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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】フルクトースシロップの製造及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/02 20060101AFI20220128BHJP
   C13K 3/00 20060101ALI20220128BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20220128BHJP
   A23L 27/30 20160101ALI20220128BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220128BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20220128BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20220128BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20220128BHJP
   C12N 9/26 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12P19/02 ZNA
C13K3/00
A23L33/125
A23L27/30 A
A61K9/08
A61K47/26
A23K20/163
C12N15/54
C12N9/10
C12N9/26 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018549422
(86)(22)【出願日】2016-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 US2016066517
(87)【国際公開番号】W WO2017106262
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-11-21
(31)【優先権主張番号】14/967,659
(32)【優先日】2015-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023674
【氏名又は名称】イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】397060588
【氏名又は名称】デュポン ニュートリション バイオサイエンシーズ エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・ディー・ナジ
(72)【発明者】
【氏名】スーザン・マリー・ヘネシー
(72)【発明者】
【氏名】マーク・エス・ペイン
(72)【発明者】
【氏名】チャールス・アール・パウリー
(72)【発明者】
【氏名】ボグダン・ショステク
(72)【発明者】
【氏名】ハンヌ・コエヴィッコ
(72)【発明者】
【氏名】ユホ・ヤルヴィネン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・エイコルツ
(72)【発明者】
【氏名】ユルキ・クーシスト
(72)【発明者】
【氏名】タピオ・ティモ・ヴィルヤヴァ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・トーマス・ブレスク
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529096(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0303975(US,A1)
【文献】特開昭51-086143(JP,A)
【文献】国際公開第2015/130881(WO,A1)
【文献】特表2001-520525(JP,A)
【文献】特表2004-537326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
A23L 2/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトースを含む水性組成物を製造する方法であって、
(a)水と、スクロースと、少なくとも30%のα-1,3-結合を有するポリα-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素とを接触させて、可溶性フラクション及び不溶性フラクションを生成することであって、
グルコシルトランスフェラーゼ酵素の触媒ドメインの1つまたはそれ以上のアミノ酸残基は、グルコシルトランスフェラーゼ酵素が、乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトースを含む可溶性フラクションを生成するように、配列番号1~5のいずれか1つに記載されている配列を含む酵素の触媒ドメインについて修飾されており、
前記不溶性フラクションは、前記ポリα-1,3-グルカンを含み、及び
前記可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトースを含む、生成すること;及び
(b)前記不溶性フラクションから前記可溶性フラクションを分離し、それによりフルクトースを含む水性組成物をもたらすこと
を含む、方法。
【請求項2】
前記グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、少なくとも95%のα-1,3-結合を有するポリα-1,3-グルカンを合成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記可溶性フラクションは、2~約15の重合度(DP)を有する可溶性オリゴ糖を更に含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記可溶性フラクションは、乾燥重量基準で約30%未満の前記可溶性オリゴ糖を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記可溶性フラクションをα-グルコシダーゼ酵素と接触させて、前記オリゴ糖の少な
くとも1つのグリコシド結合を加水分解し、それにより前記可溶性フラクション中の単糖含有率を増加させることを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも約75%のフルクトースを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記グルコシルトランスフェラーゼ酵素の触媒ドメインが、配列番号1の残基54-957、配列番号2の残基55-960、配列番号3の残基55-960、配列番号4の残基55-960、または配列番号5の残基55-960と、少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記グルコシルトランスフェラーゼ酵素の触媒ドメインが、配列番号1の残基54-957、または配列番号3の残基55-960と、少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記グルコシルトランスフェラーゼ酵素の触媒ドメインが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5と、少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記グルコシルトランスフェラーゼ酵素が、配列番号1、または配列番号3と、少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)におけるスクロース消費のパーセントが、水およびグルコシルトランスフェラーゼ酵素と最初に接触したスクロースの少なくとも約90%である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、ナノ濾過、結晶化、クロマトグラフィー、または酵素的加水分解の処理工程をさらに含む、請求項1~11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記処理工程が、ナノ濾過または酵素的加水分解である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、前記可溶性フラクション中の他の糖の含有量に対するフルクトースの含有量を増加させるための処理工程としてクロマトグラフィーを含まない、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により全体として本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第14/967,659号号明細書(2015年12月14日出願)の利益を主張する。
【0002】
本開示は、糖類の分野におけるものである。例えば、本開示は、高いフルクトース含有率を含む組成物の製造に関する。
【0003】
電子的に提出された配列表の参照
配列表の認証謄本が、2016年12月9日作成のCL6456WOPCT_SequenceListing_ST25_ExtraLinesRemovedというファイル名の、68キロバイトのサイズを有するASCIIフォーマットの配列表としてEFS-Webを介して電子的に提出され、本明細書と同時に出願される。このASCIIフォーマット文献に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
高フルクトースコーンシロップ(HFCS)などのフルクトースシロップ(FS)は、グラニュー糖よりも取り扱い易いことなどから、甘味料として広く用いられている。デンプン及び砂糖(スクロース)がFSを製造するための最も一般的な原料である。
【0005】
デンプンからのFSの製造方法は、このポリマーをそのモノマーであるグルコースへ加水分解することによって開始される。その後、乾燥量基準で約50:50の混合物までグルコースをフルクトースへ変換するために、グルコースはグルコース異性化酵素で処理される。異性化により、典型的には、約42%(乾燥重量基準[dwb])のフルクトースと、少なくとも約50%(dwb)のグルコースと、少量のオリゴ糖とを含有するシロップ(「F42」)が得られる。異性化の終点は、プロセスの経済性を最適化するように選択される。F42シロップのフルクトースフラクションは、その後、およそ90%(dwb)のフルクトースを含有するシロップ(「F90」)を得るためにクロマトグラフィーによって濃縮される。F42シロップからグルコースが濃縮されたフラクションは、リサイクルされてフルクトースへ更に異性化され、これは、製造されるF90シロップの全体としての量を増加させるためにクロマトグラフィーによって分別される。F90シロップは、典型的には、HFCS55(約55%のフルクトース(dwb)、少なくとも約40%(dwb)のグルコース、及び少量のオリゴ糖を含有)などの市販の甘味料を製造するためにF42シロップとブレンドされる。
【0006】
スクロースからFSを製造する方法は、固定化インベルターゼ酵素を使用して、この二糖をグルコース及びフルクトースへ変換することを含む。グルコース及びフルクトースは、その後、少なくとも90%(dwb)のフルクトースを含有するFSを得るためにクロマトグラフィーによって分別される。グルコースフラクションは、固定化グルコース異性化酵素を使用してF42へ異性化され、その後、製造される高純度のフルクトースの全体としての量を増加させるためにクロマトグラフィーによって更に分別される。
【0007】
しかし、デンプン及びスクロース原料からFSを製造することに含まれるクロマトグラフィーによる精製工程は、大量の蒸発が必要とされるため、費用がかかり、また資本を多く必要とする。
【0008】
酵素的なアプローチを含む他の方法でFSを製造するための試みが開示されているものの、特定の点に関して不十分であった。例えば、特許文献1では、スクロース原料から約40%(dwb)のフルクトースを含有するシロップを製造するためにオルタナンスクラーゼ使用することが開示されていると思われる。この低いフルクトース量は、可溶性オルタナンポリマーの存在と相まって、より有用なFSを得るための更なる処理を必要とするであろう。追加的な例として、特許文献2及び特許文献3には、フルクトースを含有する水性組成物の酵素的な製造が開示されている。しかし、そのような組成物は、その中にホウ酸塩が存在することを考えると、食品用途での使用に適していない。また、特許文献4には、フルクトースの酵素的製造が開示されているものの、この方法は、フルクトースを有する組成物の製造に限られ、またFSとしての使用に不適切な副生成物の量である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2009/0123603号明細書
【文献】米国特許第8828689号明細書
【文献】米国特許第8962282号明細書
【文献】米国特許第6242225号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そのため、少ない処理工程及び/又は添加剤のみを必要とするFSの酵素的な製造のための新規な方法が求められている。この目的のために、本明細書では、少なくとも55%(dwb)のフルクトースを含むFS及びグルコシルトランスフェラーゼ反応を用いたその製造方法が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ある実施形態では、本開示は、フルクトースを含む水性組成物を製造する方法に関し、方法は、
(a)水と、スクロースと、少なくとも30%のα-1,3-結合を有するポリα-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素とを接触させて、可溶性フラクション及び不溶性フラクションを生成することであって、不溶性フラクションは、ポリα-1,3-グルカンを含み、更に、可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトースを含む、生成すること;及び
(b)不溶性フラクションから可溶性フラクションを分離し、それによりフルクトースを含む水性組成物をもたらすこと
を含む。
【0012】
別の実施形態では、グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、少なくとも95%のα-1,3-結合を有するポリα-1,3-グルカンを合成する。
【0013】
別の実施形態では、可溶性フラクションは、2~約15の重合度(DP)を有する可溶性オリゴ糖を更に含む。
【0014】
別の実施形態では、可溶性フラクションは、乾燥重量基準で約30%未満の可溶性オリゴ糖を含む。
【0015】
別の実施形態では、方法は、可溶性フラクションをα-グルコシダーゼ酵素と接触させて、オリゴ糖の少なくとも1つのグリコシド結合を加水分解し、それにより可溶性フラクション中の単糖含有率を増加させることを更に含む。
【0016】
別の実施形態では、可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも約75%のフルクトースを含む。
【0017】
別の実施形態では、方法は、可溶性フラクション中の他の糖の含有量に対する単糖の含有量を増加させる処理工程を更に含み、この処理工程は、任意選択的にナノ濾過又は酵素的加水分解である。
【0018】
別の実施形態では、方法は、可溶性フラクション中の他の糖の含有量に対するフルクトースの含有量を増加させるための処理工程としてクロマトグラフィーを含まない。
【0019】
本開示の別の実施形態は、上の実施形態のいずれかなどの本明細書に記載の方法によって製造される水性組成物に関する。別の実施形態では、そのような水性組成物は、摂取可能な製品中に含まれているか又は摂取可能な製品であり、且つ任意選択的に、摂取可能な製品の甘味料として使用される。
【0020】
本開示の別の実施形態は、(i)乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトース、(ii)乾燥重量基準で約3%~約24%のグルコース、及び(iii)2~約15の重合度(DP)を有する可溶性オリゴ糖を含む水性組成物であって、オリゴ糖は、グルコース及び/又はフルクトースを含む、水性組成物に関する。
【0021】
水性組成物の別の実施形態では、可溶性オリゴ糖は、スクロース、ロイクロース、トレハルロース、イソマルツロース、マルツロース、イソマルトース、及びニゲロースからなる群から選択される。
【0022】
水性組成物の別の実施形態では、オリゴ糖は、(i)少なくとも約90重量%のグルコース、並びに(ii)約60~99%のα-1,3グリコシド結合及び約1~40%のα-1,6グリコシド結合を含む。
【0023】
別の実施形態では、水性組成物は、乾燥重量基準で少なくとも約75%のフルクトースを含む。
【0024】
別の実施形態では、水性組成物は、乾燥重量基準で約30%未満の可溶性オリゴ糖を含む。
【0025】
別の実施形態では、水性組成物は、摂取可能な製品中に含まれているか又は摂取可能な製品であり、且つ任意選択的に、摂取可能な製品の甘味料として使用される。
【0026】
別の実施形態では、水性組成物は、約30重量%の乾燥固形分で約50μS/cm未満の導電率と、約50未満のICUMSA値とを有する。
【0027】
本開示の別の実施形態は、本明細書に記載の方法によって製造された水性組成物を含む摂取可能な製品に関し、この摂取可能な製品は、食品、飲料、動物飼料、ヒト若しくは動物の栄養製品、医薬品、又はオーラルケア製品である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ガスクロマトグラフィー-質量分析法によって検出した、表6の加水分解されたフルクトースシロップ中に存在する二糖の分布を示す。
図2】HPAEC-PAD-MSによって検出した、表6の加水分解されたフルクトースシロップ中に存在する二糖の分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
【表1】
【0030】
引用する全ての特許文献及び非特許文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0031】
別段の開示がなされていない限り、本明細書で使用される用語「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)の言及される特徴を包含するものとする。
【0032】
存在する場合、他に特に記載されていない限り、全ての範囲は、包括的であり結合可能である。例えば、「1~5」の範囲が列挙されている場合、列挙されている範囲は、「1~4」、「1~3」、「1~2」、「1~2及び4~5」、「1~3及び5」などの範囲を含むと解釈すべきである。
【0033】
存在する場合、他に特に記載されていない限り、全ての範囲は、包括的であり結合可能である。例えば、「1~5」の範囲が列挙されている場合、列挙されている範囲は、「1~4」、「1~3」、「1~2」、「1~2及び4~5」、「1~3及び5」などの範囲を含むと解釈すべきである。
【0034】
