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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-14
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】熱交換体の製造方法及び熱交換体
(51)【国際特許分類】
   F28D 9/02 20060101AFI20220106BHJP
   F28F 21/04 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
F28D9/02
F28F21/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018222590
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020085379
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2020-06-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】関口 智大
(72)【発明者】
【氏名】岩田 好司
(72)【発明者】
【氏名】清木 晋
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-24915(JP,A)
【文献】特開2016-6373(JP,A)
【文献】特開昭59-186621(JP,A)
【文献】米国特許第4298059(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 9/02
F28F 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸方向に延びる角筒状の枠体と、前記枠体の内部に形成され、前記第1軸方向に延び、前記第1軸方向に直交する方向であり互いに直交する第2軸方向及び第3軸方向にそれぞれ一定の間隔で列設されることで角筒状の複数のセルを形成する複数の隔壁と、前記複数のセルのうち前記第2軸方向に一列おきに並んだ複数の第1セルの、前記第1軸方向の一対の端面のうち一方の第1端面側の前記隔壁が除かれて形成される複数の第1スリットと、前記複数のセルのうち前記複数の第1セルの列と異なる前記第2軸方向の列に並んだ複数の第2セルの、前記第1軸方向の一対の端面のうち他方の第2端面側の前記隔壁が除かれて形成される複数の第2スリットと、を有する成形体をセラミックス原料で成形する成形工程と、
前記成形体を焼成することで、セラミックス焼結体の熱交換体を得る焼成工程と、
を備え、
前記成形工程では、前記隔壁が設けられていない位置での前記複数の第1スリット及び前記複数の第2スリットの開口面積または開口幅と、前記隔壁が設けられた位置での前記複数の第1スリット及び前記複数の第2スリットの開口面積または開口幅と、前記複数の第1スリット及び前記複数の第2スリットの各々の前記第3軸方向の長さと、前記複数のセルの各々の前記第3軸方向の長さと、熱交換の設計効率との関係から、熱交換の設計効率の達成度ηに応じて(1)式を満たすように前記成形体の形状を予め決定し、前記枠体及び前記隔壁を成形した後、前記複数の第1セルの前記第1端面側の前記第2軸方向に列設された前記隔壁、及び前記複数の第2セルの前記第2端面側の前記第2軸方向に列設された前記隔壁を除去し、前記成形体を形成し、
前記熱交換の設計効率の達成度ηを、0.90以上とすることを特徴とする熱交換体の製造方法。
【数1】
η:熱交換の設計効率の達成度(-)
L/d:セルの個数
L:複数の第1スリット及び複数の第2スリットの各々の第3軸方向の長さ(mm)
d:複数のセルの各々の第3軸方向の長さ(mm)
A’:複数の第1スリット及び複数の第2スリットの隔壁が設けられた位置での各々の開口面積(mm
A:複数の第1スリット及び複数の第2スリットの隔壁が設けられていない位置での各々の開口面積(mm
【請求項2】
前記成形工程では、前記成形体の形状を決定する際に、前記複数のセルの前記第1軸方向に直交する断面形状が、前記第2軸方向の長さよりも前記第3軸方向の長さが長い矩形状とすることを特徴とする請求項1に記載の熱交換体の製造方法。
【請求項3】
前記成形工程では、
前記複数の第1セルの前記第1端面を封止する複数の第1封止部と、
前記複数の第2セルの前記第2端面を封止する複数の第2封止部と、
前記枠体の前記第3軸方向側の端面の、前記第1セルが形成される領域の前記第1端面側及び前記第2セルが形成される領域の前記第2端面側に形成される開口部と、
をさらに有する前記成形体を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱交換体の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程では、
前記複数の第1セルの、前記第2端面側の前記隔壁が除かれて形成される複数の第3スリットと、
前記複数の第2セルの、前記第1端面側の前記隔壁が除かれて形成される複数の第4スリットと、
前記複数の第1セルの前記第1端面の、前記第3軸方向に平行な一方向側を封止する複数の第1封止部と、
前記複数の第2セルの前記第2端面の、前記一方向側を封止する複数の第2封止部と、
前記複数の第1セルの前記第2端面の、前記一方向側の反対の他方向側を封止する複数の第3封止部と、
前記複数の第2セルの前記第1端面の、前記他方向側を封止する複数の第4封止部と、
をさらに有する前記成形体を形成することを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の熱交換体の製造方法。
【請求項5】
セラミックス焼結体の熱交換体であって、
第1軸方向に延びる角筒状の枠体と、
