(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】超音波送受信装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20220106BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2018007637
(22)【出願日】2018-01-19
【審査請求日】2020-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 一宏
(72)【発明者】
【氏名】川畑 健一
(72)【発明者】
【氏名】寺田 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】坪田 悠史
(72)【発明者】
【氏名】武 文晶
【審査官】宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-238898(JP,A)
【文献】特開昭57-107146(JP,A)
【文献】特表2017-534397(JP,A)
【文献】特開2007-282960(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187608(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信および受信する振動子が配列された振動子アレイと、
前記振動子アレイと被検体との間に配置され、前記被検体を保定するための固定具と、
前記固定具の少なくとも一部を前記被検体に押し付けて前記被検体を保定する駆動機構とを有し、
前記振動子アレイが送信した超音波は、前記固定具を通過して前記被検体に照射され、前記振動子アレイは、前記被検体によって反射および/または透過した超音波であって前記固定具を透過した超音波を受信する位置関係に前記振動子アレイと前記固定具とが配置され、
前記振動子アレイは、前記被検体の周囲の少なくとも一部領域を2次元的に取り囲む形状を有することを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項2】
超音波を送信および受信する振動子が配列された振動子アレイと、
前記振動子アレイと被検体との間に配置され、前記被検体を保定するための固定具と、
前記固定具の少なくとも一部を前記被検体に押し付けて前記被検体を保定する駆動機構とを有し、
前記振動子アレイが送信した超音波は、前記固定具を通過して前記被検体に照射され、前記振動子アレイは、前記被検体によって反射および/または透過した超音波であって前記固定具を透過した超音波を受信する位置関係に前記振動子アレイと前記固定具とが配置され、
前記振動子アレイは、前記被検体を挟んで対向する位置に配置された一対以上の振動子を含むことを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項3】
超音波を送信および受信する振動子が配列された振動子アレイと、
前記振動子アレイと被検体との間に配置され、前記被検体を保定するための固定具と、
前記固定具の少なくとも一部を前記被検体に押し付けて前記被検体を保定する駆動機構と、
前記被検体の先端を挿入するガイド部材と
を有し、
前記振動子アレイが送信した超音波は、前記固定具を通過して前記被検体に照射され、前記振動子アレイは、前記被検体によって反射および/または透過した超音波であって前記固定具を透過した超音波を受信する位置関係に前記振動子アレイと前記固定具とが配置され、
前記固定具は、前記ガイド部材に挿入されていない前記被検体の一部を保定することを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波送受信装置であって、前記ガイド部材と前記被検体との間に、液体を注入する液体注入機構をさらに有することを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項5】
請求項3記載の超音波送受信装置であって、前記被検体は、手であり、前記ガイド部材は、手の指の位置をガイドする形状を有することを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項6】
超音波を送信および受信する振動子が配列された振動子アレイと、
前記振動子アレイと被検体との間に配置され、前記被検体を保定するための固定具と、
前記固定具の少なくとも一部を前記被検体に押し付けて前記被検体を保定する駆動機構とを有し、
前記振動子アレイが送信した超音波は、前記固定具を通過して前記被検体に照射され、前記振動子アレイは、前記被検体によって反射および/または透過した超音波であって前記固定具を透過した超音波を受信する位置関係に前記振動子アレイと前記固定具とが配置され、
前記固定具のさらに外側
には、前記被検体を固定する第2の固定具
が配置されていることを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の超音波送受信装置であって、前記固定具は、前記振動子アレイが送信する超音波に対する音響インピーダンスが、前記被検体と同等な材料によって構成されていることを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の超音波送受信装置であって、前記固定具は、液体を包含し、弾性を有する膜部材を含み、
前記駆動機構は、前記膜部材が包含する液体量を増加させることにより前記膜部材を膨らませて前記被検体の少なくとも一部に押し付けて、前記被検体を保定する固定具圧力調整部を含むことを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の超音波送受信装置であって、前記固定具は、予め定めた形状の部材であり、
前記駆動機構は、前記部材を前記被検体に押し付ける方向に移動させる力を加える機構を含むことを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の超音波送受信装置であって、前記振動子アレイを、前記被検体に対して相対的に移動させ
るアクチュエータをさらに有することを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項11】
請求項10に記載の超音波送受信装置であって、前記振動子アレイと前記固定具との間には、液体が満たされていることを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項12】
請求項9に記載の超音波送受信装置であって、前記振動子アレイは、前記部材の内部に配置されていることを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項13】
