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特許6993359生物学的活性物質の細胞への送達のための脂質および複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】生物学的活性物質の細胞への送達のための脂質および複合体
(51)【国際特許分類】
   C07C 217/08 20060101AFI20220105BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220105BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220105BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220105BHJP
   C07C 219/08 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C07C217/08 CSP
A61K31/7088
A61K38/16
A61K47/34
A61K48/00
A61P35/00
A61P37/04
C07C219/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018566651
(86)(22)【出願日】2017-03-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 GB2017050664
(87)【国際公開番号】W WO2017153779
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-02-18
(31)【優先権主張番号】1604235.0
(32)【優先日】2016-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518322883
【氏名又は名称】リボクイン カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Ryboquin Company Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】ヘレン クレア ヘイルズ
(72)【発明者】
【氏名】アレッサ バーニス テイバー
(72)【発明者】
【氏名】モッド フィルー モッド ムスタパ
(72)【発明者】
【氏名】ステフェン ルイス ハート
(72)【発明者】
【氏名】アリスティデス タガラキス
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-542582(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027699(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/021683(WO,A1)
【文献】Organic & Biomolecular Chemistry,2008年,6(14),P.2554-2559
【文献】Tetrahedron Letters,1995年,36(13),P.2207-2210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 217/00
C07C 219/00
A61K 48/00
A61K 31/00
A61K 47/00
A61K 38/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Ia):
【化1】
のイオン化合物であって、
各XおよびYは、同じであり、または、異なり、-O-および-O-C(O)-から選択され、カルボニル炭素は、基RまたはRに結合し、
およびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲンおよびORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC12-24ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、RはC1-6ヒドロカルビル基であり、
およびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲン、-OR’、-C(O)OH、-CN、-N(R’)、および-C(O)R’から選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC1-10ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、R’は、同じであり、または、異なり、C1-6ヒドロカルビル基であり、
SpおよびWはともに結合であり、
Spは、ヒドロキシ、ハロゲンおよびOR’から選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC1-8アルキレン基であり、R’は、C1-6ヒドロカルビル基であり、Wは、結合、-O-C(O)-、-C(O)-O-、および-O-から選択され、
Bは、それぞれ、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲン、-OR、-NRおよび-OC(O)Rから選択される1以上の置換基により、置換されない、または、置換されるC1-6アルキレン基であり、各Rは、それぞれ、C1-4ヒドロカルビルから独立して選択され、
mは1~8の整数であり、
Qは、-ORおよび-O-C(O)-Rから選択され、Rは、ヒドロキシ、ハロゲン、-ORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC12-24ヒドロカルビル基から選択され、Rは、C1-6ヒドロカルビル基である、イオン化合物。
【請求項2】
およびRは、同じであり、または、異なり、それぞれが独立して、1以上の二重結合を有するC14-22ヒドロカルビル基である、請求項1に記載のイオン化合物。
【請求項3】
SpおよびWがともに結合であり、または、Spが非置換C1-8アルキレン基であり、かつ、Wが結合、-C(O)-O-、もしくは-O-である、請求項1または2に記載のイオン化合物。
【請求項4】
およびRは、同じであり、または、異なり、それぞれが直鎖または分枝鎖の非置換C1-4アルキル基である、請求項1から3のいずれかに記載のイオン化合物。
【請求項5】
各Bは、非置換C1-3アルキレン基から選択される、請求項1から4のいずれかに記載のイオン化合物。
【請求項6】
mが、1、2、3、4、5、または6である、請求項1から5のいずれかに記載のイオン化合物。
【請求項7】
およびRは、同じであり、または、異なり、それぞれが独立して1つの二重結合を有するC14-22ヒドロカルビル基であり、
SpおよびWがともに結合であり、
およびRは、それぞれが、直鎖または分枝鎖の非置換C1-4アルキル基であり、
各Bは、非置換C1-3アルキレン基から選択され、
mは、2、3、4、5、または6であり、
Qは、-ORおよび-O-C(O)-Rから選択され、
は、1つの二重結合を有するC14-22ヒドロカルビル基である、請求項1に記載のイオン化合物。
【請求項8】
式(Id):
【化2】
のカチオンを含み、
X-RおよびY-RおよびQのそれぞれは、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択され、
mは、2~5の整数である、請求項1に記載のイオン化合物。
【請求項9】
X-RおよびY-Rのそれぞれは、同じであり、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCH、および-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択され、
Qは、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択され、
mは、3または4である、請求項1から8のいずれかに記載のイオン化合物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の(i)イオン化合物、および核酸を含む、非ウイルストランスフェクション複合体。
【請求項11】
(ii)ポリカチオンの核酸結合成分、(iii)細胞表面受容体結合成分、および、任意に、(iv)核酸をさらに含む、請求項10に記載の非ウイルストランスフェクション複合体。
【請求項12】
薬学的に適切な担体との混合物または組み合わせにおいて、請求項10または11に記載のトランスフェクション複合体を含む、医薬組成物。
【請求項13】
医薬品、例えばワクチンとしての使用のための、請求項10または11に記載のトランスフェクション複合体。
【請求項14】
ヒトまたは非ヒト動物における遺伝子の欠陥および/もしくは欠損により生じる状態の治療もしくは予防における使用のための、または治療的もしくは予防的免疫のための、またはアンチセンスもしくはRNAi療法のための、または癌の治療ための、請求項10または11に記載のトランスフェクション複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的活性物質、例えば、核酸、タンパク質、または小分子の細胞への送達に適する脂質誘導体に関する。本発明は、さらに、例えば、ペプチドと組み合わせたこのような脂質を含む生物学的活性物質の細胞への送達のための非ウイルスベクターの調製における使用のための複合体、並びに、例えば、予防、治療およびワクチン接種、またはインビトロでの実験室設定におけるこのような複合体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
治療または他の目的のための遺伝子送達は、特に嚢胞性線維症およびある種の癌などの疾患の治療のためによく知られている。この用語は、欠損を矯正する遺伝子または遺伝子の一部の細胞への送達を指す。本明細書において、この用語はまた、標的細胞への核酸物質の導入を指すのにも用いられ、遺伝子ワクチン接種およびいわゆる細胞工場における商業的に有用なタンパク質のインビトロでの産生を含む。
【0003】
細胞送達システムは、裸のDNAまたはRNAの直接注入を含むもの、ウイルスまたは遺伝子改変されたウイルスを利用するもの、および非ウイルス送達剤を使用するものの3つの広い分類に分類される。それぞれには長所と短所がある。送達剤としてのウイルスは高効率および高い細胞選択性の利点を有するが、毒性、炎症応答の生成および大きなDNA断片の取り扱いの困難性の欠点を有する。
【0004】
非ウイルス遺伝子送達システムは、負に荷電したDNAまたはRNAのリン酸骨格とカチオン性脂質、ペプチドまたは他のポリマーとの間の静電相互作用による遺伝子材料のナノメートル粒子への圧縮に基づく(Erbacher, P. et al, Gene Therapy, 1999, 6, 138-145)。ウイルスとは対照的に、脂質を含む非ウイルス性トランスフェクションベクターの使用は、より低い毒性、特に低い免疫原性;より大きな安全性;コスト削減、合理的に効率的なターゲティング、およびパッケージング能力の向上、例えば、核酸材料の大きな断片を扱う性能をもたらし得る。残念ながら、より低いトランスフェクション効率が注目されている。非ウイルス遺伝子治療ベクターは最近のレビューの主題である:(Yin H, Kanasty RL, Eltoukhy AA, Vegas AJ, Dorkin JR, Anderson DG. Non-viral vectors for gene-based therapy. Nature reviews Genetics. 2014;15:541-55; Schroeder A, Levins CG, Cortez C, Langer R, Anderson DG. Lipid-based nanotherapeutics for siRNA delivery. J Intern Med. 2010;267:9-21; Zhao Y, Huang L. Lipid nanoparticles for gene delivery. Adv Genet. 2014;88:13-36。
【0005】
