(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】シミュレートされた生理環境における物質の挙動を分析するインビトロ方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220105BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2020084809
(22)【出願日】2020-05-13
(62)【分割の表示】P 2017509030の分割
【原出願日】2015-08-19
【審査請求日】2020-05-28
(32)【優先日】2014-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2015-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512115852
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロッシュ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001346
【氏名又は名称】特許業務法人 松原・村木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェレ、ダナンジャイ、ジャグディシュ
(72)【発明者】
【氏名】マーラー、ハンス-クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】パテール、スラブー
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-527366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0144626(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0120215(US,A1)
【文献】米国特許第04740309(US,A)
【文献】Gairaj Rhiad Tariq Christopher,A Study of Drug Transport in the Vitreous Humor: Effect of Drug Size; Comparing Micro- and Macro-scale diffusion; Assessing Vitreous Models; and Obtaining In Vivo Data,Thesis,Chemica Engineering and Applied Chemistry,2012年11月19日,PP.1-81
【文献】Jing Xu et al.,PERMEABILITY AND DIFFUSION IN VITREOUS HUMOR: IMPLICATIONS FOR DRUG DELIVERY,PHARMACEUTICAL RESEARCH,PLENUM PUBLISHING CORPORATION,2000年06月,Vol.17,No.6,PP.664-669,https://link.springer.com/article/10.1023/A:1007517912927
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレートされた生理環境における分子の挙動を分析するための装置であって、
第1の流体を収容する第1区画室と、
ゲルマトリックスを収容する第2区画室と、
第2の流体を収容する第3区画室と、を含み、
当該装置は、さらに、
少なくとも1つの第1半透膜と、
少なくとも1つの第2半透膜と、を含み、
前記少なくとも1つの第2半透膜は、前記少なくとも1つの第1半透膜から離間して配置され、
前記少なくとも1つの第1半透膜は、前記第1区画室と前記第2区画室の間に配置され、
前記少なくとも1つの第2半透膜は、前記第2区画室と前記第3区画室の間に配置され
、
前記第1区画室、前記第2区画室および前記第3区画室は一列に配置され、前記少なくとも1つの第1半透膜および前記少なくとも1つの第2半透膜は、それぞれの区画室の間で実質的に垂直に配置され、
前記装置は、前記少なくとも1つの第1半透膜および前記少なくとも1つの第2半透膜を、それぞれの区画室の間に保持するホルダをさらに備え、
前記ホルダは、前記第1区画室、前記第2区画室及び前記第3区画室のいずれの内にも延在していない
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第1半透膜の分画分子量(MWCO)は、網膜排除限界(REL)に実質的に対応することを特徴とする請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第1半透膜が、前記少なくとも1つの第2半透膜の分画分子量(MWCO)以下の分画分子量(MWCO)を有することを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1半透膜は、凹形状を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
ガラスを含む、またはガラス製であることを特徴とする請求項
1から請求項
4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1半透膜を支持する第1支持体、
又は前記少なくとも1つの第2半透膜を支持する第2支持体を含
むことを特徴とする
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
少なくとも前記第1支持体は、凹形状を有することを特徴とする請求項
6に記載の装置。
【請求項8】
前記第1区画室は、硝子体液である前記第1の流体
を含むことを特徴とする請求項1
~請求項7のいずれか一項に記載の
装置。
【請求項9】
前記第3区画室は、緩衝液である前記第2の流体
を含むことを特徴とする請求項1
~請求項8のいずれか一項に記載の
装置。
【請求項10】
前記緩衝液
は、生理学的に適切な緩衝液であることを特徴とする請求項
9に記載の
装置。
【請求項11】
物質の安定性または生体利用効率に関するデータを測定するため、インビトロで
前記物質を試験するための、請求項
1から請求項
10のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項12】
前記物質が製剤であることを特徴とする請求項
11に記載の装置の使用。
【請求項13】
前
記物質が
、100
~400kDaの範
囲の大きさを有する分子を含むことを特徴とする請求項
11または請求項
12に記載の
装置の使用。
【請求項14】
前
記物質が
、1kDa~250kDaの範
囲の大きさを有する分子を含むことを特徴とする請求項
11から請求項
13のいずれか一項に記載の
装置の使用。
【請求項15】
前
記物質が
、4kDa~150kDaの
範囲の大きさを有する分子を含むことを特徴とする請求項
11から請求項
14のいずれか一項に記載の
装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレートされた生理環境において物質、好ましくは、タンパク質などの高分子の挙動を分析するためのインビトロ方法および装置に関する。特に、本発明は、シミュレートされた眼疾患における物質の挙動を分析するためのインビトロ方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、糖尿病性網膜症などの黄斑変性症または網膜疾患を治療するため、薬物の硝子体内注入がこれまで有効であることがわかっている。硝子体内注入では、製剤を硝子体液(VH)、すなわち、例えば、ヒトの眼球のレンズと網膜との間の空間を満たす透明なゲルに直接注入する。これは、特に、硝子体内注入では、投与量中、変化せずに網膜に到達する薬物量の割合が高く、通常、硝子体内注入は高い生体利用効率を有するからである。
