(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】細菌メタゲノム分析を通した自閉症の診断方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20220105BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20220105BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20220105BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/689 Z
C12N15/10 100Z
G01N33/50 R
(21)【出願番号】P 2019565317
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 KR2018004795
(87)【国際公開番号】W WO2018216912
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2020-01-21
(31)【優先権主張番号】10-2017-0065329
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0047608
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516348577
【氏名又は名称】エムディー ヘルスケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MD HEALTHCARE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン-クン
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/099076(WO,A1)
【文献】PLOS ONE,2015年,Vol.10, No.10, e0137725,p.1-19
【文献】医学のあゆみ,2014年,Vol.251, No.1,p.113-121
【文献】実験医学,2014年,Vol.32, No.5,p.167-172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
C12N15/00-15/90
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)正常ヒトおよび被検者サンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して配列番号1および配列番号2のプライマーペアを利用してPCR(polymerase chain reaction)を行う段階;および
(c)前記PCR産物の配列分析を通して正常ヒト由来サンプルと細菌由来細胞外小胞の含量の増減を比較する段階
を含み、
前記正常ヒトおよび被検者サンプルは、尿であり、
前記(c)段階で、正常ヒト由来サンプルと比較して、
ハロモナス(Halomonas)およびジョトガリコッカス(Jeotgalicoccus)属(genus)細菌由来小胞の含量が増加しており、
フィンブリイモナス(Fimbriimonas)およびアグロバクテリウム(Agrobacterium)属(genus)細菌由来小胞の含量が減少している場合、メタゲノム分析を通して自閉症と判定することを特徴とする、自閉症判定のための情報提供方法。
【請求項2】
前記段階(c)で、正常ヒト由来サンプルと比較して、
ハロモナス(Halomonas)およびジョトガリコッカス(Jeotgalicoccus)属(genus)細菌由来小胞の含量が増加しており、
フィンブリイモナス(Fimbriimonas)およびアグロバクテリウム(Agrobacterium)属(genus)細菌由来小胞の含量が減少しており;
サーミ(Thermi)門の細菌由来細胞外小胞、
デイノコッキ(Deinococci)綱の細菌由来細胞外小胞、
デスルフォビブリオナレス(Desulfovibrionales)目の細菌由来細胞外小胞、
デスルフォビブリオナシエ(Desulfovibrionaceae)科の細菌由来細胞外小胞、または
コクリア(Kocuria)
属の細菌由来細胞外小胞の含量が増加している場合、
メタゲノム分析を通して自閉症と判定することを特徴とする、請求項1に記載の情報提供方法。
【請求項3】
前記段階(c)で、正常ヒト由来サンプルと比較して、
ハロモナス(Halomonas)およびジョトガリコッカス(Jeotgalicoccus)属(genus)細菌由来小胞の含量が増加しており、
フィンブリイモナス(Fimbriimonas)およびアグロバクテリウム(Agrobacterium)属(genus)細菌由来小胞の含量が減少しており;
アルマティモナデテス(Armatimonadetes)門の細菌由来細胞外小胞、
