(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】ラジアル磁気軸受のステータコア
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20220105BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20220105BHJP
H02K 7/09 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D19/04 G
H02K7/09
(21)【出願番号】P 2020185430
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2021-01-07
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320010321
【氏名又は名称】Rotorise合同会社
(72)【発明者】
【氏名】李 黎川
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-013761(JP,A)
【文献】特開2000-283161(JP,A)
【文献】特開2001-157418(JP,A)
【文献】国際公開第2015/019463(WO,A1)
【文献】特開平11-266564(JP,A)
【文献】特開2001-271836(JP,A)
【文献】特開2010-121713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/04
F04D 19/04
H02K 7/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーク部及び複数の歯部からなるラジアル磁気軸受のステータコアであって、
構造的には、積層されていない塊状軟磁性材料で形成された1つの機械部品であることと、
幾何学的には、管状のヨーク部と複数の歯部との結合体であ
ることと、前記ヨーク部の軸方向寸法が前記歯部の軸方向寸法より大きいことと、全ての前記歯部
が前記ヨーク部の内周面または外周面のいずれかにあることと、
全ての前記歯部が前記ヨーク部において同じ軸方向位置にあることと、
前記ステータコアを使用するラジアル磁気軸受の、制御部を除く全ての部品、及び、モータのステータコア、が前記ヨーク部に取り付けられていることと、
を特徴とするラジアル磁気軸受のステータコア。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気軸受装置を使用したターボ分子ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気軸受装置に関するものであり、特に、ターボ分子ポンプに用いられるラジアル磁気軸受のステータコアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気軸受には、いくつかのユニークな利点がある。その1つは、潤滑油が不要なことである。ターボ分子ポンプの軸受は真空環境で作動しており、潤滑油が容易に蒸発するため、磁気軸受はターボ分子ポンプに特に有利である。実際、多くのターボ分子ポンプのメーカーは、従来採用した玉軸受を磁気軸受に置き換えようとしている。現状では、中・大型ターボ分子ポンプへの磁気軸受の適用は既にできている。しかし、小型のターボ分子ポンプへの適用にはまだ課題が残っている。
【0003】
図1はターボ分子ポンプの磁気軸受の一般的な構造である。この構造は、特許文献1など多くの文献に開示されている。
図1のように、ステータコア11とロータコア21とを備えた第1ラジアル磁気軸受、ステータコア12とロータコア22とを備えた第2ラジアル磁気軸受、及び一対のステータコア13とスラストディスク23とを備えたアキシャル磁気軸受がある。スラストディスク23は、ロータコアの特殊な形式である。全てのステータコア11、12、13はハウジング10に取り付けられている。ハウジング10とその上に取り付けられたもの全体をステータ1と呼ぶ。全てのロータコア21、22、23はシャフト20に取り付けられている。また、インペラ(図示せず)は、シャフト20の上端に取り付けられている。シャフト20とその上に取り付けられたもの全体をロータ2と呼ぶ。
図1が示す構造は、ロータ2がステータ1の内周面にあるため、インナーロータ型と呼ぶ。
【0004】
