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特許6993608透明スクリーン、映像表示システム、及び透明スクリーンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】透明スクリーン、映像表示システム、及び透明スクリーンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/60 20140101AFI20220105BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20220105BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20220105BHJP
   G03B 21/62 20140101ALI20220105BHJP
【FI】
G03B21/60
G03B21/14 Z
G02B5/02 B
G03B21/62
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017056806
(22)【出願日】2017-03-23
(65)【公開番号】P2018159800
(43)【公開日】2018-10-11
【審査請求日】2020-02-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 晋作
【審査官】石本 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-015824(JP,A)
【文献】特開2006-133700(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0313494(US,A1)
【文献】特開2006-259642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C03C15/00-23/00
G02B1/00-5/136
G03B21/00-21/10
21/12-21/30
21/56-21/64
33/00-33/16
H04N5/66-5/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像を表示する透明スクリーンであって、
少なくとも一方の主面に凹凸を有し、
前記凹凸を有する主面における、算術平均粗さRaが1nm以上かつ500nm以下であり、粗さ曲線の平均長さRSmが888nm以上かつ5000nm以下である透明スクリーン用基板により構成されてなる、ことを特徴とする透明スクリーン。
【請求項2】
前記凹凸を有する主面における、最大高さ粗さRzが30nm以上かつ600nm以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の透明スクリーン。
【請求項3】
ヘイズが、可視光の波長域において60%未満である、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の透明スクリーン。
【請求項4】
ヘイズが、可視光の波長域において30%未満である、ことを特徴とする請求項1~請求項の何れか一項に記載の透明スクリーン。
【請求項5】
前記透明スクリーンは、複数枚の透明スクリーン用基板により構成されてなり、前記透明スクリーン用基板の主面の凹凸は、他の透明スクリーン用基板と接してなる、ことを特徴とする請求項1~請求項の何れか一項に記載の透明スクリーン。
【請求項6】
請求項1~請求項の何れか一項に記載される透明スクリーンと、
前記透明スクリーンに映像光を投影する投影機とを備え、
前記投影機は、前記透明スクリーンの凹凸に映像光を投影するように構成されてなる、ことを特徴とする映像表示システム。
【請求項7】
映像を表示する透明スクリーンの製造方法であって、
ガラス基板に少なくとも一方の主面にウェットサンドブラスト処理を施し、主面に算術平均粗さRaが1nm以上かつ500nm以下であり、粗さ曲線の平均長さRSmが888nm以上かつ5000nm以下である凹凸を形成する、ことを特徴とする透明スクリーンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明スクリーン、映像表示システム、及び透明スクリーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショーケース、芸術品の展示ケース、建物・ショールーム等の窓、パーティション等に用いられる透明スクリーンとして、観察者側から見て反対側の光景が視認でき、且つ観察者は、プロジェクタなどの映像照射装置から照射された映像を視認することができる透明スクリーンが提案されている。
