(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】セルロース分解菌の生育方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
C12N1/14 G
(21)【出願番号】P 2018009844
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】トッパン・フォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】川口 優子
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106047719(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106047720(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース分解菌を有し、かつ滅菌済みの
固体培地に、セルロースナノファイバーを含有する水を添加してから、前記
固体培地中で前記セルロース分解菌を生育させる、セルロース分解菌の生育方法。
【請求項2】
前記セルロース分解菌がキノコである、請求項1に記載のセルロース分解菌の生育方法。
【請求項3】
前記セルロース分解菌を有し、かつ滅菌済みの固体培地において、前記セルロース分解菌を生育させ、次いで、前記固体培地中の前記セルロース分解菌の一部を取り除いた後、前記固体培地に、セルロースナノファイバーを含有する水を添加してから、前記固体培地中で前記セルロース分解菌を生育させる、請求項2に記載のセルロース分解菌の生育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース分解菌の生育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルラーゼは、セルロースを加水分解する酵素である。セルラーゼを有する菌類は、この酵素を利用して、セルロースをグルコースや、グルコースが複数分子結合した構造を有するオリゴ糖にまで分解し、これら分解物を栄養源として利用する。このような菌類を、本明細書においては、「セルロース分解菌」と称する。
【0003】
一方、セルラーゼを用いてセルロースをグルコース等の最終産物へ分解する際の問題点としては、その分解速度が遅いことが挙げられる。すなわち、セルラーゼを用いたセルロースの分解は、現状、非常に非効率となっている。これは、セルロース分解菌においても同様である。
【0004】
例えば、セルロース分解菌の1種としてキノコが挙げられる。従来、キノコの栽培培地としては、セルロース源としておがくずやふすま等を含有する培地が利用されている。しかし、このような培地を用いてキノコを栽培する場合には、セルラーゼによるセルロースの分解速度が遅いために、キノコの栽培期間の短縮には限界があり、短期間でキノコを収穫できないという問題点があった。
【0005】
そこで、セルラーゼを用いてセルロースを最終産物へ分解するときの分解速度を向上させる方法の開発が望まれている。このような方法としては、天然型セルロースであるセルロースI型をアンモニア処理することにより、セルロースI型よりも結晶密度が低い低密度結晶性セルロースを得た後、セルラーゼを用いて、この低密度結晶性セルロースをグルコースへ分解する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1で開示されている方法は、アンモニア処理という特殊な操作が必要であるという問題点があった。また、セルロース分解菌が低密度結晶性セルロースを効率的に分解できるか否かも定かではない。
そこで、セルロース分解菌において、セルロースの最終産物への分解速度を向上させることができる、汎用性が高い手段の開発が望まれていた。このような手段が実現すれば、セルロース分解菌を短時間で生育させることができ、非常に有用である。
【0008】
そこで、本発明は、セルロース分解菌を短時間で生育させることができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セルロース分解菌を有し、かつ滅菌済みの培地に、セルロースナノファイバーを含有する水を添加してから、前記培地中で前記セルロース分解菌を生育させる、セルロース分解菌の生育方法を提供する。
本発明のセルロース分解菌の生育方法においては、前記セルロース分解菌がキノコであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セルロース分解菌を短時間で生育させることができる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1における、ヒラタケの生育の様子を示す撮像データである。
