(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】抗ジカ(ZIKA)ウイルス抗体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220128BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20220128BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220128BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220128BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220128BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220128BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220128BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220128BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220128BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/10
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/10
C12N1/21
A61K39/395 D
A61K39/395 S
A61P31/14
A61P43/00 121
A61P29/00
A61P21/00
A61P19/02
A61P17/02
A61K45/00
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2019502258
(86)(22)【出願日】2017-07-17
(86)【国際出願番号】 US2017042447
(87)【国際公開番号】W WO2018017497
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-10
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】クリストス・カイラトゥース
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・オルソン
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・メイスン
【審査官】西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-518047(JP,A)
【文献】BARBA‐SPAETH, Giovanna,Nature,2016年06月23日,Vol.536 ,Page.48-53
【文献】PRIYAMVADA Lalita,PNAS,2016年07月12日,Vol.113,No.28 ,Page.7852-7857
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカウイルス(ZIKV
)エンベロープ糖タンパク質(E)へ特異的に結合する単離された組換えモノクローナル抗
体であって、前記抗体
は、それぞれ配列番号116、118および120のアミノ酸配列を含む3つの重鎖相補性決定領域(CDRs)、HCDR1、HCR2およびHCDR3を含む、重鎖可変領域(HCVR)、並びに、それぞれ配列番号124、126および128のアミノ酸配列を含む3つの軽鎖CDRs、LCDR1、LCR2およびLCDR3を含む、軽鎖可変領域(LCVR)を含み、また、配列番号357または配列番号358のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む、単離された組換えモノクローナル抗
体。
【請求項2】
HCVRが配列番
号11
4のアミノ酸配列を含む
、請求項
1に記載の単離された
組換えモノクローナル抗
体。
【請求項3】
LCVRが配列番
号122のアミノ酸配列を
含む、請求項
1に記載の単離された
組換えモノクローナル抗
体。
【請求項4】
HCVRが配列番
号11
4のアミノ酸配列を含み、LCVRが配列番号12
2のアミノ酸配列を含む、請求項
1に記載の単離された
組換えモノクローナル抗
体。
【請求項5】
前記抗体が、配列番号357のアミノ酸配列を
含む重鎖定常領域を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の単離された
組換えモノクローナル抗
体。
【請求項6】
前記抗体が、配列番号358のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の単離された組換えモノクローナル抗体。
【請求項7】
完全ヒトモノクローナル抗体であ
る、請求項
1~
6のいずれか1項に記載の単離された
組換えモノクローナル抗
体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載
の単離された
組換えモノクローナル抗
体と、医薬と
して許容され得る担体または希釈剤と、を含む、医薬組成物。
【請求項9】
ZIKV
エンベロープ糖タンパク質(E)へ特異的に結合
し、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106
、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、290/298、306/314、322/330および338/346からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、
1つ以上の単離された組換えモノクローナル抗体を、さらに含む、請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記1つ以上の単離されたモノクローナル抗体が、配列番号66/74
、および258/266からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
配列番号114/122
のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む第1の組換えモノクローナル抗体、および
配列番号258/266
のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む第2の組換えモノクローナル抗体を含む、請求項
8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記1つ以上の
単離された組換えモノクローナル抗体が、MR766(ウガンダ1947)株、PRVABC59(プエルトリコ2015)株およびFLR(コロンビア2015)株からなる群から選択される1つ以上のZIKV株を中和する、請求項
8~
11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1~
7のいずれか1項に記載
の組換えモノクローナル抗
体をコードする、単離された核酸分子。
【請求項14】
請求項
13に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項15】
請求項
14に記載のベクターを発現する、単離された
宿主細胞。
【請求項16】
ZIKV感染の少なくとも1つの症状を予防、治療もしくは寛解させる
ための、またはZIKV感染の少なくとも1つの症状の頻度もしくは重症度を低下させ
る、請求項1~
7のいずれか1項に記載
の抗体を含む
、または、請求項8~12のいずれか1項に記載の、医薬組成
物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカウイルスエンベロープ糖タンパク質へ結合する抗体、これらの抗体を含む医薬組成物およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカウイルス(ZIKV)は、フラビウイルス(Flavivirus)科フラビウイルス属ファミリーにおけるプラス鎖RNA節足動物媒介性ウイルス(アルボウイルス)である(非特許文献1)。ネッタイシマカ(Aedes aegypti)という蚊によってヒトへ主として伝播すると考えられていると考えられている。ZIKVは、蚊による伝播に加えて、性的に(非特許文献2)および垂直に(非特許文献3)伝播し得、または、血液製剤もしくは組織試料を介して伝播し得る。ZIKVは概して、軽度の疾患を発症させ、大部分の症候性個人において発疹および軽度の熱性疾患を伴う。しかしながら、妊婦がZIKVに感染した場合、胎児における小頭症(非特許文献4)または他の発達異常(非特許文献5)を発症するリスクが高まる。ZIKVは、このウイルスに感染した患者のギラン・バレー症候群と関連しているという報告もある(非特許文献6)。加えて、ZIKVと脳虚血、脊髄炎および髄膜脳炎との関連も報告されている(非特許文献7)。
【0003】
ZIKVの向性および病原性は、ほとんど知られていない。概して、フラビウイルスは、カプシドタンパク質の複数のコピーと複合体形成した約11,000塩基の一本鎖RNAゲノムを含んでおり、すべて脂質膜に固定されたエンベロープ糖タンパク質(E)(約500アミノ酸)、膜タンパク質(M)(約75アミノ酸)または前駆体膜タンパク質(prM)(約165アミノ酸)のそれぞれ180コピーからなる正二十面体のシェルに囲まれた、エンベロープウイルスである。このゲノムはまた、複製および集合に関与する7つの非構造タンパク質をコードする(非特許文献8)。
【0004】
ジカウイルスの生活環の間、フラビウイルスビリオンは、未成熟(非感染性)状態および成熟(感染性)状態で存在する(非特許文献9)。
【0005】
ZIKVエンベロープ糖タンパク質(E)は、防御抗体のための標的であり得るが、今日まで、ZIKVエンベロープ糖タンパク質に特異的な抗体は臨床試験中ではない。したがって、ZIKV感染を予防または治療するために使用することのできる新たな抗体を識別する必要性が、当該技術分野において依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Gubler,DJ,et al.,In:Knipe,DM,et al.,eds.,Fields Virology,第5版,Philadelphia,PA:Lippincott Williams & Wilkins Publishers,2007:1155-227
【文献】Foy,BD,et al.,(2011),Emerg.Infect.Dis.17:880-882
【文献】Mlakar,J.et al.,(2016),N.Engl.J.Med.374:951-958
【文献】Schuler-Faccini,L.et al.,(2016),MMWR Morb.Mortal.Wkly Rep.65:59-62
【文献】Brasil et al.,(2016)N.Engl.J.Med.,March 4
【文献】Cao-Lormeau,VM,et al.,(2016),Lancet,Apr 9;387(10027):1531-9
【文献】Carteaux,G.et al.(2016),N.Engl.J.Med.374(16):1595
【文献】Sirohi,D.et al.,(2016),Science,352:467-470
【文献】Lindenbach,BD,In:Fields Virology,Knipe,DM and Howley,PM,eds,Philadelphia,PA:Lippincott Williams & Wilkins Publishers,Ed.6,Vol.1,2013,Chapter 25,pp.712-746
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ZIKV Eを結合する抗体およびその抗原結合フラグメントを提供する。本発明の抗体は、ZIKVの活性を阻害または中和するのに有用である。いくつかの実施形態において、抗体は、宿主細胞へのZIKVの付着を遮断するために、または宿主細胞膜へのこのウイルスの融合を防止するために有用である。その際、本発明の抗体は宿主細胞へのウイルスの侵入を遮断する。ある特定の実施形態において、抗体は、対象におけるZIKV感染の少なくとも1つの症状を予防、治療または寛解させるのに有用である。ある特定の実施形態において、本発明の抗体は、ウイルスを中和することができ、その際、妊婦から胎児へのウイルスが伝播するのを予防し、したがって妊婦の胎児における小頭症(またはその他の発達異常)を予防する。ある特定の実施形態において、抗体は、ZIKV感染に罹患しているか、またはその危険性があるか、または伝播するリスクがある対象へ、予防上または治療上投与することができる。ある特定の実施形態において、本発明の少なくとも1つの抗体を含有する組成物は、ワクチンが禁忌である対象、またはワクチンの効能がほとんどない対象、例えば、高齢患者、非常に若い患者、妊娠中の女性患者、ワクチンの任意の何らかの1つ以上の成分にアレルギー性であるかもしれない患者、またはワクチン中の免疫原に対して非応答性であるかもしれない免疫無防備状態の患者である。ある特定の実施形態において、本発明の少なくとも1つの抗体を含有する組成物は、妊娠中の女性、医療スタッフ、入院患者または養護老人ホーム居住者、ZIKVの爆発的流行を有していることが知られている国へ旅行する個人、またはZIKVを保有する蚊がいることが知られている国へ旅行する個人、あるいはZIKVの爆発的流行における他の高リスクの患者へ投与されることができる。ある特定の実施形態において、本発明の少なくとも1つの抗体を含有する組成物は、既にZIKVへ曝露されてしまった患者へ第1の選択の治療として投与することができる。
【0008】
本発明の抗体は、完全長(例えば、IgG1抗体またはIgG4抗体)であり得、または抗原結合部分(例えばFabフラグメント、F(ab’)2フラグメントまたはscFvフラグメント)のみを含んでいてもよく、機能性に影響するよう、例えば、宿主における持続性を高めるよう、または残存するエフェクター機能を除去するよう修飾されていてもよい(Reddy et al.,2000,J.Immunol.164:1925-1933)。ある特定の実施形態において、抗体は二重特異性であってもよい。
【0009】
第1の態様において、本発明は、ZIKVエンベロープ糖タンパク質(E)へ特異的に結合する、単離された組換えモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0010】
一実施形態において、本発明は、ZIKVをインビトロで10-9M以下のIC50で中和し、ZIKV感染動物におけるインビボでの防御作用を示す、ZIKVおよび/またはZIKV Eへ特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合フラグメ
ントを提供する。
【0011】
一実施形態において、本発明は、次の特徴:
(a)完全ヒトモノクローナル抗体であるか、または
(b)ジカprM/Eを発現するVLPへ約80pM~約150nMの範囲のEC50で結合するか、または
(c)表面プラズモン共鳴アッセイで測定する場合、ZIKV Eへ10-7M未満の解離定数(KD)で結合するか、または
(d)pH7.4に対するpH5またはpH6での解離半減期(t1/2)の変化を示しても示さなくてもよい、のうちの1つ以上を有する、ZIKVおよび/またはZIKV Eへ特異的に結合する、単離された組換え抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0012】
本発明の例示的な抗ZIKV E抗体を本明細書の表1および表2に列挙する。表1は、重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)、重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)、および例示的な抗ZIKV E抗体の軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)のアミノ酸配列識別子を説明する。表2は、例示的な抗ZIKV E抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2 HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3の核酸配列識別子を説明する。
【0013】
本発明は、表1に列挙されたHCVRアミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むHCVR、またはHCVRと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0014】
本発明は、表1に列挙されたLCVRアミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むLCVR、またはLCVRと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0015】
本発明は、表1に列挙されたLCVRアミノ酸配列と対形成した、表1に列挙されたHCVRアミノ酸配列のいずれかを含む、HCVRおよびLCVRのアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。ある特定の実施形態によると、本発明は、表1に列挙された例示的な抗ZIKV E抗体のいずれかに含有されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0016】
一実施形態において、単離された抗ZIKVモノクローナル抗体または抗原結合フラグメントは、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、290、306、322および338のアミノ酸配列からなる群から選択される重鎖可変領域(HCVR)配列のいずれか1つに含有される3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、298、314、330および346からなる群から選択される軽鎖可変領域(LCVR)配列のうちのいずれか1つに含有される3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)と、を含む。
【0017】
一実施形態において、単離された抗ZIKVモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、290、306、322および338からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む、
【0018】
一実施形態において、単離された抗ZIKVモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、298、314、330および346からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0019】
一実施形態では、単離された抗体または抗原結合フラグメントは、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、290/298、306/314、322/330および338/346からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0020】
ある特定の実施形態において、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号66/74(H4H25598P)、配列番号114/122(H4H25619P)、および配列番号258/266(H4H25703N)からなる群から選択される。一実施形態において、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号114/122(H4H25619P)および配列番号258/266(H4H25703N)からなる群から選択される。
【0021】
一実施形態において、単離された抗体または抗原結合フラグメントは、
(a)配列番号4、20、36、52、68、84、100、116、132、148、164、180、196、212、228、244、260、276、292、308、324および340からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメインと、
(b)配列番号6、22、38、54、70、86、102、118、134、150、166、182、198、214、230、246、262、278、294、310、326および342からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメインと、
(c)配列番号8、24、40、56、72、88、104、120、136、152、168、184、200、216、232、248、264、280、296、312、328および344からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメインと、
(d)配列番号12、28、44、60、76、92、108、124、140、156、172、188、204、220、236、252、268、284、300、316、332および348からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメインと、
(e)配列番号14、30、46、62、78、94、110、126、142、158、174、190、206、222、238、254、270、286、302、318、334、350からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメインと、
(f)配列番号16、32、48、64、80、96、112、128、144、160、176、192、208、224、240、256、272、288、304、320、336および352からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインと、を含む。
【0022】
一実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号68のHCDR1アミノ酸配列と、配列番号70のHCDR2アミノ酸配列と、配列番号72のHCDR3アミノ酸配列と、配列番号76のLCDR1アミノ酸配列と、配列番号78のLCDR2アミノ酸配列と、配列番号80のLCDR3アミノ酸配列と、を含む。
【0023】
一実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号116のHCDR1アミノ酸配列と、配列番号118のHCDR2アミノ酸配列と、配列番号120のHCDR3アミノ酸配列と、配列番号124のLCDR1アミノ酸配列と、配列番号126のLCDR2アミノ酸配列と、配列番号128のLCDR3アミノ酸配列と、を含む。
【0024】
一実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号260のHCDR1アミノ酸配列と、 配列番号262のHCDR2アミノ酸配列と、配列番号264のHCDR3アミノ酸配列と、配列番号268のLCDR1アミノ酸配列と、配列番号270のLCDR2アミノ酸配列と、配列番号272のLCDR3アミノ酸配列と、を含む。
【0025】
本発明は、表1に列挙された重鎖CDR1(HCDR1)アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含むHCDR1を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0026】
本発明は、表1に列挙された重鎖CDR2(HCDR2)アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含むHCDR2を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0027】
本発明は、表1に列挙された重鎖CDR3(HCDR3)アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含むHCDR3を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0028】
本発明は、表1に列挙された軽鎖CDR1(LCDR1)アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含むLCDR1を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0029】
本発明はまた、表1に列挙された軽鎖CDR2(LCDR2)アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含むLCDR2を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0030】
本発明は、表1に列挙された軽鎖CDR3(LCDR3)アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含むLCDR3を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0031】
本発明は、表1に列挙されたLCDR3アミノ酸配列のいずれかと対形成した表1に列挙されたHCDR3アミノ酸配列のいずれかを含むHCDR3およびLCDR3のアミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。ある特定の実施形態によると、本発明は、表1に列挙された例示的な抗ZIKV E抗体のいずれかに含有されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。ある特定の実施形態において、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、配列番号72/80(例えば、H4H25598P)および264/272(例えば、H4H25703N)である。
【0032】
本発明は、表1に列挙された例示的な抗ZIKV E抗体のいずれかに含有される6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。ある特定の実施形態において、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、配列番号68-70-72-76-78-80(例えば、H4H25598P)、配列番号116、118、120、124、126および128(H4H25619P)ならびに配列番号260-262-264-268-270-272(例えば、H4H25703N)からなる群から選択される。
【0033】
