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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】はんだ組成物及び電子回路実装基板
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20220128BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20220128BHJP
   C22C 13/02 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
B23K35/363 E
B23K35/363 C
B23K35/26 310A
C22C13/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019122509
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021007963
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2020-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100139996
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 悠希
(72)【発明者】
【氏名】原 拓生
(72)【発明者】
【氏名】杉本 淳
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057651(WO,A1)
【文献】特開平11-077376(JP,A)
【文献】特開2010-075934(JP,A)
【文献】特開2011-020169(JP,A)
【文献】特開2013-052439(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102513736(CN,A)
【文献】国際公開第2011/023394(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/26
C22C 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン系樹脂(A)と、活性剤(B)と、溶剤(C)とを含有するフラックス組成物と、
はんだ合金からなる合金粉末(D)とを含有し、
前記溶剤(C)は常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)を含有し、
前記ロジン系樹脂(A)の配合量は、前記フラックス組成物全量に対して15質量%以上50質量%以下であり、
前記活性剤(B)の配合量は、前記フラックス組成物全量に対して5質量%以上30質量%以下であり、
前記溶剤(C)全体の配合量は、前記フラックス組成物全量に対して20質量%以上70質量%以下であり、
前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)の配合量は、前記フラックス組成物全量に対して5質量%以上40質量%以下であり、
前記はんだ合金からなる合金粉末(D)の配合量は、はんだ組成物全量に対して63質量%以上93質量%以下であるはんだ組成物。
【請求項2】
前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)はその構造に水酸基が2価以上の多価アルコール(C-1a)と炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)のエステル結合を含む請求項1に記載のはんだ組成物。
【請求項3】
前記水酸基が2価以上の多価アルコール(C-1a)はトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びポリグリセロールの少なくともいずれかである請求項2に記載のはんだ組成物。
【請求項4】
前記炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)はその構造に分岐状のアルキル基または分岐状のアルケニル基を有する請求項2または請求項3に記載のはんだ組成物。
【請求項5】
前記炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)はイソステアリン酸である請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のはんだ組成物。
【請求項6】
前記はんだ合金からなる合金粉末(D)はSbを含有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のはんだ組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のはんだ組成物を用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路実装基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ組成物及び電子回路実装基板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板やシリコンウエハといった基板上に形成される電子回路に電子部品を接合する接合材料としては、主としてはんだ合金が用いられている。
このはんだ合金を用いた接合方法として、例えばはんだ合金粉末とフラックス組成物とを混合したはんだ組成物を基板に印刷して行う方法が存在する。
【0003】
そして電子機器の種類によっては、これに用いる電子回路基板上には様々な大きさ・種類(例えばリード線付き電極の電子部品、下面電極の電子部品等)の電子部品が実装され得る。
