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  • 特許-水彩画用紙及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】水彩画用紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20220105BHJP
   D21H 11/12 20060101ALI20220105BHJP
   D21H 19/10 20060101ALI20220105BHJP
   B44D 3/18 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
D21H27/00 Z
D21H11/12
D21H19/10 B
D21H27/00 E
B44D3/18 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019053613
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020153034
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098899
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 信市
(74)【代理人】
【識別番号】100163865
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 健
(72)【発明者】
【氏名】小熊 かおり
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】小熊 修一
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179617(JP,A)
【文献】特開2017-172052(JP,A)
【文献】特開2014-213477(JP,A)
【文献】特開平09-143900(JP,A)
【文献】特開平10-018195(JP,A)
【文献】特開平10-280293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00-1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00-9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00-7/00
B44D 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層と、裏層と、表層と裏層との間にあって1層以上の層からなる中層とを有する3層以上の基紙と、前記基紙の少なくとも一方の面に設けられた絵具受理層とを有する水彩画用紙であって、
前記基紙がパルプを主成分とし、
前記パルプの60質量%以上がコットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプであり、
前記絵具受理層がゼラチン及び中性サイズ剤を含有し、
前記表層及び前記裏層はサイズ剤を含有せず、前記中層のうち前記表層及び/又は前記裏層と接する層には層全量に対して0.05~0.31質量%のサイズ剤を含有しており、
密度が0.45~0.60g/cm3であることを特徴とする水彩画用紙。
【請求項2】
前記絵具受理層には、硫酸カリウムアルミニウム水和物が含有されないことを特徴とする請求項1に記載の水彩画用紙。
【請求項3】
前記中層に含有されるサイズ剤は、アルキルケテンダイマーサイズ剤及び/又は中性ロジンサイズ剤であることを特徴とする請求項1に記載の水彩画用紙。
【請求項4】
前記絵具受理層の塗布量は、基紙の片面あたり固形分換算で1.5~8.0g/m3であることを特徴とする請求項1に記載の水彩画用紙。
【請求項5】
表層と、裏層と、表層と裏層との間にあって1層以上の層からなる中層とを有する3層以上の基紙を抄紙する抄紙工程と、
前記基紙の少なくとも一方の面に、ゼラチン及び中性サイズ剤を含有する絵具受理層用塗料を塗布する塗布工程とを有し、
前記基紙に含まれるパルプの60質量%以上をコットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプとし、
前記表層及び前記裏層にはサイズ剤を含有させず、前記中層のうち前記表層及び/又は前記裏層と接する層には層全量に対しての含有量が0.05~0.31質量%となるようにサイズ剤を含有させ、
密度を0.45~0.60g/cm3とすることを特徴とする水彩画用紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水彩画用紙の製造方法に係り、特に、上級者向けの水彩画用紙として、水彩絵具で画像を描いた際にグラデーションやウェット・オン・ウェットへの適性に優れた、高級水彩画用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水彩画用紙は、原料パルプの種類とその配合割合により、最高級水彩画用紙、高級水彩画用紙、水彩画用紙の3種に区分される。一般的に最高級水彩画用紙はコットンパルプのみ、若しくはコットンパルプを高い割合で配合したもの、高級水彩画用紙はコットンパルプと木材パルプ等を併用したもの、水彩画用紙はコットンパルプを含有しないものである。これらの中でも最高級水彩画用紙及び高級水彩画用紙は、水が紙中へ速やかに吸収されることで画線が滲みにくいことから、上級者向けとされている。
