(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】超電導線材、及び超電導線材の接合方法
(51)【国際特許分類】
H01B 12/06 20060101AFI20220105BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20220105BHJP
C01G 1/00 20060101ALI20220105BHJP
C01G 3/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
H01B12/06
H01F6/06 110
C01G1/00 S
C01G3/00
(21)【出願番号】P 2018191061
(22)【出願日】2018-10-09
【審査請求日】2020-05-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトのアドレス https://www.csj.or.jp/conference/2018s/2A.pdf 掲載日 平成30年5月23日 集会名、開催場所 2018年度春季(第96回)低温工学・超電導学会、タワーホール船堀(東京都江戸川区船堀4-1-1) 主催者名 公益社団法人 低温工学・超電導学会 開催日 平成30年5月29日 集会名、開催場所 日本金属学会・日本鉄鋼協会・軽金属学会九州支部 平成30年度合同学術講演会、北九州国際会議場(福岡県北九州市小倉北区浅野3-9-30) 主催者名 日本金属学会九州支部・日本鉄鋼学会九州支部・軽金属学会九州支部 開催日 平成30年6月23日 刊行物 平成30年度 合同学術講演会 講演概要集,第34頁, 平成30年度 日本金属学会 日本鉄鋼協会 九州支部 軽金属学会 合同学術講演会 実行委員会 発行者名 日本金属学会九州支部・日本鉄鋼学会九州支部・軽金属学会九州支部 頒布日 平成30年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】516070601
【氏名又は名称】SuperOx Japan合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺西 亮
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ リー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー ペトリキン
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-201328(JP,A)
【文献】特開2005-063695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
H01F 6/06
C01G 1/00
C01G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板、前記第1の基板上の第1の超電導体層、及び前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜を有する第1の超電導線材と、
第2の基板、前記第2の基板上の第2の超電導体層、及び前記第2の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第2の酸化物超電導体からなる第2の追加膜を有する第2の超電導線材と、
を有し、
前記第1の追加膜の表面と前記第2の追加膜の表面が接合されることにより、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が超電導接続され、
前記第1の追加膜と前記第2の追加膜の少なくともいずれか一方が、外気とつながる所定のパターンを有する溝を表面に有し、
前記溝の少なくとも一部が、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜が重なる領域と重なり、
前記第1の基板と前記第2の基板が、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜が重なる領域と重なる領域である接合部において、局所的に溶接された、
超電導線材。
【請求項2】
第1の基板、前記第1の基板上の第1の超電導体層、及び前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜を有する第1の超電導線材と、
第2の基板、及び前記第2の基板上の第2の超電導体層を有する第2の超電導線材と、
を有し、
前記第1の追加膜の表面と前記第2の超電導体層の表面が接合されることにより、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が超電導接続され、
前記第1の追加膜が、外気とつながる所定のパターンを有する溝を表面に有し、
前記溝の少なくとも一部が、前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層が重なる領域と重なり、
前記第1の基板と前記第2の基板が、前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層が重なる領域と重なる領域である接合部において、局所的に溶接された、
超電導線材。
【請求項3】
前記第1の酸化物超電導体及び前記第2の酸化物超電導体が、REBa
2Cu
3O
6+x(REはY又は希土類元素)である、
請求項
1に記載の超電導線材。
【請求項4】
前記第1の酸化物超電導体が、REBa
2
Cu
3
O
6+x
(REはY又は希土類元素)である、
請求項2に記載の超電導線材。
【請求項5】
前記所定のパターンが、ラインアンドスペースパターンである、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の超電導線材。
【請求項6】
第1の基板、前記第1の基板上の第1の超電導体層、及び前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜を有する第1の超電導線材と、
第2の基板、前記第2の基板上の第2の超電導体層、及び前記第2の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第2の酸化物超電導体からなる第2の追加膜を有する第2の超電導線材と、
第3の基板、前記第3の基板上の第3の超電導体層、及び前記第3の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第3の酸化物超電導体からなる第3の追加膜を有する接続用超電導線材と、
を有し、
前記第1の追加膜の表面と前記第3の追加膜の表面、及び前記第2の追加膜の表面と前記第3の追加膜の表面が接合されることにより、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が超電導接続され、
前記第1の追加膜と前記第3の追加膜の少なくともいずれか一方が、外気とつながる第1の所定のパターンを有する第1の溝を表面に有し、
前記第1の溝の少なくとも一部が、前記第1の追加膜と前記第3の追加膜が重なる領域と重なり、
前記第2の追加膜と前記第3の追加膜の少なくともいずれか一方が、外気とつながる第2の所定のパターンを有する第2の溝を表面に有し、
前記第2の溝の少なくとも一部が、前記第2の追加膜と前記第3の追加膜が重なる領域と重なり、
前記第1の基板と前記第3の基板が、前記第1の追加膜と前記第3の追加膜が重なる領域と重なる領域である第1の接合部において、局所的に溶接され、
前記第2の基板と前記第3の基板が、前記第2の追加膜と前記第3の追加膜が重なる領域と重なる領域である第2の接合部において、局所的に溶接された、
超電導線材。
【請求項7】
前記第1の酸化物超電導体、前記第2の酸化物超電導体、及び前記第3の酸化物超電導体が、REBa
2Cu
3O
6+x(REはY又は希土類元素)である、
請求項
6に記載の超電導線材。
【請求項8】
前記第1の所定のパターン及び前記第2の所定のパターンが、ラインアンドスペースパターンである、
請求項
6又は
7に記載の超電導線材。
【請求項9】
第1の基板、前記第1の基板上の第1の超電導体層を有する第1の超電導線材と、
第2の基板、前記第2の基板上の第2の超電導体層を有する第2の超電導線材と、
を有し、
前記第1の超電導体層の表面と前記第2の超電導体層の表面が接合されることにより、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が超電導接続され、
前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層の少なくともいずれか一方が、外気とつながる所定のパターンを有する溝を表面に有し、
前記溝の少なくとも一部が、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が重なる領域と重なり、
前記第1の基板と前記第2の基板が、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が重なる領域と重なる領域である接合部において、局所的に溶接された、
超電導線材。
【請求項10】
前記第1の基板と前記第2の基板が、前記接合部の四隅において局所的に溶接された、
請求項1~
5、
