(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】Al2O3未含有のケイ酸リチウムガラス組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/836 20200101AFI20220105BHJP
A61K 6/833 20200101ALI20220105BHJP
A61K 6/838 20200101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K6/836
A61K6/833
A61K6/838
(21)【出願番号】P 2017068807
(22)【出願日】2017-03-30
【審査請求日】2020-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2016073117
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 大輔
(72)【発明者】
【氏名】寺前 充司
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-517337(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104108883(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0241991(US,A1)
【文献】特開平11-314938(JP,A)
【文献】特表2015-525180(JP,A)
【文献】特開2012-056835(JP,A)
【文献】特開昭64-032867(JP,A)
【文献】特開平10-101409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/836
A61K 6/833
A61K 6/838
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
SiO
2:60.0~80.0 wt%
Li
2O:10.0~17.0 wt%
K
2O:0.5~10.0 wt%
ZrO
2:0.0~5.0wt%
核生成材:1.0~6.0 wt%
ガラス安定化材:
0.5~
7.0 wt%
着色材:0.0~10.0 wt%
のみからなり、
核生成材は、P
2O
5、TiO
2、
WO
3
、Pt及び
Agから選択される1以上からなり、
ガラス安定化材は、
CaO、SrO、BaO、ZnO、Y
2O
3、Ta
2O
5、Sb
2O
3、GeO
2及びB
2O
3から選択される1以上からなり、
着色材は、MnO、Fe
2O
3、Tb
4O
7、Eu
2O
3、Ni
2O
3、Co
2O
3、Cr
2O
3、SnO
2、CeO
2、Nd
2O
3、Pr
6O
11、Sm
2O
3、V
2O
5、Dy
2O
3、Ho
2O
3及びEr
2O
3から選択される1以上からなる
Al
2O
3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス組成物であって、
SiO
2:60.0~75.0 wt%
Li
2O:12.0~17.0 wt%
K
2O:2.0~8.0 wt%
ZrO
2:0.1~5.0 wt%
核生成材:1.0~5.0 wt%
ガラス安定化材:0.5~7.0 wt%
着色材:0.5~10.0 wt%
である、Al
2O
3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラス組成物であって、
核生成材としてP
2O
5を含む、歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のガラス組成物であって、
着色材としてCeO
2を含む、歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のガラス組成物の熱処理物であって、メタケイ酸リチウム結晶及び/又は二ケイ酸リチウム結晶の析出物を有する歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックス。
【請求項6】
請求項5の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの熱圧成形物、機械加工物及び/又は築盛・焼成物からなる歯冠修復物。
【請求項7】
以下の成分:
SiO
2
:60.0~80.0 wt%
Li
2
O:10.0~17.0 wt%
K
2
O:0.5~10.0 wt%
ZrO
2
:0.0~5.0wt%
核生成材:1.0~6.0 wt%
ガラス安定化材:0.5~7.0 wt%
着色材:0.0~10.0 wt%
のみからなり、
核生成材は、P
2
O
5
、TiO
2
、WO
3
、V
2
O
5
、Pt及びAgから選択される1以上からなり、
ガラス安定化材は、CaO、SrO、BaO、ZnO、Y
2
O
3
、Ta
2
O
5
、Sb
2
O
3
、GeO
2
及びB
2
O
3
から選択される1以上からなり、
着色材は、MnO、Fe
2
O
3
、Tb
4
O
7
、Eu
2
O
3
、Ni
2
O
3
、Co
2
O
3
、Cr
2
O
3
、SnO
2
、CeO
2
、Nd
2
O
3
、Pr
6
O
11
、Sm
2
O
3
、Dy
2
O
3
、Ho
2
O
3
及びEr
2
O
3
から選択される1以上からなる
Al
2
O
3
を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科分野の審美修復治療に用いられるセラミックス製歯冠修復物の作製に用いられるAl2O3を含まないケイ酸リチウムガラス組成物及びそれを熱処理したガラスセラミックス並びに、それを用いて作製した歯冠修復物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科分野の審美修復治療においてはセラミックス製の歯冠修復物が臨床に用いられてきたが、それらの殆どはリューサイト結晶(KAlSi2O6)を含んだガラスセラミックスであった。このリューサイト結晶はその周囲にあるガラスマトリックスと屈折率が近似しているため、その結晶を含んだガラスセラミックスは透明性を有しており、その結果審美性が優れた歯冠修復物の作製が可能であった。しかしながら、リューサイト結晶は樹枝状形態であるため、ガラスセラミックス内部で発生したクラックの進展を抑制させることができず、高い材料強度を得ることができなかった。
そこで、近年、高強度を発現するガラスセラミックスとしてケイ酸リチウムガラスセラミックスが臨床で応用されてきている。このケイ酸リチウムガラスセラミックスはケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することにより特徴的な形態の結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が高密度に析出するものであり、これらの結晶同士が絡み合う構造になっていることからクラックの伸展を抑制し、且つ高い材料強度を発現する。現在、これらのケイ酸リチウムガラスセラミックスは歯科分野において様々な用途に使用が拡大されてきており、例えば築盛・焼成用の粉末陶材及びプレス成形用又はCAD/CAM機械加工用セラミックブランク等が挙げられる。さらに、これらケイ酸リチウムガラス組成物に関する先行技術も近年数多く報告されている。
【0003】
特許文献1にはケイ酸リチウムガラス組成中にAl2O3を含むことにより、意図的に主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)以外の様々な結晶(スポジュメンをはじめとするリチウムアルミニウムシリケート化合物等)も析出させて、材料強度を向上するとの記載がある。
特許文献2にはケイ酸リチウムガラス組成中に1.0wt%未満のZnOを含み、SiO2とLi2Oとの比及びAl2O3とK2Oとの比を調整することで材料強度を維持しつつ、透明性を向上させることが可能であるとの記載がある。
