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特許6993673ポリイミド粉体、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ポリイミド粉体、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20220105BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220105BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08G73/10
C08J5/18 CFG
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017184760
(22)【出願日】2017-09-26
(65)【公開番号】P2019059835
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592166137
【氏名又は名称】河村産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】田中 圭三
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】長島 豊
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠吾
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/055530(WO,A1)
【文献】特開平3-243629(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111836(WO,A1)
【文献】特表2013-523939(JP,A)
【文献】特表2005-524753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/00-79/08
C08G 73/00-73/26
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bとのブレンドからなり、有機溶媒に可溶なポリイミド粉体であって、
ポリイミド粉体A及びポリイミド粉体Bはそれぞれ、少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有するポリイミドからなり、
前記少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物は、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物を含み、
前記少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物は、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物を含み、
ポリイミド粉体Aは100,000g/mol以上250,000g/mol未満の重量平均分子量を有するポリイミドからなり、
ポリイミド粉体Bは250,000g/mol以上500,000g/mol以下の重量平均分子量を有するポリイミドからなり、
ポリイミド粉体A/ポリイミド粉体Bの重量比は10/90~90/10の範囲であり、
ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bとのブレンドについて測定した重量平均分子量が160,000~350,000g/molの範囲であることを特徴とするポリイミド粉体。
【請求項2】
ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bが、同一の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と同一のテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有するポリイミドからなることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド粉体。
【請求項3】
前記ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bとのブレンドについて測定した平均粒子径が0.02~0.8mmの範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド粉体。
【請求項4】
有機溶媒に溶解させた溶液から製膜して得られる厚さ50μmのポリイミドフィルムが、85%以上の全光線透過率及び-3~3の範囲の黄色度(イエローインデックス)を与えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項記載のポリイミド粉体。
【請求項5】
有機溶媒中に請求項1~4のいずれか一項に記載のポリイミド粉体が1~30重量%の濃度で溶解していることを特徴とするポリイミドワニス。
【請求項6】
少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有し、前記少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物は、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物を含み、前記少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物は、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物を含み、有機溶媒に可溶な、100,000g/mol以上250,000g/mol未満の重量平均分子量を有するポリイミドからなるポリイミド粉体Aを有機溶媒に1~30重量%の濃度となるように溶解させたワニスと、少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有し、前記少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物は、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物を含み、前記少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物は、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物を含み、有機溶媒に可溶な、250,000g/mol以上500,000g/mol以下の重量平均分子量を有するポリイミドからなるポリイミド粉体Bを有機溶媒に1~30重量%になるように溶解させたワニスとを、ポリイミド粉体A/ポリイミド粉体Bの重量比が10/90~90/10の範囲となるようにブレンドすることを含む、請求項5に記載のポリイミドワニスの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のポリイミドワニスを製膜して得られるポリイミドフィルム。
【請求項8】
全光線透過率が85%以上、かつ黄色度が-3~3の範囲にあることを特徴とする請求項7に記載のポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド粉体およびそれを用いて得られるポリイミドワニス並びにポリイミドフィルムに関し、特にディスプレイ用途や電子材料用途に好適に用いられる、極めて優れた耐熱性と透明性を兼ね備えたポリイミドフィルムを与えるポリイミド粉体およびポリイミドワニスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は耐熱性に優れる高分子として、航空宇宙分野、電気絶縁分野、電子分野等の耐熱性や高信頼性が要求される幅広い分野で活用されている。また、近年では耐熱性と透明性を兼ね備えた透明ポリイミドが提案されてきており、例えば特許文献1には、フッ素原子を含有する特定のモノマーから合成される、光導波路に好適な透明性に優れた可溶性のポリイミドが提案されている。特許文献2には、特定の脂環式ジアミンを用いた有機溶剤に可溶な透明ポリイミドが提案されている。しかしながら、特許文献1および特許文献2にはポリイミド粉体に関しては開示されておらず、また特許文献2に記載されたポリイミドは脂環式のジアミンを原料として用いているため、耐熱性に乏しく、加熱により着色するという問題があった。
【0003】
ポリイミドの粉体としては、可溶性ポリイミドのワニスに水やメタノールなどの貧溶媒を添加して塊状のポリイミド樹脂を析出させる方法が開示されている(特許文献3)。
【0004】