9のいずれか1項に記載の超電導線材。
【請求項11】
前記第1の基板と前記第3の基板が、前記第1の接合部の四隅において局所的に溶接され、
前記第2の基板と前記第3の基板が、前記第2の接合部の四隅において局所的に溶接された、
請求項
6~
8のいずれか1項に記載の超電導線材。
【請求項12】
前記第1の基板と前記第2の基板が、前記接合部の3箇所以上において局所的に溶接された、
請求項1~
5、
9のいずれか1項に記載の超電導線材。
【請求項13】
前記第1の基板と前記第3の基板が、前記第1の接合部の3箇所以上において局所的に溶接され、
前記第2の基板と前記第3の基板が、前記第2の接合部の3箇所以上において局所的に溶接された、
請求項
6~
8のいずれか1項に記載の超電導線材。
【請求項14】
第1の基板上に第1の超電導体層を有する第1の超電導線材の前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に、第1の酸化物超電導体の前駆体からなる第1の前駆体膜を直接形成する工程と、
第2の基板上に第2の超電導体層を有する第2の超電導線材の前記第2の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に、第2の酸化物超電導体の前駆体からなる第2の前駆体膜を直接形成する工程と、
前記第1の前駆体膜の表面と前記第2の前駆体膜の表面を対向させて重ね合わせ、固定した状態で、酸素を含む雰囲気下で熱処理を施し、前記第1の前駆体膜と前記第2の前駆体膜を結晶化させて、それぞれ前記第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜と前記第2の酸化物超電導体からなる第2の追加膜を形成しつつ前記第1の追加膜と前記第2の追加膜を接合させ、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程と、
を含み、
前記第1の追加膜と前記第2の追加膜の少なくともいずれか一方が、所定のパターンを有する溝を表面に有し、
前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接合させる工程において、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜とが重ね合わされる領域と前記溝の少なくとも一部が重なり、前記溝から流入する酸素により、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜への酸素の導入が促進され、
前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程において、前記第1の基板と前記第2の基板を、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜とが重ね合わされる領域と重なる領域である接合部において局所的に溶接する、
超電導線材の接合方法。
【請求項15】
第1の基板上に第1の超電導体層を有する第1の超電導線材の前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に、第1の酸化物超電導体の前駆体からなる第1の前駆体膜を直接形成する工程と、
前記第1の前駆体膜の表面と、第2の基板上に第2の超電導体層を有する第2の超電導線材の前記第2の超電導体層の表面を対向させて重ね合わせ、固定した状態で、酸素を含む雰囲気下で熱処理を施し、前記第1の前駆体膜を結晶化させて、前記第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜を形成しつつ前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層を接合させ、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程と、
を含み、
前記第1の追加膜が、所定のパターンを有する溝を表面に有し、
前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接合させる工程において、前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層とが重ね合わされる領域と前記溝の少なくとも一部が重なり、前記溝から流入する酸素により、前記第1の追加膜への酸素の導入が促進され、
前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程において、前記第1の基板と前記第2の基板を、前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層とが重ね合わされる領域と重なる領域である接合部において局所的に溶接する、
超電導線材の接合方法。
【請求項16】
前記第1の酸化物超電導体及び前記第2の酸化物超電導体が、REBa
2Cu
3O
6+x(REはY又は希土類元素)である、
請求
項14に記載の超電導線材の接合方法。
【請求項17】
前記第1の酸化物超電導体が、REBa
2
Cu
3
O
6+x
(REはY又は希土類元素)である、
請求項15に記載の超電導線材の接合方法。
【請求項18】
前記所定のパターンが、ラインアンドスペースパターンである、
請求項
14~
17のいずれか1項に記載の超電導線材の接合方法。
【請求項19】
前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程において、前記第1の基板と前記第2の基板を、前記接合部の四隅において局所的に溶接する、
請求項
14~
18のいずれか1項に記載の超電導線材の接合方法。
【請求項20】
前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程において、前記第1の基板と前記第2の基板を、前記接合部の3箇所以上において局所的に溶接する、
請求項
14~
18のいずれか1項に記載の超電導線材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材、及び超電導線材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超電導線材を電力機器に応用する際には、線材の長尺化が不可欠である。そして、従来、長尺化のために超電導線材同士を接合する技術が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1に開示された技術では、最表面にREBCO(RE:希土類元素)からなる酸化物超電導膜が設けられた2本の超電導線材を用意し、接合面の酸化物超電導膜上に酸化物超電導材料の前駆体を形成する。そして、前駆体が形成された接合面同士を重ね合わせて超音波接合により貼り合わせ、その後、前駆体を加熱して接合面に酸化物超電導材料の結晶を生成することにより酸化物超電導材料の超電導体層を接合層として形成して、接合面同士を接合する。
【0004】
加熱接合工程を行う前に超音波接合工程を行って、前駆体同士が点接触している部分を破壊して平坦化させて貼り合わせているため、加熱接合工程により前駆体同士を接合して超電導体層を形成する際に、十分な接触面積を確保することができるとされている。
【0005】
非特許文献1に開示された技術では、最表面にGdBCOなどからなる超電導薄膜が設けられた2本の超電導線材を用意し、超電導薄膜同士を融着接合させる。2本の超電導線材には裏側から複数の微細な孔がレーザーにより設けられており、真空下で接合のための熱処理が実施され、高圧酸素雰囲気下で酸素供給のためのアニール処理が実施される。この工程において、酸素分圧と温度が超電導薄膜の熱力学的安定性の主要パラメーターであるとされている。
【0006】
非特許文献2に開示された技術では、YBCOからなる超電導バルクの上にGdBCOからなる超電導薄膜線材を裏向きに乗せ、大気中1040℃で加熱することによりバルクと薄膜を接合する。この工程における温度と酸素分圧では、融点の低いYBCOのみが液相となり、GdBCOの結晶格子に対して配向するようにYBCOが形成される。得られた接合体を酸素雰囲気下で熱処理することで酸素供給を行う。
【0007】
非特許文献3に開示された技術では、GdBCO超電導薄膜線材の最表面にGdBCOからなる無配向微結晶を堆積させて、それらを対向させて加圧しながら低酸素雰囲気下で熱処理を施すことで接合する。酸素雰囲気下での酸素アニール処理工程において、クラッド基板由来のGdBCOの粒界や無配向微結晶由来の空隙などが酸素拡散時の有効なパスとなり、酸素アニールを短時間で実施できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Y. J. Park etal., Supercond. Sci. Technol., 27 (2014) 85008.
【文献】X. Jin etal., Supercond. Sci. Technol., 28 (2015) 75010.
【文献】K. Ohki etal., Supercond. Sci. Technol., 30 (2017) 11501.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
