(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルス複製の調節
(51)【国際特許分類】
C12N 7/04 20060101AFI20220127BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220127BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220127BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20220127BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20220127BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220127BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220127BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220127BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220127BHJP
G01N 33/576 20060101ALI20220127BHJP
C07K 14/02 20060101ALN20220127BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220127BHJP
C07K 16/08 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
C12N7/04
C12Q1/02 ZNA
A61K38/17
A61K38/12
A61P31/20
A61P1/16
A61P1/18
A61P43/00 105
G01N33/50 Z
G01N33/576 B
C07K14/02
C12N15/113 100Z
C07K16/08
(21)【出願番号】P 2018501928
(86)(22)【出願日】2016-07-15
(86)【国際出願番号】 SG2016050338
(87)【国際公開番号】W WO2017010950
(87)【国際公開日】2017-01-19
【審査請求日】2019-07-12
(31)【優先権主張番号】10201505551U
(32)【優先日】2015-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】レン イー チェー
(72)【発明者】
【氏名】コ ホイ リン
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/106548(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0045191(US,A1)
【文献】国際公開第02/099084(WO,A2)
【文献】国際公開第2010/127246(WO,A2)
【文献】国際公開第2011/106106(WO,A2)
【文献】Journal of Applied Biological Chemistry,2016年03月31日,Vol. 59,pp. 25-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00-7/08
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のHBV複製をインビトロで阻害する方法であって、
Slug-ZF2s
(配列番号216)、Slug-ZF3s
(配列番号217)、Slug-ZF4s
(配列番号218)、Slug-ZF5s
(配列番号219)、Sox7-H1s
(配列番号220)、およびSox7-H2s
(配列番号221)からなるグループから選択された少なくとも1つのペプチドを前記細胞に接触させることを含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのペプチドがステープルドペプチドおよびペプチド模倣体からなるグループからなされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞の選択が、肝臓細胞、大腸細胞、胃細胞、血液細胞、肺細胞からなるグループからなされる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、HepG2、HuH6、HuH7、HuH4、PLC/PRF/5、Kato III、AGS、HCT116、Caco-2、HL-60、HEK293、A549からなるグループから選択された細胞系に由来する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記接触工程が、前記少なくとも1つのペプチドの存在下で前記細胞を培養することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのペプチドが、Slug-ZF4s(配列番号218);Slug-ZF5s(配列番号219);Sox7-H1s(配列番号220);およびSox7-H2s(配列番号221)からなるグループから選択される、請求項
1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
対象におけるHBV感染を治療するための医薬の製造における、Slug-ZF2s
(配列番号216)、Slug-ZF3s
(配列番号217)、Slug-ZF4s
(配列番号218)、Slug-ZF5s
(配列番号219)、Sox7-H1s
(配列番号220)、およびSox7-H2s
(配列番号221)からなるグループから選択された少なくとも1つのペプチドの使用。
【請求項8】
対象におけるHBV感染に
関連する疾患または病気を治療するための医薬の製造における、Slug-ZF2s
(配列番号216)、Slug-ZF3s
(配列番号217)、Slug-ZF4s
(配列番号218)、Slug-ZF5s
(配列番号219)、Sox7-H1s
(配列番号220)、およびSox7-H2s
(配列番号221)からなるグループから選択された少なくとも1つのペプチドの使用。
【請求項9】
前記疾患または病気が肝臓疾患である、請求項
8に記載の使用。
【請求項10】
前記疾患または病気が、黄疸、肝炎、肝線維症、炎症、肝硬変、肝不全、びまん性肝細胞炎症性疾患、血球貪食症候群、血清肝炎、HBVウイルス血症、脂肪肝、肝細胞癌、肝臓疾患関連移植、糸球体腎炎、脂質異常症、造血器悪性腫瘍、膵炎のいずれかである、請求項
9に記載の使用。
【請求項11】
前記少なくとも1つのペプチドがHBV複製を抑制する、請求項
7~
10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記少なくとも1つのペプチドが、ステープルドペプチドおよびペプチド模倣体からなるグループから選択される、請求項
7~
10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記少なくとも1つのペプチドが、Slug-ZF4s(配列番号218);Slug-ZF5s(配列番号219);Sox7-H1s(配列番号220);およびSox7-H2s(配列番号221)からなるグループから選択される、請求項
12に記載の使用。
【請求項14】
前記少なくとも1つのペプチドがステープルドペプチドである、請求項
12または
13に記載の使用。
【請求項15】
HBV複製を阻害するための少なくとも1つの
Slugペプチド
および少なくとも1つのSOX7ペプチドをインビトロでスクリーニングする方法であって、
a)
少なくとも1つのSlugペプチドおよび少なくとも1つのSOX7ペプチドを、HBVウイルスを発現している細胞に接触させ、
前記少なくとも1つのSlugペプチドおよび少なくとも1つのSOX7ペプチドは、Slug-ZF2s(配列番号216)、Slug-ZF3s(配列番号217)、Slug-ZF4s〈配列番号218)、Slug-ZF5s(配列番号219)、Sox7-H1s(配列番号220)、およびSox7-H2s(配列番号221)からなるグループから選択された少なくとも1つのペプチドからなるグループから選択され;
b)前記少なくとも1つのペプチドと接触させた細胞のHBV発現プロファイルを取得し;
c)b)における細胞のHBV発現プロファイルを、前記少なくとも1つのペプチドに接触させていない対照細胞のHBV発現プロファイルと比較することを含んでいて、
その対照細胞と比較して前記細胞内のHBVウイルス発現が減少または増加していることは、前記少なくとも1つのペプチドによってHBV複製が調節されたことを示す、方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのペプチドが、ステープルドペプチドおよびペプチド模倣体からなるグループから選択される、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞がHBV複製を許容する、請求項
15または
16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞の選択が、肝臓細胞、大腸細胞、胃細胞、血液細胞、肺細胞からなるグループからなされる、請求項
15~
17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が生物サンプルの中に含まれる、請求項
15~
18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記生物サンプルが、HBVに感染した対象から取得されたものである、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞が、HepG2、HuH6、HuH7、HuH4、PLC/PRF/5、Kato III、AGS、HCT116、Caco-2、HL-60、HEK293、A549からなるグループから選択された細胞系に由来する、請求項
15~
20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記接触工程が、HBV複製を促進する適切な培地内で前記細胞を培養することを含む、請求項
15~
21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記接触工程が、前記細胞にHBVレプリコンをトランスフェクトすることを
さらに含む、請求項
15~
22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記HBV発現プロファイルの取得が、1つ以上のHBV複製マーカーを測定することを含む、請求項
15~
23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記1つ以上のHBV複製マーカーの選択が、HBVレプリコンのプレゲノムRNAのレベル、B型肝炎表面抗原のレベル、B型肝炎コア抗原のレベルからなるグループからなされる、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
前記HBV発現プロファイルの取得が、前記細胞内の前記少なくとも1つの
ペプチドをウエスタンブロットで分析し、その少なくとも1つのペプチドのバンド強度を測定することを含む、請求項
15~
25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
Slug-ZF2s
(配列番号216)、Slug-ZF3s
(配列番号217)、Slug-ZF4s
(配列番号218)、Slug-ZF5s
(配列番号219)、Sox7-H1s
(配列番号220)、およびSox7-H2s
(配列番号221)からなるグループから選択された少なくとも1つのペプチドを含む、対象におけるHBV感染を治療するための医薬組成物。
【請求項28】
Slug-ZF2s
(配列番号216)、Slug-ZF3s
(配列番号217)、Slug-ZF4s
(配列番号218)、Slug-ZF5s
(配列番号219)、Sox7-H1s
(配列番号220)、およびSox7-H2s
(配列番号221)からなるグループから選択された少なくとも1つのペプチドを含む、対象におけるHBV感染に
関連する疾患または病気を治療するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ウイルス学の分野に関するものであり、より具体的には、HBV複製を引き起こす機構とHBV複製に関与する因子の研究に関する。より具体的には、本発明は、HBV複製を調節する因子を同定し、それらの因子を標的とする薬剤をその後に開発してインビトロ法で用いること、またはHBV感染とそれに関連する疾患または病気を治療することに関する。
【背景技術】
【0002】
関連する出願の相互参照
本出願は、2015年7月15日に出願されたシンガポール国出願第10201505551U号の優先権の恩恵を主張するものであり、その内容の全体が、あらゆる目的のため、参照によって本明細書に組み込まれている。
全世界にはB型肝炎ウイルス(HBV)の慢性保因者が2億4000万人おり、肝臓がんや肝硬変を含む合併症によって毎年約80万人が死亡することにつながっている。
【0003】
発明の背景
現在のHBV抗ウイルス治療薬は後期段階の複製相を標的としていて、ウイルス負荷が顕著に上昇したときにウイルスポリメラーゼ/逆転写酵素(Pol/RT)を抑制しているため、ウイルス排除の有効性は限定される。初期段階のウイルス複製を標的とすることは、ウイルスを複製させる正確な宿主因子の理解が不足しているため実現可能ではなかった。
【0004】
