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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】絶縁部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20220105BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20220105BHJP
   H01B 3/08 20060101ALI20220105BHJP
   H01B 19/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/083
H01B3/08 A
H01B19/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018513103
(86)(22)【出願日】2017-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2017014189
(87)【国際公開番号】W WO2017183454
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2016085029
(32)【優先日】2016-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川本 浩佑
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦
【審査官】山田 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-287250(JP,A)
【文献】特開昭60-122734(JP,A)
【文献】特表2011-510903(JP,A)
【文献】特表2011-529438(JP,A)
【文献】特開平10-284217(JP,A)
【文献】特開平01-157436(JP,A)
【文献】Narottam P. Bansal, R. H. Doremus,Handbook of Glass Properties,1986年,32頁-37頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
C03C 1/00-14/00
H01B 17/56-19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 40~75%、Al 10~30%、Na O 5~25%を含有するアルカリ含有ガラスからなる絶縁部材であって、
断面外形が略真円になる球形状を有し、密度が2.60g/cm以下であり、イオン交換による表面圧縮応力層を有し、且つ駆動装置に組み込まれることを特徴とする絶縁部材。
【請求項2】
150℃における体積電気抵抗率が105.0Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁部材。
【請求項3】
略真円の断面外形上の表面圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ応力深さが25μm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁部材。
【請求項4】
アルカリ含有ガラスが、ガラス組成として、質量%で、SiO 40~75%、Al 18~30%、NaO 5~25%を含有することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の絶縁部材。
【請求項5】
ガラス組成として、質量%で、SiO 40~75%、Al 10~30%、Na O 5~25%を含有し、アルカリ含有ガラスからなる絶縁部材の製造方法であって、
断面外形が略真円になる球形状を有し、密度が2.60g/cm以下となるアルカリ含有ガラスを作製した後に、該アルカリ含有ガラスをイオン交換処理して、表面圧縮応力層を形成し、駆動装置に組み込まれることを特徴とする絶縁部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に用いられる絶縁部材及びその製造方法に関し、具体的には軽量、高強度、低コストであり、且つ加工性に優れる絶縁部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧印加下で高速回転する装置等には、絶縁部材が使用されている。例えば、特許文献1には、放射線技術用の高電圧発生器に使用される絶縁部材として、樹脂とセラミックを組み合わせたハイブリット絶縁部材を用いることが開示されている。特許文献2には、金属シャフトに代わって、セラミックシャフト等の絶縁部材を採用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-527907号公報
【文献】実開平05-062540号公報
【文献】特開2009-190959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車の普及に伴い、誘導電流、誘導磁場の発生空間内で駆動する絶縁部材に対して、軽量、高強度等の要求が高まるものと予想される。
【0005】