特許文献3にはケイ酸リチウムガラス組成中にAl2O3を含み、且つZrO2及びTiO2を含むことにより、意図的に主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)以外の様々な結晶(リチウムチタンオキシドシリケート及びスポジュメンをはじめとするリチウムアルミニウムシリケート化合物等)も析出させて、材料強度を向上するとの記載がある。
【0004】
これらの先行技術はいずれもケイ酸リチウムガラス組成中にAl2O3を含んだガラス組成になっている。Al2O3は化学的耐久性において有利に働く成分であるため、Al2O3を含んだケイ酸リチウムガラスセラミックスは口腔内で使用した際にもガラス成分の溶出を抑制するなど高い化学的耐久性を発現させて安定なガラス組成物を構築することができる。また、Al2O3はガラス形成酸化物の一種であるため、ガラス骨格を強化してガラスの耐久性向上にも寄与し、さらにガラスブランクを作製する際の冷却過程においても、失透(結晶の析出)を抑制する効果も有している。
しかしながら、ケイ酸リチウムガラス組成中にAl2O3を含んだ場合、ケイ酸リチウムガラス組成から析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)だけでなく、組成中のLi2Oとの反応により様々な結晶(スポジュメンをはじめとするリチウムアルミニウムシリケート化合物等)も熱処理により析出するために、材料強度の低下を招き、歯科用ガラスセラミックスに求められる高い材料強度を発現させることができない結果となる。また、ケイ酸リチウムガラス組成中に核生成材としてP2O5を添加している場合は、熱処理により組成中のAl2O3とP2O5が反応してリン酸アルミニウム等の結晶も析出するため、核生成材としてP2O5を添加することは材料強度の低下をさらに助長するものであった。さらに、先行技術のケイ酸リチウムガラス組成においては、Al2O3の存在により、熱処理後に析出する前述の様々な種類の結晶と残存するガラス相との間で屈折率差が生じるため、熱処理後のケイ酸リチウムガラスセラミックスが不透明なものになる等、作製する歯冠修復物の審美性において大きな課題があった。
【0005】
また、従来から行われているガラス又はガラスセラミックスインゴットを圧入したプレス法による歯冠修復物の作製においては、鋳型としてリン酸塩系埋没材を使用する。この時、ケイ酸リチウムガラス組成物からなるケイ酸リチウムガラス又はガラスセラミックスインゴットの組成中にAl2O3を含んでいると、圧入した際に埋没材に含まれるリン酸塩との反応によりケイ酸リチウムガラスセラミックス表面にリン酸アルミニウム等の様々な結晶(表面反応層)が析出するために、透明性や材料強度の低下を招く恐れがあった。また、このケイ酸リチウムガラスセラミックス表面の反応層は、歯冠修復物の面荒れにつながるため、技工作業を悪化させる要因にもなっていた。
よって、従来のケイ酸リチウムガラス組成物では組成中に含まれているAl2O3の影響により、高強度化を図るための主結晶を効率よく析出させることができず、組成中のLi2OやP2O5との反応により様々な結晶も析出するために、歯科用ガラスセラミックスに求められる高い材料強度を発現させることができなかった。また、様々な結晶の析出は材料強度だけでなく透明性にも悪影響を及ぼす結果となっていた。
このように、歯科分野における審美修復治療において用いられるセラミックス製の歯冠修復物は、過酷な咬合圧にも耐えうる高い機械的強度や天然歯類似の審美性が求められるものの、未だそれらの要求特性を満足できるケイ酸リチウムガラス組成物はないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO2012/091201A1号
【文献】米国特許第8546280号公報
【文献】特許第5156031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、熱処理することにより針状形態を含む様々な結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を高密度に析出させ、その結晶同士が絡み合う構造をとることによってクラックの伸展を抑制して高強度化を発現するものであった。また、このような従来の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物においては、化学的耐久性、ガラス安定性、透明性等を向上させる目的でケイ酸リチウムガラス組成中にAl2O3を配合する試みも多く認められるものの、組成中のAl2O3はLi2OやP2O5との反応により主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)以外の様々な結晶も析出するために、主結晶の析出と成長を抑制することとなり、材料強度や透明性の低下を招く結果となっていた。
そこで本発明の目的は、Al2O3を含まない特定の酸化物含有組成からなる歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を提供することにより、熱処理後においても効率良く主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を析出させることができる歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックス、及びそれを熱圧成形、機械加工、築盛・焼成により製造された歯冠修復物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究の結果、特定の酸化物含有量範囲からなる歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物で、且つAl2O3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物とすることにより、熱処理後において針状形態を含む様々な結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を効率よく高密度に析出させ、歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの高強度化を図れることを見出し、本発明を提案するに至った。従来技術ではガラス安定性や化学的耐久性の向上を目的としてAl2O3が添加されていたものの、本発明においてはAl2O3と同じガラス形成酸化物として作用するZrO2をAl2O3の代わりに添加することによって、ガラス安定性や化学的耐久性を維持した上で歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの高強度化に成功したのである。さらに従来は熱処理後の歯科ケイ酸リチウムガラスセラミックスにおいて主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)とその周囲のガラスマトリックスにおいて屈折率差があるために不透明なガラスセラミックスであった。この点本発明においてはガラスマトリックスを形成するガラス形成酸化物としてAl2O3の代わりに例えばZrO2を添加している。ZrO2はイオン半径が大きいことから主結晶周囲のガラスマトリックスの屈折率を上げることできるため、主結晶との屈折率差が少なくなり、その結果、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理した歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの透明性を向上させることができることも同時に見出し、本発明を完成させたのである。
【0009】
即ち本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、
以下の成分:
SiO2:60.0~80.0 wt%
Li2O:10.0~17.0 wt%
K2O:0.5~10.0 wt%
ZrO2:0.0~5.0wt%
核生成材:1.0~6.0 wt%
ガラス安定化材:0.0~8.0 wt%
着色材:0.0~10.0 wt%