【0003】
このような透明スクリーンは、リア型またはフロント型に分類される。フロント型の透明スクリーンは、透明スクリーンに対して観察者側と同じ側に設置された映像照射装置から照射された光を、透明スクリーン基板の表面で散乱反射させ、そして、その散乱反射させた光を映像として、透明スクリーンの表面に表示するように構成されている。一方、リア型の透明スクリーンは、透明スクリーンに対して観察者側の反対側に設置された映像照射装置から照射された光を散乱透過させ、その散乱透過させた光を映像として表示するように構成されている。
【0004】
例えば特許文献1には、2枚の透明基材の中間層に、透明バインダ中に光散乱材(たとえば中空ビーズ)を分散させてなる光散乱層を形成させた透過型透明スクリーンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4847329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前述のような透明スクリーンは、中間層に樹脂バインダと光散乱材を含むため、映像が不鮮明になったり、透明スクリーンが白濁したり、黒ずんで見えたりする。そのため、全体として透明度に関する指標で曇度を表すヘイズが高くなる傾向がある。それにより、また、樹脂層は、耐光性が低いため、太陽光が当たる環境下で使用した場合に経年劣化による色の変化が生じるという欠点もある。
【0007】
そこで、本発明においては、映像が鮮明であるとともに、高い透明度を保持した透明スクリーンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する透明スクリーン、映像表示システム、及び透明スクリーンの製造方法は、以下の特徴を有する。
即ち、本発明に係る透明スクリーンは、映像を表示する透明スクリーンであって、少なくとも一方の主面に凹凸を有し、前記凹凸を有する主面における、算術粗さRaが1nm以上かつ500nm以下であり、粗さ曲線の平均長さRSmが200nm以上かつ5000nm以下である透明スクリーン用基板により構成されてなる。
このような構成により、透明スクリーンは、高い透明度を保持することができる。また、投影機から投影された映像を、透明スクリーン上に鮮明に表示することができる。ここで、本明細書における「映像」とは、時間の経過とともに表示内容が変化する「動画」、及び時間が経過しても表示内容が変化しない「静止画」の両方を含む。
【0009】
また、前記凹凸を有する主面における、最大高さ粗さRzが30nm以上かつ600nm以下である。
これにより、透明スクリーンの高い透明度を保持しつつ、投影機から投影された映像を、透明スクリーン上に鮮明に表示することができる。
【0010】
また、ヘイズが、可視光の波長域において60%未満である。
これにより、透明スクリーンの高い透明度を保持することができる。
【0011】
また、ヘイズが、可視光の波長域において30%未満である。
これにより、透明スクリーンの高い透明度をより保持することができる。
【0012】
また、前記透明スクリーンは、複数枚の透明スクリーン用基板により構成されてなり、前記透明スクリーン用基板の主面の凹凸は、他の透明スクリーン用基板と接してなる。
これにより、汚れが付着しにくくすることができる。
【0013】
また、本発明に係る映像表示システムは、請求項1~請求項5の何れか一項に記載される透明スクリーンと、前記透明スクリーンに映像光を投影する投影機とを備え、前記投影機は、前記透明スクリーンの凹凸側に映像光を投影するように構成されてなる。
これにより、透明スクリーンの高い透明度を保持し、投影機から投影された映像を、透明スクリーン上に鮮明に表示することができる。
【0014】
また、本発明に係る透明スクリーンの製造方法は、映像を表示する透明スクリーンの製造方法であって、ガラス基板に少なくとも一方の主面にウェットサンドブラスト処理を施し、主面に凹凸を形成する。
これにより、高い透明度を保持し、透明スクリーン上に表示された映像の解像度を保持した透明スクリーンを得ることができる。
【0015】