関連する実施形態において、本発明は、表1に列挙された例示的な抗ZIKV E抗体のいずれかによって定義されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含有される6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。例えば、本発明は、配列番号66/74(例えば、H4H25598P)、配列番号114/122(例えば、H4H25619P)および配列番号258/266(例えば、H4H25703N)からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対内に含有されるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットを含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。HCVRアミノ酸配列およびLCVRアミノ酸配列の内部にあるCDRを識別するための方法および技術は、当該技術分野において周知であり、本明細書に開示される具体的なHCVRアミノ酸配列および/またはLCVRアミノ酸配列の内部にあるCDRを識別するために使用することができる。CDRの境界を識別するために使用することができる例示的な規則は、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義を含む。一般的にいえば、Kabatの定義は配列の可変性に基づいており、Chothiaの定義は構造ループ領域の位置に基づいており、AbMの定義はKabatのアプローチとChothiaのアプローチの間の折衷案である。例えば、Kabat,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)、Al-Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927-948(1997)、およびMartin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268-9272(1989)を参照されたい。抗体内のCDR配列を識別するために、公開データベースも利用可能である。
【0034】
一実施形態において、本発明は、ZIKVへ特異的に結合し、配列番号367の重鎖(HC)アミノ酸配列と配列番号368の軽鎖(LC)アミノ酸配列とを有する抗ZIKV抗体を提供する。
【0035】
一実施形態において、本発明は、ZIKVへ特異的に結合し、配列番号370の重鎖(HC)アミノ酸配列と配列番号371の軽鎖(LC)アミノ酸配列とを有する抗ZIKV抗体を提供する。
【0036】
一実施形態において、本発明は、ZIKVへ特異的に結合し、配列番号373の重鎖(HC)アミノ酸配列と配列番号374の軽鎖(LC)アミノ酸配列とを有する抗ZIKV抗体を提供する。
【0037】
一実施形態において、本発明は、ZIKVへ特異的に結合し、配列番号369の重鎖(HC)アミノ酸配列と配列番号368の軽鎖(LC)アミノ酸配列とを有する抗ZIKV抗体を提供する。
【0038】
一実施形態において、本発明は、ZIKVへ特異的に結合し、配列番号372の重鎖(HC)アミノ酸配列と配列番号371の軽鎖(LC)アミノ酸配列とを有する抗ZIKV抗体を提供する。
【0039】
一実施形態において、本発明は、ZIKVへ特異的に結合し、配列番号375の重鎖(HC)アミノ酸配列と配列番号374の軽鎖(LC)アミノ酸配列とを有する抗ZIKV抗体を提供する。
【0040】
一実施形態において、本発明の抗体は、MR766(ウガンダ1947)株、PRVABC59(プエルトリコ2015)株およびFLR(コロンビア2015)株からなる群から選択されるZIKV株を中和することができる。
【0041】
本発明の一態様において、本発明は、抗体依存性増強(ADE)に寄与しないか、ADEを引き起こさないか、または誘導しない、ZIKVを中和するヒト抗体、抗体変異体、またはその抗原結合フラグメントを提供する。一実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ZIKV感染の抗体依存性増強(ADE)に寄与しないか、ADEを引き起こさないか、もしくは誘導しないか、またはフラビウイルス科における1つ以上の他のウイルス、例えばデングウイルスによる感染に寄与しないか、引き起こすか、もしくは誘導しない。
【0042】
一実施形態において、本発明は、野生型Eタンパク質(例えば配列番号376を参照されたい)を有するZIKVを中和するが、Eタンパク質の変異型を有するZIKVを中和しない抗体を提供し、この変異は、配列番号376の位置302のセリンからフェニルアラニンへのもの(S302F)、配列番号376の位置311のトレオニンからイソロイシンへのもの(T311I)、または配列番号376の位置369のリジンからグルタミン酸へのもの(K369E)である。
【0043】
一実施形態において、本発明は、Fc領域に1つ以上の変異を含み、この1つ以上の変異が、細胞上のFc受容体への抗体の結合を低下させる、ZIKVを中和するヒト抗体、抗体変異体、またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0044】
一実施形態において、本発明は、Fc領域に1つ以上の変異を含み、1つ以上の突然変異が、抗体の血清半減期をより長くする、ZIKVを中和するヒト抗体、抗体変異体、またはその抗原結合フラグメントを提供する。一実施形態において、変異は、配列番号357の位置131、133および135におけるYTE修飾(M131Y、S133TおよびT135E)からなる。これらの変化は、配列番号358のこれらの位置に示されている。
【0045】
一実施形態において、本発明は、細胞上のFc受容体への抗体の結合を低下させるFc領域における少なくとも1つの変異と、抗体の血清半減期を延長させる少なくとも1つの変異と、を含む、ZIKVを中和するヒト抗体、抗体変異体、またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0046】
本発明は、本明細書の他の箇所で説明されるようなIgG1アイソタイプまたはIgG4アイソタイプを含むFcドメインを含む抗ZIKV抗体を含む。
【0047】
ある特定の実施形態において、本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号356(IgG1)、357(YTE変異を伴わないIgG4)、358(YTE変異を伴うIgG4)、365(YTE変異を伴わないIgG4)および366(YTE変異を伴うIgG4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するFcドメインを含む。
【0048】
一実施形態において、本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号357のアミノ酸配列を有するFcドメインを含む。
【0049】
一実施形態において、本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号358のアミノ酸配列を有するFcドメインを含む。
【0050】
一実施形態において、本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号258/266のHCVR/LVCRアミノ酸配列対と、配列番号357または358のアミノ酸配列を有するFcドメインとを含む。
【0051】
一実施形態において、本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号114/122のHCVR/LVCRアミノ酸配列対と、配列番号357または358のアミノ酸配列を有するFcドメインとを含む。
【0052】
一実施形態において、本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号114/122のHCVR/LVCRアミノ酸配列対と、配列番号357のアミノ酸配列を有するFcドメインとを含む。
【0053】
一実施形態において、本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号66/74のHCVR/LVCRアミノ酸配列対と、配列番号357または358のアミノ酸配列を有するFcドメインとを含む。
【0054】
一実施形態において、本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号66/74のHCVR/LVCRアミノ酸配列対と、配列番号357のアミノ酸配列を有するFcドメインとを含む。
【0055】
本発明は、修飾されたグリコシル化パターンを有する抗ZIKV抗体を含む。いくつかの実施形態では、望ましくないグリコシル化部位を除去する修飾、または例えば抗体依存性細胞障害作用(ADCC)機能を増大させるためにオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠失している抗体が有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照されたい)。他の応用において、ガラクトシル化の修飾は、補体依存性細胞障害作用(CDC)を修飾するために行うことができる。
【0056】
本発明は、ZIKVへの結合と交差競合するか、またはHCVRのCDRとLCVRのCDRとを含み、HCVRおよびLCVRの各々が、表1に列挙されるHCVR配列およびLCVR配列から選択されるアミノ酸配列を有する、参照抗体もしくはその抗原結合フラグメントと同じエピトープを結合する抗体およびその抗原結合フラグメントも提供する。
【0057】
本発明は、細胞へのZIKVの付着を遮断するかまたは細胞膜へのウイルスの融合を防止し、それにより宿主細胞の中へのウイルスの侵入を防止する、単離された抗体およびその抗原結合フラグメントも提供する。
【0058】
ある特定の実施形態において、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、ZIKVにおける第1のエピトープに対する第1の結合特異性と、ZIKVにおける第2のエピトープに対する第2の結合特異性と、を含む、二重特異性であり、第1および第2のエピトープは異なっており、重複しない。ある特定の実施形態において、二重特異性は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質中のエピトープへ結合する第1のアームと、異なるウイルス抗原中のエピトープへ結合する第2のアームと、を含み得る。
【0059】
第2の態様において、本発明は、抗ZIKV抗体またはその一部をコードする核酸分子を提供する。例えば、本発明は、表1に列挙されたHCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、ある特定の実施形態において、この核酸分子は、表2に列挙されたHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0060】
本発明は、表1に列挙されたLCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し、ある特定の実施形態において、この核酸分子は、表2に列挙されたLCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0061】
本発明は、表1に列挙されたHCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し、ある特定の実施形態において、この核酸分子は、表2に列挙されたHCDR1核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列も含む。
【0062】
本発明は、表1に列挙されたHCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し、ある特定の実施形態において、この核酸分子は、表2に列挙されたHCDR2核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0063】
本発明は、表1に列挙されたHCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し、ある特定の実施形態において、この核酸分子は、表2に列挙されたHCDR3核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0064】
本発明は、表1に列挙されたLCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し、ある特定の実施形態では、この核酸分子は、表2に列挙されたLCDR1核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0065】
本発明は、表1に列挙されたLCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し、ある特定の実施形態において、この核酸分子は、表2に列挙されたLCDR2核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれえと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0066】
本発明は、表1に列挙されたLCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し、ある特定の実施形態において、この核酸分子は、表2に列挙されたLCDR3核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはその少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0067】
本発明は、HCVRが3つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3)を含み、HCDR1-HCDR2-HCDR3アミノ酸配列セットが、表1に列挙された例示的な抗ZIKV E抗体のいずれかによって定義される通りである、HCVRをコードする核酸分子も提供する。
【0068】
本発明は、LCVRが、3つのCDRのセット(すなわち、LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含み、LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットが、表1に列挙された例示的な抗ZIKV E抗体のいずれかによって定義される通りである、LCVRをコードする核酸分子も提供する。
【0069】
本発明は、HCVRが、表1に列挙されたHCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、LCVRが、表1に列挙されたLCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む、HCVRおよびLCVRの両方をコードする核酸分子も提供する。ある特定の実施形態において、この核酸分子は、表2に列挙されたHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、表2に列挙されたLCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、を含む。本発明のこの態様によるある特定の実施形態において、この核酸分子は、HCVRおよびLCVRが両方とも、表1に列挙された同じ抗ZIKV E抗体に由来する、HCVRおよびLCVRをコードする。
【0070】
本発明は、表1に列挙された重鎖アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。本発明は、表1に列挙された軽鎖アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供する。
【0071】
関連する態様において、本発明は、抗ZIKV E抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現することのできる組換え発現ベクターを提供する。例えば、本発明は、上述の核酸分子、すなわち表1に示されるHCVR配列、LCVR配列および/またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子のいずれかを含む組換え発現ベクターを含む。本発明の範囲内にはまた、このようなベクターが導入された宿主細胞と、抗体または抗体フラグメントの産生を可能にする条件下で宿主細胞を培養することによって抗体またはその一部を産生する方法、ならびにそのように産生された抗体および抗体フラグメントを回収する方法とが含まれる。
【0072】
第3の態様において、本発明は、ZIKV Eへ特異的に結合する1つ以上の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントと、医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む医薬組成物を提供する。1つ以上の単離された抗体は、表1に列挙されるHCVR配列およびLCVR配列からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。一実施形態において、ZIKVへ特異的に結合する1つ以上の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、290、306、322および338からなる群から選択される重鎖可変領域(HCVR)配列のいずれか1つに含有される3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、298、314、330および346からなる群から選択される軽鎖可変領域(LCVR)配列のいずれか1つに含有される3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)と、を含む。一実施形態において、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、290/298、306/314、322/330および338/346からなる群から選択される。一実施形態において、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号66/74、114/122および258/266からなる群から選択される。一実施形態において、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号114/122および258/266からなる群から選択される。
【0073】
一実施形態において、医薬組成物は、
a)配列番号116のアミノ酸配列を有するHCDR1と、配列番号118のアミノ酸配列を有するHCDR2と、配列番号120のアミノ酸配列を有するHCDR3と、配列番号124のアミノ酸配列を有するLCDR1と、配列番号126のアミノ酸配列を有するLCDR2と、配列番号128のアミノ酸配列を有するLCDR3と、を含む、ZIKVへ特異的に結合する単離された第1のモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントと、
b)配列番号260のアミノ酸配列を有するHCDR1と、配列番号262のアミノ酸配列を有するHCDR2と、配列番号264のアミノ酸配列を有するHCDR3と、配列番号268のアミノ酸配列を有するLCDR1と、配列番号270のアミノ酸配列を有するLCDR2と、配列番号272のアミノ酸配列を有するLCDR3と、を含む、ZIKVへ特異的に結合する単離された第2のモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントと、
c)医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む。
【0074】
関連する態様において、本発明は、本発明の少なくとも2つの抗体と、医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む医薬組成物を特徴とする。
【0075】
一実施形態において、医薬組成物は、ZIKVへ特異的に結合する少なくとも2つの単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントと、医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含み、2つのモノクローナル抗体の少なくとも1つは、インビトロで約10-9M以下のIC50でZIKVを中和し、ZIKV感染した動物におけるインビボでの防御作用を示す。
【0076】
一実施形態において、少なくとも2つの単離された抗体は、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、290、306、322および338からなる群から選択される重鎖可変領域(HCVR)配列のいずれか1つに含有される3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、298、314、330および346からなる群から選択される軽鎖可変領域(LCVR)配列のいずれか1つに含有される3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)と、を含む第1および第2の抗ZIKVモノクローナル抗体または抗原結合フラグメントから選択される。
【0077】
一実施形態において、少なくとも2つの単離された抗体は、第1および第2の抗ZIKVモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントから選択され、第1の抗ZIKVモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号116のアミノ酸配列を有するHCDR1と、配列番号118のアミノ酸配列を有するHCDR2と、配列番号120のアミノ酸配列を有するHCDR3と、配列番号124のアミノ酸配列を有するLCDR1と、配列番号126のアミノ酸配列を有するLCDR2と、配列番号128のアミノ酸配列を有するLCDR3と、を含み、ZIKVへ特異的に結合する第2の抗ZIKVモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号260のアミノ酸配列を有するHCDR1と、配列番号262のアミノ酸配列を有するHCDR2と、配列番号264のアミノ酸配列を有するHCDR3と、配列番号268のアミノ酸配列を有するLCDR1と、配列番号270のアミノ酸配列を有するLCDR2と、配列番号272のアミノ酸を有するLCDR3と、を含む。
【0078】
関連する態様において、本発明は、本発明の少なくとも3つの抗体と、医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む組成物を特徴とする。
【0079】
ある特定の実施形態において、本発明は、(a)表1に記載のHCVR/LCVRアミノ酸配列対またはその抗原結合フラグメントを含む第1の抗ZIKV抗体と、(b)表1に記載のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む第2の抗ZIKV抗体、またはその抗原結合フラグメントであって、第1の抗体がZIKV E上の第1のエピトープへ結合し、第2の抗体がZIKV E上の第2の異なるエピトープへ結合し、第1および第2のエピトープが異なっており重複していないものと、(c)医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む、医薬組成物を提供する。
【0080】
別の関連する態様において、本発明は、抗ZIKV E抗体と第2の治療剤との組み合わせを含む組成物を特徴とする。
【0081】
一実施形態において、第2の治療剤は、抗ZIKV E抗体と有利に組み合わされる任意の薬剤である。抗ZIKV抗体と有利に組み合わせることができる例示的な薬剤には、ZIKV活性を結合および/または阻害する他の薬剤(他の抗体またはその抗原結合フラグメントなどを含む)ならびに/あるいはZIKVを直接結合することはないが、それにもかかわらずウイルス活性(宿主細胞の感染性を含む)および/またはウイルス病原性を阻害する薬剤が含まれるが、これらに限定しない。
【0082】
ある特定の実施形態において、本発明は、(a)第1の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、(b)ZIKVへの結合について第1の抗体が第2の抗体と交差競合しない、第2の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、(c)医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む医薬組成物を提供する。
【0083】
ある特定の実施形態において、本発明は、(a)第1の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、(b)異なるZIKV抗原と相互作用する第2の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントであって、第1の抗体がZIKV E上のエピトープへ結合し、第2の抗体が異なるZIKV抗原上のエピトープへ結合するものと、(c)医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む医薬組成物を提供する。
【0084】
ある特定の実施形態において、本発明は、(a)第1の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、(b)第2の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、(c)第1の抗体がZIKV E上の第1のエピトープへ結合し、第2および/または第3の抗体がZIKV E上の異なるエピトープへ結合する第3の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントであって、第1、第2および第3のエピトープが異なっており重複していないものと、(d)医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む医薬組成物を提供する。
【0085】
ある特定の実施形態において、本発明は、(a)第1の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、(b)第2の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、(c)ZIKVへの結合について第1の抗体が第2の抗体および/または第3の抗体と交差競合してもよいし、交差競合しなくてもよい、第3の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、(d)医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む医薬組成物を提供する。
【0086】
ある特定の実施形態において、本発明は、(a)第1の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、(b)異なるZIKV抗原と相互作用する第2および/または第3の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記第1の抗体がZIKV E上のエピトープへ結合し、第2および/または第3の抗体が異なるZIKV抗原上のエピトープへ結合するものと、(c)医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む医薬組成物を提供する。
