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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/3207 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
A61B17/3207
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019510004
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012851
(87)【国際公開番号】W WO2018181521
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】P 2017062165
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】西尾 広介
(72)【発明者】
【氏名】八田 知紀
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-504090(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0151917(US,A1)
【文献】米国特許第06183487(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0005699(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/3207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔内の物体を切削するための医療デバイスであって、
回転可能な駆動シャフトと、
前記駆動シャフトの遠位部に連結されて当該駆動シャフトにより回転される構造体と、を有し、
前記構造体は、前記物体を切削可能な外周面を有する切削部と、生体組織に対して前記切削部よりも滑らかな外周面を有する非切削部と、を有し、
前記切削部は、第1切削部と、前記第1切削部よりも近位側に位置する第2切削部と、を有し、
前記非切削部は、前記第1切削部および第2切削部の間に位置する第1非切削部を有し、
前記構造体の第2切削部の近位側に設けられる前記構造体とは異なる管体または前記構造体は、前記第2切削部の近位側に位置する第2非切削部を有し、
前記管体は、前記構造体を回転可能に支持して前記構造体と共に回転しない部材、または前記構造体に接合されて前記構造体と共に回転する部材であり、
前記第1切削部の外周面の最大半径をa、前記第2切削部の外周面の最大半径をb、前記第1非切削部の外周面の最大半径をc、前記第2非切削部の外周面の最大半径をd、前記第1非切削部の軸方向の長さをL1、前記第2切削部の軸方向の長さをL2とした際に、以下の式(A)~式(E)の全てを満たす医療デバイス。
a<b …式(A)
c<d …式(B)
d≦b …式(C)
a<d …式(D)
L1<L2 …式(E)
【請求項2】
以下の式(F)を満たす請求項1に記載の医療デバイス。
a-100μm≦c<b …式(F)
【請求項3】
前記第1切削部の切削可能な範囲の最小半径をa、前記構造体の軸方向に沿う断面において、前記第1非切削部および第2非切削部の接線から、当該接線と垂直かつ前記構造体の中心軸から離れる方向へ最も離れている前記第2切削部の最離間部までの逸脱距離をeとした際に、以下の式(G)を満たす請求項1または2に記載の医療デバイス。
a-a+e<b …式(G)
【請求項4】
前記第2切削部は、遠位側へ向かって外径がテーパ状に減少する縮径部を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記第2切削部は、遠位側へ向かって外径がテーパ状に増加する拡径部を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記第1切削部の少なくとも一部は、遠位側へ向かって外径がテーパ状に減少する請求項1~5のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記第1切削部および第2切削部の少なくとも一方の外周面は、軸直交断面において凹部を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
生体管腔内の物体を切削するための医療デバイスであって、
回転可能な駆動シャフトと、
前記駆動シャフトの遠位部に連結されて当該駆動シャフトにより回転される構造体と、を有し、
前記構造体は、前記物体を切削可能な外周面を有する切削部と、生体組織に対して前記切削部よりも滑らかな外周面を有する非切削部と、を有し、
前記非切削部は、前記切削部の遠位側に位置する第1非切削部を有し、
前記構造体の切削部の近位側に設けられる前記構造体とは異なる管体または前記構造体は、前記切削部の近位側に位置する第2非切削部を有し、
前記管体は、前記構造体を回転可能に支持して前記構造体と共に回転しない部材、または前記構造体に接合されて前記構造体と共に回転する部材であり、
前記第1非切削部の外周面の最大半径をc、前記第2非切削部の外周面の最大半径をd、前記構造体の軸方向に沿う断面において、前記第1非切削部および第2非切削部の接線から、当該接線と垂直かつ前記構造体の中心軸から離れる方向へ最も離れている前記切削部の最離間部までの逸脱距離をeとした際に、以下の式(B)および式(H)を満たす医療デバイス。
c<d …式(B)
e<150μm …式(H)
【請求項9】
前記切削部は、第1切削部と、前記第1切削部よりも近位側に位置する第2切削部と、を有し、
前記第1切削部は、前記第1非切削部の遠位側に位置し、
前記第2切削部は、前記第1非切削部の近位側であって前記第2非切削部の遠位側に位置し、
前記最離間部は、前記第2切削部に位置する請求項8に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記切削部は、前記第1非切削部の近位側であって前記第2非切削部の遠位側に位置する第2切削部を有し、
前記第2切削部は、遠位側へ向かって外径が増加する部位を含む切削遠位部と、前記切削遠位部の近位側であって前記第2非切削部の遠位側に位置し、遠位側へ向かって外径が減少する部位を含む切削近位部と、を有し、
前記切削遠位部は、前記接線に対して、当該接線と垂直かつ前記構造体の中心軸に近づく方向側に位置し、
前記最離間部は、前記切削近位部に位置する請求項8または9に記載の医療デバイス。
【請求項11】
生体管腔内の物体を切削するための医療デバイスであって、
回転可能な駆動シャフトと、
前記駆動シャフトの遠位部に連結されて当該駆動シャフトにより回転される構造体と、を有し、
前記構造体は、前記物体を切削可能な外周面を有する切削部と、生体組織に対して前記切削部よりも滑らかな外周面を有する非切削部と、を有し、
前記切削部は、第1切削部と、前記第1切削部よりも近位側に位置する第2切削部と、を有し、
前記非切削部は、前記第1切削部および第2切削部の間に位置する第1非切削部を有し、
前記構造体の第2切削部の近位側に設けられる前記構造体とは異なる管体または前記構造体は、前記第2切削部の近位側に位置する第2非切削部を有し、
前記管体は、前記構造体を回転可能に支持して前記構造体と共に回転しない部材、または前記構造体に接合されて前記構造体と共に回転する部材であり、
前記第2切削部は遠位側から近位側まで漸増し、前記第2切削部の最大外径を有する部位は、前記第2切削部の近位側に位置し、
前記構造体の軸方向に沿う断面において、前記第1非切削部および第2非切削部の接線よりも外側に、前記第2切削部の少なくとも一部が位置する医療デバイス。
【請求項12】
前記構造体の軸方向に沿う断面において、前記第1非切削部および第2非切削部の接線から、当該接線と垂直かつ前記構造体の中心軸から離れる方向へ最も離れている前記第2切削部の最離間部までの逸脱距離は、150μmよりも小さい請求項11に記載の医療デバイス。
【請求項13】
前記最離間部は、前記第2切削部の軸方向の中央よりも近位側に位置する請求項12に記載の医療デバイス。
【請求項14】
前記最離間部は、前記第2切削部の軸方向の中央よりも遠位側に位置する請求項12に記載の医療デバイス。
【請求項15】
前記第2非切削部の最大外径は、前記第1切削部、第2切削部および第1非切削部の最大外径よりも大きい請求項11~14のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項16】
前記構造体の最大外径を有する部位は、前記第2切削部である11~14のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項17】
前記第1非切削部の外径は、前記第2非切削部の外径よりも小さい請求項11~16のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体管腔の内壁面から物体を切削するための医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
