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特許6993811セメント硬化体構造物の表面保護工法およびセメント硬化体構造物の表面保護構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】セメント硬化体構造物の表面保護工法およびセメント硬化体構造物の表面保護構造
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/00 20060101AFI20220106BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220106BHJP
   E04B 1/92 20060101ALI20220106BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20220106BHJP
   B32B 3/02 20060101ALI20220106BHJP
   B32B 13/12 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B05D7/00 M
B05D7/00 P
B05D7/24 302Y
E04B1/92
E04G23/02 D
B32B3/02
B32B13/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017156191
(22)【出願日】2017-08-10
(65)【公開番号】P2019035234
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-05-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】特許業務法人 クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平子 智章
(72)【発明者】
【氏名】野口 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】津田 順
(72)【発明者】
【氏名】山下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】正部 祐季
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】宮本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩一
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-034266(JP,A)
【文献】特開2019-035234(JP,A)
【文献】特開2008-063758(JP,A)
【文献】特開2017-128470(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0148681(US,A1)
【文献】中国実用新案第203783176(CN,U)
【文献】特開2005-272824(JP,A)
【文献】特開2001-323244(JP,A)
【文献】特開2006-348479(JP,A)
【文献】特開2002-021283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
E04G 23/00-23/8
E04B 1/92
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント硬化体構造物の角部表面に、変性シリコーン樹脂を含む充填用樹脂組成物を予備塗布する予備塗布工程と、
予備塗布された前記充填用樹脂組成物および前記セメント硬化体構造物の表面全体に保護シートを貼り付ける貼付工程と、を含み、
前記保護シートが樹脂層とDLC膜とを含む、セメント硬化体構造物の表面保護工法。
【請求項2】
前記保護シートの弾性率(GPa)と厚み(μm)との積が200以上900以下である、請求項1に記載のセメント硬化体構造物の表面保護工法。
【請求項3】
予備塗布工程の前に、前記セメント硬化体構造物の角部を面取りする面取工程をさらに含む、請求項1または2に記載のセメント硬化体構造物の表面保護工法。
【請求項4】
セメント硬化体構造物と、
前記セメント硬化体構造物の角部表面に設けられた変性シリコーン樹脂を含む充填用樹脂組成物の硬化物と、
前記セメント硬化体構造物および前記充填用樹脂組成物の硬化物の表面全体に設けられた保護シートと、を含み、
前記保護シートが樹脂層とDLC膜とを含む、セメント硬化体構造物の表面保護構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント硬化体構造物の表面保護工法およびセメント硬化体構造物の表面保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、空気中の二酸化炭素によって徐々に中性化する。コンクリートの内部にまで中性化が進行すると、鉄筋が腐食し、コンクリート構造物の強度が大幅に低下してしまう。そのため、特開2003-342084号公報(特許文献1)などに、コンクリート構造物の表面にエポキシ樹脂組成物などから成る塗材を塗布し、コンクリートの中性化を防止する技術が提案されている。このように塗材をコンクリート構造物の表面に塗布する工法では、プライマー、パテ、下塗り、中塗り、上塗りなどの多くの層を順次形成する必要があり、施工に要する時間と労力とが問題となる。この問題を解決する手段として、特開2014-9508号公報(特許文献2)に、コンクリート構造物と、コンクリート構造物の表面を覆う保護シートと、を含み、保護シートが、樹脂から成る基材と、炭素膜、好ましくはダイヤモンドライクカーボンの膜とを含むコンクリート構造物の保護構造及びコンクリート構造物の保護工法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-342084号公報
