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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】溶射材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/04 20060101AFI20220128BHJP
   C01F 17/218 20200101ALN20220128BHJP
   C01F 17/259 20200101ALN20220128BHJP
【FI】
C23C4/04
C01F17/218
C01F17/259
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017148661
(22)【出願日】2017-07-31
(65)【公開番号】P2019026902
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 真仁
(72)【発明者】
【氏名】早坂 祐毅
(72)【発明者】
【氏名】則武 賢信
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-061735(JP,A)
【文献】特開2014-009361(JP,A)
【文献】特開2014-136835(JP,A)
【文献】国際公開第2018/052129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00 - 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が3μm以下のイットリウムのオキシフッ化物からなる顆粒を不活性ガス雰囲気で加熱して粒成長させ、平均一次粒子径が3μm~8μmのイットリウムのオキシフッ化物からなり、酸素濃度が3~8.5%の顆粒を得ることを特徴とする溶射材料の製造方法。
【請求項2】
平均一次粒子径が共に3μm以下のイットリウムのオキシフッ化物及びイットリウムのフッ化物からなる顆粒を不活性ガス雰囲気で加熱して粒成長させ、平均一次粒子径が共に3μm~8μmのイットリウムのオキシフッ化物及びイットリウムのフッ化物からなり、酸素濃度が3~8.5%の顆粒を得ることを特徴とする溶射材料の製造方法。
【請求項3】
前記加熱は、1050~1250℃で、最大60分間加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶射材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、液晶デバイスなどを製造する場合、Siウエハやガラス基板に形成された所定の膜をFなどのハロゲン系の腐食性ガスを用いプラズマ環境下で処理するドライエッチングなどの工程が存在する。
【0003】
そこで、近年、半導体デバイス、液晶デバイスなどの製造装置において、プラズマ環境下で腐食ガスに曝されるチャンバーや各種部材に、Alなどの金属材料からなる基材の耐食を防止するために、耐食性を有するイットリウムのオキシフッ化物からなる溶射膜を基材の表面に形成することがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-136835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イットリウムのオキシフッ化物からなる溶射材料を溶射して溶射膜を形成した際に、一部が変質してY(酸化イットリウム)が生成される。溶射膜に含まれるYが多いと、プラズマ耐性に劣り、プラズマ雰囲気にて表面が浸食されてパーティクルが発生するおそれが高くなるという課題があった。
【0006】
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、溶射膜に発生するパーティクルの抑制を図ることが可能な溶射材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の参考に係る溶射材料は、平均一次粒子径が3μm~8μmのイットリウムのオキシフッ化物からなり、酸素濃度が3~8.5%の顆粒を有することを特徴とする。本発明において、平均一次粒子径とは、一次粒子の平均粒子径のことを意味する。
【0008】
