(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】消泡剤及び塩化ビニル系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 19/04 20060101AFI20220105BHJP
C08F 14/06 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B01D19/04 B
C08F14/06
(21)【出願番号】P 2019144834
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2020-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000106438
【氏名又は名称】サンノプコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112438
【氏名又は名称】櫻井 健一
(72)【発明者】
【氏名】松村 陽平
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第91/000763(WO,A1)
【文献】特公昭47-015923(JP,B1)
【文献】特開2010-162429(JP,A)
【文献】特開2019-025447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00-19/04
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるポリエーテル化合物(A)、一般式(2)で表されるポリエーテル化合物(B)及び一般式(3)で表されるポリエーテル化合物(C)を含有し、
ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)の重量に基づいて、ポリエーテル化合物(A)の含有量が1~15重量%、ポリエーテル化合物(B)の含有量が20~59重量%、ポリエーテル化合物(C)の含有量が40~79重量%であることを特徴とする消泡剤。
R
1O-(PO)
n-H (1)
HO-(PO)
m-H (2)
R
2-{(PO)
q-(EO)
p-H}
s (3)
R
1は炭素数1~4のアルキル基、R
2は炭素数3~6のs価アルコールの反応残基、POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基を表し、nは1~50の整数、mは3~100の整数、qは1~30の整数、pは1~10の整数であり、sは3または4の整数でs個の{(PO)
q
-(EO)
p-H}はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【請求項2】
さらに疎水性シリカ(D)を含有し、疎水性シリカ(D)の含有量が、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)の重量に基づいて、0.1~10重量%である請求項1に記載の消泡剤。
【請求項3】
さらに基油(E)を含有し、基油(E)の含有量がポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)の重量に基づいて、10~60重量%である請求項1又は2に記載の消泡剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の消泡剤の存在下で単量体を重合させて塩化ビニル系樹脂スラリーを得る重合工程を含むことを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の消泡剤の存在下で塩化ビニル系樹脂スラリーから残留モノマーを回収及び/又は除去する脱モノマー工程を含むことを特徴とする塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消泡剤及びこれを用いる塩化ビニル系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシアルキレン化合物を含有する消泡剤として、疎水性シリカと-50~2℃の流動点を有する炭化水素油とを含んでなる疎水性シリカ分散液、ポリオキシアルキレン化合物及びポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステルを含有することを特徴とする消泡剤(特許文献1)や、R1O(AO)nH(R1は炭素数8~22のアルキル基、アルケニル基、または炭素数6~30のアリール基を示し、AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基、nは1~100の整数を示す。)で表され、グリフィンのHLBが1~6のアルキレンオキサイド付加物を含有するクラフトパルプ製造工程用消泡剤(特許文献2)が知られている。
