(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】IV抗凝血処理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20220105BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20220105BHJP
A61L 33/06 20060101ALI20220105BHJP
A61L 33/10 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61M25/00 610
A61L29/08 100
A61L33/06 300
A61L33/10
(21)【出願番号】P 2018512120
(86)(22)【出願日】2016-08-31
(86)【国際出願番号】 US2016049698
(87)【国際公開番号】W WO2017040661
(87)【国際公開日】2017-03-09
【審査請求日】2018-03-29
【審判番号】
【審判請求日】2019-10-08
(32)【優先日】2015-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417-1880, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イーピン マー
(72)【発明者】
【氏名】ジェフ タイ
【合議体】
【審判長】佐々木 一浩
【審判官】平瀬 知明
【審判官】内藤 真徳
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-323386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0015057(US,A1)
【文献】特表2009-530040(JP,A)
【文献】特開昭60-232166(JP,A)
【文献】特開平2-138342(JP,A)
【文献】特開平2-229985(JP,A)
【文献】特開2011-212034(JP,A)
【文献】特開2009-273812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00-25/18
A61L 29/08
A61L 33/06
A61L 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内へと流れる流体が通る流体通路を画成するために協力する複数の内側面を具えた複数の構成部品と、
前記複数の内側面のうちの少なくとも第1の内側面にある一層以上の抗凝血剤コーティングと
を具え、
前記一層以上の抗凝血剤コーティングは、PEO-PPO-PEOおよびPEO-PBD-PEOからなるグループから選択される、トリブロック共重合体を具え、前記一層以上の抗凝血剤コーティングは、前記流体通路での血栓の形成を制限し、20ナノメートルよりも薄い厚さをそれぞれ有する一層以上のPEOブラシ層として前記第1の内側面に付与されて
おり、前記一層以上の抗凝血剤コーティングは、低分子量のヘパリンまたは他の抗凝血剤の薬剤分子を具えていることを特徴とする静脈内送達システム。
【請求項2】
前記一層以上の抗凝血剤コーティングが前記第1の内側面に共有結合されていることを特徴とする請求項1に記載の静脈内送達システム。
【請求項3】
前記第1の内側面は、前記複数の構成部品のうちの第1の構成部品にあり、この第1の構成部品は、
カテーテル管チップと、
カテーテル管と、
カテーテルアダプターと、
一体化延長チューブと、
ルアー接続ポートと
からなるグループから選択されることを特徴とする請求項1に記載の静脈内送達システム。
【請求項4】
前記複数の構成部品は複数の外側面をさらに具え、前記一層以上の抗凝血剤コーティングは、前記複数の内側面のほぼすべてと、前記複数の外側面のうちの第1の外側面とにあることを特徴とする請求項1に記載の静脈内送達システム。
【請求項5】
静脈内送達システムを製造するための方法であって、
この静脈内送達システムの複数の構成部品を用意し、これら複数の構成部品が患者の体内へと流れる流体が通る流体通路を画成するために協力する複数の内側面を具えるようにすることと、
抗凝血剤溶液を調合することであって、前記抗凝血剤溶液を調合することは、トリブロック共重合体を水または他の溶液に溶解させること
であって、前記トリブロック共重合体はPEO-PPO-PEOおよびPEO-PBD-PEOからなるグループから選択されることと、
低分子量のヘパリンまたは他の抗凝血剤の薬剤分子を前記水または前記他の溶液に溶解させることを具えることと、
前記複数の内側面のうちの少なくとも第1の内側面を前記抗凝血剤溶液にさらし、前記流体通路での血栓の形成を制限する抗凝血剤コーティングを形成することと、
前記抗凝血剤コーティングを少なくとも前記第1の内側面に接合させ、20ナノメートルよりも薄い厚さを有する一層のPEOブラシ層として前記第1の内側面に付与することと