請求項12に記載の超音波送受信装置であって、前記振動子が受信した受信信号を用いて所定の演算を行うことにより前記被検体の画像を生成する画像生成部をさらに有し、
前記画像生成部は、前記部材が前記駆動機構により前記被検体に押し付ける方向に移動させられた後の前記振動子と前記被検体との距離を求め、前記距離の情報を用いて前記演算を行うことにより前記画像を生成することを特徴とする超音波送受信装置。
【請求項14】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の超音波送受信装置であって、前記固定具と前記被検体との間の空間に液体を注入し、排出する液体注入機構をさらに備えることを特徴とする超音波送受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波送受信装置に関し、特に、超音波信号を用いて物体を計測または撮像する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波送受信装置とは、被検体に対して、超音波を送信し、被検体と何らかの相互作用をした超音波を受信し、被検体に関する何らかの情報(例えば、血流速)を計測したり、被検体を撮像する装置である。
【0003】
一つの例として、被検体からの反射超音波を受信して、被検体内の画像を生成する、超音波エコー装置を簡単に説明する。超音波エコー装置では、超音波パルスを送信し、被検体と外部との境界あるいは内部で反射したエコー信号を受信する。各受信振動子の出力する受信信号の振幅を時間軸方向に記録したものをAスキャン信号と呼ぶ。Aスキャン信号は、被検体に設定した撮像領域内のピクセルあるいはボクセルごとに、受信した振動子と撮像領域内のピクセルあるいはボクセルとの距離に応じて適切な遅延や重みづけをされた上で加算(あるいは平均化)され、反射値が算出される。この処理は整相加算処理と呼ばれる。整相加算処理がなされた反射値を、各ピクセルあるいはボクセルの位置に対応する画素の輝度とすることにより被検体の構造を反映したエコー画像が生成される。必要に応じて、エコー画像には、適切な画像フィルターなどの画像処理が施される。エコー画像は、表示画面上に表示される。
【0004】
他の超音波送受信装置の例としては、光音響法、超音波トモグラフィ法を利用した装置がある。光音響法では、被検体にパルスレーザーなどの高強度な光を照射することによって生じる局所的な温度上昇により発生する超音波を受信し、超音波エコー法と同様の手法によって画像化する。また、超音波トモグラフィ法では被検体内部を前方散乱(あるいは透過)した超音波を受信し、その伝搬時間、受信信号強度、伝搬距離等に基づいて被検体の音響特性(音速や減衰など)を算出し、音響特性マップ画像を生成する。
【0005】
特許文献1には、上述の光音響法で被検体を撮像する装置が開示されており、被検体の動作を抑制するために、被検体の音響受信器と対向していない側の面にクリップ状の保持具を取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、リウマチのように患部に炎症が起き変形が生じる疾患を早期に診断するために、変形が生じる以前の炎症等による微小な変化を把握できるような高精度な超音波画像の撮像が望まれている。そのためには、被検体を静止させて、被検体の周囲から超音波送受信を行って、疾患により変化が生じる情報(例えば血管の血流情報)等を精度よく計測する必要がある。
【0008】
また、早期診断のためには、検診に用いることができるように、簡単な操作で、技師または被検体自身が自動撮像できる装置が望まれており、簡単な操作で被検体を静止させることができる構成であることが望ましい。
【0009】
特許文献1に開示されているクリップ状の保持具は、超音波の受信器が配置されている側とは逆側に配置されるため、被検体の片側からのみ超音波を受信する場合には受信の妨げにならない。しかしながら、被検体の高精度な画像を得るためには、被検体の全周囲から超音波の送受信を行うことが望ましく、保持具による超音波の減衰、反射、屈折の影響が無視できなくなる。そのため、保持具の存在が偽像・画質の劣化の原因となる可能性がある。
【0010】
また、リウマチの場合には、四肢の末端(手や足)に症状が現れやすいが、手や足は、複雑な形状で、かつ、関節が多く動きやすい部位であるため、特許文献1のようにクリップのみで動きを抑制しながら保持するのは容易ではない。多数のクリップを被検体の末端に取り付ければ保持することは可能であるが、超音波を受信できる方向が限定的になる。また、多数のクリップを適切な位置に取り付けることのできる習熟した技師が必要である。
【0011】
本発明の目的は、簡単な操作で被検体の動きを抑制しながら、被検体の全周からの超音波送受信を可能にする装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、超音波を送信および受信する振動子が配列された振動子アレイと、振動子アレイと被検体との間に配置され、被検体を保定するための固定具と、固定具の少なくとも一部を被検体に押し付けて被検体を保定する駆動機構とを有する超音波送受信装置が提供される。振動子アレイが送信した超音波は、固定具を通過して被検体に照射され、振動子アレイは、被検体によって反射および/または透過した超音波であって固定具を透過した超音波を受信する位置関係に前記振動子アレイと前記固定具とが配置されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な操作で被検体の動きを抑制しながら、被検体の全周からの超音波送受信を可能にする装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1による超音波送受信装置の被検体保定前の全体構成を示す断面図。
【
図2】実施形態1による超音波送受信装置の被検体保定後の全体構成を示す断面図。
【
図3】実施形態1による超音波送受信装置の超音波計測時の全体構成を示す断面図。
【
図6】
図6A~
図6Fは、実施形態1による超音波送受信装置において、振動子アレイとそのアクチュエータの変形例を表す図である。
【
図7】実施形態1による超音波送受信装置の超音波計測の動作を表すフローチャート。
【
図8】実施形態1による超音波送受信装置の各構成要素間の情報のやり取りを表すシーケンス図。
【
図9】実施形態1による超音波送受信装置の超音波計測の動作を表すフローチャート。
【
図10】実施形態1による超音波送受信装置の各構成要素間の情報のやり取りを表すシーケンス図。
【
図11】実施形態1の変形例1による超音波送受信装置の構成を示す断面図。
【
図12】実施形態1の変形例2における被検体が手袋を装着した状態の断面を表す図。
【
図13】実施形態2の超音波送受信装置の構成を示す断面図。
【