本発明の参考に係る溶射材料を用いて溶射すれば、後述する実施例及び比較例から分かるように、形成される溶射膜においてY23の生成が抑制される。これは、平均一次粒子径が3μm~8μmと従来と比較して大きいので、一次粒子の表面でイットリウム成分が酸素と反応してY23の生成が減少するためであると考えられる。溶射膜に含まれるY23が減少すると、プラズマ耐性が向上し、プラズマ雰囲気にて表面が浸食されてパーティクルが発生するおそれを低減させることが可能となる。
【0009】
本発明の参考に係る溶射材料において、前記顆粒がさらに、平均一次粒子径が3μm~8μmのイットリウムのフッ化物を含み、平均一次粒子径が3μm~8μmのイットリウムのオキシフッ化物と平均一次粒子径が3μm~8μmのイットリウムのフッ化物とからなるものであってもよい。
【0010】
本発明の第1の溶射材料の製造方法は、平均一次粒子径が3μm以下のイットリウムのオキシフッ化物からなる顆粒を不活性ガス雰囲気で加熱して粒成長させ、平均一次粒子径が3μm~8μmのイットリウムのオキシフッ化物からなり、酸素濃度が3~8.5%の顆粒を得ることを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の溶射材料の製造方法は、平均一次粒子径が共に3μm以下のイットリウムのオキシフッ化物及びイットリウムのフッ化物からなる顆粒を不活性ガス雰囲気で加熱して粒成長させ、平均一次粒子径が共に3μm~8μmのイットリウムのオキシフッ化物及びイットリウムのフッ化物からなり、酸素濃度が3~8.5%の顆粒を得ることを特徴とする。
【0012】
本発明の第1又は第2の溶射材料の製造方法によれば、上述した本発明の溶射材料を簡易に得ることが可能となる。
【0013】
本発明の第1又は第2の溶射材料の製造方法において、例えば、前記加熱は、1050~1250℃で、最大60分間加熱すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1における電子顕微鏡による顆粒の外観写真を示し、図1Aは焼成前を図1Bは焼成後をそれぞれ示す。
図2】実施例1における顆粒のX線回折スペクトルを示し、下側は焼成前(図1B)を上側は焼成後(図1A)をそれぞれ示す。
図3】溶射膜のX線回折スペクトルを示し、上側は実施例1を下側は比較例1をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態の参考に係る溶射材料について説明する。
【0016】
溶射材料は、YOF、Y、Y等のイットリウム成分、酸素成分、フッ素成分からなるイットリウムのオキシフッ化物からなる。溶射材料は、YOF、Y、Y等が任意の割合で混合されているものでも、何れか1つの材料のみからなるものであってもよい。
【0017】
溶射材料は、平均粒子径が3μm~8μmの一次粒子からなる。ただし、溶射材料は、1個の一次粒子のみからなるものであっても、多数の一次粒子が凝集して、大径の顆粒(溶射顆粒)となって、凝集していない一次粒子と混在しているものであってもよい。
【0018】
なお、溶射材料は、平均粒子径が3~8μmのイットリウムのフッ化物(YF)からなる一次粒子を含んでなるものであってもよい。イットリウムのフッ化物からなる一次粒子が全体の一次粒子に占める割合は任意である。
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る溶射材料の製造方法について説明する。
【0020】
まず、平均粒子径が3μm以下のイットリウムのオキシフッ化物からなる一次粒子を初期材料として用意する工程を行う。平均粒子径は、レーザ回析/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所 型式LA-960S)を用いた粒度分布測定によりD50の値として求めた。また、顆粒解砕後の測定も上記の機器測定により求めた。イットリウムのオキシフッ化物の市販されている粉末は、通常、平均一次粒子径が1μm程度であるので、初期材料としてそのまま使用することができる。
【0021】
次に、この初期材料をAr、N等の不活性ガス雰囲気で焼成して粒成長させ、平均粒子径が3μm~8μmのイットリウムのオキシフッ化物からなる一次粒子からなる顆粒を溶射材料として得る工程を行う。
【0022】