したがって、HBV複製を引き起こす基本的な分子機構と関連因子を解明する必要がある。そのような因子が同定されると、新規なHBV介入アプローチの開発と、HBV感染とそれに関連する病気または疾患を治療するための治療薬の開発が可能になろう。
【発明の概要】
【0005】
概要
1つの側面によれば、細胞内のHBV複製を調節する方法として、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の発現を調節する少なくとも1つの薬剤を前記細胞に接触させることを含む方法が提供される。
【0006】
別の1つの側面では、対象におけるHBV感染を治療するための薬の製造における少なくとも1つの薬剤の使用として、その少なくとも1つの薬剤が、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の活性を調節する使用が提供される。
【0007】
別の1つの側面では、対象におけるHBV感染に付随する疾患または病気を治療するための薬の製造における少なくとも1つの薬剤の使用として、その少なくとも1つの薬剤が、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の活性を調節する使用が提供される。
【0008】
別の1つの側面では、対象におけるHBV感染を治療する方法として、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の活性を調節する少なくとも1つの薬剤を前記対象に投与することを含む方法が提供される。
【0009】
別の1つの側面では、対象におけるHBV感染に関連した疾患または病気を治療する方法として、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の活性を調節する少なくとも1つの薬剤を前記対象に投与することを含む方法が提供される。
【0010】
別の1つの側面では、対象におけるHBV複製を抑制するための薬、または対象におけるHBV感染を治療するための薬の製造における、SOX7またはSNAI2に由来する少なくとも1つのペプチドの使用が提供される。
【0011】
別の1つの側面では、HBV複製を調節するための少なくとも1つの薬剤をスクリーニングする方法として、a)SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の発現を調節する少なくとも1つの薬剤を、HBVウイルスを発現している細胞に接触させ;b)前記少なくとも1つの薬剤と接触させた細胞のHBV発現プロファイルを取得し;c)b)における細胞のHBV発現プロファイルを、前記少なくとも1つの薬剤に接触させていない対照細胞のHBV発現プロファイルと比較することを含んでいて、その対照細胞と比較して前記細胞内のHBVウイルス発現が減少または増加していることが、前記少なくとも1つの薬剤によってHBV複製が調節されたことを示している方法が提供される。
【0012】
別の1つの側面では、ウイルスの複製を調節する少なくとも1つの因子を同定する方法として、a)出所が異なる少なくとも2つの細胞系に、前記ウイルスのウイルスプロモータに機能可能に連結された選択マーカーを含む発現コンストラクトをトランスフェクトし;b)その選択マーカーの発現を検出して前記少なくとも2つの細胞系を許容細胞系と非許容細胞系に分類し;c)前記許容細胞系と前記非許容細胞系に、前記ウイルスのウイルスレプリコンを含む発現コンストラクトをトランスフェクトし;d)c)の許容細胞系と非許容細胞系における少なくとも1つの因子の発現をスクリーニングし、その許容細胞系におけるその少なくとも1つの因子の発現をその非許容細胞系と比較することで、少なくとも1つの候補因子を同定し;e)前記ウイルスレプリコンを発現する前記許容細胞系に、前記少なくとも1つの候補因子をノックアウトするための薬剤を接触させ;f)e)の許容細胞系における前記ウイルスレプリコンのプレゲノムRNAのレベルを、前記薬剤と接触させていない対照細胞と比較することを含んでいて、前記許容細胞系におけるプレゲノムRNAのレベルの発現レベルが前記対照細胞系と比べて減少または増加していることが、前記ウイルスの複製を調節する少なくとも1つの因子が同定されたことを示している方法が提供される。
本発明は、非限定的な実施例および添付の図面と合わせて考慮しながら詳細な説明を参照することでよりよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、HBV複製を調節する宿主因子を発見して確認するための実験フローを示す模式図である。
【
図2】
図2は、大半の肝臓細胞系が、効率の程度は異なるものの、HBVCPのサポートを許容することを示している。HepG2、HuH6、HuH7、HuH-4、PLC/PRF/5を追加研究のために選択した。HepG2、HuH6、HuH7は、統合されたHBVに関して陰性である。
【
図3a】
図3は、HBV複製を許容する細胞系またはHBV複製を許容しない細胞系の同定を示している。a)HBVCPコンストラクトによって引き起こされるHBV複製を許容する細胞は、フローサイトメトリーによってGFP陽性である(上部の図)。b)CMV-GFPを用いたトランスフェクション対照は、CMVプロモータが引き起こす発現によってすべての細胞が機能していることを示している(下部の図)。a)とb)の両方におけるデータ点は、プロモータインサートなしのGFPベクターのトランスフェクションを示している。
【
図3b】
図3は、HBV複製を許容する細胞系またはHBV複製を許容しない細胞系の同定を示している。a)HBVCPコンストラクトによって引き起こされるHBV複製を許容する細胞は、フローサイトメトリーによってGFP陽性である(上部の図)。b)CMV-GFPを用いたトランスフェクション対照は、CMVプロモータが引き起こす発現によってすべての細胞が機能していることを示している(下部の図)。a)とb)の両方におけるデータ点は、プロモータインサートなしのGFPベクターのトランスフェクションを示している。
【
図4】
図4は、さまざまな細胞系におけるレプリコンのトランスフェクション効率を示している。
【
図5】
図5は、候補遺伝子に対して特異的なsiRNAを用いた処理がHepG2細胞におけるレプリコンのトランスフェクション効率に影響を与えることを示している。
【
図6a】
図6は、SlugがHBV複製を特異的に抑制することを示している。a)GFPレポータを用いて調べた、肝臓細胞系と非肝臓細胞系におけるHBVCP活性。GFP+細胞の割合に基づき、細胞をHBV許容群とHBV非許容群に分割した。
【
図6b】b)pgRNAは、HBVレプリコンをトランスフェクトされたHBV許容細胞でだけ発現する。GAPDHを負荷対照として使用した。
【
図6c】c)HTAからの細胞系の主成分分析(PCA)。肝臓HBV許容細胞、非肝臓HBV許容細胞、非肝臓HBV非許容細胞が、別々のクラスターを形成する。
【
図6d】d)BCPの中のSlug結合モチーフがpgRNA開始因子と完全に重複している。数字は、HBV遺伝子型Aのヌクレオチドの位置を表わす。
【
図6e】e)RT-PCRによる完全長SNAI2(Slug)の相対的発現。
【
図6f】f)Slugは、配列に依存してHBVCPに特異的に結合する。Slugモチーフを有する野生型プローブから形成したHBVCP-Slug複合体は、弱いバンドを生じさせたが、Slugの過剰発現(O/E)でそのバンドが濃くなった。変異Slugモチーフを有する複合体は廃棄した。
【
図6g】g)過剰発現したSlugは、HBVCP-Lucをトランスフェクトした許容細胞において、HBVCPに依存した転写を顕著に抑制した。
【
図6h】h)Slugの過剰発現は、HBVCP転写活性を特異的に抑制してGFP+細胞の平均蛍光強度(M.F.I.)をHBVCP-GFPに関して低下させたが、CMV-GFP対照細胞ではそうでなかった。
【
図6i】i)Slug を過剰発現したHBV許容細胞は、HBcAgに関する染色が無視できる程度である。
【
図6j】j)Slug の過剰発現は、HBVレプリコンを同時に投与するときpgRNAを減少させる。
【
図7a】
図7は、Sox7がHNF4α3-HBVCP相互作用を阻止することによってHBV複製を特異的に抑制することを示している。a)異なるN末端に対して特異的な抗体を用いて調べた、細胞における内在性HNF4α発現のウエスタンブロット。
【
図7b】b)HBVCP-Lucレポータを用いて調べた、HNF4αアイソフォームがHBVCPの位置での転写に対して及ぼす用量に依存した効果。
【
図7c】c)HNF4α結合モチーフとSox7結合モチーフがヌクレオチド1個分重複していて、エンハンサーIIに見いだされる。
【
図7d】d)Sox7は野生型HBVCPプローブと特異的DNA-タンパク質複合体を形成するが、Sox7モチーフが変異していると減少する。HNF4α-HBVCP複合体のバンドの強度は、3ヌクレオチド-スペーサがHNF4α結合モチーフとSox7結合モチーフの間に挿入されているときに増大する。
【
図7e】e)Sox7は、HBVCP-GFPを同時にトランスフェクトされたGFP+細胞のM.F.I.を特異的に減少させるが、CMV-GFP対照ではそうならない。
【
図7f】f)Sox7の過剰発現は、HBVCP-Lucをトランスフェクトされた細胞においてHBVCPの位置での転写を顕著に抑制した。
【
図7g】g)免疫蛍光染色によって調べた、HBcAg発現に対するSox7過剰発現の効果。
【
図7h】h)HBVレプリコンをトランスフェクトされたヒト初代培養肝細胞と許容細胞系におけるpgRNAに対するSox7過剰発現の効果。
【
図8a】
図8は、SlugとSox7を組み合わせた効果を示している。a)HBVCP転写に関し、HBVCP-Lucレポータを用いて調べた、Slugの用量を増やすとともにSox7(25 ngのプラスミド)を同時に発現させることによるHBVCPの位置での転写抑制の増大。
【
図8b】b)SlugとSox7をともに過剰発現させるとHBVCPに依存した転写が顕著に抑制された。
【
図8c】c)SlugとSox7の過剰発現の組み合わせが、HBVレプリコンを72時間にわたって同時にトランスフェクトされた細胞内のpgRNA合成に及ぼす効果。
【
図8d】d)RT-PCRによって調べた完全長Sox7転写産物の発現。
【
図8e】e)PC-3細胞においてSlugとSox7の二重ノックダウンとHNF4α3過剰発現がHBVCPの位置での転写に及ぼす効果。
【
図8f】f)Sox7を発現している細胞(Sox7+)とSox7の発現がない細胞(Sox7-)においてSlugのノックダウンとHNF4α3過剰発現がHBVCPの位置での転写に及ぼす効果。
【
図8g】g)Sox7の発現がない細胞だけが、HBVレプリコンを同時にトランスフェクトされたHBV非許容細胞において、Slug特異的siRNAを同時にトランスフェクトされたときにpgRNAを生成させる。
【
図8h】h)SlugとSox7が細胞のHBV非許容状態を決める。Sox7モチーフはエンハンサーII内でHNF4αと重複しているのに対し、SlugモチーフはpgRNA開始因子と完全に重複している。HNF4αの発現は非許容細胞において少なく、存在するとしても、HBVCP にSox7が結合することによって阻止される。SlugはpgRNA開始因子を阻止するため、Sox7と合わさって転写を妨げる。HBV許容細胞では、Sox7とSlugの発現が無視できるレベルであるため、HNF4αがHBVCPの位置で転写を活性化することができる。
【
図9a】
図9は、SlugとSox7の転写因子模倣体がHBV複製を停止させることを示している。a)Slug機能ドメインの模式図。Slugは5つのC
2H
2ジンクフィンガー(ZF1~ZF5)を持ち、そのそれぞれがDNAに結合することができる。可能性のあるDNA結合残基を示してあり、炭化水素ステープルの部位に下線を引いてある。ヘリカルホイール(helical wheel)ダイヤグラムは、各ペプチドの予想されるDNA結合インターフェイスを示している。
【
図9b】b)HBVCP-Lucレポータアッセイを使用してIC
50を比較することによる機能性Slug模倣体の同定。
【
図9c】c)DMSO対照およびSlug過剰発現と比較したときのSlug模倣体によるHBVCPの位置での転写抑制の維持。
【
図9d】d)Sox7機能性ドメインの模式図であり、3つのα-ヘリックス(H1~H3)を含むDNA結合HMG-ボックスを示している。H1とH2だけがDNAに強く結合することが予想される。DNA結合残基を示してあり、炭化水素ステープルの部位に下線を引いてある。ヘリカルホイールダイヤグラムは、各模倣体の予想されるDNA結合インターフェイスを示している。
【
図9e】e)HBVCP-Lucレポータアッセイを使用して求めた、IC
50を決定するためのSox7模倣体の用量曲線。
【
図9f】f)Sox7-H1sとSox7-H2sが、HBVCP転写活性を抑制することによってSox7機能を模倣したのと比べ、DMSO対照では効果が無視できる程度であった。
【
図9g】g)HBVCP-Lucレポータアッセイを使用して調べた、模倣体の組み合わせがHBVCP転写抑制に及ぼす効果。
【
図9h】h)ペプチドを添加する24時間前にHBVレプリコンをトランスフェクトされた細胞においてSlug模倣体とSox7模倣体がpgRNAに及ぼす効果。
【
図10a】
図10は、非肝臓細胞におけるHBV複製を示している。a)ウエスタンブロットによって調べた、細胞系における肝臓特異的マーカーの発現。肝臓由来の細胞系だけがアルブミンおよび/またはトランスフェリンを発現する。アクチンを負荷対照として用いた。
【
図10b】b)CMV-GFPレポータコンストラクトを用いて細胞系のトランスフェクション効率を調べた。
【
図10c】c)HBVレプリコン。遺伝子型Aからの1.1x完全長HBV(ヌクレオチド1535~1937)をクローニングてpcDNA3.1+ベクターのCMVプロモータの上流に挿入した。pgRNA合成をHBVCPの位置で制御し、初期読み飛ばし転写の後、HBVポリアデニル化(ポリ-A)シグナルの位置で終わらせる。