図14】実施形態2の変形例1の超音波送受信装置の構成を示す断面図。
【
図15】実施形態2の変形例2超音波送受信装置の構成を示す断面図。
【
図16】実施形態2の変形例3超音波送受信装置の構成を示す断面図。
【
図17】実施形態2およびその変形例1~3による超音波送受信装置の簡略化した超音波計測の動作を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0016】
<<実施形態1>>
実施形態1の超音波送受信装置101について
図1~
図5等を用いて説明する。
図1~
図3は、超音波送受信装置の全体構造を示し、
図1は、被検体保定前の構造を、
図2は、被検体保定後の構造を、
図3は、超音波計測時の構造をそれぞれ示す断面図であり。
図4は、
図1~
図3と直交する方向の断面図である。
図5は、
図1の上面図である。
【0017】
図1から
図4に示すように、実施形態1の超音波送受信装置は、超音波を送信および受信する振動子が配列された振動子アレイ201と、振動子アレイ201と被検体1との間に配置され、被検体1を保定するための固定具211と、固定具211の少なくとも一部を被検体1に押し付けて被検体1を保定する駆動機構212とを備えている。振動子アレイ201が送信した超音波は、固定具211を通過して被検体1に照射され、振動子アレイ201は、被検体1によって反射および/または透過した超音波であって固定具211を透過した超音波を受信する位置関係に振動子アレイ201と固定具211が配置されている。
【0018】
このように、本実施形態では、振動子アレイ201が、固定具211を通して超音波の送受信を被検体1に対して行う構成としたことにより、固定部211の配置に制限がないため、被検体の全周からの超音波送受信が可能である。また、固定具211の形状にも制限がないため、簡単な操作で被検体の動きを抑制できる固定具211を容易に設計可能である。
【0019】
固定具211を通して超音波の送受信を行うため、固定具211は、振動子アレイ201が送信する超音波に対する音響インピーダンスおよび音速の少なくとも一方が、被検体1の音響インピーダンスまたは音速と同等な材料によって構成されていることが望ましい。ここでいう同等とは、被検体1のインピーダンスに対して、固定具211を構成する材料のインピーダンスが、50%から200%程度であることが望ましく、被検体1の音速に対して、固定具211を構成する材料の音速が50%から200%程度であることが望ましい。
【0020】
また、振動子アレイ201は、
図6にその形状例を示すように、被検体1の周囲の少なくとも一部領域を2次元的に取り囲む形状を有することが望ましい。これにより、被検体1の反射波や透過波を、一方向のみならず、全周または所定の角度範囲の周方向から取得することができるため、高精度な被検体画像を取得することができる。例えば振動子アレイ201は、
図6A~Fに示したように、被検体1を挟んで対向する位置に配置された一対以上の振動子を含むように配列することができる。
【0021】
振動子アレイ201には、被検体1に対して相対的に移動させるためにアクチュエータ202を取り付けてもよい。これにより、振動子アレイ201を被検体1に対して移動させることができるため、被検体1の広範囲について計測または画像取得を行うことができる。
【0022】
振動子アレイ201をアクチュエータ202によって相対的に移動させる場合、振動子アレイ201と固定具211との間には、液体が満たされていることが望ましい。
図1の構成の場合には、この後述べる固定具211の液体211b内に振動子アレイ201が配置されている。
【0023】
実施形態1では、固定具211は、
図1~
図4に示したように、弾性を有する膜部材211aにより液体211bを包含した構成である。駆動機構(固定具圧力調整部)212は、膜部材211aが包含する液体211bの量を増加等させ、膜部材211aを
図2および
図3のように膨らませることにより、被検体1の少なくとも一部に押し付けて、被検体1を保定することができる。具体例としては、膜部材211aとしては、シリコーンゴムを、液体211bとしては、水やエタノール等の液体を用いることができる。液体211bに替えてゲルを用いてもよい。
【0024】
なお、
図1~
図4の例では、固定具211は、振動子アレイ201と被検体1との間には配置されていない筐体211cを有し、筐体211により膜部材211aの一部を支持している。筐体211cには、被検体1を挿入するための開口261が
図5のように設けられている。
【0025】
また、
図1~
図5のように、実施形態1では、被検体1の先端を挿入するガイド部材251をさらに有している。ガイド部材251で被検体1をガイドすることにより、被検体1の形状を精度の良い計測に適した形状に支持することができる。
図1~
図5の例では、被検体1の撮像部位が手であるため、ガイド部材251は、指先を所定の向きにガイドする形状を有している。ガイド部材251に挿入された被検体1の部位(ここでは指先)についても超音波を送受信する場合には、ガイド部材251もまた固定具211と同様に、音響インピーダンスが被検体1と同等の材料によって構成されていることが望ましい。固定具211は、振動子アレイ201が送信する超音波に対する音響インピーダンスが、被検体1と同等な材料によって構成されていることが望ましい。例えば、被検体1の撮像部位が手である場合、皮膚や脂肪と同程度の音響インピーダンスを有する材料により固定具211を構成する。具体例としては、フッ素系樹脂が好適である。
【0026】
ガイド部材251を用いる場合、固定具211は、ガイド部材251に挿入されていない被検体1の一部を保定することが望ましい。例えば、被検体1が手であり、ガイド部材251が指をガイドする場合、固定具211は手の平を保定する構成とする。手の場合は、手の平を固定具211により保定することにより、手の動きを効果的に抑制できる。
【0027】
また、ガイド部材251を用いる場合、ガイド部材251と被検体1との間に隙間が生じるため、この隙間に液体を注入する液体注入機構221を配置してもよい。液体としては、振動子アレイ201が送信する超音波に対する音響インピーダンスが、被検体1と同等な材料であることが望ましく、例えば水やエタノールを用いることができる。
【0028】
また、実施形態1の超音波送受信装置は、上述の構成の他に、画像生成部(制御・演算部)111をさらに備えている。制御・演算部111は、振動子201が受信した受信信号を用いて所定の演算を行うことにより被検体1の画像を生成する。
【0029】
制御・演算部111が生成する画像は、どのようなものであってもよい。例えば、超音波診断装置で用いられるエコー画像であってもよいし、血流信号を得ることを目的としたドップラー画像であってもよいし、超音波トモグラフィ法による音速や減衰マップの画像であってもよい。本実施形態の装置は、具体的には例えば、超音波画像として、エコー画像とドップラー画像とを精度よく算出し、ユーザは、これらの画像を用いることにより、関節滑膜の炎症に特徴的な滑膜肥厚や血流信号の滑膜への流入を把握し、それをもとにリウマチの超早期診断を行うことができる。
