(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】樹脂成型体の分解処理液
(51)【国際特許分類】
C08J 11/10 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
(21)【出願番号】P 2020167025
(22)【出願日】2020-10-01
(62)【分割の表示】P 2019520768の分割
【原出願日】2018-04-27
【審査請求日】2020-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】519135378
【氏名又は名称】ピーライフ・ジャパン・インク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110434
【氏名又は名称】佐藤 勝
(72)【発明者】
【氏名】冨山 績
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス プレシアード クラウディオ アウグスト
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表平8-509750(JP,A)
【文献】特表2002-542313(JP,A)
【文献】特開2002-235013(JP,A)
【文献】特開2014-198331(JP,A)
【文献】特開2005-068313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00
C08J 7/00
Japio-GPG/FX
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主原料とする樹脂成型体を分解処理する際に、塗布、散布、噴霧、又は浸漬の何れかの手法により前記樹脂成型体に付着される樹脂成型体の分解処理液であって、
該分解処理液はオレイン酸マンガン及びオレイン酸セリウムを含むことを特徴とする樹脂成型体の分解処理液。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂成型体の分解処理液であって、前記オレイン酸マンガン及びオレイン酸セリウムを含むオレイン酸液を希釈していることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液。
【請求項3】
請求項1記載の樹脂成型体の分解処理液であって、前記オレイン酸マンガン及びオレイン酸セリウムは石油炭化油を用いて希釈されていることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液。
【請求項4】
請求項2若しくは請求項3記載の樹脂成型体の分解処理液であって、前記オレイン酸マンガン及びオレイン酸セリウムは、終濃度で約10重量パーセント以下に設定されることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液。
【請求項5】
請求項1記載の樹脂成型体の分解処理液は、生分解性材料を含む前記樹脂成型体に付着されることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液。
【請求項6】
請求項1記載の樹脂成型体の分解処理液は、生分解性材料を含まない前記樹脂成型体に付着されることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液。
【請求項7】
請求項1記載の樹脂成型体の分解処理液を成形時に該樹脂成型体に添加すると共に、該樹脂成型体の製造後分解前に塗布、散布、噴霧、又は浸漬の何れかの手法により前記樹脂成型体に前記分解処理液を付着させることを特徴とする樹脂成型体の分解処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成型体の分解処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、フィルム・シート、包装容器、機械用部品といった合成樹脂製品には、機械的強度、耐水性、耐薬品性といった物理的性質の観点から熱可塑性樹脂が好んで用いられている。熱可塑性樹脂の中でも、特に、ポリエチレン、ポリプロピレンといった所謂、オレフィン系樹脂に分類されるこれらの樹脂は、年間樹脂総生産量の約4割以上を占め、農業、水産業等の一次産業、製造業、建設業といった二次産業を問わず各方面において多用されている。
【0003】