フィンブリイモナディア(Fimbriimonadia)、およびアルファプロテオバクテリア(Alphaproteobacteria)よりなる群から選ばれる1種以上の綱の細菌由来細胞外小胞、
フィンブリイモナダレス(Fimbriimonadales)、リゾビウム目(Rhizobiales)、およびスフィンゴモナダレス(Sphingomonadales)よりなる群から選ばれる1種以上の目の細菌由来細胞外小胞、
フィンブリイモナダシエ(Fimbriimonadaceae)、リゾビアシエ(Rhizobiaceae)、アルカリゲナシエ(Alcaligenaceae)、およびスフィンゴモナダシエ(Sphingomonadaceae)よりなる群から選ばれる1種以上の科の細菌由来細胞外小胞、または
アクロモバクター(Achromobacter)、ロセアテレス(Roseateles)
、およびスフィンゴモナス(Sphingomonas)よりなる群から選ばれる1種以上の属の細菌由来細胞外小胞の含量が減少している場合、
メタゲノム分析を通して自閉症と判定することを特徴とする、請求項1に記載の情報提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌メタゲノム分析を通して自閉症を診断する方法に関し、より具体的には、正常ヒトおよび被検者由来サンプルを利用して細菌メタゲノム分析を行って特定細菌由来細胞外小胞の含量増減を分析することによって自閉症を診断する方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症とは、コミュニケーションと社会的相互作用の理解能力に低下を起こす神経発達障害を意味する。この症状の原因は、まだ明確に明らかにされていないが、いくつかの研究者は、情緒的な原因でなく、遺伝的発達障害と推測している。発生確率は、1000人に一人の割合であり、男女の比率は、米国を基準として4:1程度である。2011年の調査によれば、韓国での自閉症の有病率は、2%以上ということが明らかとなり注目をあびている。自閉症は、全般的に「自閉スペクトラム障害」あるいは「自閉範疇性障害」(Autism Spectrum Disorder)と呼ばれ、この障害は、学界で三つの程度に分けられて議論される。第一に、レオ・カナーが定義した児童を呼ぶ自閉症(Autism;Kanner’s Syndrome)、第二に、ハンスアスペルガーが議論したアスペルガー症候群(Asperger’s Syndrome)、そして、最後に、サヴァン症候群(Savant Syndrome)を含む高機能性自閉症(High Functional Autism)である。
【0003】
成長する子どもは、一般的に人々を凝視したり声に注目したり指を握りしめたり笑いを見せるなどの社会的活動を示す。しなしながら、自閉症状のある子どもは、顔を向かい合うのを嫌いで、人間社会の相互作用を理解することに多大な困難を経験する。コミュニケーションと関連しては、一般的な子どもが初めての誕生日頃に単語を話し、自分の名前を呼ぶと反応し、おもちゃを望めば指で指すなどの行動をする反面、自閉症状のある子どもは、コミュニケーションの発達において異なる道を選択する。一部の子どもは、読み書きの能力が十分であるにも関わらず、一生の間寡黙であり、代わりとして、彼らは、他の方法、すなわち図や受話などの方法を好む。
【0004】
自閉症の原因と関連して、初期には、後天的に発生すると見る学説もあったが、現在は、先天的原因により発病すると見ることが支配的である。たいてい脳構造の異常、遺伝的欠陥、そして神経伝達物質の異常が原因として指摘されている。また、子供が、飲酒が好きな妊娠状態の妊婦から悪影響を受ける胎児アルコール症候群も原因として指摘されることもあった。しかしながら、未だ正確な原因因子については、論議がある。
【0005】
微生物叢(microbiotaあるいは、microbiome)は、与えられた居住地に存在する細菌(bacteria)、古細菌(archaea)、真核生物(eukarya)を含む微生物群集(microbial community)を言い、腸内微生物叢は、ヒトの生理現象に重要な役割をし、人体細胞と相互作用を通じてヒトの健康と病気に大きい影響を及ぼすものと知られている。人体に共生する細菌は、他の細胞への遺伝子、タンパク質などの情報を交換するために、ナノメートルサイズの小胞(vesicle)を分泌する。粘膜は、200ナノメートル(nm)サイズ以上の粒子は通過できない物理的な防御膜を形成する。粘膜に共生する細菌である場合には、粘膜を通過しないが、細菌由来小胞は、サイズが略100ナノメートルサイズ以下であるので、比較的自由に粘膜を通過して人体に吸収される。
【0006】
