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特許6993255二酸化塩素ガス殺菌装置及び二酸化塩素ガス殺菌方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】二酸化塩素ガス殺菌装置及び二酸化塩素ガス殺菌方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/20 20060101AFI20220128BHJP
   C01B 11/02 20060101ALI20220128BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220128BHJP
   A61L 9/03 20060101ALI20220128BHJP
   A61L 101/06 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
A61L2/20
C01B11/02 F ZAB
A61L9/01 F
A61L9/03
A61L101:06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018020327
(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公開番号】P2019136198
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175190
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 裕明
(72)【発明者】
【氏名】三宮 正至
(72)【発明者】
【氏名】阪田 総一郎
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-020948(JP,A)
【文献】特開2006-263173(JP,A)
【文献】特開2005-224386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化塩素ガス殺菌装置であって、
亜塩素酸塩を含む固形物に紫外線を照射し、二酸化塩素ガスを発生させる紫外線照射装置と、
前記紫外線が前記亜塩素酸塩を含む固形物に照射される際に、前記亜塩素酸塩を含む固形物の照射部分を加熱する加熱装置と、
前記照射部分から発生した前記二酸化塩素ガスを含む空気を撹拌させる撹拌装置と、
殺菌対象物が置かれた室内の温度が15度以上30度以下の範囲、及び前記室内の相対湿度が40%RH以上70%RH未満の範囲となるように、前記室内の温湿度を調節する温湿度調節器と、を備える、
二酸化塩素ガス殺菌装置。
【請求項2】
前記撹拌装置は、前記照射部分から所定距離離れた場所に設けられる、
請求項1に記載の二酸化塩素ガス殺菌装置。
【請求項3】
前記所定距離離れた場所とは、前記撹拌装置によって生み出される気流が、前記照射部分の熱を奪わない場所のことである、
請求項に記載の二酸化塩素ガス殺菌装置。
【請求項4】
前記亜塩素酸塩を含む固形物は、前記室内の側面近傍且つ上方に設けられ、
前記撹拌装置は、前記室内の天面中央に設けられ、前記室内の下部方向へ気流を生じさせる、
請求項1から3のうち何れか一項に記載の二酸化塩素ガス殺菌装置。
【請求項5】
前記温湿度調節器は、温湿度が調節された空気を前記室内に吹出す、
請求項1から4のうち何れか一項に記載の二酸化塩素ガス殺菌装置。
【請求項6】
前記照射部分は、前記加熱装置によって40度以上90度以下の温度範囲まで加熱される、
請求項1からのうちいずれか1項に記載の二酸化塩素ガス殺菌装置。
【請求項7】
二酸化塩素ガス殺菌装置であって、
亜塩素酸塩を含む固形物に紫外線を照射し、二酸化塩素ガスを発生させる紫外線照射装置と、