【
図2】比較例1における、ヒラタケの生育の様子を示す撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<セルロース分解菌の生育方法>>
本発明のセルロース分解菌の生育方法は、セルロース分解菌を有し、かつ滅菌済みの培地(本明細書においては、「初期培地」と称することがある)に、セルロースナノファイバー(本明細書においては、「CNF」と称することがある)を含有する水(本明細書においては、「CNF含有水」と称することがある)を添加してから、前記培地(本明細書においては、「CNF含有培地」と称することがある)中で前記セルロース分解菌を生育させるものである。
【0013】
前記生育方法においては、最終的にCNFを含有する滅菌済みの培地(前記CNF含有培地)を用いて、セルロース分解菌を生育させる。そして、セルロース分解菌は、セルロースとしてこのCNFを加水分解し、最終産物として、グルコースや、グルコースが複数分子結合した構造を有するオリゴ糖を生成する。このときのCNFの分解速度は、CNFに該当しないセルロース(本明細書においては、「非CNFセルロース」と称することがある)を同様の条件で分解するときの分解速度よりも、顕著に速い。すなわち、前記生育方法によってセルロース分解菌を生育させることにより、短時間でセルロース分解菌を大量に生育させることができる。さらにこの場合、セルロース分解菌有し、かつ滅菌済みの培地(前記初期培地)に、CNF含有水を添加してから、前記培地(前記CNF含有培地)中でセルロース分解菌を生育させる、という特定の操作を採用する点以外は、従来法と同様の方法でセルロース分解菌を生育させることが可能であり、特殊な操作が不要である。したがって、前記生育方法は汎用性が高い。
【0014】
セルロース分解菌の生育速度が速いことは、セルロース分解菌におけるセルロースの分解速度が速いことを意味する。前記生育方法により、セルロース分解菌の生育速度が速くなる(セルロース分解菌におけるセルロースの分解速度が向上する)理由は、定かではないが、CNFの結晶化度が低く、さらに、CNFのセルラーゼと接触可能な表面積が大きく、セルロース(CNF)の分解反応が促進され易いからではないかと推測される。
【0015】
さらに、前記生育方法においては、前記初期培地にCNF含有水を添加してから、前記培地中でセルロース分解菌を生育させる、という特定の操作を採用することにより、セルロース分解菌の生育速度を安定して向上させることが可能である。例えば、セルロース分解菌が特定範囲の菌類である場合には、培地を滅菌してから、この培地にセルロース分解菌を植菌し、この培地中で生育させる。滅菌処理には、加圧高温下で培地を処理するオートクレーブが採用されることがある。このとき、CNFを含有する培地をオートクレーブすると、加熱によって、培地中のCNFが変性してしまうことがある。すると、このような培地でセルロース分解菌を生育させても、生育速度が向上しない。これは、変性してしまったCNFと、セルロース分解菌由来のセルラーゼと、の接触面積が、減少してしまうためであると推測される。
これに対して、前記生育方法においては、あらかじめ滅菌済みの初期培地にCNF含有水を添加するため、オートクレーブを経ていないCNFを培地に含有させることが可能であり、セルロース分解菌の生育速度を安定して向上させることが可能である。
【0016】
セルロース分解菌の生育速度は、セルロース分解菌の生育量を1つの目安とすることができる。例えば、セルロース分解菌の生育速度を比較する場合には、同じ生育時間でのセルロース分解菌の生育量を比較することで、生育速度の優劣を判断できる。
【0017】
<初期培地>
前記CNF含有水を添加する前の前記初期培地(セルロース分解菌を有し、かつ滅菌済みの培地)は、セルロース分解菌の生育に必要な必須成分を含有し、セルロース分解菌が植菌済みであり、滅菌済みの培地であれば、特に限定されない。
【0018】
例えば、初期培地は、液体培地及び固体培地のいずれであってもよい。
初期培地は、前記必須成分及びセルロース分解菌以外に、他の成分を含有していてもよい。
【0019】
[セルロース分解菌]
本発明の適用対象となるセルロース分解菌は、セルロースの加水分解酵素であるセルラーゼを有する菌類であり、セルラーゼを用いることによって、セルロースを最終産物であるグルコース又はオリゴ糖にまで分解する。セルロース分解菌は、通常、この最終産物を栄養源として利用する。
セルロース分解菌は、セルラーゼによってセルロース(CNF)を加水分解して、単糖又はオリゴ糖を生成するという点において、共通の性質を有する。
【0020】