を具えていることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記抗凝血剤コーティングを少なくとも前記第1の内側面に接合させることは、前記抗凝血剤コーティングと前記第1の内側面との間で共有結合を形成することを具えていることを特徴とする請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗凝血剤コーティングと前記第1の内側面との間で共有結合を形成することは、前記抗凝血剤コーティングおよび前記第1の内側面に放射線照射を与えて前記共有結合の形成を引き起こさせることを具えていることを特徴とする請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記抗凝血剤コーティングおよび前記第1の内側面に放射線照射を与えることは、ガンマ線照射と、紫外線照射と、電子線照射とからなるグループからの選択を前記抗凝血剤コーティングおよび前記第1の内側面に適用することを具えていることを特徴とする請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の内側面のうちの少なくとも前記第1の内側面を前記抗凝血剤溶液にさらすことは、前記抗凝血剤溶液に
カテーテル管チップと、
カテーテル管と、
カテーテルアダプターと、
一体化延長チューブと、
ルアー接続ポートと
からなるグループから選択される前記複数の構成部品のうちの第1の構成部品をさらすことを具えていることを特徴とする請求項
5に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の内側面のうちの少なくとも前記第1の内側面を前記抗凝血剤溶液にさらすことは、前記複数の内側面のほぼすべてを前記抗凝血剤溶液にさらすことを具え、
前記複数の構成部品は複数の外側面をさらに具え、この方法は、これら複数の外側面のうちの第1の外側面を前記抗凝血剤溶液にさらすことをさらに具えていることを特徴とする請求項
5に記載の方法。
【請求項11】
静脈内送達システムを製造するための方法であって、
この静脈内送達システムの複数の構成部品を用意することであって、これら複数の構成部品が患者の体内へと流れる流体を通す流体通路を画成するために協力する複数の内側面を具えるようになっており、これら複数の構成部品がカテーテル管と、アダプターと、一体化チューブとを少なくとも具えていることと、
抗凝血剤溶液を調合することであって、前記抗凝血剤溶液を調合することは、トリブロック共重合体を水または他の溶液に溶解させること
であって、前記トリブロック共重合体はPEO-PPO-PEOおよびPEO-PBD-PEOからなるグループから選択されることと、
低分子量のヘパリンまたは他の抗凝血剤の薬剤分子を前記水または前記他の溶液に溶解させることを具えることと、
前記複数の内側面のうちの少なくとも一部の内側面を前記抗凝血剤溶液にさらし、前記一部の内側面に前記流体通路での血栓の形成を制限する抗凝血剤コーティングを形成することであって、前記一部の内側面が少なくともカテーテル管と、アダプターと、一体化チューブとにあることと、
前記抗凝血剤コーティングおよび前記一部の内側面に放射線照射を与え、前記抗凝血剤コーティングと前記一部の内側面との間で共有結合を形成し、20ナノメートルよりも薄い厚さを有する一層のPEOブラシ層として前記一部の内側面に付与することと
を具えていることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静脈内(「IV」)送達のためのシステムおよび方法に概ね向けられ、これによって流体を患者へと直接投与することができる。より詳細には、本発明は静脈内送達システムの構成部品を製造するためのシステムおよび方法に向けられる。
【背景技術】
【0002】
本発明による静脈内送達システムは、流体を患者に送達するのに用いられる構成部品を記述するためにここで大まかに用いられ、動脈および静脈内および血管内および腹膜および非血管か、あるいは動脈または静脈内または血管内または腹膜または非血管への流体の投与で用いられる。もちろん、当業者は患者の体内の他の場所に流体を投与するために静脈内送達システムを使うことができる。
【0003】
