(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】鋳鉄用接種剤
(51)【国際特許分類】
C21C 1/10 20060101AFI20220105BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20220105BHJP
B22D 27/20 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C21C1/10 101
B22D1/00 W
B22D27/20 C
(21)【出願番号】P 2018083115
(22)【出願日】2018-04-24
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】518144919
【氏名又は名称】株式会社ファンドリーサービス
(73)【特許権者】
【識別番号】000222875
【氏名又は名称】東洋電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100072213
【氏名又は名称】辻本 一義
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】辻 寛明
(72)【発明者】
【氏名】岡内 昿爾
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 登起雄
(72)【発明者】
【氏名】十市 数男
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】中江 秀雄
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-004411(JP,A)
【文献】特開昭62-180010(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107119221(CN,A)
【文献】米国特許第05008074(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C1/10
B22D1/00,27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe―Si系合金に
、Ca、Alのいずれの元素も含有したものとすると共に、Ti、V、Nbのうちいずれか一つ以上の元素を含有したものとした
鋳鉄用接種剤であって、Siが70~75重量%、Caが2.2~2.3重量%、Alが1.3~1.4重量%、Ti、V、Nbのうちいずれか一つ以上の元素の合計が0.5~6.0重量%、残りが主にFeからなるものとしていることを特徴とする鋳鉄用接種剤。
【請求項2】
平均粒径が0.1~10.0mmの粉末であるものとしていることを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄用接種剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダクタイル鋳鉄などの黒鉛粒数を増加させるための鋳鉄用接種剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から黒鉛粒数を増加させるための鋳鉄用接種剤としては、母合金のなかに硫黄と黒鉛球状化元素との化合物を含有することを特徴とし、さらに詳細には、硫黄と化合したマグネシウムとの化合物、硫黄と化合した希土類元素との化合物、硫黄とマグネシウムと希土類元素との化合物のいずれかの化合物を含有する母合金としたことを特徴とするものが存在する(特許文献1)。
【0003】
さらに、この種の鋳鉄用接種剤としては、球状黒鉛鋳鉄の溶湯処理の際に溶湯に接触させられる球状黒鉛鋳鉄用接種剤であって、SiC粉末と少なくともFe-Si系合金とを複合化してなるものが存在する(特許文献2)。
【0004】
また、この種の鋳鉄用接種剤としては、球状黒鉛鋳鉄の鋳鉄溶湯に接種を行うためのBi系接種剤であって、Biと、Ni、Cuのいずれか1種または2種とを含む混合物または合金であることを特徴とするものが存在する(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-263816号公報
【文献】特開2000-256722号公報
【文献】特開2012-36423号公報号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダクタイル鋳鉄などの鋳造において、接種剤による黒鉛粒数の増加によって得られる効果としては、鋳鉄の材質強度の向上、引け性(鋳造不良)の低減、鋳造歩留まりの向上(コスト低減)などが考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、従来の接種剤と同等以上に黒鉛粒数を増加させる接種剤を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため、本発明の鋳鉄用接種剤は、Fe―Si系合金に、Ca、Alのいずれの元素も含有したものとすると共に、Ti、V、Nbのうちいずれか一つ以上の元素を含有したものとし、Siが70~75重量%、Caが2.2~2.3重量%、Alが1.3~1.4重量%、Ti、V、Nbのうちいずれか一つ以上の元素の合計が0.5~6.0重量%、残りが主にFeからなるものとしている。
【0010】
そして、本発明の鋳鉄用接種剤は、平均粒径が0.1~10.0mmの粉末であるものとしている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋳鉄用接種剤は、以上に述べたように構成されており、従来の接種剤と同等以上に黒鉛粒数を増加させることができるものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例の接種剤を添加して製造した鋳鉄の肉厚部組織の顕微鏡写真であり、(a)は実施例1を示し、(b)は実施例2を示し、(c)は実施例3を示している。
【