超電導体層同士を超電導接合することにより複数の超電導線材が連結された超電導線材において、接合部のない超電導線材と同等の臨界電流を得るためには、接合部の結晶品質を確保しつつ、接合面積を大きくすることが求められる。また、接合部における機械的強度を高めるためにも、接合面積を大きくすることが求められる。
【0011】
本発明の目的は、超電導体層同士を超電導接合することにより複数の超電導線材が連結された超電導線材であって、接合部の結晶品質が高く、かつ接合面積が大きい超電導線材、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[13]の超電導線材、及び下記[14]~[20]の超電導線材の接合方法を提供する。
【0013】
[1]第1の基板、前記第1の基板上の第1の超電導体層、及び前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜を有する第1の超電導線材と、第2の基板、前記第2の基板上の第2の超電導体層、及び前記第2の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第2の酸化物超電導体からなる第2の追加膜を有する第2の超電導線材と、を有し、前記第1の追加膜の表面と前記第2の追加膜の表面が接合されることにより、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が超電導接続され、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜の少なくともいずれか一方が、外気とつながる所定のパターンを有する溝を表面に有し、前記溝の少なくとも一部が、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜が重なる領域と重なり、前記第1の基板と前記第2の基板が、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜が重なる領域と重なる領域である接合部において、局所的に溶接された、超電導線材。
[2]第1の基板、前記第1の基板上の第1の超電導体層、及び前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜を有する第1の超電導線材と、第2の基板、及び前記第2の基板上の第2の超電導体層を有する第2の超電導線材と、を有し、前記第1の追加膜の表面と前記第2の超電導体層の表面が接合されることにより、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が超電導接続され、前記第1の追加膜が、外気とつながる所定のパターンを有する溝を表面に有し、前記溝の少なくとも一部が、前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層が重なる領域と重なり、前記第1の基板と前記第2の基板が、前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層が重なる領域と重なる領域である接合部において、局所的に溶接された、超電導線材。
[3]前記第1の酸化物超電導体及び前記第2の酸化物超電導体が、REBa2Cu3O6+x(REはY又は希土類元素)である、上記[1]に記載の超電導線材。
[4]前記第1の酸化物超電導体が、REBa
2
Cu
3
O
6+x
(REはY又は希土類元素)である、上記[2]に記載の超電導線材。
[5]前記所定のパターンが、ラインアンドスペースパターンである、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の超電導線材。
[6]第1の基板、前記第1の基板上の第1の超電導体層、及び前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜を有する第1の超電導線材と、第2の基板、前記第2の基板上の第2の超電導体層、及び前記第2の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第2の酸化物超電導体からなる第2の追加膜を有する第2の超電導線材と、第3の基板、前記第3の基板上の第3の超電導体層、及び前記第3の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に直接設けられた第3の酸化物超電導体からなる第3の追加膜を有する接続用超電導線材と、を有し、前記第1の追加膜の表面と前記第3の追加膜の表面、及び前記第2の追加膜の表面と前記第3の追加膜の表面が接合されることにより、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が超電導接続され、前記第1の追加膜と前記第3の追加膜の少なくともいずれか一方が、外気とつながる第1の所定のパターンを有する第1の溝を表面に有し、前記第1の溝の少なくとも一部が、前記第1の追加膜と前記第3の追加膜が重なる領域と重なり、前記第2の追加膜と前記第3の追加膜の少なくともいずれか一方が、外気とつながる第2の所定のパターンを有する第2の溝を表面に有し、前記第2の溝の少なくとも一部が、前記第2の追加膜と前記第3の追加膜が重なる領域と重なり、前記第1の基板と前記第3の基板が、前記第1の追加膜と前記第3の追加膜が重なる領域と重なる領域である第1の接合部において、局所的に溶接され、前記第2の基板と前記第3の基板が、前記第2の追加膜と前記第3の追加膜が重なる領域と重なる領域である第2の接合部において、局所的に溶接された、超電導線材。
[7]前記第1の酸化物超電導体、前記第2の酸化物超電導体、及び前記第3の酸化物超電導体が、REBa2Cu3O6+x(REはY又は希土類元素)である、上記[6]に記載の超電導線材。
[8]前記第1の所定のパターン及び前記第2の所定のパターンが、ラインアンドスペースパターンである、上記[6]又は[7]に記載の超電導線材。
[9]第1の基板、前記第1の基板上の第1の超電導体層を有する第1の超電導線材と、第2の基板、前記第2の基板上の第2の超電導体層を有する第2の超電導線材と、を有し、前記第1の超電導体層の表面と前記第2の超電導体層の表面が接合されることにより、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が超電導接続され、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層の少なくともいずれか一方が、外気とつながる所定のパターンを有する溝を表面に有し、前記溝の少なくとも一部が、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が重なる領域と重なり、前記第1の基板と前記第2の基板が、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層が重なる領域と重なる領域である接合部において、局所的に溶接された、超電導線材。
[10]前記第1の基板と前記第2の基板が、前記接合部の四隅において局所的に溶接された、上記[1]~[5]、[9]のいずれか1項に記載の超電導線材。
[11]前記第1の基板と前記第3の基板が、前記第1の接合部の四隅において局所的に溶接され、前記第2の基板と前記第3の基板が、前記第2の接合部の四隅において局所的に溶接された、上記[6]~[8]のいずれか1項に記載の超電導線材。
[12]前記第1の基板と前記第2の基板が、前記接合部の3箇所以上において局所的に溶接された、上記[1]~[5]、[9]のいずれか1項に記載の超電導線材。
[13]前記第1の基板と前記第3の基板が、前記第1の接合部の3箇所以上において局所的に溶接され、前記第2の基板と前記第3の基板が、前記第2の接合部の3箇所以上において局所的に溶接された、上記[6]~[8]のいずれか1項に記載の超電導線材。
[14]第1の基板上に第1の超電導体層を有する第1の超電導線材の前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に、第1の酸化物超電導体の前駆体からなる第1の前駆体膜を直接形成する工程と、第2の基板上に第2の超電導体層を有する第2の超電導線材の前記第2の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に、第2の酸化物超電導体の前駆体からなる第2の前駆体膜を直接形成する工程と、前記第1の前駆体膜の表面と前記第2の前駆体膜の表面を対向させて重ね合わせ、固定した状態で、酸素を含む雰囲気下で熱処理を施し、前記第1の前駆体膜と前記第2の前駆体膜を結晶化させて、それぞれ前記第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜と前記第2の酸化物超電導体からなる第2の追加膜を形成しつつ前記第1の追加膜と前記第2の追加膜を接合させ、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程と、を含み、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜の少なくともいずれか一方が、所定のパターンを有する溝を表面に有し、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接合させる工程において、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜とが重ね合わされる領域と前記溝の少なくとも一部が重なり、前記溝から流入する酸素により、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜への酸素の導入が促進され、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程において、前記第1の基板と前記第2の基板を、前記第1の追加膜と前記第2の追加膜とが重ね合わされる領域と重なる領域である接合部において局所的に溶接する、超電導線材の接合方法。