【0003】
しかしながら、例えば、硝子体液(VH)における製剤の安定性を調査するインビトロ試験は、インビボ条件で実際にシミュレートする際には、ほとんど有用でないことが判明している。VHは、自然環境にないときには速く変性し、VHのpH値は、VHにおける変性産物の滞積に起因して急速に増加し得る。従って、試験は、生きているヒトの眼の実際の状況に相当するものとはなり得ず、例えば、数日間のように、特に、長時間にわたるものに相当するものではない。最新の試験系では、VHの生理学的pH値は、緩衝系を適用することによって安定化され得る。ここで、変性産物は、半透膜を通してVHを緩衝液内に出すことができる。
【0004】
しかしながら、これらの系では、製剤の異なるバリア条件をシミュレートすることができない。特に、これらは、例えば、後眼部組織によって提供されるような異なるバリア条件をシミュレートすることができない。
【0005】
したがって、例えば、高分子のような物質の挙動を分析するために、生理環境をシミュレートする改善されたインビトロ方法および装置が必要とされている。特に、シミュレートされた生理環境が異なる物質の長期安定性を分析するインビトロ方法および装置が必要とされている。
【0006】
本発明の一態様によれば、シミュレートされた生理学的自然環境における物質の挙動を分析するインビトロ方法が提供される。この方法は、第1の流体、ゲルマトリックス、および第2の流体を準備するステップを含む。この方法は、さらに、少なくとも1つの第1半透膜によって、第1の流体とゲルマトリックスを分離するステップと、少なくとも1つの第2半透膜によって、ゲルマトリックスと第2の流体を分離するステップと、を含む。さらなるステップは、第1の流体内に物質を注入するステップと、物質を第1の流体から、少なくとも1つの第1半透膜と、ゲルマトリックスと、少なくとも1つの第2半透膜とを通して、第2の流体内へ移動させるステップと、第1の流体からの物質のクリアランスを測定するステップである。
【0007】
少なくとも第1半透膜と少なくとも第2半透膜との間にゲルマトリックスを配置することにより、現実的な方法で、物質の拡散バリアをシミュレートすることおよび前記バリアを介した物質の拡散をシミュレートすることができる。ゲルマトリックスは、例えば分子、例えばタンパク質または製剤のような高分子などの物質が注入される第1の流体と、緩衝液として作用する第2の流体との間に配置される。第1の流体は、物質が注入される液体または組織に対応するか当該液体または組織をシミュレートする。第1の流体は、ヒトまたは動物から抽出された流体でもよいが、このような天然の流体をシミュレートした人工の流体でもよい。第2の流体は、例えば、系のpH値が所望の値(例えば、一定)に維持されるような緩衝液として作用する。第2の流体は、沈殿物または変性産物を入れるまたは吸収するリザーバとしての役割を果たしてもよい。
【0008】
特別な配置により、同一の生理学的な系における異なるバリア条件だけでなく、異なる生理学的な系における異なるバリア条件をシミュレートすることができる。例えば、硝子体液への製剤の注入では、ヒトのみならず動物の眼についても、製剤の安定性および生体利用効率をシミュレートすることができる。例えば、(年齢または疾患により、ある程度変性した眼に対応する)様々な眼の状態における異なるタンパク質に対して、そして、前眼部組織および後眼部組織ならびにこれらの任意の組み合わせに対して、異なる拡散および沈殿の挙動を試験することができる。これらの組織は異なる分子バリア特性を有し、当該分子バリア特性は、本発明の方法および装置でゲルマトリックスの特性および任意選択的に半透膜の特性を変化させることによって、シミュレートおよび試験することができる。さらに、有効な注入位置と拡散バリアの位置との間の距離と、注入場所に存在する物理的および化学的な環境とを考慮して、例えば、タンパク質または製剤などの物質の安定性および生体利用効率について、より現実的な試験結果を得ることができる。したがって、本発明による方法および装置は、自然環境、最も好ましくは眼環境の幾何学的形状を、より現実的にシミュレートすることを可能にする。これは、流体およびゲルマトリックスの特別な配置と、更なる詳細を以下に説明するような装置の構成によって可能になる。
【0009】
本発明による方法および装置は、安定性評価に適用することができるが、安定性評価のみに限定されない。安定性評価としては、例えば、製剤、高分子、タンパク質および/または賦形剤またはこれらの組み合わせなどの物質の濃度に依存する沈殿;例えば、硝子体液中のタンパク質などの特定の流体環境における高分子および/または賦形剤などの物質の相互作用;例えば、硝子体液などの特定の流体に希釈する際の物質の安定性と、例えば、界面活性剤、糖、緩衝種(buffering species)および等張化剤などの安定化賦形剤が消失した後の安定性;および、例えば、眼環境などのシミュレートされた生理環境における長期安定性;を挙げることができる。
【0010】
以下の説明では、方法および装置は、一般に、物質の試験、特に、シミュレートされた眼環境における高分子の試験を対象とする。したがって、方法の好ましい一実施形態では、第1の流体が硝子体液であり、第2の流体が緩衝液、好ましくは生理学的に適切な緩衝液である。しかしながら、方法および装置はこれらの用途に限定されない。例えば、血液脳関門をシミュレートして、物質が、例えば、血管に注入されたときの脳組織中の物質の安定性および生体利用効率を試験することもできる。この場合、第1および第2の流体は、血液および脳脊髄液、或いは血液をシミュレートした流体および脳脊髄液をシミュレートした流体としてもよい。
【0011】
本願で使用される「物質」は、流体内に注入され得るあらゆる物質を意味し、本発明の方法または装置において、その安定性または生体利用効率の観点から分析されるべきあらゆる物質を意味する。物質は、分子、例えば、タンパク質、抗体、抗体断片、融合タンパク質、二重特異性抗体、複合タンパク質、天然または合成のペプチドまたはオリゴヌクレオチドなどの高分子、天然または合成の分子(例えば、小分子薬物、糖、界面活性剤、緩衝液、ポリマー、または一般的に使用されるあらゆる賦形剤)とすることができる。好ましくは、物質は、例えば、溶液、懸濁液または乳濁液のような製剤であり、固体マトリックス中に、或いは本明細書中で以下に説明する他のいずれかの送達系内に含まれるものでもよい。
【0012】
本願で使用される「硝子体液」は、天然のもの或いは人工的に供給されるものでもよい。天然の硝子体液は、ブタ、ウシ、イヌ、ネコなどの様々な動物種由来、ウサギおよび非ヒト霊長類由来、またはヒト由来のものでよい。天然の硝子体液は、例えば、事前に取り除かれた眼から得ることができる。人工硝子体液は、好ましくは、ヒト硝子体液に模倣させている。人工硝子体液は、例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、寒天、キトサン、ゼラチン、キサンタンガム、ペクチン、コラーゲンなどを挙げることができるが、これらに限定されない天然ポリマー;例えば、プルロニックゲル(pluronic gel)、ポリビニルアルコール、ポリフォスファーゼン、或いはPEG,PCL、PLA、PGA、PLGA、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸からなる二量体、三量体または多量体のゲル化ポリマーなどを挙げることができるが、これらに限定されない合成ポリマー;および異なる濃度でのこれらのポリマーの組み合わせなど、様々なポリマー材料から調製することができる。
