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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】着色被膜付板ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/30 20060101AFI20220105BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20220105BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20220105BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20220105BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C03C17/30 A
C09D5/24
C09D7/48
C09D183/06
C09D201/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019501129
(86)(22)【出願日】2018-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2018002078
(87)【国際公開番号】W WO2018155048
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2017030095
(32)【優先日】2017-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 信之
(72)【発明者】
【氏名】小原 芳彦
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-34281(JP,A)
【文献】国際公開第2006/129695(WO,A1)
【文献】特開2002-161242(JP,A)
【文献】特開平5-125084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C17/30
B32B17/10
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板ガラスと、該板ガラスの少なくとも片側の表面に形成された着色被膜を有する、着色被膜付板ガラスの製造方法において、
(a)R - n S i ( O R [1]で表されるアミノ基を含むシラン化合物
(式[ 1 ]中、R はアミノ基を含有する有機基を表し、R はメチル基、エチル基またはプロピル基を表し、n は1 ~ 3 から選ばれる整数を表す)と、
BO及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種のホウ素化合物と
を反応させて得られる反応生成物;
(b)金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物;
(c)合成樹脂;
(d)SP値が10~13.5(cal/cm1/2であるトリアジン系紫外線吸収剤;
(e)実質的にSP値が8~11.5(cal/cm1/2である非水溶媒からなる溶媒;及び
(f)顔料;を混合して着色被膜形成用塗布液を得る工程、
被膜形成用塗布液を前記板ガラス表面に塗布して塗膜を形成する、塗布工程、
塗布工程後に板ガラスを加熱して塗膜を硬化して被膜を形成する、硬化工程
を有し、
前記着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤を5~12質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.02~0.50倍含み、前記着色被膜の膜厚が1.5~8μmであることを特徴とする、着色被膜付板ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記反応生成物が、前記アミノ基を含むシラン化合物1モルに対して、前記ホウ素化合物が0.02~8モルの比率で反応させて得られることを特徴とする、請求項1に記載の、着色被膜付板ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記反応生成物は、水を添加する加水分解工程を経ないで前記アミノ基を含むシラン化合物と、前記ホウ素化合物とを反応させて得られる反応生成物であることを特徴とする、請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の着色被膜付板ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記金属アルコキシドが、テトラメトキシシラン及び/又はテトラエトキシシランであり、前記アミノ基を含むシラン化合物1モルに対して10モル以下の比率で添加することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の着色被膜付板ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記被膜形成用塗布液が、導電性物質からなる微粒子を含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の着色被膜付板ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記板ガラスが、380-780nmの波長域において、厚さ1mm当たりの吸光度が最大で、0.10以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の着色被膜付板ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラス表面に形成した被膜によって、板ガラスを着色ガラスとする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布によって板ガラス表面に形成された被膜の硬度が向上したことにより、被膜が形成されたガラスが、紫外線吸収ガラスとして、自動車ガラスの窓ガラスとして採用されるようになってきている(例えば、非特許文献1)。そして、高硬度の紫外線吸収性の被膜として、特許文献1には被膜中にSi-O-B結合を有する被膜に紫外線吸収剤を分散保持した被膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-34281号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】「自動車用高性能紫外線カットコート強化ガラス」,NEW GLASS,Vol.27,No.104,p.70~74,2012
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された被膜には、顔料を含む被膜が示唆されている。そのため、当文献に基づけば、高硬度な被膜に基づいた、着色被膜を提供できる可能性がある。しかしながら、着色被膜の実用化のためには、被膜の硬度だけでなく、被膜の発色を良好とし、良好な発色を長期に渡って保持する必要がある。
