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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20220106BHJP
   F16H 9/12 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H9/12 B
F16H57/04 G
F16H57/04 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017180490
(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公開番号】P2019056406
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓬田 嘉之
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-102858(JP,A)
【文献】特開2003-214512(JP,A)
【文献】特開2014-5873(JP,A)
【文献】特開2010-270773(JP,A)
【文献】特開平5-64759(JP,A)
【文献】実開昭59-146075(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリと、
前記プライマリプーリに巻き回されるチェーンベルトと、
前記プライマリプーリに接触していた前記チェーンベルトが前記プライマリプーリから離れ始める位置である前記プライマリプーリの出口位置にオイルを供給するオイル供給部と、
制御部と、
を有し、
前記オイル供給部は、
内部の空間にオイルが供給されるガイドレールと、
前記ガイドレールの内外の空間を連通させ、前記プライマリプーリの前記出口位置に臨んで開口する開口部と、
前記開口部を開閉させるシャッタと、
前記シャッタを移動させるアクチュエータと、
を有し、
前記制御部は、アンダードライブを示す情報を取得した場合、前記アクチュエータを駆動させて、前記シャッタに前記開口部を開放させ、オーバードライブを示す情報を取得した場合、前記アクチュエータを駆動させて、前記シャッタに前記開口部を閉塞させる無段変速機。
【請求項2】
プライマリプーリと、
前記プライマリプーリに巻き回されるチェーンベルトと、
前記プライマリプーリに接触していた前記チェーンベルトが前記プライマリプーリから離れ始める位置である前記プライマリプーリの出口位置にオイルを供給するオイル供給部と、
制御部と、
を有し、
前記オイル供給部は、
内部の空間にオイルが供給されるガイドレールと、
前記ガイドレールの内外の空間を連通させ、前記プライマリプーリの回転軸に臨んで開口する開口部と、
前記開口部の開口面積を変化させるシャッタと、
前記シャッタを移動させるアクチュエータと、
を有し、
前記開口部は、前記プライマリプーリの前記出口位置が、前記開口部から噴射されるオイルの噴射角の範囲内に収まるような開口面積を有し、
前記制御部は、アンダードライブを示す情報を取得した場合、前記アクチュエータを駆動させて、前記シャッタに前記開口部を開放させ、オーバードライブを示す情報を取得した場合、前記アクチュエータを駆動させて、前記シャッタに前記開口部の開口面積を前記アンダードライブの場合に比べ縮小させる無段変速機。
【請求項3】
固定シーブと、前記固定シーブに対して回転軸方向に移動可能な可動シーブと、を有するプライマリプーリと、
前記プライマリプーリに巻き回されて、前記固定シーブと前記可動シーブとによって挟持されるチェーンベルトと、
前記プライマリプーリの前記可動シーブ側にオイルを供給するオイル供給部と、
制御部と、
を有し、
前記オイル供給部は、
内部の空間にオイルが供給されるガイドレールと、
前記ガイドレールの内外の空間を連通させ、前記プライマリプーリの前記可動シーブ側に臨んで開口する開口部と、
前記開口部を開閉させるシャッタと、
前記シャッタを移動させるアクチュエータと、
を有し、
前記制御部は、アンダードライブを示す情報を取得した場合、前記アクチュエータを駆動させて、前記シャッタに前記開口部を開放させ、オーバードライブを示す情報を取得した場合、前記アクチュエータを駆動させて、前記シャッタに前記開口部を閉塞させる無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(CVT)では、プライマリプーリおよびセカンダリプーリにチェーンベルトが巻き回されており、プライマリプーリの回転がチェーンベルトによってセカンダリプーリに伝達される。無段変速機では、チェーンベルトとプライマリプーリとの間やチェーンベルトとセカンダリプーリとの間に微小スリップが発生する。例えば、特許文献1には、微小スリップによって発生する熱を、オイルによって放散させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-133933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微小スリップによって発生する熱を、より効率的に放散させることが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、発生する熱を効率的に放散させることが可能な無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の無段変速機は、プライマリプーリと、プライマリプーリに巻き回されるチェーンベルトと、プライマリプーリに接触していたチェーンベルトがプライマリプーリから離れ始める位置であるプライマリプーリの出口位置にオイルを供給するオイル供給部と、制御部と、を有し、オイル供給部は、内部の空間にオイルが供給されるガイドレールと、ガイドレールの内外の空間を連通させ、プライマリプーリの出口位置に臨んで開口する開口部と、開口部を開閉させるシャッタと、シャッタを移動させるアクチュエータと、を有し、制御部は、アンダードライブを示す情報を取得した場合、アクチュエータを駆動させて、シャッタに開口部を開放させ、オーバードライブを示す情報を取得した場合、アクチュエータを駆動させて、シャッタに開口部を閉塞させる
