(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】傾斜計測装置及び傾斜計測システム
(51)【国際特許分類】
G01C 9/06 20060101AFI20220105BHJP
G01C 5/06 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01C9/06 Z
G01C5/06
(21)【出願番号】P 2017200308
(22)【出願日】2017-10-16
【審査請求日】2020-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 陽子
(72)【発明者】
【氏名】大海 学
(72)【発明者】
【氏名】内山 武
(72)【発明者】
【氏名】野邉 彩子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛
(72)【発明者】
【氏名】須田 正之
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-166828(JP,A)
【文献】特開2017-181501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0151448(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00- 1/14
G01C 5/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気圧の変動を検出し、所定の距離を離して配置される、少なくとも2つの気圧変動センサと、
計測対象物の傾斜情報を計測する傾斜情報計測部と、
を備え、
前記気圧変動センサは、空気が流入するキャビティと、前記空気を前記キャビティの内外に流通させる連通孔と、前記キャビティの容積を変更する容積可変部と、を有し、前記キャビティの内部と外部との圧力差に基づいて前記気圧の変動を検出し、
前記気圧変動センサの何れか1つによって検出された前記気圧の変動に基づいて、前記少なくとも2つの気圧変動センサの容積可変部の各々に対して、前記検出された前記気圧の変動と前記キャビティ内の気圧の変動とが一致するように、前記キャビティの容積を変更させる制御部を更に含み、
前記傾斜情報計測部は、前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記
気圧の変動を示す気圧変動情報に基づいて、計測対象物の傾斜情報を計測する
ことを特徴とする傾斜計測装置。
【請求項2】
前記傾斜情報計測部は、
前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記気圧変動情報に基づいて、前記少なくとも2つの気圧変動センサの高度差の変動を示す高度差変動情報を生成し、前記所定の距離を示す距離情報と、前記高度差変動情報とに基づいて、前記計測対象物の傾斜情報を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の傾斜計測装置。
【請求項3】
気圧を検出する絶対圧センサを更に含み、
前記傾斜情報計測部は、前記絶対圧センサによって検出された気圧を、前記キャビティ内の気圧の初期値とし、
前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記気圧変動情報と、前記キャビティ内の気圧の初期値とに基づいて、前記高度差変動情報を生成する
ことを特徴とする請求項2に記載の傾斜計測装置。
【請求項4】
前記少なくとも2つの気圧変動センサの出力特性として、カットオフ周波数を計測する特性計測部と、
前記容積可変部によって、前記特性計測部によって計測された前記少なくとも2つの気圧変動センサの出力特性が一致するように調整する調整部と、
を更に含むことを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項記載の傾斜計測装置。
【請求項5】
前記容積可変部は、前記キャビティの少なくとも1つの面に配置され、変位可能なメンブレン構造部を備える
ことを特徴とする請求項1~請求項4の何れか1項に記載の傾斜計測装置。
【請求項6】
前記容積可変部は、変位可能な前記キャビティの底面と、前記底面の位置を変更して、前記容積を変更する圧電素子とを備えることを特徴とする請求項1~請求項4の何れか1項に記載の傾斜計測装置。
【請求項7】
前記容積可変部は、変位可能な前記キャビティの底面の位置を変更して、前記容積を変更する静電素子を備えることを特徴とする請求項1~請求項4の何れか1項に記載の傾斜計測装置。
【請求項8】
前記容積可変部は、変位可能な前記キャビティの底面と、前記底面の位置を変更して、前記容積を変更する磁石及び電磁コイルとを備えることを特徴とする請求項1~請求項4の何れか1項に記載の傾斜計測装置。
【請求項9】
前記容積可変部は、変位可能な前記キャビティの底面と、前記キャビティの側面に配置された、前記底面を変位する圧電素子とを備えることを特徴とする請求項1~請求項4の何れか1項に記載の傾斜計測装置。
【請求項10】
前記少なくとも2つの気圧変動センサは、少なくとも2つの気圧変動センサがX軸方向に沿って配置され、かつ、少なくとも2つの気圧変動センサがY軸方向に沿って配置された少なくとも3つの気圧変動センサであり、
前記傾斜情報計測部は、前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサの各々によって検出された前記気圧変動情報に基づいて、前記計測対象物のX軸周りの傾斜情報、及びY軸周りの傾斜情報を計測することを特徴とする請求項1~請求項9の何れか1項記載の傾斜計測装置。
【請求項11】
加速度を検出する加速度センサを更に含み、
前記傾斜情報計測部は、前記計測対象物が静止しているときに前記加速度センサによって検出された加速度に基づいて、前記計測対象物の絶対的な傾斜情報の初期値を算出し、
前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記気圧変動情報に基づいて、計測対象物の傾斜情報を計測し、
前記計測対象物の絶対的な傾斜情報の初期値と、前記計測対象物の傾斜情報とに基づいて、前記計測対象物の絶対的な傾斜情報を計測することを特徴とする請求項1~請求項10の何れか1項記載の傾斜計測装置。
【請求項12】
気圧の変動を検出し、所定の距離を離して配置される、少なくとも2つの気圧変動センサを含むセンサユニットと、
計測対象物の傾斜情報を計測する傾斜情報計測装置と、
を備え、
前記気圧変動センサは、空気が流入するキャビティと、前記空気を前記キャビティの内外に流通させる連通孔と、前記キャビティの容積を変更する容積可変部と、を有し、前記キャビティの内部と外部との圧力差に基づいて前記気圧の変動を検出し、
前記センサユニットは、前記気圧変動センサの何れか1つによって検出された前記気圧の変動に基づいて、前記少なくとも2つの気圧変動センサの容積可変部の各々に対して、前記検出された前記気圧の変動と前記キャビティ内の気圧の変動とが一致するように、前記キャビティの容積を変更させる制御部を更に含み、
前記傾斜情報計測装置は、前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記
気圧の変動を示す気圧変動情報に基づいて、計測対象物の傾斜情報を計測する
ことを特徴とする傾斜計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜計測装置及び傾斜計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
計測対象物の角度や水平度などの傾斜情報を計測する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の技術では、計測対象物の少なくとも3箇所に配置された絶対圧センサの出力に基づいて、計測対象物の水平度を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、一般に検出精度の低い絶対圧センサにより検出された気圧に基づいて傾斜情報を計測しているため、傾斜精度を上げようとするとセンサ間を広げる必要があり、小型化できない。
【0005】
また、絶対圧センサの測定値には、大気圧変動分が重畳する。センサ同士の位置が離れれば離れるほど、各センサに加わる大気圧変動分が異なる。この状況で絶対圧センサの出力値の差分を取っても、大気圧変動分のノイズ成分が除去しきれない。このため、微小な傾斜変動分を高精度に検出することが困難であり、このため高精度な傾斜測定ができない。
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、傾斜情報の検出精度を向上させると共に、装置を小型化することができる傾斜計測装置及び傾斜計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、気圧の変動を検出し、所定の距離を離して配置される、少なくとも2つの気圧変動センサと、前記気圧変動センサの何れか1つによって検出された前記気圧の変動を示す気圧変動情報に基づいて、計測対象物の傾斜情報を計測する傾斜情報計測部と、を備え、前記気圧変動センサは、空気が流入するキャビティと、前記空気を前記キャビティの内外に流通させる連通孔と、前記キャビティの容積を変更する容積可変部と、を有し、前記キャビティの内部と外部との圧力差に基づいて前記気圧の変動を検出し、前記気圧変動センサの何れか1つによって検出された前記気圧の変動に基づいて、前記少なくとも2つの気圧変動センサの容積可変部の各々に対して、前記検出された前記気圧の変動と前記キャビティ内の気圧の変動とが一致するように、前記キャビティの容積を変更させる制御部を更に含み、前記傾斜情報計測部は、前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記気圧変動情報に基づいて、計測対象物の傾斜情報を計測することを特徴とする傾斜計測装置である。
