(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】脱色された茶抽出液およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/18 20060101AFI20220105BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A23F3/18
A23F3/16
(21)【出願番号】P 2019539321
(86)(22)【出願日】2018-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2018030186
(87)【国際公開番号】W WO2019044474
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2017168775
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 瑞
(72)【発明者】
【氏名】橋田 紋佳
(72)【発明者】
【氏名】陳 風雷
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-075112(JP,A)
【文献】国際公開第2015/022911(WO,A1)
【文献】特開平09-220055(JP,A)
【文献】特開平01-218550(JP,A)
【文献】特開2003-204754(JP,A)
【文献】国際公開第2011/126003(WO,A1)
【文献】特開2011-182673(JP,A)
【文献】特開平05-168407(JP,A)
【文献】特開2004-147606(JP,A)
【文献】特開2011-250736(JP,A)
【文献】特開2016-220562(JP,A)
【文献】大森薫 他,煎茶缶ドリンクの劣化防止法,福岡県農業総合試験場研究報告.A,作物,1991年,No.11,Page.51-54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/18
A23F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)~(E)
および(B’)を含んでなる、脱色された緑茶葉抽出液の製造方法。
(A)緑茶葉および水を混合する工程
(B)工程(A)の後、(A)の混合物に配糖体分解酵素を作用させる工程であって、 緑茶葉に対する配糖体分解酵素の使用量が
10~100U/g以上、酵素反応の温度が30~70℃の範囲内、かつ、反応時間が30分以上である、工程
(B’) 工程(B)と同時または前若しくは後であって、次の工程(C)の前に、さらに、タンナーゼおよびペクチナーゼを作用させる工程
(C)工程(
B’)の後、緑茶葉残渣と抽出液とを分離し、配糖体酵素処理緑茶葉抽出液を得る工程
(D)工程(C)で得られた配糖体酵素処理緑茶葉抽出液を加熱処理する工
程
(E)工程(D)で得られた加熱配糖体酵素処理緑茶葉抽出液から不溶性成分を除去し、脱色された緑茶葉抽出液を得る工程であって、前記緑茶葉抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が
0.1以下である、工程
【請求項2】
工程(
B’)と同時
にまたは工程(
B’)の後であって工程(C)の前に、さらに、プロテアーゼを作用させる工程を含む、請求項
1に記載の脱色された緑茶葉抽出液の製造方法。
【請求項3】
工程(D)における加熱処理条件が温度70~135℃、時間2秒~30分の範囲内である請求項1または2に記載の脱色された緑茶葉抽出液の製造方法。
【請求項4】
工程(A)の前に、緑茶葉を水蒸気蒸留して香気回収物を得、得られた香気回収物を工程(E)で得られる緑茶葉抽出液に混合する工程を含む、請求項1~
3のいずれかに記載の脱色された緑茶葉抽出液の製造方法。
【請求項5】
緑茶葉抽出液の製造方法であって、緑茶葉抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の680nmの吸光度が0.15以下である、
請求項1~4のいずれかに記載の脱色された緑茶葉抽出液の製造方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の脱色された緑茶葉抽出液の製造方法であって、緑茶葉抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が
0.05以下かつ680nmの吸光度が0.05以下である、方法。
【請求項7】
以下の工程(A)~(F)
および(B’)を含んでなる、脱色された低タンニン緑茶葉抽出液の製造方法。
(A)緑茶葉および水を混合する工程
(B)工程(A)の後、(A)の混合物に配糖体分解酵素を作用させる工程であって、緑茶葉に対する配糖体分解酵素の使用量が
10~100U/g以上、酵素反応の温度が30~70℃の範囲内、かつ、反応時間が30分以上である、工程
(B’) 工程(B)と同時または前若しくは後であって、次の工程(C)の前に、さらに、タンナーゼおよびペクチナーゼを作用させる工程
(C)工程(
B’)の後、緑茶葉残渣と抽出液とを分離し、配糖体酵素処理緑茶葉抽出液を得る工程
(D)工程(C)で得られた配糖体酵素処理緑茶葉抽出液を加熱処理する工
程
(E)工程(D)で得られた加熱配糖体酵素処理緑茶葉抽出液から不溶性成分を除去し、脱色された緑茶葉抽出液を得る工程であって、前記緑茶葉抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が
0.1以下である、工程
(F)工程(E)の後に得られた脱色された茶抽出液をさらにPVPP(ポリビニルポリピロリドン)と接触させ、接触後のPVPPを除去した抽出液を得る工程
【請求項8】
請求項
7に記載の脱色された低タンニン緑茶葉抽出液の製造方法であって、緑茶葉抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の680nmの吸光度が0.05以下であり、さらに可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を15とした場合のアミノ酸含有量が1.0質量%以上かつタンニン(Folin-Denis法)が1.0質量%以下である、方法。
【請求項9】
(G)請求項1~
6、
7および
8のいずれかに記載の方法によって得られた緑茶葉抽出液に加水して緑茶葉由来の可溶性固形分を0.005~0.3%(Bx、20℃)に調整する工程、
(H)工程(G)で
得られた茶飲料に、ビタミンCまたはその可食性の塩(ナトリウム)を加える工程を含む容器詰ニアウォーターまたはフレーバードウォーター様の飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱色された茶抽出液およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、色が薄いにもかかわらず、茶本来の良好な香気、旨味および苦渋味を有する茶抽出液および茶葉の配糖体分解酵素処理工程を含むその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、容器詰飲料に対する消費者の嗜好性の多様化により、無色透明な容器にほぼ無色透明の飲料を充填した容器詰飲料が市場に多く見られる。このような飲料はニアウォーターやフレーバードウォーターなどとも呼ばれ、外観の無色透明感が重要な要素の一つとなる。このようなほぼ無色透明の飲料には、レモン、オレンジ、みかんなどの柑橘の風味、ぶどう、りんご、桃などのソフトフルーツの風味、ヨーグルトなどの発酵乳の風味を有するものがみられるが、茶の風味を有するものはあまり見られない。