遺伝子送達のための既知の複合体には、脂質ベースの核酸複合体のためのリポプレックス、ペプチドまたはポリマーベースの複合体のためのポリプレックスおよびハイブリッドシステムのためのリポポリプレックスが含まれる(Felgner et al., Human Gene Therapy 8, 1997, 511-512)。本明細書で使用する「LPD」という用語は、脂質、インテグリン(または他の受容体)結合ペプチドおよびDNA(または他の核酸)を含む製剤を表すリポポリプレックスの形態である。LPD複合体は、インテグリン媒介または他の受容体介在経路を介したトランスフェクションを達成し、望ましくない血清相互作用を減少させることができるように、必ずしも全体として正の電荷を有する必要はない。ペプチド成分は、核酸パッケージング機能を提供する。細胞内または細胞外の分解、エンドソームまたは他のものからDNAまたはRNAを遮蔽する。脂質成分は、膜融合または透過化、エンドソームまたはリソソーム分解の低減、核酸輸送物の細胞質への輸送を可能にすることにより、エンドソーム脂質二重層との相互作用を媒介する。ペプチド成分は、細胞型特異的または細胞表面受容体特異的であるように設計することができる。例えば、インテグリンまたは他の受容体に対する特異性の程度は、LPD複合体にある程度の細胞特異性を付与することができる。細胞表面レセプター(例えば、インテグリンレセプター)への標的化およびいくつかのアデノウイルスベクターに匹敵するトランスフェクション効率からの特異性の結果を達成することができる(Du Z, Munye MM, Tagalakis AD, Manunta MD, Hart SL. The role of the helper lipid on the DNA transfection efficiency of lipopolyplex formulations. Sci Rep. 2014;4:7107; Welser K, Campbell F, Kudsiova L, Mohammadi A, Dawson N, Hart SL, et al. Gene delivery using ternary lipopolyplexes incorporating branched cationic peptides: the role of Peptide sequence and branching. Mol Pharm. 2013;10:127-41; Meng QH, Irvine S, Tagalakis AD, McAnulty RJ, McEwan JR, Hart SL. Inhibition of neointimal hyperplasia in a rabbit vein graft model following non-viral transfection with human iNOS cDNA. Gene Ther. 2013;20:979-86; Manunta MD, McAnulty RJ, McDowell A, Jin J, Ridout D, Fleming J, et al. Airway deposition of nebulized gene delivery nanocomplexes monitored by radioimaging agents. Am J Respir Cell Mol Biol. 2013;49:471-80; Kenny GD, Bienemann AS, Tagalakis AD, Pugh JA, Welser K, Campbell F, et al. Multifunctional receptor-targeted nanocomplexes for the delivery of therapeutic nucleic acids to the Brain. Biomaterials. 2013;34:9190-200; Tagalakis AD, He L, Saraiva L, Gustafsson KT, Hart SL. Receptor-targeted liposome-peptide nanocomplexes for siRNA delivery. Biomaterials. 2011;32:6302-15; Tagalakis AD, Grosse SM, Meng QH, Mustapa MF, Kwok A, Salehi SE, et al. Integrin-targeted nanocomplexes for tumour specific delivery and therapy by systemic administration. Biomaterials. 2011;32:1370-6; Manunta MD, McAnulty RJ, Tagalakis AD, Bottoms SE, Campbell F, Hailes HC, et al. Nebulisation of receptor-targeted nanocomplexes for gene delivery to the airway epithelium. PLoS One. 2011;6:e26768; Grosse SM, Tagalakis AD, Mustapa MF, Elbs M, Meng QH, Mohammadi A, et al. Tumor-specific gene transfer with receptor-mediated nanocomplexes modified by polyethylene glycol shielding and endosomally cleavable lipid and peptide linkers. FASEB J. 2010;24:2301-13)。
【0006】
ヒト気道上皮細胞を標的とするペプチドが報告されている(WO02/072616)。樹状細胞を標的とするペプチドが報告されている(WO2004/108938)。
【0007】
脂質/ペプチドベクターは、ある範囲の細胞株および一次細胞培養物を高効率かつ低毒性でトランスフェクトする:上皮細胞(40%効率)、血管平滑筋細胞(50%効率)、内皮細胞(30%効率)および造血細胞(10%効率)。さらに、マウスの気管支上皮のインビボトランスフェクションが、ラットの肺(Jenkins et al. , An integrin-targeted non-viral vector for pulmonary gene therapy, Gene Therapy 2000, 7, 393-400)およびブタの肺(Manunta MD, McAnulty RJ, McDowell A, Jin J, Ridout D, Fleming J, et al. Airway deposition of nebulized gene delivery nanocomplexes monitored by radioimaging agents. Am J Respir Cell Mol Biol. 2013;49:471-80; Cunningham et al., Evaluation of a porcine model for pulmonary gene transfer using a novel synthetic vector, J Gene Med 2002, 4, 438-46)で、そしてアデノウイルスベクターの効率(上記Jenkins et al., 2000)と同等の効率で実証されている(Manunta MD, McAnulty RJ, Tagalakis AD, Bottoms SE, Campbell F, Hailes HC, et al. Nebulisation of receptor-targeted nanocomplexes for gene delivery to the airway epithelium. PLoS One. 2011;6:e26768; Tagalakis AD, McAnulty RJ, Devaney J, Bottoms SE, Wong JB, Elbs M, et al. A receptor-targeted nanocomplex vector system optimized for respiratory gene transfer. Mol Ther. 2008;16:907-15.Jenkins et al., Formation of LID vector complexes in water alters physicochemical properties and enhances pulmonary gene expression in vivo, Gene Therapy 2003, 10, 1026-34)。
【0008】
このようなLPD複合体または脂質/ペプチド複合体に使用するためのペプチドは、細胞表面受容体(例えば、インテグリン)認識配列を含む「ヘッド基」および非共有結合的にDNAに結合することができる「テイル」の2つの機能を有さなければならない。これらの2つの成分が、それらの個々の機能を妨害しないようにスペーサーを介して共有結合している既知のペプチドには、「テイル」がWO96/15811に記載されているようなペプチド6などのポリカチオン性核酸結合成分であるペプチドを含む。
【0009】
そのようなペプチドを含むLPD複合体を含む最初の実験は、全身送達経路または静脈内送達経路による不十分に高いトランスフェクション特性を示した。他のポリカチオン性ベクターについて記載されているように、可能性のある問題は、細網内皮系によるベクターの迅速なクリアランスおよび溶解度の低下を導く赤血球膜および血清タンパク質とベクターとの会合である(Dash, P. R., Read, M. L., Barrett, L. B., Wolfert, M. A., Seymour, L. W. (1999) Gene Therapy 6, 643-50)。全身投与によっていくらかのトランスフェクション活性を示したベクターは、主に、肝臓および肺などの臓器の初回通過毛細血管床において有効であった(Fenske, D. B., MacLachlan, I., Cullis, P. R. (2001). Curr Opin Mol Ther 3, 153-8)。このような非特異的トランスフェクション活性はいくつかの治療用途を有する可能性があるが、特定の用途のための安全な臨床用途は、はるかに大きな標的特異性を有するベクターを必要とする。
【0010】
LPD複合体の脂質成分に関して、そのような使用のためのカチオン性脂質は、1980年代後半にFelgnerによって開発され、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 7413-7417, 1987およびUS 5,264,618で報告されている。Felgnerは、1:1の比で、サイトフェクチンのDOTMA1および中性脂質DOPE2からなる「リポフェクチン(Lipofectin)」という商標で知られている市販のカチオン性リポソームを開発した。
【0011】
【化1】
【0012】
様々な他のカチオン性リポソーム製剤が考案されており、そのほとんどは合成カチオン性サイトフェクチンと中性脂質を組み合わせている。いくつかは、例えば、グリセロール骨格(DOTMAなど)またはDC-Chol3などのコレステロールに基づくものもある。
【0013】
【化2】
【0014】
新しいサイトフェクチンを開発する目的は、しばしば、広範囲の細胞型およびインビボ適用のために得られたベクターの送達特性を最適化することである。
【0015】
サイトカインおよび他のカチオン性脂質は、いくつかのスペーサーを介して疎水性尾部に結合したカチオン性ヘッド基を有する正に荷電した分子である。DOTMA1類似体に加えて、ジエステルDOTAP4のような、グリセロール骨格、代替アルキル鎖基および官能化ヘッド基に対するエーテルまたはエステル結合のいずれかを有する類似体の範囲が報告されている。これらの材料およびそれらが作動するメカニズムについてのレビューは、Angew. Chem. Int. Ed. 37, 1768-1785, 1998に見いだすことができる。多くの既知のDOTMA1類似体シクロフェクチンの共通の特徴は、カチオン性ヘッド基に結合した2つの疎水性テールの存在である。
【0016】
多くの細胞型について、DOTMA1およびDOTAP4を用いたインビトロ実験は同等レベルのトランスフェクションを与えたが、インビボで使用した場合、DOTMA1はより高いトランスフェクション活性を示したことが研究により確立された。報告された他の類似体には、N、N-ジメチルN-エタノールアミンヘッド基を有するジエステルDORI5、対応するジエーテルDORIE6、およびC14:0類似体DIMRIE7が含まれる。
【0017】
【化3】
【0018】
このような第4級アミンヒドロキシアルキル部分を含むサイトフェクチンは特に興味深いことが判明し、より短いヒドロキシアルキル基を有する脂質は改善された特性を生じさせる。例えば、DORIE6とヘルパー脂質DOPE2とのヘッド基でのヒドロキシエチル部分との共処方は、ヒドロキシプロピル-ヒドロキシペンチル基を有する脂質と比較して、COS.7細胞においてより高いトランスフェクション効率を与えた。これらのヒドロキシアルキルサイトフェクチンはすべてDOTMA1およびDMRIE7よりも活性があり、効率的な脂質の1つとして注目された。
【0019】
末端ヒドロキシル基を有するサイトフェクチンは、ヒドロキシル基がDNAまたは細胞膜とのリポソーム相互作用を増加させることができたか、または、電荷中和および/または水素結合を介してカチオン性脂質:DOPE2二重層構造を安定化することができたため、末端ヒドロキシル基を有するサイトフェクチンは、特に有効であると考えられていた。
【0020】
