(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】電鉄用回生制御システム
(51)【国際特許分類】
B60M 3/06 20060101AFI20220106BHJP
H02J 7/34 20060101ALI20220106BHJP
H02J 9/06 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B60M3/06 B
H02J7/34 B
H02J7/34 G
H02J9/06 110
(21)【出願番号】P 2017144886
(22)【出願日】2017-07-26
【審査請求日】2020-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】山口 央人
(72)【発明者】
【氏名】朝塲 史朗
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-040127(JP,A)
【文献】特開2004-358984(JP,A)
【文献】特開2015-036280(JP,A)
【文献】特開2013-118786(JP,A)
【文献】特開2011-259517(JP,A)
【文献】特開2008-288109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/00 - 99/00
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H02J 9/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能な複数の蓄電セルを有する第1蓄電部と、
前記第1蓄電部と、電車に駆動電力を供給するき電線と、の間に接続され、前記第1蓄電部の出力電力の電力変換を行う第1電力変換部と、
前記蓄電セルの故障検出および故障した蓄電セルの切り離しを行うとともに、制御信号に基づいて前記第1蓄電部の充放電制御とを行う監視部と、
前記第1蓄電部の出力電力に基づいて、
前記第1蓄電部の出力電力が低下した場合には、前記き電線に供給されるべき目標電力からの不足電力を算出して、前記不足電力に関する情報を含む前記制御信号を前記監視部に送信する制御部と、
前記制御部への電力供給を行うとと
もに、前記き電線への電力供給が
可能である第2蓄電部と、
前記第2蓄電部と第1電力変換部との間に接続され、前記第2蓄電部と前記第1電力変換部との一方から他方に送られる電力の変換を行う第2電力変換部と、
を備え、
前記第2蓄電部は、前記第1蓄電部の出力電力が前記不足電力だけ低下し、かつ前記第2蓄電部が前記不足電力を前記第2電力変換部に供給しても前記制御部を正常動作させる電力を前記制御部に供給できる場合に、前記第2電力変換部に前記不足電力を供給する電鉄用回生制御システム。
【請求項2】
前記第2電力変換部
は、前記第2蓄電部から出力された前記不足電力に応じた電力を変換して、前記第1電力変換部に供給する請求
項1に記載の電鉄用回生制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2蓄電部が前記不足電力を前記第2電力変換部に供給すると前記制御部を正常動作させる電力を前記制御部に供給できない場合には、前記第2蓄電部から前記第2電力変換部への前記不足電力の供給を停止させる請求
項1に記載の電鉄用回生制御システム。
【請求項4】
前記監視部は、前記第1蓄電部の出力電力に前記不足電力が生じた場合でも前記き電線の出力電圧が一定になるように、前記制御信号に基づき、前記第1蓄電部および前記第2蓄電部の出力電力を制御する請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の電鉄用回生制御システム。
【請求項5】
前記第2蓄電部は、系統電力により蓄電可能であり、
前記制御部は、前記系統電力の停電時に、駅間に電車が存在する場合には、前記第1電力変換部から出力された電力に基づいて前記電車を所定の駅に移動させる