【0003】
茶の風味は茶の香気を有する香料(調合香料または天然香料)のみによってもある程度再現は可能であるが、茶の本物感を感じさせるためには、茶由来の水溶性成分を配合することにより、より好ましい風味を付与することが可能となる。
【0004】
一方、茶抽出液は、通常着色しており、茶抽出液を風味が付与される程度の量配合しようとすると、飲料全体が淡緑色~淡褐色に着色してしまう。
【0005】
茶抽出液を脱色する発明としては、例えば茶抽出液を陽イオン交換樹脂処理により金属イオンを除去した後、微小濾過膜で濾過して処理液を得る方法(特許文献1)が知られているが、陽イオン交換樹脂処理により、旨味成分であるアミノ酸も除かれてしまうという欠点がある。
【0006】
脱色方法としては一般的に、活性炭などの吸着材による処理が知られており、茶についても各種吸着剤処理による処理技術が知られている。特許文献2には茶類の抽出時および/または抽出後に活性炭を混合または添加して茶類抽出液を得る方法が開示されているが、カフェインを除去する目的であり、脱色については全く記載されていない。また、特許文献3には茶抽出液などのカフェイン含有水溶液と活性白土または酸性白土と接触させる方法が開示されているが、この方法もカフェインを除去する目的であり、脱色については全く記載されていない。また、特許文献4または特許文献5には茶抽出液をポリビニルポリピロリドンと接触させる方法が開示されているが、カテキンまたはタンニン類を除去する目的であり、脱色については全く記載されていない。
【0007】
スポーツ飲料及びアイソトニック飲料に使用できる緑茶抽出液の製法として、緑茶抽出物を、エタノールと水の重量比が91/9~97/3の混合溶液に溶解させ、活性炭及び酸性白土と接触させる方法によって得られた低カフェイン緑茶抽出物の製法(特許文献6)が開示されているが、主な目的はカフェインの除去である。特許文献6では、色相を悪化させないこと(段落[0009]など)も効果とされているが、色調に関して具体的に特定できる記載は見当たらず、また実施例における記載もない。
【0008】
一方、配糖体分解酵素は配糖体のアノマー炭素とアグリコン部との結合(グリコシド結合)を加水分解して遊離のアグリコンを生成する酵素を意味するが、茶類への応用としては、緑茶飲料の製造方法において、前記緑茶抽出液の加熱殺菌処理工程に先立ち、配糖体分解酵素を添加することにより配糖体を香気成分化合物に変化させる酵素処理工程を具備する緑茶飲料の製造方法(特許文献7)、茶葉をタンナーゼで処理する際および/または
処理した後、茶葉に配糖体分解酵素を作用させることを特徴とする香気が増強された茶類エキスの製法(特許文献8)などが知られているが、いずれも香気発生に関する内容しか記載がない。また、引用文献9には、烏龍茶などの茶の水抽出液をBx2~15°に濃縮した後、濃縮液に配糖体分解酵素を作用させることにより、透明度が高く、長期保存してもオリを発生しない茶エキスの製造方法が記載されている。しかしながら、色調(色の濃さなど)については全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表11-504224号公報
【文献】特開平8-70772号公報
【文献】特開平6-142405号公報
【文献】特許第3315304号公報
【文献】特開2003-204754号公報
【文献】特許第4181982号公報
【文献】特開2004-147606号公報
【文献】特開2006-75112号公報
【文献】特許第5818784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したとおり、茶葉抽出液を脱色する方法としては、主として物理化学的処理手段によるものがあるが、茶葉本来の風味を損ねてしまう等の短所または欠点を有する場合がある。
【0011】
したがって、本発明の目的はニアウォーターやフレーバードウォーター様の飲料を調製する上で、着色することなく茶葉に由来する風味、特に呈味を該飲料に付与することのできる緑茶抽出液、ならびに該緑茶抽出液を用いる例えば、茶飲料、特に、容器詰茶飲料を提出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
茶葉の水抽出物に配糖体分解酵素を作用させて配糖体を香気成分化合物に変化させることは既に知られているところ、今回、驚くべきことに、緑茶葉類を水の存在下、一定の条件下において配糖体分解酵素で処理した後、得られる配糖体酵素処理茶抽出液を加熱処理して水不溶性物質を形成せしめ、該水不溶性物質を除去すると、茶葉に由来する風味を実質的に損ねることなく、透明かつ、脱色された緑茶抽出液が得られることを見出した。また、かような処理によると、緑茶葉に限定されることなく、広く一定の茶葉からも、同様な抽出液が得られことも見出だした。
【0013】
こうして、本発明によれば、限定されるものでないが、主な態様または特徴を有する発明として、下記のものが提供される。
態様1: 以下の工程(A)~(E)を含んでなる、脱色された茶抽出液の製造方法。
(A)茶葉および水を混合する工程
(B)工程(A)の後、(A)の混合物に配糖体分解酵素を作用させる工程
(C)工程(B)の後、茶葉残渣と抽出液とを分離し、配糖体酵素処理茶抽出液を得る工程
(D)工程(C)で得られた配糖体酵素処理茶抽出液を加熱処理する工程、
(E)工程(D)で得られた加熱配糖体酵素処理茶抽出液から不溶性成分を除去し、脱色された茶抽出液を得る工程
態様2: 工程(B)と同時または前若しくは後であって工程(C)の前に、さらに、タンナーゼおよび/またはペクチナーゼを作用させる工程を含む、態様1に記載の脱色された茶抽出液の製造方法。
態様3: 工程(B)と同時におよび/または工程(B)の後であって工程(C)の前に、さらに、プロテアーゼを作用させる工程を含む、態様1または2に記載の脱色された茶抽出液の製造方法。
態様4: 工程(D)における加熱処理条件が温度70~135℃、時間2秒~30分の範囲内である態様1~3のいずれか1項に記載の脱色された茶抽出液の製造方法。
態様5: 茶葉が緑茶である態様1~4のいずれかに記載の脱色された茶抽出液の製造方法。
態様6: 工程(A)の前に、茶葉を水蒸気蒸留して香気回収物を得、得られた香気回収物を工程(E)で得られる清澄液に混合する工程を含む、態様1~5のいずれかに記載の脱色された茶抽出液の製造方法。
態様7: 茶葉に対する配糖体分解酵素の使用量が1U/g以上、酵素反応の温度が30~70℃の範囲内、かつ、反応時間が30分以上である態様1~6のいずれかに記載の脱色された茶抽出液の製造方法。
態様8:態様1に記載の脱色された茶抽出液の製造方法であって、茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が0.5以下かつ680nmの吸光度が0.15以下である、方法。
態様9:態様8に記載の脱色された茶抽出液の製造方法であって、茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が0.1以下かつ680nmの吸光度が0.05以下である、方法。
態様10:茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が0.15以下かつ680nmの吸光度が0.05以下であり、さらに可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を15とした場合のカテキン含有量が1.0質量%以上である緑茶葉抽出液。