冠動脈のプラークや血栓などによる狭窄部の治療方法として、バルーンにより血管を拡張する経皮的冠動脈形成術(PTCA)や、網目状またはコイル状のステントを血管の支えとして血管内に留置する方法などが挙げられる。しかしながら、これらの方法は、狭窄部のプラークが石灰化して硬くなっている場合や、冠動脈の分岐部で生じている場合には、適用が困難である。このような場合においても治療が可能な方法として、プラークや血栓などの狭窄物を切削するアテレクトミーがある。
【0003】
アテレクトミーのためのデバイスとして、例えば特許文献1には、カテーテルの遠位部にある回転体の外表面にダイヤモンド粒子(研磨材)を付着させ、この回転体を冠動脈内で回転させることで、狭窄物を切削するデバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第7252674号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のデバイスは、回転体に付着した研磨材が血管壁に接触する可能性がある。例えば、狭窄物が血管壁の周方向の一部に偏っている場合には、回転体は、狭窄物の少ない反対側の血管壁に強く接触する。このため、正常血管に対する損傷リスクが大きくなる。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、生体管腔内の物体を効果的に切削でき、かつ生体組織の損傷を低減させて安全性を向上できる医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る医療デバイスは、生体管腔内の物体を切削するための医療デバイスであって、回転可能な駆動シャフトと、前記駆動シャフトの遠位部に連結されて当該駆動シャフトにより回転される構造体と、を有し、前記構造体は、前記物体を切削するための外周面を有する切削部と、生体組織に対して前記切削部よりも滑らかに接触可能な外周面を有する非切削部と、を有し、前記切削部は、第1切削部と、前記第1切削部よりも近位側に位置する第2切削部と、を有し、前記非切削部は、前記第1切削部および第2切削部の間に位置する第1非切削部を有し、前記構造体または前記構造体の第2切削部の近位側に設けられる前記構造体とは異なる管体または前記構造体は、前記第2切削部の近位側に位置する第2非切削部を有し、前記管体は、前記構造体を回転可能に支持して前記構造体と共に回転しない部材、または前記構造体に接合されて前記構造体と共に回転する部材であり、前記第1切削部の外周面の最大半径をa、前記第2切削部の外周面の最大半径をb、前記第1非切削部の外周面の最大半径をc、前記第2非切削部の外周面の最大半径をd、前記第1非切削部の軸方向の長さをL1、前記第2切削部の軸方向の長さをL2とした際に、以下の式(A)~式(E)の全てを満たす。
a<b …式(A)
c<d …式(B)
d≦b …式(C)
a<d …式(D)
L1<L2 …式(E)
【0008】
また、上記目的を達成する他の態様である医療デバイスは、生体管腔内の物体を切削するための医療デバイスであって、回転可能な駆動シャフトと、前記駆動シャフトの遠位部に連結されて当該駆動シャフトにより回転される構造体と、を有し、前記構造体は、前記物体を切削するための外周面を有する切削部と、生体組織に対して前記切削部よりも滑らかな外周面を有する非切削部と、を有し、前記非切削部は、前記切削部の遠位側に位置する第1非切削部を有し、前記構造体の切削部の近位側に設けられる前記構造体とは異なる管体または前記構造体は、前記切削部の近位側に位置する第2非切削部を有し、前記管体は、前記構造体を回転可能に支持して前記構造体と共に回転しない部材、または前記構造体に接合されて前記構造体と共に回転する部材であり、前記第1非切削部の外周面の最大半径をc、前記第2非切削部の外周面の最大半径をd、前記構造体の軸方向に沿う断面において、前記第1非切削部および第2非切削部の接線から、当該接線と垂直かつ前記構造体の中心軸から離れる方向へ最も離れている前記切削部の最離間部までの逸脱距離をeとした際に、以下の式(B)および式(H)を満たす。
c<d …式(B)
e<150μm …式(H)
【0009】
また、上記目的を達成するさらに他の態様である医療デバイスは、生体管腔内の物体を切削するための医療デバイスであって、回転可能な駆動シャフトと、前記駆動シャフトの遠位部に連結されて当該駆動シャフトにより回転される構造体と、を有し、前記構造体は、前記物体を切削可能な外周面を有する切削部と、生体組織に対して前記切削部よりも滑らかな外周面を有する非切削部と、を有し、前記切削部は、第1切削部と、前記第1切削部よりも近位側に位置する第2切削部と、を有し、前記非切削部は、前記第1切削部および第2切削部の間に位置する第1非切削部を有し、前記構造体の第2切削部の近位側に設けられる前記構造体とは異なる管体または前記構造体は、前記第2切削部の近位側に位置する第2非切削部を有し、前記管体は、前記構造体を回転可能に支持して前記構造体と共に回転しない部材、または前記構造体に接合されて前記構造体と共に回転する部材であり、前記第2切削部は遠位側から近位側まで漸増し、前記第2切削部の最大外径を有する部位は、前記第2切削部の近位側に位置し、前記構造体の軸方向に沿う断面において、前記第1非切削部および第2非切削部の接線よりも外側に、前記第2切削部の少なくとも一部が位置する。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した医療デバイスは、第1非切削部を挟んで第1切削部および第2切削部を有しているため、物体を段階的に切削することで、安全を確保しつつ、最終的に物体を深く(大きく)切削できる。医療デバイスは、第2切削部の最大半径bおよび第2非切削部の最大半径dよりも小さい最大半径aを備える第1切削部を、第1非切削部よりも遠位側に有するため、第2切削部により物体を深く切削する前に、第1非切削部により生体組織の損傷を抑制しつつ、第1切削部により物体を切削できる。また、医療デバイスは、第1切削部の最大半径aよりも大きくかつ第2非切削部の最大半径d以上の最大半径bを備える第2切削部により、生体管腔内の物体を第1切削部よりも深く切削できる。そして、第2切削部は、第1非切削部および第2非切削部により挟まれているため、第2切削部による生体組織の過剰な損傷を抑制でき、高い切削能力および高い安全性を両立できる。さらに、第1非切削部の軸方向の長さL1は、第2切削部の軸方向の長さL2よりも短いため、第2切削部により物体を切削する際に、回転する第1非切削部の生体組織に接触する位置が安定する。このため、回転する構造体が、第1非切削部によって安定して支持され、高い切削能力および安全性を維持できる。したがって、本医療デバイスは、生体管腔内の物体を効果的に切削でき、かつ生体組織の損傷を低減させて安全性を向上できる。
【0012】
上記のように構成した他の態様である医療デバイスは、式(B)を満たすことで、第1非切削部よりも第2非切削部が大きくなり、医療デバイスの通過性が高くなる。さらに、式(H)を満たすことで、逸脱距離eが血管壁の厚みよりも小さくなり、医療デバイスの安全性が向上する。
【0013】
上記のように構成したさらに他の態様である医療デバイスは、第2切削部により生体管腔内の物体を効果的に切削でき、かつ生体組織の損傷を第2非切削部により低減させて安全性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る医療デバイスを示す平面図である。
図2】実施形態に係る医療デバイスの遠位部を示す平面図である。
図3】構造体の表面近傍を拡大した断面図である。
図4】手技を行う際の血管内の状態を示す概略断面図であり、(A)はガイドワイヤに沿って医療デバイスを血管内に挿入した際の状態、(B)は第1切削部により狭窄部を切削している状態、(C)は第2切削部により狭窄部を切削している状態、(D)は振れ回る構造体により狭窄部を切削している状態を示す。
図5】医療デバイスを用いた手技を説明するためのフローチャートである。
図6】医療デバイスの変形例を示す平面図である。
図7】医療デバイスの他の変形例を示す平面図である。
図8】医療デバイスのさらに他の変形例を示す平面図である。
図9】医療デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
図10】医療デバイスのさらに他の変形例を示す斜視図である。
図11】医療デバイスのさらに他の変形例を示す斜視図である。
図12】環状部を示す斜視図である。
図13】医療デバイスのさらに他の変形例を示す斜視図である。
図14】医療デバイスのさらに他の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
本発明の実施形態に係る医療デバイス10は、血管内のプラークや血栓などによる狭窄部または閉塞部を切削する治療(処置)に用いられる。なお、本明細書では、デバイスの血管に挿入する側を「遠位側」、操作する手元側を「近位側」と称することとする。