また、特許文献4にはジアミン類と酸二無水物類を重合して得られるポリアミド酸のイミド化物の粉末が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献3や特許文献4に記載されたポリイミドの粉体は、原料モノマーであるジアミン類のモル量と酸無水物のモル量を基本的に同じにして重合されたポリアミド酸を経由して製造されているが、そのような製造方法の場合、僅かなモノマーの秤量誤差、モノマーの溶け残り、モノマーの純度の変動等により、ポリアミド酸の重合度が大きく変動し、結果として得られるポリイミド粉体の重合度が安定しないという問題があった。それを防ぐために、ジアミンと酸無水物のモル量の比率を1から僅かにずらしてポリアミド酸重合する方法が取り入れられているが、その場合でも溶媒中に含まれる水分量の影響により重合度が変動するという問題がある。また、ポリアミド酸溶液の段階では、同等の重合度の溶液であったとしても、その後のイミド化、粉体化、乾燥等の工程においても、ポリマーの解裂等により重合度が変化するという問題も生じることがある。
【0006】
このように、重合度の変動したポリイミド粉体をそのまま溶媒に溶解してポリイミド溶液(ワニス)として用いた場合、ポリイミドワニスの粘度が著しく変動して、安定したポリイミドフィルムの製膜ができなくなるとともに、得られるポリイミドフィルムの機械特性が低下するケースがあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-235505
【文献】特開2000-169579
【文献】特開2004-285355
【文献】特表2013-523939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐熱性、透明性及び機械特性に優れたポリイミドフィルムを与える、有機溶媒に可溶でハンドリング性に優れたポリイミド粉体及びポリイミドワニスを与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、異なる重量平均分子量を有するポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bを、特定の範囲の重量比率でブレンドすることで、耐熱性、透明性及び機械特性に極めて優れたポリイミドフィルムを与える、ハンドリング性の良好なポリイミド粉体及びポリイミドワニスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明によれば、以下に示すポリイミド粉体、ポリイミドワニス、ポリイミドワニスの製造方法及びポリイミドフィルムが提供される。
[1] ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bとのブレンドからなり、有機溶媒に可溶なポリイミド粉体であって、
ポリイミド粉体A及びポリイミド粉体Bはそれぞれ、少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有するポリイミドからなり、
ポリイミド粉体Aは100,000g/mol以上250,000g/mol未満の重量平均分子量を有するポリイミドからなり、
ポリイミド粉体Bは250,000g/mol以上500,000g/mol以下の重量平均分子量を有するポリイミドからなり、
ポリイミド粉体A/ポリイミド粉体Bの重量比は10/90~90/10の範囲であり、
ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bとのブレンドについて測定した重量平均分子量が160,000~350,000g/molの範囲であることを特徴とするポリイミド粉体。
[2] 前記少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物が含まれることを特徴とする[1]に記載のポリイミド粉体。
[3] 前記少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物に、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物が含まれることを特徴とする[1]又は[2]に記載のポリイミド粉体。
[4] ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bが、同一の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と同一のテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有するポリイミドからなることを特徴とする[1]~[3]のいずれか一項に記載のポリイミド粉体。
[5] ポリイミド粉体A及びポリイミド粉体Bが何れも、ポリアミド酸への重合、化学イミド化反応、生成ポリイミドの析出による粉体の形成、及び乾燥の工程を経て製造されるポリイミドからなることを特徴とする[1]~[4]のいずれか一項に記載のポリイミド粉体。
[6] 前記ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bとのブレンドについて測定した平均粒子径が0.02~0.8mmの範囲にあることを特徴とする[1]~[5]のいずれか一項に記載のポリイミド粉体。
[7] 有機溶媒に溶解させた溶液から製膜して得られる厚さ50μmのポリイミドフィルムが、85%以上の全光線透過率及び-3~3の範囲の黄色度(イエローインデックス)を与えることを特徴とする、[1]~[6]のいずれか一項記載のポリイミド粉体。
[8] 有機溶媒中に[1]~[7]のいずれか一項に記載のポリイミド粉体が1~30重量%の濃度で溶解していることを特徴とするポリイミドワニス。
[9] 少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有し、有機溶媒に可溶な、100,000g/mol以上250,000g/mol未満の重量平均分子量を有するポリイミドからなるポリイミド粉体Aを有機溶媒に1~30重量%の濃度となるように溶解させたワニスと、少なくとも1種類の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位と少なくとも1種類のテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有し、有機溶媒に可溶な、250,000g/mol以上500,000g/mol以下の重量平均分子量を有するポリイミドからなるポリイミド粉体Bを有機溶媒に1~30重量%になるように溶解させたワニスとを、ポリイミド粉体A/ポリイミド粉体Bの重量比が10/90~90/10の範囲となるようにブレンドすることを含む、[8]に記載のポリイミドワニスの製造方法。
[10] [8]に記載のポリイミドワニスを製膜して得られるポリイミドフィルム。
[11] 全光線透過率が85%以上、かつ黄色度が-3~3の範囲にあることを特徴とする[10]に記載のポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、優れた耐熱性や機械特性を有し、透明性にも優れたポリイミドフィルムを与える、ポリイミド粉体及びポリイミドワニスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第一の実施態様であるポリイミド粉体は、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を用いて製造される重量平均分子量が100,000g/mol以上250,000g/mol未満のポリイミドからなるポリイミド粉体Aと重量平均分子量が250,000g/mol以上500,000g/mol以下のポリイミドからなるポリイミド粉体Bとを、重量比率でポリイミド粉体A/ポリイミド粉体B=10/90~90/10の比率でブレンドして、得られるブレンドについて測定した重量平均分子量が160,000~350,000g/molの範囲に調整することにより製造される。
【0013】
本発明の第二の実施態様であるポリイミドワニスは、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を用いて製造される重量平均分子量が100,000g/mol以上250,000g/mol未満のポリイミドからなるポリイミド粉体Aと重量平均分子量が250,000g/mol以上500,000g/mol以下のポリイミドからなるポリイミド粉体Bとを、重量比でポリイミド粉体A/ポリイミド粉体B=10/90~90/10の比率でブレンドして、得られるブレンドについて測定した重量平均分子量が160,000~350,000g/molの範囲に調整されたポリイミド粉体を、有機溶媒に1~30重量%の濃度となるように溶解させることにより製造される。また、ポリイミドワニスは、前記ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bを、それぞれ濃度が1~30%の濃度になるように有機溶媒に溶解させた後に、溶質であるポリイミドAとポリイミドBの重量比率がポリイミドA/ポリイミドB=10/90~90/10になるようにブレンドすることにより製造することもできる。
【0014】
1.原料
1.1.芳香族ジアミン化合物
