(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】環状ダストリップ及び密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20220105BHJP
F16J 15/3252 20160101ALI20220105BHJP
F16J 15/3212 20160101ALI20220105BHJP
【FI】
F16J15/3204 101
F16J15/3252
F16J15/3212
(21)【出願番号】P 2017089250
(22)【出願日】2017-04-28
【審査請求日】2020-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【氏名又は名称】丸山 重輝
(72)【発明者】
【氏名】徳永 渉
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-148625(JP,A)
【文献】特開2015-135137(JP,A)
【文献】特開2015-102120(JP,A)
【文献】特開2015-004414(JP,A)
【文献】特開2001-304422(JP,A)
【文献】特開2001-295928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F9/00-9/58
F16J15/16-15/3296
15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料からなり、ハウジングにより支持され、該ハウジング内に配置された往復動軸の外周面に接触される環状ダストリップであって、
前記往復動軸の外周面に接触されたときに、前記ハウジングの開口端部より軸方向外側となる大気側に臨むリップ端面が、前記往復動軸の外周面に近い側ほど前記大気側に突出したテーパ形状であって、かつ、前記大気側へ向かって凸の円弧形状となることを特徴とする
環状ダストリップ。
【請求項2】
弾性材料からなり、ハウジングにより支持され、該ハウジング内に配置された往復動軸の外周面に接触される環状ダストリップであって、
前記往復動軸の外周面に接触されたときに、前記ハウジングの開口端部より軸方向外側となる大気側に臨むリップ端面は前記大気側へ向かって凸の円弧形状でなり、当該リップ端面の
任意の点における接
線と前記往復動軸の外周面の母線とがなす、当該母線から反時計回りに測る角度が90°以上となることを特徴とする環状ダストリップ。
【請求項3】
内周側円筒部と外周側円筒部とが側縁において連結されて縦断面が略U字形状に形成され、該略U字形状の開放部を前記大気側に向け、前記内周側円筒部の内周部を前記往復動軸の外周面に接触させ、
前記内周側円筒部と前記外周側円筒部との間には、環状板バネが配置されており、
前記環状板バネは、リング状に構成されたスプリングであって、円筒部と該円筒部の側縁から突設された複数の押圧片とから形成され、各押圧片が前記円筒部の内周側に重なるように折り返され、縦断面が略V字形状となされ、該略V字形状の開いた側を大気側に向け、前記押圧片の先端側により、前記内周側円筒部の前記大気側に臨むリップ端部を求心方向に弾性付勢し、該リップ端部を前記往復動軸の外周面に押接させることを特徴とする
請求項1又は2記載の環状ダストリップ。
【請求項4】
前記環状ダストリップは、前記リップ端部を除く箇所が前記往復動軸の外周面から離間しており、該外周面から離間した箇所の内周面に、等角度間隔で補強帯が設けられている
ことを特徴とする請求項3記載の環状ダストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ダストリップ及び密封装置に関し、詳しくは、優れた耐ダスト機能を有し、耐ダスト機能を長期間良好に維持することができる環状ダストリップ及び密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のショックアブソーバ等においてロッドシール部に用いられる密封装置には、
図7に示すように、往復動軸(ロッド)200の外周面に摺動可能に密封接触する環状ダストリップ400を備えたものがある(特許文献1)。
【0003】
往復動軸200は、ハウジング202内に配置され、
図7中矢印Aで示すように、軸方向に往復動可能となっている。この往復動軸200は、基端側(
図7中左方)をハウジング202内に位置させ、先端側(
図7中右方)をハウジング202の開口端部より軸方向外側(以下「大気側」という。)に突出させている。
【0004】
環状ダストリップ400は、ゴム状弾性材料により、一体的に円環状に形成されている。環状ダストリップ400は、ハウジング202に形成された環状溝300内に配置されている。環状溝300は、往復動軸200の外周面を囲むように形成されている。
【0005】
環状ダストリップ400は、縦断面が略U字形状に形成されており、U字形状の開放部を大気側に向けている。すなわち、環状ダストリップ400は、内周側円筒部401と、外周側円筒部402とが、軸方向内側(以下「機構側」という。)の側縁において連結された形状を有している。内周側円筒部401と外周側円筒部402との連結部は、環状溝300の機構側の側壁部に固着されている。環状ダストリップ400は、内周側円筒部401の内周部を往復動軸200の外周面に接触させている。