【0018】
医療デバイス10は、図1、2に示すように、回転可能な構造体20と、構造体20を回転させる駆動シャフト30と、手元側に設けられる操作部40と、構造体20を収容可能な外シース50とを備えている。
【0019】
構造体20は、生体管腔内の物体である狭窄部S(図4(A)を参照)を切削するための外周面を有する切削部と、生体組織に対して切削部よりも滑らかに接触し、生体組織にほとんど損傷を与えない外周面を有する非切削部とを備えている。切削部は、構造体20の最遠位側に位置する第1切削部21と、第1切削部21よりも近位側に位置する第2切削部22を備えている。非切削部は、第1切削部21と第2切削部22の間に位置する第1非切削部23と、第2切削部22よりも近位側に位置する第2非切削部24とを備えている。すなわち、構造体20は、遠位端から近位側へ向かって並ぶ、第1切削部21、第1非切削部23、第2切削部22および第2非切削部24を有している。構造体20の、少なくとも第1切削部21、第1非切削部23、第2切削部22および第2非切削部24を含む範囲は、ほとんど撓まない剛体であることが好ましい。これにより、第1切削部21、第1非切削部23、第2切削部22および第2非切削部24の位置関係は、狭窄部Sを切削する工程において、ほとんど変化しない。第1切削部21、第1非切削部23、第2切削部22、第2非切削部24および駆動シャフト30の遠位部は、共通する軸心を有している。
【0020】
第1切削部21は、構造体20の最遠位部に位置している。第1切削部21は、遠位側へ向かって外径がテーパ状に減少する外周面を有している。第1切削部21の外周面は、軸直交断面において円形である。第1切削部21の外周面の最大半径aは、第1切削部21の最近位部の外周面の半径である。第1切削部21の最大半径aは、第1切削部21の切削可能な範囲の最大半径である。構造体20の内部には、駆動シャフト30のルーメンが連通してガイドワイヤ60を挿入可能なガイドワイヤルーメン28が形成されている。したがって、第1切削部21は、切削可能な範囲の最小半径aを有している。第1切削部21の切削可能な範囲の最小半径aは、ガイドワイヤルーメン28の内周面の半径と、略一致する。ガイドワイヤルーメン28の軸心は、構造体20の外周面の軸心と一致する。ガイドワイヤルーメン28は、構造体20の遠位側開口部20Aで開口している。
【0021】
第2切削部22は、遠位側に位置する切削遠位部22Aと、近位側に位置する切削近位部22Bとを備えている。切削遠位部22Aは、第2切削部22の遠位部に位置する拡径部25を備えている。切削近位部22Bは、拡径部25の近位側に位置する縮径部26と、縮径部26の近位側に位置する同径部27を備えている。同径部27は、第2非切削部24から遠位側へ向かって外径が均一の外周面を有している。同径部27の外周面は、軸直交断面において円形である。縮径部26は、同径部27から遠位側へ向かって外径がテーパ状に減少する外周面を有している。縮径部26の外周面は、軸直交断面において円形である。拡径部25は、縮径部26から遠位側へ向かって第1非切削部23まで外径がテーパ状に増加する外周面を有している。拡径部25の外周面は、軸直交断面において円形である。
【0022】
拡径部25と縮径部26は、軸心を通る縦断面において外周面がV字形状となるように連結されている。拡径部25の軸直交断面に対する角度θ1は、縮径部26の軸直交断面に対する角度θ2以下である。さらに、拡径部25の外周面の最大半径よりも、縮径部26の外周面の最大半径の方が大きい。このため、拡径部25よりも、縮径部26の方が、軸方向に広い範囲に設けられる。縮径部26は、主に医療デバイス10を押し込む際に狭窄部Sを切削する。拡径部25は、主に医療デバイス10を牽引する際に狭窄部Sを切削する。通常、医療デバイス10を牽引する際よりも押し込む際に、より多くの物体を切削する必要がある。このため、角度θ1を角度θ2以下とすることで、切削に適切な形状とすることができる。
【0023】
同径部27は、第2切削部22の最大半径bを有する部位である。第2切削部22の最大半径bは、縮径部26の近位端部の外周面の半径と一致する。同径部27は、軸方向に所定の長さを有することで、狭窄部Sを広い範囲で効率的に切削できる。
【0024】
第1切削部21と第2切削部22の外表面には、図3に示すように、例えばダイヤモンド粒子などの研磨材である砥粒72が、ニッケルメッキ層などの固定層71によって固定されている。したがって、第1切削部21および第2切削部22の、第1非切削部23に隣接する部位に、第1非切削部23よりも外径が大きい固定層71および砥粒72が存在し得る。同様に、第2切削部22の、第2非切削部24に隣接する部位に、第2非切削部24よりも外径が大きい固定層71および砥粒72が存在し得る。しかしながら、第1非切削部23(または第2非切削部24)よりも外径が大きくなる砥粒72および固定層71が設けられる範囲の軸方向の長さおよび面積は、第1非切削部23(または第2非切削部24)の外周面の軸方向の長さおよび面積に対して非常に小さい。このため、第1非切削部23(または第2非切削部24)よりも外径が大きくなる砥粒72の研磨における貢献は非常に限定的で微小である。砥粒72および固定層71の径方向外側への突出量の最大値である最大突出量Pは、例えば100μmであり、好ましくは50μmであり、より好ましくは30μmであり、さらに好ましくは20μmである。したがって、砥粒72または固定層71が微小な範囲で第1非切削部23よりも突出する構成において、第1非切削部23の最大半径cは、実質的に第1切削部21の最大半径a以上である。
【0025】
第1非切削部23は、図2に示すように、第1切削部21と第2切削部22の間に位置している。第1非切削部23は、軸方向に沿って一定の外径である凹凸の無い滑らかな外周面を有している。したがって、第1非切削部23は、外周面に軸方向へ一定の最大半径cを有している。第1非切削部23の外周面は、軸直交断面において滑らかな円形である。なお、第1非切削部23の外径は、軸方向に沿って変化してもよい。例えば、第1非切削部23の外径は、遠位側へ向かってテーパ状に減少してもよい。または、第1非切削部23の外径は、近位側へ向かってテーパ状に減少してもよい。または、第1非切削部23の軸方向の中央部が、第1非切削部23の最大半径cを有してもよい。第1非切削部23の軸方向の長さL1は、第2切削部22の軸方向の長さL2よりも短い。このため、第2切削部22により狭窄部Sの切削を行う際に、回転する第1非切削部23の生体組織に接触する位置を安定させることができる。
【0026】
第2非切削部24は、第2切削部22の近位側に位置している。第2非切削部24の近位部は、駆動シャフト30に連結されている。第2非切削部24は、軸方向に沿って一定の外径である凹凸の無い滑らかな外周面を有している。したがって、第2非切削部24は、外周面に軸方向へ一定の最大半径dを有している。第2非切削部24の外周面は、軸直交断面において滑らかな円形である。なお、第2非切削部24の外径は、軸方向に沿って変化してもよい。例えば、第2非切削部24は、遠位側へ向かって外径がテーパ状に減少してもよい。または、第2非切削部24の外径は、近位側へ向かってテーパ状に減少してもよい。または、第2非切削部24の軸方向の略中央部が、第2非切削部24の最大半径cを有してもよい。
【0027】
上述した第2切削部22の外周面の最大半径bは、第1切削部21の外周面の最大半径aよりも大きい。第2切削部22の最大半径bは、構造体20の最大半径でもある。また、第2切削部22は、第1切削部21よりも近位側に位置している。このため、第1切削部21で狭窄部Sを浅く切削した後、第1切削部21よりも外径の大きな第2切削部22により、狭窄部Sを深く切削できる。したがって、切削部は、第1非切削部23を挟んで第1切削部21および第2切削部22を備えるため、狭窄部Sを段階的に切削することで、安全性を確保しつつ、最終的に狭窄部Sを深く切削できる。
【0028】
第2切削部22の外周面の最大半径bは、第1非切削部23の外周面の最大半径cよりも大きい。また、第2切削部22の外周面の最大半径bは、第2非切削部24の外周面の最大半径d以上である。本実施形態では、第2切削部22の外周面の最大半径bは、第2非切削部24の外周面の最大半径dよりも大きい。このため、第2非切削部24は、第1非切削部23および第2非切削部24の間で径方向外側へ突出するため、高い切削能力を備えている。
【0029】
第2非切削部24の外周面の最大半径dは、第1非切削部23の外周面の最大半径cよりも大きい。第2非切削部24は、第1非切削部23よりも近位側に位置している。このため、切削の第1段階として、第1非切削部23を生体組織に接触させつつ第1切削部21で物体を浅く切削できる。この後、切削の第2段階として、第1非切削部23よりも最大半径の大きな第2非切削部24を生体組織に接触させつつ、第1切削部21よりも最大半径の大きな第2切削部22により、狭窄部Sを深く切削できる。