しかしこのような場合、従来のはんだ組成物では、例えば微小な電子部品においてはチップ立ちが発生したり、下面電極の電子部品(の下に形成されたはんだ接合部)では溶融したはんだ中に取り込まれたままの溶剤等を起因としたボイドが発生したりと、電子部品の大きさや種類の違いによって様々な問題が発生し得る。
【0004】
例えば特許文献1のように、有機溶剤の配合量を減少させてはんだ組成物の粘度安定性、印刷性を向上させるはんだ用フラックスは、有機溶剤の配合量が少ないために、はんだ溶融時にはんだ中に有機溶剤が取り込まれ難くなるメリットもある。
【0005】
しかしフラックス組成物に含まれる有機溶剤や、樹脂成分、特にロジン系樹脂の配合量を減少させると、特に小さい電子部品におけるチップ立ちが増加するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-209690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するものであり、はんだ接合部におけるボイド発生の抑制と電子部品のチップ立ちの抑制を両立し得るはんだ組成物及びこれを用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路実装基板を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のはんだ組成物は、ロジン系樹脂(A)と、活性剤(B)と、溶剤(C)とを含有するフラックス組成物と、はんだ合金からなる合金粉末(D)とを含有し、前記溶剤(C)は常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)を含有する。
【0009】
前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)は、その構造に水酸基が2価以上の多価アルコール(C-1a)と炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)のエステル結合を含むことが好ましい。
【0010】
また前記水酸基が2価以上の多価アルコール(C-1a)は、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びポリグリセロールの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0011】
また前記炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)は、その構造に分岐状のアルキル基または分岐状のアルケニル基を有することが好ましい。
【0012】
また前記炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)は、イソステアリン酸であることが好ましい。
【0013】
前記はんだ合金からなる合金粉末(D)は、Sbを含有することが好ましい。
【0014】
本発明の電子回路実装基板は、上記のはんだ組成物を用いて形成されるはんだ接合部を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のはんだ組成物は、これを用いて形成されるはんだ接合部におけるボイド発生の抑制と電子部品のチップ立ちの抑制を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のはんだ組成物及び電子回路実装基板の一実施形態について詳細に説明する。なお、本発明が当該実施形態に限定されないのはもとよりである。
【0017】
1.フラックス組成物
本実施形態に係るはんだ組成物に含まれるフラックス組成物は、ロジン系樹脂(A)と、活性剤(B)と、溶剤(C)とを含有する。
【0018】
ロジン系樹脂(A)
前記ロジン系樹脂(A)としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジン;水添ロジン、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン、ホルミル化ロジン等のロジン誘導体等が挙げられる。
なおロジン系樹脂(A)としては、ロジンに水素を添加した水添ロジン、ロジンまたはロジン誘導体をアクリル酸変性したアクリル変性ロジン樹脂、及び当該アクリル変性ロジン樹脂に水素を添加した水添アクリル変性ロジン樹脂等が特に好ましく用いられる。
また、これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0019】
前記ロジン系樹脂(A)の配合量は、フラックス組成物全量に対して15質量%以上50質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は18質量%以上35質量%以下であり、22質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
【0020】
活性剤(B)
前記活性剤(B)としては、例えば、有機アミン、有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩、臭素、塩素、沃素等のハロゲン化合物、イミダゾールやピラゾール等の含窒素環式有機化合物等が挙げられる。具体的には、例えばジエチルアミン塩、酸塩、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、臭素化トリアリルイソシアヌレート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、ポリ8,13-ジメチル-8,12-エイコサジエン二酸無水物、ダイマー酸等が挙げられる。
なお前記活性剤(B)として、特に、マロン酸、コハク酸、グルタル酸及び炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化したダイマー酸等が好ましく用いられる。