【0006】
環状ダストリップ400の内周側円筒部401と外周側円筒部402との間には、環状板バネ500が配置されている。環状板バネ500は、菊型スプリングであり、
図7中矢印Bで示すように、内周側円筒部401を外周側円筒部402から離間させる方向に弾性付勢している。
【0007】
環状ダストリップ400は、環状板バネ500の付勢力により、内周側円筒部401の内周部を往復動軸200の外周面に圧接させている。内周側円筒部401の内周部が往復動軸200の外周面に圧接されることにより、ハウジング202が密封される。
【0008】
この密封装置において、環状ダストリップ400は、外部異物(土砂、鉱石、油、水、氷、樹液等)がハウジング202内に浸入することを阻止する耐ダスト機能を有している。この密封装置は、環状ダストリップ400よりも機構側にある油圧保持部品や、軸受、歯車等の摺動部品の良好な潤滑状態を長期維持させることにより、機器の長寿命化に貢献している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
環状ダストリップ400は、外部異物のハウジング202内への浸入を防止するため、往復動軸200の外周面との間の隙間を密封できる弾性材料として、各種ゴム、ウレタン、PTFEなどにより形成される。また、環状ダストリップ400は、往復動軸200の外周面に固着した外部異物を掻き落とす必要もあることから、剛性が求められ、高硬度のゴムやウレタンなどの合成樹脂材料により形成される。
【0011】
しかし、これらの材料からなる環状ダストリップ400は、クリープや経時劣化による変形(へたり)により、耐ダスト機能の長期維持には限界がある。耐ダスト機能の長期維持のためには、しめ代及びシール面圧を長期維持する必要がある。そのためには、
図8(a)に示す肉薄の内周側円筒部401よりも、
図8(b)に示す肉厚の内周側円筒部401のほうが有利である。
【0012】
ところが、内周側円筒部401を肉厚にすると、
図8(b)に示すように、大気側に臨むリップ端面401aの面積が広くなり、外部異物dが滞留する異物滞留域(リップ端面401aから往復動軸200の外周面に亘る領域)も広くなってしまい、滞留する外部異物dの量が多くなってしまう。滞留する外部異物dの量が多くなると、往復動軸200の外周面から外部異物dを掻き落とすことが困難となり、耐ダスト機能が低下するという結果となる。
【0013】
そこで、本発明は、優れた耐ダスト機能を有し、耐ダスト機能を長期間良好に維持することができる環状ダストリップ及び密封装置を提供することを課題とする。
【0014】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
1.
弾性材料からなり、ハウジングにより支持され、該ハウジング内に配置された往復動軸の外周面に接触される環状ダストリップであって、
前記往復動軸の外周面に接触されたときに、大気側に臨むリップ端面が、前記往復動軸の外周面に近い側ほど大気側に突出したテーパ形状となることを特徴とする環状ダストリップ。
2.
弾性材料からなり、ハウジングにより支持され、該ハウジング内に配置された往復動軸の外周面に接触される環状ダストリップであって、
前記往復動軸の外周面に接触されたときに、大気側に臨むリップ端面の少なくとも前記往復動軸の外周面近傍が、該外周面の母線に対してなす角度が90°以上となることを特徴とする環状ダストリップ。
3.
内周側円筒部と外周側円筒部とが側縁において連結されて縦断面が略U字形状に形成され、該略U字形状の開放部を大気側に向け、前記内周側円筒部の内周部を前記往復動軸の外周面に接触させ、
前記内周側円筒部と前記外周側円筒部との間には、環状板バネが配置されており、
前記環状板バネは、リング状に構成された菊型スプリングであって、円筒部と該円筒部の側縁から突設された複数の押圧片とから形成され、各押圧片が前記円筒部の内周側に重なるように折り返され、縦断面が略V字形状となされ、該略V字形状の開いた側を大気側に向け、前記押圧片の先端側により、前記内周側円筒部の大気側に臨むリップ端部の近傍を求心方向に弾性付勢し、該リップ端部の近傍を前記往復動軸の外周面に押接させることを特徴とする前記1又は2記載の環状ダストリップ。
4.
前記環状ダストリップは、前記リップ端部の近傍を除く箇所が前記往復動軸の外周面から離間しており、該外周面から離間した箇所の内周面に、等角度間隔で補強帯が設けられていることを特徴とする前記3記載の環状ダストリップ。
5.
弾性材料からなり、ハウジングにより支持され、該ハウジング内に配置された往復動軸の外周面に接触される環状ダストリップと、
前記環状ダストリップに沿って配置されて該環状ダストリップを付勢し、前記往復動軸の外周面に、該環状ダストリップの大気側に臨むリップ端部の近傍を押接させる環状板バネとを備え、
前記環状ダストリップは、前記リップ端部が、前記往復動軸の外周面に対する面圧の極大点となっていることを特徴とする密封装置。
6.