前記枠体の内部に形成され、前記第1軸方向に延び、前記第1軸方向に直交する方向であり互いに直交する第2軸方向及び第3軸方向にそれぞれ一定の間隔で列設されることで角筒状の複数のセルを形成する複数の隔壁と、
前記複数のセルのうち前記第2軸方向に一列おきに並んだ複数の第1セルの、前記第1軸方向の一対の端面のうち一方の第1端面側の前記隔壁が除かれて形成される複数の第1スリットと、
前記複数のセルのうち前記複数の第1セルの列と異なる前記第2軸方向の列に並んだ複数の第2セルの、前記第1軸方向の一対の端面のうち他方の第2端面側の前記隔壁が除かれて形成される複数の第2スリットと、
を有し、
熱交換の設計効率の達成度ηに応じて(1)式を満たし、
前記熱交換の設計効率の達成度ηを、0.90以上とすることを特徴とする熱交換体。
【数2】
η:熱交換の設計効率の達成度(-)
L/d:セルの個数
L:複数の第1スリット及び複数の第2スリットの各々の第3軸方向の長さ(mm)
d:複数のセルの各々の第3軸方向の長さ(mm)
A’:複数の第1スリット及び複数の第2スリットの隔壁が設けられた位置での各々の開口面積(mm
A:複数の第1スリット及び複数の第2スリットの隔壁が設けられていない位置での各々の開口面積(mm
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換体の製造方法及び熱交換体に関する。
【背景技術】
【0002】
高温の排ガスや排水から熱を回収する熱交換体として、以前より、単一の軸方向に延びて列設された隔壁により区画された複数のセルを備えるハニカム構造体を使用したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の熱交換体では、ハニカム構造体の製作後に隔壁を除くことでスリットを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-6373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の熱交換体では、内部構造に起因した圧損が発生することから、熱交換の効率が低くなることが問題であった。また、伝熱面積を大きくするために、セルの数を増やすと圧損がさらに大きくなり、さらにセル毎の流量の違いから、熱交換の効率がさらに低くなることが問題であった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、熱交換の効率を高めることのできる、熱交換体の製造方法及び熱交換体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、第1軸方向に延びる角筒状の枠体と、上記枠体の内部に形成され、上記第1軸方向に延び、上記第1軸方向に直交する方向であり互いに直交する第2軸方向及び第3軸方向にそれぞれ一定の間隔で列設されることで角筒状の複数のセルを形成する複数の隔壁と、上記複数のセルのうち上記第2軸方向に一列おきに並んだ複数の第1セルの、上記第1軸方向の一対の端面のうち一方の第1端面側の上記隔壁が除かれて形成される複数の第1スリットと、上記複数のセルのうち上記複数の第1セルの列と異なる上記第2軸方向の列に並んだ複数の第2セルの、上記1軸方向の一対の端面のうち他方の第2端面側の上記隔壁が除かれて形成される複数の第2スリットと、を有する成形体をセラミックス原料で成形する成形工程と、上記成形体を焼成することで、セラミックス焼結体の熱交換体を得る焼成工程と、を備え、上記成形工程では、上記隔壁が設けられた位置での上記複数の第1スリット及び上記複数の第2スリットの開口面積または開口幅と、上記複数の第1スリット及び上記複数の第2スリットの上記隔壁が設けられていない位置での開口面積または開口幅と、上記複数の第1スリット及び上記複数の第2スリットの各々の上記第3軸方向の長さと、上記複数のセルの各々の上記第3軸方向の長さと、熱交換の設計効率との関係から、上記成形体の形状を予め決定し、上記枠体及び上記隔壁を成形した後、上記複数の第1セルの上記第1軸方向側の上記隔壁、及び上記複数の第2セルの上記第2軸方向側の上記隔壁を除去し、上記成形体を形成することを特徴とする熱交換体の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の一態様によれば、セラミックス焼結体の熱交換体であって、第1軸方向に延びる角筒状の枠体と、上記枠体の内部に形成され、上記第1軸方向に延び、上記第1軸方向に直交する方向であり互いに直交する第2軸方向及び第3軸方向にそれぞれ一定の間隔で列設されることで角筒状の複数のセルを形成する複数の隔壁と、上記複数のセルのうち上記第2軸方向に一列おきに並んだ複数の第1セルの、上記第1軸方向の一対の端面のうち一方の第1端面側の上記隔壁が除かれて形成される第1スリットと、上記複数のセルのうち上記複数の第1セルの列と異なる上記第2軸方向の列に並んだ複数の第2セルの、上記1軸方向の一対の端面のうち他方の第2端面側の上記隔壁が除かれて形成される複数の第2スリットと、を有し、熱交換の設計効率の達成度ηに応じて(1)式を満たすことを特徴とする熱交換体が提供される。
【0008】
【数1】
【0009】
η:熱交換の設計効率の達成度(-)
L/d:セルの個数
L:第1スリット及び第2スリットの第3軸方向の長さ(mm)
d:複数のセルの各々の第3軸方向の長さ(mm)
A’:第1スリット及び第2スリットの隔壁が設けられた位置での開口面積(mm
A:第1スリット及び第2スリットの隔壁が設けられていない位置での開口面積(mm
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、熱交換の効率を高めることのできる、熱交換体の製造方法及び熱交換体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る熱交換体を示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係る熱交換体を示す図面であり、(A)が正面図であり、(B)が背面図である。