【0013】
硝子体液は、人工および天然の硝子体液の混合物またはこれらの成分を異なる組み合わせで混合したものでもよい。
【0014】
本願で使用される「ゲルマトリックス」は、流動体または(固体と液体の中間の特性を有する)半流動体であり、所定の(しかし、可変の)粘度と、所定の(しかし、可変の)濃度のゲルマトリックス材料の化合物を有している。好ましくは、ゲルマトリックスは、粘性液体である。ゲルマトリックスは、シミュレートされたバリアのコアを表し、少なくとも1つの第1の半透膜と少なくとも1つの第2の半透膜との間に挟まれている。好ましくは、少なくとも1つの第1の半透膜および少なくとも1つの第2の半透膜は、2つの単一の半透膜、好ましくは透析膜である。しかしながら、これらは多重半透膜であってもよく、複数の、好ましくは2つの膜が相互に重ねて配置されている。バリアの仕様は、ゲルマトリックスの物理的および/または化学的特性を変化させることによって、変化する試験条件に合わせて変更および適合させることができる。ゲルマトリックスについては、天然または人工的に作られた異なるポリマー材料を、個々にまたは異なる濃度で組み合わせて用いることができる。化学修飾された天然ポリマーを利用して、ゲルマトリックスを調製することができる。天然、半合成および合成ポリマーは、ゲルマトリックスの調製のため、異なる組み合わせと濃度で用いることができる。ゲルマトリックスは、例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、寒天、キトサン、ゼラチン、キサンタンガム、ペクチン、コラーゲンなどを挙げることができるが、これらに限定されない天然ポリマー;例えば、プルロニックゲル(pluronic gel)、ポリビニルアルコール、ポリフォスファーゼン、或いはPEG,PCL、PLA、PGA、PLGA、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸からなる二量体、三量体または多量体のゲル化ポリマーなどを挙げることができるが、これらに限定されない合成ポリマー;および異なる濃度でのこれらのポリマーの組み合わせなど、様々なポリマー材料から調製することができる。
【0015】
本発明による方法のいくつかの好ましい実施形態では、少なくとも1つの第1半透膜または少なくとも1つの第2半透膜または両方の膜の分画分子量(MWCO)を変化させる。本発明による方法のいくつかの好ましい実施形態では、好ましくはゲルマトリックスの粘度またはゲルマトリックスの化合物の濃度を変化させることによって、ゲルマトリックスの組成を変化させる。本発明による方法のいくつかの好ましい実施形態では、膜の少なくとも1つのMWCOおよびゲルマトリックスの組成の両方を変化させる。これらの処理によって、膜を通した拡散率および/またはゲルマトリックスを通した物質の透過率を変更することができる。第1の流体内の物質とゲルマトリックス材料との相互作用と、物質の安定性、適合性および適応性に対するこれらの影響を調査してもよい。
【0016】
「緩衝液」は、好ましくは、例えばpH5.5~pH8.5の間、好ましくは約pH7.0~約pH7.6の間、より好ましくはpH7.4である、系のpH値を有するか或いは維持することができる溶液である。「生理学的に適切な緩衝液」は、好ましくは、約pH7.0~約pH7.6の間、より好ましくはpH7.2~7.4の系のpH値を有するか或いは維持することができる溶液である。好ましくは、緩衝液は塩を含む。緩衝液は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、重炭酸塩緩衝液、リンゲル重炭酸塩緩衝液、リンゲル乳酸緩衝液、シミュレートされた体液、他の等張溶液、細胞培地、およびその他の生理学的に代表的な緩衝液とすることができる。緩衝液として使用される流体は、上述したゲルマトリックス材料と組み合わせて、ゲルマトリックスの調製に用いることもできる。
【0017】
本願では、第1の流体などの「流体からの物質のクリアランス」は、物質が注入された流体からの物質の拡散を含むと理解される。しかしながら、クリアランスには、物質の物理的または化学的変化も含まれ、これらは、例えば、流体または系の他の部分(例えば、ゲルマトリックスまたは第2の流体)での物質の分解または沈殿を含む。したがって、第1の流体の物質のクリアランスは、例えば、各流体およびシミュレートされた生理環境全体における物質の安定性および生体利用効率に関する情報を含む。
【0018】
本発明による方法では、注入された物質、例えば、タンパク質または賦形剤の挙動を分析することができるだけではない。本発明による方法では、例えば、物質を第1の流体に注入し、第1の流体から他の流体内へ拡散する際に生じる、第1の流体または他の流体の分解または物理的および化学的変化を監視することもできる。
【0019】
本発明による方法の一態様によれば、第1の流体からの物質のクリアランスを測定するステップは、第1の流体、第2の流体または第1の流体および第2の流体の両方で、物質濃度を測定することによって行われる。これは、例えば、それぞれの流体の試料を採取して、物質含有量または分解生成物について分析することによって行うことができる。分析は、分光法、例えば、蛍光分光分析法、ラマン分光法または紫外可視分光法によって行うことができる。流体試料の分析は、液体またはガスクロマトグラフィー、例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)またはイオン交換高速液体クロマトグラフィー(IE-HPLC)によって行うこともできる。分析は、光散乱法、例えば、静的光散乱、動的光散乱または比濁分析によって行うこともできる。好ましくは、クリアランスを測定するための濃度測定または他の測定は、繰り返し、好ましくは、定期的に行われる。好ましくは、測定は、数時間にわたり、より好ましくは数日間にわたり、例えば、1週間または2週間まで、或いはそれ以上長く行われる。測定を行う継続時間および光度は、物質、例えば、系の分子サイズおよび透過性に適合させることができる。濃度測定または例えば、pH測定のような他の測定は、測定すべきそれぞれの流体にプローブを直接置くことによっても実施することができる。
【0020】
本発明による方法の別の態様によれば、注入される物質は、約100Da~約400kDaの範囲、好ましくは、約1kDa~約250kDaの範囲、例えば、4kDa~150kDaの大きさを有する分子を含む。半透膜の仕様は、本発明による方法で使用される分子の大きさおよび形態(例えば、直線状、球状)に適合させることができる。例えば、膜の分画分子量(MWCO)は、例えば、第1の流体中、または例えば、ゲルマトリックス中の物質の所望の保存期間に応じて調整することができる。例えば、分析すべき物質がより小さい分子、例えば、約10kDaより小さい分子からなる或いはこのような分子を含む場合、好ましくは、10kDa以下のMWCOを有する膜を用いて、保存時間を(例えば、数日まで)延長することができる。保存時間を(例えば、数時間まで)減少しなければならない場合、10kDaよりも大きいMWCOを有する膜を用いることができる。好ましくは、約10KDa~100KDaの範囲のMWCOを有する膜は、約50KDa~150KDaの大きさを有する高分子からなる或いはこのような高分子を含む物質に対して使用される。好ましくは、約1KDa~50KDaの範囲のMWCOを有する膜は、約10KDaの大きさの高分子からなる或いはこのような高分子を含む物質に対して使用される。
【0021】