【0006】
本発明は、被膜の硬度と、被膜の発色と、該発色の長期に渡っての保持性を良好とできる、着色被膜付板ガラスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
着色被膜の硬度と、着色被膜の発色性と、良好な発色性を長期に渡って保持することを満足させるためには、着色被膜中の紫外線吸収剤の含有量が鍵となる。なぜなら、着色被膜の着色成分となる顔料は、紫外線によって退色が生じるので、良好な発色性を長期に渡って保持することが難しいからである。他方で、前記退色を抑制させるために、着色被膜に多くの紫外線吸収剤を含有させると、着色被膜の硬度が低下する傾向を示すだけでなく、顔料を除いた被膜の成分にて、黄色の着色を呈するようになり、着色被膜の良好な発色を得がたくなる。そのため、紫外線吸収剤の種類、量も、本発明の課題を解決するための重要は要素となる。
【0008】
本発明は、これらを考慮のもと、鋭意検討してなしたものである。すなわち、本発明の着色被膜付板ガラスの製造方法は、板ガラスと、該板ガラスの少なくとも片側の表面に形成された着色被膜を有する、着色被膜付板ガラスの製造方法であって、
(a)R - n S i ( O R [1]で表されるアミノ基を含むシラン化合物(式[ 1 ]中、R はアミノ基を含有する有機基を表し、R はメチル基、エチル基またはプロピル基を表し、n は1 ~ 3 から選ばれる整数を表す)と、
BO及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種のホウ素化合物と
を反応させて得られる反応生成物;
(b)金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物;
(c)合成樹脂;
(d)SP値が10~13.5(cal/cm1/2であるトリアジン系紫外線吸収剤;
(e)実質的にSP値が8~11.5(cal/cm1/2である非水溶媒からなる溶媒;及び
(f)顔料;を混合して着色被膜形成用塗布液を得る工程、
被膜形成用塗布液を前記板ガラス表面に塗布して塗膜を形成する、塗布工程、
塗布工程後に板ガラスを加熱して塗膜を硬化して被膜を形成する、硬化工程
を有し、
前記塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤を5~12質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、重量比で0.02~0.50倍含み、前記被膜の膜厚が1.5~8μmであることを特徴とするものである。
【0009】
前記着色被膜形成用塗布液において、前記(a)~(c)が、前記着色被膜の母体となる。前記着色被膜は、前記母体と、前記(d)及び(f)を含有する。前記母体及び前記被膜の膜厚が1.5~8μmであることを前提とし、全固形分に対して前記紫外線吸収剤を5~12質量%、好ましくは7~10質量%含むものとし、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.02~0.50倍、好ましくは0.03~0.36倍含むものとすることで、被膜の硬度と、被膜の発色性と、長期に渡っての発色の保持性を良好とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製法で得られた着色被膜付板ガラスでは、被膜の硬度と、被膜の発色と、該発色の長期に渡っての保持性が良好であり、着色被膜付板ガラスの実用に奏功する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の着色被膜付板ガラスの製造方法は、板ガラスと、該板ガラスの少なくとも片側の表面に形成された着色被膜を有する、着色被膜付板ガラスの製造方法であり、
(a)R - n S i ( O R [1]で表されるアミノ基を含むシラン化合物(式[ 1 ]中、R はアミノ基を含有する有機基を表し、R はメチル基、エチル基またはプロピル基を表し、n は1 ~ 3 から選ばれる整数を表す)と、
BO及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種のホウ素化合物と
を反応させて得られる反応生成物;
(b)金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物;
(c)合成樹脂;
(d)SP値が10~13.5(cal/cm1/2であるトリアジン系紫外線吸収剤;
(e)実質的にSP値が8~11.5(cal/cm1/2である非水溶媒からなる溶媒;及び
(f)顔料;を混合して着色被膜形成用塗布液を得る工程、
被膜形成用塗布液を前記板ガラス表面に塗布して塗膜を形成する、塗布工程、
塗布工程後に板ガラスを加熱して塗膜を硬化して被膜を形成する、硬化工程
を有し、
前記着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤を5~12質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.02~0.50倍含み、前記着色被膜の膜厚が1.5~8μmであることを特徴とするものである。
【0012】
尚、前記「全固形分」とは、着色被膜を構成する成分の全量を指し、その量は、被膜形成用塗布液から、溶媒を除いた成分の総和から、加水分解や重縮合反応等によって、各成分から脱離する有機基の量を減じることで、求めることができる。塗布液の粘度は、被膜形成用塗布液中の全固形分の量にも影響されるので、板ガラスへの塗布液の塗布効率を考慮して設定でき、例えば、5質量%~40質量%、好ましくは10質量%~35質量%とすることができる。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
[着色被膜形成用塗布液について]
1.(a)成分
- n S i ( O R [1]で表される、アミノ基を含むシラン化合物
(式[ 1 ]中、R はアミノ基を含有する有機基を表し、R はメチル基、エチル基またはプロピル基を表し、n は1 ~ 3 から選ばれる整数を表す)と、
BO及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種のホウ素化合物と、を混合すると、これら成分が反応し、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、固化する。これは、ホウ素化合物が、前記アミノ基を含むシラン化合物中のアミノ基を介して架橋剤として働き、これらの成分を高分子化させる。その結果、粘稠な液体となり、固化するからであると考えられる。なお、前記アミノ基を含むシラン化合物は液体である。前記アミノ基を含むシラン化合物と、前記ホウ素化合物との反応に際し、水を使用しないことが好ましい。
【0014】