環境ゲノミクスとも呼ばれるメタゲノム学は、環境で採取したサンプルから得られたメタゲノム資料に対する分析学と言える(韓国特許公開第2011-0073049号)。最近、16sリボソームRNA(16s rRNA)塩基配列を基盤とした方法でヒトの微生物叢の細菌構成をリスト化することが可能になり、16sリボソームRNAの遺伝子である16s rDNA塩基配列を次世代塩基配列分析(next generation sequencing、NGS)プラットフォームを利用して分析する。しかしながら、自閉症の発病において、尿などの人体由来物から細菌由来小胞に存在するメタゲノム分析を通して自閉症の原因因子を同定し、自閉症を予測する方法については報告されたことがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、自閉症の原因因子および発病危険度をあらかじめ診断するために、正常ヒトおよび被検者由来サンプルである尿に存在する細菌由来細胞外小胞から遺伝子を抽出し、これに対してメタゲノム分析を行い、その結果、自閉症の原因因子として作用できる細菌由来細胞外小胞を同定したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0008】
これより、本発明は、細菌由来細胞外小胞に対するメタゲノム分析を通して自閉症を診断するための情報提供方法、自閉症の診断方法、および自閉症の発病危険度の予測方法などを提供することを目的とする。
【0009】
しかしながら、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、下記の段階を含む、自閉症の診断のための情報提供方法を提供する:
(a)正常ヒトおよび被検者サンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して配列番号1および配列番号2のプライマーペアを利用してPCR(polymerase chain reaction)を行う段階;および
(c)前記PCR産物の配列分析を通して正常ヒト由来サンプルと細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較する段階。
【0011】
また、本発明は、下記の段階を含む、自閉症の診断方法を提供する:
(a)正常ヒトおよび被検者サンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して配列番号1および配列番号2のプライマーペアを利用してPCRを行う段階;および
(c)前記PCR産物の配列分析を通して正常ヒト由来サンプルと細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較する段階。
【0012】
また、本発明は、下記の段階を含む、自閉症の発病危険度の予測方法を提供する:
【0013】
(a)正常ヒトおよび被検者サンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して配列番号1および配列番号2のプライマーペアを利用してPCRを行う段階;および
(c)前記PCR産物の配列分析を通して正常ヒト由来サンプルと細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較する段階。
【0014】
本発明の一具現例において、前記正常ヒトおよび被検者サンプルは、尿であり得る。
【0015】
本発明の他の具現例において、前記段階(c)でアルマティモナス門(Armatimonadetes)およびサーミ(Thermi)よりなる群から選ばれる1種以上の門(phylum)細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較することができる。
【0016】
本発明のさらに他の具現例において、前記段階(c)でフィンブリイモナディア(Fimbriimonadia)、アルファプロテオバクテリア(Alphaproteobacteria)、およびデイノコッキ(Deinococci)よりなる群から選ばれる1種以上の綱(class)細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較することができる。
【0017】
本発明のさらに他の具現例において、前記段階(c)でフィンブリイモナダレス(Fimbriimonadales)、リゾビウム目(Rhizobiales)、スフィンゴモナダレス(Sphingomonadales)、およびデスルフォビブリオナレス(Desulfovibrionales)よりなる群から選ばれる1種以上の目(order)細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較することができる。
【0018】
本発明のさらに他の具現例において、前記段階(c)でフィンブリイモナダシエ(Fimbriimonadaceae)、リゾビアシエ(Rhizobiaceae)、アルカリゲナシエ(Alcaligenaceae)、スフィンゴモナダシエ(Sphingomonadaceae)、およびデスルフォビブリオナシエ(Desulfovibrionaceae)よりなる群から選ばれる1種以上の科(family)細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較することができる。
【0019】