現在、高強度の絶縁部材として、窒化珪素等の非酸化物系セラミックが使用されている(特許文献3参照)。しかし、非酸化物系セラミックは、高価であり、重く、加工性が低いという問題がある。
【0006】
また、絶縁部材として、加工性が高い酸化物系ガラスを使用することも想定される。しかし、酸化物系ガラスは、脆性材料であり、強度が低いという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、軽量、高強度及び低コストであると共に、加工性に優れる絶縁部材及びその製造方法を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、低密度のアルカリ含有ガラスに対して、略真円形状の断面外形を付与すると共に、イオン交換により表面圧縮応力層を形成することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の絶縁部材は、アルカリ含有ガラスからなる絶縁部材であって、略真円になる断面外形を有し、密度が2.60g/cm以下であり、イオン交換による表面圧縮応力層を有し、且つ駆動装置に組み込まれることを特徴とする。ここで、「アルカリ含有ガラス」とは、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物(LiO、NaO及びKO)の含有量が合量で3質量%以上のガラスを指す。「略真円になる断面外形」とは、少なくとも一方向からの断面外形が略真円であればよい。「略真円」とは、直径の寸法公差が1%以内(好ましくは0.5%以内、0.1%以内、0.05%以内、0.01%以内、0.005%以内、特に0.001%以内)であることを指す。「直径の寸法公差」は、例えば、画像検査装置を用いた画像解析等により測定可能である。「密度」は、アルキメデス法等により測定可能である。
【0009】
本発明の絶縁部材は、密度が2.60g/cm以下のアルカリ含有ガラスで構成される。これにより、軽量化を図りつつ、加工性を高めることが可能になる。一方、アルカリ含有ガラスは、脆性が高いため、強度が低い。そこで、本発明の絶縁部材は、イオン交換による表面圧縮応力を形成することにより、強度を高めている。
【0010】
また、本発明の絶縁部材は、略真円になる断面外形を有する。これにより、駆動装置に組み込まれる転動体として好適に使用可能になる。また電気自動車等のシャフト等にも好適に使用可能になる。なお、略真円になる断面外形は、絶縁部材の全ての領域に存在する必要はなく、例えば、駆動させる部位にのみ存在していてもよい。
【0011】
第二に、本発明の絶縁部材は、150℃における体積電気抵抗率が105.0Ω・cm以上であることが好ましい。ここで、「150℃における体積電気抵抗値」は、ASTM C657-78に基づいて測定した値であり、絶縁部材と同一のガラス組成、同一の熱履歴を有するガラス板(例えば板厚0.7mm)を同一条件でイオン交換処理し、得られたガラス板を測定試料とすることが好ましい。なお、ガラス組成(圧縮応力層の極小領域のガラス組成を含む)は、SEM-EDX(例えば日立ハイテクノロジーズ製S4300-SE、堀場製作所製EX-250)を用いたZAF法によるスタンダードレス定量分析で測定することができる。また、絶縁部材とガラス板のガラス組成を一致させた上で両者の密度が同一になるように、ガラス板の熱処理条件を調整すれば、ガラス板に絶縁部材と同様の熱履歴を付与することができる。
【0012】
第三に、本発明の絶縁部材は、150℃における体積電気抵抗率が、イオン交換前の体積電気抵抗率の10倍以上であることが好ましい。
【0013】
第四に、本発明の絶縁部材は、略真円の断面外形上の表面圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ応力深さが25μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力値」と「応力深さ」は、表面応力計(例えば、折原製作所製FSM-6000)を用いて試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出することができる。絶縁部材が1cm角以上の平坦部を有する場合、その平坦部の表面圧縮応力層の圧縮応力値と応力深さを測定すれば、略真円の断面外形上の表面圧縮応力層の圧縮応力値と応力深さを正確に見積もることができる。絶縁部材に1cm角以上の平坦部がない場合、絶縁部材と同一のガラス組成、同一の熱履歴を有するガラス板を同一条件でイオン交換処理し、得られたガラス板の表面圧縮応力層の圧縮応力値と応力深さを測定すれば、略真円の断面外形上の表面圧縮応力層の圧縮応力値と応力深さを正確に見積もることができる。
【0014】
第五に、本発明の絶縁部材は、アルカリ含有ガラスが、ガラス組成として、質量%で、SiO 40~75%、Al 10~30%、NaO 5~25%を含有することが好ましい。
【0015】
第六に、本発明の絶縁部材の製造方法は、アルカリ含有ガラスからなる絶縁部材の製造方法であって、略真円になる断面外形を有し、密度が2.60g/cm以下となるアルカリ含有ガラスを作製した後に、該アルカリ含有ガラスをイオン交換処理して、表面圧縮応力層を形成することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の絶縁部材の一例を示す概念図である。