前記アミノ基を含むシラン化合物において、Rはアミノ基含有の有機基を表す。例えば、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、テトラアミノエチル、モノアミノプロピル、ジアミノプロピル、トリアミノプロピル、テトラアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、テトラアミノブチル、及び、これらよりも炭素数の多いアルキル基またはアリール基を有する有機基を挙げることができるが、それらに限定されない。γ―アミノプロピルや、アミノエチルアミノプロピルが特に好ましく、γ―アミノプロピルが最も好ましい。
【0015】
前記Rはメチル基、エチル基またはプロピル基を表す。その中でも、メチル基及びエチル基が好ましい。前記nは1~3から選ばれる整数を表す。その中でも、nは2~3であるのが好ましく、nは3であるのが特に好ましい。すなわち、前記アミノ基を含むシラン化合物としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。前記ホウ素化合物は、HBO及びBからなる群から選ばれる少なくとも1種のホウ素化合物である。特に好ましくは、HBOである。
【0016】
前記アミノ基を含むシラン化合物と、前記ホウ素化合物との反応における両成分の使用量は、反応速度を考慮すると、前記アミノ基を含むシラン化合物1モルに対して、前記ホウ素化合物が好ましくは0.02モル~8モルの比率、さらに好ましくは、0.02モル~5モルの比率、よりさらに好ましくは、0.2モル~5モルの比率である。
【0017】
前記アミノ基を含むシラン化合物と、前記ホウ素化合物との混合条件(温度、混合時間、混合方法など)は、適宜選択することができる。通常の室温条件では、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、固化する。固化する時間や得られる反応生成物の粘度や剛性はホウ素化合物の割合でも異なる。なお、固化したものよりも粘稠な液体のほうが、塗布液中で安定して溶解した成分とし易いため好ましい。前記反応生成物は、好ましくは、水を添加して加水分解する工程を経ないで前記アミノ基を含むシラン化合物と、前記ホウ素化合物を反応させて得られる反応生成物である。
【0018】
前記反応生成物の量は、全固形分に対して、40質量%~80質量%とすることができる。その量が40質量%未満の場合、得られる着色被膜の硬度が低くなることがある。他方、80質量%超の場合、得られる着色被膜は、耐候性試験時にクラックの発生が生じることがある。これらを考慮すると、前記反応生成物の量は、全固形分に対して、50質量%~70質量%としてもよい。
【0019】
(2)(b)成分について
前記反応生成物に対し、(b)成分として、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物を添加する。すなわち、前記アミノ基を含むシラン化合物と、前記ホウ素化合物との反応に際して、あるいは、反応後に、(b)成分を添加する。(b)成分を添加することにより、得られる着色被膜の硬度を向上させることができるとともに、(b)成分を用いない場合と同様の粘稠な液体の状態となるので、塗布液中で安定して溶解した成分とすることができる。
【0020】
(b)成分の金属アルコキシドの金属としては、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sb、などを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、Si、Ti、Zrであり、また、(b)成分は液体であることが好ましいため、Si、Tiが特に好ましい。(b)成分の金属アルコキシドのアルコキシド(アルコキシ基)としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、及びそれ以上の炭素数を有するアルコキシ基を挙げることができる。メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、及びブトキシ基が好ましく、メトキシ基及びエトキシ基がより好ましい。特に好ましい(b)成分としては、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランなどを挙げることができる。
【0021】
(b)成分の金属アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、プロピルトリプロポキシチタン、ブチルトリブトキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、メチルトリメトキシジルコニウム、エチルトリエトキシジルコニウム、プロピルトリプロポキシジルコニウム、及びブチルトリブトキシジルコニウムなどを挙げることができる。その中でも、好ましいものとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、及びメチルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0022】
(b)成分の金属アルコキシドの使用量は、前記アミノ基を含むシラン化合物1モルに対して10モル以下の比率が好ましい。より好ましくは、0.1モル~5モルの比率である。前記アミノ基を含むシラン化合物と、前記ホウ素化合物1モルに対し、(b)成分が0.1モル未満では、前述したような(b)成分を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、(b)成分が5モル超であると、白濁してしまうことがある。
【0023】
(b)成分の金属アルコキシドの縮合物としては、以下の式(b1)及び(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の式で表される金属アルコキシドの縮合物を挙げることができる。
【0024】
【化1】
【0025】
(式中、Rは、アルキル基を表し、その一部は水素であってもよく、Rは、それぞれ独立に同一であっても異なっていてもよく、mは2~20から選択される整数を表し、Mは、Si、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を表す。)
(b)成分である前記金属アルコキシドの縮合物の添加量は、前記前記アミノ基を含む
シラン化合物11モルに対し、金属アルコキシドモノマー質量換算で、2~50モルであるのが好ましく、4モル以上であるのが、より好ましい。すなわち、(b)成分の添加量が多すぎる場合には、得られる被膜の硬度が低下する傾向があり、逆に、少なすぎる場合には、金属元素含有量が少なくなるので用途によっては得られる被膜の硬度が低下したり化学的耐久性の問題が発生したりすることがある。また、(b)成分の添加量が多すぎる場合には、本発明の着色被膜を得るための硬化時間が長くなる傾向がある。
【0026】
(b)成分である前記金属アルコキシドの縮合物中のRはアルキル基を表し、その一