【0087】
一実施形態において、医薬組成物は、ZIKVの1つの株上の1つのエピトープへ結合または相互作用する第1の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、ZIKVの同じ株上のまたは異なる株上の第2および/または第3のエピトープへ結合または相互作用する第2および/または第3の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントと、を含む。
【0088】
関連する態様において、本発明は、ZIKV Eへ特異的に結合する、配列番号68のHCDR1アミノ酸配列、配列番号70のHCDR2アミノ酸配列、配列番号72のHCDR3アミノ酸配列、配列番号76のLCDR1アミノ酸配列、配列番号78のLCDR2アミノ酸配列、および配列番号80のLCDR3アミノ酸配列を含む、第1の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントと、医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、ZIKV Eへ特異的に結合する、配列番号116または260のHCDR1アミノ酸配列と、配列番号118または262のHCDR2アミノ酸配列と、配列番号120または264のHCDR3アミノ酸配列と、配列番号124または268のLCDR1アミノ酸配列と、配列番号126または270のLCDR2アミノ酸配列と、配列番号128または272のLCDR3アミノ酸配列と、を含む、第2の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントをさらに含み得る。
【0089】
一実施形態において、医薬組成物は、ZIKVへ特異的に結合する、配列番号116のHCDR1アミノ酸配列、配列番号118のHCDR2アミノ酸配列、配列番号120のHCDR3アミノ酸配列、配列番号124のLCDR1アミノ酸配列、配列番号126のLCDR2アミノ酸配列、および配列番号128のLCDR3アミノ酸配列を含む第1の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントと、医薬として許容され得る担体または希釈剤と、を含む。医薬組成物は、ZIKVへ特異的に結合する、配列番号260のHCDR1アミノ酸配列、配列番号262のHCDR2アミノ酸配列、配列番号264のHCDR3アミノ酸配列、配列番号268のLCDR1アミノ酸配列、配列番号270のLCDR2アミノ酸配列、および配列番号272のLCDR3アミノ酸配列を含む、第2の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントをさらに含み得る。医薬組成物は、ZIKV Eへ特異的に結合する、表1に示される抗体のいずれかに由来するHCDR1アミノ酸配列、HCDR2アミノ酸配列、HCDR3アミノ酸配列、LCDR1アミノ酸配列、LCDR2アミノ酸配列およびLCDR3アミノ酸配列を含む、第3の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントをさらに含み得る。
【0090】
関連する態様において、本発明は、ZIKVへ特異的に結合し、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、290/298、306/314、322/330および338/346からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む少なくとも2つの抗体の混合物を含む、抗体カクテルを提供する。
【0091】
一実施形態において、カクテルは、配列番号114/122および258/266のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む2つの抗体の混合物を含む。一実施形態において、抗体カクテルは、表1に示される抗体から選択されるアミノ酸配列対を含む第3の抗体を含み得る。一実施形態において、第3の抗体は、配列番号66/74のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0092】
一実施形態では、抗体カクテルは、配列番号367/368および370/371の重鎖(HC)/軽鎖(LC)アミノ酸配列対を含む2つの抗体の混合物を含む。一実施形態において、抗体カクテルは、配列番号373/374のHC/LCアミノ酸配列対を含む第3の抗体を含み得る。
【0093】
ある特定の実施形態において、各抗体は、別個の製剤として製剤することができ、最大の治療効力を達成するために1つを超える抗体が必要であると決定された場合、抗体製剤の各々は必要に応じて併用投与され得る(同時に、または連続的に)。あるいは、抗体カクテルを併用製剤してもよい。
【0094】
ある特定の実施形態において、2つ以上の抗体が1つの医薬組成物中で一緒に組み合わされる場合、これらの抗体はZIKVタンパク質上の同じまたは重複しているエピトープを結合してもしなくてもよい。本発明の抗ZIKV抗体を包含する追加の併用療法および併用製剤は、本明細書の他の箇所に開示されている。
【0095】
ある実施形態において、本発明は、少なくとも1つの抗体が細胞へのウイルスの付着を防止することができ、第2の抗体が、宿主細胞膜へのウイルスの融合を防止することができ、このようなものとして、細胞へのウイルス侵入の防止および細胞内での複製を準備し得る、ZIKV Eを結合する2つ以上のヒト抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を提供する。関連する実施形態において、ZIKV感染の抗体依存性増強(ADE)に寄与しない2つの抗ジカ抗体を含む組成物は、宿主細胞へのZIKV侵入の予防を提供し得る。
【0096】
ある特定の実施形態において、ADEに寄与することなくジカウイルスを中和する本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号357に示されるFcアミノ酸配列を各々有する、配列番号258/266、114/122および66/74からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0097】
ある特定の実施形態において、ADEに寄与することなくジカウイルスを中和する本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号367/368(H4H25703N)および配列番号370/371(H4H25619P)のHC/LCアミノ酸配列対を含む。
【0098】
ある特定の実施形態において、ADEに寄与することなくジカウイルスを中和し、延長された血清半減期を有し得る本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号358(本明細書中の他の箇所で説明されたYTE変異を有するIgG4)に示されるようなFcアミノ酸配列を各々有する、配列番号258/266、114/122および66/74からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0099】
ある特定の実施形態において、ADEに寄与することなくジカウイルスを中和し、延長された血清半減期を有し得る本発明の抗ZIKV抗体は、配列番号369/368のHC/LCアミノ酸配列対(本明細書の他の箇所で説明されたYTE変異を有するH4H25703N)、配列番号372/371(本明細書の他の箇所で説明されたYTE変異を有するH4H25619P)および配列番号375/373(本明細書の他の箇所で説明されたYTE変異を有するH4H25598P)のHC/LCアミノ酸配列対を含む。
【0100】
第4の態様において、本発明は、本発明の抗ZIKV E抗体もしくは抗体の抗原結合部分、または本発明の少なくとも2つ以上の抗体のカクテルを用いて、ZIKVと関連した疾患もしくは障害(対象におけるウイルス感染など)、またはウイルス感染と関連した少なくとも1つの症状、またはZIKV感染と関連した少なくとも1つの症状の頻度もしくは重症度を治療するための治療方法を提供し、この治療方法は、それを必要とする対象へ、治療有効量の本発明の1つ以上の抗体または抗原結合フラグメントを投与することを含む。一実施形態において、本方法は、本発明の少なくとも2つまたは少なくとも3つの抗体の組み合わせ(カクテル)を投与することを含む。一実施形態において、抗体カクテルは、配列番号114/122および258/266に示されるアミノ酸配列対を有する2つの抗ZIKV E抗体を含む。治療される障害は、ZIKV活性の阻害によって改善、寛解、抑制または予防されるいずれかの疾患または容態である。ある特定の実施形態において、本発明は、ZIKV感染の少なくとも1つの症状を予防、治療または寛解させる方法を提供し、本方法は、それを必要とする対象へ、治療有効量の少なくとも1つ以上の抗ZIKV E抗体またはその抗原結合フラグメントを投与することを含む。
【0101】
関連する態様において、本発明は、ZIKVに感染した細胞を、1つ以上の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントを含む組成物へ曝露することを含む、感染性ZIKVを中和する方法を提供し、この曝露は、細胞をウイルス感染からの、または細胞死からの防御の増強をもたらす。ある特定の実施形態において、曝露することは、インビトロまたはインビボであり得る。一実施形態において、1つ以上の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントは、野生型Eタンパク質を有する感染性ZIKVを中和し、この野生型Eタンパク質は、配列番号376の位置302にセリンを、配列番号376の位置311にトレオニンを、および配列番号376の位置369にリジンを有するが、Eタンパク質の変異型を有する感染性ZIKVを中和することはないことになっており、このEタンパク質の変異型は、以下の変化:配列番号376の位置302のフェニルアラニン、配列番号376の位置311のイソロイシン、または配列番号376の位置369のグルタミン酸、のうちの1つ以上を含有する。一実施形態において、本方法は、本発明の1つ以上の抗体を投与することを含む。一実施形態において、本方法は、本発明の少なくとも2つの抗体の組み合わせ(カクテル)を投与することを含む。一実施形態において、抗体カクテルは、配列番号114/122および258/266に示されるアミノ酸配列対を有する2つの抗ZIKV抗体を含む。
【0102】
いくつかの実施形態において、本発明は、本発明の1つ以上の抗ZIKV E抗体を投与することによって対象におけるZIKV感染の少なくとも1つの症状の重症度、期間または発生頻度を寛解または低下する方法を提供し、この少なくとも1つの症状は、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛および斑状丘疹性発疹からなる群から選択される。
【0103】
ある特定の実施形態において、本発明は、対象へ、ZIKV Eを結合して細胞膜への付着、細胞膜との融合および/または宿主細胞への侵入を遮断する有効量の本発明の1つ以上の抗体またはそのフラグメントを投与して、雄性生殖器官への播種の尤度を低下させることを含む、対象におけるウイルス量を減少させる方法を提供する。
【0104】
一実施形態において、本発明は、感染した個人から別の個人へのZIKVの伝播の尤度を低下させることを準備する。一実施形態において、感染した母体から胎児へのウイルスの伝播は、本発明の少なくとも1つの抗体を用いて予防することができる。関連する実施形態において、感染した母体から胎児へのZIKVの伝播は、本発明の少なくとも2つの抗体を用いて予防することができる。そうすることで、本発明の1つ以上の抗体を用いた妊婦の治療は、乳児における小頭症(または発達異常)の発症を予防することができる。
【0105】
ある特定の実施形態において、性的パートナーへのZIKVの伝播は、本発明の少なくとも1つの抗体を用いて予防することができる。関連する実施形態において、性的パートナーへのZIKVの伝播は、本発明の少なくとも2つの抗体を用いて予防することができる。
【0106】
一実施形態において、それを必要とする対象とは、ZIKV感染への曝露についてのまたはZIKV感染を獲得することについてのリスクのある対象であり、この対象は、ZIKVへ曝露された妊婦またはZIKVを保有していると疑われる蚊に刺された妊婦、ZIKVの爆発的流行がある地域に住んでいる女性、またはZIKVの爆発的流行がある地域を訪れており、妊娠中とみなされている女性、免疫不全状態の個人、医療従事者、ZIKVを保有している人へ曝露されたと疑われる人、感染した個人と物理的に接触しているもしくは物理的に緊密な人、感染した個人と物理的に接触しているもしくは物理的に緊密な人、病院職員、医薬研究者、ZIKV患者が治療された病院施設もしくは研究所を清掃する責任のあるメンテナンス業者、ZIKVの爆発的流行を有していることが知られているもしくは有していると疑われる地域もしくは国を訪れたもしくは訪れることを計画している個人、またはZIKVを保有しているかもしれない蚊を有していることが知られている国からなる群から選択される。
【0107】
一実施形態において、それを必要とする対象は、本発明の少なくとも1つの抗ZIKV抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または第2の治療剤との組み合わせにおいて本発明の少なくとも1つの抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を投与され得る。第2の治療剤は、抗ウイルス薬、抗炎症薬(コルチコステロイドなど、ならびにTNFに対する抗体、ZIKVに対する異なる抗体、ZIKVに対するワクチンおよび/またはインターフェロン(アルファ/ベータ/またはラムダ)などの非ステロイド系抗炎症薬からなる群から選択され得る。
【0108】
一実施形態において、医薬組成物は、皮下に、静脈内に、皮内に、筋肉内に、鼻腔内に、または経口で投与され得る。
【0109】
関連する実施形態において、防御の増強は、哺乳類が本発明の1つ以上の抗ZIKV抗体を含む医薬組成物を用いて、または本発明の少なくとも2つ以上の抗体を含む抗体カクテルを用いて治療されるときに、ZIKVへ曝露された、またはZIKVに感染した哺乳類において観察され得る。
【0110】
一実施形態において、観察される防御の増強は、ZIKV感染と関連した少なくとも1つの症状の重症度もしくは頻度の低下によって、またはウイルス量の減少によって測定され得る。少なくとも1つの症状は、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛および斑状丘疹性発疹からなる群から選択され得る。
【0111】
一実施形態において、防御の増強は、ウイルス感染後に体重の実質的な減少がないとき、本発明の1つ以上の抗体を用いて治療されたZIKV感染哺乳類において観察される。
【0112】
一実施形態において、本発明の1つ以上の抗体を用いて治療されてはいないZIKVウイルス感染哺乳類と比較した場合に1つ以上の抗ZIKV抗体を用いて治療したZIKV感染哺乳類の生存の増加によって測定されるように、防御の増強は、本発明の1つ以上の抗体を用いて治療したZIKV感染哺乳類において観察される。
【0113】
1つ以上の抗体が単独で使用される場合、または1つ以上の抗体が1つ以上のさらなる治療剤もしくは抗ZIKV治療様式との組み合わせで使用される場合、防御の増強が観察され得る。
【0114】
1つ以上のさらなる治療剤は、抗ウイルス薬、抗炎症薬(コルチコステロイドなど、ならびにTNF)に対する抗体、ZIKVに対する異なる抗体、ZIKVに対するワクチンおよび/またはインターフェロン(アルファ/ベータ/またはラムダ)などの非ステロイド系抗炎症薬からなる群から選択され得る。
【0115】
一実施形態において、1つ以上のさらなる治療剤は、1つ以上の抗ZIKV抗体を含む。
【0116】
一実施形態において、1つ以上の抗ZIKV抗体は、表1の重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列のいずれかからなる群から選択されるHCVRおよびLCVRアミノ酸配列を含む。
【0117】
関連する実施形態において、1つ以上の抗ZIKV抗体は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、290/298、306/314、322/330および338/346からなる群から選択される重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)のアミノ酸配列対を含む。
【0118】
別の関連する実施形態において、1つ以上の抗ZIKV抗体は、配列番号66/74および258/266からなる群から選択される重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)のアミノ酸配列対を含む。
【0119】
ある特定の実施形態において、1つ以上の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ZIKV感染を有するか、またはZIKV感染を有するリスクがあるか、またはZIKV感染を発症しやすい対象へ、予防上または治療上投与され得る。リスクがある対象には、ZIKVへ曝露された、もしくはZIKVを保有していると疑われる蚊に刺された妊婦、ZIKVの爆発的流行のある地域に居住していてもしくはその地域を訪れていて、妊娠中とみなされている女性、免疫不全の人、例えば、自己免疫疾患のために免疫不全である人、または免疫抑制療法を受けている人(例えば、臓器移植後)、ZIKVに感染した人から移植もしくは血液試料を受けている人、または、ヒト免疫不全症候群(HIV)もしくは後天性免疫不全症候群(AIDS)に罹患している人、白血球を枯渇もしくは破壊するある特定の種の貧血、放射線療法もしくは化学療法を受けている人、または炎症性障害に罹患している人が含まれるが、これらに限定されない。ZIKV感染を獲得することについてのリスクがある他の対象には、医療従事者、あるいは感染した個人と物理的に接触しているもしくは物理的に緊密な、または感染した個人からの体液もしくは組織へ曝露され、ZIKV感染を発症するリスクも高い何らかの人が含まれる。そのうえ、対象は、疾患の爆発的流行に対して近くにいることにより、ZIKV感染に罹患するリスクがあり、例えば、対象は、人口密度の高い都市にまたはZIKV感染を確認されたもしくは疑われた対象に緊密に居住しており、あるいは雇用の選択にあり、例えば、ジカ患者が治療された病院施設もしくは研究所を清掃する責任のあるメンテナンス業者、病院職員、医薬研究者、ZIKVの爆発的流行を有していることが知られているもしくは有していると疑われる地域もしくは国またはZIKVを保有しているかもしれない蚊を有していることが知られている地域もしくは国を訪れたもしくは訪れることを計画している個人である。
【0120】
ある特定の実施形態において、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、それを必要とする対象へ、第2の治療剤との組み合わせで投与される。第2の治療剤は、抗炎症薬(コルチコステロイドおよび非ステロイド系抗炎症薬、例えば抗TNF抗体)、抗感染薬、抗ウイルス薬、ZIKVに対する異なる抗体、ZIKVに対するワクチン、またはインターフェロン、抗酸化剤などの栄養補助食品、およびZIKV感染の少なくとも1つの症状を寛解させるために、または患者におけるウイルス量を減少させるために有用な当該技術分野で既知の何らかの他の薬剤または療法からなる群から選択され得る。ある特定の実施形態において、第2の治療剤は、本発明の抗体または抗原結合フラグメントと関連した何らかの起こり得る副作用(複数可)が生じるであろう場合、この副作用に対処またはこれを軽減するのを助ける薬剤であり得る。抗体またはそのフラグメントは、皮下に、静脈内に、皮内に、腹腔内に、経口で、鼻腔内に、筋肉内に、または頭蓋内に投与することができる。一実施形態において、抗体は、対象の血清中の抗体の最大濃度のための単回静脈内注入として投与することができる。抗体またはそのフラグメントは、対象の体重1kgあたり約0.1mg~約100mgの用量で投与され得る。ある特定の実施形態において、本発明の抗体は、50mg~600mgを含む1つ以上の用量で投与され得る。
【0121】
本発明には、ZIKVを有しているか、もしくはZIKVを有していると疑われるか、もしくはZIKVへ曝露された対象を治療する上での使用のための、または細胞へのZIKVの付着、もしくは細胞膜とのZIKVの融合の遮断から利益を得るであろう疾患もしくは障害の治療のための薬剤の製造における使用のための、本発明の抗ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントも含まれる。
【0122】
他の実施形態は、後述の詳細な説明の再検討から明らかとなることになっている。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【
図1】すべてのフラビウイルスと交差反応するキメラ抗体を用いて抗体依存性増強(ADE)を測定するための免疫蛍光アッセイの結果を示す。
【
図2】ジカウイルス感染マウスにおける体重減少の予防に及ぼす抗ジカ抗体H4H25703Nの防御効果を示す。
【
図3】ジカウイルス感染マウスにおける体重減少の予防に及ぼす抗ジカ抗体H4H25619Pの防御効果を示す。
【
図4】ジカウイルス感染マウスにおける生存に及ぼす抗ジカ抗体H4H25703Nの防御効果を示す。
【
図5】ジカウイルス感染マウスにおける生存に及ぼす抗ジカ抗体H4H25619Pの防御効果を示す。
【
図6】IgG1またはIgG4のいずれかとして調製された抗ジカウイルス抗体H4H25703Nを用いて抗体依存性増強(ADE)を測定するためのアッセイの結果を示す。
【
図7】IgG1またはIgG4のいずれかとして調製された抗ジカウイルス抗体H4H25619Pを用いて抗体依存性増強(ADE)を測定するためのアッセイの結果を示す。
【
図8】
図8Aおよび
図8Bは、抗体H4H25703NおよびH4H25619Pの存在下で生成されたエスケープ変異体を用いたZIKV中和を示す。
【発明を実施するための形態】
【0124】
本発明の方法を説明する前に、本発明は、特定の方法および説明される実験条件が変わり得るので、このような方法および条件に制限されないことは理解されることになっている。本明細書で使用する用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるので、制限することを企図するものではないことも理解されることになっている。
【0125】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明の属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に説明されるものと類似のまたは等価の何らかの方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料をこれから説明する。本明細書で言及される特許、出願および非特許刊行物はすべて、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0126】
定義
「ジカウイルス」または「ZIKV」は、フラビウイルス科のメンバーであり、ウイルスへ曝露された妊婦の胎児における小頭症および他の発達異常と関連しており(Schuler-Faccini,L.et al.,(2016),MMWR Morb.Mortal.Wkly Rep.65:59-62)、成人におけるギラン・バレー症候群とも関連している(Cao-Lormeau,VM,et al.,(2016),Lancet,Apr 9;387(10027):1531-9)。「ZIKV」という用語には、異なるZIKV単離株から単離されたZIKVの変異体も含まれる。
【0127】
本明細書中で「ZIKV E」と記載されるZIKVエンベロープ糖タンパク質(E)のアミノ酸配列は、受託番号ALU33341.1としてGenBankにおいて認められるポリタンパク質アミノ酸配列内に例示されている(配列番号353も参照されたい)。この用語は、例えば、ヒスチジンタグ(例えば、ヒスチジンタグ(配列番号354および355)を有する受託番号ALU33341.1を参照されたい)、マウスFcもしくはヒトFc、またはシグナル配列へ連結されたZIKV Eまたはそのフラグメントも包含する。ZIKV Eのアミノ酸配列も配列番号376に示されている。H4H25703NについてのEタンパク質エスケープ変異は、配列番号377の位置302(S302F)に示されている。H4H25619PについてのEタンパク質エスケープ変異は、配列番号378の位置311(T311I)および位置369(K369E)に示されている。
【0128】
本明細書で使用する「ZIKV感染」または「ZIKV感染」という用語は、ウイルスへの(例えば、ウイルスを保有する蚊によって刺された後)、もしくは感染した動物への、もしくは感染したヒト患者への曝露、またはZIKV感染を有する動物もしくはヒト患者に由来する体液もしくは組織との接触からもたらされる疾患または容態を指す。「ZIKV感染と関連した症状」には、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛および斑状丘疹性発疹が含まれる。「ウイルスへの曝露からもたらされる容態」または「ウイルスへの曝露と関連した容態」には、ウイルスを保有している蚊に刺された後にウイルスに感染した妊婦の胎児の小頭症(または発達異常)も含まれる。別の「ウイルスへの曝露からもたらされる容態」または「ウイルスへの曝露と関連した容態」には、ギラン・バレー症候群が含まれる。
【0129】
本明細書で使用する「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにこれらの多量体(例えば、IgM)またはその抗原結合フラグメントを指すよう企図される。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「VH」)および重鎖定常領域(CH1ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインからなる)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVRまたは「VL」)および軽鎖定常領域(CL)からなる。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域へとさらに細分することができる。各VHおよびVLは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された3つのCDRおよび4つのFRからなる。本発明のある特定の実施形態において、抗体(またはその抗原結合フラグメント)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、または天然にもしくは人工的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0130】
1つ以上のCDR残基の置換または1つ以上のCDRの省略も可能である。抗体は、1つまたは2つのCDRが結合のために省かれることができると科学文献に説明されている。Padlan et al.(1995 FASEB J.9:133-139)は、公開された結晶構造に基づいて、抗体とこれらの抗原の間の接触領域を分析し、CDR残基の約1/5~1/3のみが実際に抗原と連絡すると結論づけた。Padlanは、1つまたは2つのCDRが抗原と接触しているアミノ酸を有さない多くの抗体も発見した(Vajdos et al.2002 J Mol Biol 320:415-428も参照されたい)。