[15]第1の基板上に第1の超電導体層を有する第1の超電導線材の前記第1の超電導体層の表面の少なくとも一部の領域上に、第1の酸化物超電導体の前駆体からなる第1の前駆体膜を直接形成する工程と、前記第1の前駆体膜の表面と、第2の基板上に第2の超電導体層を有する第2の超電導線材の前記第2の超電導体層の表面を対向させて重ね合わせ、固定した状態で、酸素を含む雰囲気下で熱処理を施し、前記第1の前駆体膜を結晶化させて、前記第1の酸化物超電導体からなる第1の追加膜を形成しつつ前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層を接合させ、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程と、を含み、前記第1の追加膜が、所定のパターンを有する溝を表面に有し、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接合させる工程において、前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層とが重ね合わされる領域と前記溝の少なくとも一部が重なり、前記溝から流入する酸素により、前記第1の追加膜への酸素の導入が促進され、前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程において、前記第1の基板と前記第2の基板を、前記第1の追加膜と前記第2の超電導体層とが重ね合わされる領域と重なる領域である接合部において局所的に溶接する、超電導線材の接合方法。
[16]前記第1の酸化物超電導体及び前記第2の酸化物超電導体が、REBa2Cu3O6+x(REはY又は希土類元素)である、上記[14]に記載の超電導線材の接合方法。
[17]前記第1の酸化物超電導体が、REBa
2
Cu
3
O
6+x
(REはY又は希土類元素)である、上記[15]に記載の超電導線材の接合方法。
[18]前記所定のパターンが、ラインアンドスペースパターンである、上記[14]~[17]のいずれか1項に記載の超電導線材の接合方法。
[19]前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程において、前記第1の基板と前記第2の基板を、前記接合部の四隅において局所的に溶接する、上記[14]~[18]のいずれか1項に記載の超電導線材の接合方法。
[20]前記第1の超電導体層と前記第2の超電導体層を超電導接続させる工程において、前記第1の基板と前記第2の基板を、前記接合部の3箇所以上において局所的に溶接する、上記[14]~[18]のいずれか1項に記載の超電導線材の接合方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、超電導体層同士を超電導接合することにより複数の超電導線材が連結された超電導線材であって、接合部の結晶品質が高く、かつ接合面積が大きい超電導線材、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(a)は、第1の実施の形態に係る、第1の超電導線材と第2の超電導線材が接合された超電導線材の側面図、
図1(b)は、接合前の第1の超電導線材と第2の超電導線材の側面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施の形態に係る第1の超電導線材と第2の超電導線材の接合前の状態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、第1の実施の形態に係る第1の超電導線材と第2の超電導線材が接合された超電導線材の長さ方向の溝の断面を含む垂直断面図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、溝のパターンの例を示す第1の超電導線材の平面図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、溝のパターンの例を示す第1の超電導線材の平面図である。
【
図6】
図6は、溝のパターンの例を示す第1の超電導線材の平面図である。
【
図7】
図7は、基板同士を溶接する部分(溶接部)の位置の例を示す、超電導線材の上面図である。
【
図8】
図8は、第2の実施の形態に係る超電導線材の側面図である。
【
図9】
図9は、第3の実施の形態に係る超電導線材の側面図である。
【
図10】
図10は、実施例1に係る追加膜の印加圧力と接合面積率との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11(a)は、実施例2に係る追加膜の印加圧力と接合面積率との関係を示すグラフである。
図11(b)は、実施例2に係る追加膜の接合面積率と超電導線材の臨界電流との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例2に係る引張試験の結果から求められた超電導線材の接合面積率とせん断強度の関係を示すグラフである。
【
図13】
図13(a)は、実施例3に係る超電導線材の接合面積率を示す光学顕微鏡写真である。
図13(b)は、比較例としての、実施例3と同じ条件で接合した、追加膜が溝を有しない超電導線材の接合面積率を示す光学顕微鏡写真である。
【
図15】
図15は、実施例3に係る超電導線材の温度-抵抗特性を示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施例3に係る超電導線材の電流-電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1の実施の形態〕
(超電導線材の構成)
図1(a)は、第1の実施の形態に係る超電導線材1の側面図である。超電導線材1は、長尺化のため、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20が接合部30において接合されている。典型的には、第1の超電導線材10の端部と第2の超電導線材20の端部が接合される。
【0017】
第1の超電導線材10は、基板11と、基板11上に中間層14を介して設けられた超電導体層12と、超電導体層12上の追加膜13とを有する。第2の超電導線材20は、基板21と、基板21上に中間層24を介して設けられた超電導体層22と、超電導体層22上の追加膜23とを有する。
【0018】
図1(b)は、接合前の第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の側面図である。第1の超電導線材10と第2の超電導線材20を接合する際に、超電導体層12、追加膜13、追加膜23、超電導体層22は、固相拡散により一体化され、それによって超電導体層12と超電導体層22が超電導接続(超電導電流が流れるように接続)される。
【0019】
基板11と基板21は、例えば、ハステロイ(登録商標)などの合金や金属からなるテープ状の基板である。基板11と基板21は、例えば、50~100μm程度の厚さを有する。
【0020】
中間層14は、例えば、基板11と超電導体層12の間のバッファ層として機能する。同様に、中間層24は、例えば、基板21と超電導体層22の間のバッファ層として機能する。中間層14と中間層24は、例えば、Al2O3、Y2O3もしくはLaMnO3、MgO、LaMnO3、CeO2が積層された多層膜からなり、200~400μm程度の厚さを有する。
【0021】
超電導体層12と超電導体層22は、それぞれ第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の主な電流経路となる層であり、REBa2Cu3O6+x(REは、Y、又はSm、Eu、Gdのような希土類元素)のような酸化物超電導体からなる。超電導体層12、22は、例えば、0.1~10μm程度の厚さを有する。超電導体層12と超電導体層22を構成する超電導体は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0022】
追加膜13と追加膜23は、それぞれ超電導体層12と超電導体層22の表面(上面)の少なくとも一部の領域上に直接設けられる膜であり、REBa2Cu3O6+xのような酸化物超伝導体からなる。追加膜13と追加膜23は、それぞれ超電導体層12と超電導体層22の接合部30を含む一部の領域上に形成されてもよいし、超電導体層12と超電導体層22の全領域上に形成されてもよい。追加膜13、23は、例えば、0.01~1μm程度の厚さを有する。
【0023】
超電導体層12と追加膜13、及び超電導体層22と追加膜23は、異なる超電導体からなるものであってもよい。追加膜13と追加膜23は、異なる酸化物超電導体からなるものであってもよいが、接合を容易にするため、同じ酸化物超電導体からなることが好ましい。
【0024】
追加膜13の表面と追加膜23の表面は、対向した状態で接合部30において接合される。