図3】第1実施形態に係る熱交換体を示すx軸方向中央での断面図である。
図4】第1実施形態に係る熱交換体を示すx軸正方向側での部分断面図であり、図2(A)におけるI-I線矢視図である。
図5】第1実施形態に係る熱交換体を示す部分断面図であり、(A)が図4におけるII-II線矢視図であり、(B)が図4におけるIII-III線矢視図である。
図6】第1実施形態に係る熱交換体を示す断面図であり、(A)が第1セルの断面図であり、(B)が第2セルの断面図である。
図7】第1実施形態に係る熱交換体の製造方法を示す説明図であり、(A)が成形体71の斜視図であり、(B)が成形体72の斜視図であり、(C)が成形体73の斜視図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る熱交換体を示す斜視図である。
図9】第2実施形態に係る熱交換体を示す図面であり、(A)が正面図であり、(B)が背面図である。
図10】第2実施形態に係る熱交換体を示す断面図であり、(A)が第1セルの断面図であり、(B)が第2セルの断面図である。
図11】第2実施形態に係る熱交換体の製造方法を示す説明図であり、(A)が成形体71の斜視図であり、(B)が成形体72の斜視図であり、(C)が成形体73の斜視図である。
図12】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な説明では、本発明の完全な理解を提供するように、本発明の実施形態を例示して多くの特定の細部について説明する。しかしながら、かかる特定の細部の説明がなくても1つ以上の実施態様が実施できることは明らかである。また、図面は、簡潔にするために、周知の構造及び装置が略図で示されている。
【0013】
<第1実施形態>
(熱交換体)
はじめに、図1図6を参照して、第1実施形態に係る熱交換体1について説明する。熱交換体1は、高温の排ガスや排水等から熱を回収するセラミックス焼結体である。熱交換体1は、図1及び図2に示すように、枠体2と、隔壁3と、第1スリット41と、第2スリット42と、第1封止部51と、第2封止部52と、第1開口部61と、第2開口部62とを備える。
【0014】
枠体2は、高さ方向がx軸方向(第1軸方向)に平行な方向となり、x軸方向に直交する方形断面において側面がy軸方向(第3軸方向)またはz軸方向(第2軸方向)に延在する角筒状の形状を有する。なお、図面において、x軸、y軸及びz軸は、互いに直交する軸である。
隔壁3は、図3に示すように、枠体2の内部にx軸方向に延在して形成される壁であり、y軸方向及びz軸方向にそれぞれ一定の間隔で列設されることで、格子状に形成される。隔壁3によって枠体2の内部は、格子状に区画されることとなり、この区画された各領域を、セル31という。つまり、熱交換体1は、y軸方向及びz軸方向に並んで設けられた複数のセル31を、内部に有している。なお、隔壁3のz軸方向の間隔であるセル31のz軸方向の長さをdといい、隔壁3のy軸方向の間隔であるセル31のy軸方向の長さをwという。また、後述するように、セル31のz軸方向の長さdは、y軸方向の長さwよりも大きいことが好ましい。
【0015】
第1スリット41は、図4に示すように、熱交換体1の内部のx軸正方向側に、z軸方向に並んだ複数の隔壁3が除かれることで、z軸方向に延在して形成される領域(空間)である。第1スリット41は、複数のセル31のうち、y軸方向に並んだ列の一列おきに形成される。
第2スリット42は、熱交換体1の内部のx軸負方向側に、z軸方向に並んだ複数の隔壁3が除かれることで、第1スリット41と同様に、z軸方向に延在して形成される領域(空間)である。第2スリット42は、複数のセル31のうち、y軸方向に並んだ列について第1スリット41が形成されていない列に形成される。また、第1スリット41が形成されたセル31を第1セル311、第2スリット42が形成されたセル31を第2セル312といい、熱交換体1の内部には、この第1セル311と第2セル312とが、図2(A)及び図2(B)に示すように、一列ずつ交互にy軸方向に並んで形成される。
【0016】
なお、第1スリット41及び第2スリット42(以下、単に「スリット」ともいう。)では、z軸方向に並んだ隔壁3がy軸方向に完全に除かれず、後述する加工時の成形精度に応じて、一部を残した状態で除かれる。つまり、第1スリット41及び第2スリット42は、隔壁3が設けられたy軸方向位置において、隔壁3が設けられていない位置よりも内壁面が内側に突出した形状を有しており、y軸方向の幅が狭くなっている。このため、各スリットの隔壁3が設けられていないz軸方向位置でのx-y断面における開口領域の面積に対して、各スリットの隔壁3が設けられたz軸方向位置でのx-y断面における開口領域の面積が小さくなる。図5に示す例では、図5(A)に隔壁3が設けられた位置での部分断面図、図5(B)に隔壁3が設けられていない位置での部分断面図をそれぞれ示す。図5(A)に示すように、隔壁3が設けられた位置では、第1スリット41の開口領域は、x軸方向の長さa、y軸方向の長さbの方形領域として定められる。また、図5(B)に示すように、隔壁3が設けられていない位置では、第1スリット41の開口領域は、x軸方向の長さa、y軸方向の長さb(b>b)の方形領域として定められる。なお、隔壁3が設けられていない位置での開口領域のx軸負方向側端は、隔壁3が設けられた位置での開口領域のx軸負方向側端と同じとする。
【0017】
第1封止部51は、図2(A)に示すように、枠体2のx軸正方向側の端面(第1端面)のうち、第1スリット41が設けられた第1セル311の開口領域を封止して設けられる。つまり、第1セル311は、x軸方向の一対の端面について、x軸正方向側の端面が第1スリット41を介して封止され、x軸負方向側の端面が開口した状態となる。