【
図10d】d)HBVレプリコンを72時間にわたってトランスフェクトされた細胞におけるHBVキャプシドタンパク質HBcAgの発現。
【
図11a】
図11は、ヒトトランスクリプトームアレイを示している。a)発現の異なるタンパク質コード化転写産物の相対的発現による、HBV許容細胞とHBV非許容細胞の教師なし階層的クラスター化。
【
図11b】b)HBV許容細胞クラスターとHBV非許容細胞クラスターの間で発現が異なる遺伝子の数。
【
図12a】
図12は、HBV許容細胞とHBV非許容細胞の間で発現が異なる遺伝子を示している。a)GO(遺伝子オントロジー)用語を用いて定義した生物学的機能によってカテゴリーに分けた、HBV許容細胞とHBV非許容細胞の間で発現が異なる遺伝子。
【
図12b】b)HBV許容細胞とHBV非許容細胞の間で発現が異なる転写因子の相対的mRNA転写産物発現。
【
図13a】
図13は、SlugがHBVCPに位置する特異的転写抑制因子であることを示している。a)HTA 2によるSNAI2遺伝子発現と、他のSnailファミリー遺伝子SNAI1とSNAI 3の比較。
【
図13b】b)モチーフ欠失によりHBVCPの位置での転写が増加するため、Slugは自らの抑制効果をモチーフに依存したやり方でHBVCP転写活性に及ぼす。
【
図13c】c)Slugモチーフの変異が、HepG2とCaco-2という許容細胞の中でHBVCP活性を上昇させる。これは、Slugの抑制効果がモチーフ配列に依存することを示唆している。
【
図13d】d)ルシフェラーゼレポータアッセイにおいて、Slugが過剰発現しているときにSlugモチーフの欠失がHBVCP活性に及ぼす効果。
【
図13e】e)ルシフェラーゼレポータアッセイによって調べた、転写に対するSlug過剰発現の用量依存効果。
【
図14a】
図14は、発現が異なるHNF4αアイソフォームが許容細胞内のHBVCP活性を決めていることを示している。a)HNF4αホモ二量体が、HBVCP内にあってヌクレオチド1個だけのスペーサによって分離された2つの半部位(下線部)を特徴とする対応するモチーフに結合する。5'半部位の変異があれば、HBVCPの位置での転写を減らすのに十分である。
【
図14b】b)HTAによって調べた、細胞内でのHNF4A遺伝子のエキソンの異なる発現。エキソンは棒で示してあり、タンパク質コード配列は、5'UTRおよび3'UTRよりも太い棒で表わしてある。HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3で用いられているエキソン2のコード配列を検出するプローブセット3の信号は、非肝臓細胞よりも肝臓細胞において大きい。これは、ウエスタンブロットのデータと一致している。HNF4α1、HNF4α2、HNF4α7、HNF4α8を検出するプローブセット13の信号は、HBV許容細胞において大きいが、HNF4α2とHNF4α8の中のエキソン10を検出するプローブセット14は、HBV許容細胞とHBV非許容細胞の間で発現に差がない。合わせて考えると、HNF4α1はHBV許容細胞の中のほうが大きな発現であることを示唆している。HBV許容細胞内のHNF4α3とHNF4α9で用いられているエキソン9を検出するプローブセット12では信号にわずかな差が存在している。
【
図14c】c)HNF4A遺伝子に関するエキソンアレイのデータのまとめであり、HNF4α1/3/7/9は、HNF4α2およびHNF4α8とは異なり、細胞におけるHBV複製の許容と相関していることを示唆している。
【
図14d】d)HNF4αアイソフォームの機能ドメインの模式図。HNF4αタンパク質アイソフォームは、保存されたDNA結合ドメインとリガンド結合ドメインを共有しているが、Fドメインを有するN末端とC末端が異なっている。予想分子量を示してある。AF-1:活性化機能1、共因子相互作用ドメイン。
【
図14e】e)異なるN末端に対して特異的な抗体クローンを用いた、核ライセート中の個別に過剰発現したHNF4αアイソフォームの検出。
【
図14f】f)免疫蛍光顕微鏡によって調べた、HNF4αの個々のアイソフォームを過剰発現している細胞におけるHBcAgの発現。細胞の核はDAPIによって染色する。
【
図15a】
図15は、Sox7がHBVCPの位置での特異的阻害剤であることを示している。a)HTAによってSox7遺伝子の発現を他のSoxグループのFファミリー遺伝子と比較した結果。
【
図15b】b)RT-PCRによって調べた、一次ヒト組織におけるSox7の発現。
【
図15c】c)HBVCP-Lucを48時間にわたって同時にトランスフェクトされたHBV許容細胞におけるHBVCPの位置での転写抑制に対するSox7過剰発現の用量依存効果。
【
図15d】d)Sox7が過剰発現しているときにSox7モチーフ欠失がHBVCPの位置での転写に及ぼす効果を調べるためのルシフェラーゼアッセイ。
【
図16a】
図16は、SlugとSox7の組み合わせがHBVCP抑制に及ぼす効果を示している。a)HNF4αアイソフォームだけを過剰発現させても、非許容PC-3細胞においてHBVCPに依存したルシフェラーゼの発現は増加しない。
【
図16b】b)HBV非許容細胞5637において、Slugモチーフ変異に加え、HNF4αモチーフとSox7モチーフの間にスペーサを増やすことにより、転写活性をHNF4αに依存したやり方で大きく増大させることができる。*二重変異:Slugモチーフの位置で二重に変異していてHNF4αN3Sox7変異を有するHBVCP-Lucコンストラクト。
【
図17a】
図17は、Slug模倣体を示している。a)5つのC
2H
2ジンクフィンガー(ZF1~ZF5)に関するSlugオルソログとヒトSlugファミリーのメンバーの多重配列アラインメント。C
2H
2ジンクフィンガーはα-ヘリックスの残基-1、+2、+3、+6を通じてDNAに結合するため、予想されるα-ヘリックス領域のこれら残基を強調してある。機能性SNPによってコードされる可変Slug残基を強調してある。
【
図17b】b)ルシフェラーゼレポータアッセイによって調べた、Slug模倣体であるSlug-ZF4sとSlug-ZF5sの存在下でSlugモチーフの欠失がHBVCP転写抑制に及ぼす効果。
【
図17c】c)Slugジンクフィンガー4と5(Slug-ZF4nとSlug-ZF5n)に由来するαヘリックスペプチドの螺旋形状と機能を維持するための炭化水素ステープルによってSlug模倣機能の向上が達成され、その結果としてHBVCPの位置での転写がさらに抑制された。
【
図18a】
図18は、Sox7模倣体を示している。a)N末端DNA結合HMG-ボックスに関するSox7オルソログとヒトSoxグループのFファミリーのメンバーの多重配列アラインメント。Sox17-DNA結晶構造の中のDNA結合残基に対応するα-ヘリックス領域の残基を強調してある。α-ヘリックス3だけがDNAと相互作用する1つの残基を有するため、DNA結合におけるその役割は、α-ヘリックス1およびα-ヘリックス2と比べて無視できる。
【
図18b】b)Sox7 HMG-ボックスのヘリックス1と2(Sox7-H1nとSox7-H2n)に由来する炭化水素-ステープルドペプチド(Sox7-H1sとSox7-H2s)は、Sox7模倣機能が増大するため、HBVCPでの転写をさらに減らす。
【
図18c】c)WST-1アッセイによれば、転写因子模倣体で処理したHBV許容細胞は、DMSO対照と比べて細胞増殖に差がない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
B型肝炎ウイルス(HBV)は、慢性肝炎と肝臓がんを引き起こす肝臓特異的病原体として主に知られている。しかし本開示は、多くの非肝臓細胞の中でHBVの効率的な複製が可能であるという発見に基づいている。したがってこの発見は、肝臓細胞の中でHBVが増殖するのに必要な宿主細胞因子が非肝臓細胞の中にも存在している可能性があることを示唆している。
【0015】
特に述べるなら、HBVは初期複製相の間は、HBVコアプロモータ(HBVCP)(ヌクレオチド1600~1860)の位置にあるプレゲノムRNA(pgRNA)合成のための宿主転写因子に依存している。これら宿主因子の非限定的な例には、多彩な組織で広く発現しているSp1、PARP1、HNF4αが含まれるため、HBVの肝臓特異的複製を説明することはできない。
【0016】
さらに、ウイルスの伝達はエキソソームとクラスリン依存性エンドサイトーシスを通じて起こる可能性があるため、HBVの複製開始を感染した非肝臓細胞に固有の機構によって阻止できる可能性がある。特にpgRNAの合成を阻止する機構がHBV複製を沈黙させるうる可能性がある。なぜならHBV複製がないと、HBV DNAゲノム、ウイルスポリメラーゼ/逆転写酵素(Pol/RT)、キャプシドタンパク質B型肝炎コア抗原(HBcAg)の生成が妨げられると考えられるからである。
【0017】
したがって本開示は、HBVの複製と転写の機構をさらに解明して、さまざまな細胞および/または組織の中でHBVの複製と転写に必要な関連宿主因子を同定することに基づいている。そのような宿主因子を同定することで、新たな介入アプローチの創出と、HBV治療薬の発見にとって極めて重要な、細胞に基づくスクリーニング法の開発が可能になろう。
【0018】
この点に関し、本開示の利点は、HBV複製効率に影響を与えるかHBV複製効率を調節することのできる多数の因子の同定に関係している。一実施態様では、これらの因子の非限定的な例に、転写因子、シグナル伝達経路、タンパク質結合因子、タンパク質成熟因子を含めることができる。
【0019】
特に述べるなら、これらの因子をコードしている遺伝子は、HBV複製効率に影響を与えるかHBV複製効率を調節するのが目的である可能性がある。HBV複製効率に影響を与えるこれら因子とそれに関連する遺伝子標的の非限定的な例を表1に掲載する。表1に掲載したすべての遺伝子IDは、周知の遺伝子データベースまたはタンパク質データベースに公開されていて、各遺伝子IDに関するさらなる情報(その配列、位置、ファミリー、機能など)を得る際に参照することができる。これらの遺伝子データベースまたはタンパク質データベースの非限定的な例には、HUGO遺伝子命名委員会(HGNC)、NCBI GeneBank、Uniprotを含めることができる。
【0020】
【0021】
一実施態様では、細胞内のHBV複製を調節する方法が提供される。特にこの方法は、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の発現を調節する少なくとも1つの薬剤を前記細胞に接触させることを含んでいる。
【0022】
別の一実施態様では、C1orf131, ETS1, FSTL1, HNF4A, INHBA, KCTD12, MAK16, NOSTRIN, PNPT1, PTCD3, SEMA4G, SNAI2, SNRPD1, SUSD1, WDR43, ZFHX4, ALDH2, ALDH5A1, B3GNT2, CHUK, DDX18, EPT1, ERMP1, GCNT3, GSR, HMGCS1, NAE1, PDSS1, PPID, SMURF2, TANC2, BCAR3, C16orf70, C9orf100, EPB41L5, HSPA14, HSPA9, LRP12, NSMCE4A, NUP35, PSMD11, RNF43, EXOC6, FUZ, STOML2, WASF2, ARHGAP12, MYO9B, TBC1D14, FLVCR1, SLC39A14, GPX2, IDH1 and FAM35A.からなるグループから選択された少なくとも1つの因子の発現を調節する少なくとも1つの薬剤を前記細胞に接触させることができる。
【0023】
一実施態様では、細胞内のHBV複製を抑制することができる。いくつかの実施態様では、前記少なくとも1つの薬剤の選択を、化合物、小分子、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、ステープルドペプチド、ペプチド模倣体、抗体、抗原結合分子からなるグループからなすことができる。オリゴヌクレオチドとしてsiRNAまたはshRNAが可能である。
【0024】
前記少なくとも1つの因子の選択は、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9からなるグループからなすことができる。一実施態様では、前記少なくとも1つの因子として、SNAI2またはSOX7が可能である。
【0025】
一実施態様では、前記少なくとも1つの薬剤としてsiRNAが可能である。一実施態様では、siRNAは細胞内のSNAI2またはSOX7の発現を減少させるため、その細胞内のHBV複製は、siRNAの不在下での細胞内のHBV複製と比べて増加する。別の一実施態様では、siRNAは、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9の発現を減少させるため、細胞内のHBV複製は、siRNAの不在下での細胞内のHBV複製と比べて減少する。
【0026】
いくつかの実施態様では、前記細胞の選択を、肝臓細胞、大腸細胞、胃細胞、血液細胞、肺細胞からなるグループからなすことができる。
【0027】
一実施態様では、この方法をインビトロで実施することができる。
【0028】
いくつかの実施態様では、前記細胞は、HepG2、HuH6、HuH7、HuH4、PLC/PRF/5、Kato III、AGS、HCT116、Caco-2、HL-60、HEK293、A549からなるグループから選択された細胞系に由来するものが可能である。
【0029】
本明細書に記載した方法では、接触工程は、前記少なくとも1つの薬剤の存在下で細胞を培養することを含むことができる。
【0030】
本開示により、対象におけるHBV感染を治療するための薬の製造における少なくとも1つの薬剤の使用として、その少なくとも1つの薬剤が、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の活性を調節する使用も提供される。