【文献】特開2014-9508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭素膜を有する保護シートは、炭素膜が有する高剛性および高弾性の特性のため、コンクリート建造物の入隅および出隅といった角部の表面への追随性が悪く施工性に問題がある。また、このような角部表面への追随性の悪さのため、当該角部において保護シートに浮きが生じる。たとえば図5に示すように、コンクリート建造物200の出隅において、保護シート300の浮きが生じることで施工不良となる。図5のように角部が出隅の場合は、保護シートの浮きの発生は外観不良にもなる。
【0005】
そこで本発明の目的は、セメント硬化体構造物の角部に浮きを生じさせることなく良好に施工することができる表面保護工法、およびセメント硬化体構造物の角部に浮きがなく良好に施工されている表面保護構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の発明を含む。
(1)
本発明のセメント硬化体構造物の表面保護工法は、予備塗布工程と貼付工程とを含む。予備工程では、セメント硬化体構造物の角部表面に、変性シリコーン樹脂を含む充填用樹脂組成物を予備塗布する。貼付工程では、予備塗布された充填用樹脂組成物およびセメント硬化体構造物の表面全体に保護シートを貼り付ける。さらに、保護シートは、樹脂層と炭素膜とを含む。
【0007】
このように、保護シートが炭素膜を有するものであっても、セメント硬化体構造物の角部表面に予備塗布することによって、従来的に浮きが生じていた部分を接着剤樹脂組成物で充填されるため、予備塗布された充填用樹脂組成物を介して角部への保護シートの追従性が良好となる。このため、保護シートを角部を含めセメント硬化体構造物の全面に対して良好に固着させることが可能となる。
【0008】
(2)
上記(1)のセメント硬化体構造物の表面保護工法は、充填用樹脂組成物が、150Pa・s以上1000Pa・s以下の粘度および4.5以上8.5以下のチクソインデックスを有してよい。
【0009】
このように粘度およびチクソインデックスを所定の範囲内とすることによって、作業性が良好となる。
【0010】
(3)
上記(1)または(2)のセメント硬化体構造物の表面保護工法は、保護シートの弾性率(GPa)と厚み(μm)との積が200以上900以下であってよい。
【0011】
このように本発明は保護シートの弾性率と厚みとの積を所定の範囲とすることによって、保護シートを角部を含めセメント硬化体構造物の全面に対してより良好に固着させることができるとともに、角部以外の面も外観良好かつ施工性良好に被覆することができる。
【0012】
(4)
上記(1)から(3)のいずれかのセメント硬化体構造物の表面保護工法は、予備塗布工程の前に、セメント硬化体構造物の角部を面取りする面取工程をさらに含んでよい。
【0013】
これによって、予備塗布すべき面を良好に確保し、保護シートを角部を含めセメント硬化体構造物の全面に対してより良好に固着させることができる。
【0014】
(5)
本発明のセメント硬化体構造物の表面保護構造は、セメント硬化体構造物と、セメント硬化体構造物の角部表面に設けられた変性シリコーン樹脂を含む充填用樹脂組成物の硬化物と、セメント硬化体構造物およびセメント硬化体構造物の表面全体に設けられた保護シートと、を含む。保護シートは樹脂層と炭素膜とを含む。
【0015】
このように、保護シートが炭素膜を有するものであっても、セメント硬化体構造物の角部表面に特定の充填用樹脂組成物の硬化物が設けられることで、従来的に浮きが生じていた部分が充填されるため、充填用樹脂組成物の硬化物を介して角部への保護シートの追従性が良好となる。このため保護シートが角部を含めセメント硬化体構造物の全面に対して良好に固着している。
【0016】
(6)
上記(5)のセメント硬化体構造物の表面保護構造は、充填用樹脂組成物の硬化物の引張強さが0.7N/mm以上であってよい。
【0017】
このように構造物の角部に設けられた硬化物が所定の引張強さを有することで、保護状態が良好に維持される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、セメント硬化体構造物の角部に浮きを生じさせることなく良好に施工することができる表面保護工法、およびセメント硬化体構造物の角部に浮きがなく良好に施工されている表面保護構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態のセメント硬化体構造物の表面保護工法を説明する模式的断面図である。
図2図1の続きである。
図3】第2実施形態のセメント硬化体構造物の表面保護工法を説明する模式的断面図である。
図4図3の続きである。
図5】従来法の表面保護工法によるコンクリート建造物保護構造の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の要素には同一の符号を付しており、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は基本的に繰り返さない。
【0021】
[1.第1実施形態]
図1および図2に、第1実施形態のセメント硬化体構造物の表面保護構造およびそれを得るためのセメント硬化体構造物の表面保護工法を説明する模式的断面図を示す。本実施形態では、コンクリート建造物200の表面を保護シート300によって保護する。
