IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人日本医科大学の特許一覧

特許6993677犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移の予防のためのがんペプチドワクチン
<>
  • 特許-犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移の予防のためのがんペプチドワクチン 図1
  • 特許-犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移の予防のためのがんペプチドワクチン 図2
  • 特許-犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移の予防のためのがんペプチドワクチン 図3
  • 特許-犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移の予防のためのがんペプチドワクチン 図4
  • 特許-犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移の予防のためのがんペプチドワクチン 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移の予防のためのがんペプチドワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20220105BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220105BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220105BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K38/08
A61K39/00 H
C07K7/06 ZNA
A61P35/00
A61P35/02
A61P11/02
A61P17/00
A61P21/00
A61P13/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017215945
(22)【出願日】2017-11-08
(65)【公開番号】P2019085376
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 晃三
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-149101(JP,A)
【文献】特表2006-517529(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0044484(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0050749(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0104689(US,A1)
【文献】日本獣医学会学術集会講演要旨集, Vol.154th, 2012年, p.316,HS-56
【文献】PLos ONE, 2016,e0167017, pp.1-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんに罹患している犬のDLA-88型を決定する工程、そのDLA-88型が提示することができる少なくとも1つのペプチドであって配列番号4~9で表されるアミノ酸配列からなるmelan-Aの部分ペプチド、配列番号10~15で表されるアミノ酸配列からなるsurvivinの部分ペプチド及び配列番号16~27で表されるTRP-2の部分ペプチドの少なくとも1つ以下の組合わせから選択する工程、
DLA-88型と各部分ペプチドの組合わせ
・DLA-88*003:02型:配列番号4、5、6、7、8及び9、
配列番号10、13、14及び15、並びに
配列番号18、26及び27
・DLA-88*017:01型:配列番号4、5、6、7、8及び9
配列番号10、13、14及び15、並びに
配列番号18、26及び27
・DLA-88*501:01型:配列番号4、5、6、7、8及び9、
配列番号10、11、12、13、14及び15、並びに
配列番号19及び21
・DLA-88*508:01型:配列番号4、6、7、8及び9
配列番号10、11、12、13、14及び15、並びに
配列番号19、20、21、23、25、26及び27
・DLA-88*006:01型:配列番号6、7、8及び9
配列番号10、11、12及び15、並びに
配列番号16、17、21、26及び27
・DLA-88*029:01型:配列番号4、5及び7
配列番号10、11、13及び14、並びに
配列番号18、20、21、22、23、24、26及び27
・DLA-88*nov25型:配列番号4、6及び7、並びに
配列番号12、14及び15
・DLA-88*001:03型:配列番号6及び9
配列番号15、並びに
配列番号18、20、22及び27
・DLA-88*005:01型:配列番号4及び6、並びに
配列番号19及び26
・DLA-88*012:01型:配列番号4及び5
配列番号10、11、13及び15、並びに
配列番号18、19、21及び27
・DLA-88*028:01型:配列番号4及び5
配列番号10、11、13及び14、並びに
配列番号18、20、24、26及び27
・DLA-88*nov8型:配列番号5及び9、並びに
配列番号18、22、24及び25
・DLA-88*502:01型:配列番号5及び9、並びに
配列番号11及び15
・DLA-88*nov15型:配列番号6及び7
・DLA-88*nov17型:配列番号5及び6
・DLA-88*051:01型:配列番号4、並びに
配列番号16、19、20、21、23、24及び26
・DLA-88*nov24型:配列番号4
・DLA-88*004:02型:配列番号5
配列番号10、11及び13、並びに
配列番号19、20、21、22、24、25、26及び27
・DLA-88*032:01型:配列番号5
・DLA-88*nov6型:配列番号5
・DLA-88*nov9型:配列番号8
・DLA-88*034:01型:配列番号11、12、13、14及び15、並びに
配列番号16、17及び20
・DLA-88*nov3型:配列番号10及び11
・DLA-88*045:01型:配列番号10及び14、並びに
配列番号17
・DLA-88*002:01型:配列番号12
・DLA-88*nov4型:配列番号15