WO2005/117985は、1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)基(すなわちPEG化脂質)を含む脂質を記載し、このようなPEG化脂質がPEG基を有さない脂質(すなわち非PEG化脂質)に対して利点を示すことを示す。特に、血漿タンパク質への結合およびベクター凝集によって引き起こされる細網内皮系による脂質の迅速な除去の問題は、ポリマーPEG部分でベクターを遮蔽することによって改善され得る。しかしながら、PEG化はしばしばトランスフェクション効率を大幅に低下させ、細網内皮系によって迅速に除去されないが、満足のいくトランスフェクション効率を示す脂質が必要とされている。
【0021】
短いn-エチレングリコールヘッド基を有するグリセロールベースのジエーテル脂質である脂質、DODEG4 13、および脂質複合体(脂質-ペプチド-DNA)標的化送達へのその適用は以前に、Hurley, C. A.; Wong, J. B.; Ho, J.; Writer, M.; Irvine, S. A.; Lawrence, M. J.; Hart, S. L.; Tabor, A. B.; Hailes, H. C. Org. Biomol. Chem. 2008, 6, 2554-2559 and in Welser, K.; Campbell, F.; Kudsiova, L.; Mohammadi, A.; Dawson, N.; Hart, S.L.; Barlow, D.J.; Hailes, H.C.; Lawrence, M.J.; Tabor, A.B.; Mol. Pharm. 2013, 10, 127-141において報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明者らは、LPD複合体の脂質部分として、またはその構成要素として有用な新しい種類のイオン化合物を発見した。イオン化合物は、カチオン性ヘッド基に結合した3つの疎水性尾部を有する三本鎖カチオン性脂質であり、その1つはアルキレングリコール結合を介して結合している。例えば、カチオン性ヘッド基に結合した2つの疎水性尾部を含む既知の二本鎖DOTMA1アナログサイトフェクチンと比較して、新規の三本鎖脂質が、それらが組み込まれる合成トランスフェクションベクターのトランスフェクション効率を改善することが見出された。
【0023】
第1の態様では、本発明は、式(Ia):
【化4】
のイオン化合物を提供し、
ここで、
・各XおよびYは、同じであり、または、異なり、-O-および-O-C(O)-から選択され、カルボニル炭素は、基RまたはRに結合し、
・RおよびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲンおよびORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC12-24ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、RはC1-6ヒドロカルビル基であり、
・RおよびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲン、-OR’、-C(O)OH、-CN、-N(R’)、および-C(O)R’から選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC1-10ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、R’は、同じであり、または、異なり、C1-6ヒドロカルビル基であり、
・SpおよびWはともに結合であり、
・Spは、ヒドロキシ、ハロゲンおよびOR’から選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC1-8アルキレン基であり、R’は、C1-6ヒドロカルビル基であり、Wは、-O-C(O)-、-C(O)-O-および-O-結合から選択され、
・Bは、それぞれ、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲン、-OR、-NRおよび-OC(O)Rから選択される1以上の置換基により、置換されない、または、置換されるC1-6アルキレン基であり、
各Rは、それぞれ、C1-4ヒドロカルビルから独立して選択され、
・mは1~8の整数であり、
・Qは、-ORおよび-O-C(O)-Rから選択され、Rは、ヒドロキシ、ハロゲン、-ORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC7-24ヒドロカルビル基から選択され、Rは、C1-6ヒドロカルビル基である。
【0024】
第2の態様では、本発明は、(i)本発明の第1の態様のイオン化合物を含むトランスフェクション複合体を提供する。有利には、本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体は、さらに、(iv)細胞への送達のための核酸または他の活性物質を含む。有利には、本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体は、医薬品またはワクチンとしての使用に適する。
【0025】
第3の態様では、本発明は、薬学的に適切な担体との混合物または組み合わせにおいて、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を含む医薬組成物を提供する。
【0026】
第4の態様では、本発明は、療法に使用するための、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を提供する。
【0027】
第5の態様では、本発明は、ヒトにまたは非ヒト動物に、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を投与することを含む、遺伝子の欠陥および/もしくは欠損により、ヒトにおいてまたは非ヒト動物において生じる、状態の治療もしくは予防方法、または治療的もしくは予防的免疫方法、またはアンチセンスまたはRNAi療法を提供する。
【0028】
第6の態様では、本発明は、ヒトにまたは非ヒト動物に、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を投与することを含む、癌を患うヒトまたは非ヒトの治療のための方法を提供する、
【0029】
第7の態様では、本発明は、遺伝子の欠陥および/または欠損により、ヒトにおいてまたは非ヒト動物において生じる、状態の治療もしくは予防のため、または治療的または予防的免疫のため、またはアンチセンスまたはRNAi療法のための、医薬品の製造のための、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体の使用を提供する。
【0030】
第8の態様では、本発明は、ヒトにまたは非ヒト動物における、癌の治療または予防のための医薬品の製造のための、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体の使用を提供する。
【0031】
第9の態様では、本発明は、遺伝子の欠陥および/または欠損により、ヒトにおいてまたは非ヒト動物において生じる、状態の治療もしくは予防における使用のための、または治療的もしくは予防的免疫のための、またはアンチセンスもしくはRNAi療法のための、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を提供する。
【0032】
第10の態様では、本発明は、ヒトにまたは非ヒト動物における癌の治療または予防における使用のための、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を提供する。
【0033】
第11の態様では、本発明 核酸は、(i)本発明の第1の態様のイオン化合物と;
(ii)ポリカチオンの核酸結合成分および(iii)細胞表面受容体結合成分を含む、ペプチドと;任意に(iv)核酸と、を含む、キットを提供する。
【0034】
本発明の三本鎖脂質を含むLPD(脂質-ペプチド-核酸)リポポリプレックスのトランスフェクション効率は、二本鎖類似体よりも有意に高いことが分かった。我々は、LPD複合体の脂質成分がエンドソーム膜を横切る細胞内輸送に特に重要であることを以前に示したので、これらの脂質がそのプロセスに寄与することによってトランスフェクション効率を高めると仮定されている(Du Z, Munye MM, Tagalakis AD, Manunta MD, Hart SL. The role of the helper lipid on the DNA transfection efficiency of lipopolyplex formulations. Sci Rep. 2014;4:7107) 。それらはまた、ナノ複合体の内部構造に影響を及ぼし、細胞内での核酸のより効率的な放出を可能にし得る (Munye MM, Ravi J, Tagalakis AD, McCarthy D, Ryadnov MG, Hart SL. Role of liposome and peptide in the synergistic enhancement of transfection with a lipopolyplex vector. Sci Rep. 2015;5:9292)。従って、本発明の新規な三本鎖脂質は、3つの疎水性鎖の使用に基づく、新世代の有効なサイトフェクチン遺伝子送達ベクターを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、ペプチドME27およびプラスミドpCI-Lucを、PEG-エステル開裂可能脂質(ME42)、PEG-エステル非切断性脂質(CH300)、本発明の三本鎖PEG-エステル脂質(FMM30)、またはエステル結合によって連結されたオレオイルを有するME42関連脂質(FMM32)と組み合わせて含むLPD製剤を用いたNIH3T3細胞のトランスフェクションを示し、それらのいくつかは中性の融合誘導性脂質DOPEとの組み合わせであった。
図2図2は、図1に記載したものと同じ実験であるが、第2の細胞株、1HAEo-を用いて行った結果を示す。
図3図3は、PEG-エステル切断可能脂質(ME42)、PEGエステル非切断脂質(CH300)または本発明の三本鎖PEG-エステル脂質(FMM30)、エステル結合で結合したオレオイルを有するME42関連脂質(FMM32)、ジエステル、C16アルキルテール(106a)を有する不飽和脂質を含むLPD製剤によるトランスフェクションを示し、これらのいくつかは中性の融合誘導性脂質DOPEと組み合わせられた。脂質をペプチドME27、K16CY、K16YおよびK16Pと組み合わせ、NIH3T3細胞をpCI-Lucでトランスフェクトするために使用した。
図4図4は、ペプチドK16YまたはME27と組み合わせたPEG-エステル切断可能脂質(ME42)、PEG-エステル非切断脂質(CH300)または本発明の三本鎖PEG-エステル脂質(FMM30)を含むLPD複合体によるトランスフェクションを示す。トランスフェクションはマウス神経芽腫細胞Neuro2Aで行った。
図5図5は、重量比0.75:4:1(L:P:D)のペプチドME27を有するFMM30を含むLPD粒子の透過型電子顕微鏡(EM)画像を示す。
図6図6は、重量比0.75:4:1(L:P:D)のペプチドME27を有するFMM30/DOPEを含むLPD粒子の透過型電子顕微鏡(EM)画像を示す。
図7図7は、脂質FMM30またはFMM30/DOPEをリポソームとDNAとの異なる重量比(w/w)で導入したペプチドME27を含むLPDナノ粒子のサイズを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
脂質
第1の態様では、本発明は、式(Ia):
【化5】
のイオン化合物を提供し、
ここで、
・各XおよびYは、同じであり、または、異なり、-O-および-O-C(O)-から選択され、カルボニル炭素は、基RまたはRに結合し、
・RおよびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲンおよびORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC12-24ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、RはC1-6ヒドロカルビル基であり、
・RおよびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲン、-OR’、-C(O)OH、-CN、-N(R’)、および-C(O)R’から選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC1-10ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、R’は、同じであり、または、異なり、C1-6ヒドロカルビル基であり、
・SpおよびWはともに結合であり、
・Spは、ヒドロキシ、ハロゲンおよびOR’から選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC1-8アルキレン基であり、R’は、C1-6ヒドロカルビル基であり、Wは、-O-C(O)-、-C(O)-O-および-O-結合から選択され、