また、上記課題を解決するために、本発明の無段変速機は、プライマリプーリと、プライマリプーリに巻き回されるチェーンベルトと、プライマリプーリに接触していたチェーンベルトがプライマリプーリから離れ始める位置であるプライマリプーリの出口位置にオイルを供給するオイル供給部と、制御部と、を有し、オイル供給部は、内部の空間にオイルが供給されるガイドレールと、ガイドレールの内外の空間を連通させ、プライマリプーリの回転軸に臨んで開口する開口部と、開口部の開口面積を変化させるシャッタと、シャッタを移動させるアクチュエータと、を有し、開口部は、プライマリプーリの出口位置が、開口部から噴射されるオイルの噴射角の範囲内に収まるような開口面積を有し、制御部は、アンダードライブを示す情報を取得した場合、アクチュエータを駆動させて、シャッタに開口部を開放させ、オーバードライブを示す情報を取得した場合、アクチュエータを駆動させて、シャッタに開口部の開口面積をアンダードライブの場合に比べ縮小させる。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の無段変速機は、固定シーブと、固定シーブに対して回転軸方向に移動可能な可動シーブと、を有するプライマリプーリと、プライマリプーリに巻き回されて、固定シーブと可動シーブとによって挟持されるチェーンベルトと、プライマリプーリの可動シーブ側にオイルを供給するオイル供給部と、制御部と、を有し、オイル供給部は、内部の空間にオイルが供給されるガイドレールと、ガイドレールの内外の空間を連通させ、プライマリプーリの可動シーブ側に臨んで開口する開口部と、開口部を開閉させるシャッタと、シャッタを移動させるアクチュエータと、を有し、制御部は、アンダードライブを示す情報を取得した場合、アクチュエータを駆動させて、シャッタに開口部を開放させ、オーバードライブを示す情報を取得した場合、アクチュエータを駆動させて、シャッタに開口部を閉塞させる
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発生する熱を効率的に放散させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】無段変速機の基本構造を説明する図である。
図2】プライマリプーリ、セカンダリプーリおよびチェーンベルトの側面模式図である。
図3】チェーンベルトの構成を示す部分拡大図である。
図4】チェーンベルトの各位置におけるオイルの上昇温度をCAEによって解析した結果を示す図である。
図5】チェーンベルトの各位置におけるオイルの上昇温度をCAEによって解析した結果を示す図である。
図6】チェーンベルトの各位置におけるオイルの上昇温度を測定した結果の一例を示す図である。
図7】第1実施形態による無段変速機の構成を示す断面図である。
図8】ガイドレールの構成を示す斜視図である。
図9】第2実施形態による無段変速機の構成を示す断面図である。
図10】ガイドレールの構成を示す斜視図である。
図11】ガイドレールによるオイルの噴射位置を示す概略図である。
図12】第3実施形態による無段変速機の構成を示す断面図である。
図13】ガイドレールの構成を示す斜視図である。
図14】第4実施形態による無段変速機の構成を示す断面図である。
図15】ガイドレールの構成を示す斜視図である。
図16】第5実施形態における無段変速機のガイドレールを示す概略図である。
図17】第5実施形態における無段変速機のガイドレールを示す概略図である。
図18】第6実施形態における無段変速機のガイドレールを示す概略図である。
図19】第6実施形態における無段変速機のガイドレールを示す概略図である。
図20】第7実施形態における無段変速機のガイドレールを示す概略図である。
図21】第7実施形態における無段変速機のガイドレールを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(無段変速機の基本構造)
図1は、無段変速機の基本構造を説明する図である。無段変速機は、入力側となるプライマリプーリ10と、出力側となるセカンダリプーリ20と、を備えている。プライマリプーリ10は、回転軸方向の移動が規制されている固定シーブ11と、固定シーブ11に対して回転軸方向に移動可能な可動シーブ12と、を備えている。固定シーブ11および可動シーブ12は、それぞれ円錐状のコーン面11a、12aを備えており、これらコーン面11a、12aを回転軸方向に対向させている。コーン面11a、12aの対向間隔は、回転軸に近づくほど狭くなり、回転軸から離れるほど広くなっている。
【0019】
同様に、セカンダリプーリ20は、回転軸方向の移動が規制されている固定シーブ21と、固定シーブ21に対して回転軸方向に移動可能な可動シーブ22と、を備えている。固定シーブ21および可動シーブ22は、それぞれ円錐状のコーン面21a、22aを備えており、これらコーン面21a、22aを回転軸方向に対向させている。コーン面21a、22aの対向間隔は、回転軸に近づくほど狭くなり、回転軸から離れるほど広くなっている。
【0020】
プライマリプーリ10とセカンダリプーリ20とには、図1中一点鎖線で示すチェーンベルト30が巻き回されている。プライマリプーリ10では、コーン面11aとコーン面12aとによって形成される溝にチェーンベルト30が巻き回される。セカンダリプーリ20では、コーン面21aとコーン面22aとによって形成される溝にチェーンベルト30が巻き回される。
【0021】
チェーンベルト30は、プライマリプーリ10のコーン面11a、12aによって挟持されている。プライマリプーリ10が回転すると、コーン面11a、12aとチェーンベルト30との摩擦抵抗によってチェーンベルト30が回転する。また、チェーンベルト30は、セカンダリプーリ20のコーン面21a、22aにも挟持されている。チェーンベルト30が回転すると、コーン面21a、22aとチェーンベルト30との摩擦抵抗によってコーン面21a、22a、すなわち、セカンダリプーリ20が回転することとなる。
【0022】
プライマリプーリ10の可動シーブ12は、不図示のオイルポンプから油圧制御弁を介して供給されるオイルの圧力により、回転軸方向の位置が変えられる。このように、プライマリプーリ10は、固定シーブ11と可動シーブ12との対向間隔、すなわち、コーン面11aとコーン面12aとの対向間隔が可変となっている。コーン面11aとコーン面12aとの対向間隔が変わると、チェーンベルト30が巻き回される溝幅が変更されることとなる。その結果、プライマリプーリ10におけるチェーンベルト30の巻き回される位置が変更されることとなる。
【0023】
また、セカンダリプーリ20の可動シーブ22は、可動シーブ12と同様に、オイルポンプから油圧制御弁を介して供給されるオイルの油圧により、回転軸方向の位置が変えられる。このように、セカンダリプーリ20は、固定シーブ21と可動シーブ22との対向間隔、すなわち、コーン面21aとコーン面22aとの対向間隔が可変となっている。コーン面21aとコーン面22aとの対向間隔が変わると、チェーンベルト30が巻き回される溝幅が変更されることとなる。その結果、セカンダリプーリ20におけるチェーンベルト30の巻き回される位置が変更されることとなる。
