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特許6993476熱硬化性ポリイミド樹脂およびその製造方法、組成物、プレポリマー、フィルム、接着剤、およびそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-13
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】熱硬化性ポリイミド樹脂およびその製造方法、組成物、プレポリマー、フィルム、接着剤、およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20220105BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220105BHJP
   C08F 283/00 20060101ALI20220105BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220105BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220105BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20220105BHJP
   C09J 179/08 20060101ALI20220105BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C08G73/10
B32B27/34
C08F283/00
C08J5/04 CFG
C08J5/18 CFG
C09J7/00
C09J179/08 Z
H05K1/03 610N
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020128668
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2021113303
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】109115513
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】517239348
【氏名又は名称】晉一化工股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHIN YEE CHEMICAL INDUSTRIES CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】郭 碧濤
【審査官】佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168370(JP,A)
【文献】特開2020-117631(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110437613(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26,
B32B 27/34,
C08F 283/00,
C08J 5/04,
C08J 5/18,
C09J 7/00,
C09J 179/08,
H05K 1/03,
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)に示す化学構造を有する熱硬化性ポリイミド樹脂。
【化1】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化2】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化3】

nは、1~5000の整数である。)
【請求項2】
請求項1の熱硬化性ポリイミド樹脂をその構成要素として含む、ポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムが、プリプレグシート、高周波基板、集積回路キャリアボード、ビルドアップボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、または車両用基板を製造するように構成されている、請求項2のポリイミドフィルム。
【請求項4】
請求項1の熱硬化性ポリイミド樹脂をその構成要素として含む、ポリイミド接着剤。
【請求項5】
前記ポリイミド接着剤が、フィルム、接着シート、カバーフィルム、再分配層、ビルドアップボード、プリプレグシート、高周波基板、集積回路キャリアボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、または車両用基板を製造するように構成されている、請求項4のポリイミド接着剤。
【請求項6】
熱硬化性ポリイミド樹脂の製造方法であって、前記熱硬化性ポリイミド樹脂の化学構造は、式(1)に示すとおりであり、
【化4】

式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化5】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化6】

nは、1~5000の整数である。)
前記熱硬化性ポリイミド樹脂の製造方法は、
極性溶媒と低極性溶媒の混合溶媒中でC36二量体ジアミンとフルオレン二無水物の脱水反応を行い、アミン末端ポリイミド樹脂を含む第1の溶液を得る、手順Aと、
アリルこはく酸無水物を前記第1の溶液に加えて、前記アリルこはく酸無水物と前記アミン末端ポリイミド樹脂の脱水反応を行い、アリル末端ポリイミド樹脂を含む第2の溶液を得る、手順Bと、
前記第2の溶液から未反応物、水溶性物質、および水を除去して、前記アリル末端ポリイミド樹脂を得る、手順Cとを含む、熱硬化性ポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項7】
熱硬化性ポリイミド樹脂組成物であって、
(a)
【化7】

からなる群の少なくとも1つから選択される、フッ素含有マレイミド化合物と、
(b)式(1)で示すその化学構造を有する熱硬化性ポリイミド樹脂とを少なくとも含む、熱硬化性ポリイミド樹脂組成物。
【化8】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化9】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化10】

nは、1~5000の整数である。)
【請求項8】
請求項7の熱硬化性ポリイミド樹脂組成物をその構成要素として含む、ポリイミド接着剤。
【請求項9】
前記ポリイミド接着剤が、フィルム、接着シート、カバーフィルム、再分配層、ビルドアップボード、プリプレグシート、高周波基板、集積回路キャリアボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、または車両用基板を製造するように構成されている、請求項8のポリイミド接着剤。
【請求項10】
(a)フッ素含有マレイミド化合物と(b)熱硬化性ポリイミド樹脂の予備重合反応を行うことによって得られる、熱硬化性ポリイミドプレポリマーであって、
(a)前記フッ素含有マレイミド化合物は、
【化11】

からなる群の少なくとも1つから選択され、
(b)前記熱硬化性ポリイミド樹脂は、式(1)に示す化学構造を有する、熱硬化性ポリイミドプレポリマー。
【化12】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化13】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化14】