【0031】
本開示により、対象におけるHBV感染に付随する疾患または病気を治療するための薬の製造における少なくとも1つの薬剤の使用として、その少なくとも1つの薬剤が、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の活性を調節する使用も提供される。
【0032】
いくつかの実施態様では、前記疾患または病気として肝臓疾患が可能である。別の一実施態様では、その疾患または異常または病気は、黄疸、肝炎、肝線維症、炎症、肝硬変、肝不全、びまん性肝細胞炎症性疾患、血球貪食症候群、血清肝炎、HBVウイルス血症、脂肪肝、肝細胞癌、肝臓疾患関連移植、糸球体腎炎、脂質異常症、造血器悪性腫瘍、膵炎のいずれかである。
【0033】
一実施態様では、前記少なくとも1つの薬剤がHBV複製を抑制する。いくつかの実施態様では、その少なくとも1つの薬剤の選択を、化合物、小分子、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、ステープルドペプチド、ペプチド模倣体、抗体、抗原結合分子からなるグループからなすことができる。オリゴヌクレオチドとしてsiRNAまたはshRNAが可能である。
【0034】
いくつかの実施態様では、前記少なくとも1つの因子の選択を、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9からなるグループからなすことができる。一実施態様では、その少なくとも1つの因子として、SNAI2またはSOX7が可能である。
【0035】
本開示により、対象におけるHBV複製を抑制するかHBV感染を治療するための薬の製造における、SOX7またはSNAI2に由来する少なくとも1つのペプチドの使用も提供される。別の一実施態様では、その少なくとも1つのペプチドとして、本明細書に開示した因子のうちの任意の1つに由来するものが可能である。
【0036】
一実施態様では、本明細書に記載した少なくとも1つのペプチドには、SOX7またはSNAI2によってコードされる元のタンパク質のペプチド類似体、修飾ペプチド、ペプチド誘導体を含めることができる。元のタンパク質の類似体または機能的等価物として、本来のタンパク質の活性と機能を保持しているペプチド分子が可能であり、例えばペプチド模倣体が挙げられる。ペプチド誘導体またはバリアントとして、参照タンパク質配列または参照ペプチド配列と一致するペプチド、すなわち100%同じであるペプチドが可能であり、その中には、参照配列と比べ、%一致が100%未満、例えば少なくとも50%一致、または60%一致、または70%一致、または75%一致、または80%一致、または85%一致、または90%一致、または95%一致、または98%一致、または99%一致したある整数個までのアミノ酸変更が含まれていてよい。このような変更は、少なくとも1個のアミノ酸の欠失、置換(保存的置換と非保存的置換が含まれる)、挿入からなるグループから選択される。修飾ペプチドとして、一般には天然のアミノ酸に存在しない置換基または官能基を導入したペプチドまたはタンパク質に由来する分子が可能である。ペプチド模倣体には、参照ペプチドまたは参照タンパク質とある程度似た機能的構造を有するが骨格中に非ペプチド結合またはD-アミノ酸も含んでいてよい合成化合物を含めることができる。一般に、ペプチド模倣体は、元のタンパク質の機能と活性を模倣するように設計されていて、そのタンパク質の代替物として機能することができる。ペプチド模倣体の非限定的な一例に、炭化水素ステープルなどの合成留め具(「ステープル」)を含むペプチドであるステープルドペプチドを含めることができる。
【0037】
一実施態様では、前記少なくとも1つのペプチドとして、SOX7またはSNAI2によってコードされる元のタンパク質のDNA結合ドメインに由来するものが可能である。したがって一実施態様では、その少なくとも1つのペプチドとして、Slug-ZF1s(配列番号215);Slug-ZF2s(配列番号216);Slug-ZF3s(配列番号217);Slug-ZF4s(配列番号218);Slug-ZF5s(配列番号219);Sox7-H1s(配列番号220);Sox7-H2s(配列番号221)からなるグループから選択されたペプチドに由来するものが可能である。
【0038】
一実施態様では、前記少なくとも1つのペプチドとして、Slug-ZF4s(配列番号218);Slug-ZF5s(配列番号219);Sox7-H1s(配列番号220);Sox7-H2s(配列番号221)からなるグループから選択されたペプチドに由来するものが可能である。
【0039】
一実施態様では、前記少なくとも1つのペプチドとして、ステープルドペプチドが可能である。別の一実施態様では、そのステープルドペプチドは、炭化水素ステープルを含むことができる。
【0040】
一実施態様では、前記少なくとも1つのペプチドは、対象に投与するのに便利な方式に適した組成物として製剤化することができる。一実施態様では、前記少なくとも1つのペプチドは、医薬として許容できる基剤を含む医薬組成物として製剤化することができる。
【0041】
本開示により、対象におけるHBV複製を抑制するかHBV感染を治療する方法として、SOX7またはSNAI2に由来する少なくとも1つのペプチドをその対象に投与することを含む方法も提供される。
【0042】
一実施態様では、前記少なくとも1つのペプチドとして、Slug-ZF1s(配列番号215);Slug-ZF2s(配列番号216);Slug-ZF3s(配列番号217);Slug-ZF4s(配列番号218);Slug-ZF5s(配列番号219);Sox7-H1s(配列番号220);Sox7-H2s(配列番号221)からなるグループから選択されたペプチドに由来するものが可能である。
【0043】
一実施態様では、前記少なくとも1つのペプチドとして、Slug-ZF4s(配列番号218);Slug-ZF5s(配列番号219);Sox7-H1s(配列番号220);Sox7-H2s(配列番号221)からなるグループから選択されたペプチドに由来するものが可能である。
【0044】
一実施態様では、前記少なくとも1つのペプチドとして、ステープルドペプチドが可能である。別の一実施態様では、そのステープルドペプチドは、炭化水素ステープルを含むことができる。
【0045】
炭化水素ステープルの配列、構造、位置は、機能に合わせて変えることができ、本分野で周知の技術を使用して合成すること、または私企業(例えばGenScript社)から取得することができる。当業者であればわかるように、炭化水素ステープルの配列、構造、位置は、その炭化水素ステープルを含むペプチドと核酸(例えばDNA)の相互作用を破壊しない限りは変えることができる。
【0046】
特に炭化水素ステープルは、各ペプチド内の特定の残基位置に2個のアミノ酸残基を付着させることができる。本明細書に記載する残基位置は、元の完全長タンパク質のアミノ酸配列の中の残基位置に対応させることができる。例えば第1の炭化水素付着のための残基位置を「i」と表記し、続く第2の炭化水素付着を「i」から少なくとも2つ以上離れたアミノ酸残基の位置にすることができる。一実施態様では、炭化水素ステープルは、残基位置「i」と「i+4」、または「i」と「i+7」に付着させることができる。ただし+4と+7は「i」からのアミノ酸位置の数であり、そこが、第2の炭化水素付着の位置である。
【0047】
本技術分野でよく知られているように、ペプチドに炭化水素ステープルを取り付けると、付着位置にある元のアミノ酸を非天然アミノ酸で置換することができる。非天然アミノ酸の非限定的な例には、S-ペンテニルアラニン、S-オクテニルアラニン、R-オクテニルアラニン、R-ペンテニルアラニンが含まれる。一実施態様では、炭化水素ステープルを残基位置「i」と「i+4」に付着させることができる。この場合、「i」と「i+4」の両方に位置するアミノ酸としてS-ペンテニルアラニンが可能である。別の一実施態様では、炭化水素ステープルを残基位置「i」と「i+7」に付着させることができる。この場合、「i」と「i+7」の両方に位置するアミノ酸は、R-オクテニルアラニン、S-ペンテニルアラニン、S-オクテニルアラニン、R-ペンテニルアラニンから選択することができる。特に位置「i」のアミノ酸としてR-オクテニルアラニンまたはS-オクテニルアラニンが可能であり、位置「i+7」のアミノ酸としてS-ペンテニルアラニンまたはR-ペンテニルアラニンが可能である。
【0048】
一実施態様では、ステープルドペプチドは、ZF1s(ジンクフィンガー1ステープルド)のF130とA134、ZF2s(ジンクフィンガー2ステープルド)のL171とI178、ZFs(ジンクフィンガー3ステープルド)のP197とQ201、ZF4s(ジンクフィンガー4ステープルド)のR229とQ233、ZF5s(ジンクフィンガー5ステープルド)のM253とH257のいずれかの位置でSlugジンクフィンガー(ZF)に付着した炭化水素ステープルを含むことができる(
図9a)。
【0049】
一実施態様では、ステープルドペプチドは、H1s(ヘリックス1ステープルド)のV54とD58、またはH2s(ヘリックス2ステープルド)のL75とS82の位置でSox7ヘリックス(H)に付着した炭化水素ステープルを含むことができる(
図9d)。
【0050】
一実施態様では、前記少なくとも1つのペプチドは、対象に投与するのに便利な方式に適した組成物として調製することができる。一実施態様では、その少なくとも1つのペプチドは、医薬として許容できる基剤を含む医薬組成物として調製することができる。一実施態様では、その少なくとも1つのペプチドは、注射による投与に適した組成物として調製することができる。別の一実施態様では、その少なくとも1つのペプチドは、投与に適した方式のナノ粒子複合体に組み込むことができる。
【0051】
本開示により、対象におけるHBV感染を治療する方法として、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の活性を調節する少なくとも1つの薬剤を前記対象に投与することを含む方法も提供される。
【0052】
本開示により、対象におけるHBV感染に関連した疾患または病気を治療する方法として、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の活性を調節する少なくとも1つの薬剤を前記対象に投与することを含む方法も提供される。
【0053】
いくつかの実施態様では、前記疾患または病気として肝臓疾患が可能である。別の一実施態様では、前記疾患または異常または病気は、黄疸、肝炎、肝線維症、炎症、肝硬変、肝不全、びまん性肝細胞炎症性疾患、血球貪食症候群、血清肝炎、HBVウイルス血症、脂肪肝、肝細胞癌、肝臓疾患関連移植、糸球体腎炎、脂質異常症、造血器悪性腫瘍、膵炎のいずれかである。
【0054】
一実施態様では、前記少なくとも1つの薬剤がHBV複製を抑制する。いくつかの実施態様では、その少なくとも1つの薬剤の選択を、化合物、小分子、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、ステープルドペプチド、ペプチド模倣体、抗体、抗原結合分子からなるグループからなすことができる。
【0055】
オリゴヌクレオチドとして、siRNAまたはshRNAが可能である。いくつかの実施態様では、前記少なくとも1つの因子の選択を、SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9からなるグループからなすことができる。一実施態様では、その少なくとも1つの因子として、SNAI2またはSOX7が可能である。
【0056】
本開示の文脈では、「投与している」という用語とその用語の変形である「投与する」と「投与」などには、本明細書に記載したある薬剤、ペプチド、化合物、組成物を適切な任意の手段で生物または表面に接触させる、塗布する、送達する、提供することが含まれる。投与の通常の方式には、注射(皮下、静脈内など)、経口投与、吸入、経皮投与、局所用のクリームまたはゲルまたは粉末、直腸投与を含めることができる。薬剤は、投与経路に応じ、化合物を酵素、酸の作用や、その化合物の治療活性を不活性化する可能性のある他の自然条件の作用から保護する材料で被覆することができる。薬剤は、非経口投与または腹腔内投与することもできる。
【0057】
本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物の分散物を、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、これらの混合物、油の中で調製することもできる。通常の保管条件と使用条件では、医薬組成物は、微生物の増殖を阻止する保存剤を含むことができる。
【0058】
注射に適した医薬組成物には、無菌水溶液(水溶性)または分散液と、注射可能な減菌溶液または分散液をその場で調製するための無菌粉末が含まれる。理想的には、組成物は製造条件と保管条件のもとで安定であり、その組成物を微生物(例えば細菌や真菌)の汚染作用から安定にする保存剤を含むことができる。
【0059】
一実施態様では、本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物は、例えば不活性な希釈剤または同化可能な食用基剤とともに経口投与することができる。その薬剤、ペプチド、化合物、組成物は、ナノ粒子複合体の中に組み込むことができる。あるいは本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物と他の諸成分は、硬シェルゼラチンカプセルまたは軟シェルゼラチンカプセルの中に封止すること、または圧縮して錠剤にすること、または個々の食品に直接組み込むこともできる。治療のために経口投与するには、本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物を賦形剤とともに組み込んだ摂取可能な錠剤、口内錠、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハなどの形態にして使用することができる。そのような組成物と調製物は、薬剤を少なくとも1重量%を含むことができるのが適切である。医薬組成物と調製物に含まれる式(I)および/または式(II)の化合物の割合はもちろんさまざまなな値が可能であり、例えば、投与単位の重量の約2%~約90%、約5%~約80%、約10%~約75%、約15%~約65%、約20%~約60%、約25%~約50%、約30%~約45%、約35%~約45%の範囲が便利であろう。治療に役立つ組成物に含まれる化合物の量は、適切な投与が実現するような量である。
