(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】定着構造及び定着方法
(51)【国際特許分類】
E04C 5/08 20060101AFI20220105BHJP
E04C 5/20 20060101ALI20220105BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20220105BHJP
G01L 5/04 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
E04C5/08
E04C5/20
E04G21/12 104C
G01L5/04
(21)【出願番号】P 2017242854
(22)【出願日】2017-12-19
【審査請求日】2020-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390021119
【氏名又は名称】ヒエン電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】今井 道男
(72)【発明者】
【氏名】大窪 一正
(72)【発明者】
【氏名】山本 徹
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 慎一
(72)【発明者】
【氏名】早川 道洋
(72)【発明者】
【氏名】中上 晋志
(72)【発明者】
【氏名】山田 眞人
(72)【発明者】
【氏名】松原 喜之
(72)【発明者】
【氏名】千桐 一芳
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊之
【審査官】齋藤 智也
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第200992682(CN,Y)
【文献】特開平09-170293(JP,A)
【文献】特開2017-125352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/08
E04C 5/20
E04G 21/12
G01L 5/00
G01L 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被定着物の孔に設置された一又は複数のPC鋼撚線を有するストランドと前記ストランドに沿って設けられた光ファイバとを有する光ファイバ付PC鋼撚線を前記孔の縁部を含む被定着面に定着させる定着構造であって、
前記被定着面において前記孔の縁部に支持されるナットと、
内周面が前記ストランドに圧着されて前記ストランドを保持すると共に、外周面に前記ナットが螺合するストランド保持部と、を備え、
前記ストランド保持部には、前記ストランド保持部の前記内周面以外の部分に、前記光ファイバ付PC鋼撚線から剥がされた前記光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路が設けられて
おり、
前記ストランド保持部は、前記ストランドに圧着されると共に前記ナットに螺合されるスリーブを含み、
前記スリーブの外周面にスリーブ溝が設けられており、
前記光ファイバ挿通路は、前記スリーブ溝である、定着構造。
【請求項2】
被定着物の孔に設置された一又は複数のPC鋼撚線を有するストランドと前記ストランドに沿って設けられた光ファイバとを有する光ファイバ付PC鋼撚線を前記孔の縁部を含む被定着面に定着させる定着構造であって、
前記被定着面において前記孔の縁部に支持されるナットと、
内周面が前記ストランドに圧着されて前記ストランドを保持すると共に、外周面に前記ナットが螺合するストランド保持部と、を備え、
前記ストランド保持部には、前記ストランド保持部の前記内周面以外の部分に、前記光ファイバ付PC鋼撚線から剥がされた前記光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路が設けられており、
前記ストランド保持部は、前記ストランドに圧着される内スリーブと、前記内スリーブの周囲に配置され前記ナットに螺合される外スリーブとを含む
、定着構造。
【請求項3】
前記外スリーブの内周面及び外周面の少なくとも一方には、前記外スリーブの軸方向に沿って延びる外スリーブ溝が設けられており、
前記光ファイバ挿通路は、前記外スリーブ溝である、請求項2記載の定着構造。
【請求項4】
前記外スリーブの基部には、前記外スリーブの軸方向に沿って延びる貫通孔が設けられており、
前記光ファイバ挿通路は、前記貫通孔である、請求項2又は3記載の定着構造。
【請求項5】
前記外スリーブは、前記内スリーブの外周面の周方向に沿って配置された複数の分割部材で構成されており、
前記光ファイバ挿通路は、前記周方向において隣接する前記分割部材同士の隙間である、請求項2~4の何れか一項記載の定着構造。
【請求項6】
前記ナットの内周面には、第1ネジ部が形成されており、前記外スリーブの外周面には、前記第1ネジ部に螺合する第2ネジ部が形成されており、
前記光ファイバ挿通路は、前記第1ネジ部と前記第2ネジ部とに挟まれた隙間である、請求項2~5の何れか一項記載の定着構造。
【請求項7】
前記外スリーブの内周面には、第3ネジ部が形成されており、前記内スリーブの外周面には、前記第3ネジ部に螺合する第4ネジ部が形成されており、
前記光ファイバ挿通路は、前記第3ネジ部と前記第4ネジ部とに挟まれた隙間である、請求項2~6の何れか一項記載の定着構造。
【請求項8】
被定着物の孔に設置された一又は複数のPC鋼撚線を有するストランドと前記ストランドに沿って設けられた光ファイバとを有する光ファイバ付PC鋼撚線を前記孔の縁部を含む被定着面に定着させる定着構造であって、
前記被定着面において前記孔の縁部に支持されるナットと、
内周面が前記ストランドに圧着されて前記ストランドを保持すると共に、外周面に前記ナットが螺合するストランド保持部と、を備え、
前記ストランド保持部には、前記ストランド保持部の前記内周面以外の部分に、前記光ファイバ付PC鋼撚線から剥がされた前記光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路が設けられて
おり、
前記ストランド保持部は、前記ストランドに圧着されると共に前記ナットに螺合されるスリーブを含
み、
前記ナットの内周面には、第1ネジ部が形成されており、前記スリーブの外周面には、前記第1ネジ部に螺合する第2ネジ部が形成されており、
