IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルベマール・ユーロプ・エスピーアールエルの特許一覧

特許6993342ニッケル含有混合金属-酸化物/炭素バルク水素化プロセス触媒およびその適用
<>
  • 特許-ニッケル含有混合金属-酸化物/炭素バルク水素化プロセス触媒およびその適用 図1
  • 特許-ニッケル含有混合金属-酸化物/炭素バルク水素化プロセス触媒およびその適用 図2
  • 特許-ニッケル含有混合金属-酸化物/炭素バルク水素化プロセス触媒およびその適用 図3
  • 特許-ニッケル含有混合金属-酸化物/炭素バルク水素化プロセス触媒およびその適用 図4
  • 特許-ニッケル含有混合金属-酸化物/炭素バルク水素化プロセス触媒およびその適用 図5
  • 特許-ニッケル含有混合金属-酸化物/炭素バルク水素化プロセス触媒およびその適用 図6
  • 特許-ニッケル含有混合金属-酸化物/炭素バルク水素化プロセス触媒およびその適用 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ニッケル含有混合金属-酸化物/炭素バルク水素化プロセス触媒およびその適用
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/883 20060101AFI20220105BHJP
   B01J 23/888 20060101ALI20220105BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20220105BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220105BHJP
   B01J 37/20 20060101ALI20220105BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20220105BHJP
   B01J 27/051 20060101ALI20220105BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B01J23/883 M
B01J23/888 M
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J37/20
B01J37/00 D
B01J27/051 M
C10G45/08 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018539942
(86)(22)【出願日】2017-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2017052122
(87)【国際公開番号】W WO2017134090
(87)【国際公開日】2017-08-10
【審査請求日】2019-11-18
(31)【優先権主張番号】62/289,707
(32)【優先日】2016-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508375653
【氏名又は名称】アルベマール・ユーロプ・エスピーアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブ アリー ベルグベルフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルヘルムス クレメンス ジョゼフ フェールマン
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド ジャン フイベルツ
(72)【発明者】
【氏名】ソンヤ アイズバウツ-スピコバ
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-506702(JP,A)
【文献】特表2004-511326(JP,A)
【文献】特表2011-502047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素供給原料の水素化プロセスのためのNiW、NiMoまたはNiMoWバルク触媒前駆物質化合物であって、
前記バルク触媒前駆物質化合物が、ニッケル酸化物と、モリブデン酸化物またはタングステン酸化物またはそれらの混合物と、有機添加物を部分的に分解して形成される有機成分とを含み、
モリブデン酸化物およびタングステン酸化物の合計量が少なくとも30wt%であり、モリブデンおよびタングステンの合計に対するニッケルのモル比が、0.05より高く、炭素の量が、10~30wt%であり、モリブデンおよびタングステンの合計に対する炭素のモル比が、1.5~10であり、
前記有機添加物が、酢酸、アスパラギン酸、クエン酸、蟻酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリオキシル酸、ケトグルタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、プロピオン酸、ピルビン酸、琥珀酸、フルクトース、グルコース、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、キシリトール、セリンおよびこれらの混合物のいずれかから選択され、
前記バルク触媒前駆物質化合物が、透過型電子顕微鏡により検出されたNi-結晶を含む、バルク触媒前駆物質化合物。
【請求項2】
物理吸着により測定されたBET-SAが、40m/gより小さい、請求項1に記載のバルク触媒前駆物質化合物。
【請求項3】
1.54の波長でX線放射を使用し記録したXRDパターンにおいて、45°2θにピークを有する、請求項1に記載のバルク触媒前駆物質化合物。
【請求項4】
1.54の波長でX線放射を使用し記録したXRDパターンにおいて、10~40°2θの範囲に、2°2θより小さい半値全幅(FWHM)のピークが存在しないことを特徴とする、請求項1に記載のバルク触媒前駆物質化合物。
【請求項5】
モリブデンおよびタングステンの合計に対する炭素のモル比が、1.5~7.0である、請求項1に記載のバルク触媒前駆物質化合物。
【請求項6】
モリブデンおよびタングステンの合計に対するニッケルのモル比が、0.10~1.05である、請求項1に記載のバルク触媒前駆物質化合物。
【請求項7】
モリブデンおよびタングステンの合計に対するニッケルのモル比が、0.20~0.75である、請求項5に記載のバルク触媒前駆物質化合物。
【請求項8】
ニッケル酸化物の量が、2~30wt%である、請求項1に記載のバルク触媒前駆物質化合物。
【請求項9】
モリブデン酸化物とタングステン酸化物の合計量が、40~80wt%である、請求項1に記載のバルク触媒前駆物質化合物。
【請求項10】
硫黄および窒素含有有機化合物を含む炭化水素供給原料の水素化プロセスの方法であって、
炭化水素供給原料を請求項1~9に記載のいずれかのバルク触媒前駆物質化合物から得られるNiW、NiMoまたはNiMoW酸化物バルク触媒と接触させる工程を含み、
前記酸化物バルク触媒が、反応器1リットル当りの、2.0モルのモリブデンおよびタングステンの合計、という最小金属充填量を含み、
モリブデンおよびタングステンの合計に対するニッケルのモル比が、0.05より高く、モリブデンおよびタングステンの合計に対する炭素のモル比が、1.5~10である、方法。
【請求項11】
前記触媒が、1.54の波長でX線放射を使用し記録したXRDパターンにおいて、45°2θにピークを有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記触媒が、シリカ、シリカ-アルミナ、アルミナ、チタニア、チタニアがコートされたアルミナ、ジルコニア、ベントナイト、アタパルジャイト、またはそれらの混合物を含む無機バインダー、を含む請求項10に記載の方法。
【請求項13】
反応器1リットル当りの、モリブデンおよびタングステンの合計の金属充填量が3.0~7.0モルである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
モリブデンおよびタングステンの合計に対する炭素のモル比が、1.5~7.0である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
モリブデンおよびタングステンの合計に対するニッケルのモル比が、0.10~1.05である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
モリブデンおよびタングステンの合計に対するニッケルのモル比が、0.20~0.75である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~9に記載のいずれかのNiW、NiMoまたはNiMoWバルク触媒前駆物質化合物の製造方法であって、
a)ニッケルと、モリブデンまたはタングステンまたはそれらの混合物とを含む、1またはそれ以上の可溶性金属化合物と、
1またはそれ以上の有機化合物とを含むプロトン性液体の溶液とを作製する工程であって、モリブデンおよびタングステンの合計に対するニッケルのモル比が、0.05より高く、
b)前記プロトン性液体を蒸発させる工程、および、
