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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220105BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 643A
H01L21/304 647Z
H01L21/304 648K
H01L21/306 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017182376
(22)【出願日】2017-09-22
(65)【公開番号】P2019057677
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】西出 基
(72)【発明者】
【氏名】伊豆田 崇
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-010959(JP,A)
【文献】特開2015-106699(JP,A)
【文献】特開2016-072609(JP,A)
【文献】特開2005-260087(JP,A)
【文献】特開2001-102346(JP,A)
【文献】特開2013-138062(JP,A)
【文献】特開2015-050352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/306
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を処理する基板処理方法であって、
硫酸と過酸化水素水との混合液を、配管を介してノズルから基板へ向けて吐出する第1工程と、
前記第1工程の後に、過酸化水素水を、前記配管を介して前記ノズルから基板へ向けて吐出する第2工程と
を備え、
前記第1工程は、
(A)前記混合液を前記配管に導入開始する混合液導入開始工程と、
(B)(A)の後に、前記硫酸の前記配管への導入停止する混合液導入停止工程と、
(C)(B)と同時またはその直後に、前記配管へ導入する前記過酸化水素水の流量を低下させ又は流量をゼロとし、前記混合液と前記過酸化水素水との反応により生成された気体で、前記混合液と前記過酸化水素水との境界部に気体層を形成する気体層形成工程
含む、基板処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
(C)において、前記過酸化水素水の流量を中断期間に亘ってゼロとし、
前記中断期間は、前記基板の表面に、液体によって覆われていない液切れ領域が生じない程度の時間に設定される、基板処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の基板処理方法であって、
前記混合液において、前記硫酸の体積が前記過酸化水素水の体積よりも大きい混合比で前記硫酸と前記過酸化水素水とが混合されている、基板処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の基板処理方法であって、
前記気体層形成工程において、前記配管に気体を供給しない、基板処理方法。
【請求項5】
基板を保持する基板保持手段と、
硫酸を供給する第1液供給手段と、
過酸化水素水を可変の流量で供給する第2液供給手段と、
前記第1液供給手段および前記第2液供給手段からそれぞれ導入された前記硫酸および前記過酸化水素水の混合液が流れる配管と、前記配管からの前記混合液を前記基板の表面に吐出するノズルとを有する第3液供給手段と、
前記第1液供給手段および前記第2液供給手段にそれぞれ前記硫酸および前記過酸化水素水を供給させて前記基板に前記混合液を吐出した後に、前記第1液供給手段に前記硫酸の供給を停止させ、前記硫酸の供給の停止と同時又はその直後において前記第2液供給手段に前記過酸化水素水の流量を低下またはゼロにさせ、前記混合液と前記過酸化水素水との反応により生成された気体で、前記混合液と前記過酸化水素水との境界部に気体層を形成する制御手段と
を備える、基板処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の基板処理装置であって、
前記制御手段は、前記気体層の形成において、前記配管に気体を供給しない、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板処理方法および基板処理装置に関し、特に、第1液と第2液との混合により気体を発生させる混合液を、基板の表面に供給する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの製造工程においては、硫酸と過酸化水素水との混合液であるSPM(Sulfuric Acid-Hydrogen Peroxide Mixture)を基板の表面に供給して、SPMに含まれるペルオキソ一硫酸(Peroxymonosulfuric acid)の強酸化力により、基板の表面からレジストを除去する手法が知られている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、スピンチャックと、スピンチャックに保持された基板の上面にSPMを供給するためのSPMノズルと、SPMノズルに硫酸を供給する硫酸供給管と、SPMノズルに過酸化水素水を供給する過酸化水素水供給管とを備える基板処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-106699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板の表面へのSPMの供給を停止する場合、まず硫酸の供給を停止し、その後、過酸化水素水の供給を停止することが考えられる。このように、硫酸を停止して過酸化水素水を供給することにより、基板の表面上のSPMが過酸化水素水で置換され、SPMを基板の表面から除去することができる。また、SPMノズル内の硫酸を全て吐出しきった状態で、処理を終了することができる。これによれば、硫酸がSPMノズル内に残留することによる不具合を回避できる。