前記紫外線が前記亜塩素酸塩を含む固形物に照射される際に、前記亜塩素酸塩を含む固形物の照射部分を加熱し、前記照射部分において発生した前記二酸化塩素ガスを熱拡散させる加熱装置と、
熱拡散した前記二酸化塩素ガスを含む空気を撹拌させる撹拌装置と、を備え、
二酸化塩素ガス殺菌装置。
【請求項8】
前記加熱装置は、前記二酸化塩素ガスを前記熱拡散させるために前記照射部分を40度以上90度以下の温度範囲まで加熱する、
請求項7に記載の二酸化塩素ガス殺菌装置。
【請求項9】
二酸化塩素ガス殺菌方法であって、
亜塩素酸塩を含む固形物に紫外線を照射し、二酸化塩素ガスを発生させる紫外線照射工程と、
前記紫外線が前記亜塩素酸塩を含む固形物に照射される際に、前記亜塩素酸塩を含む固形物の照射部分を加熱する加熱工程と、
前記照射部分から発生した前記二酸化塩素ガスを含む空気を撹拌させる撹拌工程と、
殺菌対象物が置かれた室内の温度が15度以上30度以下の範囲、及び前記室内の相対湿度が40%RH以上70%RH未満の範囲となるように、前記室内の温湿度を調節する温湿度調節工程と、含む
二酸化塩素ガス殺菌方法。
【請求項10】
二酸化塩素ガス殺菌方法であって、
亜塩素酸塩を含む固形物に紫外線を照射し、二酸化塩素ガスを発生させ、
前記紫外線が前記亜塩素酸塩を含む固形物に照射される際に、前記亜塩素酸塩を含む固形物の照射部分を40度以上90度以下の温度範囲で加熱し、
室内の温度を15度以上30度以下の範囲、及び室内の相対湿度が40%RH以上70%RH未満の範囲となるように温湿度を調節し、
前記照射部分から発生した前記二酸化塩素ガスを含む空気を撹拌させる、
二酸化塩素ガス殺菌方法。
【請求項11】
二酸化塩素ガス殺菌方法であって、
亜塩素酸塩を含む固形物に紫外線を照射し、二酸化塩素ガスを発生させる紫外線照射工程と、
前記紫外線が前記亜塩素酸塩を含む固形物に照射される際に、前記亜塩素酸塩を含む固形物の照射部分を加熱し、前記照射部分において発生した前記二酸化塩素ガスを熱拡散させる加熱工程と、
前記加熱工程において熱拡散した前記二酸化塩素ガスを含む空気を撹拌させる撹拌工程と、を含む、
二酸化塩素ガス殺菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化塩素ガス殺菌装置及び二酸化塩素ガス殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化塩素ガスによる殺菌は、殺菌作業中に発がん性物質が生成されない等の理由から、例えば特許文献1-3のように従来から行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-5179号公報
【文献】特開2005-224386号公報
【文献】特許第5688407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二酸化塩素ガスは、生成後に素早く生成場所から拡散されないと、生成場所近傍において高濃度で不安定な状態が続く。また、室内の金属ラックに載せられた汚染物を二酸化塩素ガスによって殺菌する場合、室内全体の二酸化塩素ガスの濃度が均一でないと、殺菌効果にばらつきが生じる。さらに金属ラック周辺の二酸化塩素ガスが高濃度である場合、金属ラックが二酸化塩素ガスによって腐食される問題も生じる。
【0005】
そこで本願は、二酸化塩素ガスを生成と同時に素早く生成場所から拡散させ、さらに拡散させた二酸化塩素ガスを室内全体に渡って均一濃度にさせる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、亜塩素酸塩を加熱しながら紫外線を照射して二酸化塩素ガスを発生させる。
【0007】
詳細には、本発明は、二酸化塩素ガス殺菌装置であって、亜塩素酸塩を含む固形物に紫外線を照射し、二酸化塩素ガスを発生させる紫外線照射装置と、紫外線が亜塩素酸塩を含む固形物に照射される際に、亜塩素酸塩を含む固形物の照射部分を加熱する加熱装置と、照射部分から所定距離離れた場所に設けられ、二酸化塩素ガスを含む空気を撹拌させる撹拌装置と、を備える。