【0003】
水彩画には様々な技法がある中で、グラデーションやウェット・オン・ウェットは水彩画の基本的な技法として知られている。前記グラデーションは色を段階的に変化させて塗布する技法であり、前記ウェット・オン・ウェットは水を多めに含ませた水彩絵具、または水のみを塗布しその上から水彩絵具を塗布する技法である。ウェット・オン・ウェットは「ぼかし」や「ウェット・イン・ウェット」とも呼ばれている。
【0004】
グラデーションへの良好な適性は、水彩画用紙の水彩絵具の吸収性を適度に調整することで得られる。ここで水彩画用紙の吸収性を上げ過ぎると水彩絵具が素早く吸収され過ぎたり、定着が早くなり過ぎたりしてグラデーションへの適性が悪化するおそれがある。一方、水彩画用紙の水彩絵具の吸収性を下げ過ぎると、水彩絵具の定着及び乾燥の悪化により水彩絵具が流れやすく、色ムラが発生するおそれがある。
【0005】
ウェット・オン・ウェットは水を多量に使用する技法であるため、水彩画用紙としてのこの技法への適性は、水の吸収性を適度に調整することで得られる。水の吸収性を上げ過ぎると水や水彩絵具が素早く吸収され、水彩絵具が広がる前に定着して乾燥し、逆に、水の吸収性を下げ過ぎると水や水彩絵具が紙表面に留まり絵具が広がりにくくなるおそれがある。
【0006】
従来より、このような上級者向けの水彩画用紙について必要な特性を付与するために様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、水彩絵具の水が速やかに紙の内部に吸収されて画線がにじまず、均一な発色性を持ち、経時により紙が変色や強度劣化しにくいことを課題とし、30重量%以上がコットンパルプからなる製紙用繊維を350~550mlC.S.F.に叩解し、かつエポキシ化高級脂肪酸アミドを0.1~1.5重量%含有させて抄紙し、冷水抽出pHが6.0~9.5である水彩画用紙が提案されている。
【0007】
また特許文献2には、絵筆等で描かれた場合に水彩絵具の水の吸収性に著しく優れ、均一な発色性を持ち、毛羽立ちが起こりにくく、安価な高級水彩画用紙と同等の性能を有することを課題とし、製紙用繊維を450~650mlC.S.F.に叩解し、湿式含浸法により水溶性分子を製紙用繊維に対し1~20重量%含有させて抄紙した水彩画用紙が提案されている。
【0008】
また特許文献3には、様々な水彩技法に耐えうる湿潤表面強度を有することに加え、書き重ね部分に筆跡が残りにくく、色ムラが生じにくい水彩画用紙を提供することを課題とし、パルプを主体とする基紙の少なくとも一方の面にゼラチンを0.3~5.0g/m2、硫酸カリウムアルミニウム十二水和物を0.03~0.25g/m2、アルキルケテンダイマーを0.03~0.5g/m2を付着させて抄紙した水彩画用紙が提案されている。
【0009】
また特許文献4には、水彩絵具で画像を形成した際に、筆跡が残りにくく色ムラが生じにくい水彩用紙を提供することを課題とし、調成塗料総量に対して、ゼラチンを1.0~10.0重量%、アルキルケテンダイマーを0.1~1.0重量%を含む調成塗料を調整する工程と、少なくとも一方の面に前記調成塗料をサイズプレス方式により、乾燥固形分で0.3~10.0g/m2塗工する工程を有し、前記水彩画用紙表面のJIS P 8140で規定する蒸留水に対する接触時間が30秒のときのコッブ吸水度が10.0~30.0g/m2となるように抄紙した水彩画用紙が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平10-018195号公報
【文献】特開平10-280293号公報
【文献】特開2017-172052号広報
【文献】特開2017-179617号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1~4に記載された技術では、グラデーションやウェット・オン・ウェットへの良好な適性を有する水彩画用紙を得るには十分とは言えなかった。
【0012】
本発明は、上述の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、水彩絵具で画像を描いた際にグラデーションやウェット・オン・ウェットへの優れた適性を有する、上級者向けとして好適な水彩画用紙を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る水彩画用紙は、表層と、裏層と、表層と裏層との間にあって1層以上の層からなる中層とを有する3層以上の基紙と、前記基紙の少なくとも一方の面に設けられた絵具受理層とを有する水彩画用紙であって、前記基紙がパルプを主成分とし、前記パルプの60質量%以上がコットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプであり、前記絵具受理層がゼラチン及び中性サイズ剤を含有し、前記表層及び前記裏層はサイズ剤を含有せず、前記中層のうち前記表層及び/又は前記裏層と接する層には層全量に対して0.05~0.31質量%のサイズ剤を含有しており、密度が0.45~0.60g/cm3であることを特徴とする。