【0006】
しかしながら、硫酸の供給を停止して過酸化水素水を供給すると、例えばSPMノズル内において、SPMと過酸化水素水との境界部において過酸化水素水の濃度が高まる。これにより、当該境界部で硫酸と過酸化水素水との反応が促進される。硫酸と過酸化水素水とが反応すると、気体(蒸気)が発生するので、この反応の促進によって気体(蒸気)の発生量が増える。そして、この気体がSPMに混じってSPMノズルから吐出される際に、SPMが勢いよく吹き飛ばされて(いわゆる吹きこぼれ)、他の部材(例えば天井)へ付着することがあった。
【0007】
そこで、本発明は、ノズルの吐出口から液体が吹き飛ばされることを抑制できる基板処理方法および基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、基板処理方法の第1の態様は、硫酸と過酸化水素水との混合液を、配管を介してノズルから基板へ向けて吐出する第1工程と、前記第1工程の後に、過酸化水素水を、前記配管を介して前記ノズルから基板へ向けて吐出する第2工程とを備え、前記第1工程は、(A)前記混合液を前記配管に導入開始する混合液導入開始工程と、(B)(A)の後に、前記硫酸の前記配管への導入停止する混合液導入停止工程と、(C)(B)と同時またはその直後に、前記配管へ導入する前記過酸化水素水の流量を低下させ又は流量をゼロとし、前記混合液と前記過酸化水素水との反応により生成された気体で、前記混合液と前記過酸化水素水との境界部に気体層を形成する気体層形成工程とを含む。
【0009】
基板処理方法の第2の態様は、第1の態様にかかる基板処理方法であって、(C)において、前記過酸化水素水の流量を中断期間に亘ってゼロとし、前記中断期間は、前記基板の表面に、液体によって覆われていない液切れ領域が生じない程度の時間に設定される。
【0013】
基板処理方法の第の態様は、第1または第2の態様にかかる基板処理方法であって、前記混合液において、前記硫酸の体積が前記過酸化水素水の体積よりも大きい混合比で前記硫酸と前記過酸化水素水とが混合されている。
基板処理方法の第4の態様は、第1から第3のいずれか一つの態様にかかる基板処理方法であって、前記気体層形成工程において、前記配管に気体を供給しない。
【0014】
基板処理装置の第の態様は、基板を保持する基板保持手段と、硫酸を供給する第1液供給手段と、過酸化水素水を可変の流量で供給する第2液供給手段と、前記第1液供給手段および前記第2液供給手段からそれぞれ導入された前記硫酸および前記過酸化水素水の混合液が流れる配管と、前記配管からの前記混合液を前記基板の表面に吐出するノズルとを有する第3液供給手段と、前記第1液供給手段および前記第2液供給手段にそれぞれ前記硫酸および前記過酸化水素水を供給させて前記基板に前記混合液を吐出した後に、前記第1液供給手段に前記硫酸の供給を停止させ、前記硫酸の供給の停止と同時又はその直後において前記第2液供給手段に前記過酸化水素水の流量を低下またはゼロにさせ、前記混合液と前記過酸化水素水との反応により生成された気体で、前記混合液と前記過酸化水素水との境界部に気体層を形成する制御手段とを備える。
【0015】
基板処理装置の第の態様は、第5の態様にかかる基板処理装置であって、前記制御手段は、前記気体層の形成において、前記配管に気体を供給しない
【発明の効果】
【0016】
基板処理方法の第1からの態様および基板処理装置の第、第の態様によれば、気体の層によって第1液と第2液との反応を抑制できるので、この反応による気体の発生を抑制することができる。よって、混合液の吐出口からの吹き飛ばしを抑制できる。
【0017】
基板処理方法の第2の態様によれば、基板の表面に液切れ領域が生じることを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】基板処理装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】基板処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図3】過酸化水素水と混合液との境界の様子の一例を示す図である。
図4】基板処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図5】過酸化水素水と混合液との境界の様子の一例を示す図である。
図6】基板処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図7】基板処理装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図8】混合部の付近の構成の一例を概略的に示す図である。
図9】基板処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ実施の形態について詳細に説明する。また理解容易の目的で、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0021】
第1の実施の形態.
<基板処理装置>