ロータがステータの外周面にあるような磁気軸受、即ちアウターロータ型磁気軸受もある。特許文献2では、ターボ分子ポンプ用のアウタロータ磁気軸受が開示されている。
図2にその構造を示す。インナーロータ型磁気軸受と同様に、ステータコア11とロータコア21とを備えた第1ラジアル磁気軸受、ステータコア12とロータコア22とを備えた第2ラジアル磁気軸受、及びステータコア13とスラストディスク23とを備えたアキシャル磁気軸受がある。また、ハウジング10とシャフト20もある。シャフト20の外周面にインペラ(図示せず)が取り付けられている。ハウジングの本質的な機能は、カバーではなく、取り付けられた部品に対して機械的な支持を与えることである。そのため、
図2には、ハウジング10は、前記ステータコアを囲んでいないが、依然としてハウジングと呼ばれる。同様に、シャフト20は、一般的なシャフトとは形状が異なるが、ロータのバックボーンであるため、シャフトと呼ばれる。
【0005】
ステータコア11、12とロータコア21、22は共に磁束の導体として機能し、磁束をステータコア11、12とロータコア21、22との間の狭い隙間を通過するように誘導する。磁束が前記隙間を通過すると、前記隙間では互いに引き付け合う磁力が発生し、一方がステータコア11、12に、他方がロータコア21、22に作用する。磁束が、ステータコア11、12に固定されたコイル15によって生成されている。さらに、コイル15は、磁力を制御できるようにパワーアンプ(図示せず)に接続されている。そのため、
図1または
図2の構造は、ロータ2に対して制御可能な磁力を加えることによって、ロータ2を非接触で支持することがである。
【0006】
本発明は、ラジアル磁気軸受のステータコアに関するものであるため、従来技術のステータコアについてさらに詳細に説明する。一般的に、ラジアル磁気軸受のステータコアは積層軟磁性材料、例えば積層珪素鋼板、によって形成されている。積層軟磁性材料を用いるため、先に特殊な技術でステータコアを製作し、後に、組み立て段階で、前記ステータコアをハウジングに締り嵌めにより取り付ける。前記ハウジングの機能は、前記ステータコア(積層構造)と他のステータ部品を所定の位置に保持するための機械的な支持を与えることである。通常、ハウジングは磁気的な機能を持たず、アルミニウムで作られる。このような積層ステータコアとハウジングからなる構成は、数十年前から広く採用されている。
図1及び
図2が示すようなターボ分子ポンプの磁気軸受に限らず、積層ステータコアを用いる全ての磁気軸受は、この構成を採用することになる。特許文献3には、このような構成の一例が開示されている。
【0007】
積層ステータコア自体は、同一形状の軟磁性材料を積層することにより形成される。なお、形状は特に規格化されていないが、多くの場合、
図3(インナーロータ型の場合)または
図4(アウターロータ型の場合)に近しい形状が用いられる。
図3と
図4が示す通り、積層ステータコアは、ヨーク部30と複数の歯部31からなる。ヨーク部30は、全ての歯部31を連結する円環状の部分である。複数の歯部31を連結するのは、ヨーク部30の構造上の機能である。ヨーク部30の主な機能は、歯部31間の磁路となることである。歯部31はロータコアと狭い隙間を形成する部分であり、通電コイル15によって起磁力を発生する場所でもある。積層ステータコアは、必ずしも4つの歯部31を有する必要はなく、4つ、6つ、8つ、またはそれ以上の歯部31を有することができる。通常、小さいサイズの積層ステータコアは、歯部31が少ない。
【0008】
以上では、特許文献1~3を例として挙げたが、これらの特許文献に限らず、従来技術では、ステータコアは積層軟磁性材料によって形成されており、固定用のハウジングも必要不可欠である。調査した範囲では、積層ステータコアとハウジングからなる磁気軸受の構成は、異なる構成が開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-178908号公報
【文献】特許第3349679号公報
【文献】特開平02ー061387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
同じ耐荷重量では、磁気軸受のサイズは玉軸受より大きいが、中・大型のターボ分子ポンプでは特に問題にならない。しかし、小型ターボ分子ポンプの場合、スペースが非常に限られているため、十分に小さいサイズの磁気軸受を設計することが課題である。従来、インナーロータ型とアウターロータ型の両方の構造について、小型ターボ分子ポンプ用磁気軸受の試作設計が多数行われた。その結果、ラジアル磁気軸受のサイズを十分に小さくすることは、アキシャル磁気軸受と比較して、より困難であることが明らかになった。
