(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-13
(54)【発明の名称】木造建築物の断熱耐震構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20220105BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
E04B2/56 645B
E04B1/76 500F
E04B1/76 400A
(21)【出願番号】P 2017222698
(22)【出願日】2017-11-20
【審査請求日】2019-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】509019440
【氏名又は名称】有限会社西脇建築
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】西脇 豊二
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-285741(JP,A)
【文献】特開2003-293491(JP,A)
【文献】特開平06-002378(JP,A)
【文献】実開昭54-153114(JP,U)
【文献】登録実用新案第3047904(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56-2/70
E04B 2/88-2/96
E04B 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁部に立設された柱と、隣接する柱との間に嵌装固定された外壁パネルとを備え、当該外壁パネルは、面板と、その屋内側の面の周縁に一体的に取り付けられた枠材と、この枠材の内側かつ前記屋内側の面に貼着された断熱層とを備えている木造建築物の断熱耐震構造において、
前記外壁パネルの枠材を設けた部分の厚さがこれに隣接する前記柱の奥行き方向の寸法より大き
く、かつ、当該外壁パネルの枠材の屋内側の面が前記柱の屋内側の面より屋内側に突出していることを特徴とする、木造建築物の断熱耐震構造。
【請求項2】
柱の奥行き寸法より大きい厚さを備えた前記
外壁パネルが、前記面板の屋外側の面を前記柱の屋外側の面と同一面にして嵌装固定されている、請求項1記載の断熱耐震構造。
【請求項3】
柱に隣接する前記枠材の幅寸法が当該枠材に隣接する柱の屋内側の面から屋内側に突出している寸法より大きく、角部の柱に隣接する枠材の前記突出している部分の外周側に45度の面取面を備えている
、請求項1又は2記載の断熱耐震構造。
【請求項4】
内装板が前記枠材の屋内側の面に固定して設けられ、面板の上縁と下縁に設けた枠材の前記柱の屋内側の面から突出する部分に、前記内装板と断熱層との間の空間と屋内の空間とを連通する通孔を備えている、請求項1、2又は3記載の断熱耐震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、断熱性、耐震性及び気密性を備えた木造建築物の断熱耐震構造に関し、木造建築物の軸組間の開口を塞ぐパネルを備えた上記構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調設備の普及により、在来工法における木造建築物においても高い断熱性と気密性が要求されるようになっている。建築物の外周壁に断熱性を付与する構造としては、柱と横架材(梁、桁、鴨居など)で形成される軸組の外側面に断熱板を積層した外装板を取り付ける構造、軸組の外側と内側に取り付けた外装板と内装板の間にできた空間に断熱層を設けた構造、柱の外側に付加暖熱壁を設ける構造などが採用されている。
【0003】
一方、建築工期の短縮と現場作業負担の低減を図るために、柱や梁などの軸組材を工場生産して、現場での作業を低減することが一般的になってきている。工場生産することにより軸組を形成する柱や横架材を正確な寸法に加工することができ、それを現場で所定の手順に従って組み付けてゆくことにより、経験の少ない作業者であっても、正確な寸法の建物を短い工期で建てることができる。
【0004】
外周壁に気密性を付与する構造としては、内装板に気密シートを貼付する構造が一般に行われているが、外装板の継ぎ目に形成される隙間にコーキング剤ないしシーリング剤(以下、両者を含めて「コーキング剤」という。)を充填する構造(特許文献1、8)も知られている。