請求項1に記載の電鉄用回生制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電鉄用回生制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両の電気ブレーキ時に発生する回生電力を充放電する電鉄用回生制御システムが注目されている。この電鉄用回生制御システムは、発生した回生電力を蓄電池に充電し、鉄道車両の力行時に放電する。これにより、変電所から供給される電力を低減させるとともに、き電線の電圧を安定化させている。また、系統電力の停電時に、畜電池を鉄道車両の非常用走行電源として用いることも可能となる。このような電鉄用回生制御システムに用いられる畜電池は、一般に充放電可能な複数の蓄電セルから構成されている。
【0003】
ところが、一部の畜電セルが故障すると、蓄電池の出力電力が低下するため、電鉄用回生制御システムが正常に機能しなくなってしまう恐れがある。また、停電時には、蓄電池に蓄電された電力を利用して、駅間に停車している鉄道車両を最寄りの駅まで待避させる必要があるが、一部の蓄電セルが故障している場合には、蓄電池に蓄電された電力が不足して、鉄道車両の待避ができないことも起こりえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一部の畜電セルが故障したときにも回生電力を有効利用できる電鉄用回生制御システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る電鉄用回生制御システムは、第1蓄電部と、第1電力変換部と、監視部と、第2蓄電部と、第2電力変換部と、を備える。第1蓄電部は、充放電可能な複数の蓄電セルを有する。第1電力変換部は、第1蓄電部と、電車に駆動電力を供給するき電線と、の間に接続され、第1蓄電部の出力電力の電力変換を行う。監視部は、蓄電セルの故障検出および故障した蓄電セルの切り離しを行うとともに、制御信号に基づいて第1蓄電部の充放電制御とを行う。制御部は、第1蓄電部の出力電力に基づいて、制御信号を監視部に送信する。第2蓄電部は、制御部への電力供給を行うとともに、所定の条件下でき電線への電力供給を行う。第2電力変換部は、第2蓄電部と第1電力変換部との間に接続され、第2蓄電部と第1電力変換部との一方から他方に送られる電力の変換を行う。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る電鉄用回生制御システムの全体の構成を示す図。
【
図2】監視盤又は制御盤に設定されているテーブルの充放電特性の一例を示す図。
【
図3】第2チョッパを駆動状態にし、第2蓄電部からき電線へ電流が供給される状態を模式的に示す図。
【
図4】第2チョッパの駆動を停止し、第2蓄電部からき電線への電流供給を停止している状態を模式的に示す図。
【
図5】第1蓄電部の第1蓄電セルの一部が故障した場合の制御例を示すフローチャート。
【
図6】系統電力が停電した状態の電流の流れを模式的に示す図。
【
図7】第2実施形態に係る電鉄用回生制御システムの制御動作例を示すフローチャート。
【
図8】第1畜電部の第1畜電セルが2つ故障した状態の電流の流れを模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る電鉄用回生制御システム1の全体の構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電鉄用回生制御システム1は、回生電力を充放電可能なシステムであり、第1蓄電部20と、第1チョッパ30と、監視盤50と、第2蓄電部60と、制御盤70と、第2チョッパ80とを、備えて構成されている。
図1の電鉄用回生制御システム1の周辺には、変電所2と、変電所遮断器3を有する変電所設備4と、送電線5と、き電電力変換装置6と、き電線7と、電車8と、配電電力変換装置9とが設けられている。
【0010】
変電所2は、変電所遮断器3などの変電所設備4を介して送電線5に、交流電力からなる系統電力を供給する。変電所遮断器3は、変電所2と送電線5との間の系統電力供給経路を電気的に接続又は遮断する。変電所設備4は、変電所2の配電に関する設備であり、変電所遮断器3や不図示の配電盤などを有する。送電線5は、変電所2から供給される系統電力を送電する。
【0011】
き電電力変換装置6は、送電線5の交流電力を直流電力に変換してき電線7に供給する。このき電電力変換装置6は、例えば、変圧器とダイオード整流器とを組み合わせた回路やPWMコンバータなどである。き電線7の電圧、すなわち、き電電圧は、き電電力変換装置6が通常運転している場合には、例えばDC1500ボルトである。
【0012】