c)金属-有機相を部分的に分解して、前記バルク触媒前駆物質を作製する工程、とを含み、モリブデンおよびタングステンの合計に対する炭素のモル比が、1.5~10であり、
前記1またはそれ以上の有機化合物が、酢酸、アスパラギン酸、クエン酸、蟻酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリオキシル酸、ケトグルタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、プロピオン酸、ピルビン酸、琥珀酸、フルクトース、グルコース、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、キシリトール、セリンおよびこれらの混合物のいずれかから選択される、方法。
【請求項18】
1またはそれ以上の有機化合物が、有機酸または糖である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法によって得られるバルク触媒前駆物質化合物を成形する工程を含む、酸化物触媒の製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、前記バルク触媒前駆物質の成形が、無機バインダーおよび水とともに押出物を形成し、前記押出物を少なくとも120°Cの温度で乾燥する工程を含む、酸化触媒の製造方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法によって得られるバルク触媒前駆物質化合物を硫化する工程を含む、硫化触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化プロセスのためのニッケル含有バルク触媒に関する。この触媒は、金属塩等の、第VIII族および第VIB族金属を含有する反応物が、少なくとも1の有機酸、ポリオールまたは糖と混合される方法により準備される。結果として得られた混合物は、熱処理され、そして硫化される。この触媒は、水素化プロセスに使用でき、特に、炭化水素供給原料の水素化脱硫および水素化脱窒に使用できる。
【背景技術】
【0002】
炭化水素供給原料の水素化プロセスは概して、触媒の存在下で、そして水素化処理条件下で、典型的には、上昇された温度および上昇された圧力で炭化水素供給原料を水素と反応させることにおける、全てのプロセスを包含する。水素化プロセスという用語は、水素化、水素化脱硫、水素化脱窒、水素化脱金属、水素化脱芳香族、水素化脱酸素、水素化異性化、水素化脱ろう、水素化分解およびマイルド水素化分解等のプロセスを含むが、これらに限られない。
【0003】
一般的に、従来の水素化プロセス触媒は、担体(またはサポート)と、担体に堆積される第VIB族金属成分および第VIII族非貴金属成分とから構成される。この触媒は、担体を所望の金属化合物の水溶液に含浸させ、その後1またはそれ以上の乾燥および/または焼成工程を行うことにより準備することができる。
【0004】
その他の「担持された」触媒の作製技術は、米国特許第4113605号に説明されている。この技術では、とりわけ、炭酸ニッケルをMoOと反応させ結晶質モリブデン酸ニッケルを作製し、引き続いてこれをアルミナと混合し、押出する。独国特許第3029266号では、炭酸ニッケルをWOと混合し、結果として得られた化合物と、アルミナを硝酸ニッケルおよびタングステン酸アンモニウム等の化合物に含浸したものとを混合する。
【0005】
近年は、担体無しで使用できる、一般的にバルク触媒と呼ばれる触媒の提供が注目されている。WO99/03578では、バルク水素化プロセス触媒化合物の作製方法が説明され、このバルク水素化プロセス触媒化合物は、1つの第VIII族非貴金属および2つの第VIB族金属を有するバルク金属酸化物粒子を含み、硫化物の不存在下で、ニッケル、モリブデン、およびタングステン化合物と反応および共沈殿させることにより得られる。
【0006】
WO00/41810は、バルク金属酸化物粒子を含む水素化プロセス触媒の作製方法を説明している。この方法では、1またはそれ以上の第VIII族非貴金属および2つまたはそれ以上の第VIB族金属をプロトン性液体と反応させる。金属化合物は、反応中、少なくとも部分的に固体状態であり、最終的には、特定XRDパターンを有する(ナノ)結晶質混合金属酸化物相を含む固体が得られる。WO00/41810はまた、水素化プロセスの使用に都合のよい形態で水素化プロセス触媒を作製することも開示している。たとえば、押出成形により成形し、そして、成形を促進するために、そして成形された触媒に機械的強度を与えるために、得られたバルク金属酸化物粒子を少量の追加材料、たとえばバインダー材料と構成する。
【0007】
米国特許7951746は、非晶質バルク触媒前駆物質および最終的な触媒の作製方法を説明している。最終的な触媒は、(i)コバルトおよびモリブデンまたはタングステン、(ii)非晶質前駆物質を含み、(iii)有機錯化酸ベースの炭素含有化合物20~60wt%、および、(iv)16m/g以下の表面積を有する。
【0008】
米国特許6566296クレームは、触媒化合物作製のプロセスを記載しており、このプロセスでは、第VIII族非貴金属成分および少なくとも第VIB族金属成分を組み合わせ、有機添加物を、作製のいかなる段階においても加えることができることを記載している。第VIII族および第VIB族成分の合計量に対する有機添加物のモル比は、少なくとも0.01である。実施例では、NiMoW酸化触媒の作製で、触媒成形時、または含浸後にジエチレングリコールを加えることが記載されている。ここでも、得られた固体触媒は、XRDパターンに、特定ピークを有することを特徴とする(ナノ)結晶質混合金属酸化物相を含む。
【0009】
上述のバルク触媒化合物は、優れた水素化プロセス活性を有するが、当該技術には、さらに改良された水素化プロセス活性、特に、水素化脱硫(HDS)、および水素化脱窒(HDN)、ならびにディーゼルおよび減圧軽油(VGO)等の特定ターゲット炭化水素供給原料の水素化における、新規なバルク触媒化合物を開発するニーズが継続的に存在する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一態様は、Niと、Moおよび/またはWと、有機成分とを含むバルク触媒前駆物質(すなわち、担体が加えられていない)であって、C:(Mo+W)のモル比は、1.5~10の範囲である。バルク触媒前駆物質は、金属前駆体と、有機剤との混合物から準備される。この有機剤は、部分的に分解されて、金属酸化物/C混合相を形成し、これがバルク触媒前駆体となる。このバルク触媒前駆物質は、(i)実質的に非水溶性であり、(ii)測定可能な孔隙容積または表面積を有さず、(iii)XRDの特徴から、(ナノ)結晶質金属酸化物相を含有しない。バルク触媒は、バルク触媒前駆体から作製される。従来の液体相硫化後、活性硫化バルク触媒が形成され、この活性硫化バルク触媒は、異なる水素化プロセスへの適用において、非常に高い活性を有する。酸化触媒の硫化後、硫化触媒は、(i)N物理吸着およびヘキサン吸着により測定された表面積を示す可能性があり、(ii)硫化中にいくつかのCを失う可能性がある。
【0011】
1の実施形態では、ニッケルと、モリブデンおよび/またはタングステンと、有機成分とを含み、モリブデン酸化物とタングステン酸化物の合計量が少なくとも30wt%であり、C:(Mo+W)のモル比が1.5~10の範囲であるバルク触媒前駆物質化合物が開示されている。Ni:(Mo+W)比は、少なくとも0.05である。
【0012】
他の実施形態においては、押出成形、ペレット化、および/またはビーディング等の、当業界において周知の方法で、バルク触媒前駆物質を成形することにより得られるバルク触媒を提供する。バルク触媒において、最小金属充填量は、1リットルの反応器につき、モリブデンとタングステン合計で2.0モルであり、モリブデンとタングステンとの合計に対するニッケルのモル比は、0.05より多く、モリブデンとタングステン合計に対する炭素のモル比は、1.5~10であることを特徴とする。このバルク触媒のMoO+WO添加量は、担持された水素化プロセス触媒において、典型的に適用されるよりも、多い。他の実施形態においては、上記バルク触媒化合物を硫化することにより形成する、硫化触媒を提供する。
【0013】
他の実施形態においては、バルク触媒前駆物質の作製方法が開示されている。この方法は、少なくとも1つのNi化合物および少なくとも1つの第VIB族金属化合物を、少なくとも1つの有機剤と配合し、溶液を作製することを含む。溶液は、そして蒸発および乾燥される。乾燥は、スプレー乾燥、フリーズ乾燥、またはプレート乾燥等の、通常利用可能な乾燥方法を使用して行うことができる。乾燥された材料は、そして約300°C~約500°Cでさらに熱処理され、バルク触媒前駆体が形成される。バルク触媒前駆体は、バルク触媒を得るための、当業界において周知のいかなる方法でも成形できる。バルク触媒はそして、硫化条件下で硫化されて、硫化触媒が作製される。
【0014】
他の実施形態においては、炭化水素供給原料の水素化プロセス方法を提供する。この方法は、供給材料を硫化バルク触媒と接触させることを含み、硫化バルク触媒は、上述のバルク触媒を硫化することにより形成される。
【0015】