セルロース分解菌としては、例えば、細菌、真菌等に分類される菌類が挙げられる。細菌は微生物であるが、真菌には微生物以外に、子実体を形成するキノコも含まれる。すなわち、前記生育方法は、微生物の培養(生育)以外に、キノコの栽培(生育)にも利用できる。
【0021】
セルロース分解菌のうち、細菌で好ましいものとしては、例えば、バチルス(Bacillus)属に属する微生物等が挙げられる。
セルロース分解菌のうち、真菌で好ましいものとしては、例えば、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)等のトリコデルマ(Trichoderma)属に属する微生物;クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)等のクロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物;マイタケ、ヒラタケ、エノキ、シイタケ等のキノコ等が挙げられる。
キノコは、それ自体の利用価値が高く、栽培期間の短縮によって短期間で収穫できることは重要である。すなわち、セルロース分解菌のうちキノコは、特に好ましいものの一例として挙げられる。
【0022】
初期培地が有するセルロース分解菌は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0023】
初期培地のセルロース分解菌の含有量は、初期培地の種類、セルロース分解菌の種類等に応じて適宜調節でき、特に限定されない。
【0024】
[必須成分]
前記必須成分は、セルロース分解菌の種類によって決定される。
【0025】
[他の成分]
初期培地における前記他の成分は、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。
前記他の成分は、例えば、有機成分及び無機成分のいずれであってもよい。
例えば、初期培地は、CNFを含有していてもよいし、含有していなくてもよい。ここで、CNFとしては、後述するCNF含有水が含有するCNFと同じものが挙げられる。
【0026】
初期培地が含有する必須成分及び他の成分等は、いずれも、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0027】
初期培地の、必須成分及び他の成分等の含有量は、いずれも、初期培地の種類、セルロース分解菌の種類等に応じて適宜調節でき、特に限定されない。
【0028】
初期培地は、例えば、セルロース分解菌の生育が可能な培地を滅菌し、得られた滅菌済み培地に、セルロース分解菌を植菌することで作製できる。
滅菌前の前記培地は、前記必須成分を含有する。滅菌前の前記培地としては、例えば、トリプチックソイブロス(Tryptic Soy Broth)、ポテトデキストロース寒天培地(Poteto Dextrose Ager)等が挙げられ、さらに、これら公知の培地に、別途、公知の培地の構成成分が添加されたものも挙げられる。
【0029】
培地の滅菌は、加圧高温下で培地を処理するオートクレーブで、行うことができる。
オートクレーブ時の圧力、温度及び時間は、培地の種類等を考慮して、通常の条件に設定できる。例えば、温度は80~140℃であってよく、圧力は0.01~0.2MPaであってよく、時間は10~90分であってよい。
【0030】
前記滅菌済み培地にセルロース分解菌を植菌するときには、滅菌済み培地にセルロース分解菌を載せればよく、公知の方法で植菌できる。
【0031】
滅菌済み培地へのセルロース分解菌の植菌量は、特に限定されず、初期培地の種類、セルロース分解菌の種類等に応じて適宜調節できる。
例えば、セルロース分解菌が微生物である場合には、前記植菌量は、培地一つあたり、0.01~10gであってよい。
セルロース分解菌がキノコである場合には、前記植菌量は、培地一つあたり、0.1~50gであってよい。
【0032】
植菌後のセルロース分解菌は、滅菌済み培地にCNF含有水を添加する前に、滅菌済み培地中で生育させても(培養しても)よい。このときの温度、湿度、時間等の条件は、初期培地の種類、セルロース分解菌の種類等に応じて適宜調節でき、特に限定されない。
【0033】
初期培地は、例えば、セルロース分解菌用の滅菌済みの市販品の培地に、セルロース分解菌を植菌したものであってもよい。このように市販品の培地を用いることで、より簡便にセルロース分解菌を生育させることができる。
【0034】
<CNF含有水>
初期培地に添加する前記CNF含有水(CNFを含有する水)は、CNF及び水を含有するものであれば、特に限定されない。
例えば、CNF含有水は、CNF及び水以外に、これらのいずれにも該当しない他の成分を含有していてもよい。
【0035】
前記CNF含有水は、通常、水分散液である。
【0036】
[セルロースナノファイバー(CNF)]
本発明で用いるCNFは、特に限定されず、公知のものでよい。