ここで、焼成条件は、焼成温度が1050~1250℃で、焼成時間が最大60分間である。
【0023】
なお、平均粒子径が3μm以下のイットリウムのフッ化物からなる一次粒子も初期材料として用意しておき、この一次粒子を上述した平均粒子径が3μm以下のイットリウムのオキシフッ化物からなる一次粒子と混合させたものを焼成してもよい。この場合、平均粒子径が3μm~8μmのイットリウムのオキシフッ化物及びイットリウムのフッ化物からなる一次粒子からなる顆粒が溶射材料として得られる。
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る溶射材料を用いた溶射方法について説明する。
【0025】
この溶射方法によって形成される溶射部材は、例えば、内部に埋設された電極に電圧が印加されることによって発生するクーロン力により、基板を載置面である基材の表面に吸引する静電チャックである。また、溶射部材は、内部に埋設された発熱抵抗体によって、載置面である基材の表面に載置された基板を加熱するヒータ、又は、ヒータ機能付きの静電チャックであってもよい。
【0026】
基材は、例えば、アルミニウムからなる略円板状の部材である。ただし、基材は、アルミニウム合金、ステンレス鋼、チタン合金、タングステン、シリコン、金属複合材料(MMC)などからなるものであってもよい。また、基材の形状は、多角形板状、楕円板状などの種々の形状であってもよく、複雑形状であってもよい。
【0027】
なお、サンドブラストなどによって基材の表面を粗面状態に加工することが好ましい。そして、基材の表面に、溶射膜との熱膨張差の緩衝層となるアンダーコート層が被覆されていても、被覆されていなくてもよい。
【0028】
溶射装置は、アーク溶射法又はプラズマ溶射法などの方法で溶射する市販の溶射装置であればよく、特に限定されない。プラズマガスとしては、Ar、Ar+N,Ar+H、Ar+CO又はAr+Oなどが用いられる。
【0029】
一次粒子が凝集している場合には、その凝集を解砕して各一次粒子を個々に溶媒に分散させたスラリーの形態で溶射する湿式溶射を行うことによって、溶射膜を基材の表面に形成する工程を行う。溶媒としては、エタノールなどの可燃性有機溶媒又は水などを用いればよい。
【0030】
また、一次粒子が凝集してなる顆粒を用いて粉末形式で溶射する乾式溶射を行うことによって、溶射膜を基材の表面に形成する工程を行ってもよい。
【0031】
このようにして形成された溶射膜においては、後述する実施例及び比較例から分かるように、Yの生成が抑制される。これは、溶射材料に含まれる一次粒子の平均粒子径が3μm~8μmと従来と比較して大きいので、一次粒子の表面でイットリウム成分が酸素と反応して生成するYが減少するためであると考えられる。溶射膜に含まれるYが減少すると、プラズマ耐性が向上し、プラズマ雰囲気にて表面が浸食されてパーティクルが発生するおそれを低減させることが可能となる。
【0032】
また、溶射材料に含まれる一次粒子の平均粒子径が大きいので、一次粒子自体の強度が高く、溶射装置に溶射材料を供給する際に、一次粒子の破損による微細化が抑制できる。これにより、特に乾式溶射において溶射膜の塗着率の向上を図ることが可能となる。
【0033】
なお、溶射材料に含まれる一次粒子の平均粒子径が8μmを超えると、湿式溶射の原料として使用した場合、溶媒に良好に分散させることができないので好ましくない。
【実施例
【0034】
(実施例1)
基材として、アルミニウム合金(Al6061)からなり、50mm角、厚さ5mmの角板状のものを用意した。基材の表面をサンドブラストによって粗面化した。
【0035】
初期材料として、平均一次粒子径が1μmのY粉末と、平均一次粒子径が1μmのYF粉末とを用意した。そして、これらの粉末を混合し、酸素濃度が5重量%の顆粒を得た。この顆粒の電子顕微鏡による外観写真を図1Aに示した。さらに、この顆粒に対し、X線回折装置((株)リガク製、MultiFlex)を用い、以下に示す条件でX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図2の下側に示す。
【0036】
X線光源:Cu-Kα線(波長:1.54060Å)
スキャンステップ:0.02°
走査軸:2θ
走査範囲:10~80°