図2】本発明の絶縁部材の一例を示す概念図である。
図3】本発明の絶縁部材の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の絶縁部材は、略真円になる断面外形を有する。このようにすれば、高速の回転、高摩擦、高荷重等の過酷な条件でも、安定的な駆動が期待できる。更に、このような断面形状は、溶融ガラスから形成し易く、またガラスを回転させながら研磨し得るため、ガラス表面の傷が少なくなり、高強度になり易い。
【0018】
本発明の絶縁部材は、断面外形が略真円になる円環状(又は円筒状)の絶縁部材であることが好ましい。この場合、円環の外径は、好ましくは100mm以下、80mm以下、50mm以下、特に30mm以下であり、また好ましくは1mm以上、2mm以上、4mm以上、特に5mm以上である。このようにすれば、駆動装置に組み込まれるシャフト等に好適に適用可能になる。なお、円環の内径は、特に限定されず、駆動装置の設計に応じて調整可能である。図1は本発明の絶縁部材の一例を示す概念図であり、図1(a)は、断面外形が略真円になる円環状の絶縁部材の斜視概念図であり、図1(b)は、図1(a)に示す絶縁部材を横方向に断面した時の断面概念図である。
【0019】
本発明の絶縁部材は、断面外形が略真円になる円柱状の絶縁部材であることが好ましい。この場合、円柱の直径は、好ましくは100mm以下、80mm以下、50mm以下、特に30mm以下であり、また好ましくは1mm以上、2mm以上、4mm以上、特に5mm以上である。このようにすれば、駆動装置に組み込まれるローラー、シャフト等に好適に適用可能になる。図2は本発明の絶縁部材の一例を示す概念図であり、図2(a)は、断面外形が略真円になる円柱状の絶縁部材の斜視概念図であり、図2(b)は、図2(a)に示す絶縁部材を横方向に断面した時の断面概念図である。
【0020】
本発明の絶縁部材は、断面外形が略真円になる球状の絶縁部材、つまり略真円状の絶縁部材であることが好ましい。この場合、球の直径は、好ましくは100mm以下、80mm以下、50mm以下、特に30mm以下であり、また好ましくは1mm以上、2mm以上、4mm以上、特に5mm以上である。このようにすれば、駆動装置、特に転動装置に組み込まれるスペーサー、球体等に好適に適用可能になる。図3は本発明の絶縁部材の一例を示す概念図であり、図3(a)は、断面外形が略真円になる球状の絶縁部材の斜視概念図であり、図3(b)は、図3(a)に示す絶縁部材を横方向に断面した時の断面概念図である。
【0021】
本発明の絶縁部材は、表面が研磨面であること、特に略真円の断面外形上の表面が研磨面であることが好ましい。このようにすれば、バリ等の成形欠陥が除去されるため、強度を高めつつ、寸法精度を高めることができる。また研磨面の表面粗さRaは、好ましくは1nm以下、0.5nm以下、0.4nm以下、0.3nm以下、特に0.2nm以下である。研磨面の表面粗さRaが大き過ぎると、高速の回転、高摩擦、高荷重等の過酷な条件で、絶縁部材が破損し易くなる。ここで、「表面粗さRa」は、絶縁部材を治具等で固定した状態で、JIS B0601:2001年に準拠した方法で測定することができる。
【0022】
本発明の絶縁部材において、密度は2.60g/cm以下であり、好ましくは2.55g/cm以下、2.5g/cm以下、2.49g/cm以下、特に2.48g/cm以下である。密度が低い程、絶縁部材を軽量化することができる。なお、密度を低下させるには、ガラス組成中のSiO、P、Bの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すればよい。
【0023】
150℃における体積電気抵抗率は、好ましくは105.0Ω・cm以上、105.5Ω・cm以上、106.0Ω・cm以上、106.5Ω・cm以上、107.0Ω・cm以上、107.5Ω・cm以上、108.0Ω・cm以上、108.5Ω・cm以上、108.7Ω・cm以上、109.0Ω・cm以上、特に109.5Ω・cm以上である。体積電気抵抗率が低過ぎると、絶縁性が低下し易くなる。
【0024】
150℃における体積電気抵抗率は、イオン交換前の体積電気抵抗率の10倍以上、50倍以上、100倍以上、200倍以上、250倍以上、特に300倍以上が好ましい。150℃における体積電気抵抗率がイオン交換前の体積電気抵抗率の10倍未満になると、強度と絶縁性を高いレベルで両立することが困難になる。
【0025】
30~380℃の温度範囲における熱膨張係数は、好ましくは70×10-7~110×10-7/℃、75×10-7~110×10-7/℃、80×10-7~110×10-7/℃、特に85×10-7~110×10-7/℃である。上記のように熱膨張係数を規制すれば、高速回転時に発生する熱により周辺の金属部材が膨張したとしても、適正に駆動させることができる。ここで、「熱膨張係数」とは、30~380℃の温度範囲において、ディラトメーターで測定した平均値である。
【0026】
歪点は、好ましくは520℃以上、550℃以上、560℃以上、特に570℃以上である。歪点が高い程、耐熱性が向上する。また歪点が高いと、イオン交換処理時に応力緩和が生じ難くなるため、高い圧縮応力値を確保し易くなる。
【0027】