第2封止部52は、図2(B)に示すように、枠体2のx軸負方向側の端面(第2端面)のうち、第2スリット42が設けられた第2セル312の開口領域を封止して設けられる。つまり、第2セル312は、x軸方向の一対の端面について、x軸負方向側の端面が第2スリット42を介して封止され、x軸正方向側の端面が開口した状態となる。
【0018】
第1開口部61は、枠体2のz軸正方向側の側面のx軸正方向側の、第1スリット41が形成される位置にy軸方向に並んで複数形成される。第1開口部61は、隔壁3が設けられた位置における第1スリット41の開口領域と、形状や面積が同じとなる。
第2開口部62は、枠体2のz軸正方向側の側面のx軸負方向側の、第2スリット42が形成される位置にy軸方向に並んで複数形成される。第2開口部62は、隔壁3が設けられた位置における第2スリット42の開口領域と、形状や面積が同じとなる。
【0019】
第1実施形態に係る熱交換体1では、x軸方向の両端面から温度の異なる流体(高温流体と低温流体)を第1セル311及び第2セル312にそれぞれ流入させることで、この2つの流体の熱交換を行う。この際、第1セル311では、一方の流体が、x軸負方向側の開口から流入し、第1開口部61から流出する。一方、第2セル312では、他方の流体が、x軸正方向側の開口から流入し、第2開口部62から流出する。そして、隔壁3を通じて、第1セル311及び第2セル312に流入した流体の熱交換が行われる。
【0020】
また、熱交換体1は、第1面積A’(mm)、第2面積A(mm)、セル31のz軸方向の長さd(mm)、並びに第1スリット41及び第2スリット42のz軸方向の長さL(mm)が、下記(1)式を満たすことが好ましい。第1面積A’は、第1スリット41及び第2スリット42の隔壁3が設けられた位置でのx-y断面の開口面積である。第1面積A’は、隔壁3が設けられたz軸方向位置での第1スリット41及び第2スリット42の各スリットのx-y断面の開口面積であり、図5(A)において、a×bで求められる面積である。また、第2面積Aは、隔壁3が設けられていないz軸方向位置での各スリットの断面の開口面積であり、図5(B)において、a×bで求められる面積である。セル31のz軸方向の長さdは、図6に示すように、z軸方向における隣り合うセル31同士またはセル31と枠体2のz軸方向端璧との中心間の距離である。また、第1スリット41及び第2スリット42のz軸方向の長さLは、図6に示すように、枠体2のz軸方向両端壁の、z軸方向における中心間の距離である。さらに、本実施形態では、複数のセル31の形状及び寸法は同じであり、第1スリット41及び第2スリット42の形状及び寸法も同じである。つまり、長さd、第1面積A’及び第2面積Aはどのセル31やどのスリットにおいても同一のものとなる。そして、本実施形態では、枠体2とセル31とは同じ厚みであることから、長さLは、長さdをz軸方向のセル31の個数だけ整数倍した値となる。なお、(1)式において、ηは熱交換の設計効率の達成度を示すものであり、第1スリット41及び第2スリット42での偏流を考慮しない場合における熱回収率に対する、第1スリット41及び第2スリット42での偏流を考慮した場合における熱回収率の比である。つまり、ηは、偏流による効率の低下分がどの程度であるかを示すものである。熱交換の設計効率の達成度ηは、0.90以上とすることが好ましく、0.95以上とすることがより好ましい。すなわち、(1)式の左辺を0.90以上とすることが好ましく、0.95以上とすることがより好ましい。(1)式において、第2面積Aに対する第1面積A’の比(A’/A)は、0~1の範囲である。このため、(1)式の指数部分は常に負の値を示すことより、(L/d)は小さいほど、そして(A’/A)は大きいほど(1)式の左辺の値は大きくなることがわかる。
【0021】
【数2】
【0022】
第1実施形態に係る熱交換体1では、第1スリット41及び第2スリット42のz軸方向の長さLをz軸方向のセルの長さdで割った値(L/d)、すなわち、z軸方向のセルの個数(L/d)及び第2面積Aに対する第1面積A’の比(A’/A)を調整することで、熱交換の設計効率の達成度を調整する。この調整方法では、後述するように比(A’/A)の上限が製作時の成形精度によって決まるため、通常の場合、この成形精度に応じてセルの個数(L/d)が決定される。セルの個数(L/d)は、隔壁3を熱交換体1のz軸方向に設ける数、つまり各スリット内の隔壁3を除いた後の凹凸の数に対応する。また、通常、セル31のy軸方向の長さは熱交換体1の成形精度や流体の種類に応じた圧損等の条件に応じて予め決定されるものであり、圧損が問題とならない程度で小さくすることが好ましい。そして、通常の場合において、熱交換の設計効率の達成度ηを0.90以上とするためには、セル31のx軸方向に直交する断面形状を、y軸方向の長さwよりもz軸方向の長さdが長い矩形状とすることが好ましい。特許文献1に示すような従来の熱交換体では、製作・設計の簡易性や強度の観点から、セルの断面形状を正方形としていた。しかし、第1実施形態では、(1)式を満たすようにz軸方向のセルの個数(L/d)を決定し、好ましくは断面形状をy軸方向の長さwよりもz軸方向の長さdが長い矩形とすることにより、スリット加工時に生じるスリット内面の凹凸による偏流の発生を抑えることができ、熱交換の設計効率の達成度を向上させることができる。
【0023】
また、第1実施形態では、第1開口部61及び第2開口部62を同一の側面に形成することで、第1セル311を通る流体と、第2セル312を通る流体とのz軸方向の違いによる流量差を小さくすることができる。セル31は、流体が流出する開口部に近い程、流量が大きくなる。例えば、第1実施形態のセル31においては、z軸負方向側のセル31よりも、第1開口部61及び第2開口部62が設けられた側となるz軸正方向側のセル31を流れる流体の流量が大きくなる。また、偏流が発生した場合においても、z軸方向が同じセル31であれば、偏流による流量の変化が同様なものとなるため、第1セル311を通る流体と、第2セル312を通る流体とのz軸方向の違いによる流量差を小さくすることができる。これにより、より効果的に熱交換をすることができる。