・Bは、それぞれ、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲン、-OR、-NRおよび-OC(O)Rから選択される1以上の置換基により、置換されない、または、置換されるC1-6アルキレン基であり、
各Rは、それぞれ、C1-4ヒドロカルビルから独立して選択され、
・mは1~8の整数であり、
・Qは、-ORおよび-O-C(O)-Rから選択され、Rは、ヒドロキシ、ハロゲン、-ORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC12-24ヒドロカルビル基から選択され、Rは、C1-6ヒドロカルビル基である。
【0037】
任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は式(Ia)のものであり、SpおよびWの両方が結合しているか、またはSpが非置換C1-8アルキレン基であり、かつ、Wが結合、-OC(O)-、-C(O)-O-、または-O-、特に結合、-C(O)-O-または-O-である。有利には、SpおよびWは共に結合であるか、またはSpは非置換C1-8アルキレン基であり、Wは-C(O)-O-である。
【0038】
本明細書で使用される用語「アルキレン」は、アルカンジイル基としても知られているアルカンから2つの水素原子、例えばCH(CH)CH-(プロパン-1,2-ジイル)を除去することから誘導される二価ラジカルを指す。
【0039】
本明細書で使用される「ヒドロカルビル」という用語は、炭化水素、例えばエチルまたはフェニルから水素原子を除去することによって形成される一価の基を指す。
【0040】
本発明の第1の態様のイオン化合物は、任意に、式(Ib):
【化6】
のものであり、
ここで、
・各XおよびYは、同じであり、または、異なり、-O-および-O-C(O)-から選択され、カルボニル炭素は、基RまたはRに結合し、
・RおよびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲンおよびORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC12-24ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、RはC1-6ヒドロカルビル基であり、
・RおよびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲン、-OR’、-C(O)OH、-CN、-N(R’)、および-C(O)R’から選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC1-10ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、R’は、同じであり、または、異なり、C1-6ヒドロカルビル基であり、
・Bは、それぞれ、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲン、-OR、-NRおよび-OC(O)Rから選択される1以上の置換基により、置換されない、または、置換されるC1-6アルキレン基であり、Bは好ましくは非置換であり、
各Rは、それぞれ、C1-4ヒドロカルビルから独立して選択され、
・mは1~8の整数であり、
・Qは、-ORおよび-O-C(O)-Rから選択され、Rは、ヒドロキシ、ハロゲン、-ORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC12-24ヒドロカルビル基から選択され、Rは、C1-6ヒドロカルビル基である。
【0041】
任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は、式(Ia)または(Ib)のものであり、各Bが非置換C1-3アルキレン基、特にエチレンから選択される。
【0042】
本発明の第1の態様のイオン化合物は、任意に、式(Ic):
【化7】
のものであり、
ここで、
・各XおよびYは、同じであり、または、異なり、-O-および-O-C(O)-から選択され、カルボニル炭素は、基RまたはRに結合し、
・RおよびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲンおよびORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC12-24ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、RはC1-6ヒドロカルビル基であり、
・RおよびRは、同じであり、または、異なり、ヒドロキシ、ハロゲン、-OR’、-C(O)OH、-CN、-N(R’)、および-C(O)R’から選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC1-10ヒドロカルビル基から独立してそれぞれ選択され、R’は、同じであり、または、異なり、C1-6ヒドロカルビル基であり、
・mは1~8の整数であり、
・Qは、-ORおよび-O-C(O)-Rから選択され、Rは、ヒドロキシ、ハロゲン、-ORから選択される1以上の置換基により置換されない、または、置換されるC12-24ヒドロカルビル基から選択され、Rは、C1-6ヒドロカルビル基である。
【0043】
本明細書で使用される「ヒドロカルビル」という用語は、特に明記しない限り、直鎖または分岐、飽和または不飽和基を指す。
【0044】
任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は、式(Ia)、(Ib)、または(Ic)のものであり、ここで、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれが独立して、C12-24ヒドロカルビル基、例えば、一、二、または三重結合、特に二重結合を有する不飽和C14-22アルケニル基である。有利には、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれが独立して、1つの二重結合を有する、直鎖不飽和C16またはC18アルケニル基である。任意に、RおよびRは、-(CH5-10CH=CH(CH5-9CH、特に、-(CH6-9CH=CH(CH6-8CH、例えば、-(CHCH=CH(CHCHまたは-(CHCH=CH(CHCHから選択される。好ましくは、二重結合はシスであり、RおよびRは、-(CH5-10CH[Z]=CH(CH5-9CH、特に、-(CH6-9CH[Z]=CH(CH6-8CH、例えば、-(CHCH[Z]=CH(CHCHまたは-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択される。好ましくは、X-RおよびY-Rは、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択される。好ましくは、XおよびYのそれぞれは、同じである。好ましくは、RおよびRのそれぞれは、同じである。好ましくは、X-RおよびY-Rのそれぞれは、同じである。好ましくは、X-RおよびY-Rのそれぞれは、同じであり、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択される。
【0045】
任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は、式(Ia)、(Ib)、または(Ic)のものであり、ここで、RおよびRは、同じであり、または、異なり、直鎖または分岐鎖、非置換C1-10アルキル基、例えば、直鎖または分岐鎖、非置換C1-6アルキル基、特に、直鎖または分岐鎖、非置換C1-4アルキル基、例えば、メチルまたはエチルから独立してそれぞれ選択される。有利には、RおよびRは、同じであり、例えば、両方メチルまたは両方エチル、特に両方メチルである。
【0046】
任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は、式(Ia)、(Ib)、または(Ic)のものであり、ここで、mは、1、2、3、4、5、6または7、例えば2、3、4、5または6、特に2、3、4または5から選択される。本発明の第1の態様のさらなる実施形態では、mは3または4である。
【0047】
任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は、式(Ia)、(Ib)、または(Ic)のものであり、ここで、Qは-ORおよび-O-C(O)-Rから選択され、Rは、C12-24ヒドロカルビル基、例えば、C14-22ヒドロカルビル基、例えば、一、二、または三重結合を有する不飽和C14-22アルケニル基、特に、1つの二重結合、特にシス二重結合を有する直鎖不飽和C16またはC18アルケニル基から選択される。任意に、Rは、-(CH5-10CH=CH(CH5-9CH、特に、-(CH6-9CH=CH(CH6-8CH、例えば、-(CHCH=CH(CHCHまたは-(CHCH=CH(CHCHである。好ましくは、二重結合はシスであり、Rは、-(CH5-10CH[Z]=CH(CH5-9CH、特に、-(CH6-9CH[Z]=CH(CH6-8CH、例えば、-(CHCH[Z]=CH(CHCHまたは-(CHCH[Z]=CH(CHCHである。好ましくは、Qは、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択される。
【0048】
疑義を避けるために、本発明の第1の態様の脂質の任意の要素のいずれかを、本発明の第1の態様のさらなる実施形態において組み合わせることができる。例えば、本発明の第1の態様の1つの実施形態において、イオン化合物は、式(Ia)のものであり、式中、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれ独立してC14-22ヒドロカルビル基であり;SpおよびWは両方とも結合であり;RおよびRは、それぞれ、直鎖または分枝鎖の非置換C1-6アルキル基であり;Bは、それぞれ、非置換C1-3アルキレン基から選択され;mは3、4、5、6、または7である。同様に、本発明の第1の態様の1つの実施形態において、イオン化合物は、式(Ib)のものであり、式中、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれ独立してC14-22ヒドロカルビル基であり;RおよびRは、それぞれ、直鎖または分枝鎖の非置換C1-6アルキル基であり;Bは、それぞれ、非置換C1-3アルキレン基から選択され;mは3、4、5、6、または7である。再び同様に、本発明の第1の態様の1つの実施形態において、イオン化合物は、式(Ic)のものであり、式中、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれ独立してC14-22ヒドロカルビル基であり;RおよびRは、それぞれ、直鎖または分枝鎖の非置換C1-6アルキル基であり;mは3、4、5、6、または7である。本発明の第1の態様のさらなる実施形態において、イオン化合物は、式(Ia)のものであり、式中、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれ独立してC14-20ヒドロカルビル基、例えば、1つ、2つ、または3つの二重結合を有する不飽和C14-20アルケニル基であり;SpおよびWは両方とも結合であり;RおよびRは、それぞれ、直鎖または分枝鎖の非置換C1-6アルキル基であり;Bは、それぞれ、非置換C1-3アルキレン基から選択され;mは3、4、5、または6であり;Rは、C14-20ヒドロカルビル基、例えば、1つ、2つ、または3つの二重結合を有する不飽和C14-20アルケニル基から選択される。同様に、本発明の第1の態様のさらなる実施形態において、イオン化合物は、式(Ib)のものであり、式中、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれ独立してC14-20ヒドロカルビル基、例えば、1つ、2つ、または3つの二重結合を有する不飽和C14-20アルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ、直鎖または分枝鎖の非置換C1-4アルキル基であり;Bは、それぞれ、非置換C1-3アルキレン基から選択され;mは3、4、5、または6であり;Rは、C14-20ヒドロカルビル基、例えば、1つ、2つ、または3つの二重結合を有する不飽和C14-20アルケニル基から選択される。再び同様に、本発明の第1の態様の1つの実施形態において、イオン化合物は、式(Ic)のものであり、式中、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれ独立してC14-20ヒドロカルビル基、例えば、1つ、2つ、または3つの二重結合を有する不飽和C14-20アルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ、直鎖または分枝鎖の非置換C1-4アルキル基であり;mは3、4、5、または6であり;Rは、C14-20ヒドロカルビル基、例えば、1つ、2つ、または3つの二重結合を有する不飽和C14-20アルケニル基から選択される。