部は水素であってもよく、Rは、夫々独立に同一であっても異なっていてもよいが、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びそれ以上の炭素数を有するアルキル基であり、メチル基あるいはエチル基であるのが好ましい。また、(b)成分である前記金属アルコキシドの縮合物中のmは、2~20から選択される整数を表すが、3~10であるのが好ましく、5であるのが最も好ましい。さらには、(b)成分である前記金属アルコキシドの縮合物中のMは、Si、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を表すが、SiまたはTiであるのが好ましく、Siが最も好ましい。
【0027】
(b)成分である前記金属アルコキシドの縮合物を構成する金属アルコキシドモノマー単位としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、プロピルトリプロポキシチタン、ブチルトリブトキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、メチルトリメトキシジルコニウム、エチルトリエトキシジルコニウム、プロピルトリプロポキシジルコニウム、及びブチルトリブトキシジルコニウムなどを挙げることができる。
【0028】
(b)成分が前記式(b1)で表される場合には、テトラエトキシシランの縮合物(5
量体)又はテトラメトキシシランの縮合物(5量体)であるのが好ましく、前記式(b2)で表される場合には、エチルトリエトキシシランの縮合物(5量体)又はメチルトリメトキシシランの縮合物(5量体)であるのが好ましい。
【0029】
本発明の前記反応生成物には、上記のように、(b)成分として、金属アルコキシド(モノマー)及び/又は金属アルコキシドの縮合物を添加する。金属アルコキシドモノマーの粘性は、同縮合物に比べて低いため、金属アルコキシドモノマーを更に添加することにより、得られる塗布液の塗布性が向上することがあるが、金属アルコキシドモノマーの添加量を、同縮合物と同量以上など多くすると、塗布液の粘性が低下しやすく、塗布した際に液ダレが生じやすくなることがある。
【0030】
(3)(c)成分について
前記反応生成物に対し、合成樹脂((c)成分)を添加する。すなわち、 前記アミノ基を含むシラン化合物と、前記ホウ素化合物との反応に際して、あるいは、反応後に、合成樹脂((c)成分)を添加する。(c)成分を加えることで、得られる着色被膜にクラック防止性を付与することができる。
【0031】
(c)成分の合成樹脂としては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、
及び紫外線硬化性樹脂などを挙げることができ、具体的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂およびこれらの樹脂の変性品を挙げることができ、様々な重合度(分子量)を有する合成樹脂を使用することができる。その中でもエポキシ樹脂、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エポキシアクリレート、シリコーン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどが好ましい。また、前記合成樹脂の形態は、液状のものが好ましい。
【0032】
(c)成分の使用量は、全固形分に対し5~30質量%の比率が好ましい。より好ましくは、10~20質量%の比率である。(c)成分が5質量%未満では、前述したような(c)成分を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、(c)成分が30質量%超であると、樹脂硬化剤を添加する必要があることがあり、また、得られる被膜に高い硬度を付与できないことがある。
【0033】
(4)(d)成分について
(d)成分として、SP値が10~13.5(cal/cm1/2であるトリアジ
ン系紫外線吸収剤が使用される。例えば、BASF製TINUVIN400(SP値:11.0(cal/cm1/2)、TINUVIN460(SP値:10.9(cal/cm1/2)、TINUVIN479(SP値:11.3(cal/cm1/2)、TINUVIN477(SP値:11.4(cal/cm1/2)等が挙げられる。トリアジン系紫外線吸収剤にて、良好な結果が得られることの要因は定かではないが、前記吸収剤は、紫外線の吸収能力が高く、耐候性が良好であるからだと考えられる。
【0034】
(5)(e)成分について
(e)成分は、着色被膜形成用塗布液の溶媒となるもので、実質的にSP値が8~11.5(cal/cm1/2である非水溶媒からなる。「実質的にSP値が8~11.5(cal/cm1/2である非水溶媒」とは、「SP値が8~11.5(cal/cm1/2である単独種の非水溶媒」、「SP値が8~11.5(cal/cm1/2である非水溶媒のみを組み合わせ、その混合溶媒のSP値が8~11.5(cal/cm1/2の範囲に入る溶媒」、及び、「SP値が8~11.5(cal/cm1/2である非水溶媒とそれ以外のSP値の溶媒を組み合わせ、その混合溶媒のSP値が8~11.5(cal/cm1/2の範囲に入る溶媒」を意味する。なお、混合溶
媒のSP値は、例えば「溶媒A」と「溶媒B」の2種類を用いた場合、以下の計算式から算出することができる。
【0035】
塗布液に含まれる溶媒のSP値が8~11.5(cal/cm1/2であれば、本発明で使用される紫外線吸収剤を該塗布液中に均一に分散することができ、ひいては、得られる被膜中においても前記紫外線吸収剤を均一に分散させることができる。なお、溶媒のSP値が8未満であると、塗布後に塗膜から前記の疎水性の紫外線吸収剤が析出し、最終的に得られる被膜が不透明になってしまう場合がある。
【0036】
また、本発明の塗布液に含まれる溶媒が、SP値が8~10.5(cal/cm1/2である非水溶媒から実質的に構成されたものであると、得られる塗布液のレベリング性が向上するため、後述するレベリング工程を行う場合に、より短時間で塗膜のレベリングが完了するため好ましい。
【0037】
SP値が8~11.5(cal/cm1/2である非水溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素類のトルエン(SP値:9.1(cal/cm1/2)、キシレン(SP値:9.1(cal/cm1/2)、酢酸エステル類の酢酸エチル(SP値:8.8(cal/cm1/2)、酢酸ブチル(SP値:8.7(cal/cm1/2)、ケトン類のアセトン(SP値:9.1(cal/cm1/2)、メチルエチルケトン(SP値:9.0(cal/cm1/2)、メチルイソブチルケトン(SP値:8.3(cal/cm1/2)、シクロヘキサノン(SP値:9.8(cal/cm1/2)、2-ヘプタノン(SP値:8.5(cal/cm1/2)、グリコールエーテル類の3-メトキシ-3-メチルブタノール(SP値:10.5(cal/cm1/2)、1-メトキシ-2-プロパノール(SP値:11.3(cal/cm1/2)、1-エトキシ-2-プロパノール(SP値:10.9(cal/cm1/2)、3-メトキシブチルアセテート(SP値:8.8(cal/cm1/2)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.5(cal/cm1/2)、エーテル類のTHF(SP値:8.3(cal/cm1/2)、