を含み、Al2O3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物である。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、SiO2:60.0~75.0 wt%、Li2O:12.0~17.0 wt%、K2O:2.0~8.0 wt%、ZrO2:0.1~5.0 wt%、核生成材:1.0~5.0 wt%、ガラス安定化材:0.5~7.0 wt%、着色材:0.5~10.0 wt%、であることが好ましい。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、核生成材としてP2O5を含むことが好ましい。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、着色材としてCeO2を含むことが好ましい。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することによりメタケイ酸リチウム結晶及び/又は二ケイ酸リチウム結晶が析出した歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスである。
本発明の歯冠修復物は、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを熱圧成形、機械加工、築盛・焼成のうち少なくとも一つの方法により製造された歯冠修復物である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の詳細について説明する。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、
SiO2:60.0~80.0 wt%
Li2O:10.0~17.0 wt%
K2O:0.5~10.0 wt%
ZrO2:0.0~5.0wt%
核生成材:1.0~6.0 wt%
ガラス安定化材:0.0~8.0 wt%
着色材:0.0~10.0 wt%
を含み、且つAl2O3を含まないことが特徴である。本発明においては、このような組成とすることにより、熱処理後において効率よく高密度に主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を析出させることができ、歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの高強度化を図ることができる。また析出した主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)とガラス相の屈折率が近似していることから、歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの透明化も図ることができる。なお、本発明においてAl2O3を含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物とは、Al2O3を完全に含まない場合だけでなく、不純物として0.1wt%未満の範囲のAl2O3を含有した歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物であっても、本発明の効果を示すものであれば、本発明の範囲に包含する。そのためAl2O3含有量の分析測定方法は特に制限はないが、公知の分析測定方法のいずれかの分析測定方法において0.1wt%未満のAl2O3含有量が認められる場合は本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の範疇に含まれるものである。即ち、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、Al2O3を実質的に含まない歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物であり、あるいは、SiO2:60.0~80.0 wt%、Li2O:10.0~17.0 wt%、K2O:0.5~10.0 wt%、ZrO2:0.0~5.0wt%、核生成材:1.0~6.0 wt%、ガラス安定化材:0.0~8.0 wt%、着色材:0.0~10.0 wt%、Al2O3:0.1 wt%未満を含む歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物である。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、Al2O3を完全に含まないことが好ましい。また、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、SiO2:60.0~80.0 wt%、Li2O:10.0~17.0 wt%、K2O:0.5~10.0 wt%、ZrO2:0.0~5.0wt%、核生成材:1.0~6.0 wt%、ガラス安定化材:0.0~8.0 wt%、着色材:0.0~10.0 wt%、のみからなり、Al2O3を含まないことが好ましい。
【0011】
上記に記載した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物における各成分の酸化物含有量は互いに独立して、以下の本質的に特定された成分からなる。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれるSiO2はガラス溶融時においてガラス形成酸化物として働き、熱処理後においては析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の成分及び主結晶周囲のガラス相の成分として作用する。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物におけるSiO2含有量は60.0~80.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは60.0~75.0wt%の範囲である。SiO2含有量が60.0wt%より少ない場合は、十分なガラス相を形成できず、ガラスの耐久性が低下すると同時に、熱処理後に析出する主結晶の比率が変化することで適切な量の主結晶が析出せず、高い材料強度が得られない。また、SiO2含有量が80.0wt%より多い場合には、ガラス相が増えることでガラスの耐久性は向上するものの、熱処理後に十分な主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が析出せず、且つSiO2単体で結晶化することで主結晶の析出を阻害するため、高い材料強度が得られない。
【0012】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれているLi2Oは、ガラス溶融時においてフリットとして働き、ガラスの低融化を促進すると共に、熱処理により析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の成分として作用する。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物におけるLi2O含有量は10.0~17.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは12.0~17.0wt%の範囲である。
Li2O含有量が10.0wt%より少ない場合、フリットが少ないためガラスを溶融することができない。また、熱処理後に析出する主結晶の比率が変わるため適切な量の主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が析出せず、高い材料強度が得られない。Li2O含有量が17.0wt%より多い場合は、安定なガラス相を形成できず、ガラスの耐久性が低下すると同時に、熱処理後に析出する主結晶の比率が変わり、高い材料強度が得られない。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれているK2Oは、ガラス溶融時においてフリットとして働き、ガラスの低融化を促進すると共に、熱処理により析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の結晶化を促進する。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物におけるK2O含有量は0.5~10.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは2.0~8.0wt%の範囲である。
