(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】フォトバイオリアクター
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220105BHJP
C12M 1/38 20060101ALI20220105BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12M1/38
C12N1/12 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019222528
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2020-01-17
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510225292
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F-75015 Paris, FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】デュクロ セドリック
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102011082527(DE,A1)
【文献】国際公開第2010/068288(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成微生物(55)を培養する為のフォトバイオリアクター(5)であって、
集光壁(70)を有し且つ少なくとも光合成微生物を含む培地(50)を有する培養チャンバー(45)を画定するところのエンクロージャ(10)と、ここで、該集光壁は赤外線と可視光の照射に対して透過性である、
該培養チャンバーに向けられた照射をフィルタリングする為の光学フィルター(15)と、ここで、該光学フィルターは、可視光の照射に対して透過性であり、且つ少なくとも1つの熱変色性化合物を含有し、該光学フィルターは、該熱変色性化合物の転移温度よりも少なくとも10℃低い温度で赤外線に対して透過性であり、且つ該熱変色性化合物の転移温度よりも少なくとも10℃高い温度で赤外線に対してして20%以下の光透過率を有する、
を有する、上記フォトバイオリアクター(5)。
【請求項2】
前記転移温度が30℃以上
及び/又は55℃以下
である、請求項1に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項3】
前記熱変色性化合物が、VO
2、BiVO
4、NbO
2、及びそれらの混合物からなる群から選択される
、ドープされた
又はドープされていない熱変色性酸化物である、請求項1又は2に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項4】
前記光学フィルターが、前記熱変色性化合物の前記転移温度よりも少なくとも5℃低い温度で、80%以上
の赤外線に対する光透過率を、又は前記転移温度よりも少なくとも5℃高い温度で、20%未満
の赤外線に対する光透過率を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項5】
前記光学フィルターが、前記集光壁に配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項6】
前記光学フィルターが、前記集光壁の一方の側を少なくとも部分的に又は完全に覆うコーティング(85)によって形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項7】
前記コーティングが外面(95)及び内面(90)を有し、該内面が前記集光壁と接触しており、該外面が、前記内面の反対側にあり且つレリーフパターンの規則的な連続によって形成された網状の形の粗いテクスチャーを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項8】
前記フォトバイオリアクターが可視光照射に曝露されたときに、前記光学フィルターによって及び前記集光壁によって送られた照射放射の可視光部分が前記培養チャンバーに到着するように記光学フィルターが配置されている、請求項1~7のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項9】
前記集光壁が、前記培養チャンバーと前記光学フィルターとの間に配置されている、請求項1~8のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項10】