前記光ファイバ挿通路は、前記第1ネジ部と前記第2ネジ部とに挟まれた隙間である、定着構造。
【請求項9】
被定着物の孔に設置された一又は複数のPC鋼撚線を有するストランドと前記ストランドに沿って設けられた光ファイバとを有する光ファイバ付PC鋼撚線を前記孔の縁部を含む被定着面に定着させる定着方法であって、
内周面が前記ストランドに圧着されて前記ストランドを保持するストランド保持部を設ける工程と、
前記被定着面において前記孔の縁部に支持されるナットを前記ストランド保持部の外周面に螺合させる工程と、
前記ストランド保持部における前記ストランド保持部の前記内周面以外の部分に、前記光ファイバ付PC鋼撚線から剥がされた前記光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路を設ける工程と、を備え、
前記ストランド保持部は、前記ストランドに圧着されると共に前記ナットに螺合されるスリーブを含み、
前記光ファイバ挿通路を設ける工程において、前記光ファイバ挿通路として前記スリーブの外周面にスリーブ溝を設ける、定着方法。
【請求項10】
被定着物の孔に設置された一又は複数のPC鋼撚線を有するストランドと前記ストランドに沿って設けられた光ファイバとを有する光ファイバ付PC鋼撚線を前記孔の縁部を含む被定着面に定着させる定着方法であって、
内周面が前記ストランドに圧着されて前記ストランドを保持するストランド保持部を設ける工程と、
前記被定着面において前記孔の縁部に支持されるナットを前記ストランド保持部の外周面に螺合させる工程と、
前記ストランド保持部における前記ストランド保持部の前記内周面以外の部分に、前記光ファイバ付PC鋼撚線から剥がされた前記光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路を設ける工程と、を備え、
前記ストランド保持部は、前記ストランドに圧着される内スリーブと、前記内スリーブの周囲に配置され前記ナットに螺合される外スリーブとを含む、定着方法。
【請求項11】
被定着物の孔に設置された一又は複数のPC鋼撚線を有するストランドと前記ストランドに沿って設けられた光ファイバとを有する光ファイバ付PC鋼撚線を前記孔の縁部を含む被定着面に定着させる定着方法であって、
内周面が前記ストランドに圧着されて前記ストランドを保持するストランド保持部を設ける工程と、
前記被定着面において前記孔の縁部に支持されるナットを前記ストランド保持部の外周面に螺合させる工程と、
前記ストランド保持部における前記ストランド保持部の前記内周面以外の部分に、前記光ファイバ付PC鋼撚線から剥がされた前記光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路を設ける工程と、を備え、
前記ストランド保持部は、前記ストランドに圧着されると共に前記ナットに螺合されるスリーブを含み、
前記ナットの内周面には、第1ネジ部が形成されており、前記スリーブの外周面には、前記第1ネジ部に螺合する第2ネジ部が形成されており、
前記光ファイバ挿通路を設ける工程において、前記第1ネジ部と前記第2ネジ部とに挟まれた隙間を用いて前記光ファイバ挿通路を設ける、定着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着構造及び定着方法に関し、特に光ファイバ付ストランドの定着構造及び定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歪センサ部を有する光ファイバを引張鋼材に取り付けて、光ファイバ端部から光を入射させ、歪センサ部から反射される光を光ファイバ端部で計測することで、歪センサ部の位置において引張鋼材が受けている張力を計測する測定方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年においては、被定着物としての各種構造物(橋梁、建物、法面等)の孔に設置された一又は複数のPC鋼撚線を有するストランドと、ストランドに沿って設けられた光ファイバと、を有する光ファイバ付ストランドを用いて、光ファイバの延在方向の各位置における光ファイバの歪みに基づいて、当該PC鋼撚線の張力を計測することが行われている。光ファイバの歪みに基づいてPC鋼撚線の張力分布を測る技術は、例えばPC鋼撚線の緊張時及び緊張後における再緊張の際に、PC鋼撚線に接続されたアンカー体の移動による張力低下とPC鋼撚線の伸びによる張力低下とを判別できるなど、有用な技術である。
【0005】
定着構造に関する技術分野では、従来、ストランドに圧着スリーブを圧着し、圧着スリーブの内周面をストランドに圧着させて、ストランドを保持するストランド保持部を形成すると共に、圧着された圧着スリーブの外周面にナットを螺合させ、ジャッキ等でストランドを緊張させた状態でナットを締め込んで定着させる定着構造が知られている。このようなナットを用いる定着構造によれば、例えば楔を用いる定着構造に比べて、定着時のセットロスが少なく、再緊張が容易に行えるという利点がある。
【0006】
しかしながら、従来の定着構造によって光ファイバ付ストランドの定着を行う場合、光ファイバ付ストランドと圧着スリーブとの間に光ファイバが配置されるときには、圧着スリーブの圧着によって光ファイバが損傷するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、光ファイバの損傷を抑制しつつ、ナットを用いて光ファイバ付ストランドを定着可能な定着構造及び定着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る定着構造は、被定着物の孔に設置された一又は複数のPC鋼撚線を有するストランドとストランドに沿って設けられた光ファイバとを有する光ファイバ付ストランドを孔の縁部を含む被定着面に定着させる定着構造であって、被定着面において孔の縁部に支持されるナットと、内周面がストランドに圧着されてストランドを保持すると共に、外周面にナットが螺合するストランド保持部と、を備え、ストランド保持部には、ストランド保持部の内周面以外の部分に、光ファイバ付ストランドから剥がされた光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路が設けられている。
【0009】