・DLA-88*012:02型:配列番号11
・DLA-88*nov18型:配列番号14
・DLA-88*nov37型:配列番号10
・DLA-88*038:01型:配列番号10
・DLA-88*039:01型:配列番号24及び27
・DLA-88*nov19型:配列番号27
、および選択したペプチドをがんに罹患している犬に投与する工程を含む、犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移を防止する方法。
【請求項2】
がんが、リンパ腫、鼻腔腺癌、メラノーマ(悪性黒色腫)、悪性組織球腫、乳腺癌、骨肉腫、非小細胞肺癌、扁平上皮癌、膀胱尿路上皮癌、血管肉腫、および肥満細胞腫からなる群から選択される請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移の予防に有効なペプチドに関する。本発明は、さらに、前記ぺプチドを有効成分として含むがん予防剤、がん治療剤およびがん転移予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
犬の悪性腫瘍のうち、口腔内メラノーマは浸潤性が強く予後不良で、このタイプの腫瘍では下顎(または上顎)ごとの外科的切除は、著しいQOL低下を招くため、多くのケースで放射線療法や化学療法に頼る傾向がある。しかし、第一選択治療で一時的に縮小できても再発・転移することがあり、その再発がんのほとんどが同じ治療に対して耐性を示すことが多い。
【0003】
がんペプチドワクチンは、がん細胞のMHC class Iに提示されているエピトープと同じアミノ酸(AA)配列の合成ペプチドを皮膚にワクチン接種することで、皮膚の樹状細胞に抗原提示され、生体内でがん特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を誘導し、がん細胞を排除することを期待した治療法の1つである(図1)。がんペプチドワクチンによるがんの予防等については特許文献1や特許文献2に報告されている。マウスを用いた実験報告やヒトでの多数の症例報告があるが、犬ではMHC class I情報が少ないため、犬での実施報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第WO2015/005479号
【文献】国際公開第WO2015/050259号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移の予防のためのがんペプチドワクチンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、マウスおよびヒトのMHC class I型適合性抗原エピトープ探索技術を参考に、犬のDLA-88型適合性抗原エピトープ検出技術を開発した。この際、抗原として犬のメラノーマに高発現するタンパク質であるmelan-AおよびTRP-2、並びに犬の多くの腫瘍に発現するsurvivin(サバイビン)を用いた。犬のDLA-88型情報は、不明な点が多いため、ペプチドのデザインはヒトHLA型を参考にして、犬がん関連抗原のうちmelan-Aとsurvivinについては6種の合成ペプチドを、TRP-2については12種の合成ペプチドを準備した。これらの合成ペプチドの効果を特異的CTLの誘導によって検証した。
【0007】
犬末梢血単核球(PBMC)から磁気ビーズ抗体を用いてCD8+T細胞とプレート接着細胞に分離後、プレート接着細胞に犬リコンビナントGM-CSF/IL-4と上記の合成ペプチドを添加して抗原提示細胞(APC)へと分化誘導させた。CD8+T細胞を活性化する活性の見られた検体からゲノムDNAを精製後、DLA-88型のexon 2-3領域をシークエンスし、タイピングを行った。このようにして、melan-A、survivinおよびTRP-2についてDLA-88型に特異的なペプチドを同定した。
【0008】
従来のワクチンは、melan-Aタンパク質の全長を抗原として、またはmelan-A遺伝子の全長をDNAワクチン用として、または複数のペプチド(エピトープ)を混合したもの、複数のペプチド(エピトープ)を結合させたポリペプチド状のものなどを用いてワクチン接種し、樹状細胞に取り込まれた後、偶然にその犬のDLA-88型に提示されることを期待した方法であった。この場合は、免疫応答が誘導されない場合、様々な免疫応答(抗体産生、CTL応答、Th反応、免疫抑制など)が同時に誘導される場合が想定される。一方、本発明は今まで偶然性に頼っていたDLA-88型とそのCTLエピトープとの関係を明らかにした点にあり、DLA-88型検査後に、それに適合するペプチドを用いてピンポイントにCTLを誘導することが期待される。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 配列番号4~27からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、犬のDLA-88抗原と結合して犬のがん細胞を標的とするCTLを誘導し得るペプチド。
[2] 特定のDLA-88型に結合し、そのDLA-88型を有する犬のがん細胞を標的とするCTLを誘導し得る、[1]のペプチド。
[3] がんが、リンパ腫、鼻腔腺癌、メラノーマ(悪性黒色腫)、悪性組織球腫、乳腺癌、骨肉腫、非小細胞肺癌、扁平上皮癌、膀胱尿路上皮癌、血管肉腫、および肥満細胞腫からなる群から選択される[1]または[2]のペプチド。
[4] [1]~[3]のいずれかのペプチドを含む、犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移予防のためのがんぺプチドワクチン。
[5] 罹患犬のDLA-88型を決定する工程、そのDLA-88型が提示することができるペプチドを配列番号4~27からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドの中から選択する工程、および選択したペプチドを投与する工程を含む、犬におけるがんの予防、がんの治療またはがんの転移を防止する方法。
[6] がんが、リンパ腫、鼻腔腺癌、メラノーマ(悪性黒色腫)、悪性組織球腫、乳腺癌、骨肉腫、非小細胞肺癌、扁平上皮癌、膀胱尿路上皮癌、血管肉腫、および肥満細胞腫からなる群から選択される[5]の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、犬のがんペプチドワクチンの成分の要となる抗原とその抗原ペプチドを提示できるDLA-88型の組み合わせを見出した点にある。がんペプチドワクチンは、犬の様々な悪性腫瘍(特にメラノーマ)に対するCTLを誘導してその悪性腫瘍を排除することができる。本発明に基づいて、がん罹患犬のDLA-88型情報を決定し、それに適合するがん抗原ペプチドの含有するワクチンを選別して提供することができ、犬の個体ごとに適応した免疫療法を施すことが可能となる。
