(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】導光板、導光板製造方法及び映像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20220106BHJP
G03H 1/04 20060101ALI20220106BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20220106BHJP
G02B 6/124 20060101ALI20220106BHJP
G02B 6/13 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G03H1/04
G02B5/32
G02B6/124
G02B6/13
(21)【出願番号】P 2018059448
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2020-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501009849
【氏名又は名称】株式会社日立エルジーデータストレージ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宇津木 健
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 竜志
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0059759(US,A1)
【文献】特開2017-090561(JP,A)
【文献】特開2017-135605(JP,A)
【文献】国際公開第2005/093493(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0132914(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01,27/02,5/32,6/00,6/12
G03H 1/04
G03B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重記録したホログラムにより入射光を回折する光回折部を有する導光板において、
前記光回折部では、ある一定の角度範囲を有する単一波長の光を入射すると、少なくとも2本以上の出射光線が第一の角度間隔θsをもって離散的に出射され、前記出射された光線は第二の角度範囲θaをもっており、前記第一の角度間隔θsは、前記第二の角度範囲θa以上とな
り、
前記の角度関係が、θs>kθa(kは3以上の実数)となることを特徴とする導光板。
【請求項2】
請求項1に記載の導光板において、
前記光回折部は、前記導光板の内を伝搬する光を前記導光板の外に出射する光に変換する出射カプラーとして用いられることを特徴とする導光板。
【請求項3】
請求項2に記載の導光板において、
前記光回折部は、さらに、前記導光板の外から入射する光を前記導光板の内を伝搬する光に変換する入射カプラーとして用いられることを特徴とする導光板。
【請求項4】
請求項3に記載の導光板において、
前記入射カプラーおよび前記出射カプラーにおける前記光回折部のグレーティングベクトル群が、前記導光板の表面に対して互いに軸対称に反転した構成となっていることを特徴とする導光板。
【請求項5】
請求項2に記載の導光板において、
前記導光板の内を伝搬する光線を複製して前記出射カプラーに出射するアイボックス拡大部を備えることを特徴とする導光板。
【請求項6】
請求項5に記載の導光板において、
前記アイボックス拡大部が、ミラー面またはビームスプリッター面を含む構成であることを特徴とする導光板。
【請求項7】
請求項5に記載の導光板において、
前記アイボックス拡大部が、ミラー面と前記ミラー面に平行に設置されたビームスプリッター面を含む構成であることを特徴とする導光板。
【請求項8】
請求項6または7に記載の導光板において、
前記ビームスプリッター面は、均一な透過率を有することを特徴とする導光板。
【請求項9】
請求項6または7に記載の導光板において、
前記ビームスプリッター面は、不均一な透過率を有することを特徴とする導光板。
【請求項10】
請求項7に記載の導光板において、
前記ミラー面と前記ビームスプリッター面の間に、前記導光板の外から入射する光を前記導光板の内を伝搬する光に変換する入射カプラーを配置したことを特徴とする導光板。
【請求項11】
映像投影部から出射した映像を導光板を介してユーザの目に表示する映像表示装置において、
前記映像投影部には、擬似白色光であるLED(Light Emitting Diode)光源を用いる
とともに、
前記導光板には、多重記録したホログラムにより入射光を回折する光回折部を有し、
前記光回折部では、ある一定の角度範囲を有する単一波長の光を入射すると、少なくとも2本以上の出射光線が第一の角度間隔θsをもって離散的に出射され、前記出射された光線は第二の角度範囲θaをもっており、前記第一の角度間隔θsは、前記第二の角度範囲θa以上とな
り、
前記の角度関係が、θs>kθa(kは3以上の実数)となることを特徴とする映像表示装置。
【請求項12】
請求項11に記載の映像表示装置において、
表示する映像の画質を補正する画質補正部を備え、
前記画質補正部は、前記導光板の有する前記光回折部により生じる映像の色ムラや輝度ムラを均一化することを特徴とする映像表示装置。
【請求項13】
入射光を回折する光回折部を有する導光板を製造する導光板製造方法において、
記録媒体の反射軸に対して対称に所定の記録角度θwだけ傾いた方向から2つの平面波記録ビームを入射して1つのホログラムを形成し、
前記記録角度θwを変えながら所定回数Mの多重記録を行うことでM通りの異なるグレーティング間隔を
有しており、ある一定の角度範囲を有する単一波長の光を入射すると、少なくとも2本以上の出射光線が第一の角度間隔θsをもって離散的に出射され、前記出射された光線は第二の角度範囲θaをもっており、前記第一の角度間隔θsは、前記第二の角度範囲θa以上となり、前記の角度関係が、θs>kθa(kは3以上の実数)となる体積型ホログラムを形成し、
前記体積型ホログラムを前記光回折部とし、該光回折部の両側を基板で挟むことで前記導光板を製造する導光板製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の導光板製造方法において、
前記平面波記録ビームに対し空間的な光の強度分布を変調することで形成されるホログラムの回折効率の空間分布を制御することを特徴とする導光板製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の導光板において、
前記単一波長は前記ホログラムを記録する際に用いた光の波長もしくは前記ホログラムを再生する際に用いる光の波長であることを特徴とする導光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドマウントディスプレイなどの映像表示装置に用いる導光板に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mounted Display)などの映像表示装置では、プロジェクター(映像投影部)から出射された映像光をユーザの目まで伝搬させるための光学系として、導光板が用いられる。HMDに用いられる導光板は、薄型でかつ外界の光の透過率(外光透過率)が高いことが望ましい。この導光板としてハーフミラーを用いることができるが、広い視野を確保するためには薄型化が困難であり、また外光透過率と表示映像光の効率にトレードオフの関係がある。そのため、ハーフミラーを用いた導光板では、薄型化と外光透過率の向上が困難であった。
【0003】
これに関する技術として特許文献1や特許文献2には、ホログラム技術を用いて反射軸が表面法線に対して傾きを持っているような特殊なミラー(該文献では、「スキューミラー」と呼んでいる)が実現できることが記載されている。スキューミラーを導光板に採用すれば、導光板の表面に対して傾いたミラーと同様の機能を実現し、導光板の薄型化と外光透過率の向上を図る上で有効となる。
【0004】
これについて特許文献1では、スキューミラーは反射軸が表面法線と一致しているという制約がなく、比較的広い波長範囲にわたって、ある一定の反射軸に対して光を反射すること、また、比較的広い範囲の入射角にわたって一定の反射軸を有することが述べられている。また特許文献2では、スキューミラーはその表面法線に対して傾けられ得る反射軸すなわちSkew軸を有し、表面法線に対して2次元のSkew軸を傾斜させることにより、スキューミラーの可能な視野を、例えば60度以上に拡大することが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2017/0059759号明細書