例えば、農業用マルチフィルムは、畑の保水、保肥、雑草が生えるのを防止する上で用いられ、ポリエチレンを主原料とするものが多い。農業用マルチフィルムは、その機械的強度、耐水性といった優れた物理的性質から農作物の生育に寄与するものであるが、農作物の収穫が完了し、その目的が達成されると、それらのマルチフィルムは、手作業により農作地から撤去しなくてはならず、高齢化が進む農業従事者においては、大きな労働負担であり、また、それらのマルチフィルムは、産業廃棄物として有償廃棄されるため、各農家における経済的負担も大きい。廃棄されたマルチフィルムをリサイクルする手法もあるが、大掛かりで高額な装置が必要であること、更には、土などの成分を全て洗浄することは困難なため、再度、農業用のマルチフィルムへのリサイクルはできていないのが現状である。また、回収し焼却処分したとしても、マルチフィルムに付着した不純物等により有害な煙が発生するリスクも大きい。そこで、農作物の収穫後は、速やかに自然環境中で分解されるマルチフィルムへの要求は、非常に大きいのは明白である。
【0004】
このような状況を鑑みて、例えば、特許文献1には、不要になった日用品、家具等あるいはあらゆる分野における合成樹脂製品を土中への埋め込みあるいは焼却処分する等公害発生、環境破壊の元となる処分手段をとらずとも、毒性、危険性物質を生ずることなく分解することが可能である合成樹脂製品の製造方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術は、製品製造工程において合成樹脂材に合成樹脂材分解成分を添加して合成樹脂製品を成形するものである。合成樹脂材分解成分は、熱可塑性樹脂に対する直接的生分解成分と、酸化可能成分と、遷移金属成分と、非金属安定化成分とからなるものであるとされ、当該熱可塑性樹脂の分解開始は、ヒンダードフェノールからなる非金属安定化成分によってコントロールされている。
【0007】
しかしながら、熱可塑性樹脂の分解過程の開始を遅延させる非金属安定化成分は製品製造工程において添加されるものであり、熱可塑性樹脂の分解開始時期を厳密に制御することは困難である。また、合成樹脂材分解成分として直接的生分解性成分と、酸化可能成分と、遷移金属成分と、非金属安定化成分とを熱可塑性樹脂に添加する必要があるため、成型加工が困難であるとともに、本来熱可塑性樹脂が奏する機械的強度、耐水性、耐薬品性が低下する恐れもある。
【0008】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであり、本発明は、熱可塑性樹脂、特に、ポリオレフィン系樹脂を主原料とする樹脂成型体において、製造時の機械的強度、耐水性、耐薬品性を損なうことなく、また、特定の処分手段を取らずとも当該樹脂成型体の分解処理が可能な樹脂成型体の分解処理液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、酸化数が異なる複数の脂肪酸金属塩を含む分解処理液を塗布、散布、噴霧、又は浸漬の何れの手法により樹脂成型体に付着させることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、熱可塑性樹脂を主原料とする樹脂成型体を分解処理する際に、塗布、散布、噴霧、又は浸漬の何れかの手法により前記樹脂成型体に付着される樹脂成型体の分解処理液であって、該分解処理液はオレイン酸マンガン及びオレイン酸セリウムを含むことを特徴とする樹脂成型体の分解処理液が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記オレイン酸マンガン及びオレイン酸セリウムを含むオレイン酸液を希釈していることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記オレイン酸マンガン及びオレイン酸セリウムは石油炭化油を用いて希釈されていることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第2または3の発明の何れかにおいて、前記オレイン酸マンガン及びオレイン酸セリウムは、終濃度で約10重量パーセント以下に設定されることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、生分解性材料を含む前記樹脂成型体に付着されることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液が提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、生分解性材料を含まない前記樹脂成型体に付着されることを特徴とする樹脂成型体の分解処理液が提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明にかかる樹脂成型体の分解処理液を用いて、成形時に該樹脂成型体に添加すると共に、該樹脂成型体の製造後分解前