前記集光壁が、前記培養チャンバーに面する外側(75)と、前記外側の反対側にあり且つ前記光学フィルターに接する内側(80)とを有し、前記集光壁の前記外側及び/又は内側が粗いテクスチャー
を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項11】
前記集光壁の前記内側のテクスチャリング比が、1.30~2.00
である、請求項10に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項12】
前記培養チャンバーが前記培地を含み、前記光合成微生物が、光合成細菌、光合成シアノバクテリア、特に真核生物の微細藻類、から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項13】
前記集光壁の前記外側が、平均ピッチが前記光合成微生物の大きさ(Φ)未満であるところの粗いテクスチャーを有する、請求項12に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項14】
光合成微生物を培養する為の方法であって、請求項1~13のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクターが、可視光の成分及び赤外線の成分を含む照射放射に曝露され、前記フォトバイオリアクターの前記培養チャンバーが光合成微生物を含む培地を含む、前記方法。
【請求項15】
前記照射放射が日射である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成微生物を培養するために適したフォトバイオリアクターの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
光合成微生物は通常、フォトバイオリアクターによって培養される。例えば、フォトバイオリアクターは、該フォトバイオリアクターと構築物(building)との間の熱交換を促進する為に、該構築物内に統合される。フォトバイオリアクターは慣用的に、該光合成微生物を含む培地を含むタンクを備えており、セル(cell)は一般的に、光透過性で且つより好ましくは、完全に透明なカバーで覆われている。代替的には、該フォトバイオリアクターは、該培地が循環する中空の且つ透明な管からなる構造を、開ループ又は閉ループで有しうる。従って、該フォトバイオリアクターは、該培地と該光合成微生物とを周囲の大気から分ける培養チャンバーを画定する。該光合成微生物の成長は、特に該培地の光照射への曝露によって保証される。例えば、構築物に統合されると、該フォトバイオリアクターは日射に曝露される。そのような日射は、該培地を加熱させる赤外線のスペクトル成分を有する。加えて、日射は毎日及び季節で変化し、成長培地の温度変化を結果として生じる。しかしながら、該光合成微生物の成長が最適であるようにする為には、該培地の温度が、培養された光合成微生物の成長の為に最適な温度範囲内、一般的には25℃~40℃、でなければならない。しかしながら、該培地の加熱は、該光合成微生物の成長を制限し又は阻止さえする可能性があり、そして過剰である場合には、その死滅を引き起こす可能性がある。該光合成微生物の過剰な死亡率は、該フォトバイオリアクターの性能の低下をもたらす。
【0003】
加えて、日射のスペクトルのうち、可視光の成分は、該光合成微生物の最適な成長を促進する成分である。
【0004】
それ故に、高収量を確保するために、該光合成微生物の培養は、該光合成微生物の成長を促進する為に、該培地の温度が該光合成微生物に特異的な最適な成長温度範囲内に維持されることを保証しながら、光照射の可視光成分を含む光照射への曝露を最大にする必要がある。
【0005】
該培地の温度を調節する為に、例えば国際公開第2007/129327A1号から、フォトバイオリアクターに水を噴霧すること、又はそれを水中に完全に浸漬さえすること知られている。しかしながら、そのような調節は、外部の給水と該フォトバイオリアクターの周りのインフラストラクチャの構築を必要とし、それは、該光合成微生物の培養のコストを増加させる。加えて、噴霧又は浸漬は、該フォトバイオリアクタージャケットのファウリングをもたらし且つ寄生光学反射(parasitic optical reflections)を引き起こす可能性があり、それは、該光合成微生物による光照射の吸収を減らす。
【0006】