【0030】
そして、構造体20は、以下の式(1)、式(2)および式(3)を満たす。
【0031】
a<d≦b …式(1)
L1<L2 …式(2)
a-100μm≦c<b …式(3)
【0032】
すなわち、第1切削部21の最大半径aは、第2非切削部24の最大半径dよりも小さい。また、第2切削部22の最大半径bは、第2非切削部24の最大半径dよりも大きい。また、第1非切削部23の軸方向の長さL1は、第2切削部22の軸方向の長さL2よりも短い。また、第1非切削部23の最大半径cは、第1切削部21の最大半径aから砥粒72の最大突出量P(100μm)を減じた値以上である。すなわち、第1切削部21の砥粒72を含む最大半径aは、砥粒72の分だけ、第1非切削部23の最大半径cよりも大きくなり得る。砥粒72の最大突出量Pは、上述したように、100μmであるが、より好ましくは50μm、さらに好ましくは30μm、さらに好ましくは20μmである。また、第2切削部22の最大半径bは、第1非切削部23の最大半径よりも大きい。なお、各式を満たすことの意義は、後述する医療デバイス10の使用方法の例において詳述する。
【0033】
第2切削部22の一部は、軸方向に沿う断面における第1非切削部23および第2非切削部24の接線Tよりも径方向外側へ逸脱している。構造体20の軸方向に沿う断面において、接線Tから、接線Tと垂直かつ構造体20の中心軸から離れる方向へ最も離れている最離間部29までの逸脱距離eは、以下の式(4)を満たす。第2切削部22の最離間部29は、縮径部26と同径部27の外周面の境界に位置している。なお、軸方向に沿う断面における第1非切削部23および第2非切削部24の接線Tとは、第1非切削部23および第2非切削部24の両方と接する直線のうち、中心軸から最も離れて位置する直線を意味する。
【0034】
a-a+e<b ・・・式(4)
【0035】
また、第1切削部21は、軸方向に沿う断面における第1非切削部23と第2非切削部24の接線Tよりも径方向内側、または接線T上に位置している。
【0036】
また、医療デバイス10は、以下の式(5)および式(6)を満たす。式(5)を満たすことで、第1非切削部23の外径よりも第2非切削部24の外径が大きくなり、医療デバイス10の通過性が高くなる。ところで、血管壁の厚みは、一般的に、20μmよりも大きく、150μmよりも小さい。したがって、式(6)を満たすことで、逸脱距離eが血管壁の厚みの最大値(150μm)よりも小さくなる。このため、第2切削部22により血管壁を切削しすぎることを抑制でき、安全性が向上する。なお、逸脱距離eが血管壁の厚みの最小値(20μm)よりも小さくてもよい。この場合、第2切削部22により血管壁を切削しすぎることをさらに抑制でき、安全性がさらに向上する。
【0037】
c<d …式(5)
e<150μm …式(6)
【0038】
構造体20の構成材料は、特に限定されないが、例えば、ステンレス、CoCr、NiCr、真鍮、WC、タンタル(Ta)、Ti(チタン)、Pt(白金)、Au(金)、W(タングステン)、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド、などが好適に使用できる。
【0039】
構造体20の最大外径は、適用される生体管腔の内径等により適宜選択可能であるが、例えば、0.5~10.0mmであり、一例として2.0mmとすることができる。
【0040】
駆動シャフト30は、図1、2に示すように、管状に形成されて、遠位側が構造体20の近位端部に固定されており、近位側に従動歯車31が固定されている。駆動シャフト30の近位部は、操作部40のケーシング41に回転可能に連結されている。
【0041】
駆動シャフト30は、柔軟で、しかも近位側から作用する回転の動力を遠位側に伝達可能な特性を持ち、たとえば、単層コイル、右左右と巻き方向を交互にしている3層コイルなどの多層コイル状の管体、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド、またはこれらの組み合わせに線材などの補強部材が埋設されたもので構成されている。
【0042】
駆動シャフト30の内径は、適宜選択可能であるが、例えば0.45~1.5mmであり、一例として0.6mmとすることができる。駆動シャフト30の外径は、適宜選択可能であるが、例えば0.8~1.5mmであり、一例として1.2mmとすることができる。
【0043】
外シース50は、駆動シャフト30の外側に被さる管体であり、駆動シャフト30に対して、軸方向へ移動可能かつ回転可能である。外シース50は、近位部を把持して操作可能となっている。外シース50は、駆動シャフト30に対して遠位側へ移動することで、構造体20を内部に収容可能である。また、外シース50は、駆動シャフト30に対して近位側へ移動することで、構造体20を外部へ露出させることができる。外シース50は、医療デバイス10とは別に提供されるガイディングシースであってもよい。
【0044】
外シース50の構成材料は、特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド、などが好適に使用できる。また、外シース50は、複数の材料によって構成されてもよく、線材などの補強部材が埋設されてもよい。
【0045】
外シース50の内径は、適宜選択可能であるが、例えば1.0~3.0mmであり、一例として2.1mmとすることができる。外シース50の外径は、適宜選択可能であるが、例えば1.2~4.0mmであり、一例として2.5mmとすることができる。
【0046】
操作部40は、ケーシング41と、従動歯車31に噛み合う駆動歯車42と、駆動歯車42が固定される回転軸43を備える駆動源であるモータ44とを備えている。操作部40は、さらに、モータ44へ電力を供給する電池などのバッテリー45と、モータ44の駆動を制御するスイッチ46とを備えている。スイッチ46を入れると、モータ44の回転軸43および駆動歯車42が回転する。駆動歯車42が回転すると、駆動歯車42と噛み合う従動歯車31が回転し、駆動シャフト30が回転する。駆動シャフト30が回転すると、駆動シャフト30の遠位側に固定されている構造体20が回転し、狭窄部Sの切削が可能となる。
【0047】
次に、本実施形態に係る医療デバイス10の使用方法を、図5に示すフローチャートを参照しつつ、血管内の狭窄部Sを切削する場合を例として説明する。狭窄部Sの形状は、対称的な形状に限定されないため、血管に偏って配置される場合がある。ここでは、血管内の狭窄部Sが、図4(A)に示すように、血管壁の周方向の一部に偏っている場合を例として説明する。
【0048】
まず、血管の狭窄部Sよりも上流側(近位側)において血管内へ経皮的にイントロデューサシース(図示せず)を挿入し、このイントロデューサシースを介して、ガイドワイヤ60を血管内へ挿入する。
【0049】
次に、構造体20を外シース50内に収容した状態の医療デバイス10を準備し、構造体20の遠位側開口部20Aにガイドワイヤ60の近位側端部を挿入する。続いて、ガイドワイヤ60を先行させつつ、医療デバイス10を押し進め、医療デバイス10の遠位側端部を、狭窄部Sの近位側に位置させる(ステップS10)。次に、外シース50を近位側へ移動させ、構造体20を血管内で露出させる。
【0050】
次に、操作部40のスイッチ46(図1を参照)を入れると、モータ44の駆動力が駆動歯車42から従動歯車31へ伝わる。そして、従動歯車31に連結されている駆動シャフト30が回転して、駆動シャフト30に連結されている構造体20が回転する。
【0051】
次に、構造体20を回転させた状態で、図4(B)に示すように、医療デバイス10を押し進める。これにより、構造体20の最遠位に位置する第1切削部21が、狭窄部Sに接触して、狭窄部Sが切削される。切削された狭窄部Sは、デブリとなって血管内を遠位側(下流側)へ流れる。血管内を流れるデブリは、血管の下流側に別途設けられるフィルターやバルーンによって、捕集される。これにより、デブリが末梢へ流れることを抑制でき、末梢血管における新たな狭窄の発生を抑制できる。または、狭窄部Sが切削されて形成された血栓性のデブリは、血栓溶解剤によって溶解されてもよい。
【0052】
狭窄部Sが血管内で偏って形成されている場合、狭窄部Sを貫通するガイドワイヤ60に沿って構造体20を押し込むと、構造体20が血管の軸心に対して傾きつつ、血管壁に近づく。これにより、まず、構造体20の最遠位に位置する第1切削部21または第1非切削部23が、狭窄部Sが設けられる側と反対側の血管壁に接触する。第1非切削部23が血管壁に接触すると、第1非切削部23が血管壁に滑らかに接触する。このため、構造体20の回転を安定して維持でき、かつ血管壁の損傷を抑制できる。また、第1切削部21は、血管壁に接触すると、血管壁を切削する。しかしながら、構造体20のガイドワイヤルーメン28には、ガイドワイヤ60が挿入されている。このため、第1切削部21により切削される血管壁の深さの最大値は、第1切削部21の最大半径aに比例する。具体的には、第1切削部21により切削される血管壁の深さの最大値は、第1切削部21の、切削可能な範囲の径方向の長さである。すなわち、第1切削部21により切削される血管壁の深さの最大値は、第1切削部21の砥粒72のある範囲の最大半径aから最小半径aを減じた値である。なお、第1切削部21により切削される深さの最大値は、血管壁の厚さに比べて小さく、血管穿孔の問題は生じない。すなわち、第1切削部21は、遠位側にガイドワイヤ60が導出され、近位側に第1非切削部23が配置されているため、血管壁に押し付けられても、血管壁を切削可能な深さが制限される。そして、遠位側へ押し込まれた第1切削部21は、狭窄部Sと血管壁の間に挟まれつつ、血管壁を切削可能な深さが限定されるため、反対側の狭窄部Sを効果的に切削できる。