好ましくは、1つの第1半透膜および1つの第2半透膜が、本発明による方法および装置において使用される。しかしながら、1つの膜の代わりに、多重膜を支持体の上に配置することもできる。好ましくは、膜は、互いに直接隣接して配置され、好ましくは、互いに重なり合って配置される。幾つかの、例えば、2つの膜が使用される場合、幾つかの膜は、MWCOが同一でもよく、異なるMWCOを有してもよい。多重膜を使用することによって、バリアの仕様をさらに変更することができる。多重膜は、複数の膜で厚さを増加させることによってのみならず、(MWCOが同じ場合であっても)単一の膜に対する多重膜の孔径を変えることによって、バリアの仕様を変更してもよい。また、孔の位置と大きさが膜により異なるので、1つの膜から次の膜への移行は、バリアの仕様に寄与する。
【0022】
好ましくは、膜の仕様は、実際の組織の透過性に適合される。例えば、本発明による方法の幾つかの好ましい実施形態では、少なくとも1つの第1半透膜は、網膜排除限界(Retinal Exclusion Limit;REL)に実質的に対応する分画分子量(MWCO)を有する。「実質的に対応する」とは、RELを含むことのみならず、MWCO値が、例えば、約50%までRELと異なるものも含む。RELは、一般に、眼の網膜を横切って自由に拡散することができる分子の最大寸法として知られている。健康な人間の眼では、RELは、約50kDa(103ダルトン)~100kDaの範囲、好ましくは、70kDaであると定義される。しかしながら、この範囲は、種が異なることや目の状態(年齢、死亡などによる変化)に応じて、著しく変わることがある。さらに、RELは、拡散する分子の構造、例えば、分子の線状または球状構造に大きく依存する。
【0023】
本発明による方法および装置に使用される半透膜は、膜を通る拡散速度を制御することを可能にする。半透膜は、拡散制御膜であるとともに、分子量サイズ選択膜であると考えることもできる。好ましくは、半透膜は透析膜である。透析膜は、半透過性フィルム、例えば、様々な大きさの孔を含む再生セルロースまたはセルロースエステルのシートである。一般に、細孔よりも大きい分子は膜を通過することができないが、小さい分子は自由に膜を通過することができる。透析膜の孔径の範囲によって決定される分離特性は、膜の分画分子量(MWCO)と呼ばれる。MWCO付近の分子の拡散は、MWCOよりも著しく小さい分子と比較して遅くなる。膜のMWCOは、明確に限定された値ではない。透析膜は、製造に用いられる材料に応じて、広範囲の細孔径を含む可能性がある。拡散制御膜の他の例としては、異なる細孔径を有するフィルタ膜を挙げることができる。一般に、大きなMWCOを有する膜は、大きな分子を第1の流体内に注入する際に使用され、小さなMWCOを有する膜は、小さな分子を第1の流体内に注入する際に使用される。しかしながら、膜のMWCOは、上記で概略を述べたように、第1の流体中の物質の滞留時間に影響を及ぼすように変化させてもよい。例えば、分子の第1の流体との相互作用調査を行うために、物質を第1の流体中に長期間保持させなければならない場合には、MWCOを減少させてもよい。
【0024】
本発明による方法のさらなる態様によれば、第1の流体内に物質を注入するステップは、物質送達系を介して、第1の流体内に物質を注入することを含む。これにより、物質を第1の流体内に遅延して放出させる。物質は、例えば、ナノ粒子、微粒子、薬物デポ剤(固体、液体またはゲル形態のもの)、繰り返しの注入を伴い、または伴わずに物質の反復送達を可能とする薬物デポ剤または外部デバイスとして機能するインプラントなどの送達系により、第1の流体内に注入してもよい。このような送達系では、物質は、カプセル封入され、共役化(高分子に結び付けられ)され、または経時的に物理変化または化学変化またはその両方(例えば、膨張、分解)の変化を受けて、送達系が注入された流体中で物質を放出するような物質または成分に閉じ込められる。送達系を設けることにより、第1の流体中への物質の放出を時間的に遅延させることができる。第1の流体中で送達系の移動が起こると、送達系は、物質が放出されて第1の流体と接触する前に、少なくとも1つの第1半透膜に近づく。実際の系では、送達系を使用することで、物質、例えば、製剤を、注入部位を変化させることを要せずに目的位置に近づけることができることで、生体利用効率を向上させることができる。
【0025】
本発明による方法の一態様では、本方法は、半透膜によって支持されたゲルマトリックス層中の2Dまたは3D細胞培地で細胞を成長させるステップをさらに含んでもよい。例えば、一般的に使用される網膜細胞株は、ARPE-19、D407、RF-6Aなどである。細胞は、ヒト後部組織を表すように、培養または共培養で成長させることができる。系は、注入物質または送達系または細胞分解に関する細胞単位の毒性調査およびクリアランスの調査を行うために使用することができる。
【0026】
本発明による方法および装置は、流体、ゲルマトリックスおよび半透膜の選択によって、特定の試験シナリオに適合させることだけに限られない。当該方法および装置は、例えば、半透膜の配向に依存して、上述した化合物の幾何学的配置によって、それらの生理環境における物質の異なる挙動を分析するように調整してもよい。試験流体中のそれぞれの分子の滞留時間が十分に長い場合、例えば、タンパク質または製剤などの分子の長期安定性、または例えば、抗原結合親和性を最もよく分析することができる。安定性試験および滞留時間により、例えば、特定の薬物の投与頻度をどのように選択しなければならないかに関する情報を得ることができる。したがって、いくつかの用途では、第1の流体中の物質の滞留時間が、数日、好ましくは、数週間、より好ましくは、数ヶ月まであることが望ましいであろう。好ましくは、第1の流体中の物質の滞留時間の間、試験条件は、生理環境にできるだけ近い環境を維持する。以下、シミュレートされた生理環境における分子の挙動を分析するための装置の様々な実施形態を記載する。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、シミュレートされた生理環境における分子の挙動を分析するための装置が提供される。この装置は、第1の流体を収容する第1区画室と、ゲルマトリックスを収容する第2区画室と、第2の流体を収容する第3区画室とを含む。当該装置は、さらに、少なくとも1つの第1半透膜を支持する第1支持体と、少なくとも1つの第2半透膜を支持する第2支持体とを含む。第2支持体は、第1支持体から離間して配置される。第1支持体は、第1区画室と第2区画室の間に配置され、第2支持体は、第2区画室と第3区画室の間に配置される。
【0028】
本発明による装置では、第1区画室内の第1の流体は、第1支持体によって保持される少なくとも1つの第1半透膜によって、第2区画室内のゲルマトリックスから分離された状態で維持してもよい。好ましくは、少なくとも1つの第1半透膜は、第1支持体上に配置される。少なくとも1つの第1半透膜は、膜の縁部においてのみ、第1支持体上に配置することができる。第1支持体は、少なくとも1つの膜が、第1支持体の略全域に配置され且つ支持されるように設計することができる。同様に、ゲルマトリックスは、第2支持体によって保持される少なくとも1つの第2半透膜によって、第3区画室内の第2の流体から分離された状態で維持してもよい。好ましくは、少なくとも1つの第2半透膜は、第2支持体上に配置される。少なくとも1つの第2半透膜は、第2支持体上に、膜の縁部のみに配置してもよい。第2支持体は、少なくとも1つの膜が、第2支持体の略全域に配置され且つ支持されるように設計することができる。
【0029】
第2区画室は、主に、少なくとも1つの第1半透膜および少なくとも1つの第2半透膜によって、場合によっては、装置の側壁によっても形成される。装置の実施形態および支持体の配置に依存して、第2区画室は、主に第1支持体および第2支持体によって、場合によっては、装置の側壁によっても形成される。好ましくは、3つの区画室は直列に配置される。好ましくは、第1区画室と第3区画質との間に生じる唯一の物質交換は、分子が少なくとも1つの第1半透膜および少なくとも1つの第2半透膜を透過し、ゲルマトリックスを通って拡散することだけである。