また、これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0021】
前記活性剤(B)の配合量は、フラックス組成物全量に対して5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は10質量%以上25質量%以下であり、12質量%以上22質量%以下であることが特に好ましい。
【0022】
溶剤(C)
前記溶剤(C)としては、アルコール系、エタノール系、アセトン系、トルエン系、キシレン系、酢酸エチル系、エチルセロソルブ系、ブチルセロソルブ系、グリコールエーテル系、エステル系等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0023】
本実施形態に係るフラックス組成物は、前記溶剤(C)として、常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)を含有することが好ましい。
【0024】
本明細書において、常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)の「常温」とは、15℃から30℃程度をいい、その粘度は測定温度25℃の条件においてブルックフィールド回転粘度計(12rpm)を用いて計測したものをいう。
【0025】
本実施形態に係るフラックス組成物は、前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)を含むことにより、はんだ接合部におけるボイド発生の抑制と電子部品のチップ立ちの抑制を両立し得るはんだ組成物を提供できる。そのため、このようなはんだ組成物は、特に大きさ・種類の異なる電子部品を混在して実装する電子回路実装基板の作製に好適に用いることができ、また信頼性の高い電子回路実装基板を提供することができる。
【0026】
即ち、前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)は、加熱時においても揮発し難い性質を有する。そのため、これを含むフラックス組成物は、特に高温での加熱時においても溶融したはんだ表面への被覆量が大幅に低減せず、且つ一定の粘度(流動性)を保ち得ることから電子部品のチップ立ちを抑制することができる。
またこれにより、仮にフラックス組成物が溶融したはんだの中に取り込まれた場合であっても、前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)はフラックス組成物の他の成分との相溶性にも優れるため、一体となってその中から排出され易く、これにより、はんだ接合部におけるボイドの発生を抑制することができる。
【0027】
また、はんだ組成物に吸湿性の高いフラックス組成物を使用する場合、大気中の水分を吸収し易いため、皮張りも発生し易い。そして大気に曝されたフラックス組成物が吸湿した水分と反応すると、はんだ組成物自体が増粘する結果、印刷時におけるカスレ等の原因になり得る。
しかし前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)は非極性の脂肪族基を外に配向しているため吸湿性が低く、これを含むフラックス組成物もその吸湿性を低くし得る。これにより、皮張りの発生も防ぐことができ、はんだ組成物の増粘も抑制することができる。
【0028】
前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)の粘度は、200mPa・s以上400mPa・s以下であることが好ましく、より好ましいその粘度は200mPa・s以上300mPa・s以下である。
前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)の粘度を上記範囲とすることで、高温での加熱時におけるフラックス組成物の流動性をより良好にすることができるため、はんだ接合部におけるボイドの発生をより抑制することができる。
【0029】
前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)は、その構造に水酸基が2価以上の多価アルコール(C-1a)と炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)のエステル結合を含むことが好ましい。
また前記水酸基が2価以上の多価アルコール(C-1a)は、アルコール性水酸基を3基以上有していることがより好ましく、特に、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びポリグリセロールの少なくともいずれかであることが好ましい。
なお、前記2価以上の多価アルコール(C-1a)の水酸基は、エステル結合となり、残存していないことが、吸湿性を低減する上で望ましい。
【0030】
前記炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)は、その構造に分岐状のアルキル基または分岐状のアルケニル基を有することが好ましい。また前記炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)は、イソステアリン酸であることがより好ましい。
特に、前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)として、1分子中、炭素数が12以上22以下の脂肪酸(C-1b)を3分子以上エステル結合したものが、ボイドや皮張り発生を低減する上で好ましく用いられる。
【0031】
前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)としては、例えばトリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトライソステアリン酸ペンタエリトリット、トリイソステアリン酸ジグリセリル等が好ましく用いられる。