本発明のポリイミド粉体の製造に使用される芳香族ジアミン化合物としては、合わせて用いられるテトラカルボン酸二無水物との反応により、溶媒(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC))に可溶なポリイミドを与える芳香族ジアミン化合物であれば、任意の芳香族ジアミン化合物を使用することができる。具体的には、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェニル)スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェニル)スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-フルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどが挙げられる。これらの芳香族ジアミン化合物は単独で用いてもよく、2種類以上の芳香族ジアミン化合物を使用しても良い。そして、透明性や耐熱性の観点から、好ましい芳香族ジアミン化合物としては、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどのフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物が挙げられ、使用する芳香族ジアミン化合物の少なくとも1種類はフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物であることが好ましく、特に好ましくは2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルである。フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物を用いることで、透明性、耐熱性、機械特性、溶剤への可溶性を得ることが容易となる。
【0015】
1.2.テトラカルボン酸二無水物
また、本発明のポリイミド粉体の製造に使用されるテトラカルボン酸二無水物としては、上記芳香族ジアミン化合物と同様に、溶媒(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC))に可溶なポリイミドを与えるテトラカルボン酸二無水物であれば、任意のものを使用でき、具体的には、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエ-ト-3, 3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物などが例示される。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよく、二種類以上のテトラカルボン酸二無水物を使用しても良い。そして、透明性、耐熱性、機械特性及び溶剤への可溶性の観点から、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物など、少なくとも1種類のフルオロ基を有するテトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。
【0016】
2.ポリイミド粉体の製造方法
本発明のポリイミド粉体は、芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を原料として、ポリアミド酸への重合、イミド化反応、粉体化及び乾燥の各工程を経て製造することができる。
【0017】
2.1.ポリアミド酸への重合
ポリアミド酸への重合は、生成するポリアミド酸が可溶な溶剤への溶解下で、上記芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を反応させることにより行うことができる。ポリアミド酸への重合に用いる溶剤としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の溶剤を好適に用いることができる。
【0018】
ポリアミド酸への重合反応は、攪拌装置を備えた反応容器で攪拌しながら行うことが好ましい。例えば、上記溶剤に所定量の芳香族ジアミン化合物を溶解させて、攪拌しながらテトラカルボン酸二無水物を投入して反応を行いポリアミド酸を得る方法、テトラカルボン酸二無水物を溶剤に溶解させて、攪拌しながら芳香族ジアミン化合物を投入して反応を行いポリアミド酸を得る方法、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を交互に投入して反応させてポリアミド酸を得る方法などが挙げられる。
【0019】
ポリアミド酸への重合反応の温度については特に制約はないが、0~70℃の温度で行うことが好ましく、より好ましくは10~60℃であり、更に好ましくは20~50℃である。重合反応を上記範囲内で行うことで、着色が少なく透明性に優れたポリアミド酸を得ることが可能となる。
【0020】
また、ポリアミド酸への重合に使用する芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物は概ね当モル量を使用するが、得られるポリアミド酸の重合度をコントロールして所定の重量平均分子量のポリイミドを得るために、テトラカルボン酸二無水物のモル量/芳香族ジアミン化合物のモル量(モル比率)を0.95~1.05の範囲で変化させることも可能である。そして、重量平均分子量が100,000g/mol以上250,000g/mol未満もしくは重量平均分子量が250,000g/mol以上500,000g/mol以下のポリイミドを与えるポリアミド酸を重合するためには、テトラカルボン酸と芳香族ジアミン化合物のモル比率や溶媒中の水分量などを、うまくコントロールして製造することが重要である。テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物のモル比率は、1.001~1.02の範囲であることが好ましく、1.002~1.015であることがより好ましい。このようにテトラカルボン酸二無水物を僅かに過剰にすることで、得られるポリアミド酸の重合度を安定させることができるとともに、テトラカルボン酸二無水物由来のユニットをポリマーの末端に配置することができ、その結果、着色が少なく透明性に優れたポリイミドを与えることが可能となる。
【0021】
生成するポリアミド酸溶液の濃度は、溶液の粘度を適正に保ち、その後の工程での取り扱いが容易になるよう、適切な濃度(例えば、10~30重量%程度)に整えることが好ましい。
【0022】
2.2.イミド化反応
次に得られたポリアミド酸溶液中のポリアミド酸をイミド化する。イミド化は、ポリアミド酸溶液を加熱して行う熱イミド化や、イミド化剤を用いて行う化学イミド化などにより行うことができる。そして、得られるポリイミドの重量平均分子量のコントロールのしやすさや、良好な耐熱性、機械特性及び透明性などのポリイミドの特性が得られるといった観点から、化学イミド化によるイミド化が好ましい。化学イミド化反応に用いられるイミド化剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸などのカルボン酸無水物を用いることができ、コストや反応後の除去のしやすさの観点から無水酢酸を使用することが好ましい。使用するイミド化剤の当量は化学イミド化反応を行うポリアミド酸のアミド結合の当量以上であり、アミド結合の当量の1.1~5倍であることが好ましく、1.5~4倍であることがより好ましい。このようにアミド結合に対して少し過剰のイミド化剤を使用することで、比較的低温でも効率的にイミド化反応を行うことができる。
【0023】
また、化学イミド化反応には、イミド化促進剤として、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族、芳香族又は複素環式第三級アミン類を使用することができる。このようなアミン類を使用することで、低温で効率的にイミド化反応を行うことができ、その結果イミド化反応時の着色を抑えることが可能となり、より透明なポリイミドを得ることができる。
【0024】
化学イミド化反応温度については特に制約はないが、10℃以上50℃未満で行うことが好ましく、15℃以上45℃未満で行うことがより好ましい。10℃以上50℃未満の温度で化学イミド化反応を行うことで、イミド化前のポリアミド酸の解裂が抑制され、重量平均分子量のコントロールが容易になるとともに、ポリイミドの着色が抑えられ、透明性に優れたポリイミドを得ることができる。
【0025】
2.3.粉体化
次にイミド化により得られたポリイミド溶液中のポリイミドの粉体化を行う。ポリイミドの粉体化は任意の方法で行うことが可能であるが、ポリイミドの貧溶媒を加えてポリイミドを析出させて粉体を形成させる方法が簡便であり好ましい。貧溶媒を加えてポリイミドの析出・粉体化を行う場合、貧溶媒としては、ポリイミドを析出することができる任意の貧溶媒が使用でき、ポリイミド溶液の溶媒とは混和性であることが望ましいので、具体的には、水、メタノール、エタノール等を用いることができる。そして、貧溶媒としてメタノールを用いることで安定した形状のポリイミド粉体を収率良く得ることができ好ましい。
【0026】