また、塩化ビニル系樹脂の製造方法において、発泡防止成分として、(1)部分ケン化ポリ酢酸ビニル、(2)高粘度エーテル(高粘度の水溶性セルロースエーテル又はポリアルキレンオキサイド(ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体;高粘度エーテルは、上記の部分ケン化ポリ酢酸ビニルと併用することが重要である。)、(3)消泡剤(部分ケン化ポリ酢酸ビニルと高粘度エーテルと併用することにより、発泡防止の向上を図ることができる;アセチレングリコール等のポリアルキレングリコール系消泡剤;ポリアルキレンアマイド等のアマイド系消泡剤、シリコーン消泡剤)を特定の添加条件(添加開始時期及び添加量)で行う方法(特許文献3の0012~0014段落等)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-162429号公報
【文献】特開2012-52246号公報
【文献】特開2009-62425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3の0010段落に、「本件の場合、発泡防止成分として、通常の消泡剤を用いたのでは、十分な発泡防止は不可能である。即ち、本件の発泡は、懸濁(分散)剤に起因する泡(懸濁剤の泡)と塩化ビニル系重合体の粉末を多く含有する泡(重合体の泡)が複雑に絡み合っているために、消泡剤の作用が十分に発揮されないという特段の事由が想定される。このため、本件の場合、上記の複雑に絡み合っている泡、即ち、「懸濁剤の泡」と「重合体の泡」の凝集を阻止することが必要になるが、本発明が発泡防止成分として採用した、水溶性の部分ケン化ポリ酢酸ビニルと高粘度エーテルは、その添加条件と相俟って、両泡の分散を促し、凝集を防止して、該泡の成長を阻止するという作用を十分に発揮することにより、問題となる発泡防止に寄与しているものと考えられる。」と記載されているように、発泡成分及び懸濁粒子を含む発泡性分散液体(特に塩化ビニル系樹脂スラリー)に対して、従来の消泡剤では、消泡性が不十分であるという問題がある。
本発明の目的は、発泡成分及び懸濁粒子を含む発泡性分散液体(特に塩化ビニル系樹脂スラリー)に対しても優れた消泡性を発揮する消泡剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の消泡剤は、一般式(1)で表されるポリエーテル化合物(A)、一般式(2)で表されるポリエーテル化合物(B)及び一般式(3)で表されるポリエーテル化合物(C)を含有し、
ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)の重量に基づいて、ポリエーテル化合物(A)の含有量が1~15重量%、ポリエーテル化合物(B)の含有量が20~59重量%、ポリエーテル化合物(C)の含有量が40~79重量%であることを特徴とする。
【0006】
R1O-(PO)n-H (1)
HO-(PO)m-H (2)
R2-{(PO)q-(EO)p-H}s (3)
【0007】
R1は炭素数1~4のアルキル基、R2は炭素数3~6のs価アルコールの反応残基、POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基を表し、nは1~50の整数、mは3~100の整数、qは1~30の整数、pは1~10の整数であり、sは3または4の整数でs個の{(PO)
q
-(EO)p-H}はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0008】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法の特徴は、上記の消泡剤の存在下で単量体を重合させて塩化ビニル系樹脂スラリーを得る重合工程を含む点;または上記の消泡剤の存在下で塩化ビニル系樹脂スラリーから残留モノマーを回収及び/又は除去する脱モノマー工程を含む点を要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の消泡剤は、消泡性に優れ、発泡成分及び懸濁粒子を含む発泡性分散液体(特に塩化ビニル系樹脂スラリー)に対しても優れた消泡性を発揮する。
