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特許6993407ブドウ味スイートワインの製造方法及びブドウ味スイートワイン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ブドウ味スイートワインの製造方法及びブドウ味スイートワイン
(51)【国際特許分類】
   C12G 1/022 20060101AFI20220105BHJP
   C12H 6/00 20190101ALI20220105BHJP
【FI】
C12G1/022
C12H6/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019516045
(86)(22)【出願日】2017-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-24
(86)【国際出願番号】 CN2017087120
(87)【国際公開番号】W WO2017211241
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】201610395131.3
(32)【優先日】2016-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518432687
【氏名又は名称】董 博性
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】董 博性
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/102095(WO,A1)
【文献】特開昭57-068779(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104830589(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104498247(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102899214(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104629970(CN,A)
【文献】特開昭60-012966(JP,A)
【文献】特開2001-029061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
C12H
A23L
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ味スイートワインの製造方法であって、
福安巨峰ブドウ(Fu’an Kyoho grape)のブドウ粒(grapes)と酒麹(酒醸造用酵母)とを重量比100:0.4~100:0.8で発酵槽に入れるステップと、
前記発酵槽における温度を、発酵温度に維持するステップであって、前記発酵温度は30℃~33℃であり、発酵時間は20時間~30時間である、ステップと、
酒(liquor or spirit)を前記発酵槽に加えるステップであって、前記酒のアルコール含有量が40%以上であり、前記ブドウ粒と加えた酒との重量比が1:1.5:1である、ステップと、
前記発酵槽を密封して2028日間持続して置くステップと、
前記発酵槽における発酵物を濾過し、ブドウ味スイートワインを得るステップとを含み、
前記酒麹は麦麹又は小麹(Xiaoqu、raw starter complex)であり、前記酒は米酒(rice wine)又は瀘州老窖頭曲(Luzhou laojiao touqu)濃香型蒸留酒である、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
ブドウ茎(grape stems)と前記ブドウ粒及び前記酒麹と共に前記発酵槽に仕込むステップをさらに含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記発酵槽における温度を発酵温度に維持する過程において、前記発酵槽は、部分的に周囲大気と連通する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記ブドウ粒を前記発酵槽に仕込む前に、前記ブドウ粒を温水で洗浄して乾燥させるステップをさらに含む、方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、
前記ブドウ茎を前記発酵槽に仕込む前に、前記ブドウ茎を温水で洗浄して乾燥させるステップをさらに含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、
前記酒のアルコール含有量が50%以上である、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記ブドウ粒を前記発酵槽に入れる前に、前記ブドウ粒を部分的に破砕するステップをさらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスイートワイン製造に関し、より具体的には、ブドウ味スイートワイン(ブドウ風味を有するスイートワイン)の製造方法、及び前記方法により製造されるスイートワインに関する。
