IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オルガノ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-凝集沈殿装置及び凝集沈殿処理方法 図1
  • 特許-凝集沈殿装置及び凝集沈殿処理方法 図2
  • 特許-凝集沈殿装置及び凝集沈殿処理方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】凝集沈殿装置及び凝集沈殿処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/08 20060101AFI20220106BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20220106BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20220106BHJP
   C02F 1/56 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B01D21/08 C
B01D21/01 H
C02F1/52 Z
C02F1/56 Z
B01D21/01 101Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017200981
(22)【出願日】2017-10-17
(65)【公開番号】P2019072675
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】前田 臨太郎
(72)【発明者】
【氏名】梶田 佳靖
(72)【発明者】
【氏名】桃谷 尚憲
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038537(WO,A1)
【文献】特開2003-181491(JP,A)
【文献】特開2010-075802(JP,A)
【文献】特開2009-154081(JP,A)
【文献】特開2017-119240(JP,A)
【文献】特開2017-87090(JP,A)
【文献】特開2004-89817(JP,A)
【文献】特開2018-47434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00 - 21/34
C02F 1/52 - 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に無機凝集剤を添加する手段と、前記被処理水に有機凝結剤を添加する手段と、を備える第1の反応槽と、
前記第1の反応槽の下流に位置する沈殿槽と、
前記第1の反応槽から前記沈殿槽の手前までの間の区間に位置し、前記被処理水にアニオン系高分子凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加する手段と
前記第1の反応槽と前記第1の高分子凝集剤の添加位置との間に位置し、前記被処理水にカチオン系高分子凝集剤である第2の高分子凝集剤を添加する手段を備える第2の反応槽と、を有し、
前記沈殿槽は、前記無機凝集剤と前記有機凝結剤と前記第1の高分子凝集剤と前記第2の高分子凝集剤とが添加された前記被処理水を撹拌することによって、凝集フロックの形成と当該凝集フロックの造粒濃縮を行い、造粒濃縮された前記凝集フロックを処理水から分離し、
前記カチオン系高分子凝集剤のカチオン基比率は5~8モル%である、凝集沈殿装置。
【請求項2】
被処理水に無機凝集剤を添加する手段と、前記被処理水に有機凝結剤を添加する手段と、を備える第1の反応槽と、
前記第1の反応槽の下流に位置する沈殿槽と、
前記第1の反応槽から前記沈殿槽の手前までの間の区間に位置し、前記被処理水にアニオン系高分子凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加する手段と、を有し、
前記第1の反応槽は、前記被処理水にカチオン系高分子凝集剤である第2の高分子凝集剤を添加する手段を備え、
前記沈殿槽は、前記無機凝集剤と前記有機凝結剤と前記第1の高分子凝集剤と前記第2の高分子凝集剤とが添加された前記被処理水を撹拌することによって、凝集フロックの形成と当該凝集フロックの造粒濃縮を行い、造粒濃縮された前記凝集フロックを処理水から分離し、