【0053】
第1切削部21の最大半径aは、前述の式(1)に示すように、第2非切削部24の最大半径dよりも小さい。このため、第2非切削部24を血管壁に滑らかに接触させて、第2切削部22により狭窄部Sを深く切削する前に、第1切削部21により狭窄部Sを浅く切削できる。
【0054】
第1非切削部23の最大半径cは、前述の式(3)に示すように、第1切削部21の最大半径a以上である。このため、第1切削部21により狭窄部Sを切削する際に、第1非切削部23を血管壁に滑らかに接触させて、第1切削部21による血管壁の損傷を抑制できる(ステップS11)。
【0055】
次に、図4(C)に示すように、第1切削部21により狭窄部Sを切削しつつ、第1切削部21を遠位側へ押し込む。第2切削部22の最大半径bは、前述の式(1)に示すように、第2非切削部24の最大半径dよりも大きい。このため、第1非切削部23を遠位側へ押し込むことで、第1非切削部23よりも外径の大きな第2切削部22を、狭窄部Sに効果的に接触させることができる。そして、第1非切削部23を血管壁に滑らかに接触させて、第2切削部22による血管壁の損傷を抑制できる。したがって、生体の安全性を確保しつつ、第2切削部22により狭窄部Sを深く切削できる。
【0056】
第1切削部21および第1非切削部23が狭窄部Sを遠位側へ通過すると、第1非切削部23と第2非切削部24が血管壁に接触し、第2切削部22が、狭窄部Sを切削する(ステップS12)。第1切削部21および第1非切削部23が狭窄部Sを遠位側へ通過すると、第1切削部21および第1非切削部23が狭窄部Sから力を受けないため、第1切削部21を血管壁に押し付ける力が格段に低下する。このため、第1非切削部23が血管壁により滑らか接触して、第1切削部21が血管壁に接触することを抑制できる。このとき、第1切削部21が、接線Tよりも内側に位置しているため、第1切削部21が血管壁を損傷することを効果的に抑制できる。
【0057】
第2切削部22の最大半径bは、前述の式(3)に示すように、第1切削部21の最大半径aおよび第1非切削部23の最大半径cよりも大きい。このため、第1切削部21により浅く切削された狭窄部Sを、第2切削部22により深く切削できる。第2切削部22は、第1非切削部23と第2非切削部24の接線Tよりも外側へ突出する最離間部29を有している。したがって、最離間部29は、血管壁を切削する。第1非切削部23と第2非切削部24が血管壁に接触した状態の第2切削部22により切削される血管壁の深さの最大値は、接線Tから最離間部29までの逸脱距離eと一致する。したがって、第1切削部21による血管壁の切削深さと、第2切削部22による血管壁の切削深さの合計は、第1切削部21の切削可能な範囲の最大半径aから最小半径aを減じた値と、逸脱距離eの合計となる。この合計値(a-a+e)は、上述した式(4)に示すように、第2切削部22の最大半径b未満である。したがって、最大半径bを有する外径の大きな第2切削部22により狭窄部Sの切削効率を高めつつも、血管壁の切削深さを、第2切削部22の最大半径bよりも小さい(a-a+e)とすることができる。このため、血管壁の損傷を低減できる。また、第2切削部22は、接線Tから径方向外側へ逸脱する部位を有しているため、接線Tから径方向外側へ逸脱しない場合と比較して、狭窄部Sを効果的に切削できる。なお、第1切削部21および第2切削部22によって生じ得る血管壁の切削深さの合計値(a-a+e)は、血管壁の厚さに比べて小さい。このため、血管穿孔の問題は生じない。合計値(a-a+e)は、好ましくは1000μm未満であり、より好ましくは500μm未満であり、さらに好ましくは250μm未満である。これにより、第1切削部21および第2切削部22による血管穿孔の発生を抑制できる。
【0058】
また、第1非切削部23の軸方向の長さL1は、上述の式(2)に示すように、第2切削部22の軸方向の長さよりも短い。このため、第2切削部22により狭窄部Sを切削する際に、回転する第1非切削部23の血管壁に接触する位置が安定し、回転する構造体20を、第1非切削部23によって安定して支持できる。医療デバイス10は、回転する構造体20を、第1非切削部23によって安定して支持できるため、生体管腔内の狭窄部Sを効果的に切削でき、かつ血管壁の損傷を低減させて安全性を向上できる。
【0059】
次に、操作部40や外シース50を回転操作して、図4(D)に示すように、構造体20の回転軸43を振れ回らせる。これにより、血管壁に滑らかに接触する第1非切削部23および第2非切削部24によって血管壁の損傷リスクを低減させつつ、第2切削部22により、または第1切削部21および第2切削部22によって、狭窄部Sを効果的に大きく切削できる。外シース50の遠位部に、所定の角度で曲がる湾曲部51が形成されている場合、外シース50を回転させて外シース50の遠位部の方向を変更することで、構造体20の回転軸43を振れ回らせることができる(ステップS13)。
【0060】
この後、構造体20の回転、振れ回り、および進退移動を繰り返すことで、第1非切削部23および第2非切削部24により血管壁の損傷を抑制しつつ、第1切削部21および第2切削部22により狭窄部Sを効果的に切削できる。第1切削部21および縮径部26は、遠位側へ向かって縮径しているため、医療デバイス10を遠位側へ押し込む際に、狭窄部Sを効果的に切削できる。拡径部25は、近位側へ向かって縮径しているため、医療デバイス10を近位側へ牽引する際に、狭窄部Sを効果的に切削できる。
【0061】
狭窄部Sの切削が完了した後、スイッチ46を切って駆動シャフト30の回転を停止させる。この後、外シース50を遠位側へ移動させ、または構造体20を近位側へ移動させて、外シース50内に構造体20を収容する。この後、外シース50を残して、構造体20および駆動シャフト30を体外へ抜去する(ステップS14)。
【0062】
次に、外シース50の近位側にYコネクター等を介してシリンジを接続する。この後、シリンジの押し子を牽引して吸引力を作用させると、狭窄部Sを切削することで形成されたデブリを、外シース50のルーメンを介してシリンジに吸引できる。なお、デブリを吸引する器具は、外シース50でなくてもよく、他のカテーテルであってもよい。また、吸引力を作用させる器具は、シリンジに限定されず、例えばポンプであってもよい。また、デブリは、吸引して体外へ排出するのではなく、例えばフィルターやバルーンによって、血管内に挿入されるシース内に回収してもよい。
【0063】
この後、外シース50を抜去し、イントロデューサシースを抜去して、手技が完了する。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る医療デバイス10は、生体管腔内の狭窄部S(物体)を切削するための医療デバイス10であって、回転可能な駆動シャフト30と、駆動シャフト30の遠位部に連結されて当該駆動シャフト30により回転される構造体20と、を有し、構造体20は、狭窄部Sを切削可能な切削部と、生体組織に対して切削部よりも滑らかな外周面を有する非切削部と、を有し、切削部は、第1切削部21と、第1切削部21よりも近位側に位置する第2切削部22と、を有し、非切削部は、第1切削部21および第2切削部22の間に位置する第1非切削部23を有し、構造体20は、第2切削部22の近位側に位置する第2非切削部24を有し、構造体20は、第1切削部21の外周面の最大半径をa、第2切削部22の外周面の最大半径をb、第1非切削部23の外周面の最大半径をc、第2非切削部24の外周面の最大半径をd、第1非切削部23の軸方向の長さをL1、第2切削部22の軸方向の長さをL2とした際に、以下の式(A)~(E)の全てを満たす。
a<b …式(A)
c<d …式(B)
d≦b …式(C)
a<d …式(D)
L1<L2 …式(E)
【0065】
