(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】壁梁構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/64 20060101AFI20220106BHJP
E04C 3/06 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
E04B2/64
E04C3/06
(21)【出願番号】P 2017236534
(22)【出願日】2017-12-08
【審査請求日】2020-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390022323
【氏名又は名称】大成ユーレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】村上 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】平松 道明
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-248691(JP,A)
【文献】実開平03-123019(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/64
E04C 3/00 - 3/46
E04C 5/00 - 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート造の壁板の上部に設けられた壁梁の構造であって、
当該壁梁は、略同一の高さ位置に略平行に配置された一対の上側梁主筋と、当該一対の上側梁主筋の直下で略同一の高さ位置に略平行に配置された一対の下側梁主筋と、前記壁梁の長さ方向に沿って所定間隔おきに複数設けられて前記上側梁主筋および前記下側梁主筋を囲むあばら筋と、を備え、
当該あばら筋は、一対の上側梁主筋の一方に引っ掛けられた上側フックと、当該一方の上側梁主筋の直下に位置する下側梁主筋に引っ掛けられた下側フックと、前記上側フックから延びて前記上側梁主筋および下側梁主筋に
一周以上一周半
未満巻かれて前記下側フックに至るあばら筋本体と、を備え、
前記あばら筋は、前記壁梁の断面視で、前記上側フックおよび前記下側フックが左側に位置するものと、前記上側フックおよび前記下側フックが右側に位置するものと、が交互に配置されることを特徴とする壁梁構造。
【請求項2】
前記上側フックおよび前記下側フックは、前記あばら筋本体に対する角度が略180°のフックであることを特徴とする請求項1に記載の壁梁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート造の壁梁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、壁式構造の建物では、工期を短縮するために、プレキャストコンクリート造の壁板を予め製作し、この壁板を現場に運搬して互いに接合することが行われている(特許文献1参照)。
このような壁式構造の建物では、壁板の開口の上となる位置に壁梁が設けられる場合がある。この場合、壁梁の幅寸法が壁厚と同一であるにもかかわらず、壁梁に壁筋よりも太径の梁主筋を配筋し、この梁主筋の周囲にあばら筋を配筋する。
【0003】
すなわち、
図6に示すように、壁梁100には、4本の上側梁主筋101A~101Dと、4本の下側梁主筋102と、これら上側梁主筋101A~101Dおよび下側梁主筋102を囲む矩形枠状のあばら筋110と、が設けられている。
【0004】
このあばら筋110は、
図6中右側上段の上側梁主筋101Aに引っ掛けられたフック111と、同じく
図6中右側上段の上側梁主筋101Aに引っ掛けられたフック112と、フック111から上側梁主筋101A~101Dおよび下側梁主筋102に1周巻かれてフック112に至るあばら筋本体113と、を備える。
【0005】
このように、あばら筋110の2つのフック111、112は、同一の上側梁主筋101Aに引っ掛けられている。梁主筋に引っ掛けるあばら筋のフックの角度は、180°または135°と規定されているが、フックの角度を180°とした場合、1本の梁主筋に2本のフックを引っ掛けようとすると、あばら筋の配筋作業が非常に困難となる。よって、
図6に示すように、1本の梁主筋に2本のフック111、112を引っ掛ける場合、このフック111、112の角度を135°としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の壁梁は、壁板内に設けられているため、壁梁の梁幅が壁厚と同一となっている。よって、上側梁主筋101Aが