nは、1~5000の整数である。)
【請求項11】
請求項10の熱硬化性ポリイミドプレポリマーをその構成要素として含む、ポリイミドフィルム。
【請求項12】
前記ポリイミドフィルムが、プリプレグシート、高周波基板、集積回路キャリアボード、ビルドアップボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、または車両用基板を製造するように構成されている、請求項11のポリイミドフィルム。
【請求項13】
請求項10の熱硬化性ポリイミドプレポリマーをその構成要素として含む、ポリイミド接着剤。
【請求項14】
前記ポリイミド接着剤が、フィルム、接着シート、カバーフィルム、再分配層、ビルドアップボード、プリプレグシート、高周波基板、集積回路(IC)キャリアボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、または車両用基板を製造するように構成されている、請求項13のポリイミド接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱硬化性ポリイミド樹脂およびその製造方法、組成物、ならびにプレポリマーを提供する。組成物は、少なくとも(a)マレイミド化合物および(b)熱硬化性ポリイミド樹脂を含む。本開示は、フィルム、接着シート、カバーフィルム、再分配層、ビルドアップボード、プリプレグシート、高周波基板、集積回路(IC)キャリアボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、車両用基板などを製造するための熱硬化性ポリイミド樹脂およびそのプレポリマーを提供する。
【背景技術】
【0002】
2019年は、モバイル通信業界にとって、5G(1~6GHz/24~29.5GHz)の商業化元年となった。今後モバイル通信は、周波数がギガヘルツ(GHz)時代からテラヘルツ(THz)時代へと移行され、波長がマイクロ波通信技術からミリ波(波長1~10mm/30~300GHz)通信技術に進化する。これは、通信技術が高い伝送速度と低い伝送損失に向けて発展することを示す。また2019年は6G(30GHz~300GHz)の技術革新の元年となった。そのため、絶縁材料としてのポリマーは、低い誘電率(Dk)、低い誘電正接(Df)などの特性を有さなければならない。低Dkおよび低Dfの絶縁材料は、高周波基板、半導体パッケージング、フレキシブルプリント基板、アンテナ、レーダー、モノのインターネット(IоT)電子製品などの分野に適用される。しかし、信号伝送速度はDkと負の相関があり、信号伝送損失はDkおよびDfと正の相関がある。絶縁材料は、1~22GHzの印加電界下では、周波数が増加すると、Dkは徐々に減少し、Dfは徐々に増加する。一方、22~300GHzの印加電界下では、周波数が増加すると、DkとDfは同時に減少する。また、5G通信の商用周波数は1~6GHz/24~29.5GHzであるため、5G通信では絶縁材料のDf値(1~6GHz)がより重要になる。高周波基板の分野では、絶縁材料にポリフェニレンオキサイド(PPO)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が使用されている。しかし、従来のポリイミドは、吸水率が高い、Dk、Dfが高い、加工性が悪いなどの問題があるため、5G通信の絶縁材料として用いられるポリイミドにはまだ改善の余地がある。
【0003】
特許文献1(TW 201433591A)は、ポリイミド樹脂を開示している。キシレンとジメチルアセトアミドの溶媒中でビフェニル二無水物と炭素数36(「C36」と略す)の二量体ジアミンで脱水反応を行い、溶媒可溶性ポリイミド樹脂を合成する。硬化剤としてビフェノールノボラックエポキシ樹脂を使用する。硬化生成物は、Df(1GHz)が0.0031以上のフレキシブル基板半導体パッケージング材料として使用される。
【0004】
特許文献2(JP 2018-168371A)は、ポリイミドとその製造方法を開示している。芳香族無水物とC36二量体ジアミンを用いて、溶剤可溶性ポリイミド樹脂を合成している。架橋剤として4官能エポキシ樹脂を使用する。硬化生成物は、Df(10GHz)が0.0026以上の再配線層として使用される。
【0005】
特許文献3(US H424)は、C36二量体ジアミンのビスマレイミド樹脂の製造方法を開示している。N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドと1-ヒドロキシベンゾトリアゾールを用いて、C36二量体ジアミンのビスマレイミドを合成する。特許文献3は、穏やかな方法(収率38~56%)でビスマレイミドポリジアミンを合成する方法を提供している。
【0006】
特許文献4(US7157587B2)は、適切な二無水物と二量体ジアミンを使用し、トリエチルアミンとメタンスルホン酸を触媒として使用してトルエン溶媒中で還流縮合を行い、アミン末端オリゴマーを得て、これを次いで、過剰の無水マレイン酸と反応させ、沈殿とろ過を使用した精製によって液体のビスマレイミド単量体を得ている。
【0007】
特許文献1と2は、C36二量体ジアミンのポリイミドを使用しており、硬化剤による硬化後のガラス転移温度(動的機械分析(DMA)法)が約50℃未満である。特許文献3のC36二量体ジアミンのビスマレイミド樹脂の製造方法は、低収率であり、硬化後のガラス転移温度(DMA法)が約65℃未満である、そして、特許文献4の液体ビスマレイミド単量体は、トリエチルアミンとメタンスルホン酸触媒が残存しやすく、これは、硬化生成物の吸水と誘電特性に影響し、5G通信のフィルム材料と基板材料の分野に広く適用することができない。したがって、溶媒溶解性と低い吸水率を維持しながら、樹脂の加工性を改善し、Dfを低くし、そしてガラス転移温度を上げる方法は、この業界が解決を望んでいる重要なトピックである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、ポリイミドおよびビスマレイミドの低いガラス転移温度(Tg)、高い吸水率などの従来技術(これは高いTgおよび低い誘電特性を同時に有することができない)の問題を解決することを目的とする。いまだ未解決な問題は、耐溶媒性、成膜性、および加工の利便性にまだ改善の余地があり、ポリイミドとビスマレイミドが、基板材料、フィルム材料などの分野に広く適用できないことである。
【0009】
上記を鑑みると、誘電率(Dk)は、印加電界下での分子セグメントの動きに関連し、誘電正接(Df)は、水分子の極性と小分子の残留量に関連し、Tgは、分子の剛直セグメントと架橋密度に関連し、吸水率は、残留触媒、極性溶媒の痕跡、および極性官能基の自己吸水に関連し、溶解性は、分子配列、分子間力に関連するため、問題を解決するための技術的対策は以下のとおりである。第1に、フルオレン含有セグメントと長脂肪セグメントを導入して、誘電特性を低下させ、溶媒溶解性を向上する。第2に、無水マレイン酸の、より良い熱安定性を有するアリルこはく酸無水物による置換は、高温でのポリイミド分子末端への付加により適している。またポリイミド分子は、自己架橋性であるため、電界下でポリイミド分子の末端セグメントの動きを防ぎ、それによってTgを上げながら硬化後の誘電特性と耐溶媒性を低下させる。第3に、フルオレン含有剛直側基を使用して、ポリイミドのTgを上げる。分子セグメントの動きが凍結すると、ガラス状態のポリイミドの誘電特性が低下することがある。第4に、洗浄プロセスを使用して生成物中の未反応の残留酸と極性溶媒を除去し、それによってポリイミドのDfを低くする。第5に、熱硬化性ポリイミドとフッ素含有マレイミドを用いて共硬化させることによって、硬化生成物のTgが向上する。一方、フッ素の導入は、硬化生成物の誘電特性を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、式(1)に示すその化学構造を有する熱硬化性ポリイミド樹脂を提供する。
【化1】