【0022】
[1-1.コンクリート建造物(セメント硬化体構造物)]
コンクリート建造物200は、コンクリートと、鉄筋などの芯材とを含んで構成される。コンクリートは、セメントに、水、砂利、砂などを混合し、セメントの水和反応により硬化したものである。コンクリート建造物200は、新設の者であってもよいし、供用中のものであってもよい。コンクリート建造物200としては、コンクリート高架橋(梁、柱など)、コンクリート桁橋、電架柱、ビル、住宅などが挙げられる。
【0023】
本実施形態では、コンクリート建造物200の出隅250を含む部分を保護する。出隅250は面取り面251を有する。面取り面251の幅wは、後述の貼付け工程で浮きが生じないよう保護シート300の最小曲げ半径に応じて当業者によって適宜決定されてよく、たとえば、5mm以上50mm以下であってよい。これによって、出隅250への保護シート300の追随性がより良好となる。
【0024】
コンクリート建造物200の出隅250が上述のような面取り面251を有しない場合(本実施形態では出隅250が直角である場合)、または、面取り面251が僅かの幅しかないために後述の貼付け工程で浮きが生じる場合は、出隅250をたとえばC面加工などにより面取りする面取工程を行っておくことができる。
【0025】
コンクリート建造物200の表面には予め下地調整塗膜を設けておいてもよい。下地調整用塗料としては、エチレン酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、アクリルカチオン系エマルジョンなどが挙げられる。
【0026】
[1-2.接着剤塗布工程]
本実施形態では、コンクリート建造物200の表面全体に接着剤樹脂組成物400’を塗布し、接着剤樹脂組成物400’の塗布層を形成する。接着剤樹脂組成物400’としては特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。たとえば、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤などが挙げられる。これらの中でも、保護対象であるコンクリート建造物200の線膨張率と保護シート300の樹脂層310の線膨張率との差を緩衝する点で、弾性接着剤を選択することができる。
【0027】
接着剤樹脂組成物400’は、いわゆる1液型の樹脂組成物であってもよいし、いわゆる2液混合型の樹脂組成物の2液混合物であってもよい。1液型の樹脂組成物である場合は、作業が容易であるとともに作業効率も良好であり、さらに、硬化に供する接着剤樹脂組成物の均一性が良好である点で硬化不良が起こりにくく、したがって容易に良好な接着性を得ることができる。2液混合型の樹脂組成物である場合は、コンクリート建造物200の表面における凹凸および/または割れの程度に関わらず接着性が良好であり、さらに、耐候性も良好である点で好ましい。
【0028】
[1-3.予備塗布工程]
予備塗布工程では、出隅250の面取り面251に充填用樹脂組成物500’を塗布する。図示された態様では、接着剤樹脂組成物400’の層を介して充填用樹脂組成物500’が塗布されているがこの態様に限定されない。たとえば、接着剤樹脂組成物400’の層が面取り面251で欠落し、充填用樹脂組成物500’が面取り面251に直接塗布されていてもよい。
【0029】
[1-3-1.充填用樹脂組成物の組成]
充填用樹脂組成物500’は、変性シリコーン樹脂を含む接着剤樹脂組成物である。具体的には、充填用樹脂組成物500’は、変性シリコーン樹脂と硬化剤(具体的にはシラノール縮合触媒など)とを含み、その他の樹脂およびその硬化剤を含んでよい。一例として、変性シリコーンとエポキシ樹脂とそれらの硬化剤とを含む樹脂組成物が挙げられる。
【0030】
充填用樹脂組成物500’も、いわゆる1液型の樹脂組成物であってもよいし、いわゆる2液混合型の樹脂組成物の2液混合物であってもよい。1液型の樹脂組成物である場合は、作業が容易であるとともに作業効率も良好であり、さらに、硬化に供する充填用樹脂組成物の均一性が良好である点で硬化不良が起こりにくく、したがって容易に良好な接着性を得ることができる。2液混合型の樹脂組成物である場合は、面取り面251のような狭小面に塗布しやすく、さらに、耐候性も良好である点で好ましい。
【0031】
変成シリコーン樹脂としては特に限定されないが、好ましくは、硬化触媒の存在下で、空気中の水分または樹脂組成物中に混入している水分によって縮合反応を起こす湿気硬化型の変成シリコーン樹脂であり、この場合、加水分解性ケイ素基を有する。加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂は、ポリエーテル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーからなる群から選ばれるポリマーを主鎖(加水分解性ケイ素基を除く部分)とする。したがって、主鎖は、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分およびアクリル成分からなる群から選ばれるモノマーの重合体であってよく、この重合体は、単独重合体および共重合体を問わない。共重合体である場合、共重合成分としては、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分、アクリル成分、および他のビニル成分からなる群から選ばれてよい。
【0032】