また、前記主面において、算術粗さRaが1nm以上かつ500nm以下であり、粗さ曲線の平均長さRSmが200nm以上かつ5000nm以下である凹凸を形成する。
これにより、透明スクリーンの高い透明度を保持し、投影機から投影された映像を、透明スクリーン上に鮮明に表示することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、映像が鮮明であるとともに、高い透明度を保持した透明スクリーンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係る透明スクリーンを示す概略側面断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る透明スクリーンを示す概略側面断面図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係る透明スクリーンを示す概略側面断面図である。
図4】リア型の透明スクリーンを説明するための概略側面断面図である。
図5】リア型の透明スクリーンを説明するための概略側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明に係る透明スクリーン、及び映像表示システムを実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0019】
図1に示す映像表示システム10は、本発明に係る透明スクリーンを備えた映像表示システムの一実施形態である。図1に示す映像表示システム10は、フロント型の映像表示システム10である。透明スクリーンは、透明スクリーンに対して観察者側と同じ側に設置された映像照射装置から照射された光を、透明スクリーン基板の表面で散乱反射させ、そして、その散乱反射させた光を映像として、透明スクリーンの表面に表示するように構成されている。
映像表示システム10は、映像を表示する透明スクリーン20と、透明スクリーン20の斜め上方側に配置される投影機30とを備える。透明スクリーン20は、本発明に係る透明スクリーンであり、投影機30は、本発明に係る透明スクリーンに映像を投影する投影機の一例である。なお、図1において、「観察者側」とは、観察者Xが存在する側、すなわち紙面左側である。
【0020】
映像表示システム10は、透明スクリーン20に対して投影機30から映像光Lを投影することにより、透明スクリーン20に映像を表示させている。
透明スクリーン20は、例えば、空間を仕切るパーティションとして用いることができる。
【0021】
投影機30は、透明スクリーン20に映像光Lを投射できるプロジェクタである。映像光Lは、透明スクリーン20で散乱され反射光Rとなり、透明スクリーン20に映像が表示される。なお、映像光Lの一部は、透明スクリーン20を散乱透過する。そのため、映像は、観察者X側と反対側からも確認できる。ただし、観察者X側と反対側から映像を確認した場合、映像が反転して見える。プロジェクタとしては、例えば、短焦点プロジェクタが挙げられる。短焦点プロジェクタは、10~90cmの至近距離からの映像光Lの投射が可能なプロジェクタである。
【0022】
(1)第1の実施形態に係る透明スクリーン
次に、透明スクリーン20について説明する。透明スクリーン20は、例えば、ガラス基板、石英基板、ポリカーボネート等の透明樹脂基板、結晶化ガラス基板、透明セラミック基板等により構成される。本実施形態では、透明スクリーン20は、ガラス基板により構成される。透明スクリーン20の少なくとも一方の主面20aに凹凸が形成されている。図1において、凹凸は、観察者X側に形成されている。透明スクリーン20を構成するガラス基板としては、例えばアルミノシリケートガラス、又はホウケイ酸ガラスからなるガラス基板を用いることができる。ガラス基板がアルカリ含有アルミノシリケートガラスからなる場合、ガラス基板は、表面に化学強化層を有していても良い。
透明スクリーン20の厚みは、例えば、30μm~5cm程度が好ましい。本実施形態のように、透明スクリーン20がガラス基板により構成される場合、厚みが100μm以下であれば、透明スクリーン20は可撓性を有するため、透明スクリーン20の形状を自由に設計できる。
【0023】