【0131】
抗原と連絡していないCDR残基は、先行研究に基づいて、ChothiaのCDRの外側にあるKabatのCDRの領域から、分子モデリングによっておよび/または演繹的に識別することができる(例えば、CDRH2中の残基H60~H65はしばしば必要ではない)。CDRまたはその残基(複数可)が省略される場合、そのCDRまたはその残基(複数可)は、別のヒト抗体配列またはこのような配列のコンセンサスにおける対応する位置を占有するアミノ酸と置換される。CDR内の置換のための位置および置換すべきアミノ酸も演繹的に選択することができる。演繹的な置換は、保存的置換または非保存的置換であり得る。
【0132】
本明細書に開示する完全ヒト抗ZIKVモノクローナル抗体は、対応する生殖系列配列と比較して、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域に1つ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含み得る。このような変異は、本明細書中に開示するアミノ酸配列を、例えば公共の抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認することができる。本発明は、本明細書に開示するアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびその抗原結合フラグメントを含み、1以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1以上のアミノ酸は、抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基(複数可)へ、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基(複数可)へ、または対応する生殖系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換へ変異する(このような配列変化はまとめて、「生殖系列変異」と本明細書で呼ばれる)。当業者は、本明細書に開示する重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列から出発して、1つ以上の個々の生殖系列変異またはこれらの組み合わせを含む多数の抗体および抗原結合フラグメントを容易に産生することができる。ある特定の実施形態において、VHドメインおよび/またはVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基はすべて、抗体が由来した元の生殖系列配列において認められる残基へと変異し戻される。他の実施形態において、ある特定の残基のみが元の生殖系列配列へと変異し戻され、例えば、変異した残基はFR1の最初の8個のアミノ酸内に、もしくは変異した残基はFR4の最後の8個のアミノ酸内に認められ、または変異した残基は、CDR1、CDR2もしくはCDR3内にのみ認められる。他の実施形態において、フレームワークおよび/またはCDR残基(複数可)の1つ以上は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が本来由来した生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基(複数可)へ変異する。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に2つ以上の生殖系列変異の何らかの組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基へ変異するのに対し、元の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は、維持され、または異なる生殖系列配列の対応する残基へ変異する。いったん得られれば、1つ以上の生殖系列変異を含有する抗体および抗原結合フラグメントは、結合特異性の改善、結合親和性の増大、アンタゴニストまたはアゴニストの生物学的特性の改善または亢進(場合により得る)、免疫原性の低下などの1つ以上の所望の特性について容易に試験することができる。この一般的な様式で得られた抗体および抗原結合フラグメントは、本発明に包含される。
【0133】
本発明は、1つ以上の保存的置換を有する本明細書に開示するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む完全ヒト抗ZIKVモノクローナル抗体も含む。例えば、本発明は、本明細書に開示するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかに対して、例えば10個以下、8個以下、6個以下または4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗ZIKV抗体を含む
【0134】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むよう企図される。本発明のヒトmAbは、例えば、CDR、特にCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によってまたはインビボでの体細胞突変異によって導入された変異)によってコードされないアミノ酸残基を含み得る。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、別の哺乳類種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトFR配列へと移植されたmAbを含むよう企図されるものではない。この用語は、非ヒト哺乳類において、または非ヒト哺乳類の細胞において組換え産生された抗体を含む。この用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト被験体において生成された抗体を含むよう企図されるものではない。
【0135】
本明細書で使用する「組換え」という用語は、例えばDNAスプライシングおよび遺伝子導入発現を含む組換えDNA技術として当該技術分野で既知の技術または方法によって作製、発現、単離または得られた本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントを指す。この用語は、非ヒト哺乳類(トランスジェニック非ヒト哺乳類、例えばトランスジェニックマウスを含む)、もしくは細胞(例えば、CHO細胞)発現系において発現した抗体、または組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体を指す。
【0136】
「~を特異的に結合する」という用語もしくは「~へ特異的に結合する」という用語、またはこれらに類するものは、抗体またはその抗原結合フラグメントが、生理学的条件下で比較的安定である抗原と複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-7M以下の平衡解離定数を特徴とすることができる(例えば、より小さなKDはより緊密な結合を示す)。2つの分子が特異的に結合するかどうかを決定するための方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴、およびこれらに類するものを含む。本明細書で説明するように、抗体は、ZIKVへ特異的に結合する表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)によって識別されている。そのうえ、ZIKVにおける1つのドメインおよび1つ以上のさらなる抗原へ結合する多重特異性抗体またはZIKVの2つの異なる領域へ結合する二重特異性は、それにもかかわらず、本明細書で使用する「特異的に結合する」抗体とみなされる。
【0137】
「高親和性」抗体という用語は、表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)または溶液親和性ELISAによって測定されるように、少なくとも10-7M、好ましくは10-8M、より好ましくは10-9M、さらにより好ましくは10-10M、さらにより好ましくは10-11M、さらにより好ましくは10-12MのKDとして表される、ZIKVに対する結合親和性を有するmAbを指す。
【0138】
「緩徐なオフ速度」、「Koff」または「kd」という用語によって意味されるのは、速度定数が表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)によって測定されるような、1×10-3秒-1以下、好ましくは1×10-4秒-1以下である、ZIKVから解離する抗体、またはZIKV Eを表すウイルス様粒子である。
【0139】
抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語、およびこれらに類するものは、本明細書で使用する場合、抗原を特異的に結合して複合体を形成する何らかの天然の、酵素によって入手可能な、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の「抗原結合フラグメント」、または「抗体フラグメント」という用語は、本明細書で使用する場合、ZIKVへ結合する能力を保持する抗体の1つ以上のフラグメントを指す。
【0140】
具体的な実施形態において、本発明の抗体または抗体フラグメントは、ZIKVに起因する感染を治療するのに有用な抗ウイルス薬、第2の抗ZIKV抗体、または任意の他の治療部分など、このようなリガンドまたは治療部分(「免疫複合体」)の部分へ結合し得る。
【0141】
「単離された抗体」は、本明細書で使用する場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)を実質的に含まない抗体を指すよう企図される(例えば、ZIKVを特異的に結合する単離された抗体またはそのフラグメントは、ZIKV以外の抗原を特異的に結合するAbを実質的に含まない。
【0142】
「遮断抗体」または「中和抗体」は、本明細書で使用する場合、(または「ZIKV活性を中和する抗体」もしくは「アンタゴニスト抗体」)は、ZIKVへの結合がZIKVの少なくとも1つの生物活性の阻害をもたらす抗体を指すよう企図される。例えば、本発明の抗体は、宿主細胞へのZIKVの付着、融合および/または侵入を防止または遮断することができる。さらに、「中和抗体」とは、宿主における感染を開始および/または持続させる病原体の能力を中和することができる、すなわち防止、阻害、低減、妨害または干渉することができるものである。「中和抗体」および「中和する抗体(an antibody that neutralizes)」または「中和する抗体(antibodies that neutralize)」という用語は、本明細書で相互交換可能に使用される。これらの抗体は、単独でまたは組み合わせにおいて、適切な処方の際に他の抗ウイルス薬とともに予防薬または治療薬として、あるいは活性ワクチン接種と関連して、あるいは診断ツールとして使用することができる。
【0143】
「抗体依存性増強」または「ADE」とは、抗ウイルス抗体へ結合したときにウイルスがFc受容体を有する細胞に侵入し、この細胞における感染性の増大をもたらす機序である。ADEは、実験室で培養された細胞においては一般的であるが、フラビウイルス科のメンバーであるデングウイルスの感染を除き、インビボではほとんど起こらない。このウイルスは、この機序を用いてマクロファージを感染させ、通常軽度のウイルス感染が生命を脅かすこととなり得る。
【0144】
「表面プラズモン共鳴」という用語は、本明細書で使用する場合、例えばBIACORE(商標)システム(Pharmacia Biosensor AB,スウェーデン国ウプサラ市およびニュージャージー州ピスカタウェイ郡区)を用いて、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出によってリアルタイムでの生体分子相互作用の分析を可能にする光学現象を指す。
【0145】
「KD」という用語は、本明細書で使用する場合、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すよう企図される。
【0146】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして既知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は2つ以上のエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なる領域へ結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位も指す。この用語は、抗体が結合する抗原の領域も指す。エピトープは、構造的または機能的と定義され得る。機能的エピトープは概して、構造エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接寄与する残基を有する。エピトープは、立体配座的でもあり得、すなわち、非線形アミノ酸から構成され得る。ある特定の実施形態において、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基などの分子の化学的に活性のある表面群である決定基を含み得、ある特定の実施形態において、特異的三次元構造特徴および/または比電荷特徴を有し得る。
【0147】
「交差競合」という用語は、本明細書で使用する場合、抗原へ結合し、別の抗体またはその抗原結合フラグメントの結合を阻害または遮断する抗体または抗原結合フラグメントを意味する。この用語は、両方の配向における2つの抗体間の競合、すなわち結合して第2の抗体の結合を遮断する第1の抗体、およびその逆も含む。ある特定の実施形態において、第1の抗体および第2の抗体は、同じエピトープへ結合し得る。あるいは、第1および第2の抗体は、例えば、立体障害を介して、あるものの結合が第2の抗体の結合を阻害または遮断するように、異なってはいるが重複しているエピトープへ結合し得る。抗体間の交差競合は、当該技術分野で既知の方法によって、例えば、リアルタイムの無標識バイオ層干渉測定アッセイによって測定してもよい。試験抗体が本発明の参照抗ZIKV抗体と交差競合するかどうかを判定するために、参照抗体を飽和条件下でZIKV Eまたはペプチドへ結合させておく。次に、ZIKV Eへ結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が、参照抗ZIKV E抗体との飽和結合後にZIKV Eへ結合することができる場合、試験抗体は参照抗ZIKV抗体とは異なるエピトープへ結合すると結論づけることができる。その一方で、試験抗体が、参照抗ZIKV E抗体との飽和結合後にZIKV Eへ結合できない場合、試験抗体は、本発明の参照抗ZIKV Eによって結合したエピトープと同じエピトープへ結合し得る。
【0148】
「実質的な同一性」または「実質的に同一である」という用語は、核酸またはそのフラグメントを指す場合、別の核酸(またはその相補鎖)との適切なヌクレオチド挿入または欠失と最適に整列した場合、以下に考察するように、FASTA、BLASTまたはGAPなど、配列同一性の何らかの周知のアルゴリズムによって測定されるように、ヌクレオチド塩基の少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%または99%においてヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、ある特定の場合において、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができる。
【0149】
ポリペプチドへ適用される場合、「実質的な類似性」または「実質的に類似の」という用語は、2つのペプチド配列が、既定のギャップ重みを用いてプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列した場合、少なくとも90%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも95%、98%または99%の配列同一性を共有する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換だけ異なる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。概して、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させないことになっている。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換だけ互いに異なる場合、相同性の百分率または程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい。類似の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸の基の例としては、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに7)含硫側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.(1992)Science 256:1443 45に開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する何らかの変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度行列において負以外の値を有する何らかの変化である。
【0150】
ポリペプチドについての配列類似性は、典型的には、配列解析ソフトウェアを用いて測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む種々の置換、欠失および他の修飾へ割り当てられた類似性の測定値を用いて類似の配列と一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドのような密接に関連するポリペプチド間の、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間の配列相同性または配列同一性を決定するための既定パラメータとともに使用することができるGAPおよびBESTFITなどのプログラムを含有する。例えば、GCG第6.1版を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCG第6.1版におけるプログラムである、既定パラメータまたは推奨パラメータを備えたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列の間の最良重複の領域の整列およびパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)上述)。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを用いるコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、各々が参照により本明細書に組み込まれるAltschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410および(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402を参照されたい。
【0151】
「治療有効量」という句によって意味されるのは、所望の効果のために投与されて所望の効果を生じる量である。正確な量は、治療の目的によることになっており、既知の技術を用いて当業者によって確認できることになっている(例えば、Lloyd(1999)The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照されたい)。
【0152】
本明細書で使用する場合、「対象」という用語は、ウイルス感染などの疾患または障害の寛解、予防および/または治療を必要とする動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを指す。対象は、ZIKV感染症を有し得るか、またはZIKV感染を発症する素因がある。「ZIKV感染を発症しやすい」対象、または「ZIKV感染にかかりやすいリスクの高まった可能性のある」対象とは、自己免疫疾患のために免疫系が損なわれた対象、免疫抑制療法を受けている対象(例えば、臓器移植後)、ヒト免疫不全症候群(HIV)もしくは後天性免疫不全症候群(AIDS)に罹患している対象、ZIKVの爆発的流行を有していることがわかっている地域に居住しているもしくは訪れていて、かつ妊娠しているとみなされている女性に加えて、ZIKVの爆発的流行を有している地域に居住しているもしくは訪れている場合にZIKVへ曝露されたもしくは曝露された可能性のある妊婦、白血球を枯渇させるか破壊するある特定の型の貧血、放射線もしくは化学療法を受けている対象、または炎症性障害に罹患している対象である。さらに、非常に若年のまたは高齢の対象はリスクが高まっている。感染した動物もしくはヒト患者との物理的な接触もしくは密接な物理的緊密性がある、または感染した動物もしくはヒト患者に由来する体液もしくは組織へ曝露された何らかの人は、ZIKV感染を発症するリスクが高まっている。そのうえ、対象は、この疾患の爆発的流行に近いためにZIKV感染にかかるリスクがあり、例えば、対象は、人口密度の高い都市に、またはZIKVの感染が確認されもしくは疑われた対象に緊密に居住しており、あるいは雇用の選択、例えば、病院勤務者、医薬研究者、またはZIKVの爆発的流行を有していることがわかっているかもしくは疑われる地域もしくは国を訪れたもしくは訪れることを計画中である個人である。ZIKV感染症に罹患した場合、対象において重度の転帰のリスクも高まる。妊婦がZIKVに感染すると、小頭症または他の発達異常を伴って生まれるかもしれないリスクが高まる。したがって、女性が妊娠しているか、または子供を妊娠しているとみなされていて、ZIKVの爆発的流行がある地域に住んでいるか、ZIKVの爆発的流行がある地域を訪れているか、ZIKVを保有している蚊を有していることがわかっている地域にいる場合、彼女はZIKV感染にかかるリスクがある。対象をZIKVへ曝露した後ではギラン・バレー症候群を発症するリスクも高まる。
【0153】
本明細書で使用する場合、「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、本発明の抗体などの治療剤を必要とする対象へのこの治療剤の投与による、ZIKV感染の少なくとも1つの症状または徴候の重症度の軽減または寛解を指す。この用語には、疾患の進行の抑制または感染の悪化の抑制が含まれる。この用語には、疾患の正の予後も含まれ、すなわち、本発明の抗体などの治療剤の投与の際に対象は感染がなくてもよく、またはウイルス力価が低下しているか、もしくは全くなくてもよい。治療剤は、対象へ治療量で投与され得る。
【0154】
「予防する」、「予防すること」または「予防」という用語は、本発明の抗体の投与の際の、ZIKV感染の症状発現の抑制またはZIKV感染の何らかの症状もしくは徴候の抑制を指す。この用語には、ウイルスへ曝露されたまたはZIKV感染を有するリスクがある対象における感染の広がりの予防が含まれる。
【0155】
本明細書で使用する場合、「抗ウイルス薬」という用語は、化学的部分であろうと生物学的療法であろうと、対象におけるウイルス感染を治療、予防、または寛解するために使用される、何らかの抗感染剤または抗感染療法を指す。例えば、本発明において、抗ウイルス薬には、ZIKVに対する抗体(一実施形態において、ZIKVに対する抗体は、本明細書に説明される抗体とは異なることがある)、ZIKVに対するワクチン、直接作用性抗ウイルス剤、およびインターフェロン(または他の免疫調節薬)が含まれ得るが、これらに限定されない。本発明において、治療されることになっている感染は、ZIKVによって引き起こされる。
【0156】
一般的な説明
ZIKV感染とは概して、健康な対象における軽度の疾患であるが、ウイルスへ曝露された妊婦は、小頭症または他の発達異常を有する乳児を出産するリスクがある。このウイルスは、フラビウイルス科の一員である。
【0157】
このウイルスのゲノムは、長さおよそ11kbの一本鎖のポジティブセンスRNAからなり、約10個の遺伝子をコードする。ジカビリオンは、カプシドタンパク質(C)、膜タンパク質/前膜タンパク質(M/prM)、およびエンベロープ糖タンパク質(E)の3つの構造タンパク質を含有する。ウイルスゲノムは、7つの非構造タンパク質もコードする。
【0158】
ZIKV Eへ特異的に結合し、ZIKVと宿主細胞との相互作用を調節する、完全ヒト抗体およびその抗原結合フラグメントが本明細書に説明される。抗ZIKV E抗体は、高親和性でZIKVへ結合し得る。ある特定の実施形態において、本発明の抗体は、細胞へのウイルスの付着を予防し得るか、または宿主細胞膜へのウイルスの融合を遮断し得る。そうすることで、抗体は細胞へのウイルス侵入を遮断し、このようにして宿主細胞のウイルス感染を抑制または中和する。いくつかの実施形態において、抗体は、ZIKV感染に罹患している対象、またはZIKV感染を獲得するリスクがある対象(例えば、ZIKVの爆発的流行を有する国に住んでいるか、またはその国を訪れている妊婦)を治療するために有用であり得る。抗体は、それを必要とする対象へ投与された場合、対象におけるZIKVのようなウイルスによる感染を低減し得る。抗体は、対象におけるウイルス量を減少させるために使用され得る。抗体は、単独で、またはウイルス感染を治療するための当該技術分野で既知の他の治療部分または治療様式を用いた補助療法として使用され得る。識別された抗体は、哺乳類を感染から保護するために予防上(感染前に)使用することができ、または既に確立された感染を寛解するために、もしくは感染と関連した少なくとも1つの症状を寛解するために治療上使用することができる。
【0159】
例示的なZIKVポリタンパク質の完全長アミノ酸配列は、受託番号ALU33341.1としてGenBankにおいて、および配列番号353においても示されている。ZIKV Eのフラグメントは、配列番号354または355に示されるようなヒスチジンタグへカップリングし得る。ある特定の実施形態において、本発明の抗体は、prMと、またはZIKV Eの組換え形態もしくはそのフラグメントまたはprMおよびEからなる粒子と同時発現する完全長ZIKV Eなどの一次免疫原を用いて免疫化した後に、二次免疫原を用いて、またはZIKV Eの免疫原として活性のあるフラグメントを用いて免疫化したマウスから得られる。ある特定の実施形態において、抗体は、ZIKV prM/EをコードするDNAで免疫化したマウスから得られる。
【0160】
免疫原は、ZIKV Eの生物活性のあるおよび/もしくは免疫原性フラグメントまたはその活性のあるフラグメントをコードするDNAであり得る。フラグメントは、ウイルスEの何らかの領域に由来し得る。ペプチドは、タグ付けのために、またはKLHなどの担体分子への結合の目的のために、ある特定の残基の付加または置換を含むように修飾され得る。例えば、システインは、ペプチドのN末端もしくはC末端のいずれかに付加されてもよく、またはリンカー配列を付加して、例えば、免疫化のためのKLHへの結合のためのペプチドを調製してもよい。