前記カチオン系高分子凝集剤のカチオン基比率は5~8モル%である、凝集沈殿装置。
【請求項3】
第1の添加位置で被処理水に無機凝集剤と有機凝結剤を添加することと、
前記第1の添加位置からその下流の沈殿槽の手前までの間の区間に位置する第2の添加位置で前記被処理水にアニオン系高分子凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加することと、
前記第1の添加位置の下流でかつ前記第2の添加位置の上流に位置する第3の添加位置で、前記被処理水にカチオン系高分子凝集剤である第2の高分子凝集剤を添加することと、
前記無機凝集剤と前記有機凝結剤と前記第1の高分子凝集剤と前記第2の高分子凝集剤とが添加された前記被処理水を前記沈殿槽に供給することと、
前記沈殿槽で前記被処理水を撹拌することによって、凝集フロックの形成と当該凝集フロックの造粒濃縮を行うことと、
前記沈殿槽内で造粒濃縮された凝集フロックを処理水から分離することと、を有し、
前記カチオン系高分子凝集剤のカチオン基比率は5~8モル%である、凝集沈殿処理方法。
【請求項4】
第1の添加位置で被処理水に無機凝集剤と有機凝結剤を添加することと、
前記第1の添加位置からその下流の沈殿槽の手前までの間の区間に位置する第2の添加位置で、前記被処理水にアニオン系高分子凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加することと、
前記第1の添加位置で、前記被処理水にカチオン系高分子凝集剤である第2の高分子凝集剤を添加することと、
前記無機凝集剤と前記有機凝結剤と前記第1の高分子凝集剤と前記第2の高分子凝集剤とが添加された前記被処理水を前記沈殿槽に供給することと、
前記沈殿槽で前記被処理水を撹拌することによって、凝集フロックの形成と当該凝集フロックの造粒濃縮を行うことと、
前記沈殿槽内で造粒濃縮された凝集フロックを処理水から分離することと、を有し、
前記カチオン系高分子凝集剤のカチオン基比率は5~8モル%である、凝集沈殿処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凝集沈殿装置と凝集沈殿処理方法に関し、特に沈殿槽の上流側で被処理水に凝集剤を添加し、沈殿槽内撹拌により沈殿槽内で凝集、造粒を行う装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理装置の1つとして、用水処理や排水処理などに凝集沈殿装置が広く用いられている。凝集沈殿装置は、原水に含まれる懸濁物質を凝集させて沈殿槽内で沈殿させ、原水を汚泥と処理水とに分離するものである。凝集沈殿装置の中には沈殿槽内に汚泥の浮遊密集層(スラッジブランケット)を形成させ、このスラッジブランケットにより沈殿槽に供給される原水中の微細粒子や懸濁物質を捕捉し、清澄な処理水を得る技術がある。
【0003】
このような凝集沈殿装置の中でも、凝集剤が添加された被処理水(原水)を沈殿槽内の撹拌翼により緩速撹拌して凝集フロックを形成し、さらに凝集フロック同士の衝突や凝集フロックの転がり運動を繰り返し生じさせることで凝集フロックの粒径を次第に増大させて、球状のペレットを形成する造粒型の凝集沈殿装置が知られている。造粒型の凝集沈殿装置では、高密度で沈降速度が速いペレットが流動層(ペレットブランケット)を形成することで、より高速での処理が可能になるとともに、沈殿槽内の通水線速度(LV)を高め、処理流量の増加または沈殿槽の小型化を実現することができる。
【0004】
特許文献1には、カチオン系高分子凝集剤とアニオン系高分子凝集剤を併用した水処理方法が開示されている。具体的には被処理水に無機凝集剤が添加され、微細凝集フロックが形成される。次に、被処理水にカチオン系高分子凝集剤とアニオン系高分子凝集剤が順次添加される。これによって凝集フロックが粗大化し、より強固で高密度な沈降速度の速いペレットを形成することができ、その結果、沈殿槽の通水LVを更に高速化することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5907273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