本発明のその他の態様によると、炭化水素供給原料の水素化プロセスを提供し、供給材料は、水素化処理条件下で上述のバルク触媒化合物と接触する。本発明のバルク触媒化合物は、複数の供給材料を処理するのに実質的に全ての水素化プロセスにて、幅広い反応条件下で、使用することができるが、これらに限られない。幅広い反応条件には、以下が含まれる:供給材料を水素化分解の前に前処理、供給材料を触媒的に分解する前に前処理、または供給材料を処理して、特定最大硫黄濃度の輸送燃料を生成する。一般的に、これら反応条件は、以下を含む:約200°~約450°Cの温度範囲、約5~約300バールの範囲の水素圧、約0.1~約10h-1の範囲の液空間速度(LHSV)、および約50~約2000Nl/lの範囲のH/油比。しかし、本発明の触媒を、より詳しくは、少なくとも以下を含む条件で、ディーゼル油または減圧軽油を含む供給材料の水素化脱硫(HDS)、水素化脱窒(HDN)、および水素化脱芳香族(HDA)の水素化プロセスにおいて使用することが好ましい:約0.1~約10h-1の範囲の液空間速度(LHSV)、および約50~約2000Nl/lの範囲のH/油比。バルク触媒前駆物質化合物は、多くの異なる留出供給物流を処理するにあたり、30~80バールの範囲の使用において改良された水素化脱硫活性を示す。本発明のバルク触媒前駆物質は、減圧軽油留分の処理およびより広い圧力範囲においての処理等の他の水素化プロセスでも利点があるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】は、本発明のバルク触媒前駆体1-A~1-D、比較バルク触媒前駆物質1-Eおよび比較バルク触媒1-EのXRDパターンを示す。
図2】は、バルク触媒前駆物質1-Aの拡大TEM写真を示す。
図3】は、バルク触媒前駆物質1-Bの拡大TEM写真を示す。
図4】は、バルク触媒前駆物質1-Cの拡大TEM写真を示す。
図5】は、本発明のバルク触媒前駆物質2-Aおよび比較バルク触媒前駆物質2-BのXRDパターンを示す。
図6】は、本発明のバルク触媒前駆物質3-Aおよび比較バルク触媒前駆物質3-BのXRDパターンを示す。
図7】は、本発明のバルク触媒4-Aおよび4-BのXRDパターンを示す。
【発明の詳細な説明】
【0017】
Niと、Moおよび/またはWと、有機相とを含むバルク触媒前駆物質(すなわち、担体が加えられていない)であって、C:(Mo+W)のモル比が1.5~10の範囲であり、(i)実質的に非水溶性であり、(ii)測定可能な孔隙容積または表面積を有さず、(iii)XRDに示される通り(ナノ)結晶質金属-酸化物相を有さないバルク触媒前駆物質は、異なる方法で作製されたバルク触媒に対し多くの利点を有する。
【0018】
本特許で説明される作製方法は、従来技術におけるバルク触媒の作製方法とは異なる。バルク触媒前駆物質は、有機剤含有NiW、NiMoまたはNiMoW溶液を乾燥し、引き続いて高温で分解することにより得られ、大部分が非晶質NiMo/W-C相で、バルク触媒前駆体を構成するものを結果として得る。本発明のバルク触媒前駆体は、結晶質金属-酸化物相が存在しないことを特徴とする。従来技術からわかるように、(ナノ)結晶質金属-酸化物相は、これら材料のXRDパターンの特定ピークを有することから明らかなように、一般的にバルク触媒前駆体に見受けられる。
【0019】
バルク触媒に担体が存在しないことは、このタイプのシステムに金属酸化物相を好適に分散することを非常に困難にする。よって、沈殿 または熱処理プロセス中に、(ナノ)結晶質金属-酸化物相が形成される。本発明のバルク触媒前駆体は、高濃度の金属-酸化物にかかわらず、そのような結晶質相が驚くべきことに存在しない。本発明のバルク触媒前駆体は、熱処理後に残る炭素質相が金属-酸化物相の分散剤として作用するため、結晶質金属-酸化物相の形成を防ぐと考えられる。
【0020】
理論に限定されることは避けたいところであるが、酸化触媒前駆物質に結晶質金属-酸化物相が一切存在しないことは、金属-酸化物相が良好に分散されていることを示すと推測でき、酸化相が活性金属-硫化物に転換される時に活性サイトを多く有する触媒を結果として得る。従来技術の方法で作製された触媒に対し、新規に発明された触媒では高活性が見受けられる。
【0021】
固体触媒前駆物質は、金属-前駆体含有溶液を、乾燥するまで蒸発することにより得られる。これによって、触媒化合物が完全な柔軟性を達成する:溶液中に存在する金属前駆体の、全てとはいかなくともほとんどがバルク触媒前駆体となる。従来技術において周知のその他のバルク触媒作製時に一般的に行われるように、特定の金属-酸化物相の沈殿においては、一方、化合物は、この不溶相の化学量論により定義される。本発明の触媒においては、たとえば、触媒のNi:(Mo+W)比を容易に調節できる。一般的に水素化プロセスへの適用においては、Ni量が、活性相のプロモータとして作用するNi-原子で完全に修飾されたMoSおよび/またはWS結晶子の形成に十分であるため、0.20~0.75のNi:(Mo+W)比が適用される。しかし、場合によっては、低コストのため、これより低い比が好ましい。0.75より高いNi:(Mo+W)比は、一般的に、最終的な触媒において分離されたNi-硫化物相の形成を引き起こし、これは場合によって、Ni-硫化物相の機能が所望の場合、適用される。
【0022】
沈殿プロセスを回避すると、濾過後に金属が混入した溶剤に対処する必要がなくなる。触媒を商業的に生産する場合、これは大いに有利である。
【0023】
以下に説明された方法にて作製されたバルク触媒では、X線回折(XRD)または透過型電子顕微鏡(TEM)の使用により、熱処理するとバルク触媒前駆物質を形成する混合金属-酸化物/C相中に、金属Ni-結晶の形成が見受けられる。Ni(0)の特徴的ピークでは、45°および52° 2θにバルク触媒前駆物質のXRDパターンが観察でき、このことが金属Ni(0)結晶の存在を示す。Ni格子に溶解したCの存在は排除できない。そのようなNiCx相の形成はXRDパターンに著しい相違をもたらさないためである。簡明さを目的として、以下では、Ni(0)またはNiCx結晶をNi-結晶とする。バルク触媒前駆体中にNi-結晶が形成されると、Ni-硫化物結晶が硫化触媒中に存在する。これらのNi-結晶は、触媒前駆体作製の工程として、350°Cより高い温度で熱処理中に存在する条件下で形成される。熱処理中の有機物の分解は、還元性環境をもたらせ、これが温度と相まってNi-酸化物相の還元およびNi-結晶の形成をもたらす。結果として得られたバルク触媒前駆物質は結晶質金属-酸化物相を一切含有していないが、よって完全に非晶質というわけではない。350°Cより高い温度で焼成された本発明のバルク触媒前駆体のXRDパターンでは、Ni-結晶に由来する、45°2θにピークを有する。このタイプの触媒の特徴は、電子顕微鏡でみられるように、Ni-結晶が形成された時、その粒子サイズ分布が非常に明確であり、結晶が触媒前駆物質相中にわたって一様に分散されている。分散性の高いNi-結晶の特徴は、形成された炭素マトリックスが活性相のための分散剤として効果を奏していることを示している。Ni-結晶が触媒作製中に分離されたままであるのと同じように、活性触媒中の混合Ni(Mo/W)-硫化物結晶子も、良好に分散されていると考える。
【0024】
また、NiMo、NiMoWおよびNiW化合物は、通常はCoMo-触媒に適用する条件下であっても改良された活性を示す。錯体の代わりにポリオールまたは糖を使用してもこのタイプの触媒が作製できることが示されている。
【0025】
これら知見に関する多様な実施形態については、さらに詳しく以下に説明する。
【0026】
バルク触媒前駆体およびバルク触媒の作製
一般的なプロセスには、以下の工程を伴う。第一に、有機剤および金属前駆体をよく混合する。金属-有機錯体が形成されるのが理想的だが、これは必須ではない。実際には、金属-前駆体および有機化合物の溶液を作製することにより達成する。好ましくは、溶剤として水を使用する。第二に、第一工程で使用された溶剤を除去する。溶剤除去は、静的オーブンで熱乾燥をすることにより行うことができ、スプレー乾燥またはその他のいかなるデバイスでも行うことができるが、フリーズ乾燥または真空乾燥でも行うことができる。第三に、金属-有機相を部分的分解し、バルク触媒前駆体を構成する混合金属-酸化物/炭素相を形成する。これは、実施においては不活性雰囲気下(たとえば、窒素または蒸気)で熱処理により行われるが、有機物の完全な燃焼が防げる限り空気も使用することができる。この処理中、有機相のC:O比およびC:H比が増加し、材料がより一層炭素質になる。これは、化学反応、たとえば、硫酸で処理することにより行うこともできる。第四に、触媒前駆物質を成形しバルク触媒を得る。これは、押出成形、ペレット化、ビーディング、圧縮または当業界において周知のその他のいかなる好適方法により行うことができる。第五に、バルク触媒を硫化し硫化バルク触媒を形成する。これは、反応器内でまたは外でいかなる周知の方法により行うことができる。上記が好ましい順番であるが、他の順番でも実行できる。たとえば、前駆物質を分解する前に成形でき、また、成形の前に硫化できる。
【0027】