【文献】国際公開第2017/176389号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光回折機能を有するホログラムは、薄型でかつ波長選択性や角度選択性などの特性を有するために、選択的に光を回折させることができ、これをHMDの導光板に採用することで、外光透過率を高く維持したまま高効率に映像表示が行える可能性がある。しかしながら、HMDの実用的な使用条件に適応させるためには、導光板の構成についてより詳細な検討が必要である。
【0007】
特許文献1、2に記載のスキューミラーについて、入射/出射カプラーとしての性能を検討する。導光板の表面に対する入射角θ1で、波長λ1の光線を入射した場合、導光板の表面からある角度θgだけ傾きを持ったスキューミラー面により光線の一部が反射される。ここで、全反射角θTIR(TIR:Total Internal Reflection)以上の入射角θ1で導光板内を伝搬している光線をこのスキューミラーに入射させると、この光線の一部は、スキューミラー面によって反射され、導光板の外に出射させることができる(出射カプラー機能)。また、導光板の外から光線を入射させて、導光板内を全反射により伝搬させることができる(入射カプラー機能)。
【0008】
HMDなどの映像表示装置で用いる場合には、プロジェクターから出射される光線群は、数10deg程度の広い光線角度範囲を有しており、これが視野(FOV:Field of View)に対応する。また、カラー映像を表示していることから、RGBの3色に対応する広い波長範囲を有している。よって、実用的なスキューミラーは、「入射角θ1が数10degの広い角度範囲で、波長λ1がRGBの広い波長範囲」である光線を反射できなければならない。
【0009】
しかし、スキューミラーは、多重記録された体積型ホログラムの集合によって構成されており、一般の体積型ホログラムは、数ミリdegの狭い角度選択性と数nmの狭い波長選択性を有している。そのため、上記の要請条件である「数十degの広い角度で、RGBの広い波長」を有する光線群を反射する実用的なスキューミラーを作成するためには、多重記録数を増加させねばならない。例えば特許文献2では、ホログラムの多重記録数が200以上、記録角度間隔が0.2deg程度の多重記録を行っている。
【0010】
一方、ホログラムの多重記録数を増加させると、1つ1つのホログラムの回折効率が低下するという性質がある。体積型ホログラムの多重記録数は、一般にホログラムの記録媒体のMナンバー(M/#)と呼ばれる指標により評価される。このM/#は記録媒体固有の有限の値であり、これにより、多重記録数と1つ1つのホログラムの回折効率が制限される。例えば、M/#=3を有する記録媒体では、3多重なら1つのホログラムの回折効率を100%にできる。しかし、10多重にすると1つのホログラムの回折効率は9%に低下する。ここで、この2つの場合を比べると、前者は回折効率100%のホログラムが3個再生され、後者は回折効率9%のホログラムが10個再生されるため、光学効率を回折効率×ホログラム数とするならば、前者の方が高くなる。このように、多重記録数が大きいほど正味の回折効率(光学効率)が低下する性質がある。
【0011】
そのため、実用的なスキューミラーを作成するために例えば200多重といった大きな数の多重記録を行うと、必然的にホログラムの回折効率が大幅に低下してしまう。ホログラムの回折効率が低下すると、スキューミラー、ひいては導光板の光学効率が低下する。光学効率が低いと表示する映像が暗くなるので、例えばHMDのアプリケーションの一つである、外界に対して映像を重畳表示させてユーザに見せる拡張現実(AR:Augmented Reality)を実行した場合の臨場感が低下してしまう。これを補うため、映像を出射するプロジェクターの出力光量を大きくする必要があり、HMDの消費電力の増大、発熱、大型化などの課題を生じる。
【0012】
さらには、ホログラムの多重記録数が多いと、スキューミラー、ひいては導光板の製造難易度が高くなり、製造工程の増加とコスト高を生じさせるという課題も生じる。
【0013】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたものであり、広い光線角度範囲と広い波長範囲の入射光線に適用できるとともに、光学効率の低下を抑えることのできる導光板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一例を挙げるならば、本発明は、多重記録したホログラムにより入射光を回折する光回折部を有する導光板において、前記光回折部では、ある一定の角度範囲を有する単一波長の光を入射すると、少なくとも2本以上の出射光線が第一の角度間隔θsをもって離散的に出射され、前記出射された光線は第二の角度範囲θaをもっており、前記第一の角度間隔θsは、前記第二の角度範囲θa以上となる構成としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光回折部を有する導光板において、広い光線角度範囲と広い波長範囲の入射光線に適用できるとともに、光学効率の低下を極力抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】実施例1における映像表示装置100の外観図である。
【
図1B】映像表示装置100の使用例を示す外観図である。
【
図2】映像表示装置100のブロック構成を示す図である。
【
図3A】導光板200の全体構成を示す概略図である。
【
図3B】導光板200の詳細構成を示す拡大図である。
【
図4A】入射カプラー201を体積型ホログラムで構成した場合の概略図である。
【
図4B】入射カプラー201をプリズムで構成した場合の概略図である。
【
図5】出射カプラー203の構成を示す概略図である。
【
図6】入射および出射カプラーを共に体積型ホログラムで構成した場合の導光面内の光線図である。
【
図7】アイボックス拡大部202の効果を説明する図である。
【
図8A】出射カプラー203からの出射光線の密度を示す図である。
【
図8B】出射カプラー203からの出射光線の密度を示す図である。
【
図9A】映像投影部103から入射する光線の波長スペクトル分布を示す図である。
【
図9B】映像表示部104にてユーザが視認する映像の視野を示す図である。
【
図10A】ホログラムの多重記録と単一波長光における回折効率を説明する図である。
【
図10B】広帯域波長の入射光を含めて光学効率を比較して示す図である。
【
図11】ホログラム回折光による視認映像のシミュレーション結果を示す図である。
【
図12A】ホログラムの多重記録数に対する視認映像の画質と光学効率の関係を示す図である。
【
図12B】入射および出射カプラーに好適な体積型ホログラムの特性を説明する図である。
【
図13】多重記録ホログラムをKベクトルで表現した図である。
【
図14】画質補正前の視認映像の例を示す図である。
【
図15】体積型ホログラムの製造装置の一例を示す概略図である(実施例2)。
【
図16】体積型ホログラムの製造工程を示すフローチャートである。
【
図17】ホログラム多重記録時の記録角度の具体例を示す図である。
【
図18】実施例3における導光板の構成を示す図である。
【
図19】実施例4における導光板の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。以下の実施例では、映像表示装置としてメガネ型のヘッドマウントディスプレイ(HMD)の場合について説明する。
【実施例1】
【0018】
[映像表示装置の構成]
図1Aは、本実施例における映像表示装置100の外観図である。また
図1Bは、映像表示装置100の使用例を示す外観図である。
【0019】
メガネ型の映像表示装置(HMD)100は、メガネのツルに相当する部分に、ユーザ1の右目に表示する映像を投影する映像投影部103a、およびユーザ1の左目に表示する映像を投影する映像投影部103bを有する。また、メガネのレンズに相当する部分に、映像投影部103a,bで投影した映像をユーザ1の目に届ける出射カプラー203a,bを備えている。出射カプラー203a,bは、映像を表示するだけでなく、外界からの光を透過できるようになっており、外界に対して映像を重畳表示させてユーザに見せる拡張現実(AR:Augmented Reality)を表示することができる。ユーザ1は、映像表示装置100を頭部に装着することで、映像を両目で見ることができる。