アルキレンオキサイド成分としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。主鎖は、硬化後の伸びおよび粘性的な取り扱い易さの観点から、主としてプロピレンオキサイド単位から構成されるポリプロピレンオキサイドが好ましい。
オレフィン成分としては、イソブチレンが挙げられる。
【0033】
アクリル成分としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-3-メチルブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2-ヒドロキシエチルフタル酸、2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2-ヒドロキシプロピルフタル酸などが挙げられる。なお、アクリル系ポリマーが、他のビニルモノマー成分が共重合されたものである場合、加水分解性ケイ素基を有するビニルモノマー成分を共重合することにより加水分解性ケイ素基を導入することができる。
【0034】
主鎖がアクリル単位を含んでいることは、耐候性が良好となる点で好ましい。さらに、耐候性の観点からは、主鎖中のアクリル単位の含有量は、5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
【0035】
加水分解性ケイ素基としては特に限定されないが、ハロゲン化シリル基、アルケニルオキシシリル基、アシロキシシリル基、アミノシリル基、アミノオキシシリル基、オキシムシリル基、アミドシリル基、アルコキシシリル基などが挙げられる。ここで、加水分解性ケイ素基におけるケイ素原子に結合した加水分解性基の数は1以上3以下が好ましい。また、1つのケイ素原子に結合した加水分解性基は1種であってもよく、複数種であってもよい。更に、加水分解性基と非加水分解性基とが1つのケイ素原子に結合していてもよい。加水分解性ケイ素基としては、安定性に優れ、取り扱いが容易である点で、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基などのアルコキシシリル基が好ましい。
変成シリコーン樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0036】
加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂の数平均分子量は、たとえば、1,000以上500,000以下、1,000以上100,000以下、10,000以上30,000以下、4,000以上500,000以下、または4,000以上30,000以下である。上記下限値以上であることは、充填用樹脂組成物の硬化時間が短い点、または硬化後の接着強度が良好である点で好ましい。上記上限値以下であることは、充填用樹脂組成物の粘度が適当であり取扱性が良好である点で好ましい。
【0037】
シラノール縮合触媒は、変成シリコーン樹脂組成物を短時間で硬化させるために用いられる。シラノール縮合触媒としては、ポリ(ジアルキルスタノキサン)ジシリケート化合物、モノアルキル錫エステルおよびジアルキル錫エステルなどの錫触媒、有機チタネートなどが挙げられる。
【0038】
モノアルキル錫エステルとしては、例えば、ブチルスズトリス(2-エチルヘキサノエート)などが挙げられ、ジアルキル錫エステルとしては、例えば、ジブチル錫アセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジオレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジフェノキシド、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫アセトアセテート、オクタン酸第1錫などが挙げられる。
有機チタネートとしては、例えば、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシルチタネート)トリエタノールアミンチタネートなどのチタンアルコキシド類、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、オクチレングリコレートなどのチタンキレート類などが挙げられる。
シラノール縮合触媒は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0039】
接着剤樹脂組成物中のシラノール縮合触媒の含有量は、変成シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上10重量部以下、好ましくは1重量部以上5重量部以下である。上記下限値以上であることは、硬化時間の短縮の点で好ましい。上記上限値以下であることは接着強度などの物性を担保する点で好ましい。
【0040】
充填用樹脂組成物500’がエポキシ樹脂を含む場合、エポキシ樹脂としては特に限定されず、エポキシ基を有する樹脂であればよい。具体的には、不飽和の脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、および複素環式化合物からなる群から選ばれる化合物にグリシジル基が結合したものが挙げられる。中性化抑制効果の観点からは、芳香族化合物を含むものであることが好ましい。