培地に温度制御ユニットを実装することがまた知られている。この目的の為に、国際公開第2007/129327A1号は、それを通じて培地が流れるところの外部交換器を記載する。仏国特許出願2823761A1号は、熱伝達流体が流れて培地と熱をその中で交換するところのジャケットを備えたフォトバイオリアクターを記載する。欧州特許出願0647707A1号において、該フォトバイオリアクターは、培地の温度を調節する為の加熱及び冷却ユニットが収容されているところの壁を有する。しかしながら、上記の3つの文書で記載されている技術的な解決策は、フォトバイオリアクターの運転コストを増加させる。
【0007】
欧州特許出願1928994B1号から、熱バリヤー層でコーティングされた管で構成されるフォトバイオリアクターが知られている。仏国特許出願2964666A1号は、培地の温度を閾値温度未満に受動的に維持する為に、相変化材料、例えばパラフィン、で作られた熱バルブを備えたフォトバイオリアクターを記載する。最後に、仏国特許出願2978772A1号は、その表面が反射防止薄層と機能薄層とのスタックによって覆われているところのグレージングにより壁が形成されているフォトバイオリアクターを記載する。該スタックは、光合成に有用である日射の成分のみを透過する光学フィルターを形成する。従って、仏国特許出願2978772A1号の該フォトバイオリアクターは、フィルターが日射の赤外線成分を反射する為に、特に夏において、培地の過度の加熱の危険を制限する。しかしながら、特に冬において、赤外線の上記成分をフィルタリングすることは有害である可能性があり、それは、該培地から有益な熱供給を奪い、該培地の温度を光合成微生物の成長の為の最小値で維持するためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、時間変化する光照射、特に日射、に曝露されたときに、低コストで光合成微生物の最適な成長を保証するフォトバイオリアクターの必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、この必要性を満たすことを目的とし、且つ、光合成微生物を培養する為のフォトバイオリアクターであって、
集光壁を有し且つ少なくとも光合成微生物を含む培地を有する培養チャンバーを画定するところのエンクロージャと、ここで、該集光壁は赤外線と可視光の照射に対して透過性である、
該培養チャンバーに向けられた照射をフィルタリングする為の光学フィルターと、ここで、該光学フィルターは、可視光の照射に対して透過性であり、且つ少なくとも1つの熱変色性化合物を含有し、該光学フィルターは、該熱変色性化合物の転移温度よりも少なくとも10℃低い温度で赤外線に対して透過性であり、且つ該熱変色性化合物の転移温度よりも少なくとも10℃高い温度で赤外線に対してして20%以下の光透過率を有する、
を有する、上記フォトバイオリアクターを提案する。
【0010】
本発明に従うフォトバイオリアクターの該光学フィルターは、光合成微生物の最適な光合成活性を確保する為に、照射放射の可視光のスペクトルの強度の十分な部分の培養チャンバーへの透過を促進する。加えて、該光学フィルターは、培地の温度を受動的且つ費用効果的に調節する。特に、該光学フィルターの温度が、例えば冬の条件下で及び/又は早朝と午後遅くに、該光合成微生物の成長の為に最適な温度範囲の下限未満であり且つ転移温度未満である場合、該光学フィルターによって該培養チャンバーに送られた照射放射の赤外線部分は、該培地の温度上昇を促進する。従って、該培地の温度は、該光合成微生物の最適な成長温度範囲内に入るまで徐々に上昇する。結果的に、該光合成微生物の光合成活性はより強くなる。該光学フィルターの温度が、該光合成微生物の成長の為に最適な温度範囲の上限よりも高く且つ該遷移温度よりも高い場合、該光学フィルターは、照射放射の赤外線成分の該培養チャンバーへの透過を制限する。従って、該培地の加熱は制限されており、ゼロであることがより望ましい。従って、該培地の温度の過度の上昇による光合成微生物の死滅が回避されることができる。その後、該培地の温度は、該光合成微生物の成長の為に最適な温度範囲内になるまで徐々に低下する。従って、該光合成微生物の光合成活性が強化される。
【0011】
「可視光」は、少なくとも1つ、好ましくは複数、の成分を含むスペクトルの光照射を意味し、該成分の個々の波長は350nm~780nm、好ましくは350nm~750nm、である。
【0012】
「赤外線」は、少なくとも1つ、好ましくは複数、の成分を含むスペクトルの光照射を意味し、該成分の個々の波長は、780nm超、好ましくは1100nm超、である。
【0013】
照射に対する物体の「光透過率」は、物体を通じて透過する光束の強度の、該物体が曝露される入射放射束の強度に対する比をパーセントとして表したものである。該光照射が多色である場合、入射束及び透過束の個々の強度は、光照射を構成する波長スペクトルにわたって、個々の波長に関連付けられた基本束を積分することによって計算される。本発明の意味において、該物体の光学的透明性は、0℃~70℃の温度範囲で考慮される。