【0020】
図2は、映像表示装置100のブロック構成を示す図である。映像表示装置100は、ユーザの右目に映像を表示する右目用映像表示部104a、およびユーザの左目に映像を表示する左目用映像表示部104bによって構成されている。この2つ映像表示部は同様の構成となっているため、以下では、右目用aと左目用bを特に区別せずに説明する。
【0021】
映像表示部104では、まず映像入力部101から送られてきた映像データをもとに、画質補正部102および映像投影部103によって表示する映像を生成する。画質補正部102は、表示する映像の色や輝度の補正を行う。映像投影部103は光源を含む小型プロジェクターを用いて構成されており、映像の虚像を投影する光学系となっている。つまり、映像投影部103を直接覗き込むと、ある距離の位置に2次元の映像を見ることができる。ここで、映像(虚像)が投影される距離は、ある有限の距離であってもよく、無限遠方であってもよい。
【0022】
映像投影部103で生成された映像は、ある距離に虚像を投影するような光線群として出射される。この光線群は、少なくとも赤(R)、緑(G)、青(B)の3色に対応する波長を有しており、ユーザはカラー映像を見ることができる。また、この光線群は、水平方向に略40deg、垂直方向に略20degの広がりを有しており、投影される虚像の視野(FOV:Field Of View)が広い映像を見ることができる。
【0023】
映像投影部103から出射した光線群は、入射カプラー201を介して導光板200に入射する。入射カプラー201は、導光板に入射した光線群の方向を、導光板200内を全反射によって伝搬できる方向に変換する。このとき、光線群の各光線方向の相対関係を保ったまま変換することで、映像の歪みやぼけのない高精細な映像を表示できる。
【0024】
導光板200内に入射した光線群は、全反射を繰り返すことで伝搬され、アイボックス拡大部202に入射する。アイボックス拡大部202は、ユーザが映像を見ることのできるアイボックス(虚像が視認できる領域)を拡大する機能を有する。アイボックスが広ければ、ユーザはアイボックスの縁部分を視認しにくくなることでストレスが軽減され、また装着具合やユーザの目の位置の個人差の影響を軽減して、高い臨場感を得ることができる。
【0025】
アイボックス拡大部202では、入射した光線群を、光線方向の相対関係を保ったまま複製して出射カプラー203に出射する。つまり、映像投影部103から出射した光線群は、光線方向(角度)の相対関係を保ったまま空間的に広げられる。
【0026】
出射カプラー203では、入射した光線群を導光板200の外に出射してユーザ1の目に届ける。つまり、出射カプラー203は入射カプラー201とは反対に、入射した光線群の方向を導光板200の外に出射できる方向に変換する。
【0027】
また、出射カプラー203では、アイボックス拡大部202によって広げられた方向とは異なる方向にアイボックスを拡大する機能も同時に有する。つまり、出射カプラー203に入射した光線群は、光線方向の相対関係を保ったまま複製され、空間的に広げられて導光板200の外に出射される。
【0028】
上記した構成は、右目映像表示部104aと左目映像表示部104bとで略共通である。以上の構成によって、ユーザ1は、これら2つの映像表示部104a,104bで表示された映像(虚像)を見ることができる。
【0029】
前記した
図1Aの映像表示装置100では、導光板200の一部である出射カプラー203の部分しか見えていないが、導光板200のその他の部分は、黒いフレーム部分に隠れて外からは見えないようにしている。これは、導光板200に意図せぬ角度から外界の光(外光)が入射すると、迷光となって表示映像の画質を劣化させる可能性があるためである。よって、出射カプラー203以外の部分は極力外界から見えないようにして、外光が導光板200内に入射しないようにしている。
【0030】
[導光板の構成]
図3Aは、導光板200の全体構成を示す概略図である。導光板200は、入射カプラー201、アイボックス拡大部202、出射カプラー203を含んで構成され、これらはガラスまたはプラスティックなどの合成樹脂製の基板に収納され、厚みはおよそ1~2mm程度である。映像投影部103から出射した光線群220は、前述のようにRGB光に対応する広い波長範囲と、水平方向(X方向)40deg、垂直方向(Y方向)20degのFOVに対応する広い角度範囲を有しており、この光線群220は、入射カプラー201に向けてZ方向に入射する。
図3Aでは、光線群220内の中心光線221について導光板200内の経路を示している。この中心光線221は、表示される映像の略中心のピクセルに対応し、実際には数mm径の有限の太さを持った光束である。
【0031】
入射カプラー201は光回折部である体積型ホログラムで構成され、Z方向に入射した光線群220の方向を導光板200の面内方向(XY面)へ変換する。なお、映像投影部103からの光線群220が導光板200に斜めに入射する場合は、体積型ホログラムに代えてプリズムを使用しても良い。入射カプラー201から出射した光線群220は、導光板200内の内面反射によって、アイボックス拡大部202の方に斜めに伝搬していく。ここで、斜めとは、導光板200の表面に平行な面内(XY面)で、水平方向(X方向)および垂直方向(Y方向)とは異なる角度のことである。
【0032】
アイボックス拡大部202は、導光板200を伝搬してきた光線群220を、後述するビームスプリッター面およびミラー面によって反射し、出射カプラー203の方に斜めに伝搬する。その際、ビームスプリッター面により光線群220が光線方向の相対関係を保ったまま複製されることで、ユーザが映像を見るアイボックスが拡大される。
【0033】
出射カプラー203は、光回折部である体積型ホログラムによって構成されており、入射した光線群の方向を変換し、導光板200の外にZ方向に出射させる。ここで、入射カプラー201が体積型ホログラムで構成されている場合は、入射カプラー201と出射カプラー203の体積型ホログラムは、その回折する光線の波長と角度の関係が略同じになるように設定されている。これにより、導光板200の光利用効率を向上させることができる。
【0034】
図3Bは、導光板200の詳細構成を示す拡大図である。
図3AとはZ方向に反対側から見た図であり、ここでは、光線群220内の中心光線221の導光板200内の経路を拡大して示す。
【0035】
入射カプラー201から出射した中心光線221は、導光板200の表面に対して全反射条件を満たす入射角度を有し、全反射によって導光板内を伝搬する。導光面320aは、入射カプラー201から出射した中心光線221が導光される面を示している。
【0036】
アイボックス拡大部202は、ミラー面330およびビームスプリッター面340に挟まれた構造となっている。ミラー面330は略100%の反射率のミラーで構成され、ビームスプリッター面340は略90%程度の反射率の部分透過ミラーにより構成されている。これらのミラー面330やビームスプリッター面340は、誘電体多層膜や金属蒸着によって作成され、RGB光に対応する広い波長範囲と水平40deg×垂直20degのFOVに対応する広い角度範囲を有する光線群220に適用できるよう設計されている。
【0037】
アイボックス拡大部202に入射した中心光線221は、ミラー面330で反射し、導光面320b内を全反射にて伝搬する。そして、ビームスプリッター面340で90%程度の光量が反射され、残りの10%程度の光量が透過して出射カプラー203に入射する。ビームスプリッター面340で反射した光は、全反射により伝搬して、再度ミラー面330で反射され、ビームスプリッター面340に入射する。そのとき同様に、90%程度の光量が反射して再度ミラー面330に向かい、残り10%程度の光量が透過して出射カプラー203に入射する。このようにアイボックス拡大部202では、ミラー面330とビームスプリッター面340の間で反射が繰り返され、出射カプラー203には反射する毎にビームスプリッター面340を透過した一部の光量が入射する。ビームスプリッター面340の反射率は、出射カプラー203で出射する光量(アイボックス内の光量)が略均一になるように設計する必要があり、必ずしも90%程度である必要はない。また、ミラー面330とビームスプリッター面340の反射率分布は、均一でもよいし、不均一な分布を持たせて、アイボックス内の光量が略均一になるように設計してもよい。
【0038】