この定着構造では、ストランド保持部の内周面がストランドに圧着されることでストランド保持部がストランドを保持すると共に、ストランド保持部の外周面に螺合するナットが被定着面において孔の縁部に支持される。これにより、光ファイバ付ストランドが被定着面に定着させられる。この構造においては、ストランド保持部の内周面以外の部分に、光ファイバ付ストランドから剥がされた光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路が設けられている。これにより、ストランドに圧着されたストランド保持部の内周面によって光ファイバが強く圧迫されることを回避できる。よって、この定着構造によれば、光ファイバの損傷を抑制しつつ、ナットを用いて光ファイバ付ストランドを定着することが可能となる。
【0010】
本発明に係る定着構造では、ストランド保持部は、ストランドに圧着される内スリーブと、内スリーブの周囲に配置されナットに螺合される外スリーブとを含んでいてもよい。内スリーブがPC鋼撚線に圧着されると、内スリーブに残留応力が生じる。例えば圧着による内スリーブの残留応力が大きく、内スリーブの軸周りに非対称な加工を内スリーブにすることが容易ではない場合、内スリーブの周囲に配置されナットに螺合される外スリーブを設けることで、残留応力によって不規則な変形が内スリーブに生じることを回避できる。その結果、ストランド保持部がストランドを保持する保持力を安定化することができる。
【0011】
本発明に係る定着構造では、外スリーブの内周面及び外周面の少なくとも一方には、外スリーブの軸方向に沿って延びる外スリーブ溝が設けられており、光ファイバ挿通路は、外スリーブ溝であってもよい。この場合、外スリーブの内周面及び外周面の少なくとも一方に溝を形成することで、光ファイバ挿通路をより容易に形成することができる。
【0012】
本発明に係る定着構造では、外スリーブの基部には、外スリーブの軸方向に沿って延びる貫通孔が設けられており、光ファイバ挿通路は、貫通孔であってもよい。この場合、外スリーブの基部に貫通孔を設けることで、光ファイバ挿通路を形成することができる。
【0013】
本発明に係る定着構造では、外スリーブは、内スリーブの外周面の周方向に沿って配置された複数の分割部材で構成されており、光ファイバ挿通路は、周方向において隣接する分割部材同士の隙間であってもよい。この場合、複数の分割部材をそれぞれ分割して加工できるため、容易に加工することができる。
【0014】
本発明に係る定着構造では、ナットの内周面には、第1ネジ部が形成されており、外スリーブの外周面には、第1ネジ部に螺合する第2ネジ部が形成されており、光ファイバ挿通路は、第1ネジ部と第2ネジ部とに挟まれた隙間であってもよい。この場合、例えば外スリーブの外周面に光ファイバ挿通路としての溝部を形成するといった加工の手間を省くことができる。
【0015】
本発明に係る定着構造では、外スリーブの内周面には、第3ネジ部が形成されており、内スリーブの外周面には、第3ネジ部に螺合する第4ネジ部が形成されており、光ファイバ挿通路は、第3ネジ部と第4ネジ部とに挟まれた隙間であってもよい。この場合、例えば外スリーブの内周面又は内スリーブの外周面に光ファイバ挿通路としての溝部を形成するといった加工の手間を省くことができる。
【0016】
本発明に係る定着構造では、ストランド保持部は、ストランドに圧着されると共にナットに螺合されるスリーブを含んでもよい。この場合、光ファイバ挿通路を設けるために部品点数が増加することを抑制することができる。
【0017】
また、本発明は、定着方法の発明としても捉えることができ、本発明に係る定着方法は、被定着物の孔に設置された一又は複数のPC鋼撚線を有するストランドとストランドに沿って設けられた光ファイバとを有する光ファイバ付ストランドを孔の縁部を含む被定着面に定着させる定着方法であって、内周面がストランドに圧着されてストランドを保持するストランド保持部を設ける工程と、被定着面において孔の縁部に支持されるナットをストランド保持部の外周面に螺合させる工程と、ストランド保持部におけるストランド保持部の内周面以外の部分に、光ファイバ付ストランドから剥がされた光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路を設ける工程と、を備える。
【0018】
この定着方法では、ストランド保持部の内周面がストランドに圧着されることでストランド保持部がストランドを保持すると共に、ストランド保持部の外周面に螺合するナットが被定着面において孔の縁部に支持される。これにより、光ファイバ付ストランドが被定着面に定着させられる。この方法は、ストランド保持部の内周面以外の部分に、光ファイバ付ストランドから剥がされた光ファイバを挿通させる光ファイバ挿通路を設ける工程を備えている。これにより、ストランドに圧着されたストランド保持部の内周面によって光ファイバが強く圧迫されることを回避できる。よって、この定着方法によれば、光ファイバの損傷を抑制しつつ、ナットを用いて光ファイバ付ストランドを定着することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光ファイバの損傷を抑制しつつ、ナットを用いて光ファイバ付ストランドを定着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1実施形態の定着構造が適用されたグラウンドアンカーの全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、光ファイバ付PC鋼撚線の斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1の定着構造の光ファイバ挿通路の断面図である。
【
図6】
図6は、外スリーブ溝の例を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る光ファイバ挿通路の模式図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る光ファイバ挿通路の模式図である。
【
図9】
図9は、第4実施形態に係る光ファイバ挿通路の模式図である。
【
図10】
図10は、第5実施形態に係る光ファイバ挿通路の模式図である。
【
図11】
図11は、第6実施形態に係る光ファイバ挿通路の断面図である。
【
図12】
図12は、第7実施形態に係る光ファイバ挿通路の断面図である。
【
図13】
図13は、第8実施形態に係る光ファイバ挿通路の模式図である。