き電線7は、電車8に駆動電力を供給する電力線である。電車8は、き電線7を介して供給される直流電力により駆動される。電車8が減速時に発生した回生電力をき電線7に供給すれば、き電電圧は上昇する。一方で、電車8がき電線7から供給される電力を用いて力行すれば、き電電圧は低下する。
【0013】
配電電力変換装置9は、送電線5の交流電力を直流電力に変換して、変電所設備4と、後述する第2畜電部60及び制御盤70とに供給する。この配電電力変換装置9は、例えば、変圧器及びダイオード整流器を備えており、例えばDC200ボルトの直流電力に変換する。なお、変電所設備4には、変圧器で変圧した交流電圧(例えばAC200ボルト)を供給してもよい。
【0014】
き電線7には、第1蓄電部20が第1チョッパ30を介して接続されている。第1蓄電部20は、後述するように、き電線7の電圧に応じて、電車8の回生電力の発生時に充電を行い、電車8の力行時に放電を行う。より詳細には、第1蓄電部20は、第1蓄電セル22a~22cと、第1セル管理部24a~24cと、第1セル遮断器26a~26cとを有する。第1蓄電セル22a~22cは、例えば600ボルトの基準電圧を有する二次電池である。これら第1蓄電セル22a~22cは、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの蓄電池を直列に接続して構成されている。或いは、第1蓄電セル22a~22cは、複数の蓄電池を直列に接続して構成されたセルを更に並列に接続して構成されている。このように、この第1蓄電部20は、充放電可能な複数の第1蓄電セル22a~22cを有する。
【0015】
第1セル管理部24a~24cは、対応する第1蓄電セル22a~22cの電圧、電流及び温度のいずれかが基準値を超えた場合に、基準値を超えた第1蓄電セル22a~22cの情報を有する故障信号を監視盤50内の第1セル制御部52に出力する。これにより、監視盤50は故障した第1蓄電セルを検知することが可能である。また、第1セル管理部24a~24cは、対応する第1蓄電セル22a~22cの電圧、及び電流の情報を含む状態信号を監視盤50に出力する。
【0016】
第1セル遮断器26a~26cは、第1蓄電セル22a~22cと端子Te2との間を電気的に接続又は遮断する。すなわち、この第1セル遮断器26a~26cは、第1セル制御部52から入力される監視制御信号に基づき、故障信号に対応する第1蓄電セル22a~22cと端子Te2との間を電気的に遮断し、故障した第1蓄電セルを第1蓄電部20から電気的に切り離す。例えば、3つの第1蓄電セル22a~22cが並列接続されている場合に、一つの第1蓄電セルを切り離せば、第1蓄電部20の電力容量は3分の2まで低下する。このように、故障した第1蓄電セル第1蓄電部20から電気的に切り離すと、第1蓄電部20の電力容量は低下する。
【0017】
第1電力変換部として機能する第1チョッパ30は、第1蓄電部20とき電線7との間に接続され、第1蓄電部20の出力電力の電力変換を行う。また、第1チョッパ30は、例えば自己消弧型のスイッチング素子をゲート駆動する昇降圧チョッパ回路であり、監視盤50から入力される監視制御信号に基づきPWM駆動し、第1蓄電セル22a~22cの充放電電流を制御する。また、第1チョッパ30は、監視盤50から入力される監視制御信号に基づき、電力変換を停止する。この場合、き電線7とノード4との間は電気的に遮断される。なお、き電線7と第1チョッパ30との間に遮断器を更に設けてもよい。
【0018】
監視部として機能する監視盤50は、例えばCPU(Central Processing Unit)を有し、第1畜電部20の充放電制御を行う。この監視盤50は、制御盤70からの制御信号に基づいて、第1畜電部20の充放電制御を行う。
【0019】
また、監視盤50は、第1蓄電セル22a~22cを制御する第1セル制御部52を有する。第1セル制御部52は、上述のように、第1セル管理部24a~24cからの故障信号に基づき、故障が生じた第1蓄電セル22a~22cの切り離しを第1セル遮断器26a~26cに行なわせる。このように、監視盤50は、第1蓄電セル22a~22cの故障検出および故障した第1蓄電セル22a~22cの切り離しを行うとともに、制御盤70から入力される制御信号に基づいて第1蓄電部20の充放電制御を行う。
【0020】
さらにまた、監視盤50は、第1チョッパ30を制御し、き電線7とノード4との間を電気的に遮断するか否かを切替制御する。例えば、監視盤50は、変電所2が停電した場合には、電車8を最寄りの駅まで待避させた後に、き電線7とノード4との間を遮断させる制御を行う。これにより、き電線7と第1蓄電部20との間の電力の授受が停止され、第1蓄電部20の放電を防止できる。なお、監視盤50の制御の詳細は、