【0008】
また、本発明の一態様は、上記の傾斜計測装置において、前記傾斜情報計測部は、前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記気圧変動情報に基づいて、前記少なくとも2つの気圧変動センサの高度差の変動を示す高度差変動情報を生成し、前記所定の距離を示す距離情報と、前記高度差変動情報とに基づいて、前記計測対象物の傾斜情報を検出することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記の傾斜計測装置において、前記少なくとも2つの気圧変動センサの出力特性として、カットオフ周波数を計測する特性計測部と、前記容積可変部によって、前記特性計測部によって計測された前記少なくとも2つの気圧変動センサの出力特性が一致するように調整する調整部と、を更に含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記の傾斜計測装置において、前記容積可変部は、前記キャビティの少なくとも1つの面に配置され、外力により変形可能なメンブレン構造部を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様は、上記の傾斜計測装置において、前記容積可変部は、変位可能な前記キャビティの底面と、前記底面の位置を変更して、前記容積を変更する圧電素子とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記の傾斜計測装置において、前記容積可変部は、変位可能な前記キャビティの底面と、前記キャビティの側面に配置された、前記底面を変位する圧電素子とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様は、上記の傾斜計測装置において、前記少なくとも2つの気圧変動センサは、3つの気圧変動センサであり、前記傾斜情報計測部は、前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサの各々によって検出された前記気圧変動情報に基づいて、前記計測対象物のX軸周りの傾斜情報、及びY軸周りの傾斜情報を計測することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様は、上記の傾斜計測装置において、加速度を検出する加速度センサを更に含み、前記傾斜情報計測部は、前記計測対象物が静止しているときに前記加速度センサによって検出された加速度に基づいて、前記計測対象物の姿勢情報の初期値を算出し、前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記気圧変動情報に基づいて、計測対象物の傾斜情報を計測し、前記計測対象物の傾斜情報の初期値と、前記計測対象物の傾斜情報とに基づいて、前記計測対象物の姿勢情報を計測することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様は、気圧を検出する絶対圧センサを更に含み、前記傾斜情報計測部は、前記絶対圧センサによって検出された気圧を、前記キャビティ内の気圧の初期値とし、前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記気圧変動情報と、前記キャビティ内の気圧の初期値とに基づいて、前記高度差変動情報を生成することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様は、気圧の変動を検出し、所定の距離を離して配置される、少なくとも2つの気圧変動センサと、前記気圧変動センサの何れか1つによって検出された前記気圧の変動を示す気圧変動情報に基づいて、計測対象物の傾斜情報を計測する傾斜情報計測部と、を備え、前記気圧変動センサは、空気が流入するキャビティと、前記空気を前記キャビティの内外に流通させる連通孔と、前記キャビティの容積を変更する容積可変部と、を有し、前記キャビティの内部と外部との圧力差に基づいて前記気圧の変動を検出し、前記気圧変動センサの何れか1つによって検出された前記気圧の変動に基づいて、前記少なくとも2つの気圧変動センサの容積可変部の各々に対して、前記検出された前記気圧の変動と前記キャビティ内の気圧の変動とが一致するように、前記キャビティの容積を変更させる制御部を更に含み、前記傾斜情報計測部は、前記気圧変動センサの何れか1つとは異なる前記気圧変動センサによって検出された前記気圧変動情報に基づいて、計測対象物の傾斜情報を計測することを特徴とする傾斜計測システムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、傾斜情報の検出精度を向上させると共に、装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態による傾斜計測装置の一例を示す外観図である。
【
図2】本発明の実施形態による傾斜計測装置の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態による傾斜センサの一例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態による気圧変動センサの一例を示す構成図である。
【
図5】本発明の実施形態による検出回路の一例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施形態による検出回路の一例を示すブロック図である。
【
図7】本発明の実施形態における傾斜センサの動作の一例を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態における傾斜センサの初期状態を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態における傾斜センサの、計測対象物が傾斜したときの状態を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態における傾斜センサの動作の一例を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態における傾斜センサの動作の一例を示す図である。
【
図12】(a)比較例における気圧変動センサの動作の一例を示す図、及び(b)本発明の実施形態における気圧変動センサの動作の一例を示す図である。
【
図13】本発明の実施形態による傾斜センサの傾斜時における気圧、抵抗値変化、及びキャビティ容積の変化の一例を説明する図である。
【
図14】(a)本発明の実施形態における傾斜センサの初期状態を示す図、及び(b)本発明の実施形態における傾斜センサの、計測対象物が傾斜したときの状態を示す図である。
【
図15】本発明の実施形態による傾斜センサの傾斜時における気圧、キャビティ容積、及び出力信号の変化の一例を説明する図である。
【
図16】本発明の実施形態における傾斜センサの動作の一例を示す図である。
【
図17】(a)本発明の実施形態における傾斜センサの初期状態を示す図、及び(b)本発明の実施形態における傾斜センサの、計測対象物が傾斜したときの状態を示す図である。
【
図18】本発明の実施形態による傾斜センサの傾斜時における気圧、キャビティ容積、及び出力信号の変化の一例を説明する図である。
【
図19】本発明の実施形態における傾斜センサの動作の一例を示す図である。
【
図20】(a)本発明の実施形態における傾斜センサの初期状態を示す図、及び(b)本発明の実施形態における傾斜センサの、計測対象物が傾斜したときの状態を示す図である。
【
図21】本発明の実施形態による傾斜センサの傾斜時における気圧、キャビティ容積、及び出力信号の変化の一例を説明する図である。
【
図22】本発明の実施形態における傾斜センサの動作の一例を示す図である。
【
図23】本発明の実施形態における傾斜センサの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図24】本発明の実施形態における演算処理部の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図25】本発明の実施形態における傾斜センサの状態の変化の一例を示す図である。
【
図26】本発明の実施形態による傾斜センサの傾斜変化時における気圧、及び出力信号の変化の一例を説明する図である。
【
図27】本発明の実施形態における演算処理部の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図28】本発明の実施形態における調整装置の一例を示すブロック図である。
【
図29】気圧変動センサのキャビティ容積と周波数特性との関係を説明するための図である。
【
図30】本発明の実施形態における気圧変動センサの調整方法の一例を示すフローチャートである。
【