【
図14】
図14は、第9実施形態に係る光ファイバ挿通路の断面図である。
【
図15】
図15の(a)は、
図4の光ファイバ挿通路の変形例の模式図である。
図15の(b)は、
図4の光ファイバ挿通路の他の変形例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。以下の説明において、「前方」、「後方」、「前端」、「後端」などの前後の概念を持つ語を用いる場合がある。この場合の「前方」は、
図1及び
図3における紙面下方に対応し、「後方」とは、
図1及び
図3における紙面上方に対応する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の定着構造が適用されたグラウンドアンカーの全体構成を示す図である。
図1に示されるように、定着構造100は、光ファイバ付ストランド1を、被定着物101の被定着面102に定着させるための構造である。以下では、一例として、ダム及び斜面等において、岩盤R上に設けられた擁壁等の構造物である被定着物101を岩盤R側に押し付けて力学的な安定性を確保するためのグラウンドアンカー50に、定着構造100が適用される例について説明する。
【0023】
グラウンドアンカー50は、岩盤R及び被定着物101に削孔された孔103の内部に設置されている。グラウンドアンカー50は、定着構造100を含む頭部51と、アンカー自由長部52と、アンカー体長部55と、光ファイバ付ストランド1と、を備えている。
【0024】
光ファイバ付ストランド1は、ストランド2と、ストランド2に沿って設けられた光ファイバ部材20とを有している。ストランド2は、被定着物101の孔103に設置された複数(本実施形態では7本)のPC鋼撚線3を有している。ストランド2は、複数のPC鋼撚線3が撚られて形成された撚線である。ストランド2における複数のPC鋼撚線3のうちの少なくとも1本のPC鋼撚線3は、光ファイバ付PC鋼撚線3Aとされている。
【0025】
図2は、光ファイバ付PC鋼撚線3Aの斜視図である。
図2に示されるように、光ファイバ付PC鋼撚線3Aは、PC鋼撚線3と、PC鋼撚線3に沿って設けられた光ファイバ部材20とを有している。PC鋼撚線3は、例えば鋼材からなる同一径の複数本(本実施形態では7本)のPC鋼素線4が撚られて形成されている。光ファイバ付PC鋼撚線3Aには、1本のPC鋼撚線3に沿って少なくとも1本の光ファイバ部材20が設けられている。
図2の例の光ファイバ付PC鋼撚線3Aには、一例として、1本のPC鋼撚線3に沿って2本の光ファイバ部材20が設けられている。
【0026】
光ファイバ部材20は、PC鋼撚線3の撚り目3aのうち、例えば二つにそれぞれ設置され螺旋状に延在している。光ファイバ部材20は、光ファイバ素線21と、当該光ファイバ素線21を覆う被覆22とを有する。
【0027】
図1に戻り、グラウンドアンカー50では、光ファイバ付ストランド1の前端側が孔103に挿入されており、光ファイバ付ストランド1の後端側が被定着面102から後方に突出している。
【0028】
頭部51は、被定着物101の被定着面102における孔103の開口部に設けられている。被定着面102は、孔103の縁部104を含む。頭部51は、定着構造100によって光ファイバ付ストランド1の後端部を被定着物101に定着させる。
【0029】
アンカー自由長部52は、被定着面102から前方側において光ファイバ付ストランド1が定着されていない部分である。アンカー自由長部52は、被定着物101の孔103内に設けられた板部材54を有する。板部材54には、光ファイバ付ストランド1が挿通されている。
【0030】
アンカー体長部55は、被定着面102から前方側において光ファイバ付ストランド1の前端部が定着されている部分である。アンカー体長部55では、光ファイバ付ストランド1の前端部を定着するための耐荷体56が、例えば直列的に複数個設けられている。耐荷体56は、光ファイバ付ストランド1の前端部が固定される耐荷体本体57と、耐荷体本体57の後方で光ファイバ付ストランド1を取り巻くように設けられる補強筋58と、を有する。アンカー体長部55の最前端の耐荷体本体57では、当該耐荷体本体57を介して光ファイバ付ストランド1が岩盤Rに固定される。補強筋58は、それぞれの耐荷体本体57の後方に設けられ、充填材5内において充填材5の強度を補強する。
【0031】
孔103には、アンカー自由長部52及びアンカー体長部55において充填材5が充填されている。充填材5は、例えばセメントミルク及びモルタル等であり、孔103に充填されて硬化される。
【0032】
図3は、
図1の定着構造の要部の一部断面図である。
図3に示されるように、定着構造100は、ナット30と、ストランド保持部40と、を備える。ナット30は、光ファイバ付ストランド1を被定着面102に定着させた状態において、被定着面102においてベース部105を介して孔103の縁部104に支持されている。ナット30は、ストランド保持部40の外周面40bに形成されたネジ部(後述)に螺合する。
【0033】
ストランド保持部40は、ストランド2を保持するための部材である。ストランド保持部40は、その内周面40aがストランド2に圧着されることにより、ストランド2を締め付けるように保持する。また、ストランド保持部40は、ジャッキ等でストランド2を緊張させた状態で外周面40bに螺合するナット30を締め込むことで、ストランド2(光ファイバ付ストランド1)が前端側の耐荷体56に定着され、緊張力が付与された状態で保持される。
【0034】
ストランド保持部40は、一例として、内スリーブ41と外スリーブ42とを含んでいる。
【0035】
内スリーブ41には、光ファイバ付ストランド1から光ファイバ部材20を剥がしたストランド2が挿通される。内スリーブ41は、ストランド2を内スリーブ41に挿通させた状態で圧着される。これにより、内スリーブ41の内周面41aがストランド2に圧着される。内スリーブ41の内周面41aは、ストランド保持部40の内周面40aに対応している。内スリーブ41の外周面41bには、雄ネジであるネジ部が形成されている。内スリーブ41の材料は、例えば鋼材である。
【0036】