【0161】
本発明のある特定の抗ZIKV抗体は、インビトロアッセイまたはインビボアッセイによって測定されるように、ZIKVへ結合してその活性を中和することができる。本発明の抗体がZIKVへ結合してその活性を中和する能力、したがって宿主細胞へのウイルスの付着および/または侵入に続いて結果として起こるウイルス感染は、本明細書に説明されるような、結合アッセイまたは活性アッセイを含む、当業者に既知の何らかの標準的な方法を用いて測定され得る。
【0162】
結合活性を測定するための非限定的な、例示的なインビトロアッセイは、本明細書の実施例3に説明されている。実施例3において、抗ZIKV Eの結合を、prM/Eを発現する細胞において産生されたウイルス様粒子(VLP)への結合を評価することによって測定した。実施例4において、平衡解離定数を、Biacore4000機におけるリアルタイム表面プラズモン共鳴を用いて測定した。中和アッセイを用いて、実施例5におけるZIKVの感染力に及ぼす抗ジカ抗体の効果を測定した。実施例6において交差競合アッセイを実施して、抗ジカ抗体の交差反応性を測定した。
【0163】
ZIKV Eに特異的な抗体は、さらなる標識もしくは部分を含有していないことがあるか、またはN末端もしくはC末端の標識もしくは部分を含有していることがある。一実施形態において、標識または部分はビオチンである。結合アッセイにおいて、標識(存在する場合)の位置は、ペプチドが結合した表面に対するペプチドの向きを決定し得る。例えば、表面がアビジンでコーティングされている場合、N末端ビオチンを含有するペプチドは、このペプチドのC末端部分が表面から遠位になるように向けられることになっている。一実施形態において、標識は放射性核種、蛍光色素またはMRI検出可能標識であり得る。ある特定の実施形態において、このような標識された抗体は、撮像アッセイを含む診断アッセイにおいて使用され得る。
【0164】
抗体の抗原結合フラグメント
別段の具体的な記載がない限り、「抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、2つの免疫グロブリン重鎖および2つの免疫グロブリン軽鎖を含む抗体分子(すなわち、「完全抗体分子」)ならびにその抗原結合フラグメントを包含すると理解される。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語、およびこれらに類するものは、本明細書で使用する場合、天然の、酵素によって入手可能な、合成の、または遺伝子操作された、抗原を特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の「抗原結合フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、本明細書で使用する場合、ZIKVへ特異的に結合する能力を保有する抗体の1つ以上のフラグメントを指す。抗体フラグメントは、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメント、dAbフラグメント、CDRを含有するフラグメント、または単離されたCDRを含み得る。ある特定の実施形態において、「抗原結合フラグメント」という用語は、多重特異性抗原結合分子のポリペプチドフラグメントを指す。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、DNAコード抗体可変ドメインおよび(場合により)定常ドメインの操作および発現を包含するタンパク質消化技術または組換え遺伝子操作技術などの何らかの適切な標準的技術を用いて、完全抗体分子から得られ得る。このようなDNAは既知であり、および/または例えば市販の供給源、DNAライブラリー(例えばファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、または合成することができる。DNAは、例えば、1つ以上の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを適切な配置変更と配置し、またはコドンを導入し、システイン残基を作製し、アミノ酸を修飾、付加もしくは欠失などするために、化学的にまたは分子生物学技術を用いて配列決定および操作され得る。
【0165】
抗原結合フラグメントの非限定例としては、(i)Fabフラグメント、(ii)F(ab’)2フラグメント、(iii)Fdフラグメント、(iv)Fvフラグメント、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAbフラグメント、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基または拘束FR3-CDR3-FR4ペプチドからなる最小認識単位が挙げられる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小型モジュール型免疫医薬品(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子も、本明細書で使用する「抗原結合フラグメント」という表現内に包含される。
【0166】
抗体の抗原結合フラグメントは、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含むことになっている。可変ドメインは、何らかの大きさまたはアミノ酸組成物であり得、概して、1つ以上のフレームワーク配列に隣接しているかまたは1つ以上のフレームワーク配列とともにインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインと結合したVHドメインを有する抗原結合フラグメントにおいて、VHドメインおよびVLドメインは、何らかの適切な配置で互いに対して配置され得る。例えば、可変領域は二量体であり、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含有し得る。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体のVHドメインまたはVLドメインを含有し得る。
【0167】
ある特定の実施形態において、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインへ共有結合した少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内に認められ得る可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的な立体配置には、(i)VH-CH1、(ii)VH-CH2、(iii)VH-CH3、(iv)VH-CH1-CH2、(v)VH -CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3、(vii)VH-CL、(viii)VL-CH1、(ix)VL-CH2、(x)VL-CH3、(xi)VL-CH1-CH2、(xii)VL-CH1-CH2-CH3、(xiii)VL-CH2-CH3、および(xiv)VL-CLが含まれる。先に列挙した例示的な立体配置のいずれかを含む、可変ドメインおよび定常ドメインの何らかの立体配置において、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結されていてもよく、または完全もしくは部分的ヒンジ領域もしくはリンカー領域によって連結されていてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間の可撓性または半可撓性の結合をもたらす少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれより多数の)アミノ酸からなり得る。そのうえ、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、互いとのおよび/または1つ以上の単量体VHドメインもしくはVLドメインとの非共有結合において、先に列挙した可変ドメイン立体配置および定常ドメイン立体配置の何らかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含み得る。
【0168】
完全抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは、単一特異性または多重特異性(例えば、二重特異性)であり得る。抗体の多重特異性抗原結合フラグメントは、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含むことになっており、各可変ドメインは、別個の抗原へまたは同じ抗原上の異なるエピトープへ特異的に結合することができる。本明細書に開示される例示的な二重特異性抗体フォーマットを含む何らかの多重特異性抗体フォーマットは、当該技術分野で利用可能な通例の技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合フラグメントの脈絡における使用に適合し得る。
【0169】
ヒト抗体の調製
トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を作製する方法は、当該技術分野で既知である。ZIKV Eへ特異的に結合するヒト抗体を作製するために、いずれかのこのような既知の方法を本発明の脈絡において使用することができる。ZIKVに対する抗体を生成するために、以下のいずれか1つを含む免疫原を使用することができる。ある特定の実施形態において、本発明の抗体は、prM/Eまたはそのフラグメントからなる完全長ZIKVポリタンパク質のフラグメント(例えば、GenBank受託番号ALU33341.1(配列番号353)を参照されたい)で免疫化したマウスから得られる。あるいは、ZIKV Eまたはそのフラグメントは、標準的な生化学的技術を用いて産生され得、免疫原として修飾および使用され得る。一実施形態において、免疫原は、組換え産生されたZIKV Eまたはそのフラグメントである。本発明のある特定の実施形態において、免疫原は市販のZIKV Eであってもよい。ある特定の実施形態において、1回以上のブースター注射が投与され得る。ある特定の実施形態において、ブースター注射は、1つ以上の市販のZIKVエンベロープ糖タンパク質を含み得る。ある特定の実施形態において、免疫原は、大腸菌においてまたはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの何らかの他の真核細胞もしくは哺乳類細胞において発現した組換えZIKV Eであり得る。
【0170】
モノクローナル抗体を生成するためにVELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541,Regeneron Pharmaceuticals,VELOCIMMUNE(登録商標)を参照されたい)または何らかの他の既知の方法を使用して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、ZIKV Eに対する高親和性キメラ抗体をまず単離する。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが抗原刺激に対する応答においてヒト可変領域とマウス定常領域とを含む抗体を産生するように、ヒト重鎖可変領域とヒト軽鎖可変領域とを含むゲノムが内在性マウス定常領域座へ操作可能に連結されたトランスジェニックマウスの生成を包含する。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖定常領域およびヒト軽鎖定常領域をコードするDNAへ操作可能に連結する。次に、完全ヒト抗体を発現することができる細胞においてDNAを発現させる。
【0171】
概して、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスに関心対象の抗原を負荷し、抗体を発現するマウスからリンパ細胞(B細胞など)を回収さする。リンパ細胞を骨髄腫細胞株と融合させて不死化ハイブリドーマ細胞株を調製し得、関心対象の抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を識別するためにこのようなハイブリドーマ細胞株をスクリーニングおよび選択する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し得、重鎖および軽鎖の望ましいアイソタイプ定常領域へ連結することができる。このような抗体タンパク質は、CHO細胞などの細胞において産生され得る。あるいは、抗原特異的キメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードするDNAを抗原特異的リンパ球から直接単離することができる。
【0172】
まず、ヒト可変領域とマウス定常領域とを有する高親和性キメラ抗体を単離する。以下の実験セクションと同様に、抗体を、親和性、選択性、エピトープなどを含む望ましい特徴について特徴付け、選択する。マウス定常領域を、所望のヒト定常領域で置換して、例えば本発明の完全ヒト抗体、例えば、野生型のまたは修飾されたIgG1またはIgG4を生成する。選択した定常領域は特定の用途に応じて変化し得るが、高親和性抗原結合特徴および標的特異性特徴は可変領域に存在する。
【0173】
生物学的等価物
本発明の抗ZIKV E抗体および抗体フラグメントは、説明された抗体のアミノ酸配列とは異なるがZIKVと反応する能力を保有するアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。このような変異体抗体および抗体フラグメントは、親配列と比較してアミノ酸の1つ以上の付加、欠失、または置換を含むが、説明された抗体の生物学的活性とは本質的に等価である生物学的活性を呈する。同様に、本発明の抗体コードDNA配列は、開示された配列と比較してヌクレオチドの1つ以上の付加、欠失、または置換を含むが、本発明の抗体または抗体フラグメントと本質的に生物学的に等価である抗体または抗体フラグメントをコードする配列を包含する。
【0174】
2つの抗原結合タンパク質または抗体は、例えば、それらが類似の実験条件下で単回用量または複数回用量のいずれかで同じモル用量で投与された場合に、吸収速度および吸収の程度が有意差を示さない医薬的等価物または医薬的選択肢である場合、生物学的等価物とみなされる。いくつかの抗体は、これらの吸収の程度は等価であるが吸収速度は等価ではなく、吸収速度のこのような差が意図的であり、標識することに反映されているので生物学的に等価とみなされ得る場合、等価物または医薬選択肢とみなされることになっており、例えば長期使用に及ぼす有効な身体薬剤濃度の達成に必須ではなく、研究した特定の薬剤製品にとって医学的に有意ではないとみなされる。
【0175】
一実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、これらの安全性、純度、または効力において臨床的に意味のある差がない場合、生物学的に等価である。
【0176】
一実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、免疫原性の臨床的に有意な変化または有効性の減退を含む有害作用のリスクの期待される上昇なしで参照製品と生物製品の間での切り替えなしで持続される療法と比較して、患者が1回以上切り替えられることができる場合、生物学的に等価である。
【0177】
一実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、これらが両方とも、1つまたは複数の使用条件についての1つのまたは複数の共通の作用機序によって、このような機序が既知である程度まで作用する場合、生物学的に等価である。
【0178】
生物学的等価性は、インビボおよび/またはインビトロの方法によって実証され得る。生物学的等価性測定法には、例えば、(a)抗体またはその代謝産物の濃度が血液、血漿、血清または他の生物学的流体中で時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボでの試験、(b)ヒト生物学的利用能データと相関した、このデータを合理的に予測しているインビトロ試験、(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理学的効果が時間の関数として測定されるヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験、および(d)抗体の安全性、効能、または生物学的利用能もしくは生物学的等価性を確立する、十分に管理された臨床試験が含まれる。
【0179】
本発明の抗体の生物学的に等価な変異体は、例えば、残基もしくは配列の種々の置換を生じること、または生物活性に必要とされない末端もしくは内部の残基もしくは配列を欠失することによって構築され得る。例えば、生物学的活性にとって必須ではないシステイン残基は、再生の際の不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために、欠失または他のアミノ酸で置換することができる。他の脈絡において、生物学的に等価の抗体には、抗体のグリコシル化特徴を修飾するアミノ酸変化、例えばグリコシル化を排除または除去する変異を含む抗体変異体が含まれ得る。
【0180】
Fc変異体を含む抗ZIKV抗体
本発明のある特定の実施形態によると、FcRn受容体への抗体結合を減退させる1つ以上の変異を含むFcドメインを含む抗ZIKV抗体を調製することができる。
【0181】
一実施形態において、本発明は、キメラ重鎖定常(CH)領域を含む抗ZIKV抗体を含み、キメラCH領域は、2つ以上の免疫グロブリンアイソタイプのCH領域に由来するセグメントを含む。例えば、本発明の抗体は、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子またはヒトIgG4分子に由来するCH3ドメインの一部または全部と組み合わせて、ヒトIgG1分子、ヒトIgG2分子またはヒトIgG4分子に由来するCH2ドメインの一部または全部を含むキメラCH領域を含み得る。ある特定の実施形態によると、本発明の抗体は、キメラヒンジ領域を有するキメラCH領域を含む。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列(EU番号付けによる位置228~236のアミノ酸残基)と組み合わされた、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」アミノ酸配列(EU番号付けによる位置216~227のアミノ酸残基)を含むことができる。ある特定の実施形態によると、キメラヒンジ領域は、ヒトIgG1上部ヒンジまたはヒトIgG4上部ヒンジに由来するアミノ酸残基と、ヒトIgG2下部ヒンジに由来するアミノ酸残基とを含む。本明細書に説明されるキメラCH領域を含む抗体は、ある特定の実施形態において、抗体の治療特性または薬物動態学的特性に負に影響を与えることなく修飾Fcエフェクター機能を呈し得る。(例えば、その開示が全体として参照により本明細書により組み込まれる米国特許第9,359,437号を参照されたい)。
【0182】
本発明のある特定の実施形態において、本発明の脈絡における使用のための修飾Fcドメインは、配列番号356に示されるアミノ酸配列を含むIgG1 Fcを含み得る。あるいは、本発明の脈絡における使用のための修飾Fcは、配列番号357または配列番号358に示されるアミノ酸配列を含むIgG4 Fcを含み得る。本発明の脈絡において使用することのできる非限定的な例示的な修飾Fc領域は、その開示が全体として参照により本明細書により組み込まれる米国特許第9,359,437号およびUS62/140,350に示されている修飾Fc領域の何らかの機能的に等価の変異体と同様に示されている。
【0183】
ある特定の実施形態において、本発明には、以下の変異:M131Y、S133TおよびT135E(配列番号358において番号付けされた残基に基づく)を有するFcドメインを含む抗ZIKV E抗体も含まれ、この変異は、抗体の血清半減期の延長を準備する。
【0184】
本発明の脈絡において使用することができる他の修飾FcドメインおよびFc修飾には、その開示がそれらの全体として参照により本明細書により組み込まれるUS2014/0171623、US8,697,396、US2014/0134162、WO2014/043361において示される修飾のうちの何らかが含まれる。本明細書に説明される修飾Fcドメインを含む抗体または他の抗原結合融合タンパク質を構築する方法は、当該技術分野で既知である。
【0185】
抗体依存性増強
抗体依存性増強(ADE)とは、抗ウイルス抗体へ結合したときにウイルスがFc受容体を有する細胞に侵入し、細胞における感染力の上昇をもたらす機序である。ADEは、多くのウイルス(ZIKVを含む)についてインビトロで実証されてきたが、ヒトにおけるADEについての唯一の注目せざるを得ないデータはデングウイルス感染に由来する。このウイルスは、この機序を利用してマクロファージを感染させ、通常軽度のウイルス感染を、生命を脅かすものとさせることができる。例えば、初回デング熱ウイルス感染は、自己制限有熱性疾患であるデング熱(DF)による症例の大部分について臨床的に明らかにされている。まれに致死的ではあるが、DFはしばしば重度の播種性の身体痛、頭痛、発熱、発疹、リンパ節腫および白血球減少症を特徴とする。異種性デング熱ウイルスによるその後の感染は、デング出血熱(DHF)またはデングショック症候群(DSS)の致命的な疾患へとはるかにより重症にする可能性がある。一次感染を引き起こす血清型に対する抗体の存在は、二次感染における異種性血清型による感染を増強するという仮説が立てられている。このような二次感染の間に、異なる血清型のデングウイルスでは、中和していない交差反応性抗体は、単球およびランゲルハンス細胞(樹状細胞)に取り込まれ、感染細胞の数を増加させるウイルス-抗体複合体を形成する。このことは、細胞傷害性リンパ球の活性化をもたらし、このことが、血漿漏出ならびにDHFおよびDSSに特徴的な出血性特徴をもたらし得る。この感染の抗体依存性増強は、デング熱ウイルスに対する成功したワクチンの開発が非常に困難であると立証した1つの理由である。あまり頻繁ではないが、DHF/DSSは一次感染の後に起こる可能性があるので、ウイルス毒力および免疫活性化もこの疾患の病原性に寄与すると考えられている。
【0186】
ZIKV感染は、ZIKVと密接に関連しているデングウイルスへ既に曝露された地域において起こる。さらに、最近、デングウイルスに対する患者免疫由来の血漿がZIKVに対して実質的な交差反応性を示すことが示されている。加えて、デングウイルスエンベロープタンパク質と反応するヒト血清およびヒト抗体のパネルを用いて、これらの抗体もZIKVと反応することが示された。これらの抗体のいくつかは、ZIKVを結合することができたが、ウイルスを中和することはできず、代わりにインビトロでADEを促進した。
【0187】
ADEが起こる提唱された機序とは、豊富なFcγRを含有するが低レベルの他のウイルス付着因子を含有する細胞の表面へウイルスを結合させることによるものである。このことは、他のウイルス付着因子の非存在下での細胞内在化をもたらし、正常な感染経路によるウイルス感染を開始する。
【0188】
ある特定の実施形態において、本発明の抗ZIKV抗体は、エフェクター機能が低下した修飾Fcドメインを含む。本明細書で使用する場合、「エフェクター機能が低下した修飾Fcドメイン」は、修飾FcがFc部分の野生型の天然版を含む比較分子と比較して、細胞殺滅(例えば、ADCCおよび/またはCDC)、補体活性化、食作用およびオプソニン化からなる群から選択される少なくとも1つの作用の重症度または程度の低減を呈するように、野生型の天然のFcドメインと比較して、修飾され、変異し、切断された免疫グロブリンの何らかのFc部分を意味する。ある特定の実施形態において、「エフェクター機能が低下した修飾Fcドメイン」とは、Fc受容体(例えば、FcγR)への結合が低下または弱化したFcドメインである。
【0189】
したがって、本発明のある特定の実施形態において、抗ZIKV抗体は、ウイルスを中和する能力を維持すると同時に、そうすることで、正常なウイルス付着および/または融合の中和を通じてウイルス感染力の低下を可能にすると同時に、ADEが生じるのを防止するよう作用しながら、マクロファージおよびFc受容体を有する他の細胞上のFc受容体への結合の低下を可能にする抗体のFc領域に対する修飾を含む。
【0190】
ある特定の実施形態によると、エフェクター機能が低下した修飾Fcドメインとは、先に説明したように、配列番号357(位置131、133および135でのYTE修飾を伴わない)または位置358(位置131、133および135でのYTE修飾を有する)のいずれかに示されるアミノ酸配列を含む変異体IgG4 Fcである。このように、YTE修飾のない変異体IgG4 Fcを有する抗体は、抗体依存性増強を実証しないであろうし、半減期の延長を有しないであろう(例えば、配列番号367/368のHC/LCを有するH4H25703N)のに対し、YTE修飾を有する変異体IgG4 Fc(例えば、配列番号369/368のHC/LCを有するH4H25703)を有する抗体は、抗体依存性増強を実証しないであろうが、半減期の延長を有するであろう。このように、野生型IgG4 Fcと比較して、抗体のエフェクター機能の低下およびより長い血清半減期のいずれか一方または両方をもたらすFc修飾を行うことができる。
【0191】
本発明の一態様において、本発明は、ZIKVを中和するヒト抗体、抗体変異体、またはこれらの抗原結合フラグメントを含み、抗体、抗体変異体、または抗原結合フラグメントは、ZIKV感染の抗体依存性増強に寄与しない。一実施形態において、本発明は、ZIKVを中和するヒト抗体、抗体変異体、またはその抗原結合フラグメントを含み、抗体、抗体変異体、または抗原結合フラグメントは、Fc領域において変異を含み、この変異は、Fc受容体への抗体の結合を低下させる。
【0192】
本発明の別の実施形態において、本発明は、ZIKV Eを結合する2つ以上のヒト抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を含む。抗体または抗原結合フラグメントは、細胞へのウイルスの付着を防止し得るか、または宿主細胞膜へのウイルスの融合を防止し得、このように、細胞へのウイルスの侵入および細胞内の複製を防止し、ZIKV感染の抗体依存性増強に寄与しない。
【0193】
抗体の生物学的特徴
概して、本発明の抗体は、ZIKVエンベロープ糖タンパク質(E)へ結合することによって機能する。例えば、本発明は、例えば、本明細書に説明されるアッセイフォーマットを用いた表面プラズモン共鳴によって測定されるように、10-7M未満のKDでZIKV Eを(例えば、25℃または37℃で)結合する抗体および抗体の抗原結合フラグメントを含む。ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、本明細書に説明されるアッセイフォーマットを用いた表面プラズモン共鳴または実質的に類似のアッセイによって測定されるように、約100nM未満、約50nM未満、約5nM未満、約1nM未満、約500pM未満、250pM未満、約100pM未満、または約1pM未満のKDでZIKV Eを結合する。
【0194】