【背景技術】
【0002】
スイートワイン(又は甘いリカー)とは、一般的に2.5%以上のショ糖又はブドウ糖を含む酒(liquor or spirit)を指す。酒中の糖は、一般的に醸造原料に由来し、すなわち、醸造原料自体に存在する糖であってもよく、醸造原料中のデンプン又は多糖類の加水分解によるものであってもよい。
【0003】
醸造プロセス中に、糖は徐々にアルコールに変換され、それによって酒の酒精(アルコール)含有量を増加させ、酒の糖度(糖含有量)を減少させる。したがって、一般的に十分に発酵及び/又は蒸留された酒類は、糖度が非常に少なく、例えば、通常市販されている蒸留酒類、ビール類、及びワイン類の糖度が低くて明らかな甘味の口当たりがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高アルコール度と高糖度との独特の口当たりを同時に得るために、高アルコール酒(アルコール度の高い酒)に糖を加えることができ、又は、高アルコール酒と、部分的に発酵した比較的高い糖度含有酒とを混合することもできる。しかしながら、高アルコール酒に糖を加えることは、溶解及び混合上の困難が存在している一方で、高アルコール酒と糖度の比較的高い酒とを混合する場合、口当たりの違和感があり、糖度が依然として不十分であるという欠点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明は、蒸留酒製造とブドウ酒製造とを組み合わせる特別な酒製造方法を提案する。この方法では、ブドウの独特な自然発酵特性を酒製造に使用せず、ブドウと酒麹(酒醸造用酵母)と混合して比較的短い時間で蒸留酒系酵母による発酵を行い、ブドウの糖分を十分に保ちながら酒を加えて比較的長い時間置くことにより、甘さが高く、口当たり調和のブドウ風味のスイートワインを製造した。
【0006】
本発明は、ブドウ味スイートワインの製造方法に関し、前記方法は、
ブドウ粒(grapes:ブドウの粒、ブドウの果実)と酒麹(酒醸造用酵母)とを発酵槽に入れるステップと、発酵槽における温度を、発酵温度に維持するステップであって、前記発酵温度は25℃~38℃、好ましくは28℃~32℃、最も好ましくは30℃であり、保温時間は15~40時間、好ましくは18時間~24時間、最も好ましくは20時間である、ステップと、酒(liquor or spirit)を発酵槽に加えるステップであって、前記酒のアルコール含有量が15%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは58%である、ステップと、発酵槽を密封して10~30日間、好ましくは18~22日間、より好ましくは20日間持続して置くステップと、発酵槽における発酵物を濾過し、ブドウ味スイートワインを得るステップと、を含む。
【0007】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明に係る方法は、ブドウ茎(grape stems:ブドウの茎)と前記ブドウ粒及び前記酒麹と共に前記発酵槽に仕込むステップをさらに含む。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態において、「発酵槽における温度を発酵温度に維持する」の過程において、前記発酵槽は、部分的に周囲大気と連通する。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明に係る方法は、前記ブドウ粒を前記発酵槽に仕込む前に、前記ブドウ粒を温水で洗浄して乾燥させるステップをさらに含む。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明に係る方法は、前記ブドウ茎を前記発酵槽に仕込む前に、前記ブドウ茎を温水で洗浄して乾燥させるステップをさらに含む。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態において、加えられるブドウ粒とブドウ茎との重量比は5:1~20:1、好ましくは8:1~12:1、最も好ましくは約10:1である。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態において、前記酒麹は麦麹、小麹(Xiaoqu、raw starter complex)、紅麹、大麹(Daqu、massive raw stater for alcholic liquor)又は麩麹(ふすま麹)が挙げられる。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態において、加えられるブドウ粒と酒麹との重量比は100:0.4~100:1、好ましくは100:0.5~100:0.9、最も好ましくは100:0.8である。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態において、発酵槽はセラミック容器(pottery jar)、ガラス容器、ステンレス鋼容器、オーク容器(oak barrel)、又は醸造中に適用可能な他の容器が挙げられ、好ましくはセラミック容器又はオーク容器である。