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特許6993184プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/46 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
B60R22/46 142
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017217920
(22)【出願日】2017-11-13
(65)【公開番号】P2019089375
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 清史
(72)【発明者】
【氏名】浅子 忠之
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037184(JP,A)
【文献】特開2012-116296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールに接続されたリングギアと、緊急時に前記リングギアに動力を伝達する動力伝達装置と、を含むプリテンショナにおいて、
前記動力伝達装置は、塑性変形しながら前記リングギアに動力を伝達するロッド状の動力伝達部材を含み、該動力伝達部材の先端は、前記動力伝達部材の他の部分よりも太く形成された拡張部を有し、該拡張部は、前記動力伝達部材と同じ素材により構成されており、
前記拡張部は、先端外縁部にテーパ面を備えている、
ことを特徴とするプリテンショナ。
【請求項2】
前記拡張部は、前記動力伝達部材の軸方向に対する長さが前記リングギアのピッチよりも小さく形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項3】
前記拡張部と前記他の部分との移行部はテーパ面を備えている、ことを特徴とする請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項4】
乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、緊急時に前記ウェビングを巻き取って弛みを除去するプリテンショナと、を含むリトラクタにおいて、
前記プリテンショナは、請求項1~請求項3の何れか一項に記載されたプリテンショナである、ことを特徴とするリトラクタ。
【請求項5】
乗員を拘束するウェビングと、該ウェビングの巻き取りを行うリトラクタと、を含むシートベルト装置において、
前記リトラクタは、請求項1~請求項3の何れか一項に記載のプリテンショナを備える、ことを特徴とするシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置に関し、特に、ロッド状の動力伝達部材を含む構成に適した、プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、一般に、乗員が着座する腰掛部と乗員の背面に位置する背もたれ部とを備えたシートに乗員を拘束するシートベルト装置が設けられている。かかるシートベルト装置は、乗員を拘束するウェビングと、ウェビングの巻き取りを行うリトラクタと、シートの側面に配置されたバックルと、ウェビングに配置されたトングとを含み、トングをバックルに嵌着させることによってウェビングにより乗員をシートに拘束している。また、リトラクタは、車両衝突時等の緊急時にウェビングの弛みを除去するプリテンショナを有していることが一般的になってきている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたプリテンショナは、ウェビングの巻き取りを行うスプール(14)に配置されたリングギア(24)と、緊急時にリングギア(24)に動力を伝達する動力伝達手段(16)と、を備え、動力伝達手段(16)は、塑性変形しながらリングギア(24)に動力を伝達するロッド状の動力伝達部材(22)と、動力伝達部材(22)を収容するパイプ(20)と、パイプ(20)の端部に配置されたガス発生器(18)と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/143090号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載したような、ロッド状の動力伝達部材を採用したプリテンショナは、駆動初期段階では動力伝達部材がリングギアに最初に衝突する際において最も負荷が高いことから、動力伝達部材は所定の太さ(強度)が必要になる。一方で、ロッド部材全体を太くしてしまうと、定常駆動段階に移行するに連れて、動力伝達部材に対するリングギアの係合歯数が増加するため、動力伝達部材がパイプ内を摺動するときの抵抗が増大することとなる。