なお、第1実施形態に係る熱交換体1は、実際に用いられる場合には、単独で用いられてもよく、用いられる用途に応じて複数の熱交換体1をx軸方向、y軸方向及びz軸方向の少なくとも一方に並べた集合体として用いられてもよい。
【0024】
(熱交換体の製造方法)
次に、第1実施形態に係る熱交換体1の製造方法について説明する。本実施形態では、まず、図7を参照して、セラミックス原料で、上記の熱交換体1と同様な形状の成形体7を成形する(成形工程)。セラミックス原料は、焼成によりセラミックスとなるものである。熱交換体1として用いられるセラミックスは、熱交換体1が用いられる環境に適用できるものであれば特に限定されない。例えば、熱交換体1として用いられるセラミックスとしては、炭化珪素、シリカ、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、マグネシア、ジルコニア、チタニア、ハフニア、イットリア、ランタナ等のセラミックのうち1種を単独で使用することができるし、あるいは2種以上を併用することもできる。なお、耐熱性に優れることから、炭化珪素を用いることが好ましい。熱交換体1のセラミックスとして炭化珪素を用いる場合、セラミックス原料としては、炭化珪素粉末を含有する原料、または炭化珪素を生成する珪素源及び炭素源を含む原料を用いることができる。炭化珪素を生成する珪素源及び炭素源を含む原料を用いる場合、焼成時において、炭化珪素を反応生成させつつ焼成が行われる。
【0025】
成形工程では、はじめに、熱交換の設計効率の達成度ηに応じて、熱交換体1の第1面積A’、第2面積A、及びセル31のz軸方向の隔壁3の個数を決定する。セルの個数は、z軸方向の長さが決まっている場合は、隔壁を含むセルの長さdで除すること(L/d)により求められる。熱交換の設計効率の達成度ηは、上記の(1)式で決定される値である。熱交換の設計効率の達成度ηを大きくするためには、第2面積Aに対する第1面積A’の比(A’/A)を大きくするか、セルの個数(L/d)を小さくする必要がある。
【0026】
比(A’/A)を大きくさせるためには、第1面積A’を大きくする必要があり、これは成形工程における成形精度に応じて上限が決まるものである。つまり、比(A’/A)、つまり第1面積A’は、成形精度に応じて、できるだけ大きな値とすることが好ましい。なお、後述するように隔壁3を取り除くことで、第1スリット41及び第2スリット42を形成する場合、各スリットにおけるz軸方向に並んだセル31間の内面を平らに形成することは困難であり、凹凸が生じることは避けられない。しかしながら、この凹凸は、焼成後の熱交換体1において、流体の偏流の原因となるものである。このため、熱交換の効率を向上させる観点からは、この凹凸を小さく、つまり比(A’/A)を大きくさせる(1に近づける)ことが有効となる。
【0027】
セルの個数(L/d)を小さくするためには、第1スリット41及び第2スリット42の長さLは熱交換体1自体の大きさによって決まるものであることから、セル31のz軸方向の長さdを大きくする必要がある。セル31のz軸方向の長さdを大きくし過ぎると、熱交換体1の強度が低下してしまうことから、長さdの上限は、必要とされる強度や材質に応じて決定する。なお、長さdを大きくすることが好ましいことから、セル31のx軸方向に直交する断面形状は、z軸方向の長さdがy軸方向の長さwよりも長い、矩形となることが好ましい。なお、セル31のy軸方向の長さwは、長さdと同様に、y軸方向における隣り合うセル31同士またはセル31と枠体2のy軸方向端璧との中心間の距離として定義される。
【0028】
成形工程では、熱交換体1の形状の条件を決定した後、図7(A)に示すように、セラミックス材料を用いて枠体2と隔壁3とが一体で形成された成形体71(7)を形成する。この際、形成される成形体71は、第1スリット41及び第2スリット42が形成されていない形状であり、隔壁3と枠体2の長手方向となるx軸方向の長さが同一に形成される。なお、成形体71のセル31のz軸方向の長さd、並びに第1スリット41及び第2スリット42のz軸方向の長さLは、上述のように予め決定された長さとなる。
【0029】
次いで、図7(B)に示すように、x軸の両方向側のz軸方向に列設された隔壁3を除去することで、第1スリット41及び第2スリット42を形成し、成形体72(7)を形成する。この際、第1スリット41は、成形体71の第1セル311の列のx軸正方向端面側のz軸方向に列設された隔壁3を取り除くことで形成される。また、第2スリット42は、成形体71の第2セル312の列のx軸負方向端面側のz軸方向に列設された隔壁3を取り除くことで形成される。除去によって形成される隔壁3の開口領域の面積である第1面積A’は、上述のように予め決定された大きさとなる。なお、本実施形態のように成形体71の隔壁3を除去する場合、焼成前の隔壁3を除去するため、例えば引用文献1のように焼成後の隔壁を除去する場合に比べて、隔壁3を精度よく除去することができ、比(A’/A)を大きくすることができる。さらに、この際、図7(B)に示すように、隔壁3の除去と共に、枠体2のz軸正方向側の端面の第1スリット41及び第2スリット42が形成された位置を、第1スリット41及び第2スリット42の形状と同様に除去することで、第1開口部61及び第2開口部62を形成する。
【0030】
さらに、図7(C)に示すように、第1スリット41及び第2スリット42が形成された列の各スリットが形成された側の端面に、セラミックス原料からなる第1封止部51及び第2封止部52を設けることで、成形体73(7)を成形する。成形された成形体73は、図1及び図2に示す、熱交換体1と同様な形状となる。第1封止部51及び第2封止部52は、枠体2及び隔壁3と同じ素材であることが好ましいが、他のセラミックス原料であってもよい。成形体73が成形されることで、成形工程が完了する。