【0011】
がんペプチドワクチンの利点は、活性化リンパ球療法や樹状細胞療法とは異なり、培養設備を必要としない点にあり、皮膚にワクチン接種するだけの簡便さで、一般診療の獣医師に普及させることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】がんペプチドワクチンの概略を示す図である。
図2】プロテアソームによりタンパク質が分解され、がん関連抗原として認識されるメカニズムを示す図である。
図3】腫瘍細胞におけるがん関連抗原の提示を示す図である。
図4】がんペプチドワクチンのペプチド活性のスクリーニングの一連の処理過程を示す図である。
図5】CTL誘導を有するmelan-Aペプチドのスクリーニングの結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のがんペプチドワクチンとして用い得るペプチドは、犬のがん関連抗原であるmelan-A、survivin(サバイビン)またはTRP-2の部分ペプチドである。ここで、がん関連抗原とは、がん細胞だけではなく、正常細胞でも発現するが、がん細胞で正常細胞に比べて遥かに高い発現が認められる抗原をいう。本発明のがんペプチドワクチンとして用い得るペプチドは、樹状細胞等の抗原提示細胞(APC: antigen presenting cell)に抗原提示されるアミノ酸9~10個、好ましくは9個からなるペプチドである。
【0015】
犬のmelan-Aの全長アミノ酸配列を配列番号1に、犬のsurvivinの全長アミノ酸配列を配列番号2に、犬のTRP-2の全長アミノ酸配列を配列番号3に示す。本発明のがんペプチドワクチンとして用い得るペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる犬のmelan-Aタンパク質の部分ペプチドであって、9~10個、好ましくは9個の連続するアミノ酸配列からなる部分ペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる犬のsurvivinタンパク質の部分ペプチドであって、9~10個、好ましくは9個の連続するアミノ酸配列からなる部分ペプチド、または配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる犬のTRP-2タンパク質の部分ペプチドであって、9~10個、好ましくは9個の連続するアミノ酸配列からなる部分ペプチドである。
【0016】
また、本発明のがんペプチドワクチンとして用い得るペプチドは、犬のMHC(DLA:Dog Leukocyte Antigen)クラスI分子に結合し得る。すなわち、犬のMHCクラスI分子に提示されているエピトープと同じアミノ酸配列を有する。犬のMHCクラスI分子として、DLA-88分子が挙げられる。
【0017】
本発明のがんペプチドワクチンとして用い得るペプチドは、小胞体内で犬のMHCクラスI分子に結合し、複合体を形成し、MHCクラスI分子-ペプチド複合体として樹状細胞などの抗原提示細胞表面に運ばれ、提示される。その結果、その抗原を認識するCD8陽性T細胞の活性化によりCTLを誘導し、MHCクラスI分子-ペプチド複合体を提示しているがん細胞を標的として攻撃する。すなわち、本発明のペプチドはがん抗原ペプチドとして作用し、がんワクチンとしてがん免疫療法に用いることができる。
【0018】
DLA-88には多数の異なる型(アレル)が存在し、DLA-88の型により結合できるペプチドが異なる。すなわち、ペプチドの免疫原性はがんを予防し、がんを治療し、またはがんの転移を予防しようとする罹患犬のDLA-88型に拘束される。あるペプチドが罹患犬の特定のDLA-88型に拘束される場合、該ペプチドは特定のDLA-88型拘束性であるという。従って、本発明のペプチドをがんペプチドワクチンとして犬に投与する場合、あらかじめ投与の対象となる罹患犬のDLA-88型を決定し、DLA-88型とペプチドの組み合わせを決定し、その個体犬のDLA-88型が提示することができるペプチドをペプチドワクチンとして投与すればよい。具体的には、がん罹患犬から犬末梢血を採取し、末梢血単核球(PBMC)から磁気ビーズ抗体を用いてCD8+T細胞とプレート接着細胞に分離後、プレート接着細胞に犬リコンビナントGM-CSF/IL-4と合成ペプチドを添加して抗原提示細胞(APC)へと分化誘導させる。精製したCD8+T細胞とX線照射により増殖活性を消失させたAPCとを混合培養し、CD8+T細胞の活性化の有無を経時的に観察することにより、CTLへ誘導されたかを決定すればよい。CTL誘導能が認められた罹患犬のDLA-88型をDLAタイピングにより決定することにより、用いたペプチドとそのペプチドが結合し得るDLA-88型の組合せを決定することができる。DLA-88型タイピングについては、例えば、Barth et al. PLOS ONE, November 28, 2016 doi.org/10.1371/journal.pone.0167017の記載を参考にすればよい。
【0019】
DLA-88型の決定は、DLA-88型のDNAタイピングにより行うことができる(DLA-88型タイピング)。DNAタイピングとしては、DNAシーケンンス、PCR(Polymerase Chain Reaction)、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)、SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)プローブ法を用いた方法等が挙げられる。例えば、DLA-88領域を増幅させるプライマーを用いてDLA-88領域を含むDNAを増幅し、シーケンスすればよい。この際、他の犬のMHCクラスI抗原であるDLA-12領域にDLA-88型が入り込むケースがあるので、DLA-12領域も同時に増幅するのが望ましい。
【0020】
本発明のがんペプチドワクチンとして用い得る具体的なペプチドとして、犬のmelan-Aの部分ペプチド、犬のsurvivinの部分ペプチド、および犬のTRP-2の部分ペプチドについて以下のペプチドが挙げられる。
【0021】
犬のmelan-Aの部分ペプチド
MPREEAHFI (ml-01)(配列番号4)、
LLIACWYCR (ml-41)(配列番号5)、
LRGRCPHEG (ml-70)(配列番号6)、
