナット締めする方式にしておけば、剥落防止ネット1や帯板2を交換する必要が生じた場合に、ナットを外すだけでネット1や帯板2を交換して、アンカー本体をそのまま再利用することができる。また、アンカー部材の設置間隔は、これに対応する帯板のアンカー部材の挿通孔相互の間隔は適宜であり、例えば400~500mm程度とすることが好ましい。
【0032】
また、本発明における剥落防止ネットは、例えば絡み織で形成したPETメッシュをPVCコーティングしたもの等とすると、緯糸と経糸との交点の摩擦力が高いため、荷重がかかった際に全体的に荷重を分散させることができ好適であるが、剥落防止ネットの構成はこれに限定されず、本発明の趣旨の範囲内で適宜の剥落防止ネットを用いることが可能である。更に、本発明における剥落防止ネットの網目は、縦横配列の網目に限定されず適宜であり、例えば千鳥配置の網目等とし、これに対応して帯板の突起をこの網目に入り込む位置に形成する構成とすることが可能である。
【0033】
また、本発明における剥落防止ネットの長さと幅、帯板の長さと幅は、本発明の趣旨の範囲内で適宜設定することが可能である。また、帯板は上述のGFRPのように現場で所要の寸法に切断して使用可能なものとすることが好ましく、これにより、構造物の表面の形状が複雑な場合でも対応することができ、施工現場への高い適応力を得ることができるが、この目的を達成することが出来る材質であればGFRPに限定されない。また、構造物の表面の湾曲形状の曲率が大きい場合等で剥落防止ネットに弛みが発生し易い場所には、帯板2のトンネル軸方向における設置間隔を調整したり、帯板2よりも短尺の帯板2a、2b等を追加で補助帯板として帯板2・2間に設置することも可能である(
図9参照)。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、例えばトンネル内壁、橋梁下部等で剥離片の落下を防止する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…剥落防止ネット 11…網目 2、2a、2b…帯板 21…挿通孔 22…突起 3…拡開アンカー 31…本体 32…弧状溝 33…スリット 34…拡開部 35…拡開体 36…鍔部 37…環状シール材 4…ワッシャー 5…硬化樹脂 100…コンクリート躯体 101…穿孔