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、駆動初期段階における動力伝達部材の強度確保及び定常駆動段階における動力伝達部材に対する摺動抵抗の低減を両立させることができる、プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールに接続されたリングギアと、緊急時に前記リングギアに動力を伝達する動力伝達装置と、を含むプリテンショナにおいて、前記動力伝達装置は、塑性変形しながら前記リングギアに動力を伝達するロッド状の動力伝達部材を含み、該動力伝達部材の先端は、前記動力伝達部材の他の部分よりも太く形成された拡張部を有し、該拡張部は、前記動力伝達部材と同じ素材により構成されており、前記拡張部は、先端外縁部にテーパ面を備えている、ことを特徴とするプリテンショナが提供される。
【0008】
また、本発明によれば、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールと、緊急時に前記ウェビングを巻き取って弛みを除去するプリテンショナと、を含むリトラクタにおいて、前記プリテンショナは、前記スプールに接続されたリングギアと、緊急時に前記リングギアに動力を伝達する動力伝達装置と、を含み、前記動力伝達装置は、塑性変形しながら前記リングギアに動力を伝達するロッド状の動力伝達部材を含み、該動力伝達部材の先端は、前記動力伝達部材の他の部分よりも太く形成された拡張部を有し、該拡張部は、前記動力伝達部材と同じ素材により構成されており、前記拡張部は、先端外縁部にテーパ面を備えている、ことを特徴とするリトラクタが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、乗員を拘束するウェビングと、該ウェビングの巻き取りを行うリトラクタと、を含むシートベルト装置において、前記リトラクタは、前記スプールに接続されたリングギアと、緊急時に前記リングギアに動力を伝達する動力伝達装置と、を含み、前記動力伝達装置は、塑性変形しながら前記リングギアに動力を伝達するロッド状の動力伝達部材を含み、該動力伝達部材の先端は、前記動力伝達部材の他の部分よりも太く形成された拡張部を有し、該拡張部は、前記動力伝達部材と同じ素材により構成されており、前記拡張部は、先端外縁部にテーパ面を備えている、ことを特徴とするシートベルト装置が提供される。
【0010】
上述したプリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置において、前記拡張部は、前記動力伝達部材の軸方向に対する長さが前記リングギアのピッチよりも小さく形成されていてもよい。
【0011】
また、前記拡張部と前記他の部分との移行部はテーパ面を備えていてもよい。

【発明の効果】
【0012】
上述した本発明に係るプリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置によれば、動力伝達部材の先端に拡張部を形成したことにより、プリテンショナの作動時に拡張部がリングギアに最初に衝突することから、動力伝達部材の太い部分を駆動初期段階にリングギアに衝突させることができ、動力伝達部材の強度を確保することができる。また、動力伝達部材の拡張部よりも後方の部分は、拡張部よりも細く形成されていることから、定常駆動段階におけるリングギアの係合深さを浅くすることができ、係合歯数の増加に伴う抵抗を低減することができる。
【0013】
したがって、本発明によれば、駆動初期段階における動力伝達部材の強度確保及び定常駆動段階における動力伝達部材に対する摺動抵抗の低減を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るリトラクタを示す部品展開図である。
図2図1に示したプリテンショナの断面図であり、(A)は非作動状態、(B)は動力伝達部材の先端拡大図、を示している。
図3図1に示したプリテンショナの断面図であり、(A)は作動初期状態、(B)は作動中間段階、を示している。
図4】拡張部の変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、(D)は第四変形例、(E)第五変形例、を示している。
図5】拡張部の変形例を示す図であり、(A)は第六変形例、(B)は第七変形例、(C)は第八変形例、(D)は第九変形例、(E)第十変形例、を示している。