本発明の第1の態様のなおさらなる実施形態において、イオン化合物は、式(Ia)のものであり、式中、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれ独立して1つの二重結合を有する直鎖不飽和C16またはC18アルケニル基であり;SpおよびWは両方とも結合であり;RおよびRは、それぞれ、メチルまたはエチルであり;Bは、それぞれ、エチレン基であり;mは3、4、または5であり;Rは、1つの二重結合を有する、直鎖の不飽和C16またはC18アルケニル基である。同様に、本発明の第1の態様のなおさらなる実施形態において、イオン化合物は、式(Ib)のものであり、式中、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれ独立して1つの二重結合を有する直鎖不飽和C16またはC18アルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ、メチルまたはエチルであり;Bは、それぞれ、エチレン基であり;mは3、4、または5であり;Rは、1つの二重結合を有する、直鎖の不飽和C16またはC18アルケニル基である。同様に、本発明の第1の態様のなおさらなる実施形態において、イオン化合物は、式(Ic)のものであり、式中、RおよびRは、同じであり、または、異なり、それぞれ独立して1つの二重結合を有する直鎖不飽和C16またはC18アルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ、メチルまたはエチルであり;mは3、4、または5であり;Rは、1つの二重結合を有する、直鎖の不飽和C16またはC18アルケニル基である。
【0049】
本発明の第1の態様の、イオン化合物は、任意に、式(Id):
【化8】
のものであり、
ここで、
・X-RおよびY-RおよびQは、それぞれ、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択され;
・mは2~5の整数である。
【0050】
任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は、式(Id)のものであり、式中、mは3または4である。
【0051】
任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は、式(Id)のものであり、X-RおよびY-Rは、それぞれ、同じであり、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択される。任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は、式(Id)のものであり、式中、X-RおよびY-Rは、それぞれ、同じであり、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択され;Qは、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択され;mは3または4である。
【0052】
任意に、本発明の第1の態様のイオン化合物は、式(Id)のものであり、式中、X-RおよびY-Rは、それぞれ、同じであり、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択され、Qは、-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHである。任意に、本発明の第1の態様の脂質は、式(Id)のカチオンを含み、式中、X-RおよびY-Rは、それぞれ、同じであり、-O-(CHCH[Z]=CH(CHCHおよび-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHから選択され、Qは、-O-C(O)-(CHCH[Z]=CH(CHCHであり;mは3または4である。
【0053】
本発明の第1の態様のイオン化合物は、典型的には、無機対イオン、例えば、塩化物または臭化物などの薬学的に許容されるアニオンを含む。
【0054】
トランスフェクション複合体
第2の態様では、本発明は、(i)本発明の第1の態様のイオン化合物を含むトランスフェクション複合体を提供する。本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体は、任意に、(ii)ポリカチオン性核酸結合成分および(iii)細胞表面受容体結合成分をさらに含む。典型的には、ポリカチオン性核酸結合成分(ii)および細胞表面受容体結合成分(iii)はともにペプチド誘導体を形成する。有利には、本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体は、(iv)核酸をさらに含む。
【0055】
本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体は、典型的には、非ウイルストランスフェクション複合体、例えば、LPD(またはLID)複合体である。
【0056】
第11の態様では、本発明は、
(i)核酸、
(ii)上記定義の本発明のイオン化合物、
(iii)ポリカチオンの核酸結合成分、および
(iv)細胞表面受容体結合成分
を含む、キットを提供する。
【0057】
例えば、本発明は、
(i)本発明 核酸の第1の態様のイオン化合物;
(ii)ポリカチオンの核酸結合成分および(iii)細胞表面受容体結合成分を含むペプチド;および任意に(iv)核酸を含む、キットを提供する。
【0058】
本発明の第11の態様のキットは、例えば、本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を組み立てるために使用することができる。
【0059】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を、薬学的に適切な担体と混合または組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0060】
ペプチド
1つの実施形態において、本発明の第2の態様のペプチド誘導体は、式A-B-Cのものであり、式中:
Aはポリカチオンの核酸結合成分であり、
Bはスペーサエレメントであり、
Cは細胞表面受容体結合成分である。
【0061】
細胞内で切断されやすいスペーサーエレメントペプチドを含む本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体は、標的細胞のトランスフェクションをもたらすには、細胞内で切断されやすいスペーサーのないペプチドを含む従来技術の複合体よりも効果的であることが判明している。
【0062】
ポリカチオン性核酸結合成分Aは、DNAまたはRNAに結合することができる任意のポリカチオンである。ポリカチオンは、ポリカチオンそれ自体であってもよく、あるいは、DNAまたはRNAに結合する性能が保持されていれば、任意の数のカチオン性モノマーを有していてもよい。例えば、3~100のカチオン性モノマー、例えば10~20、例えば14~18、例えば約16が存在してもよい。
【0063】
用語「ポリカチオンの核酸結合成分」は、当該分野で周知であり、少なくとも3つの反復カチオン性アミノ酸残基または正に荷電した基を有する他のカチオン性単位を有するポリマーを指し、このようなポリマーは生理学的条件下で核酸との複合体形成が可能である。核酸結合ポリカチオンの分子の例は、1つ以上のカチオン性アミノ酸を含むオリゴペプチドである。そのようなオリゴペプチドは、例えば、オリゴリジン分子、オリゴ-ヒスチジン分子、オリゴ-アルギニン分子、オリゴ-オルニチン分子、オリゴジアミノプロピオン酸分子、もしくはオリゴ-ジアミノ酪酸分子、またはヒスチジン、アルギニン、リジン、オルニチンジアミノプロピオン酸およびジアミノ酪酸残基の任意の組合せを含む組み合わされたオリゴマーであることとしてもよい。上記オリゴペプチドのいずれかは、例えば合計で3~35個、例えば5~25個の残基、好ましくは10~20個の残基、例えば14~18個の残基、例えば16個の残基を有することができる。
【0064】
オリゴリジンは、特に好ましくは、例えば3~35、例えば2~25、例えば10~20のリシン残基、例えば13~19、例えば14~18、例えば15~17残基、例えば16残基、すなわち[K]16を有し、「K」はリシンを示す。
【0065】
ポリカチオンの成分のさらなる例としては、デンドリマーおよびポリエチレンイミンが挙げられる。 ポリエチレンイミン(PEI)は、遺伝子送達能を有する非毒性の架橋カチオンポリマーである(Proc. Natl. Acad. Sci., 1995, 92, 7297-7301)。ポリエチレンイミンは、Fluka(800kDa)またはSigma(50kDa)から得ることができ、あるいはPolyPlus-トランスフェクション(Illkirch、France)から、トランスフェクション目的のために予め希釈することができる。典型的には、PEIはDNAに対して9倍過剰で使用すると最も効率的であり、過剰率はPEI窒素:DNAリン酸として、そしてpH5~8で計算される。そのようなパラメータは、当業者によく知られている方法で最適化することができる。
【0066】
スペーサーエレメントペプチドBは、有利に細胞内で切断されやすい。細胞内で切断されやすいスペーサーエレメントペプチドBは、細胞のエンドソーム、リソソームおよび/または細胞質内で切断されやすい可能性がある。切断の影響を受けやすいとは、本明細書では、要素AおよびCが触れたままの時間スケールにわたってエレメントが切断されやすいことを意味すると理解される。エレメントBは、細胞性ペプチド分解経路が有効になるよりも迅速に切断される。
【0067】
好ましくは、スペーサーエレメントペプチドは、酵素的切断、還元的切断、またはpH依存性切断、例えば、加水分解の影響を受けやすい。酵素的切断の場合、本発明の1つの態様において、好ましいペプチドは、NOX(NADH-オキシダーゼ)、GILT(γ-インターフェロン誘導性リソソームチオールレダクターゼ)およびPDI(タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ)から選択される酵素による切断を受けやすいものである。本発明の別の態様では、好ましいペプチドは、エンドソーム中に存在する酵素、例えばフリンまたはカテプシンのようなエンドソームプロテアーゼによる切断の影響を受けやすいものである。
【0068】
好ましくは、スペーサーエレメントペプチドBは、
a)ジスルフィド結合を含むペプチド鎖;
b)エステル結合を含むペプチド鎖;
c)フリンによって切断されやすいアミノ酸配列;および
d)カテプシン酵素による切断を受けやすいアミノ酸配列;
から選択される基を含む。
【0069】
ジスルフィド結合は、好ましくは、通常の大気および生理学的条件下で安定であるが、エンドソームにおいて還元的に切断され得るものである。同様に、本発明のペプチド鎖におけるエステル結合は、中性pHで安定であるが、エンドソームの酸性環境で切断されるエステル結合であることが好ましい(例えば、6.0未満のpH、好ましくは5.5未満のpH、または5.0未満のpHで)。
【0070】
例えば、
i)RXKR;および
ii)RXRR;
から選択される、フリンによる切断を受けやすいアミノ酸配列であって、
式中、XおよびXは、同じであり、または、異なり、それぞれ、任意のアミノ酸残基である(Zimmer et al., J. Biol. Chem., 2001, 276, 31642-31650; Nakayama, Biochem. J., 1997, 327, 625-635)
【0071】
好ましいアミノ酸残基XはLys(K)およびVal(V)を含み、例えばLys(K)である。好ましいアミノ酸残基Xは、Lys(K)およびVal(V)、例えばVal(V)である。
【0072】
例えば、カテプシン酵素は、任意の適切なカテプシン酵素であり得る(Pillay et al., Biochem. J., 2002, 363, 417-429参照)。例えば、カテプシンBであってもよい。例えば、カテプシンB(Pechar et al., Macromol. Chem. Phys., 1997, 198, 1009-1020参照)による切断を受けやすいアミノ酸配列は、以下から選択される配列を含む:
iii)Xであって、Xがチロシン(Tyr、Y)、フェニルアラニン(Phe、F)、ロイシン(Leu、L)、バリン(Val、V)およびイソロイシン(Ile、I)から選択され、Xがグリシン(Gly、G)、アラニン(Ala、A)およびグルタミン酸(Glu、E)から選択される。
【0073】
好ましくは、Xはチロシン(Tyr、Y)、フェニルアラニン(Phe、F)およびロイシン(Leu、L)から選択される。
【0074】