【0015】
ここで「前記中層のうち前記表層及び/又は前記裏層と接する層」とは、中層の中で表層に接している層と裏層に接している層とを意味する。また、「層全量に対して0.05~0.31質量%のサイズ剤を含有しており」とは、中層のうち前記表層及び/又は前記裏層と接する層がその層全体にして上記範囲を満たすことを意味する。
【0016】
そしてこのような構成によれば、水彩絵具で画像を描いた際に、適度な水彩絵具の吸収性を有し、水彩絵具の広がりが良くなるため、グラデーションやウェット・オン・ウェットへの適性に優れた、上級者向けとして好適な水彩画用紙が得られる。
【0017】
本発明の実施の形態においては、前記絵具受理層には、硫酸カリウムアルミニウム水和物が含有されないことが好ましい。このような構成によれば、絵具受理層に硫酸カリウムアルミニウム水和物を含有させないことで、アニオン性の水彩絵具とカチオン性の硫酸カリウムアルミニウム水和物との反応及び定着を抑制することができ、グラデーションやウェット・オン・ウェットの用途により優れた水彩画用紙が得られる。
【0018】
本発明の実施の形態においては、前記中層に含有されるサイズ剤は、アルキルケテンダイマーサイズ剤及び/又は中性ロジンサイズ剤であることが好ましい。このような構成によれば、保存性の良い中性紙の水彩画用紙が得られる。
【0019】
本発明の実施の形態においては、前記絵具受理層の塗布量は、基紙の片面あたり固形分換算で1.5~8.0g/m3であることが好ましい。このような構成によれば、水彩絵具の保持性や定着性と、グラデーションやウェット・オン・ウェットへの適性とのバランスに優れた水彩画用紙が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水や水彩絵具の吸収性及び水彩絵具塗布後の広がりがよく、グラデーションやウェット・オン・ウェットへの優れた適性を有する、上級者向けとして好適な水彩画用紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例及び比較例における基紙の組成と物性を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0023】
本発明に係る水彩画用紙の基紙は、パルプを主成分とする。ここで、パルプとしては、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、NBSP(針葉樹晒サルファイトパルプ)をなどの化学パルプ、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)等の木材パルプ、ケナフ、バガス、竹、コットン、マーセル化したコットンなどの非木材パルプを使用することが可能である。本発明においては、これらの中でも、適度な水彩絵具の吸収性を有し水彩絵具を水で塗りのばすときに色ムラをより少なくすることができることから、コットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプを用いる。全パルプのうち、60質量%以上、好ましくは70質量%以上をコットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプとすることで水や水彩絵具の吸収性が良好となり水彩絵具が広がりやすく、グラデーションやウェット・オン・ウェット適性が向上する。
【0024】
本発明においては、基紙に填料を含有させてもよい。ここで用いる填料としては特に限定するものではなく、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、焼成クレー、二酸化チタン、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム等の一般的な填料から適宜選択して用いることができるが、水彩画用紙に白さを求める場合には、二酸化チタン及び/又は硫酸バリウムを使用することが好ましい。また、用いる填料の平均粒子径は、歩留まり等を考慮してマイクロトラックHRA(ハネウェル社製)を用いたレーザー法で測定した体積平均粒子径5μm以下のものを選択することが好ましい。
【0025】
本発明に係る水彩画用紙は絵が完成した後に長期保存されることが多いために、紙表面の経時的色変化が起こりにくい中性紙が好ましい。このため、抄紙時の原料スラリーのpHを7~9とすることが好ましく、また、JIS P-8133による冷水抽出pH値が7~9であることが好ましい。
【0026】
本発明において基紙には、本発明の目的を損なわない範囲で、カチオン性澱粉、内添中性サイズ剤、硫酸バンド、嵩高剤、紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、蛍光消色剤、ピッチコントロール剤などの各種助剤を適宜使用することができる。