【0030】
以下、実施形態1の超音波送受信装置について図面を用いてさらに具体的に説明する。
【0031】
<装置の具体的な構成>
図1~
図6に示す実施形態1の超音波送受信装置において、超音波の送信と受信は、1つまたは2以上の超音波振動子が配列された振動子アレイ201によって行われる。超音波振動子は、電気的な信号(送信信号)を超音波に変換して送信し、受信した超音波を電気的な信号(受信信号)に変換する素子である。
【0032】
振動子アレイ201は、送信信号の生成など種々の電子的制御や、受信信号から画像を構成する演算などを行う制御・演算部111に接続されている。
【0033】
制御・演算部111はさらに超音波送受信装置の被検体や検査者が何らかの指示や情報を入力するUI112と、現在の機器の状態、被検体への動作指示、測定結果などを表示する表示部113とに接続されており、これらは互いに情報をやり取りできるようになっている。
【0034】
<制御・演算部111>
制御・演算部111は、プロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit))と、プログラムが予め格納されたメモリと、電気的な信号を送受信するインターフェースとを備えて構成され、プロセッサがプログラムを読み込んで実行することにより、インターフェースを通じて振動子アレイ201への超音波への送信および受信や、表示部213への画像データの送信や、UI112との指示のやり取りや、振動子アレイアクチュエータ211、固定部圧力調整部202、液体注入機構221などの制御をソフトウエアにより実現することができる。また、超音波受信信号をもとに超音波画像301を生成し、その結果を表示部113に表示させたり、前記プロセスの変更を行う動作を行うこともできる。
【0035】
なお、制御・演算部111は、一部または全部をハードウエアによって実現することも可能である。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて制御・演算部111を構成し、その動作を実現するように回路設計を行うことでハードウエアにより、制御・演算部111を実現できる。
【0036】
<振動子アレイ201>
本実施形態では、超音波送受信装置1は、被検体1の撮像対象領域全体、すなわち、手首から指先までの任意の箇所の超音波計測を行うことを目的としている。そのため、振動子アレイ201は被検体1の撮像対象領域全体へ超音波を送信し、撮像対象領域全体からの超音波を受信する機構を備えている。
【0037】
図1~
図4に示した超音波送受信装置1は、振動子アレイ201は、
図6Aで示すような円環状であり、被検体1を2次元的に取り囲む形状をしている。通常、骨は超音波減衰が大きく、超音波の送受信源に対して骨の裏側に位置する部位からの信号強度は極めて弱くなり、超音波画像301が劣化してしまうが、前記のように振動子アレイ201が被検体1を2次元的に取り囲む形状にすることによって、骨の全周囲部位で高画質な超音波画像を取得することが可能になる。
【0038】
さらに、
図6Aのように対向する位置の超音波振動子で送信と受信とを行える機能を備えることによって、被検体1を透過した超音波信号を取得することが可能になる。これにより、透過超音波信号の到達時間と信号強度や信号波形をもとに、超音波トモグラフィ法の手法により制御・演算部111が演算を行うことにより、被検体1の音速、減衰などの画像を得ることが可能になる。
【0039】
また、振動子アレイ201には、被検体1の手首から指先方向に沿って振動子アレイ201を機械的に移動させる振動子アレイアクチュエータ202が連結されている。このような構成によって被検体1の全体を撮像することが可能である。
【0040】
<振動子アレイ201とアクチュエータ202の変形例>
振動子アレイ201とアクチュエータ202との変形例を
図6B-Eに示す。振動子アレイアクチュエータ202は
図6Bのように、
図6Aに示した手首から指先へ方向への移動(
図6Aでは上下動)に加えて、振動子アレイ201のあおり角度を変更する機構や、振動子アレイ201の面内方向に移動させる駆動機構を備えていてもよい。
【0041】
また、
図6Cのように、振動子アレイ201は、円環形状が円環の中心軸方向に積み上げられた2次元円環構造(筒状構造)をしていてもよい。
【0042】
また、
図6Dのように、振動子アレイ201は、例えばお椀状のように振動子を3次元的な配列に並べたものであってもよい。
【0043】
また、
図6Eのように振動子アレイ201は、円環の一部が欠けた半円環形状であり、アクチュエータ202によって被検体の全領域への超音波の送信と受信とができるようになっていてもよい。このような構成によって、被検体1の測定対象となる部位のおおむね全周囲からの超音波送信・受信を行うことができ、
図6Aで示した構成の場合と同様な効果が得られる。
【0044】
なお、振動子アレイ201は
図6A-Eでは、円環型またはその組み合わせや一部であるが、それ以外の形状であってもよく、例えば楕円形状であってもよい。あるいは、振動子アレイ201は、
図6Fのように、線形に振動子が配列された2つのリニア振動子アレイより構成されていてもよい。リニア振動子アレイを用いることによって振動子アレイの製作コストを抑制することが可能になる。
【0045】
<固定具211>
実施形態1では、固定具211は、被検体1の手の平の側と甲の側との両面から圧迫することによって被検体1を固定する。固定の方法は実施形態1のように圧迫固定以外に、例えば吸盤による吸引固定でもよい。
【0046】
実施形態1では、固定具211は、上述したように、袋状の伸縮性を持つ膜部材211aを含み、膜部材211aの内部には液体211bが入っている。固定具圧力調整部212は、固定具211内部の圧力を調整することによって、被検体1に加わる圧力を変えることができる。例えば、固定具圧力調整部212は、膜部材211aの包含する液体211bの量を調整することにより圧力調整する構造であってもよいし、膜部材211a内の容積を変化させる部材を挿入することによって圧力調整する構造であってもよい。具体的には、固定具圧力調整部212としてはピストンを用いることができる。また、固定具211は、内部に圧力センサ213を備えており、圧力センサ213によって内部の液体211bの圧力を計測することにより、被検体1に加わる圧力を検出することができる。
【0047】