図6中左側の上側梁主筋101B、101Dに近接して配置されることとなり、上側梁主筋101Aに引っ掛けられたフック112の先端が、
図6中左側の上側梁主筋101B、101Dに干渉しやすくなり、壁梁の配筋に手間がかかったり、配筋できなかったりする場合がある、という問題があった。
また、壁梁に4本ではなく2本の上側梁主筋101A、101Bのみが配置された場合も、上側梁主筋101Aに引っ掛けられたフック112の先端が、上側梁主筋101Bに干渉しやすくなるため、同様の問題が生じていた。
【0008】
本発明は、壁梁の配筋作業が容易となる、壁梁の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の壁梁構造は、プレキャストコンクリート造の壁板(例えば、後述の壁板10)の上部に設けられた壁梁(例えば、後述の壁梁11)の構造であって、当該壁梁は、略同一の高さ位置に略平行に配置された一対の上側梁主筋(例えば、後述の30UL、30UR)と、当該一対の上側梁主筋の直下で略同一の高さ位置に略平行に配置された一対の下側梁主筋(例えば、後述の下側梁主筋40DL、40DR)と、前記壁梁の長さ方向に沿って所定間隔おきに複数設けられて前記上側梁主筋および前記下側梁主筋を囲むあばら筋(例えば、後述のあばら筋60A、60B)と、を備え、当該あばら筋は、一対の上側梁主筋の一方に引っ掛けられた上側フック(例えば、後述の上側フック61)と、当該一方の上側梁主筋の直下に位置する下側梁主筋に引っ掛けられた下側フック(例えば、後述の下側フック62)と、前記上側フックから延びて前記上側梁主筋および下側梁主筋に一周半巻かれて前記下側フックに至るあばら筋本体(例えば、後述のあばら筋本体63)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の壁梁構造は、前記上側フックおよび前記下側フックは、前記あばら筋本体に対する角度が略180°のフックであることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、上側フックを上側梁主筋に引っ掛けるとともに、下側フックを下側梁主筋に引っ掛ける構造とした。つまり、2つのフックを異なる梁主筋に引っ掛ける構造とした。したがって、施工性を確保するために、各フックの角度を略135°とする必要がないから、上側フックや下側フックの先端が隣接する梁主筋に干渉するのを防いで、鉄筋の納まりを良好にできるので、壁梁の配筋作業が容易になる。
また、あばら筋本体を上側梁主筋および下側梁主筋に一周半巻いたことにより、壁梁の水平断面視であばら筋1本当りの断面積が増大するので、せん断補強筋としてのあばら筋の設置間隔を従来に比べて広くできる。
【0012】
請求項1に記載の壁梁構造は、前記壁梁の断面視で、前記上側フックおよび前記下側フックが左側に位置するものと、前記上側フックおよび前記下側フックが右側に位置するものと、が交互に配置されることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、上側フックおよび下側フックが左側に位置するものと、上側フックおよび下側フックが右側に位置するものと、を交互に配置したので、あばら筋のフックの配置が左右どちらかに偏るのを防止して、壁梁の構造的なバランスを良好にできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上側フックや下側フックの先端が隣接する梁主筋に干渉するのを防いで、鉄筋の納まりを良好にできるので、壁梁の配筋作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る壁梁構造が適用された集合住宅の立面図である。
【
図2】前記実施形態に係る集合住宅の一部の平面図である。
【
図3】前記実施形態に係る集合住宅の一部の立面図である。
【
図4】壁梁の
図3中破線Aで示す部分の縦断面図である。
【
図5】
図4のB-B断面図およびC-C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る壁梁構造が適用された集合住宅1の立面図である。
図2は、集合住宅1の一部の平面図である。
【0017】
集合住宅1は、5階建ての壁式構造の建物であり、この集合住宅1の各階は、プレキャストコンクリート造の壁板10と、鉄筋コンクリート造の床スラブ20と、を組み合わせて構築される。
【0018】
また、この集合住宅1の各階は、並んで配置された複数の居室2と、複数の居室2に沿って延びる廊下3と、廊下3の居室2を挟んで反対側に設けられてかつ複数の居室2に沿って延びるベランダ4と、を備える。