前記環状ダストリップは、大気側に臨むリップ端面が、前記往復動軸の外周面に近い側ほど大気側に突出したテーパ形状となっていることを特徴とする前記5記載の密封装置。
7.
前記環状ダストリップは、大気側に臨むリップ端面の少なくとも前記往復動軸の外周面近傍が、該外周面の母線に対してなす角度が90°以上であることを特徴とする前記5又は6記載の密封装置。
8.
前記環状ダストリップは、内周側円筒部と外周側円筒部とが側縁において連結されて縦断面が略U字形状に形成され、該略U字形状の開放部を大気側に向け、前記内周側円筒部の内周部を前記往復動軸の外周面に接触させ、
前記内周側円筒部と前記外周側円筒部との間には、環状板バネが配置されており、
前記環状板バネは、リング状に構成された菊型スプリングであって、円筒部と該円筒部の側縁から突設された複数の押圧片とから形成され、各押圧片が前記円筒部の内周側に重なるように折り返され、縦断面が略V字形状となされ、該略V字形状の開いた側を大気側に向け、前記押圧片の先端側により、前記内周側円筒部の大気側に臨むリップ端部の近傍を求心方向に弾性付勢し、該リップ端部の近傍を前記往復動軸の外周面に押接させていることを特徴とする前記5、6又は7記載の密封装置。
9.
前記環状ダストリップは、前記リップ端部の近傍を除く箇所が前記往復動軸の外周面から離間しており、該外周面から離間した箇所の内周面に、等角度間隔で補強帯が設けられていることを特徴とする前記5~8の何れかに記載の密封装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた耐ダスト機能を有し、耐ダスト機能を長期間良好に維持することができる環状ダストリップ及び密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の密封装置の第1の実施形態(装着状態)を示す部分断面図
【
図2】
図1に示す密封装置の環状ダストリップの要部を示す要部拡大断面図
【
図3】
図1に示す密封装置の環状ダストリップの往復動軸に対する面圧を示すグラフ
【
図4】本発明の密封装置の第1の実施形態(未装着状態)を示す部分断面図
【
図5】本発明の密封装置の第2の実施形態を示す部分断面図
【
図6】本発明の密封装置の第3の実施形態を示す部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0020】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の密封装置の第1の実施形態(装着状態)を示す部分断面図である。
【0021】
この密封装置1の第1の実施形態は、自動車のショックアブソーバ等においてロッドシールに用いられる。
【0022】
ショックアブソーバは、
図1に示すように、流体(オイル)を保持するハウジング101を有している。このハウジング101は、大気側(
図1中右方)が開口部101aとされ、図示しない機構側(
図1中左方)が閉蓋されている。このハウジング101内には、往復動軸(ロッド)102が配置されている。この往復動軸102は、機構側をハウジング101内に位置させ、大気側をハウジング101の開口部101aよりハウジング101の軸方向外側に突出させている。往復動軸102は、
図1中矢印Aで示すように、軸方向に往復動可能となっている。往復動軸102は、ハウジング101内の流体によって、軸方向への往復動の速度が規制される。なお、このショックアブソーバは、自動車等において、ハウジング101が車台(シャーシ)に保持され、往復動軸102の大気側が車軸を含むバネ下部に取付けられて使用される。
【0023】
密封装置1は、往復動軸102の外周面102aに摺動可能に密封接触する環状ダストリップ2を有している。環状ダストリップ2は、ゴム状弾性材料により、一体的に円環状に形成されている。環状ダストリップ2をなす材料としては、往復動軸102の外周面102aとの間の隙間を密封できる弾性材料として、各種ゴム、ウレタン、PTFEなどの合成樹脂材料が好ましい。
【0024】
環状ダストリップ2は、ハウジング101内に設けられた環状溝3内に、保持リング4を介して配置されている。環状溝3は、ハウジング101の開口部101aの近傍に位置し、往復動軸102の外周面102aを囲んで、往復動軸102に同軸に形成されている。この密封装置1は、環状溝3の溝底部と往復動軸102の外周面102aとの間を密封する。
【0025】