例えば、配列Xは、GFGとして、例えばGFLGとして存在し得る(Pechar et al., Bioconjugate Chem., 2000, 11, 131-139において使用されるように)。
【0075】
スペーサーエレメントペプチドBは、リンカーをさらに含んでいてもよく、好ましくはペプチド、すなわちアミノ酸残基、またはポリエチレングリコール基、またはこれらの2つの混合物を含む。アミノ酸は、天然由来でもよく、非天然由来でもよい。それらはL-またはD-配置を有することができる。リンカーは、2個以上のアミノ酸を有していてもよい。例えば、3つ以上のアミノ酸、例えば4つ以上、例えば5つ以上、例えば10までのアミノ酸またはそれ以上を含み得る。アミノ酸は同じであっても異なっていてもよいが、オリゴリジン配列がポリカチオン性核酸結合成分としての活性を有するため、スペーサーにおいては一般に複数のリシン残基(またはベクター複合体のポリカチオンの核酸結合成分における使用に適した他のカチオン性アミノ酸)の使用を避けるべきである。
【0076】
リンカーは、例えば、ジペプチドグリシン-グリシン(GG)またはグリシン-アラニン(GA)であり得る。
【0077】
リンカーは、ポリエチレングリコール部分であってもよく、またはポリエチレングリコール部分を含んでいてもよい。ポリエチレングリコール部分は、1~30個のエチレングリコール単位、好ましくは1~15単位、より好ましくは1~8単位、例えば2~6単位、例えば4単位を含むことができる。
【0078】
好ましくは、リンカーは、ポリカチオン性核酸結合成分Aに結合しているスペーサーエレメントペプチドBの末端にある。
【0079】
好ましくは、細胞表面受容体結合成分Cはペプチドを含む。細胞表面受容体結合成分Cがペプチドを含む場合、ペプチドは、長さが最大20アミノ酸であってもよく、またはより長くてもよい。ペプチドは、一般に、少なくとも5つのアミノ酸を有するが、より少ないアミノ酸を有してもよい。一般に、ペプチドは、6~20を含む任意の数のアミノ酸を有する。一般に、ペプチドは15アミノ酸以下、より好ましくは12アミノ酸以下、最も好ましくは10アミノ酸以下を有することが好ましい。一般に、ペプチドは5以上のアミノ酸、例えば6以上のアミノ酸を有することが好ましい。最も好ましくは、ペプチドは7つのアミノ酸を有する。
【0080】
好ましくは、細胞表面受容体結合成分Cは、環状領域を含むペプチドを含む。環状ペプチドは、ペプチド中に少なくとも2つのシステイン残基を提供することによって形成され、それによりジスルフィド結合のフォーメーションを可能にする。したがって、好ましい細胞表面受容体結合成分Cは、1つ以上のジスルフィド結合を形成することができる2つ以上のシステイン残基を有するペプチドからなるか、またはそれを含む。好ましくは、システイン残基は、一次受容体結合部分に隣接する。
【0081】
本発明の一実施形態では、細胞表面受容体結合成分Cは、インテグリン結合ペプチドを含む。インテグリン結合ペプチドは、細胞の表面上に見出されるインテグリンに特異的に結合することができる任意のペプチドである。インテグリン結合ペプチドは、天然に存在するインテグリン結合リガンド、例えば、細胞外マトリックスタンパク質、ウイルスキャプシドタンパク質、細菌タンパク質インベーシン、ヘビ毒ディスインテグリンタンパク質、またはそのようなタンパク質のインテグリン結合断片であり得る。このようなインテグリン結合タンパク質およびその断片は、天然源から、または、組換え技術によって得ることができる。インテグリン結合ペプチドは、特に、合成、精製および保存の容易さ、化学修飾の可能性、およびインビボでの潜在的に低い免疫原性のために使用することが好ましい。好ましいインテグリン結合ペプチドは、WO96/15811、特にWO98/54347に記載されているものである。例えば、インテグリン結合ペプチドは、α4β1インテグリンに特異的であり得る。
【0082】
この実施形態において、細胞表面レセプター結合成分Cは、好ましくは、以下から選択されるペプチドを含む:
a)RGD;
b)RRETAWA;
c)LDV
【0083】
本発明のさらなる実施形態では、細胞表面受容体結合成分Cは、ヒト気道上皮(HAE)細胞に結合することができるペプチドを含む。好ましいHAE細胞結合ペプチドは、WO02/072616(Hart5)に記載されているものである。この実施形態では、細胞表面受容体結合成分Cは、好ましくは、
a) XSM;
b) LXHK;
c) PSGXARA;
d) SXRSMNF;および
e) LXHKSMP;
から選択されるペプチドを含み、
ここで、Xは塩基性アミノ酸残基であり、XはQまたはPであり、XはAまたはTであり、Xは酸性アミノ酸残基であり、XはPまたはQである。
【0084】
好ましくは、細胞表面受容体結合成分Cは、
a) XSM;
b) LXHK;および
c) PSGAARA,
から選択されるペプチドを含み、
ここで、Xは塩基性アミノ酸残基であり、XはQまたはPである。
【0085】
好ましくはXはKまたはRである。好ましくはXはPである。好ましくはXはAである。好ましくはXはEまたはQである。好ましくはXはEである。好ましくはXはPである。したがって、好ましいペプチドは、LQHKSMP、LPHKSMP、VKSMVTH、SERSMNF、VGLPHKF、YGLPHKF、PSGAARA、SQRSMNFおよびPSGTARAから選択される配列を含むものである。
【0086】
本発明の別の実施形態では、細胞表面受容体結合成分Cは、ヒト樹状細胞に結合することができるペプチドを含む。好ましいヒト樹状細胞結合ペプチドは、WO2004/108938に記載されているものである。例えば、そのようなペプチドは、以下:
a) PX101112T;
b) PSX13S;
c) QX141516Q;
d) SX17S、
から選択されるアミノ酸配列を含むペプチドから選択され得、
ここで、X10、X11およびX12は同一でも異なっていてもよく、それぞれアミノ酸残基を表し、
13はアミノ酸残基を表し、
14及びX16は同じであっても、異なっていてもよく、それぞれはアミノ酸残基を表し、
15は、アミド側鎖を有するアミノ酸残基、例えばNまたはQを表し、
17は脂肪族側鎖を有するアミノ酸残基、例えばLまたはIを表す。
【0087】
好ましい実施形態では、細胞表面受容体結合成分Cは、
a) CRGDCLG;
b) CRGDCLG;
c) ACDCRGDCFCG;
d) CRGDMFGCA;
e) CRRETAWACG;
f) CRGEMFGCA;
g) CSERSMNFCG;
h) CYGLPHKFCG;および
i) CLPHKSMPCG
から選択されるペプチドを含む。
【0088】
本発明は、リポポリプレックス(LPD)トランスフェクションベクターのフォーメーションにおける本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体の使用を提供する。トランスフェクションベクターは、細胞に対するエンティティを標的化するために使用することができ、エンティティは、核酸または他の分子、例えば、治療的または薬学的に活性のある分子、または検出可能な標識を含む分子である。
【0089】
医療用途
本発明のイオン化合物は、特に、切断可能なペプチドと組み合わせて使用する場合、腫瘍細胞に対するベクター複合体のターゲッティングを改善することがさらに見出されている。したがって、第1の発明のイオン化合物は、癌、治療または予防免疫またはアンチセンスまたはRNAi療法の治療における使用を見出す。したがって、本発明は、有効量の本発明の第1の態様のイオン化合物を適切な複合体中で患者に投与することを含む、癌、治療または予防接種、またはアンチセンスまたはRNAi療法を治療する方法を提供する。したがって、本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体は、癌の治療、治療または予防免疫、またはアンチセンスまたはRNAi療法に使用される。従って、本発明は、有効量の本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を患者に投与することを含む、癌の治療、治療的または予防的免疫、またはアンチセンスまたはRNAi療法の方法を提供する。本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体は、本発明の第3の態様の医薬組成物で投与することができ、イオン化合物またはトランスフェクション複合体を、薬学的に適切な担体との混合物または組み合わせで含む。
【0090】
第4の態様において、本発明は、本発明の第1の態様のイオン化合物または治療に用いるための本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を提供する。本発明はさらに、医薬またはワクチンとしての使用のための、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を提供する。例えば、本発明の第4の態様は、遺伝子の欠陥および/もしくは欠損により引き起こされる状態の治療または予防に用いるための、癌の治療に使用するための、治療的もしくは予防的免疫のための、または、アンチセンスもしくはRNAi療法ための、本発明の第1の態様のイオン化合物または本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を提供する。
【0091】
核酸成分(D)は、任意の適切な核酸であり得る。それは、DNAまたはRNA、または化学的に修飾された核酸模倣物、例えばPNA分子であり得る。それは、例えば、標的細胞において有用性を有するタンパク質をコードすることができる。それは、アンチセンス核酸またはRNAi核酸であり得る。RNAiは、標的遺伝子によって産生された細胞メッセンジャーRNA(mRNA)分子を、mRNA分子の短い部分に相補的な配列を含む二本鎖RNA(dsRNA)分子に曝露することによって達成される。細胞内では、二本鎖RNA分子が切断されて、標的mRNA分子に結合することができる短い(21~23ヌクレオチド長)一本鎖および二本鎖断片を産生する。そのような結合は、ヌクレアーゼによる標的mRNAの切断をもたらし、その結果、標的遺伝子の発現レベルの低下をもたらす。したがって、核酸成分自体がRNAi分子(「siRNA」)であってもよく、あるいは、投与される核酸は、転写されたとき、RNAi分子、すなわちRNA干渉を介して標的遺伝子の発現を抑制することができるRNAを産生する配列を含むDNA分子であってもよい。
【0092】
本発明はまた、本発明のトランスフェクション複合体の製造方法を提供する。
【0093】
第5の態様では、本発明は、ヒトまたは非ヒト動物へ、本発明の第1の態様のイオン化合物を投与することを含む、遺伝子の欠陥および/または欠損によってヒトまたは非ヒト動物において引き起こされる状態の治療または予防のための方法、または、第2の態様のトランスフェクション複合体を提供する。
【0094】
本明細書において用語「遺伝子の欠陥および/または欠損」とは、遺伝子のコード領域の欠陥または欠損のみならず、遺伝子の制御エレメントの欠陥または欠損、例えば、トランスもしくはシスでの制御エレメント、または、直接的または間接的にかかわらず、遺伝子の転写または翻訳に関与する任意の他の要素における欠陥または欠損を指す。
【0095】
第6の態様では、本発明は、本発明の第1の態様のイオン化合物を、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスRNA)またはヒトまたは非ヒト動物へのRNAi療法に適した核酸を含む第2の態様のトランスフェクション複合体と共に投与することを含む、ヒトまたは非ヒト動物の治療的または予防的免疫の方法を提供する。本発明はまた、本発明の第1の態様のイオン化合物を核酸とともに、または、核酸を含む本発明の第2の態様のトランスフェクション複合体を、ヒトまたは動物に投与することを含む、アンチセンス療法の方法であって、核酸がアンチセンス療法での使用に適した核酸(例えばRNA)、またはRNAi療法に適した核酸である、方法を提供する。
【0096】
実施例
特に明記しない限り、合成のための溶媒および試薬は、市販の供給業者からの試薬等級であり、さらに精製することなく使用した。Pangborn, A. B.; Giardello, M. A.; Grubbs, R. H.; Rosen, R. K.; Timmers, F. J. Organometallics 1996, 15, 1518-1520に記載される手順を用いて、乾燥したCHClを、無水アルミナカラムを用いて得た。すべての湿気に敏感な反応は、オーブン乾燥ガラス器具を使用して窒素またはアルゴン雰囲気下で行った。UV、過マンガン酸カリウムおよびリンモリブデン酸染色による検出を伴うKieselgel 60 F254プレート上でのTLCによって、反応をモニターした。フラッシュカラムクロマトグラフィーはシリカゲル(粒径40~63μm)を用いて行った。H NMRおよび13C NMRスペクトルは、Bruker AMX300MHz、Avance-500MHzおよびAvance-600MHz機械で記録した。結合定数は、ヘルツ(Hz)単位で測定され、特に明記しない限り、スペクトルは298Kで得られた。質量スペクトルは、Thermo Finnegan MAT 900XP、Micromass Quattro LCエレクトロスプレーおよびVG70-SE質量分析計で記録した。赤外線スペクトルをShimadzu FTIR-8700分光計で記録した。