透明スクリーン20は、透光性を有する。なお、「透光性」とは、観察者Xの透明スクリーンの反対側から照射された光(太陽光、照明等)が観察者X側に透過することを意味する。例えば、透明スクリーン20の可視光(波長域(380nm~780nm))の平均透過率は、40%以上である。これにより、観察者Xの透明スクリーンの反対側から照射された光が観察者X側に透過することができる。このような平均透過率を有するガラス基板の具体例としては、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、リチウムアルミノケイ酸ガラスなどが挙げられる。
【0024】
透明スクリーン20の主面20aの凹凸は、算術平均粗さRaが1nm以上かつ500nm以下となっている。
【0025】
透明スクリーン20の主面20aにおける算術平均粗さRaが、このような範囲であることにより、透明スクリーン20においては、高い透明度を保持しつつ、投影機30から投影された映像を、透明スクリーン20上に鮮明に表示することができる。
【0026】
本実施形態の場合、透明スクリーン20における算術平均粗さRaの下限値は1nmに設定されているが、10nmに設定することが好ましく、15nmに設定することがさらに好ましい。
また、算術平均粗さRaの上限値は500nmに設定されているが、400nmに設定することが好ましく、300nmに設定することがさらに好ましい。
【0027】
本実施形態の場合、透明スクリーン20における粗さ曲線の平均長さRSmが200nm以上かつ5000nm以下であることにより、投影機30から投影された映像を、透明スクリーン20上に鮮明に表示することができる。
【0028】
本実施形態の場合、透明スクリーン20における粗さ曲線の平均長さRSmの下限値は200nmに設定されているが、250nmに設定することが好ましく、350nmに設定することがさらに好ましい。
また、粗さ曲線の平均長さRSmの上限値は5000nmに設定されているが、4500nmに設定することが好ましく、4000nmに設定することがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態の場合、透明スクリーン20においては、最大高さ粗さRzが30nm以上かつ600nm以下であることにより、高い透明度を保持しつつ、投影機30から投影された映像を、透明スクリーン20上に鮮明に表示することができる。
【0030】
本実施形態の場合、透明スクリーン20の主面20aにおける最大高さ粗さRzの下限値は30nmに設定されているが、35nmに設定することが好ましく、40nmに設定することがさらに好ましい。
また、最大高さ粗さRzの上限値は600nmに設定されているが、500nmに設定することが好ましく、400nmに設定することがさらに好ましい。
【0031】
透明スクリーン20の凹凸は、観察者Xが透明スクリーン20を挟んで観察者Xの位置する反対側の物体または景色を視認する観点から、透明性に関する指標で曇度を表すヘイズが、可視光の波長域(380nm~780nm)において60%未満となるように形成されている。
透明スクリーン20のヘイズを60%未満とすることで、高い透明度を保持することができ、観察者Xは透明スクリーン20の反対側の物体または景色を視認することができる。
【0032】
本実施形態の場合、透明スクリーン20のヘイズは60%未満に設定されているが、50%未満であることが好ましく、30%未満であることがより好ましく、20%未満であることがさらに好ましい。
【0033】
また、透明スクリーン20の少なくとも一方の主面に汚れの付着を防止し、撥水性、撥油性を付与するための防汚膜を形成することができる。
防汚膜は、主鎖中にケイ素を含む含フッ素重合体を含むことが好ましい。含フッ素重合体としては、例えば、主鎖中に、-Si-O-Si-ユニットを有し、かつ、フッ素を含む撥水性の官能基を側鎖に有する重合体を用いることができる。含フッ素重合体は、例えばシラノールを脱水縮合することにより合成することができる。
【0034】
透明スクリーン20に防汚膜を有する場合、防汚膜の表面の凹凸が上述の表面粗さ(算術表面粗さRa、粗さ曲線の平均長さRSm、最大高さ粗さRz)の範囲となるように、透明スクリーン20の主面20aに凹凸が形成される。
また、透明スクリーン20に防汚膜を有する場合、防汚膜を形成した後の透明スクリーン20のヘイズが上述の範囲となるように、透明スクリーン20の主面20aに凹凸が形成される。
【0035】
また、透明スクリーン20の少なくとも一方の主面に、様々な機能を付与するためのフィルムを貼り付けてもよい。フィルムとしては、着色フィルム、防汚フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、防破フィルム等が挙げられる。