K2O含有量が0.5wt%より少ない場合、フリットが少ないためガラスを溶融することができない。また、熱処理後に析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の結晶化が抑制されることで、高い材料強度が得られない。K2O含有量が10.0wt%より多い場合は、安定なガラス相を形成できず、ガラスの耐久性が低下すると同時に、熱処理後に析出する主結晶の析出を阻害するため、高い材料強度が得られない。
【0013】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれているZrO2はガラス溶融時においてガラス形成酸化物として作用し、熱処理後においても変わらず、ガラス相の安定化に寄与する。
また、ZrO2はガラス相の屈折率を上げることができるため、結晶化後もガラス相と結晶相との屈折率を近似させることができ、透明性向上に寄与する。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物におけるZrO2含有量は0.0~5.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは0.1~5.0wt%の範囲である。
ZrO2含有量が5.0wt%より多い場合には、ガラス相の増加に伴い耐久性は向上するものの、熱処理時に十分な主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が析出せず、且つZrO2単体で結晶化することにより主結晶の析出を阻害するため、高い材料強度が得られない。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれている核生成材は熱処理により析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の発生起点として作用するものであれば何ら制限なく用いることができる。これらの核生成材を具体的に例示するとP2O5、TiO2、WO3、V2O5、Pt又はAg等が挙げられる。これらの核生成材の中でも特に効果的な核生成材はP2O5である。これらの核生成材は少なくとも1種を配合するものであるが、2種以上を組み合わせて配合することもできる。核生成材としてP2O5を使用することにより、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の起点として作用する微細なLi3PO4(リン酸リチウム)を析出させることができ、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を効果的に析出させることができる。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物における核生成材含有量は1.0~6.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは1.0~5.0wt%の範囲である。核生成材含有量が1.0wt%より少ない場合は、主結晶の粗大化及び透明性の低下を招き、十分な透明性及び高い材料強度を得ることができない。核生成材含有量が6.0wt%より多い場合は、結晶量の増大及び結晶の微細化を促進するものの、結晶化後に残存するガラス相が減少することで、ガラスの耐久性が低下する。
【0014】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれているガラス安定化材はガラス相の調整材であり、ガラス相の安定性及び耐久性を向上するために作用するものであれば何ら制限なく用いることができる。これらのガラス安定化材を具体的に例示すると、CaO、MgO、SrO、BaO、ZnO、Y2O3、Ta2O5、Sb2O3、GeO2又はB2O3等が挙げられる。これらのガラス安定化材は必要に応じて1種又は2種以上を組み合わせて配合することもできる。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物におけるガラス安定化材含有量は0.0~8.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは0.5~7.0wt%の範囲である。
ガラス安定化材含有量が8.0wt%より多い場合は、ガラス相が安定し、耐久性は向上するものの、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の析出を阻害するため、高い材料強度が得られない。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に含まれている着色材は天然歯(象牙質及びエナメル質)に近似させるための色調調整材として作用するものであれば何ら制限なく用いることができる。これらの着色材を具体的に例示するとMnO、Fe2O3、Tb4O7、Eu2O3、Ni2O3、Co2O3、Cr2O3、SnO2、CeO2、Nd2O3、Pr6O11、Sm2O3、V2O5、Dy2O3、Ho2O3及びEr2O3等が挙げられる。また、天然歯は紫外線の照射により蛍光色を発するため、これらの着色材が蛍光色を発することは更に好ましい。さらに、歯冠色を再現するための黄色の着色成分として作用することができるため、着色材として、CeO2を含むことが好ましい。これらの着色材は歯冠修復物材の色調に応じて適宜選択することができ、必要に応じて1種又は2種以上を組み合わせて配合することもできる。
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物における着色材含有量は0.0~10.0wt%の範囲であれば何ら問題なく用いることができ、より好ましくは0.5~10.0wt%の範囲である。これらの着色材が10.0wt%より多い場合は、豊富な色調調整が行えるものの、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の析出を阻害するため、高い材料強度が得られない。
【0015】
また、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造方法は特に制限はなく、いずれの製造方法でも製造することができる。その製造方法を具体的に例示するとガラス原料を混合後、高温により溶融する方法や有機又は無機化合物を溶媒に溶解した溶液中で反応させて溶媒を揮発させる方法(ゾル-ゲル法)等が挙げられるが、ガラス組成設計のし易さ、製造量、製造設備、製造コスト等の観点からガラス溶融法を用いることが好ましい。そのガラス溶融法における製造条件、例えばガラス原料投入温度、昇温速度、溶解温度、係留時間等は特に制限はなく、均一にガラス原料が溶解した融液が得られる状態であれば何等制限はない。その中でも本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は1200℃~1650℃の範囲で溶融することが好ましい。
さらに本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の形状も特に制限はなく、粉末状、顆粒状、板状(フリット)、ガラスブロック状(ガラスブランク)等の様々な形状に調整することができる。ガラスブロック形状(ガラスブランク)は前述の融液を、例えばカーボン製、金属製、セラミックス製のモールドに流し込み、室温下まで徐冷することにより製造することができる。
また、ガラス融液は粘性を制御して高粘性状態(700℃~1200℃の温度)で、加圧によりモールドに充填し、ガラスブランク(円柱形状又は角柱形状)を成形することもできる。板状形状(フリット)は内部を冷却している二つのロールの間に前述の融液を落とし込み急冷することで製造することができる。さらに顆粒状の場合は前述の融液を冷却された流水中に捲くように投入することで製造することができる。粉末状の場合はこれらの形状のものを、粉砕機等を用いて粉砕することにより得ることができる。これらの歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の形状は次工程である熱処理の製造方法や歯冠修復物を製造する際の製造方法等によって適宜調整することができる。