図1は、基板処理装置1の構成の一例を概略的に示す図である。基板処理装置1は、基板Wの表面に処理液を供給して、当該処理液に基づく処理を基板Wに対して行う装置である。この基板処理装置1は基板保持部10と第1液供給部20と第2液供給部30と混合液供給部40と制御部50とを備えている。なお、基板処理装置1は不図示の筐体(チャンバ)も備えている。この筐体には、不図示のシャッタが設けられており、当該シャッタが開いているときに、この開いたシャッタを介して基板Wが筐体の外部から筐体の内部へと搬入されたり、あるいは、筐体の内部の基板Wが筐体の外部へと搬出されたりする。
【0022】
基板保持部10は基板Wを水平に保持する。例えば基板Wは半導体基板であって、平面視で円形の形状を有する板状の基板である。但し、基板Wはこれに限らず、例えば液晶などの表示パネル用の基板であって、平面視で矩形状の形状を有する板状の基板であってもよい。基板保持部10は特に限定される必要はないものの、例えば保持台12を有する。保持台12の上面には、例えば複数の突起部(ピン)11が設けられており、複数の突起部11の先端が基板Wの下面を支持する。突起部11には、基板Wの側面と対向して基板Wを外周側から位置決めする部材が設けられていてもよい。
【0023】
図1の例においては、基板Wを水平面内で回転させる回転機構13が設けられている。回転機構13は例えばモータを有しており、基板Wの中心を通る軸を回転軸Qとして、基板保持部10を回転させる。これにより、基板保持部10に保持された基板Wが回転軸Qを中心として回転する。基板保持部10および回転機構13からなる構造は、スピンチャックとも呼ばれることがある。
【0024】
第1液供給部20は第1液を混合液供給部40へと供給する。第1液は例えば硫酸である。第1液供給部20は液供給源21と液供給配管22と開閉弁23と流量調整部24とを備えている。液供給配管22の一端は液供給源21に接続されており、他端は混合液供給部40に接続されている。液供給源21からの第1液は液供給配管22の内部を流れて、混合液供給部40へと供給される。
【0025】
開閉弁23は液供給配管22の途中に設けられている。開閉弁23は、第1液の供給/停止を切り替える切替手段として機能する。具体的には、開閉弁23が開くことにより、第1液が液供給配管22の内部を流れて混合液供給部40へと供給され、開閉弁23が閉じることにより、混合液供給部40への第1液の供給が停止される。
【0026】
流量調整部24は、例えば流量調整弁であって、液供給配管22の途中に設けられている。流量調整部24は、液供給配管22の内部を流れる第1液の流量を調整する。具体的には、流量調整部24の開度が調整されることにより、第1液の流量が調整される。なお開閉弁23を閉じることにより、硫酸の流量を零にできることから、開閉弁23も流量調整手段の一種とみなすことができる。
【0027】
第2液供給部30は第2液を混合液供給部40へと供給する。第2液は第1液と混ざることにより、第1液と反応して気体を発生させる液である。第1液として硫酸を採用する場合、第2液としては例えば過酸化水素水を採用することができる。硫酸と過酸化水素水とが混ざって反応することで、強い酸化力を有するペルオキソ一硫酸が生成されるとともに、例えばその反応熱により、混合液中の水が蒸発して気体(蒸気)が発生する。ここでは、一例として、第1液および第2液がそれぞれ硫酸および過酸化水素水である場合について述べる。
【0028】
第2液供給部30は液供給源31と液供給配管32と開閉弁33と流量調整部34とを備えている。液供給配管32の一端は液供給源31に接続されており、他端は混合液供給部40に接続されている。液供給源31からの過酸化水素水は液供給配管32の内部を流れて、混合液供給部40へと供給される。
【0029】
開閉弁33は液供給配管32の途中に設けられている。開閉弁33は、過酸化水素水の供給/停止を切り替える切替手段として機能する。具体的には、開閉弁33が開くことにより、過酸化水素水が液供給配管32の内部を流れて混合液供給部40へと供給され、開閉弁33が閉じることにより、混合液供給部40への過酸化水素水の供給が停止される。
【0030】
流量調整部34は、例えば流量調整弁であって、液供給配管32の途中に設けられている。流量調整部34は、液供給配管32の内部を流れる過酸化水素水の流量を調整する。具体的には、流量調整部34の開度が調整されることにより、過酸化水素水の流量が調整される。なお開閉弁33を閉じることにより、過酸化水素水の流量を零にできることから、開閉弁33も流量調整手段の一種とみなすことができる。
【0031】
図1の例においては、第1液供給部20には、加熱部25が設けられている。加熱部25は例えばヒータであって、液供給配管22の途中に設けられる。加熱部25は、液供給配管22の内部を流れる硫酸を加熱することができる。これにより、硫酸と過酸化水素水とを混合したときの反応を良好にすることができる。加熱部25は硫酸の温度を例えば150度以上に昇温する。
【0032】
混合液供給部40は、第1液供給部20および第2液供給部30からそれぞれ導入された硫酸および過酸化水素水を混合し、その混合液(SPM)を処理液として基板Wの表面へと供給する。この混合液では、硫酸と過酸化水素水とが反応して、ペルオキソ一硫酸が生成される。基板Wの表面(上面)にはレジストが形成されており、このペルオキソ一硫酸の強酸化力により、当該レジストが除去される。よって、この場合、基板処理装置1はレジスト除去装置である。
【0033】