態様11: 茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が0.5以下かつ680nmの吸光度が0.15以下であり、さらに可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を15とした場合のアミノ酸含有量が1.0質量%以上である緑茶葉抽出液。
態様12:以下の工程(A)~(F)を含んでなる、低タンニン茶抽出液の製造方法。
(A)茶葉および水を混合する工程
(B)工程(A)の後、(A)の混合物に配糖体分解酵素を作用させる工程
(C)工程(B)の後、茶葉残渣と抽出液とを分離し、配糖体酵素処理茶抽出液を得る工程
(D)工程(C)で得られた配糖体酵素処理茶抽出液を加熱処理する工程
(E)工程(D)で得られた加熱配糖体酵素処理茶抽出液から不溶性成分を除去し、脱色された茶抽出液を得る工程
(F)工程(E)の後に得られた脱色された茶抽出液をさらにPVPP(ポリビニルポリピロリドン)と接触させ、接触後のPVPPを除去した抽出液を得る工程
態様13:態様12に記載の低タンニン茶抽出液の製造方法であって、茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が0.05以下かつ680nmの吸光度が0.05以下であり、さらに可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を15とした場合のアミノ酸含有量が1.0質量%以上かつタンニン(Folin-Denis法)が1.0質量%以下である、方法。
態様14:茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が0.05以下かつ680nmの吸光度が0.05以下であり、さらに可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を15とした場合のアミノ酸含有量が1.0質量%以上かつタンニン(Folin-Denis法)が1.0質量%以下である緑茶葉抽出液。
態様15:(G)態様1~9、12および13のいずれかに記載の方法によって得られた茶抽出液に加水して茶由来の可溶性固形分を0.005~0.3%(Bx、20℃)に調整する工程、
(H)工程(G)でえられた茶飲料に、ビタミンCまたはその可食性の塩(ナトリウム)を加える工程を含む容器詰茶飲料の製造方法。
態様16:態様10、11および14に記載の緑茶抽出液を、茶由来の可溶性固形分として0.005~0.3%(Bx、20℃)質量%含み、さらにビタミンCまたはその可食性の塩(ナトリウム)を含有する、容器詰茶飲料。
態様17:ビタミンCまたはその可食性の塩(ナトリウム)を0.002~0.3質量%含有する、態様16に記載の容器詰茶飲料。
態様18:茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)が0.3の場合の430nmの吸光度が0.015以下かつ680nmの吸光度が0.05以下である、態様16または17に記載の容器詰茶飲料。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来行われていた物理的化学的方法により脱色されていた茶抽出物に比べ、茶類の風味、特に、呈味を保持した茶抽出液、さらには低タンニン茶抽出液、ならびに該緑茶抽出液を用いる例えば、茶飲料、特に、容器詰茶飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1において得られた緑茶抽出液をBx0.3°に希釈した液の外観を示した写真を示す。左から、比較品1、本発明品4、本発明品5、本発明品6、本発明品7である。
【
図2】実施例2において、工程途中の液を20℃、1夜放置した後の外観の写真を示す。左から(1)、(2)、(3)、(4)である。
【
図3】実施例3において得られた緑茶抽出液をBx0.3°に希釈した液の外観の写真を示す。左が比較品4、右が本発明品8である。
【
図4】実施例4において、比較品5調製工程の途中段階の液の外観を示した写真を示す。左から比較品4、酵素失活後、濾過後、遠心分離後である。
【
図5】実施例5において、左から遠心分離の上清液、沈殿物を水洗した時の洗浄液、および沈殿物をメタノールに溶解した液の外観の写真を示す。
【
図6】実施例7における、沈殿物のデジタルマイクロスコープにて撮影写真である。
【
図7】実施例8における、茶葉当たり配糖体分解酵素の活性を変動させたときの茶抽出液の吸光度(OD430nmおよびOD680nm)のグラフである
【
図8】実施例8における、茶葉当たり配糖体分解酵素の活性を変動させたときの茶抽出液No.1~No.6のBx0.3°希釈液の外観を示した写真である。
【発明の詳細な記述】
【0016】
本発明の方法において原料として使用しうる茶葉としては、世界的に広く栽培されているチャ(Camellia sinensis)に属するチャノキの葉であって、本発明の目的に沿うものであればいずれであってもよいが、不発酵茶が好ましく、例えば、煎茶、焙じ茶、玉露、かぶせ茶、てん茶等の蒸青茶、嬉野茶、青柳茶、各種中国茶等の釜炒り茶を挙げることができる。また、包種茶、鉄観音茶、ウーロン茶等の半発酵茶、紅茶等の発酵茶などにも適用が可能である。
【0017】
また、チャは、やぶきた種(Camellia sinensis var. sinenses cv. Yabukita)をはじめ、いずれのバラエティのものであってもよく、その葉は、通常、緑茶等の原料となる、芯芽から四葉までの葉を含む一芯四葉摘みのもの、また、さらに成熟した四葉以外の葉であってもよい。上記の茶葉または茶原料は、そのまま用いることもできるが、通常、食品製造などで使用される装置を用いて、切断、粉砕、磨砕などの処理を施したものを使用するのがよい。
【0018】
工程(A)では、茶葉と水が混合されるところ、水は、一般的には軟水、イオン交換水、RO膜処理水などが都合よく使用できる。茶葉と水の使用割合は、茶葉の乾燥状態により好適範囲は異なるが、重量比で、一般に1:5~50、好ましくは1:8~20、より好ましくは、1:10~15であることができる。混合は、室温下で行うことができるが、使用する葉の収穫時期・成熟度等を考慮し、さらにまた、酵素反応前に殺菌行うことが好ましいことを考慮して、加温条件で行うこともできる。その際の温度としては、殺菌目的が達成され、茶葉の熱劣化が少ない条件が例示でき、例えば、65~100℃、より好ましくは70~90℃で行うことができる。混合時間は、茶葉が水を吸収し、膨らんだ状態になる時間であって、限定されるものでないが、一般的に1分~60分、好ましくは5分~30分の範囲にあることができる。
【0019】
なお、殺菌を兼ねて加温条件で混合を行った場合、加熱殺菌後、茶葉と水の混合物を酵素処理に適当な温度まで冷却する。
【0020】
工程(B)では、工程(A)で得られる混合物に直接配糖体分解酵素を作用させることができるが、その前に、混合物から水抽出物若しくは配糖体分解酵素以外であって、茶の抽出に使用されている各種酵素の存在下において酵素処理抽出物を調製した後、配糖体分解酵素を作用させるか、または、前記混合物に直接配糖体分解酵素を作用させると同時、若しくは、その後に配糖体分解酵素以外の酵素を作用させることもできる。配糖体分解酵素以外の酵素としては、限定されるものでないが、タンニン分解酵素タンナーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ等を挙げることができる。これらの中、本発明の目的上、すなわち、茶の本来の風味乃至呈味を保持し、透明かつ脱色した茶抽出液を得るのに好適なものとしては、タンナーゼ、ペクチナーゼを挙げることができる。これらの酵素は、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