【0030】
好ましくは、第1区画室、第2区画室および第3区画室には、少なくとも1つの開口部が設けられている。好ましくは、区画室の少なくとも1つの開口部は、第1支持体および第2支持体のそれぞれに設けられた少なくとも1つの開口部に対応する。好ましくは、第1支持体および第2支持体は、少なくとも1つの開口部が設けられた区画壁である。少なくとも1つの開口部は、それぞれの少なくとも1つの半透膜によって覆われている。幾つかの好ましい実施形態では、第1支持体は、第1区画室および第2区画室の多孔質壁を形成し、第2支持体は、第2区画室および第3区画室の多孔質壁を形成する。これらの実施形態では、第1支持体および第2支持体は、好ましくは、複数の開口部を備え、複数の開口部は、支持体の全領域にわたって分布していることが好ましい。
【0031】
装置の態様および利点は、本発明による方法に関連して既に述べているので、ここでは説明を繰り返さない。
【0032】
本発明による装置の一態様によれば、少なくとも1つの第1半透膜が、少なくとも1つの第2半透膜の分画分子量(MWCO)以下の分画分子量(MWCO)を有する。少なくとも1つの第2膜のMWCOが大きいかまたは等しいことで、理論的には、少なくとも1つの第1膜を通過したすべての分子が、少なくとも1つの第2膜を通過し、第2流体内で検出されるであろうあることを保証している。本発明による方法および装置のいくつかの好ましい実施形態では、少なくとも1つの第1半透膜の分画分子量(MWCO)は、実質的に網膜排除限界(REL)に対応する。好ましくは、少なくとも1つの第1膜のMWCOは、特に、眼環境をシミュレートする場合には、10kDa以上、100kDa以下の範囲内にある。
【0033】
本発明による装置のさらなる態様によれば、第1支持体の形状および大きさが、網膜、好ましくは、ヒトの網膜の形状および大きさに適合している。そして、1つまたは少なくとも1つの膜が第1支持体上に配置され、第1支持体の形状をとる。これにより、眼球の硝子体内に注入された物質の分布および移動をシミュレートすることができる。特に、注入部位と網膜または眼球の前部との距離を、現実的にシミュレートすることができる。したがって、幾つかの好ましい実施形態では、少なくとも第1支持体は凹形状を有する。これにより、第1区画室の少なくとも一部は、第1支持体によって形成された第1区画室の一部に対応する眼球の一部の形状をシミュレートすることができる。この部分は、高分子の透過に関して、最も関連性が深い。凹形状(または凸形状)の支持体および対応する区画室の形状により、場合によっては、他の器官の形状も、屈曲面によって、より現実的に模倣することができる。好ましくは、第2支持体も凹形状を有し、当該凹形状の第2支持体を第1支持体と同心状に配置してもよい。第1支持体および第2支持部は、相互に平行に配置され、且つ相互に離間して配置されている。そして、第2区画室は、第1支持体および第2支持体(およびそれぞれの支持体上に載置されている対応する膜)によって、略完全に形成することができる。
【0034】
第1区画室および少なくとも1つの第1膜のこのような配置では、眼球内部の幾何学的形状と物理的および化学的な環境がシミュレートされる。ゲルマトリックスおよび好ましくは、凹形状の少なくとも1つの第2膜との組み合わせにより、前眼部組織または後眼部組織などの眼球を覆う組織全体からのバリアをシミュレートすることができる。
【0035】
装置、すなわち区画壁および支持体は、装置に使用される流体および物質に適した任意の材料から製造することができる。好ましくは、ガラス、ステンレス鋼、不活性金属合金、不活性合成プラスチックまたはポリマー材料などの不活性材料が使用される。好ましくは、材料の透明性のため、ガラスまたは不活性プラスチック材料が使用される。好ましくは、不活性と優れた再利用特性のため、ガラスが装置の材料として使用される。本発明による装置の幾つかの好ましい実施形態では、装置はガラスを含むか、またはガラス製である。好ましくは、第1区画室、第2区画室または第3区画室、第1支持体および第2支持体の少なくとも1つは、ガラスを含むか、またはガラス製である。好ましくは、第1支持体および第2支持体を含む装置の全ての壁は、完全にガラス製である。
【0036】
本発明による装置の別の態様によれば、装置は、第1区画室の開口部を閉じるカバーをさらに備える。開口部を通して、第1の流体を第1区画室内に充填したり、第1区画室から除去したりすることができる。好ましくは、閉じるときには密閉するようにしてもよい。これにより、物質の注入前後の第1の流体に対する周囲の影響(例えば、湿気または汚染)を最小限に抑えることができる。好ましくは、カバーは、装置と同じ材料で作られる。好ましくは、カバーはガラス製である。
【0037】
半透膜用の支持体を含む装置の実施形態は、水平または略水平に配置された半透膜を備えた用途に特に好適である。装置の水平配置では、少なくとも2つの区画室、好ましくは、すべての区画室が互いに上下に重なり合って配置される。その場合、半透膜の配置は、正確に水平でもよい。しかしながら、水平配置には、例えば、網膜または他の組織形態をシミュレートする膜の凹形状または凸形状が含まれる。支持体は、膜全体を支持してもよく、水平に配置された半透膜に作用する流体またはゲルマトリックスの重量を支持してもよい。注入された物質は、重力によって下方に移動する傾向がある。半透膜の略水平な配置では、半透膜は、基本的にそれぞれの区画室の底を形成する。したがって、物質は半透膜上に滞積する傾向があり、どちらかと言うと、区画室から直接浸透する可能性がある。膜の上に物質を滞積させない場合、区画室内の物質の滞留時間に影響を及ぼす可能性があることが判明している。これは、以下のように説明することができる。すなわち、区画室の底が閉じていると、物質が半透膜の位置に移動するまで、物質は、区画室内の流体中に再拡散する可能性があるからである。半透膜は、例えば、区画室の側壁を形成してもよい。装置のこのような実施形態は、半透膜の垂直または略垂直な配置に対して好適である。垂直な配置では、物質を膜上に滞積させない或いは少なくともこれを制限し、第1の流体中またはゲルマトリックス中の物質の滞留時間を延長することができる。
【0038】
本発明の別の態様によれば、シミュレートされた生理環境における分子の挙動を分析するための別の装置が提供される。この装置は、第1の流体を収容する第1区画室と、ゲルマトリックスを収容する第2区画室と、第2の流体を収容する第3区画室とを含む。当該装置は、さらに、少なくとも1つの第1半透膜と少なくとも1つの第2半透膜を含み、当該少なくとも1つの第2半透膜は、少なくとも1つの第1半透膜から離間して配置されている。少なくとも1つの第1半透膜は、第1区画室と第2区画室の間に配置され、少なくとも1つの第2半透膜は、第2区画室と第3区画室の間に配置されている。
【0039】
本発明による装置のこれらの実施形態では、半透膜は、第1支持体および第2支持体なしで装置内に配置される。装置は、少なくとも1つの第1半透膜および少なくとも1つの第2半透膜を、それぞれの区画室の間に保持するホルダを含んでいてもよい。このようなホルダは、例えば、膜を挟み込むまたは取り付けるクランプ手段又は装着手段とすることができる。好ましくは、ホルダは、装置の外部に配置され、装置内に延在せず、特に、いずれの区画室内にも延在しない。これにより、装置の製造、組立ておよび清掃を簡単に行うことができる。さらに、半透膜は、区画室内の流体とゲルマトリックスとの間の唯一のバリアとして機能し、第1支持体および第2支持体の場合のように、付加的な機械的要素は何も存在しない。
【0040】