【0016】
次に様々な形状の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することで、効率よく高密度に主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を析出させた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを製造できることも本発明の特徴である。この熱処理は熱処理後に析出する主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の析出割合を制御できることから重要な工程となる。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理する熱処理条件、例えば熱処理開始温度、昇温速度、熱処理温度、熱処理係留時間、徐冷温度等は特に制限はなく、熱処理する歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の形状、歯冠修復物を製造する方法、結晶の析出状況の制御等によって適宜選択することができる。その中でも熱処理温度は主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)の析出割合を制御できるため特に重要な項目であり、その熱処理温度は500~1000℃の範囲で行うことが好ましい。熱処理温度が500℃未満の場合、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を焼成及び結晶化することができない。また、熱処理温度が1000℃以上では本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の性質上、析出する主結晶の形態が崩壊する。よって、この温度範囲を逸脱してはならない。
一方、熱処理開始温度は500℃~550℃、昇温速度は10℃~20℃/min、徐冷速度は10℃~20℃/minであることが好ましい。熱処理を開始する温度は主結晶を適切に析出させるためにガラス転移点付近が好ましい。昇温速度はより安定的に結晶化を促進することが必要であるため、より緩やかに昇温するのが好ましい。また、徐冷速度は結晶析出にはほとんど影響はないものの、急速に冷却した場合、ガラスにクラックが入る可能性があるため、緩やかに冷却するのが好ましい。
【0017】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物から析出するメタケイ酸リチウムの結晶は580℃~780℃の熱処理温度範囲で析出する傾向があり、またこの結晶は非常に微細で様々な結晶形態をとるため、材料強度及び靱性が共に低く加工性に優れることが特徴である。一方、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物から析出する二ケイ酸リチウムの結晶は800℃~920℃の熱処理温度範囲で析出する傾向があり、この結晶は前述のメタケイ酸リチウム結晶と比較してサイズが大きく針状の形態を示し、これらが高密度に析出して結晶同士が絡み合う構造をとることによって、クラックの伸展を抑制し高い材料強度を発現する特徴がある。なお、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物から析出する結晶の析出温度はTG-DTAの発熱ピークより確認することができ、結晶についてはX線回折により同定することができる。
前述のそれぞれの結晶(二ケイ酸リチウム及びメタケイ酸リチウム)が析出する熱処理温度範囲内で係留時間を調整することも効率良く高密度に析出させるためには有効な方法である。つまり、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の熱処理として、メタケイ酸リチウム結晶が析出する熱処理温度で一定時間係留した後、次に二ケイ酸リチウム結晶が析出する熱処理温度まで徐々に昇温し、一定時間係留した後、徐冷する2段階熱処理が好ましく、より好ましくはこの2段階処理の前に500℃~550℃の範囲で一定時間係留を行う核生成熱処理を施した3段階熱処理を行うことである。この核生成熱処理は本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物から析出する主結晶の発生起点をつくることを目的としており、効率良く高密度に結晶を析出させるためには有効な方法である。本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物に核生成材としてP2O5を含む場合は熱処理を施した際に副結晶としてLi3PO4を析出することがあるが、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物における組成範囲内であれば何ら問題ない。
【0018】
本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することにより、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を析出させて製造する歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの形状に特に制限はなく、歯冠修復物を製造する工程に応じて選択することができる。例えば粉末状、顆粒状、板状の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理して主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を析出させた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは塊の状態となるが、それらを粉砕加工することにより粉末状の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを製造することができる。これらの平均粒子サイズは1~100μm、好ましくは10~50μmであることが好ましい。また、粉末状の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物をモールドに充填及び圧縮して成形体(円柱状又は角柱状)を作製し、それを熱処理することにより主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を析出させて、歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスのブランク(円柱状又は角柱状)を製造することができる。さらに歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物のガラスブランク(円柱状又は角柱状)を粉砕することなくそのままの状態で熱処理することで主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)を析出させて、歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスのブランク(円柱状又は角柱状)を製造することもできる。これらのように様々な形状に成形した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することにより、様々な形状の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを製造することができるが、これらに限定されるものではない。