【0010】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、上記の消泡剤を用いるので生産性に優れ、得られる塩化ビニル系樹脂の物性が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<一般式(1)で表されるポリエーテル化合物(A)>
炭素数1~4のアルキル基(R1)としては、メチル、エチル、プロピル、イソブチル及びn-ブチルが含まれる。これらのうち、消泡性の観点から、ブチル及びメチルが好ましく、さらに好ましくはn-ブチルである。
【0012】
nは、1~50の整数であり、消泡性の観点から、2~46の整数が好ましく、さらに好ましくは3~43の整数、特に好ましくは4~40の整数である。
【0013】
ポリエーテル化合物(A)の好ましい例としては、n-ブタノールのプロピレンオキシド(5モル)付加物、n-ブタノールのプロピレンオキシド(25モル)付加物、n-ブタノールのプロピレンオキシド(40モル)付加物及びメタノールのプロピレンオキシド(6モル)付加物等が挙げられる。
【0014】
ポリエーテル化合物(A)の含有量(重量%)は、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)の重量に基づいて、1~15が好ましく、さらに好ましくは2~14、特に好ましくは3~13、最も好ましくは4~12である。
【0015】
<一般式(2)で表されるポリエーテル化合物(B)>
mは、3~100の整数であり、消泡性の観点から、6~90の整数が好ましく、さらに好ましくは10~80の整数、特に好ましくは16~69の整数である。
【0016】
ポリエーテル化合物(B)の好ましい例としては、ポリプロピレンオキシド(数平均分子量600(m=10))、ポリプロピレンオキシド(数平均分子量950(m=16))、ポリプロピレンオキシド(数平均分子量2000(m=34)及びポリプロピレンオキシド(数平均分子量4000(m=69)等が挙げられる。
【0017】
ポリエーテル化合物(B)の含有量(重量%)は、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)の重量に基づいて、20~59が好ましく、さらに好ましくは25~55、特に好ましくは27~53、最も好ましくは30~50である。
【0018】
<一般式(3)で表されるポリエーテル化合物(C)>
炭素数3~6のs価アルコールの反応残基(R2)を構成できる炭素数3~6のs価アルコールとしては、3価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタン等)、及び4価アルコール(ソルビタン、ペンタエリスリトール及びジグリセリン等)が挙げられる。
【0019】
qは、1~30の整数であり、消泡性の観点から、3~27の整数が好ましく、さらに好ましくは5~25の整数、特に好ましくは7~23の整数である。
【0020】
pは、1~10の整数であり、消泡性の観点から、2~9の整数が好ましく、さらに好ましくは2~8の整数、特に好ましくは3~7の整数である。
【0021】
ポリエーテル化合物(C)の好ましい例としては、グリセリンのプロピレンオキシド(21モル)エチレンオキシド(9モル)付加物、グリセリンのプロピレンオキシド(40モル)エチレンオキシド(14モル)付加物及びトリメチロールプロパンのプロピレンオキシド(68モル)エチレンオキシド(21モル)付加物等が挙げられる。
【0022】
ポリエーテル化合物(C)の含有量(重量%)は、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)の重量に基づいて、40~79が好ましく、さらに好ましくは43~73、特に好ましくは44~70、最も好ましくは46~66である。
【0023】
本発明の消泡剤は、さらに疎水性シリカ(D)を含むことが好ましい。
【0024】
疎水性シリカ(D)としては、シリカ粉末を疎水化剤で疎水化処理した疎水性シリカが含まれる。
【0025】