【0024】
例えば、プライマリプーリ10のコーン面11aとコーン面12aとの対向間隔が広くなると、コーン面11a、12aのうち、チェーンベルト30が巻き回される位置は、回転軸に近づく方向に移動し、チェーンベルト30の巻き回し半径が小さくなる。このとき、セカンダリプーリ20では、コーン面21aとコーン面22aとの対向間隔が狭くなり、コーン面21a、22aのうち、チェーンベルト30が巻き回される位置は、回転軸から離れる方向に移動し、チェーンベルト30の巻き回し半径が大きくなる。一方、プライマリプーリ10のコーン面11aとコーン面12aとの対向間隔が狭くなると、コーン面11a、12aのうち、チェーンベルト30が巻き回される位置は、回転軸から離れる方向に移動し、チェーンベルト30の巻き回し半径が大きくなる。このとき、セカンダリプーリ20では、コーン面21aとコーン面22aとの対向間隔が広くなり、コーン面21a、22aのうち、チェーンベルト30が巻き回される位置は、回転軸に近づく方向に移動し、チェーンベルト30の巻き回し半径が小さくなる。このようにして、無段変速機は、プライマリプーリ10の回転軸とセカンダリプーリ20の回転軸との間の伝達動力を無段変速する。
【0025】
図2は、プライマリプーリ10、セカンダリプーリ20およびチェーンベルト30の側面模式図である。図2に示すように、プライマリプーリ10、セカンダリプーリ20およびチェーンベルト30は、図2中矢印で示す反時計回り方向に回転する。チェーンベルト30は、プライマリプーリ10に半径Rpriで巻き回されている。また、チェーンベルト30は、セカンダリプーリ20に半径Rsecで巻き回されている。
【0026】
図2中右側のチェーンベルト30は、回転するとプライマリプーリ10に接触し始める。プライマリプーリ10に接触したチェーンベルト30は、半径Rpriで回転した後、プライマリプーリ10から離れる。その後、チェーンベルト30は、セカンダリプーリ20に接触し始める。セカンダリプーリ20に接触したチェーンベルト30は、半径Rsecで回転した後、セカンダリプーリ20から離れる。チェーンベルト30は、これらを繰り返す。
【0027】
本明細書では、チェーンベルト30がプライマリプーリ10と接触し始める位置を、プライマリプーリ10の入口位置15と呼ぶ。入口位置15は、換言すると、プライマリプーリ10における巻き回し始め位置である。また、プライマリプーリ10に接触していたチェーンベルト30がプライマリプーリ10から離れ始める位置を、プライマリプーリ10の出口位置16と呼ぶ。出口位置16は、換言すると、プライマリプーリ10における巻き回し終わり位置である。また、チェーンベルト30がセカンダリプーリ20と接触し始める位置を、セカンダリプーリ20の入口位置25と呼ぶ。入口位置25は、換言すると、セカンダリプーリ20における巻き回し始め位置である。また、セカンダリプーリ20に接触していたチェーンベルト30がセカンダリプーリ20から離れ始める位置を、セカンダリプーリ20の出口位置26と呼ぶ。出口位置26は、換言すると、セカンダリプーリ20における巻き回し終わり位置である。
【0028】
ここで、プライマリプーリ10の回転軸とセカンダリプーリ20の回転軸との間の長さ(芯間長さ)をLsとする。プライマリプーリ10の回転軸とセカンダリプーリ20の回転軸とを通る直線を中心線Cとする。直線17は、プライマリプーリ10の回転軸を通り、中心線Cに垂直に交差する。直線18は、プライマリプーリ10の回転軸と、プライマリプーリ10の入口位置15とを通る。直線19は、プライマリプーリ10の回転軸と、プライマリプーリ10の出口位置16とを通る。直線27は、セカンダリプーリ20の回転軸を通り、中心線Cに垂直に交差する。直線28は、セカンダリプーリ20の回転軸と、セカンダリプーリ20の入口位置25とを通る。直線29は、セカンダリプーリ20の回転軸と、セカンダリプーリ20の出口位置26とを通る。
【0029】
直線17と直線18との間の角度、直線17と直線19との間の角度、直線27と直線28との間の角度、直線27と直線29との間の角度は、それぞれ等しい。これらの角度を角度γとする。チェーンベルト30の長さLcは、以下の式(1)により算出することができる。
Lc=Rpri(π-2γ)+Rsec(π+2γ)+2Lscos(γ)・・・(1)
【0030】
プーリ比iが1以上の場合、プライマリプーリ10の巻き回し半径Rpriおよびセカンダリプーリ20の巻き回し半径Rsecは、以下の式(2)および式(3)により算出することができる。プーリ比iは、プライマリプーリ10の巻き回し半径Rpriに対するセカンダリプーリ20の巻き回し半径Rsecの比である。
Rpri=Ls・sin(γ) ・・・(2)
Rsec=i・Ls・sin(γ) ・・・(3)
【0031】
プーリ比iが1未満の場合、プライマリプーリ10の巻き回し半径Rpriおよびセカンダリプーリ20の巻き回し半径Rsecは、以下の式(4)および式(5)により算出することができる。
Rpri=Ls・sin(-γ) ・・・(4)
Rsec=i・Ls・sin(-γ) ・・・(5)
【0032】
プーリ比iが1以上の場合、式(1)、式(2)および式(3)から、角度γを変数とした以下の式(6)の関係式が成り立つ。
Ls・sin(γ)(π-2γ)+i・Ls・sin(γ)(π+2γ)
+2Ls・cos(γ)-Lc=0 ・・・(6)
【0033】
プーリ比iが1未満の場合、式(1)、式(4)および式(5)から、角度γを変数とした以下の式(7)の関係式が成り立つ。
Ls・sin(-γ)(π-2γ)+i・Ls・sin(-γ)(π+2γ)
+2Ls・cos(γ)-Lc=0 ・・・(7)
【0034】
チェーンベルト30の長さLcおよび芯間長さLsは、無段変速機1に固有の値であり、既知である。また、プーリ比iは、TCU(トランスミッションコントロールユニット)などによる制御対象であるため、算出可能である。このため、式(6)および式(7)から、角度γを算出することができる。角度γが算出されれば、プライマリプーリ10の入口位置15、出口位置16、セカンダリプーリ20の入口位置25、出口位置16の各々が分かることとなる。
【0035】
ここでは、チェーンベルト30における幾何学的な関係を説明した。これらは、後述の各実施形態において説明する、オイルを噴きかける位置(オイルを噴射する開口部の位置)を決定する際に用いられる。