【0060】
「医薬として許容可能な基剤」という表現は、溶剤、分散媒体、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などを含むことを想定している。医薬として活性な物質のためにそのような媒体と薬剤を使用することは本分野で周知である。従来の媒体または薬剤がその化合物と適合しない場合を除き、その化合物を治療用組成物と治療法および予防法で使用することが考えられる。補足活性化合物も本開示による組成物に組み込むことができる。非経口組成物を投与ユニットの形に製剤化して投与が容易で用量が一定になるようにすることが特に有利である。「投与ユニットの形」は、本明細書では、治療する個人のための1回の投与に適した物理的に離散したユニットを意味する。本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物が各ユニットに所定量含まれるように計算し、必要な医薬用基剤との組み合わせで望む治療効果を生じさせる。本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物は、投与が簡便かつ有効であるようにするため、有効な量を、許容できる投与ユニットの中に医薬として許容できる適切な基剤とともに製剤化することができる。補足活性成分を含む組成物の場合には、投与量は、それら諸成分の通常の用量と投与方式を参考にして決定する。一実施態様では、基剤として、経口投与できる基剤が可能である。
【0061】
医薬組成物の別の形態は、経口投与に適した腸溶性コーティングを有する顆粒、錠剤、カプセルとして製剤化した投与形態である。本発明の範囲には、遅延放出製剤も含まれる。
【0062】
本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物は、「プロドラッグ」の形態で投与することもできる。プロドラッグは不活性な形態の化合物であり、生体内で活性な形態に変換される。
【0063】
一実施態様では、本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物は、注射によって投与することができる。注射可能な溶液の場合、基剤として、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、植物油を含む溶媒または分散液が可能である。例えばコーティング(レシチンなど)を使用することによって、分散液の場合には必要とされる粒子サイズを維持することによって、界面活性剤を用いることによって、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用を阻止することは、さまざまな抗菌剤および/または抗真菌剤を含めることによって実現できる。適切な抗菌剤および/または抗真菌剤は当業者に周知であり、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、アスコルビン酸、チメロサールなどがある。多くの場合、等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(マンニトール、ソルビトール)、塩化ナトリウム)を組成物の中に含めることが好ましい可能性がある。注射可能な組成物の長期にわたる吸収は、その組成物に吸収を遅延させる薬剤(例えばモノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン)を含めることによって実現できる。
【0064】
注射可能な無菌溶液は、本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物の必要量を、必要に応じて上に列挙した諸成分の1つまたは組み合わせとともに適切な溶媒に組み込んだ後、濾過殺菌することによって調製できる。一般に、分散液は、本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物を、基本的な分散媒体と、上に列挙した中からの必要な他の諸成分とを含む無菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。
【0065】
錠剤、トローチ、ピル、カプセルなどは、結合剤(トラガカントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチン);賦形剤(リン酸二カルシウムなど);崩壊剤(コーンスターチ、ジャガイモのデンプン、アルギン酸など);潤滑剤(ステアリン酸マグネシウムなど);甘味剤(スクロース、ラクトース、サッカリンなど)または風味剤(ペパーミント、冬緑油、サクランボの香料)も含むことができる。投与ユニットの形態がカプセルであるとき、その中には、上記のタイプの材料に加えて液体基剤を含むことができる。他のさまざまな材料が、コーティングとして、または投与ユニットの物理的形状を変えるために存在することができる。例えば錠剤、ピル、カプセルをセラック、糖、またはその両方でコーティングすることができる。シロップまたはエリキシルは、類似物を、すなわち甘味剤としてのスクロース、保存剤としてのメチルパラベンやプロピルパラベン、サクランボやオレンジのフレーバーなどの染料や香料を含むことができる。もちろん、あらゆる投与ユニット形態の調製に用いられるどの材料も、医薬として純粋であることと、使用する量では実質的に非毒性であることが必要とされる。それに加え、類似物は、持続放出調製物や持続放出製剤に組み込むことができる。
【0066】
医薬組成物は、酸加水分解をできるだけ少なくするため適切な緩衝剤をさらに含んでいることが好ましい。適切な緩衝剤は当業者に周知であり、非限定的な例に、リン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩と、これらの混合物が含まれる。
【0067】
本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物の単一回投与または多数回投与を実施することができる。当業者であれば、定型的な実験により、本開示による薬剤の有効かつ毒性がない投与レベルと投与パターンを、本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物を適用する疾患および/または感染の治療に適するように決めることができよう。
【0068】
さらに、当業者にとって、治療法決定試験の従来の手順を使用して最適な治療計画(例えば所定の日数の間に与える本明細書に記載した薬剤、ペプチド、化合物、組成物の1日当たりの投与回数)を確認できることは明らかであろう。
【0069】
一般に、24時間当たりの有効用量として、体重1 kg当たり約0.0001 mg~約1000 mg;適切なのは、体重1 kg当たり約0.001 mg~約750 mg;体重1 kg当たり約0.01 mg~約500 mg;体重1 kg当たり約0.1 mg~約500 mg;体重1 kg当たり約0.1 mg~約250 mg;体重1 kg当たり約1.0 mg~約250 mgの範囲が可能である。より適切なのは、24時間あたりの有効用量が、体重1 kg当たり約1.0 mg~約200 mg;体重1 kg当たり約1.0 mg~約100 mg;体重1 kg当たり約1.0 mg~約50 mg;体重1 kg当たり約1.0 mg~約25 mg;体重1 kg当たり約5.0 mg~約50 mg;体重1 kg当たり約5.0 mg~約20 mg;体重1 kg当たり約5.0 mg~約15 mgの範囲であることである。
【0070】
あるいは有効用量として、約500 mg/m2までが可能である。例えば、一般に、有効用量は、約25~約500 mg/m2、約25~約350 mg/m2、約25~約300 mg/m2、約25~約250 mg/m2、約50~約250 mg/m2、約75~約150 mg/m2の範囲になると予想される。
【0071】
HBV複製を調節するための少なくとも1つの薬剤をスクリーニングする方法も提供される。この方法は、a)SNAI2、SOX7、HNF4α1、HNF4α2、HNF4α3、HNF4α7、HNF4α8、HNF4α9、ARID3A、ATF2、ATF3、ATF4、CALCOCO1、CHD3、CPD、CSNK2A2、CNOT11、DCP1A、DDX39B、DYRK1B、E2F6、E2F7、EPAS1、FOXN2、HIVEP2、HERPUD1、KPNA3、KANK2、LIN54、LSD1、NCL、PAK1IP1、PNPT1、POLR3E、PRDX3、PTP4A1、RNASEH2A、RHOB、RNF4、RNF43、SERBP1、SKA1、SMAD3、SRPK1、STAM、STRADB、SSB、STT3B、TFAP2A、TFAP2C、TFB2M、TRIM24、TRIM68、TRIM27、WDR54、ZNF518Aからなるグループから選択された少なくとも1つの因子の発現を調節する少なくとも1つの薬剤を、HBVウイルスを発現している細胞に接触させ;b)前記少なくとも1つの薬剤と接触させた細胞のHBV発現プロファイルを取得し;c)b)における細胞のHBV発現プロファイルを、前記少なくとも1つの薬剤に接触させていない対照細胞のHBV発現プロファイルと比較することを含んでいて、その対照細胞と比較して前記細胞内のHBVウイルス発現が減少または増加していることが、前記少なくとも1つの薬剤によってHBV複製が調節されたことを示している。
【0072】
一実施態様では、前記少なくとも1つの薬剤の選択を、化合物、小分子、オリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、ステープルドペプチド、ペプチド模倣体、抗体、抗原結合分子からなるグループからなすことができる。一実施態様では、オリゴヌクレオチドとして、siRNAまたはshRNAが可能である。
【0073】
一実施態様では、前記接触工程は、前記細胞にsiRNAまたはshRNAをトランスフェクトすることを含んでいる。
【0074】
いくつかの実施態様では、その細胞は、HBV複製を許容すること、または許容しないことが可能である。
【0075】
本明細書に開示した「許容」細胞は、ウイルスがその細胞の防御機構を回避して複製することができる細胞に関する。通常は、これは、ウイルスが細胞に固有の防御機構の1つまたはいくつかを変化させたときに起こる。細胞または細胞系がある種のウイルスを許容するかどうかを判断または確認する際に当業者に知られている従来の方法と技術がある。逆に、本明細書に開示した「非許容」細胞は、ウイルスがその細胞の防御機構を回避して複製することができない細胞に関係する。
【0076】
前記細胞の選択は、肝臓細胞、大腸細胞、胃細胞、血液細胞、肺細胞からなるグループからなすことができる。一実施態様では、細胞として肝臓細胞または非肝臓細胞が可能である。別の一実施態様では、細胞は、肝臓HBV許容細胞系(例えばHepG2、HuH7、PLC/PRF/5、Hep3B)に由来するものが可能である。別の一実施態様では、細胞は、非肝臓HBV許容細胞系(例えばCaco-2、Kato III、AGS、A549)に由来するものが可能である。さらに別の一実施態様では、細胞は、非肝臓HBV非許容細胞系(例えばT24、5637、PC-3、Saos-2、FS-4、COLO316)に由来するものが可能である。
【0077】
いくつかの実施態様では、前記細胞は、生物サンプルの中に含まれていてもよい。生物サンプルとして、患者から取り出したり単離したりして得られたその患者の組織または細胞のサンプルが可能である。生物サンプルの非限定的な例に、全血またはその成分(例えば血漿、血清)、尿、唾液、リンパ液、胆汁、痰、涙、脳脊髄液、気管支肺胞洗浄液、滑液、精液、癌腹水、母乳、膿汁が含まれる。一実施態様では、核酸のサンプルは、血液、羊水、口腔粘膜スメアのいずれかから得られる。[SF:これで正しいか確認をお願いする]
【0078】
本明細書で考慮する生物サンプルには、培養した生物材料も含めることができ、その中には、培養した細胞に由来するサンプル(例えば培養した細胞から回収した培地や、細胞ペレット)が含まれる。したがって生物サンプルは、成体全体、またはその組織、細胞、構成部分の一部や、これらの一部または部分から調製したライセート、ホモジェネート、抽出液を意味することができる。生物サンプルは、使用前に例えば1つ以上の成分を精製および/または希釈および/または遠心分離することによって形態を変えることもできる。いくつかの実施態様では、生物サンプルは、HBVに感染した対象から取得することができる。
【0079】
いくつかの実施態様では、前記細胞は、HepG2、HuH6、HuH7、HuH4、PLC/PRF/5、Kato III、AGS、HCT116、Caco-2、HL-60、HEK293、A549からなるグループから選択された細胞系に由来するものが可能である。
【0080】
一実施態様では、前記接触工程は、HBV複製を促進する適切な培地の中で細胞を培養することを含むことができる。別の一実施態様では、前記接触工程は、細胞にHBVレプリコンをトランスフェクトすることを含むことができる。
【0081】
一実施態様では、HBV発現プロファイルを取得する工程は、HBV複製の1つ以上のマーカーを測定することを含むことができる。HBV複製のその1つ以上のマーカーの選択は、HBVレプリコンのプレゲノムRNAのレベル、B型肝炎表面抗原のレベル、B型肝炎コア抗原のレベルからなるグループからなすことができる。