【0011】
具体的には、ラジアル磁気軸受の径方向寸法を十分に小さくすることが課題である。インナーロータ型の場合、ラジアル磁気軸受を備えた装置全体の直径を十分に小さくすることは困難である。アウターロータ型の場合、ステータコアを最小化すると、前記ステータコアに取り囲まれるハウジングは、径方向寸法が非常に小さくなり、剛性が十分でない可能性があるという新たな問題が発生する。必要とされるハウジングの剛性はロータの回転速度に関係している。ステータコアと他のステータ部品が取り付けられた状態のハウジングの曲げモード周波数は、回転速度より高くなっている必要がある。そのため、前記ハウジングは回転速度に対して十分に高い剛性を有する必要がある。従って、回転速度が高い場合、ラジアル磁気軸受の径方向寸法を小さくすることは困難である。
【0012】
アウターロータ型の場合、前記ステータコアの径方向寸法を可能な限り小さくしなければならない理由としては、空間が限られていることの他にもう1つある。
図2が示すように、取り付けや交換を可能にするためには、タッチダウン軸受16の内径を、前記ステータコアの外径より大きくする必要がある。そのため、場合によっては、不当に大きいタッチダウン軸受を使用することが必要になる。しかし、安全性の観点から、タッチダウン軸受16は小さければ小さいほど望ましい。一般的に、タッチダウン軸受が小さいほど摩擦が小さくなるため、ロータが落下したときに後ろ向き振れ回りを引き起こす危険性が低くなる。
【0013】
小型のターボ分子ポンプは非常に安価であり、従って、中型及び大型のものよりもコストに敏感である。そのため、上記問題点を解決しようとする際に、製造コストを考慮しなければならない。例えば、サイズや重量が主な関心事である場合は、飽和磁束密度が高いパーメンジュールを使用することがあるが、小型のターボ分子ポンプの場合、パーメンジュールのような高価な材料を使用したソリューションは実用的でない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述した技術的課題を解決することを目的とした、ラジアル磁気軸受のステータコアの新しい構成を開示するものである。構造的には、このステータコアが積層されていない塊状軟磁性材料で形成された1つの機械部品である。積層されていない塊状軟磁性材料で形成されたコアは、以降、塊状コアと呼ぶ。幾何学的には、前記ステータコアは管状のヨーク部と複数の歯部との結合体であり、全ての前記歯部は前記ヨーク部の内周面または外周面のいずれかにある。なお、前記ヨーク部は、前記歯部より軸方向寸法が大きく、前記ステータコアにおけるヨークとハウジングの両方として機能する。これにより、体積を小さくすると同時に、剛性を高くすることが可能である。前記ステータコアの内、前記歯部を除いた全ての部分はヨーク部と定義されていることに注意する。本発明の例が、
図5のステータコア11A、12A、及び、
図6のステータコア11B、12Bである。
【0015】
本発明は、いくつかの点で従来技術とは異なる。明らかな違いは、従来技術ではステータコアが積層されているのに対し、本発明ではステータコアが塊状ということである。塊状コアでは、磁場の変化によって渦電流が発生する。この渦電流は、エネルギー損失やコアの温度上昇を引き起こす。また、この渦電流の存在によって磁気軸受の動力学特性が複雑になる。ステータコアを積層構造にすることによって、この渦電流の大きさを大幅に低減することができ、従って前述の問題を避けられる。そのため、従来のステータコアには積層構造が採用された。しかし、次の3つの理由により、ターボ分子ポンプに塊状ステータコアを使用することが可能である。まず、制御技術の進歩により、より複雑な動力学特性を持つ塊状ステータコアでも制御することが可能となった。次に、エレクトロニクス技術の進歩により、アンプによって引き起こされる渦電流を大幅に低減することが可能となった。最後に、ターボ分子ポンプのロータに加わる外乱力がほとんど変動しないため、この外乱力の変動によって引き起こされる渦電流は少ない。以下では、この3つの理由について、詳細に説明する。
【0016】