図31】本発明の実施形態及び変形例における気圧変動センサの断面図である。
【
図32】本発明の変形例における気圧変動センサの断面図である。
【
図33】傾斜センサの構造の変形例を示す図である。
【
図34】傾斜センサの構造の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の一例について詳細に説明する。
【0020】
以下、本発明の一実施形態による傾斜計測装置、及び傾斜計測システムについて、図面を参照して説明する。
【0021】
まず、
図1~
図3を参照して、本発明の実施形態による傾斜計測装置1の構成について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態による傾斜計測装置1の一例を示す外観図である。また、
図2は、本実施形態による傾斜計測装置1の一例を示すブロック図である。また、
図3は、本実施形態による傾斜センサ40の一例を示すブロック図である。
【0023】
図1及び
図2に示すように、傾斜計測装置1は、電源部31と、入力部32と、出力部33と、記憶部34と、入出力制御部35と、傾斜センサ40とを備えている。また、傾斜センサ40は、2つの気圧変動センサ51、52を備えている。
【0024】
なお、本実施形態において、気圧変動センサ51と、気圧変動センサ52とは、同一の構成であり、傾斜計測装置1が備える任意の気圧変動センサを示す場合、又は特に区別しない場合には、気圧変動センサ50として説明する。
【0025】
本実施形態による傾斜計測装置1は、計測対象物に設置されて、計測対象物の傾斜情報を検出する。ここで、計測対象物の傾斜情報には、例えば、計測対象物の傾斜度θ、水平度、傾斜の有無を示す情報などが含まれる。本実施形態では、一例として、傾斜計測装置1が、計測対象物の傾斜度θを検出する例について説明する。
【0026】
傾斜計測装置1は、例えば、
図1に示すように、電源部31と、入力部32と、出力部33と、記憶部34と、入出力制御部35と、傾斜センサ40とが1つのプリント基板PBに実装されており、例えば、数cm(センチメートル)~十数cm規模のサイズに実装可能である。
【0027】
また、本実施形態では、傾斜計測装置1が検出する傾斜度θの検出方向を、
図1に示すX軸方向とし、高度の方向をZ軸方向として説明する。
【0028】
電源部31は、傾斜計測装置1を動作させるための電源電圧を生成し、生成した電源電圧を各部に供給する。
【0029】
記憶部34は、傾斜計測装置1が使用する各種情報を記憶する。
【0030】
入出力制御部35は、入力部32、出力部33、及び傾斜センサ40における入出力を制御する。
【0031】
傾斜センサ40は、
図1及び
図3に示すように、演算処理部41と、容積制御部42と、記憶部43と、2つの気圧変動センサ50と、検出回路53、54とを備えている。なお、演算処理部41が、傾斜情報計測部の一例である。
【0032】
気圧変動センサ50は、気圧の変動を検出する差圧センサである。気圧変動センサ51と気圧変動センサ52とは、検出方向(X軸方向)に沿って所定の距離(例えば、距離D)を離して配置されている。
【0033】
また、本実施形態では、気圧変動センサ51と気圧変動センサ52とは、後述するキャビティ10(
図4参照)の容積を変更する容積制御部42を備えている。気圧変動センサ50は、検出した気圧の変動を、例えば検出信号(気圧変動情報)として、検出回路53、54に出力する。なお、気圧変動センサ50(51、52)の構成の詳細については後述する。
【0034】
また、本実施形態において、検出回路53と、検出回路54とは、同一の構成であり、傾斜計測装置1が備える任意の検出回路を示す場合、又は特に区別しない場合には、検出回路55として説明する。
【0035】
また、本実施形態において、説明の便宜上、気圧変動センサ50が2つである場合の一例について説明するが、傾斜センサ40は、3個以上の気圧変動センサ50を備えるようにしてもよい。すなわち、傾斜センサ40は、少なくとも2つの気圧変動センサ50を備えるものとする。
【0036】
容積制御部42は、一方の気圧変動センサ51によって検出された気圧変動情報に基づいて、気圧変動センサ51、52に設けられたキャビティ容積可変部56、57の各々に対して、検出された気圧の変動と同じ分だけキャビティ内の気圧を変動させるように、キャビティの容積を変更させる。
【0037】
演算処理部41は、例えば、CPUなどを含むプロセッサであり、他方の気圧変動センサ52によって検出された気圧の変動を示す気圧変動情報に基づいて、計測対象物の傾斜度の変動に関する情報を示す傾斜変動情報を生成する。例えば、演算処理部41は、気圧変動情報に基づいて、2つの気圧変動センサ50の高度差の変動を示す高度差変動情報を、傾斜変動情報(高度差変動情報ΔHD)として生成する。
【0038】
例えば、演算処理部41は、気圧変動センサ52が検出した検出信号(気圧変動情報)を、気圧変動センサ51、52の気圧変動情報の差分情報ΔPとして算出する。この気圧変動情報の差分情報ΔPは、気圧変動センサ51と気圧変動センサ52との高度差に対応する。演算処理部41は、気圧変動情報の差分情報ΔPを、例えば、変換テーブルなどを利用して、高度差変動情報ΔHDを生成する。
【0039】
記憶部43は、傾斜センサ40が使用する各種情報を記憶する。記憶部43は、例えば、気圧変動情報の差分情報ΔPを高度差変動情報ΔHDに変換するための変換テーブルを記憶する。
【0040】
次に、
図4及び
図5を参照して、本実施形態における気圧変動センサ50の詳細な構成について説明する。
【0041】
図4は、本実施形態による気圧変動センサ50の一例を示す構成図である。
【0042】
図4(a)は、本実施形態における気圧変動センサ50の一例を示す平面図であり、
図4(b)は、
図4(a)に示すA-A線に沿った気圧変動センサ50の断面図である。
【0043】
図4に示すように、気圧変動センサ50は、表裏の圧力差に応じて変形するカンチレバー4と、一端がカンチレバー4と対向するように配設された蓋部12と、カンチレバー4の変位を測定するための気圧変動検出部5と、カンチレバー4及び蓋部12の一面に配設されたキャビティ筐体3と、キャビティ10のメンブレン構造の底面部を形成するピエゾ素子68とを有している。ピエゾ素子68は、キャビティ容積可変部56、57の一部である。
【0044】
キャビティ筐体3は、内部にキャビティ10が形成された箱状の部材である。キャビティ筐体3は、例えば、キャビティ10を構成するセラミック材よりなる第1筐体部3aと、第1筐体部3a上に配置され、かつ後述のシリコン支持層2a及びシリコン酸化膜等の酸化層2bよりなる第2筐体部3bとを有している。
【0045】
カンチレバー4は、例えば、シリコン支持層2a、シリコン酸化膜等の酸化層2b、及びシリコン活性層2cを熱的に貼り合わせたSOI基板2を加工することで形成されている。具体的には、カンチレバー4は、SOI基板2を構成するシリコン活性層2cよりなり、平板状のシリコン活性層2cから平面視コ字状に形成されたギャップ13を切り出した形状からなる。これにより、カンチレバー4は、基端部4aを固定端とし、蓋部12と対向する側の端部である先端部4bを自由端とした片持ち梁構造となる。
【0046】
また、カンチレバー4は、キャビティ筐体3に形成されたキャビティ10の上面を囲うように配置されている。つまり、カンチレバー4は、キャビティ10の開口を略閉塞している。カンチレバー4は、基端部4aを介してキャビティ筐体3に第2筐体部3b上に対して一体的に固定されることで、片持ち支持される。これにより、カンチレバー4は、基端部4aを固定端としてキャビティ10内部と外部との圧力差(差圧)に応じた撓み変形が可能になる。
【0047】
このように、カンチレバー4は、空気をキャビティ10の内外に流通させるギャップ13(連通孔)を除くキャビティ10の開口面を塞ぐように基端部4aから先端部4bに向けて一方向に延びる板状であり、キャビティ10の内部と外部との圧力差に応じて撓み変形する。
【0048】
なお、カンチレバー4の基端部4aには、カンチレバー4が撓み変形しやすいように、平面視コ字状の貫通孔15が形成される。ただし、この貫通孔15の形状は、カンチレバー4の撓み変形を容易にする形状ならば、上記コ字状に限定されるものではない。
【0049】
蓋部12は、キャビティ10上方に位置し、ギャップ13を介して、カンチレバー4の周囲に配置されている。当該蓋部12は、シリコン活性層2cで構成される。
【0050】
気圧変動検出部5は、外部から加わる応力に応じて電気抵抗値が変化するピエゾ抵抗20と、この電気抵抗値変化を取り出す検出回路55から構成されている。
【0051】
ピエゾ抵抗20は、
図4に示すように、Y方向において、貫通孔15を挟んだ両側に対となって配置される。これら一対のピエゾ抵抗20は、導電性材料からなる配線部21を介して相互に電気的に接続されている。
【0052】
なお、この配線部21及びピエゾ抵抗20を含む全体的な形状は、例えば、
図4に示すように平面視U字状とすることができるが、別の配置形状としてもよい。
【0053】
検出回路55は、ピエゾ抵抗20と接続され、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値変化に基づいた信号を出力する回路である。検出回路55は、例えば、