高温粘度102.5dPa・sに相当する温度は、好ましくは1650℃以下、1600℃以下、1580℃以下、1550℃以下、1540℃以下、特に1530℃以下である。高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が低い程、低温でガラスを溶融することができる。よって、高温粘度102.5dPa・sに相当する温度が低い程、溶融窯等のガラス製造設備への負担が小さくなると共に、絶縁部材の泡品位を高めることができる。
【0028】
液相温度は、好ましくは1200℃以下、1150℃以下、1130℃以下、1110℃以下、1090℃以下、特に1070℃以下である。液相温度が高過ぎると、所望の形状に成形し難くなる。
【0029】
ヤング率は65GPa以上であって、好ましくは69GPa以上、好ましくは71GPa以上、好ましくは75GPa以上、特に好ましくは77GPa以上である。ヤング率が低過ぎると、絶縁部材が変形し易くなるため、高速の回転、高摩擦、高荷重等の過酷な条件で駆動が不安定になり易い。ここで、「ヤング率」は、例えば、周知の共振法等で測定可能である。
【0030】
本発明の絶縁部材は、イオン交換による表面圧縮応力層を有する。これにより、絶縁部材の強度を高めることができる。イオン交換により表面圧縮応力層を形成する方法として、イオン交換液中にアルカリ含有ガラスを浸漬して、ガラス表面にイオン半径の大きいアルカリイオンを導入する方法が好ましい。このようにすれば、表面圧縮応力層を短時間に形成することができる。更に、イオン交換により表面圧縮応力層を形成する方法として、KNO溶融塩中のKイオンとアルカリ含有ガラス中のNa成分とをイオン交換して、表面圧縮応力層を形成する方法が特に好ましい。このようにすれば、表面圧縮応力層中にKイオンとNaイオンが混在した状態になり、混合アルカリ効果により、ガラス表面の体積電気抵抗率を大幅に高めることができる。
【0031】
本発明の絶縁部材において、表面圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、600MPa以上、800MPa以上、900MPa以上、1000MPa以上、特に1100MPa以上である。圧縮応力値が大きい程、絶縁部材の機械的強度が高くなる。しかし、圧縮応力値が大き過ぎると、絶縁部材に内在する引っ張り応力が極端に高くなる虞がある。よって、圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは2500MPa以下である。なお、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換温度を下げると、圧縮応力値を大きくすることができる。
【0032】
応力深さは、好ましくは25μm以上、30μm以上、40μm以上、50μm以上、60μm以上、特に70μm以上である。応力深さが大きい程、高回転時の摩耗や異物により絶縁部材の表面に深い傷が付いても、絶縁部材が割れ難くなる。一方、応力深さが大き過ぎると、絶縁部材に内在する引っ張り応力が極端に高くなる虞がある。よって、応力深さは、好ましくは500μm以下、300μm以下、200μm以下、特に150μm以下である。なお、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換温度を高めると、応力深さを大きくすることができる。
【0033】
内部の引っ張り応力値は、好ましくは200MPa以下、150MPa以下、100MPa以下、特に50MPa以下である。内部の引っ張り応力値が小さい程、絶縁部材の内部欠陥によって絶縁部材が破損し難くなるが、内部の引っ張り応力値が極端に小さくなると、圧縮応力値や応力深さが低下して、絶縁部材の機械的強度が低下してしまう。よって、内部の引っ張り応力値は、好ましくは1MPa以上、10MPa以上、特に15MPa以上である。なお、「内部の引っ張り応力値」は、下記の数式1により算出した値を指す。なお、数式1でいう絶縁部材の厚みtとは、絶縁部材の対向する表面同士の距離の内、最も短い距離を指す。例えば、断面外形が略真円となる棒状(円柱状)の場合は、略真円の直径を指す。断面外形が略真円となる円盤状の場合、円盤の厚みを指す。
【0034】
〔数式1〕
CT = CS×DOL/(t×1000-2×DOL)
CT:内部の引っ張り応力値(MPa)
t:絶縁部材の厚み(mm)
CS:圧縮応力値(MPa)
DOL:圧縮応力層の深さ(μm)
【0035】
本発明の絶縁部材において、アルカリ含有ガラスが、ガラス組成として、質量%で、SiO 40~75%、Al 10~30%、NaO 5~25%を含有することが好ましい。上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を以下に説明する。なお、各成分の含有範囲の説明において、以下の%表示は、特に断りがない限り、質量%を指す。
【0036】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は、好ましくは40~75%、45~70%、45~65%、45~63%、特に48~61%である。SiOの含有量が多過ぎると、溶融性、成形性、熱膨張係数が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなり、また熱膨張係数が不当に高くなるため、周辺部材の熱膨張係数に整合し難くなったり、耐熱衝撃性が低下し易くなる。