【0082】
いくつかの実施態様では、HBV発現プロファイルを取得する工程は、細胞内の前記少なくとも1つの因子をウエスタンブロット分析し、その少なくとも1つの因子のバンド強度を測定することを含むことができる。その少なくとも1つの因子のバンド強度は、対照に規格化することができる。いくつかの実施態様では、その少なくとも1つの因子と対照のバンド強度の間の相対差が1~35%であることが、前記少なくとも1つの薬剤によってHBV複製が変化したことを示している可能性がある。
【0083】
ウイルスの複製を調節する少なくとも1つの因子を同定する方法も提供される。この方法は、a)出所が異なる少なくとも2つの細胞系に、前記ウイルスのウイルスプロモータに機能可能に連結された選択マーカーを含む発現コンストラクトをトランスフェクトし;b)その選択マーカーの発現を検出して前記少なくとも2つの細胞系を許容細胞系と非許容細胞系に分類し;c)前記許容細胞系と前記非許容細胞系に、前記ウイルスのウイルスレプリコンを含む発現コンストラクトをトランスフェクトし;d)c)の許容細胞系と非許容細胞系における少なくとも1つの因子の発現をスクリーニングし、その許容細胞系におけるその少なくとも1つの因子の発現をその非許容細胞系と比較することで、少なくとも1つの候補因子を同定し(その許容細胞系とその非許容細胞系の間でその少なくとも1つの因子の発現が異なっていることが、少なくとも1つの候補因子が同定されたことを示していている);e)前記ウイルスレプリコンを発現する前記許容細胞系に、前記少なくとも1つの候補因子をノックアウトするための薬剤を接触させ;f)e)の許容細胞系における前記ウイルスレプリコンのプレゲノムRNAのレベルを、前記薬剤と接触させていない対照細胞と比較することを含んでいて、前記許容細胞系におけるプレゲノムRNAのレベルの発現レベルが前記対照細胞系と比べて減少または増加していることが、前記ウイルスの複製を調節する少なくとも1つの因子が同定されたことを示している(
図1)。
【0084】
一実施態様では、前記少なくとも1つの候補因子の選択は、転写因子、調節因子、RNAプロセシング因子、シグナル伝達分子からなるグループからなすことができる。
【0085】
別の一実施態様では、前記選択マーカーとして緑色蛍光タンパク質(GFP)またはルシフェラーゼが可能である。
【0086】
一実施態様では、前記薬剤としてsiRNAまたはshRNAが可能である。
【0087】
本明細書に図面を用いて記述した本発明は、すべての要素や制限が本明細書に具体的に開示されていなくても、適切に実施することができる。したがって例えば「含む」、「包含する」、「含有する」などの用語は、拡張して制限なしに読まれる。それに加え、本明細書で使用した用語と表現は、記述するための用語として用いたのであり、制限するために用いたのではないため、そのような用語と表現を使用する際に図示したり説明したりした特徴またはその一部のいかなる等価物も除外する意図はなく、さまざまな改変が請求項の本発明の範囲で可能であることが認識される。したがって、好ましい実施態様とオプションの特徴によって本発明を具体的に開示してきたが、当業者は、本明細書に具体化されている本発明の改変やバリエーションに頼ってもよく、そのような改変やバリエーションは、本発明の範囲に入ると見なされる。
【0088】
本明細書では、本発明を広く、属のレベルで記述してきた。その属レベルの開示に含まれるより狭い種と亜属の群のそれぞれも、本発明の一部を形成する。そこには、本発明に関するその属レベルの記述が含まれるが、それには、その属から何らかの主題を除去するという条件またはマイナスの制限がつき、しかも除外されたその材料が本明細書に具体的に記載されているかどうかには関係ない。
【0089】
他の実施態様は、以下の請求項と非限定的な実施例の範囲内である。それに加え、本発明の特徴または側面をマーカッシュグループで記述する場合、当業者は、そうすることで本発明が、マーカッシュグループの任意の個々のメンバーに関して、またはメンバーの一部に関しても記述されていると認識するであろう。
【実施例】
【0090】
本発明の非限定的な実施例を、これから具体的な実施例を参照してより詳細に記述する。なお具体的な実施例は、いかなる意味でも本発明の範囲を制限すると見なしてはならず、単に本発明の一般的な考え方を説明しているものである。
【0091】
材料と方法
細胞と試薬
細胞系HepG2、HuH7、PLC/PRF/5、Hep3B、AGS、A549、PC-3、Saos-2、FS-4を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の中に維持した。Cao-2は、20%FBSを補足したイーグル最少必須培地(EMEM)の中で増殖させた一方で、T24、5637、COLO316は、10%FBSを補足したRPMI-1640の中で増殖させた。Kato IIIIは、20%FBSを補足したDMEMの中に維持した。
【0092】
すべての細胞を、5%CO2を含む湿潤なインキュベータの中で37℃にて増殖させ、製造者の指示に従って培養した。ヒト初代培養肝細胞をTriangle Research Labs社から購入し、推奨されているようにして培養した。一次ヒト組織からの全RNAはZyagen社から購入した。
【0093】
使用した一次抗体は以下の通りである:HBcAgウサギポリクローナル抗体(Dako社)、HNF4α7/8/9マウスモノクローナル抗体クローンH6939(R & D Systems社)、HNF4α1/2/3マウスモノクローナル抗体クローンK9218(R & D Systems社)、Slugマウスモノクローナル抗体クローンA-7(Santa Cruz Biotechnology社)、Sox7ヤギポリクローナル抗体(R & D Systems社)、ラミンA/Cヤギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社)、β-アクチンマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社)、アルブミンマウスモノクローナル抗体クローン AL-01(Santa Cruz Biotechnology社)、トランスフェリンマウスモノクローナル抗体クローンD-9(Santa Cruz Biotechnology社)。HRP共役二次抗体はDako社から購入した。蛍光体が共役した抗体(Alexa Fluor(登録商標)488とAlexa Fluor(登録商標)546)を蛍光染色のためにLife Technologies社から取得した。
【0094】
完全長Slugを検出するためのプライマーは、Slug-F(5’ CGATGCTGTAGGGACCGC 3’(配列番号:222) )とSlug-R(5’TGGTCAGCACAGGAGAAAATGC 3’(配列番号:223)であった。完全長Sox7を検出するためのプライマー対は、Sox7-F(5’ TATGCTAGCATGGCTTCGCTGCTGG 3’(配列番号:224)とSox7-R(5’ TAATCTAGACTATGACACACTGTAGCTGTTGTAG 3’(配列番号:225)であった。Nucleospin RNAキット(Machery Nagel社)を用いてRNAを抽出し、AccuScript High Fidelity 1st Strand cDNA Synthesis Kit (Stratagene社)を製造者の指示に従って用い、100 ngのRNAを最初の鎖cDNA合成で使用した。
【0095】
プラスミド
HBVレプリコンをHBV遺伝子型Aの1.1x(ヌクレオチド1535~1937)からクローニングしてpcDNA3.1+ベクターのCMVプロモータの上流に挿入した(
図10b)。
【0096】
したがってpgRNA合成は、HBVCP(ヌクレオチド1600~1860)の位置での活性な転写だけに依存し、作製される完全長pgRNAは、最初の読み飛ばし転写の後にHBVポリ-アデニル化シグナルの位置で終了する。HBVCP をKpnI制限部位とHindIII制限部位を通じてPGL3 Basic(Promega社)プラスミドに挿入することによってHBVCP-Lucを作製した。HBVCP-Luc内のルシフェラーゼのコード配列をpTurboGFP-Cプラスミド(Evrogen社)からの緑色蛍光タンパク質(GFP)のコード配列と交換することによってHBVCP-GFPを作製した。
【0097】
表2、表3、表4に概略を示した2工程PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)からの増幅産物を、NotI部位とXmaI 部位を通じてpIVEX2.5dベクターに挿入し、サブクローニングしNotI制限部位とXbaI制限部位を使用してpcDNA3.1+に挿入することにより、それぞれのアイソフォームについてHNF4α過剰発現コンストラクトを作製した。HepG2からのcDNAを鋳型として用いてHNF4αアンプリコンを作製した。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
ヒトのSlugとSox7の過剰発現コンストラクトをOrigene社から取得した。QuickChange II部位特異的突然変異誘発キット(Agilent Technologies社)を使用して、部位特異的突然変異誘発によってHBVCP-Lucに変異を持つプラスミドを作製した。
【0102】
ヒトトランスクリプトームアレイ(HTA 2.0)
10 cmの皿に50%集密になるまで播種してから30時間後、細胞から全RNAを抽出した。RIN(RNAの完全性の数値)値が9.80超の高品質RNAだけを使用した。細胞系からのプロセシングを経たcRNAを、Affymetrixヒトトランスクリプトームアレイ2.0に、製造者のプロトコルに従ってハイブリダイズさせた。Affymetrix(登録商標)Expression Console(商標)Software(バージョン1.3.1.187)を用い、遺伝子レベルとエキソンレベルの両方の分析に関するデータをlog2スケールで規格化した。タンパク質をコードしている遺伝子だけを評価の対象と見なした。
【0103】
主成分分析(PCA)を使用して全体的な遺伝子発現プロファイルを評価した。得られた主成分を入力として用い、k-平均によってサンプルクラスター化トポロジーを求めた。Limmaパッケージを用いて発現差分析を実施し、p値を調整してBenjamini-Hochberg法で多重検定した。調整済みp値が0.05未満で|log2(倍数変化)|が0.5超の遺伝子だけを、発現が異なると同定した。上記の統計分析はすべて、Rバージョン3.1.1を用いて実施した。
【0104】
PANTHER分類システム(バージョン10.0)を用い、発現が異なる遺伝子に対して遺伝子オントロジーアノテーション分析を実施した。マイクロアレイのデータは、Gene Expression Omnibusで登録番号GSE72779として入手できる。
【0105】
確認アッセイ - (siRNA と、HBV pgRNAの読み取り)
表5と表8に掲載されている遺伝子によってHBV複製が変化したかどうかを判断するため、過剰発現とsiRNAノックダウンの研究を実施し、遺伝子発現の変化によってHBVCP活性とpgRNA合成が影響を受けるかどうかを調べた。
【0106】
HBV許容細胞で確認アッセイを実施した。HBVCP活性アッセイでは、50 ngの過剰発現コンストラクトまたは10 nMのsiRNAをHBVCP-Luc(ルシフェラーゼレポータ)と同時にトランスフェクトした。相対的蛍光をトランスフェクトしてから48時間後に求め、陰性siRNA対照または空のベクター対照と比較した。pgRNAアッセイでは、50 ngの過剰発現コンストラクトまたは10 nMのsiRNAを800 ngの完全長HBVレプリコンと同時にトランスフェクトし、トランスフェクトしてから72時間後のpgRNAの相対量をGAPDH負荷対照に対して規格化し、空のベクターまたは陰性siRNA対照と比較した。
【0107】
HBV複製アッセイ
HBcAg に関するpgRNAアッセイと免疫蛍光染色では、HepG2細胞とCaco-2細胞を24ウエルのプレートにウエル1つにつき1.0~1.5×105細胞の割合で播種し、800 ngのHBVレプリコンと、1.1μlのLipofectamine(登録商標)2000(ThermoFisher Scientific社)を含む100μlのOPTI-MEMをトランスフェクトした。指示された時点で過剰発現コンストラクトを1つのコンストラクトにつき50 ngの割合で各ウエルに添加した。ヒト初代培養肝細胞に5.6μlのLipofectamine(登録商標)2000をトランスフェクトした。
【0108】
特に断わらない限り、Slug、Sox7に対して特異的なSilencer(登録商標)Select Validated siRNAと陰性対照siRNAをThermoFisher Scientific社から購入し、10 nMの濃度で同時にトランスフェクトした。トランスフェクトしてから24時間後に、10μMのペプチドを含む0.2%DMSOを添加した。
【0109】
トランスフェクトされた細胞を、トランスフェクションの48~72時間後に分析した。完全長pgRNAの増幅を、pgRNA-F(5’ ACACCGCCTCAGCTCTGTATCGAG 3’(配列番号:9))プライマーとpgRNA-R(5’TTCTTTATAAGGGTCAATGTCCATGCCCC 3’(配列番号:10))プライマーに加えてExpand(商標)Long Template PCR System(Sigma Aldrich社)からの試薬を用いて実施した。4%パラホルムアルデヒドを用いて20分間固定し、0.1%TritonX-100を含むPBSを10分間用いて抗原を賦活化し、ブロッキング緩衝液(PBS中の1%ウシ血清アルブミン)を用いて4℃で一晩ブロックした後にHBcAg免疫蛍光染色を実施した。ブロッキング緩衝液の中に1:100に希釈した一次抗体を室温で2時間かけて添加し、PBSで3回洗浄し、1:1000の二次抗体とともに1時間インキュベートした。DAPIを用いて核を染色した。