式中、Pは、脂肪族側鎖を有する炭素数36(「C36」と略す)の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化2】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化3】

nは、1~5000の整数である。)
【0011】
本開示は、熱硬化性ポリイミド樹脂をその構成要素として含むポリイミドフィルムを提供する。
【0012】
本開示は、熱硬化性ポリイミド樹脂をその構成要素として含むポリイミド接着剤を提供する。
【0013】
本開示は、熱硬化性ポリイミド樹脂の製造方法を提供し、熱硬化性ポリイミド樹脂の化学構造は、式(1)に示すとおりである。
【化4】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化5】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化6】

nは、1~5000の整数である。)
熱硬化性ポリイミド樹脂の製造方法は、
極性溶媒と低極性溶媒の混合溶媒中でC36二量体ジアミンとフルオレン二無水物の脱水反応を行い、アミン末端ポリイミド樹脂を含む第1の溶液を得る、手順Aと、
アリルこはく酸無水物を第1の溶液に加えて、アリルこはく酸無水物とアミン末端ポリイミド樹脂の脱水反応を行い、アリル末端ポリイミド樹脂を含む第2の溶液を得る、手順Bと、
第2の溶液から未反応物、水溶性物質、および水を除去して、アリル末端ポリイミド樹脂を得る、手順Cとを含む。
【0014】
本開示は、
(a)
【化7】

からなる群の少なくとも1つから選択されるフッ素含有マレイミド化合物と、
(b)式(1)で示すその化学構造を有する熱硬化性ポリイミド樹脂とを少なくとも含む熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を提供する。
【化8】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化9】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化10】

nは、1~5000の整数である。)
【0015】
本開示は、熱硬化性ポリイミド樹脂組成物をその構成要素として含むポリイミド接着剤を提供する。
【0016】
本開示は、(a)フッ素含有マレイミド化合物と(b)熱硬化性ポリイミド樹脂の予備重合反応を行うことによって得られる熱硬化性ポリイミドプレポリマーを提供し、
(a)フッ素含有マレイミド化合物は、
【化11】

からなる群の少なくとも1つから選択され、
(b)熱硬化性ポリイミド樹脂は、式(1)に示す化学構造を有する、熱硬化性ポリイミドプレポリマー。
【化12】

式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化13】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化14】

nは、1~5000の整数である。)
【0017】
本開示は、熱硬化性ポリイミドプレポリマーをその構成要素として含むポリイミドフィルムを提供する。
【0018】
本開示は、熱硬化性ポリイミドプレポリマーをその構成要素として含むポリイミド接着剤を提供する。
【0019】
本開示は、フィルム、接着シート、カバーフィルム、再分配層、ビルドアップボード、プリプレグシート、高周波基板、集積回路(IC)キャリアボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、または車両用基板を製造するためのポリイミド接着剤を提供する。
【0020】
本開示は、プリプレグシート、高周波基板、ICキャリアボード、ビルドアップボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、車両用基板などを製造するための熱硬化性ポリイミド接着樹脂を提供する。
【発明の効果】
【0021】
特許文献1のポリイミド樹脂では、キシレンとジメチルアセトアミドの溶媒中でビフェニル二無水物とC36二量体ジアミンの脱水反応を行い、溶媒可溶性のポリイミド樹脂を合成している。硬化剤としてビフェノールノボラックエポキシ樹脂を使用している。その分子末端基は、極性無水物である。エポキシ樹脂硬化剤での硬化後に、極性のヒドロキシ基(-OH)を生成すると、その吸水率とDfが高くなる。分子主鎖の剛直なセグメントはビフェニルである。主鎖のビフェニルの剛直なセグメントを増やすとTgを上げることができるが、溶媒溶解性が低下する。これに対して、本開示の熱硬化性ポリイミド樹脂は、溶媒中でイミド化反応を行うための触媒を使用せず、分子末端に自己架橋性のアリル基が付加し、吸水性の極性OH基が硬化後に生成しない。また、分子内への環状フルオレン側鎖の導入によって、Tgが上がり、溶媒溶解性が増大する。フッ素含有ビスマレイミド化合物との共硬化後に高安定環構造が形成されることがあり、これによってTgが200℃を超えて上がり、同時に誘電特性と吸水率を向上することができ、それによって、次世代の高速、高周波基板、半導体パッケージング材料などの要求と業界の期待を満たす。
【発明の詳細な説明】
【0022】
本開示において、「C36」は、炭素数が36であることを示す。
【0023】
本開示の一実施形態は、式(1)に示す化学構造を有する熱硬化性ポリイミド樹脂を提供する。
【化15】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化16】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化17】

nは、1~5000の整数である。)
【0024】
一実施形態では、熱硬化性ポリイミド樹脂は、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素ジアミン、フルオレン二無水物、およびエン含有一無水物を反応させることによって得られる。
【0025】
熱硬化性ポリイミド樹脂分子のC36脂肪セグメントは、溶媒溶解性を増大させ、誘電特性を低下させることがあり、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素ジアミンは、不飽和C18脂肪酸を含む二量体の還元アミノ化後に得られる。
【0026】
一実施形態では、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素ジアミンは、
【化18】