プロセスにおける第一の工程では、第VIII族金属、第VIB族金属、および有機剤を含有する溶液を用意する。所望のモル比で収量できるように、適切な所定の濃度で第VIII族化合物および第VIB族化合物の両方を加えることが好ましい。0.05~1.05のNi:(Mo+W)のモル比が望ましい。より好ましくは、Ni:(Mo+W)比が0.10~1.05、特に、0.20~0.75のNi:(Mo+W)比が最も好ましい。第VIII族および第VIB族金属反応物および有機剤は、プロトン性液体と混合される。混合物はそして、透明溶液が作製されるまで、約1時間、たびたび熱処理され、常時撹拌した。熱処理工程は、金属前駆体の反応が必要な時のみに、溶解のために必要となる。触媒中全体において理想的な均一性を達成するために、すべての成分が完全に溶解した透明溶液が作製されることが望ましいが、少量の未反応開始材料または開始材料の反応後に形成された沈殿物の存在は許容する。
【0028】
好ましい第VIII族金属としてはNiが挙げられる。好ましい第VIB族金属としては、MoおよびWが挙げられる。好適なNi前駆物質化合物としては、炭素塩類および酢酸塩類、およびこれらの混合物が含まれ、たとえば、炭酸ニッケル、ヒドロキシ炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、クエン酸ニッケル、水酸化ニッケル、ニッケル酸化物、硝酸ニッケル、硫酸ニッケルおよびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限られない。好ましいモリブデンおよびタングステン前駆物質化合物には、モリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、燐モリブデン酸塩、ケイモリブデン酸、Mo-アセチルアセトナート、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、燐タングステン鉱、シリコタングステート、タングステン酸ナトリウム、およびこれらの混合物が含まれる。
【0029】
作製において使用できる有機物は、炭水化物(少なくともC、HおよびOを含有する、生物由来である必要のない分子)である。有機物は、異なる分子の混合物とすることができる。典型的には、有機分子合計におけるwt% Cは、約50%より低い。有機分子は、少なくとも2つの酸素原子を含有する。有機分子は、別個の化合物として加えることができるが、金属-塩の対イオンを通じて加えることもできる。有機添加物またはこの使用において好適なものの例としては以下が含まれるが、これらに限られない:酢酸、アスパラギン酸、クエン酸、蟻酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリオキシル酸、ケトグルタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、プロピオン酸、ピルビン酸、琥珀酸、フルクトース、グルコース、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、キシリトール、セリンおよびこれらの混合物。いずれにせよ、バルク触媒前駆体においてC:(Mo+W)のモル比が1.5~10となるように、有機添加物が加えられる。
【0030】
溶剤としては、金属化合物の反応を妨害するものでなければどのようなものでもよい。溶剤の例としては、水等のプロトン性液体、およびメタノール、エタノール等のアルコール、またはこれらの混合物が挙げられる。好ましいプロトン性液体としては、水およびその他のプロトン性液体の混合物が挙げられ、たとえばアルコールおよび水等の混合物が使用される。より好ましいプロトン性液体としては、水のみが使用される。
【0031】
プロセスにおいて、異なるプロトン性液体が同時に使用できることが明白である。たとえば、他の金属化合物水溶液に、金属化合物のエタノール懸濁液を加えることができる。場合によっては、自身の結晶水に溶解する金属化合物を使用することができる。本件では、結晶水は、プロトン性液体として作用する。
【0032】
触媒作製プロセスにおける第二工程は、乾燥工程である。乾燥工程は、混合物から水、または当初溶液の作製に使用されたその他のいかなる溶剤をも除去するために行われる。乾燥工程において、有機剤の分解は一般的に行われない。熱処理プロフィールに従って、複数工程で熱処理および/または乾燥を行うことができ、これは本発明の範囲である。熱処理または乾燥工程は、当業界において周知のいかなる方法でも行うことができる。特に、乾燥工程は、熱ガスを使用してたとえばトレイドライヤーにて対流乾燥で行うことができ、あるいは、スプレー乾燥により行うことができる。あるいは、乾燥は、たとえば、回転ディスクドライヤー、パドルドライヤーまたは掻き取り式熱交換器を使用して、接触乾燥により行うことができる。マイクロ波熱処理、フリーズ乾燥または真空乾燥による乾燥が、その他の選択肢となる。スプレー乾燥は、典型的には、約100°~約200°C、好ましくは約120°~約180°Cの範囲の出口温度にて行われる。
【0033】
触媒作製プロセスにおける第三工程は、金属-有機相の部分分解である。乾燥した触媒前駆物質をさらなる熱処理段階または焼成工程に供する。この追加の熱処理段階は、約300°C~約500°Cの温度で、効果のある時間行うことができる。この効果のある時間は、約1秒~約24時間、好ましくは、約1分~約5時間の範囲となる。熱処理(分解の可能性も含む)は、空気等の酸素含有ガス流、窒素等の不活性ガス流、または酸素含有および不活性ガスの組み合わせの存在下で行うことができる。この工程の時間、温度、および条件は、有機添加物の部分分解のみが行われるように選択される。熱処理工程後には、多量の炭素がまだ存在し、バルク触媒前駆物質中のC:(Mo+W)原子比は、少なくとも1.5である。分解工程後に形成される、有機相のC:O比およびC:H比は、一般的に第一工程にて加えられる有機剤より低い。一般的に、温度が高いと、触媒の活性が低くなることが判明した。それでも、高い温度で形成された炭素質相は、耐火性がより高く、C:O比およびC:H比が高く、水素化処理条件下でより安定しているため、高い温度で焼成を行うことが好ましい。説明した通り、Ni-結晶は、作製におけるこの工程中で形成してもよい。熱処理後には、金属-酸化物および明確に定義されない有機相の他に、金属Ni-結晶が存在していてもよい。それでも、部分分解工程の後に形成される材料は、混合金属酸化物/C相として言及される。実施においては、乾燥および分解工程は、1つの工程として行ってもよい。
【0034】
この工程の後、バルク触媒前駆物質が得られ、典型的には、以下の組成上の性質を有する:
MoO + WOwt%が30~85wt%
Ni:(Mo+W)のモル比 0.05より高い
C:(Mo+W)のモル比 1.5~10
物理吸着により測定されたBET-SA < 40 m/g
【0035】
触媒作製プロセスにおける第四工程は、成形工程である。熱処理後に得られたバルク触媒前駆物質化合物は、所望の触媒の最終使用に好適な形状に直接形つくり、バルク触媒を得ることができる。成形は、第二熱処理/焼成工程の前に行うこともできる。成形は、押出成形、ペレット化、ビーディングおよび/またはスプレー乾燥を含む。バルク触媒化合物がスラリータイプの反応器、流体床、移動床、または拡張床で使用される場合、一般的に、スプレー乾燥またはビーディングが使用される。固定床または沸騰床での使用は、一般的に、バルク触媒化合物を押出して、ペレット化および/またはビーズ化する。押出成形、ペレット化またはビーディングの場合、どの段階でも成形工程の前にまたはその途中に、従来の成形を促進するようなどのような添加物でも加えることができる。これらの添加物は、ステアリン酸アルミニウム、界面活性剤、グラファイト、デンプン、メチルセルロース、ベントナイト、アタパルジャイト、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、またはこれらの混合物を含む。
【0036】
バルク触媒押出物を作製するには、バルク触媒前駆物質を無機添加物および水と混合し、有機押し出し助剤の存在下で押出する。使用するバインダー材料は、水素化プロセス触媒においてバインダーとして従来使用されるどのような材料でも使用できる。例としては、シリカ、従来のシリカ-アルミナ、シリカがコートされたアルミナおよびアルミナがコートされたシリカ等のシリカ-アルミナ、(擬)ベーム石、またはギブス石、チタニア、チタニアがコートされたアルミナ等のアルミナ、ジルコニア、サポナイト、ベントナイト、アタパルジャイト、カオリン、海泡石またはヒドロタルサイト等のカチオン粘土またはアニオン粘土、またはそれらの混合物が挙げられる。好ましいバインダーとしては、シリカ、シリカ-アルミナ、アルミナ、チタニア、チタニアがコートされたアルミナ、ジルコニア、ベントナイト、アタパルジャイト、またはそれらの混合物が挙げられる。これらのバインダーは、そのままで、またはペプチゼーション後に使用してもよい。バルク触媒前駆物質は、粉砕され、より小さな粒子サイズにされることもあり、これは、固定床反応器においてより高い圧縮かさ密度(CBD)を達成するのに役立つ。これは、反応器容量につき高い金属充填量を得るのに有益となり、また、圧縮粒子の強度を増加させることができる。結果として得られた押出物は、120°Cで乾燥されるか、作製の工程2(乾燥工程)で使用された温度より低い温度でさらなる熱処理に供される。
【0037】
バインダー材料を作製の工程1(溶液の作製)中あるいは後に、または工程2(乾燥工程)中あるいは後に加えてもよい。バインダー材料が触媒押出物の至る所でよりよく分布されるようにするには、こうするのが好ましい。これらのバインダー材料は、触媒に結合性および強度を与えるためだけに加えられるものであり、バルク触媒前駆体の一部を構成するものではなく、触媒活性に寄与しない。