混合液供給部40は混合部41と混合液供給配管42とノズル43とを備えている。混合部41には、液供給配管22,32の他端が接続される。より具体的には、混合部41は内部空間を有しており、この内部空間が液供給配管22,32の他端に連通する。なお混合部41は配管とみなすこともできる。この混合部41において硫酸および過酸化水素水が混合される。硫酸と過酸化水素水との混合比は、硫酸の体積が過酸化水素水の体積よりも大きくなるように設定され、混合比(=硫酸の体積/過酸化水素水の体積)は例えば10以上に設定される。この混合比は流量調整部24,34による硫酸および過酸化水素水の流量調整により実現され得る。
【0034】
混合部41は混合液供給配管42の一端にも接続される。つまり、混合部41の内部空間は混合液供給配管42の一端に連通する。混合液供給配管42の他端には、ノズル43が接続されている。ノズル43はその先端面において吐出口43aを有しており、また当該吐出口43aと混合液供給配管42の他端とを連通する内部流路43bを有する。混合部41からの混合液は混合液供給配管42を介してノズル43の内部流路43bへと流れて、ノズル43の吐出口43aから吐出される。
【0035】
このノズル43は少なくとも混合液の吐出時において、基板Wの上方に位置している。よって、混合液はノズル43の吐出口43aから基板Wの表面へと吐出される。
【0036】
混合部41とノズル43の吐出口43aとの間の流路長さは例えば次のように設定され得る。即ち、ペルオキソ一硫酸の濃度が、基板Wの表面において、レジスト除去に十分な値をとるように、当該流路長さが設定されるとよい。これにより、基板Wのレジストを効率的に除去できる。
【0037】
このような基板処理装置1において、第1液供給部20および第2液供給部30の一組は混合液供給配管42を介してノズル43から基板Wへ混合液を供給する供給部である。また混合部41には硫酸および過酸化水素水が流れることから、混合部41も配管の一部であるとみなすことができる。
【0038】
また図1に例示するように、ノズル43の内部流路43bの延在方向は吐出口43aにおいて基板Wの表面に対して傾斜していてもよく、あるいは、図1の例示とは異なって、当該延在方向が基板Wの表面に略垂直であってもよい。
【0039】
図1の例においては、基板処理装置1には、ノズル移動機構44が設けられている。ノズル移動機構44はノズル43を、基板Wの上方の処理位置と、基板Wの上方から退避した待機位置との間で移動させることができる。ノズル43が待機位置に移動することにより、基板保持部10の上方の空間が空くので、基板保持部10と基板処理装置1の外部との間の基板Wの受け渡しを行いやすくできる。
【0040】
ノズル移動機構44は特に限定されないものの、例えば、いずれも不図示の柱部、アームおよび回転機構を有している。柱部は鉛直方向に沿って延びており、その基端が回転機構に固定される。アームは柱部の先端から水平に伸びている。アームの先端にはノズル43が連結されている。回転機構は例えばモータを有しており、柱部の中心軸(鉛直方向に平行な中心軸)を回転軸として当該柱部を回転させる。柱部を回転させることにより、ノズル43は円弧上に沿って移動する。処理位置および待機位置はこの円弧上に設定される。これにより、ノズル移動機構44はノズル43を処理位置と待機位置との間で移動させることができる。
【0041】
またノズル移動機構44は、ノズル43を鉛直方向に沿って移動させるための昇降機構を有していてもよい。昇降機構としては、例えばエアシリンダ、ボールねじ機構または一軸ステージなどを採用し得る。これによれば、ノズル43と基板Wとの間の間隔を調整することができる。
【0042】
図1の例においては、基板処理装置1には、カップ80が設けられている。カップ80は基板Wの周縁を囲むように設けられている。カップ80は、基板Wの周縁から外側に流れ出る処理液を回収するための部材である。このカップ80は例えば筒状の形状を有している。基板Wの回転に伴って基板Wの周縁から飛散された処理液は、カップ80の内周面に衝突して、カップ80の底面へと流れる。カップ80の底面には、処理液の回収用の孔(不図示)が形成されており、当該孔を介して処理液が回収される。
【0043】
制御部50は、第1液供給部20による硫酸の供給、第2液供給部30による過酸化水素水の供給を制御する。具体的には、制御部50は開閉弁23,33の開閉、流量調整部24,34の開度および加熱部25の発熱量を制御する。また、制御部50は回転機構13の回転速度およびノズル移動機構44も制御することができる。
【0044】
制御部50は電子回路機器であって、例えばデータ処理装置および記憶媒体を有していてもよい。データ処理装置は例えばCPU(Central Processor Unit)などの演算処理装置であってもよい。記憶部は非一時的な記憶媒体(例えばROM(Read Only Memory)またはハードディスク)および一時的な記憶媒体(例えばRAM(Random Access Memory))を有していてもよい。非一時的な記憶媒体には、例えば制御部50が実行する処理を規定するプログラムが記憶されていてもよい。処理装置がこのプログラムを実行することにより、制御部50が、プログラムに規定された処理を実行することができる。もちろん、制御部50が実行する処理の一部または全部がハードウェアによって実行されてもよい。
【0045】
図1の例においては、基板処理装置1には、リンス液供給部60も設けられている。リンス液供給部60は基板Wの表面にリンス液を供給する。リンス液としては、例えば純水(DIW:DeIonized Water)を採用できる。あるいは、リンス液として、炭酸水、電解イオン水、オゾン水、希釈濃度(たとえば、10~100ppm程度)の塩酸水、還元水(水素水)等を採用してもよい。
【0046】