または上記の化合物の組み合わせを含む。
【0027】
一実施形態では、フルオレン二無水物は、
【化19】

、または上記の化合物の組み合わせを含む。
【0028】
一実施形態では、エン含有一無水物は、アリルこはく酸無水物である。一般的には、エン含有一無水物は、例えば、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アリルこはく酸無水物、2-ヘキセニルこはく酸無水物、2-オクチルこはく酸無水物、ノネニルこはく酸無水物、2-メチル2-プロペニルこはく酸無水物、N-デセニルこはく酸無水物、2,7-オクタジエニルこはく酸無水物、ペンタデセニルこはく酸無水物、イソオクタデセニルこはく酸無水物、ドデセニルこはく酸無水物であり、アリルこはく酸無水物は、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、およびイタコン酸無水物よりも良好な安定性を有し、高温のイミド化プロセス中に自己重合しにくいため、イミド化プロセス中に生成するオリゴマーは少なくなる。一方、アリルこはく酸無水物は、水に溶けやすく、これはその後の精製プロセスを容易にし、硬化生成物の誘電特性を間接的に向上する。
【0029】
本開示のさらに別の実施形態は、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素ジアミン、フルオレン二無水物、およびエン含有一無水物を反応させることによって得られる、熱硬化性ポリイミド樹脂を提供する。
脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素ジアミンのモル数と、フルオレン二無水物のモル数と、エン含有一無水物のモル数の比は、1.00:0.99~0.50:0.002~1.00である。
【0030】
本開示の別の実施形態は、式(1)に示すその化学構造を有する熱硬化性ポリイミド樹脂の製造方法を提供する。
【化20】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化21】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化22】

nは、1~5000の整数である。)
熱硬化性ポリイミド樹脂の製造方法は、
極性溶媒と低極性溶媒の混合溶媒中でC36二量体ジアミン(上記「脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素ジアミン」と等しい)とフルオレン二無水物の脱水反応を行い、アミン末端ポリイミド樹脂を含む第1の溶液を得る、手順Aと、
アリルこはく酸無水物を第1の溶液に加えて、アリルこはく酸無水物とアミン末端ポリイミド樹脂の脱水反応を行い、アリル末端ポリイミド樹脂を含む第2の溶液を得る、手順Bと、
第2の溶液から未反応物、水溶性物質、および水を除去して、アリル末端ポリイミド樹脂を得る、手順Cとを含む。
【0031】
一実施形態では、手順Aは、触媒を添加することなく、極性溶媒と低極性溶媒の混合溶媒中で、30℃~180℃で、C36二量体ジアミンおよびフルオレン二無水物の脱水アミド化反応を行い、アミン末端ポリイミド樹脂を含む第1の溶液を得ることである。低極性溶媒としては、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。極性溶媒としては、メチルイソプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、1,1,3-トリメチルシクロヘキセノン、2,6-ジメチル-2,5-ヘプタジエン-4-オン、2-ペンタノン、3-メチル-2-ペンタノン、2-メチル-3-ペンタノン、3-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
一実施形態では、手順Bは、アリルこはく酸無水物を第1の溶液に添加して、アリルこはく酸無水物およびアミン末端ポリイミド樹脂の脱水反応を行い、アリル末端ポリイミド樹脂を含む第2の溶液を得ることであり、脱水反応は、極性溶媒と低極性溶媒の混合溶媒中で、30℃~180℃で脱水アミド化反応を行い、アリル末端ポリイミド樹脂を含む第2の溶液を得ることである。
【0033】
一実施形態では、手順Cは、アリル末端ポリイミド樹脂を含む第2の溶液を水で洗浄し、静置後に水層を分離し、未反応物および水溶性物質を除去する、手順C1と、低極性溶媒を添加し、加熱還流によって第2の溶液中の水分を除去して、アリル末端ポリイミド樹脂を得る、手順C2を含む。
【0034】
別の実施形態では、C1手順は、例えば、アリル末端ポリイミド樹脂を含む第2の溶液を、純水、脱イオン水、蒸留水などの低イオン含有水で30℃~80℃で洗浄すること、30分間の撹拌と静置後に、水層を分離および廃棄すること、および3~6回繰り返し洗浄して、未反応物と水溶性極性溶媒を除去し、アリル末端ポリイミド樹脂を得ることである。このようにして、硬化後のアリル末端ポリイミド樹脂中の残留水分子と小さい極性分子が、硬化生成物の誘電損失に影響を与えることを防ぐことができる。さらに、C2手順は、例えば、トルエン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、または100℃~130℃の沸点を有するその他の溶媒を追加し、還流下で90℃~130℃まで加熱して、第2の溶液中の水を共沸除去して、アリル末端ポリイミド樹脂を得る。
【0035】
具体的には、一実施形態では、熱硬化性ポリイミド樹脂の反応は、以下のとおりである。
【化23】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化24】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化25】

nは、1~5000の整数である。)
【0036】
本開示の別の実施形態は、
(a)
【化26】

からなる群の少なくとも1つから選択されるフッ素含有マレイミド化合物と、
(b)式(1)で示すその化学構造を有する熱硬化性ポリイミド樹脂と、を少なくとも含む熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を提供する。
【化27】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化28】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化29】

nは、1~5000の整数である。)
【0037】
本開示の別の実施形態は、少なくとも(a)フッ素含有マレイミド化合物と(b)熱硬化性ポリイミド樹脂を含む、熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を提供し、熱硬化性ポリイミド樹脂は、アリルポリイミド樹脂であり、これは「エン反応」を用いてフッ素含有マレイミド化合物で鎖延長し、次いでフッ素含有マレイミド化合物と反応させて高安定環構造を形成し、架橋効果を達成し、それによって耐熱性とTgを大幅に向上することができる。アリルポリイミド樹脂とフッ素含有マレイミド化合物の環化反応を以下に示す。
【化30】
【0038】
一実施形態では、(a)フッ素含有マレイミド化合物は、
【化31】