[入射カプラーの構成]
図4Aは、入射カプラー201を体積型ホログラム(Ho)で構成した場合の概略図であり、導光面320aを抜き出して紙面と平行に描いている。中心光線221が入射されると、光回折部である体積型ホログラムHoによって回折され、光線の方向が導光板200の表面に対して全反射条件を満たす入射角度に変換される。体積型ホログラムHoには、平面波同士で記録されたホログラム(平面波ホログラム)が多重記録されている。これに、RGBに対応する広い波長範囲と、水平40deg×垂直20degのFOVに対応する広い角度範囲を有する光線群が入射すると、相対的な角度関係を保ったまま光線方向を変換するように構成されている。つまり、中心光線221と異なる角度の光線である周辺光線310が入射すると、中心光線221とは異なる角度に回折され、この2つの光線の相対角度関係は保たれている。
【0039】
すなわち、「中心光線221の導光板200への入射角度θ1<周辺光線310の導光板200への入射角度θ2」で入射カプラー201に入射した場合、「中心光線221の導光板への入射角度θ1’<周辺光線310の導光板への入射角度θ2’」で入射カプラー201から出射し、この関係は、入射する光線群220内の略任意の2つの光線の組合せで成り立つ。これは、反射型ホログラムと呼ばれる構成である。反対に透過型ホログラムと呼ばれる構成では、「中心光線221の導光板への入射角度θ1’>周辺光線310の導光板への入射角度θ2’」で出射し、この関係が、入射する光線群内の任意の2つの光線の組合せで成り立つ。ここで、入射角度とは、導光板表面の垂線から測った角度である。なお、ホログラムの作成条件を変えることで、光線群の角度範囲に関し、回折後の2つの光線の角度差(θ2’-θ1’)を、回折前の2つの光線の角度差(θ2-θ1)と異ならせることができる。これにより、光学系の設計の自由度がより向上する。
【0040】
入射カプラー201の体積型ホログラムHoは、フォトポリマーなどの感光材料によって構成されており、
図4Aのように、その両側はガラスまたはプラスティックなどの合成樹脂製の基板に挟まれている。また、周辺(図の左右)も封止(密閉)されており、外気や湿気、衝撃、埃などの影響から体積型ホログラムHoを保護する役割を果たしている。さらに、紫外線などによる影響から守るため、導光板の表面をコートしても良い。このような体積型ホログラムの製造方法については、
図15を用いて後述する。
【0041】
図4Bは、入射カプラー201をプリズム410で構成した場合の概略図であり、
図4Aと同様に導光面320aを抜き出して描いている。この場合は、光線群(ここでは中心光線221と周辺光線310を示す)をプリズム410によって、導光板内で全反射角度となるように入射させるシンプルな構成である。この構成でも、上記の体積型ホログラムの「2つの光線の相対的な角度関係が保たれる」という特徴は自動的に満たされる。但し、体積型ホログラムでは可能であった、入射前と入射後で、光線群の角度範囲(角度差)を異ならせることはできない。
【0042】
[出射カプラーの構成]
図5は、出射カプラー203の構成を示す概略図であり、導光面320bを抜き出して描いている。出射カプラー203は、平面波ホログラムを多重記録した体積型ホログラムHoで構成されている。なお、入射カプラー201が体積型ホログラムHoで構成されている場合は、入射カプラー201と出射カプラー203に用いる体積型ホログラムは、多重記録された平面波ホログラムの構成を略一致させており、導光板200へ入射する光線群と導光板200から出射する光線群の相対的な波長および角度関係は等しくなる。
【0043】
導光面320b内を全反射によって伝搬している入射光線505は、光回折部である出射カプラー203の体積型ホログラムHoによって、一部の光線が回折により方向が変換されて導光板200の外へ出射する。この体積型ホログラムHoの回折効率はおよそ10%程度としており、回折されなかった残り90%程度の透過光成分は、全反射により伝搬し、再度出射カプラー203の体積型ホログラムHoによって回折される。これを繰り返すことにより、導光面320b内の出射カプラー203の略全範囲から光線が略等間隔で出射し、出射光線510は全て略平行となる。図には、任意の1つの光線505しか描いていないが、導光面320b内を伝搬している光線群の全ての光線が同様に出射する。これにより、ある方向の入射光線は、全て略同一の出射角度を持って出射することになる。そのため、ユーザ1の網膜上に像を結像し、映像投影部103により投影された映像の1ピクセルが網膜上の一点に集光して、高解像度の映像を視認することができる。以上の説明は、映像が無限遠方に表示されている場合を想定しているが、ある程度離れた有限距離に表示した場合も、状況はほとんど同じである。
【0044】
ここで、入射カプラー201と出射カプラー203を共に体積型ホログラムにより構成した場合の、両者の体積型ホログラムの特性について説明する。
【0045】
図6は、入射および出射カプラーを共に体積型ホログラムで構成した場合の導光面内の光線図である。下段には、対応するエワルド球表現を描いている。体積型ホログラムは反射型ホログラムで構成している。導光面320は、
図3Bの導光面320aおよび導光面320bをつないで表示しており、間にあるミラー面330やビームスプリッター面340による折り返しを省略している。省略しても基本的な動作の説明は同じである。
【0046】
今、第1の光線601と、第2の光線602が入射カプラー201に入射している状況を想定する。第1および第2の光線601,602の間のなす角度(第1の光線601から図面上で反時計回りに測った角度)をθ1とする。これら2つの光線は、入射カプラー201により回折され、角度が変換される。変換された後の2つの光線601,602のなす角度(第1の光線から図面上で時計回りに測った角度)をθ2とする。さらに、これらの2つの光線は、全反射により導光面320内を伝搬し、出射カプラー203により回折されて再度角度が変換され、導光板200の外に出射する。出射された後の2つの光線601,602のなす角度(第1の光線から図面上で時計回りに図った角度)をθ3とする。ここで、角度は全て導光板内の角度であり、導光板外での角度はスネルの法則を用いて計算することができるが、図が複雑になるのを避けるため、本説明では省略している。
【0047】
図6の下段では、光線の方向をエワルド球で表現している。まず、入射カプラー201内では、第1および第2の光線に対応するkベクトル601p、602pが入射すると、入射カプラー201の体積型ホログラムに記録されているグレーティングベクトル2011gおよび2012gによって回折され、回折光のkベクトル601d,602dが出射する。ここでは、2つのグレーティングベクトル2011g,2012gが非平行である場合を示し、よって2つの光線601,602のなす角度は回折前(θ
1)と回折後(θ
2)で異なっている。2つの回折光のkベクトルは導光板の全反射条件を満たしており、kベクトル601d,602dとkベクトル601d’,602d’を交互に変換されながら伝搬する。そして、出射カプラー203に入ると、kベクトル601d’,602d’を有する一部の光は出射カプラー203の体積型ホログラムに記録されているグレーティングベクトル2031gおよび2032gによって回折され、回折光のkベクトル601q,602qが導光板の外に出射する。
【0048】
以上の動作において、任意の2つの光線についてその角度関係は、θ1、θ2、θ3によって示される。ここで、必ずしもθ1=θ2=θ3である必要はなく、例えばθ1>θ2<θ3、θ1<θ2<θ3などの関係であってもよい。これによりホログラムの製造が容易になる、光線密度が向上する、FOVが拡大する、などの効果を得るための設計自由度が広がる。但し、高効率、高画質な映像を得るための条件として、入射カプラー201のグレーティングベクトル2011gと出射カプラー203のグレーティングベクトル2031gは、導光板の表面に平行な線650に対して軸対称に反転(折り返し)した関係となっている必要がある。また、グレーティングベクトル2012gと2032gも同様の関係になっている必要がある。このように、入射カプラー201の体積型ホログラムに記録されているグレーティングベクトル群と出射カプラー203の体積型ホログラムに記録されているグレーティングベクトル群が、導光板の表面に平行な線650対して軸対称に反転(折り返し)していることにより、高効率、高画質な映像を得ることができる。
【0049】
[アイボックス拡大の効果]
図7は、アイボックス拡大部202の効果を説明する図で、導光板200の全体を示している。前記