リンス液供給部60は例えば液供給源61と液供給配管62と開閉弁63とノズル64とノズル移動機構65とを備えている。液供給配管62の一端は液供給源61に接続されており、他端はノズル64に接続されている。液供給源61からのリンス液は液供給配管62の内部をノズル64へと流れ、ノズル64の吐出口から吐出される。
【0047】
開閉弁63は液供給配管62の途中に設けられている。開閉弁63はリンス液の供給/停止を切り替える切替手段として機能する。具体的には、開閉弁63が開くことにより、リンス液が液供給配管62の内部を流れ、開閉弁63が閉じることにより、リンス液の供給が停止される。開閉弁63の開閉は制御部50によって制御される。
【0048】
ノズル64は少なくともリンス液の吐出時において、基板Wの上方に位置している。リンス液はノズル64から基板Wの表面に吐出されて、基板Wの表面を洗い流すことができる。
【0049】
ノズル移動機構65はノズル64を、基板Wの上方の処理位置と、基板Wの上方から退避した待機位置との間で移動させることができる。ノズル64が待機位置に移動することにより、ノズル64,43の物理的な干渉を回避することができ、また、基板保持部10と基板処理装置1の外部との間の基板Wの受け渡しを行いやすくできる。ノズル移動機構65の構成の一例はノズル移動機構44と同様である。
【0050】
<基板処理装置の動作>
図2は、基板処理装置1の動作の一例を示すフローチャートである。ステップS1にて、表面にレジストが形成された基板Wを配置する。具体的には、制御部50がノズル移動機構44,65を制御して、ノズル43,64をそれぞれの待機位置で停止させている状態で、筐体のシャッタを開く。そして、不図示の搬送ロボットが、基板Wを載置したハンドを基板処理装置1(筐体)の内部に進入させることにより、基板Wを基板保持部10の上に受け渡す。その後、搬送ロボットが空のハンドを基板処理装置1から引き抜く。これにより、基板Wが基板保持部10によって保持される。
【0051】
次にステップS2にて、制御部50は回転機構13を制御して基板Wを所定の回転速度で回転させる。所定の回転速度としては、例えば300[rpm]~1500[rpm]の範囲内の値を採用できる。
【0052】
次にステップS3にて、混合液(SPM)を基板Wの表面に吐出する混合液供給工程が行われる。具体的には、制御部50はノズル移動機構44を制御してノズル43を処理位置に移動させる。ノズル43を処理位置に移動させた後に、制御部50は開閉弁23,33を略同時に開く。これにより、硫酸および過酸化水素水がそれぞれ液供給配管22,32の内部を混合部41に向かって流れる。
【0053】
また制御部50は硫酸と過酸化水素水との混合比が所定比となるように、流量調整部24,34の開度を制御する。例えばこの所定比は硫酸の量が過酸化水素水の量よりも大きくなるように設定され、例えば硫酸:過酸化水素水=10:1程度に設定される。硫酸の混合比を高く設定することで、回収後の混合液が再利用しやすくなる。つまり、硫酸の混合比が高ければ、回収後の混合液であっても、なお硫酸の濃度が高いので、回収後の混合液を硫酸として再利用しやすい。
【0054】
また、制御部50は加熱部25を制御して、硫酸を所定温度(例えば150度以上)まで昇温させる。これにより、硫酸と過酸化水素水との反応性を向上することができる。
【0055】
混合部41では、加熱された硫酸と、過酸化水素水とが混ざり合い、その混合液が混合液供給配管42の内部およびノズル43の内部流路43bを流れて、ノズル43の吐出口43aから基板Wの表面に吐出される。基板Wの表面に吐出された混合液は、基板Wの回転による遠心力を受けて広がる。これにより、混合液が基板Wの表面の全面を覆う。そして、混合液に含まれるペルオキソ一硫酸が基板Wの表面のレジストと化学的に反応し、当該レジストが基板Wの表面から除去される。
【0056】
なお、この混合液供給工程において、ノズル43の位置を固定して混合液を基板Wに供給もよいし、ノズル43を移動させながら混合液を基板Wへと供給してもよい。例えば制御部50は、混合液の基板Wに対する着液位置を、基板Wの中心部と周縁部とで移動(例えば往復移動)させるべく、ノズル移動機構44を制御しても構わない。着液位置を基板Wの中心部と周縁部との間で移動させれば、基板Wの表面の全面を均一に処理することができる。
【0057】
混合液の供給開始から所定の期間が経過すると混合液供給工程を終了し、ステップS4にて、制御部50は硫酸の供給を停止する。具体的には、制御部50は開閉弁23を閉じることにより、硫酸の供給を停止する。これにより、混合部41への硫酸の導入が停止され、過酸化水素水のみが導入される。またこのとき、制御部50は加熱部25による加熱を終了させる。
【0058】
さて、硫酸の供給停止後にも過酸化水素水の供給を維持する場合には、混合液供給部40の内部(つまり混合部41からノズル43までの流路内)に存在する混合液が、第1液供給部20からの過酸化水素水によって押圧されて、ノズル43から吐出される。そして混合液の全てがノズル43の吐出口43aから吐出されると、以後はノズル43の吐出口43aから過酸化水素水のみが吐出されることとなる。
【0059】
ところで、混合液供給部40の内部では、過酸化水素水と混合液との境界部における過酸化水素水の濃度が、境界部以外の混合液における過酸化水素水の濃度よりも高くなる。なぜなら、硫酸の供給が停止されているからである。なおここでいう境界部とは、混合液(例えば混合比が10:1)と、過酸化水素水とが混ざった部分であり、成分上は混合液と同じである。ただし、上述のように境界部における過酸化水素水の濃度は高い。
【0060】