凝集沈殿処理において、COD(化学的酸素要求量)の低減や色度成分の除去などのために多量の無機凝集剤を使用する場合がある。しかし、その場合、無機凝集剤由来の架橋性の少ない細かくて軽い凝集フロックが多くなる。特許文献1に開示されているようにカチオン系高分子凝集剤とアニオン系高分子凝集剤を併用しても、強度、密度が高く、沈降速度の速いペレットを形成することができない場合がある。このようなペレットを形成するために無機凝集剤の添加量を抑えるとCODの低減や色度成分の除去などが困難となる。
【0007】
本発明は、無機凝集剤の添加量を抑え沈降速度の速いペレットを形成し、且つCODの低減や色度成分の除去などを効率的に行うことのできる凝集沈殿装置及び凝集沈殿処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の凝集沈殿装置は、被処理水に無機凝集剤を添加する手段と、被処理水に有機凝結剤を添加する手段と、を備える第1の反応槽と、第1の反応槽の下流に位置する沈殿槽と、第1の反応槽から沈殿槽の手前までの間の区間に位置し、被処理水にアニオン系高分子凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加する手段と、を有している。一態様では、凝集沈殿装置は、第1の反応槽と第1の高分子凝集剤の添加位置との間に位置し、被処理水にカチオン系高分子凝集剤である第2の高分子凝集剤を添加する手段を備える第2の反応槽を有し、他の態様では、第1の反応槽は、前記被処理水にカチオン系高分子凝集剤である第2の高分子凝集剤を添加する手段を備えている。沈殿槽は、無機凝集剤と有機凝結剤と第1の高分子凝集剤と第2の高分子凝集剤とが添加された被処理水を撹拌することによって、凝集フロックの形成と当該凝集フロックの造粒濃縮を行い、造粒濃縮された凝集フロックを処理水から分離する。カチオン系高分子凝集剤のカチオン基比率は5~8モル%である。ここで、「第1の反応槽から沈殿槽の手前までの間の区間」は第1の反応槽を含むが、沈殿槽は含まない。
【0009】
本発明の凝集沈殿処理方法は、第1の添加位置で被処理水に無機凝集剤と有機凝結剤を添加することと、第1の添加位置からその下流の沈殿槽の手前までの間の区間に位置する第2の添加位置で被処理水にアニオン系高分子凝集剤である第1の高分子凝集剤を添加することと、を有している。一態様では、凝集沈殿処理方法は、第1の添加位置の下流でかつ第2の添加位置の上流に位置する第3の添加位置で、被処理水にカチオン系高分子凝集剤である第2の高分子凝集剤を添加することを有し、他の態様では、凝集沈殿処理方法は、第1の添加位置で、被処理水にカチオン系高分子凝集剤である第2の高分子凝集剤を添加することを有している。凝集沈殿処理方法はさらに、無機凝集剤と有機凝結剤と第1の高分子凝集剤と第2の高分子凝集剤とが添加された被処理水を沈殿槽に供給することと、沈殿槽で被処理水を撹拌することによって、凝集フロックの形成と当該凝集フロックの造粒濃縮を行うことと、沈殿槽内で造粒濃縮された凝集フロックを処理水から分離することと、を有している。カチオン系高分子凝集剤のカチオン基比率は5~8モル%である。ここで、「第1の添加位置からその下流の沈殿槽の手前までの間の区間」は第1の添加位置を含むが、沈殿槽は含まない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無機凝集剤とともに有機凝結剤が被処理水に添加される。これによって、無機凝集剤の添加量を抑えることができるため、強度、密度が高く、沈降速度の速いペレットを形成することができる。従って、沈降槽の上部における細かくて軽い凝集フロックの浮遊量を抑え、且つ被処理水中のCODの低減や色度成分の除去を行うことが可能となる。このように、本発明によれば、無機凝集剤の添加量を抑え沈降速度の速いペレットを形成し、CODの低減や色度成分の除去などを効率的に行うことのできる凝集沈殿装置及び凝集沈殿処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る凝集沈殿装置の全体構成を示す模式図である。
図2】第2の実施形態に係る凝集沈殿装置の全体構成を示す模式図である。