本明細書において、用語「糖」は、別段の記載がない限り、単糖及び/又は二糖/オリゴ糖を指す。本明細書において、「二糖」とは、グリコシド結合によって連結されている2つの単糖を有する炭水化物を指す。本明細書において、「オリゴ糖」とは、例えばグリコシド結合によって連結されている2~15個の単糖を有する炭水化物を指す。オリゴ糖は、「オリゴマー」と呼ばれる場合もある。二糖/オリゴ糖中に含まれる単糖(例えば、グルコース、フルクトース)は、「モノマー単位」、「単糖単位」、又は他の同様の用語で言及される場合がある。本明細書において、用語「フルクトース」及び「フルクトース含有率」は、別段の開示がない限り、遊離フルクトースを指す(この論理は、グルコースを含む他の糖にも同様に当てはまる)。
【0035】
用語「α-グルカン」、「α-グルカンポリマー」等は、本明細書において互換的に使用される。α-グルカンは、α-グリコシド結合によって互いに連結しているグルコースモノマー単位を含むポリマーである。ポリα-1,3-グルカンは、α-グルカンの1つの例である。
【0036】
用語「ポリα-1,3-グルカン」、「α-1,3-グルカンポリマー」、「グルカンポリマー」などは、本明細書において互換的に使用される。ポリα-1,3-グルカンは、グリコシド結合により互いに連結されるグルコースモノマー単位を含むポリマーであり、少なくとも約30%のグリコシド結合がα-1,3-グリコシド結合である。所定の実施形態におけるポリα-1,3-グルカンは、少なくとも95%のα-1,3-グリコシド結合を含む。
【0037】
本明細書では、「グリコシド結合(linkage)」、「グリコシド結合(bond)」などの用語は互換的に使用され、炭水化物分子を他の炭水化物分子に結合する共有結合を指す。「グリコシド結合(linkage)」、「グリコシド結合(bond)」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、2つのグルコース分子間のグリコシド結合を意味する。本明細書において使用される用語「α-1,3-グリコシド結合」は、隣接するα-Dグルコース環の1位及び3位の炭素を介してα-D-グルコース分子を相互に結合する共有結合のタイプを指す。本明細書において、用語「α-1,6-グリコシド結合」は、隣接するα-D-グルコース環の1位及び6位の炭素により、α-D-グルコース分子を相互に結合する共有結合を意味する。本明細書では、「α-D-グルコース」を「グルコース」と呼ぶ。本明細書で開示する全てのグリコシド結合は、別段の記載がない限り、α-グリコシド結合である。
【0038】
本明細書のα-グルカンのグリコシド結合の形態は、当該技術分野において公知の任意の方法を使用して決定することができる。例えば、結合の形態は、核磁気共鳴(NMR)分光法(例えば、13C NMR又はH NMR)を使用する方法を用いて決定することができる。使用可能なこれら及び他の方法は、Food Carbohydrates:Chemistry,Physical Properties,and Applications(S.W.Cui.Ed,Chapter 3,S.W.Cui,Structural Analysis of Polysaccharides,Taylor&Francis Group LLC,Boca Raton,FL,2005)に開示されており、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
本明細書のポリα-1,3-グルカンの「分子量」は、重量平均分子量(Mw)又は数平均分子量(Mn)として表すことができ、その単位はダルトン又はグラム/モルである。別の方法として、分子量は、DPw(重量平均重合度)又はDPn(数平均重合度)として表すことができる。これらの分子量測定値を計算するために、当技術分野では、例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)又はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を用いるなどの様々な手段が公知である。
【0040】
本明細書のオリゴ糖の重合度(DP)の数は、オリゴ糖中のモノマー単位の数を指す。例えば、DP3のオリゴ糖は、3個のモノマー単位を有する。
【0041】
本明細書では、「スクロース」という用語は、α-1,2-グリコシド結合により結合した、α-D-グルコース分子及びβ-D-フルクトース分子からなる非還元性二糖を意味する。スクロースは、一般には砂糖として知られている。
【0042】
用語「ロイクロース」及び「D-グルコピラノシル-α(1-5)-D-フルクトピラノース」は、本明細書では互換的に使用され、α-1,5グリコシル-フルクトース結合を含む二糖を意味する。
【0043】
本明細書において、用語「トレハルロース」は、二糖である1-O-α-D-グルコピラノシル-β-D-フルクトースを意味する。
【0044】
本明細書において、用語「イソマルツロース」は、二糖である6-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトースを意味する。
【0045】
本明細書において、用語「マルツロース」は、二糖である4-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトースを意味する。
【0046】
本明細書において、用語「イソマルトース」は、二糖である6-O-α-D-グルコピラノシル-D-グルコースを意味する。
【0047】
本明細書において、用語「ニゲロース」は、二糖である3-O-α-D-グルコピラノシル-D-グルコースを意味する。
【0048】
本明細書において、用語「ツラノース」は、二糖である3-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトースを意味する。
【0049】
用語「グルコシルトランスフェラーゼ」、「グルコシルトランスフェラーゼ酵素」、「GTF」、「グルカンスクラーゼ」などは、本明細書では互換的に使用される。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼの活性は、生成物であるα-グルカン及びフルクトースを製造するための基質スクロースの反応を触媒する。グルコシルトランスフェラーゼの反応の他の生成物(副生成物)には、グルコース、及び様々な可溶性オリゴ糖(例えば、DP2~DP7、ロイクロース等)が含まれ得る。野生型形態のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、一般的に(N末端からC末端の方向に)、シグナルペプチド、可変ドメイン、触媒ドメイン、及びグルカン結合ドメインを含む。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼは、CAZy(Carbohydrate-Active EnZymes)データベース(Cantarel et al.,Nucleic Acids Res.37:D233-238,2009)によると、グリコシドヒドロラーゼファミリー70(GH70)の下に分類される。
【0050】
本明細書の用語「グルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメイン」は、グルコシルトランスフェラーゼ酵素にα-グルカン合成活性を付与するグルコシルトランスフェラーゼ酵素のドメインを意味する。グルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメインは、好ましくは、この活性を有する任意の他のドメインの存在を必要としない。
【0051】
「酵素反応」、「グルコシルトランスフェラーゼ反応」、「グルカン合成反応」、「反応組成物」等の用語は、本明細書では互換的に使用され、通常、水と、スクロースと、少なくとも1種の活性グルコシルトランスフェラーゼ酵素とを最初に含み、任意選択的に他の成分も最初に含む反応を意味する。開始後に典型的にグルコシルトランスフェラーゼ反応中に更に存在し得る成分としては、フルクトース、グルコース、可溶性オリゴ糖(例えばDP2~DP7、ロイクロース等)、並びに可溶性及び/又は不溶性のDP8以上(例えば、DP100以上)のα-グルカン生成物が挙げられる。少なくとも8又は9の重合度(DP)を有するポリα-1,3-グルカンなどの所定のグルカン生成物は水不溶性であるため、グルカン合成反応では溶解されず、むしろ溶液外に存在する可能性があることは理解されるであろう。それは、水、スクロース、及びグルコシルトランスフェラーゼ酵素を接触させる工程が実施されるグルコシルトランスフェラーゼ反応中である。本明細書で使用する用語「好適な反応条件下」は、グルコシルトランスフェラーゼ酵素活性を介してスクロースからポリα-1,3-グルカンへの変換を補助する反応条件を意味する。本発明の酵素反応は、自然には生じないと考えられている。
【0052】
本明細書において、用語「水性組成物」は、乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトースを含む水溶液を意味する。任意選択的に、水溶液中に溶解しない固体材料がこの中に存在していてもよい(すなわち、例えば、水溶液は、それ自体が混合物の一部であってもよい)。本明細書における可溶性フラクションは、水性組成物の例である。水性組成物の溶媒は、例えば、約又は少なくとも約70、75、80、85、90、95、又は100重量%の水(又は70~100重量%の任意の整数値)を含んでいてもよい。
【0053】
本明細書において、用語「可溶性フラクション」とは、生成した不溶性のポリα-1,3-グルカンを有するグルカン合成反応の溶液部分を指す。可溶性フラクションは、グルカン合成反応の溶液の一部であっても全てであってもよく、典型的には反応で合成された不溶性のポリα-1,3-グルカン生成物から分離された(又は分離される)ものである。本明細書における可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも55%のフルクトースを含む。可溶性フラクションの例は、グルカン合成反応の濾液である。可溶性フラクションは、スクロース、フルクトース、グルコース、及び可溶性オリゴ糖(例えば、DP2~DP7、ロイクロース等)などの溶解している糖を含んでいてもよい。そのため、可溶性フラクションは、任意選択的に、「フルクトース流」、「フルクトースシロップ」、又は「糖溶液」とも呼ばれる場合がある。本明細書において、「加水分解されたフラクション」などの用語は、可溶性フラクション中に存在するロイクロース及び/又はオリゴ糖を加水分解するために本明細書のα-グルコシダーゼで処理された可溶性フラクションを意味する。
【0054】
本明細書において、用語「不溶性フラクション」とは、グルカン合成反応で形成された不溶性のポリα-1,3-グルカンを指す。任意選択的に、不純物などの他の成分も本明細書の不溶性フラクション中に含まれていてよい(例えば、着色料)。
【0055】
「乾燥重量基準」(dwb)、「乾燥固形分基準」(dsb)等の用語は、本明細書では互換的に使用される。可溶性フラクション中の乾燥重量基準での物質(例えば、フルクトース)の量は、例えば、可溶性フラクション中に溶解している全ての物質(例えば、フルクトース、スクロース、グルコース、可溶性のDP2~7のオリゴ糖、任意選択的に塩及び不純物)中に存在する物質の重量パーセンテージを意味する。例えば、可溶性フラクションが75%(dwb)のフルクトースを含む場合、可溶性フラクションから全ての水を除去して得られる乾燥物質中に75重量%のフルクトースが存在するであろう。
【0056】
本明細書の溶液(例えば、可溶性フラクション、水性組成物)の「パーセント乾燥固形分」(パーセントDS)は、溶液中に溶解している全ての物質(すなわち固体)の重量%を意味する。例えば、10重量%のDSを有する100gの溶液は、10gの溶解している物質を含む。
【0057】
本明細書グルカン合成反応によるポリα-1,3-グルカンの「収率」は、反応において変換されるスクロース基質の重量のパーセンテージとして表わされるポリα-1,3-グルカン生成物の重量を表す。例えば、反応溶液中の100gのスクロースが生成物に変換され、10gの生成物がポリα-1,3-グルカンである場合、ポリα-1,3-グルカンの収率は10%となるであろう。この収率計算は、ポリα-1,3-グルカンに向かう反応の選択性の尺度であると見なすことができる。
【0058】
「ICUMSA」(国際砂糖分析法統一委員会)値又は「標準化ICUMSA」値は、溶液中の糖試料の純度を表現するための国際単位であり、溶解している糖の色と直接関係する。糖試料のICUMSA値が大きいほど、糖試料は暗色である。糖試料のICUMSA値の決定方法は当該技術分野で周知であり、これは、例えば、国際砂糖分析法統一委員会によりICUMSA Methods of Sugar Analysis:Official and Tentative Methods Recommended by the International Commission for Uniform Methods of Sugar Analysis(ICUMSA)(Ed.H.C.S.de Whalley,Elsevier Pub.Co.,1964)に開示されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。ICUMSAは、例えば、R.J.McCowage,R.M.Urquhart and M.L.Burge(Determination of the Solution Colour of Raw Sugars,Brown Sugars and Coloured Syrups at pH 7.0-Official,Verlag Dr Albert Bartens,2011 revision)(これは参照により本明細書に組み込まれる)により記載されているような、ICUMSA法GS1/3-7によって測定することができる。ICUMSA値は、例えば「参照基本単位(RBU)」で表すことができる。本明細書において、ICUMSA値は、例えばICUMSA法GS1/3-7又は表2に示されている手順に従って測定することができる。例えば、本明細書におけるフルクトースシロップ(可溶性フラクション)のICUMSA値は、少なくとも(i)約3gのシロップを約7gの水で希釈すること、(ii)希釈したシロップのpHを約7.0に調節すること(例えば、0.1MのNaOH又は0.1MのHClを使用)、(iii)希釈したシロップを濾過すること(例えば、約0.45ミクロンのフィルターを使用)、(iv)希釈したシロップのBrix(固体のg/100g)を測定すること、(v)希釈したシロップの密度(g/mL)を測定すること、(vi)希釈したシロップの濃度c(固体のg/mL)を計算すること(すなわちBrix×密度/100)、(vii)cm単位での経路長bを使用して約420nmでの吸光度Asを測定すること、(viii)及び(ix)1000×As/(b×c)としてICUMSAを計算することによって測定することができる。
【0059】
本明細書では、「導電率」、「電気伝導度」等の用語は、互換的に使用される。導電率は、一般的には、特定の温度及び/又はpHで2つの電極間に電流を流すための水溶液の能力を意味する。電流は溶液中のイオン輸送によって流れることから、水溶液中に溶解している塩の量が多いほど、溶液の導電率が大きい。そのため、本明細書では、導電率は、本明細書の糖溶液中の灰分量(すなわち無機成分)を測定するために使用することができる。本明細書における導電率測定の適切な単位は、マイクロシーメンス毎センチメートル(μS/cm)であり、標準的な導電率計を使用して測定することができる。通常、糖溶液が甘味料として適切であるには、これは、約50μS/cm未満の導電率を有する必要がある。本明細書の糖溶液の導電率は、米国特許第8097086号明細書(これは参照により本明細書に組み込まれる)に開示の方法などの当該技術分野で公知の任意の方法に従って測定することができる。
【0060】
「体積によるパーセント」、「体積パーセント」、「体積%」、「v/v%」などの用語は、本明細書では互換的に使用される。溶液中の溶質の体積パーセントは、以下の式を用いて求めることができる:[(溶質の体積)/(溶液の体積)]×100%。
【0061】
用語「重量によるパーセント」、「重量パーセンテージ(wt%)」、「重量-重量パーセンテージ(%w/w)」などは、本明細書では互換的に使用される。重量パーセントは、組成物、混合物、又は溶液中に含まれる質量を基準とした物質のパーセンテージを意味する。
【0062】
用語「α-グルコシダーゼ」、「α-1,4-グルコシダーゼ」、及び「α-D-グルコシドグルコヒドロラーゼ」は、本明細書では互換的に使用される。α-グルコシダーゼ(EC3.2.1.20)(「EC」は酵素番号を意味する)は、以前から、オリゴ糖(例えば、二糖)及び多糖基質からの、末端非還元(1,4)-結合しているα-D-グルコース残基の加水分解的な放出を触媒する酵素として認識されている。α-グルコシダーゼは、α-1,5グルコシル-フルクトース結合、並びにα-1,3及びα-1,6グルコシル-グルコース結合に対する加水分解活性も有している(米国特許出願公開第2015/0240278号明細書及び同第2015/0240279号明細書を参照)。トランスグルコシダーゼ及びグルコアミラーゼ酵素は、そのような活性を有するα-グルコシダーゼの例である。
【0063】
用語「トランスグルコシダーゼ」(TG)、「トランスグルコシダーゼ酵素」、及び「1,4-α-グルカン6-α-グルコシルトランスフェラーゼ」は、本明細書では互換的に使用される。トランスグルコシダーゼ(EC2.4.1.24)は、特定のα-D-グルコ-オリゴ糖を用いたインキュべ―ションでの加水分解反応と転移反応との両方を触媒するD-グルコシルトランスフェラーゼ酵素である。トランスグルコシダーゼは、α-1,5グルコシル-フルクトース結合、並びにα-1,3及びα-1,6グルコシル-グルコース結合に対する加水分解活性も有している。
【0064】
用語「グルコアミラーゼ」(GA)、「グルコアミラーゼ酵素」、及び「α-1,4-グルカングルコヒドロラーゼ」は、本明細書では互換的に使用される。グルコアミラーゼ(EC3.2.1.3)は、グルコースを含有する二糖、オリゴ糖、及び多糖の非還元末端由来のα-1,4とα-1,6との両方のグリコシド結合の加水分解を触媒するexo-作用酵素である。グルコアミラーゼは、α-1,5-グルコシル-フルクトース結合に対する加水分解活性も有している。
【0065】
本明細書において、用語「加水分解」とは、二糖/オリゴ糖のグリコシド結合が水を含む反応中で分解され、それにより二糖/オリゴ糖を構成している単糖が生成するプロセスを指す。本明細書における用語「酵素的加水分解」は、例えば、その中に溶解しているロイクロース及び/又は他のオリゴ糖の加水分解を触媒するために、α-グルコシダーゼが可溶性フラクションと接触するプロセスを意味する場合がある。本明細書において、用語「糖化」は、糖(二糖/オリゴ糖)をその単糖成分へ切断するプロセスを意味する。糖は、本明細書の加水分解反応で糖化され得る。
【0066】
本明細書において、用語「ナノ濾過」とは、低~中程度の高圧(典型的には5~30bar)により溶媒と少量の溶質とが半透過性の膜を通して運ばれ、少量の溶質が保持される濾過プロセスを指す。本明細書におけるナノ濾過のための半透過成膜は、典型的には約0.1nm~10nmの孔径、及び/又は100~5000ダルトンの分画分子量(MWCO)、及び/又は50~99%の硫酸マグネシウム阻止率を有する(例えば、9barの圧力、2000ppmの供給濃度、25℃)。通常、ナノ濾過の範囲は、「目の粗い」逆浸透(RO)と「目の詰まった」限外濾過(UF)との間である。ナノ濾過ユニットの膜を通過する物質は「透過液」と呼ばれる場合がある一方、膜を透過しない物質は「濃縮液」又は「保持液」と呼ばれる場合がある。