【0110】
HBVCP活性アッセイ
HBVCP転写活性を調べるルシフェラーゼレポータアッセイを推奨されているようにして(Promega社)実施した。0.22μlのLipofectamine(登録商標)2000を入れた96ウエルの黒い透明な平底プレートの中で、ウエル1つにつき3×104細胞の密度の細胞に160 ngの野生型HBVCP-Lucコンストラクトまたは変異体HBVCP-Lucコンストラクトをトランスフェクトした。特に断わらない限り、コンストラクト1つにつき10 ngの追加の過剰発現コンストラクトと10 nMのsiRNAを各ウエルに同時にトランスフェクトした。
【0111】
細胞を溶解させ、HBVCP-Luc単独の実験についてはトランスフェクションの30時間後に、過剰発現またはノックダウンの実験についてはトランスフェクションの48時間後に蛍光を測定した。
【0112】
転写因子模倣体が関係する実験では、特に断わらない限り、トランスフェクトしてから24時間後に、10μMのペプチドを含む0.2%DMSOを添加した。
【0113】
HBVCP-GFPコンストラクトを用いてHBVCP転写活性も評価し、12ウエルのプレートに入れた2.2μlのLipofectamine(登録商標)2000の中で、1.6μgのHBVCP-GFPを単独で用いるか、100 ngの過剰発現コンストラクトとともに用いたフローサイトメトリーによってその活性を分析し、トランスフェクションの48時間後に回収した。細胞をPBSの中で2回洗浄し、染色緩衝液(2%FBSと10mM EDTAを含むPBS)に再懸濁させ、40μmの細胞濾過器を通過させた後にフローサイトメトリーを実施した。BD FACSCanto II(BD Biosciences社)を用いてデータを取得し、Flowjo v10を用いて分析した。
【0114】
電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)
10 cmの皿の中で、NEPER(Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents;ThermoFisher Scientific社)を指示されたようにして用い、30μgのプラスミドと33μlのLipofectamine(登録商標)2000を使用して、空のベクターまたは過剰発現コンストラクトをトランスフェクトされた4.5×106個の細胞から核ライセートを、トランスフェクションの48時間後に取得した。
【0115】
LightShift(商標)化学発光EMSAキット(ThermoFisher Scientific社)を推奨されているようにして用い、1~2μgのポリ-dIdCの存在下で、0.5 ngのビオチニル化されたプローブと2μgの核ライセートを含む20μlの反応液の中でEMSAを実施した。37℃で45分間放置してDNA-タンパク質複合体を形成させ、TBE緩衝液系を用いて5%ゲル上で電気泳動を実施した。
【0116】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【0117】
ステープルドペプチド
Slug、そのオルソログ、ヒトSnail、ヒトSmucの間と、Sox7、そのオルソログ、ヒトSox17、ヒトSox18の間でClustal Omegaを用いて多重配列アラインメントを実施し、保存されたDNA結合ドメインと残基を同定した。
【0118】
SlugのC2H2ジンクフィンガードメイン内のαヘリックスの相対位置をCFSSP(Chou & Fasman二次構造予測サーバー)とJPred4を用いて予測し、DNA結合残基が各αヘリックスの位置-1、+2、+3、+6であることを同定した。
【0119】
HeliQuestを用いてヘリカルホイールダイヤグラムを描き、ペプチド-DNA相互作用が破壊される確率が小さくなるように炭化水素ステープルが位置することのできるDNA結合表面を求めた。特に断わらない限り、ペプチド(GeneScript社)を95%超の純度で合成し、DMSOの中に溶かし、0.2%DMSO中の最終濃度10μMの細胞とともにインキュベートした。細胞増殖を調べるWST-1アッセイ(Sigma-Aldrich社)を、製造者の指示において推奨されているようにして実施した。
【0120】
生体内動物モデル
当業者であれば容易に理解し、評価できるように、HBVは非霊長類には自然に感染しないため、これまでHBV複製の小動物モデルは存在していない。この点に関し、HBVの最も重要なマウスモデルは、ヒト初代培養肝細胞を免疫低下マウスに注射することを含んでいる。ヒト初代培養肝細胞を用いたデータは本明細書にすでに提示されているため、肝細胞を小動物に注射しても本明細書に記載した結論に顕著な利点が加わるとは考えられないと判断した。
【0121】
統計分析
データは平均値±標本平均の標準誤差(s.e.m)で表記し、対応のないスチューデントのt検定を実施した。P<0.05を有意であると見なした。
【0122】
実施例1
肝臓細胞系と非肝臓細胞系からなるパネルを使用し、HBV複製の効率に影響を与える多数の宿主因子を同定した。
【0123】
これら因子に関係する遺伝子をノックダウンするのにsiRNAを用いることで、HBVコアプロモータによって制御される転写活性と、HBVゲノム全体の複製を調節できることがわかった。各遺伝子標的に適用されるsiRNAは、遺伝子(遺伝子ID)を下方調節するための同モル混合物の中に入れた。これは、これら遺伝子が、HBV複製の調節と制御に使用できる介入手段を開発するための標的として機能する可能性があるという理論を支持している。
【0124】
HBV転写スクリーニング法の開発
さまざまなヒト細胞系にトランスフェクトするのに使用するため、HBVコアプロモータ(HBVCP)-緑色蛍光タンパク質(GFP)コンストラクトを開発した。その結果、HBVCPに結合する宿主因子を有する細胞系が転写されることになり、それはGFPの発現増加によって証明される。このスクリーニング法を使用したところ、肝臓からの細胞(n=5)、大腸からの細胞(n=2)、胃からの細胞(n=2)リンパ様細胞からの細胞(n=1)、肺からの細胞(n=1)が、HBVCP-GFPコンストラクトをトランスフェクトした後にGFPに関して陽性であった。
【0125】
比較すると、対照CMV-GFPベクターは、調べたすべての細胞系でGFPを産生することができた。これは、非肝臓許容細胞系、すなわちKATOIII、AGS、HCT116、Caco-2、HL-60、A549におけるHBVCPの転写が本物であることを示している(
図2と
図3)。
【0126】
したがって非肝臓細胞系のパネルの間で共有されている異例な特性の発見は、HBVの転写と複製を推進する宿主細胞因子の同定に使用できる強力なツールである。
【0127】
宿主因子のスクリーニング
Affymetrix GeneChipヒトトランスクリプトームアレイ2.0を用いてさまざまな細胞系のトランスクリプトームプロファイルを調べ、許容細胞系(肝臓、大腸、胃、血液、肺)と非許容細胞系(膀胱、乳房、前立腺、子宮頸、肺)で発現が異なる遺伝子を同定した。
【0128】
表5には、HBV複製を許容する場合(n=11)と許容しない場合(n=6)で発現レベルの差が最も顕著な50個の遺伝子が掲載されている。表5は、HBV複製の効率と最も有意に相関している値を持つことがわかった転写因子、RNAプロセシング分子、シグナル伝達分子のリストである。
【0129】
したがって表5の遺伝子リストは、HBV許容細胞とHBV非許容細胞で発現が異なる遺伝子の集団を表わす。これらの遺伝子は、siRNAを用いて下方調節されたときにHBVCP活性が変化する。これは、同定された遺伝子またはその産物のHBVCP活性を調節するコードされた転写因子またはシグナル伝達経路調節因子を、HBV複製を制御するための標的にできることを示唆している。
【0130】
【0131】
確認アッセイ(siRNAと、ルシフェラーゼの読み取り)
HepG2細胞をsiRNAで処理し、HBVCP-ルシフェラーゼコンストラクトをトランスフェクトしてHBVCPの活性におけるこれら因子の機能的役割を評価した。表6に、HBVCPの活性に対するsiRNA処理の結果と効果の概略を示してあり、それは、検出されるルシフェラーゼの発現レベルに反映されている(TBC=確認が必要)。
【0132】
【0133】
確認アッセイ - (siRNA と、HBV pgRNAの読み取り)
【0134】
さまざまな細胞系にHBV完全長(1.1x)レプリコンをトランスフェクトし、そのトランスフェクションの効率を評価した。
【0135】
結果から、非肝臓細胞系(例えばKato III(胃)、HCT116、Caco-2(大腸))が完全長HBVゲノムの生成をサポートできることがわかった(
図4)。
【0136】
HepG2細胞をsiRNAで処理し、HBVレプリコンをトランスフェクトした。その結果としてsiRNA処理によって下方調節され、それに付随してpgRNAのレベルが低下することがわかった遺伝子を対照と比較した。結果は、完全なHBVウイルスゲノムの複製がこれら遺伝子によって影響されることを示唆していた(
図5)。
【0137】
表7は、(遺伝子名として示した)各標的を過剰発現と発現抑制の両方によって検討することを示している。これらの厳しい基準が満たされるためには、過剰発現した標的はHBV複製を促進するはずであり、標的の下方調節は、HBV複製を低下させる結果となるであろう。上記の50個の遺伝子のリストのうちで、標的の80~90%ほどはこの厳しい基準を満たさない。
【0138】
したがってHBV複製を調節する有望な標的である遺伝子は、下方調節されるか過剰発現したとき、HBVCP活性および/またはpgRNA発現を調節していると認識される。この点に関し、表6と表7の遺伝子は、そのようなスクリーニング基準を満たすことが示されたため、HBV複製を調節するための薬剤/治療剤を開発する能力を有する。
【0139】
【0140】
実施例2
HBV転写スクリーニング法の開発
組織制限宿主転写因子を同定するため、本明細書の実施例1に記載したようにして、HBVCPによって駆動されるGFPレポータコンストラクトを、肝臓細胞系と非肝臓細胞系からなるパネルにトランスフェクトした(n=14、
図6a)。驚くべきことに、肝臓細胞系以外に、大腸細胞(Caco-2)、胃細胞(Kato III、AGS)、肺細胞(A549)もGFP-陽性であった。膀胱、前立腺、骨、卵巣、皮膚に由来する他の非肝臓細胞は、GFPの発現が無視できる程度であった。あらゆる非肝臓細胞がアルブミンとトランスフェリンを欠いており(
図10a)、CMV-GFP対照に対してGFP-陽性であった(
図10b)。1つのウイルスレプリコン全体(
図10c)が、許容肝臓細胞と許容非肝臓細胞においてpgRNAを転写し(
図6b)、HBcAgを産生した(
図10d)。これは、HBV複製をサポートする宿主細胞環境が、肝臓細胞の中と選択された非肝臓細胞の中に同様に存在することを示している。
【0141】
宿主因子のスクリーニング
全部で14の細胞系のトランスクリプトームプロファイル(Affimetris HTA 2.0、(
図11a))から、肝臓HBV許容、非肝臓HBV許容、非肝臓HBV非許容という3つの明確に異なる細胞クラスターが明らかになった(
図6c)。許容と非許容の2つの組み合わせの間の遺伝子発現シグネチャーの違いの比較から、表8に示した54個の遺伝子が重複していることがわかった(
図11b、
図12a)。そのうちのSNAI2(
図6d)とHNF4αだけが、HBVCPの中に対応するDNA結合モチーフを持っている(
図7c)ため、HBV複製を調節する有望な標的としてさらに調べるために選択した。
【0142】
例えば表8の遺伝子リストは、HBV許容細胞とHBV非許容細胞の間で調節が異なる遺伝子を表わしているが、その発現は、細胞内のHBV許容性の特性と有意に相関している。
【0143】
【0144】
実施例3
SNAI2(Snail)
SNAI2は、ジンクフィンガー転写因子のsnailタンパク質ファミリーの一員であるSlugをコードしている。そのホモログであるSNAI1(Snail)とSNAI3(Smuc/ZNF293)は、HBV許容性と相関を示さなかった(
図13a)。Slugの発現は、非許容細胞では大きかったが、許容細胞では小さい/ない。このパターンが、対応する一次ヒト組織にも同様に見られた(
図6e)。
【0145】
Slugは、HBVCPの基礎(basal)コアプロモータ(BCP)の中のpgRNA開始因子と重複しているE-ボックス認識モチーフに結合する(
図6d)。これは、Slugの結合がpgRNAの開始に干渉する可能性があることを示している。それがHBVCPを抑制する役割は、6 bpのモチーフを欠失させること(
図13b)によって、またはそのコグネイト結合モチーフを「CAACTT」から「TTACGT」へと変異させること(
図6f、
図13c)によってHBVCP活性が増加することが示されたときに確認された(EMSA結合の喪失によっても確認された)。モチーフの欠失によりHBVCPはSlugの過剰発現の効果に対して非感受性になった(
図13d)。Slugを過剰発現させると、野生型HBVCPでは用量に依存した転写抑制が起こった(
図6g、
図13e)が、CMV-GFP対照においてはそうでなかった(
図6h)。
【0146】
HBV許容細胞におけるSlugの過剰発現がHBcAgの発現を止めて(
図6i)ヒト初代培養肝細胞でpgRNAを顕著に減らした(
図6j)ため、ウイルスレプリコン全体が効果的に抑制された。これらの結果は、合わせることで、SlugがHBVCPの位置でpgRNAの開始を阻止し、HBV複製を停止させることの強い証拠となる。
【0147】
HNF4αとアイソフォーム
HNF4αは、mRNA発現のパターンがSlugとは互いに排他的であり(