各居室2同士は、間仕切壁5で仕切られている。居室2と廊下3との間、および、居室2とベランダ4との間は、外壁6で仕切られている。
【0019】
図3は、集合住宅1の一部の立面図である。
外壁6は、プレキャストコンクリート造の壁板10からなり、この壁板10には開口部12が形成されている。壁板10の開口部12の上側つまり上端部には、壁梁11が設けられている。
壁板10の上には、鉄筋コンクリート造の床スラブ20が設けられており、壁板10の壁梁11は、床スラブ20に接合されている。
【0020】
図4は、壁梁11の
図3中破線Aで示す部分の縦断面図である。
図5(a)は、
図4のB-B断面図であり、
図5(b)は、
図4のC-C断面図である。
壁梁11は、4本の上側梁主筋30と、4本の下側梁主筋40と、2本の腹筋50と、壁梁11の長さ方向に沿って所定間隔おきに設けられてこれら上側梁主筋30、下側梁主筋40、および腹筋50を囲むあばら筋60と、を備える。
【0021】
上側梁主筋30および下側梁主筋40は、上下2段で設けられている。
すなわち、上側梁主筋30は、略同一の高さ位置に略平行に配置された一対の上側梁主筋30UL、30URと、これら上側梁主筋30UL、30URの直下で略同一の高さ位置に略平行に配置された一対の上側梁主筋30DLと、30DRと、を備える。
【0022】
下側梁主筋40は、略同一の高さ位置に略平行に配置された一対の下側梁主筋40UL、40URと、これら下側梁主筋40UL、40URの直下で略同一の高さ位置に略平行に配置された一対の下側梁主筋40DL、40DRと、を備える。
以上の上側梁主筋30および下側梁主筋40の添え字Uは、上段を示し、添え字Dは、下段を示す。また、添え字Lは、
図5中左側を示し、添え字Rは、
図5中右側を示す。
また、腹筋50は、上側梁主筋30と下側梁主筋40との中間の高さ位置に設けられている。
【0023】
あばら筋60としては、壁梁11の断面視で、後述の上側フック61および下側フック62が左側に位置するあばら筋60A(
図5(a)参照)と、上側フック61および下側フック62が右側に位置するあばら筋60B(
図5(b)参照)と、が交互に配置される。
【0024】
あばら筋60Aは、上側梁主筋30ULに引っ掛けられた上側フック61と、この上側梁主筋30ULの直下に位置する下側梁主筋40DLに引っ掛けられた下側フック62と、上側フック61から延びて上側梁主筋30および下側梁主筋40に
図5(a)中反時計回りに一周半巻かれて下側フック62に至るあばら筋本体63と、を備える。
上側フック61および下側フック62は、あばら筋本体63に対する角度が略180°のフックである。
【0025】
あばら筋60Bは、上側梁主筋30URに引っ掛けられた上側フック61と、この上側梁主筋30URの直下に位置する下側梁主筋40DRに引っ掛けられた下側フック62と、上側フック61から延びて上側梁主筋30および下側梁主筋40に
図5(b)中時計回りに一周半巻かれて下側フック62に至るあばら筋本体63と、を備える。
【0026】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)あばら筋60A、60Bの上側フック61を上側梁主筋30UL、30URに引っ掛けるとともに、下側フック62を下側梁主筋40DL、40DRに引っ掛ける構造とした。つまり、2つのフック61、62を異なる梁主筋に引っ掛ける構造とした。したがって、施工性の低下を防止するために、フックの角度を略135°とする必要がないから、上側フックや下側フックの先端が隣接する梁主筋に干渉するのを防いで、鉄筋の納まりを良好にできるので、壁梁11の配筋作業が容易になる。
また、あばら筋本体63を上側梁主筋30および下側梁主筋40に一周半巻いたことにより、壁梁11の水平断面視であばら筋60の1本当りの断面積が増大するので、あばら筋60の設置間隔を従来に比べて広くできる。
【0027】
(2)上側フック61および下側フック62が
図5(a)中左側に位置するあばら筋60Aと、上側フック61および下側フック62が
図5(b)中右側に位置するあばら筋60Bと、を交互に配置したので、あばら筋のフック61、62の配置が左右どちらかに偏るのを防止して、壁梁の構造的なバランスを良好にできる。
【0028】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0029】
1…集合住宅 2…居室 3…廊下 4…ベランダ 5…間仕切壁 6…外壁
10…壁板 11…壁梁 12…開口部 20…床スラブ
30UL、30UR、30DL、30DR…上側梁主筋
40UL、40UR、40DL、40DR…下側梁主筋 50…腹筋
60、60A、60B…あばら筋
61…上側フック 62…下側フック 63…あばら筋本体