【0005】
断熱性や耐震性を備えた壁パネルとして、特許文献2には、枠部材の外側に面板と断熱層を設けた大壁構造のパネルが提案されている。また、特許文献3には、片面に面板を設けた枠体の反対面に断熱層を設け、断熱層に設けた補強部材と枠体とを結合部材で結合したパネルが示されており、特許文献4には、面板を備えない矩形の枠部材の中空部を覆って室外側又は枠部材内側に断熱層を固定した壁パネルが示されている。また、特許文献5には、片面に防湿性シートを配置したパネルの他面側にパネル幅より幅の狭い板材を枠材より引っ込めた状態に取付け、防湿性シートの両端部をパネルよりはみ出すようにしたパネルが示されている。
【0006】
更に、特許文献6には、枠部材の内外面に取り付けた面板の間の中空部に断熱層を設けたパネルと、当該パネルの断熱層ないし内側の面板に溝を設けて軸組との継ぎ目にコーキング剤を充填する構造が示されており、特許文献7には、軸組と壁パネルとの接合部の気密構造が示されている。また、特許文献9には、柱や土台で囲まれた区画内に、硬質ウレタン樹脂発泡性液を現場で発泡吹き付け、通気胴縁の屋外側に外壁仕上げ材を取り付け、間柱の屋内側に内壁下地を取り付け、該内壁下地の屋内側に内壁仕上げ材を取り付けた構造が示されている。
【0007】
これらの壁パネルは、通常、柱寸法(柱の壁厚方向の寸法)と同じ厚さを備え、面板の屋内側に断熱層を設けている。断熱層の厚さは、柱寸法から面板の厚さを引いた寸法より薄い。そして、パネルの屋内側に内装板を取り付けたときに生ずる内装板と断熱層との間にできる空間を、配管スペースや配線スペースとして利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-054413号公報
【文献】特開平9-184212号公報
【文献】特開平10-046742号公報
【文献】特開平10-152919号公報
【文献】特開平11-050563号公報
【文献】特開2001-123561号公報
【文献】特開2004-076314号公報
【文献】特開2005-105622号公報
【文献】特開2014-077244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
木造在来軸組工法では、柱寸法を基本にした外壁パネルを用いる大壁工法がある。一方、外壁の断熱性に関して、国の指導の元に1地域から8地域迄の断熱地域区分があり、各地域区分毎に住宅の省エネルギー基準が定められて、エネルギー消費の削減及び地球温暖化対策が推進されている。
【0010】
この地域区分毎に外壁に設ける断熱層の材質や厚さが断熱等級で決められており、温暖地では断熱層は薄くて良く、寒冷地では厚くする必要がある。断熱材としてはグラスウール断熱材や、現場発泡断熱材など様々な工法があるが、一般に使用されている3.5寸角柱や4寸角柱の標準住宅では、柱の奥行き寸法によって壁厚が制限され、外壁パネルに必要な厚さの充填層を設けることができないとか、断熱層を厚くすると外壁パネル内に配管スペースを確保することができないとかの問題が生じる。また、柱の外側に付加暖熱壁を設ける住宅の場合には、外壁が垂れ下がって漏水の原因になり、施工や技術的な関係でコストが非常に高くつくという問題がある。
【0011】
この発明は、柱寸法の制限を受けないで外壁パネル内に設ける断熱層の厚さを厚くすることができ、従って、地域区分や断熱等級で決められた断熱性能に応じた断熱層を設けることができる、断熱性、遮音性及び耐震性に優れた木造家屋の断熱耐震構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の断熱耐震構造は、軸組を形成する柱7(7、7a)及び横架材8(8a、8b)と、当該軸組の開口に嵌装固定される外壁パネル1(1、1a)とを備えている。この発明の断熱耐震構造で使用する外壁パネル1は、構造用合板や集積材などからなる剛性を備えた面板4及びその屋内側となる面の周縁に固定された枠材2(2、2a)、3と、断熱層6とを備えている。
【0013】