また、歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理して得られた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは熱圧成形、機械加工、築盛・焼成のうち少なくとも一つの製造方法により歯冠修復物を製造することができる。例えば、粉末状の熱処理した歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは練和液と混和後、土台の上にコンデンスしながら築盛して歯冠修復物の形態を再現後、焼成して歯冠修復物を製造することができる。また、熱処理して得られた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスのブランクを専用のプレス成型器を用いて加熱加圧下の条件にてブランクを軟化させた後、ワックスが焼成除去された鋳型に圧入して歯冠修復物を製造することができる。さらに、熱処理して得られた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスのブランクをコンピューターにより制御された切削加工機を用いて切削加工することにより歯冠修復物を製造することもできる。
これらの製造方法に、前述の本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物より析出する主結晶(メタケイ酸リチウム及び二ケイ酸リチウム)の特徴及び各結晶析出温度の違いを利用することで、各製造方法において、歯冠修復物を効率よく製造することができることも特徴である。特に、機械加工による歯冠修復物の製造において有効であり、具体的にはメタケイ酸リチウム結晶を主に析出させた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを所望の歯冠修復物の形状に機械加工した後、再度熱処理を行うことで二ケイ酸リチウム結晶を析出させ高強度化を図る製造方法である。
【0019】
また、従来の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスにおいては、加熱により軟化させて埋没材の鋳型に圧入した際に、埋没材との反応が起こるため、製造した歯冠修復物表面にリン酸アルミニウム(AlPO4)等の様々な結晶(表面反応層)が析出して面荒れが発生し、技工作業を悪化させていた。しかし、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理した歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスはAl2O3を含まないことから化学的安定性が向上するため、埋没材との反応による結晶(リン酸アルミニウム(AlPO4)等)の析出もなく、滑沢な面性状が得られることも特徴である。
以下に本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造、そのガラス組成物を熱処理した歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造、その歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを用いた歯冠修復物の製造までの一連のプロセスの具体例を示すが、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物、歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックス及び歯冠修復物の製造は、これらに限定されるものではない。
【0020】
製造プロセス1:
1-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(1-A-1)ガラス原料(炭酸塩・酸化物及び着色材酸化物)を混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(1-A-2)溶融したガラス融液をそのままモールドに充填し、ガラスブランク(円柱形状又は角柱形状)を成形する工程。
1-B工程:歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(1-B-1)ガラスブランクを500℃~950℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
1-C工程:歯冠修復物の製造
(1-C-1)熱処理したガラスブランクのケイ酸リチウムガラスセラミックスを500℃~1200℃の温度で加熱して軟化させた後、約0.1~1MPaの圧力により、埋没材鋳型の空隙内に圧入し、所望の形態(ブリッジ又はクラウン)である歯冠修復物を製造する工程。
製造プロセス2:
2-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(2-A-1)ガラス原料(炭酸塩・酸化物及び着色材酸化物)を混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(2-A-2)溶融したガラス融液をそのままモールドに充填し、ガラスブランク(円柱形状又は角柱形状)を成形する工程。
2-B工程:歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(2-B-1)ガラスブランクを500℃~780℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
2-C工程:歯冠修復物の製造
(2-C-1)熱処理したガラスブランクのケイ酸リチウムガラスセラミックスをコンピューターにより制御された削合機により切削加工して所望の形態(ブリッジ又はクラウン)に作製し、約700℃~950℃の温度範囲で約5~30分の間で少なくとも一度は熱処理して歯冠修復物を製造する工程。
【0021】
製造プロセス3:
3-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(3-A-1)ガラス原料(炭酸塩・酸化物)を混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(3-A-2)溶融したガラス融液を冷却して、ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を成形する工程。
3-B工程:歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(3-B-1)ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を500℃~780℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
(3-B-2)熱処理したガラス粒状物又はガラス板(フリット)を平均粒子サイズが10~50μmの粉末まで粉砕する工程。
(3-B-3)粉砕した粉末と着色材酸化物を混合する工程、
(3-B-4)上記の混合物粉末を所望の形状のモールドに詰めて不均一構造のガラスブランクである成形体を成形する工程。
(3-B-5)成形体を400℃~950℃の温度範囲において真空下で熱処理に供し、緻密なガラスセラミックスブランクを成形する工程。
3-C工程:歯冠修復物の製造
(3-C-1)ブランク形状のケイ酸リチウムガラスセラミックスを500℃~1200℃の温度で加熱して軟化させた後、約0.1~1MPaの圧力により、埋没材鋳型の空隙内に圧入し、所望の形態(ブリッジ又はクラウン)である歯冠修復物を製造する工程。
製造プロセス4:
4-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(4-A-1)ガラス原料(炭酸塩・酸化物)を混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(4-A-2)溶融したガラス融液を冷却して、ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を成形する工程。
4-B工程:歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(4-B-1)ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を500℃~780℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