【0041】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型およびこれらの水添化物などのビスフェノール型エポキシ樹脂;ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂などのエステル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型およびクレゾールノボラック型などのノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂およびこれらの水添化物;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などのトリスフェノール型の多官能エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート型、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型、テトラグリシジルメタキシレンジアミン型、ヒダントイン型などの含窒素環型多官能エポキシ樹脂;ナフタレン型などの縮環型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;エーテルエステル型エポキシ樹脂;3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式構造を有するエポキシ樹脂;ウレタン型エポキシ樹脂;ポリブタジエンおよびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴム骨格を有するゴム変成エポキシ樹脂などを用いることができる。
エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
接着剤樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有量は、変成シリコーン樹脂100重量部に対し、たとえば1重量部以上100重量部以下、好ましくは2重量部以上80重量部以下である。上記下限値以上であることにより、硬化後の接着層400において良好な靭性を得ることができ、上記上限値以下であることにより、硬化後の接着層400において良好な弾性を得ることができる。したがって、保護シート300の炭素膜350のひび割れを好ましく抑制することができる。
【0043】
エポキシ硬化剤としては、たとえばアミン化合物が挙げられる。アミン化合物としては、N,N-ジメチルプロピルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族3級アミン類、N-メチルピペリジン、N,N’-ジメチルピペラジンなどの脂環族3級アミン類、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルフェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの芳香族3級アミン類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン類、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソフォロンジアミン、ノルボルデンジアミンなどの脂環式ジアミン類、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン類が挙げられる。
上記以外にも、エポキシ硬化剤としては、ポリアミド樹脂;2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;無水フタル酸などのカルボン酸無水物などの化合物が挙げられる。
【0044】
さらに、エポキシ硬化剤としては、活性アミンがブロックされており、水分などの所定の条件下で活性化するケチミンなどの潜在型硬化剤であってもよい。たとえばケチミンは、水分がない状態では安定に存在するが、水分の存在によって一般に一級アミンとなり、エポキシ樹脂と反応する。具体的には、2,5,8-トリアザ-1,8- ノナジエン、2,10- ジメチル-3,6,9- トリアザ-2,9- ウンデカジエン、2,10- ジフェニール-3,6,9- トリアザ-2,9- ウンデカジエン、3,11- ジメチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、3,11- ジエチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、2,4,12,14-テトラメチル-5,8,11-トリアザ-4,11-ペンタデカジエン、2,4,20,22-テトラメチル-5,12,19- トリアザ-4,19-トリエイコサジエン、2,4,15,17-テトラメチル-5,8,11,14- テトラアザ-4,14-オクタデカジエンなどが挙げられる。
エポキシ硬化剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0045】
充填用樹脂組成物中のエポキシ硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対し、たとえば20重量部以上60重量部以下、好ましくは30重量部以上50重量部以下である。あるいは、エポキシ硬化剤として潜在型硬化剤を用いる場合は、活性化により生じる活性アミノ基の総モル数に対する、エポキシ樹脂のエポキシ基の総モル数(エポキシ基の総モル数/活性アミノ基の総モル数)は、たとえば0.8以上1.2以下、好ましくは0.9以上1.1以下である。上記下限値以上であることは、硬化膜の弾性率の観点で好ましく、上記上限値以下であることは、貯蔵安定性の点で好ましい。
【0046】
充填用樹脂組成物500’中には、必要に応じて、他の添加剤をさらに含んでいてもよい。他の添加剤としては、脱水剤、酸化防止剤、充填材、可塑剤、タレ防止剤、紫外線吸収剤、顔料、溶剤、及び香料などが挙げられる。
【0047】