外スリーブ42は、内スリーブ41の周囲に配置されている。外スリーブ42の内周面42aには、雌ネジであるネジ部が形成されており、内スリーブ41の外周面41bのネジ部と螺合する。外スリーブ42の外周面42bには、雄ネジであるネジ部が形成されている。外周面42bのネジ部には、ナット30が螺合する。つまり、外スリーブ42の内周面42aは、ストランド保持部40の外周面40bに対応している。外スリーブ42の材料は、例えば鋼材である。外スリーブ42の外径は、例えば、内スリーブ41の外周面41bに形成したネジ部の規格に対して、1又は数ランク上の(径寸法が大きい)規格のネジ径とされている。これにより、ナット30等の部品に既存の規格品を使用することができる。なお、外スリーブ42は、光ファイバ付ストランド1の緊張力を支持可能な螺合長さ以上で内スリーブ41と螺合していればよく、内スリーブ41の軸B方向(軸方向)の長さよりも短くてもよい。この場合、外スリーブ42の内周面42aにネジ部を容易に形成することができる。
【0037】
ベース部105は、光ファイバ付ストランド1の緊張力を支持する定着板である。ベース部105は、被定着物101の被定着面102に当接している。ベース部105は、光ファイバ付ストランド1を挿通させる円形開口部105aを有する。なお、ベース部105は、必ずしも設けられていなくてもよい。
【0038】
ストランド保持部40では、圧着により、内スリーブ41の内周面41aとストランド2との間には、圧着による力が作用する。そのため、内周面41aとストランド2との間に光ファイバ部材20を配置してしまうと、圧着による力により光ファイバ部材20が損傷するおそれがある。そこで、ストランド保持部40には、ストランド保持部40の内周面40a以外の部分に、光ファイバ付ストランド1から剥がされた光ファイバ部材20を挿通させる光ファイバ挿通路10が設けられている。
【0039】
図4は、定着構造100の光ファイバ挿通路10の断面図である。
図5は、
図4の光ファイバ挿通路10の模式図である。
図4及び
図5に示されるように、外スリーブ42の外周面42bには、外スリーブ42の軸B方向に沿って延びる外スリーブ溝11が設けられている。外スリーブ溝11の断面形状は、例えば三角形状である。外スリーブ溝11は、外スリーブ42の外周面42bとナット30の内周面30aとの間に空間を形成する。この空間は、光ファイバ部材20を包含する大きさを有している。これにより、外スリーブ溝11が光ファイバ挿通路10として機能する。外スリーブ溝11の数は、少なくとも1つであり、光ファイバ付ストランド1から剥がされた光ファイバ部材20の本数に対応する。ただし、本実施形態では、図面の簡易化のため、光ファイバ挿通路10としての外スリーブ溝11の数を1つだけ図示している。
【0040】
図6は、外スリーブ溝11の斜視図である。
図6に示されるように、外スリーブ溝11は、外スリーブ42の外周面42bのネジ部を、外スリーブ42の軸B方向に沿って断面V字状に切り欠くように形成されている。そのため、外スリーブ溝11は、外スリーブ42の外側からの加工により容易に形成可能である。また、外スリーブ42には、内スリーブ41のように圧着による残留応力が生じないため、残留応力の影響を受けずに、外スリーブ42の外周面42bに外スリーブ溝11を形成する加工をすることができる。
【0041】
次に、第1実施形態に係る定着方法について、説明する。この定着方法では、まず、ストランド保持部40を設ける第1の工程を行う。この第1の工程では、例えば、光ファイバ付ストランド1から光ファイバ部材20を剥がしたストランド2を、内スリーブ41に挿通させる。ストランド2を内スリーブ41に挿通させた状態で、内スリーブ41の外側から圧着力を加える。これにより、内スリーブ41の内周面41aがストランド2に圧着される。また、第1の工程では、内スリーブ41の外周面41bに雄ネジであるネジ部を形成する。ネジ部を形成する加工は、内スリーブ41の軸B周りに対称な加工であるため、内スリーブ41の軸B周りに非対称な加工と比べて、内スリーブ41に不規則な変形が生じにくい。
【0042】
第1の工程では、外スリーブ42を準備する。具体的には、外スリーブ42の内周面42aに、内スリーブ41の外周面41bのネジ部に螺合するネジ部を形成する。外スリーブ42の外周面42bに、ナット30の内周面30aのネジ部に螺合するネジ部を形成する。外スリーブ42の各ネジ部としては、例えば予め工場等で加工されたものを準備してもよい。これにより、第1の工程では、ストランド保持部40の内周面40aがストランド2に圧着されることで、ストランド2を保持するストランド保持部40が設けられることとなる。
【0043】
次に、光ファイバ挿通路10を設ける第2の工程を行う。第2の工程では、外スリーブ42の外周面42bに外スリーブ溝11を形成する加工を行う。外スリーブ42の外スリーブ溝11としては、例えば予め工場等で加工されたものを準備してもよい。続いて、光ファイバ付ストランド1から剥がされた光ファイバ部材20を外スリーブ溝11に挿通させる。これにより、第2の工程では、ストランド保持部40におけるストランド保持部40の内周面40a以外の部分に、光ファイバ付ストランド1から剥がされた光ファイバ部材20を挿通させる光ファイバ挿通路10を設けることとなる。
【0044】
次に、光ファイバ付ストランド1を被定着面102に定着させる第3の工程を行う。第3の工程では、光ファイバ部材20を光ファイバ挿通路10に挿通させた状態で、外スリーブ42の外周面42bにナット30を螺合させる。ジャッキ等で光ファイバ付ストランド1を緊張させた後にナット30を締め込むことで、被定着面102において孔103の縁部104にベース部105を介して当接するようにナット30が配置される。これにより、ナット30が孔103の縁部104に支持され、光ファイバ付ストランド1が被定着面102に定着させられることとなる。
【0045】
以上説明したように、第1実施形態に係る定着構造100及び定着方法では、ストランド保持部40の内周面40aがストランド2に圧着されることでストランド保持部40がストランド2を保持すると共に、ストランド保持部40の外周面40bに螺合するナット30が被定着面102において孔103の縁部104に支持される。これにより、光ファイバ付ストランド1が被定着面102に定着させられる。この定着構造100及び定着方法においては、ストランド保持部40における内周面40a以外の部分に、光ファイバ付ストランド1から剥がされた光ファイバ部材20を挿通させる光ファイバ挿通路10が設けられている。これにより、ストランド2に圧着されたストランド保持部40の内周面40aによって光ファイバ部材20が強く圧迫されることを回避できる。よって、この定着構造100及び定着方法によれば、光ファイバ部材20の損傷を抑制しつつ、ナット30を用いて光ファイバ付ストランド1を定着することが可能となる。