【0036】
また、プライマリプーリ10の巻き回し半径Rpriがセカンダリプーリ20の巻き回し半径Rsecよりも小さい状態(プーリ比が1以上の状態)をアンダードライブと呼ぶ。プライマリプーリ10の巻き回し半径Rpriがセカンダリプーリ20の巻き回し半径Rsecよりも大きい状態(プーリ比が1未満の状態)をオーバードライブと呼ぶ。アンダードライブの場合、プライマリプーリ10における固定シーブ11と可動シーブ12との対向間隔が広く、セカンダリプーリ20における固定シーブ21と可動シーブ22との対向間隔が狭い。一方、オーバードライブの場合、プライマリプーリ10における固定シーブ11と可動シーブ12との対向間隔が狭く、セカンダリプーリ20における固定シーブ11と可動シーブ12との対向間隔が広い。
【0037】
また、プライマリプーリ10およびセカンダリプーリ20には、チェーンベルト30の回転を潤滑にさせるためにオイルが噴射される。オイルは、プライマリプーリ10の回転軸およびセカンダリプーリ20の回転軸に向かって噴射される。
【0038】
図3は、チェーンベルト30の構成を示す部分拡大図である。図3では、チェーンベルト30の回転方向を矢印で示している。チェーンベルト30は、リンクプレート31とロッカーピン32とを含んで構成される。リンクプレート31は、例えば、金属製の薄板によって構成される。リンクプレート31には、リンクプレート31を厚さ方向に貫通する前方孔部33および後方孔部34が設けられる。前方孔部33は、後方孔部34に比べ、チェーンベルト30の回転方向の前方側に位置する。後方孔部34は、前方孔部33に比べ、チェーンベルト30の回転方向の後方側に位置する。
【0039】
前方孔部33および後方孔部34には、ロッカーピン32が挿通される。また、リンクプレート31は、ロッカーピン32の挿通方向に複数積層される。ロッカーピン32は、積層された複数のリンクプレート31を貫通する。
【0040】
共通のロッカーピン32が挿通される複数のリンクプレート31には、ロッカーピン32が前方孔部33に挿通されるものと、後方孔部34に挿通されるものとがある。すなわち、共通のロッカーピン32に対して、チェーンベルト30の回転方向の前方側に位置するリンクプレート31では、ロッカーピン32が後方孔部34に挿通される。一方、共通のロッカーピン32に対して、チェーンベルト30の回転方向の後方側に位置するリンクプレート31では、ロッカーピン32が前方孔部33に挿通される。このようにして、チェーンベルト30は、リンクプレート31がロッカーピン32によってチェーンベルト30の回転方向に無端状に連結されて構成される。
【0041】
ロッカーピン32は、先行ピン32aと追従ピン32bとによって構成される。先行ピン32aは、チェーンベルト30の回転方向の前方側に位置する。追従ピン32bは、チェーンベルト30の回転方向の後方側に位置する。先行ピン32aにおける追従ピン32bに対向する面、および、追従ピン32bにおける先行ピン32aに対向する面は、それぞれ湾曲している。また、先行ピン32aおよび追従ピン32bの長手方向(すなわち、チェーンベルト30の幅方向)の両端面は、プライマリプーリ10のコーン面11a、12a、セカンダリプーリ20のコーン面21a、22aに対向する。
【0042】
(従来の無段変速機についての分析)
無段変速機では、プライマリプーリ10とチェーンベルト30との間やセカンダリプーリ20とチェーンベルト30との間に微小スリップが発生する。微小スリップは、チェーンベルト30と各プーリとが、互いに僅かに滑る現象のことである。微小スリップが発生すると、熱が発生する。熱が発生すると、チェーンベルト30に付着しているオイルの温度が上昇する。発明者は、従来の無段変速機について、オイルの上昇温度の解析および測定を行った。
【0043】
図4および図5は、チェーンベルト30の各位置におけるオイルの上昇温度をCAEによって解析した結果を示す図である。図4は、チェーンベルト30における可動シーブ12、22側を示す。図5は、チェーンベルト30における固定シーブ11、21側を示す。図4および図5の横軸は、チェーンベルト30の回転方向の位置を示す。図4および図5の縦軸は、オイルの上昇温度を示す。オイルの上昇温度は、チェーンベルト30の各位置におけるオイルの温度と、無段変速機に供給されるオイルの温度との差分によって算出される。
【0044】
また、図4および図5では、フルトルク時における解析結果が示されている。フルトルクとは、無段変速機に入力される可能性のある最大のトルクのことである。エンジンと無段変速機との間にギアが挿入されていることで、エンジンの出力トルクよりも大きなトルクがプライマリプーリ10に入力されることもある。また、フルトルク時は、アンダードライブとなる。
【0045】
図4において、実線で示す解析結果T11は、可動シーブ12、22側の先行ピン32aに付着しているオイルの上昇温度を示す。破線で示す解析結果T12は、可動シーブ12、22側の追従ピン32bに付着しているオイルの上昇温度を示す。
【0046】
解析結果T11および解析結果T12の両方とも、プライマリプーリ10の入口位置15および出口位置16におけるオイルの上昇温度が、セカンダリプーリ20の入口位置25および出口位置26におけるオイルの上昇温度に比べ、大きくなっている。
【0047】
図5において、実線で示す解析結果T21は、固定シーブ11、21側の先行ピン32aに付着しているオイルの上昇温度を示す。破線で示す解析結果T22は、固定シーブ11、21側の追従ピン32bに付着しているオイルの上昇温度を示す。
【0048】
解析結果T21および解析結果T22の両方とも、プライマリプーリ10の入口位置15および出口位置16におけるオイルの上昇温度が、セカンダリプーリ20の入口位置25および出口位置26におけるオイルの上昇温度に比べ、大きくなっている。
【0049】
このように、図4および図5の両方において、オイルの上昇温度は、セカンダリプーリ20の入口位置25および出口位置26よりも、プライマリプーリ10の入口位置15および出口位置16の方が大きくなっている。この理由は、以下のように推測される。アンダードライブのとき、プライマリプーリ10の固定シーブ11と可動シーブ12とによって挟持されるロッカーピン32の数は、セカンダリプーリ20の固定シーブ21と可動シーブ22とによって挟持されるロッカーピン32の数よりも少ない。プライマリプーリ10では、少数のロッカーピン32にシーブ間の挟持力が加わることとなるため、セカンダリプーリ20に比べ、1対のロッカーピン32に加わる挟持力が大きな状態となっている。プライマリプーリ10では、ロッカーピン32に加わる挟持力が大きな状態で微小スリップが生じることとなるため、微小スリップによって発生する熱量が多いと推測される。