【0008】
このような殺菌装置であれば、紫外線の照射と加熱装置による加熱によって亜塩素酸塩から二酸化塩素への生成は促進される。また、紫外線が照射されて亜塩素酸塩から生成された二酸化塩素は、熱拡散によって生成と同時に素早く生成場所から拡散される。従って、生成場所において二酸化塩素が高濃度で不安定な状態が続くことは防止される。また、二酸化塩素は、熱拡散後に撹拌装置によって撹拌されるため、二酸化塩素の濃度はさらに薄まり、均一化される。従って、二酸化塩素ガスが存在する空間に金属製部品が存在する場合、その金属製部品が二酸化塩素ガスによって腐食されることは防止される。
【0009】
また、所定距離離れた場所とは、撹拌装置によって生み出される気流が、照射部分の熱を奪わない場所のことであってもよい。
【0010】
ここで、撹拌装置によって生み出される気流が、照射部分の熱を奪わない場所とは、撹
拌装置によって生み出される気流が照射部分の近傍を通過する場合であっても、照射部分の近傍の温度が略一定となる場所のことであり、例えば、照射部分が室内の側面上方に位置する場合、室内の天面中央のことである。
【0011】
このような殺菌装置であれば、亜塩素酸塩の紫外線による照射部分の温度が低下することは抑制される。よって、亜塩素酸塩から二酸化塩素への生成速度が低下することは抑制される。また、生成した二酸化塩素の熱拡散への影響も抑制される。
【0012】
また、亜塩素酸塩を含む固形物は、殺菌対象物が置かれた室内の側面近傍且つ上方に設けられ、撹拌装置は、室内の天面中央に設けられ、室内の下部方向へ気流を生じさせてもよい。
【0013】
このような殺菌装置であれば、発生した二酸化塩素ガスは、撹拌装置によって生み出された室内の下部方向への気流に混ざって室内の下部まで送り込まれた後、室内の下部から室内の側面に沿って吹き上がり、室内を循環する。従って、室内を万遍なく殺菌することができる。
【0014】
また、二酸化塩素ガス殺菌装置は、温湿度が調節された空気を室内に供給する温湿度調節器を備え、温湿度調節器は、室内の温度が15度以上30度以下の範囲、及び室内の相対湿度が40%RH以上70%RH未満の範囲となるように、温湿度を調節した空気を室内に吹出してもよい。このような殺菌装置であれば、所望の温湿度の空気を室内へ供給することができる。また、例えば室内に金属製部品が存在する場合、その金属製部品が湿気により腐食されることは防止される。
【0015】
また、照射部分は、加熱装置によって40度以上90度以下の温度範囲まで加熱されてもよい。このような殺菌装置であれば、二酸化塩素ガスが殺菌効果を失うことはない。
【0016】
また、本発明は、方法の側面から捉えることもできる。すなわち、本発明は、例えば、二酸化塩素ガス殺菌方法であって、亜塩素酸塩を含む固形物に紫外線を照射し、二酸化塩素ガスを発生させる紫外線照射工程と、紫外線が亜塩素酸塩を含む固形物に照射される際に、亜塩素酸塩を含む固形物の照射部分を加熱する加熱工程と、照射部分から所定距離離れた場所に設けられた撹拌装置が、二酸化塩素ガスを含む空気を撹拌させる撹拌工程と、を備える、二酸化塩素ガス殺菌方法であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
上記の二酸化塩素殺菌装置及び二酸化塩素殺菌方法は、二酸化塩素ガスを生成と同時に素早く生成場所から拡散させ、さらに拡散させた二酸化塩素ガスを室内全体に渡って均一濃度にさせる技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、二酸化塩素殺菌装置を備えた密閉チャンバの概要図である。
図2図2は、紫外線と赤外線を別々に照射する場合と、一体型ランプを用いる場合との、紫外線照射部分近傍の温度及び二酸化塩素ガス濃度の比較図である。
図3図3は、紫外線照射部の部分拡大図である。