図5に示すように、ブリッジ回路221及び差動増幅回路222で構成される。すなわち、検出回路55は、ピエゾ抵抗20と、固定抵抗Ro、可変抵抗Ro’を用いて、ブリッジ回路221を構成することで、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化を電圧変化として取り出すことができる。そして、検出回路55は、この電圧変化を差動増幅回路222により所定のゲインで増幅して出力する。
図5に示すように、検出回路53の差動増幅回路222は、電圧変化を増幅して容積制御部42に出力する。また、
図6に示すように、検出回路54の差動増幅回路222は、電圧変化を増幅して演算処理部41に出力する。
【0054】
なお、上記のピエゾ抵抗20は、例えば、イオン注入法や拡散法等の各種方法によりリン等のドープ剤(不純物)をシリコン活性層2cにドーピングすることで形成される。また、ドープ剤は、シリコン活性層2c表面近傍のみに添加される。このため、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化は、カンチレバー4に加わる応力の圧縮/伸長の方向に対して正負逆となる。
【0055】
また、一対のピエゾ抵抗20間は、配線部21のみで電気的に導通するように構成されている。このため、カンチレバー4のうち配線部21近傍におけるシリコン活性層2cは、配線部21以外でピエゾ抵抗20双方が導通しないよう、エッチング等によりシリコン活性層2cを除去して形成した溝部16を有している。なお、上記の配線部21近傍におけるシリコン活性層2cは、部分的に不純物ドープされることで、エッチングを省略した構成としてもよい。
【0056】
次に、
図7を参照して、傾斜センサ40の動作について説明する。まず、気圧変動センサ51において、外気圧Pout1に変動があった場合に、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化を電圧変化として取り出して、容積制御部42に出力する。容積制御部42は、外気圧Pout1とキャビティ内圧Pin1とが一致するよう、キャビティ容積可変部56によりキャビティ容積を変化させる。同時に、容積制御部42は、気圧変動センサ52のキャビティ容積可変部57によりキャビティ容積を同量だけ変化させる。
【0057】
このようにキャビティ容積制御を行うことで、気圧変動センサ52のキャビティ内圧変化は、気圧変動センサ51のキャビティ内圧変化に等しく、ひいては気圧変動センサ51の外気圧変化に等しくなる。このため、気圧変動センサ52のカンチレバー4に加わる差圧は、気圧変動センサ51の外気圧を基準とした気圧変動センサ52の外気圧の変化量ということになる。
【0058】
そして、気圧変動センサ52に加わる差圧(気圧変動センサ51の外気圧を基準とした気圧変動センサ52の外気圧の変化量)により、カンチレバー4が変形し、抵抗値変化が得られる。
【0059】
気圧変動センサ52の抵抗値変化が演算処理部41に出力され、演算処理部41は、抵抗値変化を傾斜情報に変換して出力する。
【0060】
次に、本実施形態における傾斜センサ40の動作例について説明する。まず、初期状態において、
図8に示すように、気圧変動センサ51及び気圧変動センサ52の高度差がないものとする。また、気圧変動センサ51の外気圧Pout1と、キャビティ内圧Pin1とが一致しており、気圧変動センサ52の外気圧Pout2と、キャビティ内圧Pin2とが一致しているものとする。また、気圧変動センサ51のキャビティ容積をV1とし、気圧変動センサ52のキャビティ容積をV2とする。
【0061】
そして、
図9に示すように、気圧変動センサ51の高度が10cm低下し、気圧変動センサ52の高度が20cm低下し、高度差が発生したとする。なお、ここでは、高度差10cmで気圧変化1Paと仮定して説明する。
【0062】
この場合、まず、
図10に示すように、気圧変動センサ51の外気圧Pout1が1Pa上昇する。気圧変動センサ51において、外気圧Pout1の変動に対応する、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化を電圧変化として取り出して、容積制御部42に出力する。容積制御部42は、外気圧Pout1+1Paと一致したキャビティ内圧Pin1+1Paとなるよう、キャビティ容積可変部56によりキャビティ容積をV1-ΔVに変化させる。同時に、容積制御部42は、気圧変動センサ52のキャビティ容積可変部57によりキャビティ容積をV2-ΔVに変化させ、キャビティ内圧がPin2+1Paとなる。
【0063】
ここで、気圧変動センサ52の外気圧Pout2が2Pa上昇しているため、気圧変動センサ52の外気圧Pout2+2Paと、キャビティ内圧Pin2+1Paとの差圧は、1Paとなる。
【0064】
そして、気圧変動センサ52により差圧1Pa分の抵抗値変化が演算処理部41に出力され、演算処理部41は、抵抗値変化を傾斜情報に変換して出力する。
【0065】
その後、
図11に示すように、外気からの空気の流れ込みにより、気圧変動センサ52のキャビティ内圧がPin2+1PaからPin2+2Paへ上昇する。このため、キャビティと外気の差圧が解消され、カンチレバー4の変形が戻り、抵抗値変化も解消される。
【0066】
図12(a)は、比較例としてキャビティ容積可変部を備えていない気圧変動センサ500の動作の一例を示している。
図12(b)は、気圧変動センサ51の動作の一例を示している。
【0067】
図13は、比較例の気圧変動センサ500の出力信号、及び本実施形態における気圧変動センサ51の出力信号の一例を示す図である。
【0068】
ここで、
図13(a)は、外気圧Pout及びキャビティ内圧Pinの経時変化を示しており、
図13(b)は、検出回路53の出力信号の経時変化を示している。
図13(c)は、キャビティ容積の経時変化を示している。
【0069】
ここで、
図12(a)、(b)は、外気圧Poutがキャビティ内圧Pinより高い状態のカンチレバー4の断面図を示している。
【0070】
まず、
図13(a)における期間Aのように、外気圧Poutと内圧Pinとが等しく、差圧ΔPがゼロである場合には、
図12(b)に示すように、カンチレバー4は、撓み変形しない。
【0071】
次に、
図13(a)における時刻t1以降の期間Bのように、例えば、外気圧Poutがステップ状に上昇すると、比較例の気圧変動センサ500のキャビティ内圧Pinは急激に変化できず、差圧ΔPが生じるため、
図12(a)に示すように、カンチレバー4は、キャビティ内部に向けて撓み変形する。すると、当該カンチレバー4の撓み変形に応じてピエゾ抵抗に応力が加わり、電気抵抗値が変化するので、
図13(b)に示すように、検出回路の出力信号が増大する。また、外気圧Poutの上昇以降(時刻t1以降)において、ギャップを介してキャビティの外部から内部へと空気が徐々に流動する。このため、
図13(a)に示すように、内圧Pinは、時間の経過とともに、外気圧Poutに遅れながら、かつ外気圧Poutの変動よりも緩やかな応答で上昇する。
【0072】
その結果、内圧Pinが外気圧Poutに徐々に近づくので、カンチレバー4の撓みが徐々に小さくなり、
図13(b)に示すように、上述の出力信号が、徐々に低下する。
【0073】
そして、
図13(a)に示す時刻t3以降の期間Dのように、内圧Pinが外気圧Poutと同じになると、
図13(b)に示すように、カンチレバー4の撓み変形が解消され、初期状態に復帰する。さらに、
図13(b)に示すように、検出回路の出力信号も期間Aの初期状態と同値に戻る。
【0074】
一方、本実施の形態に係る気圧変動センサ51では、
図13(b)、(c)に示すように、外気圧Poutの上昇以降(時刻t1以降)の期間Bにおいて、カンチレバー4の抵抗値変化をモニタリングし、抵抗値変化が発生しないよう、キャビティ容積を小さくする制御を行う。これにより、
図13(a)に示すように、外気圧上昇に対して、キャビティ内圧も上昇し、キャビティ内圧と外気圧との差圧が発生しないようにする。
【0075】
このとき、外気圧の変動とキャビティ容積の変動とが対応するため、キャビティ容積可変部56への制御信号に基づいて外気圧変動を測定することが可能となる。
【0076】
次に、
図14~
図16を参照して、本実施形態における傾斜センサ40の動作の一例について説明する。ここでは、計測対象物の傾斜度一定のまま高度が変化することで、大気(空気)の圧力が変化した場合のカンチレバー4の動作と、その時のキャビティ容積の変化について説明する。
【0077】
まず、初期状態において、
図14(a)に示すように、気圧変動センサ51及び気圧変動センサ52の高度差がないものとする。また、気圧変動センサ51の外気圧Pout1と、キャビティ内圧Pin1と、気圧変動センサ52の外気圧Pout2と、キャビティ内圧Pin2とが全て一致しているものとする。また、気圧変動センサ51のキャビティ容積をV1とし、気圧変動センサ52のキャビティ容積をV2とする。
【0078】
そして、
図14(b)に示すように、傾斜度一定のまま、気圧変動センサ51及び気圧変動センサ52の高度がHだけ低下したとする。
【0079】
この場合、まず、
図15(a)に示すように、気圧変動センサ51の外気圧Pout1及び気圧変動センサ52の外気圧Pout2が、高度変化分のΔPだけ上昇する。気圧変動センサ51において、外気圧Pout1の変動に対応する、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化を電圧変化として取り出して、容積制御部42に出力する。容積制御部42は、外気圧Pout1+ΔPと一致したキャビティ内圧Pin1+ΔPとなるよう、キャビティ容積可変部56によりキャビティ容積をV1-ΔVに変化させる(