上記のように構成した医療デバイス10は、第1非切削部23を挟んで第1切削部21および第2切削部22を有するため、狭窄部Sを段階的に切削することで、安全を確保しつつ、最終的に狭窄部Sを深く(大きく)切削できる。医療デバイス10は、式(A)おおよび式(D)を満たして、第2切削部21の最大半径bおよび第2非切削部24の最大半径dよりも小さい最大半径aを備える第1切削部21を、第1非切削部23よりも遠位側に有するため、第2切削部22により狭窄部Sを深く切削する前に、第1非切削部23により生体組織の損傷を抑制しつつ、第1切削部21により狭窄部Sを切削できる。また、医療デバイス10は、式(A)および式(C)を満たして、第1切削部21の最大半径aよりも大きくかつ第2非切削部24の最大半径d以上の最大半径bを備える第2切削部22により、生体管腔内の狭窄部Sを第1切削部21よりも深く切削できる。そして、第2切削部22は、第1非切削部23および第2非切削部24により挟まれているため、第2切削部による生体組織の過剰な損傷を抑制でき、高い切削能力および高い安全性を両立できる。さらに、式(E)を満たして、第1非切削部23の軸方向の長さL1は、第2切削部22の軸方向の長さL2よりも短いため、第2切削部22により狭窄部Sを切削する際に、回転する第1非切削部23の生体組織に接触する位置が安定する。このため、回転する構造体20が、第1非切削部23によって安定して支持され、高い切削能力および安全性を維持できる。したがって、本医療デバイス10は、生体管腔内の狭窄部Sを効果的に切削でき、かつ生体組織の損傷を低減させて安全性を向上できる。式(B)を満たして、第1非切削部23の最大半径cは、第2非切削部24の最大半径dよりも小さいため、医療デバイス10の通過性が高い。
【0066】
また、医療デバイス10は、以下の式(F)を満たす。これにより、第1非切削部23の外周面の最大半径cが、第1切削部21の外周面の最大半径aから砥粒72の最大突出量P(100μm)を減じた値以上であるため、第1切削部21により狭窄部Sを切削した後、第1切削部21を遠位側へ押し込んで第1非切削部23を生体組織に接触させることで、第1切削部21による生体組織の過剰な切削を抑制できる。また、第2切削部22の外周面の最大半径bが、第1非切削部23の外周面の最大半径cよりも大きいため、第1切削部21により狭窄部Sを浅く切削した後、第1非切削部23を遠位側へ押し込むことで、第1切削部21および第1非切削部23よりも大きな外径の第2切削部22を、狭窄部Sへ効果的に接触させることができる。そして、第1非切削部23を生体組織に滑らかに接触させて、第1切削部21および第2切削部22による生体組織の損傷を抑制しつつ、第2切削部22により狭窄部Sを深く切削できる。
a-100μm≦c<b …式(F)
【0067】
また、医療デバイス10は、構造体20の軸方向に沿う断面において、第1非切削部23および第2非切削部24の接線Tから、当該接線Tと垂直かつ構造体20の中心軸から離れる方向へ最も離れている第2切削部22の最離間部29までの逸脱距離をeとした際に、上述した式(G)を満たす。これにより、第1切削部21により生じ得る生体組織の損傷の深さが最大半径aから最小半径aを減じた値となり、第1切削部21による切削の後に、第1非切削部23および第2非切削部24を生体組織に接触させて切削する第2切削部22により生じ得る生体組織の損傷の深さが逸脱距離eとなる。そして、第1切削部21および第2切削部22の両方により生じ得る生体組織の損傷の深さの合計(a-a+e)は、第2切削部22の外周面の最大半径bより小さい。したがって、最大半径cを有する外径の大きな第2切削部22により狭窄部Sの切削効率を高めつつも、血管壁の切削深さを、第1非切削部23の最大半径cよりも小さい値(a-a+e)とすることができ、血管壁の損傷を低減できる。
a-a+e<b …式(G)
【0068】
また、第2切削部22は、遠位側へ向かって外径がテーパ状に減少する縮径部26を有する。これにより、第2切削部22を遠位側へ押し込む動作により、縮径部26によって狭窄部Sを効果的に切削できる。
【0069】
また、第2切削部22は、遠位側へ向かって外径がテーパ状に増加する拡径部25を有する。これにより、第2切削部22を近位側へ引く動作により、拡径部25によって狭窄部Sを効果的に切削できる。
【0070】
また、第1切削部21の少なくとも一部は、遠位側へ向かって外径がテーパ状に減少する。これにより、第1切削部21を遠位側へ押し込む動作により、第1切削部21によって狭窄部Sを効果的に切削できる。
【0071】
また、構造体20は、剛体である。これにより、切削部および非切削部の位置関係が変化しないため、第1切削部21および第2切削部22による生体組織の損傷を、第1非切削部23および第2非切削部24によって、予め設定した範囲内で適切に抑えることができる。なお、構造体20は、剛体でなくてもよい。すなわち、第1切削部21、第1非切削部23、第2切削部22および第2非切削部24の位置関係は、狭窄部Sを切削する工程において、ある程度変化してもよい。したがって、構造体20の、第1切削部21、第1非切削部23、第2切削部22および第2非切削部24を含む範囲は、撓むことが可能であってもよい。
【0072】
また、本実施形態に係る医療デバイス10は、生体管腔内の狭窄部S(物体)を切削するための医療デバイス10であって、回転可能な駆動シャフト30と、駆動シャフト30の遠位部に連結されて当該駆動シャフト30により回転される構造体20と、を有し、構造体20は、狭窄部Sを切削可能な切削部と、生体組織に対して切削部よりも滑らかな外周面を有する非切削部と、を有し、非切削部は、切削部の遠位側に位置する第1非切削部23を有し、構造体20は、切削部の近位側に位置する第2非切削部24を有し、第1非切削部23の外周面の最大半径をc、第2非切削部24の外周面の最大半径をd、構造体20の軸方向に沿う断面において、第1非切削部23および第2非切削部24の接線Tから、当該接線Tと垂直かつ構造体20の中心軸から離れる方向へ最も離れている切削部の最離間部29までの逸脱距離をeとした際に、以下の式(B)および式(H)を満たす。式(B)を満たすことで、第1非切削部23の外径よりも第2非切削部24の外径が大きくなり、医療デバイス10の通過性が高くなる。さらに、式(H)を満たすことで、逸脱距離eが血管壁の厚みよりも小さくなり、医療デバイス10の安全性が向上する。
c<d …式(B)
e<150μm …式(H)
【0073】
また、切削部は、第1切削部21と、第1切削部よりも近位側に位置する第2切削部22と、を有し、第1切削部21は、第1非切削部23の遠位側に位置し、第2切削部22は、第1非切削部23の近位側であって第2非切削部24の遠位側に位置する。これにより、第1切削部21による切削の後に、第1非切削部23および第2非切削部24を生体組織に接触させて切削する第2切削部22により生じ得る生体組織の損傷の深さが、逸脱距離e(150μm未満)となる。このため、第2切削部22により生じる血管壁の損傷が、血管壁の厚みよりも小さくなり、医療デバイス10の安全性が向上する。
【0074】
また、切削部は、第1非切削部23の近位側であって第2非切削部24の遠位側に位置する第2切削部22を有し、第2切削部22は、遠位側へ向かって外径が増加する部位を含む切削遠位部22Aと、切削遠位部22Aの近位側であって第2非切削部24の遠位側に位置し、遠位側へ向かって外径が減少する部位を含む切削近位部22Bと、を有し、切削遠位部22Aは、接線Tに対して、当該接線Tと垂直かつ構造体20の中心軸に近づく方向側に位置し、最離間部29は、切削近位部22Bに位置する。これにより、狭窄部S(物体)を、切削遠位部22Aおよび切削近位部22Bにより段階的に切削することで、安全を確保しつつ、最終的に物体を深く(大きく)切削できる。
【0075】
また、本発明は、生体管腔内の狭窄部S(物体)を切削するための処置方法(治療方法)をも提供する。当該処置方法は、上述の医療デバイス10を用いて生体管腔内の狭窄部Sを切削するための処置方法であって、構造体20を生体管腔内へ挿入するステップ(ステップS10)と、構造体20を回転させつつ遠位側へ移動させて、第1非切削部23を生体組織に滑らかに接触させるとともに、第1切削部21により狭窄部Sを切削するステップ(ステップS11)と、構造体20を遠位側へ移動させて第1非切削部23および第2非切削部24を生体組織に接触させるとともに、構造体20を回転させて第2切削部22により狭窄部Sを切削するステップ(ステップS12)と、構造体20を生体管腔内から抜去するステップ(ステップS14)と、を有する。
【0076】
上記のように構成した処置方法は、第1非切削部23を生体組織に滑らかに接触させるとともに、第1切削部21により狭窄部Sを切削するため、第2切削部22により狭窄部Sを深く切削する前に、第1非切削部23により生体組織の損傷を抑制しつつ、第1切削部21により狭窄部Sを浅く切削できる。そして、構造体20を遠位側へ移動させた後、第2切削部22を挟む第1非切削部23および第2非切削部24により生体組織の損傷を抑制しつつ、第1切削部21よりも外径の大きい第2切削部22により、狭窄部Sを効果的に切削できる。したがって、本処置方法は、生体管腔内の狭窄部Sを効果的に切削でき、かつ生体組織の損傷を低減させて安全性を向上できる。
【0077】
また、本処置方法は、第2切削部22により狭窄部Sを切削するステップにおいて、構造体20の回転中心軸を生体管腔内で振れ回るように移動させつつ切削する(ステップS13)。これにより、振れ回る構造体20の第1非切削部23および第2非切削部24により生体組織の損傷を抑制しつつ、第1切削部21および第2切削部22により、狭窄部Sを効果的に切削できる。