外壁パネル1の厚さ、すなわち奥行き方向の寸法aは、枠材2、3や間柱5の奥行き方向の寸法bを大きくすることにより、柱7の当該方向の寸法cより大きくしている。これにより、外壁パネルの内側に設置可能な断熱層6の最大厚さを大きくできる。そのため、枠材2、3や間柱5の寸法を変えること無く、断熱層6の厚さのみを変えることで、省エネルギー基準の異なる地域の住宅に対応できる。
【0014】
外壁パネル1は、通常、その屋外側の面を柱7の屋外側の面と同一面にして設置される。従って、内装板11を取り付ける外壁パネルの枠材2、3や間柱5の屋内側の面は、柱7の屋内側の面より屋内側に突出することになる。従って柱7の屋内側の内装板11との間に空間12が形成され、この空間を配管スペースや配線スペースとして使用でき、枠材2、3の奥行き寸法に等しい断熱層を設けても、配管や配線に支障を生ずることが無い。
【0015】
一方、建物の角部においては、角部の柱の両側に固定される外壁パネルの枠材2の突出部16相互が干渉する。この干渉は、当該両側に固定される枠材2aの突出部16の外側面(柱側の面)に45度の面取面17を設けることによって避けることができる。この面取をした後の枠材2aに内装板11を固定可能にするためには、突出部16の奥行き寸法より当該枠材2aの幅(横方向の寸法)を大きくしなければならない。従って、この発明の構造における外壁パネル1aの枠材2aの断面寸法が大きくなり、建物の耐震性を向上させることができる。
【0016】
外壁パネル1の上辺の枠材3の奥行き寸法も上辺の横架材8aの奥行き寸法より大きくなり、外壁パネル1の上辺と左右両辺の枠材3も屋内側に突出する。これら3辺の突出する部分に通孔13を設けることにより、断熱層6や柱7と内装板11との間の、配管や配線のために使用されることのある空間12、14内の空気を上下の温度差により流動させることができ、結露などによるこれらの空間周囲の木材の腐食を防止できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明により、一般住宅に用いられている柱寸法の制限を受けないで外壁パネル内に設ける断熱層の厚さを厚くすることができ、従って、外壁パネルに地域区分や断熱等級毎の断熱性能に応じた断熱層を設けることができ、遮音性も向上する。また、外壁パネルの強度が高くなることにより、災害時に、外部からの衝撃に耐えられる外周壁と小屋裏パネルを備えた構造となり、耐震性や土砂崩れなどに対する耐衝撃性も向上するなど、未来に向けた理想の住宅を実現できる効果がある。
【0018】
更に、断熱層を厚くしても、柱や横架材の屋内側に配管スペースや配線スペースを確保することができ、これらのスペースに空気が滞留して外壁パネルの耐久性を低下させるという問題も解決できる。
【0019】
またこの発明の断熱耐震構造では、外壁パネルを柱や小屋ばり、横架材などの軸組材と共に工場生産することにより、強度、断熱性、気密性、耐震性などの性能が高くかつ均質な外周壁を構築することができ、現場の作業負担も軽減され、現場の工期も短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態を説明する。この発明の断熱耐震構造で用いる外壁パネル1は、矩形の周枠を形成する枠材2、3と、その屋外側の面に固定された面板4と、必要な場合に設ける間柱5と、周枠及び間柱の内側かつ面板4の屋内側の面に設けた断熱層6とを備えている。面板4は、所定の矩形寸法に切断した市販の構造用合板で、枠材2、3は、面板4の屋内側の面の周縁に固定されている。
【0022】
外壁パネル1は、隣接する2本の柱7とその上下の横架材8(8a、8b)で形成される矩形の開口の内法寸法に等しい。上方の横架材8aは、梁、桁、窓の下枠などであり、下方の横架材8bは、土台、床、窓の上枠などである。
【0023】
外壁パネル1は、軸組材7、8と共に工場生産される。面板4は、市販されている厚さのものを用いる。枠材2、3は、当該枠材のパネル厚さ方向の寸法と面板の厚さとを加えた寸法が当該パネルを嵌装する開口の周囲の軸組材7、8、特にその柱7の奥行き寸法より大きい奥行き寸法とされ、かつ当該枠材の屋内側の面が柱7の屋内側の面から突出する寸法dより大きい幅寸法wを備えている。間柱5は、枠材2、3の奥行き寸法に等しい寸法を備えている。
【0024】
断熱層6は、市販されている厚さのものを用いるのが便利である。外壁パネル1の厚さaを隣接する柱7や横架材8の奥行き寸法より大きくしているので、柱7や横架材8の寸法に制約されることなく、必要とされる耐熱性能に応じて断熱層6の厚さを決定でき、充分な断熱性能を付与することができる。したがって、高い断熱性能が要求される地域においても、断熱層6の厚さを変更するだけで対応できる。