図6】本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図1図6を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の一実施形態に係るリトラクタを示す部品展開図である。図2は、図1に示したプリテンショナの断面図であり、(A)は非作動状態、(B)は動力伝達部材の先端拡大図、を示している。図3は、図1に示したプリテンショナの断面図であり、(A)は作動初期状態、(B)は作動中間段階、を示している。なお、図2(B)において、左図は動力伝達部材の正面図、右図は動力伝達部材の部分側面図、を示している。
【0016】
本発明の実施形態に係るリトラクタ1は、図1に示したように、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプール2と、緊急時にウェビングを巻き取って弛みを除去するプリテンショナ3と、を含み、プリテンショナ3は、スプール2に接続されたリングギア31と、緊急時にリングギア31に動力を伝達する動力伝達装置32と、を含み、動力伝達装置32は、塑性変形しながらリングギア31に動力を伝達するロッド状の動力伝達部材32aを含み、動力伝達部材32aの先端は、動力伝達部材32aの他の部分よりも太く形成された拡張部32bを有し、拡張部32bは、動力伝達部材32aと同じ素材により構成されている。なお、図1において、ウェビングの図は省略してある。
【0017】
スプール2は、ウェビングを巻き取る巻胴であり、リトラクタ1の骨格を形成するベースフレーム11内に回転可能に収容されている。ベースフレーム11は、例えば、対峙する一対の端面111,112と、これらの端面を連結する側面113と、を有している。ベースフレーム11は、側面113と対峙し端面111,112に接続されるタイプレート114を有していてもよい。また、例えば、端面111側にスプリングユニット4が配置され、端面112側にプリテンショナ3及びロック機構5が配置される。なお、スプリングユニット4、プリテンショナ3、ロック機構5等の配置は、図示した構成に限定されるものではない。
【0018】
また、ベースフレーム11の端面111には、スプール2の軸部を挿通する開口部111aが形成されており、ベースフレーム11の端面112には、ロック機構5のパウル(図示せず)と係合可能な内歯を有する開口部112aが形成されている。また、ベースフレーム11の端面112の内側には、プリテンショナ3の一部(例えば、リングギア31等)が配置される。また、ベースフレーム11の端面112の外側にはロック機構5が配置され、ロック機構5はリテーナカバー51内に収容される。
【0019】
リテーナカバー51には、車体の急減速や傾きを検出するビークルセンサ6が配置されていてもよい。ビークルセンサ6は、例えば、球形の質量体と、質量体の移動によって揺動されるセンサレバーと、を有している。ビークルセンサ6は、ベースフレーム11の端面112に形成した開口部112bに嵌め込まれて固定される。
【0020】
スプール2は、中心部に空洞を有し、軸心を形成するトーションバー21が挿通されていてもよい。トーションバー21は、第一端部がスプール2の端部に接続されたロック機構5のロッキングベース52に接続されており、第二端部がスプリングユニット4のスプリングコアに接続されている。したがって、スプール2は、ロッキングベース52及びトーションバー21を介して、スプリングユニット4に接続されており、スプリングユニット4に格納されたゼンマイバネによりウェビングを巻き取る方向に付勢されている。
【0021】
なお、トーションバー21の第一端部は、ロッキングベース52を介さずにスプール2に接続されていてもよい。また、スプール2に巻き取り力を付与する手段は、スプリングユニット4に限定されるものではなく、電動モータ等を用いた他の手段であってもよい。
【0022】
ロッキングベース52は、その側面部から出没可能に配置されたパウルを備えている。ロック機構5の作動時には、パウルをロッキングベース52の側面部から突出させることにより、ベースフレーム11の開口部112aに形成された内歯に係合させ、ロッキングベース52のウェビング引き出し方向の回転を拘束する。
【0023】
したがって、ロック機構5が作動した状態で、ウェビング引き出し方向に荷重が負荷された場合であっても、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じるまでは、スプール2を非回転状態に保持することができる。そして、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じた場合には、トーションバー21が捻れることによって、スプール2が相対的に回転運動を生じ、ウェビングが引き出される。
【0024】
また、ロック機構5は、ロッキングベース52に隣接するように配置されたロックギア53を備えている。ロックギア53は、揺動可能に配置されたフライホイール(図示せず)を備えており、ウェビングが通常の引き出し速度よりも早い場合には、フライホイールが揺動してリテーナカバー51に形成された内歯(図示せず)に係合する。また、ビークルセンサ6が作動した場合には、そのセンサレバーがロックギア53の側面に形成された外歯に係合する。