図5、
図6では、導光面320a,320bなどの1つの導光面について説明したが、
図3Bに述べたアイボックス拡大部202の動作により、これらの導光面が複製されて、出射カプラー203には、導光面320bの複製が複数本貫いている。それぞれの導光面では、出射カプラー203の略全範囲から光線が出射しているため、この導光面が複数本並んでいると、出射カプラー203の略全範囲から出射光線701が出射する。その結果、導光板200への入射光線700は、空間的に2次元拡大されて導光板200から出射する。これにより、アイボックスの範囲(面積)を2次元的に広げることができる。
【0050】
図8Aと
図8Bは、出射カプラー203からの出射光線の密度を示す図である。
図8Aは、導光板200に1本の光線を入射した際に、出射カプラー203から出射する光線701の位置を模式的に示したものである。また、
図8Bは、アイボックス拡大部202の構造を変えて、ミラー面330とビームスプリッター面340の略中間に、透過率50%程度の第2のビームスプリッター面800を追加している。追加した第2のビームスプリッター面800により、アイボックス拡大部202で複製される導光面の数が略2倍に増加する。すなわち、出射光線701の密度を略2倍向上させることができる。出射光線の密度が高いと、映像の輝度ムラや色ムラ、ちらつきなどが低減し、映像の画質を向上することができる。
【0051】
これまで、導光板200の基本的な構成と動作について説明した。次に、導光板の光学効率を向上させるための入射カプラーおよび出射カプラーに用いられる体積型ホログラムの構成について詳細に説明する。まず、ホログラムの多重記録数と光学効率の関係について説明する。
【0052】
[映像光線の特性]
図9Aと
図9Bは、映像表示装置100で用いる映像光線の特性を示す図である。
図9Aは、映像投影部103から導光板200に入射する光線群の有する波長スペクトル分布の一例を示している。本実施例では、図に示すようなブロード(広帯域)な波長スペクトル分布を有していると仮定する。この波長スペクトル分布は、可視域である400~700nmに対して、ほぼ一定の強度(パワー)を持ったスペクトル分布であり、説明のために理想的な光源を仮定している。
【0053】
また、
図9Bは、映像表示部104にてユーザが視認する映像の視野(FOV)を示しており、水平方向(X方向)の角度をθ、垂直方向(Y方向)の角度をφとした。この方向の定義は、
図3AのX方向とY方向と一致させている。FOVの大きさは、例えば、水平方向の角度θ=40deg、垂直方向の角度φ=20degの広い角度範囲を想定する。
【0054】
[体積型ホログラムの光学効率]
図10Aは、ホログラムの多重記録と単一波長における回折効率(光学効率)を説明する図である。
【0055】
(a)は、記録媒体1000と反射軸1010の角度関係を示す。反射軸1010は、記録媒体1000の垂線1005から角度θgだけ傾いている。
【0056】
(b)は、ホログラムの多重記録方法を示す。記録媒体1000に、2光束平面波ホログラムを多重記録する構成である。i=1,2,3,・・・,Mと、M回の多重記録を行う場合、記録する2光束の角度を、図のように反射軸1010に対して対称に変化させて順番に記録を行う。ここで、反射軸1010からの角度をθwとし、2光束は共にθwだけ傾いた角度で入射させてホログラムを記録する。その結果、角度θwに応じたM通りの異なるグレーティング間隔を有するホログラムが多重に形成される。2光束の記録光の波面(等位相面)は、平面波でもよく、収差を持った波面形状として、特殊な機能を有するようにしてもよい。この2光束は、同一波長で高い空間および時間コヒーレンス性を有するレーザ光などが適している。
【0057】
(c)は、(b)で多重記録したホログラムを、単一光線(単一波長)により再生する場合を示す。本構成では、Pinのパワーを有する1光線を反射軸1010からの角度θpで入射し、多重記録ホログラムによって、p1のパワーを有する1光線が回折(再生)されるとする。このとき、回折(再生)される方向は、反射軸1010に対して略対称となる。このときの回折光の効率について説明する。まず、ホログラムの回折効率ηMは、数式1のように表される。
【0058】
【0059】
ここで、Mナンバー(M/#)について説明する。M/#とは、ホログラムの記録媒体における多重記録できる性能を示す指数であり、数式2により定義される。
【0060】
【0061】
ここで、ηiはi番目に記録したホログラムの回折効率を表しており、Mは多重記録数である。記録媒体のM/#を測定するときは、回折効率がほとんど0となるまで(M/#が枯渇するまで)平面波2光束により平面波ホログラムを角度多重記録し、これを再生することで回折効率を測定して、数式2よりM/#を求める。回折効率ηiは、数式1により計算できる。
【0062】
簡単のため、ηiが全て略同一でηi=ηM(ηMは定数)であった場合、M/#は数式3のようになる。数式3を変形すると、回折効率ηMは、数式4で表される。
【0063】
【0064】
【0065】
すなわち、あるM/#を有する記録媒体に、M/#が枯渇するまでM回の多重記録を行った場合の各々の記録されたホログラムの回折効率ηMは、多重記録数Mの2乗に反比例することが分かる。
【0066】
次に(d)は、角度の異なる複数(N本)の入射光線によって再生する構成を示す。このN本の入射光線は映像投影部103が出射する光線群と考えても良く、投影映像の1ピクセルを1本の光線とすると、Nピクセルに相当する光線群による再生となる。N本の光線は単一波長であると仮定すると、この場合、ホログラムはM回の多重記録を行っていることから、M本(M≦N)の光線群が再生されることとなる。なお、ここでは
図11で後述するBragg縮退を無視し、紙面上(入射面)のみの光線を考え、奥行き方向(反射面)については考えない。このときの光学効率Hを[再生される光量和]/[入射する光量和]とすると、数式5のように計算される。
【0067】
【0068】
つまり、あるM/#を有する記録媒体に、M/#が枯渇するまでM回の多重記録を行ったホログラムを、N本の入射光線で再生した場合の光学効率HN,Mは、入射光線数Nおよび多重記録数Mに反比例する。よって、同一のM/#で同一の入射光線数Nのとき、光学効率は、多重記録数M=1(最小値)の場合が最大となり、多重記録数Mが大きくなるほど光学効率が低下する。つまり光学効率では損をすることになり、本発明はこの関係に着目している。上記の説明では、入射光線の波長が単一である場合を考えたが、広帯域波長であっても同様の結論が得られる。
【0069】
図10Bは、広帯域波長の入射光を含めて光学効率を比較して示す図である。ここでは、あるM/#を有する記録媒体1000に単一ホログラムまたは多重ホログラムを記録し、これらに単一波長または広帯域波長を有し入射角の方向が異なる複数(N本)の光線を入射した場合の、4通り(a)~(d)の組合せに対する光学効率を表にまとめている。
【0070】
(a)、(b)は単一波長光入射の場合で、N本の入射光線の波長スペクトル分布(Pin-λ)は単一スペクトルとなる。(a)は単一ホログラムの場合で、回折光の角度分布(p1-θ)は単一方向のみとなり、その光学効率Hは、前記数式5でM=1とした場合となる。
【0071】
(b)は多重ホログラムの場合で、回折光の角度分布(p
M-θ)は多重数M方向となり、その光学効率は、
図10A(d)により説明した内容と同様である。
【0072】
(c)、(d)は広帯域波長入射の場合で、N本の入射光線の波長スペクトル分布(Pin-λ)は、スペクトル幅wを有するものとする。まず、(c)の単一ホログラムの場合には、それぞれの光線の角度に応じてBraggマッチする波長が異なるため、回折光の角度分布(p1-θ)は波長スペクトル分布(Pin-λ)を反映したものとなる。この関係は数式6により表される。
【0073】
【0074】
ここで、λwは記録時の波長、λpは再生時の波長である。また、θpおよびθwは
図10Aによって定義している。よって、λpの波長幅wに対応してθpも広がるため、これによるθ方向の光強度分布の広がりをαwとする。ここでは、波長幅wにおおよそ比例した光強度分布として、その比例係数をαとおいた。αは、数式6を変形することで記録時の光学パラメータθwとλwによって与えられる。このときの光学効率H
w
N,1は、数式7のようになる。これは、(a)の単一波長時の光学効率H
1
N,1に係数αを掛けた形をしている。
【0075】
【0076】
(d)の多重ホログラムの場合にも、上記と同様に比例係数αを用いた説明が成り立ち、(b)の単一波長時の光学効率H1