【0050】
また、図4図5とを比較すると、プライマリプーリ10の入口位置15において、可動シーブ12側のオイルの上昇温度が、固定シーブ11側のオイルの上昇温度よりも大きくなっている。可動シーブ12には、嵌め合い部に僅かな隙間が生じる。可動シーブ12は、この隙間によって回転軸に対して僅かに倒れる。このような可動シーブ12の僅かな倒れによって、可動シーブ12とチェーンベルト30との間には、微小スリップが発生し易い。このため、可動シーブ12側では、固定シーブ11側に比べ、熱が発生し易いと推測される。
【0051】
図6は、チェーンベルト30の各位置におけるオイルの上昇温度を測定した結果の一例を示す図である。図6では、フルトルク時における測定結果が示されている。
【0052】
一点鎖線で示す測定結果T31は、プライマリプーリ10の入口位置15においてチェーンベルト30に付着しているオイルの上昇温度を示す。実線で示す測定結果T32は、プライマリプーリ10の出口位置16においてチェーンベルト30に付着しているオイルの上昇温度を示す。破線で示す測定結果T33は、セカンダリプーリ20の入口位置25においてチェーンベルト30に付着しているオイルの上昇温度を示す。二点鎖線で示す測定結果T34は、セカンダリプーリ20の出口位置26においてチェーンベルト30に付着しているオイルの上昇温度を示す。
【0053】
プライマリプーリ10の入口位置15におけるオイルの上昇温度(測定結果T31)、セカンダリプーリ20の入口位置25におけるオイルの上昇温度(測定結果T33)、セカンダリプーリ20の出口位置26におけるオイルの上昇温度(測定結果T34)は、概ね同程度となっている。一方、プライマリプーリ10の出口位置16におけるオイルの上昇温度(測定結果T32)は、測定結果T31、T33、T34に比べ、大きくなっている。また、無段変速機に供給されるオイルの温度を異ならせても、同様の傾向となっている。
【0054】
プライマリプーリ10の出口位置16におけるオイルの上昇温度が大きいことと、セカンダリプーリ20の入口位置25および出口位置26におけるオイルの上昇温度が大きくないことは、解析結果に概ね一致する(図4図5参照)。
【0055】
一方、プライマリプーリ10の入口位置15については、解析結果では、オイルの上昇温度が大きくなっているのに対し、測定結果では、オイルの上昇温度がセカンダリプーリ20の入口位置25および出口位置26と同程度になっている。これは、無段変速機内に貯留されたオイルが、プライマリプーリ10の入口位置15に、かき上げられるからであると推測される。このように、オイルの上昇温度は、チェーンベルト30の回転方向の各位置の中で、プライマリプーリ10の出口位置16において最も大きくなる。
【0056】
(第1実施形態)
図7は、第1実施形態による無段変速機1の構成を示す断面図である。無段変速機1のプライマリプーリ10、セカンダリプーリ20およびチェーンベルト30は、ケース40内に収容されている。プライマリプーリ10は、ケース40内において、セカンダリプーリ20よりも相対的に上方に配置される。セカンダリプーリ20の周りには、ガイド部41が設けられる。ガイド部41には、無段変速機1に供給されたオイル42が貯留される。セカンダリプーリ20は、少なくとも一部がオイル42に浸漬される。
【0057】
チェーンベルト30によって囲まれた領域には、ガイドレール50が設けられている。ガイドレール50は、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ20との隙間に配置される。ガイドレール50は、プライマリプーリ10の出口位置16とセカンダリプーリ20の入口位置25との間のチェーンベルト30の近傍に配置される。ガイドレール50は、プライマリプーリ10の回転軸方向に延びる略棒状に形成される。ガイドレール50内には、長手方向に延びる空間が形成される。ガイドレール50の内部の空間には、不図示のオイルポンプからオイル42が供給される。つまり、ガイドレール50は、オイル42を無段変速機1内に導く。
【0058】
図8は、ガイドレール50の構成を示す斜視図である。ガイドレール50の側面には、開口部51、52、53が設けられている。開口部51、52、53は、ガイドレール50の内外の空間を連通させる。
【0059】
開口部51は、プライマリプーリ10の回転軸に臨んで開口する。このため、開口部51を介してガイドレール50外に出るオイル42は、プライマリプーリ10の回転軸に向けて噴射される。噴射エリア51aは、開口部51から噴射されるオイル42の噴射方向を概念的に示す。プライマリプーリ10の回転軸に向けて噴射されるオイル42は、プライマリプーリ10に巻き回されるチェーンベルト30の回転を潤滑にさせる。
【0060】
開口部52は、セカンダリプーリ20の回転軸に臨んで開口する。このため、開口部52を介してガイドレール50外に出るオイル42は、セカンダリプーリ20の回転軸に向けて噴射される。噴射エリア52aは、開口部52から噴射されるオイル42の噴射方向を概念的に示す。セカンダリプーリ20の回転軸に向けて噴射されるオイル42は、セカンダリプーリ20に巻き回されるチェーンベルト30の回転を潤滑にさせる。
【0061】
開口部53は、開口部51よりも、プライマリプーリ10の出口位置16とセカンダリプーリ20の入口位置25との間のチェーンベルト30寄りに設けられる。開口部53は、プライマリプーリ10の出口位置16に臨んで開口する。このため、開口部53を介してガイドレール50外に出るオイル42は、プライマリプーリ10の出口位置16に向けて噴射される。噴射エリア53aは、開口部53から噴射されるオイル42の噴射方向を概念的に示す。プライマリプーリ10の出口位置16は、上述の角度γに基づいて算出可能である。このため、開口部53の開口位置は、具体的には、この角度γに基づいて決定される。
【0062】
プライマリプーリ10の出口位置16は、正確には、アンダードライブの場合とオーバードライブの場合とで異なる。アンダードライブの場合とオーバードライブの場合とでは、プライマリプーリ10の巻き回し半径Rpriが異なるからである。開口部53は、アンダードライブ時、特に、フルトルク時のプライマリプーリ10の出口位置16に臨んで開口する。
【0063】