(4-B-2)熱処理したガラス粒状物又はガラス板(フリット)を平均粒子サイズが10~50μmの粉末まで粉砕する工程。
(4-B-3)粉砕した粉末と着色材酸化物を混合する工程、
(4-B-4)上記の混合物粉末を所望の形状のモールドに詰めて不均一構造のガラスブランクである成形体を成形する工程。
(4-B-5)成形体を400℃~950℃の温度範囲において真空下で熱処理に供し、緻密なガラスセラミックスブランクを成形する工程。
4-C工程:歯冠修復物の製造
(4-C-1)ブランク形状のケイ酸リチウムガラスセラミックスをコンピューターにより制御された削合機により切削加工して所望の形態(ブリッジ又はクラウン)に作製し、約700℃~950℃の温度範囲で約5~30分の間で少なくとも一度は熱処理して歯冠修復物を製造する工程。
【0022】
製造プロセス5:
5-A工程:歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の製造
(5-A-1)ガラス原料(炭酸塩・酸化物及び着色材酸化物)を混合後、その混合物を1200℃~1650℃の温度範囲で溶融する工程。
(5-A-2)溶融したガラス融液を冷却して、ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を成形する工程。
5-B:歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスの製造
(5-B-1)ガラス粒状物又はガラス板(フリット)を500℃~780℃の範囲で少なくとも一度は熱処理する工程。
(5-B-2)熱処理したガラス粒状物又はガラス板(フリット)を平均粒子サイズが10~50μmの粉末まで粉砕する工程。
(5-B-3)粉砕した粉末と着色材を混合する工程。
5-C工程:歯冠修復物の製造
(5-C-1)着色材と混合された熱処理後の粉末である歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを練和液と混和後、ジルコニア及びケイ酸リチウム系ガラスセラミックスで作製した土台の上にコンデンスしながら築盛し、焼成炉を用いて500℃~950℃の範囲で焼成することで所望の形態(ブリッジ又はクラウン)である歯冠修復物を製造する工程。
【0023】
前述した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスから製造した歯冠修復物(例えば、ブリッジ又はクラウン)は最終的にステイン材による着色やコーティング材による表層のコーティングを行うことで、より天然歯に近似した色調で且つ審美的に仕上げることができる。それらのステイン材及びコーティング材としては、セラミック、焼結セラミック、ガラスセラミックス、ガラス、うわぐすり、及び/又は、複合体等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。ステイン材は天然歯の色調を模倣するための色調調整材として用い、コーティング材は表面の滑沢性及び光沢性を向上するために用いる。それらのステイン材、コーティング材の中でも650℃~950℃の温度範囲で焼成が可能であり、且つ本発明のケイ酸リチウムガラスセラミックスより作製した歯冠修復物の熱膨張係数との差が1.0±0.5×10-6 K-1の範囲であるものが好ましい。
以上、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を用いて適切に成形された歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、ポスト、前装冠、ジャケット冠、ラミネートベニア、連結冠等、の様々な歯冠修復物となり、臨床で使用される。
【実施例】
【0024】
本発明について、以下の実施例に基づいて詳細に説明する。ただし本発明は、これら実施例の範囲に限定されるものではない。
実施例及び比較例において採用した試験方法は以下の通りである。
[評価方法]
(1)曲げ強さ(3点曲げ)試験
ISO 6872 Dentistry - Ceramic Materials に準拠して実施した。
(2)溶解性試験
ISO 6872 Dentistry - Ceramic Materials に準拠して実施した。
(3)コントラスト比測定
各実施例及び比較例の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを用いて丸板(φ14.0mm×2.0mm)を作製し、厚さ1mmに調整した試料を分光測色計を用いて測色(白バック、黒バック)し、測色データからコントラスト比を算出した。
計算式:(コントラスト比)=(黒バック測色のY値)/(白バック測色のY値)
測定機器:CM-3500d(コニカミノルタ社製)
(4)結晶系確認
各実施例及び比較例の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを粉砕し、XRDにより各段階での熱処理における析出結晶を確認した。表中の記載は、LDS:ニケイ酸リチウム、LMS:メタケイ酸リチウム、LP:リン酸リチウム、とする。
使用機器:マルチフレックス(Rigaku社製)
測定条件:走査範囲10°~70°
スキャンスピード2.0°/分
(5)埋没材との焼きつき性試験
各実施例及び比較例の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを用いて、プレス成型器を用いて加熱加圧下の条件にてブランクを軟化させた後、ワックスで作製された丸板(φ14.0mm×2.0mm)が焼成により、除去された鋳型に圧入して試験体を作製した。その後、プレス成形した試験体をアルミナサンドブラスト(アルミナ粒径:110μm、圧力:0.4MPa)で埋没材を除去した際の試験体表面を目視で観察し、埋没材の除去状況を評価した。
埋没材:セラベティプレス&キャスト(松風製)
プレス成型器:エステマットプレス(松風製)
【0025】
[結晶加熱処理温度]
まず、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物の析出温度(ニケイ酸リチウム及びメタケイ酸リチウム)を、実施例1において析出する主結晶(ニケイ酸リチウム及びメタケイ酸リチウム)の析出温度により特定する。
表1記載の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物:実施例1に相当するガラス原料混合物を1450℃で1時間保持し溶融した。そのガラス融液を500℃に予熱したカーボン製モールド(φ12mm×10mm)に充填し、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物であるガラスブランクを作製した。このガラスブランクは、透明で均質であった。
【0026】
このガラスブランクの結晶析出温度を確認するために、TG-DTA測定(測定条件:25℃~1000℃(昇温速度:10℃/分))を実施した(
図1)。その結果、642℃と805℃にそれぞれ結晶析出に伴う発熱ピークが確認された。次にこのガラスブランクを各発熱ピーク温度で熱処理(開始温度:500℃、昇温速度:10℃/分、焼成温度:各発熱ピーク温度642℃及び805℃)して本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを製造し、そのXRDにより測定した。その得られたXRDパターン結果から、642℃ではメタケイ酸リチウム結晶(
図2)、805℃ではニケイ酸リチウム結晶(
図3)が析出していることを確認した。
【0027】
図4に、642℃で熱処理した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを1%フッ化水素酸により30秒間エッチングした後の電子顕微鏡観察像を示す。
図4より、メタケイ酸リチウム結晶がエッチングにより消失し、微細な結晶痕(空孔)が確認できた。
【0028】
図5に、805℃で熱処理した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスを1%フッ化水素酸により3分間エッチングした電子顕微鏡観察像を示す。