【0025】
このように、ロックギア53は、フライホイール又はビークルセンサ6の作動により、ロックギア53の回転が規制される。そして、ロックギア53の回転が規制されると、ロッキングベース52とロックギア53との間に相対回転が生じ、この相対回転に伴ってパウルがロッキングベース52の側面部から突出される。
【0026】
なお、ロック機構5は、図示した構成に限定されるものではなく、従来から存在している種々の構成のものを任意に選択して使用することができる。
【0027】
プリテンショナ3は、例えば、スプール2と同軸上に配置されたリングギア31と、リングギア31を回転させる動力伝達装置32と、リングギア31を格納するプリテンショナカバー33と、動力伝達部材32aの移動空間を形成するガイドスペーサ34と、リングギア31と動力伝達部材32aとの噛合開始部に配置されたガイドブロック35と、を備えている。
【0028】
プリテンショナカバー33はベースフレーム11の端面112の内側に配置され、ガイドスペーサ34はプリテンショナカバー33内に収容される。リングギア31は、ガイドスペーサ34によって確保されたプリテンショナカバー33と端面112との間の空間に位置するようにリングギア31が配置される。
【0029】
リングギア31は、例えば、ロッキングベース52の軸部に固定される。リングギア31は、図2(A)に示したように、径方向外方に突出するように形成された複数の係合歯31aを有している。なお、リングギア31はピニオンギアと呼ぶこともある。
【0030】
動力伝達装置32は、例えば、塑性変形しながらリングギア31に動力を伝達するロッド状の動力伝達部材32aと、動力伝達部材32aを収容するパイプ32cと、パイプ32cの端部に配置されたガス発生器32dと、パイプ32c内を摺動するピストン32eと、を備えている。
【0031】
パイプ32cは、先端がリングギア31の係合歯31aに臨む位置に配置されており、後端側は動力伝達部材32aの移動に必要な長さ分だけ延伸されており、リトラクタ1の外形に沿って湾曲するように形成されている。パイプ32cの先端は、図1に示したように、外周の一部に開口部32gが形成されており、この開口部32gから動力伝達部材32aがプリテンショナカバー33内に放出される。
【0032】
また、パイプ32cの先端には、図2(A)に示したように、ガイドブロック35が挿入されており、ガイドブロック35及びパイプ32cの先端は固定ピン36によって、ベースフレーム11の側面113に固定されている。ガイドブロック35は、動力伝達部材32aの移動を案内する斜面35aと、ベースフレーム11(側面113)に固定される本体部35bと、を有している。
【0033】
ガイドブロック35は、図1に示したように、パイプ32cの先端に挿入可能な柱状形状を有しており、その端面に斜面35aが形成されている。ガイドブロック35は、プリテンショナ3の作動時に動力伝達部材32aの先端がリングギア31の係合歯31aに衝突するように案内する部品である。斜面35aは、動力伝達部材32aを案内することができれば、平面であってもよいし、湾曲した面であってもよい。
【0034】
また、ガイドブロック35は、動力伝達部材32aが係合歯31aに衝突した際に生じた衝撃を受け止める部品でもある。したがって、ガイドブロック35は、動力伝達部材32aの係合歯31aへの衝突時に生じる荷重に耐え得る強度を有していれば、樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。また、ガイドブロック35は、固定ピン36によって、高強度を有するベースフレーム11に固定されている。したがって、プリテンショナ3の作動時に変形したり、位置がずれたりすることがなく、動力伝達部材32aを逃がすことなくリングギア31に案内することができる。
【0035】
動力伝達部材32aは、例えば、樹脂製の細長い形状(ロッド状)を有しており、パイプ32c内に収容されている。動力伝達部材32aは、図2(B)に示したように、先端に動力伝達部材32aの他の部分よりも太く形成された拡張部32bを有している。拡張部32bは、動力伝達部材32aの先端を拡径したものであり、動力伝達部材32aと同じ素材により構成されている。なお、拡張部32bと他の部分との移行部32hは、テーパ面を有していてもよい。
【0036】
ここで、動力伝達部材32aの拡張部32b以外の部分の太さをDrとし、拡張部32bの太さをDtとすれば、動力伝達部材32aはDt>Drの関係を有している。拡張部32bと他の部分との差分(Dt-Drの大きさ)は、例えば、Drの10~15%程度に設定される。