流体を患者の血流中へと投与する一般的な一つの方法は、静脈内送達システムによる。多くの一般的な装具において、静脈内送達システムは、液体バッグの如き液体供給源と、この液体バッグから流体の流量を決定するために用いられる点滴チャンバーと、液体バッグと患者との間の結合を与えるための配管と、患者の静脈内に配することができるカテーテルの如き静脈アクセスユニットとを含むことができる。静脈内送達システムはまた、静脈内送達システムのピギーバック輸送と、注射器から静脈内送達システムの配管への薬剤の投与とを可能にするYコネクターをも含むことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周知のカテーテル設計は、血栓の形成のために閉塞を免れない。このような閉塞は、カテーテルの構成部品の早過ぎる交換と、避けがたい時間と、医療従事者からの注意とを必要とする可能性がある。このような閉塞は、カテーテル表面への血栓の形成によって一般的にもたらされ、いつかは流体の流れを阻止するのに十分な大きさへと成長する。流水洗浄を定期的に行った場合、時には、この血栓をカテーテルの外に洗い流すことができる。他の場合、流水洗浄は血栓を除去しない可能性がある。従って、従来のカテーテルの流水洗浄処理は信頼性が十分ではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、血栓の形成に対して強化された抵抗性を提供する静脈内送達システムと、このような静脈内送達システムを製造するための方法へと概ね向けられている。一実施形態において、この静脈内送達システムは、患者の体内へと流れる薬剤が通る流体通路を画成するために協力する複数の内側面を持った複数の構成部品を有することができる。この静脈内送達システムはまた、一層以上の抗凝血剤コーティングを複数の内側面のうちの少なくとも第1の内側面に有することができる。この一層以上の抗凝血剤コーティングは、流体通路での血栓の形成を制限することができる。
【0006】
一層以上の抗凝血剤コーティングは、トリブロック共重合体を含むことができる。このトリブロック共重合体を第1の内側面に共有結合させることができる。トリブロック共重合体は、PEO-PPO-PEOおよびPEO-PBD-PEOの一方であってよい。より詳細には、トリブロック共重合体をBASF社からの商品名プルロニック(登録商標)F108によって示すことができる。一層以上の抗凝血剤コーティングは、20ナノメートルよりも薄い厚さをそれぞれ有する一層以上のPEOブラシ層として第1の内側面に付与されることができる。
【0007】
第1の内側面は、複数の構成部品のうちの第1の構成部品にあってよい。この第1の構成部品は、カテーテル管チップか、カテーテル管か、カテーテルアダプターか、一体化延長チューブか、またはルアー接続ポートであってよい。
【0008】
複数の構成部品は、複数の外側面をさらに有することができる。一層以上の抗凝血剤コーティングは、複数の内側面のほぼすべてと、複数の外側面のうちの第1の外側面とにあってよい。
【0009】
一つの方法によると、静脈内送達システムを製造することができる。この方法は、静脈内送達システムの複数の構成部品を用意することを含むことができ、これら複数の構成部品は、患者の体内へと流れる流体が通る流体通路を画成するために協力する複数の内側面を有するようになっている。この方法は、抗凝血剤溶液を調合し、複数の内側面のうちの少なくとも第1の内側面を抗凝血剤溶液にさらし、流体通路での血栓の形成を制限する一層以上の抗凝血剤コーティングを形成することをさらに含むことができる。この方法は、一層以上の抗凝血剤コーティングを少なくとも第1の内側面に接合させることをさらに含むことができる。
【0010】
抗凝血剤溶液を調合することは、トリブロック共重合体を水に溶解させることを含むことができる。このトリブロック共重合体は、PEO-PPO-PEOまたはPEO-PBD-PEOであってよい。抗凝血剤溶液を調合することは、ナイシンおよび/または低分子量のヘパリンを水に溶解させることをさらに含むことができる。
【0011】
一層以上の抗凝血剤コーティングを少なくとも第1の内側面に接合させることは、一層以上の抗凝血剤コーティングと第1の内側面との間で共有結合を形成することを含むことができる。共有結合を形成することは、一層以上の抗凝血剤コーティングと第1の内側面とに放射線を照射して共有結合の形成を引き起こさせることを含むことができる。一層以上の抗凝血剤コーティングと第1の内側面とに放射線を照射することは、ガンマ線照射および紫外線照射および電子線照射か、あるいはガンマ線照射または紫外線照射または電子線照射を一層以上の抗凝血剤コーティングと第1の内側面とに与えることを含むことができる。
【0012】
複数の内側面のうちの少なくとも第1の内側面を抗凝血剤溶液にさらすことは、一層以上の抗凝血剤コーティングを一層以上のPEOブラシ層として第1の内側面に付与することを含むことができる。PEOブラシ層のそれぞれは、20ナノメートルよりも薄い厚さを有することができる。さらに、複数の内側面のうちの少なくとも第1の内側面を抗凝血剤溶液にさらすことは、複数の構成部品のうちの、カテーテル管チップか、カテーテル管か、カテーテルアダプターか、一体化延長チューブか、またはルアー接続ポートであってよい第1の構成部品を抗凝血剤溶液にさらすことを含むことができる。
【0013】
複数の内側面のうちの少なくとも第1の内側面を抗凝血剤溶液にさらすことは、複数の内側面のほぼすべてを抗凝血剤溶液にさらすことを含むことができる。複数の構成部品は、複数の外側面をさらに含むことができる。この方法は、複数の外側面のうちの第1の外側面を抗凝血剤溶液にさらすことをさらに含むことができる。