本発明によるこの装置の一態様によれば、第1区画室、第2区画室および第3区画室は一列に配置され、少なくとも1つの第1半透膜および少なくとも1つの第2半透膜は、それぞれの区画室の間で実質的に垂直に配置されている。このような半透膜の垂直配置では、重力が基本的に膜自体に沿って膜に作用することで、膜の支持体を省略することができる。ゲルマトリックスおよび(それらの密度によっては)流体であっても、膜に対して横並びで配置した場合、半透膜に対する支持効果を有する可能性がある。実質的に垂直な配置においては、半透膜の配置が正確に垂直であってもよい。しかしながら、正確な垂直位置に対して所定の角度で配置してもよい。「実質的に垂直」には、例えば、シミュレートされる眼球の一部または他の組織形態をシミュレートするために、凹形状または凸形状も含まれる。
【0041】
半透膜の実質的に垂直な配置では、区画室が相互に上下に重なって配置される装置の実施形態の場合のように、物質は膜に滞積しないであろう。したがって、例えば、硝子体液などの第1の流体における安定性試験のような長期試験は、半透膜を通した物質の透過性に重力が影響を及ぼさないか或いは限られた影響しか及ぼさないような装置構成において行われることが好ましい。
【0042】
支持体のない装置の実施形態は、ガラス製であることが好ましいが、半透膜と、好ましくは、ホルダは除かれる。
【0043】
本発明によるこのさらなる装置のさらなる態様及び利点は、半透膜の支持体を含む本発明による方法及び装置に関連して既に述べているので、ここでは説明を繰り返さない。特に、さらなる装置には、前述したように成形および構成することができる支持体が設けられていてもよい。支持体を用いることで、ホルダを省略することができる。さらには、少なくとも第1支持体は、眼球または網膜の形状をシミュレートするために凹形状であってもよい。また、半透膜の仕様と実現は、上述したものと同様のものでもよく、例えば、特定のMWCOを採用したり、例えば、単一の半透膜の形態或いは2つ以上の半透膜の配置または組み合わせの形態のように、拡散制御膜を実現することができる。
【0044】
好ましくは、ここに説明する本発明による装置は、物質、好ましくは、製剤のインビトロ試験に使用され、物質、好ましくは、製剤の安定性または生体利用効率に関するデータを測定する。好ましくは、本発明による装置は、ここに説明する本発明による方法を実施するために使用される。
【0045】
本発明を、以下の図面を用いて例示される実施例および実施態様に関して、さらなる説明を行う。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図2】ゲルマトリックスにおけるヒアルロン酸濃度に対するデキストランの拡散速度を示す。
【
図3】ゲルマトリックスにおけるヒアルロン酸濃度に対するデキストランの透過率を示す。
【
図4】時間とともに変動する高分子の拡散に関して、異なる膜の効果を示す。
【
図7】モノクローナル抗体を用いて行った試験結果を示す。
【
図9】本発明による装置の第2の実施形態の概略図を示す。
【0047】
図1には、装置および方法の装備の一実施形態が概略的に示されている。この装備は、眼の幾何学的形状と状況をシミュレートするものであり、眼疾患をシミュレートするインビトロ試験に使用することができる。硝子体液を収容する第1区画室1は、上壁10と、上壁10の一部を覆う第1半透膜4によって形成されている。上壁10には、開口部101を通して第1区画室1を充填するための開口部101が設けられている。開口部101は、カバー6によって、好ましくは、密閉して閉じることもできる。カバー6は、例えば、円錐形の栓、例えば、ガラス栓でもよい。半透膜4は、円の一部、例えば、円の2/3の形状を有する。第1区画室1および第1膜の形状は、眼球および網膜の幾何学的形状をシミュレートする。第1区画室1は、第3区画室3に取り付けられている。これにより、第1膜4は、好ましくは、第3区画室3の上部開口部303および第3区画室3内に完全に挿入される。第3区画室3は、緩衝液を収容するためのものである。凹形状の第2半透膜5が上部開口部303に配置され、第3区画室3の上壁30の一部を覆っている。同様に、第2膜5も円の一部、例えば、円の1/2~2/3の形状を有する。第1膜4および第2膜5は、
図8a~
図8eに関して下記に説明するような区画壁を形成する第1支持体および第2支持体によって、それぞれ支持してもよい。第1区画室1および第3区画室3を取り付けた状態では、2つの半透膜4,5が相互に離間して、第1膜と第2膜の間の間隙に第2区画室2を形成する。間隙の大きさは、例えば、シミュレートされる生理学的系に適合させるために変更することができる。第1膜4および第2膜5は同心円状に配置され、そのため膜の間に、好ましくは、膜の全長にわたって、所定の距離を有する。第1区画室1の上壁10に設けられた入口および出口開口部102を介して、ゲルマトリックスを第2区画室2内に充填したり、第2区画室2から除去したりすることができる。3つの区画室は、例えば、第3区画室の上壁30上に配置され、第2区画室2を形成する間隙の周囲に円周状に配置されるOリングを設けることで密封されてもよい。
【0048】
第3区画室3には、入口開口部32および出口開口部33が設けられている。入口開口部を通して、第3区画室3が緩衝液で充填され、出口開口部を通して、第3区画室3を空にすることができる。入口および出口は、第3区画室3の内容物を清掃および交換するように、第3区画室を通した流体の流れを許容するように設計することが好ましい。第3区画室3を通した連続するまたは不連続な流体の流れを用いて、第2の流体をサンプリングし、後続の試料分析を行うこともできる。
【0049】
第1区画室および第1膜4により、眼球内の物理的および化学的環境だけでなく幾何学的形状がシミュレートされる。ゲルマトリックスおよび第2膜5の組み合わせにより、前部組織または後部組織などの眼球を覆う組織からのバリアがシミュレートされる。物質、例えば、高分子は、第1区画室1の硝子体液中に注入することができる。物質は、第1膜まで移動し、第1膜4および第2区画室2のゲルマトリックスを通過し、さらに第2膜を通過して、第3区画室3の緩衝液へと移動する。第1区画室1の脱着自在のカバー6と、第3区画室の入口及び出口32,33により、分析のために試料を抽出することが可能となる。
【0050】
以下では、
図1で説明した系を用いて行った実施例について説明する。実施例で述べるすべての実験は、無菌状態における層流の条件下で行われた。試料は、異なる時間間隔で、第1区画室1および第3区画室3(またはVH区画室1およびFT区画室3のそれぞれ)から採取した。
【実施例1】
【0051】
ヒアルロン酸ゲルマトリックスの濃度を最適化するため、実施例1を行った。このために、硝子体液(VH)区画室1から(FT)区画室3を通って流れるFITC-デキストラン(40kDa)の拡散速度に対するヒアルロン酸(HA)(分子量1.4×10
6ダルトン)ゲルマトリックス(GM)の異なる濃度の影響を調べた。VH区画室およびFT区画室は、拡散制御バリアとして機能するGM区画室2によって分離された。2つの透析膜4,5を用いて、これら3つの区画室1,2,3を分離した。VH区画室1をGM区画室2から分離する第1透析膜4をDM-1(透析制御膜4)として、GM区画室をFT区画室から分離する第2透析膜をDM-2(透析制御膜5)と名付けた。DM-1およびDM-2の分画分子量(MWCO)は、それぞれ50kDaおよび100kDaであった。FT区画室3を滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)で満たし、GM区画室2を、PBS中で調製した約3mLの異なる濃度の滅菌したHAゲル(0~0.9%w/vの範囲)で満たした。約3.5mLの滅菌したブタVHをVH区画室に添加した。装置を密封し、VHを37℃で一晩コンディショニングした。インキュベーションの最後に、80mg/mLのFITC-デキストラン(40kDa)50μLをVH区画室1に注入した。試験中ずっと装置を密閉し、37℃でインキュベートした。蛍光分光光度計を用いて、励起波長490nmおよび発光波長520nmで、FITC-デキストランの濃度について試料を評価した。