N,Mに係数αを掛けた形となる。よって、単一波長の場合と同様に広帯域波長入射の場合においても、ホログラムの多重記録数Mを増加すると光学効率Hが低下することが分かる。以上の説明は非常に単純化したものであり、実際の光学効率はここで考慮していないその他の要因によって変化しうるが、「多重記録数を増加すると光学効率が低下する」という基本的な性質は変わらない。
【0077】
図11は、ホログラム回折光による視認映像のシミュレーション結果を示す図で、
図10Bの4通り再生条件(a)~(d)に対応させて示している。本シミュレーションでは、
図9Bの視野(FOV)内で視認される画像を計算した。また、(e)(f)はシミュレーションに用いた光源の波長スペクトル分布を示しており、(e)は単一波長入射時(550nm)、(f)は広帯域波長入射時の分布である。入射する映像は全てのピクセルが一定値を持った画像(全白画像)を想定している。(b)、(d)の多重ホログラムは、θwを媒体内の角度33deg~58degで略等間隔に50多重記録した。
【0078】
本結果から、まず、φ方向(FOV垂直方向)ではBragg縮退による再生が行われることが分かる。Bragg縮退とは、記録時の光線の入射面に対して直交する方向(反射面)の入射角度成分を持つ光線が再生されるBraggマッチ条件のことを言う。ここでは、θ方向(FOV水平方向)が記録時の光線の入射面と平行な軸であり、それと直交するφ方向に再生が行われている。(a)の単一ホログラムでは、ライン状(1110)に再生が行われており、これがBragg縮退である。また、(b)の多重ホログラムでは、多重記録を増やした分だけライン状(1120)の再生部分が増加している。
【0079】
また、(f)で示す広帯域波長を入射した場合は、(c)の単一ホログラムでも画面全体に映像を視認することができる。しかし、数式6のBraggマッチ条件によって、再生角度θと波長λは対応しているため、各方向で異なる波長の光が再生されて、結果として虹色の映像を視認することとなる(図面は白黒表示のため、<赤><緑><青>と色名を付記している)。
【0080】
(d)は、多重ホログラムに広帯域波長を入射した場合で、(c)の虹色の映像がθ方向にずれて重なって再生されることにより、左右端が薄く着色されるが、ほぼ全領域で白色の映像を視認することができる。これは、各ピクセル(光線方向)において、少なくともRGBに対応する3色以上の波長の光が再生され、ユーザの目の等色関数による積分を経て、RGB成分が略同じ程度に含まれるとき、白と視認されるためである。このように、多重ホログラムを使用することで、広帯域波長の映像光が入射した場合でも色ムラや輝度ムラが低減し均一な映像を視認できるようになる。
【0081】
[視認映像の画質と光学効率の関係]
図12Aは、ホログラムの多重記録数に対する視認映像の画質と光学効率の関係を示す図である。(a)では視認映像を、(b)では画像の均一度Sと光学効率Hについて、それぞれシミュレーションで求めた結果である。
【0082】
(a)では、多重記録数Mを1から50まで変化させた場合の視認映像を示し、M=1とM=50は、
図11(c)と(d)に対応する。多重記録数Mを増加させることで、映像の色ムラや輝度ムラが低減し、略均一な映像を視認できるようになる。また、多重記録数Mが30程度までは、縦縞模様の色ムラが発生しているが、Mが30を超えると色ムラはほとんど視認できないレベルになる。
【0083】
(b)は、多重記録数Mに対する画像の均一度Sと光学効率Hの関係を定量的にグラフで示したものである。画質の均一度Sは、画像をCIE L*a*b*色空間で表し、そのL*値の画面全体の標準偏差(ばらつき)値の逆数をSとして用いた。画質の均一度の評価は、本手法だけに限らず、その他の方法を用いても良い。一方、光学効率Hは前記数式5で計算し、それぞれ任意単位にて示している。
【0084】
本結果から、多重記録数Mを増加させると、色ムラや輝度ムラが少なく画質は向上するが、光学効率Hは低下することが分かる。逆に、多重記録数Mを少なくすると、光学効率Hは向上できるが、色ムラや輝度ムラが発生し画質が劣化する。このように、画質と光学効率は相反関係にある。
【0085】
従来の方法では、Bragg選択性が略重なるように多重記録を行っていたために、例えば特許文献2では多重記録数Mが200程度と大きくなり、光学効率の低下が避けられない。つまり、多重記録数Mを増加すると、同じM/#消費量(M/#を全て使い切ると仮定)としたときの光学効率Hは低下するため、多重記録数Mをできるだけ少なくすることで光学効率Hを向上させるのが良い。その場合の多重記録数Mは、視認映像内の色ムラや輝度ムラが実用的に問題とならない最小限の多重記録数Mとする。本例の場合は、視認映像が略白に見える最小限の多重記録数Mは例えば30程度とすることができる。なお、映像の色ムラや輝度ムラは、光源の波長スペクトル分布に依存する。よって、光源の波長スペクトル分布に基づいた多重記録数の決定および映像の補正を行うことが有効である。また、画質と光学効率の両面からみて、光源の波長スペクトル分布は、ブロード(広帯域)とすることが望ましい。そのため、光源には擬似白色LED(Light Emitting Diode)などを用いるのが良い。
【0086】
図12Aのシミュレーションでは、入射光線群の各々の光線は、
図11(f)に示す波長スペクトル分布を有するとして計算している。そのための入射カプラーを想定していると考えてよい。シミュレーションの結果、視認画像が略白に見える多重記録数M≧30の場合、実際には、各ピクセルは様々な波長のスペクトルの組合せを有しており、その組合せはピクセル毎に異なっている。よって、入射カプラーにより導光板内に入射した各々の光線は、
図11(f)のようなブロードな波長スペクトル分布を持っておらず、飛び飛びのスペクトル分布となっている(ユーザの目の等色関数により積分されて白となる)。この光線群が出射カプラーに入射したとき、各々の光線の持つ波長スペクトル分布に対して、最適な多重記録ホログラムとすることで、光学効率を向上させることができる。逆に言えば、入射カプラーの有する多重記録されたグレーティングベクトル群と、出射カプラーの有する多重記録されたグレーティングベクトル群とに相関がない場合、光学効率が著しく低下する。従って、
図6で述べたように、入射カプラー201の体積型ホログラムに記録されているグレーティングベクトル群と、出射カプラー203の体積型ホログラムに記録されているグレーティングベクトル群が、導光板の表面に平行な線650対して軸対称に反転(折り返し)させることにより、高効率、高画質な映像を得ることができる。
【0087】
図12Aの結果、視認映像の色ムラや輝度ムラが実用的に問題とならない最小限の多重記録数M(例えば30)とすることで、光学効率Hの低下を抑えることができることが分かった。これを満足するための多重記録ホログラムの回折条件について説明する。
【0088】
[体積型ホログラムへの要請条件]
図12Bは、入射および出射カプラーに好適な体積型ホログラムの特性を説明する図である。体積型ホログラム(光回折部)1200は、多重記録数Mでホログラムが多重記録されている。これに、単一波長で一定の角度範囲を有する入射光線群1210を入射すると、出射光線群1220を出射する。このときの入射光線群1210の波長は、本導光板へのホログラム記録時に用いた波長、または本導光板に記録されたホログラムを再生する際に用いるいずれかの波長であるとする。ここで、入射光線群1210が、略連続的な角度の光線群であった場合、出射光線群1220は、ある角度間隔θsを持った離散的な光線群として出射される。角度間隔θsは、多重記録数Mと記録角度に依存する。
【0089】
この離散的な光線群のうちの1本の光線に着目すると、ある角度範囲(角度幅)θaを有している。この角度範囲θaは、媒体の厚みなどによって決まるBragg選択性により記述できる。これまでの説明では、簡単のために媒体の厚みを波長に対して非常に大きい無限と近似している。この場合には角度範囲θaは無限小となるが、実際には媒体の厚みは有限のためBragg選択性が広がり、有限の角度範囲θaを有して出射する。このとき、角度間隔θsと角度範囲θaを比較すると、θs≧θaの関係となっていることが条件である。ここで、θaは1st-nullの間の角度(およそ半値全幅の2倍)であるとする。nullとは、Bragg選択性の強度が0となる点であり、一般に光線角度の範囲を規定するための単位として用いられる。このように、単一波長光を入射したときに十分に飛び飛びの角度(離散的な角度)に出射するように体積型ホログラムの多重記録を行うことによって、上記のように多重記録数が少なく、光学効率を向上させることができる。