保持リング4は、金属等の硬質材料により、縦断面がL字形状となされた円環状に形成されている。保持リング4は、環状溝3の溝底部に沿って配置される円筒部と、環状溝3の機構側の側壁部に沿って配置される円環円盤部とが連設された形状を有している。環状ダストリップ2は、保持リング4に加硫接着されている。
【0026】
環状ダストリップ2は、縦断面が略U字形状に形成されており、U字形状の開放部を大気側に向けている。すなわち、環状ダストリップ2は、内周側円筒部2aと、外周側円筒部2bとが、機構側の側縁において連結された形状を有している。内周側円筒部2aと外周側円筒部2bとの連結部は、保持リング4の円環円盤部に加硫接着されている。環状ダストリップ2は、内周側円筒部2aの内周部を往復動軸102の外周面102aに接触させている。
【0027】
環状ダストリップ2の内周側円筒部2aと外周側円筒部2bとの間には、環状板バネ5が環状ダストリップ2に沿って配置されている。環状板バネ5は、バネ鋼材料によりリング状に構成された菊型スプリングである。環状板バネ5は、円筒部5aと、この円筒部5aの側縁から突設された複数の押圧片5bとから形成されている。各押圧片5bは、円筒部5aの内周側に重なるように折り返されている。環状板バネ5をなす各押圧片5b及び円筒部5aは、縦断面が略V字形状となっている。環状板バネ5は、縦断面のV字形状の開いた側を大気側に向けている。環状板バネ5は、
図1中矢印Bで示すように、内周側円筒部2aを外周側円筒部2bから離間させる方向に弾性付勢している。
【0028】
環状ダストリップ2は、環状板バネ5の付勢力により、内周側円筒部2aの内周部を往復動軸102の外周面102aに圧接させている。特に、環状板バネ5は、押圧片5bの先端側により、内周側円筒部2aの大気側に臨むリップ端部2c近傍を求心方向に弾性付勢し、このリップ端部2c近傍を往復動軸102の外周面102aに押接させる。内周側円筒部2aの内周部が往復動軸102の外周面102aに圧接されることにより、ハウジング101が密封される。
【0029】
なお、環状板バネ5は、円筒部5aを、環状ダストリップ2の外周側円筒部2bの内周部に略沿う角度とし、円筒部5aから押圧片5bまでの距離(環状板バネ5の幅)を、内周側円筒部2aから外周側円筒部2bまでの距離よりも大きくすることが、装着性及び安定性の観点から好ましい。
【0030】
図2は、
図1に示す密封装置の環状ダストリップの要部を示す要部拡大断面図である。
【0031】
環状板バネ5は、
図2に示すように、押圧片5bの先端側によって、内周側円筒部2aのリップ端部2cを求心方向に弾性付勢することが好ましい。すなわち、環状ダストリップ2は、内周側円筒部2aのリップ端部2cに近い位置ほど、往復動軸102の外周面102aに強く押接されることが好ましい。
【0032】
図3は、
図1に示す密封装置の環状ダストリップの往復動軸に対する面圧を示すグラフである。
【0033】
環状板バネ5が内周側円筒部2aのリップ端部2c近傍を求心方向に弾性付勢すると、環状ダストリップ2は、
図3に示すように、リップ端部2c近傍が、往復動軸102の外周面102aに対する面圧の極大点となる。環状ダストリップ2の、往復動軸102の外周面102aに対する面圧は、リップ端部2c近傍において急峻に立ち上がっている。そのため、リップ端部2c近傍においては、往復動軸102の外周面102aに付着した液体膜(油や水、樹液等)を薄くして、液体膜を切る効果がある。
【0034】
また、環状ダストリップ2は、リップ端部2c近傍を肉薄とすることが好ましい。それにより、環状板バネ5の付勢力により、往復動軸102の外周面102aに対する面圧を、リップ端部2c近傍において急峻に立ち上げることができる。リップ端部2c近傍の肉厚は、使用条件にもよるが、耐クリープ性及び耐摩耗性を考慮すると、例えば、0.5mm~3.0mm程度が好ましい。
【0035】
環状ダストリップ2は、
図1に示すように、内周側円筒部2aの大気側に臨むリップ端面2dが、往復動軸102の外周面102aに近い側ほど大気側に突出したテーパ形状となっていることが好ましい。
【0036】
このように、リップ端面2dの形状が、往復動軸102の外周面102aに近い側ほど大気側に突出したテーパ形状であることにより、リップ端面2dにより、外周面102aに付着した異物の掻き落としを良好に行うことができる。
【0037】
また、環状ダストリップ2のリップ端面2dは、円錐面(縦断面が直線)である必要はなく、少なくとも往復動軸102の外周面102a近傍の部分が、外周面102aの母線に対してなす角度が90°以上であればよい。
【0038】