【0067】
用語「摂取可能な製品」及び「摂取可能な組成物」は、本明細書では互換的に使用され、消費が意図されているか否かに関わらず、単独で又は他の物質と共に経口(すなわち口により)摂取され得る任意の物質を意味する。従って、摂取可能な製品には、食品/飲料品だけでなく、経口で使用できるその他の非食用製品も含まれる。「食品/飲料品」とは、固体、半固体、又は液体など、ヒト又は動物によって消費(例えば、栄養の目的のため)が意図されている任意の食用製品を指す。「非食用製品」(「非食用組成物」)とは、食品又は飲料の消費以外の目的のために経口で摂取され得る任意の組成物を指す。本明細書における非食用製品の例としては、サプリメント、栄養補助食品、機能性食品、医薬品、オーラルケア製品(例えば、歯磨き剤、洗口液)、及び化粧品(甘いリップクリームなど)が挙げられる。
【0068】
ポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列に関して、本明細書で使用される「配列相同性」又は「相同性」という用語は、特定の比較窓上で最大の一致が得られるように整列させたときに同一である2つの配列中の核酸塩基又はアミノ酸残基を指す。従って、「配列相同性のパーセント」又は「パーセント相同性」は、比較窓上で最適に整列させた2つの配列を比較することにより決定された値を指すが、比較窓内のポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列部分は、2つの配列の最適なアライメントのために参照配列(これは付加又は欠失を含まない)と比較すると、付加又は欠失(すなわちギャップ)を含み得る。パーセンテージは、マッチ位置数を生じさせるために両方の配列内で同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が発生する位置の数を決定し、マッチ位置数を比較窓内の位置の総数で割り、配列同一性のパーセンテージを得るためにその結果に100を掛けることによって計算される。DNA配列とRNA配列との間の配列相同性を計算するとき、DNA配列のT残基は、RNA配列のU残基と合致し、従ってRNA配列のU残基と「同一である」と見なし得ることは理解されるであろう。第1及び第2ポリヌクレオチドの「相補率」を決定するには、例えば、(i)第1ポリヌクレオチドと第2ポリヌクレオチドの相補配列(又はその逆)との同一性率、及び/又は(ii)標準ワトソン・クリック塩基対を作り出すであろう第1及び第2ポリヌクレオチド間の塩基のパーセンテージを決定することによってこれを得ることができる。
【0069】
オンラインにより全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)ウェブサイトで利用できるBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)のアルゴリズムを使用すると、例えば、本明細書で開示する2つ以上のポリヌクレオチド配列(BLASTNアルゴリズム)又はポリペプチド配列(BLASTPアルゴリズム)間の同一性率を測定することができる。或いは、配列間の同一性率は、Clustalアルゴリズム(例えば、ClustalW、ClustalV又はClustal-Omega)を使用して実施することができる。Clustalアラインメント法を使用するマルチプルアラインメントについて、デフォルト値はGAP PENALTY=10及びGAP LENGTH PENALTY=10に対応する可能性がある。Clustal法を使用するタンパク質配列のペアワイズアラインメント及び同一性率の計算のためのデフォルトパラメーターは、KTUPLE=1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5及びDIAGONALS SAVED=5であってよい。核酸について、これらのパラメーターは、KTUPLE=2、GAP PENALTY=5、WINDOW=4及びDIAGONALS SAVED=4であってよい。また或いは、配列間の同一性率は、BLOSUMマトリックス(例えば、BLOSUM62)を使用して、例えば、GAP OPEN=10、GAP EXTEND=0.5、END GAP PENALTY=フォールス、END GAP OPEN=10、END GAP EXTEND=0.5などのパラメーターを用いるEMBOSSアルゴリズム(例えば、ニードル)を使用して実施することができる。
【0070】
本明細書では、様々なポリペプチドアミノ酸配列及びポリヌクレオチド配列が所定の実施形態の特徴として開示されている。本明細書に開示した配列と少なくとも約70~85%、85~90%又は90%~95%同一であるこれらの配列の変異体を使用することができる。或いは、変異アミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列は、本明細書に開示した配列と少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有し得る。変異アミノ酸配列又はポリヌクレオチド配列は、開示した配列と同一の機能/活性、又は開示した配列の少なくとも約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の機能/活性を有し得る。最初にメチオニンを備えていない本明細書に開示した任意のポリペプチドアミノ酸配列は、典型的には、アミノ酸配列のN末端で少なくとも1つの開始メチオニンを更に含むことができる。メチオニンで始まる、本明細書に開示のポリペプチドアミノ酸配列は、いずれも場合によりこのメチオニン残基なしで考えることができる(すなわち、ポリペプチド配列は、配列のC-末端残基の2位の残基に関して参照することができる)。
【0071】
本明細書に開示したタンパク質の各アミノ酸位置の全てのアミノ酸残基は例である。所定のアミノ酸が相互に類似の構造的特徴及び/又は荷電特徴を共有する(すなわち、保存されている)ことを前提にすると、本明細書のタンパク質の各位置でのアミノ酸は、本明細書に開示した配列で提供されるようなアミノ酸であってよく、又は以下のように保存アミノ酸残基で置換されていてもよい(「保存的アミノ酸置換」):
1.次の小さい脂肪族の非極性又は弱極性の残基は、相互に置換することができる:Ala(A)、Ser(S)、Thr(T)、Pro(P)、Gly(G);
2.次の極性の負荷電残基及びそれらのアミドは、相互に置換することができる:Asp(D)、Asn(N)、Glu(E)、Gln(Q);
3.次の極性の正荷電残基は、相互に置換することができる:His(H)、Arg(R)、Lys(K);
4.次の脂肪族の非極性残基は、相互に置換することができる:Ala(A)、Leu(L)、Ile(I)、Val(V)、Cys(C)、Met(M);及び
5.次の大きい芳香族残基は、相互に置換することができる:Phe(F)、Tyr(Y)、Trp(W)。
【0072】
本明細書で使用する用語「単離された」は、天然起源から完全又は部分的に精製されている任意の細胞成分(例えば、単離ポリヌクレオチド又はポリペプチド分子)に関する。一部の例では、単離ポリヌクレオチド又はポリペプチド分子は、より大きい組成物、バッファー系又は試薬ミックスの一部である。例えば、単離ポリヌクレオチド又はポリペプチド分子は、異種方法で細胞内又は生体内に含まれる可能性がある。また別の例は、単離グルコシルトランスフェラーゼ酵素又は反応である。本明細書において、「単離された」は、本明細書の水性組成物も特徴付けることができる。そのため、本開示の水性組成物は、合成/人工のものであり、及び/又は自然に存在しない特性を有している。
【0073】
本明細書で使用される「増加した」という用語は、比較される増加した量又は活性より、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、50%、100%、又は200%多い量又は活性を意味し得る。用語「増加した」、「上昇した」、「増強された」、「より多い」、「改善された」などの用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0074】
フルクトースシロップ(FS)を酵素的に製造するための新規な方法は、その後に少ない処理工程及び/又は添加剤のみを必要とすることが求められる。この目的のため、本明細書では、乾燥重量基準(dwb)で少なくとも55%のフルクトースを含むFS、及びグルコシルトランスフェラーゼ反応を利用するその製造方法が開示される。
【0075】
本開示の特定の実施形態は、フルクトースを含む水性組成物を製造する方法に関する。この方法は、少なくとも、
(a)水と、スクロースと、少なくとも30%のα-1,3-結合を有するポリα-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素とを接触させて、可溶性フラクション及び不溶性フラクションを生成することであって、不溶性フラクションは、ポリα-1,3-グルカンを含み、及び可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトースを含む、生成すること;及び
(b)不溶性フラクションから可溶性フラクションを分離し、それによりフルクトースを含む水性組成物をもたらすこと
を含む。
【0076】
重要なことに、結果を向上させるために必要に応じて1つ以上のクロマトグラフィー処理を利用できるものの、55%のフルクトース(dwb)レベルを達成するためにそのような追加的な処理は必須ではない。この方法のグルコシルトランスフェラーゼ反応で製造される可溶性フラクションは、方法により直接製造されたままの状態で水性組成物となることが理解されるであろう(すなわち、水性組成物も同様に55%のフルクトース[dwb]を含む)。そのため、可溶性フラクションに関する本明細書の開示は、特段の指示がない限り、水性組成物の開示にも同じように適用することができる。工程(a)は、任意選択的に、水、スクロース、及び酵素成分のそれぞれを互いに接触させることにより反応を生じさせることとして特徴付けることができる。
【0077】
本明細書の可溶性フラクション(及び従って上の方法によって製造される水性組成物)は、少なくとも約55%のフルクトース(dwb)を含む。例えば、本明細書の可溶性フラクション中に乾燥重量基準で少なくとも約55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、又は98%のフルクトースが存在し得る。別の例では、可溶性フラクション中に乾燥重量基準で約55~95%、55~90%、55~85%、55~80%、55~75%、55~70%、60~95%、60~90%、60~60%、60~80%、60~75%、60~70%、65~95%、65~90%、65~85%、65~80%、65~75%、65~70%、70~95%、70~90%、70~85%、70~80%、70~75%、75~95%、75~90%、75~85%、75~80%、80~95%、80~90%、80~85%、85~95%、85~90%、又は90~95%のフルクトースが存在し得る。可溶性フラクションに対して少なくともオリゴ糖(例えば、ロイクロース)加水分解処理(例えば、酵素的加水分解)及び/又はナノ濾過が行われたいくつかの実施形態では、可溶性フラクション中に乾燥重量基準で少なくとも約65%のフルクトースが存在し得る。
【0078】
いくつかの態様における可溶性フラクションは、乾燥重量基準で約3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、3~24%、4~24%、6~24%、8~24%、10~24%、12~24%、14~24%、16~24%のグルコースを含み得る。可溶性フラクションに対して少なくともオリゴ糖(例えば、ロイクロース)加水分解処理(例えば、酵素的加水分解)及び/又はナノ濾過が行われたいくつかの実施形態では、約14~24%、14~20%、14~18%、14~16%、15~24%、15~20%、15~18%、又は15~16%(dwb)のグルコースが存在し得る。
【0079】
いくつかの態様における可溶性フラクションは、2~約15の重合度(DP)を有する可溶性オリゴ糖を含み得る。そのようなオリゴ糖のDPは、例えば2~7、2~8、2~9、2~10、2~11、2~12、2~13、2~14、又は2~15の範囲であってもよい。オリゴ糖の例としては、スクロース(すなわちグルコシルトランスフェラーゼ反応で変換されなかった残留スクロース)、ロイクロース、トレハルロース、イソマルツロース、マルツロース、イソマルトース、ニゲロース、及びツラノ―スの1種以上が挙げられる。これらのオリゴ糖の全ては、少なくとも特定の実施形態の可溶性フラクション中に存在し得る。存在するオリゴ糖は、いくつかの態様では、マルツロース、ロイクロース、トレハルロース、イソマルツロース、及びイソマルトースであってもよい。これら及び/又は特定の他の実施形態では、可溶性フラクションのオリゴ糖は、グルコース及び/又はフルクトースを含み得る。例えば、可溶性オリゴ糖中に少なくとも約65重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、86重量%、87重量%、88重量%、89重量%、90重量%、91重量%、92重量%、93重量%、94重量%、又は95重量%のグルコース成分が存在し得る。いくつかの実施形態では、オリゴ糖はフルクタン二糖(すなわちフルクトースのみを含むDP2オリゴマー)を含み得る。可溶性フラクション中のトレハルロースの相対的な量は、可溶性フラクション中に同様に存在するスクロース、マルツロース、ロイクロース、ツラノース、イソマルツロース、及び/又はイソマルトースの相対量よりも例えば約又は少なくとも約2、2.5、3、3.5、4、又は5倍多くてもよい。いくつかの態様では、可溶性フラクション中のロイクロースの相対的な量は、イソマルトース及び/又はマルツロースの相対量とほぼ同じ(例えば、±5%、10%、15%)であってもよい。更にいくつかの態様では、二糖の前述した相対量は、酵素的加水分解処理を受けた可溶性フラクションを特徴付けることができる。
【0080】
いくつかの態様における可溶性フラクションは、乾燥重量基準で約30%未満の可溶性オリゴ糖を含み得る。例えば、可溶性フラクション中に乾燥重量基準で例えば約30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満の可溶性オリゴ糖が存在していてもよい。可溶性フラクションに対して少なくともオリゴ糖(例えば、ロイクロース)加水分解処理(例えば、酵素的加水分解)及び/又はナノ濾過が行われたいくつかの実施形態では、可溶性フラクション中に乾燥重量基準で約15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満の可溶性オリゴ糖が存在していてもよい。本開示のいくつかの態様では、可溶性フラクション中に少量の可溶性オリゴ糖が存在する(すなわち、オリゴ糖の量は0%dwbではない)。
【0081】
いくつかの態様における可溶性フラクションは、乾燥重量基準で約20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満のロイクロースを含んでいてもよい。可溶性フラクションに対して少なくともオリゴ糖(例えば、ロイクロース)加水分解処理(例えば、酵素的加水分解)及び/又はナノ濾過が行われたいくつかの実施形態では、約3%、2%、又は1%未満(dwb)のロイクロースが存在していてもよい。
【0082】
いくつかの態様における可溶性フラクション中のオリゴ糖の副次的な集団(例えば、DP2~7又はDP2~8)は、α-1,3グルコシド結合及び/又はα-1,6-グルコシド結合を含み得る。オリゴ糖のそのような副次的な集団は、任意選択的にグルコースのみ(フルクトースなし)を含むとされていてもよい一方、別の態様では、この副次的集団中のいくらかのオリゴ糖にはフルクトースが含まれる得る。この副次的集団の特定の実施形態におけるオリゴ糖は、約60~99%のα-1,3グルコシド結合と、約1~40%のα-1,6グルコシド結合とを含み得る。そのようなオリゴ糖は、或いは、約60~95%又は70~90%のα-1,3グルコシド結合、及び5~40%又は10~30%のα-1,6グルコシド結合を含んでいてもよい。また或いは、本明細書のそのようなオリゴ糖は、約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%のα-1,3グルコシド結合と、約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、又は40%のα-1,6グルコシド結合とを含んでいてもよい。上述のオリゴ糖は、任意の前述の結合形態を合計として含んでいてもよい。「合計として含む」とは、オリゴ糖の混合物の合計又は平均の結合形態が、任意の前述の結合形態であることを意味する。上述のオリゴ糖は、主にα-1,3及びα-1,6グルコシド結合を含み得る。例えば、オリゴ糖の副次的集団の結合の少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、又は100%がα-1,3及びα-1,6グルコシド結合である。オリゴ糖中に他の結合が存在する場合、これは、例えば、α-1,4又はα-1,2グルコシド結合、及び/又はフルクトース結合であってもよい。
【0083】
いくつかの態様では、上述したオリゴ糖の副次的集団は、可溶性フラクションの全てのオリゴ糖の約32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、32~45、32~42、32~39、35~45、35~42、35~39、38~45、又は38~42重量%を占めていてもよい。可溶性フラクション中のこれらのオリゴ糖の乾燥固形分基準(dsb)の割合は、例えば、約2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、2~10%、4~10%、6~10%、2~8%、4~8%、6~8%、2~6%、又は4~6%であってもよい。これらの割合/量は、典型的には、オリゴ糖(例えば、ロイクロース)加水分解処理(例えば、酵素的加水分解)及び/又はナノ濾過が行われなかった本明細書の可溶性フラクション中で観察される。或いは、上述したオリゴ糖の副次的集団は、例えばオリゴ糖(例えば、ロイクロース)加水分解処理(例えば、酵素的加水分解)で処理された(ただし任意選択的にナノ濾過なし)可溶性フラクションの全てのオリゴ糖の約85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、85~95、87.5~95、90~95、85~92.5、87.5~92.5、90~92.5、85~90、87.5~90重量%を占めていてもよい。加水分解処理された可溶性フラクション中のこれらのオリゴ糖の乾燥固形分基準(dsb)の割合は、例えば、約15%、16%、17%、18%、19%、20%、15~20%、16~19%、又は17~18%であってもよい。
【0084】
可溶性フラクションは、グルコシルトランスフェラーゼ反応からの液体溶液の一部(例えば、少なくとも約70~80%)又は全部であってもよい。典型的には、可溶性フラクションは、反応中で合成される不溶性のグルカン生成物から分離される。例えば、可溶性フラクションは、合成中に溶液から抜け出す水に不溶の1種以上のグルカン生成物(例えば、ポリα-1,3-グルカン)から分離することができる。本開示の特定の実施形態における可溶性フラクションは、ポリα-1,3-グルカン合成反応由来である。