【0037】
Alは、イオン交換性能、歪点、ヤング率を高める成分である。しかし、Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、所望の形状に成形し難くなる。また溶融性、熱膨張係数が低下し易くなる。よって、Alの好適な上限範囲は30%以下、28%以下、24%以下、23%以下、22%以下、21.5%以下、特に21%以下であり、好適な下限範囲は10%以上、12%以上、13%以上、15%以上、17%以上、特に18%以上である。
【0038】
NaOは、イオン交換成分であると共に、溶融性や成形性を高める成分である。また耐失透性を改善する成分でもある。しかし、NaOの含有量が多過ぎると、体積電気抵抗率が低くなったり、熱膨張係数が不当に高くなるため、周辺部材の熱膨張係数に整合し難くなったり、耐熱衝撃性が低下し易くなる。またガラス組成のバランスが崩れて、耐失透性が低下する虞がある。よって、NaOの含有量は、好ましくは5~25%、10~25%、11~22%、12~20%、13~19%、特に14~18%である。
【0039】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分を導入してもよい。
【0040】
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に応力深さを増大させる成分である。上記の通り、イオン交換性能を高めるためには、Alの増量が有効であるが、Alの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。よって、Alの導入量には限界がある。しかし、Pを導入すると、Alを増量しても、ガラスが失透し難くなるため、Alの導入許容量を高めることができる。結果として、イオン交換性能を飛躍的に高めることができる。一方、Pの含有量が多く過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性や耐失透性が低下し易くなる。以上の点を踏まえると、Pの好適な上限範囲は17%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、特に6%以下であり、好適な下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上である。
【0041】
は、液相温度、高温粘度、密度を低下させる成分であると共に、イオン交換性能、特に圧縮応力値を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、イオン交換によって表面にヤケが発生したり、耐水性、液相粘度、応力深さが低下する虞がある。よって、Bの含有量は、好ましくは0~6%、0~4%、0~3%、0~2%、特に0~1%未満である。
【0042】
LiOは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて溶融性や成形性を高める成分である。更にヤング率を高める成分である。しかし、LiOの含有量が多過ぎると、体積電気抵抗率が低下し易くなる。また液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなる。更に低温粘性が低下し過ぎて、イオン交換処理の際に応力緩和が生じ易くなり、かえって圧縮応力値が低下する虞がある。よって、LiOの含有量は、好ましくは0~10%、0~8%、0~5%、0~3%未満、0~2%、0~1%未満、0~0.1%未満、特に0~0.01%未満である。
【0043】
Oは、イオン交換を促進する成分であり、特にアルカリ金属酸化物の中では応力深さを増大させる効果が高い成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、耐失透性を改善する成分である。しかし、KOの含有量が多過ぎると、体積電気抵抗率が低下し易くなる。また熱膨張係数が不当に高くなるため、周辺部材の熱膨張係数に整合し難くなったり、耐熱衝撃性が低下し易くなる。更に歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成のバランスが崩れて、逆に耐失透性が低下する虞がある。KOの好適な上限範囲は10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、特に6%以下であり、好適な下限範囲は0%以上、0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上である。
【0044】
LiO、NaO及びKOの合量の好適な上限範囲は30%以下、25%以下、特に22%以下であり、好適な下限範囲は8%以上、10%以上、13%以上、特に15%以上である。LiO、NaO及びKOの合量が多過ぎると、体積電気抵抗率や耐失透性が低下し易くなる。また熱膨張係数が不当に高くなるため、、周辺部材の熱膨張係数に整合し難くなったり、耐熱衝撃性が低下し易くなる。一方、LiO、NaO及びKOの合量が少な過ぎると、イオン交換性能と溶融性が低下し易くなる。
【0045】
モル比KO/NaOは、好ましくは0~1、0~0.8、0.05~0.7、0.1~0.5、0.15~0.4、0.15~0.3、特に0.15~0.25である。このようにすれば、混合アルカリ効果により体積電気抵抗率を高めることができる。なお、「KO/NaO」は、KOの含有量をNaOの含有量で割った値である。