FQESNCELV (ml-88)(配列番号7)、
LVVPNAPPA (ml-95)(配列番号8)、および
AEQSSPPYL (ml-109)(配列番号9)
【0022】
犬のsurvivinの部分ペプチド
MGAPTLPPA (sv-01)(配列番号10)、
WQPFLKDHR (sv-10)(配列番号11)、
ISTFKNWPF (sv-19)(配列番号12)、
FCFKELEGW (sv-59)(配列番号13)、
SVKKQFEEL (sv-58)(配列番号14)、および
KKQFEELTLG (sv-90)(配列番号15)
【0023】
犬のTRP-2の部分ペプチド
AMSPLGWGL (trp-1)(配列番号16)、
MAKECCPPL (trp-2)(配列番号17)、
WTGHDCNQR (trp-3)(配列番号18)、
LERDLQQLI (trp-4)(配列番号19)、
ARQDDPTLI (trp-5)(配列番号20)、
DDYNRRVTL (trp-6)(配列番号21)、
KDIQDCLSL (trp-7)(配列番号22)、
SQVMSLHNL (trp-8)(配列番号23)、
LHNLVHSFL (trp-9)(配列番号24)、
FPPVTNEEL (trp-10)(配列番号25)、
VLFFLQYRR (trp-11)(配列番号26)、および
LMETHLSDR (trp-12)(配列番号27)
【0024】
本発明のペプチドワクチンとして用い得るペプチドは、上記の配列番号4~27で表されるアミノ酸配列において、1~3個、好ましくは1若しくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列からなる部分ペプチド(ネオアンチゲン)も含まれる。このようなペプチドは、配列番号4~27で表されるアミノ酸配列に対する配列同一性が66.7%以上、好ましくは77.8%以上、さらに好ましくは88.9%以上のアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0025】
本発明のがんペプチドワクチンとして用い得るペプチドは、公知のペプチド合成技術により合成することも、組換えDNA技術により製造することもできる。
【0026】
本発明のがんペプチドワクチンとして用い得るペプチドとそれぞれのペプチドに結合し提示することができるDLA-88型の組合せを以下に示す。それぞれのぺプチドについて高い頻度で検出された高親和性のDLA-88型とより低い頻度で検出された低親和性のDLA-88型が存在し、以下には高親和性のDLA-88型と低親和性のDLA-88型を示す。
【0027】
Melan-Aのワクチンペプチド
MPREEAHFI (ml-01):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*003:02、*508:01、*029:01、*nov25、*012:01、*028:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*017:01、*501:01、*005:01、*051:01、*nov24
LLIACWYCR (ml-41):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*003:02、*017:01、*501:01、*029:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*012:01、*028:01、*nov8、*502:01、*nov17、*004:02、*032:01、*nov6
LRGRCPHEG (ml-70):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*003:02、*017:01、*501:01、*508:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*006:01、*nov25、*001:03、*005:01、*nov15、*nov17
FQESNCELV (ml-88):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*003:02、*017:01、*501:01、*508:01、*029:01、*nov15
低親和性のDLA-88型
DLA-88*006:01、*nov25
LVVPNAPPA (ml-95):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*501:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*003:02、*017:01、*508:01、*006:01、*nov9
AEQSSPPYL (ml-109):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*003:02、*017:01、*501:01、*508:01、
低親和性のDLA-88型
DLA-88*006:01、*001:03、*nov8、*502:01
【0028】
survivinのワクチンペプチド、
MGAPTLPPA (sv-01):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*501:01、*003:02、*017:01、*012:01、*029:01、*028:01、*nov37
低親和性のDLA-88型
DLA-88*508:01、*006:01、*004:02、*nov3、*045:01、*038:01
WQPFLKDHR (sv-10):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*501:01、*034:01、*006:01、*012:01、*029:01、*028:01、*004:02、*nov3
低親和性のDLA-88型
DLA-88*508:01、*502:01、*012:02
ISTFKNWPF (sv-19):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*501:01、*508:01、*034:01、*006:01、*nov25
低親和性のDLA-88型
DLA-88*002:01
FCFKELEGW (sv-59):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*501:01、*508:01、*034:01、*003:02、*017:01、*029:01、*004:02
低親和性のDLA-88型