本発明はまた、例えば、本明細書で定義されたアッセイフォーマットを用いて25℃で表面プラズモン共鳴によって、または実質的に類似のアッセイを使用して測定されるような約0.5分を超える、または37℃で表面プラズモン共鳴によって測定されるような約0.3分を超える解離半減期(t1/2)でZIKVを結合する抗体およびその抗原結合フラグメントも含み、pH7.4に対するpH5.4またはpH6での解離半減期(t1/2)の変化を実証してもよくまたは実証しなくてもよい。ある特定の実施形態において、本発明の抗体または抗原結合フラグメントは、25℃でまたは37℃で、例えば本明細書で定義されるアッセイフォーマット(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉フォーマット)を用いる表面プラズモン共鳴または実質的に類似のアッセイによって測定されるような約10分超、約30分超、約60分超、約100分超、約200分超、約300分超、約400分超、約500分超、約600分超、約700分超、約800分超、約900分超、または約1000分超のt1/2でZIKVを結合する。
【0195】
本発明は、ZIKVの宿主細胞に対するZIKVの感染力を中和する抗体またはその抗原結合フラグメントも含む。いくつかの実施形態において、抗体は、約10-11M~約10-9Mの範囲のIC50でZIKVに対する中和効力を呈する。本発明の抗体は、MR766(ウガンダ1947)、PRVABC59(プエルトリコ2015)、およびFLR(コロンビア2015)を含むZIKV株との交差反応もする。本発明の抗体は、約80pM~約150nMの範囲のEC50でZIKV prM/Eを発現する細胞に由来するVLPへも結合する。さらに、本発明の抗体は、ZIKV Eを結合する他の抗体と交差競合する。
【0196】
一実施形態において、本発明は、ZIKVおよび/またはZIKV Eへ特異的に結合する単離された組換え抗体またはその抗原結合フラグメントを提供し、この抗体は、以下の特徴:
(a)配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、290、306、322および338からなる群から選択される重鎖可変領域(HCVR)配列のいずれか1つの内部に含有される3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、298、314、330および346からなる群から選択される軽鎖可変領域(LCVR)配列のいずれか1つの内部に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、
(b)完全ヒトモノクローナル抗体であり、
(c)約80pM~約150nMの範囲のEC50でジカprM/Eを発現するVLPへ結合し、
(d)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定されるように、10-7M未満の解離定数(KD)でZIKV Eへ結合し、
(e)pH7.4に対するpH5またはpH6での解離半減期(t1/2)の変化を示しても示さなくてもよく、
(f)約10-11M~約10-9Mの範囲のIC50でZIKVの中和を示し、
(g)ZIKV感染動物におけるインビボでの防御作用を示し、
(h)参照抗体と交差競合する、の1つ以上を有し、参照抗体は、表1のHCVRアミノ酸配列およびLCVRアミノ酸配列のいずれかからなる群から選択される重鎖可変領域(HCVR)と軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列とを含む。
【0197】
本発明の抗体は、上述の生物学的特徴の1つ以上、またはこれらの何らかの組み合わせを有することができる。本発明の抗体の特性のいくつかを以下に要約する。本発明の抗体の他の生物学的特徴は、本明細書で機能する実施例を含む本開示の再吟味から当業者に明らかであることになっている。
【0198】
エピトープマッピングおよび関連技術
本発明は、ZIKVのE内に認められる1つ以上のアミノ酸と相互作用する抗ZIKV抗体を含む。抗体が結合するエピトープは、3つ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多数)のZIKV E(例えばドメイン中の線状エピトープ)内に位置するアミノ酸の単一連続配列を含み得る。あるいは、エピトープは、ZIKV E(例えば、立体配座エピトープ)内に位置する複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなっていてもよい。
【0199】
当業者に既知の種々の技術を用いて、抗体がポリペプチドまたはタンパク質内にある「1つ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかを判定することができる。例示的な技術としては、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY)に説明されているような通例の交差遮断アッセイが挙げられる。他の方法には、アラニン走査変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke(2004)Methods Mol.Biol.248:443-63)、ペプチド切断分析結晶学的研究およびNMR分析が含まれる。加えて、エピトープ切除、エピトープ抽出および抗原の化学修飾などの方法を採用することができる(Tomer(2000)Prot.Sci.9:487-496)。抗体が相互作用するポリペプチドの内部にあるアミノ酸を識別するために用いることができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的にいえば、水素/重水素交換法は、関心対象のタンパク質を重水素標識した後、抗体を重水素標識タンパク質へ結合させることを包含する。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移し、抗体複合体によって保護されたアミノ酸の内部にある交換可能なプロトンは、界面の一部ではないアミノ酸の内部にある交換可能なプロトンよりも低速で重水素から水素への逆交換を受ける。結果として、タンパク質/抗体界面の一部を形成するアミノ酸は、重水素を保持することができ、それゆえ、界面に含まれないアミノ酸と比較して相対的に大きな質量を呈する。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断および質量分析へ供し、それにより、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267:252-259、Engen and Smith(2001)Anal. Chem.73:256A-265Aを参照されたい。
【0200】
「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、タンパク質の三次元折りたたみによって並置された連続的なアミノ酸または非連続的なアミノ酸の両方から形成されることができる。連続的なアミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒への曝露の際に保持されるのに対し、三次元折りたたみによって形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒を用いた処理の際に失われる。エピトープは、典型的には、独特の空間的立体配座で少なくとも3個、より通常は少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を含む。
【0201】
抗原構造ベースの抗体プロファイリング(ASAP)としても既知の修飾支援プロファイリング(MAP)とは、化学的にまたは酵素により修飾された抗原表面に対する各抗体の結合特性の類似性により、同じ抗原に対する多数のモノクローナル抗体(mAb)をカテゴリー分類する方法である(そのすべてが全体として参照により本明細書に具体的に組み込まれるUS2004/0101920を参照されたい)。各カテゴリーは、別のカテゴリーによって表されるエピトープとは明確に異なるか、または部分的に重複するかのいずれかの独特のエピトープを反映し得る。この技術は、特徴づけが遺伝的に異なる抗体に的を絞ることができるよう、遺伝的に同一の抗体の迅速なフィルタリングを可能にする。ハイブリドーマスクリーニングへ適用する場合、MAPは、所望の特徴を有するmAbを産生する稀なハイブリドーマクローンの識別を容易にし得る。MAPを使用して、本発明の抗体を、異なるエピトープを結合する抗体の群に選別することができる。
【0202】
ある特定の実施形態において、ZIKV抗体またはその抗原結合フラグメントは、ZIKV Eにおいて例示される何らかの1つ以上の領域の内部にあるエピトープを、天然形態で、または組換え産生されてかのいずれかで結合するか、またはそのフラグメントへ結合する。
【0203】
一実施形態において、H4H25703N抗体およびH4H25619P抗体を用いてエスケープ変異体を生成した。これらの研究の結果は、セリンからフェニルアラニンへの変化が、変異したEタンパク質への結合の喪失をもたらし、また、H4H25703N抗体のウイルス中和能力の喪失ももたらしたので、配列番号376の位置302のセリンがEタンパク質へ結合するH4H25703N抗体において役割を担っていることを実証した。同様に、H4H25619P抗体を使用して生成されたエスケープ変異体を用いた結果は、配列番号376の位置311のトレオニンからイソロイシンへの変化および位置369のリジンからグルタミン酸への変化が、変異したEタンパク質への抗体の結合の喪失をもたらし、H4H25619P抗体のウイルス中和能力の喪失ももたらしたので、配列番号376の位置311位のトレオニンおよび配列番号376の位置369のリジンがEタンパク質へのH4H25619Pの結合において役割を担っていることを実証した。
【0204】
本発明は、同じエピトープまたはこのエピトープの一部へ結合する抗ZIKV E抗体を含む。同様に、本発明は、ZIKV Eまたはそのフラグメントへの結合について、本明細書に説明する特定の例示的な抗体のいずれかと競合する抗ZIKV E抗体も含む。例えば、本発明は、ZIKVへの結合について、表1および表2に説明する抗体から得られた1つ以上の抗体と交差競合する抗ZIKV E抗体を含む。
【0205】
当該技術分野で既知の通例の方法を使用することによって、抗体が参照抗ZIKV E抗体と同じエピトープへ結合するか、または結合について参照抗ZIKV E抗体と競合するかを容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本発明の参照抗ZIKV E抗体と同じエピトープへ結合するかどうかを決定するために、参照抗体を飽和条件下でZIKV Eまたはペプチドへ結合させておく。次に、ZIKV Eへ結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が、参照抗ZIKV E抗体との飽和結合後にZIKV Eへ結合することができる場合、この試験抗体は参照抗ZIKV抗体とは異なるエピトープへ結合すると結論づけることができる。その一方で、試験抗体が、参照抗ZIKV E抗体との飽和結合後にZIKV Eへ結合できない場合、試験抗体は、本発明の参照抗ZIKV E抗体によって結合したエピトープと同じエピトープへ結合し得る。
【0206】
抗体が参照抗ZIKV E抗体との結合について競合するかどうかを決定するために、上述の結合方法を2つの向きで実施する。第1の向きにおいて、参照抗体を飽和条件下でZIKV Eへ結合させておいた後、ZIKV Eへの試験抗体の結合を評価する。第2の向きにおいて、試験抗体を飽和条件下でZIKV Eへ結合させておいた後、ZIKV Eへの参照抗体の結合を評価する。両方の向きにおいて、第1の(飽和している)抗体のみがZIKV Eへ結合することができる場合、試験抗体および参照抗体はZIKV Eへの結合について競合すると結論づけられる。当業者によって認識されることになっているように、参照抗体との結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープへ結合する必要はないかもしれないが、重複しているまたは隣接しているエピトープを結合することによって、参照抗体の結合を立体的に遮断するかもしれない。
【0207】
2つの抗体は、それぞれが抗原へのその他の結合を競合的に阻害する(遮断する)場合、同じかまたは重複するエピトープへ結合する。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍または100倍過剰量の一方の抗体は、競合結合において測定されるように、少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%またはさらには99%ほど、もう一方の抗体の結合を阻害する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.1990 50:1495-1502を参照されたい)。あるいは、一方の抗体の結合を低減または排除する抗原における本質的にすべてのアミノ酸変異がもう一方の抗体の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は同じエピトープを有する。一方の抗体の結合を低減または排除するいくつかのアミノ酸変異がもう一方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は重複しているエピトープを有する。
【0208】
次に、試験抗体の結合の観察された欠失が、実際に、参照抗体と同じエピトープへの結合によるものであるか、それとも立体遮断(または別の現象)が、観察された結合の欠失の原因であるのかを確認するために、さらなる通例の実験(例えば、ペプチド変異および結合分析)を実施することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリーまたは当該技術分野で利用可能な何らかの他の定量的または定性的な抗体結合アッセイを用いて行うことができる。
【0209】
免疫複合体
本発明は、ZIKV感染を治療するための抗ウイルス薬などの、治療部分へ結合したヒト抗ZIKV Eモノクローナル抗体(「免疫複合体」)を包含する。本明細書で使用する場合、「免疫複合体」という用語は、放射性物質、サイトカイン、インターフェロン、標的部分もしくはレポーター部分、酵素、ペプチドもしくはタンパク質または治療剤へ化学的にまたは生物学的に連結した抗体を指す。抗体は、その標的へ結合することができる限り、分子に沿った何らかの位置で、放射性物質、サイトカイン、インターフェロン、標的部分もしくはレポーター部分、酵素、ペプチドまたは治療剤へ連結され得る。免疫複合体の例としては、抗体薬剤複合体および抗体-毒素融合タンパク質が挙げられる。一実施形態において、薬剤は、ZIKVまたはZIKV Eに対する第2の異なる抗体であってもよい。ある特定の実施形態において、抗体は、ウイルス感染した細胞に特異的な薬剤へ結合し得る。抗ZIKV抗体へ結合し得、治療されることになっている容態および達成されることになっている所望の治療効果を考慮することになっている治療部分のタイプ。免疫複合体を形成するのに適した薬剤の例は、当該技術分野で既知であり、例えばWO05/103081を参照されたい。
【0210】
多重特異性抗体
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性または多重特異性であり得る。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であり得るか、または2つ以上の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有し得る。例えば、Tutt et al.,1991,J.Immunol.147:60-69、Kufer et al.,2004,Trends Biotechnol.22:238-244を参照されたい。
【0211】
本発明の多重特異性抗原結合分子のいずれか、またはその変異体は、当業者に既知であることになっているように、標準的な分子生物学的技術(例えば、組換えDNAおよびタンパク質発現技術)を用いて構築され得る。
【0212】
いくつかの実施形態において、ZIKV特異的抗体は、ZIKVの異なるドメインへ結合する可変領域が一緒に連結されて、単一の結合分子内に二重ドメイン特異性を付与する二重特異性フォーマット(「二重特異性」)で生成される。適切に設計された二重特異性は、特異性および結合力の両方を増大させることを通じて全体的なZIKVタンパク質阻害効力を増強し得る。個々のドメインに対して特異性を有する可変領域(例えば、N末端ドメインのセグメント)、または1つのドメイン内の異なる領域へ結合することができる可変領域は、各領域を別個のエピトープへ、または1つのドメイン内の異なる領域へ、同時に結合させる構造的足場の上で対形成している。二重特異性についての一例において、1つのドメインに対する特異性を備えた結合剤由来の重鎖可変領域(VH)は、第2のドメインに対する特異性を備えた一連の結合剤由来の軽鎖可変領域(VL)と組み合わされて、VHに対する元の特異性を破壊することなく、元のVHと対形成することができる非同族VLのパートナーを識別する。このように、単一のVLセグメント(例えば、VL1)を2つの異なるVHドメイン(例えば、VH1およびVH2)と組み合わせて、2つの結合「アーム」(VH1-VL1およびVH2-VL1)から構成される二重特異性を生じることができる。単一のVLセグメントの使用は、このシステムの複雑性を低減させ、それにより、二重特異性を生成するために使用されるクローニング過程、発現過程、および精製過程における効率を単純化し、増大させる(例えば、USSN13/022759およびUS2010/0331527を参照されたい)。
【0213】
あるいは、例えば第2の異なる抗ZIKV抗体などであるがこれに限定されない、2つ以上のドメインおよび第2の標的を結合する抗体は、本明細書に説明される技術または当業者に既知の他の技術を使用して、二重特異性フォーマットで調製することができる。異なる領域へ結合する抗体可変領域は、単一の結合分子内に二重抗原特異性を付与するために、例えばZIKV上の関連部位へ結合する可変領域と一緒に連結され得る。この性質の適切に設計された二重特異性は、二重の機能を果たす。細胞外ドメインに対する特異性を備えた可変領域は、細胞外ドメインの外側に対する特異性を備えた可変領域と組み合わされ、各可変領域が別々の抗原へ結合することを可能にする構造的足場の上で対形成する。
【0214】
本発明の脈絡において使用することのできる例示的な二重特異性抗体フォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)CH3ドメインおよび第2のIgCH3ドメインの使用を包含し、第1および第2のIgCH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸ほど互いに異なっており、少なくとも1つのアミノ酸の相違は、このアミノ酸の相違を欠失する二重特異性抗体と比較して、プロテインAへの二重特異性抗体の結合を低減させる。一実施形態において、第1のIgCH3ドメインはプロテインAを結合し、第2のIgCH3ドメインはH95R修飾(IMGTエクソン番号付けによるものであり、EU番号付けによるH435R)などのプロテインA結合を低減または消失させる変異を含有する。第2のCH3は、Y96F修飾(IMGTによるものであり、EUによるY436F)をさらに含み得る。第2のCH3内に認められ得るさらなる修飾には、IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによるものであり、EUによるD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I)、IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGTであって、EUによるN384S、K392N、およびV422I)、ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによるものであり、EUによるQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)が含まれる。上述の二重特異性抗体フォーマットの変形は、本発明の範囲内で熟慮される。
【0215】
本発明の脈絡において使用することのできる他の例示的な二重特異性フォーマットには、例えば、scFv系フォーマットまたはダイアボディ二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、Quadroma、ノブズ-イントゥ-ホールズ(knobs-into-holes)、共通の軽鎖(例えば、ノブズ-イントゥ-ホールズを備えた共通の軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用型Fab(DAF)-IgG、およびMab2二重特異性フォーマットが含まれるが、これらに限定されない(上述のフォーマットの総説については、例えば、Klein et al.2012,mAbs 4:6,1-11、およびそこに引用されている参考文献を参照されたい)。二重特異性抗体は、ペプチド/核酸結合を用いて構築することもでき、例えば、直交化学反応性を有する非天然アミノ酸を使用して、部位特異的抗体-オリゴヌクレオチド複合体を生成し、これが次に、規定される組成物、原子価および幾何学的形状を有する多量体複合体へと自己集合する。(例えば、Kazane et al.,J.Am.Chem.Soc.[Epub:2012年12月4日]を参照されたい)。
【0216】
治療用の投与および製剤
本発明は、本発明の抗ZIKV E抗体またはその抗原結合フラグメントを含む治療用組成物を提供する。本発明に従った治療用組成物は、改善された移動、送達、寛容、およびこれらに類するものを提供するために、製剤へと組み込まれた適切な担体、賦形剤、および他の薬剤とともに投与されることになっている。多くの適切な製剤は、製薬化学者全員に既知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PAにおいて認めることができる。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、ベシクル(LIPOFECTIN(商標)など)を含有する脂質(カチオン性またはアニオン性)、DNA複合体、無水吸収ペースト、水中油エマルションおよび油中水エマルション、エマルションカーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックスを含有する半固体混合物が含まれる。Powell et al.“Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0217】
抗体の用量は、投与されることになっている対象の年齢およびサイズ、標的疾患、容態、投与経路、ならびにこれらに類するものによって変わり得る。本発明の抗体を、成人患者における疾患もしくは障害を治療することに、またはこのような疾患を予防するために使用する場合、本発明の抗体を通常体重1kgあたり約0.1~約60mg、より好ましくは約5~約60、約10~約50、または約20~約50mgの単回用量で投与することが有利である。容態の重症度に応じて、治療の頻度および期間を調整することができる。ある特定の実施形態において、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、少なくとも約0.1mg~約800mg、約1~約500mg、約5~約300mg、または約10~約200mg、~約100mg、もしくは~約50mgの1次用量として投与することができる。ある特定の実施形態において、1次用量に続いて、この1次用量とおよそ同じまたはそれ未満であり得る量で、第2のまたは複数のその後の用量の抗体またはその抗原結合フラグメントが投与され得、このその後の用量は、少なくとも1日間~3日間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、または少なくとも14週間離れている。
【0218】
種々の送達系が既知であり、本発明の医薬組成物を投与するために使用することができ、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルにおける封入、変異ウイルスを発現することのできる組換え細胞、受容体仲介性食作用である(例えば、Wu et al.1987)J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照されたい)。導入方法には、皮内経路、経皮経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路および経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、例えば、注入もしくはボーラス注射による、上皮もしくは粘膜皮膚の裏打ち(例えば、口腔粘膜、直腸および腸の粘膜など)を通じての吸収による何らかの簡便な経路によって投与され得、他の生物学的に活性のある薬剤とともに投与され得る。投与は全身または局所であり得る。医薬組成物は、ベシクル、特にリポソーム中で送達されることもできる(例えば、Langer(1990)Science 249:1527-1533を参照されたい)。
【0219】
本発明の抗体を送達するためのナノ粒子の使用もまた、本明細書において熟慮される。抗体結合ナノ粒子は、治療用途および診断用途の両方に使用され得る。抗体結合ナノ粒子ならびに調製方法および使用方法は、参照により本明細書に組み込まれるArruebo,M.,et al.2009(“Antibody-conjugated nanoparticles for biomedical applications“in J.Nanomat.Volume 2009,Article ID 439389,24 pages,doi:10.1155/2009/439389)によって詳細に説明されている。ナノ粒子は、ウイルス感染細胞を標的とするために開発され得、医薬組成物中に含有される抗体と結合され得る。薬物送達のためのナノ粒子は、例えば、各々がその全体として本明細書に組み込まれるUS8257740、またはUS8246995にも説明されている。
【0220】
ある特定の状況において、医薬組成物は徐放系で送達することができる。一実施形態において、ポンプを使用してもよい。別の実施形態において、ポリマー材料を使用することができる。さらに別の実施形態において、徐放系を組成物の標的の近傍に配置することができ、したがって全身用量のほんの一部しか必要としない。
【0221】
注射可能な調製物には、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、頭蓋内注射、腹腔内注射および筋肉内注射、点滴注入などのための剤形が含まれ得る。これらの注射可能な調製物は、公共的に既知の方法によって調製され得る。例えば、注射可能な調製物は、例えば、注射用に従来通り使用される滅菌水性媒体または油性媒体中に上述の抗体またはその塩を溶解、懸濁または乳化させることによって調製され得る。注射用水性媒体としては、例えば、生理塩類溶液、グルコースを含有する等張液、および他の助剤などがあり、これらは、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加物)]などの適切な可溶化剤と併用され得る。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが採用され、これらは安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と併用され得る。このようにして調製した注射液は、好ましくは、適切なアンプル中に充填される。