【0037】
また、拡張部32bは、動力伝達部材32aの軸方向に対する長さがリングギア31のピッチ(隣接する係合歯31aの先端部間の距離)よりも小さく形成されている。具体的には、拡張部32bの軸方向長さをWとし、リングギア31のピッチをPとすれば、拡張部32bはW<Pの関係を有している。かかる構成により、拡張部32bと係合歯31aとの干渉を回避することができる。
【0038】
かかる拡張部32bを有する動力伝達装置32は、通常時(プリテンショナ3の非作動時)には、図2(A)に示したように、パイプ32c内に動力伝達部材32aが収容された状態が保持されている。そして、車両衝突時等の緊急時(プリテンショナ3の作動時)には、ガス発生器32dにより供給されるガスによって、動力伝達部材32aがパイプ32c内で押し出される。
【0039】
パイプ32c内で押し出された動力伝達部材32aは、図3(A)に示したように、ガイドブロック35の斜面35aに沿って移動し、リングギア31の係合歯31aに衝突する。このとき、拡張部32bがリングギア31の係合歯31aに最初に衝突することから、動力伝達部材32aの太い部分を駆動初期段階にリングギア31に衝突させることができ、動力伝達部材32aの強度を確保することができる。
【0040】
その後、図3(B)に示したように、動力伝達部材32aは、プリテンショナカバー33及びガイドスペーサ34によって形成された空間(通路)に押し出され、リングギア31の係合歯31aに係合しながら通路に沿って移動する。このとき、4~5本程度の複数の係合歯31aが動力伝達部材32aに係合してリングギア31が回転しており、この状態に移行した段階を定常駆動段階と称する。
【0041】
かかる定常駆動段階では、動力伝達部材32aの拡張部32bはリングギア31を通過していることから、リングギア31は動力伝達部材32aの拡張部32b以外の他の部分に係合することになる。この拡張部32bよりも後方の他の部分は、拡張部32bよりも細く形成されていることから、係合歯31aの係合深さを浅くすることができる。したがって、リングギア31の係合歯数の増加に伴う抵抗を低減することができる。
【0042】
そして、動力伝達部材32aは、最終的に、ガイドスペーサ34によって形成されたストッパ面34aに衝突するか、又はウェビングの弛みを巻き取り終えることによって停止する。
【0043】
なお、本実施形態では、プリテンショナ3がガイドブロック35を有する場合について説明しているが、拡張部32bを備えた動力伝達部材32aは、ガイドブロックを有しない従来のプリテンショナにも適用することができる。
【0044】
また、本実施形態において、動力伝達部材32a又はパイプ32cの「先端」とは、プリテンショナ3の作動時における動力伝達部材32aの移動方向前方側(リングギア31の係合歯31aに近接した側)の端部を意味し、動力伝達部材32a又はパイプ32cの「後端」とは、プリテンショナ3の作動時における動力伝達部材32aの移動方向後方側(ガス発生器32dに近接した側)の端部を意味している。
【0045】
次に、拡張部32bの変形例について、図4(A)~図4(D)を参照しつつ説明する。ここで、図4は、拡張部の変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、(D)は第四変形例、(E)第五変形例、を示している。図5は、拡張部の変形例を示す図であり、(A)は第六変形例、(B)は第七変形例、(C)は第八変形例、(D)は第九変形例、(E)第十変形例、を示している。なお、図4(A)~図5(E)の各図において、左図は動力伝達部材32aの正面図、右図は動力伝達部材32aの部分側面図、を示している。
【0046】
図4(A)に示した第一変形例は、拡張部32bの先端外縁部32iにテーパ面を形成した(面取りした)ものである。かかる第一変形例によれば、動力伝達部材32aの摺動性の向上を図ることができる。
【0047】
図4(B)に示した第二変形例は、拡張部32bを動力伝達部材32aの他の部分に対して偏心させたものである。このように、拡張部32bを偏心させた場合であっても、他の部分よりも太く形成することができる。また、拡張部32bの移行部32hが平らな側(図の下側)をガイドブロック35側に配置し、移行部32hが突出した側をリングギア31側に配置することにより、動力伝達部材32aの摺動性の向上を図ることができる。
【0048】
図4(C)に示した第三変形例は、拡張部32bを円錐台形状に形成したものである。また、図4(D)に示した第四変形例は、拡張部32bを略球体形状に形成したものである。また、図4(E)に示した第五変形例は、拡張部32bを球体の両端部を切り落とした形状に形成したものである。
【0049】