配糖体分解酵素およびそれ以外の各酵素は、本発明の目的に沿い、当該技術分野で使用されているものであれば、限定されることなく使用できところ、配糖体分解酵素、タンナーゼ、ペクチナーゼについては次のように詳述することができる。
【0022】
配糖体分解酵素としては、茶葉中に存在し得る各種配糖体の中、例えば、フラボノール類とグルコース類からなる配糖体を遊離のアグリコン部と糖部に加水分解できる酵素を都合よく使用することができる。かような、O-グリコシド配糖体は植物界に豊富に存在することから、一方では、該O-グリコシド結合を加水分解する酵素も多種多様なものが自然界に存在する。これらの中で、限定されるものでないが、本発明の目的に沿うものとしては、次のものを挙げることができる。例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillum)属、リゾプス(Rhizopus)属、シュードモナス(Pseudmonas)属、ピキア(Pichia)属などに属するβ-グルコシダーゼ生産菌を、小麦ふすま、米ぬかなどの固体栄養培地または液体栄養培地で常法に従って固体培養又は液体培養し、得られる培養物またはその処理物を常法により精製処理したものであることができる。また、バニラ豆、生茶葉などの植物より精製処理し得られるものも使用することができ、さらに、シグマアルドリッチ社から市販されているアーモンド由来のエムルシン、またはβ-グルコシダーゼ含む酵素製剤セルラーゼA(アマノエンザイム)、セルラーゼT(アマノエンザイム)などから分離したものも使用することができる。β-キシロシダーゼとしては、例えば、ペニシリウム属、アスペルギルス属、リゾプス属、ムコール属などに属するβーキシロシダーゼ生産菌を小麦ふすま、米ぬかなどの固体栄養培地または液体栄養培地で常法に従って固体培養または液体培養し、得られる培養物またはその処理物を常法により精製処理したものを挙げることができ、また、シグマアルドリッチ社から市販されている黒麹菌(Aspergillus niger)由来のものまたはβ-キシロシダーゼを含む酵素製剤スミチームACH(新日本科学工業)などから分離したものも使用することができる。β-プリメベロシダーゼは、例えば、セルロモナス属、ペニシリウム属、アスペルギルス属などに属するβープリメベロシダーゼ生産菌を小麦ふすま、米ぬかなどの固体培地または液体培地で常法に従って固体培養もしくは液体培養し、得られる培養物またはその処理物を常法により精製処理したものを挙げることができ、また、生茶葉などの植物中より分離精製したものも使用することができる。これらの配糖体分解酵素の使用量は、本発明の目的で使用する場合、一般に、茶葉原料の質量基準で、例えば、p-NP グルコース添加法によるβ-グルコシダーゼ活性で1~100U/g、好ましくは4~75U/g、より好ましくは8~50U/g、さらに好ましくは10~40U/gの範囲内であることができる。
【0023】
タンナーゼは、タンニン中の水酸基に没食子酸がエステル結合しているデプシド結合を加水分解する酵素、例えば、エピガロカテキンガレートをエピガロカテキンと没食子酸に加水分解する酵素である。本発明で使用することのできるタンナーゼとしては、具体的には、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾプス属、リゾムコール属、ラクトバシラス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、ロネピネラ属などに属するタンナーゼ生産菌を、これら糸状菌の培養に通常用いられる培地で常法に従って固体培養または液体培養し、得られる培養物またはその処理物を常法により精製処理することにより得られるものを挙げることができる。また、市販されているタンナーゼ、例えば、タンナーゼ(500U/g;キッコーマン社製)、タンナーゼ(5,000U/g;キッコーマン社製)、タンナーゼ(500U/g;三菱化学フーズ社製)、スミチーム(登録商標)TAN(新日本化学工業社製)などを用いることもできる。タンナーゼの使用量は、力価などにより最適範囲が変動するので特定できないが、一般に、茶葉原料の質量基準で0.1~50U/g、好ましくは0.5~20U/gの範囲内であることができる。
【0024】
ペクチナーゼは、ポリガラクツロナーゼ、ペクチックエンザイム、ポリメチルガラクツロナーゼ、ペクチンデポリメラーゼとも呼ばれ、ペクリニン酸、ペクチン、ペクチン酸などのα-1,4結合を加水分解する酵素である。ペクチナーゼは、細菌、カビ、酵母、高等植物、カタツムリなどに含まれていることが知られており、本発明ではこれらをはじめとする生物から採取したペクチナーゼを広く使用することができる。また、市販のペクチナーゼ製剤を使用することもできる。市販のペクチナーゼ製剤としては、例えば、スクラーゼ(登録商標)A、スクラーゼ(登録商標)N、スクラーゼ(登録商標)S(以上、三菱化学フーズ社製)、ペクチネックスウルトラ(登録商標)SP-L(ノボノルディクスA/S社製)、メイセラーゼ(登録商標)(明治製菓(株)社製)、ウルトラザイム(登録商標)(ノボノルディクスA/S社製)、ニューラーゼF(登録商標)(天野エンザイム(株)社製)スミチーム(登録商標)SPG(新日本化学工業社製)などを例示することができる。ペクチナーゼの使用量は、ペクチナーゼ製剤には通常複数種類の酵素が含まれているため活性単位では表しにくく、茶葉原料の質量基準で、一般に0.01質量%~5質量%、好ましくは0.1質量%~2質量%の範囲内であることができる。
【0025】
茶葉中には約25質量%のタンパク質(5訂食品成分表参照)が含まれており、プロテアーゼ処理を行うことにより、後の加熱反応の効果が特に高まる。しかしながら、茶葉中のタンパク質はタンニンと結合しているため、茶葉にプロテアーゼを単独で作用させても、ほとんどアミノ酸は生成しない。そこで、茶葉にプロテアーゼおよびタンナーゼを作用させることにより茶葉中のタンパク質の一部が分解し、アミノ酸の豊富な茶抽出液を得ることができる。
【0026】
プロテアーゼは、蛋白質やペプチドのペプチド結合を加水分解する酵素である。本発明で使用可能なプロテアーゼとしては、市販の各種プロテアーゼを挙げることができる。プロテアーゼの使用量は、力価などにより異なり一概には言えないが、通常、茶類原料の質量を基準として通常、0.01~100U/g、好ましくは1~80U/gの範囲内を例示することができる。
【0027】
以上述べた酵素による茶葉の処理工程(特に、工程(A)及び(B)を含む)は、それ自体既知の方法、例えば特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)題II部 食品香料(2000.1.14発行)「2・1・7微生物・酵素フレーバー」(46~57頁)等の刊行物に記載の方法に準じて行うことができる。
【0028】