【0014】
一つの方法によると、静脈内送達システムを製造することができる。この方法は、静脈内送達システムの複数の構成部品を用意することを含むことができ、患者の体内へと流れる流体が通って流体通路を画成するために協力する複数の内側面を複数の構成部品が有するようになっている。複数の構成部品は、カテーテル管と、アダプターと、一体化チューブとを少なくとも含むことができる。この方法は、抗凝血剤溶液を調合し、複数の内側面のうちの少なくとも一部の内側面を抗凝血剤溶液にさらして一部の内側面に流体通路での血栓の形成を制限する抗凝血剤コーティングを形成することをさらに含むことができる。一部の内側面は、少なくともカテーテル管と、アダプターと、一体化チューブとにあってよい。この方法は、抗凝血剤コーティングおよび一部の内側面に放射線を照射して抗凝血剤コーティングと一部の内側面との間で共有結合を形成することをさらに含むことができる。
【0015】
抗凝血剤溶液を調合することは、トリブロック共重合体を水か、あるいは塩水の如き他の溶液に溶解させることを含むことができる。このトリブロック共重合体をBASF社からの商品名プルロニック(登録商標)F108によって示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態による静脈内送達システムの平面図である。
【
図2】
図1の静脈内送達システムを製造する方法を例示した一実施形態によるフローチャート図である。
【
図3】実施形態による静脈内送達システムの断面図である。
【
図4】いくつかの実施形態による静脈内送達システムの一部の拡大断面図である。
【
図5】いくつかの実施形態による静脈内送達システムの他の部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のこれらおよび他の特徴ならびに利点は、本発明の特定の実施形態へと組み込まれることができ、以下の説明および添付した特許請求の範囲から、より完全に明白となるか、以下に述べるような本発明の実践によって習得されることができる。本発明は、ここに記述したすべての有利な特徴およびすべての利点を本発明のすべての実施形態へと組み込むことを必要としない。
【0018】
本発明の上に列挙され、また他の特徴および利点を得られる方法が容易に理解されるように、上で簡潔に述べた本発明のより詳細な説明が添付した図面に例示されたその特定の実施形態を参照することによって与えられよう。これらの図面は、本発明の典型的な実施形態を単に描いているだけであり、従って本発明の範囲を限定するように考慮されるべきではない。
【0019】
同様な参照符号が同一または機能的に類似した部材を示す図面を参照することによって、現時点にて好ましい本発明の実施形態を理解することができる。ここに概ね記述されて図面に例示されたように、本発明の構成部品は、多種多様な異なる形態に配されると共にデザインされることが容易に理解されよう。従って、図面に表されるような以下のより詳細な説明は、本発明の範囲を限定するために意図しているのではなく、現時点での本発明の好ましい実施形態を単に表しているだけである。
【0020】
さらにまた、図面は単純化された、または一部の眺めを示していることがあり、図面における部材の寸法形状が、明瞭性のために誇張されているか、そうではなく比例していないことがある。加えて、単数形の "a" と、"an" と、"the" とは、文脈が別な方法で明確に指示していない限り、複数形の指示を含む。従って、例えば、一つの末端への言及は、一つ以上の末端への言及を含む。加えて、部材のリスト(例えば部材a,b,c)への参照がなされる場合、このような参照は、それ自身およびリストに記載されたすべての部材よりも少ない任意の組み合わせおよびリストに記載されたすべての部材の組み合わせか、あるいはそれ自身またはリストに記載されたすべての部材よりも少ない任意の組み合わせまたはリストに記載されたすべての部材の組み合わせによって、リストに記載された部材の何れか一つを含むことを意図している。
【0021】
「ほぼ」という用語は、列挙された特性か、パラメーターか、または値が厳密に達成されるのではなく、例えば公差と、測定誤差と、測定限界精度と、当業者らが周知の他の要因とを含むずれまたは変動が、意図された特性を得るための作用を妨げない量で生ずる可能性があることを意味する。
【0022】
ここで用いたように、「基端」か、「上端」か、「上」か、または「上方」という用語は、器具をその通常作業で用いる場合に、この器具を使用する臨床家に最も近く、この器具が用いられる患者から最も遠い器具の場所を指している。逆に、「末端」か、「下端」か、「下」か、または「下方」という用語は、器具をその通常作業で用いる場合に、この器具を使用する臨床家から最も遠く、この器具が用いられる患者から最も近い器具の場所を指している。
【0023】