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態において、前記酒は、馥郁風味型酒、醤風味型酒、濃香(香り濃厚)型酒、清香型酒、米風味型酒、胡麻風味型酒、混合風味型酒又は「鳳香」風味(中国の西鳳酒を代表している風味)型酒が挙げられる。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態において、加えられるブドウ粒と、加えた酒との重量比は1:2~2:1、好ましくは1:1.5~1.5:1、より好ましくは1:1.2~1.2:1、最も好ましくは1:1である。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明に係る方法は、前記ブドウ粒を前記発酵槽に入れる前に前記ブドウ粒を部分的に破砕するステップをさらに含む。
【0018】
また、本発明は、本発明に係る方法に基づいて製造されるブドウ味スイートワインに関する。
【0019】
本発明のその他のいくつかの実施形態において、本発明に係る方法に基づいて製造されるブドウ味スイートワインと他の添加剤とを混合して得られる酒をさらに含む。前記他の添加剤は、糖類、香味剤及び防腐剤等食品添加剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の技術案の理解を助けるために、実施例を挙げて本発明のいくつかの例示的な実施形態を記載し、本発明は以下の具体的な実施例に限定されるものではないと、理解すべきである。
【0021】
実施例1
本発明の1つの具体的な実施形態において、下記の通りにブドウ味スイートワインを製造する。
福安巨峰ブドウ(Fu’an Kyoho grape)のブドウ粒100kg、ブドウ茎10kg及び小麹0.8kgを、ステンレス鋼発酵槽に仕込み、
発酵槽における温度を発酵温度に維持し、前記発酵温度は30℃であり、保温時間は20時間であり、
自家製52度の米酒(rice wine、もち米やもちアワで作った酒)100kgを発酵槽に加え、
発酵槽を密封して20日間置き、且つ
前記発酵槽における発酵物を濾過し、ブドウ味スイートワインを得る。
【0022】
実施例2
本発明の別の1つの具体的な実施形態において、次のようにしてブドウ味スイートワインを製造する。
福安巨峰ブドウのブドウ粒0.5kg及び麦麹2gを容積20Lのセラミック容器に仕込み、
発酵槽における温度を発酵温度に維持し、前記発酵温度は33℃であり、保温時間は30時間であり、
42度の瀘州老窖頭曲(Luzhou laojiao touqu、商品名称)濃香型蒸留酒0.75kgを発酵槽に加え、
発酵槽を密封して28日間置き、且つ
前記発酵槽における発酵物を濾過し、ブドウ味スイートワインを得る。
【0023】
上記方法で製造されたスイートワインと強化ブドウ酒(Lillet:リレ)とを、蒸留酒飲用を好む中国消費者30人に二重盲検試験を実施したところ、下記評価結果を得た。
【0024】
【表1】
【0025】
本発明の上記実施形態により製造されるブドウ風味のスイートワインと、強化ブドウ酒(Lillet)と比較して次の有意な相違点を有する。
【0026】
1. 本発明のスイートワインは、より高い甘味を有し(一般的に60g/Lより高く、そして70g/Lより高くてもよく、さらに80g/Lより高くてもよい)、
2. 本発明のスイートワインは、調和で一貫性のある蒸留酒口当たりを有し、ややブドウの香りを持っており、全体として穀物酒(grain liquor)の口味及び香りに属し、それに対して、Lilletは一貫したブドウ風味を有し、果実酒の口味及び香りに属し、且つ
3. 中国の場合、穀物酒を飲用することに慣れている飲酒者は、本発明に係るブドウ味スイートワインをさらに好み、それに対してLilletの方を相対的に好ましくない。
【0027】
本発明のブドウ発酵プロセスにおいて酒麹の添加に依存しており、これと伝統的なブドウ酒醸造プロセスにおけるブドウ自然発酵に頼むプロセスとは全く異なっている。そのため、伝統的なプロセスにおいてブドウを完全に粉砕する必要があるとは異なり、本発明において基本的にブドウを粉砕する必要がなく、或いはブドウを一部的に粉砕するだけで、酒麹と共に発酵させることができる。このようにして、ブドウにおける糖分の大部分が保持され、最終に得られたスイートワインにおける糖度が高くなっている。同時に、最終的に製造される酒は、ブドウ発酵によって形成される口味を有さず、酒麹発酵によって形成される一貫した蒸留酒口当たりを有するだけであり、そしてブドウの香り(未発酵又は発酵程度の低いブドウの香り)を持っている。
【0028】
さらに、本発明のスイートワインは、醸造プロセスにおいて、酒麹及び酒以外の他の添加剤を入れなく、ブドウ酒の通常発酵プロセスにおいてよく添加しているSOをも入れないため、口味及び含有量の観点から、ブドウ酒と全く異なっており、さまざまな習慣を持つ消費者団体に適している。
【0029】
ブドウ茎は、カリウムが豊富で、ヒトの神経や筋肉の正常な機能を維持しながら体のバランスを維持することができる。本発明のいくつかの実施形態において、ブドウ茎とブドウ粒と共に造酒原料として用いられ、口当たりが良好で栄養がより豊かなスイートワインを得ることが出来る。これに対し、他のワイン製造プロセスでは、ブドウ茎は放棄されている。