セロソルブ類のエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値:11.5(cal/cm1/2)、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(SP値:10.8(cal/cm1/2)、酢酸2-メトキシブチル(SP値:9.0(cal/cm1/2)、塩化炭化水素類のジクロロメタン(SP値:10.2(cal/cm1/2)、その他としてN、N-ジメチルホルムアミド(SP値:10.2(cal/cm1/2)等が挙げられ、中でもケトン類のメチルエチルケトン(SP値:9.0(cal/cm1/2)、メチルイソブチルケトン(SP値:8.3(cal/cm1/2)、シクロヘキサノン(SP値:9.8(cal/cm1/2)、2-ヘプタノン(SP値:8.5(cal/cm1/2)やグリコールエーテル類の3-メトキシ-3-メチルブタノール(SP値:10.5(cal/cm1/2)、1-メトキシ-2-プロパノール(SP値:11.3(cal/cm1/2)、1-エトキシ-2-プロパノール(SP値:10.9(cal/cm1/2)が好ましい。
【0038】
また、本発明の塗布液に含まれることのあるSP値が8~11.5(cal/cm1/2以外の溶媒としては、例えば、n-ヘキサン(SP値:7.3(cal/cm1/2)、ジエチルエーテル(SP値:7.3(cal/cm1/2)、2-メトキシエタノール(SP値:12.0(cal/cm1/2)、四塩化炭素(SP値:12.2(cal/cm1/2)等が挙げられる。
【0039】
(6)(f)成分、顔料について
青色顔料として、例えば、PigmentBlue15、PigmentBlue28、セシウム酸化タングステン(CWO)微粒子、緑色顔料として例えばPigmentGreen36、PigmentGreen56、黄色顔料として例えばPigmentYellow150、PigmentYellow119、赤色顔料として例えばPigmentRed101
、PigmentRed254、橙色顔料として例えばPigment Orange71、黒色顔料として例えばPigmentBlack26、桃色顔料として例えばPigmentRed202、PigmentViolet19等が挙げられる。前
記顔料の平均粒子径D50は、10~300nmであることが好ましい。D50が10nm未満の場合、凝集しやすい傾向があり、300nm超の場合、可視光透過率が悪化する傾向がある。これらを考慮すると、前記顔料の平均粒子径D50は、15~280nm、さらには20~250nmとすることが好ましい。
【0040】
前記顔料は、着色被膜形成用塗布液において、紫外線吸収剤に対して、質量比で0.02~0.50倍含ませることができる。0.02倍未満だと、発色性が悪くなる傾向があり、0.50倍超の場合、ヘーズが高くなる傾向がある。これらを考慮すると、前記顔料は、着色被膜形成用塗布液において、紫外線吸収剤に対して、質量比で0.025~0.45倍、さらには0.03~0.36倍含むものとすることが好ましい。
【0041】
(7)その他の成分
前記被膜形成用塗布液は、導電性物質からなる微粒子を含んでもよい。導電性物質からなる微粒子を含むことで、着色被膜付板ガラスに赤外線遮蔽性をもたらすことでできる。導電性物質として例えばITO(スズ酸化インジウム)、ATO(アンチモン酸化スズ)等が挙げられる。含有量は全固形分に対して5~15質量%含み、平均粒子径D50は50~100nmである。また、前記被膜形成用塗布液は、上記成分以外にも、その用途に応じて、防黴剤、光触媒材料、防錆剤、防食剤、防藻剤、撥水剤、撥油剤、光安定剤、酸化防止剤、基材湿潤剤、親水性材料、吸水性材料などを含ませてもよい。
【0042】
[板ガラスについて]
本発明で使用される板ガラスは、自動車用ならびに建築用、産業用ガラス等に通常用いられている板ガラスであり、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等による板ガラスであって、製法は特に問わない。ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやIRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合わせガラスのほか複層ガラス等が挙げられる。
【0043】
中でも、本発明においては、前記板ガラスは、380-780nmの波長域において、厚さ1mm当たりの吸光度が最大で、0.10以下であることが好ましい。この物性の板ガラスは、ほぼ無色の板ガラスとなり、所謂、クリアガラスと呼ばれるものである。前記板ガラスが、クリアガラスであると、着色被膜付板ガラスは、前記着色被膜の色味どおりの発色となり、着色被膜付板ガラスは外観が向上する。前記板ガラスが、クリアガラスであると、板ガラスによる紫外線遮蔽性も低くなるので、前記着色被膜が紫外線の影響を受けやすくなる。本発明の製法で得られる着色被膜付板ガラスは、顔料の退色が生じにくい構成を備えているので、クリアガラスによる板ガラスを着色被膜付板ガラスとすることに特に顕著な利点を有する。
【0044】
尚、前記吸光度は、ランベルトの法則に従い、以下の式により算出することができる。ガラス基材の吸光度=Log10(I0/I)=a×l
I0=入射光の強さ
I=透過光の強さ
a=厚さ1mm当たりの吸光度
l=光路長
前記着色被膜が形成される前に、板ガラスは清浄な状態に洗浄され、乾燥されていることが望ましい。該洗浄としては酸化セリウム等の研磨剤を用いた洗浄、ブラシ洗浄、シャワー、高圧シャワー等の公知の洗浄方法を利用することができる。また、前記乾燥としては自然乾燥、エアシャワー等の公知の乾燥方法を利用することができる。また大気圧プラズマやUVオゾンを用いた乾式の洗浄を用いても良い。
【0045】
前記の洗浄、乾燥後の板ガラス表面に対して本発明の塗布工程を行ってもよいし、前記の洗浄、乾燥後に板ガラス表面にプライマー層を形成した後、該板ガラス表面(プライマー層表面)に対して本発明の塗布工程を行ってもよい。前記プライマー層は、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(例えば、信越シリコーン製、製品名:KBM-903)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(例えば、信越シリコーン製、製品名:KBE-903)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(例えば、信越シリコーン製、製品名:KBM-403)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(例えば、信越シリコーン製、製品名:KBE-403)、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(例えば、信越シリコーン製、製品名:KBM-303)、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(例えば、信越シリコーン製、製品名:KBM-402)、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(例えば、信越シリコーン製、製品名:KBE-402)、ビニルトリメトキシシラン(例えば、信越シリコーン製、製品名:KBM-1003)、ビニルトリエトキシシラン(例えば、信越シリコーン製、製品名:KBE-1003)等のシランカップリング剤を含むプライマー薬液を前記の洗浄、乾燥後の板ガラス表面に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。