【0031】
成形工程の後、成形工程にて形成された成形体7を焼成し、焼結体である熱交換体1を得る焼成工程を行う。成形体7の焼成は、焼成雰囲気、焼成温度や時間等の条件はセラミックス原料の種類に応じて適宜設定される。例えば、熱交換体1のセラミックス原料として炭化珪素を用いる場合、焼成は非酸化雰囲気下で行われる。非酸化性雰囲気は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、これらの混合ガス雰囲気、あるいは真空雰囲気である。
【0032】
焼成を実施した後に、必要に応じて酸化防止剤を被覆して、熱処理を施しても良い。酸化防止剤は、加熱によって珪酸系ガラスとなるものであり、二酸化珪素の他、酸化ナトリウム、酸化カリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属成分、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属成分、珪素(単体の珪素)、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどを含有することができる。酸化防止剤は、焼成時に加熱されることによって、隔壁3の表面に固着した、珪酸系ガラスの酸化防止層となる。ここで、アルカリ金属成分やアルカリ土類金属成分は、加熱下で二酸化珪素を溶融または軟化させるため、これらの含有量により、隔壁への付着性や浸透性を調整することができる。また、酸化ホウ素の含有量により、珪酸系ガラスの熱膨張率を調整することができる。その他、酸化アルミニウムや水酸化アルミニウム(加熱下で酸化アルミニウムとなる)の含有量により、珪酸系ガラスの強度を調整することができる。
【0033】
<第2実施形態>
(熱交換体)
次に、第2実施形態に係る熱交換体1について説明する。第2実施形態に係る熱交換体1は、第1実施形態と同様に、高温の排ガスや排水等から熱を回収するセラミックス焼結体である。熱交換体1は、図8図10に示すように、枠体2と、隔壁3と、第1スリット41と、第2スリット42と、第3スリット43と、第4スリット44と、第1封止部51と、第2封止部52と、第3封止部53と、第4封止部54とを備える。
【0034】
枠体2及び隔壁3は、第1実施形態と同様なものである。つまり、x軸方向に延在する角筒状の枠体2の内部に、x軸方向に延在し、y軸方向及びz軸方向にそれぞれ一定の間隔で列設され、隔壁3が複数設けられることで、複数のセル31が形成される。そして、第1実施形態と同様に、z軸方向に並んだ複数のセル31の複数の列について、y軸方向に交互に第1セル311及び第2セル312とする。第1セル311及び第2セル312は、温度の異なる流体がそれぞれ流れるセル31である。
【0035】
第1スリット41は、熱交換体1の内部のx軸正方向側に、z軸方向に並んだ複数の隔壁3が除かれることで、z軸方向に延在して形成される領域であり、第1実施形態のものと同じである。第1スリット41は、複数のセル31のうちz軸方向に並んだ列の一列おきである第1セル311に形成される。
第2スリット42は、熱交換体1の内部のx軸負方向側に、z軸方向に並んだ複数の隔壁3が除かれることで、z軸方向に延在して形成される領域であり、第1実施形態のものと同じである。第2スリット42は、複数のセル31のうち第1スリット41が形成されていない列である第2セル312に形成される。
【0036】
第3スリット43は、熱交換体1の内部のx軸負方向側に、z軸方向に並んだ複数の隔壁3が取り除かれることで、z軸方向に延在して形成される領域であり、第1スリット41が形成されたセル31である第1セル311に形成される。
第4スリット44は、熱交換体1の内部のx軸正方向側に、z軸方向に並んだ複数の隔壁3が取り除かれることで、z軸方向に延在して形成される領域であり、第2スリット42が形成されたセル31である第2セル312に形成される。
【0037】
第1スリット41~第4スリット44は、セル31が同様に取り除かれて形成されるものであり、同一の形状及び寸法を有している。つまり、セル31のx軸の正方向及び負方向の両端面側について、それぞれz軸方向に並んだ複数の隔壁3が同様に取り除かれることで、第1スリット41~第4スリット44が形成される。
【0038】
第1封止部51は、枠体2のx軸正方向側の端面のうち、第1スリット41が設けられた第1セル311の開口領域のz軸負方向側を封止して設けられる。
第2封止部52は、枠体2のx軸負方向側の端面のうち、第2スリット42が設けられた第2セル312の開口領域のz軸負方向側を封止して設けられる。第2封止部52が設けられるz軸方向の長さは、第1封止部51が設けられるz軸方向の長さと同じである。
【0039】
第3封止部53は、枠体2のx軸負方向側の端面のうち、第1スリット41が設けられた第1セル311の開口領域のz軸正方向側を封止して設けられる。
第4封止部54は、枠体2のx軸正方向側の端面のうち、第2スリット42が設けられた第2セル312の開口領域のz軸正方向側を封止して設けられる。第4封止部54が設けられるz軸方向の長さは、第3封止部53が設けられるz軸方向の長さと同じである。
【0040】
また、図9に示すように、第3封止部53及び第4封止部54によって封止されるz軸方向の領域は、第1封止部51及び第2封止部52によって封止されるz軸正方向側の領域を除いた領域とすることが好ましい。つまり、第3封止部53及び第4封止部54によって封止される領域と、第1封止部51及び第2封止部52によって封止される領域とは、z軸方向に重畳しないようにすることが好ましい。これは、熱交換体1の入側もしくは出側の開口面積が減少し、圧損の上昇につながるためである。また、第1封止部51及び第2封止部52によって封止される領域のz軸方向の長さは、第3封止部53及び第4封止部54によって封止される領域のz軸方向の長さよりも長くなることが好ましい。z軸方向に接するセル31は、各スリットにより内部でz軸方向に空間が繋がっているが、流体の入側を封止したセル31は入側を封止していないセル31に比べて通過流体の流量が減少することが考えられる。このため、通過流量の少ないセル31をできるだけ減らし効率を向上させるという考え方から、前述のような領域比とすることが好ましい。