【0038】
工程4後に得られた成形された材料は、以下を特徴とするバルク触媒として言及する:
Ni:(Mo+W) モル比 0.05より高い
C:(Mo+W)のモル比 1.5~10
最小金属充填量 2.0 モル (Mo+W)/リットル 反応器容量
【0039】
プロセスには、任意で硫化工程(工程5)を含めてもよい。硫化は、一般的に、作製直後またはいずれか1の工程後に、バルク触媒前駆体に、硫黄元素、水素硫化物、ジメチルジスルフィド(DMDS)、または有機または無機ポリ硫化物等の、硫黄含有化合物を接触させることにより行う。硫化工程は、液体および気相にて行うことができる。硫化は、バルク触媒化合物の作製に引き続いて行うことができる。硫化は、得られた金属硫化物がその酸化物に回復する工程の前に行わないようにすることが好ましい。得られた金属硫化物がその酸化物に回復するような工程とは、たとえば、熱処理またはスプレー乾燥または酸素含有雰囲気で行われるその他の高温度処理が含まれる。よって、バルク触媒化合物がスプレー乾燥および/またはその他のテクニックまたは酸素含有雰囲気下での熱処理に供される場合、硫化はこれらの方法の適用に後に行われることが好ましい。もちろん、これらの工程が不活性雰囲気下で行われる場合、硫化をこれらの工程の前に行うこともできる。バルク触媒化合物が固定床プロセスにおいて使用される場合、硫化は、成形工程の後に行われることが好ましく、酸化雰囲気下で熱処理が行われる場合、酸化雰囲気下での最後の熱処理後に行うことが好ましい。
【0040】
硫化は一般的にその場でおよび/または外部で行うことができる。好ましくは、硫化はその場で行い、すなわち、硫化は、酸化バルク触媒化合物が水素化プロセスユニットに搭載された後に、水素化プロセス反応器で行われることが好ましい。
【0041】
本発明のバルク触媒化合物は、特に、炭化水素供給原料の水素化プロセスに有益に使用できる。よって、発明は、炭化水素供給原料水素化プロセスの方法に関し、この方法は、炭化水素供給原料を水素化処理条件下で、金属酸化物/C相を含む触媒化合物と接触させる工程を含み、金属酸化物/C相は、少なくとも1つの第VIII族非貴金属、少なくとも1つの第VIB族金属、および、任意にNi-結晶を含む。
【0042】
バルク触媒前駆物質およびバルク触媒の特徴
Micromeretics Gemini-V分析器を使用し、触媒のN吸着等温線を得た。測定前に前処理としてサンプルを120°Cおよび真空に供した。いわゆるBrunauer-Ernett-Teller (BET)方法で表面積数値を得た。明細書中、以下においてこの数値はSA-BETと言及する。
【0043】
蛍光X線(XRF)を使用し、別個にC含有率を測定してバルク触媒前駆体またはバルク触媒の組成を判定した。触媒前駆物質のC含有率は、燃焼方法およびサンプル量につき形成されたCO量を検知することにより判定した。XRF測定前、典型的には600°Cで有機物が除去され金属-酸化物相が得られるように、触媒前駆物質を焼成処理に供した。同時に、焼成中の重量減少が測定された。焼成中の重量減少を使用して(LOI600°C)、また、焼成後にXRF[MeOx(wt%XRF)]により得られた金属酸化物の金属化合物を使用して、式1に基づき実際のバルク触媒前駆物質の組成またはバルク触媒の組成を計算した。
式1: MeO(wt%)=(100%-LOI600°C)*MeO(wt% XRF)
【0044】
Cuアノード搭載Bruker D8Advance回折計(X線放射、波長1.54Å)およびLYNXEYE検出器を使用してQ-QBragg-Brentano geometryでX線回折測定を行った。サンプルは、固定発散-散乱防止スリット0.5°を使用し、0.05°2qサイズのきざみで、4~70.0°2qまで測定された。関連化合物の結晶質金属-酸化物相(すなわちNiおよびMoおよびまたはWを含有)が存在すると、10~40°2θの範囲のXRDパターンにおいて少なくとも1つのピークを有するということが、当業界において周知である。
【0045】
XRDパターンにおけるピークの幅は、観察されている相の平均結晶子サイズの関数である。式2に示すシェラーの式は、XRDパターンの位置θにおけるピークの広さ(β、半値全幅、すなわちFWHM、ラジアン)から結晶子サイズ(τ)を導き出すのに広く使用されている(A.L.Patterson、Phys.Rev.56、978 1939)。0.9の数値は、無次元形状係数Kにしばしば使用され、αは、使用されたX線の波長:本件では1.54Å。40°2θにおける反射、5 nmの結晶サイズを有する結晶質相は、2°2θのFWHMという結果になることが容易に分かる。5nmより小さい結晶は、ピーク幅がさらに広くなる。
式2: τ=Kα/βcosθ
【0046】
この目的で、結晶質金属-酸化物相は、金属-酸化物結晶質ドメインの結晶サイズが5nmより大きい場合に存在する。よって、結晶質金属-酸化物相が発明の触媒前駆体に存在しないと述べられている場合は、発明の触媒前駆物質のXRDパターンが、10~40°2θの範囲で2°2θより小さいFWHMのピークを示さないという意味である。
【0047】
図1は、NiW、NiMoバルク触媒前駆体1-A~1-Dおよび(比較)NiMoWバルク触媒前駆物質1-Eおよびこの前駆物質から形成された触媒のXRDパターンを示す。本発明のバルク触媒前駆体のXRDパターンは、以下を示した:ピーク無し、すなわち材料がほとんど非晶質(バルク触媒前駆物質1-Aおよび1-D)であり、形成された炭素-相に起因する、いくつかの2°2θを超える非常に幅広のピーク(半値全幅、FWHM)(バルク触媒前駆体1-Bおよび1-C)、および/または部分分解工程中に形成されたNi-結晶に起因する2θ=45°および52°に位置する幅の狭いピーク(バルク触媒前駆体1-Bおよび1-C)。図5および6はその他の本発明のバルク触媒前駆体(2-Aおよび3-A)のXRDパターンを示し、図7は発明のバルク触媒4-Aおよび4-BのXRDパターンを示す。本発明のバルク触媒前駆体またはバルク触媒のXRDパターンはいずれも、10~40°の範囲の2θに、2°2θより小さいピークを有するFWHMを示さなかった。これは、これらのサンプルに結晶質金属-酸化物相が存在しないということを示す。
【0048】
NiMoW比較バルク触媒1-Eおよびその前駆物質のXRDパターンは、ピークを示し、2θ=36°および54°に位置する最高強度のものは、歪曲したNiWO相の形成に該当する。これらのピークのFWHMは、2°2θより小さく、上記に説明した定義による結晶質金属-酸化物相が存在することを示す。これは、沈殿により作製されたNiMo/W組成の化合物のバルク水素化プロセス触媒について従来技術において一般的に示されてきたことに適合する。
【0049】
発明の水素化プロセスにおける使用
本発明の触媒化合物は、200~450°Cの温度、5~300バールの水素圧、0.05~10h-1の液空間速度、および約50~約2000m/mの水素処理ガスレート(280~11236SCF/B)等の、幅広い反応条件下で複数の供給物を処理するのに、実質的に全ての水素化プロセスにて使用できる。本発明の文脈にて使用される水素化プロセスの表現は、上述の温度および圧力で炭化水素供給原料を水素と反応させる全てのプロセスを包含し、水素化、水素化脱硫、水素化脱窒、水素化脱金属、水素化脱芳香族、水素化脱酸素、水素化異性化、水素化脱ろう、水素化精製、水素化仕上げおよび水素化分解を含む。
【0050】
発明の触媒化合物は、特に炭化水素供給物から窒素および硫黄を除去するのに効果的である。よって、好ましい実施形態では、発明の触媒を、炭化水素供給原料から硫黄、窒素、または硫黄および窒素の組み合わせを除去するのに使用している。炭化水素供給原料を触媒化合物と接触させるのは、水素含有処理ガスの存在下で行われ、反応は効果的な水素化処理条件下で行われる。炭化水素供給原料を触媒化合物に接触させると、供給材料に比較して、窒素が少ない、硫黄が少ない、またはそれら両方が少ない、炭化水素生成物が作製される。
【0051】
炭化水素供給原料は、水素および炭素を含む材料である。本発明により、幅広い石油および化学炭化水素供給原料を水素化プロセスに供することができる。炭化水素供給原料は、石油原油、タールサンド、石炭液化、シェール油、および炭化水素合成により得られた、または誘導されたものを含む。本発明の触媒化合物は、炭化水素供給原料から硫黄、窒素または硫黄および窒素の組み合わせを除去するのに特に効果的である。炭化水素供給原料は、多くは硫黄および/または窒素含有有機化合物の形態で窒素および硫黄混入物を含有していることがよくある。窒素混入物は、塩基性、非塩基性を含む。
【0052】
実施例
以下の実施例は説明のためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0053】
実施例1では、HGO供給物を高圧で(80バール)水素化精製する処理において、本発明に基づき作製したNiMo/Wバルク触媒前駆体と当業界において周知のNiMoWバルク触媒およびサポートされた(担体に担持された)NiMo-参考触媒と比較した。
【0054】