【0085】
特定の実施形態における可溶性フラクション(任意選択的にフラクションを希釈又は濃縮する前、下を参照)の体積は、例えば、これが得られるグルコシルトランスフェラーゼ反応の体積の少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%(又は10%~90%の任意の整数値)であってもよい。可溶性フラクションは、グルコシルトランスフェラーゼ反応の任意の段階で得ることができるが、好ましくは反応の完結間近(例えば、完結の80%又は90%より多い)又は完結後に得られる。
【0086】
特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性フラクションの例には、濾液及び上澄み液が含まれ、濾液又は上澄み液は、本開示の水性組成物と見なすこともできる。従って、本発明の可溶性フラクションは、ろう斗、フィルター(例えば、回転真空ドラムフィルター、クロスフローフィルター、スクリーンフィルター、ベルトフィルター、スクリュープレス、又は膜の圧搾機能あり若しくはなしのフィルタープレスなどの表面フィルター;又はサンドフィルターなどのデプスフィルター)、遠心分離、及び/又は固体から一部又は全ての液体を除去できる当該技術分野で公知の任意の他の方法若しくは装置を使用して、グルコシルトランスフェラーゼ反応から得る(分離する)ことができる。可溶性及び不溶性のフラクションを分離するために有用な任意の構成を使用することができる。濾過は、例えば重力、真空、又は加圧濾過によるものであってもよい。濾過により、好ましくは全て又はほとんどの不溶性のグルカンが除去され;液体から固体を除去するのに十分な平均孔径(例えば、約10~50ミクロン)を有する任意のフィルター材料(例えば、布、金属スクリーン、又は濾紙)を使用することができる。可溶性フラクションは、典型的には、グルコシルトランスフェラーゼ反応の特定の副生成物(例えば、グルコース、オリゴ糖(ロイクロース等))など、その溶解した成分の全て又はほとんどを保持する。任意選択的に、本明細書の分離工程の後に不溶性フラクションと共に残る残留量の可溶性フラクションの全て又はほとんどは、不溶性フラクションを水又は水溶液で1回以上洗うことによって得てもよい。そのような洗浄は、例えば可溶性及び不溶性フラクションを製造するために使用されたgtf反応の体積の少なくとも約10~100%である洗浄体積において1回、2回、又はそれを超える回数行うことができる。洗浄は、置換又はスラリー洗浄などの様々な方式で行うことができる。不溶性フラクションから分離された洗浄液は、最初に単離された可溶性フラクションと併せられてもよい。
【0087】
本明細書の可溶性フラクションは、任意選択的に必要に応じて希釈又は濃縮されてもよい。可溶性フラクションの濃縮は、溶液を濃縮するために適切な当該技術分野で公知の任意の方法及び/又は装置を使用して行うことができる。可溶性フラクションの濃縮は、好ましくは着色を最小限にするような方法で行われる。例えば、フラクションは、ロータリーエバポレーターなどを用いた蒸発によって濃縮することができる。蒸発装置の他の適切な種類としては、強制循環式エバポレーター及び薄膜流下式エバポレーターが挙げられる。好ましいエバポレーターは薄膜流下式エバポレーターであり、これは、いくつかの態様ではエネルギー消費を最小限にするための多重効果又は蒸気の再圧縮を使用する。濃縮は、典型的には、着色を最小限にするために大気圧未満の圧力で行われる。必要に応じて濃縮は多段階で行われてもよい。例えば、本発明の可溶性フラクションは、ある温度及び圧力で約30~60重量%の乾燥固形分(DS)まで蒸発させ、その後、最終的なシロップの着色を最小限にするために、低い温度及び圧力(1段階目と比較して)で約30~80重量%のDS(約30~60重量%のDS、約70~77重量%のDS)まで蒸発させてもよい。濃縮された可溶性フラクション(例えば、濃縮された濾液)は、任意選択的にシロップと呼ばれる場合がある。本明細書のフルクトースシロップは、例えば保存期間の延長及び微生物増殖の予防のために、約65~77重量%の固形分まで濃縮されてもよい。
【0088】
ある実施形態における可溶性フラクションは、ポリα-1,3-グルカン合成反応由来であり、そのようなフラクションは、好ましくは濾液である。本明細書のポリα-1,3-グルカン合成反応のフラクションは、例えば、少なくとも水と、フルクトースと、1種以上の他の糖類(例えば、グルコース及びオリゴ糖(ロイクロース等))とを含み得る。このタイプの可溶性フラクション中に存在し得る他の成分としては、例えばスクロース(すなわちgtf反応で消費されなかった残留スクロース)、タンパク質、イオン、及び/又は有機酸が挙げられる。ポリα-1,3-グルカン合成反応由来の可溶性フラクションの成分は、最少でも、例えば、水、フルクトース、グルコース、1種以上のオリゴ糖(例えば、ロイクロースなどのDP2~7又はDP2~8)、及び任意選択的なスクロースを含む。可溶性フラクションの組成は、フラクションが得られるグルコシルトランスフェラーゼ反応の条件に部分的に依存することが理解されるであろう。
【0089】
特定の実施形態では、本明細書の可溶性フラクションは、ホウ酸塩(例えば、ホウ酸、四ホウ酸塩)を全く含まないか、50、100、150、200、250、又は300mM未満のホウ酸塩を含む。本明細書の反応の可溶性フラクションが食品又は医薬品などの摂取可能な製品としての使用を意図されている場合、可溶性フラクション中にホウ酸は存在しないか、或いは検出不可能であることが理解されるであろう。
【0090】
グルコシルトランスフェラーゼ反応で生成する糖副生成物の厳密な分布は、使用される反応条件及びgtf酵素に基づいて、特に温度及びスクロース濃度に基づいて変動し得ることが理解されるべきである。通常、スクロースの量が増加するに連れて、ロイクロース及びオリゴ糖の両方への反応の選択性が増加するであろう。逆に、温度が増加するに連れて、ロイクロースへの反応の選択率は減少する傾向にある一方、オリゴ糖への選択率は大きく影響を受けない。糖の質量を溶液の総重量で割ることによって計算される水に対する糖の割合、すなわち重量%DSは、可溶性フラクションの糖の相対的な分布に有意に影響を及ぼすことなしに水を蒸発又は添加することによって調節できることも理解されるべきである。gtf酵素の活性範囲より下にpHを下げることにより、又はgtf酵素を熱的に失活させることにより、完全な(グルカンへの)変換が得られる前にgtf反応を停止することにより、フラクション中のスクロースの割合を増加させることもできる。
【0091】
ポリα-1,3-グルカンを含む不溶性フラクションは、本開示の方法のグルコシルトランスフェラーゼ反応中で生成する。そのため、そのようなグルカンポリマーは、非苛性である本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ反応の条件(例えば、pH4~9)下で水溶性~不溶性であることが理解されるであろう。本明細書のポリα-1,3-グルカンは、少なくとも30%のα-1,3-グリコシド結合を含む。
【0092】
所定の実施形態におけるポリα-1,3-グルカンは、少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、又は100%のα-1,3-グリコシド結合を有する。従って、いくつかの実施形態では、ポリα-1,3-グルカンは、約5%、4%、3%、2%、1%、又は0%未満の、α-1,3ではないグリコシド結合を有する。ポリα-1,3-グルカン内に存在するα-1,3-グリコシド結合の割合が高いほど、ポリマー内で分岐点を形成する所定のグリコシド結合の発生率がより低くなるため、ポリα-1,3-グルカンが直鎖状である確率が高くなることを理解すべきである。従って、100%のα-1,3-グリコシド結合を有するポリα-1,3-グルカンは、完全に直鎖状であると考えられる。所定の実施形態では、ポリα-1,3-グルカンは、分岐点を有していないか、ポリマー内のグリコシド結合のパーセントとして約5%、4%、3%、2%、又は1%未満の分岐点を有する。分岐点の例としては、α-1,6分岐点が挙げられる。
【0093】
本明細書のポリα-1,3-グルカン(≧95%の1,3結合)は、いくつかの態様では、少なくとも約100のDP又はDPでの分子量を有し得る。 例えば、分子量は、少なくとも約400DP又はDPであってよい。更にまた別の実施形態におけるDP又はDPは、少なくとも約100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、又は1,500(又は100~1,500の任意の整数)であってもよい。
【0094】
ポリα-1,3-グルカン(≧95%の1,3結合)は、ほとんどの水系に不溶性である。一般に、水系中のグルカンポリマーの溶解度は、その結合タイプ、分子量、及び/又は分岐度に関連する。ポリα-1,3-グルカン(≧95%の1,3結合)は、通常、20℃の水性(又は大部分が水性の)液体中において8以上のDPで不溶性である。
【0095】
いくつかの他の実施形態では、不溶性のポリα-1,3-グルカンは、少なくとも30%のα-1,3-グルコシド結合と、ポリα-1,3-グルカン中のα-1,3及び-1,6-結合の両方の合計を100%にする割合のα-1,6-グルコシド結合とを含み得る。例えば、α-1,3結合の割合は、少なくとも30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%であってもよい一方、α-1,6結合の割合は、ポリα-1,3-グルカン中のα-1,3及び-1,6-結合の両方の合計を100%にする割合であってもよい。これらの実施形態におけるポリα-1,3-グルカンには、オルタナン(1,3及び1,6の交互の結合)は含まれない。
【0096】
フルクトースを含む水性組成物を製造する本明細書の方法の工程(a)には、グルコシルトランスフェラーゼ反応を形成することが含まれる。そのような酵素反応は、少なくとも約30%のα-1,3-グルコシド結合を含むポリα-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼを用いる。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、少なくとも95%のα-1,3-グルコシド結合を含むものなど、上で開示したいずれかの水に不溶性のポリα-1,3-グルカン分子を生成することができる。
【0097】
ポリα-1,3グルカン(≧95%の1,3結合)を製造するための特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、配列番号1、2、3、4、又は5と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98.5%、99%、又は99.5%同じであるアミノ酸配列を含むか、これらから構成されていてもよい。更に、このグルコシルトランスフェラーゼは、可溶性生成物の乾燥重量基準で少なくとも55%のフルクトースを含む可溶性生成物を(不溶性生成物としてのポリα-1,3グルカンと共に)生成することができる。いくつかの態様におけるグルコシルトランスフェラーゼは、上で開示したフルクトース量(例えば、少なくとも65%又は80%dwb)のいずれかをほぼ含む、又は少なくともほぼ含む可溶性生成物を生成する。
【0098】
特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98.5%、99%、又は99.5%が配列番号1のアミノ酸位置54~957と同一であるアミノ酸配列を有するグルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含むか、これから構成されていてもよく;可溶性生成物の乾燥重量基準で少なくとも55%のフルクトース(又は上で開示した任意のこれより多い量)を含む可溶性生成物を生成することができる。配列番号1のアミノ酸位置54~957を有するグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、例えば100%のα-1,3-結合と少なくとも400のDPwとを有するポリα-1,3-グルカンを製造することができる(データ未記載、米国特許出願第62/180,779号明細書の表6を参照)。
【0099】
配列番号1(GTF7527)、2(GTF2678)、3(GTF6855)、4(GTF2919)及び5(GTF2765)は、それぞれの野生型対応物と比較して、シグナルペプチドドメイン及び可変ドメインの全部分又は大部分が欠如するグルコシルトランスフェラーゼを表す。従って、これらのグルコシルトランスフェラーゼ酵素のそれぞれは、後にグルカン結合ドメインが続く触媒ドメインを有する。これらの酵素中の触媒ドメイン配列のおよその位置は次の通りである:7527(配列番号1の残基54~957)、2678(配列番号2の残基55~960)、6855(配列番号3の残基55~960)、2919(配列番号4の残基55~960)、2765(配列番号5の残基55~960)。GTF2678、6855、2919及び2765の触媒ドメインのアミノ酸配列は、GTF7527の触媒ドメイン配列(すなわち、配列番号1のアミノ酸54~957)とのそれぞれ約94.9%、99.0%、95.5%及び96.4%の同一性を有する。これらの特定のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、100%のα-1,3結合と少なくとも400のDPwとを有するポリα-1,3-グルカンを製造することができる(データ未記載、米国特許出願第62/180,779号明細書の表4を参照)。従って、特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、(i)GTF2678、6855、2919、又は2765の触媒ドメインのアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、98.5%、99%、又は99.5%同一であるグルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含むか、又はこれからから構成されていてもよく、(ii)可溶性生成物の乾燥重量基準で少なくとも55%のフルクトース(又は上で開示した任意のこれより多い量)を含む可溶性生成物を生成することができる。一部の別の実施形態では、グルコシルトランスフェラーゼ触媒ドメイン配列は、配列番号1の残基54~957、配列番号2の残基55~960、配列番号3の残基55~960、配列番号4の残基55~960、又は配列番号5の残基55~960を含んでいない。
【0100】
本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、例えば、配列番号1のアミノ酸54~957位(又は配列番号2の55~960位、配列番号3の55~960位、配列番号4の55~960位若しくは配列番号5の55~960位)と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む配列などの触媒ドメイン配列のみを有する必要があると考えられているが、グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、より大きいアミノ酸配列内に含まれていてもよい。例えば、触媒ドメインはそのC末端でグルカン結合ドメインに連結していてもよく、及び/又はそのN末端で可変ドメイン及び/又はシグナルペプチドに連結していてもよい。
【0101】
グルコシルトランスフェラーゼ酵素の更にまた別の例は、本明細書に開示した、及びN末端及び/又はC末端上の1~300(又はその間の任意の整数[例えば、10、15、20、25、30、35、40、45若しくは50])個の残基を含むいずれかであってよい。そのような追加の残基は、それにグルコシルトランスフェラーゼ酵素が由来する対応する野生型配列由来であってよく、又は例えば、(N末端若しくはC末端のいずれかでの)エピトープタグ若しくは(N末端での)異種シグナルペプチドなどの異種配列であってよい。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、典型的にはN末端シグナルペプチドが欠如している。
【0102】
特定の態様におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素のアミノ酸配列は、酵素が所定量のスクロース基質からより多くの生成物(ポリα-1,3グルカン及びフルクトース)とより少ない副生成物(例えば、グルコース、オリゴ糖(ロイクロース等))とを生成するように修飾された。例えば、本明細書のグルコシルトランスフェラーゼの触媒ドメインの1個、2個、3個、又はそれを超えるアミノ酸残基を、酵素の可溶性生成物の乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトース(又は上で開示した任意のこれより多い量)を生成する酵素を得るために修飾することができる。
【0103】
本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、例えば細菌又は真菌などの任意の微生物起源由来であってよい。細菌グルコシルトランスフェラーゼ酵素の例は、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ロイコノストック(Leuconostoc)種又はラクトバチルス(Lactobacillus)種に由来する酵素である。ストレプトコッカス(Streptococcus)種の例としては、S.サルバリウス(salivarius)、S.ソブリナス(sobrinus)、S.デンチロウセッティ(dentirousetti)、S.ダウネイ(downei)、S.ミュータンス(mutans)、S.オラリス(oralis)、S.ガロリティクス(gallolyticus)及びS.サングイニス(sanguinis)が挙げられる。ロイコノストック(Leuconostoc)種の例としてはL.メセンテロイデス(mesenteroides)、L.アメリビオスム(amelibiosum)、L.アルゲンチナム(argentinum)、L.カルノスム(carnosum)、L.シトレウム(citreum)、L.クレモリス(cremoris)、L.デキストラニカム(dextranicum)及びL.フルクトサム(fructosum)が挙げられる。ラクトバチルス(Lactobacillus)種の例としては、L.アシドフィルス(acidophilus)、L.デルブリュキイ(delbrueckii)、L.ヘルベチクス(helveticus)、L.サリバリウス(salivarius)、L.カゼイ(casei)、L.クルバツス(curvatus)、L.プランタルム(plantarum)、L.サケイ(sakei)、L.ブレビス(brevis)、L.ブフネリ(buchneri)、L.フェルメンタム(fermentum)及びL.ロイテリ(reuteri)が挙げられる。
【0104】