【化32】

、または上記の化合物の組み合わせを含み得る。フッ素含有マレイミドは一般に、フッ素原子の体積が大きいため、熱硬化性ポリイミド樹脂との共硬化後のTgの上昇が少ないことは注目に値する。しかしながら、フッ素含有ビスマレイミドおよびジフェニル構造を含むフッ素含有トリマレイミドのTgは、熱硬化性ポリイミド樹脂との共硬化後に、より顕著に増加する。
【0039】
本開示の別の実施形態は、熱重合開始剤の有無にかかわらず硬化可能な熱硬化性ポリイミド樹脂および熱硬化性ポリイミド樹脂組成物を提供する。熱重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2-イソプロピル)ブチロニトリル、アゾビスイソヘプタノニトリル、過酸化ジベンゾイル、過酸化アセトニトリル、ペルオキシドジエチルオキシヒドロキシド、ペルオキシド(2,4-ジクロロベンゾイルアミド)、ペルオキシド(2-ジメチルベンゾイルアミド)、過酸化ドデシル、ジイソプロピルジカーボネート、ビスペルオキシド(3,5,5-トリメチルヘキシルアミド)、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジシクロヘキシルプロピルペルオキシドジカーボネート、ジシクロヘキシルペルオキシドジカーボネート、ビス(tert-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ビス(2-フェニルエトキシ)ペルオキシジカーボネート、ジヘキサデシルペルオキシジカーボネート、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルオキシアセテート、ペルオキシ酢酸、tert-ブチルペルオキシピバレート、tert-ヘキシルペルバレレート、クメンペルオキシネオデカノエート、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルヒドロペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルオキシピバレート、クメンヒドロペルオキシド、p-モンタン過酸化水素、ジペルオキシドtert-ブチル、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、または上記の化合物の組み合わせが挙げられる。
【0040】
本開示の一実施形態は、熱硬化性ポリイミド樹脂組成物の予備重合反応を行うことによって得られる熱硬化性ポリイミドプレポリマーを提供する。
【0041】
本開示の別の実施形態は、(a)フッ素含有マレイミド化合物および(b)熱硬化性ポリイミド樹脂の予備重合反応を行うことによって得られる熱硬化性ポリイミドプレポリマーを提供し、
(a)フッ素含有マレイミド化合物は、
【化33】

からなる群の少なくとも1つから選択され、
(b)熱硬化性ポリイミド樹脂は、式(1)に示す化学構造を有する、熱硬化性ポリイミドプレポリマー。
【化34】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、
XとYは、
【化35】