上述の実施形態に基づき第一のバルク触媒前駆物質を作製した。ビーカーグラス中、17.01gのD-ソルビトール(≧98wt%)を100mlの水に熱処理無しで溶解した。溶液が透明になると、10.59gの七モリブデン酸アンモニウム(81.5wt%MoO)を加え、透明な溶液を得た。次に、9.00gの酢酸(96wt%酢酸)および7.47gの酢酸ニッケル(23.6wt%Ni)を加えた。緑の透明溶液を得た。時計皿をビーカーの上に置いて水の蒸発を防ぎながら、この溶液を85°Cで1時間加熱した。溶液は透明のままであった。この溶液を磁器皿に移し、120°Cで14時間、周囲条件下でオーブンに入れた。乾燥後、濃い緑の固体を得た。この材料を回転か焼炉に入れ、窒素流下、5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で325°Cに加熱した。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表1に示す。このバルク触媒前駆物質のXRDパターンを図1に示す。このバルク触媒前駆体のTEMイメージ処理を行った。特徴的なイメージを拡大して図2に示す。これをバルク触媒前駆物質1-Aとした。
【0055】
上述の実施形態に基づき第二バルク触媒前駆物質を作製した。ビーカーグラス中、26.14gの酢酸ニッケル(23.58wt%Ni)を30.34gのグルコン酸水溶液(50wt%グルコン酸)に熱処理無しで溶解した。結果として得られた混合物を60°Cで15分間加熱し透明溶液を得た。次に、24.64gのメタタングステン酸アンモニウム(94.10wt%WO)を、溶液の温度を60°Cに保ちながら加えた。ここでもまた、透明溶液を得た。この溶液を磁器皿に移し120°Cで14時間、周囲条件下でオーブンに入れた。乾燥後、濃い緑の固体を得た。この材料を回転か焼炉に入れ、5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で窒素流下400°Cに加熱した。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表1に示す。このバルク触媒前駆物質のXRDパターンを図1に示す。このバルク触媒前駆体のTEMイメージ処理を行った。特徴的なイメージを拡大して図3に示す。これをバルク触媒前駆物質1-Bとした。
【0056】
上述の実施形態に基づき第三バルク触媒前駆物質を作製した。ビーカーグラス中、2.49gの酢酸ニッケル(23.6wt%Ni)を30.34gのグルコン酸水溶液(50wt%グルコン酸)に熱処理無しで溶解した。結果として得られた混合物を60°Cで15分間加熱し透明溶液を得た。次に、24.64gのメタタングステン酸アンモニウム(94.1wt%WO)を溶液の温度を60°Cに保ちながら加えた。ここでも、透明溶液を得た。この溶液を磁器皿に移し、120°Cで14時間、周囲条件下でオーブンに入れた。乾燥後、濃い緑の固体を得た。この材料を回転か焼炉に入れ、窒素流下、5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で400°Cに加熱した。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表1に示す。このバルク触媒前駆物質のXRDパターンを図1に示す。この触媒前駆体をTEMイメージ処理した。特徴的なイメージを拡大して図4に示す。これをバルク触媒前駆物質1-Cとした。
【0057】
上述の実施形態に基づき第四バルク触媒前駆物質を作製した。ビーカーグラス中、16.38gのαD-グルコース(無水、96%)を120mlの水に溶解した。グルコースを溶解した後、10.59gの七モリブデン酸アンモニウム(81.5wt%MoO)を加えた。次に、9.00gの酢酸(96wt%酢酸)および7.47gの酢酸ニッケル(23.6wt%Ni)を加えた。時計皿をビーカーの上に置いて水の蒸発を防ぎながら溶液を85°Cで1時間加熱した。結果として得られた溶液はまだ、少量の固体材料を含有していた。第二のビーカーグラスで16.83gのαD-グルコース(無水、96%)を120mlの水に溶解した。グルコースを溶解した後、10.59gの七モリブデン酸アンモニウム(81.5wt%MoO)を加えた。次に、9.00gの酢酸(96wt%酢酸)および7.47gの酢酸ニッケル(23.6wt%Ni)を加えた。結果として得られた溶液は、少量の由来不明の固体材料を含有していた。両方のビーカーの内容物を合わせて磁器皿に入れ、120°C、14時間周囲条件下でオーブンに入れた。乾燥後、濃い緑の固体を得た。この材料を回転か焼炉に入れ、窒素流下5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で325°Cに加熱した。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表1に示す。このバルク触媒前駆物質のXRDパターンを図1に示す。これをバルク触媒前駆物質1-Dとした。
【0058】
当業界において周知の教示に基づいて比較触媒を作製した。US6566296の教示に基づいてNiMoWバルク触媒を作製した。反応器に755gのニッケルヒドロキシ炭酸(70.0wt%Ni含有)および500mlの水を入れてスラリーにした。温度を60°Cに上昇し90gのモリブデン酸(90wt%MoO)を加えた。次に137gのタングステン酸(70.31wt%W)を加えた。この混合物を十分な時間反応させ開始材料の反応を完了した。結果として得られたスラリーをフィルターにかけ、沈殿物を得た。これを比較バルク触媒前駆物質1-Eとした。この材料のXRDパターンを図1に示す。597gの得られた固体を241.85gのベーム石および24.37gの65% HNOと混合し、混練して均一な混合物を得た。当業者に周知の通り、押出可能な混合物を得るために、押出成形用混合物の含水率は、(熱処理または水を加えることにより)調整された。混合物は、1.5mm直径の孔を使用し押出され、押出物を1時間120°Cで乾燥した。結果として得られた材料を回転か焼炉に入れ、空気流下5°C/分の傾斜率および1時間の保留時間で385°Cに加熱した。結果として得られた材料は、XRF分析に基づき以下の組成を有した:WO(31.4wt%)、NiO(31.3wt%)、MoO(20.6)およびAl(15.6wt%)。N物理吸着により測定された材料のSA-BETは、120m/gより大きかった。この表面積(SA)は部分的にAlに由来するものであるが、この成分が低濃度であることは、このように表面積(SA)が大きいことの理由ではない。これは、金属-酸化物バルク触媒前駆物質1-Eも大きいSA-BETを有することを意味する。引き続いて、4.4グラムのジエチレングリコールを計量し十分な量の水に希釈して押出物を孔隙容積含浸した。結果として得られた溶液を50gの上記焼成された押出物に加えた。含浸はおよそ30分間120°C、密閉容器で通常の混合下で行われた。次に、回転させながら、材料が乾燥し、全ての水分が蒸発したというサインとして、押出物が90°Cの温度に達するまで押出物を熱処理した。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表1に示す。この触媒のXRDパターンも図1に示す。これを比較バルク触媒1-Eとした。
【0059】
第二比較触媒として、留出供給物高P水素化精製のための市販触媒である、担持されたNiMo-Al触媒をテストに含めた。この触媒の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表1に示す。これを比較触媒1-Fとした。
【0060】
表1のデータから、バルク触媒前駆体1-A~1-Dの表面積(SA)は非常に小さく、全てのケースにおいて、N物理吸着方法を使用して測定できるものより小さいということがわかる。一方、比較触媒1-Eおよび1-Fでは、高い表面積(SA)が見受けられた。
【0061】
【表1】
【0062】
本発明のバルク触媒前駆体1-A~1-Dは、多量の炭素の存在およびC:(Mo+W)モル比が少なくとも4であることを特徴とする。さらに、比較触媒1-Eおよび1-Fに比較して、本発明の触媒の表面積は常に5 m/gより小さい。本発明のバルク触媒前駆体1-A~1-D、比較バルク触媒1-Eおよび比較バルク触媒1-Eの前駆物質のXRDパターンを図1に示す。比較バルク触媒前駆物質1-Eおよび比較バルク触媒1-Eのパターンは、2θ=36°および54°で最も強度の高いピークを示した。これらのピークは歪曲したナノ-結晶質NiWO相の存在に由来すると考えられる。本発明のバルク触媒前駆体1-A~1-DのXRDパターンでは、10~40°の2θ範囲に2°2θより小さいFWHMのピークが見受けられなかった。触媒1-Aおよび1-Bのパターンにおける45および52°2θで観られる狭いピーク(FWHMが1°2θより小さい)は、形成されたNi-結晶由来であると思われ、結晶質金属-酸化物相によるものではない。
【0063】
図2-4に示すバルク触媒前駆体1-A、1-Bおよび1-CのTEMイメージでは、Ni-結晶の存在が明確に見受けられる。発明のバルク触媒前駆物質の一般的な特徴は以下の通りである:形成されたNi-結晶は、良好に分散されている(i)サンプル中のいたるスペースで、粒子は、非常に均一に分散されており、(ii)粒子のサイズ分布は非常に狭い。図2にみられるように、バルク触媒前駆物質1-Aでは、Ni-結晶が小さく(直径<5nm)濃度が低い。この理由から、結晶質Ni-相の存在にも関わらず、対応するXRDパターンにピークが見られない。よって、XRDパターンにピークが一切存在しないことは、バルク触媒前駆体にNi-結晶が存在しないという意味ではない。TEM-マイクログラフ(図3および4)でのNi-結晶の存在は、バルク触媒前駆体1-Bおよび1-Cでより明白である。