本発明のさらに他の具現例において、前記段階(c)でフィンブリイモナス(Fimbriimonas)、アクロモバクター(Achromobacter)、ロセアテレス(Roseateles)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、スフィンゴモナス(Sphingomonas)、コクリア(Kocuria)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrio)、ハロモナス(Halomonas)、およびジョトガリコッカス(Jeotgalicoccus)よりなる群から選ばれる1種以上の属(genus)細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較することができる。
【0020】
本発明のさらに他の具現例において、前記段階(c)で、アルマティモナス門(Armatimonadetes)およびサーミ(Thermi)よりなる群から選ばれる1種以上の門(phylum)細菌由来細胞外小胞、
フィンブリイモナディア(Fimbriimonadia)、アルファプロテオバクテリア(Alphaproteobacteria)、およびデイノコッキ(Deinococci)よりなる群から選ばれる1種以上の綱(class)細菌由来細胞外小胞、
フィンブリイモナダレス(Fimbriimonadales)、リゾビウム目(Rhizobiales)、スフィンゴモナダレス(Sphingomonadales)、およびデスルフォビブリオナレス(Desulfovibrionales)よりなる群から選ばれる1種以上の目(order)細菌由来細胞外小胞、
フィンブリイモナダシエ(Fimbriimonadaceae)、リゾビアシエ(Rhizobiaceae)、アルカリゲナシエ(Alcaligenaceae)、スフィンゴモナダシエ(Sphingomonadaceae)、およびデスルフォビブリオナシエ(Desulfovibrionaceae)よりなる群から選ばれる1種以上の科(family)細菌由来細胞外小胞、または、
フィンブリイモナス(Fimbriimonas)、アクロモバクター(Achromobacter)、ロセアテレス(Roseateles)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、スフィンゴモナス(Sphingomonas)、コクリア(Kocuria)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrio)、ハロモナス(Halomonas)、およびジョトガリコッカス(Jeotgalicoccus)よりなる群から選ばれる1種以上の属(genus)細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較することができる。
【0021】
本発明のさらに他の具現例において、前記段階(c)で、正常ヒト由来サンプルと比較して、
サーミ(Thermi)門(phylum)細菌由来細胞外小胞、
デイノコッキ(Deinococci)綱(class)細菌由来細胞外小胞、
デスルフォビブリオナレス(Desulfovibrionales)目(order)細菌由来細胞外小胞、
デスルフォビブリオナシエ(Desulfovibrionaceae)科(family)細菌由来細胞外小胞、または、
コクリア(Kocuria)、デスルフォビブリオ(Desulfovibrio)、ハロモナス(Halomonas)、およびジョトガリコッカス(Jeotgalicoccus)よりなる群から選ばれる1種以上の属(genus)細菌由来細胞外小胞の含量が増加している場合、自閉症と診断することができる。
【0022】
本発明のさらに他の具現例において、前記段階(c)で、正常ヒト由来サンプルと比較して、
アルマティモナデテス(Armatimonadetes)門(phylum)細菌由来細胞外小胞、
フィンブリイモナディア(Fimbriimonadia)、およびアルファプロテオバクテリア(Alphaproteobacteria)よりなる群から選ばれる1種以上の綱(class)細菌由来細胞外小胞、
フィンブリイモナダレス(Fimbriimonadales)、リゾビウム目(Rhizobiales)、およびスフィンゴモナダレス(Sphingomonadales)よりなる群から選ばれる1種以上の目(order)細菌由来細胞外小胞、
フィンブリイモナダシエ(Fimbriimonadaceae)、リゾビアシエ(Rhizobiaceae)、アルカリゲナシエ(Alcaligenaceae)、およびスフィンゴモナダシエ(Sphingomonadaceae)よりなる群から選ばれる1種以上の科(family)細菌由来細胞外小胞、または、
フィンブリイモナス(Fimbriimonas)、アクロモバクター(Achromobacter)、ロセアテレス(Roseateles)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、およびスフィンゴモナス(Sphingomonas)よりなる群から選ばれる1種以上の属(genus)細菌由来細胞外小胞の含量が減少している場合、自閉症と診断することができる。