R1とR2は、H、F、またはCHであり、
R3は、
【化36】

nは、1~5000の整数である。)
【0042】
一実施形態では、熱硬化性ポリイミドプレポリマーは、溶媒の存在下でフッ素含有マレイミド化合物と熱硬化性ポリイミド樹脂を反応させることによって得られる。また、熱重合開始剤の存在下または非存在下で反応を行ってもよい。予備重合反応は60℃~100℃で行われ、予備重合反応は2~24時間行われる。溶媒としては、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、1,1,3-トリメチルシクロヘキセノン、2,6-ジメチル-2,5-ヘプタジエン-4-オン、2-ペンタノン、3-メチル2-ペンタノン、2-メチル-3-ペンタノン、3-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、または上記の溶媒の組み合わせが挙げられる。
【0043】
本開示の一実施形態は、熱硬化性ポリイミド樹脂をその構成要素として含むポリイミド接着剤を提供する。
【0044】
本開示の別の実施形態は、熱硬化性ポリイミド樹脂組成物をその構成要素として含むポリイミド接着剤を提供する。
【0045】
本開示のさらに別の実施形態は、熱硬化性ポリイミドプレポリマーをその構成要素として含むポリイミド接着剤を提供する。
【0046】
本開示の一実施形態は、熱硬化性ポリイミド樹脂をその構成要素として含むポリイミドフィルムを提供する。
【0047】
本開示の別の実施形態は、熱硬化性ポリイミドプレポリマーをその構成要素として含むポリイミドフィルムを提供する。
【0048】
一実施形態では、熱硬化性ポリイミド樹脂または熱硬化性ポリイミドプレポリマーによって調製された接着剤を、ステンレス鋼プレート、ガラスプレート、銅箔、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、またはポリイミド(PI)フィルム上にコーティングして、乾燥または硬化によってフィルムを形成してもよい。さらに、無機フィラーまたは有機フィラーを接着剤に追加してもよく、無機フィラーと有機フィラーとしては、窒化ホウ素、シリコーン、中空シリカ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)粉末などが挙げられる。
【0049】
一実施形態では、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂組成物、および熱硬化性ポリイミドプレポリマーから接着剤を製造することができる。ガラス繊維クロスを含浸し、乾燥させてプリプレグシートを得て、次いで銅箔と共にプレスして基板を得る。
【0050】
本開示の一実施形態は、フィルム、接着シート、カバーフィルム、再分配層、ビルドアップボード、プリプレグシート、高周波基板、ICキャリアボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、または車両用基板を製造するためのポリイミド接着剤を提供する。
【0051】
本開示の一実施形態は、プリプレグシート、高周波基板、ICキャリアボード、ビルドアップボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、車両用基板などを製造するための熱硬化性ポリイミド接着剤を提供する。
【0052】
以下、実施例を参照して本開示を詳細に説明する。以下の例は、開示を説明するために提供する。本開示の範囲は、以下に記載される範囲ならびにその置換および変更を含み、実施例の範囲に限定されない。
【実施例
【0053】
実施例1
55.9g(0.100モル)のC36二量体ジアミン(製品名:PRIAMINE1074 Dimer Diamine、Croda社製)と、44.9g(0.098モル)の9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物(JFEケミカル社製)と、80gのN-メチル-2-ピロリドンと、120gのキシレンを、機械的撹拌、凝縮管、乾燥管、蒸留受器、および窒素を備える4つ口反応フラスコに入れる。その反応温度を20℃~30℃で1時間、100℃~120℃で1時間制御する。150℃~160℃に加熱して水分を共沸除去した後、その溶液を3時間反応させる。次に、100℃以下に冷却した後、0.56g(0.004モル)のアリルこはく酸無水物(東京化学工業社製)を加える。残留水分を150℃~160℃に加熱することで共沸除去する。その溶液を2時間反応させ、温度を50℃まで下げ、200gの純水を加え、50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。次に、200gの純水を加え、その溶液を50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。洗浄を3回繰り返す。50gのトルエンを加え、その溶液を還流下で90℃~120℃に加熱し、樹脂溶液中の水分を共沸除去する。冷却後、その溶液の固形分をトルエンで30%に調整し、熱硬化性ポリイミド樹脂溶液PI-FDAを得る。その酸価および分子量を測定する。実施例1~5および比較例1では、酸価の測定方法において、滴定として0.02NのKOHを用い、測定試料を滴定する指示薬としてメチルレッドを用いる(単位はKOHmg/g)。分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定する。
【化37】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、nは、1~5000の整数である。)
実施例2
【0054】
55.9g(0.100モル)のC36二量体ジアミン(製品名:PRIAMINE1074 Dimer Diamine、Croda社製)と、68.3g(0.098モル)のN,N’-[4,4’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(4,1-フェニレン)]ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキサミド)(Shifeng Technology社製)と、80gのN-メチル-2-ピロリドンと、120gのキシレンを、機械的撹拌、凝縮管、乾燥管、蒸留受器、および窒素を備える4つ口反応フラスコに入れる。その反応温度を20℃~30℃で1時間、100℃~120℃で1時間制御する。140℃~160℃に加熱して水分を共沸除去した後、その溶液を3時間反応させる。次に、100℃以下に冷却した後、0.56g(0.004モル)のアリルこはく酸無水物(東京化学工業社製)を加える。残留水分を140℃~160℃に加熱することで共沸除去する。その溶液を2時間反応させ、温度を50℃まで下げ、200gの純水を加え、50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。次に、200gの純水を加え、その溶液を50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。洗浄を3回繰り返す。50gのトルエンを加え、その溶液を還流下で90℃~120℃に加熱し、樹脂溶液中の水分を共沸除去し、100℃~120℃に加熱して、脱水する。冷却後、その溶液の固形分をトルエンで30%に調整し、熱硬化性ポリイミド樹脂溶液PI-ATAを得る。その酸価を測定し、その分子量をGPCによって測定する。
【化38】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、nは、1~5000の整数である。)
実施例3
【0055】
55.9g(0.100モル)のC36二量体ジアミン(製品名:PRIAMINE1074 Dimer Diamine、Croda社製)と、63.0g(0.098モル)の9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物(JFEケミカル社製)と、80gのN-メチル-2-ピロリドンと、120gのキシレンを、機械的撹拌、凝縮管、乾燥管、蒸留受器、および窒素を備える4つ口反応フラスコに入れる。その反応温度を20℃~30℃で1時間、100℃~120℃で1時間制御する。140℃~160℃に加熱して水分を共沸除去した後、その溶液を3時間反応させる。次に、100℃以下に冷却した後、0.56g(0.004モル)のアリルこはく酸無水物(東京化学工業社製)を加える。残留水分を140℃~160℃に加熱することで共沸除去する。その溶液を2時間反応させ、温度を50℃まで下げ、200gの純水を加え、50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。次に、200gの純水を加え、その溶液を50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。洗浄を3回繰り返す。50gのトルエンを加え、その溶液を還流下で90℃~120℃に加熱し、樹脂溶液中の水分を共沸除去し、100℃~120℃に加熱して、脱水する。冷却後、その溶液の固形分をトルエンで30%に調整し、熱硬化性ポリイミド樹脂溶液PI-PAを得る。その酸価を測定し、その分子量をGPCによって測定する。
【化39】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、nは、1~5000の整数である。)
実施例4
【0056】
55.9g(0.100モル)のC36二量体ジアミン(製品名:PRIAMINE1074 Dimer Diamine、Croda社製)と、63.0g(0.098モル)の9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェニル)フェノキシ]フルオレン二無水物(Shifeng Technology社製)と、80gのN-メチル-2-ピロリドンと、120gのキシレンを、機械的撹拌、凝縮管、乾燥管、蒸留受器、および窒素を備える4つ口反応フラスコに入れる。その反応温度を20℃~30℃で1時間、100℃~120℃で1時間制御する。140℃~160℃に加熱して水分を共沸除去した後、その溶液を3時間反応させる。次に、100℃以下に冷却した後、0.56g(0.004モル)のアリルこはく酸無水物(東京化学工業社製)を加える。残留水分を140℃~160℃に加熱することで共沸除去する。その溶液を2時間反応させ、温度を50℃まで下げ、200gの純水を加え、50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。次に、200gの純水を加え、その溶液を50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。洗浄を3回繰り返す。50gのトルエンを加え、その溶液を還流下で90℃~120℃に加熱し、樹脂溶液中の水分を共沸除去し、100℃~120℃に加熱して、脱水する。冷却後、その溶液の固形分をトルエンで30%に調整し、熱硬化性ポリイミド樹脂PI-2溶液PI-EAを得る。その酸価を測定し、その分子量をGPCによって測定する。
【化40】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、nは、1~5000の整数である。)
実施例5
【0057】
55.9g(0.100モル)のC36二量体ジアミン(製品名:PRIAMINE1074 Dimer Diamine、Croda社製)と、70.8g(0.098モル)の9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)トリル]フルオレン二無水物(Shifeng Technology社製)と、80gのN-メチル-2-ピロリドンと、120gのキシレンを、機械的撹拌、凝縮管、乾燥管、蒸留受器、および窒素を備える4つ口反応フラスコに入れる。その反応温度を20℃~30℃で1時間、100℃~120℃で1時間制御する。140℃~160℃に加熱して水分を共沸除去した後、その溶液を3時間反応させる。次に、100℃以下に冷却した後、0.56g(0.004モル)のアリルこはく酸無水物(東京化学工業社製)を加える。残留水分を140℃~160℃に加熱することで共沸除去する。その溶液を2時間反応させ、温度を50℃まで下げ、200gの純水を加え、50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。次に、200gの純水を加え、その溶液を50℃で30分間撹拌した後、放置して水層を分離する。洗浄を3回繰り返す。50gのトルエンを加え、その溶液を還流下で90℃~120℃に加熱し、樹脂溶液中の水分を共沸除去し、100℃~120℃に加熱して、脱水する。冷却後、その溶液の固形分をトルエンで30%に調整し、熱硬化性ポリイミド樹脂溶液PI-MEAを得る。その酸価を測定し、その分子量をGPCによって測定する。
【化41】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、nは、1~5000の整数である。)
比較例1
【0058】
54.8g(0.098モル)の脂肪アミン二量体と、29.4g(0.10モル)のビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、20gのジメチルアセトアミドと、200gのジイソブチルケトンを、機械的撹拌、凝縮管、乾燥管、蒸留受器、および窒素を備える4つ口反応フラスコに入れる。その反応温度を20℃~30℃で1時間制御する。125℃~135℃に加熱して水分を共沸除去した後、その溶液を3時間反応させる。残留水分を160℃~180℃に加熱することで共沸除去する。その温度を100℃まで下げる。その溶液の固形分をトルエンで30%に調整し、熱硬化性ポリイミド樹脂PI-BP溶液を得る。その酸価を測定し、その分子量をGPCによって測定する。
【化42】