図15(b)、
図16(a)参照)。同時に、容積制御部42は、気圧変動センサ52のキャビティ容積可変部57によりキャビティ容積をV2-ΔVに変化させ、キャビティ内圧がPin2+ΔPとなる(
図15(b)、
図16(b)参照)。
【0080】
そして、気圧変動センサ52のカンチレバー4には外気圧Pout2+ΔPと、キャビティ内圧Pin2+ΔPの差圧が加わる。この場合、差圧がゼロのため、気圧変動センサ52が出力する抵抗値変化はゼロとなり(
図15(c)参照)、演算処理部41は、2つの気圧変動センサ50の高度差の変動がゼロであることを示す高度差変動情報を生成する。
【0081】
また、
図17~
図19を参照して、本実施形態における傾斜センサ40の動作の一例について説明する。ここでは、気圧変動センサ51を回転中心とした計測対象物の傾斜により、大気(空気)の圧力が変化した場合のカンチレバー4の動作と、その時のキャビティ容積の変化について説明する。
【0082】
まず、
図17(a)に示す初期状態から、
図17(b)に示すように、気圧変動センサ51を回転中心として傾斜度が0からθに変化し、気圧変動センサ52の高度がhだけ低下したとする。ただし、2つの気圧変動センサ50間の距離をDとして、h=D・sinθとする。
【0083】
この場合、まず、
図18(a)に示すように、気圧変動センサ51の外気圧Pout1が変化しないため、キャビティ容積V1、V2、キャビティ内圧Pin1、Pin2は変化しない(
図18(a)、(b)参照)。また、差圧がゼロのため、気圧変動センサ51のカンチレバー4も変化しない(
図19(a)参照)。
【0084】
一方、傾斜変化した瞬間には、気圧変動センサ52の外気圧Pout2が、高度変化分のΔPだけ上昇する。気圧変動センサ52のカンチレバー4には外気圧Pout2+ΔPと、キャビティ内圧Pin2の差圧ΔPが加わり、気圧変動センサ52において、差圧ΔPに対応する、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化を電圧変化として取り出して出力し(
図18(c)参照)、演算処理部41は、2つの気圧変動センサ50の高度差の変動がhであることを示す高度差変動情報を生成する。
【0085】
また、
図20~
図22を参照して、本実施形態における傾斜センサ40の動作の一例について説明する。ここでは、傾斜センサ40の中央を回転中心とした計測対象物の傾斜により、大気(空気)の圧力が変化した場合のカンチレバー4の動作と、その時のキャビティ容積の変化について説明する。
【0086】
まず、
図20(a)に示す初期状態から、
図20(b)に示すように、傾斜センサ40の中央を回転中心として傾斜度が0からθに変化し、気圧変動センサ51の高度がHだけ上昇し、気圧変動センサ52の高度がHだけ低下したとする。ただし、H=0.5D・sinθである。
【0087】
この場合、まず、
図21(a)に示すように、気圧変動センサ51の外気圧Pout1が、高度変化分のΔPだけ低下し、気圧変動センサ52の外気圧Pout2が、高度変化分のΔPだけ上昇する。気圧変動センサ51において、外気圧Pout1の変動に対応する、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化を電圧変化として取り出して、容積制御部42に出力する。容積制御部42は、外気圧Pout1-ΔPと一致したキャビティ内圧Pin1-ΔPとなるよう、キャビティ容積可変部56によりキャビティ容積をV1+ΔVに変化させる(
図21(b)、
図22(a)参照)。同時に、容積制御部42は、気圧変動センサ52のキャビティ容積可変部57によりキャビティ容積をV2+ΔVに変化させ、キャビティ内圧がPin2-ΔPとなる(
図21(b)、
図22(b)参照)。
【0088】
容積変化させた瞬間、気圧変動センサ52のカンチレバー4には外気圧Pout2+ΔPと、キャビティ内圧Pin2-ΔPの差圧2ΔPが加わり、気圧変動センサ52において、差圧2ΔPに対応する、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化を電圧変化として取り出して出力する(
図21(c)参照)。演算処理部41は、2つの気圧変動センサ50の高度差の変動が2Hであることを示す高度差変動情報を生成する。
【0089】
次に、
図23を参照して、上述した傾斜センサ40の動作について説明する。ここでは、気圧変動センサ52の出力特性が、キャビティ容積可変部57により気圧変動センサ51の出力特性と一致するように、予め調整されているものとして説明する。
【0090】
図23は、本実施形態における傾斜センサ40の動作の一例を示すフローチャートである。
【0091】
まず、計測対象物に装着された傾斜計測装置1が、上述したX軸方向に傾斜した場合に、2つの気圧変動センサ51、52における大気圧(上述した外気圧Pout)が変化する(ステップS101)。
【0092】
すると、気圧変動センサ51、52のキャビティ10内部の内圧である内圧Pinは、ステップS101における外気圧Poutの変化に追従するように変化する (ステップS102)。ここで、ギャップ13は、キャビティ10内外を連通する連通孔として機能するため、カンチレバー4の表裏に加わる差圧に応じて、高圧側から低圧側へと空気が移動する。ただし、空気の移動が微小なギャップ13によって規制されているため、内圧Pinは、外気圧Poutの変化に応じて急激に変化する ことはなく、外気圧Poutの変化に対して遅れて追従することとなる。
【0093】
次に、カンチレバー4の表裏面には、上述の外気圧Poutの変化に対する内圧Pinの遅れによって、圧力差(以下、差圧ΔP=Pout-Pin)が発生する(ステップS103)。その結果、カンチレバー4は、差圧ΔPの大きさに応じて撓み変形する(ステップS104)。
【0094】
次に、カンチレバー4が、撓み変形をすると、カンチレバー4の基端部4aに設けられたピエゾ抵抗20に応力が加わり(ステップS105)。ピエゾ抵抗20の電気抵抗値が変化する(ステップS106)。ここで、検出回路53、54は、ピエゾ抵抗20へ電流を流すことで、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化を検出し、当該電気抵抗の変化に応じた検出信号を出力する(ステップS107)。
【0095】
次に、容積制御部42が、気圧変動センサ51の外気圧Poutとキャビティ内圧Pinとが一致するよう、キャビティ容積可変部56により気圧変動センサ51のキャビティ容積を変化させる。同時に、容積制御部42は、気圧変動センサ52のキャビティ容積可変部57により気圧変動センサ52のキャビティ容積を同量だけ変化させる(ステップS108)。
【0096】
すると、気圧変動センサ52の内圧Pinの変化によって、気圧変動センサ52の差圧ΔPが変化する(ステップS109)。その結果、カンチレバー4は、差圧ΔPの大きさに応じて撓み変形し、ピエゾ抵抗20に応力が加わり、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値が変化する(ステップS110)。ここで、検出回路55は、ピエゾ抵抗20へ電流を流すことで、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化を検出し、当該電気抵抗の変化に応じた検出信号を出力する(ステップS111)。
【0097】
演算処理部41は、気圧変動センサ52に接続されている検出回路54によって検出された検出信号を、傾斜情報に変換する(ステップS112)ステップS112の処理後に、演算処理部41は、処理を終了する。
【0098】
次に、
図24を参照して、上記ステップS112における演算処理部41の動作について説明する。
【0099】
図24は、本実施形態における演算処理部41の動作の一例を示すフローチャートである。
【0100】
まず、演算処理部41は、気圧変動センサ52に接続されている検出回路54によって検出された検出信号から、気圧変動センサ51の外気圧を基準とした気圧変動センサ52の外気圧の変化量(すわなち、気圧変動センサ52における差圧)に逆算する(ステップS120)。
【0101】
そして、演算処理部41は、ステップS120で得られた気圧変動センサ51の外気圧を基準とした気圧変動センサ52の外気圧の変化量(気圧変動センサ52における差圧)を、気圧変動センサ51を基準とした気圧変動センサ52の高度変化量に変換する(ステップS121)。
【0102】
そして、演算処理部41は、気圧変動センサ51、52間の距離と、上記ステップS121で得られた高度変化量とから、計測対象物の傾斜度を算出する(ステップS122)。例えば、以下の式に従って、傾斜度を算出する。
【0103】
傾斜度=arcsin{(高度変化量)/(気圧変動センサ51、52間の距離)}
【0104】
次に、
図25~27を参照して、上記ステップS120、S121における演算処理部41の詳細な動作について説明する。
【0105】
まず、気圧変動センサ52の出力から高さ情報に変換する方法について説明する。
【0106】
実際の使用環境では、外気圧Poutと内圧Pinの差圧しか測定できない。すなわち、外気圧Poutや内圧Pinは直接、単独で測定できない。また、気圧変動センサ52の出力は、単純には、外気圧変動量に変換できない。