CNFとして、より具体的には、例えば、セルロース若しくはその誘導体で、繊維幅が3~200nmのミクロフィブリル又はミクロフィブリル集合体となっているものが挙げられる。
【0037】
CNFとしては、例えば、解繊セルロースナノファイバー(解繊CNF)、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(TEMPO酸化CNF)等が挙げられる。
解繊CNFは、水等の分散媒中で、セルロースナノファイバー前駆体(CNF前駆体)に対して解繊処理を行うことにより、セルロースナノファイバー分散液(CNF分散液)を得る工程を有する製造方法で製造されたCNFである。
TEMPO酸化CNFは、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ,ラジカル(TEMPO)触媒によるセルロースの化学変性法で得られたCNFである。
【0038】
前記CNF前駆体は、解繊処理が施されていないセルロース類であり、例えば、ミクロフィブリルの集合体で構成される。
CNF前駆体としては、例えば、酸化セルロース、すなわちセルロースの酸化処理により、セルロース分子中のグルコピラノース環の少なくとも一部にカルボキシ基が導入されたもの、を用いてもよい。
【0039】
CNF前駆体を得るためのセルロース源(セルロースを含む原料)は、セルロースを含むものであれば特に限定されず、セルロース自体であってもよい。
セルロース源としては、例えば、セルロースIの結晶構造を有する天然由来のセルロースを含むものが挙げられ、より具体的には、例えば、各種木材パルプ、非木材パルプ、バクテリアセルロース、古紙パルプ、コットン、バロニアセルロース、ホヤセルロース等が挙げられる。
セルロース粉末、微結晶セルロース粉末等の各種市販品も、セルロース源として使用できる。
【0040】
CNF前駆体の解繊処理の方法は、特に限定されない。具体的な解繊処理の方法としては、例えば、超音波ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、対向衝突型ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、遊星ミル、高速回転ミキサー、磨砕用グラインダー等を用いた、機械的解繊処理法が挙げられる(本明細書においては、特に機械的解繊処理法を行うことにより得られたCNFを「機械解繊CNF」と称する)。
CNF前駆体の解繊処理により得られた処理物が、CNFであることは、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、前記処理物の繊維を観察することにより確認できる。
【0041】
CNF含有水が含有するCNFは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0042】
CNF含有水のCNFの含有量は、セルロース分解菌の生育が良好となるように適宜調節すればよく、特に限定されない。
なかでも、CNF含有水のCNFの含有量は、0.001~5質量%であることが好ましく、0.005~3質量%であることがより好ましく、0.01~1質量%であることがさらに好ましく、0.05~0.6質量%であることが特に好ましい。CNFの前記含有量が前記下限値以上であることで、セルロース分解菌の生育速度がより向上する。CNFの前記含有量が前記上限値以下であることで、CNF含有水の取り扱い性がより向上する。CNFの前記含有量が多過ぎると、CNF含有水は高粘度のゲル状になってしまうが、CNFの含有量が5質量%以下のCNF含有水であれば、初期培地へ十分に浸透させることができる。
【0043】
[他の成分]
CNF含有水における前記他の成分は、目的に応じて任意に選択でき、特に限定されない。
【0044】
CNF含有水が含有する前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0045】
CNF含有水の前記他の成分の含有量は、初期培地の種類、セルロース分解菌の種類等に応じて適宜調節でき、特に限定されない。
【0046】
CNF含有水は、例えば、取り出し若しくは精製によって、純品となっている状態のCNFを、水と混合することで、製造できる。
また、CNFの製造時に得られた、CNFとCNF以外の成分との混合物を、水と混合することでも、CNF含有水を製造できる。
また、CNFの製造時に得られた、CNFと水を含む液状混合物を、そのままCNF含有水として用いてもよいし、前記液状混合物に任意の後処理操作を行って得られたものを、CNF含有水として用いてもよい。前記液状混合物としては、例えば、CNF前駆体に対して解繊処理を行って得られたCNF分散液(解繊CNFの分散液)等が挙げられる。
【0047】