【0027】
本発明の水彩画用紙において、基紙は、表層と、裏層と、表層と裏層との間に1層以上の中層とを抄き合わせた3層以上の構成とする。また、表層及び裏層にはサイズ剤を含有させず、中層のうち表層及び/又は裏層と接する層にのみ特定量のサイズ剤を含有させる。このように水彩画用紙の表出する層と内部層との吸水性のバランスを取ることで、グラデーションやウェット・オン・ウェットへの適性を付与することができる。ここで「中層のうち表層及び/又は裏層と接する層」とは、中層の中で表層に接している層と裏層に接している層とを意味し、「表層/中層/裏層」のように中層が一層のみの構成であれば表裏層に接している一層のみの中層を、「表層/中層1/中層2/中層3/裏層」のように中層が三層からなる構成であれば表層に接する中層1と裏層に接する中層3を意味する。後者の構成においては中層2のサイズ量については特に限定せず、無サイズでも高濃度サイズであっても構わない。
【0028】
前記表層及び前記裏層にサイズ剤を添加しないことで、基紙に塗布した絵具受理層用塗料が基紙の内部により深く浸透し、結果的に適度な水彩絵具の吸収性や保持性が付与されることとなる。中層へのサイズ剤の含有量は、中層に占めるパルプ全量に対して0.05~0.31質量%の範囲とする。好ましくは0.10~0.20質量%である。中層に含有させるサイズ剤が0.05質量%未満であると、表層と裏層にサイズ剤が含まれていないこともあり、水彩絵具が基紙中に素早く吸収されすぎてしまい、グラデーションやウェット・オン・ウェットへの適性に乏しくなる。一方、含有するサイズ剤が0.31質量%を越えると、得られた水彩画用紙が十分な吸水性を持たないことで水彩絵具の乾燥性が悪く、紙表面に留まり、絵具が広がりにくくなることでウェット・オン・ウェットへの適性が悪化するおそれがある。
【0029】
ここで使用するサイズ剤の種類としては限定するものではないが、画像の保存性の観点から水彩画用紙を中性とすることが好ましいため、サイズ剤も中性領域での抄紙に適用できる中性サイズ剤が好ましい。中性サイズ剤としては、例えばアルキルケテンダイマーサイズ剤や中性ロジンサイズ剤が使用できる。
【0030】
本発明に係る水彩画用紙は、密度を0.45~0.60g/cm3とする。密度をこのような範囲とすることで水や水彩絵具の吸収性が良好となり水彩絵具が広がりやすくなるため、グラデーションやウェット・オン・ウェット適性に優れた水彩画用紙を得ることができる。密度が0.45g/cm3未満であると水彩絵具が素早く吸収されすぎてしまい、グラデーションやウェット・オン・ウェットなどの様々な技法に適応できないおそれがある。一方、前記水彩画用紙の密度が0.60g/cm3を越えると水彩絵具の乾燥性が悪く、紙表面に留まることでグラデーション内部に色ムラができ、絵具が広がりにくくなることでウェット・オン・ウェット適性が悪化する。水彩画用紙の密度のコントロール方法は、特に限定するものではないが、原料パルプとして使用するコットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプを用いることで比較的容易に密度を低くすることができる。また、密度を適切な範囲にコントロールしやすいことから、コットンパルプ及び/又はマーセル化したコットンパルプのJIS P 8121「パルプのろ水度試験方法」に規定されるカナダ標準濾水度(CSF)は500~650mlの範囲とすることが好ましい。さらに、LBKPやサルファイドパルプ等の化学パルプのカナダ標準濾水度(CSF)は、400~600mlとすることが好ましい。
【0031】
本発明において基紙の抄紙方法は特に限定するものではなく、円網抄紙機、短網抄紙機、長網抄紙機、これらの抄紙機のコンビネーション抄紙機など従来から周知の抄紙機を使用して、単層または抄合わせにして抄造できる。抄合わせとする場合には、抄合わせ各層の層間剥離を防止するために層間用澱粉等の紙力剤をスプレー塗布しても良い。
【0032】
(絵具受理層)
本発明に係る水彩画用紙は、基紙の少なくとも一方の面に絵具受理層を設ける。絵具受理層を設けることで、絵具の適切な吸収性と、保持性等を備えた水彩画用紙とすることができる。絵具受理層には、少なくともゼラチンと中性サイズ剤とを含有させる。ここでゼラチンはバインダーとして配合するものであり、絵具受理層用の塗料中に3~10質量%を含有させることが好ましい。ゼラチンの基紙への塗布量としては、基紙の片面あたり固形分換算で、0.045~0.8g/m2塗布されることが好ましい。絵具受理層用の塗料中にゼラチンを含有させることで水彩絵具が適度な速さで絵具受理層に吸収され、綺麗なグラデーションができやすくなる。絵具受理層用の塗料中のゼラチンの含有割合が3質量%未満であると、水彩絵具の保持性が劣り、水彩絵具で重ね塗りを行ったときに先に塗布した水彩絵具が脱落してグラデーションができなくなるか、絵具受理層表面に十分なゼラチン膜が形成されずに湿潤表面強度が不足するおそれがある。一方、絵具受理層用の塗料中のゼラチンの含有割合が10質量%を超えると絵具受理層用塗料の粘度が高くなり、ポンプアップ不良、サイズプレスでの液ハネ、エアーナイフ方式でナイフが切れないなどの問題が生じ、安定して塗料を基紙の表面に塗布することが困難となるおそれがある。また、塗料の塗布工程や、塗布後の乾燥工程、配管などの汚れも生じやすくなるおそれがある。