貧溶媒によるポリイミドの析出・粉体化を行う場合、使用する貧溶媒の量はポリイミドの析出粉体化を行うのに十分な量を投入する必要があり、ポリイミドの構造、ポリイミド溶液の溶媒、ポリイミドの溶液濃度等を考慮して決定するが、通常はポリイミド溶液重量の0.5倍以上、好ましくはポリイミド溶液重量の0.8倍以上、より好ましくはポリイミド溶液重量の1倍以上の重量の貧溶媒を使用する。ポリイミド溶液を重量の0.5倍以上の重量の貧溶媒を使用することで、安定した形状のポリイミド粉体を高収率で得ることができる。また、通常はポリイミド溶液重量の10倍以下、好ましくはポリイミド溶液重量の7倍以下、より好ましくはポリイミド溶液重量の5倍以下、更に好ましくはポリイミド溶液重量の4倍以下の重量の貧溶媒を使用する。
【0027】
ポリイミドの粉体化を、上記のようにポリイミド溶液に貧溶媒を添加することで行う場合、ポリイミド溶液を攪拌しながら、貧溶媒を滴下する方法で行うことが好ましい。貧溶媒の拡散を容易にするため、ポリイミド溶液は予め好ましくは5~30重量%、より好ましくは10~20重量%程度の濃度に調整しておくことが望ましい。また、本発明により得られるポリイミド粉体の好ましい平均粒子径が0.02~0.8mmであるが、平均粒子径はポリイミド溶液への貧溶媒の添加速度によりコントロールすることができる。
【0028】
本発明において、ポリイミドの粉体化の温度に特に制約はないが、貧溶媒の添加により析出・粉体化を行う場合は、貧溶媒の蒸発を抑え、析出を効率的に行うという観点から、50℃以下の温度で行うことが好ましく、40℃以下で行うことがより好ましい。
【0029】
2.4.乾燥
次に得られたポリイミド粉体の乾燥を行い、溶媒、イミド化剤、イミド化促進剤、貧溶媒等を除去する。乾燥は、ポリイミド粉体を予め濾過装置により濾別し、更に必要に応じて洗浄することにより、上記ポリイミドの溶媒、イミド化剤、イミド化促進剤をあらかた取り除いた後に行うことが、乾燥を効率的に行う上で好ましい。
【0030】
上記ポリイミド粉体の乾燥は、ポリイミド溶媒、イミド化剤、イミド化促進剤、貧溶媒等の残渣を除去することができれば任意の温度で行うことができるが、例えば上記貧溶媒にメタノール、エタノール等のヒドロキシ基を有する貧溶媒を用いた場合に、いきなり100℃以上の温度で乾燥を行うと、ポリイミド中のカルボン酸基もしくはカルボン酸無水物基と上記貧溶媒が反応してエステル結合を生成してしまい、耐熱性の低下、着色更には分子量の低下といった問題を引き起こす可能性がある。従って乾燥工程は、100℃未満の温度と100~350℃の温度の2段階以上もしくは、100℃未満の温度から、100℃以上350℃以下の温度まで昇温させて行うことが好ましい。また、ポリイミド粉体の乾燥は、常圧で行ってもよく、減圧下で行っても差し支えない。
【0031】
3.ポリイミド粉体
本発明の第一の実施態様であるポリイミド粉体は、上記方法により得られた、重量平均分子量が100,000g/mol以上250,000g/mol未満、好ましくは150,000g/mol以上250,000g/mol未満のポリイミドからなるポリイミド粉体Aと、重量平均分子量が250,000g/mol以上500,000g/mol以下、好ましくは250,000g/mol以上400,000g/mol以下のポリイミドからなるポリイミド粉体Bとを、重量比率でポリイミド粉体A/ポリイミド粉体B=10/90~90/10となるようにブレンドして、得られるブレンドについて測定した重量平均分子量を160,000~350,000g/mol、好ましくは200,000~330,000g/mol、より好ましくは220,000~310,000g/mol、特に好ましくは240,000~290,000g/molに調整することで得ることができる。
【0032】
ポリイミド粉体のブレンドは、例えば回転型混合機を用いる方法、水平式攪拌型混合機を用いる方法、垂直式攪拌型混合機を用いる方法など、ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bを均一にブレンドすることが可能な任意の方法で行うことができる。
【0033】
4.ポリイミドワニス
本発明の第二の実施態様であるポリイミドワニスは、上記ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bを所定の重量比率でブレンドして得られた、第一の実施態様である重量平均分子量160,000~350,000g/molを呈するポリイミド粉体を、ポリイミドが可溶な任意の有機溶媒に1~30重量%の濃度で溶解させることにより得ることができる。
【0034】
また、本発明のポリイミドワニスは、前記ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bを粉体の状態でブレンドする前に、それぞれ有機溶媒に1~30重量%の濃度で溶解させてポリイミド溶液とさせた後に、溶質であるポリイミドAとポリイミドBの重量比率が10/90~90/10の範囲になるように、それぞれのポリイミド溶液をブレンドして目的とするポリイミドワニスとすることも可能である。
【0035】
5.ポリイミド特性(その1 粉体特性)
ブレンド前のポリイミド粉体Aを構成するポリイミドの重量平均分子量は100,000g/mol以上250,000g/mol未満であり、ポリイミド粉体Bを構成するポリイミドの重量平均分子量は250,000g/mol以上500,000g/mol以下であり、ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bをブレンドした後の、本発明の第一の実施態様であるポリイミド粉体について測定した重量平均分子量は160,000~350,000g/mol、好ましくは200,000~330,000g/mol、より好ましくは220,000~310,000g/mol、特に好ましくは240,000~290,000g/molである。ポリイミド粉体について測定した重量平均分子量が160,000g/mol未満の場合、最終的に得られるポリイミドフィルムの引張強度伸度及び耐折曲げ性などの機械特性が損なわれるとともに、ポリイミドへの吸湿が大きくなる虞があり、重量平均分子量が350,000g/molを超えると、ポリイミド溶液の粘度が高くなりすぎてハンドリングを行い難くなるという問題が生じる。
【0036】
また、本発明において、低い重量平均分子量のポリイミドからなるポリイミド粉体Aと高い重量平均分子量のポリイミドからなるポリイミド粉体Bをブレンドすることにより、ブレンド後のポリイミドの呈する重量平均分子量のコントロールが容易になるとともに、得られるポリイミドフィルムの機械特性が、ブレンドを行わないポリイミド粉体から得られるポリイミドフィルムの機械特性よりも優れた傾向を示すという利点を有する。
【0037】
また、ポリイミド粉体の平均粒子径は0.02~0.8mmであることが好ましく、0.03~0.6mmであることがより好ましい。平均粒子径が0.02~0.8mmの範囲にあれば、ポリイミド粉体中の溶媒、貧溶媒、イミド化剤などの残存揮発成分が効率的に除去され、着色が極めて少なく透明性に優れたポリイミドが得やすくなる。
【0038】
本発明のポリイミド粉体の平均粒子径はレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定することができる。
【0039】
7.ポリイミド特性(その2 ワニス特性)
本発明の第二の実施態様であるポリイミドワニスは、重量平均分子量が100,000g/mol以上250,000g/mol未満のポリイミドからなるポリイミド粉体Aと重量平均分子量が250,000g/mol以上500,000g/mol以下のポリイミドからなるポリイミド粉体Bをポリイミド粉体A/ポリイミド粉体Bの重量比率で10/90~90/10の範囲でブレンドして得られた本発明の第一の実施態様であるポリイミド粉体を、有機溶媒に1~30重量部の濃度になるように溶解させて得ることができる。
【0040】
また、本発明のポリイミドワニスは、前記ポリイミド粉体Aを有機溶媒に1~30重量%の濃度となるように溶解させたワニスと、前記ポリイミド粉体Bを有機溶媒に1~30重量%になるように溶解させたワニスとを、溶解しているポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bの重量比がA/B=10/90~90/10となるように混合して得ることも可能である。
【0041】
本発明のポリイミドワニスに使用する有機溶媒は、ポリイミド粉体を溶解可能な有機溶媒であれば任意の溶媒が可能であり、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ―ブチロラクトン、2-ブタノン、アセトニトリル等が好適に使用できる。また、本発明のポリイミドワニスに使用する有機溶媒は単独で用いてもよく、2種類以上が混合されていても差し支えなく、2種類以上の溶媒が混合されている場合は、混合した溶媒がポリイミド粉体を溶解可能であれば差し支えない。また、溶解性が維持できれば、水などの有機溶媒以外の成分が含まれていても差し支えない。
【0042】
8.ポリイミド特性(その3 フィルム特性)