なお、前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)は、一種を単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0032】
前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)の配合量は、フラックス組成物全量に対して5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は8質量%以上35質量%以下であり、10質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
なお、前記溶剤(C)全体の配合量は、フラックス組成物全量に対して20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。より好ましいその配合量は25質量%以上65質量%以下であり、30質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
前記常温での粘度が150mPa・s以上500mPa・s以下の炭素数が12以上の脂肪酸エステル(C-1)以外の溶剤としては、常温での粘度が30mPa・s以下の溶剤が、印刷性維持の観点から好ましく併用し得る。このような溶剤としては、特にフェニルグリコール等が挙げられる。
【0034】
チクソ剤
本実施形態に係るフラックス組成物には、チクソ剤を配合することができる。当該チクソ剤としては、例えば硬化ひまし油、ビスアマイド系チクソ剤(飽和脂肪酸ビスアマイド、不飽和脂肪酸ビスアマイド、芳香族ビスアマイド等)、ジメチルジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。
これらの中でも特に、硬化ひまし油が前記チクソ剤として好ましく用いられる。硬化ひまし油は、他のチクソ剤と比較して軟化点が低いため、はんだ組成物の加熱時におけるフラックス組成物の流動性を向上し得る。そのため、チップ立ちの発生抑制効果を向上し得る。
なお、これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。
【0035】
前記チクソ剤の配合量はフラックス組成物全量に対して3質量%以上15質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。
【0036】
本実施形態のフラックス組成物には、はんだ合金からなる合金粉末の酸化を抑える目的で酸化防止剤を配合することができる。
前記酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。これらの中でも特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。
前記酸化防止剤はこれらに限定されるものではなく、またその配合量は特に限定されるものではない。その一般的な配合量は、フラックス組成物全量に対して0.5質量%から5質量%程度である。
【0037】
本実施形態のフラックス組成物には、更につや消し剤、消泡剤等の添加剤を加えてもよい。前記添加剤の配合量は、フラックス組成物全量に対して10質量%以下であることが好ましく、更に好ましい配合量は5質量%以下である。
また本実施形態のフラックス組成物には、その効果を阻害しない範囲内において、ロジン系樹脂以外の樹脂を配合してもよい。
【0038】
2.はんだ組成物
本実施形態のはんだ組成物は、上記フラックス組成物とはんだ合金からなる合金粉末(D)とを公知の方法にて混合して作製できる。
【0039】
はんだ合金からなる合金粉末(D)
前記はんだ合金からなる合金粉末(D)に使用されるはんだ合金としては、例えばSn、Ag、Cu、Bi、Zn、In、Ga、Sb、Au、Pd、Ge、Ni、Cr、Al、P、In、Pb等を複数組合せたものが挙げられる。
その中でも特に、液相線温度が230℃以上245℃以下のものが前記はんだ合金として好ましく用いられる。このようなはんだ合金からなる合金粉末(D)を使用するはんだ組成物は、例えば電子回路基板の両面に、片面ずつ電子部品を実装する場合において、最初の電子部品の実装に好適に使用することができる。
即ち、先に電子回路基板の片面に、液相線温度が230℃以上245℃以下のはんだ合金からなる合金粉末(D)を使用するはんだ組成物を用いて電子部品を実装(はんだ接合部を形成)し、その後、当該はんだ合金よりも液相線温度の低いはんだ合金からなる合金粉末を使用するはんだ組成物を用いて、前記電子回路基板の別の片面に電子部品を実装することができる。
この際、液相線温度が230℃以上245℃以下のはんだ合金からなる合金粉末(D)を使用するはんだ組成物を用いて形成されるはんだ接合部は、後に行う、電子回路基板のもう一方の面の電子部品の実装において溶融し難いため、このような実装方法に最適に使用することができる。
【0040】
本実施形態のはんだ組成物は、上記フラックス組成物を使用することにより、電子部品のチップ立ちの抑制及びはんだ接合部におけるボイドの発生の抑制を両立することができる。
また本実施形態のはんだ組成物は、例えば前記はんだ合金に酸化し易いSbを含んでいる場合であっても、上述の通り、はんだ組成物の加熱時における溶融したはんだ表面へのフラックス組成物の被覆量の大幅な低減を抑制し、且つ一定の粘度(流動性)を保ち得ることから、はんだ接合部におけるボイドの発生を抑制することができる。
はんだ接合部の強度向上等の観点から、前記はんだ合金としては、Sbを5質量%含み、残部がSnからなるはんだ合金が特に好ましく用いられる。
【0041】
前記はんだ合金からなる合金粉末(D)の配合量は、はんだ組成物全量に対して63質量%から93質量%であることが好ましい。より好ましいその配合量は84質量%から92質量%であり、特に好ましいその配合量は86質量%から90質量%である。