図4図4は、密閉チャンバ内の二酸化塩素ガスの流れを示した図である。
図5図5は、二酸化塩素殺菌装置が温湿度調節器を備えた場合の密閉チャンバの概要図である。
図6図6は、ステンレス製ラックにHEPAフィルタを下から6段収容した場合の密閉チャンバ内の二酸化塩素ガス濃度の経時変化を表している。(A)は位置A(密閉チャンバ内の側面かつ上方)に樹脂製カートリッジが設けられ、加熱されなかった場合、(B)は位置B(密閉チャンバ内の側面かつ下方)に樹脂製カートリッジが設けられ、加熱されなかった場合、(C)は位置Aに樹脂製カートリッジが設けられ、加熱された場合である。
図7図7は、空気の温度が25度であるときの、二酸化塩素ガス用のバイオインジケータが陰性になるCT値である。
図8図8は、HEPAフィルタを内蔵した場合と、内蔵しなかった場合における二酸化塩素ガス濃度の経時変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る二酸化塩素殺菌装置100の概要図であり、殺菌対象物が例えばバイオクリーンルームにおいて使用され、ゴミ、埃などが付着しているHEPAフィルタ1である例を示す。図1に示される二酸化塩素殺菌装置100は、HEPAフィルタ1が載せられているステンレス製ラック2を収容する密閉チャンバ3を殺菌する。HEPAフィルタ1の大きさは、例えば、幅610mm、長さ610mm、厚み150mmである。また、ステンレス製ラック2は、例えば0.7m角の平面で高さを200mm刻みで段数を増やすことが可能なラックであり、ラックの材質は、例えばステンレス鋼材SUS304である。密閉チャンバ3は、例えば一辺が2m四方の平面で囲まれており、ステンレス製ラック2を4台(左右方向に2台、奥行方向に2台)収容可能である。
【0021】
また、二酸化塩素殺菌装置100は、例えば、亜塩素酸ナトリウムの粉体と、食用有機酸の粉末を無機バインダで固めた粉体と、多孔質無機物質と、潮解性の無機物質とを含むペレットを充填した紫外線透過性の樹脂製カートリッジ4を備える。樹脂製カートリッジ4は、密閉チャンバ3内の側面近傍且つ上部に設けられる。ここで、亜塩素酸ナトリウムの粉体は、ペレット状の亜塩素酸ナトリウムを顆粒状に粉砕した粉体である。また、食用有機酸とは、例えば、リンゴ酸、クエン酸、酢酸等である。また、多孔質無機物質とは、例えば、ゼオライト、セピオライト、シリカゲル、ベントナイト、アパタイト等である。また、潮解性の無機物質とは、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム等である。
【0022】
また、二酸化塩素殺菌装置100は、樹脂製カートリッジ4内の亜塩素酸ナトリウムを照射する紫外線ランプ5と、亜塩素酸ナトリウムの紫外線によって照射される部分を赤外線照射して加熱する赤外線ランプ6と、密閉チャンバ3の内壁に埋め込まれ、紫外線と赤外線を透過させる光透過ガラス7と、紫外線によって照射される部分の温度を遠隔検知する赤外線サーモグラフィ8とを備える。また、二酸化塩素殺菌装置100は、密閉チャンバ3の天面中央に設けられたファン9と、密閉チャンバ3内の二酸化塩素ガスの濃度を計測する二酸化塩素ガス濃度計10A、10B、10C、10Dと、密閉チャンバ3内の温湿度を計測する温湿度計11と、を備える。
【0023】
ここで、紫外線ランプ5は、例えば日機装社製の深紫外LEDを搭載したものであってもよい。また、赤外線ランプ6は、例えば岩崎電気社製のアイハロゲンランプや、ウシオ電機社製のハロゲンランプヒータであってもよい。また、紫外線と赤外線とを同時に出力する一体型ランプを用いてもよく、例えば、ウシオ電機社製の照明用クセノンランプであってもよい。図2は、紫外線と赤外線を別々に照射する場合と、一体型ランプを用いる場合との、亜塩素酸ナトリウムの紫外線照射部分近傍の温度及び二酸化塩素ガス濃度の比較図である。図2より、紫外線と赤外線を別々に照射する場合の方が、温度及び二酸化塩素ガス濃度のばらつきを抑えることができる。また、赤外線ランプ6の代わりに、伝熱ヒータや電磁誘導加熱器(例えばIH調理器)や照明ランプによって亜塩素酸ナトリウムの紫