【0046】
また、定着構造100では、ストランド保持部40は、ストランド2に圧着される内スリーブ41と、内スリーブ41の周囲に配置されナット30に螺合される外スリーブ42とを含んでいる。内スリーブ41がPC鋼撚線3に圧着されると、内スリーブ41に残留応力が生じる。例えば圧着による内スリーブ41の残留応力が大きく、内スリーブ41の軸B周りに非対称な加工が容易ではない場合、内スリーブ41の周囲に配置されナット30に螺合される外スリーブ42を設けることで、残留応力によって不規則な変形が生じることを回避できる。その結果、ストランド保持部40がストランド2を保持する保持力を安定化することができる。
【0047】
また、定着構造100では、外スリーブ42の外周面42bには、外スリーブ42の軸B方向に沿って延びる外スリーブ溝11が設けられており、光ファイバ挿通路10は、外スリーブ溝11である。これにより、外スリーブ42の外周面42bに溝を形成することで、光ファイバ挿通路10をより容易に形成することができる。
【0048】
[第2実施形態]
図7を参照しつつ、第2実施形態に係る定着構造100について説明する。
図7は、第2実施形態に係る光ファイバ挿通路10の模式図である。第2実施形態に係る定着構造100では、
図7に示されるように、外スリーブ42の外周面42bに外スリーブ溝11を設けることに代えて、外スリーブ42の内周面42aに、外スリーブ42の軸B方向に沿って延びる外スリーブ溝12が設けられている点で、第1実施形態とは異なっている。
【0049】
外スリーブ溝12は、外スリーブ42の内周面42aと内スリーブ41の外周面41bとの間に空間を形成する。この空間は、光ファイバ部材20を包含する大きさを有している。これにより、外スリーブ溝12が光ファイバ挿通路10として機能する。
【0050】
このように構成された第2実施形態に係る定着構造100では、外スリーブ42の内周面42aには、外スリーブ42の軸B方向に沿って延びる外スリーブ溝12が設けられており、光ファイバ挿通路10は、外スリーブ溝12である。これにより、外スリーブ42の内周面42aに溝を形成することで、光ファイバ挿通路10をより容易に形成することができる。
【0051】
[第3実施形態]
図8を参照しつつ、第3実施形態に係る定着構造100について説明する。
図8は、第3実施形態に係る光ファイバ挿通路10の模式図である。第3実施形態に係る定着構造100では、
図8に示されるように、外スリーブ42の外周面42bに外スリーブ溝11を設けることに代えて、内スリーブ41の外周面41bに、内スリーブ41の軸B方向に沿って延びる内スリーブ溝13が設けられている点で、第1実施形態とは異なっている。
【0052】
例えば圧着による内スリーブ41の残留応力が小さく、内スリーブ41の軸B周りに非対称な加工が可能である場合、内スリーブ41の外周面41bと外スリーブ42の内周面42aとの間に光ファイバ部材20を包含する大きさを有する空間を形成する内スリーブ溝13を設けてもよい。これにより、内スリーブ溝13が光ファイバ挿通路10として機能する。
【0053】
このように構成された第3実施形態に係る定着構造100では、内スリーブ41の外周面41bには、内スリーブ41の軸B方向に沿って延びる内スリーブ溝13が設けられており、光ファイバ挿通路10は、内スリーブ溝13である。これにより、例えば圧着による内スリーブ41の残留応力が小さく、内スリーブ41の軸B周りに非対称な加工が可能である場合には、外スリーブ42に光ファイバ挿通路10を形成することに代えて、内スリーブ41の外周面41bに溝を形成することで、光ファイバ挿通路10を形成することができる。
【0054】
[第4実施形態]
図9を参照しつつ、第4実施形態に係る定着構造100について説明する。
図9は、第4実施形態に係る光ファイバ挿通路10の模式図である。第4実施形態に係る定着構造100では、
図9に示されるように、外スリーブ42の外周面42bに外スリーブ溝11を設けることに代えて、外スリーブ42の基部42cに、外スリーブ42の軸B方向に沿って延びる貫通孔14が設けられている点で、第1実施形態とは異なっている。外スリーブ42の基部42cは、外スリーブ42において内周面42a及び外周面42bで挟まれた部分であり、内周面42a及び外周面42bを含まない部分である。
【0055】
貫通孔14の断面形状は、特に限定されないが、例えば円形である。貫通孔14は、外スリーブ42の基部42cに空間を形成する。この空間は、光ファイバ部材20を包含する大きさを有している。これにより、貫通孔14が光ファイバ挿通路10として機能する。
【0056】
このように構成された第4実施形態に係る定着構造100では、外スリーブ42の基部42cには、外スリーブ42の軸B方向に沿って延びる貫通孔14が設けられており、光ファイバ挿通路10は、貫通孔14である。これにより、外スリーブ42の基部42cに貫通孔14を設けることで、光ファイバ挿通路10を形成することができる。
【0057】
[第5実施形態]
図10を参照しつつ、第5実施形態に係る定着構造100について説明する。
図10は、第5実施形態に係る光ファイバ挿通路10の模式図である。第5実施形態に係る定着構造100では、
図10に示されるように、外スリーブ42の外周面42bに外スリーブ溝11を設けることに代えて、外スリーブ42は、内スリーブ41の外周面41bの周方向に沿って配置された複数の分割部材43で構成されている点で、第1実施形態とは異なっている。
【0058】
分割部材43の周方向の両端部は、ストランド2の径方向に沿って伸びる平面状の端面とされている。ストランド2の周方向において隣接する分割部材43同士の間には、隙間15が形成されている。隙間15の数は、少なくとも1つであり、光ファイバ付ストランド1から剥がされた光ファイバ部材20の本数に対応する。隙間15では、隣接する分割部材43同士と、内スリーブ41の外周面41bと、外スリーブ42の内周面42aとで空間が形成されている。この空間は、光ファイバ部材20を包含する大きさを有している。これにより、隙間15が光ファイバ挿通路10として機能する。
【0059】