【0064】
テスト手順:バルク触媒前駆体および比較触媒は、125~300μmのふるい分級サイズにされ、0.9mlの容量の反応器に搭載された。性能テストに使用されたテストユニットでは、並列で異なる触媒を同じ処理条件(温度、圧力、供給物およびH/油比)でテストできるようにし、たとえば、触媒取入量により各触媒のLHSVを調節できるようにした。2.5wt%DMDSを添加した(DMDS-spiked)LGO供給物を使用し、これを45バール、3.0のLHSV、300nl/lのH/油比で触媒に供給して、触媒を予備硫化した。予備硫化で使用された温度(T)プログラムを表2に示す。触媒の触媒活性を80バールの圧力、341°C、500 nl/lのH/油比、表3に示す供給物の特徴でHGOを処理したとして、評価した。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
異なる反応器における触媒の体積および重量、異なる反応条件下で結果として得られた生成物のSおよびN含有率を表4に示す。触媒取入量は、乾燥したもののグラム数で示す(g、d.b.)。600°C空気中で焼成後のバルク触媒前駆物質または触媒の重量ということである。まず、全てのバルク触媒前駆体は比較触媒1-F、市販のNiMo/Al触媒よりも高活性であることがわかる。2.0のLHSVで、比較触媒1-Fは、762ppmSおよび52ppmNの生成物を作製できた。バルク触媒前駆体1-A~1-Dおよび比較バルク触媒1-Eは、2.4のLHSVで、低濃度Nの生成物を得ることができ、これは、これら触媒の相対体積活性が、比較触媒1-Fよりも少なくとも20%高いことを示す。さらに、発明のバルク触媒前駆体1-A~1-DがHDN活性において比較バルク触媒1-Eよりも相当に活性であることがわかる。2.4のLHSVで、比較触媒1-Eは50ppmNの生成物を得ることができ、本発明の触媒は28ppmN以下の生成物を得ることができた。典型的には減圧軽油タイプの供給物の、水素化分解予備処理およびFCC予備処理等の、多くの水素化プロセス適用において、窒素の除去が主な目標である。これらの運転において、本発明のバルク触媒前駆体は全て、比較触媒1-Eに対しかなりの優位性があった。発明のバルク触媒前駆体1-A~1-Dが比較触媒に対し高活性であることは、これらの触媒の低SA-BETを考慮すると、驚くべきことである。
【0068】
【表4】
【0069】
実施例2では、本発明に基づき作製したNiWバルク触媒前駆物質と、当業界において周知のCoMoバルク触媒前駆物質と、担持されたCoMo-参考触媒とを低P(30バール)LGO供給物の水素化プロセスで比較した。ビーカーグラス中、周囲温度で12.44gの酢酸Ni(23.6wt%Ni)を30.34gのグルコン酸溶液(50wt%D-グルコン酸含有)に溶解した。常時撹拌下24.64gのメタタングステン酸アンモニウム(94.1wt%WO)を加え、溶液を70°Cに加熱し、透明溶液を得た。この溶液を静的オーブンで、120°Cで5時間乾燥した。結果として得られた褐色緑の固体を回転か焼炉に入れ、5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で窒素流下400°Cに加熱した。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表5に示す。このバルク触媒前駆物質のXRDパターンを図5に示す。これをバルク触媒前駆物質2-Aとした。
【0070】
次に、2つの比較触媒を作製した。まず、US7951746に開示されるプロセスにて、比較CoMoバルク触媒前駆物質を準備した。ビーカーグラス中、周囲温度で25.74gの酢酸コバルト(23.7wt%Co)を165mlのグリオキシル酸溶液(50wt%グリオキシル酸)に溶解した。36.38gの七モリブデン酸アンモニウム(81.5wt%MoO)を加え、常時撹拌下溶液を80°Cに加熱した。温度がおよそ60°Cに達したら、七モリブデン酸アンモニウムの反応が活発になり、泡の形成が見られた。80°Cで1時間撹拌後、ほとんど透明であるが、まだ少量の固体材料を含有する溶液を得た。結果として得られた混合物を120°Cで一晩静的オーブンで乾燥した。濃い色の固体を回転か焼炉に入れ、乾燥空気流下5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で325°Cに加熱した。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表5に示す。このバルク触媒前駆物質のXRDパターンを図5に示す。これを比較バルク触媒前駆物質2-Bとした。
【0071】
水素化精製触媒の作製に使用される市販のAl担体をCoMo-溶液に含浸させることにより、担持されたCoMo-Al触媒を準備した。γ-Al押出物は、267m/gのSA-BET、N脱着により決定された8nmの平均孔径、およびN物理吸着により決定された0.78ml/gaの孔隙容積を有した。Langmuir2013、29、207~215の文献に公開された通りの含浸溶液作製の方法を使用して、市販のCoMo-Al触媒に匹敵する金属充填量のCo 2+[CoMo10386-溶液を作製した。ビーカーグラスで180.0gのMoO(100%)を0.80lの水に混合し、含浸溶液を準備した。引き続いて、612.5gのH溶液を加え(30wt%H)、懸濁液を40°Cに加熱した。約2時間後、40°Cで撹拌し、透明な溶液を得た。この溶液に、少量ずつ、45分かけて79.9gのCoCO(46wt%Co)を加えた。結果として得られた混合物を90°Cに加熱し、2時間反応させた。溶液をそれぞれ50mlの溶液を含有する9のオートクレーブに分け、自発性圧力下150°Cに熱し、そこで2時間静置した。不活性ループB295搭載のベンチトップスプレードライヤー(BuchiMiniスプレードライヤーB-290)を使用し、結果として得られた溶液をスプレー乾燥した。スプレー乾燥中、入口温度は180°C、出口温度は100~110°Cであった。溶液はおよそ200ml/時間の処理量でスプレードライヤーに供した。得られた粉末を再度水に溶解し、含浸溶液を得た。この溶液をアルミナ担体に孔隙容積含浸させることにより、最終的な触媒を得た。溶液体積および濃度は、所望の最終的触媒化合物に想到するように、調整された。600°Cで焼成後、XRFにより、最終的な触媒は、23.81%のMoOおよび6.16%のCoOを含有したことがわかった。この化合物は、一般的にこのような使用に適用される市販のCoMo-Al触媒の化合物に適合していた。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表5に示す。これを比較触媒2-Cとした。
【0072】
表5のデータから、バルク触媒前駆物質2-Aの表面積(SA)は、N物理吸着方法を使用して測定するよりも小さい、ということがわかる。比較バルク触媒前駆物質2-Bの場合、表面積(SA)は非常に低く、比較触媒2-Cでは高い表面積(SA)が見受けられた。
【0073】
図5に、バルク触媒前駆物質2-Aおよび比較バルク触媒前駆物質2-BのXRDパターンを示す。いずれのバルク触媒前駆物質のXRDパターンでも、10~40°2θの範囲のピークは見受けられず、これは一切(ナノ)結晶質金属-酸化物相が存在しないことを示す。バルク触媒前駆物質2-AのXRDパターンでは、約45°2θで狭いピークを有し、これはNi-結晶の存在に由来する。このピークは、比較バルク触媒前駆物質2-Bでは存在しない。
【0074】
【表5】
【0075】
バルク触媒前駆体および担持された触媒は、125~300μmのふるい分級サイズにされ、0.9mlの容量の反応器に搭載された。性能テストに使用されたテストユニットでは、並列で異なる触媒を同じ処理条件でテストできるようにした。2.5wt%DMDSを添加したLGO供給物を使用し、3.0のLHSV、30バールおよび300nl/lのH/油比で触媒に供給して、触媒を予備硫化した。予備硫化で使用された温度(T)プログラムを表6に示す。触媒の触媒活性を30バールの圧力、350°C、200nl/lのH/油比、表7に示す供給物の特徴でLGOを処理したとして、評価した。
【0076】
【表6】
【0077】
【表7】
【0078】
異なる反応器でのサンプル体積および重量、および異なる反応条件下で結果として得られた生成物のS含有率を表8に示す。NiWバルク触媒前駆物質2-AのHDS活性は、比較CoMoバルク触媒前駆物質2-Bおよび比較CoMo-Al触媒2-Cの活性に比べて非常に高いことがわかる。NiWバルク触媒前駆物質2-Aは、1.5のLHSVで比較CoMoバルク触媒前駆物質2-B(89ppm)(1.2のLHSV)よりも、そして比較のサポート触媒2-C(240ppm)(1.5のLHSV)よりも低S値(12ppm)を達成できた。通常、CoMo化合物を有する触媒は、留出供給物の低P水素化プロセスに使用されるため、これは驚くべき発見である。
【0079】
【表8】
【0080】