本発明のポリイミド粉体もしくはポリイミドワニス中ポリイミドの透明性については、ポリイミド粉体をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解させてポリイミドワニスとした後、乾燥後50μm厚みになるようにキャスティング法により製膜したフィルムを用いて、分光色彩計により測定される全光線透過率および黄色度により求めることができる。そして、本発明のポリイミド粉体もしくはポリイミドワニスより得られるポリイミドフィルムの全光線透過率は好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。また黄色度については、好ましくは-3~3であり、より好ましくは-2~2、更に好ましくは-1.5~1.5である。全光線透過率が上記の下限未満の場合や、黄色度が上記範囲外の場合は、ディスプレイ等の光学用途に用いることができる透明性に優れたフィルムを与えることが困難となることがある。また、本発明のポリイミド粉体を構成するポリイミドのイミド化率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。イミド化率は上記方法により得られるポリイミドフィルムのフーリエ変換赤外分光法(FT-IR法)により求めることができる。
【実施例
【0043】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
(ポリイミドの重量平均分子量の測定方法)
1mg/mLの濃度のポリイミドのテトラヒドロフラン溶液を準備し、サイズ排除クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製HLC-8320GPC)を用いて、溶離液:テトラヒドロフラン(安定剤不含)、カラム:TSKgel SuperHM-M(2本直列)、検出器:示差屈折計、測定温度:40℃、流量:0.6mL/min、注入量:40μLの条件で測定した。分子量は、標準物質換算の相対分子量値により算出した(標準物質:標準ポリスチレン12点(分子量504~1,090,000)、検量線:3次近似曲線)。
【0045】
(ポリイミド粉体の平均粒子径の測定方法)
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-950V2)を用い、分散媒としてエタノールを用いて測定した。
【0046】
(ポリイミドの全光線透過率および黄色度の測定方法)
(1)測定用フィルムサンプルの作成方法
ポリイミド粉体を下記実施例や比較例で指定された量となるようにN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させた。つぎにアプリケータを用いて、平滑なガラス板上に乾燥後厚みが50μmとなるように製膜して、熱風オーブン内で、130℃で60分保持した後、130℃から260℃まで5℃/分で昇温し、更に260℃で10分間保持して乾燥して、その後熱風オーブンから取り出し、室温まで冷却した後に、ガラス板から引き剥がして測定用のポリイミドフィルムサンプルとした。
【0047】
(2)全光線透過率の測定
分光色彩計(コニカミノルタ株式会社製、CM-5)を用いて、ASTM E 1164に基づき、光源C、視野2°の条件で、フィルム厚さ50μm時の全光線透過率を求めた。
【0048】
(3)黄色度(YI)の測定
分光色彩計(コニカミノルタ株式会社製、CM-5)を用いて、ASTM D 1925に基づき、光源C、視野2°の条件で360~740nmの波長範囲でスキャンして、フィルム厚さ50μm時の黄色度(YI)を求めた。
【0049】
(ポリイミドフィルムの引張強度及び伸度の測定方法)
ポリイミドの全光線透過率及び黄色度の測定に使用するポリイミドフィルムの製造方法と同様の方法により、ポリイミドフィルムに異物や気泡等の欠点が入らないように注意して、ポリイミドフィルムを作成した。次に得られたポリイミドフィルムを、フェザー刃を用いて10mm×150mmのサイズに切断して、10本の試験片を作成した。得られた試験片を引張試験機(株式会社島津製作所製 オートグラフAGS-H ロードセル500N)を用いて、チャック間距離50mm、引張速度50mm/分の速度で引張試験を行い、破断時の引張強度と伸度を測定して、10回の試験の平均値をそれぞれの引張強度と伸度として求めた。
【0050】
(実施例1)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶剤N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)461g(100ppmの水分を含有する。以下、全ての実施例と比較例で使用するDMACも同様)とフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物である2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)64.047g(0.2000モル)を入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、テトラカルボン酸二無水物である4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)89.737g(0.2020モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.01であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0051】
得られたポリアミド酸溶液にDMAC410gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン25.83gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸122.5g(1.20モル)を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
【0052】
次に、得られたイミド化剤およびイミド化促進剤を含むポリイミド溶液1000gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた5Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール1500gを10g/分の速度で滴下させた。約800gのメタノールを投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き1500g全量のメタノールを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。
【0053】
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に1000gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。
【0054】
その後、濾別したポリイミド粉体50gを局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、ポリイミド粉体Aを得た。ポリイミド粉体Aについて測定した重量平均分子量は195,000g/molであった。
【0055】
次に、ポリイミド粉体Aと同様に、DMAC460gとTFMB64.047g(0.200モル)を2Lのセパラブルフラスコに入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、6FDA89.204g(0.2008モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.004であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0056】
その後ポリイミド粉体Aと同様に化学イミド化、粉体化、乾燥を行い、重量平均分子量が342,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Bを得た。
【0057】
得られたポリイミド粉体A20gとポリイミド粉体B20gとを、回転型の混合装置に仕込んで1時間以上かけて十分にブレンドし、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体について測定した重量平均分子量は259,000g/molであり、平均粒子径は0.06mmであった。
【0058】
次にポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bをブレンドして得られたポリイミド粉体20gを80gのDMACに溶解させて均一なポリイミド溶液とした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は1.3であって、目視でも変色は見られず、極めて透明性に優れたものであった。また、ポリイミドフィルムの引張試験の結果、引張強度160MPa、伸度70%と優れたものであった。
【0059】
(実施例2)
実施例1で得られた重量平均分子量が195,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Aを16g用い、重量平均分子量が342,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Bを24g用いて、ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bのブレンド比率を、重量比率でポリイミド粉体A/ポリイミド粉体B=40/60としたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0060】