ここで用いたように、「中」または「内側に」という用語は、器具に関し、通常の使用中にこの器具の内側を向いた場所を指している。逆に、ここで用いたように、「外」または「外側に」という用語は、器具に関し、通常の使用中にこの器具の外側を向いた場所を指している。
【0024】
図1を参照すると、一実施形態による静脈内送達システム100を平面図が例示している。この静脈内送達システム100は、薬剤または血液の如き流体を患者の体に搬送する複数の構成部品を有することができる。静脈内送達システム100は、一例として、そのいくつかが
図1に示された種々の構成部品を含むことができる。図示したように、この静脈内送達システム100は、カテーテル管チップ110と、カテーテル管120と、カテーテルアダプター130と、延長チューブ140と、クリップ150と、ルアー接続ポート160とを含むことができる。
【0025】
ルアー接続ポート160は、静脈内送達システム100をIVバッグまたは点滴チャンバー(図示せず)の如き流体供給源に結合するために用いられることができる。クリップ150は、延長チューブ140を圧縮することにより、この延長チューブ140を通る流量を選択的に低減または停止するために用いられることができる。このクリップ150は、使用者によって選択的に締め付け状態へと加圧されるか、またはこの締め付け状態から解放されることができる。延長チューブ140を通って流れる流体に加え、患者へと送出される他の流体の静脈内送達システム100への導入を容易にするため、カテーテルアダプター130を用いることができる。カテーテル管120は、流体が投与されるべき身体の一部、例えば血管へと患者の皮膚を通して差し込まれることができる。カテーテル管120の先細りとなった鋭利な先端であってよいカテーテル管チップ110は、組織を貫いて流体送出部位にアクセスするために用いられることができ、そして患者への流体の送出中に流体送出部位に存在することができる。
【0026】
図示したように、カテーテル管チップ110は、流体がカテーテル管チップ110から多方向に流れることを可能にし、これによって流体の流れを拡散させることができる複数の拡散孔170を有することが可能である。このカテーテル管チップ110は、拡散孔170を介して見ることができると共にカテーテル管チップ110を通る流体通路を画成するのに寄与する内側面180を有することができる。さらに、カテーテル管チップ110は、外側に面し、かつ流体送出部位へのカテーテル管チップ110の導入中に患者の組織に接触し、そして流体の送出中に組織と接触状態のままとなる外側面190を有することができる。
【0027】
クリップ150を除き、静脈内送達システム100の他の構成部品(すなわちカテーテル管120,カテーテルアダプター130,延長チューブ140およびルアー接続ポート160)のそれぞれは、カテーテル管チップ110のように内側面と外側面とを有することができる。静脈内送達システム100の流体を搬送する構成部品(カテーテル管チップ110,カテーテル管120,カテーテルアダプター130,延長チューブ140およびルアー接続ポート160)の種々の内側面は、静脈内送達システム100を通って患者の体へと流れる流体が通る流体通路を画成するために協力することができる。
【0028】
これらの内側面は、血液および/または患者へと投与される流体の如き他の流体と接触状態になり、これらは血栓の形成を潜在的に生じさせる可能性がある。さらに、カテーテル管チップ110の外側面190および対応するカテーテル管120の外側面の如きいくつかの外側面は、血液および/または患者の体内の他の流体と接触状態になろう。従って、これら内側面および外側面は、血栓が付着して成長する可能性のある場所である。このような血栓は血流を塞ぐ可能性がある。
【0029】
従って、これら内側面および外側面のいくつかまたはすべてに抗凝血剤コーティングを施すことが望ましい可能性がある。いくつかの実施形態において、静脈内送達システム100のすべての構成部品の内側面および外側面のすべてが抗凝血剤コーティングを有することができる。他の実施形態において、静脈内送達システム100の流体を搬送する構成部品(カテーテル管チップ110,カテーテル管120,カテーテルアダプター130,延長チューブ140およびルアー接続ポート160)の内側面および外側面だけが抗凝血剤コーティングを有することができる。
【0030】
また他の実施形態において、静脈内送達システム100の流体を搬送する構成部品の内側面のすべてが抗凝血剤コーティングを有し、何れの外側面にもない。体に接することが予測されるか、または流体を送出される外側面のみをコーティングすることができる。例えば、カテーテル管チップ110の外側面190および対応するカテーテル管120の外側面が、内側面と同様に抗凝血剤コーティングを有することができる。
【0031】