【0025】
図2は、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の接合前の状態を示す斜視図である。第1の超電導線材10の追加膜13は、所定のパターンを有する溝31をその表面に有する。溝31の少なくとも一部は、接合部30に含まれる。すなわち、溝31の少なくとも一部が、追加膜13と追加膜23が重なる領域と重なる。溝31は、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20が接合された状態において、外気とつながる。
【0026】
図3は、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20が接合された超電導線材1の長さ方向の溝31の断面を含む垂直断面図である。溝31は、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20が接合された状態において、外気とつながっているため、追加膜13と追加膜23に雰囲気中の酸素を導入する際に、酸素が溝31を介して接合部30の中央近傍まで供給される。
【0027】
これによって、追加膜13と追加膜23の接合面積が大きい場合であっても、追加膜13と追加膜23の中央近傍まで酸素を導入し、超電導相の生成を促進することができる。
【0028】
図2に示される溝31のパターンは、超電導線材1の長さ方向に平行なラインアンドスペースパターンであるが、これに限られるものではなく、超電導線材10と第2の超電導線材20が接合された状態において、溝31が外気とつながるという条件を満たすものであればよい。
【0029】
図4(a)~(c)、
図5(a)~(c)、及び
図6は、溝31のパターンの例を示す第1の超電導線材10の平面図である。
図4(a)は、超電導線材1の幅方向に平行なラインアンドスペースパターンを示す。
図4(b)は、四角格子パターンを示す。
図4(c)は、ミヤンダーパターンを示す。
【0030】
図5(a)に示される溝31は、接合部30の中央部の溝31aと、その溝31aを外気とつなげる経路としての溝31bから構成され、追加膜13の溝31が形成されていない領域は、接合部30の外周部にのみ存在する。
図5(b)に示される溝31は、接合部30の中央部を囲む環状の溝31cと、その溝31を外気とつなげる経路としての溝d31から構成され、追加膜13の溝31が形成されていない領域は、接合部30の中央部と外周部に存在する。
図5(c)に示される溝31は、接合部30の中央部の溝31eと、その溝31eを囲む環状の溝31fと、溝31eと溝31fをつなげる経路としての溝31gと、溝31fを外気とつなげる経路としての溝31hから構成される。
図6に示される溝31は、追加膜13の溝31が形成されていない複数の領域が島状に点在するパターンを有する。
【0031】
溝31の幅や深さは、酸素を含む空気の流路となり得る幅や深さであればよい。例えば、溝31の深さは超電導層12まで達していても、達していなくてもよい。溝31のパターンにおけるピッチは、追加膜13と追加膜23に酸素を導入する際の温度における追加膜13と追加膜23の酸素の拡散距離に応じて設定される。例えば、REBa2Cu3O6+xからなる追加膜13と追加膜23に200~800℃程度の熱を加えて酸素を導入する場合、接合部30における溝31が形成されていない領域の溝31から最も離れた点の溝31からの距離が10μm~1mm程度となるように設定される。このため、溝31のパターンがラインアンドスペースである場合は、溝31が形成されていない領域(ラインアンドスペースのスペース)の幅が20μm~2mm程度以下となるように設定される。
【0032】
なお、溝31は、追加膜13ではなく、第2の超電導線材20の追加膜23に設けられていてもよく、また、追加膜13と追加膜23の両方に設けられていてもよい。溝31が追加膜13と追加膜23の両方に設けられる場合、それぞれ異なるパターンを有してもよい。例えば、追加膜13に設けられる溝31が超電導線材1の長さ方向に平行なラインアンドスペースパターンを有し、追加膜23に設けられる溝31が超電導線材1の幅方向に平行なラインアンドスペースパターンを有する。
【0033】
また、上述のように、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20が接合される際に、超電導体層12と追加膜13、及び超電導体層22と追加膜23は、固相拡散により一体化される。このため、超電導体層12と追加膜13、及び超電導体層22と追加膜23は、それぞれ1層の超電導体層を構成すると捉えることができる。すなわち、超電導線材1においては、第1の超電導線材10の超電導層と第2の超電導線材20の超電導層の少なくともいずれか一方が溝31をその表面に有し、溝31の少なくとも一部が、第1の超電導線材10の超電導層と第2の超電導線材20の超電導層が重なる領域と重なり、第1の超電導線材10の超電導層の表面と第2の超電導線材20の超電導層の表面が接合されているといえる。
【0034】
(超電導線材の製造方法)
以下に、超電導線材1を製造するための、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の接合方法の一例を示す。以下の例では、化学溶液プロセスを用いて追加膜12及び追加膜22を形成する。
【0035】
まず、基板11、中間層14、及び超電導体層12を有する第1の超電導線材10と、基板21、中間層24、及び超電導体層22を有する第2の超電導線材20とを用意する。
【0036】
次に、第1の超電導線材10の超電導体層12の表面の少なくとも一部の領域(典型的には超電導体層12の端部を含む領域)上に、酸化物超電導体の前駆体溶液を直接塗布する。また、第2の超電導線材20の超電導体層22の表面の少なくとも一部の領域(典型的には超電導体層22の端部を含む領域)上に、酸化物超電導体の前駆体溶液を直接塗布する。
【0037】
酸化物超電導体の前駆体溶液は、金属有機化合物塗布熱分解法(MOD法)、ゾル-ゲル法などの化学溶液プロセスにより生成される。前駆体溶液を塗布する方法としては、例えば、スピンコート、ディップコート、ダイコートなどが用いられる。
【0038】
超電導体層12と超電導体層22の表面に塗布された前駆体溶液の塗布膜は、それぞれ、追加膜13、追加膜23を構成する酸化物超電導体の構成元素を含む物質を、例えば、金属、金属酸化物、又は無機若しくは有機化合物として含む。また、これら前駆体溶液の塗布膜に含まれる酸化物超電導体の構成元素(例えば、RE、Ba、Cu)の組成比は、追加膜13、追加膜23と同一であってもよく、異なっていてもよい(例えば、REを過多に、あるいはBaやCuを過少にする)。
【0039】
次に、超電導体層12上の前駆体溶液の塗布膜と超電導体層22上の前駆体溶液の塗布膜をか焼し、前駆体膜(か焼膜)を得る。か焼は、例えば、酸素を含む雰囲気下で500℃程度の熱を加えることにより実施される。なお、か焼雰囲気は水蒸気を含んでいてもよく、か焼温度は50~650℃程度の範囲内であればよい。
【0040】
ここで、超電導体層12上のか焼膜は、酸化物超電導体からなる追加膜13の前駆体膜であり、超電導体層22上のか焼膜は、酸化物超電導体からなる追加膜23の前駆体膜である。
【0041】
追加膜13の前駆体膜と追加膜23の前駆体膜は、パルスレーザー蒸着法(PLD法)等の気相法により形成することもできる。この場合、例えば、GdBCOターゲットなどの原料ターゲットにXeClレーザー光を照射し、超電導体層12上にGdBCO前駆体膜などの前駆体膜を厚さ1.0μm程度で堆積させる。実施条件の一例を挙げると、レーザー光のエネルギー密度は2~3J/cm2、レーザーの繰り返し周波数は200Hz、ターゲットの組成はGdBa1.8Cu3Oxであり、前駆体膜作製時の基板温度は300℃である。
【0042】
次に、超電導体層12上の前駆体膜の接合部となる領域を含む領域に溝31を形成する。溝31の形成は、カッターなどを用いた機械的方法により実施されてもよいし、レーザーやフォトリソグラフィを用いて実施されてもよい。また、溝31は超電導体層12上の追加膜13の前駆体膜ではなく超電導体層22上の追加膜23の前駆体膜に形成されてもよいし、追加膜13の前駆体膜と追加膜23の前駆体膜の両方に形成されてもよい。
【0043】
次に、追加膜13の前駆体膜の溝31を含む領域と追加膜23の前駆体膜とを対向させて重ね合わせ、固定した状態で、酸素を含む雰囲気下で熱処理を施す。これにより、追加膜13の前駆体膜と追加膜23の前駆体膜を結晶化させて、酸化物超電導体からなる追加膜13と追加膜23を形成しつつ、追加膜13と追加膜23を接合させ、超電導体層12と超電導体層22を超電導接続させる。
【0044】
熱処理前の重ねられた追加膜13の前駆体膜と追加膜23の前駆体膜の固定は、これらが互いに押し当てられるように、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の重なる領域に機械的に所定の圧力を加えることにより行われる。
【0045】