図3】第3の実施形態に係る凝集沈殿装置の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の凝集沈殿装置のいくつかの実施形態を説明する。本発明の凝集沈殿装置は主に排水中のCODの低減や色度成分の除去のために用いられる。CODの高い排水や色度成分を含む排水としては、工場から排出されるボイラーブロー排水や、染色工場の染色排水が挙げられる。しかし、本発明の凝集沈殿装置で処理される排水は、無機凝集剤を添加して凝集沈殿処理を行う排水であれば限定されず、例えばフッ素やリン酸イオン類を含む排水等であってもよい。また、本発明の凝集沈殿装置は造粒沈殿槽内で造粒物(ペレット)を形成する造粒型の装置である。造粒型の凝集沈殿装置で形成される凝集フロックは通常の凝集フロックに比べて大きく、高密度で沈降速度が速い。このため、造粒型でない凝集沈殿装置と比べて被処理水を高LVで処理することができ、沈殿槽もコンパクトなものとなる。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る凝集沈殿装置の模式図である。凝集沈殿装置1は被処理水(原水)を貯留する原水槽2と、第1の反応槽3と、第2の反応槽4と、沈殿槽5と、を有し、これらが配管11~13で直列に接続されている。すなわち、第1の反応槽3は第1の配管11によって原水槽2と接続され、第2の反応槽4は第2の配管12によって第1の反応槽3と接続され、沈殿槽5は第3の配管13によって第2の反応槽4と接続されている。沈殿槽5は第1及び第2の反応槽3,4の下流に位置し、第2の反応槽4は第1の反応槽3と沈殿槽5の間に位置している。第1の配管11には被処理水の供給ポンプ14と流量計15が設けられている。
【0014】
第1の反応槽3は被処理水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加手段6と、被処理水に有機凝結剤を添加する有機凝結剤添加手段7と、被処理水にpH調整剤を添加するpH調整剤添加手段8とを備えている。すなわち、第1の反応槽3は被処理水に無機凝集剤と有機凝結剤とpH調整剤とが添加される第1の添加位置3を構成する。
【0015】
無機凝集剤添加手段6は無機凝集剤貯留タンク61と、無機凝集剤貯留タンク61に接続された無機凝集剤供給配管62と、無機凝集剤供給配管62上に設けられた無機凝集剤供給ポンプ63と、を有している。無機凝集剤供給配管62の下流側の端部は第1の反応槽3の内部で開口している。無機凝集剤としては、硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウム(PAC)などのアルミニウム塩、塩化第二鉄の酸性溶液、ポリ硫酸第二鉄などの第二鉄塩の酸性溶液などを使用できる。
【0016】
有機凝結剤添加手段7は有機凝結剤貯留タンク71と、有機凝結剤貯留タンク71に接続された有機凝結剤供給配管72と、有機凝結剤供給配管72上に設けられた有機凝結剤供給ポンプ73と、を有している。有機凝結剤供給配管72の下流側の端部は第1の反応槽3の内部で開口している。有機凝結剤としては、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、アルキレンジクロライドとポリアルキレンポリアミンの縮合物、ジシアン・ジアミド・ホルマリン縮合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体などが挙げられ、これらの分子量は数万~数十万程度である。有機凝結剤の種類は、被処理水に添加する無機凝集剤の添加量を削減する効果があれば、これらに限定されない。
【0017】
pH調整剤添加手段8はpH調整剤貯留タンク81と、pH調整剤貯留タンク81に接続されたpH調整剤供給配管82と、pH調整剤供給配管82上に設けられたpH調整剤供給ポンプ83と、を有している。pH調整剤供給配管82の下流側の端部は第1の反応槽3の内部で開口している。pH調整剤は被処理水のpHを6~8程度に調整するために添加され、NaOH、Ca(OH)などのアルカリ薬剤を使用することができる。第1の反応槽3には被処理水のpHを測定するためのpH計16が設けられている。また、第1の反応槽3は攪拌翼31を有しており、無機凝集剤と有機凝結剤とpH調整剤が添加された被処理水を高速で攪拌することができる。
【0018】