さらに他の実施形態において、静脈内送達システム100の流体を搬送する構成部品の外側面を除き、内側面のすべてが抗凝血剤コーティングを有することができる。また他の実施形態において、静脈内送達システム100の流体を搬送する構成部品の内側面のいくつかのみが抗凝血剤コーティングを有することができる。さらに他の実施形態において、静脈内送達システム100の流体を搬送する一つの構成部品の一つの内側面だけが抗凝血剤コーティングを有することができる。例えば、単にカテーテル管チップ110の内側面180のみが抗凝血剤コーティングを有することができる。抗凝血剤コーティングを有しているのがすべての内側面ではない実施形態において、血栓の形成および/または閉塞の危険性が最も大きいと思われる内側面のみにコーティングすることができる。
【0032】
この静脈内送達システム100は、単なる典型例に過ぎない。他の実施形態において、当業者らは、静脈内送達システム100の種々の構成部品を、この分野で知られた他の静脈内送達システムの構成部品を利用して省略および交換および追加するか、あるいは省略または交換または追加することができることを認識しよう。抗凝血剤コーティングを多種多様な方法にて形成することができる。いくつかの典型的な製造方法が
図2と関係付けて示されると共に記述されよう。
【0033】
図2は、一実施形態による静脈内送達システムを製造する方法200を例示するフローチャート図である。この方法200は、あたかも静脈内送達システム100を製造するために用いられるかの如く、
図1の静脈内送達システム100と関連付けて記述されよう。しかしながら、当業者らは、
図1の静脈内送達システム100に加えて種々様々な静脈内送達システムを製造するため、この方法200を本開示の範囲内で用いることができることを認識しよう。同様に、
図2の方法200とは別に、
図1の静脈内送達システム100を他の種々な方法の利用を通して本開示の範囲内で製造することができる。
【0034】
この方法200は、ステップ220で開始210して静脈内送達システム100を提供することができる。静脈内送達システム100の種々の構成部品(またはこの方法200が異なる静脈内送達システムを製造するために用いられる場合における他の構成部品)は、この分野にて知られた任意の方法の利用を通して製造されることができる。さらなるステップに着手する前に、この方法200の構成部品を必要に応じて(例えば
図1に例示した方法にて)相互に接続することができる。
【0035】
ステップ230において、抗凝血剤溶液を提供することができる。この抗凝血剤溶液は、例えば抗凝血剤を水と混ぜることによって形成されることができる。種々の抗凝血剤を用いることができる。いくつかの実施形態において、抗凝血剤がトリブロック共重合体であってよい。いくつかの典型的なトリブロック共重合体は、PEO-PPO-PEOおよびPEO-PBD-PEOを含み、ここでPEOはポリエチレンオキシドであり、PPOはポリプロピレンオキシドであり、PBDはポリブタジエンである。より詳細には、このトリブロック共重合体は、BASF社から市場に出されたプルロニック(登録商標)という名称により販売されている種類のものであってよい。また、より詳細には、トリブロック共重合体は、プルロニック(登録商標)F108およびプルロニック(登録商標)F68およびプルロニック(登録商標)F127か、プルロニックF108またはプルロニックF68またはプルロニックF127を含むことができる。いくつかの実施形態において、端活性化グループのプルロニック(登録商標)(E.G.A.P.)を用いることができる。
【0036】
本開示の範囲内で用いることができるこれらおよび他の抗凝血剤は、コーティングされる表面に吸着によって接合することができ、コーティングされる表面に「自己配列する」ことができる。例えば上述したトリブロック共重合体の場合、これらの分子のPEO成分が親水性であってよいのに対し、中央の分子(PPOまたはPBD)が疎水性であってよい。PPOまたはPBDの領域は、疎水性分子としてコーティングされる表面に自己配列し、コーティングされる表面との抗凝血剤溶液の接触に応じてコーティングされることができる。PEOの領域は、親水性分子としてコーティングされる表面から離れて針状となり、それによって「PEOブラシ層」を形成することができる。PEOブラシ層の存在は、コーティングされている内側面への(血清)蛋白の吸着および/または血小板の凝集を抑制し、それによってこれらの表面への血栓の形成を遅延および/または排除することができる。
【0037】
さまざまな濃度のトリブロック共重合体を水に溶解させることができる。いくつかの実施形態において、トリブロック共重合体の濃度は、水に1mLに対しておよそ1mgから、水1mLに対しておよそ20mgまで分布することができる。より詳細には、このトリブロック共重合体の濃度は、水1mLに対しておよそ2mgから、水1mLに対しておよそ10mgまで分布することができる。また、より詳細には、トリブロック共重合体の濃度は、水1mLに対しておよそ3mgから、水1mLに対しておよそ7mgまで分布することができる。さらにより詳細には、トリブロック共重合体の濃度は水1mLに対しておよそ5mgであってよい。