【0090】
ここで、角度範囲θaの要因となるBragg選択性について説明する。Bragg選択性の計算式を数式8に示す。
【0091】
【0092】
ここで、Δθは、Bragg選択性のsinc関数曲線の1st-nullに対応する角度である。nは媒体屈折率、Lは媒体厚み、λAirは空気中の記録および再生波長であり、本式では、記録再生波長が同じときに用いることができる。θ1およびθ2は、記録光線の媒体表面垂線からの角度である。数式8により、Bragg選択性を見積もることができる。また、記録波長と再生波長が異なる場合のBragg選択性も、多少複雑な式となるが本式の拡張により計算することができる。θaはBragg選択性の1st-nullの間の角度で規定した場合は、θa=2Δθにより計算できる。
【0093】
光学効率Hを向上させるためには、多重記録数Mを減らせばよいことが分かった。また、
図12A(b)のグラフより、このシミュレーション例の場合、画像の均一度Sはおよそ30多重程度で収束(飽和)し、これ以上多重記録数Mを増やしてもそれほど画像の均一度Sが向上しない。よって、多重記録数の最適値を決定する一つの方法は、このように画質の評価値が収束(飽和)する最小の多重記録数Mとすることである。実際、θwの記録レンジ内をM等分して記録する場合、およそθwの記録角度間隔を0.5~1deg程度とするとよい。
【0094】
また、本結果は光源の波長帯域に依存するため、光源波長帯域を考慮して、最適な多重記録数Mを決定する必要がある。その場合、波長帯域が広くブロードなほど多重記録数Mを減少させることができる。よって、光学効率Hを向上させるためには、波長帯域の広い光源を用いることが有利となる。
【0095】
さらに、単一波長光を入射したときに十分に飛び飛びの角度(離散的な角度)に出射するように体積型ホログラムの多重記録を行うことによって得られるメリットとして、ホログラム回折光のクロストークの低減がある。θsがθaに比べて十分に離れていない(大きくない)場合、ホログラム回折光のクロストークにより、回折効率が意図せずばらつく可能性がある。これは、ホログラム回折光のクロストークが、記録時に制御の難しい記録光の位相関係の影響を受けて、「強めあう干渉」または「弱めあう干渉」が意図せず生じるためである。これにより、輝度むらや色むら等の表示画像の画質劣化の要因となる。本影響を回避するためにも、単一波長光を入射したときに十分に飛び飛びの角度(離散的な角度)に出射するように体積型ホログラムの多重記録を行うことは有用であり、この場合たとえばθs>kθa(kは3以上の実数)とすることで、この影響を取り除くことが出来る。
【0096】
図13は、上記の条件を満足する多重記録ホログラムをKベクトルで表現した図である。(a)は、多重記録されたホログラムのKベクトルの概略図である。ここには、ホログラムのKベクトル(ホログラムベクトルまたはグレーティングベクトル)1330を描いている。また、多重記録したホログラムベクトルの矢印の先端を符号1320で示しており、z方向に平行なラインで1320を示しているのは、単一波長のBragg選択性の1st―nullの内側を示している。本図より、多重記録されたホログラムの先端の間隔1310は略同一となっており、それぞれの単一波長のBragg選択性の1st―nullの内側はオーバーラップしていないことが分かる。このように、ホログラムの多重記録間隔1310をBragg選択性よりも広げることで、光学効率を向上させることができる。
【0097】
(b)は、(a)のホログラムベクトル1330を再生する出射カプラーの例を示している。導光板内を導光(伝搬)してきた入射光1350は、多重記録されたホログラムベクトル1330によって回折される。入射光1350は、入射カプラーによってBragg条件を満たした飛び飛びの波長を含むが、出射カプラーも略同一のホログラムを導光板表面に対して軸対称に反転(折り返し)しているので、同じ条件でBraggマッチして、光は角度を保ったまま出射する。この異なる波長を持った出射光が目に入ったときに白に見えればよい。ただし、上述のように、記録角度間隔が広すぎると、色ムラ、輝度ムラが発生し映像の画質が劣化する。これに対して、以下に示すように映像の補正を行うことで改善できる。
【0098】
[画質補正]
映像の画質補正は
図2の画質補正部102により行われる。画質補正は、導光板200の入射カプラー201および出射カプラー203で用いられる体積型ホログラムの多重記録数に応じて、その補正方法が決定される。
【0099】
図14は、画質補正前の視認映像の例を示す図である。これは、映像投影部103により全白(全面均一)の映像を表示した際の導光板200を用いて視認した映像であり、多重記録数M=20である。この場合、およそ9つの領域1401~1409に分かれて輝度および色が異なっている(赤、緑、青色に薄く着色している)。画質補正部102では、これらの輝度ムラや色ムラを略均一にするように入射映像を補正するが、映像の補正により、例えば階調やフレームレートの変更が伴う。また、その他の画質劣化、例えば、プロジェクター内の空間光変調器の劣化や、その他の光学系の劣化、導光板の経時変化の劣化なども含めて補正してもよい。
【0100】
さらに画質補正部102は、色や輝度の補正だけでなく、ユーザの両目に表示するそれぞれの映像の表示位置や角度を調整してもよい。これにより、左右の目で異なる位置に映像が見えることによる疲労感やストレスを解消することができる。
【0101】
本実施例の導光板によれば、広い光線角度範囲と広い波長範囲の入射光線に適用できるとともに、光学効率の低下を極力抑えることができる効果がある。これに伴い、導光板に対し映像光を出射するプロジェクターの出力光量を抑えることができ、HMDの消費電力の低減と小型化に寄与するものとなる。
【実施例2】
【0102】
実施例2では、実施例1で述べた導光板(体積型ホログラム)の製造方法について説明する。
図15は、体積型ホログラムの製造装置の一例を示す概略図である。製造装置の構成と動作を説明する。
【0103】
まず、レーザなどの空間および時間コヒーレンスが高い光源1500から出射した光ビームがシャッター1505を通過し、ビームエキスパンダー1510に入射してビーム径が拡大される。ビームエキスパンダー1510は、対物レンズ、ピンホールおよびコリメートレンズで構成され、スペイシャルフィルタの役割を果たし、ビーム断面強度分布1515の高周波成分を除去し、略均一な波面および強度分布を実現する。その後、ミラー1520で反射されて、2分の1波長板(HWP)1525により所望の偏光方向に変換された後、空間光変調器(SLM)1530によって反射され、偏光ビームスプリッター(PBS)1535に入射する。PBS1535では、略1:1の分光比で2つのビームに分岐される。
【0104】
分岐された一方のビーム(図面左側)は、アパーチャ1540、HWP1545を通過して、ビームの形状と偏光方向を変換され、回転ミラー1550aによって反射され、記録媒体1565に入射する。一方、PBSで分岐された他方のビーム(図面右側)は、回転ミラー1550bによって反射され、記録媒体1565に入射する。2つのビームは共に紙面上(入射面)に対して垂直なS偏光になっており、記録媒体1565内で干渉して干渉縞を形成し、この干渉縞がホログラムとして記録媒体に記録される。
【0105】
ここで、記録媒体1565には、全反射となる角度で入射するビームにより記録させるため、カップリングプリズム1560によりカップリングさせて入射させる。カップリングプリズム1560は、記録媒体1565と略同一の屈折率を有しており、接着面にインデックスマッチングオイルなどを用いることで、記録媒体との境界で余計な反射が起こらないようにする。また、2つの回転ミラー1550a、1550bは、中心線1590に対して軸対称に反転(折り返し)した角度になるように制御されて回転する。ステージ1570は、記録媒体が常にビームの交差地点に存在するように、記録媒体を1軸方向に位置制御を行う。さらに、LED(Light Emitting Diode)などのインコヒーレントなキュア光源1555は、プリキュア、ポストキュア用に用いられる。
【0106】