外線照射部分を加熱してもよい。伝熱ヒータを用いる場合は、ヒータ部分を樹脂製カートリッジ4から隔離して熱輻射で樹脂製カートリッジ4内の亜塩素酸ナトリウムを加熱したり、ヒータ部分を樹脂製カートリッジ4に密着して熱伝導で樹脂製カートリッジ4内の亜塩素酸ナトリウムを加熱したりしてもよい。加熱装置が電磁誘導加熱器の場合は、樹脂製カートリッジ4の一部に金属のような導体を含み、電磁誘導加熱器を樹脂製カートリッジ4の金属導体に密着または近接することで、導体内に渦電流を発生させ電気抵抗熱を生じさせて、樹脂製カートリッジ4内部の亜塩素酸ナトリウムを加熱してもよい。また、赤外線サーモグラフィ8は、例えば、アビオニクス社製のInfReC R300であってもよい。
【0024】
また、二酸化塩素ガス濃度計10A、10B、10C、10Dは、例えば、(1)密閉チャンバ3内の紫外線ランプ5が設けられた面と正対する側面近傍かつ天面から40cmの位置、(2)密閉チャンバ3内の紫外線ランプ5が設けられた面と正対する側面近傍かつ床面から40cmの位置、(3)密閉チャンバ3内の紫外線ランプ5が設けられた面近傍かつ天面から40cmの位置、(4)密閉チャンバ3内の紫外線ランプ5が設けられた面近傍かつ床面から40cmの位置の計4箇所に設けられる。
【0025】
図3は、紫外線照射部分の部分拡大図である。図3に示すように、亜塩素酸ナトリウムは、紫外線ランプ5によって照射され、二酸化塩素ガスと、塩化ナトリウム等の無機塩類を生成する。ここで、亜塩素酸ナトリウムが紫外線によって照射される際、その照射部分は赤外線ランプ6によって赤外線照射され40度以上に加熱される。また、その照射部分の温度は、赤外線サーモグラフィ8によって遠隔監視される。ただし、二酸化塩素ガスは100度以上の温度で完全に分解し、殺菌効果を失う特性があるため、紫外線照射部分の温度が90度を上回った場合は、赤外線照射は停止される。
【0026】
このような装置であれば、紫外線によって照射されて生成された二酸化塩素ガスは、生成後直ちに熱拡散されて、二酸化塩素ガスの濃度は薄まる。従って、照射部分において二酸化塩素ガスが高濃度で不安定な状態が続くことは防止される。また、紫外線照射部分を加熱することによって、亜塩素酸ナトリウムの反応性は高まり、二酸化塩素ガスの発生を促進させることができる。
【0027】
図4は、密閉チャンバ3内の二酸化塩素ガスの流れを示した図である。図4に示すように、紫外線照射によって生成され、熱拡散された二酸化塩素ガスは、ファン9によって生み出された気流に混ざり、密閉チャンバ3の下部へ送り込まれる。その後、二酸化塩素ガスは、密閉チャンバ3の下部から密閉チャンバ3の側面に沿って、密閉チャンバ3の天面周辺まで吹き上がる。
【0028】
このような循環気流によって密閉チャンバ3内の二酸化塩素ガスの濃度は均一化される。従って、局部的に二酸化塩素ガスが高濃度になることはなく、ステンレス製ラック2表面の腐食は防止される。
【0029】
また、二酸化塩素殺菌装置100は、密閉チャンバ3内に、温湿度が調節された空気を供給する温湿度調節器12を備えてもよい。図5は、二酸化塩素殺菌装置100が温湿度調節器12を備えた場合の密閉チャンバ3の概要図である。図5に示すように、二酸化塩素殺菌装置100は、上述の構成に加えて、温湿度調節器12と、送風機13と、ダンパ付き吹出し口14と、ダンパ付き吸込み口15と、粒子除去フィルタ16と、を備える。ここで、送風機13は、温湿度調節器12によって温湿度調節された空気を密閉チャンバ3の天面から密閉チャンバ3内へ吹出す。また、ダンパ付き吹出し口14は、送風機13から送風された空気が密閉チャンバ3内へ吹出される際に通過する。また、ダンパ付き吸込み口15は、密閉チャンバ3から温湿度調節器12へ空気が吸込まれる際に通過する。