上述のように、オイル42の上昇温度は、チェーンベルト30の回転方向の各位置の中で、プライマリプーリ10の出口位置16において最も大きくなる(図6参照)。第1実施形態の無段変速機1では、ガイドレール50に開口部53を設け、オイル42の上昇温度が最も高くなるプライマリプーリ10の出口位置16に向けてオイル42を噴射させる(図7参照)。
【0064】
ガイドレール50から噴射されるオイル42(すなわち、無段変速機1に供給されるオイル42)の温度は、プライマリプーリ10の出口位置16のチェーンベルト30に付着しているオイル42の温度よりも低い。噴射されたオイル42が、プライマリプーリ10の出口位置16のチェーンベルト30に付着しているオイル42に触れると、チェーンベルト30に付着しているオイル42から噴射されたオイル42に熱が移動する。これにより、チェーンベルト30に付着しているオイル42の熱が放散される。その結果、チェーンベルト30に付着しているオイル42の温度上昇が抑制される。
【0065】
以上のように、第1実施形態の無段変速機1では、発生する熱によってオイル42の上昇温度が大きくなるプライマリプーリ10の出口位置16に向けて、オイル42が噴射される。したがって、第1実施形態の無段変速機1によれば、発生する熱を効率的に放散させることが可能となる。
【0066】
また、アンダードライブでは、オーバードライブに比べ、プライマリプーリ10に入力されるトルクが大きく微小スリップが生じ易い。これにより、アンダードライブでは、プライマリプーリ10とチェーンベルト30との間において熱が発生し易い。無段変速機1では、アンダードライブ時、特に、フルトルク時のプライマリプーリ10の出口位置16に向けてオイル42が噴射される。このため、無段変速機1では、アンダードライブ時に発生する熱を効率的に放散させることが可能となる。
【0067】
第1実施形態において、ガイドレール50および開口部53は、プライマリプーリ10の出口位置16にオイル42を供給するオイル供給部として機能する。
【0068】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態による無段変速機100の構成を示す断面図である。第2実施形態の無段変速機100は、ガイドレール50に代えてガイドレール150を有する点において第1実施形態の無段変速機1と異なる。
【0069】
図10は、ガイドレール150の構成を示す斜視図である。図11は、ガイドレール150によるオイル42の噴射位置を示す概略図である。ガイドレール150は、開口部53に代えて開口部54を有する点において第1実施形態のガイドレール50と異なる。開口部54は、ガイドレール150の内外の空間を連通させる。
【0070】
開口部54は、開口部51よりも、可動シーブ12寄りに設けられる。開口部54は、可動シーブ12のコーン面12aに臨んで開口する。このため、開口部54を介してガイドレール50外に出るオイル42は、可動シーブ12のコーン面12aに向けて噴射される。噴射エリア54aは、開口部54から噴射されるオイル42の噴射方向を概念的に示す。
【0071】
アンダードライブでは、オーバードライブに比べ、可動シーブ12が固定シーブ11から離れた状態となっている。開口部54は、アンダードライブ時、特に、フルトルク時の可動シーブ12に臨んで開口する。
【0072】
上述のように、プライマリプーリ10において、可動シーブ12側のオイル42の上昇温度は、固定シーブ11側のオイル42の上昇温度よりも大きい(図4図5参照)。第2実施形態の無段変速機100では、ガイドレール150に開口部54を設け、オイル42の上昇温度が固定シーブ11側よりも大きい可動シーブ12側に向けて、オイル42を噴射させる(図11参照)。
【0073】
噴射されたオイル42が、チェーンベルト30の可動シーブ12側に付着しているオイル42に触れると、チェーンベルト30に付着しているオイル42から噴射されたオイル42に熱が移動する。これにより、チェーンベルト30に付着しているオイル42の熱が放散される。その結果、チェーンベルト30に付着しているオイル42の温度上昇が抑制される。
【0074】
以上のように、第2実施形態の無段変速機100では、発生する熱によってオイル42の上昇温度が大きくなる可動シーブ12側に向けて、オイル42が噴射される。したがって、第2実施形態の無段変速機100によれば、発生する熱を効率的に放散させることが可能となる。
【0075】
また、アンダードライブでは、オーバードライブに比べ、プライマリプーリ10とチェーンベルト30との間において熱が発生し易い。無段変速機100では、アンダードライブ時、特に、フルトルク時の可動シーブ12側に向けてオイル42が噴射される。このため、無段変速機100では、アンダードライブ時に発生する熱を効率的に放散させることが可能となる。
【0076】
第2実施形態において、ガイドレール150および開口部54は、可動シーブ12側にオイルを供給するオイル供給部として機能する。
【0077】
(第3実施形態)
図12は、第3実施形態による無段変速機200の構成を示す断面図である。第3実施形態の無段変速機200は、ガイドレール50に代えてガイドレール250を有する点において第1実施形態の無段変速機1と異なる。
【0078】
図13は、ガイドレール250の構成を示す斜視図である。ガイドレール250は、開口部51に代えて開口部55を有し、開口部53が設けられていない点において第1実施形態のガイドレール50と異なる。開口部55は、ガイドレール150の内外の空間を連通させる。
【0079】
開口部55は、プライマリプーリ10の回転軸に臨んで開口する。開口部55は、第1実施形態の開口部51よりも開口面積が広い。噴射エリア55aは、開口部55から噴射されるオイル42の噴射方向を概念的に示す。図13では、比較のため、第1実施形態の開口部51および開口部51の噴射エリア51aを破線で示している。
【0080】
開口部55は、プライマリプーリ10の出口位置16が、開口部55から噴射されるオイル42の噴射角55bの範囲内に収まるような大きさとなっている。より具体的には、開口部55は、アンダードライブ時、特に、フルトルク時のプライマリプーリ10の出口位置16が、噴射角55bの範囲内に収まるような大きさとなっている。このため、開口部55を介して噴射されるオイル42の一部は、プライマリプーリ10の出口位置16に噴きかけられる。
【0081】
以上のように、第3実施形態の無段変速機200では、第1実施形態と同様に、プライマリプーリ10の出口位置16にオイル42が噴きかけられる。したがって、無段変速機200によれば、発生する熱を効率的に放散させることが可能となる。
【0082】
また、無段変速機200によれば、第1実施形態と同様に、アンダードライブ時に発生する熱を効率的に放散させることが可能となる。