に塗布、散布、噴霧、又は浸漬の何れかの手法により前記樹脂成型体に前記分解処理液を付着させることを特徴とする樹脂成型体の分解処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱可塑性樹脂、特に、ポリオレフィン系樹脂を主原料とする樹脂成型体において、製造時の機械的強度、耐水性、耐薬品性を損なうことなく、また、特定の処分手段を取らずとも当該樹脂成型体の分解処理が可能な樹脂成型体の分解処理液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】分解処理液を塗布したフィルムの外観変化並びに力学特性(引張強度及び引張伸び)試験を説明する図である。
【
図2】分解処理液を塗布したフィルムの外観変化を表す図である。
【
図3】分解処理液を塗布したフィルムの力学特性(引張強度及び引張伸び)試験の試験結果を表すグラフである。
【
図4】分解処理液を塗布した樹脂成型体のフィールド試験の試験結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の樹脂成型体の分解処理液について詳細に説明する。まず、本発明に係る酸化数が異なる複数の脂肪酸金属塩とは、動植物由来の油脂から得られた脂肪酸と酸化数が異なる金属(塩)とが組み合わされた化合物をいい、本発明では、当該脂肪酸金属塩を複数含む分解処理液を塗布、散布、噴霧、又は浸漬の何れかの手法により樹脂成型体の表面に付着させることで当該樹脂成型体を分解処理するものである。本発明に係る分解処理は、以下の2ステップで進行するものと考えられている。
【0020】
ステップ1:太陽光(紫外線)、熱、酸素、又は水等をエネルギー元とし、金属元素の触媒効果により生成した脂肪酸のラジカル成分が樹脂成型体を構成する樹脂の炭素-炭素結合を酸化分解する。これにより、樹脂成型体の物性(強度、伸び)や分子量が低下することになる。
【0021】
ステップ2:ステップ1において形成された酸化低分子化物(例えば、カルボン酸、アルコール類)は、土中やコンポスト環境中の微生物により消化吸収される。最終的には、バイオマスとして微生物の体内に蓄えられると共に、呼吸等の代謝活動により二酸化炭素や水に変化する(微生物分解)。
【0022】
本発明においては上記分解処理液を樹脂成型体に付着させることで、まずは上記ステップ1の分解処理を開始させる。樹脂成型体への分解処理液の付着は、例えば、筋交い刷毛、平刷毛、寸胴刷毛、ローラ、コテ刷毛等を用いた塗布、散布機、エアブラシ、スプレー缶、霧吹き、噴霧機等を用いた散布、噴霧によって行うことができる。また、生産性の向上を図る上で、分解処理液で満たした容器に樹脂成型体を浸漬することによって分解処理液を直接付着させてもかまわない。特に、樹脂成型体がフィルム状やシート状である場合、繰出しローラで繰出した樹脂成型体を容器内の分解処理液に潜らせることにより当該分解処理液を付着させ、巻き取りローラで巻き取ることも無論可能である。
【0023】
ところで、樹脂成型体に対する分解処理液の付着は、樹脂成型体の表面全体に対して行ってもよいし、樹脂成型体の表面の一部分に対してだけ行ってもよい。樹脂成型体表面に対する分解処理液の付着面積を制御することにより、分解処理の完了時間を速めたり、逆に遅くすることができるため、幅広い使用目的での分解性樹脂製品の提供が可能となる。加えて、本発明は、略完成品の樹脂成型体に対して分解処理液を付着させる形態であるため、樹脂成型体本来の機械的強度、耐水性、耐薬品性を損なうことがないという利点も有する。
【0024】
本発明に係る脂肪酸金属塩に含まれる金属元素としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブテン、テクネチウム、ルテニウム、パラジウム、銀、カドミウム等の何れかの遷移金属元素と、例えば、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム等の何れかの希土類金属元素との組み合わせを挙げることができ、塩として存在する際に、酸化数が異なる組み合わせであれば制限はなく、遷移金属元素と希土類金属元素との含有比も任意に設定することが可能である。
【0025】
遷移金属元素と希土類金属元素との好適な組み合わせとして、遷移金属元素がマンガン(酸化数:2価、3価)と希土類金属元素がセリウム(酸化数:3価、4価)との組み合わせを例示することができる。
【0026】