【0038】
抗凝血剤溶液中の抗凝血剤の実際の濃度は、次のステップにてコーティングされる表面に抗凝血剤をつける方法およびこれらの表面の表面積および用いられる抗凝血剤の個々の種類および他の要因か、あるいはコーティングされる表面に抗凝血剤をつける方法またはこれらの表面の表面積または用いられる抗凝血剤の個々の種類または他の要因に依存する可能性がある。従って、抗凝血剤溶液中の抗凝血剤の濃度を具体的な製造方法に対して調整することができる。その手掛かりは、十分な量の抗凝血剤を抗凝血剤溶液中に確実に存在させ、コーティングされるすべての表面を望ましい付着面積でコーティングすることができることである。コーティングされる表面に対する抗凝血剤の接合後に残るすべての懸濁分子が、コーティングされた表面から離れて溶出している可能性があるので、より高濃度の抗凝血剤を用いることを許容できる可能性がある。
【0039】
いくつかの実施形態において、非常に薄い、例えば厚さが1nmから20nmの厚さまで分布するPEOブラシ層をもたらすように、抗凝血剤溶液を用いることができる。より詳細には、PEOブラシ層は厚さが5nmから15nmまでの厚さに分布することができる。また、より詳細には、PEOブラシ層は厚さが8nmから12nmまで分布することができる。さらにより詳細には、PEOブラシ層は厚さがおよそ10nmであってよい。
【0040】
いくつかの実施形態において、抗凝血剤溶液はまた、抗凝血剤の特性を強めるために抗凝血剤添加物を含むこともできる。多くの異なる抗凝血剤添加物を本開示の範囲内で用いることができる。一例は低分子量のヘパリン(LMWH)である。器具の表面に対するトリブロック共重合体のコーティングの形成後に抗凝血剤添加物を水または他の溶液に溶解させることができる。次に、この抗凝血剤添加物はトリブロック共重合体ブラシ層に捕捉されよう。さまざまな濃度のLMWHを用いることができる。トリブロック共重合体と同様に、抗凝血剤溶液中の抗凝血剤添加物の濃度を、過渡な懸濁分子が離れて溶出する可能性と共に具体的な製造方法に対して調整することができる。
【0041】
抗凝血剤および/または抗凝血剤添加物は、規定通りに、任意の周知の処置により水に溶解させて抗凝血剤溶液を形成することができる。そして、ステップ230を完了させることができる。
【0042】
抗凝血剤溶液がひとたび調合されると、方法200はステップ240に進み、静脈内送達システム100のコーティングされる表面を抗凝血剤溶液にさらすことができる。これを多種多様な方法で行うことができる。
【0043】
一つの方法によると、「充填および排出」方法を用いることができる。例えば抗凝血剤溶液を収容する注射器を使用することによって、静脈内送達システム100を抗凝血剤溶液で満たすことができる。注射器の先端を静脈内送達システム100の開いた両端の一方(例えばカテーテル管チップ110の端部またはルアー接続ポート160の端部)に挿入することができる。静脈内送達システム100の他端を開けたままにしておき、抗凝血剤溶液が静脈内送達システム100を通り抜け、開いた他端部を通ってこの静脈内送達システム100を出るようにすることができる。代わりに、静脈内送達システム100の他端部を塞いで静脈内送達システム100を抗凝血剤溶液で満たす可能性をより高め、それにより抗凝血剤溶液に対して静脈内送達システム100の内側面をより完全にさらすことができるようになっている。
【0044】
静脈内送達システム100は、抗凝血剤溶液がコーティングされる表面とあらかじめ設定した長さの時間に亙り接触状態のままとなっているまで、塞がれたままであってよい。望むのであれば、注射器を除去することができ、これが接続された端部もまた、利便性のために塞ぐことができ、静脈内送達システム100を容易に所定位置にしておくことができると同時に抗凝血剤がコーティングされる表面に接合するようになっている。必要とされる時間の長さは、抗凝血剤溶液の特定の構成部品およびコーティングされる表面の表面積および抗凝血剤溶液中の種々の溶質の濃度および周囲温度および表面の疎水性および他の要因か、あるいは抗凝血剤溶液の特定の構成部品またはコーティングされる表面の表面積または抗凝血剤溶液中の種々の溶質の濃度または周囲温度または表面の疎水性または他の要因に依存する可能性がある。
【0045】
いくつかの実施形態において、抗凝血剤は、著しい休止時間を必要とせず、ほぼすぐにコーティングされる表面に吸着することができる。他の実施形態において、抗凝血剤溶液は、コーティングされる表面に抗凝血剤分子を自動配列して接合させるための十分な時間を与えるため、数分間か、数時間か、または数日間であっても、コーティングされる表面と接触状態に置いておかれることができる。いくつかの典型的な実施形態において、抗凝血剤溶液を、自動配列および接合が起こることを可能にするため、室温(23℃)にておよそ4時間の間、保温するために置いておくことができる。
【0046】