かような工程の中、茶葉と水の混合物、或いはまた、その処理物に配糖体分解酵素を作用させる、とは、その後の工程(D)の加熱処理および工程(E)における不溶性成分の除去により得られる茶抽出液が、実質的に脱色されるように、着色原因物質を除去可能にすることを意味する。理論により拘束されるものでないが、茶葉に存在する配糖体の中、着色原因物質を除去可能にするとは、該酵素の作用により本来水溶性等の形態にあったものを、非水溶性若しくは難水溶性に変換することを意味する。本発明によると、工程(E)で除去される不溶性成分を含有する浮遊物または沈殿物中には、天然フラボノールの一つであるケンペロールやケルセチン等を包含する着色起因物質が存在するものと理解されている。このことは、さらに理論により拘束されるものでないが、前記作用は、茶葉中に存在し得る配糖体の中、少なくともケンペロールやケルセチン等をアグリコンとする配糖体の全て若しくは大部分を加水分解して難水溶性の遊離アグリコンを生成させるものと理解されている。
【0029】
したがって、工程(B)は、上記のような浮遊物または沈殿物を形成する条件下で酵素処理が行われる。このような条件は、使用する酵素の力価等により最適条件が変動するが、一般に温度は30~70℃、好ましくは36~60℃、より好ましくは40℃~50℃、さらに好ましくは42℃~48℃で、反応時間は理論的には25分以上、実用的には30分~48時間、好ましくは1~36時間、より好ましくは1.5~24時間、さらに好ましくは2~16時間であって、pHは、使用する酵素の起源等により最適条件が変動するが、一般に4~6である。
【0030】
前述したとおり、工程(B)では、同時に(工程(B)において)配糖体分解酵素以外の酵素を作用させることができるところ、これらの酵素処理も、配糖体分解酵素を作用させる上記の条件に準じた条件を選ぶことができる。
【0031】
工程(C)では、工程(B)により、前述したごとく、茶葉に対し配糖体分解酵素を配糖体のアグリコン部と糖部が加水分解されるのに十分な時間作用させた後、原料茶葉残渣またはその他の不溶性の固形物をそれ以外の処理液(抽出物ともいう)と分離させる。かような分離は、例えば、脱水型遠心分離機、フィルタープレス、濾過助剤をコーティングしたヌッチェ濾過機等により行い、必要な場合、さらなる固形物も同時に除去する。
【0032】
工程(D)では、前記酵素処理茶抽出物を加熱処理し、上記工程で使用した酵素をはじめとするタンパク質類を変性させる。なお、理論により本発明の技術的範囲の解釈は拘束されるものでないが、この加熱処理による変性により、酵素は活性を失うことのみならず、また、着色の原因成分であり、かつ、酵素処理により水に不溶となった成分が変性したタンパク質類と結合し凝集しやすい状態になると考えられる。この加熱処理条件は、一般に温度70~135℃、時間2秒~30分の範囲内、好ましくは温度75~121℃、時間10秒~25分の範囲内、より好ましくは温度80~100℃、時間30秒~20分の範囲内、さらに好ましくは温度85~95℃、時間20秒~15分の範囲内にある。
【0033】
工程(E)では、前記加熱処理物を45℃以下、好ましくは35℃以下まで冷却して不溶性成分を含む浮遊物または沈殿物を生じさせる。かような不溶性成分それ自体、または浮遊物若しくは沈殿物の除去は、例えば、脱水型遠心分離機、沈降型遠心分離機、フィルタープレス、濾過助剤をコーティングしたヌッチェ濾過機等により行うことができるが、通常、沈降型遠心分離によるのが好ましい結果をもたらす。
【0034】
こうして、本発明によれば、通常、茶葉の着色物に由来する抽出物または酵素抽出物中の着色を脱色することができる。一方で、茶類の風味、特に、呈味に寄与することが既知の、アミノ酸、カフェイン、カテキン類の含有量が実質的に低減されていない、茶抽出液を提供できる。このような、茶抽出液としては、例えば緑茶葉を原料にした場合、茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が0.5以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.1以下、なおさら好ましくは0.05以下、最もこのましく0.015以下であり、かつ680nmの吸光度が0.15以下、好ましくは0.10以下、より好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.05以下、なおさら好ましくは0.01以下であり、最も好ましくは0.005以下である。これは、相当する酵素処理を行わない場合の茶抽出液の当該430nmの吸光度に比べて約4/5以下、好ましくは約1/2以下、より好ましくは1/3以下、さらにより好ましくは1/5以下である。また、可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を15とした場合の前記固形分の総質量あたりのカテキン含有量が1.0質量%以上、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である緑茶抽出液を提供できる。さらに、茶葉にプロテアーゼを作用させて抽出した場合においては、可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を15とした場合の、前記固形分の総質量あたりのアミノ酸含有量が1.0質量%以上、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上であり、かつカテキン含有量が1.0質量%以上、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である緑茶抽出液を提供できる。
【0035】
前述したとおり、430nmにおける吸光度とOD680nmにおける吸光度を有する本発明により提供される脱色された茶抽出液は、水で希釈または加水して茶飲料を製造する際に、前記茶飲料の総質量当たり、前記固形分含量が0.005質量%~0.3質量%に調整されると、本発明方法で処理されていない茶抽出物に比べて有意に低減した着色度合の茶飲料、さらには、実質的に無色透明な茶飲料を提供できる。前記水は、飲用に供することができる水であれば、所謂、軟水または硬水に属するかに限定されない。このような茶飲料は、430nmの吸光度が0.05以下かつ680nmの吸光度0.05以下である一方で、茶の風味を保持しているものが、好ましい。したがって、本発明の所期の目的を達成するためには、例えば、後述する
図7に示されるデータ等を参照に、前述の工程Bにおいて作用させる配糖体分解酵素の用量を制御して、茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3に調整したときに直前に記載の両吸光度を示すように調製してもよい。
【0036】
本明細書において、茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)について、0.3質量%または0.3というが、これは互換可能に用いている。また、可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)またはBx(ブリックス)0.3°という場合も同様であるが、これらはブリックス計で測定して得られる値をいう。
【0037】
本発明で提供される脱色された茶抽出液は、例えば、ニアウォーターやフレーバードウォーター様の飲料、また、容器詰茶飲料の原料として、使用できる。
【0038】