疎水化剤としては、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーン樹脂、ハロシラン、シラザン及びアルコキシシラン等が含まれる。シリコーンオイルとしては、動粘度10~3000(mm2/s、25℃)のジメチルポリシロキサン等が挙げられ、オクタメチルシクロテトラシロキサン等も使用できる。変性シリコーンとしては、上記のジメチルポリシロキサンのメチル基の一部を炭素数2~6のアルキル基、炭素数2~4のアルコキシル基、フェニル基、水素原子及び/又はハロゲン(塩素及び臭素等)原子等に置き換えたもの等が含まれる。シリコーン樹脂としては、RnSiO(4-n)/2(式中、Rは炭素数1~4の炭化水素基又はフェニル基、nは0~3の整数を表し、R3SiO1/2単位、R2SiO単位、RSiO3/2単位及び/又はSiO2単位の適当な組み合わせから構成される樹脂である。)で表されるシリコーン樹脂等が挙げられる。ハロシランとしては、炭素数1~12のアルキル基及び/又はアリール基を有するアルキルハロシラン及びアリールハロシランが含まれ、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルブロモシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン及びt-ブチルジメチルクロロシラン等が挙げられる。アルコキシシランとしては、炭素数1~12のアルキル基若しくはアリール基及び炭素数1~2のアルコキシ基を有するアルコキシシラン、並びに炭素数1~2のアルコキシ基を有するアルコキシシランが含まれ、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン及び/又はデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
疎水性シリカとしては、市場からも容易に入手でき、たとえば、商品名として、Nipsil SS-10、SS-40、SS-50及びSS-100(東ソー・シリカ株式会社、「Nipsil」は東ソー・シリカ株式会社 の登録商標である。)、AEROSIL R972、RX200及びRY200(日本アエロジル株式会社、「AEROSIL」はエボニック デグサ ゲーエムベーハーの登録商標である。 )、SIPERNAT D10、D13及びD17(エボニックジャパン株式会社、「SIPERNAT」はエボニック デグサ ゲーエムベーハーの登録商標である。 )、TS-530、TS-610、TS-720(キャボットカーボン社)、AEROSIL R202,R805及びR812(エボニックジャパン株式会社)、REOLOSIL MT-10、DM-10及びDM-20S (株式会社トクヤマ、「REOLOSIL」は同社の登録商標である。)、並びにSYLOPHOBIC100、702、505及び603(富士シリシア化学株式会社、「SYLOPHOBIC」は同社の登録商標である。)等が挙げられる。
【0027】
疎水性シリカ(D)を含む場合、疎水性シリカ(D)の含有量(重量%)は、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーエル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)重量に基づいて、0.1~10が好ましく、さらに好ましくは0.3~9、特に好ましくは0.5~8、最も好ましくは0.7~7である。
【0028】
本発明の消泡剤は、さらに基油(E)を含むことが好ましい。
基油(E)としては、鉱油、油脂、モノアルコール脂肪酸エステル及びジメチルシリコーンが含まれる。
【0029】
鉱油としては、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製及び水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものを用いることができ、商品名として、コスモピュアスピンG、コスモピュアスピンE、コスモSP-10、コスモニュートラル700及びコスモSC22(以上、コスモ石油株式会社、「コスモ」及び「ピュアスピン」は同社の登録商標である。)、MCオイル P-22、S-10S(以上、出光興産株式会社)、並びにスタノール40(エクソンモービルコーポレーション)等が挙げられる。
【0030】
油脂としては、炭素数6~22の脂肪酸又はこの混合物とグリセリンとのエステルが含まれ、植物油(なたね油、大豆油、パーム油、ヤシ油、オリーブ油等)、中鎖脂肪酸グリセライド(商品名として、たとえば、パナセート875;日油株式会社、「パナセート」は同社の登録商標である。)、魚油等が挙げられる。
【0031】
モノアルコール脂肪酸エステルとしては、炭素数6~22の脂肪酸と炭素数1~22のモノアルコールとのエステルが含まれ、オレイン酸メチル、オレイン酸ブチル及びイソステアリン酸メチル等が挙げられる。
【0032】
ジメチルシリコーンとしては、動粘度10~10000(mm2/s、25℃)のポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0033】