実施例3では、本発明に基づき作製したNiMoWバルク触媒前駆物質と、全く同じ作製方法を使用したCoMoバルク触媒前駆物質を、中程度P(45バール)でLGO供給物処理した場合において比較した。ビーカーグラス中、12.44gの酢酸ニッケル(23.6wt%Ni)を30.34gのグルコン酸溶液(50wt%D-グルコン酸)に周囲温度で溶解した。12.32gのメタタングステン酸アンモニウム(94.1wt%WO)および8.83gの七モリブデン酸アンモニウム(81.5wt%MoO)を加え、常時撹拌下溶液を70°Cに加熱し、水の蒸発を防ぎながら、1時間この温度を保った。結果として得られた溶液は静的オーブンで120°Cで5時間乾燥された。結果として得られた固体を回転か焼炉に入れ、窒素流下5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で400°Cに加熱した。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表9に示す。このバルク触媒前駆物質のXRDパターンを図6に示す。これをバルク触媒前駆物質3-Aとした。
【0081】
同じ方法で比較CoMoバルク触媒前駆物質を準備した。ビーカーグラス中、12.45gの酢酸コバルト(23.7wt%Co)を30.34gのグルコン酸溶液(50wt%D-グルコン酸)に周囲温度で溶解した。17.66gの七モリブデン酸アンモニウム(81.5wt%Mo)を加え、溶液を常時撹拌下70°Cに加熱した。結果として得られた溶液を120°Cで5時間、一晩静的オーブンで乾燥した。結果として得られた固体を回転か焼炉に入れ、窒素流下5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で400°Cに加熱した。得られた材料の組成および窒素物理吸着により観察された表面積を表9に示す。このバルク触媒前駆物質のXRDパターンを図6に示す。結果として得られた材料を比較バルク触媒前駆物質3-Bとした。
【0082】
表9のデータから、両方の触媒の表面積(SA)は、N物理吸着方法を使用して測定するよりも小さいことがわかる。図6は、バルク触媒前駆物質3-Aおよび比較バルク触媒前駆物質3-BのXRDパターンを示す。いずれのバルク触媒前駆物質のXRDパターンでも、10~40°2θの範囲のピークが見受けられず、これは一切(ナノ)結晶質金属-酸化物相が存在していないことを示す。バルク触媒前駆物質3-AのXRDパターンでは、約45°2θに狭いピークを有し、これはNi-結晶の存在に起因すると思われる。このピークは、比較バルク触媒前駆物質3-Bでは存在しない。
【0083】
【表9】
【0084】
テスト手順:バルク触媒前駆体は、125~300μmのふるい分級サイズにされ、0.9mlの容量の反応器に搭載された。性能テストに使用されたテストユニットでは、並列で異なる触媒を同じ処理条件でテストできるようにした。2.5wt%DMDSを添加したLGO供給物を使用し、これを3.0のLHSV、45バール、300nl/lのH/油比で触媒に供給し、サンプルを予備硫化した。予備硫化で使用された温度(T)プログラムを表10に示す。触媒の触媒活性を45バールの圧力、350°C、300nl/lのH/油比、表11に示す供給物の特徴でLGOを処理したとして、評価した。
【0085】
【表10】
【0086】
【表11】
【0087】
異なる反応器のバルク触媒前駆体の体積および重量、適用された空間速度、および異なる反応条件下で結果として得られた生成物のNおよびS含有率を表12に示す。NiMoWバルク触媒前駆物質3-AのHDSおよびHDN活性は、比較バルクCoMo触媒前駆物質3-Bに比較して非常に高いことがわかる。たとえば、バルク触媒前駆物質3-Aは、比較バルク触媒前駆物質3-B(72ppm)(2.0のLHSV)よりも、3.0のLHSVで非常に低いS値(39ppm)を達成できた。発明のバルク触媒前駆物質3-Aが比較バルク触媒前駆物質3-Bに比較して150%を超える体積HDS-活性を有することがわかる。このような条件(留出供給物の中程度P水素化精製)では、CoMo化合物の触媒が一般的に使用されるため、これは驚くべき発見である。
【0088】
【表12】
【0089】
実施例4では、本発明のバルク触媒を形成する本発明のバルク触媒前駆体の成形、および高圧水素化プロセスにおけるその使用を説明する。ビーカーグラス中、134.66gのヒドロキシ炭酸ニッケル(48.4wt%Ni)を300mlの水でスラリーにし、75°Cに加熱した。およそ30分後、217.78gのMoO(100wt%MoO)を少量ずつ加えた:泡の形成によりCOの形成が見られた。温度を90°Cに増加し、蓋をビーカーの上に置いて水の蒸発を防ぎながら、混合物を2時間反応させた。引き続いて、400gの50wt%グルコン酸溶液を加えた。透明の非常に濃い青緑の溶液を得た。この溶液を120°Cで5時間、一晩静的オーブンで乾燥した。結果として得られた固体を回転か焼炉に入れ、窒素流下5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で450°Cに加熱した。これをバルク触媒前駆物質4-Aとした。
【0090】
ビーカーグラス中、80.79gのヒドロキシ炭酸ニッケル(48.4wt%Ni)を300mlの水でスラリーにし、75°Cに加熱した。およそ30分後、130.67gのMoO(100wt%MoO)を少しずつ加えた:泡の形成により、COの形成が見られた。温度を90°Cに増加し、蓋をビーカーに置いて水の蒸発を防ぎながら混合物を2時間反応させた。引き続いて、400gの50wt%グルコン酸溶液を加えた。透明の、非常に濃い青緑溶液を得た。この溶液を120°Cで5時間、一晩静的オーブンで乾燥した。結果として得られた固体を回転か焼炉に入れ、窒素流下5°C/分の傾斜率および4時間の保留時間で350°Cに加熱した。これをバルク触媒前駆物質4-Bとした。
【0091】
ボールミルを使用してバルク触媒前駆体を粉砕し、引き続いておよそ5wt%パーセントの酸化バインダー材料(触媒化合物重量合計に基づき)と湿式混合した。混合物の含水率は、押出可能な混合物を得るために、調節し、引き続いて混合物を押出した。結果として得られた固体筒状押出物を120°Cで16時間乾燥した(一晩)。このようにして、バルク触媒4-Aおよび4-Bを得た。これらの触媒は、市販の固定床水素化精製反応器に搭載されるのに十分に高い強度および低い摩耗を示した。これらのバルク触媒のXRDパターンを図7に示す。
【0092】
バルク触媒4-Aおよび4-Bの組成および窒素物理吸着により観察された押出物の表面積を表13に示す。両方のバルク触媒は、非常に低いSA-BETまたはSA-BETが無いことを示していた。図7のXRDパターンでは、ピークが45°および52°2 θに存在するということがわかり、これらのバルク触媒にNi-結晶が存在することを示している。10~40°2θの範囲にはピークが無く、ナノ-結晶質金属-酸化物相がこれらのバルク触媒に存在していないことを示す。
【0093】
【表13】
【0094】
バルク触媒押出物を計測し、約2.5より大きい直径比の長さを有する押出物を排除するよう振り分けた。計測された押出物を引き続いて10mlの容量の反応器に搭載した。性能テストに使用されたテストユニットでは、並列で異なる触媒を同じ処理条件でテストできるようにした。2.5wt%DMDSを添加したLGO供給物を使用し、3.0のLHSV、45バールおよび300nl/lのH/油比で触媒に供給して、触媒を予備硫化した。予備硫化で使用された温度(T)プログラムを表14に示す。80バールの圧力、290°Cおよび500nl/lのH/油比で表15に示す供給物の特徴のLGO/LCOブレンドを処理した場合の触媒の触媒活性を評価した。触媒を反応条件下およそ8日間、LGO/LCOブレンドに供した。
【0095】
【表14】
【0096】
【表15】
【0097】
異なる反応器におけるバルク触媒の体積および重量、使用された空間速度、および結果として得られた生成物のNおよびS含有率を表16に示す。同じ反応条件で低いSおよびN値が得られているため、バルク触媒4-BのHDSおよびHDN活性は、バルク触媒4-Bのものに比較して非常に高いということがわかる。
【0098】
【表16】
【0099】
性能テスト後、使用済み触媒を反応器から除去し、ホワイト油に取り出した。引き続いて、ソックスレー抽出器を使用してトルエンで使用済み触媒を洗浄し、触媒孔に残る一切の供給物を除去した。この処理の後、蒸発により一切の残留トルエンを除去した。使用済み触媒でN物理吸着を行い、C-含有率を測定した。使用済み触媒分析結果を表17に示す。
【0100】
使用済み触媒分析は、バルク触媒4-Bで、C:(Mo+W)のモル比が4.7から2.1に減少した通り、使用中に触媒の炭素含有率を減少できることを示している。明らかに、反応条件下で有機相が部分的に除去されている。一般的に、水素化プロセスにおいて、炭素はコークスの形態で触媒に析出され、使用済み触媒の炭素含有率は、未使用の触媒より高いため、これは驚くべき結果である。さらに、触媒4-Bで、使用済み触媒のSA-BETは、未使用バルク触媒より非常に高い。しかし、一般的に、使用済み触媒を未使用触媒と比較すると、触媒失活により表面積(SA)は変化無しか減少する。
【0101】
【表17】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7