この超電導体層12と超電導体層22を超電導接続させる工程においては、追加膜13と追加膜23の界面における固相拡散により、追加膜13と追加膜23が接合される。また、超電導体層12と超電導体層22を下地とするエピタキシャル成長により、追加膜13と追加膜23の接合界面を配向化することができる。このため、追加膜13、23が、REBa2Cu3O6+xのような結晶方位に依存して臨界電流密度-磁界特性(Jc-B特性)などの特性が変化する材料からなる場合であっても、接合界面において結晶方位を揃えられるため、且つ、固相拡散によって接合するため界面における異相の析出が抑制されるため、優れた特性を得ることができる。
【0046】
この工程における熱処理は、例えば、処理温度が800℃、酸素分圧が200Pa、処理時間が1.5時間、印加圧力(追加膜13の前駆体膜と追加膜23の前駆体膜を押し当てる圧力)が20MPaの条件で実施される。なお、処理温度は700~850℃程度の範囲内であればよく、酸素分圧は1~100000Pa程度の範囲内であればよく、処理時間は0.2~2時間程度の範囲内であればよく、印加圧力は0.5~50MPa程度の範囲内であればよい。
【0047】
また、この酸化物超電導体からなる追加膜13と追加膜23を形成する工程において、雰囲気中の酸素が溝31に流入し、接合部30の中央近傍まで供給される。これによって、追加膜13と追加膜23の接触面の中央近傍まで酸素が効果的に導入され、超電導相の生成が促進される。
【0048】
また、溝31を形成することにより、追加膜13と追加膜23の接合面積が増加することも確認されている。この理由の一つとして、溝31を介して酸素を導入することにより、接合面のより広い範囲で前駆体の熱分解が進んで酸化物超電導相の形成が促進され、結晶品質が広い範囲で向上することが考えられる。
【0049】
また、本実施の形態においては、追加膜13の前駆体膜と追加膜23の前駆体膜を結晶化させて超電導相を形成しながらこれらを接合するため、接合部に液相が介在せず、接合界面のみならず、追加膜13及び追加膜23の全体においても、本質的に異相が生成されにくい。上記の非特許文献2、3のように、接合界面に生成する液相を介して試料同士を融着させる方法によれば、液相は接合界面のみならず同条件下に晒された下地を含む試料全体で生成することになり、溶けた部分が再度結晶化する際に異相が生成してしまう可能性が高い。
【0050】
追加膜13と追加膜23を接合する工程において、重ねられた追加膜13の前駆体膜と追加膜23の前駆体膜を固定する方法として、上述の機械的に圧力を加える方法の代わりに、基板11と基板21とを溶接する方法を用いることができる。
【0051】
この場合、超電導体層12と超電導体層22を超電導接続させる工程において、基板11と基板21を、追加膜13と追加膜23とが重ね合わされる領域において局所的に溶接する。その結果、基板11と基板21は、接合部30において、すなわち追加膜13と追加膜23が重なる領域と重なる領域において、局所的に溶接される。
【0052】
基板11と基板21を溶接する方法としては、例えば、基板11と基板21の間に電流を流し、それらの重なる面に発生する抵抗熱を利用してスポット溶接する方法(spot welding)や、基板11と基板21の間にレーザー光を照射し、光から変換されて生じる熱を利用して、局所的な溶接を行う方法(laser welding)を用いることができる。
【0053】
図7は、基板10と基板20を溶接する部分(溶接部32)の位置の例を示す、超電導線材1の上面図である。溶接部32は、接合部30内、すなわち追加膜13と第2の追加膜23が重なる領域と重なる領域内に設けられ、また、電流の流れをなるべく妨げないように、超電導線材1の幅方向の端部に近い位置に設けられることが好ましい。典型的には、
図7に示されるように、超電導線材1を平面視したときの接合部30の四隅に設けられる。
【0054】
また、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の位置ずれをより確実に防ぐため、3箇所以上で局所的な溶接を行う、すなわち3つ以上の溶接部32が設けられることが好ましい。また、基板10と基板20をより確実に溶接するため、溶接箇所において、これらの間に存在する追加膜13、23、超伝導体層12、22、及び中間層14、24をグラインダーなどを用いて除去し、基板10と基板20を直接接触させた状態で溶接することが好ましい。
【0055】
基板11と基板21を溶接することにより、超電導線材1の接合部30の機械的強度をより大きくすることができる。また、基板11と基板21を溶接した上で、重ねられた追加膜13の前駆体膜と追加膜23の前駆体膜が互いに押し当てられるように第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の重なる領域に機械的に圧力を加え、熱処理を施して追加膜13と追加膜23を接合することにより、超電導線材1の接合部30の機械的強度をさらに大きくすることができる。
【0056】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態では、接合用の超電導線材を用いて、第1の超電導線材と第2の超電導線材を接合する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については、同じ符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0057】
図8は、第2の実施の形態に係る超電導線材2の側面図である。超電導線材2は、長尺化のため、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20が接合用超電導線材40を用いて接続されている。
【0058】
超電導線材2においては、第1の超電導線材10の端部と接合用超電導線材40の端部が接合部50において接合され、第2の超電導線材20の端部と接合用超電導線材40の端部が接合部51において接合される。
【0059】
接合用超電導線材40は、基板41と、基板41上に中間層44を介して設けられた超電導体層42と、超電導体層42上の追加膜43とを有する。
【0060】
第1の超電導線材10と接合用超電導線材40を接合する際に、超電導体層12、追加膜13、追加膜43、超電導体層42は、固相拡散により一体化され、それによって超電導体層12と超電導体層42が超電導接続される。また、第2の超電導線材20と接合用超電導線材40を接合する際に、超電導体層22、追加膜23、追加膜43、超電導体層42は、固相拡散により一体化され、それによって超電導体層22と超電導体層42が超電導接続される。
【0061】
基板41は、例えば、第1の超電導線材10の基板11や第2の超電導線材20の基板21と同様の材料からなり、同様の厚さを有する。また、中間層44は、例えば、第1の超電導線材10の中間層14や超電導線材20の中間層24と同様の材料からなり、同様の厚さを有する。
【0062】
超電導体層42は、接合用超電導線材40の主な電流経路となる層であり、REBa2Cu3O6+x(REは、Y、又はSm、Eu、又はGdのような希土類元素)のような酸化物超電導体からなる。超電導体層42は、例えば、0.1~10μm程度の厚さを有する。超電導体層42を構成する超電導体は、超電導体層12や超電導体層22を構成する超電導体と同じであっても、異なっていてもよい。
【0063】
追加膜43は、それぞれ超電導体層42の表面(上面)の少なくとも一部の領域上に直接設けられる膜であり、REBa2Cu3O6+xのような酸化物超伝導体からなる。追加膜43は、それぞれ超電導体層42の接合部50、51を含む一部の領域上に形成されてもよいし、超電導体層42の全領域上に形成されてもよい。追加膜43は、例えば、0.01~1μm程度の厚さを有する。
【0064】
超電導体層42と追加膜43は、異なる超電導体からなるものであってもよい。追加膜13と追加膜43、及び追加膜23と追加膜43は、異なる酸化物超電導体からなるものであってもよいが、接合を容易にするため、同じ酸化物超電導体からなることが好ましい。
【0065】
追加膜13の表面と追加膜43の表面は対向した状態で接合部50において接合され、また、追加膜23の表面と追加膜43の表面は対向した状態で接合部51において接合される。それによって、第1の超電導線材10の超電導体層12と第2の超電導線材20の超電導体層22が、接合用超電導線材40の超電導体層42を介して超電導接続される。
【0066】
追加膜13と追加膜43の少なくともいずれか一方は、所定のパターンを有する溝31を有する。この溝31の少なくとも一部は、接合部50に含まれる。すなわち、この溝31の少なくとも一部が、追加膜13と追加膜43が重なる領域と重なる。この溝31は、第1の超電導線材10と接合用超電導線材40が接合された状態において、外気とつながる。
【0067】
また、追加膜23と追加膜43の少なくともいずれか一方は、所定のパターンを有する溝31を有する。この溝31の少なくとも一部は、接合部51に含まれる。すなわち、この溝31の少なくとも一部が、追加膜23と追加膜43が重なる領域と重なる。この溝31は、第2の超電導線材20と接合用超電導線材40が接合された状態において、外気とつながる。
【0068】
追加膜43が、表面の接合部50と重なる領域と接合部51と重なる領域に溝31を有し、追加膜13と追加膜23が溝31を有しない場合は、追加膜43にのみ溝31を形成すればよいため、比較的製造が容易である。
【0069】
なお、追加膜13、23、43の前駆体膜を結晶化させつつ接合させる際に、溝31の開口が塞がれて溝31への酸素の流入が妨げられることがないように、追加膜13の側面と追加膜23の側面は接触していないことが好ましい。