DLA-88*012:01、*028:01
SVKKQFEEL (sv-88):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*501:01、*508:01、*034:01、*029:01、*028:01、*045:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*003:02、*017:01、*nov25、*nov18
KKQFEELTLG (sv-90):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*501:01、*508:01、*034:01、*003:02、*017:01、*006:01、*012:01、*502:01、
低親和性のDLA-88型
DLA-88*nov25、*001:03、*nov4
【0029】
TRP-2のワクチンペプチド
AMSPLGWGL (trp-1):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*051:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*006:01、*034:01
MAKECCPPL (trp-2):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*006:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*034:01、*045:01
WTGHDCNQR (trp-3):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*003:02
低親和性のDLA-88型
DLA-88*029:01、*028:01、*001:03、*nov8、*012:01、*017:01
LERDLQQLI (trp-4):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*004:02、*508:01、*051:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*012:01、*005:01、*501:01
ARQDDPTLI (trp-5):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*051:01、*001:03
低親和性のDLA-88型
DLA-88*004:02、*029:01、*508:01、*028:01、*034:01
DDYNRRVTL (trp-6):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*004:02、*508:01、*501:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*029:01、*051:01、*006:01、*012:01
KDIQDCLSL (trp-7):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*004:02
低親和性のDLA-88型
DLA-88*029:01、*001:03、*nov8
SQVMSLHNL (trp-8):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*051:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*029:01、*508:01
LHNLVHSFL (trp-9):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*004:02、*051:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*029:01、*028:01、*nov8、*039:01
FPPVTNEEL (trp-10):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*508:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*004:02、*nov8
VLFFLQYRR (trp-11):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*508:01、*006:01
低親和性のDLA-88型
DLA-88*004:02、*029:01、*051:01、*028:01、*003:02、*017:01、*005:01
LMETHLSDR (trp-12):
高親和性のDLA-88型
DLA-88*004:02、*029:01、*508:01、*028:01、*039:01
低親和性のDLA-88型
DLA88*006:01、*001:03、*012:01、*003:02、*017:01、*nov19
【0030】
それぞれのペプチドは、そのペプチドを提示することができるDLA-88型を有する罹患犬に投与することにより、その犬個体においてCTLを誘導し、がん細胞を傷害することができる。また、高親和性のDLA-88型を有する罹患犬に投与した場合により高い効果を得ることができる。例えば、Melan-AのワクチンペプチドであるMPREEAHFI(ml-01)を犬のがんの治療等に用いる場合、罹患犬のDLA-88型はDLA-88*003:02、*017:01、*501:01、*508:01、*029:01、*nov25、*005:01、*012:01、*028:01、*051:01、または*nov24である必要があるので、あらかじめ罹患犬のDLA-88型がこれらの型であることを確認しておくことが必要である。
【0031】
本発明のがんペプチドワクチンは、犬において、がんの予防、がんの治療またはがんの転移予防のために投与することができる。特に、腫瘍の外科的切除、放射線療法後におけるがんの転移予防に適している。ここで、がんの予防とは、がんの発症の予防をいい、がんの治療とは罹患犬のがんの治療をいい、がんの転移予防とは、がん細胞の血液中に浸潤した場合や、リンパ管を介してリンパ節に浸潤した場合にがん細胞を攻撃することによりがん細胞が他の組織、器官に転移することを予防することをいう。
【0032】
本発明のがんペプチドワクチンが対象とするがんは限定されないが、melan-A、TRP-2またはsurvivinを発現するがんであり、好ましくはリンパ腫、鼻腔腺癌、メラノーマ(悪性黒色腫)、悪性組織球腫、乳腺癌、骨肉腫、非小細胞肺癌、扁平上皮癌、膀胱尿路上皮癌、血管肉腫、および肥満細胞腫が挙げられる。