【0033】
ゼラチンは澱粉やポリビニルアルコールなどの他のバインダーより高い絵具保持性を有しており、絵具濃度が高く均一な発色性を得ることができる。更に高い耐水性を付与することができるために筆で水彩絵具を重ね塗りする際に用紙表面が荒れるのを防止することができる。
【0034】
これまで、例えば特許文献3に記載されているように、硫酸カリウムアルミニウム水和物でゼラチンを架橋させることによって、湿潤表面強度を向上させ、様々な水彩技法に耐えうる水彩画用紙が得られることがわかっているが、本発明の水彩画用紙においては、グラデーションやウェット・オン・ウェットを良くするために、前記絵具受理層用塗料に硫酸カリウムアルミニウム水和物を含有させないことが好ましい。絵具受理層に硫酸カリウムアルミニウム水和物を含有させないことで、カチオン性を有する硫酸カリウムアルミニウムとアニオン性の水彩絵具との反応及び定着を抑えられ、グラデーションやウェット・オン・ウェットに優れた水彩画用紙が得られる。
【0035】
本発明において絵具受理層には、中性サイズ剤を含有させる。絵具受理層に中性サイズ剤を含有させることで、グラデーションやウェット・オン・ウェットに優れた水彩画用紙が得られる。ここで中性サイズ剤とは、中性領域(pH6~8)でサイズ効果を発揮するサイズ剤を言う。中性サイズ剤以外のサイズ剤(例えば酸性サイズ剤)を含有させた場合は、水彩絵具の滲みは抑制できても、グラデーションやウェット・オン・ウェット適性の向上に乏しい。
【0036】
ここで中性サイズ剤は、絵具受理層用の塗料中に0.1~0.3質量%の範囲で含有させることが好ましい。基紙への塗布量としては、基紙の片面あたり固形分換算で、0.0015~0.0024g/m2塗布されることが好ましい。中性サイズ剤の含有量が0.1質量%未満であると、水彩絵具の紙中への吸収性が高くなりすぎ、水彩絵具を塗布した際に水彩絵具が広がる前に紙中で定着してしまうため、グラデーションやウェット・オン・ウェットへの適性が悪くなる。一方、中性サイズ剤の含有量が0.3質量%を超えると水彩絵具の紙中への吸収性が低くなりすぎ、乾燥が遅く、グラデーション内で色ムラが発生したり水彩絵具が広がらずウェット・オン・ウェットへの適性が悪くなったりする。
【0037】
ここで使用するサイズ剤の種類としては限定するものではないが、画像の保存性の観点から水彩画用紙を中性とすることが好ましいため、サイズ剤も中性領域での抄紙に適用できる中性サイズ剤が好ましい。中性サイズ剤としては、例えばアルキルケテンダイマーサイズ剤や中性ロジンサイズ剤が使用できる。特に絵具のハジキ(線のカスレ具合)が良好となるためアルキルケテンダイマーサイズ剤が好ましい。
【0038】
また本発明の絵具受理層用塗料には、本発明の効果を妨げない範囲で、消泡剤、防腐剤、粘度調整剤等の公知の各種添加剤を含有させてもよい。
【0039】
絵具受理層の塗布量は、基紙の片面あたり、固形分換算で1.5~8.0g/m2とすることが好ましい。1.5g/m2を下回ると絵具受理層に対して水彩絵具の保持性及び定着性が劣り、グラデーションなどの絵具適性が悪化するおそれがある。一方、8.0g/m2を超えると絵具受理層に対して水彩絵具の定着が早くなりすぎてグラデーションが悪化するおそれがある。
【0040】
本発明において絵具受理層用塗料の基紙への塗布方法は特に限定するものではなく、サイズプレス方式、デッピング方式、コーター塗工方式、スプレー方式など従来から周知の塗布方法を適宜選択して使用することができる。
【0041】
本発明の水彩画用紙は、エンボス加工により、表面に凹凸をつけて風合いを出すことも可能である。また、水彩画用紙の坪量は特に限定するものではないが、100~400g/m2であり、好ましくは120~360g/m2である。
【実施例1】
【0042】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限りそれぞれ固形分換算での質量部又は質量%を示す。
【0043】
コットンパルプ100部(650mlC.S.F)、填料として重質炭酸カルシウム(商品名:ソフトン1500、白石カルシウム社製)12.0部を添加したパルプスラリーを用い、表層及び裏層にはサイズ剤を添加せず、中層に中性サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(商品名:SE2360、星光PMC社製)を0.1質量%添加し、米坪300g/m2となるように、抄紙pH7.5で基紙を抄紙した。次に、ゼラチンの濃度が3質量%、中性サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(商品名:SE2360、星光PMC社製)の濃度が0.1質量%となるようゼラチン水溶液と中性サイズ剤とを混合して絵具受理層用塗料を調製し、この絵具受理層用塗料を基紙の両面に、片面当たりの塗布量が乾燥固形分で2.2g/m2となるように塗布し密度を0.52g/cm3に調整して水彩画用紙を得た。