得られたポリイミド粉体について測定した重量平均分子量は269,000g/molであり、平均粒子径は0.06mmであった。また、このポリイミド粉体より得られた50μm厚みのポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は1.3であって、極めて透明性に優れたものであった。また、ポリイミドフィルムの引張強度は165MPa。伸度72%と優れたものであった。
【0061】
(実施例3)
実施例1で得られた重量平均分子量が195,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Aを14g用い、重量平均分子量が342,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Bを26g用いて、ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bのブレンド比率を、重量比率でポリイミド粉体A/ポリイミド粉体B=35/65としたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0062】
得られたポリイミド粉体について測定した重量平均分子量は280,000g/molであり、平均粒子径は0.06mmであった。また、このポリイミド粉体より得られた50μm厚みのポリイミドフィルムの全光線透過率は91%と高く、黄色度は1.3であって、極めて透明性に優れたものであった。また、ポリイミドフィルムの引張強度は160MPa。伸度70%と優れたものであった
【0063】
(実施例4)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶剤N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)461gとフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物である2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)64.047g(0.2000モル)を入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、テトラカルボン酸二無水物である4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)89.559g(0.2016モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.008であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0064】
得られたポリアミド酸溶液にDMAC410gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン25.83gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸122.5g(1.20モル)を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
【0065】
次に、得られたイミド化剤およびイミド化促進剤を含むポリイミド溶液1000gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた5Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール1500gを10g/分の速度で滴下させた。約800gのメタノールを投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き1500g全量のメタノールを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。
【0066】
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に1000gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。
【0067】
その後、濾別した揮発分の残渣を含むポリイミド粉体50gを局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、重量平均分子量210,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Aを得た。
【0068】
次に、ポリイミド粉体Aと同様に、DMAC460gとTFMB64.047g(0.200モル)を2Lのセパラブルフラスコに入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、6FDA89.204g(0.2008モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.004であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0069】
その後ポリイミド粉体Aと同様に化学イミド化、粉体化、乾燥を行い、重量平均分子量が342,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Bを得た。
【0070】
得られたポリイミド粉体A30gとポリイミド粉体B10gとを、回転型の混合装置に仕込んで1時間以上かけて十分にブレンドし、ポリイミド粉体A/ポリイミド粉体Bの重量比率が75/25のポリイミド粉体を得た。
【0071】
得られたポリイミド粉体について測定した重量平均分子量は255,000g/molであり、平均粒子径は0.08mmであった。
【0072】
また、ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bをブレンドして得られたポリイミド粉体20gを80gのDMACに溶解させて均一なポリイミド溶液とした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は91%と高く、黄色度は1.3であって、目視でも変色は見られず、極めて透明性に優れたものであった。また、ポリイミドフィルムの引張強度は155MPa、伸度65%であった。
【0073】
(実施例5)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶剤N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)461gとフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物である2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)64.047g(0.2000モル)を入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、テトラカルボン酸二無水物である4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)89.737g(0.2020モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.01であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0074】
得られたポリアミド酸溶液にDMAC410gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン25.83gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸122.5g(1.20モル)を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
【0075】
次に、得られたイミド化剤およびイミド化促進剤を含むポリイミド溶液1000gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた5Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール1500gを10g/分の速度で滴下させた。約800gのメタノールを投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き1500g全量のメタノールを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。
【0076】
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に1000gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。
【0077】