【0222】
本発明の医薬組成物は、標準的な針および注射器を用いて皮下にまたは静脈内に送達することができる。加えて、皮下送達に関して、ペン送達装置は、本発明の医薬組成物を送達する上での適用を容易に有する。このようなペン送達装置は、再利用可能または使い捨て可能であり得る。再利用可能なペン送達装置は、概して、医薬組成物を含有する交換可能なカートリッジを使用する。いったん、カートリッジ内の医薬組成物がすべて投与され、カートリッジが空になると、この空のカートリッジは容易に廃棄することができ、医薬組成物を含有する新しいカートリッジと容易に交換することができる。次に、ペン送達装置は再利用することができる。使い捨てのペン送達装置において、交換可能なカートリッジはない。むしろ、使い捨てペン送達装置は、この装置内の貯蔵器の中に保持された医薬組成物が事前に充填されている。いったん、貯蔵器が医薬組成物に関して空になると、装置全体が廃棄される。
【0223】
数多くの再利用可能なペン送達装置および自動注射送達装置は、本発明の医薬組成物の皮下送達における応用を有する。例としては、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.,英国ウッドストック町)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems,スイス国ブルクドルフ市)、HUMALOG MIX75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.,インディアナ州インディアナポリス市)、NOVOPEN(商標)I、IIおよびIII(Novo Nordisk,デンマーク国コペンハーゲン市)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk,デンマーク国コペンハーゲン市)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson,ニュージャージー州フランクリンレイク地区)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(Sanofi-Aventis,ドイツ国フランクフルト市)が挙げられるが、確かにこれらに限定されず、ほんの数種類しか挙げていない。本発明の医薬組成物の皮下送達における用途を有する使い捨てペン送達装置の例としては、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi-Aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)自動注射装置(Amgen,カリフォルニア州サウザンドオークス市)、PENLET(商標)(Haselmeier,ドイツ国シュトゥットガルト市)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs,イリノイ州アボットパーク地区)が挙げられるが、ほんの数種類しか挙げていない。
【0224】
有利なことに、先に説明した経口または非経口での使用のための医薬組成物は、有効成分の用量に適合するのに適した単位用量の剤形へと調製される。単位用量におけるこのような剤形には、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル剤)、坐剤などが含まれる。含有される抗体の量は概して、単位用量で1剤形あたり約5~約500mgであり、特に注射の形態では、抗体は、約5~約100mgで、他の剤形について約10~約250mgで含有されることが好ましい。
【0225】
抗体の予防用または治療用の使用
本発明の抗体は、ZIKV感染と関連した疾患もしくは障害もしくは容態の治療および/もしくは予防に、ならびに/またはこのような疾患、障害もしくは容態と関連した少なくとも1つの症状の寛解に有用である。
【0226】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、宿主におけるウイルス力価を低下させるか、または宿主におけるウイルス量を低減するのに有用である。一実施形態において、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ZIKV感染を有する患者へ治療用量で投与され得る。
【0227】
本発明の1つ以上の抗体は、疾患または障害の症状または容態の1つ以上の重症度を緩和または予防または低下させるために投与され得る。この抗体は、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、および斑状丘疹発疹を含むがこれらに限定されないZIKV感染の少なくとも1つの症状の重症度を寛解または低減するために使用され得る。
【0228】
本明細書において、免疫無防備状態の個人、ZIKVを保有していると考えられる蚊に刺された人、ZIKVへ曝露された妊婦、ZIKVの爆発的流行を有していることが既知の国に居住しているかもしくは訪れていて、妊娠しているとみなされている女性、ZIKVを持っていることが疑われる蚊を保有していることが既知の地域を訪れているかまたはこの地域に居住している個人、ZIKVの爆発的流行を有していることが既知であるかまたは有していることが疑われる地域または国を訪れたまたは訪れる計画をしている個人など、ZIKV感染を発症するリスクがある対象へ、本発明の1つ以上の抗体を予防として使用することも熟慮される。
【0229】
本発明のさらなる実施形態において、本抗体は、ZIKV感染にかかっている患者、またはこのウイルスを保有する蚊によって刺されたことを介してZIKVへ曝露された患者を治療するための医薬組成物の調製に使用される。本発明の別の実施形態において、本抗体は、ZIKV感染を治療または寛解するために有用な、当業者に既知の何らかの他の薬剤または何らかの他の療法とともに補助療法として使用される。
【0230】
併用療法
併用療法には、本発明の抗ZIKV E抗体および本発明の抗体と、または本発明の抗体の生物学的に活性のあるフラグメントと有利に組み合わされ得る何らかの追加の治療剤が含まれ得る。本発明の抗体は、ZIKV感染を治療するために使用される1つ以上の薬または薬剤と相乗的に組み合わされ得る。
【0231】
例えば、ウイルス感染を治療するための例示的な薬剤には、例えば、抗ウイルス薬、抗炎症薬(コルチコステロイド、および抗TNFなどの非ステロイド系抗炎症薬)、ZIKVに対する異なる抗体、ZIKV用ワクチン、インターフェロン、免疫調節薬、またはZIKV感染を治療するための何らかの他の緩和療法が含まれ得る。
【0232】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、ZIKV感染を有する患者におけるウイルス量を低減させるために、あるいは感染の1つ以上の症状および/または胎児もしくは男性生殖器官への伝播を寛解するために、第2の治療剤と組み合わされ得る。。
【0233】
ある特定の実施形態において、第2の治療剤は、ZIKV Eに特異的な別の異なる抗体または抗体カクテルであり、カクテル内の1つのまたは複数の異なる抗体は、本発明の抗体として、同じエピトープまたは重複エピトープへ結合してもよく、または結合しなくてもよい。ある特定の実施形態において、第2の治療剤は、異なるZIKVタンパク質に対する抗体である。第2の抗体は、ウイルスの異なる株に由来する1つ以上の異なるZIKVタンパク質に特異的であり得る。ZIKVに対する中和活性または阻害活性を有する本発明の抗体の組み合わせ(「カクテル」)を使用することは、本明細書で熟慮されている。いくつかの実施形態において、非競合抗体を組み合わせて、それを必要とする対象へ投与して、変異によりZIKVの回避能力を低減させ得る。いくつかの実施形態において、この組み合わせを含む抗体は、E上の異なる重複しないエピトープへ結合する。この組み合わせを含む抗体は、細胞へのウイルス付着を遮断し得、および/またはウイルスと細胞膜との融合を阻害し得、そうすることにより、宿主細胞へのZIKV侵入を遮断し得る。抗体は、MR766(ウガンダ1947)株、PRVABC59(プエルトリコ2015)株およびFLR(コロンビア2015)株から選択されるZIKV株由来のEと相互作用し得、単独で、または先に記載の何らかの1つ以上の薬剤と併用される場合、記載したZIKV株のいずれか1つ以上、またはその変異体を中和し得る。
【0234】
本明細書では、本発明の抗ZIKV E抗体の組み合わせを使用することも熟慮され、この組み合わせは、交差競合しない1つ以上の抗体を含む。ある特定の実施形態において、この組み合わせには、本発明の少なくとも2つまたは少なくとも3つの抗体の混合物を含むカクテルが含まれる。カクテル内の抗体は、ウイルスまたはウイルス感染細胞を中和する能力、または細胞へのウイルス付着を遮断する能力、もしくは細胞膜へのウイルスの融合を遮断する能力、またはZIKV Eを結合する能力が異なり得る。
【0235】
本明細書で使用する場合、「との組み合わせにおける」という用語は、追加の治療活性成分(複数可)が、本発明の少なくとも1つの抗ZIKV E抗体、または本発明の抗体の2つ以上を含むカクテルの投与の前に、投与と同時に、または投与の後に投与され得ることを意味する。「との組み合わせにおける」という用語は、抗ZIKV E抗体および第2の治療剤の連続投与または同時投与も含む。
【0236】
追加の治療活性成分(複数可)は、本発明の抗ZIKV E抗体の投与前に対象へ投与され得る。例えば、第1の成分が、第2の成分の投与から1週間前、72時間前、60時間前、48時間前、36時間前、24時間前、12時間、6時間前、5時間前、4時間前、3時間前、2時間前、1時間前、30分前、15分前、10分前、5分前、または1分未満で投与される場合、第1の成分は、第2の成分の「前に」投与されるとみなされ得る。他の実施形態において、追加の治療活性成分(複数可)は、本発明の抗ZIKV E抗体の投与後に対象へ投与され得る。例えば、第1の成分が第2の成分の投与から1分後、5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後、72時間後に投与される場合、第1の成分は、第2の成分の「後に」投与されるとみなされ得る。さらに他の実施形態において、追加の治療活性成分(複数可)は、本発明の抗ZIKV E抗体の投与と同時に、対象へ投与され得る。本発明の目的のための「同時」投与には、例えば、対象への抗ZIKV E抗体および追加の治療活性成分の、単回剤形での、または互いに約30分以内に対象へ投与される別個の剤形での投与が含まれる。別個の剤形で投与される場合、各剤形は同じ経路を介して投与され得(例えば、抗ZIKV E抗体および追加の治療活性成分の両方は、静脈内などで投与され得る)、あるいは、各剤形は、異なる経路を介して投与され得る(例えば、抗ZIKV E抗体は静脈内投与され得、追加の治療活性成分は経口投与され得る)。いずれの事象においても、単回剤形で、同じ経路による別個の剤形で、または異なる経路による別個の剤形でこの成分を投与することはすべて、本開示の目的のために、「同時投与」とみなされる。本開示の目的のために、追加の治療活性成分の投与「の前の」、「と同時の」、または「の後の」抗ZIKV E抗体の投与は、追加の治療活性成分「との組み合わせにおける」抗ZIKV E抗体の投与とみなされる。
【0237】
本発明には、本発明の抗ZIKV E抗体が、本明細書の他の箇所に説明されているような追加の治療活性成分(複数可)の1つ以上と同時製剤された医薬組成物が含まれる。
【0238】
投与様式
ある特定の実施形態によると、本発明の抗ZIKV E抗体(または本発明の1つ以上の抗体を含む医薬組成物、または1つ以上の抗ZIKV E抗体と本明細書に記載の追加の治療有効剤のいずれかとの組み合わせ)の単回用量は、それを必要とする対象へ投与され得る。本発明のある特定の実施形態によると、抗ZIKV E抗体(または抗ZIKV E抗体もしくは本発明の1つ以上の抗体と、本明細書に記載の追加の治療活性剤のいずれかとを含む医薬組成物)の複数回用量は、規定された時間経過にわたって対象へ投与され得る。本発明のこの態様による方法は、本発明の1つ以上の抗ZIKV E抗体の複数回用量を対象へ連続的に投与することを含む。本明細書で使用する場合、「連続的に投与すること」は、抗ZIKV E抗体の各用量が、異なる時点、例えば、事前に決めておいた間隔(例えば、数時間、数日間、数週間または数か月間)によって分けられた異なる日に対象へ投与されることを意味する。本発明には、抗ZIKV E抗体の単回1次用量に続いで、抗ZIKV E抗体の1回以上の2次用量、次いで場合により抗ZIKV E抗体の1回以上の3次用量を患者へ連続的に投与することを含む方法が含まれる。
【0239】
「1次用量」、「2次用量」および「3次用量」という用語は、本発明の抗ZIKV E抗体の投与の時間的な連続を指す。したがって、「1次用量」とは、治療様式の開始時に投与される用量(「ベースライン用量」とも呼ばれる)であり、「2次用量」とは、1次用量後に投与される用量であり、「3次用量」とは、2次用量後に投与される用量である。1次用量、2次用量、および3次用量はすべて、同じ量の抗ZIKV E抗体を含有し得るが、概して、投与頻度に関して互いに異なり得る。しかしながら、ある特定の実施形態において、1次用量、2次用量および/または3次用量に含有される抗ZIKV E抗体の量は、治療経過の間、互いに異なる(例えば、適宜上下に調整される)。ある特定の実施形態において、2回以上(例えば、2回、3回、4回、または5回)の用量が、「負荷用量」として治療様式の開始時に投与された後、その後の用量が、それより低い頻度ベースで投与される(例えば、維持用量」)。
【0240】
本発明のある特定の例示的な実施形態において、各2次用量および/または3次用量は、直前の用量の1~48時間(例えば、1、1と1/2、2、2と1/2、3、3と1/2、4、4と1/2、5、5と1/2、6、6と1/2、7、7と1/2、8、8と1/2、9、9と1/2、10、10と1/2、11、11と1/2、12、12と1/2、13、13と1/2、14、14と1/2、15、15と1/2、16、16と1/2、17、17と1/2、18、18と1/2、19、19と1/2、20、20と1/2、21、21と1/2、22、22と1/2、23、23と1/2、24、24と1/2、25、25と1/2、26、26と1/2、またはそれ以上)後に投与される。「直前の用量」という句は、本明細書で使用する場合、一連の複数回投与において、抗ZIKV E抗体の用量を意味し、これは、何ら介入用量のない直後の用量の投与の前に患者へ投与される。
【0241】
本発明のこの態様による方法は、抗ZIKV E抗体の2次用量および/または3次用量のいずれかの回数を患者へ投与することを含み得る。例えば、ある特定の実施形態において、単回の2次用量のみが患者へ投与される。他の実施形態において、2回以上(例えば、2,3、4、5、6、7、8またはそれより多数)の2次用量が患者へ投与される。同様に、ある特定の実施形態において、単回3次用量のみが患者へ投与される。他の実施形態において、2回以上(例えば、2,3、4、5、6、7、8またはそれより多数)の3次用量が患者へ投与される。
【0242】
本発明のある特定の実施形態において、2次用量および/または3次用量が患者へ投与される頻度は、治療様式の経過にわたって変わり得る。投与頻度はまた、臨床検査後の個々の患者の必要性に応じて、医師によって治療過程の間に調整され得る。
【0243】
抗体の診断上の使用
本発明の抗ZIKV E抗体は、例えば、診断目的のために、試料中のZIKVを検出および/または測定するために使用され得る。いくつかの実施形態は、ウイルス感染などの疾患または障害を検出するためのアッセイにおいて、本発明の1つ以上の抗体の使用を熟慮する。ZIKVについての例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得られた試料を、本発明の抗ZIKV E抗体と接触させることを含み得、抗ZIKV E抗体は、検出可能な標識もしくはレポーター分子で標識されるか、または患者試料からZIKVを選択的に単離するために捕捉リガンドとして使用される。あるいは、標識されていない抗ZIKV E抗体は、それ自体が検出可能に標識された2次抗体との組み合わせで診断用途に使用することができる。検出可能な標識またはレポーター分子は、3H、14C、32P、35Sもしくは125Iなどの放射性同位体、フルオレセインイソチオシアナートもしくはローダミンなどの蛍光部分もしくは化学発光部分、またはアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼなどの酵素であり得る。試料中のZIKVを検出または測定するために使用することのでき
る具体的な例示的アッセイには、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光標示式細胞分取器(FACS)が含まれる。
【0244】
本発明によるZIKV診断アッセイにおいて使用することのできる試料には、正常条件または病理学的条件下で、検出可能な量のZIKVまたはそのフラグメントのいずれかを含有する、患者から得ることのできる何らかの組織または体液試料が含まれる。概して、健常な患者(例えば、ZIKVと関連した疾患に罹患していない患者から得られた特定の試料中のZIKVのレベルは、ZIKVのベースラインレベルまたは標準レベルをまず確立するために測定されることになっている。次に、ZIKVのこのベースラインレベルは、ZIKV関連容態、またはこのような容態と関連した症状を有すると疑われる個人から得られた試料において測定されるZIKVのレベルと比較することができる。
【0245】
ZIKVに特異的な抗体は、追加の標識もしくは部分を全く含有していなくてもよく、またはN末端もしくはC末端の標識もしくは部分を含有していてもよい。一実施形態において、標識または部分はビオチンである。結合アッセイにおいて、標識(存在する場合)の位置は、ペプチドが結合した表面に対するペプチドの向きを決定し得る。例えば、表面がアビジンでコーティングされている場合、N末端ビオチンを含有するペプチドは、ペプチドのC末端部分が表面から遠位になるように向くことになっている。
【実施例】
【0246】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物をどのように作製および使用するかに関する完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されており、本発明者らが本発明とみなすことの範囲を制限するよう企図するものではない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力はしたが、いくつかの実験上の誤差および偏差が考慮されるべきである。別段の記載がない限り、部分は重量部分であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、室温は約25℃であり、圧力は大気圧またはそれに近い圧力である。
【0247】
実施例1:ZIKVに対するヒト抗体の生成
ZIKVに対するヒト抗体を、ヒト免疫グロブリン重鎖領域とカッパ軽鎖可変領域とをコードするDNAを含むマウスにおいて生成した。一実施形態において、ZIKVに対するヒト抗体を、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスにおいて生成した。一実施形態において、VelocImmune(登録商標)(VI)マウスを、ZIKV prM/EをコードするDNAで免疫化した(GenBank受託番号ALU33341.1および配列番号353も参照されたい)。2週間空けての2回の免疫化を含む加速様式後に抗体を生成した。抗体の免疫応答を、ZIKV E特異的イムノアッセイによってモニターした。例えば、ZIKV prM/Eを発現する細胞から産生されたウイルス様粒子(VLP)に特異的な抗体の力価について血清をアッセイした。B細胞選別技術(BST)およびハイブリドーマ法の両方を用いて、抗体産生クローンを単離した。例えば、所望の免疫応答が達成されたとき、脾細胞を収集し、マウス骨髄腫細胞と融合させて、それらの生存率を維持し、ハイブリドーマ細胞株を形成した。ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングおよび選択して、ZIKV E特異的抗体を産生する細胞株を識別した。この技術および先に説明した種々の免疫原を用いて、いくつかのキメラ抗体(すなわち、ヒト可変ドメインとマウス定常ドメインとを有する抗体)を得た。この様式で生成された例示的な抗体を、H2aM25703N、H2aM25704N、H2aM25708N、H2aM25709N、H2aM25710NおよびH2aM25711Nと命名した。
【0248】
その全体が参照により本明細書に具体的に組み込まれる米国特許第7582298号において説明されているように、骨髄腫細胞と融合していない抗原陽性マウスB細胞から抗ZIKV抗体を直接単離した。この方法を用いて、いくつかの完全ヒト抗ZIKV E抗体(すなわち、ヒト可変ドメインとヒト定常ドメインとを有する抗体)を得、この様式で生成した例示的な抗体をH4H25566P、H4H25587P、H4H25591P、H4H25592P、H4H25598P、H4H25602P、H4H25617P、H4H25619P、H4H25622P、H4H25626P、H4H25630P、H4H25633P、H4H25634P、H4H25637P、H4H25640P、H4H25641P、H4H25703N、H4H25704N、H4H25708N、H4H25709N、H4H25710N、H4H25711Nと命名した。
【0249】
この実施例の方法に従って生成された例示的な抗体の生物学的特性を、以下に示す実施例において詳細に説明する。
【0250】
実施例2:重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸およびヌクレオチド配列
表1は、本発明の選択された抗ZIKV抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域ならびにCDRのアミノ酸配列識別子を示す。対応する核酸配列識別子を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0251】
抗体は、以下の命名法:Fc接頭辞(表1または表2に示すように、例えば、「H1H」、「H4H」、「H2aM」など)、続いて数値識別子(例えば、「25566」、「25587」、「25710」など)、続いて「P」、「P2」、「N」、N2、または「B」の接尾辞)により、本明細書で典型的に参照される。本明細書で使用される抗体名の上のH1HおよびH4Hという接頭辞は、抗体の特定のFc領域アイソタイプを示す。したがって、この命名法によると、抗体は、例えば、「H4H25566P」、「H2aM25703N」などと本明細書で参照され得る。例えば、「H4H」抗体はヒトIgG4 Fcを有し、「H2aM」抗体はマウスIgG2a Fcを有する(可変領域はすべて、抗体名における最初の「H」によって示されるように,完全にヒトである)。当業者によって認識されることになっているように、特定のFcアイソタイプを有する抗体は、異なるFcアイソタイプを有する抗体へ変換することができる(例えば、マウスIgG1 Fcを有する抗体は、ヒトIgG4を有する抗体へ変換することができる、など)が、いずれの事象においても、表1または表2に示す数値識別子によって示される可変ドメイン(CDRを含む)は同じままであることになっており、抗原に対する結合特性はFcドメインの性質にかかわらず、同一であるかまたは実質的に類似していると期待される。
【0252】
実施例3.ジカ前膜エンベロープ中間体(prM/E)ポリタンパク質に対するモノクローナル抗体の結合を評価するための結合アッセイ
ZIKV Eを結合する抗ZIKVモノクローナル抗体のパネルの能力を調べるために、電気化学発光ベースの検出プラットフォーム(MSD)におけるprM/E発現細胞から調製されたZIKVウイルス様粒子(VLP)を利用するインビトロ結合アッセイを展開した。
【0253】
VLPを、ZIKV prM/Eポリタンパク質を一過性に発現するHEK293T/17細胞(受託番号ALU33341.1(配列番号353としても示される)、ZIKVポリタンパク質のアミノ酸残基123~795)から生成した。また、水疱性口内炎ウイルス(VSV)糖タンパク質(G)を発現する細胞から調製されたVLPを、陰性結合対照として生成した。実験には、IgG検出抗体とは無関係な陰性対照として、ヒトIgG4抗体およびマウスIgG2a抗体についての陰性対照が含まれている。
【0254】
実験は以下の手順により実施した。先に説明した2つの供給源からのVLPをPBS中に希釈し、96ウェル炭素電極プレート(MULTI-ARRAY高結合プレート,MSD)へと播種し、4℃で一晩インキュベートして、VLPを接着させておいた。非特異的結合部位を、PBS中の2%BSA(w/v)により室温で1時間遮断した。プレートに結合した粒子へ、1×PBS+0.5%BSA緩衝液中の1.7pM~100nMの範囲の連続希釈物中の抗ZIKV抗体および対照抗体、ならびに緩衝液のみを2つ組で添加し、このプレートを室温で1時間インキュベートした。次に、AquaMax2000プレート洗浄機(MDS Analytical Technologies)を用いて、このプレートを1×PBSで洗浄し、結合していない抗体を除去した。プレートに結合した抗体を、SULFO-TAG(商標)結合抗ヒトIgG抗体(Meso Scale Development)またはSULFO-TAG(商標)結合抗マウスIgG抗体(Jackson Immunoresearch)を用いて室温で1時間検出した。洗浄後、このプレートを製造元の推奨する手順により、リードバッファー(MSD)で顕色させ、発光シグナルをSECTOR Imager 600(MSD)機で記録した。直接結合シグナル(RLUにおける)を抗体濃度の関数として解析し、データをGraphPad Prism(商標)ソフトウェアを用いたシグモイド(4パラメータロジスティック)用量応答モデルにあてはめた。最大結合シグナルの50%が検出された抗体の濃度として定義されるEC50値を、各抗体の効力を示すためにZIKV prM/E VLPについて測定した。加えて、無関係のVSV G VLPに対するZIKV prM/E VLPに関する11.1nMでの抗体の結合シグナルの比を計算した。結合比が2未満の抗体を、表3においてNBとして標識した。NBは、アッセイ条件下で観察される特異的結合がないことを指す。
【0255】
結果の要約および結論:
無関係なVSV G含有VLPへの結合と比較して、prM/E発現細胞から調製したZIKV VLPを特異的に結合する抗ZIKVモノクローナル抗体の能力を、免疫結合アッセイを用いて評価した。SULFO-TAG(商標)を結合した抗ヒトIgG抗体または抗マウスIgG抗体を用いて、最高100nMの抗体濃度で96ウェル高結合プレート(MSD)上に固定したVLPに対する抗体用量依存的結合を検出し、電気化学発光における結合シグナルをSector Imager 600(MSD)で記録した。VLPへ結合する抗体についてはRLU値を測定した。ZIKV prM/E VLPのEC50値を、効力の尺度として計算した。ZIKV結合特性に影響する無関係な背景を有する抗体については、より高い濃度をEC50値の計算から除外し、値を表中で斜字体にした。ZIKV prM/Eおよび無関係に発現するVLPに対する11.1nMの抗体の結合シグナルの比較を用いて、ZIKVタンパク質に対する結合特異性を評価した。特異的結合は、その濃度で無関係なVLPと比較して、ZIKV prM/E発現VLPに対する2倍以上の結合比を有する抗体として定義される。