図2乃至
図5等を参照して後述する。
【0021】
第2蓄電部60は、制御盤70への電力供給を行うとともに、所定の条件下で、き電線7への電力供給を行う。ここで、所定の条件下とは、第1蓄電部20の出力電力が後述する不足電力だけ低下し、かつ第2蓄電部60が不足電力を第2チョッパ80に供給しても制御盤70を正常動作させる電力を制御盤70に供給できる場合である。第2蓄電部60は、逆流防止用のダイオード68を介して、制御盤70及び第2チョッパ80が接続されるノードn2に接続されている。すなわち、第2蓄電部60は、制御盤70への電力供給を行うとともに、第1蓄電部20の出力電力の低下時に、低下した出力電力による不足電力を、第2チョッパ80を介してき電線7側に供給する。また、第2蓄電部60は、配電電力変換装置9から供給される電力により充電され、例えば変電所2の停電時に、制御盤70のバックアップ電源として使用される。
【0022】
第2蓄電部60は、第2蓄電セル62a~62cと、第2セル管理部64a~64cと、第2セル遮断器66a~66cとを有する。このように、第2蓄電部60は、第1蓄電部20とは基準電圧が異なる。すなわち、第2蓄電セル62a~62cは、例えば200ボルトの基準電圧を有する二次電池である。この第2蓄電セル62a~62cは、例えば、鉛電池、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池などの蓄電池を直列に接続して構成されている。
【0023】
第2セル管理部64a~64cは、故障が発生した第2蓄電セル62a~62cの情報を有する故障信号を後述する制御盤70の第2セル制御部72に出力し、第2蓄電セル62a~62cの電圧及び電流の情報を含む状態信号を制御盤70に出力する。第2セル遮断器66a~66cは、第2蓄電セル62a~62cと端子Te4との間を電気的に接続又は遮断する。
【0024】
制御部として機能する制御盤70は、制御信号を監視盤50に送信する。制御盤70は、第1蓄積部20の出力電力が低下した場合には、き電線7に供給されるべき目標電力からの不足電力を算出して、不足電力に関する情報を含む制御信号を監視盤50に送信する。制御盤70は、第2蓄電部60が不足電力を第2チョッパ80に供給しても制御盤70を正常動作させる電力を制御盤70に供給できる場合には、第2蓄電部60から第2チョッパ80に不足電力を供給させる。一方、制御盤70は、第2蓄電部60が不足電力を第2チョッパ80に供給すると制御盤70を正常動作させる電力を制御盤70に供給できない場合には、第2蓄電部60から第2チョッパ80への不足電力の供給を停止させる。より具体的には、制御盤70は、例えばCPUを有し、変電所設備4と、監視盤50と、第2蓄電部60と、第2チョッパ80との制御を行う。例えば制御盤70は、変電所設備4内の変電所遮断器3の遮断及び接続の制御を行う。また、制御盤70は、通常時には配電電力変換装置9から系統電力を供給されている。一方、変電所設備4が停電すると、制御盤70の主電源が系統電力から第2畜電部60に切り切り替えられる。
【0025】
制御盤70は、第2セル制御部72を有している。第2セル制御部72も、第1セル制御部52と同等の構成であり、第2セル管理部64a~64cからの故障信号に応じて、故障が生じた第2蓄電セル62a~62cの切り離しを対応する第2セル遮断器66a~66cに行なわせる。
【0026】
また、制御盤70は、第1蓄電部20の出力電力の低下時に、低下した出力電力による不足電力を算出し、不足電力の情報を含む制御信号を監視盤50に送信する。制御盤70の制御に関する詳細は、
図2乃至
図5などを参照して後述する。
【0027】
第2電力変換部として機能する第2チョッパ80は、第2蓄電部60と第1チョッパ30との間に接続され、第2蓄電部60と第1チョッパ30との一方から他方に送られる電力の変換を行う。第2チョッパ80は、上述した所定の条件下で、第2蓄電部60から出力された不足電力に応じた電力を変換して、第1チョッパ30に供給する。また、第2チョッパ80は、監視盤50または制御盤70からの指示に応じて、第1蓄電部20から出力された電力の少なくとも一部を変換後に第2蓄電部60に供給する。より具体的には、第2チョッパ80は、第2蓄電部60と、ノードn4との間に接続されている。第2チョッパ80は、自己消弧型のスイッチング素子をゲート駆動する昇降圧チョッパ回路であり、制御盤70から入力される制御信号に基づきPWM駆動し、第1畜電部20の出力電流、または第2蓄電部60が出力する不足電流を制御する。また、第2チョッパ80は、制御盤70の制御信号に従い駆動を停止して、ノード2とノード4との間を電気的に遮断する。なお、ノード2とノード4との間に遮断器を更に設けてもよい。