【0036】
次に、主面20aに凹凸を有する透明スクリーン20の作製方法について説明する。
前記凹凸は、当該主面20aにウェットブラスト処理を施すことにより形成される。
ウェットブラスト処理は、アルミナなどの個体粒子にて構成される砥粒と、水などの液体とを均一に攪拌してスラリーとしたものを、圧縮エアを用いて噴射ノズルからガラスからなるワークに対して高速で噴射することにより、前記ワークに凹凸を形成する処理である。
【0037】
ウェットブラスト処理においては、高速に噴射されたスラリーがワークに衝突した際に、スラリー内の砥粒がワークの表面を削ることにより、ワークの表面に凹凸が形成されることとなる。この場合、ワークに噴射された砥粒や砥粒により削られたワークの破片は、ワークに噴射された液体により洗い流されるため、ワークに残留する粒子が少なくなる。透明スクリーン20は、表面に凹凸が形成されたワークを、切断すること等により所望の大きさや形状に加工することにより得られる。
【0038】
ウェットブラスト処理によりワークの主面に形成される凹凸の表面粗さは、主にスラリーに含まれる砥粒の粒度分布と、スラリーをワークに噴射する際の噴射圧力とにより調整可能である。
【0039】
ウェットブラスト処理においては、スラリーをワークに噴射した場合、液体が砥粒をワークまで運ぶため、乾式ブラスト処理に比べて微細な砥粒を使用することができるとともに、砥粒がワークに衝突する際の衝撃が小さくなり、精密な加工を行うことが可能である。なお、乾式ブラスト処理を用いた場合、小さな砥粒を用いても適度な大きさの凹凸を形成することは困難である。このように、ワークに対してウェットブラスト処理を施すことで、透明スクリーン20の主面20aに適度な大きさの凹凸を形成しやすく、高い透明度を保持し、投影機30から投影された映像を、透明スクリーン20上に鮮明に表示することができる。
【0040】
なお、乾式ブラスト処理においては、噴射された砥粒がワークに衝突した際の摩擦によりワークに加工熱が発生するが、ウェットブラスト処理においては、処理中は液体がワークの表面を常に冷却しているため、ワークがブラスト処理により加熱されることがない。また、乾式ブラスト処理を施すことにより、透明スクリーン20の主面20aに凹凸を形成することも可能であるが、乾式ブラスト処理では砥粒が透明スクリーン20の主面に衝突する際の衝撃が大きすぎて、凹凸が形成された主面20aの表面粗さが大きくなりやすく、透明スクリーン20の透明度が損なわれやすい。
【0041】
また、透明スクリーン20の主面20aに凹凸を形成する方法としては、透明スクリーン20の主面20aをフッ化水素(HF)ガス又はフッ化水素酸によりエッチングする方法があるが、これらのエッチングにより得られる凹凸は小さくなりやすく、映像を明瞭に表示することが困難となりやすい。
【0042】
(2)第2の実施形態に係る透明スクリーン
図2は、本発明の第2の実施形態に係る透明スクリーン40を示す模式的断面図である。透明スクリーン40は、一方に凹凸が形成された主面41aを有する透明スクリーン用基板41の2枚が互いに重ね合わせられた構造からなる。具体的には、透明スクリーン用基板41の主面41aどうしが重ね合わせられた構造である。透明スクリーンの凹凸が形成された表面には汚れが付着しやすく、クリーニングし難い。第2の実施形態に係る透明スクリーン40は、凹凸が露出していないため、汚れが付着しにくく、クリーニングしやすい。
【0043】
なお、2枚の透明スクリーン用基板41は、樹脂などの接着剤で接着しても良い。接着剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合(EVA)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)等の熱可塑性樹脂でなる透明な接着剤が挙げられる。
【0044】
(3)第3の実施形態に係る透明スクリーン
図3は、本発明の第3の実施形態に係る透明スクリーン50を示す模式的断面図である。透明スクリーン50は、凹凸が形成された主面51aを有する透明スクリーン用基板51と、凹凸が形成されていない透明スクリーン用基板52が互いに重ね合わせられた構造からなる。具体的には、透明スクリーン用基板51の主面51aと、透明スクリーン用基板52の主面52aが重ね合わされた構造である。凹凸が形成された主面51aが外部に露出していないため、汚れが付着しにくい。なお、2枚の透明スクリーン用基板51・52は、樹脂などの接着剤で接着しても良い。