【0070】
第1の超電導線材10と接合用超電導線材40及び第2の超電導線材20と接合用超電導線材40を接合する方法は、第1の実施の形態に記載された第1の超電導線材10と第2の超電導線材20との接合方法と同様である。すなわち、追加膜13と追加膜43及び追加膜23と追加膜43を接合する方法は、第1の実施の形態に記載された追加膜13と追加膜23を接合する方法と同様である。
【0071】
追加膜13と追加膜43及び追加膜23と追加膜43を接合する工程において、雰囲気中の酸素が溝31に流入し、接合部50、51の中央近傍まで供給される。これによって、追加膜13と追加膜43の接触面の中央近傍及び追加膜23と追加膜43の接触面の中央近傍まで酸素が効果的に導入され、超電導相の生成が促進される。
【0072】
第1の実施の形態に係る基板11と基板21のように、基板11と基板41、及び基板21と基板41を溶接してもよい。この場合、基板11と基板41は、接合部50において、すなわち追加膜13と追加膜43が重なる領域と重なる領域において、局所的に溶接される。また、基板21と基板41は、接合部51において、すなわち追加膜23と追加膜43が重なる領域と重なる領域において、局所的に溶接される。なお、基板11と基板41の溶接及び基板21と基板41の溶接における好ましい条件(溶接部32の位置、数など)は、第1の実施の形態と同様である。
【0073】
第1の超電導線材10と接合用超電導線材40、及び第2の超電導線材20と接合用超電導線材40が接合される際に、超電導体層12と追加膜13、超電導体層22と追加膜23、及び超電導体層42と追加膜43は、固相拡散により一体化される。このため、超電導体層12と追加膜13、超電導体層22と追加膜23、及び超電導体層42と追加膜43は、それぞれ1層の超電導体層を構成すると捉えることができる。すなわち、超電導線材2においては、第1の超電導線材10の超電導層と接合用超電導線材40の超電導層の少なくともいずれか一方が溝31をその表面に有し、溝31の少なくとも一部が、第1の超電導線材10の超電導層と接合用超電導線材40の超電導層が重なる領域と重なり、第1の超電導線材10の超電導層の表面と接合用超電導線材40の超電導層の表面が接合されているといえる。また、第2の超電導線材20の超電導層と接合用超電導線材40の超電導層の少なくともいずれか一方が溝31をその表面に有し、溝31の少なくとも一部が、第2の超電導線材20の超電導層と接合用超電導線材40の超電導層が重なる領域と重なり、第2の超電導線材20の超電導層の表面と接合用超電導線材40の超電導層の表面が接合されているといえる。
【0074】
〔第3の実施の形態〕
第3の実施の形態は、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の一方にのみ追加膜が含まれる点において、第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の部材については、同じ符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0075】
図9は、第3の実施の形態に係る超電導線材3の側面図である。第1の超電導線材10は、基板11と、基板11上に中間層14を介して設けられた超電導体層12と、超電導体層12上の追加膜13とを有する。第2の超電導線材20は、基板21と、基板21上に中間層24を介して設けられた超電導体層22とを有する。
【0076】
超電導線材3においては、追加膜13の表面と超電導体層22の表面が接合されることにより、超電導体層12と超電導体層22が超電導接続されている。また、追加膜13が、外気とつながる所定のパターンを有する溝31を有する。この溝31の少なくとも一部は、接合部30に含まれる。すなわち、この溝31の少なくとも一部が、追加膜13と超電導体層22が重なる領域と重なる。
【0077】
第1の超電導線材10と第2の超電導線材20を接合する際に、超電導体層12、追加膜13、超電導体層22は、固相拡散により一体化され、それによって超電導体層12と超電導体層22が超電導接続される。
【0078】
超電導体層12と超電導体層22を超電導接続させる工程は、第1の実施の形態と同様である。第1の超電導線材10の追加膜13の前駆体膜の溝31を含む領域と第2の超電導線材20の超電導体層22とを対向させて重ね、固定した状態で、酸素を含む雰囲気下で熱処理を施す。そして、追加膜13の前駆体膜を結晶化させて、酸化物超電導体からなる追加膜13を形成しつつ追加膜13と超電導体層22を接合させ、超電導体層12と超電導体層22を超電導接続させる。このとき、追加膜13と超電導体層22の界面における固相拡散により、追加膜13と超電導体層22が接合されると考えられる。
【0079】
追加膜13と超電導体層22の接合形態は、異種接合と呼ばれる接合形態であり、接合界面の位置が接合前の界面の位置からいずれかの側に僅かに移動したり、接合界面に空隙が生成したりするおそれがある。このため、本実施の形態に係る超電導線材3は、第1の実施の形態に係る超電導線材1と比べて、電流-電圧特性などにおいて劣る場合がある。一方で、接合部において追加膜を1枚のみ有する超電導線材3には、製造工程数が少ないという利点がある。
【0080】
第1の実施の形態と同様に、基板11と基板21を溶接してもよい。この場合、超電導体層12と超電導体層22を超電導接続させる工程において、基板11と基板21を、追加膜13と超電導体層22とが重ね合わされる領域において局所的に溶接する。その結果、基板11と基板21は、接合部30において、すなわち追加膜13と超電導体層22が重なる領域と重なる領域において、局所的に溶接される。なお、基板11と基板21の溶接における好ましい条件(溶接部32の位置、数など)は、第1の実施の形態と同様である。
【0081】
なお、超電導線材3においては、第1の超電導線材10が追加膜13を有さずに、第2の超電導線材20が溝31を有する追加膜23を有してもよい。
【0082】
また、接合する超電導線材のいずれか一方のみが追加膜を有するという本実施の形態の特徴を、上記第2の実施の形態に適用してもよい。すなわち、第1の超電導線材10及び第2の超電導線材20と、接合用超電導線材40の、いずれか一方のみが追加膜を有していてもよい。
【0083】
具体的には、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20が追加膜13と追加膜23をそれぞれ有して、接合用超電導線材40は追加膜43を有さず、追加膜13の表面と超電導体層42の表面、及び追加膜23の表面と超電導体層42の表面が接合されることにより、超電導体層12と超電導体層22が、超電導体層42を介して超電導接続される。この場合、追加膜13に設けられる溝31の少なくとも一部は、追加膜13と超電導体層42が重なる領域と重なる。また、追加膜23に設けられる溝31の少なくとも一部は、追加膜23と超電導体層42が重なる領域と重なる。
【0084】
または、接合用超電導線材40が追加膜43を有して、第1の超電導線材10と第2の超電導線材20が追加膜13と追加膜23をそれぞれ有さず、超電導体層12の表面と追加膜43の表面、及び超電導体層22の表面と追加膜43の表面が接合されることにより、超電導体層12と超電導体層22が、超電導体層42を介して超電導接続される。この場合、追加膜43は、超電導体層12と追加膜43が重なる領域と少なくとも一部が重なる溝31、及び超電導体層22と追加膜43が重なる領域と少なくとも一部が重なる溝31を有する。この形態では、接合用超電導線材40にのみ追加膜を形成すればよいため、比較的製造が容易である。
【0085】
この形態においても、第1の実施の形態に係る基板11と基板21のように、基板11と基板41、及び基板21と基板41を溶接してもよい。この場合、基板11と基板41は、接合部50において、すなわち追加膜13と超電導体層42が重なる領域と重なる領域又は超電導体層12と追加膜43が重なる領域と重なる領域において、局所的に溶接される。また、基板21と基板41は、接合部51において、すなわち追加膜23と超電導体層42が重なる領域と重なる領域又は超電導体層22と追加膜43が重なる領域と重なる領域において、局所的に溶接される。基板11と基板21の溶接における好ましい条件(溶接部32の位置、数など)は、第1の実施の形態と同様である。
【0086】
第1の超電導線材10と第2の超電導線材20が接合される際に、超電導体層12と追加膜13は、固相拡散により一体化される。このため、超電導体層12と追加膜13は、1層の超電導体層を構成すると捉えることができる。すなわち、超電導線材3においては、第1の超電導線材10の超電導層と第2の超電導線材20の超電導層の少なくともいずれか一方が溝31をその表面に有し、溝31の少なくとも一部が、第1の超電導線材10の超電導層と第2の超電導線材20の超電導層が重なる領域と重なり、第1の超電導線材10の超電導層の表面と第2の超電導線材20の超電導層の表面が接合されているといえる。
【0087】
(実施の形態の効果)
上記第1~3の実施の形態によれば、所定のパターンを有する溝が形成された追加膜を用いて超電導線材を接合することにより、接合部の結晶品質が高く、かつ接合面積が大きい超電導線材を提供することができる。
【実施例1】
【0088】