その後、濾別したポリイミド粉体50gを局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、ポリイミド粉体Aを得た。ポリイミド粉体Aについて測定した重量平均分子量は195,000g/molであった。
【0078】
次に、ポリイミド粉体Aと同様に、DMAC460gとTFMB64.047g(0.2000モル)を2Lのセパラブルフラスコに入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、6FDA89.293g(0.2010モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.005であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0079】
その後ポリイミド粉体Aと同様に化学イミド化、粉体化、乾燥を行い、重量平均分子量が292,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Bを得た。
【0080】
得られたポリイミド粉体A10gとポリイミド粉体B30gとを、回転型の混合装置に仕込んで1時間以上かけて十分にブレンドし、ポリイミド粉体A/ポリイミド粉体Bの重量比率が10/30(25/75)のポリイミド粉体を得た。
【0081】
得られたポリイミド粉体について測定した重量平均分子量は268,000g/molであり、平均粒子径は0.09mmであった。
【0082】
また、ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bをブレンドして得られたポリイミド粉体20gを80gのDMACに溶解させて均一なポリイミド溶液とした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は1.3であって、目視でも変色は見られず、極めて透明性に優れたものであった。また、ポリイミドフィルムの引張強度は158MPa、伸度は68%であった。
【0083】
(実施例6)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶剤N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)485gと芳香族ジアミン化合物である2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)51.238g(0.1600モル)および2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(BAPP-F)20.738g(0.0400モル)を入れて攪拌し、TFMBおよびBAPP-FをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、テトラカルボン酸二無水物である4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)89.737g(0.2020モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物(6FDA)/芳香族ジアミン化合物(TFMBとBAPP-Fの合計)のモル比率は1.010であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0084】
次に、得られたポリアミド酸溶液にDMAC431gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン25.83gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸122.5g(1.20モル)を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
【0085】
次に、得られたイミド化剤およびイミド化促進剤を含むポリイミド溶液1000gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた5Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール1500gを10g/分の速度で滴下させた。約900gのメタノールを投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き1500g全量のメタノールを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。
【0086】
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置を用いて濾別し、更に1000gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。その後、濾別した揮発分の残渣を含むポリイミド粉体50gを局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、重量平均分子量が205,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Aを得た。
【0087】
次に、ポリイミド粉体Aと同様に、DMAC460gとTFMB64.047g(0.200モル)を2Lのセパラブルフラスコに入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、6FDA89.204g(0.2008モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.004であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0088】
その後ポリイミド粉体Aと同様に化学イミド化、粉体化、乾燥を行い、重量平均分子量が342,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Bを得た。
【0089】
得られたポリイミド粉体A20gとポリイミド粉体B20gとを、回転型の混合装置に仕込んで1時間以上かけて十分にブレンドし(ブレンド比率50/50)、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体について測定した重量平均分子量は261,000g/molであり、平均粒子径は0.10mmであった。
【0090】
また、ポリイミド粉体Aとポリイミド粉体Bをブレンドして得られたポリイミド粉体20gを80gのDMACに溶解させて均一なポリイミド溶液とした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は89%と高く、黄色度は1.4であって、目視でも変色は見られず、極めて透明性に優れたものであった。また、ポリイミドフィルムの引張強度は150MPa、伸度60%であった。
【0091】
(実施例7)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶剤N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)461gとフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物である2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)64.047g(0.2000モル)を入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、テトラカルボン酸二無水物である4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)89.737g(0.2020モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.01であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0092】
得られたポリアミド酸溶液にDMAC410gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン25.83gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸122.5g(1.20モル)を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
【0093】
次に、得られたイミド化剤およびイミド化促進剤を含むポリイミド溶液1000gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた5Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール1500gを10g/分の速度で滴下させた。約800gのメタノールを投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き1500g全量のメタノールを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。
【0094】