【0107】
例えば、
図25に示すように、傾斜センサ40の傾斜度が、気圧変動センサ52を中心にθから0に変化した場合に、
図26に示すような、気圧変動センサ52の出力が得られるが、出力を単純に積分しても、外気圧変動量に変換できない。
【0108】
そこで、本実施の形態では、
図27に示す一連の処理により、気圧変動センサ52の出力から高さ情報に変換する。
【0109】
図27は、本実施形態における演算処理部41の動作の一例を示すフローチャートである。
【0110】
まず、演算処理部41は、ステップS111で述べた検出回路54から出力信号が検出されると(ステップS131)、当該検出回路54の出力信号の値を一定時間Δt毎にN個、記憶部43に格納すると共に、容積制御部42の制御信号から得られるキャビティ容積値Vを一定時間Δt毎にN個、記憶部43に格納する(ステップS132)。
【0111】
次いで、演算処理部41は、上記出力信号に対して、検出回路54を構成する差動増幅回路222の増幅率(ゲイン値)で除算することで、
図6で示したブリッジ回路から出力される一定時間Δt毎の電圧値N個を算出する(ステップS133)。次いで、演算処理部41は、ステップS133の除算結果(ブリッジ回路からの電圧値)と、ブリッジ回路を構成する抵抗素子の抵抗値Roと、ブリッジ回路に供給される電圧とから、一定時間Δt毎のピエゾ抵抗20の電気抵抗値R+ΔRをN個、算出する(ステップS134)。なお、電気抵抗値Rは、差圧ΔPがゼロの場合のピエゾ抵抗20の電気抵抗値、電気抵抗値ΔRは加わる差圧ΔPによって変化した、ピエゾ抵抗20の電気抵抗値の変化量を示す。
【0112】
次いで、演算処理部41は、ステップS134のピエゾ抵抗20の電気抵抗値R+ΔRから、カンチレバー4に加わる差圧ΔP、N個(ΔP(1~N))を差圧データベースから求める(ステップS135。この差圧データベースは差圧ΔPと抵抗変化率ΔR/Rとの関係性を、差圧ΔPの値ごとに格納したものである。
【0113】
次いで、演算処理部41は、内圧Pin(i)のうち(i=1~N、N:2以上の自然数)、最も時刻の早い1個目の内圧Pin(1)に初期値を設定する(ステップS136)。本実施形態にかかる内圧Pin(1)は、空気中で用いることを前提として、大気圧とする。次いで、演算処理部41は、iに1を代入し、iが1より大きいか否かを判断して(ステップS137)、iが1である場合(ステップS137;N)、ステップS139へ移行する。一方、iが1より大きい場合(ステップS137;Y)、演算処理部は、Pin(i)・V(i-1)/V(i)を計算することにより、内圧Pin(i)を算出する(ステップS138)。
【0114】
演算処理部41は、Pin(i)と差圧ΔP(i)とを加算して、外気圧Pout(i)を算出する(ステップS139)。
【0115】
次いで、演算処理部41は、差圧ΔP(i)を用いて、キャビティ10に流入する空気の流量Q(i)を流量データベースから読みだす(ステップS140)。ここで流量データベースは、差圧ΔPと流量Qとの関係性を、差圧ΔPの値ごとに格納したものである。ここで、流量データベースは、カンチレバー4を用い、差圧と流量をあらかじめ計測して構築される。
【0116】
次に、演算処理部41は、流量Q(i)とキャビティの容積Vから、Δt時間後の内圧Pin(i+1)を算出する(ステップS141)。ここで、一定時間Δtは非常に小さく、また、Δt毎の外気圧Poutの変化量が非常に小さいと仮定し、熱移動や圧力損失を無視できるほど小さいとする。このため、空気がキャビティ10に流入した分だけ内圧Pinが上昇する。したがって、流量Q(i)、容積V、内圧Pin(i+1)内圧Pin(i)の関係は以下の式(1)であらわすことができる。
【0117】
Pin(i)×(V+Q(i)×Δt)=Pin(i+1)×V・・・(1)
【0118】
このため、演算処理部41は、Δt時間後のPin(i+1)を、次の式(2)で得ることができる。
【0119】
Pin(i+1)=(V+Q(i)×Δt)×Pin(i)/V・・・(2)
【0120】
次いで、演算処理部41は、ステップS141にて得られたPin(i+1)と、当初算出したPout(i)とを記憶部43に格納する(ステップS142)。
【0121】
次いで、演算処理部41は、iにi+1を代入し(ステップS141)、iがNを上回ったか否かを判断して(ステップS144)、iがN以下と判断した場合(ステップS144;N)、ステップS137~S144の処理を繰り返す。この際、演算処理部41は、ステップS139にて使用する内圧Pinを、ステップS141にて算出したPin(i+1)に更新する。
【0122】
そして、演算処理部41は、iがNを上回ったと判断した場合(ステップS144;Y)、本処理を終了する。これにより、演算処理部41は、Δt時間毎にN個の外気圧Poutを記憶部43に蓄積することができる。この情報は、N×Δt期間中に、外気圧Poutがどのように変化したかを示している。
【0123】
上記により、演算処理部41は、検出回路54の出力信号から容易に得られなかった外気圧Poutの時間経緯、つまり外気圧Poutの変化量を計測することができ、外気圧Poutの変化量から、高度の変化量を求めることができる。
【0124】
<気圧変動センサ50の調整方法>
次に、図面を参照して、本実施形態による気圧変動センサ50の調整方法について説明する。
【0125】
図28は、本実施形態による調整装置7の一例を示すブロック図である。
【0126】
図28に示す調整装置7は、気圧変動センサ50を調整する装置であり、密閉容器70と、気圧可変部71と、カットオフ周波数計測部72、73と、容積調整部74とを備えている。なお、カットオフ周波数計測部72、73が、特性計測部の一例である。
【0127】
密閉容器70は、気圧可変部71により気圧変動可能な容器であり、調整対象である気圧変動センサ51及び気圧変動センサ52が少なくとも収納される。
【0128】
気圧可変部71は、密閉容器70の内部の気圧を周期的に変化させる。気圧可変部71は、例えば、カットオフ周波数計測部72、73によって指定された周波数により気圧を変化させる。
【0129】
カットオフ周波数計測部72、73は、気圧可変部71に指定された周波数により気圧を変化させて、気圧変動センサ51及び気圧変動センサ52の出力特性を計測する。カットオフ周波数計測部72は、気圧変動センサ51の出力特性として、例えば、カットオフ周波数fc1(遮断周波数)を計測する。ここで、カットオフ周波数とは、気圧変動センサ50の出力感度が3dB(デシベル)低下する周波数を示す。
【0130】
また、カットオフ周波数計測部73は、気圧変動センサ52の出力特性として、カットオフ周波数fc2を計測する。
【0131】
容積調整部74は、気圧変動センサ52が備えるキャビティ容積可変部57又は気圧変動センサ51が備えるキャビティ容積可変部56によって、カットオフ周波数計測部72、73によって計測された気圧変動センサ51、52の出力特性が一致するように調整する。すなわち、容積調整部74は、カットオフ周波数計測部72、73が計測したカットオフ周波数fc1、fc2を比較し、当該比較結果に基づいて、キャビティ容積可変部56又は57によりキャビティ容積を変化させて、カットオフ周波数fc1と、カットオフ周波数fc2とが一致するように調整し、気圧変動センサ51又は気圧変動センサ52の初期キャビティ容積として記憶する。
【0132】
ここで、
図29は、気圧変動センサ51、52のキャビティ10の容積と周波数特性 との関係を説明する図である。
【0133】
図29に示す例は、気圧変動センサ51のキャビティ10の容積V1が、気圧変動センサ52のキャビティ10の容積V2より大きい場合(V1>V2)の一例を示している。また、
図29に示すグラフは、縦軸が感度[dB]を示し、横軸は、周波数[Hz]を示している。
【0134】
図29において、波形W1は、気圧変動センサ51の周波数特性を示しており、波形W2は、気圧変動センサ52の周波数特性を示している。気圧変動センサ51のキャビティ10の容積V1が、気圧変動センサ52のキャビティ10の容積V2より大きい場合(V1>V2)に、カットオフ周波数fcは、気圧変動センサ51のカットオフ周波数fc1は、気圧変動センサ52のカットオフ周波数fc2より低くなる(fc1<fc2)。なお、気圧変動センサ50において、カットオフ周波数fcは、下記の式(3)により表される。
【0135】
fc=k・(G2/V)・・・(3)
【0136】
ここで、変数kは係数を示し、変数Gは、気圧変動センサ50のギャップ13の幅(ギャップ幅)を示している。また、変数Vは、キャビティ10の容積を示 している。上述した式(5)に示すように、気圧変動センサ50のカットオフ周波数fcは、ギャップ幅Gの2乗に比例し、キャビティ10の容積Vに反比例する。
【0137】
このことから、容積調整部74は、例えば、カットオフ周波数fc1がカットオフ周波数fc2より大きい場合(fc1>fc2)に、気圧変動センサ52のキャビティ10の容積V2を小さくする調整を、キャビティ容積可変部57により行う。あるいは、気圧変動センサ51のキャビティ10の容積V1を大きくする調整を、キャビティ容積可変部56により行う。
【0138】
また、容積調整部74は、例えば、カットオフ周波数fc1がカットオフ周波数fc2より小さい場合(fc1<fc2)に、気圧変動センサ52のキャビティ10の容積V2を大きくする調整を、キャビティ容積可変部57により行う。あるいは、気圧変動センサ51のキャビティ10の容積V1を小さくする調整を、キャビティ容積可変部56により行う。