【0014】
光照射に対して「透明な」物体は、光照射に対して、好ましくは80%超の、又は90%超の、光透過率を有する。
【0015】
照射放射は、赤外線及び可視光の領域の成分を含みうる。それは、特に日射であることができる。
【0016】
好ましくは、該熱変色性化合物の転移温度は、30℃以上、好ましくは35℃以上、及び/又は55℃以下、好ましくは50℃以下、又は45℃以下、である。例えば、それは、38℃~42℃である。これは、特に該光合成微生物の光合成活性が25℃~40℃の温度範囲で最適である場合に、該フォトバイオリアクターの性能を最適化する。好ましくは、該熱変色性化合物の転移温度は、成長されるべき光合成微生物の性質に従って選択される。
【0017】
「熱変色性」化合物は、該化合物の温度の変動に伴う光学特性の可逆的変動によって特徴付けられる。該「転移温度」は、該熱変色性化合物の相変化を含む状態の変化を特徴付ける。状態の該変化は、該熱変色性化合物の光学インデックス、すなわち屈折率n及び消衰係数k、の不連続な変化を結果として生じる。特に、該熱変色性化合物は、可視光消衰係数の少なくとも3倍高い赤外線消衰係数と、可視光屈折率の少なくとも2倍低い赤外線屈折率とを有しうる。加えて、該熱変色性化合物は好ましくは、赤外線及び可視光において実質的に同一の消衰係数及び/又は屈折率を有する。
【0018】
該転移温度は、該熱変色性化合物の光学指数を測定することによって決定されることができる。
【0019】
例えば、該熱変色性化合物を20℃~100℃の温度に加熱する為に、それぞれが加熱セルを備えられたところの2つのエリプソメーターを用いて測定が行われる。可視光波長範囲及び赤外線波長範囲の光学指数の測定は、光学指数と照射の波長との関係を特徴付ける為に、それぞれ第1のエリプソメーター及び第2のエリプソメーターを用いて実行される。
【0020】
該熱変色性化合物は、熱変色性液晶、熱変色性ロイコ染料、任意的にドープされていてもよい熱変色性酸化物、及びそれらの混合物からなる群から選択されることができる。該熱変色性化合物は、VO2、BiVO4、NbO2、及びそれらの混合物からなる群から選択される、任意的にドープされていてもよい熱変色性酸化物でありうる。タングステンをドープされた酸化バナジウム:すなわちVO2:Wが、好ましい熱変色性化合物である。特に、タングステンをドープされた酸化バナジウム:すなわちVO2:Wが、35℃~45℃、例えば40℃、の転移温度を有するように、タングステンのドーピング率が選択されることができる。好ましくは、酸化バナジウム質量に対するタングステン質量の比として定義される、VO2:Wのタングステンのドーピング率は、0.5%~1%である。ドープされていても又はされていなくてもよい酸化バナジウムは、Mと呼ばれる擬ルチル結晶形を有し且つ転移温度以下で半導体であり、及び、Rと呼ばれるルチル結晶形であり且つ転移温度超で金属である。酸化バナジウムの形態M及びRは、酸化バナジウムとしてまた知られている形態A、B、C、M1及びM2と異なる。
【0021】
酸化バナジウムは、ドープされているかどうかに関係なく、擬ルチル形とルチル形との間に電気比抵抗コントラストがあり、それは、該酸化物構造が多結晶である場合、103Ωcmのオーダーであることができ、且つ該酸化物構造が単結晶である場合、104Ωcmのオーダーであることができる。電気抵抗率の変動は、複雑な光学指数の変動を結果として生じ、該酸化物の光学特性は、遷移温度での相変化中の電荷キャリアの放出によって変更される。
【0022】
該光学フィルターに関する限り、それは完全に該熱変色性化合物で構成されうる。
【0023】
特に、該フォトバイオリアクターが照射放射に曝露されるときに、該光学フィルター及び該集光壁によって送られた該照射放射の可視光部分が好ましくは直接的に、該培養チャンバーに到達するように、該光学フィルターが配置されている。該培養チャンバーへの「直接」アクセスは、集光及び光学フィルターの組み合わせによって送られる照射放射の可視光部分が該培養チャンバーに到達する前に偏光されないことを意味する。
【0024】
好ましくは、該光学フィルターは、該集光壁及び該培養チャンバー上に重畳されている。
【0025】
好ましくは、該光学フィルターは、該集光壁と接触している。好ましくは、それは、該集光壁の片側に、好ましくは該培養チャンバーに面する該集光壁の反対側の集光壁の側に、配置されたコーティングの形態である。該コーティングは、それが置かれている該集光壁の面を部分的に覆いうる。例えば、それは、それが置かれている該集光壁の側の30%超、さらには50%超、又はさらには80%超、を覆うことができる。好ましくは、それは、それが置かれている該集光壁の側面全体を覆う。