【0078】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、医療デバイス10が挿入される生体管腔は、血管に限定されず、例えば、脈管、尿管、胆管、卵管、肝管等であってもよい。また、切削する狭窄部Sは、血管の周方向に偏ったものに限定されない。
【0079】
また、図6に示す変形例のように、第2切削部22は、遠位側へ向かって外径がテーパ状に増加する拡径部25を有さなくてもよい。また、図7に示す他の変形例のように、第1切削部21の外径が、軸方向に沿って一定であってもよい。この場合、第1切削部21の一部は、構造体20の軸方向に沿う断面における第1非切削部23と第2非切削部24の接線Tよりも、径方向外側に位置してもよい。
【0080】
また、図8~10に示すさらに他の変形例のように、医療デバイス80の第2非切削部102は、第2切削部91の近位側に位置する回転しない管体(軸受部100)に設けられてもよい。なお、前述の実施形態と同様の機能を有する部位には、同一の符号を付し、説明を省略する。医療デバイス80は、回転可能な構造体90と、構造体90を回転させる駆動シャフト30と、手元側に設けられる操作部40と、構造体90を収容可能な外シース50とを備えている。医療デバイス80は、さらに、構造体90を回転可能に支持する軸受部100と、駆動シャフト30を回転可能に覆う外管110とを備えている。
【0081】
構造体90は、第1切削部21と、第2切削部91と、第1非切削部23と、軸受に支持される支持部94とを有している。第2切削部91は、軸心を通る縦断面において、径方向外側へ曲率を有して突出している。第2切削部91の外周面は、軸直交断面において略V字状となるように切り込まれた切り込み部92を有している。すなわち、第2切削部91の外周面は、軸直交断面において円形でなくてもよい。切り込み部92は、本実施形態では、周方向に120度毎に設けられる。したがって、構造体90は、周方向に均等に並ぶ3つの切り込み部92を有している。各々の切り込み部92の縁部93は、曲率を有して滑らかに形成されている。なお、切り込み部92の数は、3つに限定されない。また、第1切削部21に、切り込み部92が形成されてもよい。
【0082】
支持部94は、軸受部100に回転可能に支持されている。支持部94は、3つの切り込み部92の近位側に位置する3つのスリット95が形成されている。スリット95は、軸方向に沿って延在している。支持部94は、スリット95に挟まれて周方向に並ぶ3つの分割支持部96を備えている。分割支持部96は、1つの管体を、スリット95で分割して形成されている。各々の分割支持部96は、球体97を収容可能な孔部98が形成されている。孔部98には、軸受部100の内周面と接触する球体97が、回転可能に収容されている。分割支持部96の近位部には、径方向外側へ突出する係合部99が形成されている。係合部99は、軸受部100と外管110の間に位置する隙間111に回転可能に嵌合している。このため、構造体90は、外管110に対して、軸方向へ移動して脱落することを抑制されている。軸受部100は、内周面に、球体97を回転可能に支持する溝部101が形成されている。溝部101は、周方向に延在している。外管110の遠位部には、軸受部100が連結されている。軸受部100の外周面には、第2非切削部102が形成されている。第2非切削部102の外周面の最大半径dは、第2切削部91の外周面の最大半径bと等しいか、または最大半径bよりも小さい。駆動シャフト30は、構造体90の内周面に固定されている。
【0083】
医療デバイス80を使用する際に、駆動シャフト30を回転させると、駆動シャフト30に連結された構造体90が回転する。構造体90は、軸受部100に、球体97を介して回転可能に支持されている。構造体90が回転すると、孔部98に収容された球体97が回転するとともに、軸受部100の溝部101に沿って周方向へ移動する。これにより、構造体90は、外管110の遠位部で円滑に回転可能である。また、外管110と駆動シャフト30の間の隙間に吸引力を作用させることで、切り込み部92およびスリット95を介して、切削したデブリを吸引できる。
【0084】
また、第1切削部21および第2切削部91の少なくとも一方(図8~10の例では第2切削部91)の外周面は、軸直交断面において凹部を有している。すなわち、第2切削部91は、切り込み部92を有している。構造体90は、切り込み部92を有することで、血管壁と持続的に接触しない。このため、血管壁の構造体90との摩擦熱による損傷を低減できる。
【0085】
また、図11、12に示すさらに他の変形例のように、第2非切削部131は、構造体120に接合される構造体120とは異なる部材に設けられてもよい。なお、前述の実施形態と同様の機能を有する部位には、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0086】
第2非切削部131は、構造体120の近位部の外周面に形成される段差部124を囲む環状部130に設けられる。構造体120は、第1切削部121と、第2切削部122と、第1非切削部123と、段差部124とを有している。段差部124は、環状部130が固定される部位である。段差部124は、構造体120の近位部の外周面に形成される。段差部124は、第2切削部122から近位側へ連続し、第2切削部122よりも外径が小さい。第2切削部122および段差部124の外周面は、軸直交断面において略V字状となるように切り込まれた切り込み部125を有している。第1切削部121および第2切削部122の外周面には、砥粒(図示せず)が設けられる。砥粒が設けられる第2切削部122の最大外径bは、第2非切削部131の最大外径d以上、または最大外径dよりも大きい。
【0087】
環状部130は、段差部124に嵌合して固定される。環状部130は、段差部124に溶接等により固定されることが好ましい。環状部130は、外周面に、第2非切削部131を有している。環状部130の内周面には、中心に向かって延在する羽根132が形成されている。羽根132は、環状部130の内周面と切り込み部125の間に形成される流路に配置される。羽根132は、遠位端と近位端が周方向にずれるように傾いている。したがって、羽根132は、回転することで、流路の内部の流体や物体を、近位側へ移動させることができる。これにより、羽根132は、構造体120とともに回転することで、近位側へ向かう流れを発生させ、切削したデブリを吸引できる。また、羽根132は、遠位側の縁部に、鋭利な刃133が形成されてもよい。刃133は、吸引されるデブリを小さく切断できる。このため、医療デバイスは、大きなデブリを切断して吸引除去できる。なお、羽根132は、設けられなくてもよい。
【0088】
また、図13に示すさらに他の変形例のように、構造体120に接合される環状部140は、外周面の一部に砥粒143が設けられてもよい。なお、前述の実施形態と同様の機能を有する部位には、同一の符号を付し、説明を省略する。環状部140の外周面は、構造体120の第2切削部122とともに、切削部(第2切削部)を構成する。環状部140の近位側に位置する軸受部100の外周面に、第2非切削部102が設けられている。
【0089】
環状部140は、外周面に、螺旋を描くように軸心に対して傾斜する切削面141と、非切削面142とを有している。切削面141および非切削面142は、周方向に交互に並んで配置されている。切削面141の表面に、複数の砥粒143が固定されている。
【0090】
構造体120および環状部140が回転すると、切削面141は、軸心に対して傾斜しているため、接触対象から、軸方向に沿う方向の力を受ける。これにより、環状部140は、狭窄部Sの内部で、遠位側(または近位側)へ向かう力を受ける。このため、医療デバイスは、狭窄部S内での軸方向に沿う移動が容易となる。狭窄部Sが狭いほど、環状部140は接触対象から強い力を受けて、軸方向に沿う移動が容易となる。
【0091】