図12b)、そのことはタンパク質レベルで確認される(
図7a)。これは、これらが互いに逆のやり方で機能することを示唆している。HNF4αがHBVCPの位置で活性因子としての役割を果たしていることに合致して、エンハンサーII内の肝細胞核因子4α(HNF4α)結合モチーフの5'半部位「AGGTTA」を変異させるとHBVCPでの転写が減少する(
図14a)。
【0148】
HNF4αアイソフォームは許容細胞と非許容細胞で発現が異なる(
図14b、
図14c、
図14d)。クローニングされた6つのアイソフォームの機能の比較(
図14e)から、HNF4α3とHNF4α1がHBVCPの活性を駆動することに関してより強力であることが明らかになった(
図7b)。これは、HNF4α1が肝臓細胞において構成的に優勢なアイソフォームであることとよく相関している(
図7a)。より弱いHNF4α7/8/9アイソフォームは非肝臓許容細胞Kato III、Caco-2、AGSにおいて優勢であった。この関係は、過剰発現した核HNF4αアイソフォームが予想されるHBcAgの発現と相関することを見いだしたことにより確認された(
図14f)。
【0149】
したがって異なる組織における特定のHNF4αアイソフォームの発現がHBV転写の効率を調節していることが示された。
【0150】
Sox7と、HNF4αとの相互作用
HNF4α結合モチーフの3'末端に位置するのは、SOX(SRY関連HMG-ボックス)ファミリーの転写因子であるSox7に結合するように見える逆向きの別のモチーフである(
図7c)。Sox7は、許容細胞と非許容細胞の間で発現が異なるサブグループFの唯一のメンバーである(
図15a)。HBV許容細胞におけるSox7の少ない発現は、肝臓、大腸、胃の一次ヒト組織で確認された(
図15b)。
【0151】
Sox7とHNF4α結合モチーフはヌクレオチド1個が重複しているため、Sox7はHNF4αの結合に影響を与える可能性がある。Sox7モチーフ「TTTGTA」を有するEMSAプローブを用いると、そのプローブを「TCCATA」に変異させたときに目立つSox7バンドが引き下げられて大きく減少した(
図7d)。HNF4αも、HNF4αが欠けたPC-3細胞において過剰発現させたときに引き下げられた。HNF4α結合部位とSox7結合部位の間に「ACT」スペーサを挿入すると立体結合干渉が緩和され、より多くのHNF4αが「HNF4αN3Sox7」プローブに結合できるようになった。
【0152】
考察
したがって、Soxの結合はHNF4αの機能に干渉することがわかった。なぜなら、許容細胞においてSox7を過剰発現させると、HBVCPでの転写が用量に依存して低下した(
図7e、
図7f、
図15c)が、CMV-GFP対照ではそうでなかった(
図7e)からである。同様の結果が、結合モチーフの欠失で見られた(
図15d)。さらに、Sox7を過剰発現させるとウイルス全体の複製が抑制された。なぜならHBVレプリコンをトランスフェクトされた許容細胞では、HBcAg(
図7g)とpgRNA(
図7h)が失われたからである。したがってSox7は、HBVCPの位置でHNF4αとの結合と競合してHBV転写を抑制する。
【0153】
実施例4
SlugとSox7は独立な抑制因子であるが、両方の因子が同時に発現すると、HBV複製の抑制がより強力になり、より促進される(
図8a、
図8b)。
【0154】
ヒト初代培養肝細胞では、SlugとSox7の同時発現させると、pgRNAがほとんど検出されなかったため、ウイルス全体の複製が顕著に低下していた(
図8c)。Sox7は、T24、5637、PC-3という非許容細胞でだけ大きく発現する(
図8d)ため、これらの二重陽性細胞(Slug+ Sox7+)は、HBV複製に関してより大きな復元力を持つ可能性が大きい。そのことに合致して、PC-3における不活性なHBVCPをHNF4αの過剰発現だけによって活性化することはできなかった(
図16a)。下方調節されたSlugまたはSox7の発現だけでは、HNF4α3の存在下でHBVCPの転写を阻止するのに十分ではなく(
図8e)、SlugとSox7の両方が同時に下方調節されたときだけ、HNF4α3の存在下で転写が活性化された。
【0155】
同様に、5637細胞では、Slug結合モチーフとSox7結合モチーフの同時変異によって転写の障壁が引き上げられ、HNF4α3の存在下でHBVCPが活性化された(
図16b)。
【0156】
確認アッセイ(siRNA)
それらの協同効果のさらなる確認として、Slug siRNAで処理したPC-3(Sox7+)細胞とSaos-2(Sox7-)細胞でHNF4α3を過剰発現させた。Saos-2細胞系だけがプラスの反応をした(
図8f)。これは、単に因子Slugを1つだけ下方調節することにより、HBVがSox7非許容細胞において容易に複製されることを示している。実際、Slug siRNAで処理したSox7非許容細胞はHBVレプリコンからpgRNAを合成したのに対し、Sox7+細胞は非許容状態のままであった(
図8g)。
【0157】
これらの結果は、合わせて考えると、HNF4α単独ではSox7の存在下でSlug抑制信号に勝てないことと、SlugとSox7がHBV複製を沈黙させるHBV非許容性を決めていることを示している(
図8h)。
【0158】
HBV転写に対するSNAI2(Slug)とSox7の機能の確認
宿主のSlugとSox7の機能を確認するため、短いステープルドペプチドをそれぞれのDNA結合ドメインから作製し、HBV転写を沈黙させる能力を調べた。
【0159】
Slugは、Slugのアミノ酸残基128~264にまたがる5つのC
2H
2ジンクフィンガー(ZF)内でα-ヘリックスに対して-1、+2、+3、+6の位置にある保存された残基を通じてDNAに結合する(
図17a)。具体的には、ジンクフィンガーのそれぞれを構成しているアミノ酸残基は以下のようなアノーテーションが付けられる:ZF1=128~150;ZF2=159~181;ZF3=184~207;ZF4=213~235;ZF5=241~264。
【0160】
それぞれのα-ヘリックスについてステープルドペプチドを設計し(
図9a)、HBVCP-Lucレポータを用いてIC
50を比較することによって相対的な機能を明らかにした(
図9b)。使用した個々のステープルドペプチドのアミノ酸配列は以下の通りである:
・Slug-ZF1s=127-YST
FSGLAKHKQLH-150(配列番号:215);
・Slug-ZF2s=166-KEYVS
LGALKMHIRTH-181(配列番号:216);
・Slug-ZF3s=192-KAFSR
PWLLQGHIRTH-207(配列番号:217);
・Slug-ZF4s=222-FADRSNL
RAHLQTH-235(配列番号:218);
・Slug-ZF5s=250-FSR
MSLLHKHEES-262(配列番号:219)。
【0161】
これらSlug配列の下線は、ステープルが付着して架橋するアミノ酸残基を示している。具体的には、Slug-ZF1sのステープルは残基130および134と架橋し、Slug-ZF2sのステープルは残基171および178と架橋し、Slug-ZF3sのステープルは残基197および201と架橋し、Slug-ZF4sのステープルは残基229および233と架橋し、Slug-ZF5sのステープルは残基253および257と架橋する。
【0162】
Slug-ZF1sを除き、HBVCPの位置で転写を抑制することによってすべてのペプチドがSlug機能を取り戻した(
図9b)。注目すべきことに、Slug-ZF4sとSlug-ZF5sは強力なペプチドであったため、それぞれが、HepG2において、元のSlugタンパク質と同程度にHBVCPの転写を抑制した(
図9c)。これらは、Slugモチーフ欠失によって抑制効果をなくしたため、特にHBVCPの位置で機能した(
図17b)。ステープルのないものは転写抑制がより弱かったため、機能するには炭化水素ステープルが必要であった(
図17c)。
【0163】
Sox7は、アミノ酸残基45~116にまたがるHMG-ボックスを通じてDNAに結合する。Sox7は、3つのα-ヘリックス(H1~H3)を含んでおり、そのうちのH1=残基51~64、H2=残基71~85、H3=残基88~107である。
【0164】
Sox17-DNA結晶学的データに基づくとともに、オルソログとヒトSox17とSox18の間の配列保存に基づくと、α-ヘリックスH1とH2だけがDNAに対する大きな親和性を有する(
図18a)ため、H1とH2がH3よりもDNA結合にとって重要である可能性がある。ステープルドペプチドSox7-H1sとSox7-H2s(
図9d)は、独立に、HBVCP の転写を用量に依存して低下させることによりSox7の機能を模倣している(
図9e)。使用した個々のステープルドペプチドのアミノ酸配列は以下の通りである:
・Sox7-H1s=51-AFM
VWAKDERKRLA-64(配列番号:220);
・Sox7-H2s=71-HNAE
LSKMLGKSWKA-85(配列番号:221)。
【0165】
これらSox7配列の下線は、ステープルが付着して架橋するアミノ酸残基を示している。具体的には、Sox7-H1sのステープルは残基54および58と架橋し、Sox7-H2sのステープルは残基75および82と架橋する。
【0166】
これらステープルドペプチドの転写抑制は同程度だった(
図9f)が、Sox7タンパク質と同じようには機能しなかった。それは、おそらく、Sox7の機能回復には両方が必要であることを示している。
【0167】
ペプチド機能を保持するには、ペプチドステープリングが必要とされた。なぜならステープルのないものは、HBVCP転写を同様には抑制できなかったからである(
図19b)。
【0168】
考察
SlugとSox7が合わさってHBV複製を阻止するため、模倣体Slug-ZF4s、Slug-ZF5s、Sox7-H1s、Sox7-H2sは、合わせて使用するときに最大の抑制を実現できる可能性がある。模倣体を逐次的に添加することでそれが確認された。なぜなら、Slug模倣体は単独のSlug-ZF4sまたはSlug-ZF5sよりも優れており、Sox7-H2sの添加によってHBVCPの活性がさらに低下し、最大の低下はSox7-H1sも添加したときだったからである(
図9g)。HBV複製を抑制する能力を評価したとき、pgRNAがSlug模倣体だけで低下すること、そしてHBVレプリコンをトランスフェクトされたヒト初代培養肝細胞とHBV許容細胞にSox7模倣体を添加したときにpgRNAがさらに顕著に低下して無視できるレベルになることが観察された(
図9h)。細胞の増殖能力はDMSOで処理した対照と異なっていなかったため、これは細胞毒性の帰結でなかった(拡張データ、
図18c)。
【0169】
したがって本明細書に記載したステープルドペプチドと模倣体は、細胞系(
図9c、
図9e、
図9f)とヒト初代培養肝細胞(
図9g)においてHBV複製を抑制することができる。特にいくつかのペプチドは、HepG2肝臓細胞において、HBV抑制の程度が、タンパク質全体の過剰発現と同程度である。
【0170】
この点に関し、ステープルドペプチドまたは模倣体は、最適に機能するためには、長さとステープルの位置をわずかに変更することだけが必要とされる。さらに、ステープルドペプチドまたは模倣体は、HBV複製を抑制するのに十分な濃度で使用するとき、HepG2細胞に対して細胞毒性ではない(
図18c)。HepG2細胞は、細胞毒性アッセイで選択される細胞であることがしばしばあることに注目されたい。なぜならHepG2細胞は、解毒に必要な機能的酵素の大半を持っていて、ヒト初代培養肝細胞の次に来るからである。
【0171】
ヌクレオシド/ヌクレオチド類似体とインターフェロンをHBV感染の治療に使用できるとはいえ、HBVの複製を十分な低レベルに抑制して免疫クリアランスにすることはできないため、長期の使用が必要とされる。したがって本明細書に開示した知見とデータに基づいて開発したステープルドペプチドまたは模倣体により、HBV複製が最少になって現在の治療剤がより有効になり、したがってウイルス排除のために患者が薬に依存することを減らせるという利点が得られる可能性がある。この点に関し、本明細書に記載した代表的なステープルドペプチドは、元の全体タンパク質(例えばSlugとSox7)とほぼ同じくらい強力であったために著しく有利であることが示された。この点に関し、長さが約13~14個のアミノ酸からなる特定のペプチド配列が、HBVCPを抑制するのに必要な力価を有するため、十分に特異的であるように見える。
【0172】
図9hは、Slugからの2つの断片とSox7からの2つの断片が、HBV転写を抑制する非常に強い力を与えることを示している。これらの実験は、ヒト初代培養肝細胞(と細胞系)を用いて実施した。このことはさらに、これらの断片が、HBVの複製を調節するときと、本明細書に開示した方法と治療で使用するときに重要であることの裏付けと確認になっている。
【0173】
まとめると、本発明は、SlugとSox7が、独立に、細胞がHBV複製をサポートする能力を決める転写抑制因子であることを解明した。HNF4αは、ウイルス複製効率を増大させる活性化因子だが、SlugとSox7が存在しないときにだけそれが可能である。強力なHBVCP活性化因子であるHNF4α1は、特に肝臓細胞の中に豊富であるため、本明細書に開示したデータは、主に肝臓におけるHBV複製に関する基本的な見通しを提供する。
【0174】
SlugとSox7のDNA結合ドメインに由来するステープルドペプチドと模倣体を使用すると、HBVCP活性とpgRNA転写が抑制されることによってHBV複製がうまく停止することが示された。これは、本明細書に記載の同定された宿主因子を標的とすることによって新規なHBV治療剤を開発しうることを示している。さらに、ウイルスは複製を宿主因子に依存しているため、宿主抑制因子の分子による模倣というこのアプローチは、他のウイルスの複製を抑制するのにも有用である可能性がある。
【配列表】