【0026】
該コーティングは外面及び内面を有していてもよく、該内面は該集光壁と接触しており、該外面は該内面の反対側にある。該コーティングの該外面及び該内面は、平行であることができる。
【0027】
該コーティングの該外面及び/又は該内面は好ましくは、レリーフパターンの規則的な連続によって形成された網状の形の粗いテクスチャーを有する。
【0028】
該レリーフパターンは、ピラミッド型を含む様々な形状を有することができる。
【0029】
該コーティングの、該外面の粗いテクスチャー及び/又は該内面の粗いテクスチャーは、入射光照射、特に日射、の反射を制限し、それは、時刻に従って変化する影響を有する。従って、該コーティングの、該外面の粗いテクスチャー及び/又は該内面の粗いテクスチャーは、入射可視光の照射に対して、特に日射の可視光成分に対して、該光学フィルターの光透過率を改善する。
【0030】
該コーティングの該内面及び該外面それぞれが粗いテクスチャーを有する変形例において、該コーティングの該外面及び該内面でのレリーフパターンは同一でありうる。好ましくは、該コーティングの該内面及び該外面のそれぞれが分離する培地間の光学指数の変動を考慮することによって、それぞれの粗いテクスチャーにより提供される反射防止機能を最大化する為に、それらレリーフパターンは異なる。
【0031】
該コーティングの該外面の粗いテクスチャーは好ましくは、50nm~300nm、好ましくは50nm~100nm、のレリーフパターンの2つの連続するレリーフ間の平均距離に対応する平均ピッチ、及び/又は100nm~600nm、好ましくは100nm~200nm、のレリーフパターンの平均高さを有する。該パターンの平均ピッチ及び平均高さは、走査型電子顕微鏡を使用して取得された写真で測定されることができる。
【0032】
テクスチャリング比は、レリーフパターンの平均ピッチに対する平均高さの比に等しい。該外面の該テクスチャリング比は好ましくは、1.3~2.0、好ましくは1.5~1.9、である。
【0033】
該コーティングの外面の粗いテクスチャーは、コーティングが置かれている集光壁の側面をドライエッチングするステップ、その後、このようにエッチングされた側面にコーティングを堆積するステップを含む方法によって得られることができる。該コーティングの外面の粗いテクスチャーの異なる粗さは、以下で説明されるドライエッチングステップの動作パラメータを変えることによって得ることができる。従って、該コーティングの該外面の粗いテクスチャーは、該コーティングが配置されている該集光壁の側面のテクスチャーのレプリカを画定することができる。
【0034】
該コーティングは、化学蒸着及び物理蒸着から選択される蒸着プロセス、特にマグネトロンスパッタリング、によって得られることができる。
【0035】
該フォトバイオリアクターは2つの光学フィルターを含み得、それぞれがコーティングの形態で且つ該集光壁の2つの反対側上に配置されうる。
【0036】
該光学フィルターは、コーティングによって覆われた、可視光照射及び赤外線に対して透過性の支持体を有しうる。該支持体は例えば、該集光壁の材料と同一の材料でできている。この他の変形例に従うと、該光学フィルターは、例えば該エンクロージャから離れた位置にある。
【0037】
該光学フィルターは、該熱変色性化合物の転移温度よりも少なくとも5℃低い温度で、80%以上若しくは90%以上の赤外線に対する光透過率を、又は上記転移温度よりも少なくとも5℃高い温度で、20%未満若しくは10%未満の赤外線に対する光透過率を有しうる。
【0038】
好ましくは、該集光壁は、その質量の90%超が、ガラス、好ましくはホウケイ酸ガラス又はソーダ石灰ガラス、及び熱可塑性ポリマー、好ましくはポリカーボネート又はポリメチルメタクリレート、から選択される材料を含みうる。
【0039】
該集光壁は、該培養チャンバーに面する外側と、該外側の反対にあり且つ該光学フィルターに接触する内側とを有しうる。
【0040】
該集光壁の該外側及び/又は該内側は、粗いテクスチャー、好ましくはレリーフパターンの規則的な連続によって形成された網状の形の粗いテクスチャー、を有しうる。
【0041】
該集光壁の該外側の粗いテクスチャーは、入射光照射、特に日射、の反射を制限し、それは、時刻に従って変化する影響を有する。それは、集光壁の光透過率、及び、特に入射可視光の照射に対して、特に日射の可視光成分に対して、該集光壁及び該光学フィルターの組み合わせの光透過率、を増加させる。
【0042】
該集光壁の該外側の粗いテクスチャーは好ましくは、40nm~600nm、好ましくは80nm~300nmの2つの連続するレリーフ間の平均ピッチ、及び/又は70nm~800nm、好ましくは100nm~600nm、のレリーフパターンの平均高さを有する。