【0041】
即ち、本実施形態に係る熱交換体1は、x軸正方向側の端面について、z軸正方向側で第1スリット41を通じて第1セル311が開口し、z軸負方向側で第4スリット44を通じて第2セル312が開口したものとなる。また、熱交換体1は、x軸負方向側の端面について、z軸正方向側で第2スリット42を通じて第2セル312が開口し、z軸負方向側で、第3スリット43を通じて第1セル311が開口したものとなる。
【0042】
また、熱交換体1は、第1実施形態と同様に、第1面積A’、第2面積A、並びにセル31のz軸方向のセルの個数(L/d)が、(1)式を満たすことが好ましい。なお、第1面積A’及び第2面積Aは、第1スリット41~第4スリット44の全てのスリットにおいて同じものとなる。
【0043】
第2実施形態に係る熱交換体1では、x軸方向の両端面のz軸負方向側からそれぞれ温度の異なる流体を第1セル311及び第2セル312に流入させることで、この2つの流体の熱交換を行う。この際、第1セル311では、図10(A)に示すように、x軸負方向側端面のz軸負方向側に形成された開口から流体が流入し、x軸正方向側端面のz軸正方向側に形成された開口から流体が流出する。一方、第2セル312では、図10(B)に示すように、x軸正方向側端面のz軸負方向側に形成された開口から流体が流入し、x軸負方向側端面のz軸正方向側に形成された開口から流体が流出する。そして、隔壁3を通じて、第1セル311及び第2セル312に流入した流体の熱交換が行われる。
【0044】
ここで、第1実施形態や第2実施形態に係る熱交換体1のように高温の排ガスや排水等から熱を回収する熱交換体は、セラミックスで作製されている。しかし、通常、この熱交換体を収容するケーシングは金属で作製されるため、異種材料の接面が発生することとなる。このため、熱交換体の流体の流入や流出が行われる入口部分と出口部分では、特に昇温時の両材料間の伸びの差を考慮したシール方法をとらなければ、リークや破損の原因となる。このような部位におけるシール方法としては、一般的には、材料間にシール材を挟み、面圧をかけることでシールする方法がとられる。そして、十分なシール性を発揮するためには、シール部にかける面圧の大きさが重要となる。特許文献1に記載のような従来の熱交換体では、流体の入方向と出方向とが平行でない別の方向を向いているため、入方向と出方向で別々の方向に荷重をかける必要があった。また、ハニカム構造をとる熱交換体は、細管を束ねたような複数のセルを有する構造をしているため、セルの延在方向に平行な方向の荷重には強いが、垂直な方向の荷重には弱いものとなる。加えて、SiCに代表されるセラミックスは脆性材料であるため、強い荷重を加えると割れに繋がる恐れがある。このことは、第1実施形態に係る熱交換体1の場合についても同様であり、流体の吐出方向をシールする際に、第1開口部61及び第2開口部62の近傍の側面に対して、荷重に弱い方向であるセルに垂直な方向に荷重を加えてシールする必要がある。このため、荷重が強すぎることによる破損や、破損を懸念して荷重を小さくしすぎることによるリークが問題となる可能性がある。さらに、特許文献1に記載の熱交換体のように、対向する2つの側面にそれぞれ開口を設ける場合、熱交換体を2軸方向に抑える必要があるため、ケーシングが複雑になり、コストアップや組み立ての複雑化の原因となる。
【0045】
これに対して、第2実施形態に係る熱交換体1では、流体の流入方向と吐出方向とが、平行な方向となることから、熱交換体1をシールする際に、荷重方向が1軸に平行な方向となる。さらに、この荷重方向が構造的に荷重に強いセルの延在方向となる。このため、第1実施形態に係る熱交換体1や特許文献1に記載の熱交換体に比べて、より大きな荷重をシール部に加えることができるようになり、リーク率の減少による熱回収率を向上させることができる。また、シール材料の選定の幅が広がることによる材料費の低下、ケーシングを小型かつ簡易な構造にできることによる製作費の低下と取付け時の作業の省略が期待できる。
【0046】
また、第2実施形態に係る熱交換体1では、図10に示すように、第1実施形態と同様に、第1セル311を流れる流体の流路と第2セル312を流れる流体の流路とが、z軸方向が同じであれば同様となる。このため、第1セル311を通る流体と、第2セル312を通る流体とのz軸方向の違いによる流量差を小さくすることができる。これにより、第1実施形態と同様に、より効果的に熱交換をすることができる。
【0047】
(熱交換体の製造方法)
次に、図11を参照して、第2実施形態に係る熱交換体1の製造方法について説明する。本実施形態では、まず、セラミックス原料で、上記の熱交換体1と同様な形状の成形体7を成形する(成形工程)。成形工程では、はじめに、第1実施形態と同様に、熱交換の設計効率の達成度ηに応じて、熱交換体1の第1面積A’、第2面積A、及びセル31のz軸方向のセルの個数(L/d)を決定する。
【0048】
成形工程では、熱交換体1の形状の条件を決定した後、図11(A)に示すように、セラミックス材料を用いて枠体2と隔壁3とが一体で形成された成形体71(7)を形成する。この際、形成される成形体71は、第1スリット41~第4スリット44が形成されていない形状であり、隔壁3と枠体2の長手方向となるx軸方向の長さが同一に形成される。なお、成形体71のセル31のz軸方向の長さd、並びに第1スリット41及び第2スリット42のz軸方向の長さLは、上述のように予め決定された長さとなる。
【0049】