【0045】
なお、上述した実施形態では、フロント型の映像表示システムであるが、例えば、図4図5のように、リア型の透明スクリーンであっても良い。図4及び図5において、映像表示システム60は、観察者X側と反対方向に配された投影機30から映像光Lが投影され、映像光Lは、透明スクリーンで散乱、透過して透過散乱光Sとなり、透明スクリーン20に映像が表示される。
【実施例
【0046】
次に、主面20aに凹凸を形成した透明スクリーン20の実施例について説明する。但し、透明スクリーン20はこれに限定されるものではない。
【0047】
[試料の作製]
本実施例においては、透明スクリーン20の実施例として試料1~4を作製し、比較例として試料5、6を作製した。
試料1~6に用いた透明スクリーン20としては、厚さが1.1mmのアルカリ含有アルミノシリケートガラス基板を使用した。
【0048】
実施例となる試料1~4の透明スクリーン20は、厚さが1.1mmの上記のガラス基板にウェットブラスト処理を施すことにより、一方の主面20aに凹凸を形成して作製した。
具体的には、ガラス基板に一方の主面の全体に対し、粒度が♯4000のアルミナにて構成される砥粒と水とを均一に攪拌することにより調製したスラリーを、ガラス基板を載置した処理台を10mm/sの速度で移動させながら、所定の処理圧力のエアを用いて噴射するウェットブラストを2回繰り返した。前記砥粒としては、多角形状を有する砥粒を用いた。
【0049】
試料1では、ガラス基板に対してスラリーを噴射した際の処理圧力は0.1MPaであり、試料2では、ガラス基板に対してスラリーを噴射した際の処理圧力は0.12MPaであり、試料3では、ガラス基板に対してスラリーを噴射した際の処理圧力は0.15MPaであり、試料4では、ガラス基板に対してスラリーを噴射した際の処理圧力は0.25MPaであった。
【0050】
比較例となる試料5の透明スクリーン20は、ガラス基板の主面に処理を施していないものである。つまり試料5の透明スクリーン20は未処理である。
比較例となる試料6の透明スクリーンは、ガラス基板の一方の主面にSiO成分を含む液体を噴射することにより塗布し、塗布したSiO成分を含む液体を乾燥させることにより当該主面にSiOコーティング膜を形成することで作製した。
【0051】
[表面粗さの測定]
試料1~6の透明スクリーン20における主面20aの表面粗さを測定した。表面粗さの測定は、試料1~4についてはウェットブラスト処理を施した主面20aに対して行い、試料5についてはいずれか一方の主面20aに対して行い、試料6についてはSiOコーティング膜を形成した側の主面20aに対して行った。
【0052】
測定した表面粗さのパラメータは、算術表面粗さRa、最大高さ粗さRz、及び粗さ曲線の平均長さRSmである。
ただし、算術表面粗さRa、最大高さ粗さRzは試料1~6について測定し、粗さ曲線の平均長さRSmは試料1~4、6について測定した。
【0053】
試料1~5に対する算術表面粗さRa、最大高さ粗さRzの測定は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて行った。
【0054】
用いた原子間力顕微鏡は、Bruker社製の原子間力顕微鏡(SPM unit:Dimension Icon,Controller unit: Nano Scope V)であり、JIS B0601‐2013に基づいて測定を実施した。また、測定条件は、タッピングモードを使用し、測定エリア10×10μmの領域に対して、スキャンレートが1Hz、取得データ数が512×512となるように実施した。
【0055】
試料6に対する算術表面粗さRa、最大高さ粗さRzの測定は、試料6の測定値が試料1~5の測定値よりも大きくなることから、原子間力顕微鏡よりも大きな値を測定するのに適したレーザー顕微鏡を用いて行った。
また、試料1~4、6に対する粗さ曲線の平均長さRSmの測定は、本実施例において測定した他のパラメータよりも広い範囲を測定する必要があるため、原子間力顕微鏡よりも広範囲を測定するのに適したレーザー顕微鏡を用いて測定した。
【0056】
用いたレーザー顕微鏡は、キーエンス製レーザー顕微鏡(VK-X250)であり、JIS B0601‐2013に基づいて測定を実施した。
また、測定は、測定エリア約32×24μmの領域に対して、取得データ数が1024×768ピクセルであり、基準長さが測定エリアの1/5程度となるように実施した。