凝集沈殿装置1は被処理水に第1の高分子凝集剤を添加する第1の高分子凝集剤添加手段10を有している。第1の高分子凝集剤添加手段10は第1の高分子凝集剤貯留タンク101と、第1の高分子凝集剤貯留タンク101に接続された第1の高分子凝集剤供給配管102と、第1の高分子凝集剤供給配管102上に設けられた第1の高分子凝集剤供給ポンプ103と、を有している。第1の高分子凝集剤供給配管102の下流側の端部は第3の配管13に合流している。第1の高分子凝集剤添加手段10の第3の配管13との合流点は、被処理水に第1の高分子凝集剤を添加する第2の添加位置17を構成する。第2の添加位置17は第1の反応槽3と沈殿槽5との間に位置している。
【0019】
第1の高分子凝集剤はアニオン系高分子凝集剤である。アニオン系高分子凝集剤としては、例えば、アクリルアミドとアクリル酸の重合物が挙げられる。アニオン系高分子凝集剤の分子量は、例えば、1000万以上であることが好ましく、1500万以上であることがより好ましい。アニオン系高分子凝集剤は、例えば、凝集剤の添加量が0.5~10mg/Lである溶液を水に溶解して、凝集剤の濃度を0.05~0.3w/v%とした溶解液であることが好ましい。添加量が0.5mg/L未満では粒径の大きな造粒物を形成するのに時間がかかる場合がある。また、添加量を10mg/L超としても、造粒物の粒径を大きくする効果は少なく、その一方でアニオン系高分子凝集剤の使用量が増えることになる。アニオン系高分子凝集剤のアニオン基比率の最適値は排水性状や凝集pHにより異なる。
【0020】
第2の反応槽4は被処理水に第2の高分子凝集剤を添加する第2の高分子凝集剤添加手段9を備えている。第2の反応槽4は被処理水に第1の高分子凝集剤が添加される第3の添加位置4を構成する。第3の添加位置4は第1の添加位置3とその下流の沈殿槽5との間に位置している。第2の高分子凝集剤添加手段9は第2の高分子凝集剤貯留タンク91と、第2の高分子凝集剤貯留タンク91に接続された第2の高分子凝集剤供給配管92と、第2の高分子凝集剤供給配管92上に設けられた第2の高分子凝集剤供給ポンプ93と、を有している。第2の高分子凝集剤供給配管92の下流側の端部は第2の反応槽4の内部で開口している。第2の反応槽4は攪拌翼41を有しており、第2の高分子凝集剤が添加された被処理水を高速で攪拌することができる。
【0021】
第2の高分子凝集剤はカチオン系高分子凝集剤である。カチオン系高分子凝集剤としては、例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート・塩化メチル四級塩(DAA)、ジメチルアミノエチルメタアクリレート塩化メチル4級塩(DAM)が挙げられる。カチオン系高分子凝集剤の分子量は、例えば、700万以上であることが好ましく、1000万以上であることがより好ましい。カチオン系高分子凝集剤は、例えば、凝集剤の添加量が0.5~10mg/Lである溶液を水に溶解して、凝集剤の濃度を0.05~0.3w/v%とした溶解液であることが好ましい。添加量が0.5mg/L未満ではカチオン系高分子凝集剤の効果(カチオン系高分子凝集剤とアニオン系高分子凝集剤とを併用する効果)が得られにくく、大きな造粒物を形成しにくい場合がある。また、添加量を10mg/L超としても、造粒物の粒径を大きくする効果は少なく、その一方でカチオン系高分子凝集剤の使用量が増えることになる。カチオン系高分子凝集剤のカチオン基比率は27モル%以下が好ましい。カチオン基比率は15モル%以下であることがより好ましく、8モル%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
沈殿槽5は、外側容器51と、外側容器51の内部に設けられた仕切板52とを有している。沈殿槽5は外側容器51と仕切板52とによって沈殿部54と、汚泥濃縮部55と、に分離されている。沈殿部54は、無機凝集剤と有機凝結剤と第1の高分子凝集剤と第2の高分子凝集剤とが添加された被処理水を緩速撹拌することによって、凝集フロックの形成と凝集フロックの造粒濃縮(ペレット形成)を行い、造粒濃縮された凝集フロックを処理水から分離する。汚泥濃縮部55は懸濁物質の汚泥を収集し濃縮する。凝集フロックが沈殿槽5から越水して汚泥濃縮部55に収集されるように、仕切板52の頂部は沈殿部54の頂部より低くされている。汚泥濃縮部55の側面の下部に汚泥の引抜きノズル(図示せず)が設けられている。沈殿部54の側面の上部には清澄水(処理水)の取出しノズル(図示せず)が設けられている。沈殿部54の内部には、モータ57に連結された回転軸56に取り付けられた複数の攪拌翼58が設けられている。
【0023】