本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、例えば適切に遺伝子操作された微生物株の発酵によって製造することができる。大腸菌(E.coli)、バチルス属(Bacillus)株(例えば、B.サブティリス(B.subtilis))、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、並びにアスペルギルス(Aspergillus)属種(例えば、A.アワモリ(A.awamori))及びトリコデルマ(Trichoderma)属種(例えば、T.レーセイ(T.reesei))(例えば、Adrio and Demain,Biomolecules 4:117-139を参照(この文献は参照により本明細書に組み込まれる))などの微生物株を用いる発酵による組み換え酵素の製造は、当該技術分野ではよく知られている。グルコシルトランスフェラーゼ酵素のアミノ酸配列をエンコードするヌクレオチド配列は、典型的には酵素のための発現カセットを形成するために異種プロモーター配列と連結される。そのような発現カセットは、当該技術分野で周知の方法を使用して、適切なプラスミドに組み込まれるか、微生物宿主染色体中に組み込まれてもよい。発現カセットは、アミノ酸をコードする配列に続いて転写ターミネーターヌクレオチド配列を含んでいてもよい。発現カセットは、プロモーター配列とアミノ酸コード配列との間に、グルコシルトランスフェラーゼ酵素を直接分泌するように設計されたシグナルペプチドをエンコードするヌクレオチド配列も含んでいてもよい。発酵の終わりに、細胞は適切に破壊することができ、グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、析出、濾過、及び/又は濃縮などの方法を使用して単離することができる。或いは、グルコシルトランスフェラーゼを含む溶解物を更に単離することなしに使用することができる。グルコシルトランスフェラーゼ酵素の活性は、スクロースのグルカンポリマーへのその変換率を測定するなどの生化学的分析によって確認することができる。
【0105】
特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ酵素は、天然には存在しない。例えば、本明細書の酵素は、微生物(本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ酵素が由来する可能性があるもの)から天然に分泌されるもの(すなわち成熟型)とは考えられていない。
【0106】
本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ反応の温度は、必要に応じて制御することができる。特定の実施形態では、反応温度は約5℃~約50℃であってもよい。特定の他の実施形態における温度は、約20℃~約40℃、又は約20℃~約30℃(例えば、約22~25℃)であってもよい。
【0107】
本明細書の反応溶液中のスクロースの初期濃度は、例えば、約20g/L~約400g/Lであってよい。或いは、スクロースの初期濃度は、約75g/L~約175g/L又は約50g/L~約150g/Lであってよい。また或いは、スクロースの初期濃度は、約40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150又は160g/L(又は40~160g/Lの任意の整数)であってよい。「スクロースの初期濃度」は、全ての反応成分(例えば、少なくとも、水、スクロース、グルコシルトランスフェラーゼ酵素)が加えられた直後のグルコシルトランスフェラーゼ反応中のスクロース濃度を意味する。
【0108】
本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ反応に使用されるスクロースは、純度が高い(≧99.5%)か、いずれかの他の純度又はグレードであってよい。例えば、スクロースは、少なくとも99.0%の純度を有していてもよく、又は試薬グレードのスクロースであってよい。
【0109】
特定の実施形態におけるグルコシルトランスフェラーゼ反応のpHは、約4.0~約8.0、又は約5.0~約6.0であってもよい。或いは、pHは、例えば約4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、又は8.0であってよい。pHは、好適な緩衝液、限定はされないが、リン酸塩、トリス、クエン酸塩、又はこれらの組み合わせなどを添加するか又は含めることによって調節又は制御することができる。グルカン合成反応中の緩衝液濃度は、例えば、0mM~約100mM、又は約10、20、若しくは50mMであってよい。いくつかの好ましい態様におけるグルカン合成反応は、約10mM以下など、最低限の量の緩衝液のみを使用する。
【0110】
特定の態様では、1種以上の異なるグルコシルトランスフェラーゼ酵素が使用されてよい。本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ反応は、例えば、1種、2種、又はそれを超えるグルコシルトランスフェラーゼ酵素を含有していてよい。
【0111】
フルクトースを有する水性組成物を製造するための本開示の方法は、少なくとも水と、スクロースと、本明細書に記載のグルコシルトランスフェラーゼ酵素とを接触させることによる反応を提供することを含む。これらの試薬及び任意選択的な他の試薬は、一緒に添加してもよく、又は任意の順序で添加してもよい。グルコシルトランスフェラーゼ酵素がポリα-1,3-グルカンを合成するに連れて、不溶性のポリα-1,3-グルカンが溶液から析出することから、最初に溶液の形態である反応が混合物になることは理解されるであろう。本開示の方法の接触工程は、任意の数の方法で実施できる。例えば、望みの量のスクロースを最初に水に溶解させ(任意選択的に、緩衝液成分などの他の成分もこの調製段階で加えてもよい)、その後に少なくとも1種のグルコシルトランスフェラーゼ酵素を添加してもよい。溶液は、静止させたままであってもよく、又は例えば撹拌若しくはオービタルシェイカーによる振とうによってかき混ぜてもよい。典型的には、グルカン合成反応は、無細胞であってよい。
【0112】
グルコシルトランスフェラーゼ反応の追加的な成分は、上で開示したもの及び/又は本実施例で開示するもののいずれであってもよい。いくつかの事例では、反応でホウ酸塩(例えば、ホウ酸、四ホウ酸塩)は使用されないか、50、100、150、200、250、又は300mM未満のホウ酸塩のみが使用される。(i)ホウ酸塩の添加なしに乾燥重量基準で少なくとも約65%、70%、又は75%のフルクトースを有する可溶性フラクションを生じる能力を別途有しており(ii)摂取可能な製品の製造のために使用されないグルコシルトランスフェラーゼ反応中では、ホウ酸塩は、任意選択的に存在していてもよく、及び/又は前述の濃度のいずれかより多く存在していてもよい。本明細書の反応の可溶性フラクションが食品又は医薬品などの摂取可能な製品としての使用を目的としている場合、ホウ酸塩は可溶性フラクション中に存在しないか、或いは検出不可能であることが理解されるであろう。いくつかの事例では、グルコシルトランスフェラーゼ反応は、半透過性膜(例えば、12,000~100,000ダルトンの分画分子量)を含むか又は含まない。
【0113】
所定の実施形態における反応の完了は、例えば、視覚的に(それ以上の不溶性ポリα-1,3-グルカンの蓄積がない)、及び/又は溶液中に残っているスクロース(残留スクロース)の量を測定することによって決定でき、ここで、約90%を超えるスクロース消費率は反応完了を意味し得る。典型的には、本開示の方法の反応は、反応に使用されたスクロース及びグルコシルトランスフェラーゼ酵素の量及び/又は反応温度などの所定のパラメーターに応じて、完結のために約12、24、36、48、60、72、84、又は96時間を要するであろう。
【0114】
所定の実施形態におけるグリコシルトランスフェラーゼ反応のスクロース消費率は、水及びグルコシルトランスフェラーゼ酵素と最初に接触したスクロースの少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である。或いは、スクロース消費率は、>95%又は>99%であってよい。
【0115】
本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ反応のいくつかの態様において生成されるポリα-1,3-グルカンの収率は、反応で変換されるスクロースの重量を基準として少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、又は30%であってよい。
【0116】
本明細書のグルコシルトランスフェラーゼ反応のいくつかの態様において生成されるフルクトースの収率は、反応で変換されるスクロースの重量を基準として、少なくとも約35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、又は50%である。
【0117】
本開示の方法のグルコシルトランスフェラーゼ反応で生成するポリα-1,3-グルカンは、単離することができる。そのような単離は、不溶性フラクションから可溶性フラクションを分離することにより、フルクトースを含む水性組成物をもたらす本明細書の方法の工程を表すために特徴付けられ得る。
【0118】
本開示の特定の態様におけるフルクトースを含む水性組成物を製造する方法は、可溶性フラクション及び/又はグルコシルトランスフェラーゼ反応中に存在する1種以上のオリゴ糖の少なくとも1つのグリコシド結合を加水分解させ、それにより可溶性フラクション中の単糖含有率を増加させるために、可溶性フラクション及び/又はグルコシルトランスフェラーゼ反応をα-グルコシダーゼ酵素と接触させることを更に含んでいてもよい。そのため、本明細書の可溶性フラクションは、ポリα-1,3-グルカンを含む不溶性フラクションからこれを分離した後又はその分離前(例えば、これが反応中及び/又は反応の完結後に形成される際)にα-グルコシダーゼと接触させてもよい(すなわち、接触工程[a]中及び/又は分離工程[b]後)。α-グルコシダーゼの活性は、本明細書の1種以上の異なるオリゴ糖(例えば、ロイクロース及び/又はグルコースのみを含むオリゴ糖)を、その成分である単糖(フルクトース及び/又はグルコース)へ加水分解する。α-グルコシダーゼによる処理を含む本明細書の実施形態は、任意選択的に酵素的加水分解工程を更に含むものとして特徴付けることができる。ロイクロースなどのフルクトース含有オリゴ糖を加水分解するα-グルコシダーゼを用いる処理の場合、そのような処理は、水溶性フラクションのフルクトース含有率(dwb)を増加させることになる。
【0119】
本明細書のα-グルコシダーゼ、並びに可溶性フラクション及び/又はグルコシルトランスフェラーゼ反応でのその使用方法は、米国特許出願公開第2015/0240278号明細書及び同第2015/0240279号明細書に開示の通りであってもよく、これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる。本明細書の特定の実施形態では、少なくとも1つのα-1,5グルコシル-フルクトース結合を含む糖(例えば、ロイクロース)中のα-1,5グルコシル-フルクトース結合を加水分解するために、α-グルコシダーゼ(EC3.2.1.20)を使用することができる。例えば、少なくとも1つのα-1,5グルコシル-フルクトース結合を含む糖(例えば、ロイクロース)中のα-1,5グルコシル-フルクトース結合を加水分解するためのα-グルコシダーゼとして、トランスグルコシダーゼ(EC2.4.1.24;1,4-α-グルカン6-α-グルコシルトランスフェラーゼ)又はグルコアミラーゼ(EC3.2.1.3;α-1,4-グルカングルコヒドロラーゼ)を使用することができる。適切なα-グルコシダーゼの例(米国特許出願公開第2015/0240278号明細書及び同第2015/0240279号明細書に開示)としては、「TG L-2000」(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)トランスグルコシダーゼ)、「GC321グルコアミラーゼ」(トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)グルコアミラーゼ,TrGA)、「Aclglu1」(アスペルギルス・クラバタス(Aspergillus clavatus)α-グルコシダーゼ)、「Aclglu1」(アスペルギルス・クラバタス(Aspergillus clavatus)α-グルコシダーゼ)、「Nfiglu1」(ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)α-グルコシダーゼ)、「Nfiglu1」(ネオサルトリア・フィシェリ(Neosartorya fischeri)α-グルコシダーゼ)、「Ncrglu1」(ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)α-グルコシダーゼ)、「Ncrglu1」(ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)α-グルコシダーゼ)、「TauSec098」(ラサモソニア・コンポスティコラ(Rasamsonia composticola)α-グルコシダーゼ)、「TauSec098」(ラサモソニア・コンポスティコラ(Rasamsonia composticola)α-グルコシダーゼ)、「TauSec099」(ラサモソニア・コンポスティコラ(Rasamsonia composticola)α-グルコシダーゼ)、「TauSec099」(ラサモソニア・コンポスティコラ(Rasamsonia composticola)α-グルコシダーゼ)、「BloGlu1」(ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)(subsp.longum JDM301)α-グルコシダーゼ)、「BloGlu2」(ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)α-グルコシダーゼ)、「BloGlu3」(ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)(subsp.F8)α-グルコシダーゼ)、「BpsGlu1」(ビフィドバクテリウム・シュードロングム(Bifidobacterium pseudolongum)α-グルコシダーゼ)、「BthGlu1」(ビフィドバクテリウム・テルモフィルム(Bifidobacterium thermophilum)RBL67 α-グルコシダーゼ)、「BbrGlu2」(ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)α-グルコシダーゼ)、及び「BbrGlu5」(ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)ACS-071-V-Sch8b α-グルコシダーゼ)の成熟型、又は(i)これらの酵素のいずれかと少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一であり、及び(ii)糖中のα-1,5グルコシル-フルクトース結合に対する加水分解活性を有する任意のアミノ酸配列が挙げられる。特定の実施形態では、加水分解反応で1種以上の本明細書のα-グルコシダーゼ酵素を使用してもよい。例えば、トランスグルコシダーゼとグルコアミラーゼとの両方を反応中で使用することができる。
【0120】
典型的には、本明細書の可溶性フラクション及び/又はグルコシルトランスフェラーゼ反応は、手を加えることなしに1種以上のα-グルコシダーゼと直接接触させることができる。しかし、酵素的加水分解を行うために次の条件が有用な場合がある。pHは、例えば約3.0~9.0(例えば、4.0~5.0)とすることができる。温度は、例えば20℃~約80℃(例えば、55~65℃、又はは60℃)とすることができる。酵素的加水分解は、例えば少なくとも約10分~約90時間にわたって行うことができる。特定の実施形態では、ロイクロースの加水分解のためなどの加水分解反応は、4時間未満(例えば、0.5~4時間)行うことができる。加水分解反応の継続時間は、典型的には添加される酵素の量及び加水分解されるオリゴ糖の量の影響を受ける。いくつかの態様では、シロップまで濃縮された可溶性フラクションを加水分解反応で使用することができる。グルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性フラクション中に存在する1種以上のgtf酵素は、任意選択的に酵素的加水分解でのその使用の前に失活(例えば、熱による失活)させてもよい。加水分解されたフラクション中に存在する加水分解酵素は、典型的には加水分解が完了した後に熱変性を使用して破壊される。
【0121】
特定の実施形態におけるα-グルコシダーゼは固定化されていてもよい。酵素は、米国特許第5541097号明細書及び同第4713333号明細書(これらは参照により本明細書に組み込まれる)に開示のものなど、当該技術分野で公知の任意の方法及び/又は手段を使用して固定されていてもよい。例えば、酵素をアミン反応性材料(例えば、グルタルアルデヒド)の溶液と接触させて付加体(例えば、酵素-グルタルアルデヒド付加体)を形成した後、ポリアミン(例えば、EPOMIN P-1050などのポリエチレンイミン)で処理された固体担体に付加体を結合させることにより、1種以上の酵素が固定されてもよい。特定の実施形態においてα-グルコシダーゼ酵素が固定され得る固体担体(固体支持体)は、無機材料であっても有機材料であってもよい。そのような材料としては、例えば、γ-アルミナ、チタニア、粒状活性炭、顆粒状珪藻土、ガラスビース、多孔質ガラス、軽石、シリカゲル、金属酸化物、及び酸化アルミニウムが挙げられる。
【0122】
本明細書のα-グルコシダーゼによる処理で得られる可溶性フラクション中の単糖含有率(dwb)(例えば、フルクトース+グルコース)の増加は、α-グルコシダーゼによる処理前に存在する(継続中の又は完結したグルコシルトランスフェラーゼ反応から分離された又は分離されていない)可溶性フラクション中の単糖含有率と比較して、約又は少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、50~80%、50~90%、60~80%、又は60~90%であってもよい。α-グルコシダーゼによる処理で得られる可溶性フラクション中のフルクトース含有率(dwb)の増加は、α-グルコシダーゼによる処理前に存在する(継続中の又は完結したグルコシルトランスフェラーゼ反応から分離された又は分離されていない)可溶性フラクション中のフルクトース含有率と比較して、約又は少なくとも約3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、20%、30%、40%、50%、10~40%、10~50%、20~40%、又は20~50%、又はほぼこれを下回ってもよい。
【0123】
特定の態様におけるフルクトースを含む水性組成物を製造する方法は、可溶性フラクション中の他の糖(例えば、オリゴ糖)の含有量に対する単糖の含有量(例えば、dwb)を増加させる処理工程を更に含んでいてもよい。そのような処理工程は、例えば、上に開示した酵素的加水分解工程を行うことに加えて又はその代わりに行われてもよい。また、そのような処理工程は、典型的にはグルコシルトランスフェラーゼ反応の可溶性フラクションから不溶性のポリα-1,3-グルカンを分離した後に行われる。
【0124】