このように構成された第5実施形態に係る定着構造100では、外スリーブ42は、内スリーブ41の外周面41bの周方向に沿って配置された複数の分割部材43で構成されており、光ファイバ挿通路10は、周方向において隣接する分割部材43同士の隙間である。この場合、複数の分割部材43をそれぞれ分割して加工できるため、容易に加工することができる。
【0060】
[第6実施形態]
図11を参照しつつ、第6実施形態に係る定着構造100について説明する。
図11は、第6実施形態に係る光ファイバ挿通路10の断面図である。第6実施形態に係る定着構造100では、
図11に示されるように、外スリーブ42の外周面42bに外スリーブ溝11を設けることに代えて、ナット30の内周面30aには、第1ネジ部TH1が形成されており、外スリーブ42の外周面42bには、第1ネジ部TH1に螺合する第2ネジ部TH2が形成されている点で、第1実施形態とは異なっている。
【0061】
第1ネジ部TH1のネジ山の高さと、第2ネジ部TH2のネジ山の高さとは、互いに異なっている。例えば、第1ネジ部TH1のネジ山の頂部が平面状に形成されることで、第1ネジ部TH1のネジ山の高さが第2ネジ部TH2のネジ山の高さよりも小さくされている。この場合、第1ネジ部TH1のネジ谷と第2ネジ部TH2のネジ山とが噛み合うように構成されており、外スリーブ42とナット30とが螺合可能となっている。
【0062】
第1ネジ部TH1と第2ネジ部TH2とに挟まれた隙間16は、ナット30の内周面30aと外スリーブ42の外周面42bとの間に空間を形成する。この空間は、光ファイバ部材20を包含する大きさを有している。これにより、隙間16が光ファイバ挿通路10として機能する。
【0063】
このように構成された第6実施形態に係る定着構造100では、ナット30の内周面30aには、第1ネジ部TH1が形成されており、外スリーブ42の外周面42bには、第1ネジ部TH1に螺合する第2ネジ部TH2が形成されており、光ファイバ挿通路10は、第1ネジ部TH1と第2ネジ部TH2とに挟まれた隙間16である。これにより、例えば外スリーブ42の外周面42bに光ファイバ挿通路10としての溝部を形成するといった加工の手間を省くことができる。なお、本実施形態では、第2ネジ部TH2のネジ山の高さが第1ネジ部TH1のネジ山の高さよりも小さくされていてもよい。
【0064】
[第7実施形態]
図12を参照しつつ、第7実施形態に係る定着構造100について説明する。
図12は、第7実施形態に係る光ファイバ挿通路10の断面図である。第7実施形態に係る定着構造100では、
図12に示されるように、ナット30の内周面30aに第1ネジ部TH1を形成し、外スリーブ42の外周面42bに第2ネジ部TH2を形成することに代えて、外スリーブ42の内周面42aには、第3ネジ部TH3が形成されており、内スリーブ41の外周面41bには、第3ネジ部TH3に螺合する第4ネジ部TH4が形成されている点で、第6実施形態とは異なっている。
【0065】
第3ネジ部TH3のネジ山及びネジ谷は、第1ネジ部TH1と同様に構成されている。第4ネジ部TH4ネジ山及びネジ谷は、第4ネジ部TH4と同様に構成されている。よって、第3ネジ部TH3と第4ネジ部TH4とに挟まれた隙間17が形成されると共に、第1ネジ部TH1のネジ谷と第2ネジ部TH2のネジ山とが噛み合うように構成され、外スリーブ42とナット30とが螺合可能となっている。
【0066】
第3ネジ部TH3と第4ネジ部TH4とに挟まれた隙間17は、外スリーブ42の内周面42aと内スリーブ41の外周面41bの間に空間を形成する。この空間は、光ファイバ部材20を包含する大きさを有している。これにより、隙間17が光ファイバ挿通路10として機能する。
【0067】
このように構成された第7実施形態に係る定着構造100では、外スリーブ42の内周面42aには、第3ネジ部TH3が形成されており、内スリーブ41の外周面41bには、第3ネジ部TH3に螺合する第4ネジ部TH4が形成されており、光ファイバ挿通路10は、第3ネジ部TH3と第4ネジ部TH4とに挟まれた隙間17である。これにより、例えば外スリーブ42の内周面42a又は内スリーブ41の外周面41bに光ファイバ挿通路10としての溝部を形成するといった加工の手間を省くことができる。なお、本実施形態では、第2ネジ部TH2のネジ山の高さが第1ネジ部TH1のネジ山の高さよりも小さくされていてもよい。
【0068】
[第8実施形態]
図13を参照しつつ、第8実施形態に係る定着構造100について説明する。
図13は、第8実施形態に係る光ファイバ挿通路10の模式図である。第8実施形態に係る定着構造100は、
図13に示されるように、内スリーブ41及び外スリーブ42を含むストランド保持部40に代えて、ストランド2に圧着されると共にナット30に螺合される内スリーブ(スリーブ)41を含むストランド保持部40を備えている点、並びに、外スリーブ42の外周面42bに外スリーブ溝11を設けることに代えて、内スリーブ41の外周面41bに、内スリーブ41の軸B方向に沿って延びる内スリーブ溝13が設けられている点で、第1実施形態とは異なっている。
【0069】
例えば圧着による内スリーブ41の残留応力が小さく、内スリーブ41の軸B周りに非対称な加工が可能である場合、ナット30の内周面30aと内スリーブ41の外周面41bとの間に光ファイバ部材20を包含する大きさを有する空間を形成する内スリーブ溝13を設けてもよい。これにより、内スリーブ溝13が光ファイバ挿通路10として機能する。
【0070】
このように構成された第8実施形態に係る定着構造100では、内スリーブ41の外周面41bには、内スリーブ41の軸B方向に沿って延びる内スリーブ溝13が設けられており、光ファイバ挿通路10は、内スリーブ溝13である。これにより、例えば圧着による内スリーブ41の残留応力が小さく、内スリーブ41の軸B周りに非対称な加工が可能である場合には、内スリーブ41の外周面41bに溝を形成することで、外スリーブ42を設けることを省くことができる。よって、光ファイバ挿通路10を設けるために部品点数が増加することを抑制することができる。
【0071】
[第9実施形態]
図14を参照しつつ、第9実施形態に係る定着構造100について説明する。
図14は、第9実施形態に係る光ファイバ挿通路10の断面図である。第9実施形態に係る定着構造100では、
図14に示されるように、内スリーブ41及び外スリーブ42を含むストランド保持部40に代えて、ストランド2に圧着されると共にナット30に螺合される内スリーブ(スリーブ)41を含むストランド保持部40を備えている点、並びに、外スリーブ42の外周面42bに第2ネジ部TH2を形成することに代えて、内スリーブ41の外周面41bに第1ネジ部TH1に螺合する第2ネジ部TH2が形成されている点で、第6実施形態とは異なっている。