【発明の効果】
【0023】
環境に存在する細菌、古細菌などの微生物から分泌される細胞外小胞は、体内に吸収されて炎症の発生に直接的な影響を及ぼすことができ、炎症反応を特徴とする自閉症は、症状が現れる前に早期診断が難しいため、効率的な治療が困難であるのが現状である。これより、本発明による人体由来サンプルを利用した細菌由来細胞外小胞のメタゲノム分析を通して自閉症の発病危険度をあらかじめ診断することによって、自閉症の危険群を早期に診断および予測可能であり、また、適切な管理により発病時期を遅らせたり発病を予防したりすることができる。これに加えて、発病後にも早期診断することができるので、自閉症の発病率を低減し、治療効果を高めることができると共に、自閉症と診断された患者においてメタゲノム分析を通して原因因子の露出を避けることによって、病気の経過を良くしたり、再発を防止することができるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1a】
図1aは、マウスに腸内細菌と細菌由来小胞(EV)を口腔で投与した後、時間別に細菌と小胞の分布様相を撮影した写真であり、
図1bは、口腔で投与した後12時間目に、尿および様々な臓器を摘出して、細菌と小胞の体内分布様相を評価した図である。
【
図2】
図2は、自閉症患者および正常ヒトの尿から細菌由来小胞を分離した後、メタゲノム分析を行って、門(phylum)レベルで診断的性能が有意な細菌由来小胞(EVs)の分布を示した結果である。
【
図3】
図3は、自閉症患者および正常ヒトの尿から細菌由来小胞を分離した後、メタゲノム分析を行って、綱(class)レベルで診断的性能が有意な細菌由来小胞(EVs)の分布を示した結果である。
【
図4】
図4は、自閉症患者および正常ヒトの尿から細菌由来小胞を分離した後、メタゲノム分析を行って、目(order)レベルで診断的性能が有意な細菌由来小胞(EVs)の分布を示した結果である。
【
図5】
図5は、自閉症患者および正常ヒトの尿から細菌由来小胞を分離した後、メタゲノム分析を行って、科(family)レベルで診断的性能が有意な細菌由来小胞(EVs)の分布を示した結果である。
【
図6】
図6は、自閉症患者および正常ヒトの尿から細菌由来小胞を分離した後、メタゲノム分析を行って、属(genus)レベルで診断的性能が有意な細菌由来小胞(EVs)の分布を示した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、細菌メタゲノム分析を通して自閉症を診断する方法に関し、本発明者らは、正常ヒトおよび被検者由来サンプルを利用して細菌由来細胞外小胞から遺伝子を抽出し、これに対してメタゲノム分析を行い、自閉症の原因因子として作用できる細菌由来細胞外小胞を同定した。
【0026】
これにより、本発明は、(a)正常ヒトおよび被検者サンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して配列番号1および配列番号2のプライマーペアを利用してPCRを行う段階;および
(c)前記PCR産物の配列分析を通して正常ヒト由来サンプルと細菌由来細胞外小胞の含量増減を比較する段階を含む自閉症を診断するための情報提供方法を提供する。
【0027】
本発明において使用される用語「自閉症の診断」とは、患者に対して自閉症が発病する可能性があるか、自閉症が発病する可能性が相対的に高いか、または自閉症がすでに発病したか否かを判別することを意味する。本発明の方法は、任意の特定患者に対する自閉症の発病危険度が高い患者にとって特別かつ適切な管理を通じて発病時期を遅らせたり発病しないようにするのに使用することができる。また、本発明の方法は、自閉症を早期に診断して、最も適切な治療方式を選択することによって、治療を決定するために臨床的に使用することができる。
【0028】
本発明において使用される用語「メタゲノム(metagenome)」とは、「群遺伝体」とも言い、土、動物の腸など孤立した地域内のすべてのウイルス、細菌、カビなどを含む遺伝体の総和を意味するものであって、主に培養にならない微生物を分析するために、配列分析器を使用して一度に多くの微生物を同定することを説明する遺伝体の概念に使用される。特に、メタゲノムは、一種のゲノムまたは遺伝体をいうものではなく、一つの環境単位のすべての種の遺伝体であって、一種の混合遺伝体をいう。これは、オミックス的に生物学が発展する過程で一種を定義するとき、機能的に既存の一種だけでなく、多様な種が互いに相互作用して完全な種を作るという観点から出た用語である。技術的には、速い配列分析法を利用して、種に関係なく、すべてのDNA、RNAを分析して、一つの環境内でのすべての種を同定し、相互作用、代謝作用を糾明する技法の対象である。本発明では、好ましくは血清から分離した細菌由来細胞外小胞を利用してメタゲノム分析を実施した。
本発明において、前記正常ヒトおよび被検者サンプルは、尿であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0029】