【0256】
結合結果を表3に要約する。ZIKV prM/E VLPへの結合についてのEC
50値が報告され、試験抗体については87pM~133nMの範囲である。抗体H4H25640Pおよび抗体H4H25704Nについては、無関係のVSV G VLPについての高い背景を補うために、より高い濃度での結合値をEC
50値の計算から除外した。ZIKV prM/E VLP上の結合とVSV G VLPへの11.1nM濃度での結合との比も報告する。評価した試験抗体はすべて、ZIKV prM/E VLPに特異的に結合した。陰性アイソタイプ対照抗体は、予期した通り、特異的に結合しなかった(データ非表示)。
【表3】
【0257】
実施例4:表面プラズモン共鳴によって測定されるZIKV prM80Eへの抗体結合
A.pH依存性解離速度定数
Biacore4000機(カタログ番号28-9643-21)を用いたリアルタイム表面プラズモン共鳴バイオセンサーを用いて、精製抗ZIKV mAbへのジカ(prM80E)-mmH結合についての解離速度定数を測定した。Biacore CM5センサー表面を、ポリクローナルヤギ抗ヒトFc抗体(Jackson Laboratories,#BR-109005-098)とのアミンカップリングにより誘導体化し、発現した抗ZIKV抗体をヒト定常領域で捕捉した。BiacoreのpHチェイス研究を、0.01MのNa2HPO4/NaH2PO4、0.15MのNaCl、0.05%v/vの界面活性剤P20からなる緩衝液(PBS-Pランニングバッファー)において
、pH7.4、6.0、5.5および5.0で行った。ZIKV-mmHと本明細書により呼ばれる、C末端のmyc-myc-hisタグを有するZIKV(prM80E)(配列番号354)をPBS-Pランニングバッファー中で(30nMの濃度で)調製し、抗ZIKV mAb捕捉表面上で30μL/分の流量で注入した。捕捉したモノクローナル抗体に対するZIKV-mmHの結合を、pH7.4のPBS-Pランニングバッファー中で3分間モニターし、pH7.4、pH6.0、pH5.5またはpH5.0のPBS-Pランニングバッファー中のZIKV-mmHの解離を10分間モニターした。pHチェイス実験はすべて、37℃で行った。動的解離(kd)速度定数は、Scrubber 2.0c曲線適合ソフトウェアを用いて、リアルタイムセンサーグラムを1:1結合モデルへあてはめることによって測定した。解離半減期(t1/2)は、動的速度定数から次のように計算した:
t1/2(分)=ln2/(60×kd)
【0258】
37℃での精製抗ZIKV mAbに対するZIKV-mmH結合についての結合動態パラメータを表4Aおよび表4Bに示す。
【表4】
【表5】
【0259】
結果と要約
抗ZIKV抗体からのZIKV.mmHの解離(kdおよびt1/2)に及ぼすpHの効果を、pH7.4、6.0、5.5および5.0で37℃で研究した。本発明の抗ZIKV抗体H4H25710N、H4H25602PおよびH4H25598Pは、解離において最も高いpH依存性変化を示した。抗ZIKV抗体H4H25566Pは、解離において中程度のpH依存性変化を示したが、残りのZIKV抗体は解離において有意なpH依存性変化を示さなかった。
【0260】
B.25℃および37℃での結合親和性および動態
精製抗ZIKVモノクローナル抗体へのZIKV(prM80E)-mmHタンパク質結合についての平衡解離定数(K
D値)を、Biacore4000機におけるリアルタイム表面プラズモン共鳴バイオセンサーアッセイを用いて測定した。Biacoreセンサー表面を、ポリクローナルヤギ抗ヒトFc抗体(Jackson Laboratories,#BR-109005-098)とのアミンカップリングによって誘導体化して、発現した抗ZIKV抗体をヒト定常領域で捕捉した。Biacore結合研究は、HBS-Pランニングバッファー(0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、0.05%v/v界面活性剤P20)中で行った。C末端myc-myc-ヘキサヒスチジンタグ(mmH)を有するZIKV(prM80E)タンパク質を実験室において調製し、本明細書ではZIKV-mmH(配列番号354を参照されたい)と呼んだ。HBS-Pランニングバッファー中で調製した異なる濃度(3倍希釈)のZIKV-mmH(30nM~0.37nMの範囲)を抗ZIKV抗体捕捉表面上に30μL/分の流量で注入した。捕捉した各モノクローナル抗体に対するZIKV-mmHの結合を3分間モニターし、解離をHBS-Pランニングバッファー中で8分間モニターした。結合動態実験はすべて、25℃または37℃のいずれかで行った。Scrubber 2.0c曲線適合ソフトウェアを用いてリアルタイムセンサーグラムを1:1結合モデルへあてはめることによって、動的結合(k
a)速度定数および動的解離(k
d)速度定数を測定した。結合解離平衡定数(K
D)および解離半減期(t1/2)を、動的速度定数から以下のように計算した:
【数1】
【0261】
25℃および37℃での抗ZIKV抗体へのZIKV-mmH結合についての結合動態パラメータを表5および表6に示す。
【表6】
【表7】
【0262】
結果と要約
25℃で、本発明の20種の抗ジカ抗体はすべて、70pM~27.7nMの範囲のKD値でZIKV-mmHへ結合した(表5)。37℃で、本発明の抗ZIKV抗体は、621pM~52.5nMの範囲のKD値でZIKV-mmHへ結合した(表6)。予想通り、陰性アイソタイプ対照は結合を示さなかった(データ非表示)。
【0263】
実施例5:ZIKV Eに特異的な抗体によるZIKVの中和
ベロ細胞(アフリカミドリザル腎臓-ATCC(登録商標)CCL81)を、10%の熱失活FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミンを含有するMEM-アルファ完全培地中の透明底部を有するCorning黒色96ウェル細胞培養プレート中に、1ウェルあたり10,000個で、ZIKVによる感染の1日前に播種した。
【0264】
ベロ細胞の感染に使用するZIKVの株は、MR766(ウガンダのセンチネルアカゲザルから単離、1947年、受託番号AY632535)、FLR(2015年12月にコロンビアでヒトから単離。受託番号KU820897)およびPRVABC59(2015年12月にプエルトリコでヒトから単離。受託番号KU501215)とした。
【0265】
中和/感染当日、試験抗体を、2%熱失活FBSペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミンを含有するDMEM中で2倍濃度に希釈し、ZIKVと1:1で37℃で30分間混合した。
【0266】
播種したベロ細胞から培地を取り出した後、抗体とウイルスとの1:1混合物とともに37℃で1時間、アッセイプレートを15分毎に穏やかに撹拌しながらインキュベートした。抗体で処置したウイルス接種物を取り出し、細胞を1%熱失活FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミンおよび1%メチルセルロースを含有する100μLのDMEMで覆い、37℃、5%CO2で一晩(12~16時間)インキュベートした。翌日、重ねた培地を細胞から吸引し、この細胞をPBSで2回洗浄した後、アセトンとメタノールとの氷冷1:1混合物で4℃で30分間固定した。固定した細胞をPBSで2回洗浄した後、室温で15分間0.1%Triton-Xおよび5%FBSを含有するPBSで透過処理した。細胞をPBS単独で1回洗浄した後、非特異的結合を遮断するために室温で30分間、5%FBSを含有するPBSとともにインキュベートした。次に、細胞を、5%FBSおよび0.1%Tween-20を含有するPBS中での1:10,000希釈のポリクローナル抗体(UTMBから得たジカマウス腹水)とともに、室温で1時間インキュベートした。Molecular Devices AquaMax 4000プレート洗浄機を用いて細胞を300μLのPBSで6回洗浄した後、2次抗体(Life Technologies Alexa-488結合ヤギ抗マウスIgG)とともに室温で1時間、暗所でインキュベートした。プレート洗浄器で細胞を6回洗浄し、分析前に100μLのPBSを添加した。Mini Maxプレートリーダーを備えたSpectraMaxを使用して。各ウェルを撮像し、異なる蛍光フォーカスを計数するための設定を用いて分析を完了した。
【0267】
【0268】
中和%として表した結果を、Prism5ソフトウェア(GraphPad Software,Inc.)を用いた非線形回帰(4パラメータロジスティクス)を用いて解析し、IC50値を得た。結果を以下の表7および表8に示す。
【0269】
結果の要約および結論:
以下の表7および8に示すデータは、本明細書に説明する実験設計を用いて、本発明の20種の抗ZIKVウイルス抗体のうち18種が、ZIKV株MR766、PRVABC59(プエルトリコ2015)およびFLP(コロンビア2015)の感染力を、約10
-11M~約10
-9Mの範囲のIC
50で強力に中和することを示している。予想通り、陰性アイソタイプ対照は中和を示さなかった(データ非表示)。
【表8】
【表9】
【0270】
実施例6:Octet交差競合アッセイ
2つの抗体が、ZIKV.mmH(配列番号354)と本明細書により呼ばれるZIKV(prM80E)-mmH上のこれらのエピトープへの結合について互いに競合するかどうかを評価するために、抗ZIKVモノクローナル抗体間の結合競合をOctet RED384バイオセンサー(Pall ForteBio Corp.)上のリアルタイムの無標識生体層干渉アッセイを用いて測定した。交差競合実験を、0.01M HEPES pH7.4、0.15M NaCl、0.05%v/v界面活性剤Tween-20、0.1mg/mL BSA(HBS-P緩衝液)中で、25℃で、プレートを1000rpmの速度で振盪させながら行った。試験した抗ZIKV抗体およびZIKV-mmH溶液はすべて、Octet HBS-P緩衝液中で調製した。2つの抗体がZIKV-mmH上のそれぞれの各エピトープへの結合について互いに競合することができるかどうかを評価するために、およそ約0.97~0.112nmのZIKV-mmHを、10μg/mLのZIKV-mmHを含有するウェルから、抗HisコーティングしたOctetバイオセンサーチップ上にまず90秒間捕捉した。ZIKV-mmH捕捉したOctetバイオセンサーチップを、20μg/mlの第1の抗ZIKVモノクローナル抗体(本明細書によりmAb-1と呼ぶ)を含有するウェル中へ5分間浸漬した後、第2の抗ZIKVモノクローナル抗体(本明細書によりmAb-2と呼ぶ)を含有するウェル中に浸漬することによって飽和させた。工程間で、OctetバイオセンサーチップをHBS-P緩衝液中で30秒間洗浄した。
【0271】
リアルタイムの結合応答を実験の過程の間モニターし、あらゆる工程の終了時の結合応答を記録した。mAb-1に対する、次いでブロッキングmAbに対するZIKV-mmHの結合の応答を、背景結合について補正し、比較し、異なる抗ZIKVモノクローナル抗体の競合的/非競合的挙動を測定した。
【0272】
表9は、結合の桁数とは独立して、両方向で競合する抗体の関連性を明白に規定する。2つの抗ZIKVモノクローナル抗体H4H25619PおよびH4H25703Nは、本発明に説明する残りの抗体と交差競合しなかった。
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【0273】
実施例7-免疫蛍光アッセイを用いた抗体依存性増強(ADE)の測定
免疫蛍光アッセイ(以下に説明)を用いて、抗体依存性増強(ADE)に及ぼすZIKV抗体の効果を測定するために実験を行った。
【0274】
1つの実験において、フラビウイルス全部と交差反応するキメラ抗体を、GenBank受託番号KJ438784(カッパ軽鎖)およびKJ438785.1(重鎖)において認められる重鎖配列および軽鎖配列を用いて作製した。3つの抗体を作製し、REGN4203(hIgG1)、REGN4204(hIgG4s)およびREGN4206(hIgG4us)と命名した。REGN4203は、配列番号359に示される重鎖(HC)と、配列番号360に示される軽鎖(LC)とを有する。REGN4204は、配列番号361に示される重鎖(HC)と、配列番号362に示される軽鎖(LC)とを有し、REGN4206は、配列番号363に示される重鎖(HC)と、配列番号364に示される軽鎖(LC)とを有する。
【0275】
別の実験において、H4H25703N(配列番号258/266のHCVR/LCVRアミノ酸配列対)およびH4H 25619P(配列番号114/122のHCVR/LCVRアミノ酸配列対)と称する2種の抗ジカウイルス抗体を、同じ免疫蛍光アッセイを用いてADEへの影響について試験した。抗ジカ抗体H4H25703NおよびH4H25619Pの各々は、配列番号356のアミノ酸配列を含むFcを有するIgG1としてか、または配列番号357に示されるアミノ酸配列を含むFcを有するIgG4のいずれかとして調製した。H4H25703Nの重鎖(HC)の完全長アミノ酸配列を配列番号367として示し、H4H25703Nの軽鎖(LC)の完全長アミノ酸配列を配列番号368として示す。H4H25619Pの重鎖(HC)の完全長アミノ酸配列を配列番号370として示し、H4H25619Pの軽鎖(LC)の完全長アミノ酸配列を配列番号371として示す。
【0276】
抗体を、RPMI+10%FBS、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン中、終濃度が50、10、2、0.4、および0.08ug/mLになるように2倍に希釈した。次に、各抗体100uLを、2500ffu(蛍光フォーカス単位)のウイルスを含有するRPMI完全培地と37℃、5%CO2で30分間、1:1で混合した。次に、300uLのRPMI完全培地中の80,000個のK562細胞を抗体/ウイルス混合物へ添加し、37℃、5%CO2で3日間インキュベートした。感染の1日後および2日後に、100uLの上清を取り出し、-80℃へ凍結させた。3日後、上清の残りを回収し、-80℃へ凍結した。
【0277】
上清のウイルス量を検出するために、10%FBS、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを含有するMEM-アルファ中の黒色/透明底96ウェル細胞培養プレート中にベロ細胞を10,000個/ウェルで播種した。細胞を37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。感染当日、上述由来の上清試料をRPMI完全培地中に希釈した。各希釈液50uLをベロ細胞に添加し、37℃、5%CO2で1時間、プレートを15分毎に穏やかに撹拌しながらインキュベートした。接種源を細胞から取り出し、細胞を100uLのDMEM+1%FBS、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン、1%メチルセルロースで覆い、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。
【0278】
感染した細胞を、実施例5において既に説明したように免疫蛍光アッセイによって定量化した。
【0279】
結果
図1に示すように、REGN4203は、抗体の濃度が10
-10Mから10
-7Mまで上昇した場合のウイルス収量の増加によって示されるように、ADEの増大を実証した。REGN4204は、抗体の濃度が10
-10Mから10
-7Mまで上昇するにつれて、ウイルス収量が適度に増加することを示した。しかしながら、REGN4206は、抗体の濃度が10
-10Mから10
-7Mまで上昇するにつれて、ウイルス収量を増加させることができないことによって示されるように、ADEに何ら影響を及ぼさなかった。実際、REGN4206は、ウイルスのみの対照と比較して差異を示さなかった。
【0280】
図6および
図7に示すように、抗ZIKV抗体は、IgG1版とは異なり、配列番号357に示されるアミノ酸配列を含むFcを有するIgG4として調製した場合、ADE活性を誘導しない。
【0281】
実施例8.ZIKV感染マウスにおける防御に及ぼす抗ZIKV抗体の効果
ZIKV感染のマウスモデルにおける抗ZIKV抗体の効果を決定するために研究を行った。
【0282】
簡潔には、感染の1日前に、H4H25703NおよびH4H25619Pと称する2種の抗ZIKV抗体を、200μL用量あたり200、50、または12.5μgの終濃度のPBS中に希釈した。1日後、インターフェロンアルファ/ベータ受容体1(IFNAR1)ノックアウトマウスに、皮下注射を介して、たるんだ背側頚部領域へと抗体を投与した。感染当日、ZIKV株FSS13025を、200μL用量あたり105ffuまで、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを有する2%熱失活ウシ胎仔血清を含有するDMEM培地中に希釈した。マウスに、腹腔内注射を介してウイルスを投与した。マウスを、感染21日後までの実験の経過を通して体重減少についてモニターした。体重が80%閾値を下回った動物、または極度の病的状態(震え、衰弱、および非応答性)のある動物は安楽死させた。安楽死させたこれらの動物は、安楽死1日後として死亡日を示す(例えば、感染6日後に処分した動物は、7日後まで生存と示される)。
【0283】
結果
図2~
図5に示されるように、結果は、アイソタイプ対照抗体を受けたマウスがすべて、感染9日後までに体重の20%超が減少し、IACUC指針によって屠殺しなければならなかったことを示す。H4H25703抗ZIKV抗体(
図2)またはH4H25619P抗ZIKV抗体(
図3)のいずれかを受けたマウスは、感染21日後まで体重減少をより良好に制御することができ、200ug群および50ug群のマウスでは、20%の閾値を超える体重減少をいずれも示さず、12.5ug群のマウスの40%は、体重減少を示した。H4H25703N(
図4)またはH4H25619(
図5)によるマウスの前処理も、これらのマウスの生存を改善し、抗体200ugもしくは50ugで処置したマウスの100%、または各抗体12.5ugで処置したマウスの60%は、ZIKVによる負荷を生き延びた。
【0284】
実施例9.H4H25703NおよびH4H25619Pについての結合部位を決定するためのZIKV回避変異体のインビトロでの生成
4×10
5のffuのMR766 ZIKVを、GraphPad Prism(対数(阻害剤)と応答、つまり変数傾斜(4パラメータ))においてプロットしたときの中和曲線解析のIC50および丘傾斜から計算されるような各抗体のIC50、IC75、IC85、IC99、IC99、およびIC99.99でH4H25703NまたはH4H25619P(またはアイソタイプ対照抗体)の濃度を上昇させながら組み合わせた。計算は次のように完了させ、式中、f=所望の分数(IC85については、f=85)およびH=丘の傾斜とした:
【数3】
【0285】
ウイルスおよび抗体を一緒に37℃で30分間インキュベートした後、24ウェルプレートにおいて感染させる1日前に播種しておいた2×105ベロ細胞*上へと添加した。細胞を37℃、5%CO2でインキュベートし、細胞変性効果について毎日検査した。アイソタイプ対照抗体で処理したウェルにおいて細胞変性効果が明らかになったら、ウイルス上清をH4H25703Nで処理したウェルおよびH4H25619Pで処理したウェルから回収し、遠心分離によって細片を除去した。細胞変性効果が認められた最高濃度の抗体を含むウェルに由来するウイルス上清を新鮮な抗体とともにインキュベートし、事前に播種しておいた新鮮な細胞へと移し、細胞変性効果が明らかになるまで37℃、5%CO2で再度インキュベートした。最高抗体濃度(IC99.99)で細胞変性効果が認められるまで、この周期を反復した。ウイルス上清をIC99.99ウェルから回収し、6×106個のベロ細胞を事前に播種しておいたT25フラスコへ移した。これらの細胞で細胞変性効果が可視化すると、ウイルスを回収し、遠心分離により清澄化し、中和アッセイに使用して、その回避を確認し、ウイルスが依然として第2の抗体によってなおも中和されることができるどうかも判定した。また、RNAの単離およびウイルスの配列分析のために、このウイルス増殖由来の感染細胞を1mLのTrizol中へと回収した。
【0286】
中和アッセイ
**
H4H25703NおよびH4H25619Pの圧力下で生成した回避変異体が中和に対して耐性を持っているかどうかを確認するために、ベロ細胞における中和アッセイを行った。簡潔にいえば、中和を完了させるために、ウイルスを、11点曲線について10ug/mLから3倍希釈で200pg/mLまでの濃度の低下する濃度のH4H25703N、H4H25619P、またはアイソタイプ対照抗体のいずれかと組み合わせた。ウイルスおよび抗体を一緒に37℃で30分間インキュベートした後、黒色透明底96ウェル細胞培養プレート中に事前に播種しておいた10,000個のベロ細胞へと添加した。細胞は、ウイルス/抗体混合物とともに、インキュベーション中、定期的に穏やかに撹拌しながら、1時間インキュベートした。インキュベーション後、接種源を取り出し、細胞を1%メチルセルロース
***を含有するDMEMで覆い、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。メチルセルロース重層物を細胞から吸引した後、この細胞をPBSで2回洗浄し、アセトンとメタノールとの氷冷1:1混合物で4℃で30分間固定した。固定した細胞をPBSで2回洗浄した後、室温で15分間、5%FBSおよび0.1%Triton-Xを含有するPBSで透過処理した。細胞をPBSで洗浄した後、5%FBSを含有するPBSとともにインキュベートして、室温で30分間、非特異的結合を遮断した。次に、細胞をPBS+5%FBSおよび0.1%Tween-20中、1:10,000希釈の1次抗体(ポリクローナル免疫化マウス腹水)とともに、室温で1時間インキュベートした。細胞を、Molecular Devices AquaMax 4000プレート洗浄機を用いてPBSで6回洗浄した後、PBS+5%FBSおよび0.1%Tween-20中で1ug/mLの2次抗体(Alexa-488結合ヤギ抗マウスIgG)とともに室温で暗所で1時間インキュベートした。細胞をプレート洗浄器で6回洗浄し、MiniMaxプレートリーダーを備えたSpectramaxでの分析のために100uLのPBS中に放置して、蛍光フォーカスを計数した。中和百分率を以下のように計算するので、GraphPad Prismで非線形回帰(log(阻害剤)対応答、すなわち変数傾斜(4パラメータ))でプロットした:
中和%=(1-((ウェル値-培地のみの対照)/(ウイルスのみの対照-培地のみの対照))))
*100
中和が確認されたら、製造元のプロトコルに従って、Trizol(Life Technologies)を用いてウイルス増殖由来の感染細胞からRNAを単離した。得られたRNAを、Life Technologies SuperScript III First Strand Synthesisシステムを用いるcDNA合成に使用した。このcDNAを、PCRにおけるテンプレートとして使用し、以下のパラメータを用いてジカE配列を増幅した。
【表14】
【0287】
得られたPCR産物(予想サイズ:2113bp)を1XSybr Safe DNA Stain(Life Technologies)を含有する1%アガロースTBEゲル上で120Vで1時間泳動した。アンプリコンを切り出し、Qiagen QiaQuick Gel Extraction Kitを製造元の説明書に従って用いて精製した。得られた精製産物を、以下のプライマーを用いるSanger法を用いて配列決定した:
【表15】
【0288】
配列を分析し、完全長ジカE配列を構成するように組み立てた。
配列アセンブリの翻訳は回避変異を明らかにした。
【0289】
結果
配列分析は、H4H25703Nの回避変異がジカウイルスEタンパク質の位置302において認められることを確認した(配列番号376;S302E)。H4H25619Pの回避変異は、ジカウイルスEタンパク質のアミノ酸位置311および369において認められた(それぞれ配列番号376;T311IおよびK369E)。H4H25703NについてのEタンパク質回避変異(S302F)を示すアミノ酸配列を配列番号377として示す。H4H25619PについてのEタンパク質回避変異(T311IおよびK369E)を示すアミノ酸配列を配列番号378として示す。これらの研究からのデータは、ウイルス中和において主要な役割を担い得るZIKV Eタンパク質上のH4H25703NおよびH4H25619Pについての結合部位を示唆している。加えて、
図8Aおよび
図8Bに示す結果は、1つの抗体がEタンパク質における変異のためにZIKVを中和しないかもしれないが、第2の抗体がEタンパク質の変異を含有するこのウイルスを中和することができるかもしれず、したがって、抗体カクテルの使用のための支持を提供するかもしれないことを実証している。
【0290】
実施例10.ZIKV感染マウスにおける防御に及ぼす抗ZIKV抗体の組み合わせの効果
ZIKV感染のマウスモデルにおいて、単独でまたは組み合わせで使用する場合、抗ZIKV抗体の効果を決定するために研究を行った。
【0291】
インターフェロンアルファ/ベータ受容体1(IFNAR1)ノックアウトマウスを6~8週齢で受け取り、1個体あたり200、50、または12.5μgの最終用量の抗体のために陰性アイソタイプ対照抗体、または抗ZIKV抗体のいずれかを含有する200μLのPBSを皮下注射した。抗体のうちの2つを組み合わせた場合、各抗体は100、25、または6.25μgの用量で与えられ、それにより、いずれの抗体の総用量も、組み合わせた場合、200、50または12.5μgであった。処置の1日後、マウスを、DMEM+2%FBS、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン(PSG)中に希釈した105ffuのジカウイルス株FSS13025で、腹腔内注射を介して感染させた。体重減少または極度の疾病について動物を最大3週間モニターした。動物は、開始体重の80%の体重閾値を下回った場合、または極度の疾病を呈した場合、安楽死させた(振戦または非応答性によって正規化-後肢麻痺を有する動物を本実験における回復についてモニターした)。
【0292】
結果
本結果は、アイソタイプ対照抗体を受けたマウスがすべて、感染9日後までに体重の20%超を減少させ、IACUC指針により屠殺しなければならないことを示した。200ugまたは50ugの用量のH4H25703NまたはH4H25619を用いたマウスの前処理は、100%の生存をもたらした。12.5ugのH4H25703で処置したマウスの60%が、ZIKVを用いた負荷を生き延びた。12.5ugのH4H25619で処置したマウスの75%がZIKVを用いた負荷を生き延びた。200ug(各抗体100ug)または50ug(各抗体25ug)の総用量の両抗体を用いたマウスの前処理は、100%の生存率をもたらした。総用量12.5ug(各抗体6.25ug)を用いたマウスの前処理も100%の生存率をもたらした。これらの結果は、各抗体を単独で使用する場合に達成される効力と比較して、より低用量の各抗体を組み合わせで使用して、より大きな効力を達成することができることを示唆する。結果を以下の表10に示す。
【表16】
【配列表】