【0072】
この場合においても、第6実施形態と同様に、第1ネジ部TH1と第2ネジ部TH2とに挟まれた隙間16が形成されると共に、第1ネジ部TH1のネジ谷と第2ネジ部TH2のネジ山とが噛み合うように構成されており、内スリーブ41とナット30とが螺合可能となっている。
【0073】
第1ネジ部TH1と第2ネジ部TH2とに挟まれた隙間16は、ナット30の内周面30aと内スリーブ41の外周面41bとの間に空間を形成する。この空間は、光ファイバ部材20を包含する大きさを有している。これにより、隙間16が光ファイバ挿通路10として機能する。
【0074】
このように構成された第9実施形態に係る定着構造100では、ナット30の内周面30aには、第1ネジ部TH1が形成されており、内スリーブ41の外周面41bには、第1ネジ部TH1に螺合する第2ネジ部TH2が形成されており、光ファイバ挿通路10は、第1ネジ部TH1と第2ネジ部TH2とに挟まれた隙間16である。これにより、例えば内スリーブ41の外周面41bに光ファイバ挿通路10としての溝部を形成するといった加工の手間を省くことができ、光ファイバ挿通路10を設けるために部品点数が増加することを抑制することができる。なお、本実施形態では、第2ネジ部TH2のネジ山の高さが第1ネジ部TH1のネジ山の高さよりも小さくされていてもよい。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【0076】
例えば、PC鋼撚線3は、上記各実施形態のように7本のPC鋼素線4を有する撚線に限定されず、例えば19本のPC鋼素線4を有する撚線、あるいは他の本数のPC鋼素線4を有する撚線であってもよい。また、ストランド2は、少なくとも1本の光ファイバ付PC鋼撚線3Aを含む7本のPC鋼撚線3から構成されていたが、ストランド2は、1又は複数の任意の本数の光ファイバ付PC鋼撚線3A及びPC鋼撚線3で構成することができる。例えば、ストランド2が、1本の光ファイバ付PC鋼撚線3Aから構成されていてもよい。
【0077】
上記第1実施形態においては、
図4に示されるように、外スリーブ溝11の断面形状は三角形状(断面V字状)であり、一例としてストランド2の半径方向中心側の谷部(先端部)が鋭角な角をなす形状として形成されていた。しかしながら、外スリーブ溝11の断面形状は、これに限定されるものではない。例えば、外スリーブ溝11の断面形状は、
図15の(a)及び(b)に示されるように変形することができる。
【0078】
図15の(a)は、
図4の外スリーブ溝11の変形例をストランド2の軸方向から見た模式図である。
図15の(a)に示されるように、外スリーブ溝11の断面形状は、例えば、ストランド2の半径方向中心側の谷部(先端部)が丸みを帯びるような形状(ブーメラン状)であってもよい。これにより、外スリーブ溝11の谷部における応力集中を抑制し、例えば亀裂の発生及び進展の回避を図ることができる。
【0079】
図15の(b)は、
図4の外スリーブ溝11の他の変形例をストランド2の軸方向から見た模式図である。
図15の(b)に示されるように、外スリーブ溝11の断面形状は、例えば、U字形状であってもよい。この場合においても、ストランド2の半径方向中心側の谷部(先端部)が丸みを帯びるような形状として形成されるため、外スリーブ溝11の谷部における応力集中を抑制し、例えば亀裂の発生及び進展の回避を図ることができる。
【0080】
なお、上述した
図15の(a)及び(b)に示される変形例は、第1実施形態の外スリーブ溝11の断面形状について適用できるだけでなく、第2実施形態の外スリーブ溝12(
図7)、第3実施形態の内スリーブ溝13(
図8)、及び、第8実施形態の内スリーブ溝13(
図13)の各断面形状についても、同様に適用することができる。
【0081】
また、外スリーブ42は、軸B方向において一体的に構成されていたが、例えば軸B方向において複数の部材に分割されていてもよい。
【0082】
また、内スリーブ41と外スリーブ42とは、それぞれのネジ部の螺合に代えて、例えばグラウト又は接着剤により接合されていてもよい。この場合、ネジ部を形成する加工を省略することができる。
【0083】
また、上記実施形態では、外スリーブ42の内周面42a及び外周面42bのいずれか一方に外スリーブ溝11,12が設けられている例を示したが、内周面42a及び外周面42bの両方に外スリーブ溝11,12が設けられていてもよい。すなわち、外スリーブ42の内周面42a及び外周面42bの少なくとも一方に、外スリーブ42の軸B方向に沿って延びる外スリーブ溝11,12が設けられていてもよい。
【0084】
また、上記各実施形態のそれぞれでは、ストランド保持部40又はナット30におけるストランド保持部40の内周面40a以外の部分に、1つの光ファイバ挿通路10が設けられている例を示したが、上記各実施形態を適宜組み合わせて複数の光ファイバ挿通路10が設けられていてもよい。この場合の複数の光ファイバ挿通路10としては、例えば、外スリーブ溝11、外スリーブ溝12、内スリーブ溝13、貫通孔14、隙間15、隙間16、及び隙間17のうち、複数の同種のもので構成されていてもよいし、全て異種のもので構成されていてもよいし、一部が同種のもので構成され且つ残りが異種のもので構成されていてもよい。
【0085】
また、光ファイバ部材20は、光ファイバ素線21が被覆22で覆われているものであったが、その周囲が更に樹脂製のフィラーで覆われていてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…光ファイバ付ストランド、2…ストランド、3…PC鋼撚線、10…光ファイバ挿通路、11…外スリーブ溝、12…外スリーブ溝、14…貫通孔、15,16,17…隙間、20…光ファイバ部材(光ファイバ)、30…ナット、30a…内周面、40…ストランド保持部、40a…内周面、40b…外周面、41…内スリーブ(スリーブ)、41a…内周面、41b…外周面、42…外スリーブ、42a…内周面、42b…外周面、42c…基部、43…分割部材、100…定着構造、101…被定着物、102…被定着面、103…孔、104…縁部、B…軸、TH1…第1ネジ部、TH2…第2ネジ部、TH3…第3ネジ部、TH4…第4ネジ部。