これらの基油(E)のうち、鉱油、油脂及びシリコーンが好ましく、さらに好ましくは鉱油である。
【0034】
基油(E)を含む場合、基油(E)の含有量(重量%)は、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーエル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)重量に基づいて、10~60が好ましく、さらに好ましくは15~57、特に好ましくは17~55、最も好ましくは20~50である。
【0035】
本発明の消泡剤は、さらに水(F)を含むことができる。
水(F)としては、蒸留水、イオン交換水、水道水、工業用水、井戸水、湧き水及び河川水等が使用できる。これらのうち、水道水、工業用水、イオン交換水及び蒸留水が好ましく、さらに好ましくはイオン交換水及び蒸留水である。水(F)を含有させることにより、引火危険性を低減させ取扱上の安全性を高める効果及び消泡剤の低温流動性を改良する効果がある。
【0036】
水(F)を含有する場合、水(F)の含有量(重量%)は、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)の重量に基づいて、1~10が好ましく、さらに好ましくは1.5~8、特に好ましくは2~6である。
【0037】
本発明の消泡剤は、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)を均一に混合することにより製造することができる。
【0038】
本発明の消泡剤に疎水性シリカ(D)を含む場合、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)を均一混合してから、この混合物(ABC)と疎水性シリカ(D)とを均一混合することが好ましい。
【0039】
本発明の消泡剤に疎水性シリカ(D)及び基油(E)を含む場合、ポリエーテル化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)及びポリエーテル化合物(C)を均一混合して混合物(ABC)を調製し、一方、疎水性シリカ(D)及び基油(E)とを均一混合して混合物(DE)を調製してから、混合物(ABC)及び混合物(DE)を混合してもよい。
【0040】
本発明の消泡剤に水(F)を含む場合、他の成分を混合してから最後に混合することが好ましいが、消泡剤として各組成が均一に混合されていれば、各成分の混合順に制限はない。
【0041】
本発明の消泡剤は、発泡成分及び懸濁粒子を含む発泡性分散液体(特に塩化ビニル系樹脂スラリー)に対しても優れた消泡性を発揮する。
したがって、本発明の消泡剤は、塩化ビニル系樹脂の製造方法(上記の消泡剤の存在下で単量体を重合させて塩化ビニル系樹脂スラリーを得る重合工程を含む方法;上記の消泡剤の存在下で塩化ビニル系樹脂スラリーから残留モノマーを回収及び/又は除去する脱モノマー工程を含む方法)においても優れた消泡性を発揮する。
【0042】
本発明の消泡剤は、いずれのタイミングで添加してもよく、添加に際しては消泡剤を適当な希釈溶媒(たとえば水)で希釈してもよい。
【0043】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル及び塩化ビニルと共重合可能なモノマーの重合物であり、塩化ビニルと共重合可能なモノマーとしては、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル、無水マレイン酸、アクリロニトリル及びスチレン等が含まれる。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が含まれる。
【0045】
消泡剤の使用量は発泡状態等に応じて適宜決定できるが、塩化ビニル系樹脂の重量に基づいて、0.001~0.1重量%程度である。
【0046】
塩化ビニル系樹脂スラリーの濃度、樹脂粒子径、重合工程の条件、脱モノマー工程の条件等の詳細については、通常の条件、範囲がそのまま適用できる。
【実施例】
【0047】
以下、特記しない限り「部」は重量部を意味する。
【0048】
ポリエーテル化合物(A)として、以下のポリエーテル化合物(a1)~(a4)を使用した。
ポリエーテル化合物(a1):n-ブタノールのプロピレンオキシド(4モル)付加物
ポリエーテル化合物(a2):n-ブタノールのプロピレンオキシド(16モル)付加物
ポリエーテル化合物(a3):n-ブタノールのプロピレンオキシド(25モル)付加物