上述の充填用樹脂組成物500’としては、さらに水が加えられた、非加熱または加熱されたものが用いられてよい。加熱される場合、たとえば40度以上80度以下の温度とすることができる。上記下限値以上であることは、短時間で十分な接着力を得る点で好ましい。上記上限値以下であることは、保護シート300の損傷を防ぐ点で好ましい。
【0048】
[1-3-2.充填用樹脂組成物の物性]
充填用樹脂組成物500’の粘度は、たとえば150Pa・s以上1000Pa・s以下、好ましくは300Pa・s以上700Pa・s以下であってよい。粘度が上記下限値以上であることは、垂れにくさの点で好ましく、上記上限値以下であることは、塗りやすさの点で好ましい。また、粘度が上記下限値以上であることは、充填用樹脂組成物500’の塗膜の厚みを適度に確保することができ、上記上限値以下であることは、充填用樹脂組成物500’の密着性が良好になるため、保護シート300の剥離をより効果的に抑制することができる点で好ましい。なお、本明細書において粘度は、JIS Z 8803に準拠して単一円筒形粘度計としてB型粘度計を用い、No.7ローター、23℃で測定した値である。粘度を上記の範囲内とすることによって、作業性が良好となる。
【0049】
また、充填用樹脂組成物500’のチクソインデックス(23℃)が3.5以上9.0以下、好ましくは4.5以上8.0以下であってよい。なお、チクソインデックスは、BS粘度計を用い、No.7ローターの1rpmの条件下で測定した粘度を、前記BS粘度計を用い、前記No.7ローターの10rpmの条件下で測定した粘度で除した値として得られる。チクソインデックスを上記の範囲内とすることによって、作業性が良好となる。
【0050】
[1-4.貼付工程]
充填用樹脂組成物500’の層を設けた後、コンクリート建造物200の表面全体に保護シート300を貼り付ける。この時、保護シート300は出隅250の面取り面251およびその両面を一体的に被覆する。この時、保護シート300の屈曲面が滑らかになるように貼り付ける。充填用樹脂組成物500’の層が設けられているため、本工程によって、従来的に浮きが生じていた部分が充填用樹脂組成物500’で充填されるとともに充填用樹脂組成物500’の表面を緩やか且つ滑らかな形状に形成することができる、したがって、保護シート300の出隅250への追従性が良好となる。
【0051】
[1-4-1.保護シート]
保護シート300は、樹脂層310と炭素膜350とを含む。本実施形態では、保護シート300の樹脂層310の側がコンクリート建造物200に対向するように貼り付けているが、この態様に限定されない。本発明においては、保護シートの炭素膜350の側がコンクリート建造物200に対向するように貼り付けてもよい。
【0052】
保護シート300の弾性率(GPa)と厚み(μm)との積は、たとえば200以上900以下、好ましくは300以上900以下であってよい。当該積が上記下限値以上であることは、コンクリート建造物200の表面(特に面取り面251以外の広い領域全体)の被覆部分においてシワの発生を容易に防止することができる点で好ましく、上記上限値以下であることは、出隅250の被覆部分において保護シート300の浮きの発生を容易に防止できる点で好ましい。
【0053】
具体的には、保護シート300の弾性率は、ASTM D 882に準拠した測定値で0.7GPa以上7GPa以下、好ましくは1GPa以上7GPa以下、より好ましくは2GPa以上6GPa以下であってよい。弾性率が上記下限値以上であることは、保護シート300のコシが良好でありシワの発生を抑制しやすい点で好ましく、上記上限値以下であることは、浮きの発生を抑制しやすい点で好ましい。また、保護シート300の厚みは、たとえば50μm以上500μm以下、好ましくは75μm以上200μm以下であってよい。当該厚みが上記下限値以上であることは、保護シート300のコシが良好でありシワの発生を抑制しやすい点で好ましく、上記上限値以下であることは、浮きの発生を抑制しやすい点で好ましい。
【0054】
保護シート300は、紫外線透過率がたとえば80%以下、好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下であってよい。紫外線透過率は、分光光度計(たとえば島津製作所製、UV-2600)を用いて測定することができる。保護シート300がこのような紫外線バリア性を具備することによって、保護シート300自体の劣化、接着剤樹脂組成物400’の硬化物(接着層400)および充填用樹脂組成物500’(接着層500)および/またはコンクリート210の劣化を好ましく抑制することができる。
【0055】
[1-4-2.樹脂層]
樹脂層310の材質としては樹脂であればよく、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、フッ素樹脂(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体など)、ポリアミド樹脂(ナイロンなど)、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)などが挙げられる。
この中でも、炭素膜350の好ましい破損抑制効果を得る観点から、ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0056】
樹脂層310を構成する樹脂の、JIS K7197に準拠した線膨張率は、10×10-5/K以下、好ましくは5×10-5/K以下、より好ましくは3×10-5/K以下、さらに好ましくは2×10-5/K以下、さらに一層好ましくは1.5×10-5/K以下であってよい。上記上限値以下であることは、樹脂層310自体の割れを防止し、炭素膜350の追随的な割れも防止する点で好ましい。当該線膨張率の範囲内の下限値は特に限定されないが、好ましくは0/Kである。