【0028】
以上が本実施形態に係る構成の説明であるが、以下に本実施形態に係る監視盤50及び制御盤70の制御例を詳細に説明する。
【0029】
ここで、
図2を用いて監視盤50又は制御盤70の制御に用いられるテーブルの特性について説明する。監視盤50又は制御盤70は、
図2のテーブルに基づいて、第1蓄電部20又は第2蓄電部60の充放電を制御する。なお、このテーブルは、例えば、不図示の記憶部に記憶されており、監視盤50又は制御盤70は、記憶部に記憶されたテーブルを参照して、き電電圧に対応する第1蓄電部20又は第2蓄電部60の充放電電流を設定する。
図2は、監視盤50又は制御盤70に設定されているテーブルの充放電特性の一例を示す図である。
図2の横軸はき電電圧を示し、縦軸はき電線7への充放電電流を示している。本実施形態においては、テーブルT2とT4は監視盤50および制御盤70に設定されている。一方、テーブルT6、T8は監視盤50に設定されている。
【0030】
まず、テーブルT2の特性について説明する。テーブルT2は、第1蓄電部20の第1蓄電セル22a~22cに故障がない場合に使用される。また、テーブルT2は、第1蓄電部20の第1蓄電セル22a~22cの一部に故障が発生しているが、第2蓄電部60から不足電力が供給される場合にも使用される。
【0031】
図2に示すように、き電電圧が放電開始電圧V1にまで低下すると、き電線7への放電電流が次第に増加する。そして、放電電流が飽和値に達すると、き電線7への放電電流は停止電圧V2まで最大値のまま維持される。この放電開始電圧V1は、電車8の力行によるき電線7の降圧特性に基づき定められており、例えば1450ボルトである。
【0032】
テーブルT2は、制御盤70による不足電力の演算にも使用される。例えば、制御盤70は、テーブルT2を用いて、テーブルT2上の放電電流と第1畜電部20の出力電流との差を、第1蓄電セル22a~22cの故障時の不足電流として演算する。そして、不足電流と第1畜電部20の出力電圧との積を、第1蓄電セル22a~22cの故障時の不足電力として演算する。すなわち、不足電力は、第1蓄電セル22a~22cが故障していない場合の第1畜電部20の出力電力と、故障した第1蓄電セル22a~22cを切り離した場合の第1畜電部20の出力電力との差分を意味する。
【0033】
次に、テーブルT4の特性について説明する。本実施形態に係るテーブルT4は、第1蓄電部20の第1蓄電セル22a~22cの一部に故障が発生し、且つ第2蓄電部60から不足電力の供給が受けられない場合に使用される。ここでは、3つの第1蓄電セル22a~22cの内の1つが故障した場合について説明する。
【0034】
上述のように、3つの第1蓄電セル22a~22cの内の1つが故障すると、第1蓄電部20の蓄電容量は3分の2になる。このため、テーブルT4が示す放電電流の値は、テーブルT2が示す放電電流の値の3分の2に設定されている。すなわち、テーブルT4が示す放電電流の最大値は、テーブルT2が示す最大値の3分の2の値である。これから分かるように、第1蓄電セル22a~22c内の1つを故障により切り離した場合に、切り離されていない第1蓄電セル22a~22c内の充放電電流の値は、第1蓄電部20に故障が生じていない場合の値に維持される。これにより、故障の生じていない第1蓄電セル22a~22cへの過剰な負担が抑制される。
【0035】
また、放電開始電圧V1はテーブルT2と同一である。なお、ここでは、第1蓄電セル22a~22cが一つ故障した場合のテーブルについて説明するが、これに限定されず、第1蓄電セル22a~22cの故障数に応じたテーブルをそれぞれ別個に用意してもよい。例えば、3つの第1蓄電セル22a~22cの内の2つが故障した場合には、テーブルT4が示す放電電流の値の3分の1に設定したテーブルを用いればよい。
【0036】
次に、テーブルT6の特性について説明する。テーブルT6は、第1蓄電部20の第1蓄電セル22a~22cに故障がない場合に使用される。