また、第1非切削部23および第2非切削部24は、第1切削部21および第2切削部22よりも切削能力が低ければ、ある程度の切削能力を備えてもよい。切削能力は、同じ切削条件(切削部の切削対象に対する押し付け力および切削対象に対する移動速度)における同一時間内での切削量(切削対象の切削される体積)により比較できる。例えば、第1非切削部23および第2非切削部24の少なくとも一方は、第1切削部21および第2切削部22の砥粒72よりも小さな砥粒(凹凸)を表面に有している。第1非切削部23および第2非切削部24に設けられる砥粒の大きさ(高さ)は、30μm以下であることが好ましい。または、第1非切削部23および第2非切削部24の少なくとも一方は、砥粒を有し、第1非切削部23および第2非切削部24の単位面積当たりの砥粒の数が、第1切削部21および第2切削部22の単位面積当たりの砥粒の数よりも少なくてもよい。この場合、第1非切削部23および第2非切削部24に設けられる砥粒の大きさは、第1切削部21および第2切削部22に設けられる砥粒72の大きさと同程度であってもよい。また、第1非切削部23および第2非切削部24の少なくとも一方は、砥粒を有し、第1非切削部23および第2非切削部24の単位面積当たりの砥粒の数が、第1切削部21および第2切削部22の単位面積当たりの砥粒の数と同じ場合、第1非切削部23および第2非切削部24の少なくとも一方の砥粒の大きさは、第1切削部21および第2切削部22の砥粒の大きさより小さくてもよい。また、第1切削部21と第2切削部22の外表面には、砥粒の代わりに刃や溝が設けられていてもよい。この場合、第1非切削部23および第2非切削部24の外表面の少なくとも一方は、刃や溝を設けなくてよい。または、第1非切削部23および第2非切削部24の外表面の少なくとも一方は、第1切削部21と第2切削部22の外表面の刃や溝よりも小さい刃や溝を設けてもよい。また、第1非切削部23および第2非切削部24の少なくとも一方は、刃や溝を有し、第1非切削部23および第2非切削部24の単位面積当たりの刃や溝の数が、第1切削部21および第2切削部22の単位面積当たりの刃や溝の数よりも少なくてもよい。前述の図4(C)に示すように、第1非切削部23が狭窄部Sを遠位側へ通過すると、第1非切削部23が狭窄部Sから力を受けないため、第1切削部21を血管壁に押し付ける力が格段に低下する。このため、第1非切削部23がある程度の切削能力を有していても、第1非切削部23による血管壁の損傷は限定的となる。したがって、第1非切削部23は、ある程度の切削能力を有してもよい。
【0092】
また、図14に示すさらに他の変形例のように、構造体150の最大外径を有する部位は、第2非切削部24であってもよい。第1切削部21および第2切削部22の外径は、遠位側から近位側へ向かって漸増する。第2切削部22の最大外径は、第1切削部21の最大外径よりも大きく、第1非切削部23の最大外径よりも大きい。第2切削部22の外径は、軸方向に沿う断面において、径方向の外側へ向かって凸状に形成される。第1切削部21の外径は、軸方向に沿う断面において、径方向の外側へ向かって凸状に形成されてもよいが、凸状に形成されなくてもよい。第1切削部21の最大外径を有する部位は、第1切削部21の近位側に位置する。第2切削部22の最大外径を有する部位は、第2切削部22の近位側に位置する。第2切削部22の一部は、軸方向に沿う断面における第1非切削部23および第2非切削部24の接線Tよりも径方向外側へ逸脱している。構造体150の軸方向に沿う断面において、接線Tから、接線Tと垂直かつ構造体250の中心軸から離れる方向へ最も離れている最離間部29までの逸脱距離eは、血管壁の厚みよりも小さいことが好ましい。
【0093】
以上のように、第2切削部22は遠位側から近位側まで漸増し、第2切削部22の最大外径を有する部位は、第2切削部22の近位側に位置し、構造体150の軸方向に沿う断面において、第1非切削部23および第2非切削部24の接線よりも外側に、第2切削部22の少なくとも一部が位置する。これにより、医療デバイスは、外径が近位側へ漸増する第2切削部22を遠位側へ移動させやすく、かつ生体管腔内の狭窄部Sを効果的に切削できる。そして、第2切削部22の最大外径を有する部位が、第2非切削部24に近接するため、構造体20の径方向の動きを規制できる。このため、医療デバイスは、第2切削部22による血管壁の貫通などの過剰な損傷を第2非切削部24により抑制できる。したがって、医療デバイスは、高い切削能力および高い安全性を両立できる。なお、最大外径とは、回転時の軌跡の最大外径を意味する。したがって、第1切削部21、第2切削部22、第1非切削部23および第2非切削部24の断面形状は、円形でなくてもよい。第2切削部22の最大外径と第2非切削部24の最大外径の差は、血管等の生体管腔の厚みの最大値よりも小さく、さらには、生体管腔の厚みの最小値よりも小さいことが好ましい。前述したように、血管の厚みの最大値は150μm、血管の厚みの最小値は20μmである。
【0094】
また、構造体150の軸方向に沿う断面において、接線Tから、接線Tと垂直かつ構造体250の中心軸から離れる方向へ最も離れている最離間部29までの逸脱距離eは、血管壁の厚みの最大値(150μm)よりも小さい。これにより、第2切削部22により血管壁を切削しすぎることを抑制でき、安全性が向上する。なお、逸脱距離eは、血管壁の厚みの最小値(20μm)よりも小さくてもよい。この場合、第2切削部22により血管壁を切削しすぎることをさらに抑制でき、安全性がさらに向上する。
【0095】
また、最離間部29は、第2切削部22の軸方向の中央よりも近位側に位置してもよい。これにより、切削能力の高い最離間部29が、第1非切削部23および第2非切削部24の間において、近位側に位置する。このため、最離間部29は、第2切削部22の遠位側に位置する場合と比較して、遠位側へ押し込まれる際に遅く狭窄部Sに接触する。したがって、医療デバイスは、狭窄部Sを徐々に大きく切削するため、狭窄部Sを安全かつ円滑に切削できる。
【0096】
また、最離間部29は、第2切削部22の軸方向の中央よりも遠位側に位置してもよい。これにより、切削能力の高い最離間部29が、第1非切削部23および第2非切削部24の間において、遠位側に位置する。このため、最離間部29は、第2切削部22の近位側に位置する場合と比較して、遠位側へ押し込まれる際に早く狭窄部Sに接触する。したがって、医療デバイスは、第1非切削部23および第2非切削部24により安全性を確保しつつも、高い切削能力を発揮できる。
【0097】
また、第2非切削部24の最大外径は、第1切削部21、第2切削部22および第1非切削部23の最大外径よりも大きい。すなわち、構造体150の最大外径を有する部位は、第2非切削部24である。このため、第1切削部21および第2切削部22により、血管壁を切削しすぎることを抑制でき、安全性が向上する。なお、第2非切削部24は、構造体150の一部でなくてもよい。第2非切削部24は、構造体150の近位側に位置する管体であってもよい。したがって、第2非切削部24は、構造体150とともに回転しなくてもよい。
【0098】
なお、構造体の最大外径を有する部位は、第2切削部であってもよい。この場合、第2切削部により、狭窄部Sを効果的に切削できる。
【0099】
また、第1非切削部23の外径は、第2非切削部24の外径よりも小さい。このため、構造体150を遠位側へ押し込む際に、第1非切削部23と第2非切削部24の間に位置する第2切削部22を、狭窄部Sへ効果的に接触させることができる。また、第2切削部22の軸方向の長さが同じで、軸方向に沿う断面における第1非切削部23および第2非切削部24の接線Tよりも径方向外側へ逸脱している第2切削部22の軸方向の長さも同じ場合において、第1非切削部23の外径は、第2非切削部24の外径よりも小さい方が、第2非切削部24の外径とほぼ同じ場合よりも、逸脱している第2切削部22の表面積が大きくなる。このため、第1非切削部23の外径は、第2非切削部24の外径よりも小さい方が、第2非切削部24の外径とほぼ同じ場合よりも、短時間で容易に物体を切削できる。
【0100】
また、医療デバイスは、第1切削部21から第2切削部22もしくは第2非切削部24の遠位端までの軸方向の全長が短い程、ガイドワイヤに対する追従性がよくなる。このため、そのため、第1切削部21から第2切削部22もしくは第2非切削部24の遠位端までの全長が短い方が好ましい。第2切削部22の接線Tからの突出部分の表面積の大きさをほぼ同等とするためには、第1非切削部23の外径が第2非切削部24の外径と同程度の場合よりも、第1非切削部23の外径が第2非切削部24の外径よりも小さい場合の方が、第2切削部22の軸方向の長さを短くできる。このため、第1非切削部23の外径が第2非切削部24の外径よりも小さいことで、医療デバイスのガイドワイヤに対する追従性が向上する。
【0101】
また、本出願は、2017年3月28日に出願された日本特許出願番号2017-062165号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0102】
10、80 医療デバイス
20、90、120、150 構造体
30 駆動シャフト
50 外シース
21、121 第1切削部
22、91、122 第2切削部
22A 切削遠位部
22B 切削近位部
23、123 第1非切削部
24、102、131 第2非切削部
25 拡径部
26 縮径部
27 同径部
28 ガイドワイヤルーメン
29 最離間部
60 ガイドワイヤ
92、125 切り込み部(凹部)
100 軸受部
110 外管
a 第1切削部の最大半径
第1切削部の切削可能な範囲の最小半径
b 第2切削部の最大半径
c 第1非切削部の最大半径
d 第2非切削部の最大半径
e 逸脱距離
L1 第1非切削部の軸方向長さ
L2 第2切削部の軸方向長さ
T 接線
S 狭窄部(物体)
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