塊状ステータコアを有する磁気軸受は、分数階応答特性を含むことが知られている。アキシャル磁気軸受は、通常、塊状ステータコアを用いる。ただし、アキシャル磁気軸受にとって、ロータの動力学特性は非常に簡単である。ロータは単なる集中質量であり、軸方向の運動は、他の運動や回転から独立している。従って、分数階応答特性が省略されている簡略化された数学モデルは許容できる。しかし、塊状ステータコアを用いたラジアル磁気軸受の場合、このような簡略化されたモデルは通常は許容できない。径方向において、ロータの動力学特性は多様で複雑であるが、全ての運動と回転は、ジャイロスコープ効果によって結合される。また、場合によっては、ロータを柔軟な物体として扱う必要がある。このように、ロータの動力学特性をモデル化及び制御するためには、通常、分数階応答特性を一定の方法で取り入れた複雑なモデルが必要となる。最近の分数階システムのモデル化と制御の進歩により、分数階システムの解析に有効な数学的ツールが提供されている。
【0017】
塊状コアでは、使用するアンプの種類やロータに加わる外乱力によっては、相当な渦電流が発生することがある。磁気軸受用のアンプは、スイッチングモードまたは線形のいずれでもよい。線形アンプに比べ、スイッチングモードアンプは、小型化、高効率、低コストを実現している。その結果、スイッチングモードアンプは、磁気軸受に広く使用されている。スイッチングモードアンプは、通常、標準的なPWMを使用しており、出力電流に相当なリップルを引き起こす。塊状コアが使用されている場合、このリップルが相当な渦電流を引き起こす。しかし、近年のエレクトロニクス技術の進歩により、リップルを低減することを目的とした、改良されたPWM技術が多く提供されている。3レベルPWMはその一例で、出力電流のリップルを大幅に低減できるため、塊状コア中の渦電流を大幅に低減するできる。また、3レベルPWMを使用したアンプのコストは、標準的なPWMを使用した場合に比べ、わずかに高い。しかしその差は、享受できるメリットを考慮すると無視できる。
【0018】
塊状コア中に渦電流が発生する原因として、リップル以外にも、出力電流の変動がある。出力電流の変動が強いほど、渦電流の振幅が大きくなる。ロータが変動する外力を受けたとき、磁気軸受は、ロータを所定の位置に維持するために、出力電流を同様に変動させ、外力に対抗するような磁力を発生させる。変動する外力を伴う例として、磁気軸受が応用されている工作機械スピンドルがある。変動する外力は、金属を切断する過程において発生する。しかし、ターボ分子ポンプの場合、ロータが真空環境にあるため、変動する外力をほぼ受けない。従って、変動する外力によって発生する渦電流は非常に少ない。ロータの重力は外力であるが、変動しないことに注意する。
【発明の効果】
【0019】
図5、
図6に例示されているように、本発明の実施形態1に係るステータコア11A、12A、及び本発明の実施形態2に係るステータコア11B、12Bは、ヨーク部30Aと30Bを有しており、ヨークとハウジングの両方として機能する。インナーロータ型の場合、従来技術では必要であったハウジング10が不要となったため、ラジアル磁気軸受の径方向寸法を小さくすることができる。アウターロータ型の場合、本発明のヨーク部30Bは、
図2のステータコア11、12に囲まれたハウジング10と比較して、より大きな径方向寸法を有するため、より高い剛性を有する。
【0020】
磁気飽和が起こらないように、ステータコアのヨーク部は十分な幅(径方向の厚み)を有する必要がある。従来技術では、ヨーク部30の軸方向寸法は歯部31と同じであるため、ヨーク部30の幅は、少なくとも歯部31の半分程度でなければならなかった。本発明の構成では、ヨーク部30A、30Bの軸方向寸法は歯部31A、31Bの軸方向寸法より大きいため、ヨーク部30A、30Bにおいて磁束は軸方向にも分散できる。従って、本発明の構成によれば、ヨーク部30A、30Bの幅をヨーク部30の幅より小さくすることが可能となり、磁気軸受の構造設計の自由度を高めることができる。
【0021】
従来技術では、積層ステータコアとハウジングとの機械的接触は緊密でなければならない。そうでなければ、両者は同心でない可能性がある。従って、モデル化及び制御において、両者を1つの剛体と扱うことができない。しかし、両者の熱膨張係数が異なる場合、広い範囲の温度において、緊密な機械的接触を保つことが難しいことがある。本発明の構成では、そのような問題はない。
【0022】
従来技術では、ステータコアは積層されているが、製造プロセスは複雑であり、製造コストが高い。その上、通常、積層ステータコアとハウジングの組み合わせの締め代があり、また、積層ステータコアはハウジングに対して特定の角度位置を有する必要があるため、取り付けることは簡単な作業ではない。本発明の構成では、これらの複雑なプロセスとそれに伴うコストが不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来の磁気軸受を示す断面図である(インナーロータ型)。