具体的には、上記の態様1~9、12~13のいずれかに記載の方法で得られるか、態様10または11に記載された、脱色され、場合によって低タンニン化された茶抽出液に加水して茶由来の可溶性固形分を、提供しようとする茶飲料の種類にあわせて0.005~0.3、または0.01~0.3、または0.05~0.3、または0.1~0.3%(または °)に調整し、前記調整と同時または前後に、ビタミンCまたはその可食性の塩(ナトリウム)を加えることにより、茶飲料、容器詰茶飲料を提供できる(態様16または17参照)。かような飲料を提供する場合、特に、態様12または13の方法により得られるか、または態様14にしたがう、脱色され、かつ、低タンニン茶抽出液から出発すると、貯蔵または保存安定性の高い、茶飲料が提供できる。態様12の方法における、PVPP(ポリビニルポリピロリドン)の使用条件は、限定するものでないが、特許文献5の記載を参考に本発明の目的を達成できるものである限り適宜選択できるところ、本発明では、例えば、前記工程(E)で得られた茶抽出液の可溶性固形分の質量に対し、1質量%~100質量%のPVPPが使用される。こうして得られる茶抽出液は、好ましくは、茶由来の可溶性固形分を前記のように調整した後、ビタミンCまたはその可食性の塩(ナトリウム)が調整後の茶飲料の総質量当たり、0.002質量%~0.3質量%、好ましくは、0.005質量%~0.1質量%、より好ましくは0.01質量%~0.03質量%加えられる。このような処理により、茶飲料は、加熱殺菌した後、通常の茶飲料を充填する容器中の条件下で、茶由来の可溶性固形分を0.3%(Bx、20℃)に調整したとき、430nmの吸光度が0.015以下であり、かつ、680nmの吸光度0.05以下である、状態を安定に保持する。
【0039】
なお、透明性および無色(着色状況)の尺度については次の説明を参酌できる。
(透明)
・OD680nmが0.15以下(わずかに不透明感あり)、好ましくは0.10以下(ごくわずかに不透明感あり)、より好ましくは0.07以下(ほぼ透明)、さらに好ましくは0.05以下(おおよそ完全に透明)
(無色)
・純水との透過度によるLabを比較した場合のΔ(デルタ)Eが4.0以下(わずかに着色)、好ましくは3.0以下(ごくわずかに着色)、さらに好ましくは2.0以下(ほぼ無色)、特に好ましくは1.4以下(おおよそ完全に無色)、
・もしくはOD430nmが0.05以下(わずかに着色)、好ましくは0.038以下(ごくわずかに着色)、より好ましくは0.025以下(ほぼ無色)、特に好ましくは0.015以下(おおよそ完全に無色)
【0040】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
純水1300gにビタミンC 1.8gを溶解し、75℃に加温した。そこに静岡産2番茶(やぶきた種、蒸青法、5mmにカット品)100gを投入し、撹拌しながら加熱して95℃にて15分間加熱殺菌した。45℃まで冷却し(この時点のpHは5.3)、表1に示す酵素を添加し、45℃にて4時間撹拌反応を行った。脱水型遠心分離機により、茶葉残渣と抽出液を分離した後、抽出液を95℃、1分間加熱し、30℃まで冷却した。抽出液をNo.2濾紙(保留粒子径5μm)濾過した後、20℃に冷却し、重力加速度3000×gにて10分間遠心分離し、緑茶抽出液を得た。得られた緑茶抽出液は、Bx0.3°(屈折糖度、20℃にて測定)に希釈し、430nmの吸光度(着色の指標)および680nmの吸光度(濁りの指標)を測定した。その結果を表1に示す。また、これらのBx0.3°希釈液の外観の写真を
図1に示す(左から、比較品1、本発明品4、本発明品5、本発明品6、本発明品7)。
(酵素の説明)
・配糖体分解酵素:市販のβ-グルコシダーゼ(1200U/g)
・タンナーゼ:スミチーム(登録商標)TAN(新日本化学工業社製のタンナーゼ:5000U/g)
・ペクチナーゼ:スミチーム(登録商標)SPG(新日本化学工業社製のペクチナーゼ)・インベルターゼ:スミチーム(登録商標)INV(新日本化学工業社製のインベルターゼ)
・ヘミセルラーゼ(β-マンナナーゼ):スミチーム(登録商標)ACH(新日本化学工業社製のヘミセルラーゼ)
【0042】
【0043】
表1に示した通り、タンナーゼとペクチナーゼを併用した比較品1、インベルターゼを使用した比較品2および、ヘミセルラーゼ(マンナナーゼ)を使用した比較品3と比べ、配糖体分解酵素を作用させた本発明品1~7では、いずれも430nmの吸光度(着色の指標)が低く、また、680nmの吸光度(濁りの指標)もほぼ同等かそれ以下であった。配糖体分解酵素は単独で使用する(本発明品1)よりもタンナーゼと併用した方がより脱色され(本発明品2)、さらにペクチナーゼを加えることで大幅(約1/4~1/5)に脱色される結果が得られた(本発明品6)。タンナーゼとペクチナーゼを併用した場合の配糖体分解酵素の添加量を検討した結果、配糖体分解酵素添加量を増やすにつれて色調は薄くなり、濁りもよりクリアになることが判明した(本発明品4~7)。
【0044】
(実施例2)
前記の本発明品6と同一の条件で、工程途中の液を調製した。すなわち、脱水型遠心分離機により分離した液(1)、その液を95℃、1分間加熱した後の液(2)、次いで、その液を冷却後さらにNo.2濾紙濾過した液(3)、次いでその液を、20℃に冷却し、重力加速度3000×gにて10分間遠心分離した液(4)。これらのそれぞれを20℃にて一夜静置した。
【0045】
その結果、(1)の液は全体が均一で、濃厚で濁りのある黄緑色を呈しているが、(2)の液は多量の濃緑色の沈殿を生じ、上清は色が薄くほぼ清澄な液となっていた。また、(3)の液は、僅かに沈殿を生じていたが、上清は色が薄くほぼ清澄な液となっており、(4)の液は色が薄くほぼ清澄な液となっており、沈殿は全くなかった。これらの外観の写真を
図2に示す。左から(1)、(2)、(3)、(4)である。
【0046】
以上の結果、酵素処理後に加熱処理を行うことで着色成分を含む沈殿物が生じ、この沈殿物を取り除くことで脱色されたことが判明した。また、本沈殿物はNo.2 ろ紙(保留粒子径5μm)では完全には除去できず、重力加速度3000×gにて遠沈処理することにより効率的に除去可能であることがわかった。
【0047】
(実施例3)
純水2600gにビタミンC 3.6gを溶解し、75℃に加温した。そこに静岡産1番茶(実施例1とは異なる茶葉:やぶきた種、蒸青法、5mmにカット品)200gを投入し、撹拌しながら加熱して95℃にて15分間加熱殺菌した。45℃まで冷却し(この時点のpHは5.3)、表2に示す酵素を添加し、45℃にて4時間撹拌反応を行った。脱水型遠心分離機により、茶葉残渣と抽出液を分離した後、抽出液を95℃、1分間加熱し、30℃まで冷却した。ついで、抽出液をロータリーエバポレーターにより、Bx17°まで減圧濃縮し、20℃に冷却し、重力加速度3000×gにて10分間遠心分離して沈殿物を除去した後、上清液をBx15°に調整し、95℃、1分間加熱殺菌後20℃まで冷却して緑茶抽出液を得た。得られた緑茶抽出液は、カフェイン含有量(HPLC法)、カテキン類含有量(HPLC法)およびタンニン含有量(Folin-denis法)を測定し、また、Bx0.3°(屈折糖度、20℃にて測定)に希釈し、430nmの吸光度(着色の指標)および680nmの吸光度(濁りの指標)を測定した。その結果を表2に示す。また、これらのBx0.3°希釈液の外観の写真を
図3に示す(左が比較品4、右が本発明品8)。
【0048】
【0049】
本発明品8と比較品4の成分値を比較すると、本発明品8は比較品4と比べカフェイン、タンニンおよびカテキン類が少なくなっているが、わずかな程度であった。
【0050】
<官能評価>
本発明品8と比較品4それぞれのBx0.3°希釈品を、5名のパネラーにより評価した。その平均的な評価結果としては、本発明品8は比較品4よりも、呈味部分でややボディ感が弱く感じられたものの、明らかに緑茶の風味が確認できた。また、香りの面では緑茶の華やかな香気が感じられ。酵素処理茶特有の芋臭がマスキングされていた。