図2に示すように、き電電圧が充電開始電圧V3にまで上昇すると、第1蓄電部20への充電電流が増加し、充電電流飽和電圧に達すると、その後は停止電圧V4まで充電電流が最大値のまま維持される。この充電開始電圧V3は、電車8の回生動作によるき電線7の昇圧特性に基づき定められており、例えば1550ボルトである。
【0037】
次に、テーブルT8の特性について説明する。テーブルT8は、第1蓄電部20の第1蓄電セル22a~22cの一部に故障が生じた場合に使用される。ここでは、3つの第1蓄電セル22a~22cの内の1つが故障した場合に対応させている。上述のように、3つの第1蓄電セル22a~22cの内の1つが故障すると、第1蓄電部20の容量は3分の2になる。このため、テーブルT8が示す充電電流の値は、テーブルT6が示す充電電流の値の3分の2に設定されている。これにより、第1蓄電セル22a~22cが基準値よりも急速に充電されることが抑制され、充電時の劣化が回避される。
【0038】
次に、
図1及び
図2を参照にしつつ第1蓄電部20に故障がない場合の制御例に関して説明する。第1蓄電部20の第1畜電セル22a~22cに故障がない場合、監視盤50は、テーブルT2、T6を用いて第1蓄電部20の充放電制御を行う。すなわち、監視盤50は、テーブルT2、T6に基づいて、第1蓄電部20の充放電を制御する。これにより、電車8の力行時には、テーブルT2の特性に従ってき電線7への放電が行われる。一方で、電車8の回生動作時には、テーブルT6の特性に従って第1蓄電部20の充電が行われる。
【0039】
一方で、制御盤70は、監視盤50から入力される故障信号の監視を行いつつ、変電所設備4の制御を行っている。これにより、制御盤70は、第1蓄電部20に故障がない場合、第2チョッパ80の動作も停止させ、ノードn2とノードn4と間を電気的に遮断したままの状態で維持している。
【0040】
次に、
図3乃至
図5に基づき第1蓄電部20の第1蓄電セル22a~22cの一部が故障した場合の制御例に関して説明する。
図3は、第2チョッパ80を駆動し、第2蓄電部60からき電線7へ電流が供給される状態を模式的に示す図である。
図4は、第2チョッパ80の駆動を停止させ、第2蓄電部60からき電線7への電流供給を停止している状態を模式的に示す図である。
図3及び
図4では、「矢印」が電流の流れを模式的に示し、「ばつ印」が電流経路の遮断箇所を模式的に示している。
【0041】
図5は、監視盤50と制御盤70の処理動作の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、第1蓄電部20の第1蓄電セル22a~22cの一部が故障した場合の制御盤70の処理動作を示している。
【0042】
図5に示すように、まず、監視盤50内の第1セル制御部52は、第1蓄電部20の第1セル管理部24a~24cの故障信号に基づき、第1蓄電セル22a~22cの故障を検知する(ステップS100)。次に、第1セル制御部52は、故障した第1蓄電セル22a~22cの切り離しを第1セル遮断器26a~26cに行わせ、故障した第1畜電セル22a~22cの切り離し運転に移行する(ステップS102)。ここで、監視盤50は、充電時に使用するテーブルをテーブルT8に変換する。
【0043】
次に、制御盤70は、監視盤50から入力される故障信号に基づき、不足電力の演算を開始する(ステップS104)。ここで、制御盤70は、き電電圧に基づき、第1畜電部20が出力している電流とテーブルT2で示す電流の差分の値を用いて不足電力を演算する。なお、制御盤70は、監視盤50から故障信号を受信する代わりに、第1蓄電部20の出力電圧をモニターして、その出力電圧の低下度合いにより、第1蓄電セル22a~22cの一部の故障を推定するとともに、上述した不足電力を演算してもよい。
【0044】
次に、制御盤70は、第2畜電部60から不足電力を放電させても、制御盤70を正常動作させることができる電力が第2畜電部60に残存しているか否かを判断する(ステップS106)。
【0045】
制御盤70は、制御盤70を正常動作させることができる電力が残存している場合(ステップS106:Yes)、