【0046】
[塗布工程について]
被膜形成用塗布液を前記板ガラス表面に塗布して塗膜を形成する、塗布工程、
前記塗布工程で塗布液を板ガラス表面に塗布する方法としては、スピンコーティング、ディップコーティング、ノズルコーティング、カーテンコーティング、ロールコーティング、スプレーコーティング、ブレードコート、ハケ塗り等の公知の塗布方法を利用することができる。その中でもスプレーコーティング、ノズルコーティングによる塗布方法が好ましい。
【0047】
前記塗布工程の後、後述する予備加熱工程又は硬化工程の前に、レベリング工程を行ってもよい。該レべリング工程を経ることにより得られる被膜に優れた平滑性を付与することができる。レベリング工程は基材を略水平に静置して行う。また、該レベリング工程は基材の搬送を兼ねても良く、略水平方向に基材を搬送する際の微振動によってレベリングを促進しても良い。また、基材に超音波振動を付与してレベリングを促進しても良い。上記のレベリング工程は、室温で5~20分間実施することがより好ましい。
【0048】
なお、上記の塗布(あるいは被膜の形成)は基材の全面に対して行ってもよく、一部の表面に対して行ってもよい。 例えば、他の部材と接触するように板ガラスを据え付ける
場合は、該接触部に対応する領域(あるいはさらにマージンを取った領域)の基材表面には塗布せず(被膜を形成せず)、それ以外の領域に塗布を行ってもよい(被膜を形成してもよい)。他の部材と接触するように基材を据え付ける態様としては、例えば、自動車用をはじめとする車両用や建築用や産業用の板ガラスを嵌め殺しの窓材として据え付ける態様や、上記の板ガラスをサッシ等の枠体部材に組み込んで据え付ける態様が挙げられる。上述のように被膜を形成しない領域を設けることで、板ガラスを固定するためのシーリング材やモールド材やグレージングチャンネル部材と該板ガラスの被膜を形成されていない領域との間で、良好な接着性や密着性を確保することができる。
【0049】
また、例えば、可動式窓材に用いられる板ガラスに塗布を行う場合、窓材の開閉時に他の部材と接する領域(あるいはさらにマージンを取った領域)の板ガラス表面には塗布せず(被膜を形成せず)、それ以外の領域に塗布を行ってもよい(被膜を形成してもよい)。可動式窓材としては、例えば、開閉等に伴い自動車用をはじめとする車両用や建築用や産業用の板ガラスを動作させるような窓材が挙げられる。窓材の開閉時に他の部材と接する領域とは、例えば、窓材を閉じる際に枠体に収納される板ガラスの端部周辺の領域(枠体と接する領域)であり、上述のように被膜を形成しない領域を設けることで、板ガラスを開閉する際に該板ガラスの端部周辺に枠体による傷が付きにくくすることができる。また、例えば、上記の窓材のうち、開閉等の作動機構に接する領域(あるいはさらにマージンを取った領域)の板ガラス表面にも被膜を形成しない態様をとってもよい。
【0050】
上記の場合、一旦基材(板ガラス)の全面に対して塗布を行い、被膜を形成しない領域の塗布液を拭き取ってもよいし、被膜を形成しない領域を溶媒に浸漬して該領域に塗布された塗布液を除去してもよいし、被膜を形成しない領域に溶媒を掛け流して該領域に塗布された塗布液を除去してもよいし、被膜を形成しない領域に予めマスキングを施して塗布を行った後に該マスキングを除去することでもよい。
【0051】
また、被膜を形成しない領域に、予め、本発明の塗布液を弾くような(本発明の塗布液と馴染まないような)撥水膜や撥水・撥油膜を形成して、塗布を行い、該撥水膜や撥水・撥油膜上で弾かれて付着した塗布液を拭き取ってもよい。さらに、その撥水膜や撥水・撥油膜も除去してもよい。
【0052】
また、被膜を形成しない領域に、予め、本発明の塗布液を弾くような(本発明の塗布液と馴染まないような)撥水膜や撥水・撥油膜を形成して、塗布及び硬化を行い、該撥水膜や撥水・撥油膜上で弾かれた状態で硬化した被膜を除去してもよい。さらに、その撥水膜や撥水・撥油膜も除去してもよい。
【0053】
また、一旦基材(板ガラス)の全面に対して塗布を行い、硬化させて、基材(板ガラス)の全面に対して被膜を形成した後に、該被膜の所望の領域を物理的または化学的に除去してもよい。
【0054】
[硬化工程について]
前記塗布工程後の板ガラスを100~350℃の熱と水蒸気に曝すことにより、塗膜の硬化反応を進行させて、板ガラス表面に着色被膜を形成させることが好ましい。板ガラスの温度や、板ガラス表面に接触させる水蒸気の量が安定しやすいため、硬化工程をチャンバー内で行うことが好ましい。前記板ガラスを100℃超~350℃の過熱水蒸気に曝すと、短時間で脱水縮合反応が進行し、高硬度の被膜が得られるためより好ましい。さらに好ましい過熱水蒸気の温度は100℃超~300℃である。なお、過熱水蒸気とは、100℃の飽和水蒸気を更に加熱して得られる100℃超の水蒸気である。
【0055】
なお、前記塗布工程又はレべリング工程の後、前記板ガラスを100~350℃で加熱し、該温度範囲内で維持した状態で、前記硬化工程を行うことが好ましい。硬化工程の前に予め板ガラスを前記温度範囲内にしておく(「予備加熱工程」と記載する場合がある)と、硬化工程開始時に板ガラス表面に結露が生じ難くなるため、より均質な被膜を形成できるため好ましい。より好ましい前記加熱温度範囲は100~300℃である。
【0056】
前記硬化工程を経て得られる、前記着色被膜の膜厚は、1.5μm~8μmとすることが好ましい。前記着色被膜の膜厚が、1.5μm未満の場合、被膜の発色性が悪くなるので、発色性を保つために顔料の含有量を増やす必要があり、結果として被膜の耐久性が劣
るものとなりやすい。他方、8μm超の場合でも、被膜の耐久性が悪くなりやすくなる。これらを考慮すると、前記着色被膜の膜厚は、2μm~7μm、さらには2.5μm~6μmとすることが好ましい。
【実施例
【0057】
以下に、本発明の実施例及び比較例で得られた着色被膜付板ガラスの評価方法について説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
[被膜中のSi-O-B結合の有無]
得られた着色被膜付板ガラスの被膜の一部を削り取って、その破片の固体11B-NMR測定及び固体29Si-NMR測定から被膜中のSi-O-B結合の有無を確認した。
【0059】
[膜厚]
小坂研究所製サーフコーダーET4000Aを用いて、着色被膜付板ガラスの被膜の膜厚を測定した。
【0060】
[外観]
目視観察にて、着色被膜付板ガラスの被膜にクラックや着色や白濁(被膜中で紫外線吸収剤が凝集等により均一に分散されていない)等の外観上の不具合がないかどうか確認した。
【0061】
[ヘーズ値]