このように境界部における過酸化水素水の濃度が増大するので、当該境界部において硫酸と過酸化水素水との反応が促進してしまい、反応熱量が増えて気体(蒸気)の発生量が増大する。例えば境界部における温度は200度程度まで上昇し得る。
【0061】
そして、過酸化水素水が境界部に供給され続けると、過酸化水素水と混合液とが混ざり合った境界部が広がり、結果として広い範囲で分散的に気体が生成してしまう。図3はこの現象を示す模式図であり、ノズル43の内部を示している。
【0062】
なお、ここでは模式的にノズル43の内部で上記現象を示しているものの、実際には、当該現象は硫酸の供給停止直後の混合部41において発生し、過酸化水素水の供給に起因して時間の経過とともに境界部および気体が混合液供給配管42の内部を移動してノズル43の吐出口43aへ至る。図3の例においては、ノズル43の内部において混合液L2は吐出口43a側に位置しており、過酸化水素水L1は混合液L2よりも上流側(吐出口43aとは反対側)に位置しており、気体A1が広く分散している。なおこの混合液L2は境界部を含んでいる。
【0063】
そして、この気体A1がノズル43の吐出口43aから混合液L2とともに吐出されることで、混合液L2が吹き飛ばされ(飛散し)、所望の着液位置とは異なる位置に着液する。吹き飛ばされた混合液L2は基板W以外の場所(例えば天井)に着液することもある。図3の例においては、吹き飛ばされた混合液L2の纏まりを模式的に円で示し、またその飛散方向を矢印で模式的に示している。
【0064】
しかも、混合液供給工程(ステップS3)で供給する混合液において、硫酸の混合比が高く設定される場合、つまり過酸化水素水の混合比が低く設定される場合には、境界部における過酸化水素水の混合比が混合液における過酸化水素水の混合比に比べて顕著に増大してしまう。これにより、境界部における硫酸と過酸化水素水との反応が比較的に促進されやすくなる、と考えられる。つまり、硫酸の混合比(=硫酸の体積/過酸化水素水の体積)が高い場合、境界部における気体の発生量は比較的に多くなる。よって、硫酸の混合比を高めて回収後の混合液の再利用性を高めると、硫酸の供給停止後の混合液の吹き飛ばしが生じやすくなる。例えば硫酸の混合比(=硫酸/過酸化水素水)が10以上であるときに、混合液の吹き飛ばしが生じやすい。
【0065】
そこで本実施の形態では、硫酸の供給停止に伴う混合液の吹き飛ばしを抑制すべく、ステップS5にて、過酸化水素水と混合液との境界部に気体層を形成する。図4は、気体層を形成するための処理手順の一例を示すフローチャートである。ステップS51にて、制御部50は過酸化水素水の供給を一旦停止(中断)する。ステップS51はステップS4と同時に実行されてもよい。つまり、制御部50は開閉弁23の閉止と同時、或いはその直後に、開閉弁33を一旦閉じる。これにより、混合液供給部40の内部において過酸化水素水による押圧が一旦消失する。言い換えれば、硫酸の混合液供給部40への導入停止と同時又はその直後に、過酸化水素水の流量をゼロとする。この押圧の消失により、境界部で発生する気体が境界部付近に留まりやすく、この境界部において気体がまとまって形成され、その結果、気体層が形成される。図5はこの現象を示す模式図であり、図3と同様にノズル43の内部を示している。この気体層は過酸化水素水L1と混合液L2との接触領域を低減することができる。この気体層は過酸化水素水L1と混合液L2との分離領域として機能し得る。なおここでは模式的にノズル43の内部で上記現象を示しているものの、図3と同様に、実際には、当該現象は硫酸の供給停止直後の混合部41において発生する。
【0066】
この気体層は、過酸化水素水と混合液との接触を抑制するので、更なる反応を抑制することができ、ひいては、更なる気体の発生を抑制できる。つまり、気体の発生量を低減できる。
【0067】
開閉弁33を閉じてから所定の期間(以下、中断期間と呼ぶ)が経過すると、ステップS52にて、制御部50は過酸化水素水の供給を再開させる。具体的には、制御部50は開閉弁33を開くことで、過酸化水素水の供給を再開する。これにより、過酸化水素水が気体層および混合液をノズル43の吐出口43a側へと押圧するので、いずれノズル43の吐出口43aから過酸化水素水のみが基板Wの表面に吐出される。
【0068】
ところで、ステップS51による過酸化水素水の供給の停止の直後において、混合液をノズル43の吐出口43a側へと押圧する力は、主として境界部に形成される気体層の圧力によって実現される。言い換えれば、開閉弁23,33の両方を閉じた直後は気体層の圧力によって、ノズル43の吐出口43aから混合液の吐出が維持される。この気体層の圧力による混合液の吐出は長期間に亘って維持できないので、過酸化水素水の供給を再開しない限り、いずれノズル43からの混合液の吐出が途切れてしまう。基板Wの表面上の混合液は基板Wの回転によって、その中央部から周縁へと移動するので、ノズル43からの吐出が再開されない限り、いずれ基板Wの中心領域が液切れ領域となる。液切れ領域とは、基板Wの表面上の領域であって、液体によって覆われていない領域である。この液切れ領域ではウォーターマークが生じたり、あるいは、パーティクルなどが付着したりする場合がある。
【0069】
そこで、開閉弁23,33の両方を閉じる中断期間は、基板Wの表面に液切れ領域が生じない程度の時間に設定されるとよい。つまり、制御部50は、基板Wの表面に液切れ領域が生じる前にステップS52による過酸化水素水の供給を再開するのである。これによって、基板Wの表面上に液切れ領域が発生することを回避できる。この中断期間は例えば実験などにより設定することができる。
【0070】