【0051】
(実施例4)
比較品4にさらに配糖体分解酵素を作用させ、本発明品と同様の抽出液が得られるかどうか確認実験を行った。
【0052】
すなわち、比較品4に市販のβ-グルコシダーゼ(1200U/g)(茶葉1gに対し12U)を添加し、45℃にて4時間撹拌反応を行った後、95℃、1分間加熱し、30℃まで冷却した。ついで、20℃に冷却し、No2.ろ紙濾過後、重力加速度3000×gにて10分間遠心分離し、95℃、1分間加熱殺菌後20℃まで冷却して緑茶抽出液を得た(比較品5)。得られた緑茶抽出液は、カフェイン含有量(HPLC法)、カテキン類含有量(HPLC法)およびタンニン含有量(Folin-denis法)を測定し、また、Bx0.3°(屈折糖度、20℃にて測定)に希釈し、430nmの吸光度(着色の指標)および680nmの吸光度(濁りの指標)を測定した。その結果を比較品4と本発明品8を合わせて表3に示す。
【0053】
【0054】
比較品5は比較品4(配糖体分解酵素処理前)と比較すると、カフェイン、タンニン、カテキン類いずれも減少していた。一方で本発明品8の色調(OD430nm)は本発明品8よりも着色がみられるものの、比較品4よりは、色も薄く濁りも少なくなる傾向にあった。
【0055】
また、比較品5の調製工程において、酵素反応し加熱処理を行った抽出液を20℃にて一夜放置した段階で、実施例2の(2)と同様の緑色のフロック状沈殿物が生じた。比較品5調製工程の途中段階の液の外観の写真を
図4に示す(左から、比較品4、酵素失活後、濾過後、遠心分離後)。
【0056】
(実施例5)
実施例4で生じた沈殿物を回収し、遠沈処理/水洗を3回繰り返し、濃緑色の沈殿物を回収した。
【0057】
この沈殿物は水には不溶であったが、メタノールには清澄に溶解し、濃い緑色を呈した。この結果から、詳細な機序は不明だが、緑茶抽出液に配糖体分解酵素を作用させることで水溶性であった色素成分が水に不溶性の沈殿物として析出し、これを分離することで脱色されると推定された。
【0058】
遠心分離の上清液、沈殿物を水洗した時の洗浄液、および沈殿物をメタノールに溶解した液の外観の写真を
図5に示す(左から遠心分離の上清液、沈殿物を水洗した時の洗浄液、および沈殿物をメタノールに溶解した液)。
【0059】
(実施例6)
プロテアーゼを併用した場合について検討を行った。
【0060】
純水2600gにビタミンC 3.6gを溶解し、75℃に加温した。そこに静岡産2番茶(実施例1と同じ茶葉:やぶきた種、蒸青法、5mmにカット品)200gを投入し、撹拌しながら加熱して95℃にて15分間加熱殺菌した。45℃まで冷却し(この時点のpHは5.3)、表4に示す酵素を添加し、45℃にて4時間撹拌反応を行った。脱水型遠心分離機により、茶葉残渣と抽出液を分離した後、抽出液を95℃、1分間加熱し、30℃まで冷却した。ついで、抽出液をロータリーエバポレーターを用いて、Bx17°まで減圧濃縮し、20℃に冷却し、重力加速度3000×gにて10分間遠心分離して沈殿物を除去した後、上清液をBx15°に調整し、95℃、1分間加熱殺菌後20℃まで冷却して緑茶抽出液を得た。得られた緑茶抽出液は、カフェイン(HPLC法)、カテキン類(HPLC法)タンニン(Folin-denis法)およびアミノ酸(HPLC法)を測定し、また、Bx0.3°(屈折糖度、20℃にて測定)に希釈し、430nmの吸光度(着色の指標)および680nmの吸光度(濁りの指標)を測定した。その結果を表4に示す。
(酵素の説明)
・プロテアーゼ:プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム株式会社製のプロテアーゼ)
【0061】
【0062】
表4に示した通り、本発明品9のアミノ酸は比較品6よりも多く、カフェイン、タンニンおよびカテキン類の含有量はほぼ同等の値であった。また、色調については、配糖体分解酵素を作用させた本発明品9は、比較品6と比べ脱色されることが確認できた。また、香味については、イオン交換水に0.2質量%添加した賦香品(Bx0.03°)を評価したころ、本発明品9は比較品6と比べてボディ感がやや弱いものの、旨味や渋味といった緑茶の風味が十分感じられ、良好な緑茶風味を有していた。
【0063】
(実施例7)
実施例6において、本発明品9の調製工程において、重力加速度3000×gにて10分間遠心分離して得られた沈殿物を回収し、実施例5と同様に遠沈処理/水洗を3回繰り返し、濃緑色の沈殿物を回収した。得られた沈殿物をデジタルマイクロスコープにて撮影後、蛍光X線分析およびFT/IR分析に供した。
【0064】
沈殿物は遠心分離/水洗を3回繰り返すことで2層に分かれており、上層部は緑色で粘稠性を有する物体、下層部は淡緑色の微小な球状物体が確認された(
図6)。蛍光X線分析より上層部、下層部はいずれも有機物が主成分と推定され、FT/IR分析より上層部はタンパク質を主体とするもの、下層部は天然フラボノールの一つであり、例えば、下記化学構造式で示されるケンペロールを主体とするものである可能性が示唆された。
【0065】
【0066】
ケンペロール自体は水にわずかしか溶けないが、茶葉中に配糖体として存在することが知られているため、水抽出しても容易に溶け出す。今回、沈殿物として検出されたケンペロールは配糖体分解酵素の働きで糖が脱離してアグリコン化したケンペロールが不溶化して生じたものと推測される。ケンペロールの結晶は黄色を呈し、緑茶の水色である帯緑黄色~鮮黄色に寄与していると考えられるが、本検討で検出された沈殿物は緑色を呈しており、ケンペロールとたんぱく質、クロロフィルなどが複合的に結合し、不溶化し沈殿したものと推測される。
【0067】
(実施例8)茶葉の質量当たり配糖体分解酵素の活性を変動させたときの茶抽出液の脱色への影響の検討
酵素の添加量を下記表5に記載のとおりに調整し、45℃にて4時間撹拌反応を行ったこと以外、実施例1に記載の方法に従い緑茶抽出液を得た。得られた緑茶抽出液は、Bx0.3°(屈折糖度、20℃にて測定)に希釈し、430nmの吸光度(着色の指標)および680nmの吸光度(濁りの指標)を測定した。結果を表5に示す。
【0068】
【0069】
OD430nmは着色の指標を、OD680nmは濁りの指標を表す。OD430nmが0.05以下ではほぼ着色なしであり、0.3以下ではごくわずかな着色、0.5以下では薄い着色であるといえる。また、OD680nmが0.1以下ではほぼ濁りなし(清澄)、0.15程度はわずかな濁りがある程度である。
【0070】
表5に示した通り、茶葉に対する配糖体酵素の使用量の増加につれて、得られるエキスの色が薄くなっていくことが判明した。また、茶葉1gに対し10U(No.3)以上使用した場合には、着色も濁りもごくわずかといえる。
【0071】
(実施例9)茶葉に対する配糖体分解酵素の反応時間の茶抽出液の脱色への影響の検討
酵素反応時間を変える以外は、実施例1の本発明品4(配糖体分解酵素を茶葉1gに対し10U添加)および本発明品6(配糖体分解酵素を茶葉1gに対し20U添加)に記載の方法に従い緑茶抽出液を得た。得られた緑茶抽出液は、Bx0.3°(屈折糖度、20℃にて測定)に希釈し、430nmの吸光度(着色の指標)および680nmの吸光度(濁りの指標)を測定した。結果を表6に示す。
【0072】
【0073】
表6に示した通り、配糖体分解酵素を茶葉1gに対し10Uまたは20U使用した抽出液は、いずれも1時間の反応で色、濁りとも低下していることが確認できた。表5により酵素反応を行っていない茶抽出液はOD430nmが0.562、OD680nmが0.146であることを踏まえると、1時間での脱色、濁りの低下の程度から想定して、30分の酵素反応時間でも効果があることが示唆される。