本開示のいくつかの態様では、ナノ濾過を含む処理を使用することができ、これは、通常、可溶性フラクションからオリゴ糖を除去することによって単糖の含有率を増加させるために好適である。ナノ濾過は、典型的には大きさに基づいて分離が行われ:フルクトース及びグルコースなどの小さい分子は膜を通過でき、オリゴ糖などの大きい分子は膜を通過できない。表面化学、空隙率、及び幾何学的形状などの複数の構造的な要因がナノ濾過膜の性能に影響し得る。いくつかの態様におけるナノ濾過膜は、平らなシートであっても渦巻き形であってもよく、後者の膜のタイプは、スキッド中でより大きい表面積対体積比が得られるために好ましい。膜の操作条件もナノ濾過の性能に影響を与え得る。温度、pH、膜貫通圧力、並びに保持液及び透過液の粘度及び濃度は、膜の性能に影響を与え得る。温度、pH、及び膜貫通圧力が高いほど好ましい。膜及び操作条件などの本明細書のナノ濾過ユニットの厳密な構成は、本開示に重要ではない。一段階又は多段階を含む市販のナノ濾過構成を任意選択的に使用することができる。本明細書の多段階ナノ濾過システムは、典型的には、膜の回りに所定の段階の材料を再循環させ、保持液のスリップストリームを後続の段階へ送ることによって行われる。好ましい選択肢は、所定の精製を達成するために必要な膜の面積の量を最小限にすることであり、多段階を使用してもよい。高い収率を達成するため、低い粘度を維持するために保持液を希釈する目的でダイアフィルトレーション水を使用することができ、これは工程の一部又は全ての段階に添加されてもよい。好ましいナノ濾過操作は、少量のダイアフィルトレーション水のみを使用する。本明細書のナノ濾過膜は、典型的には膜を通過する透過液の流束に基づいて特徴付けられる。好ましい膜は、フルクトース及びグルコースなどの望みの化合物の大きい流束を有する。ナノ濾過膜のもう1つの考慮すべき事項は、これがオリゴ糖、タンパク質、及び/又は塩などの望まれていない物質を十分に阻止することである。好ましい膜は、望まれていない物質の高い阻止率を有する。General Electric (New York,United State)により製造されているOSMONICS DESAL 5 DL及びOSMONICS DK;Trisep Corporation(Galeta,CA)により製造されているTS40、XN45、P4、及びUA60;Dow(Midland,MI)により製造されているNF245;又はSynder(Vacaville,CA)により製造されているNFX及びNFW;及び他の同様の膜などの複数の市販のナノ濾過膜が本明細書での使用に適している。
【0125】
特定の実施形態におけるナノ濾過は、約又は少なくとも約20、25、30、35、40、45、50、55、60、30~50、30~45、30~40、35~50、35~45、35~40重量%の乾燥固形分を含む可溶性フラクションに対して行われてもよい。本明細書のナノ濾過工程に入る可溶性フラクションのpHは、約4.0、4.25、4.5、4.75、5.0、5.25.、5.5、5.75、6.0、4.0~6.0、4.0~5.5、4.0~5.0、4.0~4.75、4.0~4.5、4.25~5.0、4.25~4.75、又は4.25~4.5であってもよい。ナノ濾過は、必要に応じて、濾過された試料を連続的に再循環させることによって行うことができる。例えば、濾過される試料の乾燥固形分1部当たり約0.1、0.5、1.0、1.25、1.5、1.75、2.0、0.1~2.0、0.1~1.5、1.25~2.0、1.25~1.75、1.25~1.5、1.5~2.0、又は1.5~1.75部のダイアフィルトレーション水が添加されてもよい。
【0126】
ナノ濾過などの本明細書の工程から得られる可溶性フラクション中での単糖含有率(dwb)(例えば、フルクトース+グルコース)の増加は、そのような工程を行う前に存在する可溶性フラクション中の単糖含有率と比較して、約又は少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、10~30%、10~25%、10~20%、10~15%、15~30%、15~25%、又は15~20%であってもよい。これらの実施形態のいずれかにおけるフルクトース含有率(dwb)の増加は、そのような工程を行う前に存在する可溶性フラクション中のフルクトース含有率と比較して、約又は少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、10~30%、10~25%、10~20%、10~15%、15~30%、15~25%、又は15~20%であってもよい。これらの実施形態のいずれかにおける可溶性フラクションのオリゴ糖含有率(dwb)の減少は、約又は少なくとも約40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、70~95%、70~90%、80~95%、80~90%、85~95%、85~90%、又は90~95%であってもよい。
【0127】
ナノ濾過によって処理された(及びいくつかの態様では酵素的加水分解によっても処理された)可溶性フラクションは、例えば、(i)約700~900、800~900、若しくは約900未満のICUMSA値(本明細書に開示の通りに測定)、及び/又は(ii)約3200、3000~3400、3000~3300、3100~3400、3100~3300、又は3200μS/cm、又は約3300μS/cm未満の導電率を有し得る。そのような可溶性フラクションは、例えば、約10~30、15~30、20~30、10~25、又は15~25重量%の乾燥固形分を有し得る。
【0128】
可溶性フラクション中の他の糖(例えば、オリゴ糖)の含有量に対する単糖の含有量を増加させるために本明細書で任意選択的に使用され得るナノ濾過以外に又はそれに加えて、他の方法としては、例えば結晶化(例えば、米国特許第4634472号明細書参照)、及びクロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー、リガンドクロマトグラフィー(カルシウムイオンへの結合の差に基づくなどの配位子変換クロマトグラフィー又は配位子交換クロマトグラフィー)、分配クロマトグラフィー、又はアニオン交換クロマトグラフィー等)が挙げられる。
【0129】
本開示のためのいくつかの実施形態では、フルクトースを含む水性組成物を製造する方法は、可溶性フラクション中の他の糖(例えば、オリゴ糖及び/又はグルコース)の含有量に対するフルクトースの含有量を増加させる処理工程を含まない。例えば、いくつかの事例における方法は、結晶化(例えば、米国特許第4634472号明細書参照)、及び/又はクロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー、リガンドクロマトグラフィー(配位子変換クロマトグラフィー又は配位子交換クロマトグラフィー)、分配クロマトグラフィー、又はアニオン交換クロマトグラフィー等)を含まない。いくつかの実施形態では、リガンドクロマトグラフィー(例えば、カルシウムイオンへの結合の差に基づく配位子交換クロマトグラフィー)など、特にグルコースを除去するためのクロマトグラフィーによる処理は存在しない。しかし、これらの実施形態のいくつかは、任意選択的に開示したようなナノ濾過及び/又は加水分解工程を含んでいてもよい。
【0130】
いくつかの実施形態におけるフルクトースを含む水性組成物を製造する方法は、本明細書の可溶性フラクションからイオン及び/又は色を除去するポリッシング工程を更に含み得る。そのようなポリッシングは、グルコシルトランスフェラーゼ反応からの不溶性フラクションの製造の直後、及び/又は上に開示した工程(例えば、加水分解単独、ナノ濾過単独、加水分解とナノ濾過)の1つ以上へのその処理の後に行われてもよい。本明細書の水性組成物の乾燥固形分含有率は、任意選択的にポリッシング前に調節されてもよく;好ましい乾燥固形分含有率は30~70重量%DSである。
【0131】
ポリッシングは、いくつかの特定の態様では、例えばイオン交換クロマトグラフィー(典型的にはイオン除去のため)及び/又は炭素処理(典型的には色の除去のため)を使用して行うことができる。例えば、ポリッシング工程は、強酸カチオン(SAC)イオン交換樹脂(例えば、IMAC C16P)、弱塩基アニオン(WBA)イオン交換樹脂(例えば、AMBERLITE IRA 92,Dow,Midland,MI)、強塩基アニオン(SBA)イオン交換樹脂(例えば、DOWEX22)、及び/又は活性炭(AC)(CHEMVIRON CPG,Calgon Carbon Corporation)のいずれかを含む一連のカラムを用いることができる。カラムは、同じ構成中での強酸カチオン交換樹脂と、弱塩基アニオン又は強塩基アニオンのいずれか1つの樹脂との組み合わせなど、これらの樹脂の1つ以上を含んでいてもよい。そのような混合物は、当該技術分野では混床樹脂と呼ばれている。本明細書の水性組成物は、1回又は複数回のパスで1回又は複数回、イオン交換ユニットと接触させることができる。好ましい構成は、水性組成物からカチオンとアニオンとの両方(有機酸等)を取り除く。そのようなカラムは、SAC→WBA→SAC→WBA→ACなどの順序で構成することができる。カラムの厳密な構成、カチオン及び/又はアニオン交換樹脂の選択、並びにACの選択は、本開示には重要ではなく、強塩基アニオンイオン交換樹脂又は混床樹脂を使用し得る構成などのカラムの他の構成も本発明で実行可能である。Dow、Purolite、又はその他から販売されているものなどの様々な市販のイオン交換樹脂も好適である。いくつかの態様では、ファウリングを減らすために単分散粒子を使用することが有利な場合がある。目的の仕様を得るために、接触時間及び温度などの他のパラメーターを調節してもよい。本明細書のイオン交換樹脂の典型的な操作条件は、10~80重量%(例えば、約50重量%)の乾燥固形分(DS)濃度で、2~6ベッドボリューム(BV)毎時であり、この中のベッドボリュームは、カラム中に固定化された樹脂の総体積として定義され、これには樹脂と間隙との両方が含まれる。温度は、例えば約20℃~約80℃(例えば、55~65℃、又は60℃)であってもよい。流速が速く、温度が低く、且つ濃度が低いほど、フルクトースのグルコースへのエピマー化又は二糖の生成の低減に有利な場合がある。イオン交換樹脂が部分的に又は完全に飽和すると、更にイオンを除去するための樹脂の能力は低下する。その際、カラムは、酸及び塩基のいずれかを使用して再生してもよく、結果として再利用することができる。活性炭カラムが再生されることがあるが、より典型的には廃棄されるか又は精製のために販売会社に返送される。これらの吸着材の再生処理は、当業者に周知である。
【0132】
本明細書のポリッシング処理を行うことにより可溶性フラクションから除去されるイオン及び/又は色の量は、例えばポリッシングで得られる可溶性フラクションの導電率及び/又はICUMSAをそれぞれ観察することによって測定することができる。いくつかの態様では、ポリッシングされた可溶性フラクションは、約1~25若しくは1~20、又は25若しくは20未満のICUMSA値(本明細書に開示の通りに測定)、及び/又は(ii)約2.5~25、2.5~20、2.5~15、5~25、5~20、5~15、7.5~25、7.5~20、若しくは7.5~15μS/cm、又は約25若しくは20μS/cm未満の導電率を有し得る。そのような可溶性フラクションは、例えば約5~15重量%(例えば、約10重量%)の乾燥固形分を有し得る。いくつかの態様では、約20~40重量%の乾燥固形分(例えば、約30重量%DS)を含む本明細書の可溶性フラクションは、約30~60、又は約50若しくは40未満のICUMSA値(本明細書に開示の通りに測定)、及び/又は(ii)約50、40、若しくは30μS/cm未満の導電率を有し得る。本明細書の導電率は、例えば約20~80℃若しくは50~70℃(例えば、約60℃)の任意の温度、及び/又は約3、4、5、6、7、8、若しくは9のpHで測定することができる。そのような本明細書の可溶性フラクションは、いくつかの実施形態では、摂取可能な製品を構成することができる。
【0133】
本明細書に開示の任意の方法又は関連する方法により製造される水性組成物は、本開示のまた別の態様である。本明細書に開示の任意の水溶性フラクションは、例えばそのような水性組成物を構成することができる。或いは、水性組成物は、任意選択的に、本開示の可溶性フラクションをそのまま再現するものであってもよいが、異なる方法で製造されてもよい(例えば、本開示の水溶性フラクションの成分が、配合物の提供などにおいて1つにまとめられてもよい)。次の実施形態は水性組成物の例を表す。
【0134】
いくつかの態様における水性組成物は、(i)乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトース、(ii)乾燥重量基準で約3%~約24%のグルコース、及び(iii)2~約15の重合度(DP)を有する可溶性オリゴ糖を含んでいてもよく、前記オリゴ糖は、グルコース及び/又はフルクトースを含む。そのような水性組成物の特定の実施形態は、乾燥重量基準で少なくとも約75%のフルクトースなど、可溶性フラクションについて本明細書で開示した任意の他のフルクトース含有率を含み得る。更に追加的な実施形態は、可溶性フラクションについて本明細書で開示した任意のフルクトース、グルコース、及び/又は可溶性オリゴ糖(DP2~15)の含有率を含み得る。
【0135】
水性組成物の可溶性オリゴ糖は、例えばスクロース、ロイクロース、トレハルロース、イソマルツロース、マルツロース、イソマルトース、及びニゲロースからなる群から選択されてもよい。いくつかの実施形態における可溶性オリゴ糖は、(i)少なくとも約90重量%のグルコースと、(ii)約60~99%のα-1,3及び約1~40%のα-1,6グルコシド結合とを含み得る。水性組成物は、いくつかの態様では、乾燥重量基準で約30%未満の可溶性オリゴ糖を含んでいてもよい。
【0136】
いくつかの実施形態における水性組成物は、(i)摂取可能な製品中に含まれるか又は摂取可能な製品であってもよく、且つ/又は(ii)30%乾燥固形分で約50μS/cm未満の導電率及び約50未満のICUMSA値を有し得る。別の態様では、水性組成物は、本明細書の別の場所に開示した任意の導電率レベル及び/又はICUMSAレベルを有していてもよい。また別の態様における水性組成物は、その導電率及び/又はICUMSAレベルに関係なく、摂取可能な製品中に含まれるか又は摂取可能な製品であってもよい。
【0137】
本明細書の水性組成物は、摂取可能な製品又は摂取できない製品などの消費者製品中に含まれるか又は消費者製品であってもよい。摂取可能な製品の例は、食品/飲料及び医薬品である。摂取できない製品の例としては化粧品が挙げられる。特定の態様では、本明細書の水性組成物は、典型的に高フルクトースコーンシロップ(HFCS)を含んでいる消費者製品中の、HFCSの部分的な又は完全な代用品として使用することができる。本明細書の水性組成物は、例えば摂取可能な製品又は消費者製品中の甘味料及び/又は保存料として使用されてもよい。
【0138】
本明細書の水性組成物は、例えば食品、飲料、動物飼料、動物の健康栄養製品、医薬品、及び/又は化粧品中で利用されてもよい。食品及び飼料中での本明細書の水性組成物の用途は、例えばテクスチャを柔らかくすること、嵩を増すこと、とろみをつけること、糖の結晶化を防止すること、及び/又は風味若しくは甘味を強化することであってもよい。
【0139】
本開示の水性組成物を使用することの追加的な例としては、膨化、結合、及び/又は被覆成分;着色料、香味料/香料、及び/又は高甘味度甘味料のための担体:噴霧乾燥添加物;膨化剤、増粘剤、及び/又は分散剤;並びに水分保持を促進する成分(保湿剤)としてのその使用が挙げられる。本明細書に開示の水性組成物を使用して製造することができる製品の実例としては、食品、飲料品、医薬品、栄養製品、スポーツ製品、及び化粧品が挙げられる。本明細書の水性組成物を含み得る飲料品の具体的な例としては、濃縮飲料混合物、炭酸飲料、非炭酸飲料、フルーツ味の飲料、果汁、茶、コーヒー、牛乳、ネクター、粉末状ソフトドリンク、液体濃縮物、乳飲料、スムージー、アルコール飲料、フレーバーウォーター、及びこれらの組み合わせなどの飲料品が挙げられる。本明細書の水性組成物を含み得る食品の具体的な例としては、焼成製品(例えば、パン)、菓子、冷凍乳製品、肉、穀物製品(例えば、朝食用シリアル)、乳製品(例えば、ヨーグルト)、香辛料、スナックバー、スープ、ドレッシング、ミックス、加工食品、ベビーフード、ダイエット食品、ピーナッツバター、シロップ、甘味料、食品コーティング、ペットフード、動物飼料、動物健康栄養製品、ドライフルーツ、ソース、グレイビーソース、ジャム/ゼリー、デザート製品、スプレッド、バター、パン粉、スパイスミックス、砂糖衣等が挙げられる。
【0140】
本開示の水性組成物は、手を加えることなしに消費者製品中で直接使用することができる。或いは、具体的な消費者製品の製造でのこの使用方法に応じて希釈又は濃縮することができる。
【0141】
本明細書の水性組成物が製造のために有用な場合がある消費者製品及びその配合物の追加的な例は、米国特許出願公開第2015/0257422号明細書、同第2015/0282513号明細書、同第2015/0313265号明細書、及び同第2015/0216219号明細書に開示されており、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。
【0142】
本明細書に開示した組成物及び方法の非限定的例としては、以下が挙げられる:
1.フルクトースを含む水性組成物を製造する方法であって、
(a)水と、スクロースと、少なくとも30%のα-1,3-結合を有するポリα-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素とを接触させて、可溶性フラクション及び不溶性フラクションを生成することであって、不溶性フラクションは、ポリα-1,3-グルカンを含み、及び可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトースを含む、生成すること;及び
(b)不溶性フラクションから可溶性フラクションを分離し、それによりフルクトースを含む水性組成物をもたらすこと
を含む、方法。
2.グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、少なくとも95%のα-1,3-結合を有するポリα-1,3-グルカンを合成する、実施形態1に記載の方法。
3.可溶性フラクションは、2~約15の重合度(DP)を有する可溶性オリゴ糖を更に含む、実施形態1又は2に記載の方法。
4.可溶性フラクションは、乾燥重量基準で約30%未満の可溶性オリゴ糖を含む、実施形態3に記載の方法。
5.可溶性フラクションをα-グルコシダーゼ酵素と接触させて、オリゴ糖の少なくとも1つのグリコシド結合を加水分解し、それにより可溶性フラクション中の単糖含有率を増加させることを更に含む(そのような接触は、工程[a]及び/又は工程[b]の可溶性フラクションを用いて行われてもよい)、実施形態3又は4に記載の方法。
6.可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも約75%のフルクトースを含む、実施形態1、2、3、4、又は5に記載の方法。
7.可溶性フラクション中の他の糖の含有量に対する単糖の含有量を増加させる処理工程を更に含み、処理工程は、任意選択的にナノ濾過又は酵素的加水分解である、実施形態1、2、3、4、5、又は6に記載の方法。
8.可溶性フラクション中の他の糖の含有量に対するフルクトースの含有量を増加させるための処理工程としてクロマトグラフィーを含まない、実施形態1、2、3、4、5、又は6に記載の方法。
9.実施形態1、2、3、4、5、6、7、又は8に記載の方法によって製造される水性組成物。
10.摂取可能な製品中に含まれているか又は摂取可能な製品であり、且つ任意選択的に、摂取可能な製品の甘味料として使用される、実施形態9に記載の水性組成物。
11.