前述したように、一つ以上の内側面に加え、静脈内送達システム100の外側面の一つ以上をコーティングすることが望ましい可能性がある。これを達成するため、別な曝露方法を用いることができる。別な一実施形態によると、静脈内送達システム100を抗凝血剤溶液中に浸漬させることができる。この静脈内送達システム100は、抗凝血剤溶液中にその全体を浸漬させることができ、代わりに、静脈内送達システム100のコーティングされる構成部品の内側面および外側面のみを浸漬することができる。前述したように抗凝血剤の接合および自動配列のための最適な期間の間、静脈内送達システム100(またはその一部)を抗凝血剤溶液中に浸したままにすることができる。
【0047】
これらの暴露方法は、単なる典型例に過ぎない。当業者らは、表面を溶液の溶質にさらすことができる任意の周知の方法が、コーティングされる静脈内送達システム100の表面を抗凝血剤および/または抗凝血剤添加物にさらすために用いることができることを認識しよう。一つの典型的な代わりの方法は、抗凝血剤溶液をコーティングされる表面に吹き付けることである。この吹き付けは、抗凝血剤溶液を霧化したような細かなミストであってよく、それによって表面の相対的に迅速かつ平坦な付着量を与える。
【0048】
暴露がひとたび完了すると、静脈内送達システム100を抗凝血剤溶液から取り出して乾燥できるようにすることが可能である。前に示したように、何らかの余剰の懸濁分子(例えば抗凝血剤および抗菌性添加物および抗凝血剤添加物か、あるいは抗凝血剤または抗菌性添加物または抗凝血剤添加物)がコーティングされた表面から離れて溶出している可能性がある。
【0049】
さて、コーティングされる表面は、これらの表面への抗凝血剤の接合および自己配列によって形成された抗凝血剤コーティングをそれぞれ有することができる。表面への抗凝血剤コーティングの接合は、カテーテルの使用中での血栓の形成の阻止および/または抵抗に関して十分である可能性がある。しかしながら、いくつかの実施形態において、抗凝血剤コーティングを所定位置に存続させるのに役立たせると共に抗凝血剤コーティングの有効寿命を延ばすため、あるいは抗凝血剤コーティングを所定位置に存続させるのに役立たせるか、または抗凝血剤コーティングの有効寿命を延ばすため、抗凝血剤コーティングをよりしっかりと表面に結合させることが望ましい可能性がある。
【0050】
従って、コーティングされる表面に抗凝血剤コーティングがひとたび形成されると、この方法200は、必要に応じて抗凝血剤コーティングがコーティングされる表面に接合させられるステップ250に進むことができる。いろいろな方法でこれを行うことができる。いくつかの例示的な実施形態によると、トリブロック共重合体とこれらが存在する表面との間で共有結合を形成することができる。いくつかの実施形態によると、抗凝血剤コーティングとこれらが存在する表面とに放射線照射を付与することによって、これを行うことができる。
【0051】
放射線照射を多種多様な措置によって付与することができる。典型的な措置は、 ガンマ線照射と、紫外線照射と、電子線照射とを含むが、これらに限定されない。放射線照射は、トリブロック共重合体とこれらが供給される表面との間で共有結合が形成されることをもたらす十分な時間に亙って実施することができる。形成される共有結合のための十分な時間を与えるため、数分間か、数時間か、または数日間であっても、放射線照射を実施することができる。一実施例によると、60Co線源による80kGvの線量を8日間に亙り、表面および抗凝血剤コーティングに放射線照射することができる。
【0052】
放射線照射の付与に代わる選択肢において、共有結合を形成するために任意の他に周知の方法を用いることができる。このような代りの選択肢は、共有結合の形成をもたらすか、あるいは促進するため、結合剤および/または他の化学薬品を抗凝血剤溶液に添加することを含むことができる。さらに、他の選択肢において、熱エネルギーの適用の如き他の方法を用い、共有結合に加えて一つ以上の仕組みの利用を通し、表面に対する抗凝血剤層の接合を強化することができる。
【0053】
抗凝血剤コーティングが十分な強度を伴って表面にひとたび接合させられると、これら表面および抗凝血剤コーティングを水または他のリンス剤ですすぎ、緩く結合したあらゆるトリブロック共重合体を除去することができる。そして、この方法200を終了290することができる。静脈内送達システム100は使用可能な状態にあろう。抗凝血剤コーティングは、静脈内送達システム100の内側面により画成された流体通路内および/または静脈内送達システム100の外側面での血栓の形成を、抗凝血剤コーティングが付与されたところに依存して阻止または遅らせることができる。
【0054】
図3~
図5は、静脈内送達システム100の複数の内側面および少なくとも一つの外側面への抗凝血剤コーティング300を例示している。いくつかの実施形態において、この抗凝血剤コーティング300を隔壁302の末端面に施すことができる。