ポリエーテル化合物(a4):n-ブタノールのプロピレンオキシド(40モル)付加物
【0049】
ポリエーテル化合物(B)として、以下のポリエーテル化合物(b1)~(b3)を使用した。
ポリエーテル化合物(b1):ポリプロピレンオキシド(数平均分子量950(m=16))
ポリエーテル化合物(b2):、ポリプロピレンオキシド(数平均分子量2000(m=34))
ポリエーテル化合物(b3):ポリプロピレンオキシド(数平均分子量4000(m=69))
【0050】
ポリエーテル化合物(C)として、以下のポリエーテル化合物(c1)~(c4)を使用した。
ポリエーテル化合物(c1):グリセリンのプロピレンオキシド(21モル)エチレンオキシド(9モル)付加物(q=7;p=3)
ポリエーテル化合物(c2):グリセリンのプロピレンオキシド(40モル)エチレンオキシド(14モル)付加物(q=13、14;p=4、5)
ポリエーテル化合物(c3):トリメチロールプロパンのプロピレンオキシド(68モル)エチレンオキシド(21モル)(q=22、23;p=7)
ポリエーテル化合物(c4):ジグリセリンのプロピレンオキシド(48モル)エチレンオキシド(16モル)(q=12;p=4)
【0051】
疎水性シリカ(D)として、以下の疎水性シリカ(d1)~(d3)を使用した。
疎水性シリカ(d1):AEROSIL R972(日本アエロジル株式会社)
疎水性シリカ(d2):SIPERNAT D10(エボニックジャパン株式会社)
疎水性シリカ(d3):Nipsil SS-100(東ソー・シリカ株式会社)
【0052】
基油(E)として、以下の基油(e1)~(e2)を使用した。
基油(e1):鉱物油(コスモSP-10、コスモ石油株式会社)
基油(e2):鉱物油(コスモSC-22、コスモ石油株式会社)
【0053】
水(F)として、以下の基油(f1)を使用した。
水(f1):脱イオン水
【0054】
<製造例1>
攪拌の可能な容器内で、基油(e1)870部及び疎水性シリカ(d2)130部を60分間攪拌混合し、ゴーリンホモジナイザーを用いて3500psi(24.1MPa)にて均質化処理して、疎水性シリカ基油分散液(1)を得た。
【0055】
<製造例2>
攪拌の可能な容器内で、基油(e2)900部及び疎水性シリカ(d3)100部を60分間攪拌混合し、ゴーリンホモジナイザーを用いて3500psi(24.1MPa)にて均質化処理して、疎水性シリカ分散液(2)を得た。
【0056】
<実施例1>
攪拌の可能な容器内で、ポリエーテル化合物(a1)100部、ポリエーテル化合物(b3)300部、ポリエーテル化合物(c3)600部及び水(f1)60部を均一混合して、本発明の消泡剤(1)を得た。
【0057】
<実施例2>
攪拌の可能な容器内で、ポリエーテル化合物(a2)40部、ポリエーテル化合物(b2)500部、ポリエーテル化合物(c2)460部及び疎水性シリカ(d1)30部を均一混合して、本発明の消泡剤(2)を得た。
【0058】
<実施例3>
攪拌の可能な容器内で、ポリエーテル化合物(a3)120部、ポリエーテル化合物(b1)200部、ポリエーテル化合物(b2)200部、ポリエーテル化合物(c1)200部、ポリエーテル化合物(c3)280部、疎水性シリカ(d1)7部及び水(f1)20部を均一混合して、本発明の消泡剤(3)を得た。
【0059】
<実施例4>
攪拌の可能な容器内で、ポリエーテル化合物(a4)40部、ポリエーテル化合物(b2)300部、ポリエーテル化合物(c2)600部、ポリエーテル化合物(c4)60部、疎水性シリカ基油分散液(1)230部を均一混合して、本発明の消泡剤(4)を得た。
【0060】
<実施例5>
攪拌の可能な容器内で、ポリエーテル化合物(a2)60部、ポリエーテル化合物(b3)400部、ポリエーテル化合物(c1)540部、疎水性シリカ(d1)10部及び疎水性シリカ基油分散液(2)555部を均一混合して、本発明の消泡剤(5)を得た。
【0061】
<実施例6>
攪拌の可能な容器内で、ポリエーテル化合物(a1)70部、ポリエーテル化合物(b2)400部、ポリエーテル化合物(c2)530部、疎水性シリカ基油分散液(1)250部及び疎水性シリカ分散液(2)150部を均一混合して、本発明の消泡剤(6)を得た。
【0062】
<実施例7>
攪拌の可能な容器内で、ポリエーテル化合物(a2)100部、ポリエーテル化合物(b2)200部、ポリエーテル化合物(b3)200部、ポリエーテル化合物(c1)100部、ポリエーテル化合物(c2)400部及び疎水性シリカ(d2)70部を均一混合して、本発明の消泡剤(7)を得た。
【0063】
<比較例1>