次いで、図11(B)に示すように、x軸方向両端側の隔壁3を取り除くことで、第1スリット41~第4スリット44を形成し、成形体72(7)を形成する。この際、第1スリット41及び第3スリット43は、成形体71の第1セル311の列のx軸正方向端面側及び負方向端面側のy軸方向に延びる隔壁3を除去することで形成される。第2スリット42及び第4スリット44は、成形体71の第2セル312の列のx軸負方向端面側及び正方向端面側のy軸方向に延びる隔壁3を除去することで形成される。なお、除去によって形成される隔壁3の開口領域の面積である第1面積A’は、上述のように予め決定された大きさとなる。
【0050】
さらに、図11(C)に示すように、第1スリット41及び第2スリット42が形成された端面のz軸負方向側、並びに第3スリット43及び第4スリット44が形成された端面のz軸正方向側に、セラミックス原料からなる第1封止部51~第4封止部54を設けることで、成形体73(7)を成形する。成形された成形体73は、図8図10に示す、熱交換体1と同様な形状となる。第1封止部51~第4封止部54は、枠体2及び隔壁3と同じ素材となることが好ましいが、他のセラミックス原料であってもよい。成形体73が成形されることで、成形工程が完了する。
成形工程の後、第1実施形態と同様に、成形工程にて形成された成形体7を焼成し、焼結体である熱交換体1を得る焼成工程を行う。成形体7の焼成は、焼成雰囲気、焼成温度や時間等の条件はセラミックス原料の種類に応じて適宜設定される。例えば、熱交換体1のセラミックス原料として炭化珪素を用いる場合、焼成は非酸化雰囲気化で行われる。
【0051】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0052】
例えば、上記実施形態では、(1)式を用いるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。上述のように、成形工程において隔壁3を除ききれずに各スリットの内面に生じた凹凸が、熱交換体1における熱交換の効率が低くなる要因となる。このため、熱交換の効率を調整しようとする場合、この凹凸の大きさや数を調整することが有効となり、効率向上のためにはこの凹凸を小さくし、数を少なくすればよい。例えば、第1実施形態に係る熱交換体1において、比(A’/A)は、第1封止部51や第2封止部52の厚みがz軸方向に一定であれば、各スリットの内面におけるy軸方向の長さである開口幅の、隔壁3が設けられた位置と隔壁3が設けられていない位置との比に相当する。つまり、(1)式の比(A’/A)の代わりに開口幅の比を用いてもよい。また、熱交換体1の形状を決定する際に、(1)式を用いずに、セル31のx軸方向に直交する断面形状が、y軸方向の長さよりもz軸方向の長さが長い矩形形状となるようにしてもよい。この場合、セル31の断面のz軸方向の長さは、上記実施形態と同様に熱交換体1に必要な強度に応じて上限が決定される。このようにすることで、セルの断面形状が正方形の熱交換体を、同様な成形精度で作製する場合に比べ、スリットを通過する流体の偏流の発生を抑えることができ、熱交換の効率を向上させることができる。
【0053】
また、上記実施形態では、第1スリット41~第4スリット44の第1面積A’及び第2面積Aはそれぞれ同じであるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。第1面積A’及び第2面積Aは、スリットの違いやスリットのz軸方向の位置の違いによってことなってもよい。この場合、(1)式に用いる第1面積A’及び第2面積Aとしては、各位置の第1面積A’及び第2面積Aをそれぞれ平均化したものを用いることができる。
さらに、上記実施形態では、枠体2の厚みとセル31の厚みとが同じであるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、枠体2とセル31とは、異なる厚みであってもよい。この場合、長さLは、枠体2の厚みに関わらず、(L/d)がz軸方向におけるセルの個数となるように、セル31の厚みに応じて定義してもよい。
【実施例
【0054】
次に、本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、第1実施形態と同様な熱交換体1について、セルの個数(L/d)及び比(A’/A)をそれぞれ変化させて、熱交換の設計効率の達成度ηの変化を求めた。なお、実施例において熱交換の設計効率の達成度ηは、第1スリット41及び第2スリット42の凹凸による偏流の影響を考慮した場合の熱回収率の計算値を、第1スリット41及び第2スリット42の内面に凹凸がないとした場合の熱回収率の計算値で除した値である。
【0055】
実施例の結果を図12に示す。図12において、横軸がセルの個数(L/d)を示し、縦軸が熱交換の設計効率の達成度ηを示す。また、αは、比(A’/A)である。図12に示すように、セルの個数(L/d)が小さくなるに従い熱交換の設計効率の達成度ηが向上し、また、比(A’/A)が大きくなるに従い熱交換の設計効率の達成度ηが向上することが確認できた。また、(1)式の関係とすることで、この計算結果を精度よく再現できることが確認できた。つまり、熱交換の設計効率の達成度ηを制御するためには、セルの個数(L/d)及び比(A’/A)を調整することが有効であり、(1)式を用いてこの調整をすることで目的とする熱交換の設計効率の達成度ηが得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0056】
1 熱交換体
2 枠体
3 隔壁
31 セル
311 第1セル
312 第2セル
41 第1スリット
42 第2スリット
43 第3スリット
44 第4スリット
51 第1封止部
52 第2封止部
53 第3封止部
54 第4封止部
61 第1開口部
62 第2開口部
7,71,72,73 成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12