【0043】
該集光壁の該内側のテクスチャリング比は好ましくは、特に該光学フィルターの厚さの均一性を確保する為に、後者が、上記のように該集光壁の内側にコーティングの形で堆積される場合に、1.30~2.00、好ましくは1.50~1.90、である。
【0044】
該集光壁の内側の該粗いテクスチャーは、ドライエッチングプロセスによって得られることができる。特に、それは、真空プラズマエッチングプロセスによって、好ましくは50mTorr~200mTorrの動作圧力で、1.65W/cm2~3.56W/cm2(RF)の出力密度で、且つ10分~30分の処置時間の間、トリフルオロメタンCHF3と酸素分子O2の気体混合物(ここで、CHF3/O2のモル比が10.0~15.0である)によって操作される真空プラズマエッチングプロセスによって、得られることができる。
【0045】
粗いテクスチャーの存在は、該集光壁の光透過率を改善する。
【0046】
特に、該集光壁は、2.5%未満、好ましくは2.2%未満、好ましくは1.7%未満、又は1.3%未満、のパーセントで表される全反射(total reflection)を有しうる。
【0047】
加えて、該集光壁は、全反射に対する拡散反射(diffuse reflection)の比率として定義され且つパーセントで表される、20%超、好ましくは50%超、又は好ましくは80%超のヘイズ率を有しうる。
【0048】
該集光壁の外側と内側とは、異なる粗いテクスチャーを有しうる。
【0049】
加えて、該培地が該壁に接触している場合に、該集光壁の外側で該光合成微生物の蓄積によるバイオフィルムの形成を制限する為に、該集光壁の外側のテクスチャー化比が好ましくは、40nm~600nm、好ましくは80nm~300nm、である。加えて、該集光壁の外側の該粗いテクスチャーの平均ピッチが好ましくは、該光合成微生物の大きさよりも小さい。光合成微生物の「大きさ」は、その最大の寸法であり、且つ蛍光分析によって測定されることができる。該集光壁の外側での不透明なバイオフィルムの形成の防止は、該光合成微生物の培養中に、該培養チャンバーに送られる可視光入射の照射の強度が日ごとに徐々に低下することを防ぐ。
【0050】
該集光壁の該外側の該粗いテクスチャーは、上記の真空プラズマエッチングプロセスによって得られることができる。
【0051】
該集光壁は、プレートの形状、特に直方体形状、を有しうる。
【0052】
好ましくは、該フォトバイオリアクターが可視光照射に曝露されたときに、該光学フィルター及び該集光壁によって送られた可視光の部分が該培養チャンバーに到着するように該光学フィルターが配置されている。
【0053】
好ましくは、該集光壁は、該培養チャンバーと該光学フィルターとの間に配置されている。
【0054】
該エンクロージャに関する限り、それは、該集光壁を有するか、又は該集光壁で構成されうる。
【0055】
変形例において、該エンクロージャはタンクを有し得、該集光壁はタンク蓋を画定する。該タンクは、該集光壁と同じ材料で作られることができる。
【0056】
該エンクロージャは、該培地が該培養チャンバーを通じて流れることができるように構成された1以上の開口部を有しうる。特に、それは、該培地の為の入口開口部と出口開口部とを備えうる。
【0057】
該フォトバイオリアクターはまた、該培養チャンバーを通じて該培地を循環させるように構成されたポンプを備えうる。特に、該循環は、閉ループにすることができる。すなわち、出口開口部を通じて該培養チャンバーから排出された培地は、該開口部の1つを介して該培養チャンバー内に再注入される。
【0058】
該エンクロージャは、様々な形状であることができる。特に、それは、回転の平行六面体の一般的な形を有しうる。それは、中空管のような形状にされることができ、該中空管は、その両端が開きうる。該管ジェネレータは、らせん状曲線に従うことができる。該管は、例えば該管が平面内でジグザグパターンで曲がるように、2つの連続した直線部分を分離する、例えば90°又は180°で湾曲した直線部分及び湾曲部分を有しうる。
【0059】
加えて、該エンクロージャは、該培養チャンバーを画定する。該培養チャンバーは、該培地を含むことができる。該培地は、光合成微生物を含み、且つ好ましくは、該光合成微生物がその中に分散されている、栄養素を含有するところの水性溶媒を含む。
【0060】
該光合成微生物は、光合成細菌、光合成シアノバクテリア、微細藻類から選択されることができる。好ましい光合成微生物は、微細藻類であり、特にはフェオダクチラム トリコムタム(Phaeodactylum tricornutum)である。