【0033】
このうち、melan-Aの部分ペプチドであるペプチドワクチンは、メラノーマに適しており、TRP-2の部分ペプチドであるペプチドワクチンは、メラノーマに適しており、survivinの部分ペプチドであるペプチドワクチンは、リンパ腫、鼻腔腺癌、メラノーマ(悪性黒色腫)、悪性組織球腫、乳腺癌、骨肉腫、非小細胞肺癌、扁平上皮癌、膀胱尿路上皮癌、血管肉腫および肥満細胞腫に適している。
【0034】
本発明のペプチドワクチンの投与量は、がん種や重篤度等により変えることができるが、1回10μg~100μg、好ましくは50μg前後である。投与は、初回投与から1週間後に1回投与のみでもよく、その維持のために、その後の数週間~数か月毎に1回投与してもよい。本発明のペプチドワクチンは、無菌の水性または脂溶性の溶液、またはエマルションの形態であってもよい。さらに、塩、緩衝剤、アジュバント等の免疫増強剤、担体等を含んでいてもよい。ぺプチドワクチンは、皮内下、静脈内、経鼻粘膜内、筋肉内投与等の非経口投与でも、経口投与でもよい。この中でも皮内投与が好ましい。
【0035】
上記のペプチドの1種類を投与してもよいし、複数のペプチドを組合せて投与してもよい。例えば、配列番号4~27に表されるアミノ酸配列からなる24個のペプチドの2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個または24個を組合せて投与してもよい。本発明は、複数のペプチドを組合せた製剤またはキットも包含する。
【0036】
また、この際、抗原提示されるDLA-88型が異なるペプチドを組合せてよい。このように組合わせることにより、DLA-88型に関係なく、多くの罹患犬に効果があるペプチドの組合せ製剤を提供することができる。
【0037】
本発明のがんペプチドワクチンはアジュバントと一緒に投与してもよい。アジュバントとしては、フロイントの不完全アジュバントをはじめ、ミコバクテリウム、グラム陰性菌およびグラム陽性菌等の菌体成分、細菌およびウイルス由来CpG-ODN等の既知のアジュバントを用いることができる。また、本発明のワクチンは飲料水や餌に含ませた状態で犬等の動物に摂取させてもよい。本発明は、ワクチンを含む飲料水および餌も包含する。
【0038】
本発明のがんペプチドワクチンをコードするDNAまたは該DNAを含むベクターをがんの予防、がんの治療またはがんの転移予防に用いることもできる。ベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルスや無毒化したレトロウイルス、ワクシニアウイルス等のウイルスベクターを用いることができる。本発明のがんペプチドワクチンをコードするDNAをこれらのウイルスベクターに導入し、該ウイルスベクターを罹患犬に感染させればよい。投与法は、筋注が好ましい。また、罹患犬より採血後のPBMCの培養系に、プラスミドベクター等の発現ベクターを用いて、目的のDNAを細胞や組織に導入することができる。例えば、リポフェクション法、リン酸-カルシウム共沈法、DEAE-デキストラン法、微小ガラス管を用いたDNAの直接注入法などにより細胞内へ遺伝子を導入することができる。本発明のがんペプチドワクチンをコードするDNAを作動可能にベクターに導入すればよく、この際、DNAを転写するためのプロモーターやエンハンサー、ポリAシグナル等を含んでいてもよい。DNAおよびベクターの投与量はがん種、がんの重篤度により適宜決定することができるが、例えば、ベクターを用いる場合、107~109pfu(plaque forming unit)のベクターを投与すればよい。本発明のがんペプチドワクチンをコードするDNAまたは該DNAを含むベクターを罹患犬に投与した場合、生体内でペプチドが発現し、小胞体内で犬のMHCクラスI分子に結合し、複合体を形成し、MHCクラスI分子-ペプチド複合体として抗原提示細胞表面に運ばれ、提示される。その結果、抗原特異的免疫応答によりCTLを誘導増強し、MHCクラスI分子-ペプチド複合体を提示しているがん細胞を標的として攻撃する。
【0039】
さらに、本発明のペプチド、DNA、ベクターを、抗腫瘍免疫機能を抑制する効果を解除する薬剤と組合せて用いることもできる。このような薬剤として、免疫チェックポイント阻害剤が挙げられ、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体等のPD-1/PD-L1阻害剤や抗CTLA4抗体を挙げることができる。
【0040】
本発明は、罹患犬に上記のペプチド、あるいはDNA若しくはベクターを投与してがんを予防し、がんを治療し、がんの転移を防止する方法を包含する。この際、投与する前に罹患犬のDLA-88型を決定し、そのDLA-88型が提示することができるペプチドを選択して投与すればよい。すなわち、本発明は、罹患犬のDLA-88型を決定する工程、そのDLA-88型が提示することができるペプチドを選択する工程、および選択したペプチドを投与する工程を含む犬におけるがんの予防、がんの治療、がんの転移を防止する方法を包含する。
【0041】
本発明は、本発明のペプチドを用いてin vitroでCTLを誘導し、該CTLを犬に投与し、がんを予防し、がんを治療し、がんの転移を防止する方法を包含する。
【0042】
即ち、本発明のがんペプチドワクチンを罹患犬から採取した末梢血中単球と共に培養し、ペプチドを提示した抗原提示細胞を誘導し製造する方法を含む。さらに、罹患犬から採取した末梢血リンパ球と共に培養し、該ペプチドを提示しているがん細胞を特異的に傷害するCTLを誘導し、製造する方法を包含する。具体的にはペプチドと上記抗原提示細胞とCD8+T細胞を共培養すればよい。さらに、このようにして製造した抗原提示細胞またはCTLを罹患犬に投与し、がんを予防し、がんを治療し、がんの転移を防止するex vivo法も包含する。
【実施例
【0043】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
材料と方法
1. 犬の末梢血液単核球(PBMC)
日本獣医生命科学大学付属動物医療センターにおける患畜犬の血液検査後の残量分(廃棄対象)を用いた。なお、患畜犬(罹患犬)血液の活用については、日本獣医生命科学大学付属動物医療センター倫理委員会において承認を得ている(H24.5/8)。犬血液(200~800μL)からのPBMC分離は、血液分離溶液Lymphoprep(STEMCELL)2mLを入れた15mL用遠心チューブ(TrueLine)を用いて、密度勾配遠心(800G、15~20分)後、単核球分画の回収によって得た。
【0045】