【0025】
枠材2、3のパネルの内側となる面及び間柱5には、面板4側に形成される断熱層6の厚さに応じたL形断面の切欠15を設けて、断熱層6の周縁をこの切欠に納めるようにすれば、枠材や間柱と断熱層の外周との間に隙間が生ずるのを避けることができる。
【0026】
外壁パネル1は、通常、面板4の屋外側の面4sを柱7や横架材8の屋外側の面7sと一致させて軸組間の開口に嵌装される。この発明の断熱耐震構造における外壁パネル1は、柱7の奥行き寸法cより大きな厚さaを備えているので、その寸法が大きい分だけ外壁パネル1が柱7の屋内側の面から突出する。内装板11は、外壁パネルの枠材2、3や間柱5の屋内側の面に固定して取り付けられる。従って、内装板11と柱7や横架材8との間には空間12ができる。この空間は、配管スペースや配線スペースとして利用することができる。
【0027】
また、外壁パネル1の厚さを柱7や横架材8の奥行き寸法より大きくしているので、断熱層6の厚さを厚くしても、断熱層6と内装板11との間にも空間14ができ、充分な配管スペースや配線スペースを確保することが可能である。
【0028】
建物の角部分においては、
図2に示すように、角の柱7aの両側の外壁パネル1aの枠材2aの柱7aから屋内側に突出する部分が干渉するのを避けるために、柱7aに隣接する枠材2aの柱7a側の面の柱7aから突出する領域に45度の面取面17を設ける。この面取りを可能にするため及び面取りをした後でも枠材2aの屋内側に内装板11を固定するのに必要な面が存在する必要から、柱7aに隣接する枠材2aの幅寸法を大きくして、外壁パネル1aの強度、従って、建物の耐震性を向上させることができる。隣接する外壁パネルの面取面17相互の間に隙間が生じて気密性に問題が生ずるときは、この隙間にコーキング剤18を充填してやればよい。
【0029】
図3に示すように、外壁パネルの上下の枠材3は、上下の横架材8a、8bから屋内側に突出するのが普通である。この上下の枠材3の横架材8a、8bから屋内側に突出した部分に適宜通孔13を設けることにより、配管スペースとした内装板11と断熱層6との間の空間の空気を循環させることができる。これにより配管スペースの空気の温度と配管を通る水の温度との温度差などにより結露等を生ずるような場合に、配管スペースの空気を上方又は下方へと流動させて外壁パネルの結露や湿度による腐食を防止することができる。
【0030】
この発明の構造における外壁パネル1は、軸組材7、8と共に工場生産され、壁となるべき軸組の開口や天井裏の軸組の開口に嵌め込んで釘などにより固定される。窓がつく外周壁には、窓の上下壁にパネルを装着する。パネルと柱及び横架材の取合いは内法面部分とし、パネルは、軸組の寸法に合わせた寸法に工場で加工される。パネルと柱、横架材及び小屋ばりとの接合部には、必要に応じてコーキング剤を充填して気密性を付与する。
【0031】
パネルは、軸組の開口に嵌め込んだ後、枠材2、3を軸組材7、8に釘止めにより固定するのが施工性に優れる。この場合、枠材2、3に釘止め位置を示すマークを設けておくことにより、釘止め位置が現場作業者に解りやすく、施工精度を上げることができる。
【0032】
このようにして軸組の所定の開口にそれぞれについて用意されたパネルを嵌め込んで、枠材2、3を軸組材7、8の内法面に固定した後、外装材及び内装板11を取り付けて外周壁を完成する。
【0033】
このようにして形成された外周壁は、断熱性及び気密性を備えているので、外装材や内装材については、気密性や断熱性を考慮することなく、美感、施工性及び耐久性の観点から、材料及び構造を選択することができ、外装及び内装の自由度が高くなる。
【0034】
また、天井裏の小屋ばり間の開口にこの発明のパネルを装着することにより、天井裏の断熱性及び気密性を確保でき、同時に高い耐震性も得られる。
【符号の説明】
【0035】
1(1、1a) 外壁パネル
2(2、2a) 枠材
3 枠材
4 面板
5 間柱
6 断熱層
7(7、7a) 柱
8(8a、8b) 横架材
11 内装板
12 空間
13 通孔
14 空間
16 突出部
17 面取面
a 奥行き方向の寸法
b 奥行き方向の寸法
c 奥行き方向の寸法