膜部材211aおよび、その内部の液体211bは、音響伝搬特性が良好なものを用いる。本実施形態において、音響伝搬特性が良好な媒質とは、超音波減衰係数が小さく、上述したように、音響インピーダンスと音速とがヒトの皮膚および脂肪に代表される被検体に近い媒質のことを言う。減衰係数は、送受信を行う超音波の周波数において10 dB以下であることが望ましい。
【0048】
振動子アレイ201から送受信される超音波の伝搬経路に位置する膜部材211aおよび液体211bとして、音響伝搬特性が良好な媒質を用いることにより、伝搬媒質中での超音波減衰が抑制でき、また、異なる媒質間の界面での反射を抑制することができるため、被検体で散乱した超音波信号を高効率で検出することができる。結果として、超音波画像301の高画質化に寄与することができる。
【0049】
さらに、膜部材211aおよび液体211bとして、被検体1と音速が近い媒質を用いることにより、超音波の媒質間の界面での屈折の影響が少なくなり、特に直線伝搬を仮定した演算を行う超音波画像301の生成においては、超音波画像301の高画質化に寄与することができる。
【0050】
膜部材211aの素材としてはたとえばシリコーンを用いることができ、固定具内部211の液体211bとしては、たとえば水を好適に用いることができる。
【0051】
固定具圧力調整部212による圧力の調整は、被検体1自身、あるいは検査技師などが手動で制御してもよいし、制御・演算部111により自動で制御する構成とすることもできる。
【0052】
制御・演算部111により、固定具圧力調整部212を制御する場合、UI112により被検体あるいは検査技師などが圧力を設定できるようにしてもよいし、あらかじめ定めておいた圧力になるように制御してもよい。圧力の調節は、液体211bの量で行ってもよいし、圧力センサ213の測定結果が設定された圧力になるように固定具圧力調整部212をフィードバック制御してもよい。
【0053】
このように固定具211により、超音波計測(後述のステップS108)中の被検体1の動きを抑制することにより、超音波画像301を精度よく生成することができる。さらに、被検体1以外での伝搬経路中で、超音波の減衰量が少なく、超音波の屈折も少ないため、高画質な超音波画像を生成することができる。
【0054】
振動子アレイ111と固定具211との位置関係は
図1に示すように、振動子アレイ111が固定具211の袋の内部に存在し、液体211bと共存するようにしてもよいし、振動子アレイ111は固定具211の外側に位置し、音響伝搬特性が良好な媒質(例えば、ゲル)を介して固定具211に接するようにしてもよい。
【0055】
<手首固定具231>
実施形態1の超音波送受信装置には、
図1~
図3に示したように、固定具211のさらに外側で、被検体を固定する第2の固定具(手首固定具)231が備えられている。手首固定具231は、筐体211cの被検体(手)1を挿入する開口261の周囲に備えられている。手首固定具231は、被検体1の手首を固定する。手首固定具231は、超音波が伝搬しない場所に位置しており、使用する素材や構造に関する音響伝搬特性に関する制約はない。
【0056】
この手首固定具は、バンド状のようなもので締結して固定するようにしてもよいし、圧迫して固定するようにしてもよいし、吸着固定であってもよい。
【0057】
また、手首固定具231は、被検体あるいは検査技師などが手動で手首を固定できるようにしてもよいし、制御・演算部111により固定・解放や固定時の圧力などを調整できるようにしてもよい。
【0058】
手首固定具231により手首を固定することにより、超音波計測(後述のステップS108)の際に、被検体1の動きをさらに抑制することができ、よりブレの少ない超音波画像を生成することができる。
【0059】
<ガイド部材(指先ガイド)251>
図2に超音波送受信装置101を
図1から90度回転した角度における断面図を示す。ガイド部材(以下、指先ガイドと呼ぶ)251は、被検者1の指が自然に広がるように指をガイドする役割を果たす。
【0060】
指先ガイド251は、上述したように音響伝搬特性が良好であり、かつ指などが当たっても形状を保つ素材である。例えばフッ素系樹脂が用いられる。隣り合う指と指とが接していると、接している面への超音波の送信・受信信号が、指やその内部の骨によって大きく減衰するとともに、隣接する指の側面へ伝搬する超音波の強度が大きく減衰する。このため、超音波画像301の生成に十分な超音波の散乱信号を得ることが困難になるが、指先ガイド251によって指と指とが離れるように自然にガイドできる。さらに、指先ガイド251が音響伝搬特性が良好な媒質により構成されているため、指先ガイド中および指先ガイドの境界面での超音波減衰を減らすことも可能になる。よって、指の側面を通じての超音波の送信・受信を、高い信号強度で行うことができ、超音波画像301の生成に十分な超音波の信号強度を得ることが可能にする。
【0061】
<液体注入機構221>
液体注入機構221は、被検体1と指先ガイド251との間および被検体1と固定具211(膜部材211a)との間に音響整合液体222を注入する。液体注入機構211は、これから注入する音響整合液体222を蓄える注入タンク222aと、廃液223を溜める廃液タンク221bと、注入用配管221cと、廃液用配管221dと、注入用配管221cおよび廃液用配管221dに備えられたバルブ221eとを備えている。注入タンク222a内の音響整合液体222は、制御・演算部111がバルブ221eを制御することにより注入用配管221cを通って、被検体1と指先ガイド251との間および被検体1と固定具211(膜部材211a)との間に注入される。また、計測終了後には、制御・演算部111がバルブ221eを制御することにより、被検体1と指先ガイド251との間および被検体1と固定具211(膜部材211a)との間の音響整合液体222は、使用後の廃液223として、廃液用配管221dを通って廃液タンク221bに回収される。
【0062】
注入用配管221cの液体注入口は、例えば指先ガイド251の下部や、固定具211の上部の開口216付近に設置する。このように超音波の伝搬経路とならない場所に液体注入機構221の注入口を配置すれば、液体注入機構221が超音波の送信および受信を妨げない。よって、液体注入機構221が存在することによる、超音波画像301の劣化を抑制できる。
【0063】
ここで、音響整合液体222は、音響伝搬特性が良好な液体(音響インピーダンスと音速とが被検体1に近い液体)であり、例えば水やエタノールが好適である。
【0064】
音響整合液体222は、被検体1と指先ガイド251との間および被検体1と固定具211との間に残存する空間による超音波の反射を低減し、振動子アレイ201と被検体1との間の超音波の伝搬を良好なものにし、生成される超音波画像301をより高画質にすることができる。
【0065】
なお、液体注入機構221は、液体の吸引機構を備え、より効率的に音響整合液体(廃液)を回収するようにしてもよい。吸引機構を備えることにより、検査時間を短縮することができる。