【0083】
第3実施形態において、ガイドレール250および開口部55は、プライマリプーリ10の出口位置16にオイル42を供給するオイル供給部として機能する。
【0084】
(第4実施形態)
図14は、第4実施形態による無段変速機300の構成を示す断面図である。第4実施形態の無段変速機300は、ケース40に代えてケース340を有し、ガイドレール50に代えてガイドレール350を有する点において第1実施形態の無段変速機1と異なる。
【0085】
図15は、ガイドレール350の構成を示す斜視図である。ガイドレール350は、開口部53が設けられていない点において第1実施形態のガイドレール50と異なる。すなわち、ガイドレール350は、従来のガイドレールとほぼ同様の構成となっている。
【0086】
図14に戻って、ケース340の内壁面には、内側に突出する突起部43が設けられている。突起部43は、プライマリプーリ10の出口位置16の上方に設けられる。
【0087】
セカンダリプーリ20は、ガイド部41内に貯留されたオイル42に、少なくとも一部が浸漬される。プライマリプーリ10が回転すると、チェーンベルト30を介してセカンダリプーリ20が回転する。セカンダリプーリ20が回転すると、ガイド部41内のオイル42が、セカンダリプーリ20の出口位置26付近から上方へかき上げられる。
【0088】
図14では、かき上げられたオイル42の移動軌跡が破線の矢印で示されている。かき上げられたオイル42は、ケース340の内壁面に沿って上昇し、突起部43に当たる。突起部43に当たると、オイル42は、下方へ垂れる。そして、下方へ垂れたオイル42は、プライマリプーリ10の出口位置16に至る。
【0089】
ガイド部41内に貯留されたオイル42の温度は、出口位置16におけるオイル42の温度よりも低い。かき上げられたオイル42が、出口位置16のチェーンベルト30に付着しているオイル42に触れると、チェーンベルト30に付着しているオイル42から、かき上げられたオイル42に熱が移動する。これにより、チェーンベルト30に付着しているオイル42の熱が放散される。
【0090】
以上のように、第4実施形態の無段変速機300では、プライマリプーリ10の出口位置16にオイル42が供給される。したがって、無段変速機300によれば、発生する熱を効率的に放散させることが可能となる。
【0091】
第4実施形態において、突起部43は、プライマリプーリ10の出口位置16にオイル42を供給するオイル供給部として機能する。
【0092】
(第5実施形態)
第1実施形態において、ガイドレール50の開口部53は、アンダードライブ時のプライマリプーリ10の出口位置16に臨んで開口していた。これにより、オーバードライブ時には、開口部53から噴射されたオイル42がプライマリプーリ10の出口位置16に至らないことがある。オーバードライブでは、アンダードライブに比べ、熱の発生が少ない。このため、オーバードライブ時にプライマリプーリ10の出口位置16にオイル42がかからなくても、熱が放散され、大きな問題とはならない。
【0093】
しかし、オーバードライブ時において、熱が放散されるにもかかわらず、プライマリプーリ10の出口位置16にかからないオイル42が開口部53から噴射されるのは、無駄である。
【0094】
そこで、第5実施形態では、オーバードライブ時には、オイル42を開口部53から噴射させず、アンダードライブ時にのみ、オイル42を開口部53から噴射させる。
【0095】
図16および図17は、第5実施形態における無段変速機400のガイドレール450を示す概略図である。図16および図17では、ガイドレール450の内壁面の一部が示されている。ガイドレール450には、アクチュエータ60およびシャッタ61が設けられている。また、無段変速機400には、制御部70が設けられている。
【0096】
シャッタ61は、例えば、薄板によって構成される。シャッタ61は、アンダードライブ時のプライマリプーリ10の出口位置16に臨んで開口する開口部53に隣接して配置される。シャッタ61の表面の面積は、開口部53の開口面積よりも広い。
【0097】
アクチュエータ60は、例えば、モータやソレノイドバルブなどである。アクチュエータ60は、例えば、ガイドレール450の閉塞された先端に設けられる。アクチュエータ60は、シャッタ61を移動させて、開口部53を開放させた状態と、開口部53をシャッタ61によって閉塞させた状態とを切り替える。
【0098】
制御部70は、CPU、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成される。制御部70は、TCUなどの上位のコントローラに電気的に接続される。制御部70は、アンダードライブまたはオーバードライブのいずれの状態であるかを示すドライブ情報を上位のコントローラから取得する。ドライブ情報は、例えば、プーリ比iを示す情報であってもよい。制御部70は、ドライブ情報に基づいてアクチュエータ60を制御する。
【0099】
制御部70は、アンダードライブを示すドライブ情報を取得した場合、アクチュエータ60を駆動させて、開口部53の開口面のすべてがシャッタ61と重ならないように、シャッタ61を移動させる。これにより、図16に示すように、アンダードライブ時に、開口部53が開放した状態に維持される。
【0100】
一方、制御部70は、オーバードライブを示すドライブ情報を取得した場合、アクチュエータ60を駆動させて、開口部53の開口面のすべてがシャッタ61と重なるように、シャッタ61を移動させる。これにより、図17に示すように、オーバードライブ時に、開口部53が閉塞された状態に維持される。開口部53が閉塞されると、開口部53からオイル42が噴射されないようになる。
【0101】
以上のように、第5実施形態の無段変速機400では、オーバードライブ時に、開口部53からオイル42が噴射されない。このため、無段変速機400によれば、オイル42を無駄に消費させないようにすることができる。
【0102】
なお、第5実施形態では、オーバードライブ時に、開口部53の開口面のすべてをシャッタ61によって閉塞させていた。しかし、開口部53の開口面の少なくとも一部をシャッタ61によって閉塞させてもよい。開口部53の開口面の少なくとも一部が閉塞されれば、オイル42の消費量を減少させることができるからである。
【0103】
(第6実施形態)