2. 合成ペプチド
GenBank登録上の犬melan-A(NM_001194968)、犬survivin(AY741504)、犬TRP-2(AB766380)情報からのアミノ酸配列を入手し、プロテアソーム活性による切断部位の検索サイト(http://www.mpiib-berlin.mpg.de/MAPPP/cleavage.html)および各種MHC分子における提示されうるペプチドの検索サイト(https://www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind/)を用いて、犬DLA-88型への提示に予測されるペプチド配列をデザインした。melan-Aについては表1に、survinvinについては表2に、TRP-2については表3に示す。これらのペプチド配列は受託サービス(Biologica)にて精製度95%以上で合成した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
3. CD8+T細胞の精製
PBMCにFITC標識抗犬CD8抗体(Serotec)を4℃、30分間反応させ、リン酸緩衝液(PBS)で洗浄後、同様にBiotin標識抗FITC抗体(BioLegend)を4℃、30分間反応させ、PBSで洗浄した。これらの細胞にStreptavidin標識磁気ビーズ抗体(BDIMag Particles Plus DM)を4℃、15分間反応させた後、RPMI培養液で600μLまでメスアップし、専用のマグネットスタンドに6分間作用させ、CD8+T細胞(精製度90%前後)を収集し、細胞数を調節した(3~4x104/well x 6wellまたは12well)。
【0050】
4. 抗原提示細胞(APC)(樹状細胞等)への誘導
PBMCを得られた細胞数に応じて平底96wellプレート(Thermo)の6wellまたは12well分に分注し(105/well)、5%CO2、37℃で40~60分間反応させ、プレート接着細胞(4~5x104/well)を準備した。接着しなかった細胞は回収し、DNA精製後、凍結保存した。プレート接着細胞に犬リコンビナントGM-CSF 5ng/mL(PrimeGene)、犬リコンビナントIL-4 5ng/mL (Immunotechnology Co.)と各種合成ペプチド 10μg/mLとなるように各wellに添加して90~120分間の培養により抗原提示細胞(APC)へと分化誘導させた。これらのAPC はX線照射 30 Gy(CP-160型 Faxitron X-ray)により増殖活性を消失させた。
【0051】
5. ペプチド活性のスクリーニング
増殖活性を消失させたAPCと精製したCD8+T細胞を混合培養し、10日前後で誘導されるCTL誘導の有無を経時的に鏡検し判定した(図4)。すなわち、犬末梢血は大学付属動物医療センターより検査後の余剰分を入手し、その末梢血単核球(PBMC)から磁気ビーズ抗体を用いてCD8+T細胞とプレート接着細胞に分離後、プレート接着細胞に犬リコンビナントGM-CSF/IL-4と合成ペプチドを添加して抗原提示細胞(APC)へと分化誘導させた。精製したCD8+T細胞とX線照射により増殖活性を消失させたAPCとを混合培養し、CD8+T細胞の活性化の有無を経時的に観察した。入手した検体の血液量および精製したCD8+T細胞の数に応じて、実施する項目数を調整した。
【0052】
1.~5.までの工程のプロシージャーを図4に示す。
図5にCTL誘導を有するmelan-Aペプチドのスクリーニングの結果の例を示す。
【0053】
6. DLA-88型検査
DLA-12型は数種類しかないが、DLA-12領域においてDLA-88型が入り込むケースが検出された。そのため、DLA-88またはDLA-12領域のみを同時に増幅させるプライマーにより、それら遺伝子全領域(プロモーター領域から全てのエクソンとイントロンおよび非翻訳領域)を含む5.6~5.7kbのPCR産物を得た。その後、DLA-88特異的プライマーならびにDLA-12特異的プライマーを用いて、PCR産物を鋳型として多型に富むエクソン2~エクソン3を含む1.6kbをPCR法により増幅させた。得られるPCR産物の塩基配列をサンガー法により解読した。
【0054】
塩基配列の解読が困難な場合や新規アレルの存在が考えられる場合には、PCR産物のサブクローニングを行い、そのクローンの塩基配列をサンガー法により解読することにより対処した。DLAアレルの判定にはシークエンス解析ソフトAssign(Conexio社)やSequencher ver.5.0.1(Gene Codes社)を用いて、公開されているDLA-88やDLA-12アレルを参照配列として、決定した塩基配列との比較解析を実施し、各検体が保有するDLA-88とDLA-12アレルを判定した。
【0055】
結果
Melan-Aペプチド提示DLA型の同定
現在まで692検体解析して、Melan-Aについては57検体に6種ペプチドの何れかに対してCTL誘導能があることを認めた。これらの活性のあった検体のDLA-88型のタイピングを実施した結果、DLA-88型アレルと6種ペプチドの活性を記載した表が完成した(表4)。3回以上の頻度で検出されたDLA-88型は、高親和性として003:02、017:01、501:01、028:01、029:01、508:01、nov15、nov25の8種と、2回検出されたDLA-88型は、低親和性として001:03、004:02、005:01、006:01、012:01、032:01、051:01、502:01、nov6、nov8、nov9、nov17、nov24の13種が判明した。
【0056】
【表4】
【0057】
表4に示すように、Melan-Aペプチドml-01、ml-41、ml-70、ml-88、ml-95、ml-109を抗原提示できるDLA-88型を特定することができた。この表の見方を例として示すと、DLA-88*003:02型、DLA-88*017:01型、DLA-88*501:01型はこれら6つのペプチド全てを提示できる型であることがわかり、これらの型の犬に対して6種のペプチドをがんワクチンとして用いることができる。
【0058】
一方、DLA-88*508:01型はml-41以外のml-01、ml-70、ml-88、ml-95、ml-109を抗原提示できるので、5種のペプチドをがんワクチンとして用いることができる。
【0059】
同様に、DLA-88*006:01型にはml-70、ml-88、ml-95、ml-109を、DLA-88*029:01型にはml-01、ml-41、ml-88を、DLA-88*001:03型にはml-70、ml-109を(以下省略)というようにそれぞれのDLA-88型に適応したペプチドをがんワクチンとして用いることができる。