凝集沈殿装置1による被処理水の処理は以下のように行われる。被処理水はまず原水槽2から第1の配管11を通って第1の反応槽3(第1の添加位置3)に導入され、無機凝集剤と有機凝結剤とpH調整剤とが添加され、高速攪拌される。これによって、被処理水中に凝集フロックが形成される。次に、被処理水は第2の配管12を通って第2の反応槽4(第3の添加位置4)に導入され、第2の高分子凝集剤が添加され、高速攪拌される。これによって、凝集フロックが粗大化される。次に、被処理水には第3の配管13上の第2の添加位置17で第1の高分子凝集剤が添加される。第2の反応槽4(第3の添加位置4)で第2の高分子凝集剤(カチオン系高分子凝集剤)が、第2の添加位置17で第1の高分子凝集剤(アニオン系高分子凝集剤)が添加されることで、より強固で沈降速度の速いペレットを形成することができる。
【0024】
以上の処理をされた被処理水は沈殿槽5に導入される。被処理水は沈殿部54の底部の被処理水供給口59から沈殿部54に上昇流として供給され、攪拌翼58で緩速攪拌される。第2の添加位置17で添加された第1の高分子凝集剤はこれによって被処理水中に攪拌分散される。凝集フロック同士が衝突や転がり運動を繰り返すことで、凝集フロックの粒径は次第に増加していき、球状のペレットが形成される。ペレットは重力による下向きの力と、被処理水供給口59から供給される被処理水の上昇流による上向きの力を受けて、沈殿部54の内部を浮遊する。新たに供給された被処理水に含まれる凝集フロックは沈殿部54の内部を浮遊するペレットに捕捉され、合体する。これによって、ペレット径はさらに増加する。
【0025】
被処理水は造粒濃縮された凝集フロックから分離され、上昇流となる。この結果、沈殿部54の下部にペレットの層(ペレットブランケット53)が、上部にペレットブランケット53から分離した清澄水の層54が形成される。層54の清澄水は処理水として取出しノズルから取り出される。ペレットブランケット53の頂部界面は徐々に上昇していき、ペレットブランケット53の頂部界面が仕切板52の頂部に達すると、ペレットは仕切板52を越水して汚泥濃縮部55に収集される。以降、被処理水の通水中はペレットブランケット53の頂部界面からペレットの越水が続き、ペレットブランケット53は一定の高さを保つ。汚泥濃縮部55は被処理水の上昇流がないため、凝集フロックは重力で汚泥濃縮部55内を沈降して濃縮汚泥となる。濃縮汚泥は引抜きノズルから引抜かれる。
【0026】
ポリ塩化アルミニウム(PAC)や塩化鉄等の無機凝集剤によって形成される凝集フロックは架橋性が少なく、細かくて軽い凝集フロックとなる。そのため、CODの低減や色度成分の除去のために多量の無機凝集剤を使用すると、カチオン系高分子凝集剤とアニオン系高分子凝集剤を併用しても強度の高い凝集フロックを形成させることができず、造粒沈殿装置でペレットを形成することが困難となる場合がある。本実施形態では有機凝結剤を使用することで、ペレットを確実に形成しつつ、無機凝集剤の添加量を減らすことができる。また、無機凝集剤の添加量を減らすことで汚泥発生量も減らすことができるため、コスト削減効果が期待できる。さらに、無機凝集剤の添加量が多くペレット凝集沈殿処理の適用が困難であった排水においても、有機凝結剤を使用することでペレットの形成が容易となり、高LV処理が可能となる。
【0027】
なお、無機凝集剤と有機凝結剤は第1の反応槽3(第1の添加位置3)で被処理水に同時に添加されるが、無機凝集剤と有機凝結剤は被処理水に別々に添加されてもよい。例えば、無機凝集剤が添加される反応槽と有機凝結剤が添加される反応槽を直列に設置してもよい。その場合、2つの反応槽の配置順序は特に限定されない。すなわち無機凝集剤と有機凝結剤の一方が先に被処理水に添加され、他方がその後に被処理水に添加されてもよい。また、無機凝集剤と有機凝結剤を第1の反応槽3(第1の添加位置3)で被処理水に添加する際、無機凝集剤と有機凝結剤を同時に添加してもよいし、一方を先に、他方を後に添加してもよい。