【0097】
DODEG4(13)
(2,3-ビス-オクタデカ-9-エニルオキシプロピル)-ジメチルアミンおよび4-EG臭化物(HO-(CHCH-O)-CHCH-Br)から、{2,3-ジ[(Z))-オクタデシル-9-エニルオキシ]-プロピル}-N-{2-[2-(2-{2-ヒドロキシ-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ]-エチル}-N、N-ジメチルアンモニウムクロライド(DODEG4)(13)(CH300)を、以前に、Dori, Y.; Bianco-Peled, H.; Satija, S.; Fields, G. B.; McCarthy, J. B.; Tirrell, M. J. Biomed. Mater. Res. 2000, 50, 75-81により報告されたように、合成した。
【0098】
【化9】
【0099】
DODEG4(13)(CH300)はまた、US7,598,421、実施例4に記載されるような合成であり得る。
【0100】
DODEG4との類似体
異なる鎖長のRおよびRヒドロカルビル基を有する、かつ、mについての異なる値、すなわち、異ならせたポリエチレングリコール鎖長を有する、DODEG4(13)(CH300)と同様の塩を、US7,598,421に記載されているように調製することができる(特に、実施例の3、5、6、および7参照。)。例えば、DODEG3は、US7,598,421の実施例3のプロトコールセットによって合成することができる。
【0101】
【化10】
【0102】
DOesDEG4(15)
ジエステル類似体DOesDEG4(15)は、(2,3-ビス-ヘプタデカ-9-エニルカルボキシプロピル)-ジメチルアミンの4-EG臭化物による四級化を介してDODEG4(13)と同様に調製した。
【0103】
三級アミン(16)
2,3-ジ-((9Z)-オクタデセニルオキシ)プロピル-N、N-ジメチルアミン(16)は、Hurley, C. A.; Wong, J. B.; Hailes, H. C.; Tabor, A. B. J. Org. Chem. 2004, 69, 980-983に記載されているように、オクタデカ-9-エニルメシラートおよび3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオールから調製された。
【0104】
4-EG臭化物(17)
11-ブロモ-3,6,9-トリオキソウンデカン-1-オール(17)は、Hurley, C. A.; Wong, J. B.; Ho, J.; Writer, M.; Irvine, S. A.; Lawrence, M. J.; Hart, S. L.; Tabor, A. B.; Hailes, H. C. Org. Biomol. Chem. 2008, 6, 2554-2559に記載されているように調製された。
【0105】
4-EGオレオイルエステル(20)
4-EGオレオイルエステル(20)は、CHCl中のDICおよびDMAPの存在下において、オレイン酸と4-EG臭化物との反応により調製された。
【0106】
【化11】
【0107】
無水ジクロロメタン(50mL)中のオレイン酸(2.00mL、6.30mmol)、4-EG臭化物17(1.50g、5.83mmol)およびDMAP(70mg、0.58mmol)の溶液を室温で5分間撹拌した。0℃に冷却した後、N、N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(1.20mL、7.75mmol)を滴下し、混合物を室温で18時間撹拌した。ジクロロメタンを減圧除去し、酢酸エチル(60mL)を加え、混合物を炭酸水素ナトリウム(2×60mL)、ブライン(60mL)で洗浄し、乾燥し(NaSO)、真空中で濃縮した。シリカフラッシュクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン、1:4)による精製により、20を黄色の油状物(1.65g、54%)として得た。RF 0.19 (EtOAc/ヘキサン, 1:4); vmax(ニート(neat))/cm-1 2923, 1736, 1457; 1H NMR (300 MHz; CDCl3) δ 0.84 (t, J = 6.7 Hz, 3H), 1.18-1.30 (m, 20H), 1.58 (m, 2H), 1.93-2.00 (m, 4H), 2.29 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 3.43 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 3.59-3.67 (m, 10H), 3.77 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 4.19 (t, J = 4.8 Hz, 2H), 5.27-5.36 (m, 2H); 13C NMR (75 MHz; CDCl3) δ14.1, 22.6, 24.9, 27.2, 29.1-29.8 (重畳信号), 30.4, 31.9, 34.0, 63.3, 69.2, 70-4-70.6 (重畳信号), 71.2, 129.7, 130.0, 173.6; m/z [HRMS ES+]は、[MNa]543.2671がみられた。C26H49O5 79BrNaは、543.2661を必要とする。
【0108】
TC-DODEG4(14)
三本鎖イオン化合物(9Z)-N-(2,3-ビス((9Z)-オクタデセニルオキシ)プロピル)-N,N-ジメチル-13-オキソ-3,6,9,12-テトラオキサトリアコン-21-エン-1-アミニウムブロマイド(TC-DODEG4)(14)は、4-EGオレオイルエステル(20)による(2,3-ビス-オクタデカ-9-エニルオキシプロピル)-ジメチルアミン(16)の四級化によって合成された。
【0109】
【化12】
【0110】
アセトン(2mL)中のアミン(16)(0.260g、0.420mmol)および4-EGオレオイルエステル(20)(0.240g、0.460mmol)の溶液を、封管中、90℃で48時間撹拌した。アセトンを減圧除去した。フラッシュシリカクロマトグラフィー(CHCl/MeOH、19:1)による精製により、淡黄色の油としてTC-DODEG4(14)を得た(171mg、36%)。RF 0.40 (CH2Cl2/MeOH, 9:1); vmax(ニート(neat))/cm-12950, 2859, 1740, 1464; 1H NMR(600 MHz; CDCl3) δ0.83 (t, J = 7.0 Hz, 9H), 1.13-1.22 (m, 64H), 1.51 (m, 4H), 1.57 (m, 2H), 1.92-1.97 (m, 12H), 2.29 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 3.38-3.51 (m, 14H), 3.51 (m, 6H), 3.58 (m, 4H), 3.92-4.05 (m, 4H), 4.08 (m, 1H), 4.18 (m, 2H), 5.27 (m, 6H); 13C NMR (150 MHz; CDCl3) δ14.2, 22.8, 25.0, 26.1, 26.3, 27.26, 27.30, 29.0, 29.1-29.9 (重畳信号), 30.1, 32.1, 32.7, 34.2, 53.3, 53.4, 63.3, 65.0, 65.2, 66.8, 68.6, 69.29, 69.32, 70.3, 70.4, 70.5, 70.6, 72.1, 73.5, 127.9-130.5 (重畳信号), 173.9; m/z [HRMS ES+]は、[M-Br] 1060.9904がみられた。C67H130NO7は、1060.9847; m/z (+ES) 1061 ([M-Br]+, 100%), 980 (60), 931 (70), 843 (65), 306 (63) を必要とする。
【0111】
三級アミン(18)
(9Z)-3-(ジメチルアミノ)プロパン-1,2-ジイルジオレエート(18)を、Narang, A.S.; Thoma, L.; Miller, D. D.; Mahato, R. I. Bioconjugate Chem. 2005, 16, 156-168に記載されるように調製した。
【0112】
TC-DOesDEG4(19)
三本鎖イオン化合物(9Z)-N,N-ジメチル-N-(3-(オレオイルオキシ)-2-((9Z)-2-オキソオクタデセニルオキシ)プロピル)-13-オキソ-3,6,9,12-テトラオキサトリアコン-21-エン-1-臭化アミニウム(TC-DOesDEG4)(19)は、4-EGオレオイルエステル(20)による(2,3-ビス-ヘプタデカ-9-エニルカルボキシプロピル)-ジメチルアミン(18)の四級化によって合成された。
【0113】
【化13】
【0114】
アセトン(2mL)中のアミン18(0.610g、0.941mmol)および4-EGオレオイルエステル20(0.640g、1.22mmol)の溶液を密封管中、80℃で48時間撹拌した。アセトンを減圧除去した。フラッシュシリカクロマトグラフィー(CHCl/MeOH、19:1)による精製により、19を淡黄色の油状物として得た(118mg、11%)。RF 0.24 (CH2Cl2/MeOH, 19:1); vmax (ニート(neat))/cm-12924, 2854, 1740, 1465; 1H NMR (500 MHz; CDCl3) δ0.86 (t, J = 6.8 Hz, 9H), 1.25-1.32 (m, 60H), 1.58 (m, 6H), 1.99 (m, 12H), 2.30 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 2.34 (m, 2H), 3.44 (s, 3H), 3.51 (s, 3H), 3.64-3.68 (m, 11H), 3.82 (dd, J = 13.5 and 10.0 Hz, 1H), 3.94 (m, 2H), 4.05 (m, 2H), 4.13 (m, 1H), 4.20 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 4.35 (d, J = 13.5 Hz, 1H), 4.48 (dd, J = 12.3 および3.3 Hz, 1H), 5.28-5.35 (m, 6H), 5.64 (m, 1H); 13C NMR (125 MHz; CDCl3) δ14.2, 22.7, 24.7, 24.8, 25.0, 25.7, 27.2, 27.3, 29.1-29.8, 31.6, 32.0, 34.0, 34.3, 52.8, 52.9, 63.2, 63.3, 64.0, 64.9, 65.6, 65.8, 69.3, 70.1, 70.45, 70.48, 70.6, 129.7-130.1 (重畳信号), 172.9, 173.2, 173.8; m/z[HRMS ES+]は、[M-Br]+ 1088.9382がみられた。C67H126NO9は1088.9433を必要とし、m/z(+ ES)1089([M-Br]、100%)。
【0115】
TC-DOesDEG4に対する類似体
m=2である三本鎖脂質TC-DODEG3およびTC-DOesDEG3は、同様に、(2,3-ビス-オクタデカ-9-エニルオキシプロピル)-ジメチルアミン(16)および(2,3-ビス-ヘプタデカ-9-エニルカルボキシプロピル)-ジメチルアミン(18)のそれぞれを3-EGオレオイルエステルで四級化によって合成することができる。
【0116】
脂質ME42(比較)
(2,3-ビス-オクタデカ-9-エニルオキシプロピル)-(8-ヒドロキシ-3,6-ジオキソオクチルオキシカルボニルブチル)-ジメチルアンモニウムブロミド(ME42)をWO2007/138324(41および42ページ参照)に記載されるように調製した。
【0117】
【化14】
【0118】
脂質FMM32(比較)
【化15】
【0119】
脂質DHDTMA(106a)(比較)
DHDTMAは、Writer M, Hurley CA, Sarkar S, Copeman DM, Wong JB, et al. Analysis and optimization of the cationic lipid component of a lipid/peptide vector formulation for enhanced transfection in vitro and in vivo. J Liposome Res. 2006; 16:373-389に記載されるジエーテル結合によって連結された2つの不飽和C16アルキル鎖を有するグリセロール骨格に基づくカチオン性脂質である。