(式中、Pは、脂肪族側鎖を有するC36の二価の炭化水素基であり、nは、1~5000の整数である。)
【0059】
【表1】

Mwは、重量平均分子量であり、Mnは、数平均分子量である。
実施例6~10
【0060】
樹脂PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAのそれぞれの溶液100gを順次混合し、0.05gのジクミルペルオキシドを加えてよく混合した後に接着剤を作製する。その溶液を120℃で2時間、160℃で2時間、180℃で2時間、および200℃で2時間乾燥し、最後に250℃で2時間焼成して膜厚1.0mmの硬化生成物を製造する。そのTg、弾性率、熱分解温度、誘電率(Dk)、および誘電正接(Df)を測定する。その接着剤を耐熱ガラス板上にコーティングし、120℃で2時間、160℃で2時間、180℃で2時間、および200℃で2時間乾燥し、最後に250℃で3時間焼成して膜厚0.2mmの硬化生成物を得る。その耐溶媒性、成膜性、および吸水率を測定し、そのデータを表2に示す。
比較例2
【0061】
比較例1のPI-BP樹脂の溶液100gを120℃で2時間、160℃で2時間、180℃で2時間、および200℃で2時間乾燥し、最後に250℃で3時間焼成して膜厚1.0mmの硬化生成物を形成する。そのTg、弾性率、熱分解温度、Dk、およびDfを測定する。その接着剤を耐熱ガラス板上にコーティングし、120℃で2時間、160℃で2時間、180℃で2時間、および200℃で2時間乾燥し、最後に250℃で3時間焼成して膜厚0.2mmの硬化生成物を得る。その耐溶媒性、成膜性、および吸水率を測定し、そのデータを表2に示す。
比較例3
【0062】
30gの市販のC36ジアミン二量体ビスマレイミド(製品名:BMI-689、Designer Molecules社製)を70gのトルエンと0.05gのジクミルペルオキシドに加え、十分に混合した後に接着剤を製造する。その溶液を120℃で2時間、160℃で2時間、180℃で2時間、および200℃で2時間乾燥し、最後に250℃で2時間焼成して膜厚1.0mmの硬化生成物を製造する。そのTg、弾性率、熱分解温度(Td)、Dk、およびDfを測定する。その接着剤を耐熱ガラス板上にコーティングし、120℃で2時間、160℃で2時間、180℃で2時間、および200℃で2時間乾燥し、最後に250℃で3時間焼成して膜厚0.2mmの硬化生成物を得る。その耐溶媒性、成膜性、および吸水率を測定し、そのデータを表2に示す。
【0063】
【表2】

実施例11~15
【0064】
樹脂PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAのそれぞれの100重量部を順に取り、10重量部のフッ素含有マレイミド化合物と、30重量部のジイソブチルケトンと、0.03重量部のジクミルペルオキシドを、機械的撹拌、凝縮管、乾燥管、蒸留受器、および窒素を備える4つ口反応フラスコに入れる。反応温度を80℃~90℃で3時間制御し、プレポリマーを調製する。2116ガラス繊維クロスに接着剤を含浸させ、175℃で2~15分間乾燥させて、半硬化状態の半硬化シートを作成する。次に、4枚の半硬化シートの上下面のそれぞれに0.5オンスの銅箔片を積層し、次いでこれを230℃まで昇温速度1℃~3℃/分、この温度で圧力8~15kg/cmの条件下で、180分間熱プレスし、基板を得る。そのTg、弾性率、Dk、Df、および剥離強度を測定し、そのデータを表3に示す。
【0065】
表3のフッ素含有マレイミド化合物は次のとおりである。
【化43】