【0060】
Survivinペプチド提示DLA型の同定
現在まで692検体解析して、Survivinについては81検体に6種ペプチドの何れかに対してCTL誘導能があることを認めた。これらの活性のあった検体のDLA-88型のタイピングを実施した結果、DLA-88型アレルと6種ペプチドの活性を記載した表が完成した(表5)。3回以上の頻度で検出されたDLA-88型は、高親和性として003:02、004:02、006:01、012:01、017:01、028:01、029:01、034:01、501:01、502:01、508:01、nov25、nov37の13種と、2回検出されたDLA-88型は、低親和性として001:03、012:02、038:01、045:01、nov3、nov4、nov18の7種が判明した。
【0061】
【表5】
【0062】
表5に示すように、survivinペプチドsv-01、sv-10、sv-19、sv-59、sv-88、sv-90を抗原提示できるDLA-88型を特定することができた。この表の見方を例として示すと、DLA-88*501:01型とDLA-88*508:01型はこれら6種のペプチド全てを提示できる型であることがわかり、これらの型の犬に対して6種のペプチドをがんワクチンとして用いることができる。
【0063】
一方、DLA-88*034:01型はsv-01以外のsv-10、sv-19、sv-59、sv-88、sv-90を抗原提示できるので、5種のペプチドをがんワクチンとして用いることができる。同様に、DLA-88*003:02型およびDLA-88*017:01型にはsv-01、sv-59、sv-88、sv-90を、DLA-88*006:01型にはsv-01、sv-10、sv-19、sv-90を、DLA-88*012:01型にはsv-01、sv-10、sv-59、sv-90を、DLA-88*028:01型とDLA-88*029:01型にはsv-01、sv-10、sv-59、sv-88を、DLA-88*004:02型にはsv-01、sv-10、sv-59を、DLA-88*nov25にはsv-19、sv-88、sv-90を、DLA-88*502:01型にはsv-10、sv-90を(以下省略)というようにそれぞれのDLA-88型に適応したペプチドをがんワクチンとして用いることができる。
【0064】
TRP-2ペプチド提示DLA型の同定
現在まで692検体解析して、TRP-2については66検体に12種ペプチドの何れかに対してCTL誘導能があることを認めた。これらの活性のあった検体のDLA-88型のタイピングを実施した結果、DLA-88型アレルと12種ペプチドの活性を記載した表が完成した(表6)。3回以上の頻度で検出されたDLA-88型は、高親和性として001:03、003:02、004:02、006:01、017:01、028:01、029:01、039:01、051:01、501:01、508:01、nov8の12種と、2回検出されたDLA-88型は、低親和性として005:01、012:01、034:01、045:01、nov19の5種が判明した(;新規については系統樹解析により明らかにされる予定である)。表6に示すように、TRP-2ペプチドtrp-1~trp-12を抗原提示できるDLA-88型を特定することができた。この表の見方を例として示すと、DLA-88*004:02型とDLA-88*029:01型はこれら12種のうち8種のペプチドを提示でき、DLA-88*004:02型はtrp-4、trp-5、trp-6、trp-7、trp-9、trp-10、trp-11、trp-12を、DLA-88*029:01型はtrp-3、trp-5、trp-6、trp-7、trp-8、trp-9、trp-11、trp-12をがんワクチンとして用いることができる。
【0065】
【表6】
【0066】
一方、DLA-88*508:01型はtrp-4、trp-5、trp-6、trp-8、trp-10、trp-11、trp-12を、DLA-88*051:01型はtrp-1、trp-4、trp-5、trp-6、trp-8、trp-9、trp-11を抗原提示できるので、7種のペプチドをがんワクチンとして用いることができる。同様に、DLA-88*006:01型はtrp-1、trp-2、trp-6、trp-11、trp-12を、DLA-88*028:01型はtrp-3、trp-5、trp-9、trp-11、trp-12を、DLA-88*001:03型はtrp-3、trp-5、trp-7、trp-12を、DLA-88*012:01型はtrp-3、trp-4、trp-6、trp-12を、DLA-88*nov8型はtrp-3、trp-7、trp-9、trp-10を(以下省略)というようにそれぞれのDLA-88型に適応したペプチドをがんワクチンとして用いることができる。
【0067】
このように本発明は、がん抗原特異的CTLを誘導するための犬のDLA-88型情報に基づいたがん抗原Melan-A、survivin、TRP-2の特定のアミノ酸配列のペプチドとの組合せを明らかにした点にあり、犬PBMCを用いてin vitro系で確立させたものである。これを応用した犬のメラノーマまたは腺癌などに対する免疫療法を実施する上で、予めDLA-88型の検査後、その型に適合する特定のアミノ酸配列のペプチドをがんワクチンとして用いることができる。
【0068】
犬のがん免疫応答において、in vitro系の成果が、高い確率で生体内でも同様の反応が得られることは、従来研究から示唆されており、過去の事例として、van der Bruggenらは、メラノーマ患者の血液を使ってCTLを誘導できるアミノ酸配列MAGE-1 (MZ2-E)を発表し、新しい免疫療法を提唱した(Science.1991 254(5038):1643-1647.)。その後Rosenberg SAらは実際に合成ペプチドを用いてメラノーマ患者にワクチン接種し、効果の見られたケースの臨床データを報告した(Nat Med. 1998 4(3):321-327.)。その他、今日まで多くのヒトのペプチドワクチンの症例が実施されている。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のペプチドは、がんペプチドワクチンとして、犬におけるがんの治療、がんの予防、およびがんの転移予防に用いることができる。
【配列表フリーテキスト】
【0070】
配列番号4~27 合成
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
0006993677000001.app