また、粒子除去フィルタ16は、ダンパ付き吸込み口15を通過した空気が温湿度調節器12へ吸込まれる前に、吸込み空気から埃や塵等の粒子を除去する。また、ファン9は、備えられても備えられていなくてもよい。また、例えば、密閉チャンバ3内の空気の温度が15‐30度、相対湿度が40‐70%RHとなるように温湿度調節された空気を吹出してもよい。
【0030】
このような二酸化塩素殺菌装置100であれば、紫外線照射によって生成され、熱拡散された二酸化塩素ガスは、密閉チャンバ3の天面から密閉チャンバ3内に吹出された空気に混ざり、密閉チャンバ3の下部へ送られる。その後、二酸化塩素ガスは、密閉チャンバ3の下部から密閉チャンバ3の側面に沿って、密閉チャンバ3の天面周辺まで吹き上がる。このような循環気流によって密閉チャンバ3内の二酸化塩素ガスの濃度及び温湿度は均一化される。従って、局部的に高濃度の二酸化塩素ガスや局部的に高湿度の空気によるステンレス製ラック2表面の腐食は防止される。
【0031】
また、例えば、亜塩素酸塩の固体または液体と、酸性溶液の反応で二酸化塩素ガスを発生させる場合、二酸化塩素ガスが反応溶液中から気泡となって発生し、周囲の温度が20℃より低い場合、後述する空気と比較して二酸化塩素ガスがより重いことによって、反応液面付近に滞留し、無風状態の場合、濃度がまれに局所的にせよ、10vol%を超えると、突沸現象により、吹きこぼれるように反応液が周囲に飛び散ることがあった。そこで、特許文献1では、反応液を加熱することで、発生ガスの温度上昇による膨張効果で浮力が生じることを利用し、反応液付近に二酸化塩素ガスが滞留して濃度が高まることを防止することで、吹きこぼれ爆発を回避した。しかしながら、その際、加熱された発生ガスは、反応液由来の水蒸気を随伴することで、殺菌消毒の対象となる空間を過剰に加湿してしまい、空間の相対湿度を正確にコントロールできない。よって、高湿度の空気によるステンレス製ラック2表面が腐食される虞がある。本実施形態の二酸化塩素殺菌装置100では、溶液を使用しないので、二酸化塩素ガスの発生によって密閉チャンバ3内の湿度は上昇しない。よって、高湿度の空気によるステンレス製ラック2表面の腐食は防止される。
【0032】
<実証実験>
上記の二酸化塩素殺菌装置100を用いて、密閉チャンバ3内の二酸化塩素ガスが均一に充満するか実験を行った。樹脂製カートリッジ4から1分間当たり約100ppm/m相当の二酸化塩素ガスを発生させ、60分間を要して密閉チャンバ3内に二酸化塩素ガスを充満させた。その後、密閉チャンバ3内を温湿度25度60%RHに保ち、3時間の殺菌消毒を1ヶ月にわたって5回繰り返した。
【0033】
図6は、樹脂製カートリッジ4内の亜塩素酸ナトリウムを加熱した場合と、加熱しなかった場合との密閉チャンバ3内の二酸化塩素ガス濃度の経時変化を表している。図6は、ステンレス製ラック2にHEPAフィルタ1を下から6段収容した場合であって、(A)は位置A(密閉チャンバ3内の側面かつ上方)に樹脂製カートリッジ4が設けられ、樹脂製カートリッジ4内の亜塩素酸ナトリウムが赤外線ランプ6によって加熱されなかった場合、(B)は位置B(密閉チャンバ3内の側面かつ下方)に樹脂製カートリッジ4が設けられ、樹脂製カートリッジ4内の亜塩素酸ナトリウムが赤外線ランプ6によって加熱されなかった場合、(C)は位置Aに樹脂製カートリッジ4が設けられ、樹脂製カートリッジ4内の亜塩素酸ナトリウムが赤外線ランプ6によって40度以上に加熱された場合である。
【0034】
図6に示すように、赤外線ランプ6で加熱した場合(C)は、赤外線ランプ6で加熱しなかった場合(A、B)と比較して、二酸化塩素ガスの濃度のばらつきは抑制された。一方で、赤外線ランプ6で加熱しなかった場合(A、B)は、二酸化塩素ガスの濃度は大きくばらついた。つまり、赤外線ランプ6による加熱とファン9による空気の撹拌によって
、密閉チャンバ3内の二酸化塩素ガスの濃度は均一になることが確認された。つまり、ステンレス製ラック2の表面の腐食は防止され、密閉チャンバ3内は万遍なく殺菌される。