セルロース分解菌が微生物である場合、CNF含有水は、滅菌処理されたものであることが好ましい。
滅菌処理されたCNF含有水は、例えば、滅菌フィルターを用いたろ過による滅菌処理、紫外線照射による滅菌処理等、公知の方法で、CNF含有水を滅菌処理することで得られる。
また、滅菌処理されたCNF含有水は、例えば、クリーンベンチ内等の無菌条件下において、滅菌済みのCNFを滅菌水と混合することでも得られる。
【0048】
セルロース分解菌がキノコである場合、CNF含有水は、滅菌処理されたもの及び滅菌処理されていないもの、のいずれも好ましい。ここで、滅菌処理されたCNF含有水とは、上記のセルロース分解菌が微生物である場合と同じである。
【0049】
CNF含有水を初期培地に添加する方法は、特に限定されない。例えば、CNF含有水は、スポイトやチューブ等の液状物の注入手段を用いて、液状のまま初期培地に注入することで添加できる。また、CNF含有水は、霧吹き等の液状物の霧化手段を用いて、霧状にして初期培地に散布する(吹き付ける)ことでも添加できる。
【0050】
CNF含有水の初期培地への添加による、CNFの初期培地への添加量は、セルロース分解菌の生育が良好となるように適宜調節すればよく、特に限定されない。
なかでも、初期培地におけるセルロース分解菌の植菌量100質量部に対する、CNFの初期培地への添加量は、0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~7質量部であることがより好ましく、0.3~5質量部であることがさらに好ましく、0.4~3質量部であることが特に好ましい。CNFの前記添加量が前記下限値以上であることで、セルロース分解菌の生育速度がより向上する。CNFの前記添加量が前記上限値以下であることで、CNFの過剰使用が抑制される。
【0051】
初期培地に添加するCNF含有水の温度は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
添加時のCNF含有水の温度は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましく、例えば、100℃以下、70℃以下、50℃以下、及び30℃以下のいずれであってもよい。CNF含有水の温度が前記上限値以下であることで、CNF含有水中のCNFの変性が抑制され、セルロース分解菌の生育速度がより向上する。
【0052】
初期培地に添加するCNF含有水の温度の下限値は、CNF含有水が凍結しない限り、特に限定されない。
添加時のCNF含有水の温度は、0℃以上であることが好ましい。
【0053】
初期培地に添加するCNF含有水の温度は、上述の好ましい下限値及び上限値を任意に組み合わせて設定される範囲内に、適宜調節できる。例えば、前記温度は、好ましくは0~180℃、より好ましくは0~150℃、さらに好ましくは0~120℃であり、例えば、0~100℃、0~70℃、0~50℃、及び0~30℃のいずれであってもよい。ただし、これらは、前記温度の一例である。
【0054】
初期培地が固形状である場合には、CNF含有水の添加により、初期培地の表面にCNFが偏在し易い。一方、初期培地が液状である場合には、CNF含有水の添加により、初期培地中の全域にCNFが拡散し易い。すなわち、初期培地が固形状である方が、セルロース分解菌のおもな生育箇所である初期培地の表面に、添加したCNFが偏在するため、より少ないCNFの添加量で、セルロース分解菌を生育させることができ、生育効率が高い。
【0055】
前記CNF含有培地(前記初期培地に、CNF含有水を添加して得られた培地)中での、セルロース分解菌の生育方法は、公知の方法でよく、セルロース分解菌の種類等に応じて適宜調節でき、特に限定されない。
【0056】
例えば、セルロース分解菌が微生物である場合には、その生育は、通常の微生物の培養条件を適用することで、行うことができる。例えば、この場合、微生物は、滅菌済みの無菌条件下で生育させることが好ましい。
【0057】
CNF含有培地が液状である場合には、微生物(セルロース分解菌)の生育時には、この培地を静置してもよいし、振とう(例えば、振とう培養)してもよい。CNF含有培地が固形状である場合には、微生物(セルロース分解菌)の生育時には、この培地を静置しておけばよい。
微生物(セルロース分解菌)の生育時の温度は、例えば、18~60℃であってよく、生育時間は、例えば、2時間~10日であってよい。ただし、これらは、温度、生育時間の一例である。
【0058】
セルロース分解菌がキノコである場合には、その生育は、通常のキノコの栽培条件を適用することで、行うことができる。例えば、この場合、キノコは、滅菌済みの無菌条件下で生育させてもよいが、無菌ではない条件下(非無菌条件下)で生育させても問題ない。
【0059】