【0139】
次に、
図30を参照して、本実施形態 による気圧変動センサ50の調整方法について説明する。
【0140】
図30は、本実施形態による気圧変動センサ50の調整方法の一例を示すフローチャートである。
【0141】
まず、調整装置7のカットオフ周波数計測部72、73は、気圧変動センサ51、52のカットオフ周波数(fc1、fc2)を計測する(ステップS301)。気圧可変部71により、密閉容器70内の気圧を変更し、カットオフ周波数計測部72、73が、気圧変動センサ51のカットオフ周波数fc1、及び気圧変動センサ52のカットオフ周波数fc2を計測する。
【0142】
次に、調整装置7の容積調整部74は、カットオフ周波数fc1とカットオフ周波数fc2との差が許容値以内であるか否かを判定する(ステップS302)。 容積調整部74は、カットオフ周波数fc1とカットオフ周波数fc2との差が許容値以内である場合(ステップS302;Y)に、処理を終了する。また、容積調整部74は、カットオフ周波数fc1とカットオフ周波数fc2との差が許容値を超える場合(ステップS302;N)に、処理をステップS303に進める。
【0143】
ステップS303において、容積調整部74は、カットオフ周波数fc1とカットオフ周波数fc2とを比較し、カットオフ周波数fc1がカットオフ周波数fc2より大きいか否かを判定する。容積調整部74は、カットオフ周波数fc1がカットオフ周波数fc2より大きい場合(ステップS303;Y、fc1>fc2)に、処理をステップS304に進める。また、容積調整部74は、カットオフ周波数fc1がカットオフ周波数fc2以下である場合(ステップS303;N、fc1≦fc2)に、処理をステップS305に進める。
【0144】
ステップS304において、容積調整部74は、気圧変動センサ52のキャビティ10の容積V2を小さくするか、気圧変動センサ51のキャビティ10の容積V1を大きくする制御を行う。ステップS304の処理後に、容積調整部74は、処理をステップS301に戻す。
【0145】
ステップS305において、カットオフ周波数fc1がカットオフ周波数fc2より小さい場合、容積調整部74は、気圧変動センサ52のキャビティ10の容積V2を大きくするか、気圧変動センサ51のキャビティ10の容積V1を小さくする制御を行う。カットオフ周波数fc1がカットオフ周波数fc2と等しい場合には、容積調整部74による制御は行わない。ステップS305の処理後に、容積調整部74は、処理をステップS301に戻す。
【0146】
このように、本実施形態による気圧変動センサ50の調整方法では、気圧変動センサ51、52の出力特性を計測するステップ (ステップS301)と、キャビティ容積可変部56、57によって、気圧変動センサ51、52の出力特性が一致するように調整するステップ(ステップS302からステップS305)とを行うことで、気圧変動センサ51、52を調整する。このように調整された気圧変動センサ51、52が、上述した傾斜計測装置1に実装される。
【0147】
なお、上述した
図28及び
図30に示す例では、調整装置7が、容積調整部74を備え、容積調整部74が、キャビティ容積可変部56、57に指示してキャビティ10の容積V1、V2を調整する例を説明したが、キャビティ容積可変部56、57が人手(例えば、作業者)によりキャビティ10の容積V2を調整する場合には、容積調整部74による処理を人手で行うようにしてもよい。
【0148】
次に、キャビティ容積可変部56、57の具体的構成について説明する。なお、キャビティ容積可変部56、57は同様の構成であるため、気圧変動センサ51のキャビティ容積可変部56についてのみ説明する。
【0149】
図31(a)に示すように、キャビティ容積可変部56は、ピエゾ素子68と、ピエゾドライバ部69とを備えている。
【0150】
ピエゾ素子68(圧電素子の一例)は、キャビティ10のメンブレン構造の底面部を形成しており、ピエゾドライバ部69から電圧を印加されることで、体積が変化し、キャビティ10の底面の位置が変位する。
【0151】
ピエゾドライバ部69は、ピエゾ素子68に電圧を印加する。ピエゾドライバ部69は、例えば、外部からの指令に基づいて、ピエゾ素子68に印加する電圧を変更できるものとする。
【0152】
キャビティ容積可変部56は、ピエゾ素子68に電圧を印加することにより、ピエゾ素子68の体積が変化し、当該ピエゾ素子68の体積の変化により、キャビティ10の容積V2を変更する。また、キャビティ容積可変部56は、ピエゾ素子68に電圧を印加するピエゾドライバ部69を備えている。これにより、キャビティ容積可変部56は、電子制御により、キャビティ10の容積V1を調整することできる。すなわち、気圧変動センサ51は、傾斜計測装置1に実装された後に、キャビティ10の容積V1を調整することできる。
【0153】
<第1の変形例>
図31(b)は、ピエゾ素子68aを利用した第1の変形例のキャビティ容積可変部56aを備える気圧変動センサ51aを示している。気圧変動センサ51aが備えるキャビティ容積可変部56aは、変位可能なキャビティ10の底面部61と、ピエゾ素子68aと、第3筐体部63と、ピエゾドライバ部69とを備えている。
【0154】
本変形例では、ピエゾ素子68aを利用して、キャビティ10の底面部61を変位させる変形例である。
【0155】
ピエゾ素子68a(圧電素子の一例)は、メンブレン又は蛇腹状構造の底面部61と、第3筐体部63の底面部との間に配置され、ピエゾドライバ部69から電圧を印加されることで、体積がZ軸方向に変化する。
【0156】
底面部61は、ピエゾ素子68aの体積が変化することにより、Z軸方向の位置が変位する。
【0157】
ピエゾドライバ部69は、ピエゾ素子68aに電圧を印加する。ピエゾドライバ部69は、例えば、外部からの指令に基づいて、ピエゾ素子68aに印加する電圧を変更できるものとする。
【0158】
本変形例のキャビティ容積可変部56aは、ピエゾ素子68aにピエゾドライバ部69から電圧を印加することにより、ピエゾ素子68aの体積が変化し、当該ピエゾ素子68aの体積の変化に応じて、キャビティ10の容積V1を変更する。
【0159】
このように、本変形例のキャビティ容積可変部56aは、変位可能なキャビティ10の底面部61と、底面部61の位置を変更して、キャビティ10の容積V1を変更するピエゾ素子68aとを備えている。これにより、本変形例のキャビティ容積可変部56aは、上述した実施形態と同様に、電子制御により、キャビティ10の容積V1を調整することできる。
【0160】
<第2の変形例>
図31(c)は、ピエゾ素子68bを利用した第2の変形例のキャビティ容積可変部56bを備える気圧変動センサ51bを示している。気圧変動センサ51bが備えるキャビティ容積可変部56bは、ピエゾ素子68bと、第3筐体部63と、ピエゾドライバ部69とを備えている。
【0161】
ピエゾ素子68bは、キャビティ筐体3と第3筐体部63との間に配置されている。ピエゾ素子68bは、ピエゾドライバ部69から電圧を印加されることで、体積が変化する。
【0162】
第3筐体部63は、ピエゾ素子68bの体積が変化することにより、Z軸方向の位置が変位する。すなわち、キャビティ10の底面部が、Z軸方向の位置が変位する。
【0163】
ピエゾドライバ部69は、ピエゾ素子68bに電圧を印加する。ピエゾドライバ部69は、例えば、外部からの指令に基づいて、ピエゾ素子68bに印加する電圧を変更できるものとする。
【0164】
本変形例のキャビティ容積可変部56bは、ピエゾ素子68bにピエゾドライバ部69から電圧を印加することにより、ピエゾ素子68bの体積が変化し、当該ピエゾ素子68bの体積の変化に応じて、キャビティ10の容積V1を変更する。
【0165】
このように、本変形例のキャビティ容積可変部56bは、変位可能なキャビティ10の底面部(第3筐体部63の底面)と、キャビティ10の底面部の位置を変更して、キャビティ10の容積V1を変更するピエゾ素子68bとを備えている。
【0166】
これにより、本変形例のキャビティ容積可変部56bは、上述した実施形態及び第1の変形例と同様に、電子制御により、キャビティ10の容積V1を調整することできる。
【0167】
<第3の変形例>
図32(a)は、静電力を利用した第3の変形例のキャビティ容積可変部56cを備える気圧変動センサ51cを示している。気圧変動センサ51cが備えるキャビティ容積可変部56cは、静電素子68cと、第3筐体部63と、静電ドライバ部69cとを備えている。
【0168】
静電素子68cは、キャビティ筐体3と第3筐体部63との間に配置され、キャビティ10の底面部を形成している。静電素子68cは、静電ドライバ部69cから電圧を印加されることで、対向電極の位置がZ軸方向に変化する。
【0169】
静電素子68cの対向電極の位置がZ軸方向に変化することにより、キャビティ10の底面部のZ軸方向の位置が変位する。
【0170】
静電ドライバ部69cは、静電素子68cに電圧を印加する。静電ドライバ部69cは、例えば、外部からの指令に基づいて、静電素子68cに印加する電圧を変更できるものとする。
【0171】
本変形例のキャビティ容積可変部56cは、静電素子68cに静電ドライバ部69cから電圧を印加することにより、静電素子68cの対向電極の位置が変化し、当該静電素子68cの対向電極の位置の変化に応じて、キャビティ10の容積V1を変更する。
【0172】