本発明の実施例では、前記細菌由来細胞外小胞に対するメタゲノム分析を実施し、門(phylum)、綱(class)、目(order)、科(family)、および属(genus)レベルでそれぞれ分析して、実際に自閉症の発生原因として作用できる細菌由来小胞を同定した。
【0030】
より具体的に、本発明の一実施例では、被検者由来尿サンプルに存在する小胞に対して細菌メタゲノムを門レベルで分析した結果、ArmatimonadetesおよびThermi門細菌由来細胞外小胞の含量が自閉症患者と正常ヒトとの間に有意な差異があった(実施例4参照)。
【0031】
より具体的に、本発明の一実施例では、被検者由来尿サンプルに存在する小胞に対して細菌メタゲノムを綱レベルで分析した結果、Fimbriimonadia、Alphaproteobacteria、およびDeinococci綱細菌由来細胞外小胞の含量が自閉症患者と正常ヒトとの間に有意な差異があった(実施例4参照)。
【0032】
より具体的に、本発明の一実施例では、被検者由来尿サンプルに存在する小胞に対して細菌メタゲノムを目レベルで分析した結果、Fimbriimonadales、Rhizobiales、Sphingomonadales、およびDesulfovibrionales目細菌由来細胞外小胞の含量が自閉症患者と正常ヒトとの間に有意な差異があった(実施例4参照)。
【0033】
より具体的に、本発明の一実施例では、被検者由来尿サンプルに存在する小胞に対して細菌メタゲノムを科レベルで分析した結果、Fimbriimonadaceae、Rhizobiaceae、Alcaligenaceae,Sphingomonadaceae、およびDesulfovibrionaceae科細菌由来細胞外小胞の含量が自閉症患者と正常ヒトとの間に有意な差異があった(実施例4参照)。
【0034】
より具体的に、本発明の一実施例では、被検者由来尿サンプルに存在する小胞に対して細菌メタゲノムを属レベルで分析した結果、Fimbriimonas、Achromobacter、Roseateles、Agrobacterium、Sphingomonas、Kocuria、Desulfovibrio、Halomonas、およびJeotgalicoccus属細菌由来細胞外小胞の含量が自閉症患者と正常ヒトとの間に有意な差異があった(実施例4参照)。
【0035】
前記実施例の結果を通じて前記同定された細菌由来細胞外小胞の分布変数が自閉症の発生の予測に有用に利用され得ることを確認した。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0037】
[実施例1.腸内細菌および細菌由来小胞の体内吸収、分布、および排泄様相の分析]
腸内細菌と細菌由来小胞が胃腸管を介して全身的に吸収されるかを評価するために、次のような方法で実験を行った。マウスの胃腸に蛍光で標識した腸内細菌と腸内細菌由来小胞をそれぞれ50μgの用量で胃腸管に投与し、0分、5分、3時間、6時間、12時間後に蛍光を測定した。マウス全体イメージを観察した結果、
図1aに示されたように、前記細菌(Bacteria)である場合には、全身的に吸収されないが、細菌由来小胞(EV)である場合には、投与後5分に全身的に吸収され、投与3時間後には、膀胱に蛍光が濃く観察されて、小胞が泌尿器系に排泄されることが分かった。また、小胞は、投与12時間まで体内に存在することが分かった。
【0038】
腸内細菌と腸内細菌由来小胞が全身的に吸収された後、様々な臓器に浸潤された様子を評価するために、蛍光で標識した50μgの細菌と細菌由来小胞を前記の方法のように投与した後、12時間目にマウスから血液(Blood)、心臓(Heart)、肺(Lung)、肝(Liver)、腎臓(Kidney)、脾臓(Spleen)、脂肪組織(Adipose tissue)、および筋肉(Muscle)を摘出した。前記摘出した組織で蛍光を観察した結果、
図1bに示されるように、前記腸内細菌(Bacteria)は、各臓器に吸収されていない反面、前記腸内細菌由来細胞外小胞(EV)は、尿、心臓、肺、肝、腎臓、脾臓、脂肪組織、および筋肉に分布することを確認した。
【0039】
[実施例2.尿から小胞の分離およびDNA抽出]
尿から小胞を分離し、DNAを抽出するために、まず、10mlチューブに尿を入れ、遠心分離(3,500×g、10分、4℃)を実施して浮遊物を沈めて上澄み液だけを回収した後、新しい10mlチューブに移した。0.22μmフィルターを使用して前記回収した上澄み液から細菌および異物を除去した後、セントリプレップチューブ(centrifugal filters 50kD)に移し、1,500×g、4℃で15分間遠心分離して、50kDより小さい物質は捨て、10mlまで濃縮させた。再び0.22μmフィルターを使用してバクテリアおよび異物を除去した後、Type 90tiローターで150,000×g、4℃で3時間の間超高速遠心分離方法を使用して上澄み液を捨て、固まったペレットを生理食塩水(PBS)で溶かして小胞を得た。
【0040】