MOD法により形成した追加膜の前駆体同士を接合させる際に超電導線材間に印加する圧力、追加膜の接合部における接合面積率(追加膜の重なった領域の面積に対する、実際に接合された領域の面積の比の値)の関係を調べた。
【0089】
本実施例においては、第1の実施の形態に係る第1の超電導線材10と第2の超電導線材20(ただし、いずれも溝31を有しない)を用いて実験を実施した。第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の幅は、6mmとした。
【0090】
基板11、21として、ハステロイ(登録商標)からなる厚さ50~100μmのテープ状の基板を用いた。中間層14、24として、Al2O3、Y2O3もしくはLaMnO3、MgO、LaMnO3、CeO2の各層を順次積層した多層膜を用いた。また、超電導体層12、22として、GdBa2Cu3O6+xからなる厚さ1.3~1.5μmの超電導体膜を用いた。また、MOD法により生成したGdBa2Cu3O6+xの前駆体溶液を超電導体層12、22の表面全体に塗布し、それを550℃でか焼して、追加膜13、23の前駆体膜を形成した。
【0091】
そして、追加膜13、23の前駆体同士を対向させて重ね合わせ、機械的に圧力を印加した状態で、固相拡散のための熱処理を施した。この処理は、処理温度が800℃、酸素分圧が200Pa、処理時間が1.5時間、印加圧力が1~50MPaの条件で実施した。
【0092】
図10は、実施例1に係る追加膜13、23の印加圧力と接合面積率との関係を示すグラフである。
図10は、印加圧力が大きいほど、追加膜13、23の接合面積率が大きくなることを示している。
【実施例2】
【0093】
PLD法によって形成した追加膜の前駆体同士を接合させる際に超電導線材間に印加する圧力、追加膜の接合部における接合面積率(追加膜の重なった領域の面積に対する、実際に接合された領域の面積の比の値)、及び臨界電流の関係を調べた。さらに、接合面積率と機械的強度(せん断強度)の関係を調べた。
【0094】
本実施例においては、第1の実施の形態に係る第1の超電導線材10と第2の超電導線材20(ただし、いずれも溝31を有しない)を用いて実験を実施した。第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の幅は、6mmとした。
【0095】
基板11、21として、ハステロイ(登録商標)からなる厚さ50~100μmのテープ状の基板を用いた。中間層14、24として、Al2O3、Y2O3もしくはLaMnO3、MgO、LaMnO3、CeO2の各層を順次積層した多層膜を用いた。また、超電導体層12、22として、GdBa2Cu3O6+xからなる厚さ1.3~1.5μmの超電導体膜を用いた。また、PLD法によりGdBa2Cu3O6+xの前駆体を超電導体層12、22の表面全体に堆積して、追加膜13、23の前駆体膜を形成した。
【0096】
そして、追加膜13、23の前駆体同士を対向させて重ね合わせ、機械的に圧力を印加した状態で、固相拡散のための熱処理を施した。この処理は、処理温度が820℃、酸素分圧が5000Pa、処理時間が1.5時間、印加圧力が1~50MPaの条件で実施した。
【0097】
図11(a)は、実施例2に係る追加膜の印加圧力と接合面積率との関係を示すグラフである。
図11(b)は、実施例2に係る追加膜の接合面積率と超電導線材1の臨界電流との関係を示すグラフである。
図11(b)は、追加膜13、23の接合面積率が大きいほど、超電導線材1の臨界電流が小さくなることを示している。
【0098】
これは、接合面積が大きくなるほど、接合部分の中央近傍まで酸素を導入することが困難になり、酸素が十分に導入された超電導結晶が形成されるのは外気と接触しやすい接合部周囲のみとなり、接合部中央では酸素が欠乏した超電導結晶が生成する、又は接合部分の中央にかけて前駆体から超電導体への生成反応が十分に進まず低品質になるためと考えられる。
【0099】
このため、追加膜の結晶品質を確保しつつ、接合面積を大きくするためには、上記第1、2の実施の形態のように、溝31を形成して、追加膜の接触面の広い領域に効果的に酸素を導入することが非常に効果的である。
【0100】
なお、
図11(a)、(b)によれば、溝31を形成しない場合には、印加圧力を5~15MPa程度とすることで、超電導線材として実用的な接合面積と臨界電流が得られることがわかる。
【0101】
次に、接合面積率とせん断強度の関係を調べるため、SHIMADZU社製のAG-IS 10kN装置を用いて、室温にて引張試験を実施した。接合した第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の両端に直径1.5mmの穴をあけ、その穴に直径1.2mmのピンをそれぞれ通した後、3.3μm/sの速度でこれらのピンを互いに反対の方向へ引っ張ることで引張強度を測定した。また、得られた引張強度を接合面積で除することでせん断強度を求めた。
【0102】
図12は、引張試験の結果から求められた超電導線材の接合面積率とせん断強度の関係を示すグラフである。
図12は、接合面積が増加するほどせん断強度が上昇することを示しており、超電導線材の接合部における機械的強度を高めるには、接合面積を大きくすることが有用であることがわかる。
【実施例3】
【0103】
上記第1の実施の形態に係る超電導線材1を製造し、その特性を評価した。
【0104】
本実施例においては、第1の実施の形態に係る第1の超電導線材10と第2の超電導線材20を用いて実験を実施した。第1の超電導線材10と第2の超電導線材20の幅は、6mmとした。
【0105】
基板11、21として、ハステロイ(登録商標)からなる厚さ50~100μmのテープ状の基板を用いた。中間層14、24として、Al2O3、Y2O3もしくはLaMnO3、MgO、LaMnO3、CeO2の各層を順次積層した多層膜を用いた。また、超電導体層12、22として、GdBa2Cu3O6+xからなる厚さ1.3~1.5μmの超電導体膜を用いた。また、MOD法により生成したGdBa2Cu3O6+xの前駆体溶液を超電導体層12、22の表面全体に塗布し、それを550℃でか焼して、追加膜13、23の前駆体膜を形成した。
【0106】
そして、追加膜13の前駆体膜の表面の端部から5mmまでの領域に、超電導線材1の長さ方向に平行なラインアンドスペースパターンを有する溝31を形成した。溝31の幅を25μm~30μm、隣接する溝31の間の領域の幅を720μm~730μmとした。
【0107】
そして、追加膜13、23の前駆体同士を対向させて重ね合わせ、機械的に圧力を印加した状態で、固相拡散のための熱処理を施した。この処理は、処理温度が800℃、酸素分圧が200Pa、処理時間が1.5時間、印加圧力が20MPaの条件で実施した。
【0108】
図13(a)は、20MPaの圧力を印加して接合した実施例3に係る超電導線材1の、接合された追加膜13と追加膜23を剥がした後の追加膜13の表面の状態を写した光学顕微鏡写真である。
図13(b)は、比較例としての、実施例3と同じ条件で接合した、追加膜13、23が溝31を有しない超電導線材1の、接合された追加膜13と追加膜23を剥がした後の追加膜13の表面の状態を写した光学顕微鏡写真である。接合前と状態が変化していない領域が接合されなかった領域であり、変化している領域が接合された領域である。接合された領域の面積を測定することにより、接合面積率を算出することができる。
図14は、
図13(a)及び
図13(b)に示される追加膜13の算出された接合面積率を比較したグラフである。
【0109】
図14に示されるように、
図13(a)に示される実施例3に係る超電導線材1(溝あり)の接合面積率はおよそ42.7%であり、
図13(b)に示される比較例に係る超電導線材1(溝なし)の接合面積率はおよそ17.6%である。このことは、同じ条件で接合する場合であっても、溝31を形成することにより、接合面積率を増加させることができることを示している。
【0110】
図15は、20MPaの圧力を印加して接合した実施例3に係る超電導線材1(溝あり)の温度-抵抗特性を示すグラフである。
図15には、同じ条件で接合した、追加膜13、23が溝31を有しない超電導線材1(溝なし)の温度-抵抗特性も合わせて示されている。
図15は、溝31を形成することにより、臨界温度以下での抵抗の低下が急峻になり、より高い温度で安定した超電導電流が流れることを示している。
【0111】
図16は、実施例3に係る超電導線材1の-263℃における電流-電圧特性を示すグラフである。
図16は、溝31を形成することによる接合面積の増加及び超電導転移温度の上昇により、より多くの臨界電流が流れることを示している。
【0112】
以上、本発明の実施の形態、実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態、実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0113】
また、上記に記載した実施の形態、実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態、実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0114】
1、2、3 超電導線材
10 第1の超電導線材
11、21、41 基板
12、22、42 超電導体層
13、23、43 追加膜
30、50、51 接合部
31 溝
40 接続用超電導線材