図2はHAの濃度に対する拡散の割合を示し、
図3はHAの濃度に対する見掛けの透過率(P
app)を示す。透過率は、バリアの一方の側から他方の側へ成分を移動させる拡散制御バリア(単一バリア)の特性である。2つ以上の拡散制御バリアを用いる場合、透磁率は見掛けの透過率(Papp(見掛け))またはPeff(有効))として計算される。本実験では、インビトロ拡散データとエクスビボ拡散データの、文献で報告されているインビボ拡散データとの相関関係を容易にするため、Papp(見掛け)が実行されている。例えば、見掛けの透過率は、関係式Papp=Q/[A・t・(Co-Ci)]から計算することができる。ここで、Qは、時間tで面積(A)の膜を通って移動する透過物の量である。CoおよびCiは、それぞれドナー濃度(VH室中の濃度)およびレシーバ濃度(FT区画室中の濃度)である。Pappは、cm/sec、cm/minまたはcm/hrで表すことができる。
【0052】
図2に記載した結果は、HAゲルマトリックスの濃度の増加が、高分子の拡散速度と見掛けの透過率を有意に低下させることを示唆している。もっともらしい説明としては、HA濃度の増加がマトリックスの気孔率を低下させ、および/またはデキストランとマトリックス成分との相互作用を増加させて、FITC-デキストランの拡散が遅くなる可能性があるというものである。これらの結果は、GM濃度を変化させることで、系を横切る高分子の拡散速度を調整することができることを示している。
【実施例2】
【0053】
高分子の拡散に対する透析膜の効果を分析するために、実施例2を行った。
【0054】
VH区画室からFT区画室への流れ方向におけるウシ血清アルブミン(BSA)および免疫グロブリンG(IgG)の拡散を、透析膜のMWCOを変化させることによって調べた。実験は、僅かな変更を加えたうえで、実施例1に記載したものと同様に行った。2つの異なるMWCO透析膜を使用し、DM-1としては、MWCOを50kDaおよび100kDaとする一方、DM-2のMWCOは100kDaで一定に保った。VH区画室を3.5mLの滅菌したブタVHで満たし、GM区画室を約3mLの滅菌したHAゲル(0.6%w/v)で満たした。FT区画室は、滅菌したPBSで満たした。装置を密封し、VHを37℃で一晩コンディショニングした。インキュベーションの最後に、50μLのFITC-BSA(80mg/mL)または200μLのFITC-IgG(20mg/mL)をVH区画室に注入した。試験中ずっと装置を密閉し、37℃でインキュベートした。蛍光分光光度計を用いて、励起波長490nmおよび発光波長520nmで、FITC-BSAおよびFITC-IgGの濃度について試料を評価した。
【0055】
図4では、FT区画室3(図中ではPBS区画室と名付けられている)内の拡散を経時測定した結果が図示されている。ここで、MWCOが100kDaのDM-1およびDM-2を用いたBSAを符号81で示し、MWCOが100kDaのDM-1およびDM-2を用いたIgG(約144kDa)を符号82で示し、MWCOが50kDaのDM-1およびMWCOが100kDaのDM-2を用いたBSAを符号83で示し、MWCOが50kDaのDM-1およびMWCOが100kDaのDM-2を用いたIgGを符号84で示す。
図4に示す結果は、100kDaのMWCOを有するDM-1で観察された拡散(81,82)と比較すると、50kDaのMWCOを有するDM-1(83,84)が、IgGおよびBSAの両方の拡散を有意に抑制したことを示唆している。したがって、透析膜のMWCOを変更することで、高分子の拡散をさらに調整することが可能となる。
【実施例3】
【0056】
異なる高分子(直鎖状および球状)の拡散を観察するために、実施例3を行った。
【0057】
この実験は、僅かな変更を加えたうえで、実施例1に記載したものと同様に行った。50kDaのMWCOを有する透析膜をDM-1として用いて、100kDaのMWCOを有する透析膜をDM-2として用いた。VH区画室を3.5mLの滅菌したブタVHで満たし、GM区画室を約3mLの滅菌したHAゲル(0.6%w/v)で満たした。FT区画室は、約35mLの滅菌したPBSで満たした。装置を密封し、VHを37℃で一晩コンディショニングした。インキュベーションの最後に、80mg/mLのFITC-デキストラン4kDa(符号91参照)、FITC-デキストラン40kDa(符号92参照)、FITC-デキストラン70kDa(符号94参照)、FITC-BSA(符号93参照)を50μL、或いは20mg/mLのFITC-IgG(符号95参照)を200μL、VH区画室内に注入した。試験中ずっと装置を密閉し、37℃でインキュベートした。蛍光分光光度計を用いて、励起波長490nmおよび発光波長520nmで、FITC-デキストランの濃度について試料を評価した。
【0058】
異なる拡散高分子量の経時変化を図示した
図5に示すように、高分子は異なる拡散速度を示した。小さい分子は、大きな分子と比較して、予想通り早い速度で拡散した。直鎖状および球状の高分子についても、同様の現象が観察された。同様に、小さい分子は、
図6に図示した大きい分子に比べて、高いP
appを示した。これは、小さな分子と比較して大きな分子は分子半径が大きいため、GMによって、大きな分子がより大きな抵抗を受け、結果としてP
appが低くなることによるものと考えられる。興味深いことに、FITC-デキストラン(40kDa)およびFITC-BSA(66kDa)は、P
appの値が同様の値を示した。分子半径が略同じである(FITC-デキストランは40kDaで4.5nm、FITC-BSAは3.62nm)ため、P
appが略同じになると考えられる。
【実施例4】
【0059】
この実験では、VH区画室からFT区画室への方向で、GMの存在下または非存在下におけるモノクローナル抗体(mAb1)の拡散を調べた。実験は、僅かな変更を加えたうえで、実施例1に記載したものと同様に行った。ここでも、50kDaのMWCOを有する透析膜をDM-1として用いて、100kDaのMWCOを有する透析膜をDM-2として用いた。VH区画室を3.5mLの滅菌したブタVHで満たし、GM区画室を約3mLの滅菌したHAゲル(0.6%w/v)または滅菌したPBS(マトリックスなし)で満たした。FT区画室は、滅菌したPBSで満たした。装置を密封し、VHを37℃で一晩コンディショニングした。インキュベーションの最後に、33μLのmAb1(120mg/mL)をVH区画室内に注入した。試験中ずっと装置を密閉し、37℃でインキュベートした。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて、mAb1の濃度について試料を評価した。
【0060】
図7には、VH区画室内のmAB1の量の経時変化が図示されている。図示したように、曲線86で示されるようなGMの非存在下で観察された拡散(約87%のmAb1が、120時間でVH区画室から拡散した)と比較すると、mAb1の拡散は、曲線85で示すように、GMの存在下で著しく減少した(約51%のmAb1が、120時間でVH区画室から拡散した)。拡散の減少は、ゲルマトリックスによりもたらされた抵抗に起因すると考えられる。この結果は、ゲルマトリックスの濃度を変化させることによって、VH区画室1内でのタンパク質治療薬の滞留時間を調整することが可能であることを明確に示している。
【0061】
図8a乃至
図8eには、本発明による装置の実施形態とその部品が示されている。
図1と同じ参照番号は、同一または類似の特徴をもつものに使用される。