【0057】
[1-4-3.炭素膜]
保護シート300の保護層は、炭素で構成される炭素膜350である。炭素膜350は、コンクリート210の中性化を抑制する。炭素膜350としては種々の炭素膜が適用されるが、中性化抑制効果の観点から好ましくはダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が好ましい。また、DLC膜は、酸素、水蒸気および紫外線の透過を抑制することもできる。DLC膜は、ダイヤモンド構造(sp3結合)とグラファイト構造(sp2結合)とを両方含む非晶質の膜である。また、炭素膜には水素、酸素、窒素を含むことも許容する。ダイヤモンド構造とグラファイト構造との混在比率、および水素、酸素、窒素の含有率は特に限定されない。より具体的には、ta-C(テトラへドラルアモルファスカーボン)、a-C(アモルファスカーボン)、ta-C:H(水素化テトラへドラルアモルファスカーボン)、およびa-C:H(水素化アモルファスカーボン)が挙げられる。
【0058】
炭素膜350の厚みは、樹脂層310の厚みに対したとえば0.005%以上0.5%以下であってよい。あるいは、10nm以上1000nm以下、好ましくは10nm以上500nm以下、さらに好ましくは10nm以上200nm以下であってもよい。炭素膜350の厚みが上記下限値以上であることは中性化抑制効果を得られやすい点で好ましく、上記上限値以下であることは炭素膜350の破損を起こしにくくすることができる点で好ましい。
【0059】
保護シート300は、樹脂層310を基材とし、種々の気相成膜法によって炭素膜を形成することによって製造することができる。たとえば気相成膜法の具体例としては、プラズマCVD法およびスパッタ法などが挙げられる。さらに、プラズマCVD法としては、大気圧プラズマCVD法、および高真空下でのプラズマCVD法が挙げられる。
【0060】
[1-5.セメント硬化体構造物の表面保護構造] 貼付工程が完了した後、養生して接着剤樹脂組成物400’の塗布層および充填用樹脂組成物500’の層を硬化させる。これによって、保護シート300が接着層400(接着剤樹脂組成物400’の硬化物)および接着層500(充填用樹脂組成物500’の硬化物)により、出隅250を含めコンクリート建造物200の表面全体に強固に接着し、表面保護構造100を構成する。出隅250においては、接着層500の表面が緩やか且つ滑らかに形成されていることで、保護シート300が追従性良く接着されているため、外観良好となる。
【0061】
表面保護構造100の出隅250は実使用環境において外部からの物理的負荷を受けやすい。接着層500が変性シリコーン樹脂を含む充填用樹脂組成物500’の硬化物であるため、その弾性により、出隅250にかかる負荷を吸収することができる。したがって、表面保護構造100は実使用環境において保護状態が良好に維持される。
【0062】
接着層500を構成する充填用樹脂組成物500’の硬化物のJIS K6251に準拠した引張強さは、たとえば1.0N/mm以上、好ましくは1.2N/mm以上であってよい。これによって、隣接表面(保護シート300の表面、または、保護シート300の表面およびコンクリート建造物200の表面)との接着強度に優れ、保護状態が良好に維持される。接着層500の引張強さは、たとえば10N/mm以下、好ましくは5N/mm以下であってよい。これによって、適度な剛性が確保されて接着層500の厚みが好ましく維持されるなどにより保護状態が良好に維持される。
【0063】
接着層500を構成する充填用樹脂組成物500’の硬化物のJIS K6251に準拠した引張り強さは、接着層400の当該引張り強さのたとえば0.5倍以上1倍以下、好ましくは0.6倍以上0.8倍以下であってよい。接着層500の引張り強さが上記下限以上であることは、接着層400への追随が良好で接着層400との接着状態が保たれる点で好ましく、上記上限値以下であることは、適度な剛性が確保されて保護状態が良好に維持される点で好ましい。
【0064】
接着層500を構成する充填用樹脂組成物500’の硬化物のJIS K6251に準拠した伸び率は、たとえば10%以上、好ましくは150%以上、より好ましくは300%以上であってよい。これによって、隣接表面(保護シート300の表面、または、保護シート300の表面およびコンクリート建造物200の表面)との接着強度に優れ、保護状態が良好に維持される。接着層500の伸び率の上限は特に限定されず、大きいほど好ましい。
【0065】
接着層500を構成する充填用樹脂組成物500’の硬化物のJIS K6251に準拠した伸び率は、接着層400の当該伸び率のたとえば1.5倍以上4倍以下、好ましくは1.6倍以上3.7倍以下であってよい。接着層500の伸び率が上記下限以上であることは、接着層400への追随が良好で接着層400との接着状態が保たれる点で好ましく、上記上限以下であることは、適度な剛性が確保されて保護状態が良好に維持される点で好ましい。
【0066】
[2.第2実施形態]
以下における第2実施形態では、主に第1実施形態と異なる点について説明し、共通する点については基本的に説明を省略する。
【0067】
図3および図4に、第2実施形態のセメント硬化体構造物の表面保護構造およびそれを得るためのセメント硬化体構造物の表面保護工法を説明する模式的断面図を示す。
本実施形態では、コンクリート建造物200の入隅250aを含む部分を保護する。本実施形態では入隅250aは面取り面251aを有する。これによって、充填用樹脂組成物が入隅250a全体に塗布される。
【0068】