図16は、体積型ホログラムの製造工程を示すフローチャートである。まず、ステージ1570にカップリングプリズム1560および記録媒体1565を設置したら、ステージをプリキュア位置に移動し(S1601)、LED光源により所望のエネルギーのプリキュアを行う(S1602)。次に、回転ミラー1550a、bを記録角度に移動して固定し(S1603)、これと略同時にステージ1570をビームが交差する位置に移動する(S1604)。その後、ステージやミラーの振動が収まるのを待って(S1605)、シャッター1505を開き、ホログラムの記録を開始する(S1606)。所望の露光時間が経過したらシャッター1505を閉じ、記録を終了する(S1607)。所望の多重記録数Mが全て終了したかどうかを判定し(S1608)、未終了の場合は、S1603に戻り、記録角度を変えて次の記録を行う。所望の多重記録数Mを終了したら、ステージ1570をキュア位置に移動させて(S1609)、LED光源によりポストキュアを行う(S1610)。以上が、基本的なホログラムの記録動作フローである。
【0107】
上記の動作フロー以外に、例えば記録前、または露光前に、光源のコヒーレンスや強度、波長などが安定するよう制御、確認することで、安定して高品質なホログラムを記録することができる。また、記録媒体とプリズムや基板等の屈折率が異なる場合には、これを補正した角度により記録を行うことで、高精度な記録ができる。さらに、アパーチャ1540を回転または可変開口とすることにより、ビーム径を適切に制御して、記録媒体面上の2つのビーム照射位置、面積が略一致するようにする。これにより、無駄露光を避け、迷光などの影響のない高品質なホログラムの記録が可能となる。
【0108】
空間変調器(SLM)1530は、光の強度分布を変調することができる素子であり、液晶またはMEMSなどを用いたものである。これは単純なミラーとしてもよいが、SLMによって強度分布を変調することで、記録されるホログラムの回折効率の空間分布を制御することができ、導光板を通して視認される映像の画質向上が可能になる。また、全反射を用いる導光板の特性上、入射偏光、入射角度によって導光される光の効率が異なるため、映像にムラが発生する。こういった影響を補正することがSLM1530によって可能となる。また、
図14で示した映像の輝度ムラ、色ムラの一部についても、SLM1530によって補正できる。
【0109】
図17は、ホログラム多重記録時の記録角度の具体例を示す図である。(a)は、角度の定義を説明する図である。記録媒体1565をカップリングプリズム1560に対し27deg傾けて設置しており、干渉縞は
図15の中心線1590に平行に形成されるため、これにより干渉縞と記録媒体1565のなす角度は27degになる。(b)は、記録角度の値を表に示したものである。ここでは、M=27の多重記録を行い、記録角度間隔は記録媒体内で1degとしている。これは、例えば特許文献2における記録角度間隔0.2degと比較して非常に大きい値である。記録媒体内で±13degの変化があるため、空気中では屈折により、およそ±20degの変化となる。そのため、回転ミラーは、±10deg程度回転させている。
【0110】
本実施例の製造方法によれば、ホログラムの多重記録数が従来より大幅に低減し、また記録角度間隔が大きいことから、所望の導光板を容易にかつ簡単に製造できるという効果がある。
【実施例3】
【0111】
実施例3は、実施例1の導光板の外側に偏光板を貼り付けて高画質な映像を表示するようにしたものである。
図18は、実施例3における導光板の構成を示す図である。導光板200の外側に偏光板1705が貼り付けている。偏光板1705により、例えばP偏光を透過させて、S偏光をカットする。一方、導光板200はS偏光のみを通すことで、全反射条件を用いて高画質な映像を表示することができるため、外界からの光の偏光方向と導光板200からの光の偏光方向を略直交させることができる。これにより、外界の光がホログラムによって回折することによるクロストークを除去することができる。なぜなら、ホログラムは一般にS偏光に対して高い回折効率を有するため、P偏光のみを持つ外光はその影響を受けにくくなるからである。また、外光の透過率が低下するため、サングラスのような効果が発生し、相対的に導光板200からの光が明るく感じられ、表示映像の視認性が向上する。また、これにより低消費電力で視認性の向上が可能となる。
【実施例4】
【0112】
実施例4は、実施例1の導光板のアイボックス拡大部をホログラム構造またはX-Grating構造として、高画質な映像を視認させるようにしたものである。
図19は、実施例4における導光板の構成を示す概略図である。導光板のアイボックス拡大部1915に、ホログラム構造1920を埋め込んでいる。
【0113】
(a)は、映像投影部から出射した光線群1910は、入射カプラー1905に入射し、アイボックス拡大部1915によって光線群が複製される。ここで、アイボックス拡大部1915上部のミラー面1935の下部にホログラム構造1920が埋め込まれており、これにより、ビームスプリッターと同様の効果を得て、光線群の複製が行われる。ホログラム構造1920は、体積型ホログラムによって構成されており、ミラー面と平行なビームスプリッターと同様の役割を果たして、一部の光を透過、残りの光を反射する。体積型ホログラムの作成方法は、
図15、16を用いて上述した方法を応用することで実現できる。また、SLMにより記録時の光の強度分布を変調することで、回折効率の空間分布を制御できるため、これにより反射率を制御されたビームスプリッターを体積型ホログラムにより実現できる。
【0114】
アイボックス拡大部1915によって複製された光線群1925は、出射カプラー1930によって導光板の外に出射される。ここで、ユーザが映像を視認するときに、映像の色ムラや輝度ムラが少なくなるように、ホログラム構造1920の回折効率(反射率)を制御することにより、高画質な映像表示を実現できる。ここで、アイボックス拡大部1915下部に、ビームスプリッター構造を設けても良く、これによりホログラム構造1920とあわせて最適な反射率分布を実現することができる。また、ホログラム構造により実現されたビームスプリッターは、反射面が連続的に存在するため、光線群の複製が連続的に行われて、より高画質な映像を視認させることができる可能性が有る。
【0115】
(b)は、別の構成例を示しており、アイボックス拡大部1915にミラー面がなく、全てホログラム構造1920で構成されている。これにより、ミラー面を形成する必要がなく、製造が容易となる。また、アイボックス拡大部1915のホログラム構造1920と出射カプラー1930は、多重記録されて同一箇所に記録してもよい。
【0116】
(c)は、本実施例でX-Gratingと呼ぶ構造を示している。(a)および(b)では、ホログラム構造1920が、単一のビームスプリッターと同様の役割であったに対し、X-Gratingは、複数のビームスプリッターの役割を同一箇所に持たせるホログラム構造である。例として、3つのビームスプリッターの役割をもつX-Gratingについて説明する。X-Grating1950には、3つのホログラム構造1945、1946、1947が多重記録されており、入射光1940をX-Gratingに全反射導光によって入射すると、ホログラム構造1947によって、導光板の外に出射するだけでなく、ホログラム構造1945、1946によって、上下方向に光線群が複製される。
【0117】
(d)は、X-Grating1950を用いた導光板を示している。入射カプラー1905に入射した光線群は、全反射により導光板内を導光し、X-Grating1950に入射すと、2次元に複製されて出射する。これにより、出射光1955は、2次元に複製されて出射されることによりアイボックス拡大効果が得られ、1つのX-Gratingで、アイボックス拡大および出射カプラーの両方の役割を担うことができ、素子の小型化が可能になる。
【0118】
以上、本発明の実施例をいくつか説明した。従来の方法では、Bragg選択性が略重なるように多重記録を行っていたために、多重記録数が200程度と大きくなり、光学効率が低下していた。本発明により、多重記録数を低減し最適に決定することで、光学効率の低下を抑えることができる。
【0119】
上記した各実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0120】
100・・・映像表示装置(HMD)、101・・・映像入力部、102・・・画質補正部、103・・・映像投影部(光源を含む)、104・・・映像表示部、200・・・導光板、201・・・入射カプラー、202・・・アイボックス拡大部、203・・・出射カプラー、220・・・光線群、221・・・中心光線、310・・・周辺光線、320a,320b・・・導光面、330・・・ミラー面、340・・・ビームスプリッター面、410・・・プリズム、505,1210・・・入射光線、510,1220・・・出射光線、1200・・・体積型ホログラム(光回折部)。