図8aは、円筒形状を有し、第1区画室1の上壁10の開口部101の大きさに対応する円周を有するカバー6を示す。
図8cに示すような取付状態では、カバーは上壁101と気密シールを形成することが好ましい。硝子体液11などの第1の流体中の高分子7(物質を表す)は、丸印で表す。
図8cでは、既に高分子が、第1区画室1内で第1の流体11(例えば、硝子体液)を通して第1膜4の方向に移動している。第1膜は、第1区画室1の上壁101の一部を形成する第1支持体14上に配置されている。
図8dにおいて、第2膜5は、第2支持体15上に配置されている。第2支持体15は、第3区画室3の上壁30の一部を形成する。第3区画室は円筒形状であるが、基本的には他の任意の形状でもよい。第3区画室は、第2の流体、好ましくは、生理学的に適切な緩衝液31で満たされている。入口および出口33,32は、第3区画室3の側壁34に取り付けられた或いは好ましくは側壁34と一体に形成されたチューブ部分によって形成される。第1支持体14および第2支持体15は、
図8eに示すように、第1区画室および第3区画室を取り付けた状態で等間隔に配置されている。ここで、幾つかの高分子は、第1膜4に移動したものとして示され、幾つかの高分子は、(第1支持体14および第2支持体15によって支持された)第1膜4および第2膜5により形成された第2区画室2内のゲルマトリックス21を部分的に通過したものとして示され、さらに幾つかの高分子は、第2膜5を通って拡散しようとしているものとして示されている。
【0062】
3つの区画室1,2,3は、互いに上下に重なり合って配置される。半透膜4,5は、装置の「水平配置」を形成するそれぞれの区画室の間で、実質的に水平に配置される。
【0063】
装置の膜に隣接する全ての部品は、ガラス製とすることができる。好ましくは、装置は、3つの別体の部品、すなわち、カバー、第1区画室および第3区画室のみからなり、当該別体の部品は、好ましくは、気密に相互に取り付けられる。同様に、
図9に示す装置もガラス製であることが好ましい。
【0064】
図9の装置は、例えば、直方体または円筒形の形状の容器100を備えている。第1半透膜4および第2半透膜5は、容器100の内部を第1区画室1、第2区画室2、および第3区画室3に分割するように、容器内に配置されている。第1半透膜4および第2半透膜5は、容器100内で垂直に、そして容器100の長手方向軸300に直交して配置される。
【0065】
第1区画室1は、第1の流体(例えば、硝子体液)を第1区画室1内に供給するために、容器100の上に配置された第1の入口17を備える。第1区画室1の1つの側壁は、第1半透膜4によって形成される。
【0066】
2つの半透膜4,5は互いに離間して配置され、2つの膜の間に第2区画室2を形成している。膜4,5間の距離は、例えば、シミュレートされる生理学的系に適合させるように変更してもよい。好ましくは、第1膜4および第2膜5は、膜の間で、好ましくは、膜の全長にわたって、所定の距離を有する。第2区画室2は、ゲルマトリックスを第2区画室2内に供給し、第2区画室2からゲルマトリックスを除去するために、容器100の上に配置された第2の入口18を備える。
【0067】
第3区画室3は、入口および出口32,33を含む通流室として形成され、入口および出口32,33は、第3の流体(例えば、緩衝液)を供給したり除去したりするために、
図9において容器100の上に配置されている。しかしながら、入口および出口は、好ましくは、第3区画室の異なる(稠密な)側壁に配置してもよい。第3区画室3の1つの側壁(容器の壁で形成されたものではない)は、第2半透膜5によって形成されている。
【0068】
3つの区画室1,2,3は、相互に近接して並んで配置されている。半透膜4,5は、容器内で垂直に配置され、装置の「垂直配置」を形成している。
【0069】
半透膜4,5は、ホルダ24,25により保持されている。ホルダ24,25は、容器100の外側で、容器100の上部と容器100の底部の下方に配置されている。ホルダ24,25は、容器100の周囲に円周方向に沿って配置してもよい。ホルダは、例えば、クランプとすることができる。
【0070】
容器100自体によって、膜4,5を挟み込むこともできる。例えば、容器100を幾つかの部品、例えば、3つの部品から構成してもよい。半透膜は、部品を相互に取り付けて固定する際に、2つの部品の間で挟み込んで固定してもよい。すると、各部品が基本的に区画室を形成する。このような装置の実施形態を、
図10aおよび
図10bに示す。
図10aは、容器100の個別の3つの部品101,102,103を示し、これらの部品は、第1半透膜4が第1部品101および第2部品102の間で挟み込んで固定され、第2半透膜5が第2部品102および第3部品103の間で挟み込んで固定された状態で、本発明による装置に取り付けることができる。容器の各2つの部品には、2つの部品を相互に保持し、2つの部品の間で液密な接続を達成するためのクランプ手段(図示せず)を設けることもできる。クランプを支持するため、各部品101,102,103には、円周方向に延びるリム1010,1020,1021,1030が設けられている。
図10bに示すように、容器が取り付けられた状態では、各2つのリム1010,1020および1021,1030は、相互に対向配置され、リング部に沿って半透膜を挟み込んでいる。好ましくは、クランプ手段は、各2つのリム部を挟み込んで固定するように設けられる。
【0071】
好ましくは、半透膜4,5は平面膜である。しかしながら、膜の材料次第では、膜を事前に成形し、例えば、凹形状または凸形状として、眼球の一部の幾何学的形状をシミュレートすることもできる。好ましくは、半透膜4,5の形状は、相互に対応する。垂直に配置された膜は、クランプまたは他の保持手段によって容器内に保持されることが好ましいが、第1膜および第2膜4,5を、
図8a乃至
図8eに関して上述したように区画室の壁を形成する第1支持体および第2支持体によりそれぞれ支持されてもよい。ホルダ24,25は、省略してもよい。
【0072】
物質、例えば、高分子を、第1の開口部17を通して、第1区画室1内の第1の流体の中に注入してもよい。物質は四方八方に移動する。重力の影響で、第1区画室の底部へ移行する傾向がある。しかしながら、底部が閉じた容器の壁によって形成されているため、底部を通って第1の流体から物質が拡散することができない。物質が第1半透膜4に移動するときにのみ、第1区画室から、第1膜4を通過して、第2区画室2内のゲルマトリックス内へ、さらに当該ゲルマトリックスを通り、第2膜を通過して、第3区画室3内の緩衝液中へと拡散が起こる。入口17と、第3区画室の入口および出口32,33は、分析目的のために試料の抽出を可能とする。
【0073】
本発明を特定の実施形態に関連して説明した。しかしながら、本発明の範囲から逸脱することなく、さらなる実施形態を実現することができる。例えば、装置の形状及び大きさは、物質を試験する特定の用途に適合させることができる。特に、装置の幾何学的形状を変更することができる。例えば、区画室および膜は、装置が膜によって分離された区画室の積み重ねによって形成されるように、実質的に平坦に配置されてもよい。装置の幾何学的配置は、本発明による方法および装置において使用される材料に影響を及ぼす可能性もある。例えば、平坦な構成では、物質が膜の十分な支持体を提供するので、例えば、場合によっては第1支持体を省略するか或いは小さな縁部に限定することができる。さらに、ゲルマトリックスの流体または半流動物質は、バリアを形成する多孔質体材料と置換することができる。バリア材料内での細胞増殖と組み合わせる際には、例えば、開気孔セラミックまたは開放プラスチック材料が好ましい。さらに別の1つの膜を、同一または異なるMWCOを有する2つ以上の膜と置換することができる。