日本電色工業製ヘーズメーターNDH2000を用いて、着色被膜付板ガラスのヘーズ値を測定した。得られた着色被膜付板ガラスのヘーズ値が3.0%未満であれば、着色被膜付板ガラスの実使用上の透明性の観点から良好であり、該ヘーズ値が小さいほど透明性がより優れているといえる。
【0062】
[紫外線透過率]
日立製分光光度計U-4100を用いて、着色被膜付板ガラスの紫外線透過率TUVを、ISO9050-1990に準拠して算出した。TUVが1%未満を合格とした。
【0063】
[色差]
着色被膜付板ガラスのL*a*b*を、ISO11664-4に準拠し、求めた。以下で述べる耐湿性試験、耐熱性試験、耐候性試験の各試験前後で色差△Eが5未満のものを合格と
した。
【0064】
[耐湿性試験]
JIS R 3212に準拠し、50℃、95%RHの環境で着色被膜付板ガラスを500h保持し、試験後の外観および該色差を確認した。試験後に外観上の不具合がなく、試験前後の色差が±5以下であれば、着色被膜付板ガラスの実使用上の耐湿性の観点から
良好であり、該色差が小さいほど耐湿性がより優れているといえる。
【0065】
[耐熱性試験]
80℃の環境で着色被膜付板ガラスを500h保持し、試験後の外観と色差を確認した。試験後に外観上の不具合がなく、試験前後の色差が±5以下であれば、着色被膜付板ガ
ラスの実使用上の耐熱性の観点から良好であり、該色差が小さいほど耐熱性がより優れているといえる。
【0066】
[耐候性試験]
JIS R 3212に準拠し、スガ試験機製サンシャインウェザーメーターSX80
を用い、ブラックパネル温度83℃で、着色被膜付板ガラスのガラス面(非被膜面)に1000h光照射し、試験後の外観と該色差を確認した。試験後に外観上の不具合がなく、試験前後の色差が±5以下であれば、着色被膜付板ガラスの実使用上の耐候性の観点から
良好であり、該色差が小さいほど耐候性がより優れているといえる。
【0067】
[耐摩耗性試験]
JIS R 3212に準拠し、着色被膜付板ガラスの被膜面を上面として着色被膜付板ガラスを回転台にのせ、該被膜面に対し4.9Nの荷重の摩耗ホイール(大和化成工業製C180 0XF)で1000回転させ、試験を行った箇所のヘーズ値と試験を行う前の該箇所のヘーズ値との差を算出した。前記のヘーズ値の差が±5%未満であれば、着色被膜付板ガラスの実使用上の耐摩耗性の観点から良好であり、該ヘーズ値の差が小さいほど耐摩耗性がより優れているといえる。
【0068】
[実施例1]
着色被膜形成用塗布液を得る工程;
反応容器中において、(a)成分として、3-アミノプロピルトリエトキシシラン液16.30gに、(b)成分として、ホウ酸(HBO)粉末2.73gを加え((a)成分1モルに対して(b)成分を0.6モルの比率で添加)、23℃5分間攪拌後、(c)成分として、テトラメトキシシラン29.15gを添加し((a)成分1モルに対して(c)成分が2.6モルの比率で存在するように添加)、(d)成分として、ナガセケムテックス製エポキシ樹脂CY232を5.35g(全固形分に対して18質量%の比率で存在するように添加)添加した後、60℃で120時間反応させ粘稠な液体を形成した。
【0069】
この液体に溶媒として2-ヘプタノン(SP値:8.5(cal/cm1/2)33.27g、グリコールエーテル類の3-メトキシ-3-メチルブタノール(SP値:10.5(cal/cm)1/2)8.79gを添加し、紫外線吸収剤としてBASF製のトリアジン系紫外線吸収剤TINUVIN460(SP値:10.9(cal/cm1/2)を2.61g、光安定剤TINUVIN292を0.52g、顔料分散体(固形分濃度:10%、青色系の顔料のフタロシアニンブルーPigment Blue15
:4、D50が114nmのものを用いた。)を1g添加して固形分濃度が29質量%の被膜形成用塗布液とした。
【0070】
なお、該塗布液中に含まれる溶媒のSP値は9.0(cal/cm1/2である。作製した塗布液は着色透明であり凝集等による白濁は確認されず、紫外線吸収剤(TINUVIN460)およびフタロシアニンブルーPigment Blue15:4が塗布
液中で均一に分散できていた。なお、本実施例以外のすべての実施例においても得られた塗布液は着色透明であり凝集等による白濁は確認されず、紫外線吸収剤および顔料が塗布液中で均一に分散できていた。本実施例では、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.7質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.03倍含むものであった。
【0071】
塗布工程;
前記塗布液を5g用いて、フロート板ガラス(縦10cm、横10cm、厚さ3mm、ISO9050に準拠した可視光線透過率:90.5%、JIS R3106に準拠した日射透過率:86.0%、ISO9050に準拠した紫外線透過率59.6%、380-780nmの波長域において、厚さ1mm当たりの吸光度が0.013以下:クリアガラスの板ガラス)上にスピンコートした。なお、実施例および比較例に用いた被膜の膜厚はスピンコートの回転速度で調整した。
【0072】
レベリング工程;
前記塗布液が塗布された板ガラスを室温で10分間水平に静置した。
予備加熱工程;
前記レべリング工程後、前記塗布液が塗布された板ガラスを180℃の熱風循環炉にて5分間加熱した。
硬化工程;
前記予備加熱後、新熱工業製過熱水蒸気装置を用いて、前記塗布液が塗布された板ガラスを、180℃の過熱水蒸気に10分間曝露して着色被膜付板ガラスを得た。該着色被膜において、膜厚は4.4μmであった。着色被膜付板ガラスの評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
[実施例2]
(c)成分として、テトラエトキシシランを使用し、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.7質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.03倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本実施例で得られた着色被膜の膜厚は4.3μmであった。着色被膜付板ガラスの評価結果を表1に示す。
【0075】
[実施例3]
紫外線吸収剤としてBASF製のトリアジン系紫外線吸収剤TINUVIN477(SP値:11.4(cal/cm1/2)を使用し、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.7質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.03倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本実施例で得られた着色被膜の膜厚は4.5μmであった。当着色被膜付板ガラスの評価結果を表1に示す。
【0076】
[実施例4]