【実施例2】
【0044】
実施例1において、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分2.7g/m2に変更し密度を0.45g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例3】
【0045】
実施例1において、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分2.4g/m2に変更し密度を0.49g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例4】
【0046】
実施例1において、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分2.0g/m2に変更し密度を0.55g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例5】
【0047】
実施例1において、中層に添加する中性サイズ剤をアルキルケテンダイマーから中性ロジン系サイズ剤(商品名:サイズパインNT-78、荒川工業化学社製)0.1質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分2.4g/m2に変更し密度を0.52g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例6】
【0048】
実施例1において、中層に添加するアルキルケテンダイマーを0.05質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分3.2g/m2に変更し密度を0.49g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例7】
【0049】
実施例1において、中層に添加するアルキルケテンダイマーを0.2質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分1.8g/m2に変更し密度を0.51g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例8】
【0050】
実施例1において、中層に添加するアルキルケテンダイマーを0.31質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分1.5g/m2に変更し密度を0.50g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例9】
【0051】
実施例1において、コットンパルプ80部(650mlC.S.F)、化学パルプ(NBSP)20部(650mlC.S.F)に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分2.0g/m2に変更し密度を0.55g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【実施例10】
【0052】
実施例1において、コットンパルプ60部(650mlC.S.F)、化学パルプ(NBSP)40部(650mlC.S.F)に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分1.7g/m2に変更し密度を0.60g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0053】
[比較例1]
実施例1において、コットンパルプ40部(650mlC.S.F)、化学パルプ(NBSP)60部(650mlC.S.F)に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分1.4g/m2に変更し密度を0.63g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0054】
[比較例2]
実施例1において、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分2.9g/m2に変更し密度を0.40g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0055】
[比較例3]
実施例1において、表層及び裏層に添加するサイズ剤としてアルキルケテンダイマー(商品名:SE2360、星光PMC社製)を0.05質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分1.1g/m2に変更し密度を0.50g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0056】
[比較例4]
実施例1において、中層に添加する中性サイズ剤を添加せず、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分10g/m2に変更し密度を0.50g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0057】