【0066】
音響整合液体222および音響整合液体(廃液)223を貯留しておくタンク221a、221bは、タンク式に限られず、補充・交換・廃棄作業が可能な構成としてもよい。
【0067】
<乾燥機241>
本実施形態の超音波送受信装置は、
図1~3に示すように手首固定具231の上部に乾燥機241を備えている。乾燥機241は、撮像終了後に被検体1に残存する音響整合液体222を乾燥させる。例えば、乾燥機241としては、温風を被検体1に吹き付けることにより、被検体1に付着した音響整合液体を吹き飛ばし、乾燥させる構造のものを用いることができる。これにより、被検体は、検査終了後に被検体1に付着した音響整合液体222を拭い取る必要がなく、快適に検査を終了することができる。
【0068】
<装置の各部の動作>
ここで、
図7および
図8を用いて、超音波送受信装置1による超音波撮像動作を以下で説明する。
図7のフローは、実施形態1における制御・演算部111の制御下で実行される超音波撮像シーケンスを説明したフローチャートである。また、
図5で各要素間の情報のやり取りを示している。
【0069】
[ステップS101、S102]
超音波送受信装置の電源が投入され、装置の起動指示を、被検体または技師からUI112を介して受け取った場合(ステップS101)、制御・演算部111は、表示部113に被検体1を手挿入開口261から挿入するような指示を表示させる(ステップS102)。被検者は、表示された指示に従い、被検体1を手挿入開口261から挿入し、各々の指を指先ガイド251に挿入する。
【0070】
[ステップS103、S104]
制御・演算部111は、UI112を介して、被検体または技師から被検体1を固定する指示を受け取ったならば(ステップS103)、制御・演算部111は、固定具圧力調整部212を制御し、固定具211内の圧力を高め、被検体1に膜部材211aを押し付けて圧迫固定する(ステップS104)。
【0071】
被検体1の固定指示は、UI112を介して制御・演算部111が受け取る他に、超音波送受信装置101内部に被検体1の存在を感知するセンサを設置し、センサが被検体1の存在を感知した場合には、制御・演算部111は、被検体1の固定を固定具圧力調整部212に指示するような構成に代替してもよい。
【0072】
このセンサとしては、振動子アレイ201を用いてもよい。例えば、振動子アレイ201が超音波を送信および受信し、超音波の受信信号をもとに被検体1の存在を感知した場合には、制御・演算部111は、被検体1の固定を固定具圧力調整部212に指示する構成にすることができる。
【0073】
[ステップS105]
固定具211が、被検体1へ加える圧力が十分に高まると、被検体固定完了を示す信号が、固定具圧力調整部212から制御・演算部111に出力される(ステップS105)。例えば、被検体1へ加わる圧力を、圧力センサ231によって測定し、所定の圧力値を超えた場合、固定具圧力調整部212は、圧力の上昇を停止させ、被検体固定完了の指示を制御・演算部111に出力すればよい。また、被検体1の主観によって、圧力が十分に高まったと被検体1が判断したならば、被検体1がUI112を自ら操作して圧力が十分に高まったことを入力してもよい。これを受けて、固定具圧力調整部212は、圧力の上昇を停止させ、被検体固定完了の指示を制御・演算部111に出力する構成にしてもよい。
【0074】
[ステップS106、S107]
被検体固定完了の指示(ステップS105)を制御・演算部111が受け取った場合、制御・演算部111は液体注入機構211に対して、被検体1と指先ガイド251との間および被検体と固定具との間に音響整合液体222を注入するよう指示する(ステップS106)。液体注入機構221は、音響整合液体222を十分な量注入した後、音響整合液体注入完了を示す信号を制御・演算部111に出力する(ステップS107)。
【0075】
音響整合液体222が十分な量注入されたかどうかは、固定具211または注入タンク221aに配置された液面センサ(不図示)によって、固定具211と被検体の間に注入された音響整合液体222、または、注入タンク221a内の音響整合液体222の液面高さを測定し、液面高さが所定の高さになったかどうかにより液体注入機構221が判断する構成にすることができる。また、被検体1の主観(目視等)によって音響整合液体222が固定具211と被検体1との間に十分な量注入されたどうかを判断してもよい。十分な量注入されたと被検体1が判断した場合には、UI112を被検体1が自ら操作して、音響整合液体222が十分な量注入されたことを入力する。液体注入機構221は、十分な量の音響整合液体222が注入した場合には、注入を停止し、音響整合液体注入完了を示す信号を制御・演算部111に出力する。
【0076】
[ステップS108]
制御・演算部111は、音響整合液体注入完了(ステップS107)の信号を受け取った場合、超音波計測(ステップS108)を開始する。
【0077】
図9、
図10を用いて、超音波計測(ステップS108)における情報のやり取りについて詳しく説明をする。
【0078】
図9は、
図7のステップS108の詳細なフローチャートであり、
図10はステップ108の詳細な情報のやり取りを表した図である。
【0079】
制御・演算部111は、まず、超音波の送信と受信とを行う(ステップS201)。具体的には、振動子アレイ201へ電気的な超音波送信信号を送信する。振動子アレイ201は電気的信号を超音波へ変換し、被検体1へ向けて超音波を送信する。続いて被検体1で散乱や反射や透過等した超音波を、振動子アレイ201で受信する。振動子アレイ201は超音波信号を電気的信号に変換し、制御・演算部111へ電気的な超音波受信信号を送信する。制御・演算部111は受信した超音波受信信号をメモリに保存する。
【0080】
次に被検体1(例えば手)の全体の画像を取得するため、制御・演算部111は、振動子アレイ201を振動子アレイアクチュエータ202により機械的に駆動する(ステップS202、S205)。具体的には、制御・演算部111は、振動子アレイ201の機械的な駆動ステップ数が所定の回数に達しているかどうか判定し(ステップS202)、達していない場合、ステップS205に進み、振動子アレイアクチュエータ202に振動子アレイ201を機械的に駆動(移動)させる指示を送信する(ステップS205)。振動子アレイアクチュエータ202は、制御・演算部111から駆動指示を受けると、振動子アレイ201を1ステップ駆動させる。そして、制御・演算部111は、ステップS201に戻り、再び超音波の送受信を行う。これを、駆動ステップ数が、所定の回数に到達するまで繰り返す(ステップS202)。制御・演算部111は、ステップS202において駆動ステップ数が所定回数に到達しならば、振動子アレイ201による所定範囲のスキャン(アレイスキャン)が完了したと判断し(ステップS202)、ステップ203に進む。