本発明に係る脂肪酸金属塩に含まれる脂肪酸としては、例えば、炭素数が12個以上の長鎖脂肪酸であって、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸である、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデジル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸等を例示することができる。この中でも、反応性・安定性等の観点から不飽和脂肪酸であるオレイン酸を本発明に係る脂肪酸として用いるのが好ましい。
【0027】
また、本発明に係る分解処理液は、例えば、鉱物油、高度生成基油、高粘度指数基油、化学合成油といった石油炭化油を用い所定の希釈率で希釈した上で樹脂成型体に塗布、散布、噴霧、又は浸漬の何れかの手法により付着させるのが好ましい。この中でも、特に、鉱物油である流動パラフィンを用い、脂肪酸金属塩のそれぞれが終濃度で約10重量%以下、好ましくは5.5重量%以下となるように希釈することで、ムラなく均一に分解処理液を樹脂成型体に付着させることができる。また、脂肪酸金属塩に含まれる脂肪酸が飽和脂肪酸の場合であっても、石油炭化油を用いて希釈することが可能である。
【0028】
本発明に係る樹脂成型体を形成する樹脂については、特に制限はないが、好適な例として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、アクリル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、AS樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、特に、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン、プロピレンホモポリマー、プロピレンランダムポリマー、プロピレンブロックポリマー等のポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソブレン及びこれらの水素添加物等のジエン系エラストマー等のオレフィン系樹脂が好適である。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用することも可能である。
【0030】
また、本発明に係る樹脂成型体の形状についても特に制限はなく、例えば、シート状、フィルム状、ブロック状、ペレット状、繊維状等の何れか形状であってもよく、その成形方法としては、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、インフレーション成形といった樹脂成型体の形状に適した各成形方法を採用することができる。所定の形状に成形した樹脂成型体に対して、酸化数が異なる複数の脂肪酸金属塩を含む分解処理液を塗布、散布、噴霧、又は浸漬の何れの手法により付着させることで、例えば、フィルム・シート、容器類、機械用部品、パイプ、建材、日用品・雑貨、発泡製品、具体的には、農業用マルチフィルム、使い捨てオムツ、商品持ち帰り用袋、商品包装用袋、野菜用袋、食品用トレイ、飲料用カップ、ゴミ袋、土木用植生ネット、排水用プラスチックドレーン材、エアガン用BB弾、ハト風船、樹木保護材、菌類・植物栽培用袋といった各種の分解性樹脂製品としての使用が可能となる。
【0031】
なお、本発明は、樹脂成型体の製造時に添加される従来の分解処理剤と同様な使用方法を否定するものではない。すなわち、本発明では、樹脂成型体の成形時に分解処理液を添加することで当該分解処理液の成分を予め樹脂成型体に含ませることも無論可能である。この場合、製造時における樹脂成型体の機械的強度、耐水性、耐薬品性を損なわないような少量の分解処理液の添加が望ましい。このように、予め樹脂成型体に本願発明に係る分解処理液の成分を含ませておくことで、製造後付着させる分解処理液との相乗的な分解効果を期待することができる。
【0032】
[実施例]
本発明に係る樹脂成型体の分解処理液による分解効果を検証するため以下に示す試験を行った。
(1)分解処理液塗布後の樹脂成型体の外観観察及び力学特性試験
シェルストーンMB80(株式会社バイオポリ上越製:CaCo3成分80重量%、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)コンパウンド)、既存デンプンバイオマス樹脂(米デンプン率70重量%)及び成形用希釈LLDPEを任意の割合でブレンドし、インフレーション成形により得られた樹脂成型体としてのフィルムに対し、脂肪酸金属塩として、(A)オレイン酸マンガン(30~40重量%)、(B)オレイン酸セリウム(10~20重量%)を含むオレイン酸液を流動パラフィンで各脂肪酸金属塩の終濃度が約5.5重量%となるように希釈した分解処理液をフィルム表面に塗布した後、遮光、80℃に維持した恒温乾燥機内に静置して経時変化における、フィルム外観並びに力学特性(引張強度及び引張伸び)を観察した。