この顆粒をるつぼ内に投入し、このるつぼを炉内に設置した。そして、炉内をArガス雰囲気として1100℃に加熱した状態を30分間持続させて焼成した。その後、炉を自然冷却させ、るつぼ内から顆粒を取り出した。この顆粒の電子顕微鏡による外観写真を図1Bに示した。図1A図1Bを比較して、焼成後は焼成前と比較して粒成長していることが分かる。
【0037】
焼成後の顆粒に対し、上述の焼成前の顆粒と同様にしてX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図2の上側に示す。図2の上下の回折スペクトルに差異は認められず、焼成によって変質が生じていないことが分かる。
【0038】
さらに、焼成後の顆粒を解砕した後、粒度分布を測定し、D50の値を一次粒子の平均粒子径として算出したところ、4μmであった。
【0039】
そして、溶射装置によって溶射材料を30重量%の割合でエタノールを媒質として用いて分散させたスラリーを基材の表面に高速プラズマ溶射して、基材の表面に厚さ200μmの溶射膜を湿式溶射によって形成した。
【0040】
高速プラズマ溶射の条件は以下の通りであった。
【0041】
作動ガス:Ar、N
ガス流量:5l/min
スキャン速度:850m/s
溶射距離:90mm
溶射速度:600~700m/s
電流:400A
電圧:260V
電力:104kW
得られた溶射膜に対し、上述の顆粒と同様にしてX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルを図3の上側に示す。
【0042】
この図より、溶射膜のX線回折スペクトルには、YF、Y及びYOFのピークは存在するが、Yのピークは存在しないことが分かる。よって、実施例1においては、後述する比較例1と比較して、溶射膜におけるYの生成が抑制されていることが分かる。
【0043】
(実施例2,3)
上述した実施例1と比較して、焼成条件のみが相違する。
【0044】
実施例2,3では、焼成条件に応じて焼成後の顆粒の平均一次粒子径はそれぞれ3μm、8μmとなった。これらの顆粒を溶射原料として用いて高速プラズマ溶射を行って形成した溶射膜に対しても、実施例1と同様にしてX線回析スペクトルを測定したところ、YF、Y及びYOFのピークは存在するが、Yのピークは存在しなかった。
【0045】
なお、Yのピークは存在しないとは、X線回折法により得られる回折スペクトルにおいて、イットリウムのオキシフッ化物に帰属されるすべてのピーク強度の合計を100としたとき、Yに帰属されるすべてのピーク強度の合計が5未満であることを意味とする。
【0046】
(実施例4,5)
上述した実施例2,3と比較して、初期材料のY粉末とYF粉末の混合比のみが相違する。
【0047】
実施例4,5では、平均一次粒子径が1μmのY粉末と、平均一次粒子径が1μmのYF粉末とを混合して、それぞれ酸素濃度が3重量%、8.5重量%の顆粒を得た。
【0048】
これらの顆粒をそれぞれ実施例2,3と同様の焼成条件にて焼成を行った。焼成後の顆粒の平均一次粒子径はそれぞれ8μm、3μmとなった。これらの顆粒を溶射原料として用いて高速プラズマ溶射を行って形成した溶射膜に対しても、実施例2,3と同様にしてX線回析スペクトルを測定したところ、YF、Y及びYOFのピークは存在するが、Yのピークは存在しなかった。
【0049】
(比較例1)
上述した実施例1と異なり、初期材料を混合して得た、焼成していない顆粒を溶射材料として用いて高速プラズマ溶射を行った。
【0050】
これにより形成した溶射膜のX線回折スペクトルには、図3の下側に示すように、YF、Y及びYOFのピークの他に、Yのピークも存在することが分かった。
【0051】
これより、焼成処理を施していない、平均一次粒子径が1μmの溶射材料を用いて溶射した場合、Yが生成されることが分かった。
【0052】
(比較例2)
上述した実施例1と比較して、焼成温度を1000℃、焼成時間を30分と焼成条件を相違させ、平均一次粒子径が2μmの顆粒からなる溶射材料を用いて溶射したことのみが相違する。
【0053】
これにより形成した溶射膜のX線回折スペクトルには、YF、Y及びYOFのピークの他に、Yのピークも存在することが分かった。
【0054】
これより、焼成処理を施した、平均一次粒子径が2μmの溶射材料を用いて溶射した場合であっても、Yが生成されることが分かった。
【0055】
以上の結果を表1にまとめた。
【0056】
【表1】
図1
図2
図3