【0035】
上記の実証実験では、密閉チャンバ3内を温湿度25度60%RHに保ったが、温湿度を変化させることによって殺菌効果が高まる場合、温湿度は適宜変更されてもよい。ただし、相対湿度を70%RHとして殺菌実験をしたところ、密閉チャンバ3に存在する金属製部品は、湿気によって著しく腐食された。従って、湿気による腐食を防止したい場合は、密閉チャンバ3内の湿度は70%RH未満として殺菌作業を行ってもよい。
【0036】
また、密閉チャンバ3内の温湿度の変化に応じて、殺菌に必要な二酸化塩素ガス濃度は変化する。図7は、例えば、空気の温度が25度であるときの、二酸化塩素ガス用のバイオインジケータ(Mesa Laboratories,Inc.Releases)が陰性(百万分の一以下の殺菌効果)になるCT値(「時間平均濃度×時間」)である。このように、温湿度に応じて殺菌に必要な二酸化塩素ガス濃度は変化するため、温湿度に応じて二酸化塩素ガスの発生量は調節されてもよい。
【0037】
ただしここで、二酸化塩素ガスの発生量は、二酸化塩素ガスがHEPAフィルタ1の濾材内部に入り込み、濾材を形成する繊維表面に吸着する場合があることを考慮してもよい。図8は、HEPAフィルタ1を内蔵せず、給排気口を目張りした環境試験室(内部空間容積25m)と、HEPAフィルタ1を内蔵し全体を密閉封止した安全キャビネット(内部空間容積0.714m)について、それぞれの内部で二酸化塩素ガスを空間容積1mあたり同量発生させた際の、二酸化塩素ガス濃度の経時変化を示した図である。図8に示すように、HEPAフィルタ1ごと殺菌した安全キャビネットのほうが、HEPAフィルタ1を内蔵しない環境試験室よりも、二酸化塩素ガス濃度が二酸化塩素ガス発生から30分経つと急激に薄まる。この現象は、安全キャビネットのHEPAフィルタ1の濾材を形成する繊維表面に二酸化塩素ガスが吸着することによって、安全キャビネット内の二酸化塩素ガス濃度が薄まったため引き起こされたと推測される。従って、HEPAフィルタ1を収容する密閉チャンバ3を殺菌する場合は、このような二酸化塩素ガスの吸着を考慮し、二酸化塩素ガスの発生量を決めてもよい。
【0038】
また、本発明に係る実施形態では、亜塩素酸塩として亜塩素酸ナトリウムを用いたが、亜塩素酸ナトリウムの代わりに、例えば亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウム、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸塩を用いてもよい。また、亜塩素酸塩を2種類以上混合して用いてもよい。
【0039】
また、亜塩素酸塩を含む固形物の形状は、例えば、顆粒状、あるいはタブレット形状等であってもよい。このような形状であれば、取扱いが容易である。
【0040】
また、二酸化塩素ガスを発生させる前に密閉チャンバ3内を殺菌消毒に適した温湿度、例えば25度55%RHに保持してもよい。また、二酸化塩素ガス発生時に温湿度調節器12の腐食を完全に防止したい場合は、ガス発生時にダンパ付き吹出し口14及びダンパ付き吸込み口15のダンパを閉鎖してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1・・HEPAフィルタ;2・・ステンレス製ラック;3・・密閉チャンバ;4・・樹脂製カートリッジ;5・・紫外線ランプ;6・・赤外線ランプ;7・・光透過ガラス;8・・赤外線サーモグラフィ;9・・ファン;10A、10B、10C、10D・・二酸化塩素ガス濃度計;11・・温湿度計;12・・温湿度調節器;13・・送風機;14・・ダンパ付き吹出し口;15・・ダンパ付き吸込み口;16・・粒子除去フィルタ;100・・二酸化塩素殺菌装置
図1
図2
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図5
図6
図7
図8