【
図2】従来の磁気軸受を示す断面図である(アウターロータ型)。
【
図3】従来のラジアル磁気軸受の積層ステータコアを示す図である(インナーロータ型)。
【
図4】従来のラジアル磁気軸受の積層ステータコアを示す図である(アウターロータ型)。
【
図5】本発明の実施形態1に係るラジアル磁気軸受を示す図で、(a)は断面図、(b)はステータコア11Aのみが見えるB-B断面図、(c)はステータコア12Aのみが見えるC-C断面図である。
【
図6】本発明の実施形態2に係るラジアル磁気軸受を示す図で、(a)は断面図で、(b)はステータコア11Bのみが見えるB-B断面図、(c)はステータコア12Bのみが見えるC-C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、小型ターボ分子ポンプに特に有利である。ターボ分子ポンプの大きさは、規格化されている吸気口フランジ径で表すことができる。吸気口フランジ径の範囲は100mm未満から320mm超えまでである。吸気口フランジ径が100mm以下のターボ分子ポンプは、小型と見なすことができる。以下、本発明を小型ターボ分子ポンプに適用した場合の2つの実施形態について、図面を参照して説明する。実施形態1はインナーロータ型であり、実施形態2はアウターロータ型である。
【0025】
<実施形態1.>
図5に、インナーロータ型における、本発明のステータコアを備えた磁気軸受装置の構造を示す。この構造では、ステータ1とロータ2が3つの磁気軸受を構成している。3つの磁気軸受とは、ステータコア11Aとロータコア21を有する第1ラジアル磁気軸受、ステータコア12Aとロータコア22を有する第2ラジアル磁気軸受、およびステータ永久磁石14とロータ永久磁石24を有するアキシャル磁気軸受である。また、この構造は、磁気軸受コイル15、変位センサプローブ16、タッチダウン軸受17、及び、ステータコア18、ロータ磁石28と巻線19からなるモータ、を備える。
【0026】
ラジアル磁気軸受は
図1と同じ原理で動作するが、アキシャル磁気軸受は異なる原理で動作する。アキシャル磁気軸受は受動型であり、円環状の永久磁石のみを使用する。これは従来から知られている方式である。小型のターボ分子ポンプの羽根車は重くなく、軸方向におけるロータの動力学特性は非常に簡単であるため、アキシャル磁気軸受は受動型で十分である。
【0027】
図5が示すように、2つのステータコア11A、12Aはそれぞれ1つの非積層な機械部品であり、例えば軟鉄を材料とすることができる。
図5(a)に印しているB、Cの箇所における、ステータコア11A、12Aの断面図を
図5(b)、(c)に示している。これらの断面図では、ステータコア11A、12Aの全ての歯部31Aの形が示されている。2つのステータコア11A、12Aは、ボルト(図示せず)で連結されている。各ステータコア11A、12Aのヨーク部30Aは、軸方向寸法が歯部31Aより大きく、ヨークとハウジングの両方として機能する。ステータコア11A、12A自体のハウジングのみならず、それ以外の部品のハウジングでもある。具体的に、ステータコア11Aのヨーク部30Aは、一対の永久磁石14、センサプローブ16、タッチダウン軸受17、及び、巻線19を有するモータステータコア18のハウジングとなる。ステータコア12Aのヨーク部30Aは、センサプローブ16とタッチダウン軸受17のハウジングとなる。
【0028】
本実施形態のように、ステータコア11Aのヨーク部30Aの形状およびサイズを柔軟に設計することができる。なお、ヨーク部30Aとは、ステータコア11A、12Aの、歯部31Aを除いた残りの部分全てである。従来技術におけるハウジング10と同様に、ヨーク部30Aは、フランジ、スロット、穴等を有しても良い。ヨーク部30Aの幾何学的形状は、歯部31Aを含むステータコア11A、12A全体が加工可能であること以外、特に制限はない。
【0029】
<実施形態2.>
図6に、アウターロータ型における、本発明のステータコアを備えた磁気軸受装置の構造を示す。この構造では、ステータ1とロータ2が2つのラジアル磁気軸受を構成する:ステータコア11Bとロータコア21を備えた第1ラジアル磁気軸受と、ステータコア12Bとロータコア22を備えた第2ラジアル磁気軸受である。各ローターコア21、22の隣には、永久磁石24とローターヨーク25があり、これらもラジアル磁気軸受の部品である。また、この構造は、磁気軸受コイル15、変位センサプローブ16、タッチダウン軸受17、及び、ステータコア18、ロータ磁石28と巻線19からなるモータ、を備える。