リップ端面2dの外周面102a近傍の部分が、外周面102aの母線に対して90°以上の角度をなすことにより、外周面102aに付着した異物の掻き落としを良好に行うことができる。リップ端面2dの外周面102a近傍の部分の、外周面102aの母線に対してなす角度が90°未満である場合には、外周面102aに付着した異物は、往復動軸102の往復動に伴って、良好に掻き落とされずに、往復動軸102及び環状ダストリップ2の間に流入してしまう虞がある。
【0039】
図4は、本発明の密封装置の第1の実施形態(未装着状態)を示す部分断面図である。
【0040】
環状ダストリップ2は、
図4に示すように、往復動軸102の周囲に装着していない状態においては、内周側円筒部2aのリップ端面2dは、装着される往復動軸102の外周面102aの母線に対してなす角度が90°未満であって、外周面102aから遠くなる側ほど大気側に突出したテーパ形状となっていてもよい。すなわち、環状ダストリップ2は、往復動軸102の周囲に装着されたときに、内周側円筒部2aが外周面102aに押圧されて、環状板バネ5の付勢力に抗して変位し、リップ端面2dの外周面102aの母線に対してなす角度が90°以上になり、外周面102aに近い側ほど大気側に突出したテーパ形状となる。このときの環状ダストリップ2の変位量が、しめ代となる。
【0041】
この密封装置1において、環状ダストリップ2は、外部異物(土砂、鉱石、油、水、氷、樹液等)がハウジング101内に流入することを阻止する耐ダスト機能が優れており、環状ダストリップ2よりも機構側にある油圧保持部品や、軸受、歯車等の摺動部品を良好な潤滑状態とする。
【0042】
また、この密封装置1においては、内周側円筒部2aの内周部が摩耗したときにも、環状板バネ5により、内周側円筒部2aの往復動軸102に対する押接力が維持される。したがって、この密封装置1は、優れた耐ダスト機能を長期維持することができ、機器の長寿命化に貢献することができる。
【0043】
〔第2の実施形態〕
図5は、本発明の密封装置の第2の実施形態を示す部分断面図である。
図5において、
図1、
図4と同一符号の部位は同一構成の部位であるため、これらの説明は上記実施形態の説明を援用し、ここでは省略する。
【0044】
密封装置1の第2の実施形態においては、環状ダストリップ2は、
図5に示すように、内周側円筒部2aのリップ端部2c近傍を除く箇所(機構側)が往復動軸102の外周面102aから離間し、この箇所の内周面に、等角度間隔で軸方向に補強帯2eが設けられている。補強帯2eは、内周側円筒部2aの当該箇所だけが肉厚となされた突条である。
【0045】
補強帯2eを設けることにより、内周側円筒部2aを肉薄としてリップ端部2c近傍における往復動軸102の外周面102aに対する面圧が急峻に立ち上がるようにした場合にも、内周側円筒部2aの軸方向の剛性が維持され、リップ端部2c近傍のスティックスリップ(微視的な摩擦面の付着及び滑りの繰り返しによって起こる自励振動)やめくれを防止することができる。
【0046】
〔第3の実施形態〕
図6は、本発明の密封装置の第3の実施形態を示す部分断面図である。
図6において、
図1、
図2と同一符号の部位は同一構成の部位であるため、これらの説明は上記実施形態の説明を援用し、ここでは省略する。
【0047】
密封装置1の第3の実施形態においては、
図6に示すように、内周側円筒部2aの内周部が摩耗してリップ端部2cが肉薄になったときにも、リップ端面2dの、往復動軸102の外周面102aの母線に対してなす角度が、90°以上となるようにしている。
【0048】
すなわち、この実施形態において、リップ端面2dは、内周側円筒部2aの変位中心の往復動軸102側(
図5中のC点)を中心とする略円弧形状となっており、リップ端部2cが摩耗により肉薄になり、内周側円筒部2aの変位量が少なくなったときにも、リップ端面2dの往復動軸102近傍における外周面102aの母線に対する角度(リップ端面2dの接線と外周面102aの母線とがなす角度)が、90°以上となる。
【0049】
リップ端部2cが摩耗しても、リップ端面2dの、往復動軸102の外周面102aの母線に対してなす角度が90°以上となることにより、外周面102aに付着した異物のリップ端面2dによる掻き落としが、長期に亘って良好に維持される。
【符号の説明】
【0050】
1:密封装置
2:環状ダストリップ
2a:内周側円筒部
2b:外周側円筒部
2c:リップ端部
2d:リップ端面
2e:補強帯
3:環状溝
4:保持リング
5:環状板バネ
5a:円筒部
5b:押圧片
101:ハウジング
101a:開口部
102:往復動軸(ロッド)
102a:外周面