図5(A)に示した第六変形例は、拡張部32bを円柱部32jと球面部32kとにより構成したものである。また、図5(B)に示した第七変形例は、拡張部32bを円柱部32jと円錐部32mとにより構成したものである。また、図5(C)に示した第八変形例は、拡張部32bを一対の円錐台部32nの底面部を互いに当接させた形状に構成したものである。
【0050】
図5(D)に示した第九変形例及び図5(E)に示した第十変形例は、拡張部32bをセレーション形状(鋸歯状)に形成したものである。第九変形例では、拡張部32bの外周に形成された凹凸は角張った形状を有している。また、第十変形例では、拡張部32bの外周に形成された凹凸は滑らかな形状を有している。
【0051】
上述した第三変形例~第十変形例によっても、図2(B)に示した実施形態と実質的に同一の効果を発揮する。なお、第一変形例~第十変形例は、拡張部32bの一例を示すものであり、図示した形状に限定されるものではない。
【0052】
次に、本発明の実施形態に係るシートベルト装置について、図6を参照しつつ説明する。ここで、図6は、本発明の実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。なお、図6において、説明の便宜上、シートベルト装置以外の構成部品については、一点鎖線で図示している。
【0053】
図6に示した本実施形態に係るシートベルト装置100は、乗員を拘束するウェビングWと、ウェビングWの巻き取りを行うリトラクタ1と、車体側に設けられウェビングWを案内するガイドアンカー101と、ウェビングWを車体側に固定するベルトアンカー102と、シートSの側面に配置されたバックル103と、ウェビングWに配置されたトング104と、を備え、リトラクタ1は、例えば、図1に示した構成を有している。
【0054】
以下、リトラクタ1以外の構成部品について、簡単に説明する。シートSは、例えば、乗員が着座する腰掛部S1と、乗員の背面に位置する背もたれ部S2と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト部S3とを備えている。リトラクタ1は、例えば、車体のBピラーPに内蔵される。また、一般に、バックル103は腰掛部S1の側面に配置されることが多く、ベルトアンカー102は腰掛部S1の下面に配置されることが多い。また、ガイドアンカー101は、BピラーPに配置されることが多い。そして、ウェビングWは、一端がベルトアンカー102に接続され、他端がガイドアンカー101を介してリトラクタ1に接続されている。
【0055】
したがって、トング104をバックル103に嵌着させる場合、ウェビングWはガイドアンカー101の挿通孔を摺動しながらリトラクタ1から引き出されることとなる。また、乗員がシートベルトを装着した場合や降車時にシートベルトを解除した場合には、リトラクタ1のスプリングユニット4の作用により、ウェビングWは一定の負荷がかかるまで巻き取られる。
【0056】
上述したシートベルト装置100は、前部座席における通常のシートベルト装置に、上述した実施形態に係るリトラクタ1を適用したものである。したがって、本実施形態に係るシートベルト装置100によれば、動力伝達部材32aの先端に拡張部32bを形成したことにより、駆動初期段階における動力伝達部材32aの強度確保及び定常駆動段階における動力伝達部材32aに対する摺動抵抗の低減を両立させることができる。
【0057】
なお、本実施形態に係るシートベルト装置100は、前部座席への適用に限定されるものではなく、例えば、ガイドアンカー101を省略して後部座席にも容易に適用することができる。また、本実施形態に係るシートベルト装置100は、車両以外の乗物にも使用することができる。
【0058】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
1 リトラクタ
2 スプール
3 プリテンショナ
4 スプリングユニット
5 ロック機構
6 ビークルセンサ
11 ベースフレーム
21 トーションバー
31 リングギア
31a 係合歯
32 動力伝達装置
32a 動力伝達部材
32b 拡張部
32c パイプ
32d ガス発生器
32e ピストン
32g 開口部
32h 移行部
32i 先端外縁部
32j 円柱部
32k 球面部
32m 円錐部
32n 円錐台部
33 プリテンショナカバー
34 ガイドスペーサ
34a ストッパ面
35 ガイドブロック
35a 斜面
35b 本体部
36 固定ピン
51 リテーナカバー
52 ロッキングベース
53 ロックギア
100 シートベルト装置
101 ガイドアンカー
102 ベルトアンカー
103 バックル
104 トング
111,112 端面
111a,112a,112b 開口部
113 側面
114 タイプレート

図1
図2
図3
図4
図5
図6