【0061】
好ましくは、該熱変色性化合物の転移温度は、該光合成微生物の死が観察される温度よりも低い。
【0062】
本発明はまた、光合成微生物を培養する為の方法であって、本発明に従うフォトバイオリアクターが、可視光の成分及び赤外線の成分を含む照射放射に曝露され、該フォトバイオリアクターの該培養チャンバーが光合成微生物を含む培地を含む上記方法に関する。
【0063】
該照射放射は、日射であることができる。
【0064】
該培地、該光合成微生物、該可視光照射及び該赤外線は好ましくは、上記の通りである。
【0065】
本発明の他の観点が、下記の発明の詳細な説明及び図面を読むと、より明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】
図1は、本発明に従うフォトバイオリアクターの例を模式的に且つ断面図で示す。
【
図2】
図2は、
図1のフォトバイオリアクターの一部の拡大図である。
【
図3】
図3a~cは、本発明に従うフォトバイオリアクターの種々の例の集光壁の内側の粗いテクスチャーの、走査型電子顕微鏡によって撮られた写真である。
【
図4】
図4は、
図3a~cに示された集光壁の光透過率の変化を、入射放射の波長の関数として図示する。
【
図5】
図5は、
図3a~cに示された集光壁のヘイズ率の変化を、入射放射の波長の関数として図示する。
【
図6】
図6は、
図3a~cに示された集光壁の目(eye)のスペクトル応答によって重み付けされた全反射の変化を、入射放射の波長の関数として図示する。
【
図7】
図7は、本発明に従うフォトバイオリアクターの別の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0067】
明確の理由の為に、図の様々な要素が自由な尺度で表されており、種々の部分の実際の寸法は必ずしも尊重されているわけではない。特に、粗いテクスチャーのパターンの寸法は、該フォトバイオリアクターの他の構成要素の寸法と比較して誇張されうる。
【0068】
本明細書の下記において、語「...~...」(between...and...)、「...から...へ」(from...to...)及び「..から...へ変わる」(varying from...to...)は同等であり、且つ特に明記されない限り、境界が含れることを意味する。
【0069】
図1は、本発明に従うフォトバイオリアクター5の例を示す。該フォトバイオリアクターは、チャンバー10と、該チャンバーに接触して配置された光学フィルター15とを有する。
【0070】
該エンクロージャは、底部25と、該底部から延在方向Eに延在する少なくとも1つの側壁30とを有するタンク20を備えている。該延在方向は、他の方向が考慮されうるが、垂直であってもよい。該タンクは、上部タンク開口部35を画定する。
【0071】
該エンクロージャはまたプレートの形のカバー40を有し、該カバーは、タンク上に配置されており、且つ該エンクロージャを閉じるように上部タンク開口部を完全に覆う。従って、該タンク及びカバーは培養チャンバー45を画定し、該培養チャンバーは、光合成微生物55を含む培地50を含む。該培地は、光合成微生物の成長の為に必須の要素を含む水性溶媒60を含有する。該培養チャンバーは、例えばタンクと蓋との間に挟まれたシール(図示せず)によって、外部65から密封されることができる。
【0072】
図1の例において、集光壁70は、カバー40によって画定される。該集光壁は、日光を透過し、且つ例えば例えばガラスでできている。該タンクの底壁及び側壁は、可視光照射を通さない素材で作られることができる。変形例において、該タンクの底壁及び底部側壁が集光壁であることができる。
【0073】
該集光壁は、該培養チャンバーに面する外側75と、該外側の反対側にあり且つ該集光壁の厚さepだけ離れた内側80とを有する。光学フィルター15は、該集光壁の内側80と接触し且つそれを覆う。変形例において、該光学フィルターは、該壁の該外側を覆うことができる。
【0074】
該光学フィルターは、38℃~42℃の転移温度を有し、熱変色性材料、例えばタングステンをドープされた酸化バナジウム、で作られたコーティング85によって形成される。該コーティングは好ましくは、50nm~800nmの厚さerを有する。それは、該集光壁の内側と接触する内面90と、該内面の反対側に位置する外面95を有する。
【0075】
加えて、
図2に示されている通り、該光学フィルターの外面95及び該集光壁の内側80のそれぞれは、該集光壁及び該光学フィルターの可視光照射に対する光透過率を増加させる為の粗いテクスチャーを有する。該粗いテクスチャーは、三角形の断面パターンの規則的な繰り返しによって形成される。該テクスチャーは、2つのパターン間のピッチP及びパターン高さHを有する。