【0074】
また、酵素反応時間が長くなるほど、色、濁りの値の低下は進み、着色については糖体分解酵素を茶葉1gに対し10U使用した系では4時間の反応で、20U使用した系では2時間の反応でOD430nmが0.3以下となった。また濁りについては、10U使用した系では3時間の反応で、20U使用した系では2時間の反応でOD680nmが0.1以下となった。いずれの系についてもさらなる反応時間の延長に伴い、さらに色(OD430nm)も濁り(OD680nm)も低下した。
【0075】
(実施例10) β-グルコシダーゼとPVPP処理
純水660gにビタミンC(0.9g)を溶解し、75℃に加温した。そこに静岡産2番茶(やぶきた種、蒸青法、5mmにカット品)50gを投入し、撹拌しながら加熱して95℃にて15分間加熱殺菌した。45℃まで冷却し(この時点のpHは4.9)、表7(本発明品10)に示す酵素を添加し、45℃にて8時間撹拌反応を行った。脱水型遠心分離機により、茶葉残渣と抽出液を分離し、さらに軟水100gを遠心分離機内に投入して茶葉残渣に付着した抽出液を押出して抽出液を得、抽出液を95℃、30秒間加熱して殺菌および酵素失活し、30℃まで冷却した。次いで抽出液を遠心分離(1200×g、8分間)して沈殿物を除いた後、抽出液に対し、可溶性固形分(20℃におけるBxを用いて計算)の40%質量のPVPPを添加し、30℃にて1時間撹拌した。次いでNo.2濾紙(保留粒子径5μm)濾過した後、20℃に冷却し、軟水にてBx(20℃)3.0に調整し、95℃、30秒間加熱殺菌し、30℃まで冷却、200メッシュサラン濾過しながらペットボトルに充填し、緑茶エキスを得た(本発明品10)。
【0076】
(実施例11)
実施例10において、PVPP添加量を、抽出液に対し、可溶性固形分(20℃におけるBxを用いて計算)の80%質量とする以外は実施例10と全く同様の操作を行い、緑茶エキスを得た(本発明品11)。
【0077】
(実施例12) β-グルコシダーゼ処理
実施例10において、PVPP添加を行わない以外は実施例10と全く同様の操作を行い、緑茶エキスを得た(本発明品12)。
(比較例7) β-グルコシダーゼなしかつ、PVPP処理
実施例10において、酵素としてβ-グルコシダーゼを使用しない(表7の本発明品12の酵素を使用)する以外は実施例10と全く同様の操作を行い、緑茶エキスを得た(比較品7)。
(比較例8) β-グルコシダーゼ処理もPVPP処理のいずれもなし
比較例7において、PVPP添加を行わない以外は比較例7と全く同様の操作を行い、緑茶エキスを得た(比較品8)。
【0078】
(実施例13)
本発明品10、本発明品11、本発明品12、比較品7および比較品8の、Bx、pH、アミノ酸(mg%)、タンニン(mg%)、カフェイン(mg%)を測定した。また純水にてBx0.3°に希釈し、OD430nm、OD680nm、Lab、ΔE(純水との比較)を測定した。さらにまた、Bx0.3°希釈品は5名のよく訓練されたパネラーにより緑茶らしさを官能評価した。これらの分析値および官能評価の平均的な結果を表7に示す。
【0079】
【0080】
(結果、考察)
・β-グルコシダーゼ処理により茶飲料の着色度合は低下する(比較品8と本発明品12、ならびに、比較品7と本発明品10の対比)。
・PVPP処理により茶飲料の着色度合は低下する、特に加熱殺菌後の着色が少ない傾向がある。また、PVPP処理により、苦渋味が弱くなる(比較品8と比較品7、ならびに、本発明品12と本発明品10の対比)。
・β-グルコシダーゼ処理に加え、PVPP処理(タンニン除去)を行った本発明品10および11は、同一の固形分濃度(Bx0.3°)に希釈した場合、茶の風味を維持しながらも、色が最も薄く、より脱色されたエキスが得られることが認められた。
・β-グルコシダーゼ処理に加え、PVPP処理(タンニン除去)を行うことにより茶抽出液の可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を0.3とした場合の430nmの吸光度が0.05以下、かつ、680nmの吸光度0.05以下、であり、さらに、可溶性固形分(屈折糖度、温度20℃)を15(上記発明品の5倍濃度)とした場合の、アミノ酸が1.0質量%以上かつカテキンが1.0質量%未満である緑茶抽出液を得ることができた(本発明品10および11)。
【0081】
(実施例14) 本発明品および比較品を用いた容器詰飲料の色調
本発明品10、11、12、比較品7および比較品8をそれぞれBx0.005°となるように希釈し(それぞれの本発明品または比較品を各水に0.167%)、アスコルビン酸ナトリウム0.03%添加と無添加の溶液を調整し、135℃にて30秒間UHT殺菌した後、90℃まで冷却しペットボトルに充填後、30℃以下まで冷却し、容器詰緑茶飲料を調製した。
それぞれの飲料の色調(OD430nm、OD680nmおよび純水とのΔE)を表8に示す。
【0082】
【0083】
(結果、考察)
・エキスをBx0.005°に希釈し、アスコルビン酸ナトリウム0.03%添加した場合では、本発明品10、11、12、比較品7および比較品8のいずれも無色透明またはそれに近い飲料が調製できる。
・エキスをBx0.005°に希釈し、アスコルビン酸ナトリウム無添加の場合では、いずれも濁りはなくほぼ透明であり、10および11はおおよそ完全に無色であるが、それ以外は着色が見られた。
【0084】
(実施例15) エキスの添加濃度と色調の関連性
本発明品10を表9の濃度となるように希釈し(アスコルビン酸ナトリウムは無添加)、135℃にて30秒間UHT殺菌した後、90℃まで冷却しペットボトルに充填後、30℃以下まで冷却し、容器詰緑茶飲料を調製した。
それぞれの飲料の色調(OD430nmおよび純水とのΔE)を表9に示す。
【0085】
【0086】
(結果、考察)
アスコルビン酸ナトリウム無添加で調製した容器詰飲料の場合、本発明品10の濃度がBx0.005°ではおおよそ完全に無色、Bx0.015ではわずかに着色といった程度、Bx0.025では着色する。
しかしながら、緑茶らしい風味を十分確保するためには、0.025程度は必要と思われた。
前記実施例13から容器詰飲料の調製に当たり、アスコルビン酸ナトリウム添加が着色防止の効果が認められるため、次の実験を行った。
【0087】
(実施例16) アスコルビン酸ナトリウム添加濃度、保存条件と色調の関連性
本発明品10をBx0.025°となるように希釈し、その際、表10の濃度のアスコルビン酸ナトリウムを添加し、135℃にて30秒間UHT殺菌した後、90℃まで冷却しペットボトルに充填後、30℃以下まで冷却し、容器詰緑茶飲料を調製した。
各容器詰飲料は、10℃および50℃にて10日間保存した。
保存後のそれぞれの飲料の色調(OD430nmおよび純水とのΔE)を表10に示す。
【0088】
【0089】
(結果、考察)
・アスコルビン酸ナトリウム添加により殺菌後の着色が抑えられた。
・アスコルビン酸ナトリウム添加濃度0~0.03%の範囲で、添加量が増加するほど殺菌後の着色が抑えられることが認められた。
・殺菌直後および10℃、10日間保存のOD430nmおよびΔEから、アスコルビン酸ナトリウムは0.01%以上であれば、おおよそ完全に無色かつ透明であった。
・容器詰飲料を50℃、10日間(虐待条件)で保存した場合、アスコルビン酸ナトリウム添加濃度0.03%で「ほぼ着色」であったが0.01%では「ごくわずかに着色」程度であった。
・以上によれば、アスコルビン酸ナトリウムの添加濃度は0.01%以上が好ましいといえる。