なお過酸化水素水の供給の再開により、気体層は過酸化水素水の押圧によってノズル43側へと移動する。気体層がノズル43の吐出口43aから吐出される際であっても、混合液の吹き飛ばしは生じにくい。なぜなら、境界部に発生する気体の量が低減されているからである。また、気体の分散も抑制できるので、この観点でも、吹き飛ばしを抑制できる。
【0071】
また、気体層がノズル43の吐出口43aから吐出される際には、ノズル43の吐出口43aからの液体の吐出が中断され得る。しかるに、気体層の体積はさほど大きくないので、気体層の吐出後に速やかに過酸化水素水が吐出される。よって、基板Wの表面に液切れ領域は発生しにくい。
【0072】
過酸化水素水がノズル43の吐出口43aから基板Wの表面の中央部に吐出されると、基板Wの回転に伴う遠心力を受けて外周側へと広がる。これにより、過酸化水素水が基板Wの表面の混合液を外周側へと押し出して基板Wの周縁から排出する。よって、基板Wの表面上の混合液が過酸化水素水に置換される。過酸化水素水を所定期間に亘って供給した後、ステップS6にて、制御部50は開閉弁33を閉じて過酸化水素水の供給を停止する(図2)。
【0073】
次にステップS7にて、リンス液供給工程が行われる。具体的には、制御部50はノズル移動機構44を制御してノズル43を待機位置へ移動させ、その後、ノズル移動機構65を制御してノズル64を処理位置へと移動させる。そして制御部50は開閉弁63を開いて、リンス液をノズル64の吐出口から基板Wの表面へと吐出させる。
【0074】
リンス液は基板Wの表面の中央部に着液し、基板Wの回転に伴う遠心力を受けて外周側へと広がる。これにより、リンス液が基板Wの表面上の過酸化水素水を外周側へと押し出して基板Wの周縁から排出する。よって、基板Wの表面上の過酸化水素水がリンス液に置換される。つまり、基板Wの表面の全面において過酸化水素水が洗い流される。リンス液を所定期間に亘って供給した後、ステップS8にて、制御部50は開閉弁63を閉じてリンス液の供給を停止する。
【0075】
次にステップS9にて、乾燥工程が行われる。乾燥工程においては、例えば制御部50が回転機構13を制御して、基板Wの回転速度を増大させる。これにより、基板Wの表面上のリンス液には、より大きな遠心力が作用し、リンス液は基板Wの周縁部から外側へと振り切られる。これにより、リンス液が除去されて基板Wが乾燥する。制御部50は所定期間に亘って基板Wを回転させた後で、回転機構13を制御して基板Wの回転を停止させる。
【0076】
以上のように、基板処理装置1によれば、混合液供給部40への硫酸の供給を停止することにより生じる混合液と過酸化水素水との境界部において、気体層を形成する。上述の具体例では、硫酸の供給停止の際に、過酸化水素水の混合液供給部40への供給を一旦停止(中断)することにより、境界部に気体層を形成する。これにより、気体の発生量を低減できるので、ノズル43の吐出口43aからの混合液の吹き飛ばしを抑制することができる。また過酸化水素水の供給の中断により、気体の分散も抑制でき、この観点でも、混合液の吹き飛ばしを抑制できる。
【0077】
また上述の例では、過酸化水素水の供給の中断期間は、基板Wの表面に液切れ領域が生じない程度の時間に設定されている。これによれば、基板Wの表面上に液切れ領域が発生することを回避でき、当該液切れ領域に起因したウォーターマークおよびパーティクルなどの不具合を回避できる。
【0078】
また上述したように、制御部50は開閉弁23の閉止と同時に開閉弁33を停止するとよい。これによれば、過酸化水素水と混合液との境界部への過酸化水素水による押圧を速やかに消失させることができる。したがって、当該押圧に起因した境界部の広がり、ひいては、気体の分散を速やかに抑制することができる。これによれば、より気体層を形成しやすい。
【0079】
<第2液(過酸化水素水)の流量>
上述の例では、制御部50が過酸化水素水を一旦停止(中断)することにより、混合液と過酸化水素水との境界部において気体層を形成した。しかしながら、気体層の形成のために、必ずしも過酸化水素水の供給を中断する必要は無い。
【0080】
図6は、気体層を形成するための処理手順の他の一例を示すフローチャートである。ステップS51Aにて、制御部50は流量調整部34を制御して、過酸化水素水の流量を低減させる。このステップS51AはステップS4と同時あるいはその直後に実行される。つまり、制御部50は開閉弁23の閉止と同時あるいはその直後に過酸化水素水の流量を低減する。この流量低減により、過酸化水素水と混合液との間の境界部への過酸化水素水による押圧が抑制される。よって、境界部の広がり、および、気体の分散を抑制でき、ひいては、気体がまとまって気体層を形成しやすい。逆に言えば、ステップS51Aでの過酸化水素水の流量は気体層が形成される程度の値に設定される。この気体層は過酸化水素水と混合液との接触領域を低減できる。よって、過酸化水素水と硫酸との更なる反応を抑制でき、更なる気体の発生を抑制できる。
【0081】
そして、過酸化水素水の流量を低減し始めてから所定期間(以下、低減期間とも呼ぶ)が経過した後に、ステップS52Aにて制御部50は過酸化水素水の流量を増大させる。例えば、制御部50は流量調整部34を制御して、過酸化水素水の流量を低減期間(ステップS51A)の前の流量に戻す。
【0082】
上記動作によっても、境界部における気体の発生を抑制できるので、ノズル43の吐出口43aの混合液の吹き飛ばしを抑制することができる。
【0083】
また上記動作によれば、硫酸の供給停止後も過酸化水素水の供給が維持されるので、ノズル43からの液体の吐出が途切れにくい。これによれば、基板Wの表面に液切れ領域が生じる可能性を低減することができる。
【0084】
第2の実施の形態.