【0076】
加えて、該集光壁の外側75は粗いテクスチャーを有し、それはまた、パターンの規則的な繰り返し、例えば該光学フィルターの外面、によって形成される。しかしながら、該集光壁上に該光合成微生物を含む不透明なバイオフィルムの形成を制限するために、該集光壁の該外側の該粗いテクスチャーの平均ピッチは、該微生物の大きさφ未満である。
【0077】
該フォトバイオリアクターはまた、水性溶媒を取り替える為の及び/又は栄養素、例えばカリウム源、又は気体、例えば二酸化炭素、を該培地に供給する為の手段(図示せず)を備えうる。それは、光合成微生物の成長の産物、例えば気体、例えば光合成活性によって生成される酸素分子、を抜き出す為の手段を含みうる。
【0078】
図3a~
図3cは、本明細書の下記実施例1~3として言及されている、3つのフォトバイオリアクターの該集光壁の内側の粗いテクスチャーの走査顕微鏡写真である。これらの図において示されている集光壁は、アルミノホウケイ酸ガラスプレートである。
【0079】
図3a~
図3cに示されている粗いテクスチャーは、ドライエッチング装置を使用して、該集光壁の真空プラズマ処理によって得られた。ドライエッチングプロセスは、50mTorr~200mTorrの動作圧力で、1.65W/cm
2~3.56W/cm
2(RF)の出力密度で、且つ10分~30分の処置時間の間、トリフルオロメタンCHF
3と酸素分子O
2の気体混合物(CHF
3/O
2比が10~15)を使用して行われた。
【0080】
図3a~
図3cに見られることができるとおり、該粗いテクスチャーは、コーティングの幅と長さとに依存して、ピラミッド形を有するパターンの繰り返しによって形成される実質的に規則的な構造を有する。
【0081】
使用圧力、出力密度及び処理時間の変動は、テクスチャの平均ピッチ及び高さの変動を結果として生じる。
【0082】
図4は、実施例1~3の集光壁の、nmで表される波長λの関数としての、パーセントで表される光透過率の関数としての変化110、111及び112それぞれを示す。実施例1~3の該集光壁は、1100nm未満の波長を有する可視光照射及び赤外線に対して透過性である。
【0083】
図5は、実施例1~3の集光壁の、nmで表される波長λの関数としての、パーセントで表される全反射R
totとしての変化115、116及び117それぞれを示す。実施例1~3の該集光壁の内側上の粗いテクスチャーの存在は、本発明に必須ではないけれども、入射放射の全反射を制限する。
図5に示される全反射は、実施例1~3についての350nm~1100nmの入射放射の波長に関係無しに、常に6%未満である。目(eye)のスペクトル応答によって重み付けされた合計応答は、表1に示されている通り、実施例1についてせいぜい2.16%である。それは、同じ素材から形成されたが粗いテクスチャーを有していない集光壁の場合、8%程度である。
【0084】
図5は、実施例1~3の集光壁の、nmで表される波長λの関数としての、該集光壁ヘイズ率Haの関数としての変化120、121及び122それぞれを示す。目のスペクトル応答によって重み付けされる場合、該ヘイズ率は、少なくとも22.0%である(実施例3)。該実施例の、プラズマで処理されていない且つ粗いテクスチャーを有しない集光壁は、1.0%未満のヘイズ率を有する。
【0085】
それ故に、粗いテクスチャーの存在は、本発明に必須ではないけれども、該光学フィルター及び該集光壁によって形成されるアセンブリの光透過率を改善する。
【0086】
【0087】
図7は、本発明に従うフォトバイオリアクターの別の例を示す。
【0088】
該エンクロージャ10が該集光壁で構成され、その外側130は該管の外側によって画定され、且つ該熱変色性化合物で形成された、コーティングとしての該光学フィルター15によって覆われているという点で、
図7のフォトバイオリアクター5は、
図1に示されているフォトバイオリアクターと異なる。該エンクロージャは、一般的な回転の形状を有し、且つ入口開口部135及び出口開口部140を有し、培地45は入口開口部135及び出口開口部140を通じて該エンクロージャにそれぞれ入り且つ出ていく。該培地の循環Vは、閉ループで行われる。ポンプ145は出口開口部140を通じて該チャンバーを離れる培地を引き出し、そして入口開口部135を通じてそれを再注入する。
【0089】
発明の詳細な説明を読むことから明らかなように、本発明に従うフォトバイオリアクターは、培地の温度の受動的調節を確実にし、従って光合成微生物の高い収率、低コストで、培養を促進する。
【0090】
もちろん、本発明は、上述の装置およびプロセスの実施の例示的な実施形態に限定されない。