【0046】
MgOとCaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。しかし、MgOとCaOの含有量が多くなると、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。よって、MgOの含有量は、好ましくは10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、特に4%以下である。CaOの含有量は、好ましくは8%以下、6%以下、4%以下、2%以下、特に1%未満である。
【0047】
SrOとBaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。しかし、SrOとBaOの含有量が多くなると、密度や熱膨張係数が高くなったり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、SrOの含有量は、好ましくは3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%未満である。BaOの含有量は、好ましくは3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%未満である。
【0048】
MgO、CaO、SrO及びBaOの合量は、好ましくは0~15%、0~9%、0~6%、特に0~5%である。MgO、CaO、SrO及びBaOの合量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が不当に高くなったり、耐失透性やイオン交換性能が低下し易くなる。
【0049】
質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)は、耐失透性を高める観点から、好ましくは0.5以下、0.4以下、特に0.3以下である。なお、「(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量をLiO、NaO及びKOの合量で割った値である。
【0050】
ZnOは、イオン交換性能を高める成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、Pの存在下でZnOを増量すると、ガラスが分相したり、失透し易くなる。よって、ZnOの含有量は、好ましくは8%以下、4%以下、1%以下、0.1%以下、特に0.01%以下である。
【0051】
ZrOは、イオン交換性能、ヤング率、歪点を高める成分であり、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZrOの含有量が多くなると、耐失透性が低下し易くなる。よって、ZrOの含有量は、好ましくは0~10%、0~5%、0~3%、0~1%未満、0~0.4%、特に0~0.1%未満である。
【0052】
TiOは、イオン交換性能を高める成分であり、高温粘性を低下させる成分である。しかし、TiOの含有量が多くなると、ガラスが失透し易くなる。よって、TiOの含有量は、好ましくは0~4%、0~1%未満、0~0.1%未満、特に0~0.01%未満である。
【0053】
SnOは、イオン交換性能、特に圧縮応力値を高める成分である。しかし、SnOの含有量が多くなると、SnOに起因する失透が発生し易くなる。よって、SnOの含有量は、好ましくは0~3%、0.01~2%、0.05~1%、特に0.1~0.5%である。
【0054】
清澄剤として、As、Sb、CeO、F、Cl、SOの群から選択された一種又は二種以上を含有させてもよい。但し、環境に対する配慮から、AsとSbを添加しないことが好ましく、AsとSbの含有量は、それぞれ0.1%未満、特に0.01%未満が好ましい。Fの含有量は、低温粘性の低下による応力緩和を抑制するため、0.1%未満、特に0.01%未満が好ましい。
【0055】
Nb、La等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、希土類酸化物の合量が多くなると、原料コストが高騰し、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の合量は、好ましくは3%以下、2%以下、1%未満、0.5%以下、特に0.1%以下である。
【0056】
PbOとBiの含有量は、環境に対する配慮から、それぞれ0.1%未満が好ましい。
【0057】
本発明の絶縁部材において、表面から深さ2.5μmのKOの含有量は、表面圧縮応力層よりも深い内部領域のKOの含有量よりも多いことが好ましい。表面から深さ2.5μmのKOの含有量は、内部領域のKOの含有量よりも1mol%以上、3mol%以上、5mol%以上、7mol%以上、8mol%以上、9mol%以上、特に10mol%以上多いことが好ましい。表面から深さ2.5μmのKOの含有量と内部領域のKOの含有量は、SEM-EDX(例えば日立ハイテクノロジーズ製S4300-SE、堀場製作所製EX-250)を用いたZAF法によるスタンダードレス定量分析で測定することができる。
【0058】