第1の実施の形態においては、硫酸と過酸化水素水との化学反応に起因して生じる気体を利用して、過酸化水素水と混合液との境界部に気体層を形成した。第2の実施の形態では、この気体とは別の気体を別途に混合液供給部40に供給することにより、気体層を形成することを企図する。
【0085】
図7は、第2の実施の形態にかかる基板処理装置1Aの構成の一例を概略的に示す図である。基板処理装置1Aは気体供給部70の有無という点で基板処理装置1と相違する。言い換えれば、基板処理装置1Aは基板処理装置1と比較して、気体供給部70を更に備えている。気体供給部70は気体を混合液供給部40へと供給して、過酸化水素水と混合液との間の境界部に気体層を形成する。当該気体としては、例えば窒素またはアルゴンなどの不活性ガスを採用できる。
【0086】
気体供給部70は気体供給源71と気体供給配管72と開閉弁73とを備えている。気体供給配管72の一端は気体供給源71に接続されており、他端は混合部41に接続されている。気体供給源71からの気体は気体供給配管72の内部を流れて混合部41へと供給される。
【0087】
図8は、混合部41の近傍の構成の一例を概略的に示す図である。混合部41には、液供給配管22,32および気体供給配管72が接続されている。図8の例においては、液供給配管22と混合部41との接続口P2は、液供給配管32と混合部41との接続口P3に対して、ノズル43側(下流側)に位置しており、気体供給配管72と混合部41との接続口P1は接続口P2,P3の間に位置している。
【0088】
開閉弁73は気体供給配管72の途中に設けられている。開閉弁73は、気体の供給/停止を切り替える切替手段として機能する。具体的には、開閉弁73が開くことにより、気体供給源71からの気体が気体供給配管72の内部を流れて混合液供給部40へと供給され、開閉弁73が閉じることにより、混合液供給部40への気体の供給が停止される。
【0089】
この開閉弁73の開閉は制御部50によって制御される。具体的には、制御部50は開閉弁23を閉じて硫酸の供給を停止する際に、開閉弁73を開いて気体を混合液供給部40へと供給する。これにより、硫酸の供給停止によって生じる過酸化水素水と混合液との境界部に気体が供給されて、気体層が形成される。
【0090】
図9は、基板処理装置1Aにおける気体層形成工程の具体的な処理手順の一例を示すフローチャートである。図9において、ステップS51Bにて、制御部50はステップS4と同時あるいはその直後に、開閉弁73を開いて混合部41へと気体を供給する。これにより、混合部41において過酸化水素水と混合液との境界部に気体層を形成する。つまり、ステップS4において開閉弁23を閉じれば、混合部41において過酸化水素水と混合液との境界部が形成されるので、制御部50は開閉弁23の閉止と同時に開閉弁73を開いて気体を混合部41に供給することにより、当該境界部に気体層を形成するのである。言い換えれば、制御部50は、硫酸の供給の停止と同時又はその直後において、気体供給部70に気体を供給させて気体層を形成する。
【0091】
気体の供給開始から所定の期間(以下、気体供給期間と呼ぶ)が経過したときに、ステップS52Bにて、制御部50は開閉弁73を閉じて、気体の供給を停止する。ステップS52Bによって形成される気体層の体積は、気体の圧力および気体供給期間を調整することで、制御できる。
【0092】
境界部に気体層を形成することにより、第1の実施の形態と同様に、境界部における過酸化水素水と硫酸との反応を抑制することができ、気体の分散を抑制できる。したがって、ノズル43の吐出口43aからの液体の吹き飛ばしを抑制することができる。また気体層がノズル43の吐出口43aから吐出される期間では、液体の吐出が中断され得る。よって、この中断によって基板Wの表面に液切れ領域が形成されることがないように、気体層の体積を調整することも望ましい。気体の圧力および気体供給期間は予め実験等により決定できる。
【0093】
<過酸化水素水の流量>
制御部50は、開閉弁73を開いている期間(つまり気体供給期間:ステップS51B)において、過酸化水素水の流量を低減してもよい。具体的には、制御部50は開閉弁23の閉止と同時あるいはその直後に、流量調整部34を制御して過酸化水素水の流量を低減させてもよい。これによれば、過酸化水素水による境界部への押圧が抑制されるので、気体供給部70から供給される気体が境界部でまとまりやすく、気体層を形成しやすい。
【0094】
気体供給期間の経過後には、制御部50は流量調整部34を制御して、過酸化水素水の流量を増大させる。例えば、制御部50は流量調整部34を制御して、過酸化水素水の流量を気体供給期間の前の流量に戻す。
【0095】
なお、制御部50は過酸化水素水の流量の低減のために、必ずしも流量調整部34を制御する必要はない。例えば制御部50は開閉弁33を閉じることにより、過酸化水素水の流量を零に低減してもよい。これによれば、過酸化水素水による境界部への押圧が消失するので、気体層をより形成しやすい。気体供給期間の経過後に、制御部50は開閉弁33を制御して過酸化水素水の供給を再開する。
【0096】
<基板処理装置1の他の具体例>
上述の例では、第1液として硫酸を採用し、第2液として過酸化水素水を採用した。しかしながら、第1液と第2液との組み合わせはこれに限らない。例えば第1液および第2液の組み合わせとして、リン酸および水の組み合わせ(この場合、混合液は熱リン酸)を採用できる。この場合、基板処理装置1は熱リン酸を基板Wの表面に供給して、基板Wの表面をエッチングすることができる。第1液および第2液の組み合わせとしては、硫酸およびオゾン水の組み合わせ(この場合、混合液は硫酸オゾン(硫酸にオゾンガスを溶解させて生成した液体))を採用することもできる。この場合、基板処理装置1は硫酸オゾン水を基板Wの表面に供給して基板Wの表面を洗浄することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 基板処理装置
10 基板保持手段(基板保持部)
22 第1液供給配管
23,33 開閉手段(開閉弁)
32 第2液供給配管
40 混合液供給手段(混合液供給部)
41 混合部
43 ノズル
43a 吐出口
70 気体供給配手段(気体供給部)
S1,S3~S6 工程(ステップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9