図2】比較例の接種剤を添加して製造した鋳鉄の肉厚部組織の顕微鏡写真であり、(a)は比較例1を示し、(b)は比較例2を示し、(c)は比較例3を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の鋳鉄用接種剤を実施するための形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明の鋳鉄用接種剤は、FeーSi系合金に、Ti、V、Nbのうちいずれか一つ以上の元素を含有したものとし、Siが70~75重量%、Ti、V、Nbのうちいずれか一つ以上の元素の合計が0.5~6.0重量%、残りが主にFeからなるものとしている。
【0018】
本発明の鋳鉄用接種剤は、粉末であるものとしており、その粒度は接種剤の添加時期によって異なるが、平均粒径が0.1~10.0mmの粉末であるものとしている。接種剤の添加時期が遅いほど、粒度は小さくするのが好ましい。鋳込み直前で大きいものを使用すると溶け残り、また取鍋時であまり小さいものを使用すると取鍋付着しスラグ化、速く溶けて効果がでないなどの問題があるからである。例えば、接種剤の添加時期が、注湯流添加であれば0.25~1.0mmとするのが好ましく、鋳型内添加であれば0.25mm未満とするのがより好ましく、取鍋添加であれば1.0~10.0mmとするのが好ましい。
【0019】
本発明の鋳鉄用接種剤において、FeーSi系合金は、CaおよびAlのいずれの元素をも含有したものとしている。本発明の実施例で用いたFeーSi系合金のCaの含有量は2.2~2.3重量%、Al含有量は1.3~1.4重量%とした。
【0020】
本発明の鋳鉄用接種剤は、Tiの含有量が0.5~2.0重量%であるものとしており、好ましくは1.7~1.9重量%であるものとしている。本発明の鋳鉄用接種剤において、Tiの含有量をこのような範囲としたのは、Tiの含有量が0.5重量%未満である場合には黒鉛粒数の増加があまり見られず、Tiの含有量が2.0重量%を超える場合にもそれ以上の黒鉛粒数の増加があまり見られないと共に、過剰添加すると球状化阻害の恐れがあるからである。
【0021】
本発明の鋳鉄用接種剤は、Vの含有量が0.5~2.0重量%であるものとしており、好ましくは1.8~2.0重量%であるものとしている。本発明の鋳鉄用接種剤において、Vの含有量をこのような範囲としたのは、Vの含有量が0.5重量%未満である場合には黒鉛粒数の増加があまり見られず、Vの含有量が2.0重量%を超える場合にもそれ以上の黒鉛粒数の増加があまり見られないと共に、過剰添加すると球状化阻害の恐れがあるからである。
【0022】
本発明の鋳鉄用接種剤は、Nbの含有量が0.5~2.0重量%であるものとしており、好ましくは1.6~1.8重量%であるものとしている。本発明の鋳鉄用接種剤において、Nbの含有量をこのような範囲としたのは、Nbの含有量が0.5重量%未満である場合には黒鉛粒数の増加があまり見られず、Nbの含有量が2.0重量%を超える場合にもそれ以上の黒鉛粒数の増加があまり見られないと共に、過剰添加すると球状化阻害の恐れがあるからである。
【0023】
(実施例1)
表1に示すように、Fe:22.5重量%、Si:72.0重量%、Ca:2.3重量%、Al:1.4重量%、Ti:1.8重量%からなる接種剤を調製し、ダクタイル鋳鉄系溶湯中に0.1重量%添加した。そして接種処理された溶湯から、鋳造により円柱形状のテストピ-スを作製し、実施例1の接種調製鋳鉄を得た。
【0024】
(実施例2)
表1に示すように、Fe:22.8重量%、Si:71.6重量%、Ca:2.3重量%、Al:1.3重量%、V:1.9重量%からなる接種剤を調製し、ダクタイル鋳鉄系溶湯中に0.1重量%添加した。そして接種処理された溶湯から、鋳造により円柱形状のテストピ-スを作製し、実施例2の接種調製鋳鉄を得た。
【0025】
(実施例3)
表1に示すように、Fe:22.9重量%、Si:71.8重量%、Ca:2.2重量%、Al:1.4重量%、Nb:1.7重量%からなる接種剤を調製し、ダクタイル鋳鉄系溶湯中に0.1重量%添加した。そして接種処理された溶湯から、鋳造により円柱形状のテストピ-スを作製し、実施例2の接種調製鋳鉄を得た。
【0026】
(比較例1)
表1に示すように、Fe:25.8重量%、Si:72.3重量%、Ca:0.7重量%、Al:1.2重量%からなる接種剤を調製し、ダクタイル鋳鉄系溶湯中に0.1重量%添加した。そして接種処理された溶湯から、鋳造により円柱形状のテストピ-スを作製し、比較例1の接種調製鋳鉄を得た。
【0027】
(比較例2)
表1に示すように、Fe:23.6重量%、Si:72.8重量%、Ca:1.5重量%、Al:2.2重量%からなる接種剤を調製し、ダクタイル鋳鉄系溶湯中に0.1重量%添加した。そして接種処理された溶湯から、鋳造により円柱形状のテストピ-スを作製し、比較例2の接種調製鋳鉄を得た。
【0028】
(比較例3)
表1に示すように、Fe:21.4重量%、Si:72.5重量%、Ca:3.9重量%、Al:2.2重量%からなる接種剤を調製し、ダクタイル鋳鉄系溶湯中に0.1重量%添加した。そして接種処理された溶湯から、鋳造により円柱形状のテストピ-スを作製し、比較例3の接種調製鋳鉄を得た。
【0029】
【0030】
このようにして得られた実施例1~3の接種調製鋳鉄の肉厚部組織を顕微鏡により観察した結果は、
図1(a)~(c)に示した顕微鏡写真のとおりであり、黒鉛粒数は、実施例1が418個/mm
2 、実施例2が416個/mm
2 、実施例3が421個/mm
2 であり、黒鉛球状化率(JIS:NIK法)は、実施例1が95.1%、実施例2が95.0%、実施例3が94.7%であった。
た。
【0031】
また、比較例1~3の接種調製鋳鉄の肉厚部組織を顕微鏡により観察した結果は、
図2(a)~(c)に示した顕微鏡写真のとおりであり、黒鉛粒数は、比較例1が271個/mm
2 、比較例2が279個/mm
2 、比較例3が345個/mm
2 であり、黒鉛球状化率(JIS:NIK法)は、比較例1が92.6%、比較例2が93.3%、比較例3が96.1%であった。
【0032】
以上の結果、黒鉛粒数においては、実施例1~3は、いずれも400個/mm2 以上となっており、比較例1、2は、280個/mm2 止まりであり、比較例3でも350個/mm2 止まりであり、本発明の実施例における黒鉛粒数は、比較例における黒鉛粒数との比較において明らかな有意差が見られた。
【0033】
なお、黒鉛球状化率においては、実施例1~3の平均値が95.0%であり、比較例1~3の平均値が94.0%であり、明らかな有意差は見られなかったが、比較例1、2との比較においては、本発明の実施例の黒鉛球状化率の方が優れていた。