【0057】
[表面粗さの測定結果]
試料1~6について行った表面粗さの測定結果について説明する。
表1に測定結果を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、算術表面粗さRaは、実施例となる試料1~4については6.9nm~18.4nmの範囲にあり、ウェットブラスト処理の処理圧力が大きくなるに従って算術表面粗さRaの値も大きくなる傾向にある。未処理の比較例である試料5については、試料1~4よりもRaが小さく、0.2nmであった。SiOコーティング膜を形成した比較例である試料6については、試料1~4よりもRaが大きく146nmであった。
【0060】
最大高さ粗さRzは、実施例となる試料1~4については173nm~385nmの範囲にあり、ウェットブラスト処理の処理圧力が大きくなるに従って最大高さ粗さRzの値も大きくなる傾向にある。未処理の比較例である試料5については、試料1~4よりも小さく、14nmであった。SiOコーティング膜を形成した比較例である試料6については、試料1~4よりも大きく、831nmであった。
【0061】
粗さ曲線の平均長さRSmは、実施例となる試料1~4については888nm~1220nmの範囲にあり、ウェットブラスト処理の処理圧力が大きくなるに従って粗さ曲線の平均長さRSmも大きくなる傾向にある。SiOコーティング膜を形成した比較例である試料6については、試料1~4よりも大きく、14404nmであった。
【0062】
[ヘイズの測定]
試料1~4、6についてヘイズの測定を行った。ヘイズの測定は、SUGA TESTINSTRUMENTS社製ヘーズコンピューター(Haze Computer HZ-2)を用い、JIS K7136、JIS K7361-1に基づいて測定した。
【0063】
[ヘイズの測定結果]
表1に示すように、ヘイズは、実施例となる試料1~4については0.22%~1.77%の範囲にあり、ウェットブラスト処理の処理圧力が大きくなるに従ってヘイズの値も大きくなる傾向にある。SiOコーティング膜を形成した比較例である試料6については、試料1~4よりも大きな10.9%であった。
【0064】
[映像の解像度評価]
投影機30により透明スクリーン20上に表示された映像の解像度について評価を行った。評価方法としては、透明スクリーン20に表示される映像が鮮明に見えるか否かを以下に示す5段階で評価を行った。5:鮮明な映像が見える、4:映像が十分に視認できるが、5より不鮮明、3:映像が視認できる、2:映像が視認できるが、不鮮明、1:映像が僅かに視認でき、不鮮明。
【0065】
[解像度の評価結果]
表1に示すように、映像の解像度は、実施例となる試料1~3については3または4となり、試料4については5となった。未処理の比較例である試料5については1となった。SiOコーティング膜を形成した比較例である試料6については5となった。
【0066】
[透明スクリーン反対側の映像の視認性]
透明スクリーン20に対して観察者Xが位置する反対側の背景の視認性について評価した。評価方法としては、観察者Xが透明スクリーン20の正面から1m離れた位置に立ち、透明スクリーン20に対して反対側の背景が視認できるか否かを評価した。透明スクリーン20の反対側の背景が視認できる場合を〇とし、それよりも背景が視認できない、もしくは視認できるが、不鮮明な場合を×として、反対側の視認性の判定を行った。
【0067】
[反対側の視認性評価結果]
表1に示すように、反対側の視認性は、実施例となる試料1~4については〇となり、未処理の比較例である試料5については○となり、SiOコーティング膜を形成した比較例である試料6については×となった。
【0068】
[各試料の総合評価]
表1に示すように、実施例となる試料1~4については、透明スクリーン20の主面20aの凹凸の形状が適切であるため、映像の解像度は3以上、反対側の背景の視認性が○といったように良好な評価結果が得られた。
一方、未処理の比較例である試料5については、透明スクリーン20の主面20aの凹凸が小さいため、映像の解像度が1と低かった。
また、SiOコーティング膜を形成した比較例である試料6については、凹凸が大きすぎるため、透明スクリーン20の反対側の背景の視認性が×となった。
【符号の説明】
【0069】
10 映像表示システム
20 透明スクリーン
20a 主面
30 投影機
図1
図2
図3
図4
図5