第2実施形態において、ガイドレール150の開口部54は、アンダードライブ時の可動シーブ12に臨んで開口していた。これにより、オーバードライブ時には、開口部54から噴射されたオイル42が可動シーブ12に至らないことがある。オーバードライブ時では、アンダードライブに比べ、熱の発生が少ない。このため、オーバードライブ時に可動シーブ12にオイル42がかからなくても、熱が放散され、大きな問題とはならない。
【0104】
しかし、オーバードライブ時において、熱が放散されるにもかかわらず、可動シーブ12にかからないオイル42が開口部54から噴射されるのは、無駄である。
【0105】
そこで、第6実施形態では、オーバードライブ時には、オイル42を開口部54から噴射させず、アンダードライブ時にのみ、オイル42を開口部54から噴射させる。
【0106】
図18および図19は、第6実施形態における無段変速機500のガイドレール550を示す概略図である。図18および図19では、ガイドレール550の内壁面の一部が示されている。ガイドレール550には、アクチュエータ60およびシャッタ62が設けられている。また、無段変速機500には、制御部70が設けられている。
【0107】
シャッタ62は、例えば、薄板によって構成される。シャッタ62は、アンダードライブ時の可動シーブ12に臨んで開口する開口部54に隣接して配置される。シャッタ62の表面の面積は、開口部54の開口面積よりも広い。
【0108】
アクチュエータ60は、第5実施形態のそれと同様の構成となっている。アクチュエータ60は、シャッタ62を移動させて、開口部54を開放させた状態と、開口部54をシャッタ62によって閉塞させた状態とを切り替える。
【0109】
制御部70は、第5実施形態のそれと同様の構成となっている。制御部70は、アンダードライブを示すドライブ情報を取得した場合、アクチュエータ60を駆動させて、開口部54の開口面のすべてがシャッタ62と重ならないように、シャッタ62を移動させる。これにより、図18に示すように、アンダードライブ時に、開口部54が開放した状態に維持される。
【0110】
一方、制御部70は、オーバードライブを示すドライブ情報を取得した場合、アクチュエータ60を駆動させて、開口部54の開口面のすべてがシャッタ62と重なるように、シャッタ62を移動させる。これにより、図17に示すように、オーバードライブ時に、開口部54が閉塞された状態に維持される。開口部54が閉塞されると、開口部54からオイル42が噴射されないようになる。
【0111】
以上のように、第6実施形態の無段変速機500では、オーバードライブ時に、開口部54からオイル42が噴射されない。このため、無段変速機500によれば、オイル42を無駄に消費させないようにすることができる。
【0112】
なお、第6実施形態では、オーバードライブ時に、開口部54の開口面のすべてをシャッタ62によって閉塞させていた。しかし、開口部54の開口面の少なくとも一部をシャッタ62によって閉塞させてもよい。開口部54の開口面の少なくとも一部が閉塞されれば、オイル42の消費量を減少させることができるからである。
【0113】
(第7実施形態)
第3実施形態において、ガイドレール250の開口部55から噴射されたオイル42の一部は、アンダードライブ時のプライマリプーリ10の出口位置16に噴きかけられていた。これにより、オーバードライブ時には、開口部55から噴射されたオイル42の一部が、プライマリプーリ10の出口位置16に至らないことがある。オーバードライブでは、アンダードライブに比べ、熱の発生が少ない。このため、オーバードライブ時にプライマリプーリ10の出口位置16にオイル42がかからなくても、熱が放散され、大きな問題とはならない。
【0114】
しかし、オーバードライブ時において、熱が放散されるにもかかわらず、プライマリプーリ10の出口位置16にかからないオイル42が、第1実施形態の開口部51よりも開口面積が広い開口部55から噴射されるのは、無駄である。
【0115】
そこで、第7実施形態では、オーバードライブ時には、開口部55の開口面積を狭くし、アンダードライブ時にのみ、プライマリプーリ10の出口位置16にオイル42がかかるように開口面積を広くする。
【0116】
図20および図21は、第7実施形態における無段変速機600のガイドレール650を示す概略図である。図20および図21では、ガイドレール650の内壁面の一部が示されている。ガイドレール650には、アクチュエータ60およびシャッタ63が設けられている。また、無段変速機600には、制御部70が設けられている。
【0117】
シャッタ63は、例えば、薄板によって構成される。シャッタ63は、開口部55に隣接して配置される。シャッタ63の表面の面積は、開口部55の開口面積よりも広い。シャッタ63には、厚さ方向に貫通する貫通孔64が設けられている。貫通孔64の開口面積は、第1実施形態の開口部51の開口面積と同じになっている。シャッタ63は、開口部55の開口面積を変化させる。
【0118】
アクチュエータ60は、第5実施形態のそれと同様の構成となっている。アクチュエータ60は、シャッタ63を移動させて、開口部55を開放させた状態と、シャッタ63を開口部55に重ねた状態とを切り替える。シャッタ63が開口部55に重ねられると、貫通孔64が開口部55に重なる。
【0119】
制御部70は、第5実施形態のそれと同様の構成となっている。制御部70は、アンダードライブを示すドライブ情報を取得した場合、アクチュエータ60を駆動させて、開口部55の開口面のすべてがシャッタ63と重ならないように、シャッタ63を移動させる。これにより、図20に示すように、アンダードライブ時に、開口部55が開放した状態に維持される。
【0120】
一方、制御部70は、オーバードライブを示すドライブ情報を取得した場合、アクチュエータ60を駆動させて、貫通孔64が開口部55に重なるようにシャッタ62を移動させる。これにより、図21に示すように、オーバードライブ時に、開口部55の開口面積が貫通孔64の開口面積に縮小される。その結果、オイル42は、貫通孔64を介して噴射されることとなる。
【0121】
以上のように、第7実施形態の無段変速機600では、オーバードライブ時に、開口部55の開口面積が縮小される。このため、無段変速機600によれば、オイル42を無駄に消費させないようにすることができる。
【0122】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、無段変速機に利用できる。
【符号の説明】
【0124】
1 無段変速機
10 プライマリプーリ
16 出口位置
20 セカンダリプーリ
30 チェーンベルト
42 オイル
50 ガイドレール
53 開口部
図1
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