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に1000gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。
【0095】
その後、濾別したポリイミド粉体50gを局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、ポリイミド粉体Aを得た。ポリイミド粉体Aについて測定した重量平均分子量は195,000g/molであった。
【0096】
次に、ポリイミド粉体Aと同様に、DMAC460gとTFMB64.047g(0.200モル)を2Lのセパラブルフラスコに入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、6FDA89.204g(0.2008モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.004であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0097】
その後ポリイミド粉体Aと同様に化学イミド化、粉体化、乾燥を行い、重量平均分子量が342,000g/molのポリイミドからなるポリイミド粉体Bを得た。
【0098】
次に、ポリイミド粉体A20gを80gのDMACに溶解させたポリイミドワニスAと、ポリイミド粉体B20gを80gのDMACに溶解させたポリイミドワニスBを作成し、ポリイミドワニスA50g(溶質のポリイミド粉体A10gが溶解)とポリイミドワニスB50g(溶質のポリイミド粉体B10gが溶解)をブレンドして、目的とするポリイミドワニスを得た。
【0099】
得られたポリイミドワニスに溶解しているポリイミドの重量平均分子量は259,000g/molであった。
【0100】
上記ポリイミドワニスAとポリイミドワニスBをブレンドして得られたポリイミドワニスをアプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%と高く、黄色度は1.3であって、目視でも変色は見られず、極めて透明性に優れたものであった。また、ポリイミドフィルムの引張強度は165MPa、伸度は70%であった。
【0101】
(比較例1)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶剤N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)461gとフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物である2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)64.047g(0.2000モル)を入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、テトラカルボン酸二無水物である4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物(6FDA)89.737g(0.2020モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.01であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0102】
得られたポリアミド酸溶液にDMAC410gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン25.83gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸122.5g(1.20モル)を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
【0103】
次に、得られたイミド化剤およびイミド化促進剤を含むポリイミド溶液1000gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた5Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール1500gを10g/分の速度で滴下させた。約800gのメタノールを投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き1500g全量のメタノールを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。
【0104】
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に1000gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。
【0105】
その後、濾別したポリイミド粉体50gを局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、ポリイミド粉体を得た。ポリイミド粉体について測定した重量平均分子量は195,000g/molであった。
【0106】
得られたポリイミド粉体20gを80gのDMACに溶解させて均一なポリイミド溶液とした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成したところ、得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は89%、黄色度は1.8であり、引張強度が125MPa、伸度は20%と低い結果であった。
【0107】
(比較例2)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶剤N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)460gとTFMB64.047g(0.200モル)を2Lのセパラブルフラスコに入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、6FDA89.204g(0.2008モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.004であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
【0108】
次に、得られたポリアミド酸溶液にDMAC409gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてイソキノリン25.83gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸122.5g(1.20モル)を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
【0109】
次に、得られたイミド化剤およびイミド化促進剤を含むポリイミド溶液1000gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた5Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール1500gを10g/分の速度で滴下させた。約800gのメタノールを投入したところでポリイミド溶液の濁りが確認され、粉体状のポリイミドの析出が確認された。引き続き1500g全量のメタノールを投入し、ポリイミドの析出を完了させた。
【0110】
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置を用いて濾別し、更に1000gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。
【0111】
その後、濾別したポリイミド粉体50gを局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、ポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体について測定した重量平均分子量は342,000g/molであり、平均粒子径は0.10mmであった。
【0112】
得られたポリイミド粉体20gを80gのDMACに溶解させたところ、ポリイミドワニスの粘度が高くなり過ぎて塗膜に適した粘度のワニスにすることが困難であった。そのため、更にDMACを60g追加して12.5%のワニスとした後、アプリケータを用いてガラス板上に塗膜し、所定の条件でDMACを乾燥させた後にガラス板から引き剥がして50μm厚みのポリイミドフィルムを作成した。得られたポリイミドフィルムの全光線透過率は90%であり、黄色度1.3であったが、引張強度は145MPa、伸度40%と上記実施例と比較して低い結果となった。
【0113】
結果を表1にまとめる。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明に係るポリイミド粉体もしくはポリイミドワニスを用いれば、極めて優れた耐熱性、機械特性及び透明性とを兼ね備え、特にディスプレイ用途や電子材料用途に好適に用いられるポリイミドフィルムを製造することができ、産業上の価値は極めて高い。