このように、本変形例のキャビティ容積可変部56cは、キャビティ10の底面部の位置を変更して、キャビティ10の容積V1を変更する静電素子68cを備えている。
【0173】
これにより、本変形例のキャビティ容積可変部56cは、上述した実施形態及び第1の変形例と同様に、電子制御により、キャビティ10の容積V1を調整することできる。また、キャビティ10の底面部を対向電極からの静電力で駆動するため、低消費電力化が可能である。
【0174】
<第4の変形例>
図32(b)は、磁石68dと電磁コイル68eを利用した第4の変形例のキャビティ容積可変部56dを備える気圧変動センサ51dを示している。気圧変動センサ51dが備えるキャビティ容積可変部56dは、変位可能なメンブレンまたは蛇腹状構造であるキャビティ10の底面部61dと、磁石68dと、電磁コイル68eと、第3筐体部63と、電磁ドライバ部69dとを備えている。
【0175】
本変形例では、磁石68dと電磁コイル68eを利用して、キャビティ10の底面部61dを変位させる変形例である。
【0176】
磁石68dと電磁コイル68eは、底面部61dと、第3筐体部63の底面部との間に配置され、電磁ドライバ部69dから電磁コイル68eに電圧が印加されることで、磁石68dの位置がZ軸方向に変化する。
【0177】
底面部61dは、磁石68dの位置がZ軸方向に変化することにより、Z軸方向の位置が変位する。
【0178】
電磁ドライバ部69dは、電磁コイル68eに電圧を印加する。電磁ドライバ部69dは、例えば、外部からの指令に基づいて、電磁コイル68eに印加する電圧を変更できるものとする。
【0179】
本変形例のキャビティ容積可変部56dは、電磁コイル68eに電磁ドライバ部69dから電圧を印加することにより、磁石68dの位置が変化し、当該磁石68dに接続された底面部61dの位置の変化に応じて、キャビティ10の容積V1を変更する。
【0180】
このように、本変形例のキャビティ容積可変部56dは、変位可能なキャビティ10の底面部61dと、底面部61dの位置を変更して、キャビティ10の容積V1を変更する磁石68d及び電磁コイル68eとを備えている。これにより、本変形例のキャビティ容積可変部56dは、上述した実施形態と同様に、電子制御により、キャビティ10の容積V1を調整することできる。また、磁石68dと電磁コイル68eからの磁力によりキャビティ10の底面部61dを変位させるため、キャビティ容積の変化範囲を大きくすることができる。
【0181】
なお、本実施形態による傾斜計測装置1は、キャビティ容積可変部56、57の代わりに、上述した第1~第4の変形例のキャビティ容積可変部56a~56dのいずれかを備えるようにしてもよいし、他の方式のキャビティ容積可変部を備えるようにしてもよい。
【0182】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る傾斜計測装置によれば、計測対象物に対し、傾斜を知りたい方向に沿って所定距離を離して配置された少なくとも二つの気圧変動センサのうち、一つの気圧変動センサの出力がゼロになるように、全ての気圧変動センサのキャビティの容積を変化させる。このとき、他の気圧変動センサの出力信号は、一つの気圧変動センサを基準にした高さ変化情報を出力する。この出力を元に、演算処理部が予め記憶した各気圧変動センサの相互位置関係情報を用いて傾斜情報を生成し、出力する。これにより高度変化に基づく気圧変化を高感度に測定できるため、気圧変動センサ同士を近接して設置できる。このため、高精度の傾斜度測定と小型化の両立が可能となる。また、気圧変動センサ自体は、低速な気圧変動を検知しないため、大気圧変動分による誤差の発生を回避できる。
【0183】
また、一方の気圧変動センサを基準にした他方の気圧変動センサの高さ変化情報に基づいて、傾斜度を測定する際に、当該一方の気圧変動センサの出力に対して、全ての気圧変動センサのキャビティ容積を制御することにより、傾斜が変化しない垂直方向の高さ変動による気圧変化や、外気圧変動等のノイズを自動に取り除いて、傾斜度を測定することが可能となる。また、傾斜度による気圧変化分のみが気圧変動センサのカンチレバーに加わるため、大きな圧力が加わりにくく、センサが破損しにくくなる。
【0184】
また、気圧変動センサ同士の出力特性を一致させるように調整することで、気圧変動センサ個々の特性差を解消でき、精度の高い傾斜情報を得ることが可能となる。
【0185】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱し ない範囲で変更可能である。
【0186】
例えば、上述した実施形態において、傾斜計測装置1が、2つの気圧変動センサ50を備える例を説明したが、3つ以上の気圧変動センサ50を備えるようにしてもよい。例えば、
図33に示すように、気圧変動センサ51、52の他に、気圧変動センサ51、52と同様の構成である気圧変動センサ510を備えるようにしてもよい。この場合には、気圧変動センサ51を基準に、気圧変動センサ52、510のキャビティ容積を制御する。これにより、気圧変動センサ52の出力から測定されるX軸周りの傾斜と、気圧変動センサ510の出力から測定されるY軸周りの傾斜とを同時に測定できる。
【0187】
また、
図34(a)に示すように、気圧変動センサ51、52、510の他に、加速度センサ520を備えるようにしてもよい。この場合には、初期静止時に、加速度センサ520で重力加速度方向を測定し、傾斜計測装置1全体の絶対的な傾斜度を算出する。これを初期の傾斜度とし、ここからの傾斜変化を加算することで、絶対的な傾斜度を算出する。このように、加速度センサ520を、絶対的な傾斜度(高度差)の補正に用いることができる。
【0188】
また、
図34(b)に示すように、気圧変動センサ51、52、510、加速度センサ520の他に、絶対圧センサ530を備えるようにしてもよい。この場合には、絶対圧センサ530の出力値を、高さ情報換算時のキャビティ内圧の初期値に利用する。このように、絶対圧センサ530の出力値を、使用高度による測定傾斜度の補正に用いることができる。
【0189】
また、上述した傾斜計測装置1を複数の装置に分割して、傾斜計測システムとして構成するようにしてもよい。例えば、傾斜計測システムが、演算処理部を含む傾斜計測装置と、傾斜センサを含むセンサユニットとを備えるように構成し、傾斜計測装置と、センサユニットとを別々の場所に設置してもよい。
【0190】
なお、上述した傾斜計測装置1が備える各構成は、内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した傾斜計測装置1が備える各構成の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより上述した傾斜計測装置1が備える各構成における処理を行ってもよい。ここで、「記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行する」とは、コンピュータシステムにプログラムをインストールすることを含む。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0191】
また、「コンピュータシステム」は、インターネットやWAN、LAN、専用回線等の通信回線を含むネットワークを介して接続された複数のコンピュータ装置を含んでもよい。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。このように、プログラムを記憶した記録媒体は、CD-ROM等の非一過性の記録媒体であってもよい。
【0192】
また、記録媒体には、当該プログラムを配信するために配信サーバからアクセス可能な内部又は外部に設けられた記録媒体も含まれる。なお、プログラムを複数に分割し、それぞれ異なるタイミングでダウンロードした後に傾斜計測装置1が備える各構成で合体される構成や、分割されたプログラムのそれぞれを配信する配信サーバが異なっていてもよい。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、ネットワークを介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0193】
また、上述した傾斜計測装置1が備える機能の一部又は全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。上述した各機能は個別にプロセッサ化してもよいし、一部、又は全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、又は汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【符号の説明】
【0194】
1 傾斜計測装置
4 カンチレバー
5 気圧変動検出部
7 調整装置
10 キャビティ
13 ギャップ
20 ピエゾ抵抗
40 傾斜センサ
41 演算処理部
42 容積制御部
50、51、52 気圧変動センサ
53、54、55 検出回路
56、56a、56b、56c、56d、57 キャビティ容積可変部
61、61d 底面部
68、68a、68b ピエゾ素子
68c 静電素子
68d 磁石
68e 電磁コイル
69 ピエゾドライバ部
69c 静電ドライバ部
69d 電磁ドライバ部
70 密閉容器
72、73 カットオフ周波数計測部
510 気圧変動センサ
520 加速度センサ
530 絶対圧センサ
PB プリント基板