本発明の絶縁部材は、例えば、以下のようにして作製することができる。まず特定組成のアルカリ含有ガラスになるように調合したガラスバッチを連続溶融炉に投入し、1500~1600℃で加熱溶融して、溶融ガラスを得た後、清澄容器、攪拌容器を経由して、成形容器に供給した上で各種形状に成形し、徐冷する。次に、得られたアルカリ含有ガラスの表面を研磨処理する。続いて、アルカリ含有ガラスをイオン交換溶液に浸漬して、アルカリ含有ガラスの表面にイオン交換による表面圧縮応力層を形成する。
【0059】
成形方法として、種々の成形方法を採択することができる。円環状(又は円筒状)に成形する場合はダンナー法が好ましい。円柱状に成形する場合は、ドローイング法が好ましい。球状に成形する場合は、マーブル成形法又は液滴成形法が好ましい。このようにすれば、絶縁部材の寸法精度が向上して、ガラス表面に対する研磨量を低減し易くなる。なお、バルク状のガラスを研削、研磨することにより、所定形状に加工することもできる。
【0060】
イオン交換処理は、例えば360~480℃の硝酸カリウム溶融塩中にアルカリ含有ガラスを1~100時間浸漬することにより行うことができる。生産効率の観点から、複数の絶縁部材を同時にイオン交換処理することが好ましく、絶縁部材同士が接触しないように、複数の絶縁部材を金属製治具に等間隔に配列し、この金属製治具を積層した状態でイオン交換処理することが更に好ましい。
【実施例
【0061】
実施例に基づいて、本発明を説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。以下の実施例は、単なる例示である。
【0062】
表1は、本発明の実施例(No.1~8)のガラス組成と特性を示している。
【0063】
【表1】
【0064】
次のようにして、表1の各試料を作製した。まず、表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金容器を用いて1580℃で8時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出し板状に成形した後、所定形状に機械加工して、5cm角、板厚0.7mmのガラス板を得た。またガラス板を機械加工して、直径φ0.6mm(寸法公差0.01%以内)、長さ5cmのガラス棒及び直径φ0.6mm(寸法公差0.01%以内)のガラス球を得た。
【0065】
各ガラス板の試料を用いて、下記特性を評価した。
【0066】
密度は、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
【0067】
熱膨張係数αは、30~380℃の温度範囲において、ディラトメーターで測定した平均値である。
【0068】
ヤング率Eは、周知の共振法によって測定した値である。
【0069】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法によって測定した値である。
【0070】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法によって測定した値である。
【0071】
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sに相当する温度は、白金球引き上げ法によって測定した値である。
【0072】
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0073】
150℃における体積電気抵抗率ρbeforeは、ASTM C657-78に準拠して測定した値である。
【0074】
続いて、各ガラス板の両表面に光学研磨を施した後、イオン交換処理を行った。イオン交換処理は430℃のKNO溶融塩中に各ガラス板を4時間浸漬することで行った。同様にして、各ガラス棒及びガラス球についても上記イオン交換処理を行った。イオン交換処理後、各ガラス板の表面を洗浄し、表面応力計(折原製作所製FSM-6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から圧縮応力層の圧縮応力値CSと応力深さDOLを算出した。算出に当たり、各ガラス板の屈折率を1.50、光学弾性定数を30[(nm/cm)/MPa]とした。なお、ガラス表層のガラス組成はイオン交換処理の前後で微視的に変動するものの、ガラス全体で見た場合、その影響は軽微である。
【0075】
続いて、イオン交換処理後の各ガラス板について、ASTM C657-78に準拠して、150℃における体積電気抵抗率ρafterを測定した。
【0076】
表1から分かるように、試料No.1~8に係るガラス板は、密度が低く、圧縮応力層の圧縮応力値CSと応力深さDOLが大きかった。また試料No.1、2に係るガラス板は、イオン交換処理後の体積抵抗率ρafterが高かった。よって、試料No.1~8に係るガラス棒とガラス球についても、密度が低く、圧縮応力層の圧縮応力値CSと応力深さDOLが大きく、イオン交換処理後の体積抵抗率ρafterが高いものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の絶縁部材は、軽量、高強度及び低コストであると共に、加工性に優れる。よって、本発明の絶縁部材は、駆動装置に組み込まれる用途、例えば、電気自動車等に使用される転動体、シャフト、モーター部材、ローラー部材等の絶縁部材にも好適である。
図1
図2
図3