(i)乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトース、
(ii)乾燥重量基準で約3%~約24%のグルコース、及び
(iii)2~約15の重合度(DP)を有する可溶性オリゴ糖
を含む水性組成物であって、オリゴ糖は、グルコース及び/又はフルクトースを含む、水性組成物。
12.可溶性オリゴ糖は、スクロース、ロイクロース、トレハルロース、イソマルツロース、マルツロース、イソマルトース、及びニゲロースからなる群から選択される、実施形態11に記載の水性組成物。
13.オリゴ糖は、(i)少なくとも約90重量%のグルコース、並びに(ii)約60~99%のα-1,3グリコシド結合及び約1~40%のα-1,6グリコシド結合を含む、実施形態11又は12に記載の水性組成物。
14.乾燥重量基準で少なくとも約75%のフルクトースを含む、実施形態11、12又は13に記載の水性組成物。
15.乾燥重量基準で約30%未満の可溶性オリゴ糖を含む、実施形態11、12、13、又は14に記載の水性組成物。
16.摂取可能な製品中に含まれているか又は摂取可能な製品であり、且つ任意選択的に、摂取可能な製品の甘味料として使用される、実施形態11、12、13、14、又は15に記載の水性組成物。
17.約30重量%の乾燥固形分で約50μS/cm未満の導電率と、約50未満のICUMSA値とを有する、請求項16に記載の水性組成物。
18.食品、飲料、動物飼料、ヒト若しくは動物の栄養製品、医薬品、又はオーラルケア製品である、請求項11、12、13、14、15、16、又は17のいずれか1つに記載の水性組成物を含む摂取可能な製品。
【実施例
【0143】
本開示を下の実施例2~6で更に例示する。これらの実施例は、本明細書の所定の好ましい態様を示しているが、単に説明の目的でのみ記されていると理解すべきである。上記の考察及びこれらの実施例から、当業者であれば、本明細書に開示した実施形態の本質的な特徴を確認することができ、本発明の趣旨及び範囲を逸脱しない範囲で、本明細書に開示した実施形態を様々な使用及び条件に適合させるために様々な変更形態及び修飾形態がなされ得る。
【0144】
略語
本明細書で使用する略語の一部の意味は、次の通りである:「g」はグラムを意味し、「h」は時間を意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「psi」はポンド毎平方インチを意味し、「wt%」は重量パーセンテージを意味し、「μm」はマイクロメートルを意味し、「℃」はセルシウス度を意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「mm」はミリメートルを意味し、「m」はメートルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「min」は分を意味し、「mol%」はモルパーセントを意味し、「M」はモル濃度を意味し、「mg/g」はミリグラム毎グラムを意味し、「rpm」は回転毎分を意味し、「MPa」はメガパスカルを意味し、「BV」はベッドボリュームを意味し、「lbm」はポンド質量を意味し、「psia」はポンド毎平方インチ絶対圧力を意味する。
【0145】
一般的方法
炭水化物組成の分析
可溶性オリゴ糖副生成物(DP2~DP7)を定量するために、脱イオン水を有するAminex(登録商標)HPX-42Aカラム(BioRad,Hercules,CA)を0.6mL/分の流量及び85℃の温度で使用した。可溶性反応生成物中のスクロース、グルコース、ロイクロース、及びフルクトースの量を定量するために、脱イオン水を有するAminex(登録商標)HPX-87Cカラム(BioRad)を0.6mL/分の流量及び85℃の温度で使用した。灰分を取り除いた精製されたフルクトース生成物の全ての炭水化物の量を定量化するために、同じ流量及び温度で直列に繋いだ2×Aminex(登録商標)HPX-87Cカラムを使用した。
【0146】
ICUMSA色分析
ICUMSAは、糖溶液/シロップの色の尺度である。このパラメーターは、分光光度計を使用して次の手順に従って測定することができる。ICUMSAを測定するために本明細書で使用した方法(表2)は、若干繰り返しが多いものの、非常に薄い色の材料に対して、長いセルを使用して色を測定することが理想的である。
【0147】
【表2】
【0148】
導電率
導電率測定は、市販の導電率計(VWR,Radnor,PA)を使用して行った。導電率測定を行う前に、フルクトースシロップを10重量%の乾燥固形分(DS)まで脱イオン水で希釈した。
【0149】
実施例1(比較例)
GTFJ酵素を使用したフルクトースシロップの製造
この実施例は、GTFJ酵素(配列番号6)により触媒されるポリα-1,3-グルカン合成反応で生成したフルクトースシロップの組成と、ロイクロースの加水分解後のその後の組成とを開示する。
【0150】
GTFJは、フルクトース及び同時生成物であるポリα-1,3-グルカンを合成し、それと同時に副生成物であるグルコース及びオリゴ糖(例えば、DP2~7)も合成する。ポリα-1,3-グルカン生成物は約100%のα-1,3結合を含む。
【0151】
白い結晶状のスクロース(3000g)を清浄な5ガロンのポリエチレンバケツに入れた。水(18.1L)及びFermasureTM(10mL)をバケツに添加し、5体積%のNaOH及び/又は5体積%のHSOを添加することによりpHを7.0に調節した。最終的な体積は約20Lであり、HPLCにより測定したスクロースの初期濃度は155.3g/Lであった。ポリα-1,3-グルカン合成反応は、未精製gtfJ酵素(配列番号6)抽出物(一般的方法の項で記載の通りに製造)を0.3体積%の濃度まで添加することにより開始した。反応の撹拌は、ガラスシャフトとPTFEブレードとを備えたオーバーヘッド機械式モーターを使用して行った。
【0152】
65時間行ったグルカン合成反応のHPLCから、可溶性フラクション中のスクロース濃度が6.3g/Lであることが明らかになり;反応が完結していると見なした。その後、終了した反応の可溶性フラクションを不溶性のポリα-1,3-グルカン生成物から濾過して分離することにより濾液を得た。濾液を60℃まで30分間加熱してGTF酵素を失活させた。その後、濾液を穏やかに撹拌しながら、TG L-2000トランスグルコシダーゼ酵素(1体積%,DuPont,Wilmington,DE)を用いて60℃で48時間処理して、ロイクロースへ加水分解した。その後、加水分解した濾液を、ロータリーエバポレーターを用いて870g/Lの総乾燥固形分濃度まで濃縮することによりシロップを得た。表3に加水分解前後の濾液の糖含有率(dwb)が示されている。濾液中のロイクロースの加水分解が成功した一方、トランスグルコシダーゼ処理時に生じる競合するグルコース転移反応及びフルクトース転移反応によりオリゴ糖の濃度が増加したため、得られたシロップのフルクトース含有率は、予測されたよりも明らかに低かった(表3)。最大でDP8又はDP9までの少量のオリゴ糖が存在していた可能性があるものの、オリゴ糖成分には主にDP2~7が含まれていた。
【0153】
【表3】
【0154】
加水分解された濾液中に比較的低い含有率のフルクトースと高い含有率のオリゴ糖とが存在すると、一般的には、このシロップは甘味料産業などの大スケールの用途における使用のために不適切である。更に、GTFJを使用するグルカン合成反応及びそれに続くTG L-2000を使用するロイクロース加水分解で得られたフルクトースの最終濃度は、スクロースの転化(これは更に処理することなしに最大50重量%(dwb)のフルクトース組成を得ることができる)により得ることができるフルクトース含有率よりも大きくない。
【0155】
そのため、フルクトースシロップを製造するためのグルカン合成反応を使用する代替の方法が実行された。これは下に開示されている。
【0156】
実施例2
改良されたGTF酵素を使用するフルクトースシロップの製造
この実施例は、改良されたGTFによって触媒されるポリα-1,3-グルカン合成反応で製造されるフルクトースシロップの組成と、ロイクロースの加水分解後のその後の組成とを開示する。
【0157】
約100%のα-1,3結合を有するポリα-1,3-グルカンを生成するS.サリバリウス(S.salivarius)GTF酵素のアミノ酸配列は、この酵素が、酵素の未修飾の対応するものと比較してスクロース基質からより多くの生成物(ポリα-1,3-グルカン及びフルクトース)とより少ない副生成物(例えば、グルコース、オリゴ糖(ロイクロース等))とを製造できるように、その触媒ドメインが修飾された。
【0158】
改良されたGTFを使用するポリα-1,3-グルカン合成反応は、水に溶解したスクロースの白い結晶を94g/L含む5000ガロンのステンレス鋼容器中で行った。反応のpHは、緩衝液として10mMのリン酸カリウムを使用して維持し、2NのHSOを使用して5.5に調整した。反応中の汚染を予防するために、抗菌剤であるFermaSure(登録商標)XLを100ppmvで添加した。反応器は33rpmに設定された3枚の傾斜ブレードインペラーを含んでいた。反応器は、反応器のジャケット中に流れる冷却水を使用して23℃に制御した。反応器は、30ポンドの改良されたGTF酵素を添加することにより開始し、スクロース濃度が2g/L未満に到達した14時間後に完了したと見なした。反応の終了時、外部の熱交換器を使用して、30分間にわたり65℃まで反応の内容物を加熱することにより、GTF酵素を失活させた。この工程は、1回目の反応(「2.1」)で生成した可溶性フラクション(490ガロン)の一部を含む2回目の反応(「2.2」)で繰り返した。反応2.1及び2.2の初期内容物は表4にまとめられている。
【0159】
【表4】
【0160】
それぞれの反応で生成した不溶性のポリα-1,3-グルカンポリマー(すなわち不溶性フラクション)は、フィルタープレスを使用して各それぞれの可溶性フラクションから分離し、それにより濾液を得た。不溶性フラクションから分離された可溶性フラクションを得るためにフィルタープレスを用いたが、任意の数の当該技術分野で公知の分離工程をこの目的のために使用できたであろう。表5に各濾液の糖含有率(dwb)が示されている。
【0161】
【表5】
【0162】
表5から、改良されたGTFが、酵素の可溶性生成物の乾燥重量基準で少なくとも約65~70%のフルクトースを生成できたことが明らかである。
【0163】
ロイクロースの加水分解のために、反応2.1の残りの濾液を反応2.2の濾液と併せて合計で4740ガロンの希薄フルクトースシロップを得た。併せた希釈シロップ(約67.5重量%のフルクトースdwbを含有)は、30分間チオ硫酸ナトリウムで処理し、pH4.4及び55℃に調整した。加水分解反応を開始するためにTG L-2000トランスグルコシダーゼ酵素を添加し、これを8.5時間撹拌した。表6に、加水分解されたシロップの糖含有率(dwb)が示されている。最大でDP8又はDP9までの少量のオリゴ糖も存在していた可能性があるものの、そのオリゴ糖成分には主にDP2~7が含まれていた。
【0164】
【表6】
【0165】
表6は、濾液中のロイクロースの加水分解は成功したものの、得られたシロップのフルクトース含有率は加水分解前のフルクトースレベル(表5)よりも優位には多くないことを示している。この結果は、トランスグルコシダーゼ処理中に生じるグルコース転移反応及びフルクトース転移反応が競合し、その結果、ロイクロースではないオリゴ糖の濃度が増加したことによると考えられる。
【0166】
加水分解されたフルクトースシロップは、その後、143°Fの出口温度及び1.5~1.6psiaの圧力で運転される板枠型強制循環エバポレーターを使用して70重量%の乾燥固形分(DS)まで濃縮した。濃縮されたフルクトースシロップは、10重量%のDSで2240のICUMSAカラーと2200μS/cmの導電率とを有していた。蒸発工程でシロップに着色が生じたことは明白であった。
【0167】
このように、乾燥重量基準で少なくとも約70重量%のフルクトースを含むシロップを製造した。このフルクトース含有率(dwb)は、甘味料として使用されるシロップのためには十分に高かったものの、オリゴ糖の量は依然として極めて多かった。更に、この物質の導電率及び色は、このシロップを大スケールの甘味料用途で広く有用なものとするには大きすぎる。それにも関わらず、このようなフルクトースシロップは、様々な他の下流の用途で有用であろう。そのような原料は、発酵原料(例えば、エタノール又は他の発酵生成物の製造のため)、動物飼料、又は特殊甘味料における使用に好適であろう。
【0168】
実施例3
ナノ濾過によるフルクトースシロップからのオリゴ糖の除去
この実施例は、実施例2で製造したフルクトースシロップからのオリゴ糖の除去を開示する。この工程により、他の糖に対するシロップ中の単糖(フルクトース及びグルコース)の含有率が増加し、そのようにすることでシロップのフルクトースの割合(dwb)が増加した。
【0169】
実施例2で製造したフルクトースシロップ(表6中に示されている糖含有率)を、41重量%のDSまで希釈し、pHを4.45に調整することで、ナノ濾過のための供給液を得た。供給液をナノ濾過システムに65℃で導入し、フルクトースの合計の収率が91%になるまで定常的に再循環させた。ユニットは、2つの4インチのスパイラル型のモジュールを並列に備えていた。1つのモジュールは、6.2mの表面積を有するOSMONICS DK(General Electric,New York,United States)スパイラル型膜ユニットを含んでおり、他方のモジュールは、7.2mの表面積を有するTS40(Trisep Corporation,Galeta,CA)スパイラル型膜ユニットを含んでいた。2つの膜からの透過液を一緒にした。実験についての質量収支は表7に示されている。供給液濃度は、ダイアフィルトレーション(DF)水の添加によって初期濃度を維持した。供給液中のDS1kg当たり合計で1.66kgのDF水を添加した。2つの透過液フラクションであるF1とF2とを回収した。1つ目のフラクションであるF1は0~75%の収率から回収し、2つ目のフラクションであるF2は75~91%の収率から回収した。ここで、収率は、供給液中のフルクトースのkgで割った透過液中のフルクトースのkgとして定義される。透過液F1及びF2の両方とも、それぞれ79重量%及び76重量%のフルクトースとしての乾燥物質を含む濃縮フルクト―ス流から構成されていた(表7)。