比較例4
【0066】
8.0重量部のN,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)および0.03重量部のトリフェニルホスフィン(TPP)を100重量部のPI-BP樹脂に加え、十分に混合した後に接着剤を調製する。2116ガラス繊維クロスに接着剤を含浸させ、175℃で2~15分間乾燥させて、半硬化状態の半硬化シートを作成する。次に、4枚の半硬化シートの上下面のそれぞれに0.5オンスの銅箔片を積層し、次いでこれを230℃まで昇温速度1℃~3℃/分、この温度で圧力8~15kg/cmの条件下で、180分間熱プレスし、基板を得る。そのTg、Dk、Df、剥離強度、弾性率を測定し、そのデータを表3に示す。
【0067】
【表3】

表2および表3の評価方法:
【0068】
Tg:TA Instruments社製の動的機械的分析装置(DMA)によって、℃の単位で最大ピーク温度を測定する。
【0069】
弾性率:TA Instruments社製DMAによってGPaの単位で測定する。
【0070】
Td:TA Instruments社製のQ500熱重量分析装置(TGA)で測定し、5%熱重量損失の熱分解温度を℃の単位で表す。
【0071】
Dk:Agilent Technologies社製の共振キャビティによって、周波数5GHz/5GHzで測定する。
【0072】
Df:Agilent Technologies社製の共振キャビティによって、周波数5GHz/5GHzで測定する。
【0073】
吸水率:IPC-TM-650 2.6.2.1法に従い、50.8mm×50.8mmのフィルムを120℃で1時間乾燥した後、23℃で蒸留水中に24時間浸漬する。表面水分を拭き取って、パーセンテージとして表されるフィルムの重量増加を測定する。
【0074】
剥離強度:銅箔層と積層体板の接着性。幅1/8インチの銅箔を板表面から垂直に剥がすのに要する力(単位kg/cm)。
【0075】
成膜性:接着剤をガラス板に塗布し、乾燥および硬化した後、その外観を検査する。
○:表面が平らであることを示す。
△:表面が粗く、そして平坦でないことを示す。
×:フィルムがひび割れていることを示す。
【0076】
耐溶媒性:フィルムをメチルエチルケトン(MEK)に1時間浸漬した後、その外観を検査する。
○:変化がないことを示す。
△:膨張があることを示す。
×:ひび割れと溶出があることを示す。
【0077】
表2から、硬化後の実施例1~5の熱硬化性ポリイミド樹脂PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAのDfが、0.0026未満であり、これがPI-BPのDf(0.0033)およびBMI-689のDf(0.0036)よりも良好であることが分かる。また、実施例1~5の熱硬化性ポリイミド樹脂PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAのTgが、144℃を超えており、これはPI-BPのTg(46℃)およびBMI-689のTg(61℃)よりも良好である。実施例1~5の熱硬化性ポリイミド樹脂PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAの吸水率が、0.32%未満であり、これはPI-BPの吸水率(0.37%)、BMI-689の吸水率(0.39%)よりも良好である。さらに、硬化後の実施例1~5の熱硬化性ポリイミド樹脂PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAのTdは、419℃を超えており、これはBMI-689のTd(411℃)よりも高い。また、硬化後の実施例1~5の熱硬化性ポリイミド樹脂PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAの弾性率は、1.05を超えており、これはPI-BPの弾性率(0.42)、およびBMI-689の弾性率(0.70)よりも高い。また、実施例1~5の熱硬化性ポリイミド樹脂PI-BP、PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAは、PI-BPよりも耐溶媒性が良く、BMI-689よりも成膜性が良い。したがって、本開示の熱硬化性ポリイミド樹脂は、従来技術のPI-BPおよびBMI-689よりも低いDf、高いTg、高い吸水率、良好な耐溶媒性、および良好な成膜性を有し、そのため良好な性能を有する。
【0078】
表3から、硬化後の実施例1~5の熱硬化性ポリイミド樹脂PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAを含む熱硬化性樹脂組成物から製造されたプレポリマーのDfは、0.0025未満であり、PI-BPのDf(0.0038)よりも良好であることが分かる。さらに、実施例1~5の熱硬化性ポリイミド樹脂PI-FDA、PI-ATA、PI-PA、PI-EA、およびPI-MEAを含む熱硬化性樹脂組成物から製造されたプレポリマーのTgは、207℃を超えており、これはPI-BPのTg(92℃)よりも良好である。したがって、本開示の熱硬化性樹脂組成物およびプレポリマーは、従来技術のPI-BPよりも低いDfおよび高いTgを有するため。より良好な性能を有する。
【0079】
まとめると、本開示の熱硬化性ポリイミド樹脂は、低いDf、高いTg、高い吸水率、優れた耐溶媒性、および優れた成膜性を有し、さらに、本開示の熱硬化性樹脂組成物およびプレポリマーは、低いDfおよびTgを有するため、良好な性能を有する。したがって、本開示は、低いDf、および高いTgを有する次世代の低誘電絶縁材料の要求を満たすことができる。
【0080】
本開示は、上記の特定の実施形態および比較例に関連して記載されている。本開示が属する当業者は、本開示の範囲を限定することなく、上記の説明に基づいて様々な変更を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示は、フィルム、接着シート、カバーフィルム、再分配層、ビルドアップボード、プリプレグシート、高周波基板、集積回路(IC)キャリアボード、銅箔用接着剤、半導体パッケージング材料、レドーム、サーバー用基板、基地局用基板、車両用基板などを製造するための熱硬化性ポリイミド樹脂およびそのプレポリマーを提供する。