【0120】
ペプチド合成
記載されたペプチド(表1A)は、標準的な機器および技術を用いて合成された。
【0121】
テーブル1A:ペプチド配列
【表1】
【0122】
テーブル1B:ペプチド質量
【表2】
【0123】
ME27はSYRO自動化ペプチド合成装置で合成した。
線状ペプチド配列:テフロン(登録商標)フリットおよび500μlのカップリング容量を有する2mlシリンジを使用して、20μmolスケールでペプチドを合成した。Fmoc-GlyプレロードされたNovaSyn TGT樹脂またはFmoc-Gly-2-Cl-Trt-樹脂をこれらの配列に使用した。Fmoc-Peg4-COOHを以前に報告された手順に従って合成した(WO2005/117985の82頁のFmoc-Haa4-COOHの合成を参照のこと-Fmoc-Haa4-COOHはその明細書中でFmoc-Peg4-COOHに与えられた名称であった)。TGT樹脂は最初に10分間膨潤したが、2-Cl-Trt樹脂はDMF中で最初の膨潤時間(数時間)を延長する必要があった。HBTU(DMF中)およびDIPEA(NMP中)を4倍過剰の試薬を用いて通例のカップリングを行った。Fmocを、DMF中のピペリジンの40%溶液で3分間、20%溶液で10分間切断した。合成サイクルは、40分のカップリング時間、40%ピペリジンを用いたFmoc脱保護のための3分、20%ピペリジンを用いたFmoc脱保護および洗浄工程のための別の10分からなるものであった。DMFでの合成および最後の洗浄サイクルの後、ペプチドを、Syroの「マニュアル」/「エンプティ」機能を用いてDCM、メタノールおよびジエチルエーテル(それぞれ3回)で洗浄した。エーテルを蒸発させるのを助けるために、より多くの時間吸引を行った。
【0124】
樹脂上のジスルフィド結合フォーメーション:
樹脂上にジスルフィド架橋を形成するために、樹脂をPEフリットを入れた注射器に入れ、DMF中で膨潤させた。過剰のDMFを除去した後、新たに調製したヨウ素の最小量のDMF溶液(例えば、2mlシリンジについては500μl、樹脂負荷に対しては10当量のヨウ素)を添加し、シリンジを4時間の間、4分ごとに20秒間ボルテックスした。試薬溶液を除去し、樹脂をDMFで10~20回、DCM、メタノールおよびエーテルでそれぞれ3回洗浄した。
【0125】
切断および脱保護:
シリンジを切断のためにヒュームフードに移した。切断は、95%TFA、2.5%TISおよび2.5%HOのカクテルで行った。新たに調製したカクテルの最小量を加えて樹脂を覆った(例えば、2mlシリンジで<500μl)。4時間後、切断溶液をプランジャーを用いてポリプロピレン(PP)チューブに通し、樹脂を別の少量の切断カクテル(例えば、2mlのシリンジで200μl)で洗浄した。次いで、ペプチドをエーテルで沈殿させた(例えば、2mlのシリンジの合わせた画分に約4mlのジエチルエーテルを加えた)。PPチューブを少なくとも15分間冷凍庫に入れ、次いで3000rpmで3分間遠心分離し、溶液をペプチドペレットからデカントした。遠心分離およびデカンテーションを約2mlのエーテルで2回繰り返した。最後に、ペプチドを水またはtBuOH/水(4:1)に溶解し、凍結乾燥させた。いくつかのペプチド配列は非常に貧弱な溶解性を示し、時には、ふわふわした(fluffy)ペプチドを得るために、異なる溶媒混合物(水、tBuOHまたはアセトニトリル)を用いたいくつかの凍結乾燥/溶解プロセスが必要であった。
【0126】
ペプチドを逆相HPLCで分析し、>90%純度まで逆相HPLCで精製した。Micromass Quattro ES-MS(ソフトウェア:Masslynx)を用いて質量スペクトルを記録し、質量を表1Bに記録した。
【0127】
K16CY、K16YおよびK16Pは、AMS Bio Ltd.、Birmingham、UKから購入し、半自動ペプチド合成化学を用いて合成した。ペプチドを逆相HPLCで分析し、必要に応じて純度85%まで逆相HPLCで精製した。相対的な分子量を表1Bに示す。
【0128】
K16は前述のように購入した(Hart et al., Lipid-mediated enhancement of transfection by a nonviral integrin-targeting vector. Hum Gene Ther., 1998, 9, 575-585)。相対的な分子量を表1Bに示す。
【0129】
これらの凍結乾燥ペプチドはすべて水中で10mg/mlに希釈し、数ヶ月間-20℃で保存した。解凍後、ペプチドのアリコートを数週間、4℃で保存する。
【0130】
プラスミドDNA
プラスミドpCI-Luc(5.7kb)は、サイトメガロウイルス(CMV)即時/初期プロモーターエンハンサーによって駆動されるルシフェラーゼ遺伝子を含むpCI(Promega, Southampton, UK)からなる。プラスミドをエシェリヒア・コリDH5α中で増殖させ、バクテリアアルカリ溶解後に樹脂カラム(Qiagen Ltd., Crawley, UK)上で精製した。イソプロパノール沈殿したDNAペレットを70%エタノールで洗浄し、次いで1mg/mlの水に溶解した。
【0131】
インビトロトランスフェクション
試験した細胞は、1HAE-ヒト気道上皮細胞、NIH3T3マウス線維芽細胞、およびNeuro2Aマウス神経芽細胞腫細胞を含んでいた。細胞を96ウェルプレートに約2×10細胞/ウェルで播種し、次いで完全増殖培地中で37℃で一晩インキュベートした。翌日、以下の順序で成分を混合することにより、本質的に以前に記載されたように(Hart et al., 1998)、リポポリプレックス(LPD)製剤を調製した:OptiMEM中80μg/mlの脂質(L)50μl、OptiMEM中の110μg/mlのペプチド(P)70μlおよびOptiMEM中の40μg/mlのプラスミドpCI-Luc(D)50μl(それぞれ2:4:1の重量比に相当)。すべての複合体をピペットで短時間混合し、室温で1時間保持し、次にOptiMEMで希釈して1.57mlの最終容量にした。0.25μgのプラスミドDNAに相当する200マイクロリットルの複合体を、完全増殖培地を除去した後、各培養ウェルに添加した。すべてのトランスフェクションはそれぞれ6ウェルで実施した。複合体の沈降および細胞接触を促進するために、遠心分離(1500rpm、5分間)を行った。細胞を新鮮な培地で24時間交換する前に、37℃で4時間、複合体と共にインキュベートし、その後、レポーター遺伝子発現をルシフェラーゼアッセイ(Promega、Madison、WI、USA)によって分析した。
【0132】
特に明記しない限り、カチオン性リポソームは、2つのイオン化合物の混合物を含み、例えば、FMM30およびDOPEは、イオン化合物を1:1の比で含む。
【0133】
NIH3T3および1HAEo-細胞を、ペプチドME27およびプラスミドpCI-Lucおよび脂質製剤の1つを含有するLPD製剤でトランスフェクトした:
・1:1のモル比のCH300/DOPE、
・1:1のモル比のFMM30/DOPE、
・4:1:5のモル比のCH300/FMM30/DOPE、
・1:1:2のモル比のCH300/FMM30/DOPE、
・1:1のモル比のFMM32/DOPE。
【0134】
陽性対照として、市販のトランスフェクション試薬Lipofectamine 2000(Life Technologies Inc.から購入したL2K)で、細胞をトランスフェクトした。総脂質:ペプチド:DNA比は、1:4:1、2:4:1、または4:4:1であった。LPD製剤はすべて、上記の順序でL:P:Dの順番で混合することによって調製した。結果を図1および図2に示す。
【0135】
ME27、K16CY、K16YおよびK16Pの4つの異なるペプチドを用いて脂質の異なる組み合わせを含有するLPD製剤を調製し、NIH3T3細胞を上記のようにpCI-Lucでトランスフェクトするために使用した。使用した脂質は:
・1:1のモル比のCH300/DOPE、
・1:1のモル比のFMM30/DOPE、
・4:1:5のモル比のCH300/FMM30/DOPE、
・1:1:2のモル比のCH300/FMM30/DOPE、
・1:1のモル比のFMM32/DOPE、
・1:1のモル比の106a(DHDTMA)/DOPE、
・1:1のモル比のDOTMA/DOPE、
であった。
【0136】
市販の試薬であるDOTAP、LipofectinおよびLipofectamine 2000(L2K)も、ペプチドおよびDNAとのLPDの組み合わせで比較した。すべてのL:P:D重量比は2:4:1であり、ウェルにはそれぞれ0.25μgのpCI-Lucが与えられた。結果は図3に示される。
【0137】
異なる脂質ME42/DOPE(ME42)、CH300/DOPE(CH300)またはFMM30/DOPEを含むLPD製剤を、標的ペプチドME27またはK16Yのいずれかとともに調製し、Neuro-2Aマウス神経芽腫細胞をトランスフェクトするために使用した。結果を図4に示す(試験したペプチドがGACYGLPHKFCG「Y」コアモチーフと共にポリリジン部分を含むため、図4のペプチド「Y」に対するN.b参照はより正確に「K16Y」を参照すべきである)。
【0138】
ルシフェラーゼおよびタンパク質アッセイ
4℃で20分間、細胞をPBSで1回洗浄した後、1×Reporter Lysis Buffer(Promega, Madison, WI, USA)を細胞に20μl添加してから-80℃で少なくとも30分間凍結させ、続いて室温で解凍する。次いでルシフェラーゼ活性をLuciferase Assay System(Promega, Madison, WI, USA)およびOptima Fluostarプレートリーダー(BMG Labtech)を用いて10秒間測定した。Bio-Rad(Hercules、CA、USA)タンパク質アッセイ試薬を使用して、各トランスフェクションライセートに存在するタンパク質の量を、製造者の指示に従って決定し、ルシフェラーゼ試験から20μlを180μlの試薬に加えて1/5に希釈し、室温で10分間インキュベートした後、OD590をある範囲のBSA標準と比較する。インビトロルシフェラーゼ活性は、タンパク質1ミリグラムあたりの相対発光単位(RLU)(RLU/mg)として表した。
【0139】
パーティクルイメージング
重量比0.75:4:1(L:P:D)で、ペプチドME27を有するFMM30を含むLPD粒子の透過電子顕微鏡画像を図5(FMM30-PD-0.75)に示し、同じ重量で脂質FMM30/DOPEを図6(FMM30/DOPE-PD0.75)に示す。
【0140】
脂質FMM30またはFMM30/DOPEを有するペプチドME27を含有するLPDナノ粒子のサイズを、NanoZS Zetasizer(Malvern)を用いた動的光散乱によるDNAに対するリポソームの異なる重量比(w/w)で測定した。結果を図7に示す。
【0141】
結果と考察
NIH3T3および1HAEo-細胞における脂質のインビトロトランスフェクション効率
図1および図2は、三本鎖イオン化合物FMM30を含むLPD製剤を用いたトランスフェクションレベルが、NIH3T3および1HAEo-細胞株の二本鎖脂質CH300よりはるかに高かったことを示している。FMM30の高い比率での脂質の混合物(CH300/FMM30/DOPE)を含むLPD製剤もまた、FMM30の少量を含むものと比較して良好に機能した。FMM32/DOPEを含有する製剤は、CH300/DOPE製剤に同様に低レベルのトランスフェクションを与えた。
【0142】
図3は、最高レベルのトランスフェクションを生み出すFMM30/DOPE含有LPD製剤における各ペプチドについての製剤を示し、FMM30/DOPE含有LPD製剤についてのトランスフェクションレベルが、これまでにトランスフェクションに最適であることが示された、C16脂質106a並びに3つの市販の試薬の全てよりも高かった。
【0143】
Neuro2A細胞株における脂質のインビトロトランスフェクション効率
以前の結果は、ME27/ME42がNeuro-2Aマウス神経芽腫細胞に最適であることを示した。図4に示された結果は、脂質FMM30/DOPEが1:4:1(L:P:D)の比でわずかに良好に同等に有効であることを示している。FMM30/DOPEは、また、LPDトランスフェクションでの親脂質組合せCH300/DOPEよりも有意により良好であった。
【0144】
LPDパーティクルイメージング
図5に示す0.75:4:1(L:P:D)および図6に示す同じ重量比の脂質FMM30/DOPEの重量比でペプチドME27を有するFMM30を含むナノ粒子はいずれも、ロッドおよび球体を含む形状の組み合わせで、非常に似たサイズである。
【0145】
図7に示すように、FMM30/DOPE脂質を含むナノ粒子は、両方の粒子が約80nmで最小である0.75:4:1を除くすべての重量比にわたってFMM30(DOPEなし)を含有するナノ粒子よりも小さかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7