[比較例5]
実施例1において、中層に添加するアルキルケテンダイマーを0.50質量%に変更し、絵具受理層用塗料の塗布量を基紙の片面当たり乾燥固形分1.1g/m2に変更し密度を0.48g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして水彩画用紙を得た。
【0058】
各実施例及び比較例で得られた水彩画用紙の組成と評価結果を図1に示す。また図1中の各評価は以下の方法により行い、判定はグラデーション及びウェット・オン・ウェット共に評価が○以上であれば合格、どちらか1つまたは両方で評価が△以下であれば不合格とした。
【0059】
(グラデーション)
実施例及び比較例で得られた水彩画用紙に幅5.5cm×長さ10cmの枠線を引き、更に長さ3cmごとにガイド線を引いた試験用紙を作成する。プラスチックカップの中に水彩絵具(商品名:コバルトブルーヒュー、ホルベイン画材社製)を蒸留水と重量比で1:9に希釈した溶液を作成し、シリンジ(商品名:テルモシリンジ ツベルクリン用SS-01T、テルモ社製)で作成した溶液を約0.1ml取り、筆先につける。水彩絵具の塗布は3回に分けて行い、1回目は幅5.5cm×長さ3cmの枠内に水彩絵具を塗布する。その後、蒸留水を入れたプラスチックカップで筆を洗い、プラスチックカップの淵で筆を1回こすり、筆についた過剰な水を落とす。2回目は色の混ざり具合を確認するために1回目に塗布した水彩絵具の下端から重ね塗りし、長さ6cmの枠内に水彩絵具を塗布する。再び蒸留水を入れたプラスチックカップで筆を洗い、プラスチックカップの淵で筆を1回こすり、筆についた過剰な水を落とす。3回目は色の混ざり具合を確認するために2回目に塗布した水彩絵具の下端から重ね塗りし、長さ10cmの枠内に絵具を塗布する。画像が乾燥した後に色の混ざり具合を目視で観察した。評価は4段階で行い、○以上を実用上問題なしとした。
◎:乾燥後の画像は色が混ざり綺麗なグラデーションができる。
○:乾燥後の画像はほとんど色が混ざりグラデーションができる。
△:乾燥後の画像は色が混ざりやすいがグラデーション内に色ムラができる
(実用上問題あり)。
×:乾燥後の画像は色が混ざらずグラデーションができない(実用上問題あり)。
【0060】
(ウェット・オン・ウェット)
実施例及び比較例で得られた水彩画用紙に3cm角の正方形を書いた試験用紙を作成する。プラスチックカップの中に水彩絵具(商品名:コバルトブルーヒュー、ホルベイン画材社製)を蒸留水と重量比で1:9に希釈した溶液を作成し、シリンジ(商品名:テルモシリンジ ツベルクリン用SS-01T、テルモ社製)で作成した溶液を約2ml取り、注射針(商品名:テルモ注射針NN-2138、テルモ社製)を装着してから注射針内の空気抜きを行う。その後蒸留水が入ったプラスチックカップにナイロン筆を浸し、プラスチックカップの淵でナイロン筆を1回こすり、5~7秒間で3cm角の正方形に蒸留水を均一に塗布する。水彩紙表面の凹凸が見え始めた状態(ウェット~半乾きの状態)で水彩絵具を1滴落とす。画像が乾燥した後に正方形内に落とした水彩絵具の広がり具合を目視で観察した。評価は4段階で行い、○以上を実用上問題なしとした。
◎:乾燥後の画像は水彩絵具の広がりが特に良好。
○:乾燥後の画像は水彩絵具の広がりが良好。
△:乾燥後の画像は水彩絵具がやや広がるが、中央に水彩絵具が留まりやすい
(実用上問題あり)。
×:乾燥後の画像は中央に水彩絵具が留まり色水だけが広がる(実用上問題あり)。
【0061】
図1の結果から明らかなように、実施例1~10により得られた水彩画用紙は、水彩絵具塗布後の広がりがよく、グラデーションやウェット・オン・ウェットに優れた水彩画用紙を得ることができる。
【0062】
これに対して比較例1で得られた水彩画用紙は、グラデーションは優れているが、化学パルプを多く配合し密度が高くなったことで、水彩絵具の吸収性及び水彩絵具の広がりが悪くウェット・オン・ウェットがやや悪くなった。
【0063】
また、比較例2で得られた水彩画用紙は、密度が0.45g/cm3以下であったため紙表面に対して水彩絵具の吸収が早くなりグラデーションができず、水彩絵具が十分に広がる前に吸収されてしまいウェット・オン・ウェットがやや悪くなった。
【0064】
また、比較例3で得られた水彩画用紙は、表層及び裏層にアルキルケテンダイマーを添加したことで水彩絵具の吸収性及び保持性が悪くなりグラデーションがやや悪く、ウェット・オン・ウェットが特に悪くなった。
【0065】
また、比較例4で得られた水彩画用紙は、中層に添加する中性サイズ剤を無添加としたことで紙表面に対して水彩絵具が素早く吸収され、グラデーションとウェット・オン・ウェットが特に悪くなった。
【0066】
また、比較例5で得られた水彩画用紙は、中層に添加するアルキルケテンダイマーを過剰に添加したことで水彩絵具の吸収性及び保持性が悪く、グラデーションとウェット・オン・ウェットがやや悪くなった。
【0067】
以上のように、本発明により製造した水彩画用紙は、水彩絵具塗布後の広がりがよく、優れたグラデーションやウェット・オン・ウェットを有することができる。
図1