【0028】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係る凝集沈殿装置101の模式図である。説明を省略した構成及び効果については第1の実施形態と同様である。本実施形態では第2の反応槽4が省略されており、第1の反応槽3は第2の高分子凝集剤添加手段9を備えている。第1の高分子凝集剤添加手段10は第1の実施形態と同様に設けられており、第1の高分子凝集剤はアニオン系高分子凝集剤である。すなわち、本実施形態では、第1の反応槽3(第1の添加位置3)で、被処理水に、無機凝集剤と有機凝結剤とpH調整剤に加えて第2の高分子凝集剤が添加される。第2の高分子凝集剤はカチオン系高分子凝集剤である。後述の実施例で述べるように、本実施形態も第1の実施形態と同程度のペレット径と処理水の水質を得ることができる。また、本実施形態は第2の反応槽4が不要であるため、設備コストや必要設置スペースの削減が可能である。
【0029】
(第3の実施形態)
図3は、第3の実施形態に係る凝集沈殿装置201の模式図である。説明を省略した構成及び効果については第1の実施形態と同様である。本実施形態では、第1の実施形態と比較すると、第2の反応槽4が省略されており、さらに第2の反応槽4が備える第2の高分子凝集剤添加手段9も省略されている。第1の高分子凝集剤添加手段10は第1の実施形態と同様に設けられており、第1の高分子凝集剤はアニオン系高分子凝集剤である。しかし、本実施形態では、第1の高分子凝集剤はカチオン系高分子凝集剤またはノニオン系高分子凝集剤であってもよい。後述の実施例で述べるように、本実施形態は第1の実施形態より若干劣るものの、CODの低減など処理水の水質改善効果が得られる。また、本実施形態は第2の反応槽4と第2の高分子凝集剤添加手段9が不要であるため、設備コストや必要設置スペースの一層の削減が可能である。
【0030】
(実験例1)
表1に示す水質の被処理水(染色排水)に、PACのみ(比較例1,2)、もしくはPACと有機凝結剤(実施例1~3)を添加し、NaOHでpHを7に調整し、150rpmで5分間急速撹拌を行った。実施例1,2、比較例1,2では、その後カチオン基比率5モル%のカチオン系高分子凝集剤(カチオンポリマー)を1mg/L添加し、150rpmで1分間急速撹拌した。その後、アニオン基比率4モル%のアニオン系高分子凝集剤(アニオンポリマー)を2mg/L添加して、150rpmで1分間急速撹拌した。その後、40rpmで5分間緩速撹拌を行った。実施例3ではアニオンポリマーで凝集を行うため、カチオンポリマーを添加せずにアニオンポリマーを3mg/L添加して150rpmで1分間急速撹拌した後、40rpmで5分間緩速撹拌を行った。本実験例は第1及び第3の実施形態のプロセスを模擬しており、最後の5分間の緩速撹拌は沈殿槽5での緩速攪拌を模擬している。試験後10分間沈静させ、凝集フロック径の確認と、上澄液の水質分析を行った。表1に被処理水の組成を、表2に実験結果を示す。処理水の目標水質は色度5度以下とし、有機凝結剤Aとして分子量3万のジメチルアミン・エピクロヒドリン縮合物の4級塩を、有機凝結剤Bとして分子量50万のジメチルアミン・エピクロヒドリン縮合物の4級塩を用いた。なお、表2においてCODMnは過マンガン酸カリウムを使用して測定した化学的酸素要求量を、汚泥発生量のSV30は30分沈静後の汚泥量を意味している。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
実験の結果、比較例1ではペレット状の大きな凝集フロックが形成されたが、PAC添加量が足りないため色度成分を十分に除去できなかった。比較例2ではPAC添加量を比較例1の2倍添加することで色度も十分に低下させることができたが、PAC添加量の増加に伴い凝集フロック径が小さくなり、ペレット形成が困難であった。実施例1~3では、色度成分を十分に除去し、且つ大きく強度の高い凝集フロック(ペレット)を形成できるように有機凝結剤を併用した。これによりPACを600mg/L添加した場合でも、PACを1200mg/L添加した比較例2と同等のレベルまで色度成分の除去ができ、且つペレット状の大きな凝集物が形成された。また、実施例1~3ではPACの添加量は比較例2の半分であるが、有機凝結剤を併用することで汚泥発生量を約半分まで低減することができた。
【0034】
実施例1、2では有機凝結剤の種類が異なり、COD、TOC、濁度、色度とも有機凝結剤B(実施例2)の方が僅かに良好であったが、大きな差は確認できなかった。実施例2と実施例3の比較では、カチオン系高分子凝集剤とアニオン系高分子凝集剤を併用した実施例2の方が、アニオン系高分子凝集剤だけを用いた実施例3よりも大きなペレット状の凝集物が形成された。
【0035】
(実験例2)