【0170】
【表7】
【0171】
透過液F1の詳細な糖組成は表8に示されている。F2中のフルクトースの濃度(dwb)は、二糖の侵入のためにF1中よりも低かった。本明細書において好ましい膜は、95%、更には98%などの非常に高収率のフルクトースであっても二糖の侵入が少ないものである。しかし、全体としては、表8を表6と比較すると、ナノ濾過によりオリゴ糖を除去することは、シロップ中のフルクト―スの含有率(dwb)を更に増加させるために有用であることが明らかである。(この工程が実施例2で加水分解されなかったシロップのフルクトース含有率を増加できることも明白なはずである。)
【0172】
【表8】
【0173】
透過液F1のICUMSAカラーは870であり、保持液の色の付随する増加が観察された。透過液F1の導電率は3400μS/cmであった。これは、シロップ中に存在する多くのイオンがナノ濾過工程時に排除されなかったことを示唆している。
【0174】
以上のように、乾燥重量基準で少なくとも約79重量%のフルクトースを含むシロップを製造した。ナノ濾過を使用することにより、ほぼ全てのDP3+のオリゴ糖だけでなく、大部分のDP2オリゴ糖が除去されたと同時に、シロップ中のフルクトース含有率(dwb)が増加した。シロップからかなり色が取り除かれた(実施例2で観察されたICUMSA>2000と比較)ものの、その高い導電率及び色は、一般的に大スケールの甘味料用途には不適切である。しかし、ここでも同様に、このようなフルクトースシロップは、様々な他の下流の用途で有用であろう。
【0175】
実施例4
フルクトースシロップのポリッシング
この実施例は、吸着技術を用いたフルクトースシロップの処理によるイオンと色の除去を開示する。具体的には、実施例2及び3で製造したフルクトースシロップに対してイオン交換クロマトグラフィー及び活性炭処理を行って、その高いフルクトース含有率を維持しながらも各シロップの導電率及びICUMSAを減少させた。
【0176】
状況に応じて、強酸カチオン(SAC)イオン交換樹脂(IMAC C16P)、弱塩基アニオン(WBA)イオン交換樹脂(AMBERLITE IRA92,Dow,Midland,MI)、又は活性炭(AC)(CHEMVIRON CPG,Calgon Carbon Corporation)のいずれかを含むカラムを準備した。カラムは、1)SAC、2)WBA、3)SAC、4)WBA、及び5)ACの順番で構成した。表8に記載のフルクトースシロップを52重量%DSの濃度に調節し、60℃まで加熱した。次いで、シロップを一連のカラムに2BV/hrで供給した。7時間カラムに通した後のシロップの導電率は7.4~19μS/cmに減少し、そのICUMSAカラーは1~20で測定された。表6に記載のフルクトースシロップ(10重量%のDSに調整)を同様の方法でポリッシングし、10未満のICUMSAカラー及び5.5μS/cmの導電率を有するシロップを得た。
【0177】
このように、本明細書に開示のフルクトースシロップをポリッシングすることで、これらから多量のイオン及び色を除去できた。このシロップの高いフルクトース含有率と組み合わされた薄い色及び低い導電率は、大スケールでの甘味料用途での使用に特に適切である。
【0178】
実施例5
フルクトースシロップ中のオリゴ糖のキャラクタリゼーション
この実施例は、グルカン合成反応で製造されたフルクトースシロップ中に存在するDP3+オリゴ糖について記述する。
【0179】
フルクトースシロップは、TG L-2000トランスグルコシダーゼでの処理を省略した以外、実施例2に記載の方法を使用して製造及び濃縮した。このシロップの組成は表9に示されている。各糖成分の量は、表5に示されている結果(実施例2)と一致すると予想された通りである。
【0180】
【表9】
【0181】
シロップのオリゴ糖フラクションを分離するために、強酸カチオン交換樹脂を用いるクロマトグラフ分離を使用した。この分離のために使用したカラムの物理的なパラメーターは表10に記載されている。
【0182】
【表10】
【0183】
濃縮されたシロップを濾過し、イオン交換された水道水を使用して30g乾燥固形分/100gの溶液まで希釈した。カラム樹脂に希釈したシロップを入れる前に、樹脂をナトリウム形態へ変換するために、樹脂を6ベッドボリューム(BV)の塩化ナトリウム溶液(10重量%の塩化ナトリウムで3BV、その後に5重量%の塩化ナトリウムで3BV)で洗浄した。次いで、糖溶液(15L)をカラムに供給し、その後、30L/hの流量でイオン交換水を使用してカラムから溶出させた。クロマトグラフ分離の実施条件は表11にまとめられている。
【0184】
【表11】
【0185】
オリゴ糖溶液は140~185分にわたって溶出させ、回収した。このように準備したオリゴ糖フラクションをHPLCによって分析してその生成物分布を決定した。簡潔にいうと、屈折率検出計を備えたAgilent 1260 HPLCを使用してオリゴ糖フラクションの組成を測定した。分離は、溶離液として水を用いるBioRad AMINEX HPX-42Aカラムを使用して、85℃及び0.6mL/分の流量で行った。オリゴ糖の組成は表12に記載されている。
【0186】
【表12】
【0187】
表12に記載のオリゴ糖のフラクションに対して、部分メチル化アルジトールアセテート(PMAA)分析(Pettolino et al.,Nature Protocols 7:1590-1607中の方法に従う)及びGC-MSによる分析を行った。簡潔にいうと、ヒドロキシル基をメチレート化するために試料をDMSOアニオン及びヨードメタンで処理し、次いでトリフルオロ酢酸で加水分解した。その後、切断されたグリコシド結合から生じるヒドロキシル基を無水酢酸でアセチル化し、得られるグルシトールをGC/MSにより分析した。オリゴ糖は、表13に記載されている分布を有することが分かった(この中の全ての結合はαであると考えられる)。主要な結合はα-1,3であった。このオリゴ糖フラクション中では末端フルクトースは検出されなかった。
【0188】
【表13】
【0189】
以上のように、本明細書のグルカン合成反応で製造されたフルクトースシロップ中に存在するDP3+オリゴ糖をキャラクタリゼーションした。
【0190】
実施例6
フルクトースシロップ中に存在する二糖のキャラクタリゼーション
この実施例は、本明細書で製造したフルクトースシロップ中に存在する二糖の性質を開示する。フルクトースシロップは、少なくとも二糖であるスクロース、マルツロース、ロイクロース、トレハルロース、イソマルツロース、及びイソマルトースを含み得ることが明らかになった。本組成では直接検出されなかったものの、オリゴ糖中の高レベルのα1→3結合は、ニゲロースが本開示に記載の手法を使用して製造される水性組成物中に存在し得ることを示唆している。
【0191】
表6(加水分解されたシロップ)及び表8(加水分解及びナノ濾過されたシロップ)に記載の精製したフルクトースシロップを、その中に存在するオリゴ糖を同定するために広範にキャラクタリゼーションした。具体的には、2つの異なる方法:GC-MS及びHPAEC-PAD-MS(高速アニオン交換クロマトグラフィー-パルスアンペロメトリック検出及び質量分析検出)によってシロップ中の二糖を同定した。
【0192】
材料は、オキシム化及びシリル化によって誘導体化した後、GC-MSによって分析した(J.Agric.Food Chem.,19:551-554)。簡潔にいうと、各シロップを乾燥させ、ピリジン中でそれぞれの材料をヒドロキシルアミン塩酸塩で処理し、次いでヘキサメチルジシラザン及びトリフルオロ酢酸で処理して反応を完結させた。分離は、フルスキャンモードで作動する質量選択検出器を有する14%シアノプロピル-フェニル86%ジメチルポリシロキサンカラムで行った。図1は、GC-MSによって検出された、表6のフルクトースシロップ中に存在する特定の二糖(スクロース、マルツロース、ロイクロース、ツラノース、トレハルロース、イソマルツロース、イソマルトース)の分布を示している。
【0193】
二糖は、水酸化ナトリウムグラジエントを用いたPA20カラムを使用するHPAEC-PAD-MS、又は2本の直列のHPX-87Cカラム上で分離するLC-MSによっても同定した。スクロース、マルツロース、ロイクロース、トレハルロース、イソマルツロース、及びイソマルトースなどの表6のフルクトースシロップ中の二糖は、二糖標準品の保持時間及びマススペクトル(HPAEC-PAD-MSについての生成物イオンスペクトル及びGC-MSについての電子イオン化[EI]スペクトル)を、PA20カラムで分離した材料中で検出された二糖のピークのもの(図2)と照合することにより同定した。いくつかの二糖のピークは、グルコースからなるか、又はグルコースとフルクトースとからなる市販の二糖標準品のいずれとも一致しなかった。これらの一致しなかったピークは、例えば、はちみつなどの中に存在するフルクタン二糖であると推定された。これらのDP2フルクタンの正確な構造及び結合は、明確ではないものの、フルクトースシロップ中に存在する二糖フルクタンは、アルファルファはちみつ(データ未記載)及びCargill(Wayzata,MN)から得られるISOCLEAR 42 HFCSの市販の試料(データ未記載)中で観察されるものと同一であった。 フルクトースシロップ中に存在するフルクタンの同定は、アルファルファはちみつ又はISOCLEAR 42
HFCS試料のものに対する生成物イオンスペクトル及びフルクタン二糖の保持時間を比較することによって行った。
以上のように、本明細書のグルカン合成反応で製造したフルクトースシロップの二糖成分がキャラクタリゼーションされた。
【0194】
以上、本発明を要約すると下記のとおりである。
1.フルクトースを含む水性組成物を製造する方法であって、
(a)水と、スクロースと、少なくとも30%のα-1,3-結合を有するポリα-1,3-グルカンを合成するグルコシルトランスフェラーゼ酵素とを接触させて、可溶性フラクション及び不溶性フラクションを生成することであって、
前記不溶性フラクションは、前記ポリα-1,3-グルカンを含み、及び
前記可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトースを含む、生成すること;及び
(b)前記不溶性フラクションから前記可溶性フラクションを分離し、それによりフルクトースを含む水性組成物をもたらすこと
を含む、方法。
2.前記グルコシルトランスフェラーゼ酵素は、少なくとも95%のα-1,3-結合を有するポリα-1,3-グルカンを合成する、上記1に記載の方法。
3.前記可溶性フラクションは、2~約15の重合度(DP)を有する可溶性オリゴ糖を更に含む、上記1に記載の方法。
4.前記可溶性フラクションは、乾燥重量基準で約30%未満の前記可溶性オリゴ糖を含む、上記3に記載の方法。
5.前記可溶性フラクションをα-グルコシダーゼ酵素と接触させて、前記オリゴ糖の少なくとも1つのグリコシド結合を加水分解し、それにより前記可溶性フラクション中の単糖含有率を増加させることを更に含む、上記3に記載の方法。
6.前記可溶性フラクションは、乾燥重量基準で少なくとも約75%のフルクトースを含む、上記1に記載の方法。
7.前記可溶性フラクション中の他の糖の含有量に対する単糖の含有量を増加させる処理工程を更に含み、前記処理工程は、任意選択的にナノ濾過又は酵素的加水分解である、上記1に記載の方法。
8.前記可溶性フラクション中の他の糖の含有量に対するフルクトースの含有量を増加させるための処理工程としてクロマトグラフィーを含まない、上記1に記載の方法。
9.上記1に記載の方法によって製造される水性組成物。
10.前記水性組成物は、摂取可能な製品中に含まれているか又は摂取可能な製品であり、且つ任意選択的に、前記摂取可能な製品の甘味料として使用される、上記9に記載の水性組成物。
11.(i)乾燥重量基準で少なくとも約55%のフルクトース、
(ii)乾燥重量基準で約3%~約24%のグルコース、及び
(iii)2~約15の重合度(DP)を有する可溶性オリゴ糖
を含む水性組成物であって、前記オリゴ糖は、グルコース及び/又はフルクトースを含む、水性組成物。
12.前記可溶性オリゴ糖は、スクロース、ロイクロース、トレハルロース、イソマルツロース、マルツロース、イソマルトース、及びニゲロースからなる群から選択される、上記11に記載の水性組成物。
13.前記オリゴ糖は、(i)少なくとも約90重量%のグルコース、並びに(ii)約60~99%のα-1,3グリコシド結合及び約1~40%のα-1,6グリコシド結合を含む、上記11に記載の水性組成物。
14.乾燥重量基準で少なくとも約75%のフルクトースを含む、上記11に記載の水性組成物。
15.乾燥重量基準で約30%未満の前記可溶性オリゴ糖を含む、上記11に記載の水性組成物。
16.摂取可能な製品中に含まれているか又は摂取可能な製品であり、且つ任意選択的に、前記摂取可能な製品の甘味料として使用される、上記11に記載の水性組成物。
17.約30重量%の乾燥固形分で約50μS/cm未満の導電率と、約50未満のICUMSA値とを有する、上記16に記載の水性組成物。
18.前記摂取可能な製品は、食品、飲料、動物飼料、ヒト若しくは動物の栄養製品、医
薬品、又はオーラルケア製品である、上記11に記載の水性組成物を含む摂取可能な製品。
図1
図2