【0081】
制御・演算部211は、ステップS201で得られた受信信号を超音波画像301を生成し(ステップS203)、画像化された結果を表示部112に表示させる(ステップS204)。
【0082】
なお、ステップS203とステップS204は、各ステップS201後のいずれの時点で実行してもよく、例えば、スキャンステップ(駆動ステップ)ごとに、ステップS205とステップS201との間で実行してもよい。
【0083】
[ステップS109]
制御・演算部111は、以上のステップS201~S205により超音波計測(ステップS108)が完了したかどうかを判定する(ステップS109)。制御・演算部111は、あらかじめ定められた超音波の撮像シーケンス(ステップS201~S205)が正常に完了した場合に、超音波計測が完了したと判断してもよいし、生成した超音波画像301に基づいて、撮像データが想定どおりに取得できたかどうかを判定し、想定通りに撮像できた場合に超音波計測が完了したと判定してもよい。さらに、制御・演算部111は、表示部113に、生成した超音波画像を表示し、その超音波画像を見た被検体1あるいは検査技師が、撮像が良好であったと判断し、UI112を通じて超音波計測完了を示す入力を行った場合に、制御・演算部111は、超音波計測が完了したと判定してもよい。
【0084】
[ステップS110]
制御・演算部111は、超音波計測完了と判断した場合(ステップS109)、固定具圧力調整部212に固定具211の圧力の減圧を指示する(ステップS110)。これにより、固定具圧力調整部212は、固定具211が被検体1に加える圧力を減圧すると、被検体(手)1を超音波送受信装置101から抜き出すことができるようになる。
【0085】
固定具211の減圧が完了すると、固定具圧力調整部212は、固定具減圧完了を示す信号を制御・演算部111に出力する。例えば、圧力センサ213が所定の圧力以下になった場合に、または、固定具圧力調整部212が所定の水量を固定具211から抜き出した場合に、固定具圧力調整部213は、固定具の減圧が完了したと判断する。また、被検体がUI112を通じて固定具の減圧が完了したことを入力してもよい。
【0086】
[ステップS111]
次に制御・演算部111は、液体注入機構221に音響整合液体222を排出を指示する(ステップS111)。液体注入機構221は、バルブ221を操作して、廃液用配管221dから、被検体1と指先ガイド251との間および被検体1と固定具211(膜部材211a)との間の音響整合液体222を、廃液タンク221bに回収する。
【0087】
ステップS111の後に、乾燥機241を動作させ、被検体1を超音波送受信装置101から抜き出す際に被検体1に残存する音響整合液体222を乾燥させるようにしてもよい。被検体1を乾燥させることにより、検査の快適性と衛生が向上する。
【0088】
[ステップS112]
次に、制御・演算部111は、被検体1または技師から装置の停止指示を受けた場合(ステップS112)には、超音波送受信装置101の動作を終了させ。停止指示がない場合には、ステップS102まで戻り、再び上述のステップS102~S111を繰り返す。
【0089】
上述した
図4のフローのように動作する超音波送受信装置は、被検体1を保定して超音波の送受信を行う撮像シーケンスを、各部を自動制御しながら行わせることができ、被検体1の動きを抑制した高精度な超音波画像を自動撮像することができる。よって、超音波検査者(技師)の技量に依らない検査が可能になる。また、被検体1によるセルフ検査も可能である。さらに、同じ測定方法によって繰り返し測定ができるため、被検体1の継時的な変化のモニタリングを容易に行うことができる。よって、高精度な超音波画像に基づいて、超音波病態の変化、治療効果の判定等、より高精度なリウマチの診断ができる。
【0090】
なお、本実施形態1では、一例として、被検体1が指先から手首までの部位である場合について説明したが、被検体1は他の部位でもかまわない。他の例えば足首から足先、膝・肘関節を含む四肢、腹部や乳房などの検査についても指先ガイド251、固定具211、手挿入開口261の形状を各部位に合わせた適切な形状にし、振動子アレイ201を各計測部位のサイズに適切なサイズにする等によって、本実施形態に示したものと同様な効果を得る撮像を実施することが可能である。
【0091】
<<実施形態1の変形例1>>
図11に、実施形態1の変形例1を示す。実施形態1の超音波送受信装置101内に被検体1の挿入する方向が鉛直方向であったが、変形例1では水平方向に向けられている。本変形例1の構成では、被検体1の手の平が重力方向、すなわち下方を向くため、超音波送受信装置101内で被検体(手)1がより安定し、測定時の被検体1の動きを減少させる効果がある。
【0092】
これにより、被検体1を固定するために固定具211が被検体1に加える圧力を、実施形態1よりも低減することが可能になり、機器の製造コストを低減させることができ、一方で被検体1の快適性が向上するという効果がある。
【0093】
超音波送受信装置101の向きはこれに限らず、
図1で示した鉛直方向と
図11で示した水平方向との中間の斜め方向であってもよい。超音波送受信装置のサイズと構造等を考慮して適切な角度を選択することによって、音響整合液体222が手挿入開口261から流出することを防ぎつつ、被検体1の手の平が重力方向(下向き)に近い方向を向かせることができるため、被検体1を安定させることができる。
【0094】
変形例1の他の構成は、実施形態1と同様であるので説明を省略する。
【0095】
<<実施形態1の変形例2>>
図12に実施形態1の変形例2を示す。
図12の変形例2は、被検体1に音響伝搬特性が良好な手袋271をあらかじめ装着した上で、超音波送受信装置101の開口261に挿入する構成である。手袋271を用いることによって、超音波計測が被検体1の表面状態の影響を受けにくくなり、より再現性が高く均一な検査を提供することができる。
【0096】
また、手袋271は使い捨てることも可能であるし、使用都度の洗浄や滅菌を行うことも容易であるため、手袋271を被検体1に装着することにより超音波送受信装置101をより清潔に保つことができ、しかも、ウイルス感染など衛生面でのリスクを低減することができる。
【0097】
手袋271は、例えばラテックスなどのゴム素材を用いることができる。伸縮性のあるゴム素材を用いることによって、被検体1と手袋271との密着性が向上し、被検体1と手袋との間に空気など超音波伝搬を阻害する要素を低減することができるため、高画質な超音波画像301を提供することができる。
【0098】
また、手袋271と被検体1との間に、音響整合剤272を注入または塗布してもよい。音響整合剤272としては、音響インピーダンスが被検体1と同等の媒体、例えば水、エタノールなどの液体や、ゲルなどの流体を用いる。これにより、手袋271と被検体1との間の空間を隙間なく埋めることができ、より高画質な超音波画像301を提供することができる。