特許文献1の実施例2の記載に準拠して、炭化水素油(ピュアスピンG、流動点-10℃、コスモ石油ルブリカンツ株式会社)95部及び疎水性シリカ(Nipsil SS-50、体積平均粒子径1μm、東ソー・シリカ株式会社)5部からなる疎水性シリカ分散液60部と、ブタノールのプロピレンオキシド(40モル)付加体(ニューポールLB-1715、三洋化成工業株式会社)30部と、ポリオキシエチレン(重合度:60)ソルビトールテトラオレイン酸エステル(レオドール460V、HLB=13、8、花王株式会社)10部とを均一混合して、比較用の消泡剤(H1)とした。
【0064】
<比較例2>
ケン化度80モル%、平均重合度2500の部分ケン化ポリ酢酸ビニル(PVA)(特許文献3の実施例1で使用した発泡防止成分)の1重量%水溶液を比較用の消泡剤(H2)とした。
【0065】
<比較例3>
特許文献2に記載されたようなジメチルポリシロキサンからなるシリコーン系消泡剤を比較用の消泡剤(H3)とした。
【0066】
消泡剤(1)~(7)及び(H1)~(H3)を用いて、以下のようにして消泡性を評価し、評価結果を表1及び2に示した。
【0067】
<塩化ビニル重合用水相に対する消泡性の評価>
1.試験用水溶液の調製
ポリビニルアルコール(1)[ゴーセノールGH-20(けん化度88モル%)、日本合成化学工業株式会社、「ゴーセノール」は同社の登録商標である。以下、同様である]5部、ポリビニルアルコール(2)[ゴーセノールLW-200(けん化度50モル%)2部、ポリビニルアルコール(3)[クラレポバールL-10(けん化度72モル%)]3部及び水9990部を均一に混合してポリビニルアルコールを溶解させ、試験用水溶液を得た。
【0068】
2.消泡試験液の調製
試験用水溶液100部を55℃まで加熱し、消泡剤を0.002部を加えて混合し、消泡試験液を得た。
消泡剤を加えないこと以外、上記と同様にして、消泡試験液(ブランク)も調製した。
【0069】
3.消泡性試験
温度調節可能であり、底部に直径3cmの攪拌翼を有するガラス製シリンダー(内径4cm、高さ25cm)を55℃に温度調節して、このガラス製シリンダーに、55℃に温度調節した消泡試験液50mlを入れ、4000rpmで攪拌翼を5分間回転させて消泡試験液を泡立て、攪拌翼の停止直後の泡面高さを読み取った。数値の小さい方が消泡性が高いことを意味し好ましい。
【0070】
【0071】
<塩化ビニル樹脂スラリーに対する消泡性の評価>
1.試験用スラリーの調製
水600部及び塩化ビニル樹脂粒子(カネビニールS-1008、株式会社カネカ、「カネビニール」は同社の登録商標である。)400部を均一混合して試験用スラリーを得た。
【0072】
2.消泡試験液の調製
試験用スラリー1000部を60℃まで加熱し、消泡剤を0.12部を加えて混合し、消泡試験液を得た。
消泡剤を加えないこと以外、上記と同様にして、消泡試験液(ブランク)も調製した。
【0073】
3.消泡性試験
100mLのガラス製メスシリンダーを60℃に温度調節しながら、このガラス製メスシリンダーに、60℃に温度調節した消泡試験液40gを入れ、デフューザーストーンをガラス製メスシリンダーの底部まで挿入し300ml/分で窒素ガスをバブリングすることによって消泡試験液を泡立てて、変化する泡及び発泡液の容量(ml)を試験開始15秒後、1分後及び10分後に読み取った。数値の小さい方が消泡性が高いことを意味し好ましい。
【0074】
【表2】
「-」は100mlを越えたことを意味する。
【0075】
本発明の消泡剤は、比較用の消泡剤に比べて、塩化ビニル重合用水相及び塩化ビニル樹脂スラリーのいずれにおいても優れた消泡性を発揮した。一方、比較用の消泡剤(H2)は塩化ビニル重合用水相に対してブランクよりも消泡性が悪かったが、塩化ビニル樹脂スラリーに対しては良好な消泡性を示した。
【0076】
塩化ビニル系樹脂の製造の際、消泡剤が残留し、得られる塩化ビニル系樹脂の物性に影響することがあるが、上記の消泡剤を用いて塩化ビニル系樹脂を製造すると、消泡性に優れるので、より少ない消泡剤で塩化ビニル系樹脂を製造でき、塩化ビニル系樹脂の物性への影響を低減できる(塩化ビニル系樹脂の物性が優れる)と共に、塩化ビニル系樹脂を効率的に生産できる(生産性に優れる)。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の消泡剤は、塩化ビニル系樹脂スラリー用消泡剤として好適であり、塩化ビニル系樹脂スラリーを得る重合工程、塩化ビニル系樹脂スラリーから残留モノマーを回収及び/又は除去する脱モノマー工程を含む塩化ビニル系樹脂の製造方法に最適である。