図5より、ガラス質がエッチングにより消失し、二ケイ酸リチウム由来の針状結晶が確認できた。
以上の方法により、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物より得られたガラスに熱処理(第一の結晶化熱処理(メタケイ酸リチウムの析出):650℃、第二の結晶化熱処理(二ケイ酸リチウムの析出):850℃)を施すことで、主結晶を析出することとした。
【0029】
(プレス成形による試験)
表1~5記載の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物:実施例1~31及び表6~8記載の比較例1~14に相当するガラス原料混合物を1450℃で1時間保持し溶融した。そのガラス融液を500℃に予熱したカーボン製モールド(φ12mm×10mm)に充填し、実施例1~31の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物及び比較例1~14のガラス原料混合物のガラスブランクを作製した。このガラスブランクを500℃で10分間熱処理(結晶核の生成)した後、650℃で20分間熱処理(第一の結晶化熱処理)し、さらに850℃で10分間熱処理(第二の結晶化熱処理)した。この3段階熱処理により製造したガラスセラミックスをプレス成形するためのガラスセラミックスブランクとして用いた。
前述の評価試験(1)~(3)に用いる試験体形状と同一形状のワックスを埋没材(セラベティプレス&キャスト;松風製)に埋没し、硬化した鋳型を850℃で1時間焼却することによりワックスを除去した。焼却処理後の鋳型に製造したガラスセラミックスブランクを挿入し、プレス器(エステマットプレス;松風)によりプレス成形(プレス開始温度:700℃、プレス温度:910℃、係留時間:15分、昇温速度:60℃/分、プレス時間:3分)を行なった。鋳型を冷却した後、サンドブラスト処理により各試験体を掘り出し、試験体のサイズを調製後、前述の評価試験(1)~(3)を実施した。また、試験体掘り出し時において、埋没材との焼き付き状況を確認するために前述の評価試験(5)も合わせて実施した。最終の試験体における結晶系を確認するために前述の評価試験(4)を実施した。
【0030】
(機械加工による試験)
表1~5記載の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物:実施例1~31及び表6~8記載の比較例1~14に相当するガラス原料混合物を1450℃で1時間保持し溶融した。そのガラス融液を500℃に予熱したカーボン製鋳型(5mm×22mm×22mm)に充填し、実施例1~31の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物及び比較例1~14のガラス原料混合物のガラスブランクを作製した。このガラスブランクを500℃で10分間熱処理(結晶核の生成)した後、650℃で20分間熱処理(第一の結晶化熱処理)し、この2段階熱処理により製造したガラスセラミックスを機械加工するためのガラスセラミックスブランクとして用いた。
このガラスセラミックスブランクは、歯科用CAD/CAMシステムを用いて前述の評価試験(1)~(3)に用いる試験体形状と同一形状に切削加工した後、さらに熱処理(第二の結晶化熱処理:開始温度:700℃、焼成温度:850℃、係留時間:10分、昇温速度:60℃/分)を行い、試験体サイズを調整後、前述の評価試験(1)~(3)を実施した。また、最終の試験体における結晶系を確認するために前述の評価試験(4)を実施した。
【0031】
(粉末成形による試験)
表1~5記載の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物:実施例1~31及び表6~8記載の比較例1~14に相当するガラス原料混合物を1450℃で1時間保持し溶融した。そのガラス融液を500℃に予熱したカーボン製鋳型(5mm×22mm×22mm)に充填し、実施例1~31の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物及び比較例1~14のガラス原料混合物のガラスブランクを作製した。このガラスブランクを500℃で10分間熱処理(結晶核の生成)した後、650℃で20分間熱処理(第一の結晶化熱処理)し、この2段階熱処理により製造した本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスブランクを得た。
このガラスセラミックスブランクを粉砕して平均粒子径20μmであるガラスセラミックス粉末を得た。この粉末を蒸留水と練和しスラリー状にしたものを前述の評価試験(1)~(3)の各試験に用いる試験体形状と同一形状のシリコン型に注いだ。この注いだスラリーの水分を十分に除去した後、シリコン型より成形体を離型し、熱処理(熱処理開始温度:500℃、熱処理終了温度:950℃、昇温速度:10℃/分)を行い、試験体サイズを調整後、前述の評価試験(1)~(3)を実施した。最終の試験体における結晶系を確認するために前述の評価試験(4)を実施した。
【0032】
(実施例)
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
(比較例)
【0033】
【0034】
全ての実施例において、曲げ強度は高く、高い材料強度を発現していることを確認した。一方で、比較例1~7及び9~14では、曲げ強度が低く、十分な材料強度が発現されていなかった。
また、全ての実施例において、溶解性については、ISO6872の規格値(100μg/cm2)の範囲内であり、高い化学的耐久性(低溶解性)を示した。一方で、比較例1~3、7及び11~14では、ISO6872の規格値(100μg/cm2)の範囲外であった。
実施例において、コントラスト比は0.21~0.48と高い透明性を示した。一方で、比較例では、プレス成形、機械加工、及び、粉末成形のいずれかで、0.65以上の低い透明性を示した。試験後の結晶系は実施例、比較例共に、主結晶としてLDSが析出し、LMS及び/又はLi3PO4が微量に析出していた。また、実施例は埋没材との焼きつきも無く良好な結果であった。一方で比較例1~3及び7~14は試験体表面に埋没材との焼つきが多く見受けられた。
【0035】
以上の結果から、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理して得られた歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、高い材料強度、高い化学的耐久性、高透明性などの良好な結果を同時に示した。これは、特定の酸化物含有量範囲からなるAl2O3を含まない本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物を熱処理することにより、主結晶(二ケイ酸リチウム及び/又はメタケイ酸リチウム)が効率よく高密度に析出したことに起因しているものと考えられる。具体的に、高強度化の発現や化学安定性の向上はAl2O3を含まない本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物によるものであるが、透明性の向上は主結晶周囲のガラス質にZrO2を含むことで屈折率を向上させたことによるものである。
よって、本発明の歯科用ケイ酸リチウムガラス組成物は、従来のAl2O3を含んだケイ酸リチウムガラス組成物と比較して、各種の特性を飛躍的に改善したものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により提供される歯科用ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、プレス成形用ブランク、機械加工用ブランク、粉末陶材に応用できる高い材料強度、高い透明性及び高い化学的安定性(高い化学的耐久性、低反応性)を有するものであり、歯科分野の修復治療において、様々な歯冠修復物への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】