図3に示すように、第2チョッパ80を駆動状態にし、第2蓄電部60から不足電力分を放電させるとともに、不足電力に関する情報を含む制御信号を監視盤50に出力する。これにより、き電線7には、故障した第1蓄電セル22a~22cの切り離しを行った状態の第1畜電部20からの電力供給に加え、第2蓄電部60から不足電力が供給される(ステップS108)。ここで、監視盤50は、制御信号に含まれる不足電力の情報に基づき、第1チョッパ30の制御を行う。この場合、監視盤50は、第2蓄電部60から不足電力が供給されるので、第1チョッパ30の電力変換制御をテーブルT2に従い行う。
【0046】
一方で、制御盤70は、不足電力を第2畜電部60に供給させると、制御盤70を正常動作させることができる電力が第2畜電部60に残存していない場合(ステップS106:No)、
図4に示すように、第2チョッパ80の駆動を停止状態にする。この際に、制御盤70は、不足電力に関する情報を含む制御信号を監視盤50に出力する。これにより、故障した第1蓄電セル22a~22cの切り離しを行った状態の第1畜電部20から、き電線7へ電力が供給される(ステップS110)。ここで、監視盤50は、制御信号に含まれる不足電力に関する情報に基づき、第1チョッパ30の制御を行う。この場合、監視盤50は、第2畜電部60から不足する電力が供給されないので、制御に使用するテーブルをテーブルT2からテーブルT4に切り替える。これにより、第1畜電部20からき電線7に供給する電流は、テーブルT2を用いた場合の3分の2に減少する。
【0047】
このように、第1蓄電セル22a~22cの故障が生じた場合に、制御盤70は、第2蓄電部60が不足電力を出力しても制御盤70を正常動作させることができれば、第2蓄電部60から不足電力を供給させる制御を行い、正常動作させることができなければ、第2蓄電部60から電力を供給させない制御を行う。これにより、第2蓄電部60からの過剰な電力供給を防止することができる。
【0048】
また、監視盤50は、第2蓄電部60から電力供給を受けられない場合に、第1蓄電部20の出力電流を低下させる制御を行う。これにより、第1蓄電部20からの過剰な電力供給を防止することができる。
【0049】
以上のように、第1実施形態に係る電鉄用回生制御システム1は、制御盤70からの制御信号に基づいて、監視盤50は第1蓄電セル22a~22cの充放電の制御を行う。制御信号には、第1蓄積部20内の一部の第1蓄電セルに故障がある場合には、その故障による不足電力に関する情報も含まれている。また、制御盤70は、その不足電力を第2蓄電部60から供給できるか否かを判断する。よって、第1蓄積部20内の一部の第1蓄電セルが故障になっても、第2蓄電部60から第2チョッパ80と第1チョッパ30を介して、き電線7に電力を供給することで、き電線7の電圧変動を抑制できる。
【0050】
また、制御盤70は、第2蓄電部60が不足電力を出力すると制御盤70を正常動作させる電力を維持できないと判断した場合には、第2蓄電部60から第2チョッパ80には不足電圧を供給しないため、第1蓄電部20内の一部の第1蓄電セルに故障がある場合に、制御盤70への電力供給が滞るおそれはない。
【0051】
(第2実施形態)
図6及び
図7に基づき第2実施形態に係る電鉄用回生制御システム1について説明する。第2実施形態に係る電鉄用回生制御システム1の構成は第1実施形態に係る電鉄用回生制御システム1の構成と同等であるので、説明を省略する。第2実施形態に係る電鉄用回生制御システム1は、系統電力の停電時の制御機能を更に有することで第1実施形態に係る電鉄用回生制御システム1と相違する。
【0052】
図6は、系統電力が停電した状態の電流の流れを模式的に示す図である。
図6では、「矢印」が電流の流れを模式的に示し、「ばつ印」が電流経路の遮断箇所を模式的に示している。この
図6に示すように、本実施形態に係る監視盤50及び制御盤70は、系統電力、すなわち変電所2の停電時に、第1蓄電部20の電力を制御盤70に供給させる機能を更に有する。
【0053】
図7は、第2実施形態に係る電鉄用回生制御システム1の制御動作例を示すフローチャートであり、監視盤50と制御盤70の処理動作を示している。ここでは、不図示の中央指令室から駅間の電車8の位置情報を含む位置信号を制御盤70が受信している場合について説明する。
【0054】
図7に示すように、まず、系統電力が停電すると、制御盤70の主電源が系統電力から第2畜電部60に切り替わる(ステップS200)。
【0055】