前記方法により尿から分離した小胞100μlを100℃で沸かして、内部のDNAを脂質外に出るようにした後、5分間氷冷した。次に、残った浮遊物を除去するために、10,000×g、4℃で30分間遠心分離し、上澄み液だけを集めた後、Nanodropを利用してDNA量を定量した。以後、前記抽出されたDNAに細菌由来DNAが存在するかを確認するために、下記表1に示した16s rDNA primerでPCRを行って、前記抽出された遺伝子に細菌由来遺伝子が存在することを確認した。
【0041】
【0042】
[実施例3.尿から抽出したDNAを利用したメタゲノム分析]
実施例2の方法で遺伝子を抽出した後、表1に示した16S rDNAプライマーを使用してPCRを実施して遺伝子を増幅させ、シーケンシング(Illumina MiSeq sequencer)を行った。結果をStandard Flowgram Format(SFF)ファイルで出力し、GS FLX software(v2.9)を利用してSFFファイルをsequenceファイル(.fasta)とnucleotide quality scoreファイルに変換した後、リードの信用度評価を確認し、window(20bps)平均base call accuracyが99%未満(Phred score<20)である部分を除去した。質が低い部分を除去した後、リードの長さが300bps以上であるものだけを利用し(Sickle version 1.33)、結果分析のためにOperational Taxonomy Unit(OTU)は、UCLUSTとUSEARCHを利用してシークエンス類似度によってクラスタリングを行った。具体的に、属(genus)は94%、科(family)は90%、目(order)は85%、綱(class)は80%、門(phylum)は75%シークエンス類似度を基準としてクラスタリングを行い、各OTUの門、綱、目、科、属レベルの分類を行い、BLASTNとGreenGenesの16S DNAシークエンスデータベース(108,453シークエンス)を利用して97%以上のシークエンス類似度を有するバクテリアを分析した(QIIME)。
【0043】
[実施例4.尿から分離した細菌由来小胞メタゲノム分析基盤自閉症の診断モデル]
実施例3の方法で、自閉症患者20人と年齢と性別をマッチングした正常ヒト28人の尿から小胞を分離した後、メタゲノムシーケンシングを行った。診断モデルの開発は、まず、t-testで二つの群間のp値が0.05以下であり、二つの群間に2倍以上違いが生じる菌株を選定した後、logistic regression analysis法で診断的性能指標であるAUC(area under curve)、正確度、敏感度、および特異度を算出した。
【0044】
尿内細菌由来小胞を門(phylum)レベルで分析した結果、ArmatimonadetesおよびThermi門細菌バイオマーカーにて診断モデルを開発したとき、自閉症に対する診断的性能が有意に現れた(表2および
図2参照)。
【0045】
【0046】
尿内細菌由来小胞を綱(class)レベルで分析した結果、Fimbriimonadia、Alphaproteobacteria、およびDeinococci綱細菌バイオマーカーにて診断モデルを開発した時、自閉症に対する診断的性能が有意に現れた(表3および
図3参照)。
【0047】
【0048】
尿内細菌由来小胞を目(order)レベルで分析した結果、Fimbriimonadales、Rhizobiales、Sphingomonadales、およびDesulfovibrionales目細菌バイオマーカーにて診断モデルを開発したとき、自閉症に対する診断的性能が有意に現れた(表4および
図4参照)。
【0049】
【0050】
内細菌由来小胞を科(family)レベルで分析した結果、Fimbriimonadaceae、Rhizobiaceae、Alcaligenaceae、Sphingomonadaceae、およびDesulfovibrionaceae科細菌バイオマーカーにて診断モデルを開発したとき、自閉症に対する診断的性能が有意に現れた(表5および
図5参照)。
【0051】
【0052】
尿内細菌由来小胞を属(genus)レベルで分析した結果、Fimbriimonas、Achromobacter、Roseateles、Agrobacterium、Sphingomonas、Kocuria、Desulfovibrio,Halomonas,およびJeotgalicoccus属細菌バイオマーカーにて診断モデルを開発したとき、自閉症に対する診断的性能が有意に現れた(表6および
図6参照)。
【0053】
【0054】
上記に記述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明による細菌メタゲノム分析を通して自閉症の診断に関する情報を提供する方法は、正常ヒトおよび被検者由来サンプルを利用して細菌メタゲノム分析を行って、特定細菌由来細胞外小胞の含量増減を分析することによって、自閉症の発病危険度を予測し、自閉症を診断するのに利用することができる。
【配列表】