【0042】
3.電子回路実装基板
本実施形態の電子回路実装基板は、上記はんだ組成物を用いて形成されるはんだ接合部を有する。当該はんだ接合部は、例えば以下の方法により形成される。
即ち、電子回路基板上の予め定められた所定の位置に前記はんだ組成物を印刷し、更に当該電子回路基板上の所定の位置に電子部品(大きさ・種類の異なる電子部品を混在してもよい)を搭載し、これをリフローすることにより形成される。
このように形成されたはんだ接合部においては、上記はんだ組成物を用いて形成されるため、そのボイドの発生を抑制することができる。また実装された電子部品においては、上記はんだ組成物を用いて実装されることから、そのチップ立ちを抑制することができる。
そしてこのようなはんだ接合部を有する電子回路実装基板は、高い信頼性を発揮でき、半導体及び電子機器等に好適に用いることができる。
【実施例
【0043】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
溶剤(C)の粘度の測定
表1に記載の各溶剤(C)について、測定温度25℃の条件においてブルックフィールド回転粘度計(12rpm)を用いて計測した結果を表1に併せて記載する。なお、表1に記載の粘度の単位はmPa・sである。
【0045】
フラックス組成物の作製
表1に示す組成及び配合にて各成分を混練し、実施例1から3及び比較例1から6に係る各フラックス組成物を作製した。なお、表1のうち、組成を表すものに係る数値の単位は、特に断り書きがない限り質量%である。
【0046】
はんだ組成物の作製
次いで、実施例1から3及び比較例1から6に係るフラックス組成物11.5質量%と95Sn-5Sbはんだ合金粉末(粉末粒径1μmから12μm)88.5質量%とを混合し、実施例1から3及び比較例1から6に係るはんだ組成物を得た。
【0047】
【表1】
※1 水添酸変性ロジン 荒川化学工業(株)製
※2 アクリル変性ロジン イーストマン・ケミカル社製
※3 ダイマー酸 クレイトンポリマー社製
※4 トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン 高級アルコール工業(株)製
※5 テトライソステアリン酸ペンタエリトリット 高級アルコール工業(株)製
※6 トリイソステアリン酸ジグリセリル 高級アルコール工業(株)製
※7 ジイソステアリン酸ジグリセリル 高級アルコール工業(株)製
※8 ヒドロキシステアリン酸2-エチルヘキシル 高級アルコール工業(株)製
※9 12-ステアロイルステアリン酸オクチルドデシル 高級アルコール工業(株)製
※10 リンゴ酸ジイソステアリル 高級アルコール工業(株)製
※11 イソステアリルアルコール 高級アルコール工業(株)製
※12 ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール 日油(株)製
【0048】
<吸湿性確認試験>
実施例及び比較例の各フラックス組成物5gについて、微量水分測定装置(製品名:AQUACOUNTER AQ-7、平沼産業(株)製)を用いて水分測定を行った。
次いで、上記各フラックス組成物を40℃90%に設定した高温高湿槽に投入し、24時間放置した。そしてその後、上記装置を用いて各フラックス組成物の水分測定を行い、高温高湿槽に入れる前後の各フラックス組成物の水分吸収増加率を算定し、以下の基準で評価した。
○:水分吸収増加率が3%未満
△:水分吸収増加率が3%以上5%未満
×:水分吸収増加率が5%以上
【0049】
<皮張り発生確認試験>
実施例及び比較例の各はんだ組成物30gを30℃に設定した高温槽に投入し、4日間放置した。その後、各はんだ組成物の表面の性状を目視で観察し、
以下の基準で評価した。
○:はんだ組成物の表面の性状に異常がない
△:はんだ組成物の表面に若干皮張りあり
×:はんだ組成物の表面に皮張りあり
【0050】
<ボイド発生確認試験>
以下の用具を用意した。
・プリント配線板(ランド直径:200μm)
・メタルマスク(厚み:50μm、開口直径:150μm)
・Cu板(厚み:0.5mm、研磨剤を用いて表面を研磨且つ洗浄済)
各プリント基板上に各はんだ組成物を上記メタルマスクを用いて印刷した。
次いで、各Cu板を上記各プリント基板上に載置してこれらをリフローし、はんだ部を有する各試験用基板を作製した。なお、リフロー条件は以下の通りである。
リフロー炉:製品名:TNP25-538EM、(株)タムラ製作所製
プリヒート:165℃から175℃で150秒間
ピーク温度:260℃
200℃以上の時間:105秒間
235℃以上の時間:60秒間
ピーク温度から200℃までの冷却速度:3℃から8℃/秒
酸素濃度:100±50ppm
そして各試験用基板について、はんだ部が形成された領域の中心部のうち、任意の400か所をX線検査装置(製品名:XD7600 Diamond、Nordson Dage社製)を用いて観察し、各はんだ部について、総ボイド面積率((ボイドの総面積)/(はんだ部の面積)×100))が10%以上であるはんだ部のボイド発生率を以下の基準で評価した。
なお、ボイド発生率は、以下の計算式で算出した。
ボイド発生率:総ボイド面積率10%以上のはんだ部の数/400×100
◎:ボイド発生率が0.5%未満
○:ボイド発生率が0.5%以上1%未満
△:ボイド発生率が1%以上4%未満
×:ボイド発生率が4%以上
【0051】
【表2】
【0052】
以上に示す通り、各実施例に係るはんだ組成物は、経時による吸湿が少ない。そのため、これを用いて形成されるはんだ部(はんだ接合部)におけるボイド発生を抑制し得る。また経時による粘度(性状)の変化も少ないことから、リフロー時においても流動性を良好に保つことができるため、ボイド発生の抑制効果に加え、チップ立ち抑制効果も発揮し得ることが期待できる。