次に、制御盤70は、中央指令室からの位置信号に基づき、駅間に停車車両があるか否かを判定する(ステップS202)。制御盤70は、駅間に電車8が存在する場合に(ステップS202:Yes)、中央指令室からの指示信号にしたがい監視盤50に制御信号を送る。監視盤50は、第1蓄電部20から蓄電電力を出力させる。この蓄電電力は、第1チョッパ30にて電力変換されて電車8に供給され、電車8を所定の駅に移動させる(ステップS206)。
【0056】
一方で、系統電力の停電時に駅間に電車8が存在しない場合、または停電時に駅間に存在した電車8を所定の駅まで移動させた場合(ステップS202:No)、制御盤70は、第1チョッパ30からき電線7への電力出力を停止させる(ステップS204)とともに、第1蓄電部20から出力された電力を第2チョッパ80にて電力変換して制御盤70に供給させる(ステップS208)。ここで、制御盤70は、第2蓄電部60の電圧及び電流の情報を含む第2セル管理部64a~64cからの状態信号に基づき、第2チョッパ80の制御を行う。これにより、制御盤70は、第1蓄電部20からの電力供給を第2蓄電部60の状態に応じて行う。
【0057】
このように、系統電力の停電時、駅間に電車8が存在する場合には、制御盤70は、優先的にき電線7に電力を供給させる。これにより、停電時に駅間に存在した電車8を所定の駅まで移動させことが優先的に行われる。また、電車8の移動後に、第1畜電部20の電力を制御盤70に供給させるので、電力系統の停電により第2蓄電部60の電力が低下しても、制御盤70の制御機能をより長期にわたって維持することが可能である。
【0058】
以上のように、第2実施形態に係る電鉄用回生制御システム1は、系統電力の停電時に、駅間に電車8が存在する場合には、第1チョッパ30から出力された電力に基づいて電車8を所定の駅に移動させることとし、駅間に電車8が存在しない場合には、第1蓄電部20から出力された電力を第2チョッパ80にて電力変換して制御盤70に供給させることとした。これにより、停電時には電車8の安全運行を優先的に行うことが可能となるとともに、停電により第2蓄電部60の電力が低下しても、制御盤70の制御機能を長期にわたって維持することが可能となる。
【0059】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る電鉄用回生制御システム1は、第1畜電部20の第1畜電セル22a~22cの故障数に基づき、第2畜電部60からの電力供給の制御を行う機能を更に有することで第1実施形態に係る電鉄用回生制御システム1と相違する。第3実施形態に係る電鉄用回生制御システム1の構成は第1実施形態に係る電鉄用回生制御システム1の構成と同等であるので、説明を省略する。
【0060】
図8は、第1畜電部20の第1畜電セル22a~22cが2つ故障した状態の電流の流れを模式的に示す図である。
図8では、「矢印」が電流の流れを模式的に示し、「ばつ印」が電流経路の遮断箇所を模式的に示している。
図8に示すように、本実施形態に係る制御盤70は、監視盤50からの故障信号に基づき、所定数(例えば2個)以上の第1畜電セル22a~22cが故障した場合には、第2チョッパ80の動作を停止させる制御を行う。このような制御を行う理由は、所定数以上の第1蓄電セルが故障した場合に、第2蓄電部60からの電力をき電線7側に供給するとなると、第2蓄電部60の蓄電電力が急速に減少し、制御盤72の駆動電力が不足してしまうためである。そこで、
図8では、所定数以上の第1蓄電セルが故障した場合には、第2蓄電部60の蓄電電力をき電線7側に供給することはせず、き電線7側には、第1蓄電部20の蓄電電力のみを供給する。より具体的には、停電時には、第1蓄電部20の蓄電電力を少しずつき電線7側に供給するようにする。これにより、停電により駅間に停止していた電車8を、第1蓄電部20の蓄電電力を利用して、ゆっくりした速度で最寄りの駅まで待避させることができる。
【0061】
以上のように、第3実施形態に係る電鉄用回生制御システム1では、第1畜電部20の第1畜電セル22a~22cの故障数が2個以上の場合は、第2畜電部60からき電線7への電力供給を停止することとした。これにより、第2蓄電部60の蓄電電力を本来の駆動対象である制御盤72に継続して長期間にわたって供給できる。
【0062】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1:電鉄用回生制御システム、7:き電線、8:電車、20:第1蓄電部、22a~22c:第1蓄電セル、30:第1チョッパ、50:監視盤、60:第2蓄電部、70:制御盤、80:第2チョッパ