図1(a)は、観察用の枠付サンプルシートを表し、
図1(b)は分解処理液が塗布された力学特性試験片セットを表している。なお、
図1(a)において、図中左側枠内のみに分解処理液が塗布されており、図中右側枠内には分解処理液は塗布されていない。
【0033】
表1は、本試験で用いたサンプルの組成と試験前の力学特性試験結果とをまとめたものである。
【表1】
【0034】
今回の試験においては、サンプル#1(無機物成分:CaCo310重量%、有機物成分:米デンプン0重量%)、サンプル#2(無機物成分:CaCo320重量%、有機物成分:米デンプン0重量%)、サンプル#3(無機物成分:CaCo310重量%、有機物成分:米デンプン10重量%)の3種を準備した。各サンプルの試験前の力学特性(引張強度及び引張伸び)の値は表1に示した通りである。
【0035】
なお、今回の力学特性試験は、JIS Z1702 1種Bに準じ、引張強度規格値:≧170kgf/cm2、引張伸び規格値:≧250%とした。
【0036】
図2は、サンプル(#1~#3)毎のフィルム表面劣化の経時変化を示している。
図2に示されるように、いずれのサンプルにおいても、試験開始後1日後から僅かではあるが、フィルム表面の劣化が進行しているのが分かる。そして、試験開始後28日目においては、劣化範囲がフィルム表面の略全域に亘り広がっているのが確認された(特に、サンプル#3)。サンプル#3は、有機物成分として米デンプンが10重量%含まれているため、分解処理液による酸化分解に加え、アミロース等の生分解性材料の加水分解も促進されたため、劣化範囲が拡大したものと考えられる。また、サンプル#1の観察結果からも明らかなように、サンプル#3のように、アミロース等の生分解性材料を含まなくとも、確実にフィルム表面の劣化が進行していることから、本発明に係る樹脂成型体の分解処理方法は有用であることが確認された。
【0037】
図3(a)は、サンプル(#1~#3)毎の引張強度の経時変化を表すグラフであり、
図3(b)は、サンプル(#1~#3)毎の引張伸びの経時変化を表すグラフである。遮光、80℃に維持した恒温下での力学特性試験においては、
図3(a)及び
図3(b)の1-A、2-A、3-Aのそれぞれの点線で示されるように、試験開始3日目にはそれぞれの数値がJIS規格値よりも大きく下回る結果となった。実際に、試験開始後1週間目における分解処理液塗布サンプルは、力学特性を試験する際に
図1(b)で示した各試験紙が治具に取り付け不可能な程、脆性となっており、
図1(a)又は
図2で示したように、フィルム表面も収縮による裂けが確実に目立つようになった。
【0038】
なお、官能的(感触)な脆性は試験開始後24時間で既に明からであり、この条件下における分解処理液の塗布による熱劣化(酸化)分解促進性が短時間で生じることを意味している。
【0039】
(2)分解処理液を塗布した樹脂成型体のフィールド試験
上記試験(1)と同様に、脂肪酸金属塩として、(A)オレイン酸マンガン(30~40重量%)、(B)オレイン酸セリウム(10~20重量%)を含むオレイン酸液を流動パラフィンで各脂肪酸金属塩の終濃度が約5.5重量%となるように希釈した分解処理液を塗布したHDPE(高密度ポリエチレン)及びLDPE(低密度ポリエチレン)フィルムのそれぞれを実際の土壌雰囲気下で展張し、当該ポリエチレンフィルムの分解がなされるか否かを確認した。
【0040】
フィールド試験の結果、分解処理液を塗布していないコントロールのポリエチレンフィルムについては、別途、紫外線照射、熱付与等の分解促進手段を講じても10日間その形態に変化は見受けられなかった。
【0041】
これに対して、分解処理液を塗布したポリエチレンフィルムについては、
図4(a)のHDPEフィルム、
図4(b)のLDPEフィルムの試験結果で示されるように、試験開始後2日間でバラバラの状態となり、本発明に係る樹脂成型体の分解処理方法の有用性が確認された。
【0042】
以上の結果より、本発明によれば、熱可塑性樹脂、特に、ポリオレフィン系樹脂を主原料とする樹脂成型体において、製造時の機械的強度、耐水性、耐薬品性を損なうことなく、また、特定の処分手段を取らずとも当該樹脂成型体の分解処理が可能な樹脂成型体の分解処理液及び分解処理方法を提供することができる。
【0043】
また、本発明は、略完成品の樹脂成型体に対して分解処理液を付着させる形態であるため、分解性樹脂製品の製造プロセスの簡易化が可能であるとともに、製造コストも抑えることができる。さらに、樹脂成型体表面に対する分解処理液の付着面積や、分解処理液における脂肪酸金属塩の含有濃度を調整することにより、分解処理の完了時間を速めたり、逆に遅くするといった分解速度の制御が容易であることから、幅広い使用目的(分野)での分解性樹脂製品の提供が可能である。