キノコ(セルロース分解菌)の生育時の温度は、例えば、10~30℃であってよく、生育時の相対湿度は、例えば、65~95%であってよく、生育時間は、例えば、15~30日であってよい。ただし、これらは、温度、相対湿度、生育時間の一例である。
【0060】
キノコの従来の生育方法では、通常、特有の条件が適用されることがある。本発明の生育方法においても、このような条件を適用してもよい。
すなわち、本発明の生育方法では、初期培地において、植菌後の菌体(キノコ、セルロース分解菌)をある程度生育させておき、キノコの形態での増殖がはっきりとは認められない段階で、増殖した初期培地中の菌体の一部を取り除く、所謂「菌掻き」を行う。この菌掻きは、従来の生育方法でも適用される。次いで、この菌掻き後の初期培地中に、CNF含有水を添加する。従来の生育方法では、菌掻き後の初期培地中に水(「菌掻き水」とも呼ばれる)を添加するが、本発明の生育方法では、この水の代わりに、CNF含有水を添加する。本発明の生育方法では、このような特有の条件を適用することで、キノコの生育が顕著に促進される。
【実施例】
【0061】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
<滅菌済み培地の製造>
おが屑(294g)、米ぬか(123g)及び水(184g)を混合し、培地(601g)を得た。
次いで、この培地の全量を、透明なキノコ栽培用のビンに充填し、培地の上方の露出面の中心部近傍に、孔を4つ形成し、ビンに蓋をした。
次いで、ビンごとこの培地をオートクレーブ装置内に設置し、98℃、1時間の条件で培地を予備滅菌処理した後、引き続き120℃、45分の条件で培地を滅菌処理した。
次いで、オートクレーブ装置内の温度を80℃まで下げてから、ビンをクリーンベンチ内に移動させ、ビン(培地)の温度が15℃になるまで静置した。
以上により、滅菌済み培地を得た。
【0063】
<初期培地の製造>
前記クリーンベンチ内において、上記で得られた滅菌済み培地が充填されているビンの蓋を開け、ビンの口をアルコールで消毒し、滅菌済み培地の上方の露出面に、この露出面が一様に隠れる程度までヒラタケの種菌(約5g)を載せた。
次いで、直ちにビンに蓋をして、ビンごとこの植菌済み滅菌済み培地をインキュベーター内に設置し、温度20℃、相対湿度70%の条件で種菌を増殖させた。
以上により、初期培地を得た。
【0064】
<セルロース分解菌の生育>
次いで、ビンをインキュベーター内から取り出し、蓋を外して、消毒済みの匙で培地の表面を削り、増殖させた菌を約12g除去した。
次いで、培地の上方の露出面の中心部に孔を形成し、菌掻き水として、0.3質量%の濃度でCNFを含有する、20℃のCNF水分散液(CNF含有水)(約10g)をこの孔に添加し、ビンに蓋をした。
次いで、ビンごとこの培地をインキュベーター内に設置し、温度15℃、相対湿度90%の条件で、菌(ヒラタケ)を22日間生育させた。この間、最初の14日間は遮光してヒラタケを生育させた。15日目からは、最初の15分は、明かりを灯してヒラタケを生育させ、次いで遮光してヒラタケを生育させ、ヒラタケの丈が3cm伸びた段階で、再度明かりを灯してヒラタケを生育させ、次いで遮光してヒラタケを生育させ、以降、この明暗の生育サイクル繰り返すことにより、合計で8日間、ヒラタケを生育させた。そして、生育開始から16日目、18日目、19日目、20日目、21日目及び22日目に、ヒラタケの生育の様子を観察した。このとき取得した撮像データを
図1に示す。本実施例では、以上のようなヒラタケの生育を3つのビンで行い、
図1には、これら3つのビンでの結果をすべて示している。
図1においては、1つのビンでの結果を、縦1列に並べて示している。
【0065】
[比較例1]
<滅菌済み培地の製造>
実施例1の場合と同じ方法で、滅菌済み培地を製造した。
【0066】
<セルロース分解菌の生育>
菌掻き水として、濃度が0.3質量%のCNF含有水(約10g)に代えて、水(約10g)を添加した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、セルロース分解菌(ヒラタケ)を生育させた。このとき取得した撮像データを
図2に示す。本比較例でも、ヒラタケの生育を3つのビンで行い、
図2には、これら3つのビンでの結果をすべて示している。
図2においても、1つのビンでの結果を、縦1列に並べて示している。
【0067】
図1~
図2の結果から明らかなように、実施例1の方が比較例1よりも、ヒラタケの生育速度が顕著に速かった。このように、初期培地へのCNF含有水の添加によって、セルロース分解菌を短時間で生育させることが可能であることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、セルロース分解菌の短期生育に利用可能である。