【0099】
変形例1の他の構成は、実施形態1と同様であるので説明を省略する。
【0100】
<<実施形態2>>
実施形態2の超音波送受信装置101について
図13を用いて説明する。
【0101】
実施形態2の超音波送受信装置は、被検体1を保定するための固定具211と、固定具211の少なくとも一部を被検体1に押し付けて被検体1を保定する駆動機構212の構造が実施形態1とは異なる。
【0102】
図13に示すように、固定具211は、予め定めた形状の部材130aを含み、駆動機構131は、部材130aを被検体1に押し付ける方向に移動させる力を加える機構である。具体的には、部材130aは、弾性体により構成され、弾性材料は、シリコーンゴムなど、超音波の音響伝播特性が良好なもの(音響インピーダンスや音速が被検体1と同等かつ超音波減衰係数が十分小さいもの)により構成されている。駆動機構131は、ばねあるいはアクチュエータを用いることができる。
【0103】
部材130aには、振動子アレイ201を配置し、かつ、振動子アレイ201をスキャンすることができる空間が設けられ、内部に振動子アレイ201とアクチュエータ202が配置されている。空間内は、音響インピーダンスと音速が被検体1と同等かつ超音波減衰係数が十分小さい液体が満たされている。空間形状は、例えばドーナツ状とする。
【0104】
また、部材130aの空間の大きさは、被検体1を圧迫していない開放状態から、被検体1を圧迫して保定した状態まで部材130aを駆動機構131により移動させた場合であっても、振動子アレイ201には接触しない大きさが確保されている。このような構造により、固定具211の部材130は移動して被検体1を保定のために移動するが、振動子アレイ201の位置は変化しない状態を保つことができる。よって、対向する振動子の間隔を保つことができるため、受信信号から制御・演算部111が画像再構成等の演算を行う場合も、実施形態1と同様の演算で行うことができる。
【0105】
実施形態2の他の構成は、実施形態1と同様であるので説明を省略する。
【0106】
<実施形態2の変形例1>
図14に、実施形態2の変形例1の超音波送受信装置を示す。
図14の超音波送受信装置は、実施形態2と同様に、固定具211が弾性体の部材130aであり、これをアクチュエータ131により、被検体1に押し付け、被検体1を圧迫することにより、被検体1を保定する構成であるが、振動子アレイ201が、固定具211の外側に配置されている点で実施形態2とは異なっている。振動子アレイ201が固定具211の外側の空間に配置されているため、固定具211の外側の筐体211cとの間の空間に液体130bが満たされている。
【0107】
本変形例においても、実施形態2と同様の効果が得られる。
【0108】
変形例1の他の構成は、実施形態2と同様であるので説明を省略する。
【0109】
<<実施形態2の変形例2>>
実施形態2の変形例2の超音波送受信装置について
図15を用いて説明する。
【0110】
変形例2の超音波送受信装置は、実施形態2と同様に、固定具211が弾性体の部材130aであり、これをアクチュエータ131により、被検体1に押し付け、被検体1を圧迫することにより、被検体1を保定する構成であるが、振動子アレイ201が、部材130aの内部に埋め込まれている点で実施形態2とは異なっている。
【0111】
また、振動子アレイ201の形状も実施形態1とは異なり、振動子アレイ201をスキャン(移動)しなくても被検体1の所定範囲について超音波送受信ができるように、超音波振動子を、周方向のみならず、実施形態2の振動子アレイ201のスキャン方向(上下方向)にも並べた構造であり、例えば筒状の構造となっている。
【0112】
このように振動子アレイ201は、上下方向にスキャン(移動)する必要がないため、アクチュエータ202は、変形例2では配置されていない。また、振動子アレイ201が移動しないため、部材130aと隙間なく密着している。
【0113】
本変形例2においては、振動子アレイ201は、周方向のみならず上下方向にも配列されているため、上下方向の移動ができなくても、被検体1の全体を撮像することができる。
【0114】
なお、本変形例2の構造では、固定具211の部材130の移動にともない、振動子アレイ201の位置も変化する。すなわち、対向する振動子や隣り合う振動子の間隔が被検体1の厚さによって変化する。よって、受信信号から制御・演算部111は、画像再構成等の演算を行う際に、振動子の位置関係をアクチュエータ131の駆動量から取得し、画像生成の演算に用いる数式の振動子間の距離等を補正する。これにより、振動子の位置関係が変化する構成であっても、超音波画像を精度よく生成することができる。
【0115】
変形例2の他の構成は、実施形態2と同様であるので説明を省略する。
【0116】
<<実施形態2の変形例3>>
実施形態2の変形例3の超音波送受信装置について
図16を用いて説明する。
【0117】
図16は、変形例3の超音波送受信装置の水平方向の断面図である。変形例3の固定具211は、一部が途切れた円環状の弾性体(例えばシリコーンゴム)130aである。アクチュエータ131は円環状の弾性体の固定具211の途切れた位置に配置され、円環状の弾性体を引き締める方向の力を加えることによって被検体1を圧迫し、固定する構造である。
【0118】
振動子アレイ201と固定具211との間は液体(例えば水)130bで満たされている。ただし、振動子アレイ201の構造は、円環状のものに限られず、
図6A~Fに示した振動子アレイ等を用いることも可能である。
【0119】
変形例3の他の構成は、実施形態2と同様であるので説明を省略する。
【0120】
上記実施形態2およびその変形例1~3では、被検体1の広い範囲を固定具111(部材130a)で挟み込むことができるため、固定具211と被検体1との間への音響整合液体222の注入を省略してもよい。その場合の超音波撮像装置の動作フローを
図17に示す。
図17のように、
図4のフローのステップS106,S107を省略することにより、固定具211と被検体1の間への音響整合液体222の注入を省略して、簡略に超音波計測を行うことができる。
【符号の説明】
【0121】
1…被検体
101…超音波送受信装置
111…制御・演算部
112…UI
113…表示部
201…振動子アレイ
202…振動子アレイアクチュエータ
211…固定具
212…固定具圧力調整部
213…圧力センサ
214…液体
221…液体注入機構
222…音響整合液体
223…音響整合液体(廃液)
224…音響整合液体注入弁
225…音響整合液体排出弁
231…手首固定具
241…乾燥機
251…指先ガイド
261…手挿入開口
271…手袋
272…手袋内音響整合剤
301…超音波画像