実験例1で処理水目標水質(色度5度以下)を満たすことができた実施例1~3のうち、濁度、色度、CODの低下率の点でやや有利であった実施例2,3(PAC添加量600mg/L、有機凝結剤B添加量50mg/L)の凝集条件で、小型試験機を用いた連続通水試験を行った。また、実験例1で処理水目標水質(色度5度以下)を満たすことができた比較例2(PAC添加量1200mg/L、有機凝結剤添加せず)の凝集条件でも、同様の連続通水試験を行った。実施例1~4は実験例1の実施例2(第1の実施形態)に対応するが、カチオン系高分子凝集剤(カチオンポリマー)のカチオン基比率が互いに異なっている(カチオン基比率:5%、8%、15%、27%)。実施例5は第2の実施形態に対応しており、無機凝集剤と有機凝結剤とカチオン系高分子凝集剤が同一の反応槽に添加された。実施例6は実験例1の実施例3(第3の実施形態)に対応し、比較例1は実験例1の比較例2に対応している。各実施例及び比較例において、アニオン系高分子凝集剤(アニオンポリマー)のアニオン基比率は実験例1と同様、4%とした。小型試験機の装置仕様は以下のとおりである。
<装置仕様>
各反応槽容量 10L
沈殿槽容量 2.5L(ブランケット高40cm)
沈殿槽直径 67mm
通水LV 実施例1~6 20m/h(71L/h)
比較例1 15m/h(53L/h)
表3に実験結果を示す。
【0036】
【表3】
【0037】
実施例1~4の比較より、カチオン基比率5~8%(実施例1,2)のときに最も大きなペレットが形成され、かつ、懸濁物質(SS)濃度が3mg/L程度の非常に清浄度の高い処理水を得ることができた。カチオン基比率が15%のカチオンポリマーを使用した場合(実施例3)でも、アニオンポリマー単独でペレット化を行った場合(実施例6)と比べて、ペレットの粒径が大きく、SS濃度の低い処理水を得ることができた。カチオン基比率を27%まで増加させた場合(実施例4)には、実施例6よりも処理水質、ペレット径とも劣るが、比較例1よりは良好であった。実施例5のように無機凝集剤と有機凝結剤とカチオン系高分子凝集剤を同一の反応槽に添加した場合は、実施例1,2と同等の非常に清浄度の高い処理水を得ることができた。これに対し、比較例1はPAC添加量が多いためにペレット形成が困難であった。また、比較例1は、径の小さい凝集フロックが多く発生したため、実施例1~6よりも低い通水LV15m/hで被処理水を通水したが、それでも凝集フロックが流出してしまい、高速処理が困難であった。これより、各実施例において、連続通水条件下でもペレット形成が可能であり、かつペレット形成による高速処理が可能であることが確認できた。
【0038】
(実験例3)
実験例1,2とは異なる取水源の染色排水を用いて、連続通水試験を実施した。使用した排水の水質を表4に、実験結果を表5に示す。目標水質はCOD20mg/L未満とした。実施例1~3はそれぞれ第1~第3の実施形態に対応し、比較例1,2は実験例1の比較例1,2に対応している。比較例1はPAC添加量が不足し、かつ有機凝結剤を添加していないため、CODを20mg/L未満まで低減することができなかった。また、比較例1では、沈殿槽の下部で大きなペレットが形成されたが、ペレットブランケットで捕捉されなかった凝集不良の微細凝集フロックが流出する傾向にあった。比較例2はPACの添加量(800mg/L)を比較例1に対して倍増させているため、CODを20mg/L未満まで低減することができたが、凝集フロックが非常に軽いため、通水LV15m/hでは処理水中に凝集フロックが流出してしまった。一方、実施例1、2では、有機凝結剤を併用したため、無機凝集剤の添加量が少量であってもCODを14~16mg/Lまで低減でき、且つ大きなペレットを形成することができた。実施例3は、カチオン系高分子凝集剤とアニオン系高分子凝集剤を併用した実施例1,2と比べてSS濃度が劣るものの、CODを16mg/Lまで低減することができた。
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【符号の説明】
【0041】
1,101,201 凝集沈殿装置
3 第1の反応槽(第1の添加位置)
4 第2の反応槽(第3の添加位置)
5 沈殿槽
6 無機凝集剤添加手段
7 有機凝結剤添加手段
9 第2の高分子凝集剤添加手段
10 第1の高分子凝集剤添加手段
17 第2の添加位置
図1
図2
図3