黄色系の顔料としてPigmentYellow150(D50が125nmのものを用いた。)を使用し、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.8質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.17倍含むものとした以外は、実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本実施例で得られた着色被膜の膜厚は4.3μmであった。当着色被膜付板ガラスの評価結果を表1に示す。
【0077】
[実施例5]
赤色系の顔料としてPigmentRed202(D50が120nmのものを用いた。)を使用し
、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.6質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.08倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本実施例で得られた着色被膜の膜厚は4.5μmであった。当着色被膜付板ガラスの評価結果を表1に示す。
【0078】
[実施例6]
黒色系の顔料としてPigmentBlack26(D50が65nmのものを用いた。)を使用し、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.6質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.13倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本実施例で得られた着色被膜の膜厚は4.8μmであった。当着色被膜付板ガラスの評価結果を表1に示す。
【0079】
[実施例7]
緑色系の顔料としてPigmentGreen36(D50が135nmのものを用いた。)を使用し、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.7質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.33倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本実施例で得られた着色被膜の膜厚は4.7μmであった。当着色被膜付板ガラスの評価結果を表1に示す。
【0080】
[比較例1]
紫外線吸収剤としてシプロ化成製ベンゾフェノン系紫外線吸収剤SEESORB106(SP値:13.0(cal/cm1/2)、赤色系の顔料としてPigmentRed202(
50が120nmのものを用いた。)を使用し、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が8.2質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.07倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを
得た。本比較例で得られた着色被膜の膜厚は4.5μmであった。当着色被膜付板ガラスは耐候性試験で△E=9.1であり、変化が大きかった。
【0081】
[比較例2]
紫外線吸収剤としてBASF製のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤TINUVIN109(SP値:11.1(cal/cm3)1/2)、赤色系の顔料としてPigmentRed202(D50が120nmのものを用いた。)を使用し、着色被膜形成用塗布液において、
全固形分に対して前記紫外線吸収剤が9.3質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.06倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本比較例で得られた着色被膜の膜厚は4.5μmであった。当着色被膜付板ガラスは耐候性試験で△E=5.5であり、変化が大きかった。
【0082】
[比較例3]
赤色系の顔料としてPigmentRed202(D50が120nmのものを用いた。)を使用し
、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.6質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.08倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本比較例で得られた着色被膜の膜厚は11μmであった。当着色被膜付板ガラスは、発色性は良好であったが、耐候性試験で被膜にクラックが発生した。
【0083】
[比較例4]
黄色系の顔料としてPigmentYellow150(D50が125nmのものを用いた。)を使用し、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.4質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.55倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本比較例で得られた着色被膜の膜厚は1.3μmであった。当着色被膜付板ガラスは、耐摩耗性試験の前後で、へーズ値の差が5.5%であり、被膜の耐摩耗性が低いものであった。
【0084】
[比較例5]
黄色系の顔料としてPigmentYellow150(D50が125nmのものを用いた。)を使用する以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本比較例では、着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が12.6質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.10倍含むものであった。また、該着色被膜において、膜厚は5.6μmであった。得られた着色被膜付板ガラスは耐湿性試験で被膜表面に固形物が析出した。
【0085】
[比較例6]
着色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.7質量%、実施例1と同じ顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.01倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本比較例で得られた着色被膜の膜厚は5.2μmであった。当着色被膜付板ガラスの発色性が悪かった。
【0086】
[比較例7]
赤色系の顔料としてPigmentRed202(D50が120nmのものを用いた。)を使用し
、色被膜形成用塗布液において、全固形分に対して前記紫外線吸収剤が7.6質量%、前記顔料を前記紫外線吸収剤に対して、質量比で0.57倍含むものとした以外は実施例1と同様の方法で着色被膜付板ガラスを得た。本比較例で得られた着色被膜の膜厚は5.3μmであった。当着色被膜付板ガラスの初期ヘーズは3.5%であり、透明性が低かった。また、耐候性試験の前後で、色の変化が6.8であり、被膜の変色が大きいものであった。