【0030】
本実施形態におけるラジアル磁気軸受の動作原理は、実施形態5と似ているが、完全に同じではない。ここでは、従来から知られている設計と同様に、ラジアル磁気軸受にバイアス磁束を生成するための仕組みとして、永久磁石24とロータヨーク25(両者はシャフト20上に取り付けられている)が使用されている。各ロータヨーク25は、ステータコア11B、12Bとの間に狭い隙間を形成し、この隙間を通過する磁束は、ロータヨーク25とステータコア11B、12Bとの間に、軸方向で正の剛性を発生させる。この仕組みがあれば、明示的なアキシャル磁気軸受は不要である。本実施形態におけるモータは、実施形態1のモータとは少し異なる。ここでは、モータはスロットレスステータコアを有する。
【0031】
図6に示すように、2つのステータコア11B、12Bはそれぞれ、1つの非積層な機械部品であり、例えば軟鉄を原料とすることができる。
図6(a)に印しているB、Cの箇所における、ステータコア11B、12Bの断面図を
図6(b)、(c)に示している。これらの断面図では、ステータコア11B、12Bの全ての歯部31Bの形が示されている。2つのステータコア11B、12Bは締り嵌めで連結されている。各ステータコア11B、12Bのヨーク30B部は、軸方向寸法が歯部より大きく、ヨークとハウジングの両方として機能する。具体的に、ステータコア11Bのヨーク30B部は、センサプローブ16とタッチダウン軸受17のハウジングとなる。ステーターコア12Bのヨーク30B部は、センサープローブ16、タッチダウン軸受17、及び、巻線19を有するモータステーターコア18のハウジングとなる。
【0032】
本実施例のステータコア11B、12Bは、実施形態1のステータコア11A、12Aと比較して、機械加工性が優れている。実施形態1では、歯部31Aはヨーク部30Aの内周面にあるため、ヨーク部30Aがうまく設計されていない場合、切削工具が歯部31Aに到達することを阻害する恐れがある。一方、本実施形態では、歯部はヨーク部30Bの外周面にあるため、歯部31Bの加工は容易である。一般的に、機械部品の加工では、部品を工作機械のチャックに締め付けるのは一度のみであることが望ましい。
図6のステータコア11B、12BをCNCターンミルセンターで加工した場合、一度のみ締め付けることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 磁気軸受とモータのステータ
2 磁気軸受とモータのロータ
10 ステータのハウジング
11、12 ラジアル磁気軸受の積層ステータコア
11A、12A 実施形態1に係るラジアル磁気軸受のステータコア
11B、12B 実施形態2に係るラジアル磁気軸受のステータコア
13 アキシャル磁気軸受のステータコア
14 磁気軸受のステータ永久磁石
15 磁気軸受のコイル
16 渦電流変位センサのセンサプローブ
17 タッチダウン軸受
18 モータのステータコア
19 モータの巻線
20 シャフト
21、22 ラジアル磁気軸受のロータコア
23 アキシャル磁気軸受のロータコア
24 磁気軸受のロータ永久磁石
25 磁気軸受のロータヨーク
28 モータのロータ永久磁石
30 磁気軸受積層ステータコアのヨーク部
30A 実施形態1に係るステータコアのヨーク部
30B 実施形態2に係るステータコアのヨーク部
31 磁気軸受ステータコアの歯部
31A 実施形態1に係るステータコアの歯部
31B 実施形態2に係るステータコアの歯部
【要約】
【課題】磁気軸受を中・大型ターボ分子ポンプに適用することは既にできている。しかし、磁気軸受を小型ターボ分子ポンプに適用するには、磁気軸受の径方向サイズを十分に小さくできないという課題がある。
【解決手段】従来、ラジアル磁気軸受のステータコアは、積層軟磁性材料で形成され、ハウジングに締り嵌めされていた。ハウジングの機能は、ステータコアと他のステータ部品を所定の位置に保持するための機械的な支持を与えることである。本発明は、ステータコアとハウジングを、塊状軟磁性材料で形成された1つの機械部品に一体化することを特徴とし、それにより十分に小さい径方向サイズを達成できる。また、ターボ分子ポンプに塊状軟磁性材料のステータコアを使用することが可能となる3つの理由を示す。
【選択図】
図5