図3に示すように、接着剤塗布工程により接着剤樹脂組成物400’の塗布層を形成し、予備塗布工程により入隅250aの面取り面251aに充填用樹脂組成物500’の塗布層を形成する。図示された態様では、接着剤樹脂組成物400’の層を介して充填用樹脂組成物500’が塗布されているがこの態様に限定されない。たとえば、接着剤樹脂組成物400’の層が面取り面251aで欠落し、充填用樹脂組成物500’が面取り面251aに直接塗布されていてもよい。
【0069】
図4に示すように、貼付工程により保護シート300を入隅250aの面取り面251aおよびその両面を一体的に被覆する。このとき、保護シート300の屈曲面が滑らかになるように貼り付ける。その後、養生して接着剤樹脂組成物400’の塗布層および充填用樹脂組成物500’の層を硬化させ、保護シート300が接着層400(接着剤樹脂組成物400’の硬化物)および接着層500(充填用樹脂組成物500’の硬化物)により接着された表面保護構造100aを構成する。入隅250aにおいては、接着層500の表面が緩やか且つ滑らかに形成されていることで保護シート300が追従性良く接着されているため、入隅250aにおいても保護シート300に浮きが生じることなく強固に接着されている。
【0070】
本実施形態では、入隅250aが面取り面251aを有する態様を示したが、この態様に限定されるものではない。たとえば、入隅250aが面取り面251aを有さない場合(本実施形態では入隅250aが直角である場合)は、より多くの充填用樹脂組成物500’を用いればよい。
【実施例
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1~実施例8]
セメント硬化体構造物の試験体として、600mm×600mm×2000mm、C面の巾約30mmのボックスカルバートを用意した。
充填用樹脂組成物として、変性シリコーンを含む接着剤樹脂組成物(積水フーラー社製、開発品番A-430C)を用意した。この充填用樹脂組成物の、粘度(JIS Z 8803に準拠して単一円筒形粘度計としてB型粘度計を用い、No.7ローター、23℃で測定した値)は500Pa・sであり、チクソインデックス(BS粘度計を用い、No.7ローターの1rpmの条件下で測定した粘度を、前記BS粘度計を用い、前記No.7ローターの10rpmの条件下で測定した粘度で除した値)は7、硬化物のJIS K6251に準拠した引張強さは1.0N/mmであった。
保護シートとして、40nmのDLC膜が所定厚(表1参照)の樹脂シートに設けられた積層シートを用意した。この積層シートのASTM D 882に準拠した弾性率は、0.8GPa、4.7GPa、または6GPaであった。
【0073】
ボックスカルバートの外側の角部(出隅側)を含む表面全体に、接着剤樹脂組成物(積水フーラー社製、開発品番A-430T)を1.0mm程度の塗布厚で塗布した。さらに、角部の面取り面上に、充填用樹脂組成物を1.0mmから10mm程度の塗布厚で塗布した。その後,保護シートを貼付けし養生して,ボックスカルバートの表面保護構造を得た。もしくは,ボックスカルバートの外側の角部の面取り面上に、充填用樹脂組成物を1.0mmから10mm程度の塗布厚で塗布した。接着剤樹脂組成物(積水フーラー社製、開発品番A-430T)を1.0mm程度の塗布厚で塗布した保護シートを貼付し、養生して、ボックスカルバートの表面保護構造を得た。
【0074】
表1に、保護シートの具体的層構成、各層厚み、弾性率(GPa)と総厚み(μm)との積、および施工評価(角部における浮きの有無)についてまとめる。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示すように、すべての実施例において、角部の浮きは発生しなかった。実施例1から7の中でも、特に実施例1~5は、角部の浮きが発生しないだけでなく、実施例6から8に比べ、角部以外の面においてもシワの発生がなく外観が良好であり、かつ、保護シートの取り扱い、および、角部の浮きを発生させず且つ角部以外の面におけるシワを発生させない仕上げがより容易であった。さらに実施例1,2,3,5は、実施例4に比べ、保護シートの取り扱い、および、角部の浮きを発生させず且つ角部以外の面におけるシワを発生させない仕上げが特に容易であった。
【0077】
[比較例1~比較例5]
充填用樹脂組成物を用いなかったことを除いて、それぞれ、実施例1から5と同様にしてボックスカルバートの表面保護構造を得た。
表2に、保護シートの具体的層構成、各層厚み、弾性率(GPa)と総厚み(μm)との積、および施工評価(角部における浮きの有無)についてまとめる。
【0078】
【表2】
【0079】
表2に示すように、すべての比較例において、角部に浮きが発生した。
【0080】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。
【0081】
[実施形態の各部と請求項の各構成要素との対応関係]
本明細書において、表面保護構造100,100aが請求項の「セメント硬化体構造物の表面保護構造」に相当し、コンクリート建造物200が「セメント硬化体構造物」に相当し、出隅250および入隅250aが「角部」に相当し、面取り面251,251aが「角部表面」に相当し、保護シート300が「保護シート」に相当し、充填用樹脂組成物500’が「充填用樹脂組成物」に相当し、接着層500が「充填用樹脂組成物の硬化物」に相当する。
【符号の説明】
【0082】
100,100a 表面保護構造(セメント硬化体構造物の表面保護構造)
200 コンクリート建造物(セメント硬化体構造物)
250 出隅(角部)
250a 入隅(角部)
251,251a 面取り面(角部表面)
300 保護シート
500’ 充填用樹脂組成物
500 接着層(充填用樹脂組成物の硬化物)
図1
図2
図3
図4
図5